説明

フィルター装置及び薬液塗布システム

【課題】フィルターエレメントの適切な交換タイミングを把握できるフィルター装置を提供する。
【解決手段】フィルター装置は、フィルター膜と前記フィルター膜を支持するサポート材とを有するフィルターエレメントを備え、前記フィルター膜と前記サポート材との少なくとも一方は、メタルイオンの吸着量に応じて色が変化する物質を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、フィルター装置及び薬液塗布システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造方法においては、半導体基板上に被加工膜を堆積し、被加工膜を所望のパターンにパターニングする。具体的には、まず、レジストと呼ばれる感光性物質を被加工膜上に堆積しレジスト膜を形成し、このレジスト膜の所定の領域に露光を施しレジスト膜に潜像を形成する。次いで、レジスト膜の露光部または未露光部を除去する現像処理を行ってレジストパターンを形成し、さらにこのレジストパターンをエッチングマスクとして被加工膜をドライエッチングする。これにより、被加工膜が所望のパターンにパターニングされる。
【0003】
露光光源としては、スループットの観点からKrFエキシマレーザ、ArFエキシマレーザなどの紫外光が用いられている。このような露光光源で露光した場合に、半導体装置に対する要求寸法の微細化に伴い、レジスト薬液中に含まれる微小のメタル不純物に起因する被加工膜のパターン不良が顕在化してきている。
【0004】
レジスト薬液中のメタル不純物は工場供給ラインにおける塗布装置の前段に設置されたフィルター装置により除去される。フィルター装置におけるフィルターエレメントの使用期間が長くなると、フィルターエレメントによるメタル不純物の除去性能が劣化する傾向にある。そこで、フィルターエレメントの交換周期を長く設定しすぎた場合におけるフィルターエレメントの除去性能の劣化によるパターン不良等の不具合を防止するため、あるいは、フィルターエレメントの交換周期を短く設定しすぎることによるコストの増大を抑えるために、フィルターエレメントの適切な交換タイミングを把握する方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−37430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
1つの実施形態は、例えば、フィルターエレメントの適切な交換タイミングを把握できるフィルター装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの実施形態によれば、フィルター膜と前記フィルター膜を支持するサポート材とを有するフィルターエレメントを備え、前記フィルター膜と前記サポート材との少なくとも一方は、メタルイオンの吸着量に応じて色が変化する物質を含んでいることを特徴とするフィルター装置が提供される。
【0008】
また、他の実施形態によれば、薬液中のメタル不純物を除去するための上記のフィルター装置と、前記フィルター装置によりメタル不純物の除去された薬液を基板上に塗布する塗布装置とを備えたことを特徴とする薬液塗布システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態に係るフィルター装置を適用した薬液塗布システムを示す図。
【図2】実施形態に係るフィルター装置の構成を示す図。
【図3】実施形態に係るフィルター装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、実施形態にかかるフィルター装置を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0011】
(実施形態)
実施形態に係るフィルター装置1を適用した薬液塗布システム100について図1を用いて説明する。図1は、薬液塗布システム100の構成を示す図である。
【0012】
薬液塗布システム100は、薬液ボトル91、サブタンク92、フィルター装置1、サブタンク93、チューブフラムポンプ94、バルブ95、及び塗布装置96を備える。
【0013】
