説明

フィルター用不織布

【課題】
主として自動車の内燃機関用フィルターとして空気中の砂塵や塵芥の除去と共に清浄効率を維持しつつ焼却処分時に排出されるCO2を削減し地球温暖化防止に寄与する。
【解決手段】
粗層,中層,密層の順に繊維層を積層した密度勾配型不織布において、各繊維層に植物由来成分のPLA(ポリ乳酸)繊維を50%以上含有させると共に、少なくとも密層部に1.0〜1.5デシテックスのポリエステル繊維を含有せしめた。なお、PLA繊維にはその一部又は全部に芯鞘構造のPLA繊維を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気中に含まれる砂塵や塵芥などを除去するべく自動車等の内燃機関用フィルターや、その他空調用のフィルター等に用いられるフィルター用不織布に係り、詳しくは植物由来原料から作られたPLA(ポリ乳酸)繊維を素材に使用し、使用後の分別回収を容易にし、焼却処分時のCO2の発生の削減を可能ならしめる上記フィルター用不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車エンジン吸気用クリーナーに用いられるフィルターには高い清浄効率を維持しつつ高いダスト保持量を確保し、かつ寿命の長いことが求められて各種密度勾配型不織布が利用されている。この密度勾配型不織布は一般に密度の異なる複数の繊維層を空気流入側から流出側に向かって配置したものであり、例えば熱接着性疎水性繊維と非熱接着性疎水性繊維で構成される2以上の繊維層を空気流出側の繊維層が流入側の繊維層よりも平均繊度が小さくならないように積層させた不織布(例えば特許文献1参照)や、融点の異なる接着繊維と被接着繊維により流入側より流出側に向かって平均デニールが太いものから細いものになるよう2層以上の繊維層を積層してニードルパンチにより互いに絡着し熱処理して接着繊維を融着せしめた密度勾配型不織布(例えば特許文献2参照)などが提案されている。
【0003】
しかし、フィルターに用いられる上記密度勾配型不織布にあっては、エマルジョン系接着剤で繊維を固定するものは分別回収や廃棄が困難であり、また、PET100%の製品は分別回収は出来るとしても、何れも構成繊維は化石燃料を原料としているため、焼却処分時に発生するCO2が純粋に増加分となっている。
【0004】
ところが、近時、地球温暖化防止が叫ばれ、CO2の排出削減は大きな社会問題となり、化石燃料を原料とする繊維に代わり、生分解性を有する植物由来成分のPLA(ポリ乳酸)繊維の利用が注目され、レンジフード又は換気扇に配置されるフィルターにおいて一部利用が試みられている。(例えば特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−192427号公報
【特許文献2】特許第3715396号公報
【特許文献3】特開2007−289917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述の如き実状に鑑み、特に内燃機関用フィルターあるいは空調用フィルター等の分野において更に植物由来成分を構成繊維原料として利用を拡大し、効果的な構成を見出すことにより清浄効率を維持しつつ使用後の焼却処分時に発生するCO2を削減し、環境汚染を阻止し、地球温暖化防止に資することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、上記目的に適合する本発明は、流体流入側より流出側に向かって順次、繊維密度が大きくなるように粗層,中層,密層の順に積層し、ニードルパンチ加工により構成繊維を互いに絡着してなる密度勾配型不織布であって、前記各繊維層が夫々50%以上のPLA繊維を含んでなると共に、少なくとも流出側の密層には1.0〜1.5デシテックスのポリエステル繊維を25〜50%含有せしめてなるフィルター用不織布である。
【0008】
ここで上記各繊維層に含まれるPLA繊維は太さが2〜5デシテックスの範囲が好ましく、その一部又は全部に芯鞘構造からなり、芯鞘各部の融点が、芯部は融点170℃以上、鞘部は融点130℃〜165℃である繊維を用い又は併用することがができる。なお、積層された不織布を構成する繊維層の流体流出側の繊維面はPLA芯鞘繊維の鞘部溶融開始温度以上の温度で接触、加熱して繊維の毛羽立ちを防止せしめることが効果的である。
【発明の効果】
【0009】
