説明

フィルター構造

【課題】気泡が混入している水溶液の濾過が容易にできるようにする。
【解決手段】フィルター構造は、濾過膜101と、一部の濾過膜101に配置され、疎水性を備えて水溶液中に混合している気泡を濾過する疎水性領域102と、疎水性領域102以外の濾過膜101に配置され、親水性を備えて固体と水溶液との混合物より水溶液を濾過する親水性領域103とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液の濾過を行うフィルター構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水や水溶液中に存在する微粒子の分析では、フィルターを用いて分析対象の微粒子を捕集している。このようなフィルターを用いた微粒子の捕集では、液中に混合する気泡の存在が、濾過の妨げとなっている。液中に存在する気泡は、水溶液との親和性を持つフィルター(濾過膜)を透過しにくい。このため、気泡はフィルター表面に蓄積する。この気泡の蓄積は、フィルターの濾過面積を低下させることになるため、例えば、より高い圧力をかけて濾過を行うことが必要となる。また、液中に存在する気泡を除去するために、水溶液の濾過とは別経路に疎水性のフィルターを別途に設け、この別経路に気泡を排気する技術がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平09−502127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した技術では、水を透過させるためのフィルターに加えて気泡を取り除くためのフィルターを別途に用意する必要があり、機構が複雑になるという問題がある。また、フィルターを2つ用いるため、前述した微粒子の捕集に利用した場合、2つのフィルターより微粒子を回収することになるため、工程が煩雑になるという問題がある。
【0005】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、気泡が混入している水溶液の濾過が容易にできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るフィルター構造は、濾過膜と、濾過膜に配置され、疎水性を備えて水溶液中に混合している気泡を濾過する疎水性領域と、濾過膜の疎水性領域以外の領域に配置され、親水性を備えて固体と水溶液との混合物より水溶液を濾過する親水性領域とを備える。
【0007】
上記フィルター構造において、各々離間する島状の複数の親水性領域を備えるようにしてもよい。この場合、疎水性領域は、格子状に形成され、親水性領域は、疎水性領域の格子間に配置されていてもよい。また、各々離間する島状の複数の疎水性領域を備えるようにしてもよい。この場合においても、親水性領域は、格子状に形成され、疎水性領域は、親水性領域の格子間に配置されていてもよい。なお、濾過膜は、親水性を有する材料から構成され、疎水性領域は、一部の濾過膜の表面に疎水性材料を配置することで形成された領域であればよい。また、濾過膜の濾過側に疎水性領域に対応する流路および親水性領域に対応する流路を備えるようにしてもよい。
【0008】
上記フィルター構造において、疎水性材料の配置は、気相成長により行われたものであればよい。また、疎水性材料の配置は、塗布により行われたものであってもよい。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明によれば、濾過膜に配置された疎水性領域と、疎水性領域以外の濾過膜に配置された親水性領域とを備えるようにしたので、気泡が混入している水溶液の濾過が容易にできるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】図1Aは、本発明の実施の形態におけるフィルター構造の構成を示す平面図である。
【図1B】図1Bは、本発明の実施の形態におけるフィルター構造を用いた濾過の状態を模式的に示す断面図である。