薬液ボトル91には、レジスト薬液が貯蔵されている。薬液ボトル91内に貯蔵されたレジスト薬液は、チューブフラムポンプ94が駆動された際に、サブタンク92へ導出される。なお、薬液ボトル91は、加圧用管(図示せず)を有しており、薬液ボトル91内に貯蔵されたレジスト薬液を加圧用管からの不活性ガス(例えば、窒素ガス)で加圧することにより、レジスト薬液をサブタンク92へ導出させるようになっていてもよい。
【0014】
サブタンク92は、薬液ボトル91から導出されたレジスト薬液をフィルター装置1へ導くとともに、薬液ボトル91における薬液切れを感知する。サブタンク92は、薬液切れを感知すると、所定の報知部(例えば、ランプやブザー)を介して薬液切れを報知する。
【0015】
フィルター装置1は、サブタンク92から導かれたレジスト薬液中のメタル不純物を除去する。フィルター装置1は、メタル不純物の除去されたレジスト薬液をサブタンク93へ導く。フィルター装置1内の構成については、後述する。
【0016】
サブタンク93は、フィルター装置1から導かれたレジスト薬液を一時的に蓄えた後、そのレジスト薬液がチューブフラムポンプ94へ吸い込まれる。
【0017】
チューブフラムポンプ94は、サブタンク93から吸い込んだレジスト薬液をバルブ95側へ送り出す。なお、チューブフラムポンプ94は、サブタンク93内のレジスト薬液を吸い込んでバルブ95側へ送り出すことが可能なポンプであれば他の方式のポンプであっても良い。
【0018】
バルブ95は、開度を調整可能な調整弁であり、後段の塗布装置96におけるレジスト薬液の吐出量に応じた開度に調整されている。バルブ95は、チューブフラムポンプ94から送り出されたレジスト薬液を、調整された開度に対応した流量で塗布装置96へ導く。
【0019】
塗布装置96は、半導体基板WFが載置され半導体基板WFを支持するためのステージ96bと、バルブ95を経てチューブフラムポンプ94から送り出されたレジスト薬液を半導体基板WFに向けて吐出するためのノズル96aとを有する。塗布装置96では、ステージ96bが半導体基板WFを支持するとともにステージ96b及び半導体基板WFが回転した状態で、ノズル96aから半導体基板WFに向けてレジスト薬液を塗布する(スピンコートする)。これにより、レジスト薬液(感光性物質)を被加工膜上に堆積しレジスト膜を形成する。なお、塗布装置96は、スリットノズル法など回転塗布法以外の方法で、半導体基板WF上にレジスト薬液を塗布しても良い。
【0020】
その後、レジスト膜の形成された半導体基板WFが塗布装置96から露光装置(図示せず)へ搬送され、露光装置によりレジスト膜の所定の領域に露光を施しレジスト膜に潜像を形成する。次いで、レジスト膜に潜像の形成された半導体基板WFが露光装置から現像装置へ搬送され、現像装置により、レジスト膜の露光部(レジストがポジ型の場合)または未露光部(レジストがネガ型の場合)を除去する現像処理を行ってレジストパターンを形成する。さらに、レジストパターンの形成された半導体基板WFが現像装置からエッチング装置へ搬送され、エッチング装置により、レジストパターンをエッチングマスクとして被加工膜をドライエッチングする。これにより、被加工膜が所望のパターンにパターニングされる。
【0021】
以上の処理は、半導体基板WF上に被加工膜が堆積されるたびに、繰り返し行なわれる。半導体基板WF上に被加工膜を堆積する処理は、上記のドライエッチングが行われた後に、半導体基板WFが成膜装置へ搬送されて行なわれる。
【0022】
なお、実施形態に係るフィルター装置1の適用例は、このような薬液塗布システム100に限定されず、薬液中のメタル不純物を除去することが必要とされるシステムであればどのようなシステムに適用されても良い。
【0023】
次に、実施形態に係るフィルター装置1について図2及び図3を用いて説明する。図2(a)は、フィルター装置1の外観を示す図である。図2(b)は、フィルター装置1の鉛直方向の断面構成を示す図である。図2(c)は、フィルター装置1の水平方向の断面構成を示す図である。図3は、フィルター装置1の水平方向の断面構成を拡大して示す図である。
【0024】
フィルター装置1は、導入配管60、フィルターカートリッジ50、排出配管70、及びハウジング10を備える。
【0025】
導入配管60は、フィルターカートリッジ50の外周面50aとハウジング10の内周面10bとの間の空間10aに連通されている。導入配管60は、サブタンク92から導かれたレジスト薬液を空間10aへ導入する。
【0026】
