説明

フィラメントワインディング用炭素繊維束の製造方法

【課題】 用いる炭素繊維強度が、得られるフィラメントワインド成形体の強度に十分反映するフィラメントワインディング用炭素繊維束を提供する。
【解決手段】 未サイジングの炭素繊維束を連続的にサイジング浴に浸漬することにより前記炭素繊維束にサイズ剤を含浸させ、次いで前記サイズ剤を含浸させた炭素繊維束を表面温度120〜140℃のヒートローラーに15〜30秒間接触させることを特徴とする、断面形状が偏平な炭素繊維束であって、炭素繊維束断面の偏平率(幅/厚さ)が40〜90、ドレープ値が50〜100mmで、かつ実質的に撚りがないサイジング処理済フィラメントワインディング用炭素繊維束の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラメントワインディング(FW)用炭素繊維束の製造方法に関し、さらに詳述すれば、特にマンドレルに巻く際にマンドレル面に十分密着して拡がり、製造する複合材料の強度に繊維強度を反映できる、炭素繊維の強度寄与率の高い複合材料の製造に適したFW用炭素繊維束の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は他の繊維と比較し、強度や弾性率が高く、軽いという特徴を有するため、航空宇宙産業を始めとし、各種の産業に利用されている。これらの用途の中で、例えば天然ガス自動車等の燃料用ボンベは軽量、高強度を要求されるものであり、従来炭素繊維を補強材とするFW法により製造されている。
【0003】
FW法に用いられる炭素繊維束は、FW成形されて製品になるものである。従って、生産工程における取り扱い要求性能を炭素繊維束が満たしていることも重要であり、具体的には耐毛羽性、耐擦過性、耐糸切れ性等が要求性能として例示される。
【0004】
従来、炭素繊維束にこれらの要求性能を付与させるため、炭素繊維束にサイズ剤を添加する方法が提案されている(特開昭62−299580号公報、特公平1−46636号公報、特公昭57−49675号公報)。しかし、FW法においては、その生産工程において各種固定ガイドやローラーとの擦過の問題等があり、上記のサイズ剤の添加のみで、発生する問題の全てを克服することは困難である。
【0005】
特許第3047731号公報には、ストランド引張強度が400kgf/mm、糸切れ限界張力0.2g/D以上、引掛強度100kgf/mm以上のFW成形用炭素繊維が記載されている。この炭素繊維はFW成形に際し、毛羽立ち、糸切れが少なく、繊維性能を複合材の特性に反映できるものであると記載されている。また、特開平8−158163号公報には、合糸されてなり、かつ糸割れ率40%以下である実質的に無撚の炭素繊維束が記載され、この繊維束はFW成形において成形コストが削減でき、ハンドリング性、樹脂含浸性が向上された炭素繊維束であることも記載されている。
【0006】
一方、特開平9−217281号公報には熱硬化性樹脂と硬化剤とを主成分とするサイズ剤を0.5〜5質量%含浸させた剛軟度が20〜100mmのチョップドストランド用炭素繊維束が記載されている。しかし、このものは押し出し成形用の炭素繊維束であり、FW成形用のものではない。
【0007】
また、特開平7−314443号公報には形態安定化剤が0.5〜10質量%添加され、剛軟度が20〜150mmの炭素繊維織物が開示されている。そして、剛軟度が小さい場合、織物が剛直で織物のドレープ性が低下することが記載されている。しかし、このものもFW成形用の炭素繊維束ではない。
【0008】
即ち、上記従来の公報中には、FW成形に適した形状、組成等を総合的に検討した炭素繊維束に関する記載はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者等は、FWに適した炭素繊維束を開発することを目的として種々検討しているうちに、炭素繊維束の断面形状とドレープ値の両要素が、FWに適する特性を炭素繊維束に与える際の決定的に重要な要素になっていることを知得した。本発明は上記発見に基づき完成するに至ったもので、その目的とするところは、上記問題を解決するFW用炭素繊維束を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載のものである。
【0011】
