説明

フィラグリン合成促進剤および紫外線傷害緩和剤

【課題】安全かつ容易にフィラグリン合成促進作用を発揮することができるフィラグリン合成促進剤を提供すること。
【解決手段】下記一般式(I)で示される糖脂質を有効成分として含有することを特徴とするフィラグリン合成促進剤。下記一般式(I)で示される糖脂質を有効成分として含有することを特徴とする、紫外線による皮膚傷害緩和剤。
【化1】


一般式(I)
[式中、R1およびR2はそれぞれ独立して、炭素数8〜30の飽和または不飽和アルキル基を表し; Yはカチオンを表し;Xは炭素数3〜9のアルキレン基、炭素数3〜9のアルキレンオキシ基、または炭素数3〜9のアルキルアミノ基を表し;R3は糖類残基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の保湿等に関与するフィラグリンの合成を促進することができるフィラグリン合成促進剤、およびフィラグリン合成促進作用を通じて紫外線による皮膚傷害を緩和する紫外線傷害緩和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、乾燥、紫外線等種々の外的ストレスにより損傷を受ける。このような損傷を受けた表皮では、細胞数の減少や細胞代謝の低下が起こり、これが、老化や肌荒れの原因となる。
【0003】
皮膚の最外層に存在する角質層は、外界からの刺激(紫外線、乾燥等)に対する防御壁として機能している。例えば、外環境の乾燥から身を守るため、角質層は体内からの水分の放出を抑制する作用と、角質層自身の水分を保持する作用を合わせ持つことが知られている。体内からの水分の放出を抑制するものとしては角質層の細胞間脂質が、角質層自身の水分を保持する作用を持つものとしては天然保湿因子が知られている。この天然保湿因子はアミノ酸及びその誘導体、ピロリドンカルボン酸、乳酸塩、無機塩、糖類等からなる角質層中に存在する水溶性成分である。これらの天然保湿因子の主要成分はアミノ酸やピロリドンカルボン酸等のアミノ酸代謝物であり、特にアミノ酸には、角質層における水分量と高い相関性が報告され、角質層の水分保持には極めて重要である。
【0004】
しかし、角質層におけるアミノ酸の量は年齢、肌荒れ状態、アトピー性皮膚炎、花粉症等のアレルギー反応によって減少し、角質層の水分環境を悪化させることが知られている。角質層の水分量が低下することにより角質層がかたくなり、亀裂を生じさせ、小皺の原因となり、外界因子(抗原等)の侵入を容易にし、皮膚炎症反応を誘起することもある。これまで、油剤や、糖、アミノ酸、乳酸、ピロリドンカルボン酸塩等の天然保湿因子、コラーゲン等の蛋白質、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸等の多糖類、グリセリン、1,3-ブチレングリコールなどの多価アルコールといった保湿剤を外用することで、水分量の減少した角質層を改善することが試みられてきた。しかしながら、上記のような保湿剤は、角質層に留まる間は有効であるが、角質層の水分保持機能を本質的に改善する作用までは期待できない。また、洗浄や発汗などによって容易に流されることも問題であった。
【0005】
天然保湿成分の主成分であるアミノ酸は、ケラトヒアリン顆粒に由来するフィラグリンが角質層内で分解することによって産生する。このフィラグリンは、表皮ケラチノサイトにおいてプロフィラグリンとして発現し、直ちにリン酸化し、ケラトヒアリン顆粒に蓄積する。その後脱リン酸、加水分解を経てフィラグリンへと分解され、角質層へと移行し、ケラチンフィラメントの凝集効率を高め、角質細胞の内部構築に関与する。近年、このフィラグリンが皮膚の水分保持に非常に重要かつ必要不可欠であること、及び乾燥などの条件によりフィラグリンの合成力が低下し、角質層におけるアミノ酸量が低下することが明らかになった。そこで、フィラグリンの合成や分解を促進することによって角質層内のアミノ酸量を増大させ、角質層の水分環境を本質的に改善することが検討されている。
【0006】
フィラグリンの合成や分解を促進する成分としては、Citrus属に属する植物エキス又は酵母エキス(特許文献1)、サクラ属植物、スミレ属植物等(特許文献2)、カンゾウ抽出物(特許文献3)、リクイリチン(特許文献4)、ポリ−γ−グルタミン酸、その誘導体及びこれらの塩(特許文献5)、チオタウリン(特許文献6)、エクトイン(特許文献7)、ビタミンB3化合物(特許文献8)が知られている。
しかしながら、これらのエキスおよび化合物は、天然物から抽出されるものであり、有効物質の皮膚上での皮膜形成能が弱く、フィラグリン合成量を高めて皮膚恒常性を改善できる効果が得られるまでに時間を要することやフィラグリンの合成能力に劣ることなどの欠点を有していた。
【特許文献1】特開2001−261568号公報
【特許文献2】特開2002−20225号公報
【特許文献3】特開2002−363054号公報
【特許文献4】特開2003−146886号公報
【特許文献5】特開2005−15347号公報
【特許文献6】特開2002−201125号公報
【特許文献7】特開2002−302444号公報
【特許文献8】特表2002−506805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、安全かつ容易にフィラグリン合成促進作用を発揮することができるフィラグリン合成促進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、特定の糖脂質が、優れたフィラグリン合成促進作用を有することを見出した。更に、本発明者らは、上記特定の糖脂質が、紫外線による皮膚傷害を緩和する作用をも発揮し得ることを見出した。本発明は、以上の知見に基づき完成された。
即ち、上記目的を達成する手段は、以下の通りである。
[1] 下記一般式(I)で示される糖脂質を有効成分として含有することを特徴とするフィラグリン合成促進剤。
【化1】

