ファージRSS1の複製モジュールを含有してなるプラスミド、及びそれを利用した方法

【課題】
本発明は、青枯病菌に親和性を有し、青枯病菌に簡便かつ容易に取り込まれ、そして青枯病菌中で安定に存在することができ、かつ青枯病菌中で発現可能な遺伝子を含有することができるプラスミド、当該プラスミドで形質転換された青枯病菌、並びにそれを用いて幅広い菌種の青枯病菌の動態をリアルタイムで簡便にモニターすることができる系、及びその利用方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、青枯病菌に対する感染能を有するファージRSS1のゲノムの複製モジュールを含有してなるプラスミド、より詳細には当該プラスミドが、さらに標識物質を発現し得る遺伝子を含有するプラスミドに関する。さらに、本発明は、当該プラスミドによる青枯病菌の標識化方法、当該プラスミドで形質転換された青枯病菌、これを含有してなる植物体を用いた植物体内での青枯病菌の動態の測定方法、及び青枯病に対する有効性を有する物質のスクリーニング方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青枯病菌に対する感染能を有するファージRSS1のゲノムの複製モジュールを含有してなるプラスミド、より詳細には当該プラスミドが、さらに標識物質を発現し得る遺伝子を含有するプラスミドに関する。さらに、本発明は、当該プラスミドによる青枯病菌の標識化方法、当該プラスミドで形質転換された青枯病菌、これを含有してなる植物体を用いた植物体内での青枯病菌の動態の測定方法、及び青枯病に対する有効性を有する物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
青枯病(立枯病)は、ナス科植物をはじめ、200種以上の植物に感染、枯死させる農業上深刻な被害をもたらす病害である。病気の進行が急激で、青みが残ったまま枯れることもあり、この名がついたと言われている。病気になった植物の地際部の茎を切断し、その茎を水につけると、乳白色の粘液(細菌粘塊)を出すのが特徴である。
青枯病は、病原体である青枯病菌が植物の維管束内で増殖し、大量に生産する細胞外多糖が維管束の通水を悪化させることから萎凋が起きる、という過程をたどる。病原細菌の青枯病菌は、学名をラルストニア・ソラナセアラム(Ralstonia solanacearum)(以前は、シュードモナスソラナセアラム(Pseudomonas solanacearum)に分類されていた)と呼ばれ、植物の根の傷などから植物体内に侵入後、維管束内で増殖し、細胞外多糖を大量生産して維管束の通水を悪化させ、植物を枯死に至らしめる。青枯病菌は、乾燥に弱く、酸やアルカリなどで容易に死滅するが、水の中で何年も安定して生残する性質があり、薬剤による土壌消毒を行っても地下深くに生残し、適当な作物が植えられると地上部に上って再び青枯病を発生させる。このため、防除の非常に困難な病害として知られている。
これまでは防除には臭化メチルやクロルピクリンによる土壌薫蒸が最も有効だとされてきたが、臭化メチルがオゾン層破壊ガスの一種だとして使用が制限されるようになったため、これに代替する防除法の開発が求められている。また、近年、青枯病菌に対する特異的な抗菌性を有する物質として、3−(3−インドリル)酪酸が提案された(特許文献1参照)。本物質は、土壌や養液栽培における養液に混入することにより、青枯病菌の増殖を抑制させることができ、本物質は植物体への毒性が全く認められないため、予め根等から吸収させておくことができ、その後侵入してきたラルストニア・ソラナセアラムの増殖を完全に抑制することもできるとされているが、青枯病菌に対する抑制効果は、施用後数日しか持続せず、効果を持続させるためには定期的な散布が必要であった。
現在のところ、最も一般的に行われる対策としては、抵抗性品種に接ぎ木する方法である。ただし接ぎ木には手間がかかり、接ぎ木苗は高価なので青枯病に抵抗性の品種開発が求められている。しかし、トマトやナスなど被害の大きい作物では、食味と青枯病抵抗性の両立が難しく、開発は難航している。
【0003】
青枯病菌の感染機構や発病機構を解明するために生物発光を利用して青枯病菌の生態を解明する方法も検討されてきた。例えば、青枯病菌にluxCDABEオペロン遺伝子を導入した青枯病菌YN5株が開発され、これをトマトに感染させて画像解析システムにより当該YN5株のトマトの内部での挙動を経時的に観察する方法が開発されている(非特許文献1参照)。
また、カナマイシン耐性遺伝子を持ち広範囲のバクテリアで保持されるプラスミドpKZ27を用いた方法も開発されてきている(非特許文献2参照)。プラスミドベクターpKZ27は、pKT240由来のプラスミドで、カナマイシン耐性を持つように構築されており、青枯病菌中で複製・保持が可能であるが、薬剤(カナマイシン)による選択圧がない条件では速やかに青枯病菌から脱落するという欠点があった。
【0004】
一方、本発明者らは、青枯病菌に対して溶菌性を示すバクテリオファージタイプ1、バクテリオファージタイプ2、及びバクテリオファージタイプ3を見出してきた(特許文献2参照)。「バクテリオファージタイプ1」は、青枯病菌のC-319、M4S、Ps29、Ps65、Ps72、Ps74の6株すべてに溶菌性を示し、約250kbpのdsDNAをゲノムとし制限酵素PstI、KpnI等によって特徴的なバンドパターンを示す。「バクテリオファージタイプ2」は、青枯病菌のC-319にプラーク形成を示し、M4S、Ps29、Ps65、Ps72、Ps74には感染性を示さないバクテリオファージであり、約6.7kbの環状ssDNAをゲノムとし制限酵素では切断されないことを特徴とするものである。「バクテリオファージタイプ3」は、青枯病菌のM4S、Ps29、Ps65、Ps72の4株にプラーク形成を示し、C-319、Ps74の2株には溶菌性を示さないバクテリオファージであり、約9.0kbの環状ssDNAをゲノムとし制限酵素では切断されないことを特徴とするものである。
さらに、本発明者らは、青枯病菌に特異的に感染するRSS1、RSM1、RSL1、及びRSA1の4種類のファージの単離に成功した(非特許文献3及び4参照)。このようなファージの単離は,世界的にも珍しく、4種類のファージはそれぞれ特性が異なっていた。RSL1及びRSA1が青枯病菌に感染し,溶菌することをin vitroの実験で確認した。また、RSS1とRSM1の2つのファージは、青枯病菌を溶菌せずに増殖を抑制する性質を持っている。青枯病菌とファージを混合して培養した実験では,増殖を抑えてプラークを形成することが確認されている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−228502号公報
【特許文献2】特開2005−278513号公報
【非特許文献1】岩手生物工学研究センター、研究成果集、第7号、第4−5頁、平成12年12月発行
【非特許文献2】J. Bacteriol. 2000:3400-3404
