説明

ファフィア属によるゼアキサンチンの製造方法

β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子を発現して、キサントフィロミセス(Xanthophyllomyces)(ファフィア(Phaffia))属に属する組換え微生物を好気性条件で水性栄養培地において培養する段階、および組換え微生物の細胞から、または培養ブロスから得られたカロテノイドを単離する段階を含む、ゼアキサンチンおよびβ-クリプトキサンチンを製造する方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キサントフィルカロテノイドの産生、特にファフィア属に属する微生物によるゼアキサンチンおよびβ-クリプトキサンチンの産生に関する。
【0002】
より詳しく述べると、本発明は、ファフィア属に属する遺伝子改変組換え微生物によるキサントフィルカロテノイド、特にゼアキサンチンとβ-クリプトキサンチンとを産生する方法に関する。
【0003】
本発明の方法を用いることによって、ファフィア属に属する組換え微生物における主要なキサントフィルカロテノイドとしてゼアキサンチンとβ-クリプトキサンチンのような、アスタキサンチン以外の有用なキサントフィルカロテノイドを産生することが可能となる。
【背景技術】
【0004】
β-カロテンを産生することができる如何なる株も適した宿主株となりうる。選択した宿主株が、β-カロテンからアスタキサンチンを産生することができる通常のファフィア株である場合、β-カロテンヒドロキシラーゼをコードする遺伝子を導入して発現させた後に、アスタキサンチンおよび他のキサントフィルカロテノイドの混合物の産生を得ることができる。一方、アスタキサンチンを産生することができず、β-カロテンを蓄積している株を宿主株として選択する場合、アスタキサンチンを蓄積することなく、ゼアキサンチンおよびβ-クリプトキサンチンのようなキサントフィルカロテノイドの最高レベルを産生すると期待される。β-カロテンを蓄積するそのような宿主株は、アスタキサンチンを蓄積するP.ロドジマ(P. rhodozyma)株の変異誘発によって得ることができる。または、β-カロテンを蓄積するそのような宿主株は、β-カロテンからアスタキサンチンの生合成に関係する酵素であるアスタキサンチンシンターゼを不活化することによっても得ることができ、これは米国特許第6,365,386号に開示されている。アスタキサンチンシンターゼ遺伝子の破壊は、酵素を不活化する最も簡便な方法の一つであろう。
【0005】
さらに、β-カロテンを蓄積するそのような宿主株はまた、公共の培養コレクションからも得ることができる。例えば、β-カロテンを蓄積するP.ロドジマATCC 96815は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(P.O. Box 1549、Manassas, VA 20108、USA)から購入することができる。アスタキサンチン産生株の誘導体または自然発生変異体であってもよいP.ロドジマの新しいβ-カロテン蓄積株を天然から単離することは、本発明の宿主株を調製するためのもう一つのアプローチであろう。
【発明の開示】
【0006】
本発明の一つの局面は、β-カロテンヒドロキシラーゼを発現している組換えファフィア株を培養することを含む、ゼアキサンチンおよびβ-クリプトキサンチンを産生する方法である。
【0007】
β-カロテンヒドロキシラーゼは、β-イオノン環上の3位および3'位でβ-カロテンのヒドロキシル化を触媒して、β-クリプトキサンチンを経由してキサントフィルであるゼアキサンチンを産生する。この酵素をコードする遺伝子は、いくつかの種から単離されており、例えばフラボバクテリウム(Flavobacterium)種からcrtZ(米国特許第6,124,113号)、エルウィニア・ウレドボラ(Erwinia uredovora)からcrtZ、エルウィニア・ハービコラ(Erwinia herbicola)からcrtZ、海洋細菌であるアグロバクテリウム・オーランチアクム(Agrobacterium aurantiacum)およびアルカリゲネス(Alcaligenes)種、ならびにパラコックス・マルクシイ(Paracoccus marcusii)(ゲンバンクアクセッション番号Y15112、1997)およびパラコックス・カロチニファシエンス種(Paracoccus carotinifaciens sp.nov)からcrtZsが単離されている。β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子はまた、植物種からも得ることができる。
【0008】
本発明において、β-カロテンヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする如何なる遺伝子も用いることができる。
【0009】