【図1C】図1Cは、本発明の実施の形態におけるフィルター構造を用いた濾過の状態を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、親水性領域と疎水性領域とを備える濾過膜(メンブレンフィルター)を用いた通気実験を行うための実験装置の構成を示す構成図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態における他のフィルター構造の構成を示す平面図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態における他のフィルター構造の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1Aは、本発明の実施の形態におけるフィルター構造の構成を示す平面図である。このフィルター構造は、濾過膜101と、濾過膜101に配置され、疎水性を備えて水溶液中に混合している気泡を濾過する疎水性領域102と、濾過膜101の疎水性領域102以外の領域に配置され、親水性を備えて固体と水溶液との混合物より水溶液を濾過する親水性領域103とを備える。なお、水溶液は、水の場合も含むものである。
【0012】
本実施の形態におけるフィルター構造によれば、疎水性領域102においては、まず、水溶液は透過しない(し難い)状態となっている。また、疎水性領域102は、水溶液中にあるなど水に濡れた状態であっても容易に気泡の濾過が可能である。従って、本実施の形態によれば、濾過対象の水溶液中に気泡などが混合している場合でも、疎水性領域102より容易に気泡が透過していくので、高い圧力をかけることなく濾過を行うことが可能となる。このため、例えば、水溶液中に存在する微生物などの微粒子(固体)を、濾過膜101で容易に捕集することができるようになる。
【0013】
例えば、図1Bの断面図に示すように、導入容器111に導入された水溶液121を濾過膜101で濾過すると、疎水性領域102では、水溶液121中に混在している気泡122が透過し、濾過側の収容部112に移動する。また、親水性領域103では、水溶液121が透過し、収容部112に移動する。これらの結果、導入容器111に導入された水溶液121および水溶液121中の気泡122は、収容部112に移動する。
【0014】
また、疎水性領域102では、水溶液は透過しにくい状態であるが、気体(気泡)は容易に透過するので、導入容器111に導入する水溶液121に高圧力を印加することなく、収容部112の側に水溶液121および気泡122を透過させることができる。一方、水溶液121中に混在している固体123は、濾過膜101のいずれの領域も透過できないので、濾過膜101の上に捕集される。
【0015】
また、図1Cの断面図に示すように、濾過膜101の疎水性領域102および親水性領域103に対応し、流路113aおよび流路113bを備える収容部112aを用いることで、水溶液121中より気泡122を分離して回収することができる。濾過膜101の裏面(濾過側)に、疎水性領域102と親水性領域103とを隔てる隔壁を形成することで、これらを分離する流路113aおよび流路113bを濾過側の収容部112に形成すればよい。この場合、疎水性領域102では、水溶液121中に混在している気泡122が透過し、流路113aに移動する。疎水領域102では、水溶液121の透過が抑制されるので、気泡122が選択的に透過する。
【0016】
一方、親水性領域103では、水溶液121が透過して流路113bに移動する。親水性領域103では、高い圧力を印加しなければ気泡122が透過しないので、選択的に水溶液121が透過する。これらの結果、導入容器111に導入された水溶液121および水溶液121中の気泡122は、流路113bおよび流路113aに分離されて回収されることになる。
【0017】
次に、親水性領域と疎水性領域とを備える濾過膜(メンブレンフィルター)を用いた通気実験の結果について説明する。
【0018】
まず、図2に示す実験装置を用いて実験を行う。この実験装置は、空気および水溶液(水)を導入する導入部201と、導入部201に導入された空気や水を収容する容器202と、容器202内部を減圧する吸引ポンプ203と、容器202と吸引ポンプ203とを連通する配管204の途中に設けられた圧力計205とを備える。導入部201および容器202は、いわゆる吸引濾過器である。
【0019】
この実験装置において、導入部201の途中に、導入部201の開口を塞ぐように、実験対象のメンブレンフィルター211を設置する。メンブレンフィルター211は、ポリカーボネート製であり、ポアサイズ0.4μmである。また、濾過領域は、直径47mm程度である。
【0020】
次に、実験について説明する。まず、導入部211にメンブレンフィルター211を設置し、吸引ポンプ203を動作させ、吸引圧力−60kPaで30秒間、容器202内部を減圧する。この実験では、吸引ポンプ203の動作を停止した後、5秒以内に、圧力計205の計測値は、大気圧状態に戻る。この結果より、メンブレンフィルター211は、乾燥している状態では、空気が通過することが確認できた。
【0021】