【非特許文献3】Takashi Yamada, Takeru Kawasaki, Shoko Nagata, Akiko Fujiwara, Shoji Usami and Makoto Fujie, Microbology (2007 ),153,2630-2639
【非特許文献4】Takeru Kawasaki, Shoko Nagata, Akiko Fujiwara, Hideki Satsuma, Makoto Fujie,Shoji Usami and Takashi Yamada,JOURNAL OF BACTERIOLOGY ,Aug.2007,p.5792-5802 Vol.189,No.16
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
青枯病菌はナス科植物等に青枯病を引き起こす病原菌であるが、その防除は著しく困難である。防除のためには古典的な輪作法や臭化メチルやクロルピクリンによる土壌処理等が行われているが、既存農薬の使用は環境への負荷や人体への影響が大きく、代替する青枯病菌の防除方法の開発が求められている。そこで、新規農薬の開発、植物の耐病性試験等のために、土壌中や植物体内における青枯病菌の動態を観察・測定する方法が必要である。しかし、現在までに、土壌中や植物体内で安定に長期間にわたり青枯病菌の動態をリアルタイムで簡便にモニターする系は開発されていない。
本発明は、青枯病菌に親和性を有し、青枯病菌に簡便かつ容易に取り込まれ、そして青枯病菌中で安定に存在することができ、かつ青枯病菌中で発現可能な遺伝子を含有することができるプラスミド、当該プラスミドで形質転換された青枯病菌、並びにそれを用いて幅広い菌種の青枯病菌の動態をリアルタイムで簡便にモニターすることができる系、及びその利用方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、青枯病やその原因となる青枯病菌について研究してきた。そして、青枯病菌を溶解する新規なファージを発見してきた(特許文献2、及び非特許文献3参照)。さらに、当該ファージのゲノムを解析し、その遺伝子を解析してきた。
このファージは、青枯病菌に対して極めて有効ではあるが、ファージ自体を現実の農業の場で利用するには多くの問題があり、当該ファージの現実的な利用方法について検討してきた結果、このファージの特定の配列を含有するプラスミドが青枯病菌に容易に取り込まれることを見出した。そして、このプラスミドを用いることにより、各種の有用な遺伝子を青枯病菌の中に容易に導入することができることを見出した。さらに、このプラスミドは薬剤の存在下で青枯病菌から離脱させることができることも見出し、青枯病菌に対して極めて利便性の高いプラスミドの構築に成功した。
【0008】
即ち、本発明は、青枯病菌に対する感染能を有するファージRSS1のゲノムの複製モジュールを含有してなるプラスミドに関する。さらに、本発明は、当該プラスミドに、さらに標識物質を発現し得る遺伝子、及び/又は、抗生物質耐性遺伝子、好ましくはカナマイシン耐性遺伝子を含有してなるプラスミドに関する。
また、本発明は、当該プラスミドで形質転換された青枯病菌に関する。さらに、本発明は、さらに標識物質を発現し得る遺伝子を含有する当該プラスミドを、青枯病菌に取り込ませて、青枯病菌中で標識物質を発現させて、青枯病菌を当該標識物質により標識化する方法に関する。特に、標識物質として蛍光物質、及び/又は、化学発光物質を使用することにより、可視化できる標識化を行うことができる。
また、本発明は、本発明のプラスミドで形質転換した青枯病菌を植物に感染させて、当該青枯病菌中で発現した標識物質を計測することからなる、青枯病菌に感染した植物体への青枯病菌の侵入過程、及び、植物体に侵入後の植物体内での、青枯病菌の動態を測定又はモニターする方法に関する。
さらに、本発明は、本発明のプラスミドで形質転換した青枯病菌を、植物に感染させて当該植物に青枯病を発病させた後、発病した植物に被検物質を散布などにより与えて、青枯病菌に感染した植物体における青枯病菌の挙動を標識物質により測定することからなる、被検物質の青枯病に対する有効性をスクリーニングする方法に関する。
また、本発明は、青枯病菌に感染した植物を検体として、当該検体と本発明のプラスミドを接触させて、当該検体中に存在する青枯病菌に当該プラスミドを取り込ませ、当該プラスミドにより発現した標識物質を検出又は同定することからなる、青枯病菌による感染を検出する方法に関する。
【0009】
本発明をより詳細に説明すれば、以下の(1)〜(18)のとおりとなる。
(1)青枯病菌に対する感染能を有するファージRSS1のゲノムの複製モジュールを含有してなるプラスミド。
(2)ファージRSS1のゲノムの複製モジュールが、ファージRSS1のゲノムの1〜1720までの塩基配列、及び6135〜6662までの塩基配列を含有するものである前記(1)に記載のプラスミド。なお、ゲノムの配列については、配列表の配列番号1を参照されたい。
(3)プラスミドが、ファージRSS1のゲノムの複製モジュールのみからなるものである前記(1)又は(2)に記載のプラスミド。
(4)プラスミドが、さらに標識物質を発現し得る遺伝子を含有するものである前記(1)〜(3)のいずれかに記載のプラスミド。
(5)標識物質が、化学発光タンパク質である前記(4)に記載のプラスミド。
(6)標識物質が、蛍光タンパク質である前記(4)又は(5)に記載のプラスミド。
(7)標識物質が、グリーン蛍光タンパク質(GFP)である前記(6)に記載のプラスミド。
(8)プラスミドが、さらにカナマイシン耐性遺伝子を含有するものである前記(1)〜(7)のいずれかに記載のプラスミド。
(9)前記(1)〜(8)のいずれかに記載のプラスミドで形質転換された青枯病菌。
(10)前記(4)〜(8)のいずれかに記載のプラスミドを青枯病菌に取り込ませて、青枯病菌中で標識物質を発現させて、青枯病菌を当該標識物質により標識化する方法。
(11)標識物質が、グリーン蛍光タンパク質(GFP)である前記(10)に記載の標識化方法。
【0010】
(12)前記(4)〜(8)のいずれかに記載のプラスミドで形質転換した青枯病菌を植物に感染させて、当該青枯病菌中で発現した標識物質を計測することからなる、青枯病菌に感染した植物体への青枯病菌の侵入過程、及び、植物体に侵入後の植物体内での、青枯病菌の動態を測定する方法。
(13)標識物質が、グリーン蛍光タンパク質(GFP)である前記(12)に記載の測定方法。
(14)測定が、リアルタイムである前記(12)又は(13)に記載の測定方法。
(15)前記(4)〜(8)のいずれかに記載のプラスミドで形質転換した青枯病菌を植物に感染させて当該植物に青枯病を発病させた後、発病した植物に被検物質を与えて、青枯病菌に感染した植物体における青枯病菌の挙動を標識物質により測定することからなる、被検物質の青枯病に対する有効性をスクリーニングする方法。
(16)標識物質が、グリーン蛍光タンパク質(GFP)である前記(15)に記載のスクリーニングする方法。