フィルターカートリッジ50は、ハウジング10内に着脱可能に設置されている。フィルターカートリッジ50は、サブタンク92(図1参照)から導かれたレジスト薬液中のメタル不純物を除去するためのユニットである。フィルターカートリッジ50は、交換タイミングに到達した際に新しいものに交換される。
【0027】
具体的には、図2(b)に示すように、フィルターカートリッジ50は、アウターケージ40、フィルターエレメント20、インナーコアケージ30、及び排出口50bを有している。
【0028】
アウターケージ40は、フィルターエレメント20の外側からフィルターエレメント20を保護するとともに保持している。アウターケージ40は、例えば、インナーコアケージ30より径の大きい略円筒形状であり、その側面にレジスト薬液をフィルターエレメント20側へそれぞれ通過させるための複数の穴40a(図3参照)が形成されている。
【0029】
フィルターエレメント20は、アウターケージ40の内周面40bとインナーコアケージ30の外周面30cとの間の略円筒状の空間40c内に配されている。フィルターエレメント20は、例えば、シート状の部材であり、プリーツ状に折り畳まれた状態で空間40c内に配されている。フィルターエレメント20は、アウターケージ40の穴40aを通過したレジスト薬液中のメタル不純物を除去するフィルタリング動作を行い、メタル不純物の除去されたレジスト薬液をインナーコアケージ30側へ通過させる。
【0030】
インナーコアケージ30は、フィルターエレメント20の内側からフィルターエレメント20を保護するとともに保持している。インナーコアケージ30は、例えば、アウターケージ40より径の小さい略円筒形状であり、その側面にレジスト薬液を内側の空間30bへそれぞれ通過させるための複数の穴30a(図3参照)が形成されている。空間30bには、メタル不純物の除去されたレジスト薬液が導かれる。
【0031】
排出口50bは、インナーコアケージ30の内側の空間30bに連通されている。排出口50bは、空間30bから導かれた、メタル不純物の除去されたレジスト薬液を排出配管70へ排出する。
【0032】
排出配管70は、フィルターカートリッジ50の排出口50bに連通されている。排出配管70は、フィルターカートリッジ50の排出口50bから排出されたレジスト薬液をサブタンク93(図1参照)へさらに排出する。
【0033】
ハウジング10は、フィルターカートリッジ50の外側に設けられている。ハウジング10は、フィルターカプセルとも呼ばれる。ハウジング10内には、フィルターカートリッジ50が設置された状態で、フィルターカートリッジ50の外周面50aとハウジング10の内周面10bとの間に空間10aが形成されている。
【0034】
また、ハウジング10は、外部からフィルターエレメント20を観察するための窓11を有している。上記のように、フィルターエレメント20の外側に配されているアウターケージ40は複数の穴40aを有している。これにより、窓11及び穴40aを介して外部からフィルターエレメント20を観察することができる。
【0035】
なお、窓11が設けられる位置は、外部からフィルターエレメント20を観察することが可能な位置であれば、ハウジング10における側部であってもよいし、ハウジング10における底部であってもよいし、ハウジング10における上部であってもよい。
【0036】
次に、フィルターエレメント20の構成について図3を用いて説明する。
【0037】
フィルターエレメント20は、第1のサポート材21、第2のサポート材22、及びフィルター膜(フィルターメンブレン)23を有する。フィルターエレメント20は、フィルター膜23の両面が第1のサポート材21及び第2のサポート材22により挟み込まれた構造(すなわち複合膜)となっている。
【0038】
第1のサポート材21は、フィルター膜23における外側の面を支持している。第1のサポート材21は、例えば、目の粗いメッシュ状に編んだナイロン樹脂等の繊維で形成されている。第1のサポート材21における目の粗さは、フィルター膜23を支持するのに充分であるとともにフィルター膜23の色を第1のサポート材21の外側から目視可能な粗さである。また、第1のサポート材21の色は、白色もしくは透明である。
【0039】
第2のサポート材22は、フィルター膜23における内側の面を支持している。第2のサポート材22は、例えば、目の粗いメッシュ状に編んだナイロン樹脂等の繊維で形成されている。第2のサポート材22における目の粗さは、フィルター膜23を支持するのに充分な粗さである。また、第2のサポート材22の色は、白色もしくは透明である。