好ましくは、β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子は、β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子を有するフラボバクテリウム、エルウィニア、アグロバクテリウム、アルカリゲネス、およびパラコックス属の微生物から選択される微生物から得ることができる。
【0010】
より好ましくは、β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子は、β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子を有する、フラボバクテリウム種R1534 WT(ATCC 21588)(ゲンバンクアクセッション番号U62808)、E.ウレドボラATCC 19321(ゲンバンクアクセッション番号D90087)、E. ハービコラATCC 39368(ゲンバンクアクセッション番号M87280)、アグロバクテリウム・オーランチアクム(ゲンバンクアクセッション番号D58420)、アルカリゲネスPC-1(ゲンバンクアクセッション番号D58422)、パラコックス・マルクシイMH1(ゲンバンクアクセッション番号Y15112)、またはグラム陰性細菌E-396(FERM BP-4283)(JP-A Hei 10-155497)から得ることができる。
【0011】
さらにより好ましくは、β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子は、フラボバクテリウム種R1534 WT(ATCC 21588)(ゲンバンクアクセッション番号U62808)から得ることができ、またはそれと実質的に相同であるDNA配列として得ることができる。
【0012】
「実質的に相同であるDNA配列」という表現は、β-カロテンヒドロキシラーゼをコードするDNA配列に関して、フラボバクテリウム種R1534 WT(ATCC 21588)のcrtZのアミノ酸配列と比較して、60%より多い、好ましくは70%より多い、より好ましくは80%より多い、および最も好ましくは90%より多い同一アミノ酸を示すアミノ酸配列であって、ならびにフラボバクテリウム種R1534 WT(ATCC 21588)のcrtZによってコードされる酵素と同じタイプの酵素活性を示すポリペプチドのアミノ酸配列であるアミノ酸配列をコードするDNA配列を指す。
【0013】
β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子を用いることによって、ファフィア属に属する微生物に、ゼアキサンチンおよびβ-クリプトキサンチンの産生能を与えることが可能である。β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子を発現するファフィアの組換え微生物は、周知の組換え技術によって調製することができる。
【0014】
本発明のβ-カロテンヒドロキシラーゼをコードするDNAを単離またはクローニングするために用いられる技術は、当技術分野で既知であり、ゲノムDNA配列から単離することが含まれる。そのようなゲノムDNAからの本発明のDNA配列のクローニングは、ポリメラーゼ連鎖反応(本明細書においてPCRと呼ぶ)を用いることによって行うことができる。
【0015】
β-カロテンヒドロキシラーゼをコードする単離またはクローニングされたDNAは、好ましくは、宿主微生物ファフィアにおいて酵素の発現のために適した発現ベクター上でクローニングした後に利用することができる。
【0016】
「発現ベクター」には、そのような配列がファフィアに属する微生物においてDNA配列の発現を行うことができる制御配列のような他の配列に機能的に結合している、その中に含まれるDNA配列を発現させることができるベクターが含まれる。「機能的に結合した」という用語は、記述の成分がその意図するようにそれらを機能させる関係にある近位を指す。「制御配列」という用語には、対象遺伝子の発現にとって必要な最小の成分が含まれると解釈され、同様にさらに都合のよい成分が含まれてもよい。一般的に、制御配列には、プロモーター、ターミネーター、および場合によってはエンハンサー、トランスアクチベータ、または転写因子が含まれる。P.ロドジマ(国際公開公報第97/23,633号)に由来するグリセリアルデヒド-3-デヒドロゲナーゼ(GAP)遺伝子プロモーターのような構成的プロモーターを用いて、構成的発現を得てもよい。正確に制御された発現を得るために、誘導型プロモーターも同様に用いることができる。誘導型プロモーターの一例は、熱ショックタンパク質をコードする遺伝子またはアミラーゼ遺伝子のプロモーター等である。
【0017】
当業者に周知の方法を用いて発現ベクターを構築してもよい。
【0018】
