説明

ファン動翼及びファン

【課題】ファン動翼23の空力性能の低下を招くことなく、ファン動翼23の曲げ剛性を維持して、ファン動翼23の耐久性を十分に高めること。
【解決手段】翼体37及び翼根47は熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂と強化繊維との複合材料により構成され、翼体37の前縁側に翼体37の前縁側を保護するシース51が設けられ、翼根47の後縁に自身の弾性力によって翼根47を厚み方向の両側から挟持する挟持クリップ59がシート状の接着剤を介して設けられたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機エンジンにおけるエンジンケース内に形成されたエンジン流路に空気を取入れるファンに用いられるファン動翼等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、航空機エンジンの分野において、熱硬化性樹脂と強化繊維との複合材料(FRP)が軽量で高強度を有する素材として注目されており、熱硬化性樹脂と強化繊維との複合材料を構成材料とするファン動翼について種々の開発がなされている(特許文献1〜特許文献4参照)そして、先行技術に係るファン動翼の内容は、次のようになる。
【0003】
先行技術に係るファン動翼は、翼体を具備しており、この翼体は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂又はポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂と炭素繊維等の強化繊維との複合材料により構成されてあって、厚み方向(翼体の厚み方向)に積層構造(多層構造)になっている。また、翼体は、一側に、負圧面(背面)を有してあって、他側に、正圧面(腹面)を有している。
【0004】
翼体の基端側には、翼根が一体形成されており、この翼根は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂又はポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂と炭素繊維等の強化繊維との複合材料により構成されてあって、厚み方向(翼根の厚み方向)に積層構造になっている。また、翼根は、ファンのファンディスクの外周面に形成された嵌合溝(嵌合切欠)に嵌合可能である。
【0005】
翼体の前縁側には、翼体の前縁側を保護するシースが設けられており、このシースは、金属により構成されている。更に、翼体の後縁側には(又は先端縁側から後縁側にかけて)、翼体を補強するガードが設けられることもあり、このガードは、シースと同様に、金属により構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−68493号公報
【特許文献2】特開2008−32000号公報
【特許文献3】特開平9−217602号公報
【特許文献4】米国特許第5375978明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、翼根は翼体に比べて積層数が多く、翼根の後縁及び前縁において積層(積層構造)が露出しているため、エンジンケース内に吸い込まれた鳥等の異物がファン動翼の前縁に衝突(着撃)した際に、その衝突エネルギーによって翼根の層間剥離を招くことがある。このような場合には、ファン動翼の曲げ剛性が低下して、ファン動翼の耐久性を高めることが困難であるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、前述の問題を解決することができる、新規な構成のファン動翼等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の特徴は、航空機エンジンにおけるエンジンケース内に形成されたエンジン流路に空気を取入れるファンに用いられ、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂と強化繊維との複合材料を構成材料とするファン動翼において、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂と強化繊維との複合材料により構成され、厚み方向に積層構造(多層構造)になってあって、一側に負圧面(背面)を有し、他側に正圧面(腹面)を有した翼体と、前記翼体の基端側に一体形成され、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂と強化繊維との複合材料により構成され、厚み方向に積層構造になってあって、前記ファンのファンディスクの外周面に形成された嵌合溝(嵌合切欠)に嵌合可能な翼根と、前記翼根の後縁及び前縁の少なくともいずれかに設けられ、金属により構成され、前記翼根を厚み方向の両側から挟持する挟持部材と、を具備したことを要旨とする。
【0010】