[式中、R1およびR2はそれぞれ独立して、炭素数8〜30の飽和または不飽和アルキル基を表し;
Yはカチオンを表し;
Xは炭素数3〜9のアルキレン基、炭素数3〜9のアルキレンオキシ基、または炭素数3〜9のアルキルアミノ基を表し;
3は糖類残基を表す。]
[2] 下記一般式(I)で示される糖脂質を有効成分として含有することを特徴とする、紫外線による皮膚傷害緩和剤。
【化2】

[式中、R1およびR2はそれぞれ独立して、炭素数8〜30の飽和または不飽和アルキル基を表し;
Yはカチオンを表し;
Xは炭素数3〜9のアルキレン基、炭素数3〜9のアルキレンオキシ基、または炭素数3〜9のアルキルアミノ基を表し;
3は糖類残基を表す。]
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フィラグリン合成を顕著に促進し得るフィラグリン合成促進剤を提供することができる。
更に、本発明によれば、紫外線による皮膚傷害を緩和し得る紫外線傷害緩和剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[フィラグリン合成促進剤]
本発明のフィラグリン合成促進剤は、下記一般式(I)で示される糖脂質を有効成分として含有する。
【化3】

【0011】
一般式(I)中、R1およびR2はそれぞれ独立して、炭素数8〜30の飽和または不飽和アルキル基を表す。R1およびR2は、同じであっても異なっていてもよいが、R1とR2とが同じであることが好ましい。不飽和アルキル基としては、1〜5個の二重結合を含む不飽和アルキル基を挙げることができる。アルキル基の炭素数の範囲は、12〜20であることが好ましい。また、不飽和アルキル基に含まれる不飽和結合の数は、1〜3の範囲であることが好ましい。上記アルキル基の具体例としては、−(CH27CH=CH(CH27CH3や―C1531などの構造式を有するものが望ましい。
【0012】
一般式(I)中、Yは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンおよび置換アンモニウムイオン、であることができ、中でも、アルカリ金属イオンであることが好ましい。
【0013】
一般式(I)において、Xは炭素数3〜9のアルキレン基、炭素数3〜9のアルキレンオキシ基、または炭素数3〜9のアルキルアミノ基を表す。Xの炭素数は、4〜7の範囲であることが好ましい。Xは、具体的には、―C612−、―(CH2)NH(CH22−、―(CH22−0−(CH22−O−(CH22などの構造式を有するものが望ましい。
【0014】
一般式(I)において、R3は、糖類残基を表す。R3は、単糖類、二糖類、少糖類または多糖類であることができ、具体例としては、ラクトース、プリメベロース、ゲンチオビオース、ニゲロース、マンノース、ガラクトース、グルコース、フコース、シアル酸、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、マルトースなどを挙げることができる。中でも、優れたフィラグリン合成促進効果を得るためには、R3がラクトースであることが好ましい。
【0015】
前記一般式(I)で示される糖脂質の具体例としては、以下の化合物を挙げることができる。
1,2−ジパルミトイル−ホスファチジルヘキシルβラクトシド;
1,2−ジオレオイルホスファチジルヘキシルβラクトシド;
1,2−ジパルミトイルホスファチジルエチルアミノエトキシβラクトシド;
1,2−ジオレオイルホスファチジルエチルアミノエトキシβラクトシド;
1,2−ジパルミトイルホスファチジルトリエチレングリコリルβラクトシド。
また、前記一般式(I)で示される糖脂質の具体例としては、上記各例示化合物において、βラクシドをグルコシド、マンノシド、ガラクトシド、フラクトシド、アラビノシド、N−アセチルグルコサミニド、N−アセチルガラクトサミニド、グルコサミニド、ガラクトサミニド、フコシド、キシロシド、ゲンチオリゴシド、プリメベロシド、マルトオリゴシド、イソマルトオリゴシド、ガラクトオリゴシド、フラクトオリゴシド、ニゲロオリゴシド、マンノオリゴシドなどにした化合物を挙げることもできる。
【0016】
一般式(I)で示される糖脂質を合成する方法は、特に限定されない。例えば、化学合成法、酵素合成法を用いることができる。化学合成法を用いる場合には、下記一般式(II):
【化4】