明確に述べられていないが、発現ベクターは、エピソームとしてまたは染色体DNAの組込部分として宿主生物において複製可能でなければならないことが暗示される。一般的に、後者の場合には遺伝子のより高い安定性が期待される可能性がある。相同的組換えによって宿主微生物の染色体に発現ベクターを組み入れるために、その配列が宿主ゲノムDNAと相同であるDNA断片の少なくとも一部を含むベクターを調製する。この目的に関して、ファフィアに属する微生物において、rDNA遺伝子断片を有効に用いることができる。rDNAは、ゲノム上に多数のコピーで存在するある種のサテライトDNAである。発現ベクター上でのターゲティングDNAとしてrDNA断片を用いることによって、ベクターにおいて発現されるべき目的とするDNAが宿主ゲノムに組み入れられて、同様に多コピーとして存在しうる。これは、目的とする酵素の過剰発現に関与するであろう用量効果を遺伝子に与える可能性がある。本発明の例において、この目的のためにそのようなrDNA断片を簡便に用いた。本発明には、同等の機能を提供して、既知であるまたはその後既知となる他の型の発現ベクターが含まれると意図される。
【0019】
β-カロテンヒドロキシラーゼをコードする単離DNA配列は、ポリペプチドの発現を提供するために多様な方法で操作してもよい。β-カロテンヒドロキシラーゼをコードするヌクレオチド配列を、発現ベクターに挿入する前に操作することは、発現ベクターによっては望ましいまたは必要であるかも知れない。クローニング法を利用してヌクレオチド配列を改変する技術は当技術分野で周知である。
【0020】
発現ベクターにおいてクローニングされるβ-カロテンヒドロキシラーゼの遺伝子からなる組換え型DNAが、宿主微生物に導入されるであろう。ファフィアに属する微生物を含む真菌細胞に外来DNAを導入する方法は、当技術分野で周知である。これらには、例えばLiCl法による形質転換、プロトプラスト融合、電気穿孔、DNAsをコーティングした粒子による衝突を含む粒子銃法、および当技術分野で既知の他の方法が含まれる。本発明の例において、P.ロドジマの形質転換法として粒子銃法が適用された。
【0021】
このように得られた組換え微生物は、β-カロテンヒドロキシラーゼをコードするDNA配列を過剰発現することができる。このように、本発明の組換え生物は、キサントフィルカロテノイド、特にゼアキサンチンおよびβ-クリプトキサンチンの産生方法において有用である。
【0022】
本発明のさらなる局面は、カロテノイドを産生するための基質の存在下で好気性条件で水性栄養培地においてファフィアの組換え微生物を培養する段階、および組換え微生物の細胞または培養ブロスから得られたカロテノイドを単離する段階を含む、ゼアキサンチンおよびβ-クリプトキサンチンを産生するための生物学的方法である。
【0023】
キサントフィルを含むカロテノイドは通常、細胞増殖のための糖質源としておよび同様にカロテノイドを産生するための基質としての糖蜜、蔗糖、またはグルコースのような細胞のための適した高分子および低分子栄養、ならびにコーンスティープリカー、酵母抽出物、硫酸アンモニウム、燐酸アンモニウム、水酸化アンモニウム、または尿素のような窒素源、燐酸アンモニウムおよび燐酸のような燐源、ならびに硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、およびビオチンまたはデスチオビオチンのような添加された微量栄養素または無機質を含む培地においてファフィアの株を培養することによって産生される。
【0024】
好ましい培養条件は、pHの範囲が4〜8、温度範囲は15〜26℃で、24〜500時間である。
【0025】
より好ましい培養条件は、pHの範囲が5〜7、温度範囲は18〜22℃で48〜350時間である。
【0026】
培養において、通気および攪拌を行うことは通常、カロテノイドの産生にとって都合のよい結果を生じる。
【0027】
本発明の方法を用いてファフィアの組換え株を培養することによってカロテノイドが産生された後、カロテノイドが培地に分泌される場合には培地から、または微生物の細胞から単離して、必要であれば、一つの特定のカロテノイドが望ましい場合には、存在する可能性がある他のカロテノイドから当技術分野で既知の方法によって分離することができる。
【0028】
本発明に従って産生されたカロテノイドは、食品または飼料の調製工程において用いることができる。当業者は、そのような工程を周知している。そのような複合食品または飼料は、そのような目的のために一般的に用いられ、技術の現状において既知である添加剤または成分をさらに含みうる。
【0029】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はそれらによって制限されることはない。
【0030】
下記の実施例において、以下の材料および方法を用いた。
【0031】

P.ロドジマATCC 96594(ブダペスト条約に従って1998年4月8日にアクセッション番号ATCC 74438として再寄託)
P.ロドジマATCC 96815(ブダペスト条約に従って1999年2月18日にアクセッション番号ATCC 74486として再寄託)