〔1〕 未サイジングの炭素繊維束を連続的にサイジング浴に浸漬することにより前記炭素繊維束にサイズ剤を含浸させ、次いで前記サイズ剤を含浸させた炭素繊維束を表面温度120〜140℃のヒートローラーに15〜30秒間接触させることを特徴とする、断面形状が偏平な炭素繊維束であって、炭素繊維束断面の偏平率(幅/厚さ)が40〜90、ドレープ値が50〜100mmで、かつ実質的に撚りがないサイジング処理済フィラメントワインディング用炭素繊維束の製造方法。
【0012】
〔2〕 サイズ剤の含浸量が0.1〜10質量%である〔1〕に記載のサイジング処理済フィラメントワインディング用炭素繊維束の製造方法。
【0013】
〔3〕 炭素繊維束を構成する単繊維数が1000〜100000本である〔1〕に記載のサイジング処理済フィラメントワインディング用炭素繊維束の製造方法。
【0014】
〔4〕 炭素繊維束を構成する単繊維の繊度が0.8dtex以下である 〔1〕に記載のサイジング処理済フィラメントワインディング用炭素繊維束の製造方法。
【0015】
〔5〕 〔1〕に記載の製造方法で製造したサイジング処理済フィラメントワインディング用炭素繊維束に熱硬化性樹脂を15〜45質量%含浸させることを特徴とする熱硬化性樹脂含浸フィラメントワインディング用炭素繊維束の製造方法。
【0016】
〔6〕 熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である〔5〕に記載の熱硬化性樹脂含浸フィラメントワインディング用炭素繊維束の製造方法。
【0017】
〔7〕 〔5〕に記載の製造方法で製造した熱硬化性樹脂含浸フィラメントワインディング用炭素繊維束を、フィラメントワインディング装置を用いて成型することを特徴とするフィラメントワインディング成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
従来のサイジング処理済FW用炭素繊維束の偏平率が10〜40で、ドレープ値が110以上であるところ、本発明においてはサイジング処理済FW用炭素繊維束の偏平率を40〜90、ドレープ値を50〜100mmにしたので、本発明の熱硬化性樹脂含有FW用炭素繊維束はFW成形する際にマンドレル等に十分広がり、均質な成形体を与える。このため、本発明熱硬化性樹脂含有FW用炭素繊維束を用いて製造する成形体は、炭素繊維束の本来有する強度等の性能を十分反映した高性能のものである。
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のサイジング処理済FW用炭素繊維束は、炭素繊維を1000〜100000本束ねて、サイズ剤を含浸させたもので、所定の偏平率及びドレープ値を有する。
【0021】
前記炭素繊維束を構成する炭素繊維は、原料としては特に限定するものではないが、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維等が例示できる。これらの炭素繊維のうち、取り扱い性能、製造工程通過性能に適したPAN系炭素繊維が特に好ましい。ここで、PAN系炭素繊維は、アクリロニトリル構造単位を主成分とし、イタコン酸、アクリル酸、アクリルエステル等のビニル単量体単位を10モル%以内で含有する共重合体を炭素繊維化したものである。
【0022】
前記炭素繊維束を構成する炭素繊維の単繊維繊度は、0.8dtex以下が好ましく、0.2〜0.8dtexがより好ましく、0.3〜0.7dtexが更に好ましい。繊度が0.8dtexを越える場合は前駆体であるプリカーサーの緻密性が低下し、炭素繊維の毛羽が多発するので好ましくない。
【0023】
本発明のサイジング処理済FW用炭素繊維束は、炭素繊維束の繊維方向に直交する断面形状が略楕円形乃至は略紡錘形であり、下記式(1)で示す偏平率が40〜90のものが好ましく、50〜90のものがより好ましい。
【0024】
偏平率=炭素繊維束の幅/炭素繊維束の厚さ (1)

偏平率が40未満の場合、後述する熱硬化性樹脂含浸FW用炭素繊維束を製造する際に樹脂の含浸量が極端に減少し、これを用いて製造する成形体の強度等の特性が著しく低下する。また、90を越えるサイジング処理済FW用炭素繊維束はその製造が困難である。
【0025】
本発明のサイジング処理済FW用炭素繊維束は、その剛軟度を示すドレープ値が50〜100mmであることが好ましく、50〜80がより好ましい。
【0026】
本発明においては、ドレープ値は以下の定義による。
【0027】