(一般式(II)中、R1、R2、XおよびYは一般式(I)と同様である。)
で示されるリン脂質とアルコールとの間のカップリングにより一般式(I)で示される糖脂質を得ることができる。化学合成法の詳細については、特表平8−507544号公報を参照できる。
【0017】
酵素合成法を用いる場合は、下記一般式(III):
【化5】

で示される糖脂質を受容体基質として、下記一般式(IV):
【化6】

で示されるリン脂質誘導体を供与体基質として、ホスホリパーゼDの転移反応によって、一般式(I)で示される糖脂質を得ることができる。酵素合成法の詳細については、特開2004−256375号公報を参照することができる。
【0018】
本発明のフィラグリン合成促進剤は、次のような作用を発揮することができる。
本発明のフィラグリン合成促進剤は、皮膚の保湿に関与するフィラグリンの合成を促進することができる。本発明のフィラグリン合成促進剤は、フィラグリン遺伝子の発現を促進することにより、フィラグリンの合成を促進すると推定される。
本発明のフィラグリン合成促進剤は、フィラグリン合成促進作用を通じ、フィラグリンによるケラチンフィラメントの凝集を誘導し、これによって角質細胞の内部構造を構築し、角質層の保湿機能を改善し、角質層柔軟化作用を発揮することができる。更に、本発明のフィラグリン合成促進剤は、フィラグリン合成促進作用を通じ、天然保湿因子の主体をなす角質層のアミノ酸量を増加させることができ、これにより保湿効果を発揮することができる。更に、上記のように角質層のアミノ酸量を増加させることにより、乾皮症、アトピー性皮膚炎、肌荒れ等角質層のアミノ酸量の低下が原因となって発症する皮膚疾患を予防、改善することができる。
【0019】
本発明は、更に、前記一般式(I)で示される糖脂質を有効成分として含有することを特徴とする、紫外線による皮膚傷害緩和剤(以下、「紫外線傷害緩和剤」という)にも関する。
本発明の紫外線傷害緩和剤は、前記一般式(I)で示される糖脂質を有効成分として含み、紫外線による皮膚、特に角質層のダメージを緩和することができる。
本発明の紫外線傷害緩和剤についての一般式(I)中のR1、R2、R3、X、Yの詳細は、先に記載の通りである。
【0020】
本発明のフィラグリン合成促進剤および紫外線傷害緩和剤は、ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、粉末剤、顆粒剤等の種々の剤型で提供することができる。本発明のフィラグリン合成促進剤および紫外線傷害緩和剤には、油性成分、界面活性剤、保湿剤、顔料、紫外線吸収剤、抗酸化剤、香料、防菌防黴剤等の一般的な医薬品及び化粧料用原料や、抗炎症剤等の生理活性成分を含有させることができる。
【0021】
本発明のフィラグリン合成促進剤および紫外線傷害緩和剤における前記糖脂質の配合量は、製剤の種類や目的等によって調整することができる。好適な配合量は、皮膚外用剤として用いる場合には、全量に対して、0.00001〜1質量%、より好ましくは0.001〜0.1質量%である。皮膚外用剤としての適用方法は、外用剤の種類等に応じて適宜選択することができる。一般的に、ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤として調製された外用剤を適用する場合には、顔や腕等の皮膚に対し、1日1〜2回程度塗布することが望ましい。本発明のフィラグリン合成促進剤を塗布することにより、フィラグリンの合成が促進され、肌荒れや老化防止等の効果を得ることができる。
【0022】
本発明のフィラグリン合成促進剤および紫外線傷害緩和剤を粉末剤、顆粒剤等の経口投与薬として用いる場合、前記糖脂質の好適な配合量は、全量に対して0.00001〜1質量%、より好ましくは0.001〜0.1質量%である。経口投与薬としての投与量は、被投与者の年齢、肌状態等の条件に応じて適宜選択することが可能である。投与量は、例えば、成人一日あたり0.02〜200mg(有効成分量として)の範囲である。但し、上記の投与量は上記の条件に応じて適宜増減することができる。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。