本発明フィルター用不織布は以上のように繊維構成材としてその大部分を植物由来成分であるPLA繊維を用いて構成したことにより、自動車の内燃機関用フィルターとして使用した際において使用後の分別回収はもとより焼却処分時、CO2を排出するとしてもPLA繊維自体がCO2を吸収して得られるため大気中でCO2を増加させることがなく、地球温暖化対策として問題となっているCO2排出削減効果が極めて顕著である。また、流出側にポリエステル繊維を一部含有させることにより接触加熱により密度を高め、清浄効率を維持する上に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、更に本発明フィルター用不織布の具体的実施形態を詳述する。本発明は上述の如く密度勾配型不織布において、従来の化石燃料を原料とするナイロン,ポリエステルなど、合成繊維を100%用いた不織布に対し植物由来成分のPLA(ポリ乳酸)繊維を50%以上含有させることによってCO2発生量の削減を図ったフィルター用不織布である。
【0011】
不織布に用いる植物由来成分の繊維は単一又は複数の生分解性材料により紡出され、短繊維又は長繊維に形成されて2層又は3層の積層繊維層として構成されるが、本発明においては密度を異にした3層、即ち流体流入側から流出側に向かって粗層,中層,密層からなる3層構造の繊維層に形成される。上記繊維密度の異なる粗層,中層,密層の3層構造とすることは塵芥の捕集能に勝れた生分解性フィルターを得るのに有効である。
【0012】
上記フィルター用不織布の繊維層を構成する植物由来成分の生分解性材としては、ポリ乳酸,ポリグルタミン酸,デンプン等、種々のものが挙げられるが、本発明においては特にとうもろこしから製造されるPLA(ポリ乳酸)繊維が用いられ、とうもろこしの樹脂より既知の手段により紡糸された所要太さ、通常2〜15デシテックス程度の繊維太さのPLA繊維として繊維層を形成する。
【0013】
なお、上記PLA繊維は、本発明不織布の形成にあたり、上記所要太さの繊維としてそのまま使用されるが、更に芯鞘構造を有するPLA複合繊維の形態として単独でまたは併用して使用することが可能である。この芯鞘構造からなるPLA繊維の各部の融点は、芯部の融点は170℃以上、鞘部の融点は130℃〜165℃である。
【0014】
しかして本発明フィルター用不織布はその構成にあたり、繊維層の殆どを上記PLA繊維により構成するが、一部に化石燃料より得られるナイロン,ポリエステルなどの合成繊維を併用することもできる。しかし、少なくとも50%以上において上記PLA繊維を使用することが肝要である。併用されるナイロン,ポリエステル等の合成繊維としては特にポリエステル繊維が好ましく、とりわけ密度勾配型不織布の流体流出側に当たるクリーンサイドに1.0〜1.5デシテックスのポリエステル繊維を併用することはダクト清浄効率を維持する上で頗る有効である。この場合、ポリエステル繊維の併用割合としては少なくとも密層部において25〜50%の範囲であることが好ましい、勿論、粗層,中層を含む各層において夫々、50%以内で併用することも可能である。
【0015】
次に上記各繊維層を積層し、フィルター用不織布として成形するにあたっては、先ず、前述したPLA繊維を含む繊維層を夫々、各層密度を異にした流体流入側の粗層繊維層及び中層繊維層,流体粒流出側の密層繊維層の順に密度を大きくして積層し、ニードルパンチ加工によって各層の繊維を絡着して一体化せしめた後、130℃の熱風で熱処理し冷却する。次いで、更に密層面を表面温度が150℃の熱ロールに接触させてカレンダー処理して平滑化し本発明フィルター用不織布を形成する。
【0016】
なお、熱風加熱温度,カレンダー処理温度は上記に限定されるものではなく、不織布を構成する各繊維層の繊維によって選定され、とりわけ、芯鞘構造のPLA繊維の場合には芯繊維の融点が170℃以上であることから鞘繊維の融点により繊維固着に適切な130℃〜150℃で処理することが効果的である。以下、更に本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0017】
実施例1
6.7デシテックスのポリエステル繊維と、4.4デシテックスのPLA芯鞘繊維を50:50の割合で混繊した目付60g/m2の繊維層を粗層とし、2.2デシテックスのポリエステル繊維と4.4デシテックスのPLA芯鞘繊維を50:50の割合で混繊した目付90g/m2の繊維層を中層、1.3デシテックスのポリエステル繊維と2.2デシテックスのPLA芯鞘繊維を50:50の割合で混繊した目付170g/m2の繊維層を密層として、上記密層,中層,粗層をその順に積層し、総目付320g/m2の積層繊維層として、密層側から深さ11mm,打ち込み本数50本/cm2でニードルパンチを施した後、140℃の熱風のピンテンター式熱処理機で1分間熱処理し、冷却して植物由来成分比率50%の本発明フィルター用不織布を得た。