【0040】
フィルター膜23は、第1のサポート材21と第2のサポート材22とにより挟まれている。フィルター膜23は、導入されたレジスト薬液中のメタル不純物を物理的に吸着することにより、メタル不純物の除去されたレジスト薬液を通過させる。フィルター膜23は、例えば、目の細かいグラスファイバー等の繊維で形成されている。フィルター膜23における目の細かさは、レジスト薬液中のメタル不純物を除去するのに充分な細かさである。また、フィルター膜23は、メタルイオンの吸着量(すなわち、化学的に吸着したメタルイオンの数)に応じて色が変化する物質を含んでいる。例えば、フィルター膜23における繊維の表面には、ナイロン樹脂等がコーティングされていることに加えて、メタルイオンの吸着量に応じて色が変化する物質がコーティングされている。フィルター膜23では、メタル不純物の物理的な吸着量が増えるに従って、メタルイオンの化学的な吸着量(化学的に吸着したメタルイオンの数)も増えるものと考えられる。
【0041】
メタルイオンの吸着量に応じて色が変化する物質は、例えば、イオノクロミズムの性質を有する有機分子を複数含む。このような有機分子は、メタルイオンの化学的な吸着(例えば、配位結合)に応じて色が変化する有機分子であり、例えば、下記の化1で表されるポルフィリンを含む。
【化1】

このポルフィリンは、鉄イオンが配位結合していない状態で、濃緑色〜濃青色の物質である。ポルフィリンは、中心に鉄イオンが配位結合すると、赤色の物質である、下記の化2で表されるポルフィリン錯体になる。すなわち、ポルフィリンは、鉄イオンが配位結合することにより、濃緑色〜濃青色から、赤色へと変化する。
【化2】

【0042】
ここで、フィルター膜23における繊維の表面にコーティングされた物質のうち、ナイロン樹脂等が白色もしくは透明であるので、鉄イオンが吸着していない状態のフィルター膜23は、例えば、薄青色である。そして、フィルター膜23は、鉄イオンの吸着量が増えるに従って(ポルフィリンの全分子における鉄イオンが配位結合して赤色へ変化するポルフィリンの分子数が増えるに従って)、薄青色→薄赤色→赤色と変化していく。
【0043】
このとき、上記のように、第1のサポート材21における繊維の目の粗さがフィルター膜23の色を第1のサポート材21の外側から目視可能な粗さであるので、フィルターエレメント20を外側から見ると、第1のサポート材21における繊維の間からフィルター膜23の色を確認できる。
【0044】
すなわち、上記のように、窓11及び穴40aを介して外部からフィルターエレメント20を観察することができるので、窓11及び穴40aを介して、フィルター膜23に含まれた物質の色を外部から観察することができる。また、上記のように、フィルター膜23では、メタル不純物の物理的な吸着量が増えるに従って、メタルイオンの化学的な吸着量(化学的に吸着したメタルイオンの数)も増えるものと考えられるので、メタルイオンの化学的な吸着量に対応したフィルター膜23に含まれた物質の色を観察することにより、メタル不純物の物理的な吸着量の飽和すなわちフィルターエレメント20の除去性能の劣化を確認できることが予想される。
【0045】
そこで、本発明者は、実施形態に係るフィルター装置1を用いて、フィルターエレメント20(におけるフィルター膜23)の色とフィルターエレメント20の除去性能の劣化との相関について評価を行なった。
【0046】
フィルターエレメント20の色は、フィルター装置1を6ヶ月間使用した所で、薄青色→薄赤色へと変化した。フィルターエレメント20の色は、フィルター装置1を8ヶ月間使用した所で、薄赤色→赤色へと変化し、それ以上の色変化を示さなくなった。
【0047】
フィルターエレメント20の色の観察と並行して、フィルター装置1を用いて製造された半導体装置に対して、電気的特性の検査及び光学顕微鏡により検査を行った。こうして得られた欠陥トレンドデータによると、フィルター装置1を8ヶ月間使用した後から、ライン系パターンでのブリッジ欠陥(ショート不良)の増加傾向が確認され、フィルターエレメント20の除去性能の劣化が確認された。
【0048】
