説明

フィルター及びフィルター装置

【課題】圧力損失が小さく、吸着効率の高いフィルター及びフィルター装置を提供する。
【解決手段】導電性を有する基材1と、基材1の少なくとも片面に植毛された導電性を付与した高分子繊維からなる導電繊維糸2とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば空気清浄器等に使用されるフィルター及びフィルター装置に関するものであり、特に、導電性のフィルター及びフィルター装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、室内の空気中に含まれる粉塵を除去する空気清浄器に、例えば、導電繊維を混合させた集塵フィルターを用いたものがある。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された空気清浄器は、図6に示すように、放電極101と対向電極102との間での放電により活性酸素を発生させて粉塵に電荷を付与する放電極ブロック110と、放電極ブロック110よりも下流側に配置されて上記活性酸素で励起された臭気物質の酸化分解を促進させる酸化触媒111と、粉塵を捕捉する集塵フィルター112と、脱臭フィルター113とを備えている。上記集塵フィルター112は、帯電処理が施された活性炭繊維からなる導電繊維を混合した濾材を備えてなっている。
【0004】
これにより、上記空気清浄器では、集塵フィルター112にて、放電極ブロック111で電荷が付与された粉塵をクローン力で電気的に捕捉できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−486号公報(2000年1月7日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の特許文献1に開示された集塵フィルターは、濾材として繊維を布又は不織布にした濾布等を用いたフィルターであるので、その繊維に導電繊維を混合したとしても、所詮、シート状の2次元的なフィルターであることには変わりがない。
【0007】
この結果、空気は平面のフィルターを通過するだけであるので、そのフィルターは、メッシュよりも大きい粉塵等を通過させないことにより有害物質等を除去するという性質が強い。したがって、空隙率が低く、空気の流通抵抗が大きく、目詰まりも早いという問題点を有している。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、圧力損失が小さく、吸着効率の高いフィルター及びフィルター装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフィルターは、上記課題を解決するために、導電性を有する基材と、該基材の少なくとも片面に植毛された導電性を付与した高分子繊維からなる糸とを有していることを特徴としている。
【0010】
上記の発明によれば、フィルターは、基材に植毛されたブラシ形状の高分子繊維からなる糸を有している。したがって、ブラシ毛である糸の間を、有害物質等を含む空気が通過するという3次元のフィルターとなっている。この結果、濾紙や繊維を布にした濾布を用いた従来の2次元のフィルターに比べて、空隙率が高く、かつ空気の接触する糸の表面積が大きいものとなる。
【0011】
そして、高分子繊維には導電性が付与されているので、例えば、高分子繊維に電圧を印加することにより、帯電した有害物質を静電的に吸着除去することができる。
【0012】
この結果、帯電した有害物質を含む空気を通過させた場合に、いつまでも目詰まりすることなく、効率よく帯電した有害物質を吸着除去することができる。
【0013】
したがって、圧力損失が小さく、吸着効率の高いフィルターを提供することができる。
【0014】
また、本発明のフィルターでは、前記基材は、高分子繊維からなる縦糸と横糸とを織り込んでなる基布からなっていると共に、前記基材の少なくとも片面に植毛された糸は、上記基布の少なくとも片面に織り込んでなっているパイル糸であることが好ましい。
【0015】
これにより、フィルターを例えばタオル地、又はコール天やビロードのような織物として製造することができる。逆に、パイル織地をフィルターとして使用できることになる。尚、パイル糸の長さと密度については、フィルター用に適宜調整すればよい。
【0016】
したがって、パイル織地の繊維を導電性のものを使用することによって、容易に、圧力損失が小さく、吸着効率の高いフィルターを製造することができる。
【0017】
