説明

フィブリル状導電性ポリマーの製造方法、フィブリル状導電性ポリマー、フィブリル状導電性ポリマー分散液、導電性塗料の製造方法および導電性塗料

【課題】本発明は、優れた導電性を有し、透明度の高い材料を提供できる、フィブリル状導電性ポリマー、フィブリル状導電性ポリマー分散液および導電性塗料を提供すること、および、このフィブリル状導電性ポリマーまたは導電性塗料を工業的に製造し得る、製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】導電性ポリマーの凝集体と溶媒とを含有する混合液を、かくはん機を用いて、かくはんして、繊維径100nm以下であるフィブリル状導電性ポリマーを得る、かくはん工程を備えるフィブリル状導電性ポリマーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィブリル状導電性ポリマーの製造方法、フィブリル状導電性ポリマー、フィブリル状導電性ポリマー分散液、導電性塗料の製造方法および導電性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルや帯電防止剤等の電子部材には、透明で高い導電率を有する材料が要求されている。
このような導電性材料を提供する方法として、PETフィルム等の基材の上にITO(インジウム錫酸化物)を蒸着して用いる方法が一般に採用されているが、ITO蒸着層を蒸着する方法は大掛かりな装置が必要でコストが比較的高くなるという問題がある。また、各種包装材等に使用する場合、例えば、真空成形等で深絞り加工をする際等に基材の変形にITO層が追従できず、割れが生じる等の問題もあった。
【0003】
汎用性のある導電性ポリマー材料としてはポリアニリンが挙げられるが、ポリアニリンは非常に凝集力が高く溶剤への分散性が極めて低いため、フィルムに塗布できる均一性/透明性と導電性とを両立することは困難であった。
【0004】
ポリアニリン粉末を極性溶媒と共にせん断をかけると導電率が上昇するという分散性固有導電性ポリアニリン粉体の製造方法が知られている(特許文献1参照。)。
【0005】
透明性と導電性を両立するためには、非常に細かい繊維状の導電性ポリマーを並べて導電パスを作る方法が考えられ、近年、導電性ポリマーのナノファイバー化に関わる文献が多く報告されている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1には、有機溶剤と水との界面でアニリンを静止状態で重合するとフィブリル状のポリアニリンが得られると記載されている。
【0006】
【特許文献1】特許第3583427号公報
【非特許文献1】Xinyu Zhang,Roch Chan−Yu−Kingら,Nanofiber of polyaniline synthesized by interfacial polymerization,Synthetic Metals,145(2004),23−29
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された方法は、導電率が上昇するメカニズムについてポリアニリン表面の汚れが取れるため等と予測しているものの、正確なところはわかっていない。また、この方法では、ポリアニリン粉体は極性溶媒に溶けないため透明性と導電性を両立することはできなかった。
また、非特許文献1に記載された方法は、実験室レベルで用いられる方法であり、工業的に同一の形状のフィブリル状導電性ポリマーを製造することは困難である。
【0008】
そこで、本発明は、優れた導電性を有し、透明度の高い材料を提供できるフィブリル状導電性ポリマーを提供すること、および、このフィブリル状導電性ポリマーを工業的に製造し得る、フィブリル状導電性ポリマーの製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、優れた導電性を有し、透明度の高い材料を提供できるフィブリル状導電性ポリマー分散液を提供することを目的とする。
また、本発明は、優れた導電性を有し、透明度の高い材料を提供できる導電性塗料を提供すること、および、この導電性塗料を工業的に製造し得る、導電性塗料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討した結果、導電性ポリマーの凝集体と溶媒とを含有する混合液を、かくはん機を用いて、かくはんして得られる、繊維径100nm以下であるフィブリル状導電性ポリマー、および、上記溶媒に上記フィブリル状導電性ポリマーが分散したフィブリル状導電性ポリマー分散液は、優れた導電性を有し、透明度の高い材料を提供できることを見出した。
また、(i)導電性ポリマーの凝集体とバインダーと溶媒とを含有する混合液を、かくはん機を用いて、かくはんして得られる、上記溶媒に繊維径100nm以下であるフィブリル状導電性ポリマーと上記バインダーとが分散した導電性塗料、(ii)重量平均分子量が20,000〜1,000,000である導電性ポリマーの凝集体と、バインダーと、溶媒とを含有する混合液を、かくはん機を用いて、せん断速度10,000s-1以上でかくはんして得られる、上記溶媒にフィブリル状導電性ポリマーと上記バインダーとが分散した導電性塗料、(iii)上記フィブリル状導電性ポリマー分散液に、バインダーを加えて得られる、上記溶媒に上記フィブリル状導電性ポリマーと上記バインダーとが分散した導電性塗料は、それぞれ、優れた導電性を有し、透明度の高い材料を提供できることを見出した。
本発明は、導電性ポリマーの凝集体に極めて高いせん断力をかける事によって凝集がナノサイズのフィブリル状態にまで解けるようにできることを見出し、これを利用して透明性と導電性の両立した導電性ポリマー分散液および導電性塗料を提供するものである。
本発明者は、これらの知見に基づいて本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、下記(1)〜(26)を提供する。
(1)導電性ポリマーの凝集体と溶媒とを含有する混合液を、かくはん機を用いて、かくはんして、繊維径100nm以下であるフィブリル状導電性ポリマーを得る、かくはん工程を備えるフィブリル状導電性ポリマーの製造方法。
(2)前記導電性ポリマーの重量平均分子量が、20,000〜1,000,000である上記(1)に記載のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法。
(3)せん断速度10,000s-1以上でかくはんして、前記フィブリル状導電性ポリマーを得る上記(1)または(2)に記載のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法。
(4)前記導電性ポリマーが、ポリアニリンおよび/またはポリアニリン誘導体である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法。
(5)前記導電性ポリマーの凝集体が、乾燥されていない上記(1)〜(4)のいずれかに記載のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法。