大腸菌TOP10:F-、mcrA、デルタ(mrr-hsdRMS-mcrBC)、phi80、デルタ(lacZ M15)、デルタ(lacX74)、recA1、deoR、araD139、(ara-leu)7697、galU、galK、rpsL(Strr)、endA1、nupG(インビトロジェンコーポレーション(Invitrogen Corporation)、カールスバッド、アメリカ)。
【0032】
ベクター
pCR2.1-TOPO(インビトロジェンコーポレーション、カールスバッド、アメリカ)
pGEM-T(プロメガコーポレーション(Promega Corporation)、アメリカ)
【0033】
方法
制限酵素およびT4 DNAリガーゼは宝酒造(大津、日本)から購入した。
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、パーキンエルマーモデル2400のサーマルサイクラーによって行った。それぞれのPCR条件を実施例に記述する。PCRプライマーは、販売元から購入した。DNAシークエンシングのための蛍光DNAプライマーは、ファルマシア(Pharmacia)から購入した。DNAシークエンシングは、自動蛍光シークエンサー(ALFred、ファルマシア)によって行った。
ゼアキサンチンおよびβ-カロテンの真正試料はそれぞれ、エクストラシンセース(EXTRASYNTHESE S.A.、Genay Cedex、フランス)、および和光(大阪、日本)から購入した。β-クリプトキサンチンは、ロシュビタミンズAG(バーゼル、スイス)から得た。
【0034】
実施例1:フラボバクテリウム種ATCC 21588のゲノムDNAからのβ-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子(crtZ)のクローニング
まず最初にゲノムDNAを調製した。フラボバクテリウム種R1534 WT(ATCC 21588)(米国特許第6,124,113号)を、1%グルコース、1%トリプトン(ディフコラボラトリーズ(Difco Laboratories))、1%酵母抽出物(ディフコ)、0.5%MgSO4、および3%NaClを含む培地50 mlに接種して、好気性条件で27℃で培養した。一晩培養物(50 ml)を10,000 gで10分間遠心した。沈殿物を溶解緩衝液(50 mM EDTA、0.1 M NaCl、pH 7.5)10mlによって軽く洗浄して、ライソザイム10 mgを添加した同じ緩衝液4 mlに再浮遊させて、37℃で15分間インキュベートした。N-ラウロイルサルコシン(20%)0.3 mlを加えた後、37℃でのインキュベーションをさらに15分継続してから、DNAをフェノール、フェノール/クロロホルムおよびクロロホルムによって抽出した。0.3 M酢酸ナトリウム(pH 5.2)の存在下でDNAを室温で20分間エタノール沈殿させた後10,000 gで15分間遠心した。沈殿物を70%エタノールによってすすいで、乾燥させ、TE(10 mMトリス、1 mM EDTA、pH 8.0)1 mlに再浮遊させた。このようにして得られたゲノムDNAを、コロジウムバッグ(ザルトリウス(Sartorius)、ドイツ)を用いてH2Oに対して48時間透析し、0.3 M酢酸ナトリウムの存在下でエタノール沈殿させて、H2Oに再浮遊させた。調製したゲノムDNAを鋳型として用いて、過度の隣接領域を含まないβ-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子の完全なコード配列を、サーマルサイクラー(パーキンエルマー2400、アメリカ)を用いてPCR増幅によって得た。用いた合成プライマーは:PZ1(配列番号:1)(Sma I部位CCCGGGを有する)およびPZ2(配列番号:2)(BamH I部位GGATCCを有する)であった。
【0035】
PCRは、アドバンテージ-HF-PCRキット(クロンテックラボラトリーズ(CLONTECH Laboratories, Inc.)、アメリカ)を用いて行った。PCR混合物は、製造元が記述したユーザーズマニュアルに従って調製した。初回鋳型変性段階は94℃で1分からなった。94℃で30秒、および68℃で4分の増幅サイクルを25回繰り返した。さらに68℃で3分間反応させた後、反応混合物を15℃に維持した。この反応によって、β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子の完全なORF(522 bp)を含むDNA断片を増幅した。この増幅されたβ-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子を、pCR2.1-TOPOベクターにライゲーションして、TOPO TAクローニングキット(インビトロジェンコーポレーション、アメリカ)を用いて、製造元の作製した説明マニュアルに従って大腸菌TOP 10細胞に導入した。いくつかのクローンを配列分析のために選択した。各候補クローンについてクローニングしたβ-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子の配列を調べた。フラボバクテリウム種ATCC 21588(ゲンバンクアクセッション番号U62808)のβ-カロテンヒドロキシラーゼ配列と完全に同じ配列を示したDNAクローンの一つをpTOPO-PZ#23Nと命名した。pTOPO-PZ#23Nから切断された522 bpのSma I/BamH I断片を、フラボバクテリウム種のcrtZ遺伝子カセットとして用いた。