合成例1:1,2−ジパルミトイル−ホスファチジルヘキシルβラクトシド(Lac−DPPA)の酵素合成
(1)トリコデルマ・リーセイ(Tricoderma reesei)起源セルラーゼの縮合反応を用いた6-ヒドロキシヘキシル−β−ラクトシド(Lac β-HD)の合成
基質としてラクトース(6.2 g、18.0 mmol)と1,6-ヘキサンジオール(2.4 g、20.0 mmol)を50 mM 酢酸ナトリウム緩衝液 pH5.0 (20.0 ml)に溶解し、トリコデルマ・リーセイ(Tricoderma reesei)起源の粗セルラーゼ (90.0 U)を加えて反応を開始した。反応液を激しく振とうし、40℃で118時間反応後、100℃、10分間の煮沸により反応を停止した。反応の終点はTLCで確認した。反応液を遠心分離し (8,000 rpm×30 min)、その上清を予め10%EtOHで平衡化した活性炭-セライトクロマトグラフィー(Φ5.0×45 cm)に供し、流速5.0 ml/minにおいて非吸着部を10%EtOH (5,000 ml)で洗浄後、10% (3,000 ml)-50% (3,000 ml)のエタノール直線濃度勾配法により吸着部を溶出した。各試験管に45 mlずつ分取後、各画分をフェノール硫酸法により中性糖に由来する485 nmの吸光度を測定した。目的画分を濃縮、凍結乾燥し、Lac β-HDを得た (389.0 mg、5.1%/ラクトース)。
【0024】
(2)ストレプトミセス属(Streptomyces sp.)起源ホスホリパーゼDによる1,2-ジパルミトイル-ホスファチジルヘキシルβ-ラクトシド(Lac-DPPA)の酵素合成
受容体基質Lac β-HD (146 mg, 0.3 mmol)を6.8 mM CaCl2を含む40 mM酢酸ナトリウム緩衝液pH5.5 (0.7 ml)に溶解し、そこにCHCl3 (3.0 ml)に溶解した供与体基質1,2-ジパルミトイル-ホスファチジルコリン(DPPC)(484 mg、0.7 mmol)を加えてスターラーバーで激しく撹拌した。この白濁した溶液に同緩衝液に溶解したストレプトミセス属(Streptomyces sp.)起源ホスホリパーゼD (57.0 U)を加えて室温で反応を開始した。スターラーバーで激しく撹拌しながら反応を継続し、反応開始4時間後、64時間後にそれぞれストレプトミセス属(Streptomyces sp.)起源ホスホリパーゼD(57.0 U)を加え、さらに16時間反応を継続した(計80時間)。反応の終点はTLCで確認した(展開溶媒:CHCl3/CH3OH/H2O (6/4/1)、呈色試薬:オルシノール硫酸、Dittmer試薬)。反応液に6.0 mlのCH3OHを加え、遠心分離し(12,000 rpm×20 sec)、その上清を予めCHCl3/CH3OH/H2O (30/60/8)で平衡化したSep-Pak Accell QMA (10 ml)カラムクロマトグラフィーに供した。非吸着部をCHCl3/CH3OH/H2O (30/60/8, 140 ml)で洗浄後、段階的にCHCl3/CH3OH//0.2, 0.4, 1.0 M CH3COONa (30/60/8、それぞれ100, 160, 100 ml)で吸着部を溶出した。各試験管に20 mlずつ分取して、各画分をTLCで分析した結果、非吸着部には未反応のDPPC、Lac β-HDおよびカラムに保持できなかった転移生成物および加水分解物が、吸着部には転移生成物および加水分解物が溶出した。TLCの結果から、目的画分を濃縮した。更に、1回目の操作で非吸着部に溶出した生成物を同カラムクロマトグラフィーに供し、目的画分を濃縮した。これを1回目の吸着部と合わせて濃縮、乾固した。この画分をCHCl3/CH3OH/H2O (5/5/1, 2.0 ml)に溶解し、予め同溶媒で平衡化したSephadex LH-20カラムクロマトグラフィー(20 ml)に供し脱塩を行った。各試験管に2 mlずつ分取して各画分をTLC上にスポットし、オルシノール硫酸陽性画分を濃縮、乾固した。更に、これを予めCHCl3/CH3OH/H2O (6/4/0.5)で平衡化したSilicagel 60Nカラムクロマトグラフィー(Φ2.5×50 cm)に供した。流速5.0 ml/minにおいて100 mlの同溶媒で溶出し、各試験管に10 mlずつ分取してTLCで分析し、目的画分を濃縮した。更に1回目の操作で分離できなかった目的画分を回収して同カラムクロマトグラフィーに供し、目的画分を濃縮した。これを1回目の目的画分と合わせて濃縮、乾固し、Lac-DPPAを得た (94.3 mg, 26.6%/acceptor)。