(17)青枯病菌に感染した植物を検体として、当該検体と前記(4)〜(8)のいずれかに記載のプラスミドを接触させて、当該検体中に存在する青枯病菌に当該プラスミドを取り込ませ、当該プラスミドにより発現した標識物質を検出又は同定することからなる、青枯病菌による感染を検出する方法。
(18)標識物質が、グリーン蛍光タンパク質(GFP)である前記(17)に記載の検出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のプラスミドは、青枯病菌に極めて容易に、しかも効率的に取り込まれ、当該プラスミド中に含有されている他の遺伝子を青枯病菌の中で発現させることができ、極めて簡便な手段で青枯病菌中へ各種の遺伝子を導入することができる。しかも、本発明のプラスミドは極めて安定であり、例えば、カナマイシン耐性遺伝子を含有しているプラスミドであっても、カナマイシンによる選択圧がない状態でも、100世代以上という驚異的な長期間に亘り、安定に青枯病菌内に保持させることができる。さらに、本発明のプラスミドは、ファージのゲノムDNAの構造モジュールを含有していないので、ファージ自体による青枯病菌への影響を及ぼすことが無く、青枯病菌の生育を阻害するものではない。
また、本発明のプラスミド中に含有させている他の遺伝子は、例えば、大腸菌のLacZプロモーターなどのような汎用されているプロモーターにより、青枯病菌中で容易に、かつ安定して発現させることができ、本発明のプラスミドはベクター、特に発現ベクターとして使用することができる。
さらに、本発明のプラスミドは、青枯病菌のゲノム情報を変化させるものではなく、本発明のプラスミドは、例えば臭化エチジウムのような薬剤で処理することで、容易に菌体から脱落させることができる。
このように、本発明のプラスミドは、簡便かつ効率的に青枯病菌に取り込ませることができ、当該プラスミド中の遺伝子を安定して発現させることができ、さらに、不要となった場合には青枯病菌のゲノム情報を変化させること無く、除去可能であることから、地中や植物中などに存在している青枯病菌の動態の観測、青枯病菌の生体機能の解明、青枯病菌に対する各種の化学物質の作用効果の評価などの幅広い応用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明におけるファージRSS1(φRSS1)とは、本発明者らが既に単離してきた(特許文献2、並びに非特許文献3及び4参照)ものである。特許文献2には当該φRSS1は「西条農高(1)A」として記載されており、公知のファージである。
φRSS1のゲノムDNAの配列は、既に完全に解明されており、DDBJに、アクセッション番号AB259124として登録されている。アクセッション番号AB259124のφRSS1のゲノムDNAの6662塩基からなる全配列を配列表の配列番号1に示しておく。
本発明における「複製モジュール」とは、本発明におけるφRSS1のようなFf様ファージのゲノムにおける機能に関連している遺伝子から成るモジュール構造の中の複製モジュールと呼ばれている部位のことである。一般に、Ff様ファージのゲノムには、「複製モジュール」、「構造モジュール」、及び「アセンブリー及び分泌モジュール」の3つの機能性モジュールが常に存在している。Ff様ファージにおける複製モジュールは、ローリング−サークルDNA複製に関与する遺伝子gII、gV、及びgXを含有している。したがって、本発明における「複製モジュール」とは、Ff様ファージにおけるゲノム構造から構造タンパク質や形態形成をコードするモジュールを除いた部分ということもできる。
【0013】
本発明のφRSS1のゲノムの複製モジュールとしては、具体的には例えば、配列表の配列番号1に記載された塩基配列の1〜1720番目の配列、及び6135〜6662番目の配列を挙げることができるが、当該配列に限定されるものではなく、青枯病菌に対する親和性を保持することができる範囲において当業者が適宜配列を変更することができる。このような変更における相同性としては60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上の相同性が挙げられる。相同性の範囲のより具体的な例示としては、60%〜99%、65%〜99%、70%〜99%、75%〜99%、80%〜99%、85%〜99%、90%〜99%、また、60%〜95%、65%〜95%、70%〜95%、75%〜95%、80%〜95%、85%〜95%、90%〜95%などが挙げられる。
【0014】
本発明における「プラスミド」としては、宿主染色体とは物理的に独立して自律複製し、安定に遺伝することのできる染色体外遺伝因子であるいう一般的な意味で使用されるものである。
また、本発明のプラスミドは、ファージRSS1のゲノムの複製モジュールを含有してなるものであり、これは、ファージRSS1のゲノムの複製モジュールのみからなっていてもよいし、公知の各種のプラスミド、例えば、大腸菌由来のpBR322、pBR325、pUC12、pUC13、pUC19などのプラスミドの中に組み込まれたものも包含している。
さらに、本発明のプラスミドは、ベクターとして機能させることができるものであり、前記したファージRSS1のゲノムの複製モジュールのほかに、宿主細胞に導入しようとする遺伝子や各種の選択マーカーなどを含有させることができる。
導入する遺伝子としては、特に制限はないが、青枯病菌を通常の状態で観測することができる遺伝子が好ましい。このような遺伝子としては、標識物質を発現し得る遺伝子が好ましい。
本発明の「標識物質を発現し得る遺伝子」としては、標識として機能できるものであれば特に制限はないが、ルシフェラーゼ遺伝子やグリーン蛍光タンパク質をコードする遺伝子などのような化学発光タンパク質、及び/又は、蛍光タンパク質をコードする遺伝子が好ましい。もっとも一般的な遺伝子としてはグリーン蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子が挙げられる。
このような遺伝子を宿主中で発現させるために、プロモーター−オペレーター領域を同時に組み込むことができる。このようなプロモーター−オペレーター領域としては、通常使用されている各種のものを使用することができる。例えば、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、tacプロモーターなどが挙げられる。
【0015】
また、選択マーカーとしては、通常使用されるものを常法により用いることができる。例えばテトラサイクリン、アンピシリン、ネオマイシンまたはカナマイシン等の抗生物質耐性遺伝子等が例示される。選択マーカー遺伝子としては、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、グルタミン酸合成酵素遺伝子、アデノシンデアミナーゼ遺伝子、オルニチンデカルボキシラーゼ遺伝子、ヒグロマイシン−B−ホスホトランスフェラーゼ遺伝子、アスパルラートトランスカルバミラーゼ遺伝子等を例示することができる。
【0016】