なお、「ファン動翼」とは、狭義のファン動翼にだけでなく、エンジンケース内に空気を取入れる最も上流側の圧縮機動翼を含む意である。
【0011】
第1の特徴によると、前記翼根の後縁及び前縁の少なくともいずれかに前記翼根を厚み方向の両側から挟持する前記挟持部材が設けられているため、前記航空機エンジンの稼働中に、前記挟持部材を前記エンジン流路に位置させることなく、前記挟持部材によって前記翼根の層間剥離を十分に抑制することができる。
【0012】
本発明の第2の特徴は、航空機エンジンにおけるエンジンケース内に形成されたエンジン流路に空気を取入れるファンにおいて、前記エンジンケース内に軸心周りに回転可能に回転可能に設けられ、外周面に複数の嵌合溝(嵌合切欠)が形成されたファンディスクと、前記ファンディスクの各嵌合溝に嵌合して設けられ、第1の特徴からなるファン動翼と、を具備したことを要旨とする。
【0013】
第2の特徴によると、第1の特徴による作用を奏する他に、前記航空機エンジンの稼動によって前記ファンディスクを回転させることにより、複数の前記ファン動翼を前記ファンディスクと一体的に回転させて、前記エンジンケース内に空気を取入れることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前記航空機エンジンの稼働中に、前記挟持部材を前記エンジン流路に位置させることなく、前記挟持部材によって前記翼根の層間剥離を十分に抑制できるため、前記ファン動翼の空力性能の低下を招くことなく、前記ファン動翼の曲げ剛性を維持して、前記ファン動翼の耐久性を十分に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係るファン動翼の側面図である。
【図2】図2(a)は、本発明の第1実施形態に係るファン動翼の基端側部分(ハブ側部分)を後から見た斜視図、図2(b)は、図1におけるIIB-IIB線に沿った拡大断面図である。
【図3】図3は、本発明の第1実施形態に係る航空機エンジンの前側部分の半側断面図である。
【図4】図4(a)は、本発明の第2実施形態に係るファン動翼の基端側部分の斜視図、図4(b)は、本発明の第2実施形態に係るファン動翼の基端側部分を下か見た斜視図である。
【図5】図5は、本発明の第2実施形態に係るファン動翼の基端側部分を下から見た分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について図1から図3を参照して説明する。なお、図面中、「FF」は、前方向、「FR」は、後方向をそれぞれ指してある。
【0017】
図3に示すように、本発明の第1実施形態に係るファン1は、航空機エンジンにおけるエンジンケース3内に形成されたエンジン流路5に空気を取入れるものである。ここで、エンジンケース3は、筒状のコアカウル7と、筒状のコアカウル7の外側に複数(1つのみ図示)のストラット9を介して囲むように設けられた筒状のナセル11とからなっている。また、エンジン流路5は、途中から、コアカウル7の内側に形成された環状(筒状)のコア流路(主流路)13と、ナセル11の内側とコアカウル7の外側との間に形成された環状(筒状)のバイパス流路15とに分岐してある。そして、本発明の第1実施形態に係るファン1の構成等について簡単に説明すると、次のようになる。
【0018】
コアカウル7の前部には、ファンディスク17がベアリング19を介して回転可能に設けられており、このファンディスク17は、ファン1の後方に配設された低圧タービン(図示省略)の複数段の低圧タービンロータ(図示省略)に同軸状に一体的に連結してある。また、ファンディスク17の外周面には、複数の嵌合溝(嵌合切欠)21が等間隔に形成されている。
【0019】
ファンディスク17の各嵌合溝21には、ファン動翼23が嵌合して設けられており、各ファン動翼23は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂と強化繊維との複合材料(FRP)を構成材料としている。また、ファンディスク17の各嵌合溝21の底面(奥面)とファン動翼23の間には、複数のスペーサ25が設けられている。そして、ファンディスク17の前側には、複数のファン動翼23を前方から保持する環状のフロントリテーナ27が一体的に設けられており、ファンディスク17の後側には、複数のファン動翼23を後方から保持する環状のリアリテーナ29が一体的に設けられている。なお、フロントリテーナ27は、空気を案内するノーズコーン31に一体的に連結されており、リアリテーナ29は、ファン1の後側に配設された低圧圧縮機33における低圧圧縮機ロータ35に同軸状に一体的に連結してある。
【0020】
従って、航空機エンジンの稼働によりファンディスク17を回転させることにより、複数のファン動翼23をファンディスク17と一体的に回転させて、エンジン流路5(コア流路13及びバイパス流路15)に空気を取入れることができる。
【0021】
続いて、本発明の第1実施形態に係るファン動翼23の構成について説明する。
【0022】