【0036】
実施例2:E.ハービコラATCC 39368のゲノムDNAからのβ-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子(crtZ)のクローニング
E.ハービコラ(エシェリキア・ブルネリス(Escherichia vulneris))ATCC39368の細胞を、1%トリプトン(ディフコラボラトリーズ)、0.5%酵母抽出物(ディフコ)、0.5%NaClを含む培地10 mlに接種して、26℃で好気性条件で培養した。一晩培養物(10 ml)を10,000 gで10分間遠心した。キアゲン(QIAGEN)血液&細胞培養DNAミディキット(キアゲン、ドイツ)を用いて、製造元が作製したプロトコールに従って、沈殿物をゲノムDNA調製のために用いた。調製したゲノムDNAを鋳型として用いて、過度の隣接領域を含まないβ-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子の完全なコード配列を、サーマルサイクラー(パーキンエルマー2400、アメリカ)を用いてPCR増幅によって得た。用いた二つの合成プライマーは:EZ1(配列番号:3)(Sma I部位CCCGGGを有する)およびEZ2(配列番号:4)(Sal I部位GTCGACを有する)であった。
【0037】
PCRは、アドバンテージ-HF-PCRキット(クロンテックラボラトリーズ、アメリカ)を用いて行った。PCR混合物は、製造元が記述したユーザーズマニュアルに従って調製した。初回鋳型変性段階は94℃で1分からなった。94℃で30秒、および68℃で4分の増幅サイクルを25回繰り返した。さらに68℃で3分間反応させた後、反応混合物を15℃に維持した。この反応によって、β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子の完全なORFを含むDNA断片(543 bp)が増幅された。この増幅されたβ-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子を、pCR2.1-TOPOベクターにライゲーションして、TOPO TAクローニングキット(インビトロジェンコーポレーション、アメリカ)を用いて、製造元の作製した説明マニュアルに従って大腸菌TOP 10細胞に導入した。いくつかのクローンを配列分析のために選択した。各候補クローンについてクローニングしたβ-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子の配列を調べた。E.ハービコラATCC 39368(ゲンバンクアクセッション番号M87280)のβ-カロテンヒドロキシラーゼ配列と完全に同じ配列を示したDNAクローンの一つをpTOPO-EZ#2と命名した。pTOPO-EZ#2から切断された543 bpのSma I/Sal I断片を、E.ハービコラのcrtZ遺伝子カセットとして用いた。
【0038】
実施例3:発現ベクターの成分の調製
発現ベクターの成分、すなわちG418耐性遺伝子、P.ロドジマのグリセルアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ遺伝子(以降、GAPと呼ぶ)のプロモーターおよびターミネーター領域、ならびにP.ロドジマのrDNA断片を調製した。G418耐性遺伝子カセットは以下のように調製した。Sac-Iリンカーを、G418耐性遺伝子カセットを有するベクターpUC-G418(米国特許第6,365,386 B1号)の唯一のHind III部位にライゲーションして、得られたベクターをpG418Sa512と命名した。pG418Sa512から切断された1.7 kb Kpn I/Sac I断片をG418耐性遺伝子カセットとして用いた。
【0039】
GAP遺伝子のプロモーターおよびターミネーターならびにrDNA断片のそれぞれは、鋳型としてP.ロドジマATCC 96594のゲノムDNAを用いてPCRによって得た。ゲノムDNAを得るために、キアゲン(QIAGEN)血液&細胞培養DNAミディキット(キアゲン、ドイツ)を、YPD(ディフコラボラトリーズ)培地における一晩培養物から得たP.ロドジマATCC 96594の細胞について用いた。
【0040】