次に、メンブレンフィルター211に200mlの純水を透過(濾過)させた後、上述同様の吸引実験を行う。まず、純水を透過させて湿潤しているメンブレンフィルター211を導入部211に設置し、吸引ポンプ203を動作させ、吸引圧力−60kPaで30秒間、容器202内部を減圧する。この実験では、吸引ポンプ203の動作を停止した後、圧力計205の計測値は、約−58kPaの状態を維持した。この結果より、湿潤下メンブレンフィルター211は通気性を失い、空気が通過できない状態となることが確認できた。
【0022】
次に、メンブレンフィルター211に、部分的にフッ素樹脂コートを施し、部分的に疎水化した領域を形成し、このメンブレンフィルター211を用いて上述同様の、吸引実験を行う。まず、半分を疎水領域としたメンブレンフィルター211に、200mlの純水を透過(濾過)させる。次に、半分を疎水領域としたメンブレンフィルター211を導入部211に設置し、吸引ポンプ203を動作させ、吸引圧力−60kPaで30秒間、容器202内部を減圧する。この実験では、吸引ポンプ203の動作を停止した後、5秒以内に、圧力計205の計測値は、大気圧状態に戻る。
【0023】
また、半分を疎水領域としたメンブレンフィルター211を、2時間純水中に浸漬させた後、上述同様の実験を行った。この実験でも、吸引ポンプ203の動作を停止した後、5秒以内に、圧力計205の計測値は、大気圧状態に戻る。これらは、2時間経過した後でも同様である。これらの結果より、半分を疎水領域としたメンブレンフィルター211は、湿潤させても空気が通過することが確認できた。従って、疎水処理を施した領域を部分的に有するメンブレンフィルター211は、純水と接触した後も通気性を備えており、水溶液および気体の双方を効率的に濾過できることが確認できた。
【0024】
ここで、図3の平面図に示すように、濾過膜301の中で、複数の親水性領域303を島状に各々離間して配置してもよい。各々離間する島状の複数の親水性領域303の周囲に、一体の状態で疎水性領域302が配置されている。
【0025】
また、図4の平面図に示すように、濾過膜401の中で、疎水性領域402を格子状に形成してもよい。この場合、各々離間する島状の複数の親水性領域403は、格子状に形成された疎水性領域402の格子間に配置された状態となる。
【0026】
また、上述した構成において、親水性領域と疎水性領域とを入れ替えて配置してもよい。この場合、濾過膜の中に、各々離間する島状の複数の疎水性領域を備える状態となる。また、親水性領域を格子状に形成し、疎水性領域は、親水性領域の格子間に配置されているようにしてもよい。なお、島状の部分の間隔(格子の幅)は、例えば、1mm以下とするとよい。水溶液中に混入(分散)している気泡は、濾過膜の親水性領域に捕捉された後、複数の気泡が合体して大きくなり、疎水性領域に到達することで透過していくものと考えられる。従って、上述した間隔を短くした方が、気泡をあまり大きくすることなく疎水領域に到達させることができるので、気泡の透過効率を向上させることができる。
【0027】
また、親水性領域と疎水性領域の面積の割合は、水溶液に混入している気泡の量にあわせて選定することが望ましいが、一般的にガスは水溶液よりも粘性が低いため、気泡の透過効率と水溶液の濾過効率を両立するため、小面積の疎水領域を細かく配置してもよい。
【0028】
次に、本実施の形態におけるフィルター構造の製造について説明する。例えば、一般に用いられている親水性の材料からなる濾過膜を用い、この濾過膜の一部に疎水性材料を配置することで、疎水性領域を形成すればよい。
【0029】
例えば、化学的気相成長(CVD)法,プラズマアシストCVD法,および蒸着法などの技術により、フッ素系樹脂などの疎水性材料を目的とする箇所に堆積することで、疎水性領域が形成できる。CVD法を用いる場合、まず、公知のフォトリソグラフィ技術により、疎水性領域とする箇所が開口したレジストパターンを濾過膜の上に形成する。次に、レジストパターンをマスクとして疎水性材料を堆積する。例えば、CHF3などのフッ素化炭化水素ガスを原料として用いたプラズマアシストCVD法により、疎水性材料を堆積すればよい。
【0030】
この後、レジストパターンを除去すれば、レジストパターンの開口部に対応する濾過膜に、疎水性材料を堆積することができる。なお、マスクとしては、レジストパターンに限らず、いわゆるメタルマスクを用いるようにしてもよい。
【0031】
また、シリコーンオイル、液状のフッ素化合物,表面アルキル化剤などを塗布することで、疎水性領域が形成できる。塗布の方法としては、スクリーン印刷法、ローラー転写法、インクジェット法、およびインプリント法などがある。
【0032】