また、本発明のフィルターでは、前記基材は、2組の前記基布が互いに対向して設けられたものからなっていると共に、前記パイル糸は、上記2組の基布の間で各基布に織り込んでなっているとすることができる。
【0018】
この技術は、パイル織の技術として確立されている。したがって、圧力損失が小さく、吸着効率の高いフィルターをパイル織の技術を用いて容易に製造することができる。
【0019】
また、本発明のフィルターでは、前記導電性を付与した高分子繊維からなる糸の、前記基材とは反対側の対向位置には、対向電極が該糸に接触又は非接触に設けられていることが好ましい。
【0020】
これにより、フィルターに電圧を印加する場合に、一方の導電性の基材と他方の対向電極との間に電圧を容易に印加することができる。
【0021】
本発明のフィルター装置は、上記課題を解決するために、前記記載のフィルターに電圧を印加する電圧印加手段を備えていることを特徴としている。
【0022】
上記の発明によれば、電圧印加手段にて前記記載のフィルターに電圧を印加することができる。
【0023】
この結果、電圧が印加されたフィルターに、帯電された例えば有害物質を通すことによって、帯電された例えば有害物質を静電的に吸着して容易に除去することができる。
【0024】
本発明のフィルター装置は、上記課題を解決するために、前記記載のフィルターが複数組設けられると共に、各組のフィルターにそれぞれ異なる電圧を印加する電圧印加手段を備えていることを特徴としている。
【0025】
上記の発明によれば、前記記載のフィルターを複数個組み合わせたものに対して電圧印加手段にてそれぞれ異なる電圧を印加することができる。
【0026】
これにより、フィルター毎に高低差のある電圧の印加や極性の異なる電圧を印加することが可能となる。
【0027】
したがって、有害物質の帯電量が異なっている場合や、有害物質の帯電の極性が異なっている場合においても、これらの有害物質を容易に静電吸着して除去することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のフィルターは、以上のように、導電性を有する基材と、該基材の少なくとも片面に植毛された導電性を付与した高分子繊維からなる糸とを有しているものである。
【0029】
また、本発明のフィルター装置は、以上のように、前記記載のフィルターに電圧を印加する電圧印加手段を備えているものである。
【0030】
それゆえ、圧力損失が小さく、吸着効率の高いフィルター及びフィルター装置を提供するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a),(b),(c)は、本発明におけるフィルターの実施の一形態を示すものであり、フィルターの構成を示す正面図である。
【図2】(a),(b),(c)は、上記フィルターを用いたフィルター装置の構成を示す模式図である。
【図3】上記フィルター装置の機能を説明するためのフィルターの構成を示す正面図である。
【図4】上記フィルター装置の他の機能を説明するためのフィルターの構成を示す水平断面図である。
【図5】上記フィルター装置のさらに他の機能を説明するためのフィルターの構成を示す正面図である。
【図6】従来の空気清浄基器の構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明のフィルター及びフィルター装置に関する実施の一形態について図1〜図5に基づいて説明すれば以下のとおりである。
【0033】
本実施の形態のフィルター10は、図1(a)(b)(c)に示すように、例えば、3種類のフィルター10a・10b・10cとすることができ、いずれも、導電性を有する基材1と、この基材1の片面に植毛された導電性を付与した高分子繊維からなる導電繊維糸2とを有している。ただし、本発明では、基材1の両面に導電繊維糸2が設けられていてもよい。
【0034】
本実施の形態のフィルター10a・10b・10cでは、基材1は、例えば、高分子繊維からなる縦糸と横糸とによって織り込んでなる基布1aからなっている。ただし、必ずしもこれに限らず、基材1は、導電性を有していれば、金属板、導電性膜を貼り付けた高分子樹脂シート若しくは高分子樹脂フィルム、又は導電性を有する高分子樹脂シートや高分子樹脂フィルムでもよい。
【0035】
また、導電繊維糸2は、基布1の少なくとも片面に織り込んでなっているパイル(毛羽)糸からなっている。尚、パイル(毛羽)糸からなる導電繊維糸2は、このパイル糸を規則的に輪形に浮かせて「輪奈」が作られたループト・パイルであってよく、又は、パイル糸でできた輪奈を適当に切って布面に「毛羽」を起して織り出したカット・パイルであってもよい。ただし、導電繊維糸2は、必ずしも織り込んでいなくても、例えば、カット糸をブラシ形状に植毛したものであってよく、又は静電植毛したものでもよい。
