説明

ファットブルームが防止された複合油性菓子

【課題】
油性菓子と別の食材とが接合した複合油性菓子において、20℃近辺の一定温度に保管した場合にファットブルームが発生することがある。本発明は、このファットブルームを防止する製造方法と、当該方法によって得られる複合油性菓子を提供することを目的とする。
【解決手段】
複合油性菓子を形成後、油性菓子部分の品温が、24℃以上28℃以下であって油性菓子の変形や溶融が起こらない温度以下に達するように加温処理することにより、複合油性菓子が20℃近辺に置かれた際に発生するファットブルームを効果的に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合油性菓子のファットブルームを防止する製造方法、及び当該方法によって得られる複合油性菓子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チョコレート等の油性菓子と、別の食材(例えば、油性菓子、焼き菓子類、ナッツ、パフ、グミ、ゼリー、ガナッシュ等の乳化物、乾燥果実などの食材)とを組み合わせた複合油性菓子は、複雑な香味を楽しめることから、多くの種類が製造されている。複合油性菓子を構成する油性菓子は、油脂の中に糖類、粉乳類、カカオマス固形分などの固体粒子が分散したものである。油性菓子中の油脂は、その結晶が保存中に粗大化し、ファットブルームという白化現象を起こして商品価値を大きく損ねる場合がある。ファットブルームは、油性菓子が高温に晒されたり、高温と低温とに交互に晒されたりという温度変化によって発生し易いことが知られている。このような温度変化に伴い発生するファットブルームを防止する策として、いくつかの方法が開示されている特許文献1〜4。
【0003】
一方複合油性菓子においては、温度変化を伴わない20℃近辺の一定温度で保管した場合でも、油性菓子と組み合わせる別の食材が油脂や水分を含む場合、油性菓子と組み合わせた食材から油性菓子にその油脂や水分が徐々に移行し、それに伴いファットブルームが発生し、外観を大きく損なうことがある。これは定温保管中に発生する不具合であり、油性菓子工業において大きな問題となっている。しかしながら、このような20℃近辺の一定温度保管で発生するファットブルームを防止する方法はいまだ報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−60945号公報
【特許文献1】特開平01−39945号公報
【特許文献1】特開平02−249452号公報
【特許文献1】特開平06−153798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、複合油性菓子が20℃近辺の一定温度に置かれた際に、ファットブルームの発生を防止する製造方法と、当該方法によって得られる複合油性菓子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、複合油性菓子を形成後、油性菓子部分の品温が、24℃以上28℃以下であって油性菓子の変形や溶融が起こらない温度以下に達するように加温処理することにより、複合油性菓子が20℃近辺に置かれた際に発生するファットブルームを効果的に抑制することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は以下を包含するものである。
(1)油性菓子生地と、それとは別の食材とが接合した複合油性菓子を形成後、油性菓子生地部分の品温が、24℃以上28℃以下であって油性菓子の変形や溶融が起こらない温度以下に達するように加温処理することを特徴とする複合油性菓子の製造方法。
(2)前記(1)に記載の製法により得られる複合油性菓子。
【発明の効果】
【0008】
本発明の加温処理工程を複合油性菓子に施すことにより、当該複合油性菓子は、その後20℃近辺の一定温度に置かれてもファットブルームが発現し難く、美しい外観を維持することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の複合油性菓子とは、第一の油性菓子と、別の食材(例えば、第二の油性菓子、または、焼き菓子類、ナッツ、パフ、グミ、ゼリー、ガナッシュ等の乳化物、乾燥果実などの食材)から成るものである。第一の油性菓子とは異なる別の食材は、一種だけでなく二種以上の食材を使用しても構わない。
第一の油性菓子及び前記別の食材として用いられることがある第二の油性菓子には、チョコレート類の表示に関する公正競争規約に定めるチョコレート、準チョコレートや、それに該当しないファットクリームなどのあらゆる油性菓子が使用可能である。
【0010】