(6)前記導電性ポリマーの凝集体の含有量が、前記混合液中の10質量%以下である上記(1)〜(5)のいずれかに記載のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法。
(7)前記かくはん機が、円筒状のかくはん槽内に回転軸を同心に設け、かくはん槽より僅かに小径の回転羽根を前記回転軸に取付け、回転羽根の高速回転により混合液をかくはん槽の内面に薄膜円筒状に拡げながらかくはんする高速かくはん機であって、
前記回転羽根が、円筒体に半径方向の小孔を多数貫通して設けた多孔円筒部を外周側に備える高速かくはん機である上記(1)〜(6)のいずれかに記載のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法。
(8)前記混合液が、界面活性剤を含有する上記(1)〜(7)のいずれかに記載のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法。
(9)前記かくはん工程の前に、
モノマーと酸化剤と溶媒とを混合し、前記モノマーを重合させて導電性ポリマーの凝集体を得る、導電性ポリマー製造工程を備える、上記(1)〜(8)のいずれかに記載のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法。
【0011】
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法で製造された、繊維径100nm以下であるフィブリル状導電性ポリマー。
【0012】
(11)溶媒に、上記(10)に記載のフィブリル状導電性ポリマーが分散したフィブリル状導電性ポリマー分散液。
【0013】
(12)導電性ポリマーの凝集体とバインダーと溶媒とを含有する混合液を、かくはん機を用いて、かくはんして、前記溶媒に繊維径100nm以下であるフィブリル状導電性ポリマーと前記バインダーとが分散した導電性塗料を得る、かくはん工程を備える導電性塗料の製造方法。
(13)前記導電性ポリマーの重量平均分子量が、20,000〜1,000,000である上記(12)に記載の導電性塗料の製造方法。
(14)せん断速度10,000s-1以上でかくはんして、前記導電性塗料を得る上記(12)または(13)に記載の導電性塗料の製造方法。
【0014】
(15)重量平均分子量が20,000〜1,000,000である導電性ポリマーの凝集体と、バインダーと、溶媒とを含有する混合液を、かくはん機を用いて、せん断速度10,000s-1以上でかくはんして、前記溶媒にフィブリル状導電性ポリマーと前記バインダーとが分散した導電性塗料を得る、かくはん工程を備える導電性塗料の製造方法。
(16)前記導電性ポリマーが、ポリアニリンおよび/またはポリアニリン誘導体である上記(12)〜(15)のいずれかに記載の導電性塗料の製造方法。
(17)前記導電性ポリマーの凝集体が、乾燥されていない上記(12)〜(16)のいずれかに記載の導電性塗料の製造方法。
(18)前記導電性ポリマーの凝集体の含有量が、前記混合液中の10質量%以下である上記(12)〜(17)のいずれかに記載の導電性塗料の製造方法。
(19)前記かくはん機が、円筒状のかくはん槽内に回転軸を同心に設け、かくはん槽より僅かに小径の回転羽根を前記回転軸に取付け、回転羽根の高速回転により混合液をかくはん槽の内面に薄膜円筒状に拡げながらかくはんする高速かくはん機であって、
前記回転羽根が、円筒体に半径方向の小孔を多数貫通して設けた多孔円筒部を外周側に備える高速かくはん機である上記(12)〜(18)のいずれかに記載の導電性塗料の製造方法。
(20)前記混合液が、界面活性剤を含有する上記(12)〜(19)のいずれかに記載の導電性塗料の製造方法。
(21)前記かくはん工程の前に、
モノマーと酸化剤と溶媒とを混合し、前記モノマーを重合させて導電性ポリマーの凝集体を得る、導電性ポリマー製造工程を備える、上記(12)〜(20)のいずれかに記載の導電性塗料の製造方法。
【0015】
(22)上記(11)に記載のフィブリル状導電性ポリマー分散液に、バインダーを加えて、前記溶媒に前記フィブリル状導電性ポリマーと前記バインダーとが分散した導電性塗料を得る導電性塗料の製造方法。
(23)前記バインダーが、アクリルモノマー、アクリルオリゴマー、ポリエステルおよびポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1種である上記(12)〜(22)のいずれかに記載の導電性塗料の製造方法。
(24)前記バインダーの含有量が、前記導電性ポリマーの凝集体100質量部に対して100〜3000質量部である上記(12)〜(23)のいずれかに記載の導電性塗料の製造方法。
【0016】
(25)上記(12)〜(24)のいずれかに記載の導電性塗料の製造方法で製造された、導電性塗料。
(26)帯電防止剤である上記(25)に記載の導電性塗料。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフィブリル状導電性ポリマーは、優れた導電性を有し、透明度の高い材料を提供できる。また、本発明のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法によれば、このフィブリル状導電性ポリマーを工業的に製造し得る。
また、本発明のフィブリル状導電性ポリマー分散液は、優れた導電性を有し、透明度の高い材料を提供できる。
また、本発明の導電性塗料は、優れた導電性を有し、透明度の高い材料を提供できる。また、本発明の導電性塗料の製造方法によれば、この導電性塗料を工業的に製造し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明をより詳細に説明する。
まず、本発明のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法および本発明のフィブリル状導電性ポリマーについて説明する。
【0019】
<フィブリル状導電性ポリマーの製造方法およびフィブリル状導電性ポリマー>
本発明のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法は、導電性ポリマーの凝集体と溶媒とを含有する混合液を、かくはん機を用いて、かくはんして、繊維径100nm以下であるフィブリル状導電性ポリマーを得る、かくはん工程を備える。
上記かくはん工程により得られるフィブリル状導電性ポリマーの繊維径は、20nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましい。繊維径の下限は特に限定されない。
【0020】
なお、本明細書において「繊維径」は、導電性ポリマーが作り出すフィブリルの直径をいう。また、「フィブリル」とは、繊維を構成している微細繊維を意味する。特にポリアニリンはフィブリルが集合して強固な凝集体を作るため、他のポリマーや溶媒へ分散せず取扱いが困難である。
【0021】