【0025】
合成例2:1,2−ジオレオイルホスファチジルヘキシルβラクトシド(Lac−DOPA)の酵素合成
供与体基質として1,2−ジオレイル−ホスファチジルコリン(DOPC)490mgを用いた以外は合成例1と同様の操作を行い、Lac−DOPAを97.3mg得た。
【0026】
合成例3:1,2−ジパルミトイルホスファチジルエチルアミノエトキシβラクトシド(Lac−PEDP)の酵素合成
1,6−ヘキサンジオールに代えて、アリルアルコール3.5gを用いた以外は合成例1と同様の操作を行い、アリルβ−ラクトシドを得た。得られたアリルβラクトシドをオゾン分解することにより、アルデヒド体を得た。次いで、このアルデヒド体と1,2−ジパルミトイル−ホスファチジルコリン(DPPC)とのシッフアミノ還元反応により、Lac−PEDPを50mg得た。
【0027】
合成例4:1,2−ジオレオイルホスファチジルエチルアミノエトキシβラクトシド(Lac−PEDO)の酵素合成
1,6−ヘキサンジオールに代えて、アリルアルコールを用いた以外は合成例1と同様の操作を行い、アリルβ−ラクトシドを得た。得られたアリルβラクトシドをオゾン分解することにより、アルデヒド体を得た。次いで、このアルデヒド体と1,2−ジオレイル−ホスファチジルコリン(DOPC)とのシッフアミノ還元反応により、Lac−PEDOを55mg得た。
【0028】
合成例5:1,2−ジパルミトイルホスファチジルトリエチレングリコリルβラクトシド(Lac3EG−DPPA)の酵素合成
1,6−ヘキサンジオールに代えて、トリエチレングリコール3.0gを用いた以外は合成例1(1)と同様の操作を行い、トリエチレングリコリルβ−ラクトシドを得た。次いで、受容体基質としてヒドロキシヘキシルβ−ラクトシドに代えてトリエチレングリコリルβ−ラクトシドを用いた以外は合成例1(2)と同様の操作を行い、Lac3EG−DPPA12mgを得た。
【0029】
実施例1:フィラグリン合成促進作用評価
合成例1〜5で得られた5種の糖脂質のフィラグリン合成促進作用を、以下に示すようにフィラグリン(Filaggrin)mRNAの発現量変化をreverse-transcription polymerase chain reaction (RT-PCR)によって検出することにより評価した。コントロールのハウスキーピング遺伝子としてシクロフィリン(Cyclophilin)を用いた。
ヒト表皮細胞を、5×104 cells /wellの細胞密度でHuMedia KG2を用いて35 mm培養ディッシュに播種した。4日間培養後、所定の濃度の試料を含むウシ脳下垂体抽出物非含有KG2培地に交換し、2日間培養した。細胞をPBS(-) にて洗浄した後、500μLのTRIzol(登録商標)試薬を用いて細胞を破砕した。100μLのクロロホルムを添加して、十分に混和した後、遠心操作によって上清の水層を得、2-プロパノール沈殿法にてTotal RNAを得た。得られたRNAを冷75 %エタノールで洗浄した後、DEPC水に溶解してRT-PCRに供した。
RT-PCRはRNA 1μgを用いてQiagen One step RT-PCRキットにてそのプロトコールに従って実施した。用いたプライマーと反応条件を表1に示し、結果を表2に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表2に示すように、すべての試験試料処理により、フィラグリンmRNAの有意な発現促進作用が認められ、その作用はLac3EG-DPPAが最も高かった。フィラグリン遺伝子に対して発現促進作用が認められたことより、一般式(I)で示される糖脂質が、特定の遺伝子群の発現についての調節因子として機能することによりフィラグリン合成を促進することが示唆される。