本発明のプラスミドを宿主細胞に導入する方法としては、従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、Cohenらの方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., Vol.69, p.2110, 1972)、プロトプラスト法(Mol. Gen. Genet., Vol.168, p.111, 1979)、コンピテント法(J. Mol.Biol., Vol.56, p.209, 1971)、エレクトロポーレイション法によって形質転換することができる。本発明のプラスミドは、青枯病菌に対して極めて親和性が強く、比較的簡単に本発明のプラスミドを青枯病菌中に導入することができる。
プラスミドが導入された宿主細胞は、選択マーカーなどにより、通常の方法により選択することができる。選択培地としては、青枯病菌を培養する培養培地を用いることができる。選択された形質転換細胞(形質転換された青枯病菌)を栄養培地で培養することにより、導入した遺伝子を当該形質転換細胞の中で発現させることができる。栄養培地は、宿主細胞(形質転換体)の生育に必要な炭素源、無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、例えばグルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖などが、無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などが例示される。また所望により他の栄養素(例えば、無機塩(例えば塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類、抗生物質(例えばテトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン、カナマイシン等)など)を含んでいてもよい。本発明の形質転換された青枯病菌の好ましい培養培地としては、CPG培地が挙げられる。
【0017】
本発明について、具体例を挙げてさらに詳細に説明する。
本発明者らは、本発明者らが既に単離してきたファージRSM1(φRSM1)及びファージRSS1(φRSS1)の特徴について詳細な検討を行った。これらのファージは、線維状の形態であること、ゲノムDNAが1本鎖DNAであること、及びその感染サイクルからして、Ff様ファージ(イノウイルス)の1種であるとされた。両者の線維形態は類似しているにもかかわらず、ゲノムサイズ(φRSM1は9.0kbであり、φRSS1は6.6kb)及びゲノムの配列は異なっている。また、φRSM1に感受性がある青枯病菌の菌株は、φRSS1には感受性は無く、その逆でもある。興味深いことに、試験をした青枯病菌の15の菌株は全てゲノムにφRSS1と関連性を有する配列を含有していた。そして、φRSS1とのハイブリダイゼーションパターンは、これらの菌株の分類学上の分類とよく一致した。同様に、試験をした15の菌株のうちの6種はゲノム上のφRSM1関連配列と強いハイブリダイゼーションシグナルを示した。これらの中の菌株MAFF211270は、溶原性のφRSM1様ファージを含有しており、ファージ粒子をときどき産生している。これらの結果から、φRSM1は穏やかな性質を有するファージであることが示される。
【0018】
一般に、Ff様ファージのゲノムは、機能に関連している遺伝子から成るモジュール構造を構成している。3つの機能性モジュールが常に存在している。複製モジュールは、ローリング−サークルDNA複製に関与する遺伝子gII、gV、及びgXを含有している。構造モジュールは、メジャーコートタンパク質(gVIII)及びマイナーコートタンパク質(gIII、gVI、gVII、及びgIX)をコードする遺伝子を含有している。アセンブリー及び分泌モジュールは、ファージ粒子の形態形成及び押出のための遺伝子(gI及びgIV)を含有している。遺伝子gIVは、タンパク質pIVをコードしており、当該タンパク質は外皮におけるホスト細胞からファージ粒子が出るための水溶性のチャネル(セクレチン)である。加えて、いくつかのファージは、CTXφにおけるRstRやVf22におけるvpf122のような、他のファージ遺伝子の発現を調節するための転写抑制機構をコードしている。CTXφなどの溶原性の線維状ファージにおいては、2つの染色体にコードされている部位特異的な組換え酵素XerC及びXerDが知られている。これらの酵素は、ファージのアタッチメント部位(attP)と、ホストの染色体の部位特異的な組換え部位difの内側に有る染色体アタッチメント部位(attB)との組換えを促進する。これらを含む他の溶原性の線維状ファージも、同様に組換え酵素XerCDを用いているようである。
本発明者らは、青枯病菌の2種の線維状ファージであるφRSM1及びφRSS1のゲノムDNAの配列を完全に解明し、これらの全配列はDDBJに、アクセッション番号AB259123及びAB259124としてそれぞれ登録されている。アクセッション番号AB259124のφRSS1のゲノムDNAの6662塩基からなる全配列を配列表の配列番号1に示す。
【0019】
データベースでの検索の結果、φRSS1の遺伝子はFf様ファージの一般的な配置とよく一致していた。φRSS1のORFにおけるアミノ酸配列を検討した結果、Ff様ファージのタンパク質と相同性が見られた。例えば、ORF2はpIIタンパク質と相同性があり、ORF4はpVIIIタンパク質と相同性が有り、ORF7はpIIIタンパク質と相同性が有り、ORF8はpVIタンパク質と相同性が有り、ORF9はpIタンパク質と相同性が有った。
複製起点を確認するために、φRSS1のDNAに基づいて自律的に複製し得るプラスミド(ARP)を作成した。φRSS1のDNAから構造タンパク質及び形態形成のモジュール(ORF4〜ORF11)を除いて、φRSS1のDNAの約1/3(約2248塩基)からなるプラスミドを構築する。この2248塩基からなる部分には、φRSS1のDNAのORF1〜ORF3及びIGがコードされている。この配列は、配列表の配列番号1に示されるφRSS1のゲノムDNAの配列の1〜1720及び6135〜6662からなるものである。
【0020】
得られたプラスミドの1720番目と1721番目の間にカナマイシンカセット(Km−カセット)を接続させて、約3.7kbpのプラスミドを構築した。このプラスミドをpRSS11と呼ぶことにした。このプラスミドpRSS11は、青枯病菌中に安定に保持されることがわかった。
さらに、前記したφRSS1のDNAの約1/3(約2248塩基)のDNAの同じ部分に、GFP遺伝子とカナマイシンカセットを含有する約2.5kbpのDNAを挿入した約4.7kbpのプラスミドを構築した。このプラスミドをpRSS12と呼ぶことにした(図1参照)。図1の上段は、φRSS1の6662塩基からなるゲノムDNAが示されている。左側からORF1〜ORF11までの領域が白抜きの矢印で示されている。ORF1〜ORF3までの領域が複製モジュールであり、ORF4〜ORF8までがコートタンパク質をコードする領域であり、ORF9〜ORF11までが形態形成のための領域である。