【0036】
ここで、本実施の形態では、フィルター10aは、図1(a)に示すように、2組の導電性を有する基布1a・1bが互いに対向して設けられたものからなっていると共に、パイル(毛羽)糸からなる導電繊維糸2が、上記2組の基布1a・1bの間で該基布1に織り込んでなっているとすることができる。ただし、基布1bは、必ずしもこれに限らず、導電性を有していなくてもよい。
【0037】
また、本実施の形態では、フィルター10b・10cは、図1(b)(c)に示すように、導電繊維糸2における、基布1aとは反対側の対向位置には、対向物3が接触又は非接触に設けられているとすることが可能である。尚、この対向物3は、金属又は導電性を有する樹脂からなる対向電極であってもよい。また、対向物3は、導電性又は非導電性を問わない。
【0038】
上記導電性を有する基布1a・1b及び導電繊維糸2は、本実施の形態では、例えばナイロン等の高分子樹脂からなる高分子繊維にカーボン、金属等の導電体を分散して導電性を付与している。基布1a・1b及び導電繊維糸2の導電性は、例えば、1×10〜1×1013Ωである。
【0039】
上記導電繊維糸2は割繊糸を含み、導電繊維糸2の繊度は例えば2デシテックス(T)以下の低繊度が好ましい。ここで、デシテックス(T)とは、「長さ10,000mの繊維(糸)の重さがNグラムであるとき、その繊維(糸)はNデシテックス(T)である」と定義される。
【0040】
これにより、基布1a・1bに同じ密度で植毛等した場合に比べて、表面積を増加させることができる。特に、極細繊維とすることによって、表面積を飛躍的に増加させることができる。また、表面積を増加させる観点からすると、導電繊維糸2を多孔質中空形状にするのがさらに好ましい。すなわち、導電繊維糸2を中空にし、かつ側面壁に多孔を形成することによって、有害物質が導電繊維糸2の中空内部に侵入することができるので、表面積がさらに増加する。
【0041】
また、導電繊維糸2の密度は、1インチ当たりの繊維本数×繊度=100,000〜800,000である。この密度としたのは、圧力損失と吸着性能とのバランスがよいからである。
【0042】
さらに、フィルター10の通気幅は50mm以上が好ましい。これにより、吸着率がよいものとなる。尚、フィルター10の通気幅とは、フィルター10に空気が通過する場合に、最も入り口側の導電繊維糸2から最も出口側の導電繊維糸2までの距離をいう。
【0043】
尚、本実施の形態では、フィルター10には、さらに、導電繊維糸2に機能粒子又はイオン交換基をコーティングしたり含有させたりすることが可能である。これにより、吸着能力や分解能力等の機能性を付与することが可能となる。
【0044】
次に、上記フィルター10を用いたフィルター装置20について説明する。
【0045】
本実施の形態のフィルター装置20は、図2(a)(b)(c)に示すように、フィルター10に電圧を印加する電圧印加手段としての電圧印加装置21を備えている。ここで、フィルター装置20は、図2(a)に示すように、図1(a)に示すフィルター10aを用いた場合、電圧印加装置21aは基布1aにのみ接続されて電圧が印加されるようになっており、基布1bには接続されていないとすることができる。すなわち、この構成は、フィルター10に電圧が印加されているが、閉回路にはなっていない。これにより、静電的に有害物質を吸着することができる。
【0046】
また、フィルター装置20は、図2(b)に示すように、図1(a)に示すフィルター10a又は図1(b)に示すフィルター10bを用いたものであり、電圧印加装置21bは、基布1aと基布1b又は対向物3(対向電極を含む)に接続されて電圧が印加されるとすることができる。すなわち、この構成は、フィルター10a・10bにおける導電繊維糸2に接触する基布1a・1b又は対向物3の両方に電圧印加装置21からの電圧が印加され、閉回路になっている。これにより、後述するように、導電繊維糸2・2間の電界、導電繊維糸2のコンデンサー成分により有害物質を分極・吸着することができる。
【0047】