調製されたゲノムDNAを鋳型として用いて、アドバンテージ-HF PCRキット(クロンテックラボラトリーズインク、アメリカ)およびサーマルサイクラー(パーキンエルマー2400、アメリカ)を用いてPCRを行った。
【0041】
GAPのプロモーター配列を増幅するために用いた二つの合成プライマーはGAP#1(配列番号:5)(Not I部位GCGGCCGCを有する)およびGAP#5(配列番号:6)(Sma I部位CCCGGGGを有する)であった。
【0042】
初回鋳型変性段階は94℃で5分からなった。94℃で30秒、55℃で30秒、および72℃で1分の増幅サイクルを25回繰り返した。さらに72℃で10分間反応させた後、反応混合物を4℃に維持した。この反応によって、GAPプロモーターを含むDNA断片(398 bp)を増幅した。この増幅されたGAPプロモーターを、pCR2.1-TOPOベクターにライゲーションして、TOPO TAクローニングキット(インビトロジェンコーポレーション、アメリカ)を用いて、大腸菌TOP 10細胞に導入した。いくつかのクローンを配列分析のために選択した。各候補クローンについてクローニングしたGAPプロモーターの配列を調べた。P.ロドジマ(ゲンバンクアクセッション番号Y08366)のGAPプロモーターと完全に同じ配列を示したDNAクローンの一つをpTOPO-pGAP2#1と命名した。pTOPO-pGAP2#1から切断された398 bpのNot I/Sma I断片を、GAPプロモーターカセットとして用いた。
【0043】
GAPのターミネーター配列を増幅するために用いた合成プライマーは、GAP#33(配列番号:7)(BamH I-Sal I部位GGATCCGTCGACを有する)およびGAP#4(配列番号:8)(KpnI部位GGTACCを有する)であった。
【0044】
PCR条件は、先に記述したGAPプロモーターの条件と同じであった。この反応によって、GAPターミネーター(302 bp)を含むDNA断片を増幅した。この増幅されたGAPターミネーターを、pCR2.1-TOPOベクターにライゲーションして、TOPO TAクローニングキットを用いて大腸菌TOP 10細胞に導入した。いくつかのクローンを配列分析のために選択した。それぞれの候補クローンのクローニングしたGAPターミネーターの配列を調べた。P.ロドジマ(ゲンバンクアクセッション番号Y08366)のGAPターミネーターと完全に同じ配列を示したDNAクローンの一つをpTOPO-tGAP#1と命名した。pTOPO-tGAP#1から切断された302 bp BamH I/Kpn I断片または296 bp Sal I/Kpn I断片を、GAPターミネーターカセットとして用いた。
【0045】
rDNA断片を増幅するために用いた二つの合成プライマーは、R#1(配列番号:9)(SacI部位GAGCTCを有する)およびR#2(配列番号:10)(Not I-Sac I部位GCGGCCGCGAGCTCを有する)であった。
【0046】
PCR条件は、先に記述したGAPプロモーターの条件と同じであった。この反応によって、rDNA(3126 bp)を含むDNA断片を増幅した。この増幅されたrDNAを、pCR2.1-TOPOベクターにライゲーションして、TOPO TAクローニングキットを用いて大腸菌TOP 10細胞に導入した。いくつかのクローンを配列分析のために選択した。それぞれの候補クローンについてクローニングしたrDNAの配列を調べた。P.ロドジマ(ゲンバンクアクセッション番号D31656、AF139632)のrDNAと完全に同じ配列を示したDNAクローンの一つをpTOPO-rDNA#1と命名した。pTOPO-rDNA#1から切断された1960 bp Sac II/Not I断片を、rDNAカセットとして用いた。
【0047】
実施例4:フラボバクテリウム種またはE.ハービコラから得たβ-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子(crtZ)を有する発現ベクターの構築
フラボバクテリウム種のcrtZを有する発現ベクターを構築するために、rDNAカセットおよびGAPプロモーターカセット(実施例3において得られた)、フラボバクテリウム種のcrtZ遺伝子カセット(実施例1において得られた)、およびGAPターミネーターカセットのBamH I/Kpn I断片、ならびにG418耐性遺伝子カセット(実施例3において得られた)を、pGEM-Tを骨格として用いてライゲーションによってこの順に整列させた。得られた発現ベクターをpRPZG-ptGAP2と命名した。
【0048】
E.ハービコラのcrtZを有する発現ベクターを構築するために、rDNAカセットおよびGAPプロモーターカセット(実施例3において得られた)、E.ハービコラのcrtZ遺伝子カセット(実施例2において得られた)、およびGAPターミネーターカセットのSal I/Kpn I断片、ならびにG418耐性遺伝子カセット(実施例3において得られた)を、pGEM-Tを骨格として用いてライゲーションによってこの順に整列させた。得られた発現ベクターをpREZG-ptGAP2と命名した。