プラスミドpRSS12は、ファージφRSS1のゲノム(図1の上段、6662b)より、ファージゲノムDNAの複製に必要な部分(Replication)を含む領域(図1の青色の太線で示されている部分。オリジナルのファージゲノムの1−1720b及び、6135−6662b)を残し、ファージ粒子形成に必要なコートタンパク質等のORFを取り除くことで、ファージ粒子形成能力を除去し、プラスミド化したDNA(図1の下段の青色太線)に、カナマイシン耐性遺伝子(Kan)及びGFP遺伝子を導入した。
本発明のプラスミドは、φRSS1のDNAのコートタンパク質をコードする領域及び形態形成のための領域を除いた部分を用いたものであり、複製モジュールである1〜1720番目までの塩基配列と末端部分の6135〜6662番目までの塩基配列を用いてプラスミド化したものである。
【0021】
プラスミドpRSS12を青枯病菌に導入して形質転換したところ、カナマイシン耐性(15μg/mL)コロニー出現頻度は約10cfu/μgDNAであった。選択培地(15μg/mLのカナマイシンを含有するCPG培地)では全てのコロニーが、UVの照射により強い緑色の蛍光を発した。また、全ての青枯病菌から顕微鏡下で強い緑色の蛍光を観測することができた。
形質転換細胞(1010細胞/mL)は、約50ng/mLのpRSS12DNAを含有していた。これは1細胞当たり1個のコピーが存在していることになる。このプラスミドpRSS12は非常に安定で、例えば、pRSS12で形質転換された青枯病菌株MAFF106611では、選択圧無しの培養(即ち、カナマイシンを含有していないCPG培地での培養)においても、100世代(12日間)もの間、安定に保持されていた。この安定性は、同様にφRSS1のDNAから誘導されたpRSS11に匹敵するものであった。
この安定性を従来から使用されてきたプラスミドpKZ27(これは、pKT240から誘導されたincQプラスミドである。)と比較してみた。
【0022】
これらのプラスミドの青枯病菌内での安定性を、薬剤による選択圧をかけない状況で測定した。定常期にある培養液を、それぞれ1/1024(10世代分に相当する)ずつ、毎日新しいカナマイシンを含まない液体培地に植えついだ。培養液は植継ぎ後24時間後には定常期に達していた。実験開始後、経時的に、培養液中の青枯病菌のうちプラスミドを含有するものの割合を測定した。結果を図2にグラフで示す。図2のグラフの縦軸は青枯病菌中にプラスミドが保持されている割合(%)であり、横軸は期間(日)を示す。上側の丸印(原図では赤色)は本発明のプラスミドpRSS12の場合を示し、下側の丸印(原図では水色)はプラスミドpKZ27を示す。このように、同じように培養したとしても、プラスミドpKZ27は青枯病菌株MAFF106611から急激に脱落し、2日後には90%以上のプラスミドが脱落する。一方、本発明のpRSS12は、12日後においても90%以上が保持されたままになっている。この結果、本発明のプラスミドpRSS12は、薬剤(カナマイシン)による選択圧がない状態でも菌体内で安定に複製・保持されたが、対照のpKZ27は青枯病菌体から、短期間で脱落することがわかった。
【0023】
次に、pRSS12で形質転換された細胞の臭化エチジウムによる処理について検討した。pRSS12で形質転換された青枯病菌細胞を、3μg/mL又は10μg/mLの臭化エチジウムを含有するCPG培地を用いて同様に培養した。即ち、定常期にある培養液を、それぞれ1/1024ずつ、毎日新しいカナマイシンを含まない液体培地に植えついだ。培養液は植継ぎ後24時間後には定常期に達していた。実験開始後、経時的に、培養液中の青枯病菌のうちプラスミドを含有するももの割合を測定した。結果を図3にグラフで示す。図3のグラフの縦軸は青枯病菌中にプラスミドが保持されている割合(%)であり、横軸は期間(日)を示す。上側の丸印(原図では黄色)はコントロールで臭化エチジウムを含有していないCPG培地を用いて培養した場合を示し、中段の丸印(原図では薄オレンジ色)は3μg/mLの臭化エチジウムを含有するCPG培地を用いて培養した場合を示し、下側の丸印(原図では水色)は10μg/mLの臭化エチジウムを含有するCPG培地を用いて培養した場合を示す。この結果、3μg/mLの臭化エチジウムを含有するCPG培地を用いて培養した場合には、3日後には約50%のプラスミドが脱落し、10μg/mLの臭化エチジウムを含有するCPG培地を用いて培養した場合には、3日後にはほとんどのプラスミドが脱落することがわかった。
このように、本発明のプラスミドは青枯病菌中において極めて安定に保持されるものであり、このような安定性は圃場において植物内における青枯病菌の動態を長期間に亘って観察するために非常に重要な特徴となる。
【0024】
次に、本発明のpRSS12で形質転換された細胞による蛍光の観察を行った。まず、CPG液体培地で培養した形質転換された青枯病菌を蛍光顕微鏡で観察した結果を図4にカラー写真で示す。図4の左側は、本発明のpRSS12で形質転換された細胞の場合を示し、右側は野生型の細胞の場合を示す。図4の上段は、明視野での写真であり、下段はUV光を照射した場合の写真である。本発明のプラスミドpRSS12を持つ青枯病菌の場合(左)には蛍光観察により、緑色蛍光を発していることが確認された。pRSS12を持たない青枯病菌の場合(右)には蛍光を発しない。
図5は、CPG寒天培地上で野生型の青枯病菌(W)と、本発明のpRSS12で形質転換された青枯病菌(R)を培養した菌を蛍光顕微鏡で観察した結果を示した写真である。本発明のpRSS12を持つ青枯病菌(R)は蛍光観察により、緑色蛍光を発しているが、pRSS12を持たない野生型の青枯病菌(W)は緑色蛍光を発していない。
この実験で使用されたプラスミドpRSS12は、大腸菌のLacZプロモーターで恒常的に発現するGFP遺伝子が含有されており、青枯病菌中で恒常的にGFPを発現し、それによる蛍光を観測することができることが確認され、GFPが蛍光標識として十分に機能することが確認された。
【0025】
次に、植物の生体内において、本発明のpRSS12で形質転換された青枯病菌の動態を緑色の蛍光により観測することができるか否かを確認することにした。
本発明のpRSS12によりGFP標識した青枯病菌を定植したトマトの茎に感染させた後に蛍光実体顕微鏡で観察した。対照としてpRSS12を導入していない野生型の青枯病菌で感染させた植物を用いた。トマト苗の茎に、CPG培地で培養した青枯病菌(プラスミドpRSS12が導入された細胞と、導入されていない細胞)を感染させ、28℃で7日間栽培した。その後、茎の横断切片を作製し、蛍光実体顕微鏡で観察した。結果を図6にカラー写真で示す。図6の上段は本発明のpRSS12が導入された青枯病菌を用いた場合を示し、下段は野生型の青枯病菌を用いた場合を示す。本発明のプラスミドpRSS12を持つ青枯病菌を感染させたときは、維管束周辺に侵入した青枯病菌由来の蛍光が黄緑色で検出された(図6の上段参照)。一方、プラスミドを持たない場合には、維管束は自家蛍光により黄色の光のみが観測された(図6の下段参照)。なお、図6における赤色の発色は、葉緑体に由来する自家蛍光の色である。