上記混合液に含有される導電性ポリマーは、特に限定されないが、具体的には、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(p−フェニレン)、ポリ(p−フェニレンビニレン)およびこれらの誘導体等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの導電性ポリマーの中でも、ポリアニリンおよび/またはポリアニリン誘導体が、汎用性、経済性という点から好ましい。
【0022】
上記導電性ポリマーは、非特許文献1に記載された方法(界面重合法)等の特殊な重合方法により得られた場合を除き、通常、不定形な塊りとして得られる。この塊は、繊維状のポリマーが複雑に絡まっており、極めて凝集力が高い。これまで、この塊を解きほぐしてフィブリル状にする技術はなかった。
本明細書において、「導電性ポリマーの凝集体」とは、上記のような繊維状の導電性ポリマーが複雑に絡まった塊状の導電性ポリマーをいう。
【0023】
上記ポリアニリン誘導体としては、具体的には、例えば、ポリ(メチルアニリン)、ポリ(ジメチルアニリン)、ポリ(エチルアニリン)、ポリ(アニリンスルホン酸)等が挙げられる。
【0024】
上記導電性ポリマーの重量平均分子量は、20,000〜1,000,000が好ましく、50,000〜500,000がより好ましい。分子量がこの範囲であると、導電性ポリマーの凝集体がフィブリル状になり易く、分散性に優れるので、得られるフィブリル状導電性ポリマーは優れた導電性を有し、透明度の高い材料を提供できる。
なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法を用いて、UV検出器で測定、算出した。標準試料としてはポリスチレンを使用した。
【0025】
上記導電性ポリマーの凝集体の含有量は、分散し易さ、得られる材料の透明度に優れる点から、上記混合液中の10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、2質量%以下であるのが更に好ましい。
【0026】
上記導電性ポリマーの製造方法は特に限定されず、公知の製造方法を用いることができるが、一般的には高分子化する方法として、非常に低温(−10℃以下)の状態で長時間(48時間程度)に渡って重合を行うことが良いとされている。また、0℃〜常温の比較的高い温度においてもアニオン系の界面活性剤を含んだ系中で重合するとアニリンが高分子化し、2万〜100万の分子量を有するポリアニリンが合成できる。さらには、低温・長時間の重合とアニオン系界面活性剤の併用で合成を行う方法を使用してもよい。
【0027】
上記導電性ポリマーは、合成後、メタノール等で析出し、その後洗浄して、溶媒中に分散させるが、洗浄工程の後、乾燥させないことが好ましい。一度乾燥させるとポリアニリンが強固に凝集し、溶剤への分散性が劣ってしまうからである。ここで、「乾燥されていない」とは、上記導電性ポリマーが製造された時から上記かくはん工程において溶媒と混合されるまでの間、上記導電性ポリマーが溶媒または水分を含んでいる状態を意味する。ただし、上記導電性ポリマーが空気中から自然に吸収した水分(湿気)は含まれない。
【0028】
上記混合液に含有される溶媒は、上記導電性ポリマーの少なくとも一部を溶解または膨潤させることができる溶媒であれば特に限定されず、その具体例としては、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、トルエン、MEKであるのが、溶解性、その後の除去の容易性の点から好ましい。
【0029】
上記混合液は、更に、界面活性剤を含有するのが好ましい。界面活性剤を含有する場合、混合液をかくはんしたときに上記導電性ポリマーがフィブリル状になり易く、分散性が向上する。
上記界面活性剤としては、具体的には、例えば、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
上記ノニオン性界面活性剤としては、具体的には、例えば、脂肪酸ソルビタンエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ソルビタン、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレン−プロピレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェノール、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー等が挙げられる。
【0031】
上記アニオン性界面活性剤としては、具体的には、例えば、脂肪酸のアルカリ金属塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、N−アシル−N−メチルタウリン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、N−アルキル−N,N−ジメチルオキシド等が挙げられる。
【0032】
上記カチオン性界面活性剤としては、具体的には、例えば、アルキルアミン酢酸塩、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0033】
上記両性イオン界面活性剤としては、具体的には、例えば、ジメチルアルキルベタイン、アルキルアミドベタイン等が挙げられる。
【0034】
上記界面活性剤の含有量は、上記導電性ポリマーの凝集体100質量部に対して、0.5〜2質量部が好ましい。必要以上に配合量を増やすと導電率が低下するからである。
【0035】
上記混合液は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した各成分以外の他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、具体的には、例えば、バインダー、老化防止剤、チクソトロピー付与剤、難燃剤、接着付与剤、タッキファイヤー等が挙げられる。
【0036】
上記かくはん工程は、上記導電性ポリマーの凝集体と上記溶媒とを含有する混合液を、かくはん機を用いて、かくはんして、繊維径100nm以下のフィブリル状導電性ポリマーを得る工程である。
上記混合液をかくはんして、非常に強いせん断力をかけると、凝集している導電性ポリマーが極めて細いフィブリル状になり、その結果、この導電性ポリマーの溶媒中での分散性を向上できる。その導電性ポリマー分散液または後述する導電性塗料を塗布した面にはフィブリル状の導電性ポリマーが均一かつ緊密に存在し、導電パスを形成するので、高い透明度と導電性を両立できる材料が得られる。
上記かくはん工程においては、せん断速度10,000s-1以上でかくはんすることが、上記導電性ポリマーの凝集がほどけてフィブリル状になり易い点から好ましい。より短時間に分散でき、高い透明度と導電性を両立できる材料を提供できるフィブリル状導電性ポリマーが得られる点から、せん断速度15,000s-1以上がより好ましく、25,000s-1以上が更に好ましい。
【0037】
一般に、せん断速度(γ)は、下記式で与えられる。
γ=dw/dr
【0038】