さらに、フィルター装置20は、図2(c)に示すように、図1(c)に示すフィルター10cを用いたものであり、電圧印加装置21cは、基布1aに接続されて電圧が印加されると共に、導電繊維糸2とは離れた位置にある対向電極からなる対向物3にも接続されて電圧が印加されるとすることが可能である。すなわち、この構成は、導電繊維糸2と非接触の対向電極からなる対向物3を有し、閉回路になっていると共に、電位差を持つ。これにより、導電繊維糸2・2間の電界、導電繊維糸2・2のコンデンサー成分により有害物質を分極・吸着することとが可能となる。
【0048】
ここで、本実施の形態のフィルター装置20における吸着機能について、図3〜図5に基づいて説明する。図3はフィルター装置20のフィルター10を示す正面図であり、図4はフィルター装置20におけるフィルター10を示す水平断面図であり、図5はフィルター装置20のフィルター10a又はフィルター10bを示す正面図である。
【0049】
図3に示すように、フィルター10に例えばマイナスの電圧を印加すると、導電繊維糸2にはマイナスの電荷が帯電される。これにより、プラスの電荷を持った荷電有害物質30がこのフィルター10の各導電繊維糸2…の間を通過すると、プラスの電荷を持った荷電有害物質30は、導電繊維糸2に静電的に吸着され、フィルター装置20によって除去される。尚、この吸着機能は、フィルター装置20として一般的なものである。
【0050】
次に、本実施の形態のフィルター装置20は、このような一般的な吸着機能以外に、図4及び図5に示す吸着機能を有している。
【0051】
すなわち、図4に示すように、導電繊維糸2として、絶縁性繊維2aにカーボン又は金属等の導電粒子2bを分散させておくことにより、導電繊維糸2に導電性を持たせる。これによって、電圧印加時に導電粒子2b・2b間でコンデンサー成分が生まれる。この結果、より強く荷電有害物質30を静電的に吸着できる。
【0052】
一方、本実施の形態のフィルター装置20では、図5に示すように、導電繊維糸2の各部位に導電粒子2bの分布に応じた濃淡を発生させることが可能である。これにより、導電繊維糸2の抵抗値にムラを発生させることができる。この結果、隣り合った導電繊維糸2・2間に電位差が生まれ、導電繊維糸2・2間に電界が形成されることにより、例えば、プラスの電荷を持った荷電有害物質30とマイナスの電荷を持った荷電有害物質30との両方が存在する場合においても、導電繊維糸2を分極させることにより双方を吸着することができる。
【0053】
このように、本実施の形態のフィルター10及びフィルター装置20では、導電繊維糸2として、高分子繊維を用いることによって、強度、加工性が良好になる。また、電圧印加装置21にて、高電圧又はパルス電圧を印加することによって、イオン又はオゾンを発生させることができ、除菌等の効果を生じさせることができる。さらに、電源をOFFしておけば、フィルター装置20及びフィルター10の清掃も容易に行うことができる。
【0054】
また、本実施の形態のフィルター10及びフィルター装置20では、ブラシ形状の導電繊維糸2を有しているため、導電繊維糸2同士が隣り合うと共に、全ての導電繊維糸2が電気的影響を受ける。したがって、繊維の表面積を非常に大きく活用できるので、荷電有害物質30の吸着能力を飛躍的に増大させることができる。また、圧力損失が少ないので、比較的小さい送風能力のフィルター装置20で足りる。
【0055】
すなわち、従来では、対向電極との電界による吸着が主であったが、本実施の形態では高分子樹脂からなる導電繊維糸2の静電的吸着力と、導電繊維糸2・2間の電界形成により吸着力を持たせることができる。その効果により非常に良好な吸着性を持つフィルターとなる。尚、本実施の形態では、従来の対向電極による電界方式の効果を組み合わせても良い。この方法が、図2(c)に示す方法である。
【0056】
また、本実施の形態のフィルター装置20では、電圧を印加して吸着性能を向上させる機構を有しているため、フィルター10としての密度を下げることができる。これにより、空気抵抗の小さいフィルタリングが可能となる。
【0057】
さらに、本実施の形態のフィルター装置20では、導電繊維糸2の抵抗値と電圧印加装置21での印加電圧との組み合わせにより、種々の効果を発生させることができる。具体的には、低抵抗値と中〜高電圧との組み合わせでは、有害物質に電荷を付与し、分解することが可能となると共に、有害物質に電荷を付与し、電荷の極性を一定にすることが可能となる。
【0058】
また、高抵抗値と中電圧との組み合わせでは、有害物質を効率的に吸着することができる。さらに、高抵抗値と高周波数の交流との組み合わせでは、オゾンを発生させ、除菌等の効果を発揮することが可能である。
【0059】
尚、本実施の形態のフィルター10及びフィルター装置20では、上述した構成だけではなく、付加機能を付与することが可能である。