【0033】
実施例2:紫外線傷害緩和作用評価
合成例2〜5で得られた4種の糖脂質の紫外線傷害緩和作用を、以下の方法によって評価した。
ヒト表皮細胞をHumedia KG2を用いて96穴マイクロプレートにほぼコンフルエントになるように播種した。播種24時間後に所定の濃度の試料を含有したHank's buffered solution (Ca2+, Mg2+無含有;HBS(-))に交換した。東芝FL-SEランプを光源とする紫外線B波(UVB)を所定エネルギーにて細胞に照射した。コントロール細胞はアルミ箔にてカバーしUVBを遮蔽した。照射後、HBS(-)をKG2に交換し、細胞を24時間培養した。次に細胞を20μg/mL neutral red (NR)含有KG2にて2時間培養した。生細胞が取り込んだNRの量は、30 %エタノール含有0.1N HCl溶液を用いて溶解した細胞溶解液を550nmでの吸光度を測定することにより求めた。細胞の生存率はコントロール細胞(UVB未照射細胞)の吸光度を100とした百分率として表した。統計処理はStudent t検定を用いた有意差検定を行った。結果を表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
表3に示す20 mJ/cm2 UVBの欄に記載の値は、UVB照射・試料処理の吸光度データを、UVB未照射・試料処理の吸光度データにて除して補正した値である。よって、これら値は、試料処理による細胞増殖や毒性によるデータの変化ではなく、純粋にUVB傷害に対する生存率変化のみを反映する。その結果、すべての試験試料処理により、処理濃度依存的なUVB傷害に対する有意な細胞生存率の増加が認められた。以上の結果から、一般式(I)で示される糖脂質は、UVB傷害に対する緩和作用を有することが示される。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のフィラグリン合成促進剤は、フィラグリン合成を促進することにより、角質層アミノ酸量増加効果、保湿効果等の優れた効果を発揮することができる。
本発明の紫外線傷害緩和剤は、紫外線による皮膚傷害を緩和することにより、皮膚の老化や肌荒れを防止することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される糖脂質を有効成分として含有することを特徴とするフィラグリン合成促進剤。
【化1】

[式中、R1およびR2はそれぞれ独立して、炭素数8〜30の飽和または不飽和アルキル基を表し;
Yはカチオンを表し;
Xは炭素数3〜9のアルキレン基、炭素数3〜9のアルキレンオキシ基、または炭素数3〜9のアルキルアミノ基を表し;
3は糖類残基を表す。]
【請求項2】
下記一般式(I)で示される糖脂質を有効成分として含有することを特徴とする、紫外線による皮膚傷害緩和剤。
【化2】

[式中、R1およびR2はそれぞれ独立して、炭素数8〜30の飽和または不飽和アルキル基を表し;
Yはカチオンを表し;
Xは炭素数3〜9のアルキレン基、炭素数3〜9のアルキレンオキシ基、または炭素数3〜9のアルキルアミノ基を表し;
3は糖類残基を表す。]


【公開番号】特開2006−241095(P2006−241095A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60559(P2005−60559)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【出願人】(000216162)天野エンザイム株式会社 (26)
【出願人】(000231453)日本食品化工株式会社 (68)
【Fターム(参考)】