上記式中、wは流速を表し、rは流速差の生じる箇所の距離を表す。せん断状態での流速の差(dw)を距離(r)で除した値がせん断速度となる。
本発明に好適に用いられるかくはん機は、容器(かくはん槽)の内側に回転羽根を有し、この回転羽根が高速で回転することによって、容器の内面と回転羽根の外面との間にせん断力がかかり、導電性ポリマーの凝集を解いていくものである。このかくはん機を例に挙げると、容器内面近傍および回転羽根外面の近傍の流速を、それぞれ容器および回転羽根の速度と同じであると仮定すると、容器は静止しているので上記dwの値は回転羽根の回転速度となる。また、距離rは容器と回転羽根の間のクリアランスとなる。
【0039】
かくはん時間は、かくはん機の種類、かくはん速度または混合液の濃度等に応じて、本発明の効果が得られるように適宜設定すればよいが、1分以上であるのが好ましく、5分以上であるのがより好ましい。
【0040】
上記かくはん機としては、ボールミル等のボール型混練機;ロールミル、加圧ニーダ、インターナルミキサ等のロール型混練機;スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、カッターミキサー等のブレード型混練機が挙げられるが、上記混合液をせん断速度10,000s-1以上でかくはんできる性能を持つものであれば特に限定されない。このような性能を有するかくはん機としては、例えば、プライミクス社製のフィルミックス(登録商標)等の薄膜旋回型高速ミキサー、ディスクタービン型のかくはん翼を有するブレード型混練機、一般的にホモジナイザーと呼ばれる高速かくはん機、噴流ノズルから液を超高速で噴出しながら混合する噴流混合機等が好適に挙げられる。
【0041】
上記かくはん機の好ましい一例としては、特開平11−347388号公報に記載されている、円筒状のかくはん槽内に回転軸を同心に設け、かくはん槽より僅かに小径の回転羽根を上記回転軸に取付け、回転羽根の高速回転により混合液をかくはん槽の内面に薄膜円筒状に拡げながらかくはんする高速かくはん機であって、上記回転羽根が、円筒体に半径方向の小孔を多数貫通して設けた多孔円筒部を外周側に備える高速かくはん機が挙げられる。
以下、図面を参照して、この高速かくはん機の好適な実施形態について説明する。ただし、これらの実施形態に限定されないのはいうまでもない。
【0042】
図3は、高速かくはん機の一例の縦断面図であり、図4は、回転羽根11の断面図(図4(A))、平面図(図4(B))および側面図(図4(C))である。
図3において、1は円筒形断面をもつかくはん槽、2は外槽で、両槽1、2間に冷却水室3が形成され、この冷却水室3に冷却水が流入管4から供給され、かくはんで生じる摩擦熱を吸収して図外の流出管から排出される。かくはん槽1の底部には、弁5a、6aをもつ供給管5、6が接続されて原料の供給に使用されるが、バッチ生産の場合は製品の排出にも使用される。
【0043】
かくはん槽1の上部には、堰板7が載置され、その上に上部容器8が取付けられ、これに流出管9が接続されている。この上部容器8は、蓋8a、冷却水室8bを有し、製品を連続生産するときに用いられ、この場合は、堰板7として、その内径が図示のものより大きいものに交換され、原料を供給管5、6から連続供給し、かくはん後の液が堰板7を越えて連続的に流出するように扱う。上記冷却水室8bは、水路に冷却水室3と並列に接続されている。
【0044】
回転軸10は、上記蓋8aを気密に貫通してかくはん槽1と同心に設置され、上部に設けたモータで高速駆動される。そして、この回転軸10の下端には回転羽根11が固着されている。
【0045】
回転羽根11は、図4(A)、(B)、(C)に示すように、外周側の多孔円筒部12をアーム13でボス14と一体にしたもので、この多孔円筒部12は、アーム13が連設されている部分以外の円筒状部分に、多数の小孔12aを半径方向に穿設して構成され、アーム13には適数の連通孔13aが設けられている。
【0046】
かくはん槽1の内径Dは、例えば80mmであり、回転羽根11の外径φは、この内径Dより僅かに小径の76mmまたは74mm程度に設定されている。したがって両部の間隙Sは、2mmまたは3mmである。また、多孔円筒部12の高さは55mm、厚さは3mm、小孔12aの径は3mmである。そして、回転羽根11は、周速25〜100m/secまたは必要に応じてそれ以上の高速度で駆動される。なお、これらの数値は、一例を示す数値であり、適宜変更できるものである。
【0047】
混合液Lは、回転羽根11の高速回転によって円周方向に付勢されて回転し、この回転によって生じる遠心力によって、かくはん槽1の内面に薄膜円筒状に密着しながら回転する。そのため、この混合液Lは、その表面とかくはん槽1の内面との速度差によるずれによってかくはん作用を受け、含有する成分が微粒化される。更に小孔12a内に流入した混合液は、この小孔の内面によって強い回転力を受けるため、遠心力も大きく、この小孔12a内から間隙S内に流入して圧力を上昇させると共にこの間隙S内の混合液Lの流れを乱すことによりかくはん作用を助長させる。
【0048】
上述した高速かくはん機としては、市販品を用いることができ、例えば、プライミクス社製のフィルミックス(登録商標)を好適に用いることができる。
【0049】
本発明の製造方法は、更に、上記かくはん工程の前に、モノマーと酸化剤と溶媒とを混合し、上記モノマーを重合させて導電性ポリマーの凝集体を得る、導電性ポリマー製造工程を備えるのが好ましい態様の1つである。以下、導電性ポリマー製造工程の具体例として、ポリアニリンを製造する工程について説明する。
まず、上記モノマーとしてアニリン、上記溶媒として水、および必要に応じて界面活性剤を混合し、酸を加えてpH1程度に調整した後、上記酸化剤として過硫酸アンモニウムを添加し、低温(−35〜10℃程度)で酸化重合してポリアニリンを得ることができる。その後、メタノール等の適当な溶媒を加えてポリアニリンを析出させ、ろ過して得られた固体を水等を用いて洗浄するのが好ましい。得られた導電性ポリマー(ポリアニリン)は乾燥させないで上記かくはん工程に用いるのが、フィブリル状にし易く、分散性に優れる点から好ましい。
【0050】
上記モノマーは、上記導電性ポリマーの原料であり、具体的には、例えば、アニリン、ナフチルアミン、フェニレンジアミン、ナフチレンジアミン、トリアミノベンゼン、トリアミノナフタレン、ピロール、チオフェン、フラン、ベンゼン、これらの誘導体(例えば、炭素数1〜30のアルキル基、アルコキシ基、アルキレンオキシド基、スルホン酸基、アルキレンスルフォン酸基等の置換基が芳香環上に1つ以上導入された化合物)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
上記モノマーを酸化重合するための酸化剤としては、上記モノマーを重合し得る化合物であれば特に限定されず、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸類、過酸化水素、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、重クロム酸カリウム、過マンガン酸カリウム、過酸化水素−第一鉄塩等のレドックス開始剤等が好ましく用いられる。これら酸化剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記酸化剤の使用量は、上記モノマーを酸化重合し得る量であれば特に制限されないが、上記モノマー1モルに対して0.01〜10モルであることが好ましく、0.1〜5モルであることがより好ましい。