図1及び図2に示すように、ファン動翼23は、前述のように、ファン1に用いられるものであって、翼体37を具備しており、この翼体37は、エポキシ樹脂,フェノール樹脂,又はポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂と炭素繊維,アラミド繊維,又はガラス繊維等の強化繊維との複合材料により構成されてあって、厚み方向(翼体37の厚み方向)に積層構造(多層構造)になっている。また、翼体37は、一側に、負圧面(背面)39を有してあって、他側に、正圧面(腹面)41を有している。そして、翼体37の負圧面39の前縁側には、第1凹部(第1段差部)43が形成されており、翼体37の正圧面41の前縁側には、第2凹部(第2段差部)45が形成されている。
【0023】
なお、翼体37が熱硬化性樹脂と強化繊維との複合材料により構成される代わりに、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルファイド等の熱可塑性樹脂と強化繊維との複合材料により構成されるようにしても構わない。
【0024】
翼体37の基端側には、翼根47が一体形成されており、この翼根47は、エポキシ樹脂,フェノール樹脂,又はポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂と炭素繊維,アラミド繊維,又はガラス繊維等の強化繊維との複合材料により構成されてあって、厚み方向(翼根47の厚み方向)に積層構造(多層構造)になっている。また、翼根47は、ファンディスク17に嵌合可能なダブテール49を有している。
【0025】
なお、翼根47が熱硬化性樹脂と強化繊維との複合材料により構成される代わりに、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルファイド等の熱可塑性樹脂と強化繊維との複合材料により構成されるようにしても構わない。
【0026】
ここで、翼体37と翼根47の境界部は、エンジン流路5の流路面5fに位置している。
【0027】
翼体37の前縁側には、翼体37の前縁側を保護するシース51が設けられており、このシース51は、チタン合金等の金属により構成されている。また、シース51は、翼体の前縁側を覆うシース本体53を備えており、このシース本体53は、前方に向かって徐々に薄くなっている。そして、シース本体53の後縁の一側には、第1接合片55が一体形成されており、この第1接合片55は、翼体37の第1凹部43にシート状の接着剤を介して接合されている。更に、シース本体53の後縁の他側には、第2接合片57が一体形成されており、この第2接合片57は、翼体37の第2凹部45にシート状の接着剤を介して接合されている。
【0028】
翼根47の後縁には、挟持クリップ(挟持部材の一例)59がシート状の接着剤を介して設けられており、この挟持クリップ59は、自身の弾性力(挟持クリップ59の弾性力)によって翼根47を厚み方向(翼根47の厚み方向)の両側から挟持するものであって、チタン合金等の金属により構成されている。また、挟持クリップ59は、翼根47の後縁を覆うクリップ本体61を備えており、このクリップ本体61の一側には、翼根47の一側面に圧接可能な第1挟持片63が一体形成されてあって、クリップ本体61の他側には、翼根47の他側面に圧接可能な第2挟持片65が一体形成されている。
【0029】
なお、翼根47の後縁に挟持クリップ59が設けられる代わりに、或いは設けられる他に、翼根47の前縁に挟持クリップ59が設けられるようにしても構わない。
【0030】
続いて、本発明の第1実施形態の作用及び効果について説明する。
【0031】
翼根47の後縁及び前縁の少なくともいずれかに自身の弾性力によって翼根47を厚み方向の両側から挟持する挟持クリップ59が設けられているため、航空機エンジンの稼働中に、挟持クリップ59をエンジン流路5に位置させることなく、挟持クリップ59によって翼根47の層間剥離を十分に抑制することができる。
【0032】
従って、本発明の第1実施形態によれば、ファン動翼23の空力性能の低下を招くことなく、ファン動翼23の曲げ剛性を維持して、ファン動翼23の耐久性を十分に高めることができる。
【0033】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について図4(a)(b)及び図5を参照して説明する。なお、図面中、「FF」は、前方向、「FR」は、後方向をそれぞれ指してある。
【0034】
図4(a)(b)及び図5に示すように、本発明の第2実施形態に係るファン動翼67は、ファン1に用いられるものであって、本発明の第1実施形態に係るファン動翼23と同様の構成要素を有している。以下、本発明の第2実施形態に係るファン動翼67の構成のうち、本発明の第1実施形態に係るファン動翼23と異なる部分について説明する。なお、本発明の第2実施形態に係るファン動翼67における複数の構成要素のうち、本発明の第1実施形態に係るファン動翼23における構成要素と対応するものについては、図中に同一番号を付する。