本願において複合油性菓子の構成・構造は、油性菓子と別の食材が一部でも接合しているものであれば特に限定されることなく、あらゆる構成・構造を対象と出来る。例えば、以下のような構成・構造が考えられる。
(1)第一の油性菓子生地でシェルを形成し、当該シェル内部に第二の油性菓子生地を充填し、充填された第二の油性菓子生地を第一の油性菓子生地で覆ってボトムを形成することによって得られる、第一の油性菓子で第二の油性菓子を内包した複合油性菓子。
(2)油性菓子生地を成形型に充填し、焼き菓子を接合して成型した複合油性菓子。
(3)平板状の焼き菓子の片面または両面に油性菓子を薄く被覆した複合油性菓子。
(4)油性菓子生地にクラッシュした粒状のナッツを練り込んで成型した複合油性菓子。
【0011】
上記の如く成型された複合油性菓子は、15〜20℃程度の品温になるよう冷却され形成される。本発明ではこの形成された複合油性菓子について、油性菓子部分の品温が24℃以上28℃以下であって油性菓子の変形や溶融が起こらない温度以下になるよう加温処理を行う。この加温処理により、その後20℃近辺の温度で保管してもファットブルームが発現し難く、綺麗な外観を維持出来る。
【0012】
加温処理の際、油性菓子部分の到達品温が24℃未満では発明の効果が十分でない。逆に28℃より高い場合には油性菓子が変形したり、溶融したりして、商品価値を損なうことがある。
【0013】
なお、油性菓子の種類によっては、融点の低い油脂を使用することがあり、28℃よりも低い温度で、変形や溶融が起こる。その場合、加温処理の上限温度は油性菓子の変形や溶融が起こらない温度までとなる。
【0014】
ここで、複合油性菓子を成型、冷却して形成した後、油性菓子部分の品温が24℃以上28℃以下であって、油性菓子の変形や溶融が起こらない温度以下になるよう加温処理を行うまでの時間は厳密に制約されるものではないが、加温処理を施すまでの時間が過度に長いと、その間にファットブルームの発現を招来し、発明の効果が得られず不適切である。従って、複合油性菓子を成型、冷却して形成した後、出来る限り速やかに加温処理を行うことが望ましい。
【0015】
また、加温処理の際、油性菓子部分が24℃以上28℃以下であって、油性菓子の変形や溶融が起こらない温度以下の品温に達した後、当該温度範囲で保持することは必須ではないが、保持することは特に差し支えない。例えば、当該温度に設定した倉庫等に一晩、複合油性菓子製品を取り置くことが作業上都合よければ、そのような操作でかまわない。
【0016】
また、当該加温処理を行う場合、加温装置は温風発生装置や輻射熱によって加温するヒーターなど、公知の装置でよく、特に限定されるものではない。また、複合油性菓子は包装前の裸品状態で加温処理を行ってもよいし、包装後に行ってもよい。
【0017】
さらに、油性菓子部分が24℃以上28℃以下であって、油性菓子の変形や溶融が起こらない温度以下の品温に達した後、冷却は必須ではないが、作業上必要であれば冷却を行う。例えば、複合油性菓子を包装前の裸品状態で加温処理を行った後に包装する場合、冷却したほうが包装作業をスムーズに実施出来るので冷却してよい。
【実施例】
【0018】
以下実施例を挙げて更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
カカオマス20.000重量部、砂糖40.950重量部、全粉乳20.000、ココアバター7.500重量部、植物油脂11.000重量部、大豆レシチン0.500重量部、香料0.050重量部の配合で、常法によりチョコレート生地を調製した。
また、このチョコレート生地80.000重量部、アーモンドペースト20.000重量部を混合し、ナッツクリームを調製した。チョコレート生地を常法通りテンパリング後、成形型に充填し、当該成形型を反転して、型からはみ出た余分なチョコレート生地を掻き取った後、冷却し、シェルを形成した。そのシェルにナッツクリームを充填し、更にチョコレート生地でこれを覆ってボトムを形成し、18℃に冷却して成形型から剥離させ、50重量部のナッツクリームが50重量部のチョコレートで内包された複合油性菓子を得た。当該複合油性菓子を25℃にセットした恒温機に入れ、チョコレート部の品温が25℃に達してから、更にそのまま30分間恒温機内に保持した。その後、当該複合油性菓子を20℃にて保管した。
【0019】
実施例2
小麦粉57.000重量部、砂糖8.500重量部、脱脂粉乳3.800重量部、ショートニング7.500重量部、乳化剤0.1500重量部、食塩0.250重量部、膨脹剤0.800重量部、水22.000重量部を混合し、2mmの厚さのシートに圧延し、長方形に型抜きした。これを180℃のオーブンで15分間焼成し、15mm×20mm×4mmの焼き菓子を得た。