そこで、フィルター装置1を8ヶ月間使用した後におけるフィルターエレメント20のフィルター膜23の分析を行なった結果、フィルター膜23に含まれたポルフィリンに鉄イオンが配位結合し、鉄ポルフィリン錯体が形成されている事が確認された。すなわち、フィルターエレメント20の適切な交換タイミングは、フィルターエレメント20が赤色へ変化して定着する時期(約8ヵ月後)であることが確認された。
【0049】
ここで、仮に、フィルター装置1において、フィルターエレメント20のフィルター膜23に、メタルイオンの吸着量に応じて色が変化する物質が含まれていない場合について考える。この場合、フィルターエレメント20の除去性能の劣化を把握できないので、フィルターエレメントの適切な交換タイミングを把握しにくい。
【0050】
このとき、経験的に決めた一定の交換周期が経過した時点を交換タイミングとすることになる。これにより、例えば、基準となる1つのフィルター装置で経験的に決めた交換周期(例えば、1年)を別のフィルター装置にそのまま適用した際に、フィルターエレメント20の除去性能の劣化が発生してからも別のフィルター装置を所定の期間使用し続けることになり得る。この結果、フィルターエレメントの除去性能の劣化によるパターン不良等の不具合が多発する傾向にある。あるいは、例えば、複数のフィルター装置の間におけるフィルターエレメントの除去性能の劣化が一番早いケースの使用期間を基準にその使用期間からマージンとなる期間を除いた期間を交換周期(例えば、4ヶ月)に設定して各フィルター装置に適用した際に、フィルターエレメント20の除去性能が劣化していないにもかかわらず、フィルターエレメント20を頻繁に交換することになる。この結果、フィルター装置の運用コストが増大する傾向にある。
【0051】
それに対して、実施形態では、フィルター装置1において、フィルターエレメント20のフィルター膜23に、メタルイオンの吸着量に応じて色が変化する物質が含まれている。これにより、フィルターエレメント20の色の変化を観察することで、フィルターエレメント20の除去性能の劣化を把握することができるので、フィルターエレメント20の適切な交換タイミングを把握することができる。
【0052】
この結果、メタル不純物を含むレジスト薬液が塗布装置96へ供給されることを回避できるので、塗布装置96において、確実に、メタル不純物の除去されたレジスト薬液を半導体基板WF上に塗布させることができる。
【0053】
特に、メタルイオンの吸着量に応じて色が変化する物質は、イオノクロミズムの性質を有する有機分子を複数含んでいる。これにより、メタルイオンの吸着量に応じて色が変化する物質を、フィルターエレメント20のフィルター膜23に簡易に含ませることができる。例えば、フィルター膜23における繊維の表面にコーティングすることで、フィルターエレメント20のフィルター膜23に簡易に含ませることができる。
【0054】
具体的には、メタルイオンの吸着量に応じて色が変化する物質は、ポルフィリンを複数含んでいる。フィルターエレメント20のフィルター膜23は、鉄イオンの吸着量が増えるに従って(ポルフィリンの全分子における鉄イオンが配位結合して赤色へ変化するポルフィリンの分子数が増えるに従って)、薄青色→薄赤色→赤色と変化していく。すなわち、フィルター膜23に含まれた物質が、フィルターエレメント20の色の変化が観察しやすい物質になっている。
【0055】
あるいは、仮に、フィルター装置1において、フィルターエレメント20の除去性能の劣化を把握するために、インナーコアケージ30の内側の空間30b又は排出配管70内に、測定器を設けてメタルイオンの濃度を測定する場合について考える。この場合、測定器に加えて、測定器を保持する部材が必要になり、さらに測定器による測定値を外部に取り出すための配線も必要になる。これにより、フィルター装置1の構成が複雑になるので、フィルター装置1の製造コストが増大する傾向にある。
【0056】
それに対して、実施形態では、ハウジング10が、外部からフィルターエレメント20を観察するための窓11を有している。これにより、窓11及び穴40aを介して外部からフィルターエレメント20を観察することができるので、窓11及び穴40aを介して、フィルター膜23に含まれた物質の色を外部から観察することができる。この結果、フィルター装置1の構成を複雑にすることなく、フィルターエレメント20の除去性能の劣化を把握することができる。すなわち、フィルター装置1の構成を複雑にすることを避けることができるので、フィルター装置1の製造コストの増大を抑制できる。
【0057】