このように、本発明のプラスミドを用いて標識化することにより、維管束部分で青枯病菌に由来する標識光であるGFP蛍光を検出することができることが確認された。
【0026】
次に、トマト苗の葉柄(3cm)を用いて、青枯病菌の植物体内への侵入を観察した。
トマト苗の葉柄(3cm)を切り取り、MS培地上に静置し、その切断面に青枯病菌を感染させた。12時間後に、縦断切片を作製し、蛍光実体顕微鏡でGFPを観察した。結果を図7にカラー写真で示す。図7の左側は、本発明のpRSS12で形質転換された細胞の場合を示し、右側は野生型の細胞の場合を示す。図7の上段は、明視野での写真であり、下段は青色光を照射した場合の写真である。この結果、本発明のプラスミドpRSS12を持つ青枯病菌を感染させたときは、葉柄中に侵入した青枯病菌に由来するGFP蛍光が検出された。プラスミドpRSS12を持たない野生型の青枯病菌を感染させたときは、蛍光は観察されなかった(図7参照)。
このように、本発明のプラスミドを用いることにより、青枯病菌を標識化することができるだけでなく、青枯病菌の植物体への侵入過程などの動態をリアルタイムで観測することができることが確認された。
【0027】
このように本発明のプラスミドを用いることにより青枯病菌を測定可能な標識化することができ、青枯病菌の存在を検出し確認することができるだけでなく、植物生体内や地中における青枯病菌の動態をリアルタイムで観察することができることになる。
本発明のプラスミドで形質転換された青枯病菌を利用することにより、画像処理で可視化された状態で各種の有用な方法に応用することができる。
例えば、本発明のプラスミドで形質転換した青枯病菌を植物の茎や根などに注入して植物に感染させて、当該青枯病菌中で発現したGFPなどの標識物質を蛍光顕微鏡やカメラなどで観察し、計測することにより、青枯病菌が植物体に侵入後の植物体内での、青枯病菌の動態を観察し測定する方法に適用することができる。また、本発明のプラスミドで形質転換した青枯病菌を、植物を栽培している地中に散布し、当該青枯病菌をモニターすることにより、青枯病菌の植物体への侵入過程を観察し測定することができる。このような方法により、青枯病菌の感染のメカニズムや植物体内における青枯病菌の繁殖のメカニズム、さらには植物が青枯病により枯れてゆくメカニズムなどを詳細に解明することが可能となる。
【0028】
また、宿主植物を定植した土壌にGFPなどで標識した青枯病菌を散布し、土壌から植物体に青枯病菌が侵入・感染する過程をリアルタイムでモニタリングすることができる。本発明のプラスミドに導入され得る標識物質としては、GFPに限らず各種の標識物質を使用することができる。例えば、ルシフェラーゼや蛍光タンパク質としても緑色に限らず、各種の蛍光タンパク質を利用することも可能である。このような各種の標識物質で標識化された形質転換青枯病菌を、その株毎に調製し、調製された多種類の青枯病菌の株を同時に散布することにより、同一被検体に対して株毎の挙動をモニターすることができ、青枯病菌の各株の被検体に対する挙動を同時に測定することができる。この方法によれば、植物の各品種に対する青枯病菌の各株の挙動を明確に把握するこも可能となる。
【0029】
また、本発明のプラスミドで形質転換した青枯病菌を植物に感染させて当該植物に青枯病を発病させた後、発病した植物に被検物質を散布や地中に播いて被検物質を植物体に投与して、青枯病菌に感染した植物体における青枯病菌の挙動を標識物質により測定することにより、当該被検物質の青枯病菌に対する有効性をスクリーニングすることができる。また、青枯病菌を植物に感染させる前に、被検物質を植物に投与して、当該被検物質の青枯病に対する予防作用を評価することも可能となる。
さらには、このようなスクリーニング方法を植物体ではなく、試験管内(インビトロ)において実施することもできる。本発明のプラスミドで形質転換した青枯病菌は可視化可能な標識化ができ、しかも青枯病菌のゲノム情報には影響を与えていないので、被検物質に対する青枯病菌の動態を極めて短時間で把握することが可能となる。
青枯病に対する実用的な農薬は殆ど無く、本発明のこの方法によれば、効率的に短期間で有効な農薬を開発することも可能となる。
【0030】
また、青枯病菌は地中に長期間に亘って生存し、地中からの完全な除去が極めて困難な病原菌であると言われている。そして、地中に生存する青枯病菌を確実に検出するための手法も十分に確立されていない状況にある。これは、検査のために採取した土をどのような手法で前処理することにより、標的の青枯病菌に影響を与えることなく前処理できるかということが十分に確立されていないからである。
このような前処理方法を確立させるためにおいても、本発明のプラスミドで形質転換した青枯病菌を有効に利用することができる。例えば、検査しようとする土の一定量に、一定量の本発明のプラスミドで形質転換した青枯病菌を添加し、その蛍光強度を測定した後に、土の前処理を行い、当該前処理が終了した段階で再度蛍光濃度を測定することにより、当該前処理により脱落してゆく青枯病菌がどの程度あるかということが判明する。脱落する青枯病菌の量が大きい場合には、このような前処理は青枯病菌の検出のためには、不適切であることが判明するし、また、当該前処理により脱落する青枯病菌の量を定量化することができ、検出された青枯病菌の量に基づいて、ほぼ正確な青枯病菌の量を予測することも可能となる。
また、GFPなどで標識した青枯病菌を土壌に散布し、一定時間後に、GFPなどの蛍光を利用して定量することで、土壌中での菌の増殖をモニタリングすることもできる。
【0031】
さらに、青枯病菌に感染した植物を検体として、当該検体から青枯病菌を含む部分を抽出し、これと本発明のプラスミドを接触させて、当該検体中に存在する青枯病菌に当該プラスミドを取り込ませ、青枯病菌に取り込まれた当該プラスミドは標識物質を発現することになるので、発現した標識物質を検出又は同定することにより、当該検体中に青枯病菌が存在していたか否かを判定することができる。この方法によれば、栽培中の作物が青枯病菌に感染しているか否かを早期にかつ確実に判定することができ、当該栽培地における栽培の可否を早期に判断することが可能となる。
【0032】
このように本発明のプラスミドは、青枯病菌に対して非常に多くの応用が可能となるものであり、青枯病の解明だけでなく、その対処方法の開発において極めて有用なものとなる。
【0033】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
各種の青枯病菌の菌株は、28℃で200〜300rpmで撹拌してCPG培地で培養した。ファージは、単一プラーク単離法により繁殖させ、精製した。φRSS1は菌株C319を用いて、φRSM1は菌株M4Sを用いてそれぞれ繁殖させた。細菌細胞の培養液のOD600が0.1ユニットに達したときに、ファージを0.01〜0.05moi(菌数に対するファージの相対数)加えた。その後、16〜18時間、培養して遠心分離により細胞を除去し、0.45μmのフィルターを通した後、このファージ懸濁液に、CsCl(9.4g/20mL)を加え、超遠心分離を行って、さらなる精製を行った。精製されたファージは、使用されるまで4℃で保存した。