また、カカオマス25.000重量部、砂糖42.450重量部、全粉乳15.000重量部、ココアバター5.000重量部、植物油脂12.000重量部、大豆レシチン0.500重量部、香料0.050重量部の配合で、常法によりチョコレート生地を調製した。このチョコレート生地を、常法によりテンパリング後、縦20mm×横25mmの成形型に厚さ4mmとなるよう充填し、その後上記焼き菓子を接合し、20℃に冷却して成形型から剥離させ、焼き菓子とチョコレートが接合した複合油性菓子を得た。当該複合油性菓子に対し、温風発生装置から27℃の温風を送風し、チョコレート部の品温が27℃に達するまで10分間加温処理を施した。その後、当該複合油性菓子を20℃にて保管した。
【0020】
実施例3
小麦粉60.475重量部、砂糖14.500重量部、ショートニング17.000重量部、食塩0.700重量部、膨脹剤0.900重量部、水6.425重量部を混合し、2.5mmの厚さのシートに圧延し、直径50mmの円形に型抜きした。これを170℃のオーブンで17分間焼成し、円形板状の焼き菓子を得た。
また、カカオマス23.000重量部、砂糖39.450重量部、全粉乳16.000重量部、ココアバター5.500重量部、植物油脂15.500重量部、大豆レシチン0.500重量部、香料0.050重量部の配合で、常法によりチョコレート生地を調製した。チョコレート生地を常法通りテンパリング後、前記円形板状の焼き菓子の片面に被覆し、18℃に冷却して固化させ、焼き菓子70重量部、チョコレート30重量部から成る複合油性菓子を得た。当該複合油性菓子を24℃にセットした恒温機に入れ、チョコレート部の品温が24℃に達してから、さらに12時間そのまま恒温機内に保持した。その後当該複合油性菓子を20℃にて保管した。
【0021】
実施例4
カカオマス20.000重量部、砂糖40.950重量部、全粉乳20.000重量部、ココアバター7.500重量部、植物油脂11.000重量部、大豆レシチン0.500重量部、香料0.050重量部の配合で、常法によりチョコレート生地を調製した。
また、ローストしたアーモンドを刻み、7メッシュを通過し14メッシュを通過しないサイズに篩別した。チョコレート生地を常法通りテンパリング後、チョコレート生地80重量部に、前記篩別したアーモンドを20重量部混合し、続いてこれを成形型に充填し、17℃に冷却して成形型から剥離させ、複合油性菓子を得た。当該複合油性菓子に対し、温風発生装置から27.5℃の温風を送風し、チョコレート部の品温が27.5℃に達するまで10分間加温処理を施した。その後、当該複合油性菓子を20℃にて保管した。
【0022】
比較例1
実施例1と同じ方法で調製された複合油性菓子につき、加温処理することなく、20℃にて保管した。
【0023】
比較例2
実施例2と同じ方法で調製された複合油性菓子につき、加温処理することなく、20℃にて保管した。
【0024】
比較例3
実施例3と同じ方法で調製された複合油性菓子につき、加温処理することなく、20℃にて保管した。
【0025】
比較例4
実施例4と同じ方法で調製された複合油性菓子につき、加温処理することなく、20℃にて保管した。
【0026】
比較例5
実施例1と同じ方法で調製された加温処理を行っていない複合油性菓子を、23℃にセットした恒温機に入れ、チョコレート部の品温が23℃に達してから、更にそのまま30分間恒温機内に保持した。その後、当該複合油性菓子を20℃にて保管した。
【0027】
比較例6
実施例2と同じ方法で調製された加温処理を行っていない複合油性菓子に対し、温風発生装置から23.5℃の温風を送風し、チョコレート部の品温が23.5℃に達するまで10分間加温処理を施した。その後、当該複合油性菓子を20℃にて保管した。
【0028】
実施例1〜4、比較例1〜6の複合油性菓子につき、20℃にて1ヶ月保管後、外観の状態を観察した。その結果を表1に示す。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性菓子生地と、それとは別の食材とが接合した複合油性菓子を形成後、油性菓子生地部分の品温が、24℃以上28℃以下であって油性菓子の変形や溶融が起こらない温度以下に達するように加温処理することを特徴とする複合油性菓子の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製法により得られる複合油性菓子。

【公開番号】特開2011−87485(P2011−87485A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242064(P2009−242064)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】