即ち、図1に示すように、長さ200mmに切取ったサイジング処理済FW用炭素繊維束2を水平な試験台4の上面に置き、炭素繊維束2の先端6から150mmの部分を空中に突出す。3分間経過時に、試験台4の上面から垂直方向に100mm垂下したFW用炭素繊維束2の部分と試験台4との水平距離Xを読取り、この値をドレープ値(mm)とする。なお、測定温度は23±2℃である。
【0028】
炭素繊維束は実質的に撚りがないものが好ましい。ここで、実質的に撚りがないとは、1m当たりの撚り回数が1回以下のものをいう。
【0029】
サイジング処理済FW用炭素繊維束に熱硬化性樹脂を含浸させることにより、本発明の熱硬化性樹脂含浸FW用炭素繊維束が得られる。
【0030】
本サイジング処理済FW用炭素繊維束に含浸する樹脂としては、特にエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、特に制限が無く、サイジング処理済FW用炭素繊維束に含浸させる樹脂として通常市販されているものが適宜使用できる。
【0031】
エポキシ樹脂の硬化剤も特に制限が無く、酸無水物系やアミン等、通常市販されているものが適宜使用できる。
【0032】
サイジング処理済FW用炭素繊維束に含浸させる熱硬化性樹脂の種類及び含浸量は通常15〜45質量%であり、25〜35質量%がより好ましい。
【0033】
上記本発明のサイジング処理済FW用炭素繊維束は、通常のフィラメントワインド装置を用いて常法により所望のFW成形体を製造することができる。
【0034】
次に、本発明の熱硬化性樹脂含浸FW用炭素繊維束を製造する方法に付き、説明する。
【0035】
出発原料の炭素繊維束は未サイジングの炭素繊維束で、これを構成する炭素繊維の性質、繊度等は前述の通りである。通常、未サイジングの炭素繊維束を連続的にサイジング浴に浸漬し、炭素繊維束にサイズ剤を含浸させる。その後、ローラー等で余分のサイズ剤を除去した後、乾燥してサイジング処理済FW用炭素繊維束を得るが、この乾燥処理の前後で炭素繊維束の搬送路に少なくとも一対の成形用ローラー等を設けて、炭素繊維束を前記一対のローラーの間を通過させることにより押圧して、繊維束を上記偏平率に成形することが好ましい。また、工程中に、少なくとも一対のヒートローラーを設け、炭素繊維束を前記一対のヒートローラーの間を通過させることにより押圧すると共に、このヒートローラーの温度、接触時間を調節することより、このヒートローラと接触する炭素繊維束の偏平率及びドレープ値を調節する方法が好ましい。
【0036】
ヒートローラーの表面温度が低く、接触時間が短くなるに従い、サイジング処理済FW用炭素繊維束の偏平率が小さくなり、ドレープ値は大きくなる。
【0037】
ヒートローラーの温度を高くしすぎると、サイズ剤の熱変質、分解等が生じ好ましくない。
【0038】
サイズ剤の含浸量は、0.1〜10質量%が好ましく、0.2〜4質量%がより好ましい。サイズ剤としては、エポキシ系樹脂等の公知のサイズ剤を用いる事が出来る。
【0039】
炭素繊維束のストランド引張強度は、4000MPa以上が好ましく、4500MPa以上がより好ましい。
【0040】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【実施例】
【0041】
(偏平率の測定)
長さ40mmのサイジング処理済FW用炭素繊維束を10個用意し、光学測定装置(株式会社キーエンス製、商品名 センサーヘッドVG−035、コントローラVG−300)を用いて各炭素繊維束の幅、厚みを測定し、得られた測定値の平均値を算出した。この平均値を使用して、サイジング処理済FW用炭素繊維束の偏平率を前記式(1)を用いて算出した。
【0042】
(ドレープ値)
前述の方法によった。
【0043】
(リング引張試験)
引張試験は、ASTM−D−2290−92に準拠した。測定温度は22±2℃であった。
【0044】
実施例1〜4、比較例1〜2
未サイジングの炭素繊維束(東邦レーヨン(株)製 商品名ベスファイト、ストランド強度4800Mpa、伸度 2%、24000フィラメント、繊度0.68dtex)を、連続的にサイジング浴(4質量%水エマルジョン)に浸漬した後、ローラーにより余分の水分を除去した。
【0045】
次いで、表面温度120〜140℃のヒートローラー(直径300mm、梨地仕上げ)に前記水分を除去した炭素繊維束を15〜30秒間接触させて乾燥し、連続的にサイジング処理して断面形状が楕円形の偏平な炭素繊維束を得た。サイズ剤の含浸量は1.5質量%であった。