実施例2
11デシテックスのPLA繊維と、4.4デシテックスのPLA芯鞘繊維を50:50の割合で混繊した目付60g/m2の繊維層を粗層、1.7デシテックスのPLA繊維と4.4デシテックスのPLA芯鞘繊維を50:50の割合で混繊した目付90g/m2の繊維層を中層、1.3デシテックスのポリエステル繊維と2.2デシテックスのPLA芯鞘繊維を50:50の割合で混繊し、目付170g/m2の密層として、上記密層,中層,粗層をその順に積層し、総目付320g/m2の積層繊維層とした。この積層繊維層を密層側より深さ11mm、打ち込み本数50本/cm2でニードルパンチを施した後、ピンテンター熱処理機で140℃の熱風で1分間処理し、冷却して植物由来成分比率73%の本発明フィルター用不織布を得た。
比較例
6.7デシテックスのポリエステル繊維と4.4デシテックスの熱接着性複合ポリエステル繊維(高融点ポリエステル成分と低融点ポリエステル成分よりなる芯鞘構造複合繊維,L−PET)を50:50の割合で混繊した目付60g/m2の繊維層を粗層、2.2デシテックスのポリエステル繊維と4.4デシテックスの熱接着性ポリエステル複合繊維を50:50の割合で混繊した目付90g/m2の繊維層を中層、1.3デシテックスのポリエステル繊維と2.2デシテックスの上記熱接着性複合繊維を50:50の割合で混繊した目付170g/m2の繊維層を密層として、上記密層,中層,粗層をその順に積層し、総目付320g/m2の積層繊維層とした。そして、この積層繊維層に対し密層側より深さ11mm、打ち込み本数50/cm2でニードルパンチを施した後、140℃のピンテンター熱処理機で熱処理し、冷却して植物由来成分を含まない比較フィルター用不織布を作成した。
【0018】
かくして、上記実施例,比較例より得られた各フィルター用不織布について効果確認のため燃焼時、CO2排出量を対比した。なお、燃焼時、CO2排出量はユニチカのカタログ資料で示された、PLA=1.83,PET=2.29に基づいて算出した。
(1)実施例1の場合
(a)PET 160g/m2×2.29→366.4g/m2排出
(b)PLA 160g/m2×1.83→292.8g/m2排出
(a)+(b)→659.2g/m2排出
(2)実施例2の場合
(a)PET 85g/m2×2.29→194g/m2排出
(b)PLA 235g/m2×1.83→430g/m2排出
(a)+(b)→624g/m2排出
(3)比較例の場合
PET 320g/m2×2.29→732.8g/m2排出
以上より本発明フィルター用不織布は従来のポリエステル100%の不織布に比しCO2排出量の削減が顕著であることが分かる。なお、更にPLAの場合、原料がCO2を吸収して得られるため、CO2を大気中で増加させるものでないとみなすことが出来るので、実質上、上記数値を下廻り実施例1では366.4g/m2,実施例2では194g/m2となり、特にPLA100%の不織布は排出量削減効果が極めて大であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体流入側より流出側に向かって繊維密度が大きくなるよう粗層,中層,密層の順に繊維層を積層し、ニードルパンチ加工により構成繊維を互いに絡着し一体化してなる密度勾配型不織布であって、前記各繊維層が夫々PLA繊維を50%以上含む繊維層であると共に、少なくとも流出側密層の繊維層は1.0〜1.5デシテックスのポリエステル繊維を25〜50%の範囲で含有していることを特徴とするフィルター用不織布。
【請求項2】
PLA繊維の繊維太さが2〜5デシテックスである請求項1記載のフィルター用不織布。
【請求項3】
各繊維層に含まれるPLA繊維の一部又は全部が芯鞘構造からなるPLA繊維である請求項1又は2記載のフィルター用不織布。
【請求項4】
芯鞘構造から成るPLA繊維は芯部の融点が170℃以上、鞘部の融点が130℃〜165℃である請求項3記載のフィルター用不織布。

【公開番号】特開2011−98292(P2011−98292A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254742(P2009−254742)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(391021570)呉羽テック株式会社 (57)
【Fターム(参考)】