【0034】
参考例
φRSM1及びφRSS1のゲノムDNAの配列の決定
ファージDNAをフェノール抽出法により、精製ファージ塊から分離した。別のケースでは、外部染色体DNAを、ファージを感染させた青枯病菌からミニ調製法により分離した。配列決定のための複製型(RF)DNAを、φRSM1又はφRSS1を感染させたホスト細菌の細胞から単離し、Sau3AIで部分的に消化した。電気泳動させた後、1.0〜4.0kbpのDNAフラグメントをアガロースゲルから回収し、pBluescript II SK(+)ベクターのBamHIサイトに挿入した。得られたベクターを大腸菌XL10ゴールド細胞に導入した後、ランダムにクローンを単離して、それぞれの配列を決定した。これらの結果に基づいてφRSM1及びφRSS1のゲノムDNAの配列をそれぞれ決定した。これらの全配列はDDBJに、アクセッション番号AB259123及びAB259124としてそれぞれ登録されている。アクセッション番号AB259124のφRSS1のゲノムDNAの6662塩基からなる全配列を配列表の配列番号1に示す。
また、80bp以上の主要なORFを、オンラインプログラムORF Finder及びDNASISプログラムにより同定した。
【実施例1】
【0035】
プラスミドpRSS11の構築と青枯病菌への導入
φRSS1のゲノムにおけるorf11の3’末端部分に相当する塩基配列を有するフォーワードプライマー、及びorf4の5’末端部分に相当する塩基配列を有するリバースプライマーを用いて、φRSS1のゲノム配列から構造タンパク質及び形態形成のモジュール部分が欠落した約1/3の長さ(約2248塩基)のDNA断片をPCR法により増幅した。各プライマーの塩基配列は、
フォーワードプライマー : 5'-cggaattctatccggagtaacgaaaag-3'
リバースプライマー : 5'-atggaattctccttgagatggaggttgag-3'
であった。
このPCRは、MY-Cycler(バイオラッド社製)を用い標準的な条件下で、テンプレートとしてφRSS1ののRF−DNA(1ng)を用いて、25サイクルで行った。
得られたDNA断片のプライマーサイトをEcoRIで消化し、プラスミドpUC4−KIXX(アマーシャムバイオサイエンス社製)からEcoRIにより切り出されたカナマイシンカセットの断片を結合させて、プラスミドpRSS11を構築した。
得られたプラスミドpRSS11を、Gene Pulser Xcell(バイオラッド社製)を用いてメーカーの使用説明書の記載にしたがって、2.5kVで2mmキュベットで、青枯病菌MAFF106611株にエレクトロポーレーション法により導入した。得られた形質転換体を、15μg/mLのカナマイシンを含有するCPG培地で選択した。
また、同様な方法により、φRSM1のゲノムDNAからプラスミドpRSM11を構築し、青枯病菌M4S株に導入した。
【実施例2】
【0036】
プラスミドpRSS12の構築と青枯病菌への導入
カナマイシンカセットとGFP遺伝子が結合したpGFPuv−Kmを、GFP遺伝子を含有しているpGFPuv(タカラバイオ社製)のEcoRIサイトにプラスミドpUC4−KIXX(アマーシャムバイオサイエンス社製)からのカナマイシンカッセトを挿入することにより構築した。各々の遺伝子の向きを制限酵素マッピング法により確認した。
一方、前記した実施例2で製造したPCR産物であるDNA断片に、カナマイシンカセット、及び前記で構築したpGFPuv−KmからPCR(F2,R2をプライマーとする)により増幅したGFPの遺伝子を結合させることにより、プラスミドpRSS12を構築した。
F2プライマー : 5'-gagcgccgaattcgcaaaccgcctctcc-3'
R2プライマー : 5'-ttgacaccagacaagttggtaatggtag-3'
得られたプラスミドpRSS12を、Gene Pulser Xcell(バイオラッド社製)を用いてメーカーの使用説明書の記載にしたがって、2.5kVで2mm細胞で、青枯病菌MAFF106611株にエレクトロポーレーション法により導入した。得られた形質転換体を、15μg/mLのカナマイシンを含有するCPG培地で選択した。
【実施例3】
【0037】
プラスミドpRSS12の安定性と脱落性
実施例3で得られた形質転換細胞をカナマイシンの存在しないCPG培地で培養した。コロニー形成のアッセイのために、培養物の一部を適当な間隔で取り出した。カナマイシン含有していない培地(選択圧無し)に対するカナマイシン含有培地におけるコロニー数の割合を、このプラスミドの安定性の評価をするために算出した。対照としてプラスミドpKZ27で形質転換したMAFF106611株を用いた。
結果を図2にグラフで示す。
また、形質転換細胞からのpRSS12の脱落を行うために、臭化エチジウムによる処理を行った。pRSS12で形質転換されたMAFF106611株を、濃度の異なる臭化エチジウム(0、3、及び10μg/mL)を含有するCPG培地で培養した。培養物の一部を適当な間隔で取り出した。カナマイシン含有していない培地(選択圧無し)に対するカナマイシン含有培地におけるコロニー数の割合を、このプラスミドの脱落度合いを評価するために算出した。
結果を図3にグラフで示す。
【実施例4】
【0038】
青枯病菌の蛍光の検出
青枯病菌を28℃で1〜2日CPG培地で培養した。pRSS12で形質転換されたMAFF106611株からの蛍光を、GFP用フィルター付きのオリンパスBH2蛍光顕微鏡で観察した。
目視した結果を図4に、顕微鏡で観察した結果を図5に、それぞれカラー写真で示す。
【実施例5】
【0039】
定植した植物体における青枯病菌の検出
得られた形質転換菌を定植したトマトの茎に感染させた後に蛍光実体顕微鏡で観察した。対照としてpRSS12を導入していない野生型の青枯病菌を感染させた植物を用いた。トマト苗の茎に、CPG培地で培養した青枯病菌(プラスミドpRSS12が導入された細胞と、導入されていない細胞)を感染させた。この植物を、1〜4週間の間、28℃で、明期が16時間、暗期が8時間として、人工気象器(サンヨー製)で栽培した。その後、茎の横断切片を作製し、GFP2及びGFP3フィルター付きのLeica MZ16Fステレオ顕微鏡(ライカマイクロシステム社製)を用いて観察した。
結果を図6にカラー写真で示す。
【実施例6】
【0040】
青枯病菌のトマト断片への侵入の観察
トマト苗の葉柄(3cm)を切り取り、MS培地上に静置し、その切断面に青枯病菌を感染させた。12時間後に、縦断切片を作製し、蛍光実体顕微鏡で、植物組織への青枯病菌の侵入を観察した。
結果を図7にカラー写真で示す。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、青枯病菌に対して極めて安定に存在する新規なプラスミドを提供するものであり、本発明のプラスミドには各種の標識物質を含有させることができるだけでなく、宿主細胞である青枯病菌のゲノム情報には影響を与えないので、青枯病菌の動態を解明し、青枯病に対する有効な対処方法の開発における有力なツールを提供するものである。