【0035】
翼根47(ダブテール49)の後縁側には、被嵌合部69が形成されており、この被嵌合部69は、後方向に向かって徐々に薄くなっている。また、翼根47の後縁には、挟持キャップ(挟持部材の一例)71がシート状の接着剤を介して設けられており、この挟持キャップ71には、翼根47の被嵌合部69に嵌合可能な凹状の嵌合部73が形成されている。また、挟持キャップ71は、嵌合によって翼根47を厚み方向(翼根47の厚み方向)の両側から挟持するものであって、チタン合金等の金属により構成されている。
【0036】
なお、翼根47の後縁に挟持キャップ71が設けられる代わりに、或いは設けられる他に、翼根47の前縁に挟持キャップ71が設けられるようにしても構わない。
【0037】
続いて、本発明の第2実施形態の作用及び効果について説明する。
【0038】
翼根47の後縁及び前縁のうち少なくともいずれかに嵌合によって翼根47を厚み方向の両側から挟持する挟持キャップ71が設けられているため、航空機エンジンの稼働中に、挟持キャップ71をエンジン流路5に位置させることなく、挟持キャップ71によって翼根47の層間剥離を十分に抑制することができる。
【0039】
従って、本発明の第2実施形態によれば、ファン動翼67の空力性能の低下を招くことなく、ファン動翼67の曲げ剛性を維持して、ファン動翼67の耐久性を十分に高めることができる。
【0040】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限るものでなく、例えば、翼体37の後縁側又は先端縁側から後縁側にかけて翼体37を補強するガードが設けられるようにする等、その他、種々の態様で実施可能である。また、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施形態に限定されないものである。
【符号の説明】
【0041】
1 ファン
3 エンジンケース
5 エンジン流路
5f 流路面
7 コアカウル
11 ナセル
13 コア流路
15 バイパス流路
17 ファンディスク
21 嵌合溝
23 ファン動翼
37 翼体
39 負圧面(背面)
41 正圧面(腹面)
47 翼根
49 ダブテール
51 シース
59 挟持クリップ
61 クリップ本体
63 第1挟持片
65 第2挟持片
67 ファン動翼
69 被嵌合部
71 挟持キャップ
73 嵌合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機エンジンにおけるエンジンケース内に形成されたエンジン流路に空気を取入れるファンに用いられ、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂と強化繊維との複合材料を構成材料とするファン動翼において、
熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂と強化繊維との複合材料により構成され、厚み方向に積層構造になってあって、一側に負圧面を有し、他側に正圧面を有した翼体と、
前記翼体の基端側に一体形成され、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂と強化繊維との複合材料により構成され、厚み方向に積層構造になってあって、前記ファンのファンディスクの外周面に形成された嵌合溝に嵌合可能な翼根と、
前記翼根の後縁及び前縁のうち少なくともいずれかに設けられ、金属により構成され、前記翼根を厚み方向の両側から挟持する挟持部材と、を具備したことを特徴とするファン動翼。
【請求項2】
前記翼体の前縁側に設けられ、金属により構成され、前記翼体の前縁側を保護するシースと、を具備したこと特徴とする請求項1に記載のファン動翼。
【請求項3】
前記挟持部材は、自身の弾性力によって前記翼根の厚み方向の両側から前記翼根を挟持するようになっていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のファン動翼。
【請求項4】
前記挟持部材は、前記翼根の後縁及び前縁のうちの少なくともいずれかに嵌合によって前記翼根の厚み方向の両側から前記翼根を挟持するようになっていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のファン動翼。
【請求項5】
航空機エンジンのエンジンケース内に形成されたエンジン流路に空気を取入れるファンにおいて、
前記エンジンケース内に軸心周りに回転可能に回転可能に設けられ、外周面に複数の嵌合溝が形成されたファンディスクと、
前記ファンディスクの各嵌合溝に嵌合して設けられ、請求項1〜請求項4のいずれかの請求項に記載の発明特定事項からなるファン動翼と、を具備したことを特徴とするファン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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