【0060】
例えば、本実施の形態では、導電繊維糸2にコーティング・含有等により機能粒子又はイオン交換基等を添加することが可能である。これにより、機能粒子又はイオン交換基等に応じた荷電有害物質30を選択的に吸着する等の吸着能の向上、又は吸着だけではなく分解性能等の各種機能を付与させることができる。例えば、多孔質材料やゼオライト等の分解機能を有する粒子を添加することにより、機能性を向上させることができる。
【0061】
また、本実施の形態では、異電圧を印加した2種以上のフィルター10…を設置することができる。この場合、設置する位置関係は各種が可能である。これにより、電荷制御と吸着、及び両極性物質の吸着等を行うことが可能となる。
【0062】
また、本実施の形態では、抵抗値の違う導電繊維糸2を混織させることができる。これにより、導電繊維糸2の抵抗値ムラの相違が大きくなり、導電繊維糸2内の電界が強くなる。
【0063】
以上のように、本実施の形態のフィルター10は、導電性を有する基材1と、該基材1の少なくとも片面に植毛された導電性を付与した高分子繊維からなる導電繊維糸2とを有している。
【0064】
すなわち、フィルター10は、基材1に植毛されたブラシ形状の高分子繊維からなる導電繊維糸2を有している。したがって、ブラシ毛である糸の間を、有害物質等を含む空気が通過するという3次元のフィルターとなっている。この結果、濾紙や繊維を布にした濾布を用いた従来の2次元のフィルターに比べて、空隙率が高く、かつ空気の接触する糸の表面積が大きいものとなる。
【0065】
そして、高分子繊維には導電性が付与されているので、例えば、高分子繊維に電圧を印加することにより、帯電した有害物質を静電的に吸着除去することができる。
【0066】
この結果、帯電した有害物質を含む空気を通過させた場合に、いつまでも目詰まりすることなく、効率よく帯電した有害物質を吸着除去することができる。
【0067】
したがって、圧力損失が小さく、吸着効率の高いフィルターを提供することができる。
【0068】
また、本実施の形態のフィルター10では、基材1は、高分子繊維からなる縦糸と横糸とを織り込んでなる基布1aからなっていると共に、基材1の少なくとも片面に植毛された糸は、基布1aの少なくとも片面に織り込んでなっているパイル糸である。
【0069】
これにより、フィルター10を例えばタオル地、又はコール天やビロードのような織物として製造することができる。逆に、パイル織地をフィルター10として使用できることになる。尚、パイル糸の長さと密度については、フィルター用に適宜調整すればよい。また、複数のフィルター10を積層して用いることも可能である。
【0070】
したがって、パイル織地の繊維を導電性のものを使用することによって、容易に、圧力損失が小さく、吸着効率の高いフィルター10を製造することができる。
【0071】
また、本実施の形態のフィルター10では、基材1は、2組の基布1a・1bが互いに対向して設けられたものからなっていると共に、パイル糸は、2組の基布1a・1bの間で各基布1a・1bに織り込んでなっている。
【0072】
この技術は、パイル織の技術として確立されている。したがって、圧力損失が小さく、吸着効率の高いフィルター10をパイル織の技術を用いて容易に製造することができる。
【0073】
また、本実施の形態のフィルター10では、導電性を付与した高分子繊維からなる導電繊維糸2の、基材1とは反対側の対向位置には、対向電極からなる対向物3が導電繊維糸2に接触又は非接触に設けられている。
【0074】
これにより、フィルター10に電圧を印加する場合に、一方の導電性の基材1と他方の対向電極からなる対向物3との間に電圧を容易に印加することができる。
【0075】
本実施の形態のフィルター装置20は、上記のフィルター10に電圧を印加する電圧印加装置21aを備えている。
【0076】
上記の発明によれば、電圧印加装置21にて前記記載のフィルター10に電圧を印加することができる。
【0077】
この結果、電圧が印加されたフィルター10に、帯電された例えば有害物質を通すことによって、帯電された荷電有害物質30を静電的に吸着して容易に除去することができる。
【0078】
本実施の形態のフィルター装置20は、前記記載のフィルター10が複数組設けられると共に、各組のフィルター10にそれぞれ異なる電圧を印加する電圧印加装置21を備えている。
【0079】
このため、前記記載のフィルター10を複数個組み合わせたものに対して電圧印加装置21にてそれぞれ異なる電圧を印加することができる。