したがって、本発明のプラスミド、それを導入した形質転換体、その利用方法は、いずれも農業分野や農薬分野において有用なものであり、本発明は産業上の利用可能性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明のプラスミドpRSS12の構造を模式的に示したものである。図1の上段は、ファージRSS1の6662塩基からなるゲノムDNAが示されている。
【図2】図2は、本発明のプラスミドpRSS12と従来から使用されてきたプラスミドpKZ27のそれぞれの青枯病菌内での安定性を、薬剤による選択圧をかけない状況で測定した結果を示すグラフである。図2のグラフの縦軸は青枯病菌中にプラスミドが保持されている割合(%)であり、横軸は期間(日)を示す。上側の丸印(原図では赤色)は本発明のプラスミドpRSS12の場合を示し、下側の丸印(原図では水色)はプラスミドpKZ27を示す。
【図3】図3は、本発明のプラスミドpRSS12で形質転換された青枯病菌細胞からのプラスミドpRSS12の脱落を臭化エチジウムの存在下で測定した結果を示すグラフである。図3のグラフの縦軸は青枯病菌中にプラスミドが保持されている割合(%)であり、横軸は期間(日)を示す。上側の丸印(原図では黄色)はコントロールで臭化エチジウムを含有していないCPG培地を用いて培養した場合を示し、中段の丸印(原図では薄オレンジ色)は3μg/mLの臭化エチジウムを含有するCPG培地を用いて培養した場合を示し、下側の丸印(原図では水色)は10μg/mLの臭化エチジウムを含有するCPG培地を用いて培養した場合を示す。
【図4】図4は、CPG液体培地で培養した本発明のpRSS12で形質転換された青枯病菌を蛍光顕微鏡で観察した結果を示す図面に代わるカラー写真である。図4の左側は、本発明のpRSS12で形質転換された細胞の場合を示し、右側は野生型の細胞の場合を示す。図4の上段は、明るい所での写真であり、下段はUV光を照射した場合の写真である。
【図5】図5は、CPG寒天培地上で野生型の青枯病菌(W)と、本発明のpRSS12で形質転換された青枯病菌(R)を培養した菌を目視で観察した結果を示す図面に代わるカラー写真である。
【図6】図6は、本発明のpRSS12によりGFP標識した青枯病菌、又はpRSS12を導入していない野生型の青枯病菌を、それぞれ定植したトマトの茎に感染させた後の茎の横断切片を蛍光実体顕微鏡で観察した結果を示す図面に代わるカラー写真である。図6の上段は本発明のpRSS12が導入された青枯病菌を用いた場合を示し、下段は野生型の青枯病菌を用いた場合を示す。
【図7】図7は、トマト苗の葉柄を用いて、青枯病菌の植物体内への侵入を蛍光実体顕微鏡でGFPを観察した結果を示す図面に代わるカラー写真である。図7の左側は、本発明のpRSS12で形質転換された細胞の場合を示し、右側は野生型の細胞の場合を示す。図7の上段は、明視野での写真であり、下段は青色光を照射した場合の写真である。
【配列表フリーテキスト】
【0043】
配列番号1 : φRSS1のゲノムDNAの6662塩基からなる全塩基配列。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
青枯病菌に対する感染能を有するファージRSS1のゲノムの複製モジュールを含有してなるプラスミド。
【請求項2】
ファージRSS1のゲノムの複製モジュールが、ファージRSS1のゲノムの1〜1720までの塩基配列、及び6135〜6662までの塩基配列を含有するものである請求項1に記載のプラスミド。
【請求項3】
プラスミドが、ファージRSS1のゲノムの複製モジュールのみからなるものである請求項1又は2に記載のプラスミド。
【請求項4】
プラスミドが、さらに標識物質を発現し得る遺伝子を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載のプラスミド。
【請求項5】
標識物質が、化学発光タンパク質である請求項4に記載のプラスミド。
【請求項6】
標識物質が、蛍光タンパク質である請求項4又は5に記載のプラスミド。
【請求項7】
標識物質が、グリーン蛍光タンパク質(GFP)である請求項6に記載のプラスミド。
【請求項8】
プラスミドが、さらにカナマイシン耐性遺伝子を含有するものである請求項1〜7のいずれかに記載のプラスミド。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のプラスミドで形質転換された青枯病菌。
【請求項10】
請求項4〜8のいずれかに記載のプラスミドを青枯病菌に取り込ませて、青枯病菌中で標識物質を発現させて、青枯病菌を当該標識物質により標識化する方法。
【請求項11】
標識物質が、グリーン蛍光タンパク質(GFP)である請求項10に記載の標識化方法。
【請求項12】
請求項4〜8のいずれかに記載のプラスミドで形質転換した青枯病菌を植物に感染させて、当該青枯病菌中で発現した標識物質を計測することからなる、青枯病菌に感染した植物体への青枯病菌の侵入過程、及び、植物体に侵入後の植物体内での、青枯病菌の動態を測定する方法。
【請求項13】
標識物質が、グリーン蛍光タンパク質(GFP)である請求項12に記載の測定方法。
【請求項14】
測定が、リアルタイムである請求項12又は13に記載の測定方法。
【請求項15】
請求項4〜8のいずれかに記載のプラスミドで形質転換した青枯病菌を植物に感染させて当該植物に青枯病を発病させた後、発病した植物に被検物質を与えて、青枯病菌に感染した植物体における青枯病菌の挙動を標識物質により測定することからなる、被検物質の青枯病に対する有効性をスクリーニングする方法。
【請求項16】
標識物質が、グリーン蛍光タンパク質(GFP)である請求項15に記載のスクリーニングする方法。
【請求項17】
青枯病菌に感染した植物を検体として、当該検体と請求項4〜8のいずれかに記載のプラスミドを接触させて、当該検体中に存在する青枯病菌に当該プラスミドを取り込ませ、当該プラスミドにより発現した標識物質を検出又は同定することからなる、青枯病菌による感染を検出する方法。
【請求項18】
標識物質が、グリーン蛍光タンパク質(GFP)である請求項17に記載の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−55881(P2009−55881A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228396(P2007−228396)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年8月2日 社団法人日本生物工学会発行の「平成19年(2007)第59回日本生物工学会大会講演要旨集」に発表
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】