【0052】
上記溶媒としては、特に限定されず、用いられるモノマーの種類等に応じて適宜選択すればよい。具体的には、例えば、水、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
上記導電性ポリマー製造工程においては、界面活性剤の存在下で上記モノマーの重合を行うのが、上述したかくはん工程において導電性ポリマーをフィブリル化し易い点から好ましい態様の1つである。
上記界面活性剤としては、上述した界面活性剤等が例示される。
【0054】
また、上記導電性ポリマー製造工程においては、ドーパントの存在下で上記モノマーの重合を行うのが、得られる導電性ポリマーの導電率を向上しうる点から好ましい態様の1つである。
【0055】
上記ドーパントは、導電性ポリマーのベースとなるπ共役高分子化合物等をドープすることができるドーピング剤であれば任意のものを使用できるため特に限定されないが、具体的には、例えば、ヨウ素、臭素、塩素、ヨウ素等のハロゲン化合物;硫酸、塩酸、硝酸、過塩素酸、ホウフッ化水素酸等のプロトン酸;これらプロトン酸の各種塩;三塩化アルミニウム、三塩化鉄、塩化モリブデン、塩化アンチモン、五フッ化ヒ素、五フッ化アンチモン等のルイス酸;酢酸、トリフルオロ酢酸、ポリエチレンカルボン酸、ギ酸、安息香酸等の有機カルボン酸;これら有機カルボン酸の各種塩;フェノール、ニトロフェノール、シアノフェノール等のフェノール類;これらフェノール類の各種塩;ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ポリエチレンスルホン酸、p−ドデシルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、アルキルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、樟脳スルホン酸、ジオクチルスルホコハク酸、銅フタロシアニンテトラスルホン酸、ポルフィリンテトラスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ナフタレンスルホン酸縮合物等の有機スルホン酸;これら有機スルホン酸の各種塩;ポリアクリル酸等の高分子酸;プロピルリン酸エステル、ブチルリン酸エステル、ヘキシルリン酸エステル、ポリエチレンオキシドドデシルエーテルリン酸エステル、ポリエチレンオキシドアルキルエーテルリン酸エステル等のリン酸エステル;これらリン酸エステルの各種塩;ラウリル硫酸エステル、セチル硫酸エステル、ステアリル硫酸エステル、ラウリルエーテル硫酸エステル等の硫酸エステル;これら硫酸エステルの各種塩等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
これらのドーパントの中でも、プロトン酸、有機カルボン酸、フェノール類、有機スルホン酸、リン酸エステル、硫酸エステル、これらの各種塩であるのが好ましく、具体的には、塩酸、硝酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、p−ドデシルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、樟脳スルホン酸、ジオクチルスルホコハク酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ナフタレンスルホン酸縮合物、これらの各種塩であるのが好ましい。
【0057】
上記ドーパントの添加量は、モノマーに対するモル比(ドーパント/モノマー)で0.001〜15であるのが好ましく、0.005〜10であるのがより好ましい。
【0058】
上述した本発明のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法によれば、優れた導電性を有し、透明度の高い材料を提供できるフィブリル状導電性ポリマーを得ることができる。また、本発明のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法は、非特許文献1に記載された方法に比べて多量のフィブリル状導電性ポリマーを容易に得ることができ、工業的に使用され得る。
また、本発明の製造方法により製造された本発明のフィブリル状導電性ポリマーは、優れた導電性を有し、透明度の高い材料を提供できる。
【0059】
本発明のフィブリル状導電性ポリマーは、上述した優れた特性を有するので、タッチパネル、クリーンルームの仕切り、各種電子部品の包装材、帯電防止剤等の電子部材に好適に用いられる。
【0060】
<フィブリル状導電性ポリマー分散液>
本発明のフィブリル状導電性ポリマー分散液は、溶媒に、上述したフィブリル状導電性ポリマーが分散したものである。
本発明のフィブリル状導電性ポリマー分散液は、上述した本発明のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法によって得ることができる。上記溶媒は、本発明のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法に用いられる溶媒と基本的に同様でよく、本発明のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法に用いられる溶媒であることが好ましい。
【0061】
上記フィブリル状導電性ポリマーの含有量は、分散し易さ、得られる材料の透明度に優れる点から、上記フィブリル状導電性ポリマー分散液中の10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、2質量%以下であるのが更に好ましい。
【0062】
上述した本発明のフィブリル状導電性ポリマー分散液は、優れた導電性を有し、透明度の高い材料を提供できる。また、本発明の導電性ポリマー分散液は、塗布して乾燥するだけで優れた導電性を有し、透明度の高い材料を得ることができるので、大掛かりな装置が必要なITO等を蒸着する方法に比べてコストを抑えることができる。
【0063】
本発明のフィブリル状導電性ポリマー分散液は、上述した優れた特性を有するので、タッチパネル、クリーンルームの仕切り、各種電子部品の包装材、帯電防止剤等の電子部材に好適に用いられる。
【0064】
<導電性塗料の製造方法および導電性塗料>
本発明の導電性塗料の製造方法の第1の態様(以下、「第1の製造方法」という。)は、導電性ポリマーの凝集体とバインダーと溶媒とを含有する混合液を、かくはん機を用いて、かくはんして、上記溶媒に繊維径100nm以下であるフィブリル状導電性ポリマーと上記バインダーとが分散した導電性塗料を得る、かくはん工程を備える。
【0065】