【0080】
これにより、フィルター毎に高低差のある電圧の印加や極性の異なる電圧を印加することが可能となる。
【0081】
したがって、有害物質の帯電量が異なっている場合や、有害物質の帯電の極性が異なっている場合においても、これらの有害物質を容易に静電吸着して除去することができる。さらに、有害物質を容易に除去できるように、フィルター10毎に適切な電圧印加制御を行うことができる。
【0082】
尚、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0083】
フィルター10及びフィルター装置20についての効果を確認するために、各種のフィルター10及びフィルター装置20を用いて、荷電有害物質30の吸着除去性能試験を行った。
【0084】
最初に、図2(a)に示すフィルター10aと電圧印加装置21aとによるフィルター装置20を用いた吸着除去性能試験を行った。具体的には、電圧印加装置21aにて基布1aに100Vの電圧を印加すると共に、このフィルター10aに0.1ppmのホルムアルデヒドを1cc/minの流量にて供給し、排気側において気体を10分間捕集管に捕集した。
【0085】
そして、上記により捕集した気体を、液体クロマトグラフィーを用いた公知の方法によりホルムアルデヒド濃度を測定した。
【0086】
この試験にて用いたフィルター10aの試験体は、表1に示すとおりである。
【0087】
【表1】

【0088】
すなわち、表1に示すように、実施例1は、フィルター10aの導電繊維糸2の材質として、カーボンを分散させたナイロンとした。また、導電繊維糸2の繊度を2デシテックス(T)とし、抵抗値を1×1010 Ωとし、導電繊維糸2の長さを5mmとし、密度を1平方インチ(inch)当たり200kF(F:フィラメント)とした。
【0089】
一方、比較例1として、実施例1の導電繊維糸2とは材質及び抵抗値の異なる導電性物質を含まない絶縁性のナイロンを用いて同様の試験を行った。したがって、繊維糸のその他の繊度、パイル長、密度は実施例1と同じである。
【0090】
さらに、比較例2として実施例1の導電繊維糸2とは材質のみ異なる、導電性材料をコーティングしたナイロンを用いて同様の試験を行った。
【0091】
その結果を表2に示す。
【0092】
【表2】

【0093】
表2から分かるように、実施例1では、排気側で測定したホルムアルデヒドの濃度は、0.04〜0.05ppmであり、ホルムアルデヒドの濃度は約半減した。
【0094】
これに対して、比較例1及び比較例2においては、排気側で測定したホルムアルデヒドの濃度は、0.08〜0.09ppmであり、あまり除去能力がないことが確認できた。
【0095】
次に、図2(b)に示すフィルター10aと電圧印加装置21bとによるフィルター装置20を用いた吸着除去性能試験を行った。具体的には、電圧印加装置21bにて基布1a・基布1b間に100Vの電圧を印加すると共に、このフィルター10aに0.1ppmのホルムアルデヒドを1cc/minの流量で供給し、排気側において気体を10分間捕集管に捕集した。この試験を実施例2と表示する。
【0096】
また、図2(c)に示すフィルター10cと電圧印加装置21cとによるフィルター装置20を用いた吸着除去性能試験を行った。具体的には、電圧印加装置21cにて基布1aと、導電繊維糸2から離れた位置にある対向電極からなる対向物3との間に100Vの電圧を印加すると共に、このフィルター10cに0.1ppmのホルムアルデヒドを1cc/minの流量で供給し、排気側において気体を10分間捕集管に捕集した。この試験を、実施例3と表示する。
【0097】
一方、実施例3と同じフィルター装置20及び試験方法を用いて、導電繊維糸2の材質を変えたものを比較例2,3として行った。
【0098】
すなわち、比較例3,4は、図2(c)に示すフィルター10cと電圧印加装置21cとによるフィルター装置20を用いて、電圧印加装置21cにて基布1aと、離れた対向電極からなる対向物3との間に100Vの電圧を印加すると共に、このフィルター10cに0.1ppmのホルムアルデヒドを1cc/minの流量で供給し、排気側において気体を10分間捕集管に捕集したものとなっている。
【0099】
この試験にて用いたフィルター10b・10cの試験体は、表3に示すとおりである。
【0100】
【表3】

【0101】