以上に説明したように、本発明では、単一の濾過膜に対して、濾過膜の一部に配置された疎水性領域と、疎水性領域以外に配置された親水性領域とを備えるようにしたので、単一の濾過膜を用いて気泡と水溶液を濾過することが可能となる。これにより、気泡が混入している水溶液の濾過を行う際に、気泡が濾過膜表面に蓄積せず、安定した濾過ができるという優れた効果が得られる。さらに、粒子を含んだ水溶液の濾過に使用した際に、粒子が単一のフィルタ表面に捕集されるため、カメラや顕微鏡を用いて粒子の観察を行う際に焦点が合わせやすいという利点がある。さらに、フィルタ裏面の流路構造を工夫することで、水溶液に含まれる気泡を分離する操作にも利用可能である。
【0033】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が実施可能であることは明白である。例えば、島状の親水性領域または疎水性領域は、平面視円形,矩形に限るものではなく、三角形,五角形,六角形などの多角形であってもよい。また、濾過膜は、ポリカーボネート製に限るものではなく、例えば、ナイロン、ニトロセルロース、セルロースアセテートなどのポリマ、親水化処理を行ったポリマなど、他の材料から構成された濾過膜を用いるようにしてもよいことはいうまでもない。
【0034】
また、上述した実施の形態では、1例として濾過膜のポアサイズを0.4μmとしたが、これに限るものではなく、ポアサイズは、0.01〜1μm程度であれば、同様の効果が得られる。このポアサイズは、細菌などの微粒子の捕集を行う場合に用いられるものである。なお、ポアサイズが10μm以下であれば、疎水化による撥水効果で水溶液中に混合している気泡を濾過する状態が得られるので、上述同様の効果が得られるものと考えられる。ただし、ポアサイズの上限は、濾過膜の材料や疎水化の状態により変化するので、用いる環境を考慮し、実験などにより適宜に設定すればよい。
【符号の説明】
【0035】
101…濾過膜、102…疎水性領域、103…親水性領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾過膜と、
前記濾過膜に配置され、疎水性を備えて水溶液中に混合している気泡を濾過する疎水性領域と、
前記濾過膜の前記疎水性領域以外の領域に配置され、親水性を備えて固体と水溶液との混合物より水溶液を濾過する親水性領域と
を備えることを特徴とするフィルター構造。
【請求項2】
請求項1記載のフィルター構造において、
各々離間する島状の複数の前記親水性領域を備えることを特徴とするフィルター構造。
【請求項3】
請求項2記載のフィルター構造において、
前記疎水性領域は、格子状に形成され、前記親水性領域は、前記疎水性領域の格子間に配置されていることを特徴とするフィルター構造。
【請求項4】
請求項1記載のフィルター構造において、
各々離間する島状の複数の前記疎水性領域を備えることを特徴とするフィルター構造。
【請求項5】
請求項4記載のフィルター構造において、
前記親水性領域は、格子状に形成され、前記疎水性領域は、前記親水性領域の格子間に配置されていることを特徴とするフィルター構造。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のフィルター構造において、
前記濾過膜は、親水性を有する材料から構成され、
前記疎水性領域は、一部の前記濾過膜の表面に疎水性材料を配置することで形成された領域である
ことを特徴とするフィルター構造。
【請求項7】
請求項6記載のフィルター構造において、
前記疎水性材料の配置は、気相成長により行われたものであることを特徴とするフィルター構造。
【請求項8】
請求項6記載のフィルター構造において、
前記疎水性材料の配置は、塗布により行われたものであることを特徴とするフィルター構造。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のフィルター構造において、
前記濾過膜の濾過側に前記疎水性領域に対応する流路および前記親水性領域に対応する流路を備えることを特徴とするフィルター構造。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−148257(P2012−148257A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10846(P2011−10846)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000006666)アズビル株式会社 (1,808)
【Fターム(参考)】