第1の製造方法は、上記混合液にバインダーを更に添加したこと以外は、上述した本発明のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法と基本的に同様である。したがって、第1の製造方法に用いられる導電性ポリマーの凝集体、溶媒、かくはん機、界面活性剤等は、上述した本発明のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法に用いられるものと同様であり、せん断速度も同様である。
【0066】
上記バインダーは、特に限定されず、導電性塗料に用いられる公知のバインダーを用いることができ、透明で皮膜形成性を有するものが好ましい。
上記バインダーとしては、具体的には、例えば、アクリルモノマー、アクリルオリゴマー;ポリエステル、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレン、ポリカーボネートポリビニルブチラール等の合成樹脂バインダー;ゼラチン、デキストラン、ポリアクリルアミド、デンプン、ポリビニルアルコール等の水溶性バインダー等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、アクリルモノマー、アクリルオリゴマー、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂が、汎用性、接着性という点から好ましい。
【0067】
上記アクリルモノマーは、重合してアクリル樹脂となり得る化合物であり、具体的には、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、アミノエチルビニルエーテル、ポリオキシエチレンアクリレート、ポリオキシエチレンメタクリレート等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの他に、アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、アルキルビニルエーテル、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、エチレン等を併用してもよい。
【0068】
上記バインダーとして上記アクリルモノマーおよび/または上記アクリルオリゴマーを用いる場合、ラジカル開始剤を併用する。ラジカル開始剤としては、具体的には、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アゾビスイソバレロニトリル等が挙げられる。
【0069】
また、上記バインダーとしては、予め溶媒に溶解させたものが好ましい態様の1つである。予め溶媒に溶解したバインダーは上記混合液に添加したときの分散性に優れる。この溶媒は、バインダーを溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、上記混合液に用いられる溶媒と同様のもの等が挙げられる。
【0070】
上記バインダーの含有量は、上記導電性ポリマーの凝集体100質量部に対して100〜3000質量部であるのが好ましい。
【0071】
上記混合液は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した各成分以外の他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、具体的には、例えば、老化防止剤、チクソトロピー付与剤、難燃剤、接着付与剤、タッキファイヤー等が挙げられる。
【0072】
本発明の導電性塗料の製造方法の第2の態様(以下、「第2の製造方法」という。)は、重量平均分子量が20,000〜1,000,000である導電性ポリマーの凝集体と、バインダーと、溶媒とを含有する混合液を、かくはん機を用いて、せん断速度10,000s-1以上でかくはんして、上記溶媒にフィブリル状導電性ポリマーと上記バインダーとが分散した導電性塗料を得る、かくはん工程を備える。
【0073】
第2の製造方法は、導電性ポリマーの凝集体の重量平均分子量が20,000〜1,000,000である点、および、せん断速度10,000s-1以上でかくはんする点以外は、基本的に、第1の製造方法と同様である。
第2の製造方法によれば、通常、得られる導電性塗料に含有されるフィブリル状導電性ポリマーの繊維径を100nm以下にすることができる。
【0074】
第2の製造方法に用いられる導電性ポリマーの凝集体の重量平均分子量は、20,000〜1,000,000であり、50,000〜500,000が好ましい。分子量がこの範囲であると、導電性ポリマーの凝集体がフィブリル状になり易く、分散性が向上するため、得られる導電性塗料は優れた導電性を有し、透明度の高い材料を提供できる。
【0075】
第2の製造方法のかくはん工程においては、上記導電性ポリマーの凝集がほどけてフィブリル状になり易い点から、せん断速度10,000s-1以上でかくはんを行う。より短時間に分散でき、高い透明度と導電性を両立できる材料を提供できるフィブリル状導電性ポリマーが得られる点から、せん断速度15,000s-1以上が好ましく、25,000s-1以上がより好ましい。
【0076】
本発明の導電性塗料の製造方法の第3の態様(以下、「第3の製造方法」という。)は、上述した本発明のフィブリル状導電性ポリマー分散液に、バインダーを加えて、上記溶媒に上記フィブリル状導電性ポリマーと上記バインダーとが分散した導電性塗料を得る導電性塗料の製造方法である。
第3の製造方法に用いられるバインダーは、上述した第1および第2の製造方法に用いられるバインダーと同様のものでよく、その含有量も同様である。
【0077】
上記フィブリル状導電性ポリマー分散液にバインダーを加えた後にバインダーを分散させる方法は、特に限定されない。例えば、上記フィブリル状導電性ポリマー分散液を製造した後にバインダーを加えて、上記フィブリル状導電性ポリマー分散液を製造するのに用いたかくはん機をそのまま使用して分散させる方法が挙げられる。また、上記フィブリル状導電性ポリマー分散液を製造するのに用いたかくはん機とは別のかくはん機(例えば、スターラー)で分散させてもよく、かくはん棒等を用いて手動で分散させてもよい。
【0078】
上述した、第1〜第3の製造方法により製造された本発明の導電性塗料は、優れた導電性を有し、透明度の高い材料を提供できる。また、第1〜第3の製造方法は、この導電性塗料を比較的容易に多量に得ることができ、工業的に使用され得る。更に、第1および第2の製造方法は、上記かくはん工程においてバインダーと共に導電性ポリマーをかくはんすることにより導電性ポリマーが再凝集しにくくなり、均一な塗料を得ることができる。
【0079】
本発明の導電性塗料は、上述した優れた特性を有するので、タッチパネル、クリーンルームの仕切り、各種電子部品の包装材、帯電防止剤等の電子部材に好適に用いられる。
【0080】
本発明の帯電防止剤は、例えば、基材に塗布して帯電防止シートとして用いることができる。上記帯電防止シートは、電子部品、電子材料等の包装材;医療機関、クリーンルーム等の埃の存在が問題とされる場所等で使用される化粧材またはカーテン等の内装材等として好適に使用される。