【0046】
サイズ剤は、エピコートEP828/EP1001(共に油化シェルエポキシ(株)社製、ビスフェノールA系エポキシ樹脂)/EPU6(旭電化(株)社製)=35/55/10重量部のものであった。
【0047】
サイズ剤と併用した乳化剤は、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル(商品名 サミット723)で、これをサイズ剤の100重量部に対して10重量部使用した。
【0048】
次ぎに、エポキシ樹脂として、油化シェルエポキシ(株)社製エピコート828(商品名)を100質量部、硬化剤として日立化成(株)社製カヤハードを90質量部、硬化促進剤として四国化成工業(株)社製イミダゾールを1質量部を混合してFW用炭素繊維束含浸用樹脂組成物を得た。
【0049】
フィラメントワインド装置を用いるキスタッチ方式で、前記製造したサイジング処理済FW用炭素繊維束に上記含浸用樹脂組成物を22質量%含浸させることにより本発明の熱硬化性樹脂含浸FW用炭素繊維束を製造した。
【0050】
上記連続的に製造した熱硬化性樹脂含浸FW用炭素繊維束を、続けて連続的に直径350mmのマンドレルに巻取り、内径350mm、幅18.5mm、厚さ1.1mmの円筒状試験片を作製した。120℃で2時間加熱して硬化させた後、引張試験に供した。引張試験の結果を表1に示した。
【0051】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明で定義するドレープ値の測定方法の説明図である。
【符号の説明】
【0053】
2 サイジング処理済FW用炭素繊維束
4 試験台
6 先端
X 水平距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未サイジングの炭素繊維束を連続的にサイジング浴に浸漬することにより前記炭素繊維束にサイズ剤を含浸させ、次いで前記サイズ剤を含浸させた炭素繊維束を表面温度120〜140℃のヒートローラーに15〜30秒間接触させることを特徴とする、断面形状が偏平な炭素繊維束であって、炭素繊維束断面の偏平率(幅/厚さ)が40〜90、ドレープ値が50〜100mmで、かつ実質的に撚りがないサイジング処理済フィラメントワインディング用炭素繊維束の製造方法。
【請求項2】
サイズ剤の含浸量が0.1〜10質量%である請求項1に記載のサイジング処理済フィラメントワインディング用炭素繊維束の製造方法。
【請求項3】
炭素繊維束を構成する単繊維数が1000〜100000本である請求項1に記載のサイジング処理済フィラメントワインディング用炭素繊維束の製造方法。
【請求項4】
炭素繊維束を構成する単繊維の繊度が0.8dtex以下である請求項1に記載のサイジング処理済フィラメントワインディング用炭素繊維束の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の製造方法で製造したサイジング処理済フィラメントワインディング用炭素繊維束に熱硬化性樹脂を15〜45質量%含浸させることを特徴とする熱硬化性樹脂含浸フィラメントワインディング用炭素繊維束の製造方法。
【請求項6】
熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である請求項5に記載の熱硬化性樹脂含浸フィラメントワインディング用炭素繊維束の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の製造方法で製造した熱硬化性樹脂含浸フィラメントワインディング用炭素繊維束を、フィラメントワインディング装置を用いて成型することを特徴とするフィラメントワインディング成形体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−252264(P2011−252264A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168688(P2011−168688)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【分割の表示】特願2001−99966(P2001−99966)の分割
【原出願日】平成13年3月30日(2001.3.30)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】