すなわち、表3に示すように、実施例2では、フィルター10aの導電繊維糸2の材質として、カーボンを分散させたナイロンとした。また、導電繊維糸2の繊度を2デシテックス(T)とし、抵抗値を1×1010 Ωとし、導電繊維糸2の長さを5mmとし、密度を1平方インチ(inch)当たり200kF(F:フィラメント)とした。尚、フィルター10aでは、対向電極との距離は0mmである。
【0102】
次に、実施例3では、フィルター10cの導電繊維糸2の材質として、カーボンを分散させたナイロンとした。また、導電繊維糸2の繊度を2デシテックス(T)とし、抵抗値を1×1010 Ωとした。ただし、導電繊維糸2の長さは4mmとし、密度を1平方インチ(inch)当たり200kF(F:フィラメント)とした。また、導電繊維糸2と対向電極からなる対向物3との距離は1mmとした。
【0103】
一方、比較例3の試験体は、実施例3とは材質及び抵抗値の異なる、導電性物質を含まない絶縁性のナイロンを用いたものを使用した。
【0104】
また、比較例4の試験体は、実施例3とは材質のみ異なる、導電性材料をコーティングしたナイロンを用いたものを使用した。
【0105】
その結果を表4に示す。
【0106】
【表4】

【0107】
表4から分かるように、実施例2及び実施例3では、排気側で測定したホルムアルデヒドの濃度は、0.01〜0.02ppmであり、ホルムアルデヒドの濃度は大きく低下した。
【0108】
これに対して、比較例3及び比較例4においては、排気側で測定したホルムアルデヒドの濃度は、0.08〜0.09ppmであり、あまり除去能力がないことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、例えば、空気清浄器等に使用されるフィルター及びフィルター装置に利用することができる。特に、本発明のフィルターは、ブラシ形状の導電性繊維にて構成されているので、フィルターの吸着面積を格段に増加させ吸着効率の高いフィルター及びフィルター装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0110】
1 基材
1a 基布(基材)
1b 基布
2 導電繊維糸
2a 絶縁性繊維
2b 導電粒子
3 対向物
10 フィルター
10a フィルター
10b フィルター
10c フィルター
20 フィルター装置
21 電圧印加装置(電圧印加手段)
21a 電圧印加装置(電圧印加手段)
21b 電圧印加装置(電圧印加手段)
21c 電圧印加装置(電圧印加手段)
30 荷電有害物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する基材と、該基材の少なくとも片面に植毛された導電性を付与した高分子繊維からなる糸とを有していることを特徴とするフィルター。
【請求項2】
前記基材は、高分子繊維からなる縦糸と横糸とを織り込んでなる基布からなっていると共に、
前記基材の少なくとも片面に植毛された糸は、上記基布の少なくとも片面に織り込んでなっているパイル糸であることを特徴とする請求項1記載のフィルター。
【請求項3】
前記基材は、2組の前記基布が互いに対向して設けられたものからなっていると共に、
前記パイル糸は、上記2組の基布の間で各基布に織り込んでなっていることを特徴とする請求項2記載のフィルター。
【請求項4】
前記導電性を付与した高分子繊維からなる糸の、前記基材とは反対側の対向位置には、対向電極が該糸に接触又は非接触に設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載のフィルター。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルターに電圧を印加する電圧印加手段を備えていることを特徴とするフィルター装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルターが複数組設けられると共に、
各組のフィルターにそれぞれ異なる電圧を印加する電圧印加手段を備えていることを特徴とするフィルター装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−25199(P2011−25199A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175613(P2009−175613)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(390026147)東英産業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】