上記基材は、特に限定されないが、透明なフィルムが好ましい。具体的には、例えば、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン等のフィルムが好適に挙げられる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0082】
<導電性ポリマーの合成>
(合成例1)
アニリン1g、ドデシルベンゼンスルホン酸6.3gおよび蒸留水100mlを混合した。次に、この混合液に、蒸留水50mlに6N塩酸5.4mlを加えて調製した希塩酸を全量加えた。この混合液を−10℃に冷却した後、酸化剤として蒸留水30mlに溶解させた過硫酸アンモニウム2.7gを加えて、30時間酸化重合させた。
その後、メタノールを加えてポリアニリンを析出させ、ろ過して得られた固体を多量の蒸留水により洗浄して、ドデシルベンゼンスルホン酸や過硫酸アンモニウムの残分を除去した後、乾燥させないで蓋付きの瓶に入れて保管した。得られた導電性ポリマーの固形分を測定すると20質量%であった。
ろ過終了時にポリアニリンの一部をとり、アンモニア水で脱ドープした後、NMPに溶解させ、GPCにより重量平均分子量を測定したところ、得られたポリアニリンの重量平均分子量は30万であった。
【0083】
(合成例2)
原料にトリメチルアニリン0.02gを更に加えた以外は、合成例1と同様の方法で導電性ポリマーを合成した。得られた導電性ポリマーの固形分を測定すると20質量%であった。
合成例1と同様の方法で得られた導電性ポリマーの重量平均分子量を測定したところ、得られた導電性ポリマーの重量平均分子量は3万であった。
【0084】
<フィブリル状導電性ポリマー分散液の製造>
(合成例3)
合成例1の導電性ポリマーとトルエンとを質量比(導電性ポリマー/トルエン)5/77.5で混合した。この混合液をプライミクス社製のT.K.フィルミックスを用いて、室温で、せん断速度25,000s-1で5分間かくはんして、フィブリル状導電性ポリマー分散液を得た。
【0085】
<導電性塗料の製造>
(実施例1〜6および比較例1〜2)
下記第1表に示す各成分を、第1表に示す組成(質量部)で混合し、かくはん機(T.K.フィルミックス、プライミクス社製)を用いて、室温で、第1表に示すせん断速度で第1表に示す混合時間かくはんして、各導電性塗料を得た。
【0086】
得られた各導電性塗料の長期安定性を評価するため、各導電性塗料の一部を取り出し密封して、室温で1ヶ月放置した後、目視で観察した。
沈殿が生じていないものを「○」、わずかに沈殿が生じていたものを「△」、かなり沈殿が生じていたものを「×」とした。
【0087】
また、得られた各導電性塗料をPETフィルム上にスピンコーターで塗布し、乾燥させて厚さ0.5μmの膜を形成させた。
PETフィルム上に形成した膜について、以下に示す方法により、繊維径を測定し、また、外観、透明度、導電性、接着性を評価した。
結果を第1表に示す。
【0088】
(実施例7)
合成例3のフィブリル状導電性ポリマー分散液82.5質量部と、ポリエステル溶液17.5質量部とを混合し、ガラス棒を用いて手動でかくはんして導電性塗料を得た。
得られた導電性塗料について、実施例1〜6および比較例1〜2と同様の方法で、長期安定性、繊維径、外観、透明度、導電性および接着性を評価した。
結果を第1表に示す。
【0089】
(外観評価)
導電性ポリマー膜を目視にて観察し、均一になっているものを「○」、凝集体が少量残っているものを「△」、導電性ポリマーが凝集した粒が多く見られたものを「×」とした。
【0090】
(繊維径の測定)
PETフィルム上に形成した膜を光学顕微鏡または透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、倍率からフィブリル状導電性ポリマーの繊維径を換算して算出した。
【0091】
(透明度評価)
ガラス板に導電性ポリマーが塗布された状態で、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所社製、HM−150)により、全光透過率を求めた。
【0092】
(導電性評価)
ガラス板上に導電性ポリマーが塗布された状態で、抵抗測定器(ダイアインスツルメンツ社製、ロレスタIP)を用い、4端子法にて表面抵抗を求めた。
【0093】
(接着性評価)
接着性の評価は、碁盤目テープはく離試験により行った。
得られたPETフィルム上に形成した膜に1mmの基盤目100個(10×10)を作り、基盤目上にセロハン粘着テープ(幅18mm)を完全に付着させ、直ちにテープの一端を直角に保ち、瞬間的に引き離し、完全に剥がれないで残った基盤目の個数を調べた。
99〜100個残っていたものを「○」、80〜98個残っていたものを「△」とした。
【0094】
【表1】

【0095】
上記第1表中の「導電性ポリマー濃度」は、各導電性塗料中の導電性ポリマー(固形分)の濃度を示す。
実施例および比較例に用いた各成分は、下記のとおりである。
・粉末ポリアニリン:アルドリッチ社製、重量平均分子量1万
・ポリエステル溶液:ポリエステル(バイロン240、東洋紡社製)とMEKとを質量比40/100で混合した溶液
・ポリウレタン溶液:ポリウレタン(パンデックス1520、大日本インキ化学工業社製)とトルエンとを質量比40/100で混合した溶液
・アクリルモノマー:ペンタエリスリトールアクリレート、M−305、東亞合成社製
・ラジカル重合開始剤:4,4−アゾビス−4シアノ吉草酸、イルガキュア500、チバガイギー社製
【0096】
得られた各導電性塗料の膜を、光学顕微鏡を用いて400倍に拡大して観察した結果、比較例1については繊維径5000nm(5μm)のフィブリル状の導電性ポリマーが観察されたが、比較例2については導電性ポリマーがフィブリル状にならずに凝集したままだったため、繊維径の測定を行わなかった。また、実施例1〜7についてはいずれも導電性ポリマーを見ることができなかった。これは実施例1〜7の導電性ポリマーが極めて微細なフィブリル状になっており、一様に分散していているためであると考えられた。
そこで、実施例1〜6についてはTEMで1000倍に拡大して観察した。その結果、一様に分散しているフィブリル状の導電性ポリマーが観察された。
実施例2のTEM写真(1000倍)を図1に、比較例1の光学顕微鏡写真(400倍)を図2に示す。
【0097】
また、第1表に示す結果から明らかなように、せん断速度5,000s-1でかくはんして得られた導電性塗料(比較例1)は、導電性ポリマーを十分に微細化できず、長期安定性、外観および導電性が悪かった。また、重量平均分子量10,000の粉末ポリアニリンを使用した導電性塗料(比較例2)は、導電性ポリマーがフィブリル化しておらず、また、長期安定性、外観および導電性が比較的悪かった。
一方、実施例1〜7は、長期安定性、外観、透明度、導電性および接着性が優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】図1は、実施例2のTEM写真(1000倍)である。