【0049】
実施例5:フラボバクテリウム種またはE.ハービコラのβ-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子(crtZ)を有する発現ベクターのP.ロドジマへの導入
実施例4において得た各発現ベクター、すなわちフラボバクテリウム種およびE.ハービコラのそれぞれのcrtZ遺伝子を有するpRPZG-ptGAP2およびpREZG-ptGAP2を、欧州特許第1,158,051号に記載される粒子銃法を用いることによって主にβ-カロテンを産生する変異体株であるP.ロドジマATCC 96815に導入した。0.75 MソルビトールおよびD-マンニトール、ならびに0.1 mg/mlジェネティシンを含むYPD-寒天培地を、組換え株の直接選択のために用いた。
【0050】
その結果、pRPZG-ptGAP2およびpREZG-ptGAP2のそれぞれに関して、0.1 mg/mlジェネティシンに対して耐性である何百もの形質転換体が得られ、さらに特徴を調べるために各形質転換体35個を無作為に選択した。
【0051】
実施例6:P.ロドジマのcrtZ組換え株の特徴付け
このようにして得られたP.ロドジマATCC96815のcrtZ組換え株を試験管(直径21 mm)において播種培地7 ml中で20℃で3日間振とうさせて調製した播種培養物を接種した後、500 mlアーレンマイヤーフラスコにおいて産生培地50 ml中で20℃で7日間振とうさせて培養した。培養ブロスの適当量を採取して、細胞増殖およびカロテノイドの産生の分析のために用いた。培地の組成は以下の通りであった:
【0052】
播種培地:グルコース30.0 g/l、NH4Cl 4.83 g/l、KH2PO4 1.0 g/l、MgSO4-7H2O 0.88 g/l、NaCl 0.06 g/l、CaCl2-2H2O 0.2 g/l、KHフタレート20.0 g/l、FeSO4-7H2O 28 mg/l、微量元素溶液0.3 ml、ビタミン保存液1.5 ml(pHを5.4〜5.6に調節)。
【0053】
微量元素溶液:4N H2SO4 100 ml/l、クエン酸-H2O 50.0 g/l、ZnSO4-7H2O 16.7 g/l、CuSO4-5H2O 2.5 g/l、MnSO4-4,5H2O 2.0 g/l、H3BO3 2.0 g/l、Na2MoO4 2.0 g/l、KI 0.5 g/l。
【0054】
播種培地用ビタミン保存液:4N H2SO4 17.5 ml/l、ミオイノシトール40.0 g/l、ニコチン酸2.0 g/l、D-パントテン酸カルシウム2.0 g/l、ビタミンB1(塩酸チアミン)2.0 g/l、p-アミノ安息香酸1.2 g/l、ビタミンB6(塩酸ピリドキシン)0.2 g/l、ビオチン保存液8.0 ml。
【0055】
ビオチン保存液は、エタノール50 mlに4N H2SO4を加えて全量を100 mlとした。次に、D-ビオチン400 mgを加えた。
【0056】
産生培地:グルコース22.0 g/l、KH2PO4 14.25 g/l、MgSO4-7H2O 2.1 g/l、CaCl2-2H2O 0.865 g/l、(NH4)2SO4 3.7 g/l、FeSO4-7H2O 0.28 g/l、微量元素溶液4 2.ml、ビタミン保存液9.35 ml(pHを5.5に調節した)。
【0057】
産生培地用のビタミン保存液:4N H2SO4 17.5 ml/l、ニコチン酸2.0 g/l、D-パントテン酸カルシウム3.0 g/l、ビタミンB1(塩酸チアミン)2.0 g/l、p-アミノ安息香酸1.2 g/l、ビタミンB6(塩酸ピリドキシン)0.2 g/l、ビオチン保存液30.0 ml。
【0058】
播種培養ブロス(2.5 ml)の一部を500 mlアーレンマイヤーフラスコにおいて産生培地47.5 mlに移した。次に、200 rpmで回転振とうさせながら培養を20℃で開始した。発酵2日目、50%グルコース溶液5 mlを培地に加えて、発酵を継続した。発酵4日目、培養ブロス2 mlを採取して、次に50%グルコース溶液5 mlを培地に再度加えて、培養をさらに3日間継続した。7日目に、培養物の少量を採取してカロテノイド産生および細胞増殖の分析のために用いた。
【0059】
細胞増殖の分析に関して、660 nmでの吸光度をUV-1200光度計(島津、京都、日本)を用いて測定した。
【0060】
β-カロテン、β-クリプトキサンチン、およびゼアキサンチンの含有量の分析に関して、採取したブロスを溶媒混合液(エチルアルコール、ヘキサン、および酢酸エチル)と混合して、ガラスビーズと共に激しく振とうすることによってカロテノイドをブロスおよびP.ロドジマの細胞から抽出した。抽出後、破壊された細胞およびガラスビーズを遠心によって除去して、得られた上清をカロテノイド含有量に関してHPLCによって分析した。用いたHPLC条件は以下の通りであった:HPLCカラム:クロムパック・リクロソルブsi-60(4.6 mm、250 mm);温度:室温;溶出剤:アセトン/ヘキサン(18/82)、1 ml/l水を溶出剤に加える;注射容量:10 μl;流速:2.0 ml/分;検出:UV 450 nm。
【0061】
その結果として、全ての組換え株(二種類のcrtZ発現ベクター、pRPZG-ptGAP2およびpREZG-ptGAP2のそれぞれの形質転換体35個)が、アスタキサンチンを蓄積することなくゼアキサンチンおよびβ-クリプトキサンチンを産生することが判明した。
【0062】
フラボバクテリウム種のcrtZ遺伝子またはE.ハービコラのcrtZ遺伝子を発現する形質転換体から選択されるの代表的な三つのそれぞれの組換え株の発酵プロフィールをそれぞれ、その宿主株(P.rodozyma ATCC 96815)と共に表に示す。
【0063】
(表)振とうフラスコ培養物における組換え株のカロテン生成および増殖プロフィール

CARO:β-カロテン;CRYPTO:β-クリプト-キサンチン;ZEA:ゼアキサンチン;ASTA:アスタキサンチン。
【0064】
表に示すように、β-カロテンのβ-クリプトキサンチンおよびゼアキサンチンへの転換は、フラボバクテリウム種のcrtZ遺伝子またはE.ハービコラのcrtZ遺伝子を発現する全てのファフィア組換え株において示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子を発現して、キサントフィロミセス(Xanthophyllomyces)(ファフィア(Phaffia))属に属する組換え微生物を好気性条件で水性栄養培地において培養する段階、および該組換え微生物の細胞から、または培養ブロスから得られたカロテノイドを単離する段階を含む、ゼアキサンチンおよびβ-クリプトキサンチンを製造する方法。
【請求項2】
組換え微生物がキサントフィロミセス・デンドロロウス(Xanthophyllomyces dendrorhous)(ファフィア・ロドジマ(Phaffia rhodozyma))ATCC 96815またはその変異体に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子が、β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子を有するフラボバクテリウム属、エルウィニア属、アグロバクテリウム属、アルカリゲネス属、およびパラコッカス属からなる群より選択される微生物に由来する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子が、β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子を有するフラボバクテリウム(Flavobacterium)種R1534WT(ATCC 21588)、エルウィニア・ウレドボラ(Erwinia uredovora)ATCC 19321、エルウィニア・ハービコラ(Erwinia herbicola)ATCC 39368、アグロバクテリウム・オーランチアクム(Agrobacterium aurantiacum)、アルカリゲネス(Alcaligenes)PC-1、パラコックス・マルクシイ(Paracoccus marcusii)MH1、およびグラム陰性菌E-396(FERM BP-4283)からなる群より選択される微生物に由来する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子が、フラボバクテリウム種R1534 WT(ATCC 21588)に由来する、またはβ-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子のDNA配列がそれと実質的に相同である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子が制御配列を用いて組換え微生物において発現される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
培養が、pH 4〜8、温度範囲15〜26℃で24〜500時間行われる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
培養が、pH 5〜7、温度範囲18〜22℃で48〜350時間行われる、請求項7記載の方法。

【公表番号】特表2006−500055(P2006−500055A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−538992(P2004−538992)
【出願日】平成15年9月23日(2003.9.23)
【国際出願番号】PCT/EP2003/010574
【国際公開番号】WO2004/029275
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】