【図2】図2は、比較例1の光学顕微鏡写真(400倍)である。
【図3】図3は、高速かくはん機の一例の縦断面図である。
【図4】図4は、回転羽根11の断面図、平面図および側面図である。
【符号の説明】
【0099】
1 かくはん槽
2 外槽
3、8b 冷却水室
4 流入管
5、6 供給管
5a、6a 弁
7 堰板
8 上部容器
8a 蓋
9 流出管
10 回転軸
11 回転羽根
12 多孔円筒部
12a 小孔
13 アーム
13a 連通孔
14 ボス
L 混合液
S 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ポリマーの凝集体と溶媒とを含有する混合液を、かくはん機を用いて、かくはんして、繊維径100nm以下であるフィブリル状導電性ポリマーを得る、かくはん工程を備えるフィブリル状導電性ポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記導電性ポリマーの重量平均分子量が、20,000〜1,000,000である請求項1に記載のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法。
【請求項3】
せん断速度10,000s-1以上でかくはんして、前記フィブリル状導電性ポリマーを得る請求項1または2に記載のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記導電性ポリマーが、ポリアニリンおよび/またはポリアニリン誘導体である請求項1〜3のいずれかに記載のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記導電性ポリマーの凝集体が、乾燥されていない請求項1〜4のいずれかに記載のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記導電性ポリマーの凝集体の含有量が、前記混合液中の10質量%以下である請求項1〜5のいずれかに記載のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法。
【請求項7】
前記かくはん機が、円筒状のかくはん槽内に回転軸を同心に設け、かくはん槽より僅かに小径の回転羽根を前記回転軸に取付け、回転羽根の高速回転により混合液をかくはん槽の内面に薄膜円筒状に拡げながらかくはんする高速かくはん機であって、
前記回転羽根が、円筒体に半径方向の小孔を多数貫通して設けた多孔円筒部を外周側に備える高速かくはん機である請求項1〜6のいずれかに記載のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法。
【請求項8】
前記混合液が、界面活性剤を含有する請求項1〜7のいずれかに記載のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法。
【請求項9】
前記かくはん工程の前に、
モノマーと酸化剤と溶媒とを混合し、前記モノマーを重合させて導電性ポリマーの凝集体を得る、導電性ポリマー製造工程を備える、請求項1〜8のいずれかに記載のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のフィブリル状導電性ポリマーの製造方法で製造された、繊維径100nm以下であるフィブリル状導電性ポリマー。
【請求項11】
溶媒に、請求項10に記載のフィブリル状導電性ポリマーが分散したフィブリル状導電性ポリマー分散液。
【請求項12】
導電性ポリマーの凝集体とバインダーと溶媒とを含有する混合液を、かくはん機を用いて、かくはんして、前記溶媒に繊維径100nm以下であるフィブリル状導電性ポリマーと前記バインダーとが分散した導電性塗料を得る、かくはん工程を備える導電性塗料の製造方法。
【請求項13】
前記導電性ポリマーの重量平均分子量が、20,000〜1,000,000である請求項12に記載の導電性塗料の製造方法。
【請求項14】
せん断速度10,000s-1以上でかくはんして、前記導電性塗料を得る請求項12または13に記載の導電性塗料の製造方法。
【請求項15】
重量平均分子量が20,000〜1,000,000である導電性ポリマーの凝集体と、バインダーと、溶媒とを含有する混合液を、かくはん機を用いて、せん断速度10,000s-1以上でかくはんして、前記溶媒にフィブリル状導電性ポリマーと前記バインダーとが分散した導電性塗料を得る、かくはん工程を備える導電性塗料の製造方法。
【請求項16】
前記導電性ポリマーが、ポリアニリンおよび/またはポリアニリン誘導体である請求項12〜15のいずれかに記載の導電性塗料の製造方法。
【請求項17】
前記導電性ポリマーの凝集体が、乾燥されていない請求項12〜16のいずれかに記載の導電性塗料の製造方法。
【請求項18】
前記導電性ポリマーの凝集体の含有量が、前記混合液中の10質量%以下である請求項12〜17のいずれかに記載の導電性塗料の製造方法。
【請求項19】
前記かくはん機が、円筒状のかくはん槽内に回転軸を同心に設け、かくはん槽より僅かに小径の回転羽根を前記回転軸に取付け、回転羽根の高速回転により混合液をかくはん槽の内面に薄膜円筒状に拡げながらかくはんする高速かくはん機であって、
前記回転羽根が、円筒体に半径方向の小孔を多数貫通して設けた多孔円筒部を外周側に備える高速かくはん機である請求項12〜18のいずれかに記載の導電性塗料の製造方法。
【請求項20】
前記混合液が、界面活性剤を含有する請求項12〜19のいずれかに記載の導電性塗料の製造方法。
【請求項21】
前記かくはん工程の前に、
モノマーと酸化剤と溶媒とを混合し、前記モノマーを重合させて導電性ポリマーの凝集体を得る、導電性ポリマー製造工程を備える、請求項12〜20のいずれかに記載の導電性塗料の製造方法。
【請求項22】
請求項11に記載のフィブリル状導電性ポリマー分散液に、バインダーを加えて、前記溶媒に前記フィブリル状導電性ポリマーと前記バインダーとが分散した導電性塗料を得る導電性塗料の製造方法。
【請求項23】
前記バインダーが、アクリルモノマー、アクリルオリゴマー、ポリエステルおよびポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項12〜22のいずれかに記載の導電性塗料の製造方法。
【請求項24】
前記バインダーの含有量が、前記導電性ポリマーの凝集体100質量部に対して100〜3000質量部である請求項12〜23のいずれかに記載の導電性塗料の製造方法。
【請求項25】
請求項12〜24のいずれかに記載の導電性塗料の製造方法で製造された、導電性塗料。
【請求項26】
帯電防止剤である請求項25に記載の導電性塗料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−332474(P2007−332474A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162455(P2006−162455)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】