なお、フィルターエレメント20において、メタルイオンの吸着量に応じて色が変化する物質が含まれているのは、フィルター膜23である代わりに第1のサポート材21であってもよい。あるいは、フィルターエレメント20において、メタルイオンの吸着量に応じて色が変化する物質が含まれているのは、第1のサポート材21とフィルター膜23との両方であっても良い。
【0058】
メタルイオンの吸着量に応じて色が変化する物質は、ポルフィリン以外のポルフィリン誘導体の有機分子を複数含んでもよい。ポルフィリン誘導体は、例えば、アミノポルフィリン、ポルフィリンスルホン酸、ポルフィリン系色素などであってもよい。
【0059】
あるいは、メタルイオンの吸着量に応じて色が変化する物質は、ポルフィリン又はポルフィリン誘導体に代えて、下記の化3で表されるフタロシアニン又はフタロシアニン誘導体を含んでも良い。フタロシアニン誘導体は、フタロシアニン系色素であってもよい。
【化3】

このフタロシアニンは、マグネシウムイオンが配位結合していない状態で、青色の物質である。フタロシアニンは、中心にマグネシウムイオンが配位結合すると、緑色の物質である、下記の化4で表されるフタロシアニン錯体になる。すなわち、フタロシアニンは、マグネシウムイオンが配位結合することにより、青色から、緑色へと変化する。
【化4】

この場合、フィルター膜23は、マグネシウムイオンの吸着量が増えるに従って(フタロシアニンの全分子におけるマグネシウムイオンが配位結合して緑色へ変化するフタロシアニンの分子数が増えるに従って)、薄青色→薄緑色→緑色と変化していく。
【0060】
あるいは、メタルイオンの吸着量に応じて色が変化する物質は、ポルフィリン(誘導体)とフタロシアニン(誘導体)との両方を含んでも良い。この場合、例えば、フィルターエレメント20におけるその物質が含まれた部材(第1のサポート材21及びフィルター膜23の少なくとも一方)は、ポルフィリン(誘導体)が含まれた第1の部分と、フタロシアニン(誘導体)が含まれた第2の部分とを有していても良い。この場合、第1の部分の色変化(青色→赤色)と第2の部分の色変化(青色→緑色)との双方を考慮して、フィルターエレメント20の除去性能の劣化を把握することができる。
【0061】
あるいは、メタルイオンの吸着量に応じて色が変化する物質は、下記の化5で表される4,4‘−[(エチレンジオキシ)ビス(エチレンオキシ)]ビス[1−(2−イミダゾ[4,5−f]−1,10−フェナンスロリン)ベンゼン]であってもよい。
【化5】

この化5で表される有機分子は、マグネシウムイオンが包摂されていない状態で、青色の物質である。化5で表される有機分子は、マグネシウムイオンがエーテル結合部(−O−O−O−O−)で包摂されると、緑色の物質である、下記の化6で表される有機分子になる。すなわち、化5で表される有機分子は、マグネシウムイオンが包摂されることにより、青色から、緑色へと変化する。
【化6】

この場合、フィルター膜23は、マグネシウムイオンの吸着量が増えるに従って(化5で表される有機物の全分子におけるマグネシウムイオンが配位結合して緑色へ変化する化5で表される有機物の分子数が増えるに従って)、薄青色→薄緑色→緑色と変化していく。
【0062】
また、有機分子が吸着する対象となるメタルイオンは、鉄イオンやマグネシウムイオン以外のメタルイオンであってもよい。
【0063】
例えば、フィルター膜23にジフェニルカルジバドが含まれている場合、カドミウムイオンの吸着量が増えるに従って(ジフェニルカルジバドの全分子におけるカドミウムイオンが配位結合して赤色へ変化するジフェニルカルジバドの分子数が増えるに従って)、白色→薄赤色→赤色と変化していく。
【0064】
例えば、フィルター膜23にジフェニルジチオカルジバドが含まれている場合、ビスマスイオンの吸着量が増えるに従って(ジフェニルジチオカルジバドの全分子におけるビスマスイオンが配位結合して赤茶色へ変化するジフェニルジチオカルジバドの分子数が増えるに従って)、灰色→薄赤茶色→赤茶色と変化していく。
【0065】
例えば、フィルター膜23にピロガロールレッドが含まれている場合、アンチモンイオンの吸着量が増えるに従って(ピロガロールレッドの全分子におけるアンチモンイオンが配位結合して赤茶色へ変化するピロガロールレッドの分子数が増えるに従って)、薄茶色→薄赤茶色→赤茶色と変化していく。
【0066】
例えば、フィルター膜23にジチゾンが含まれている場合、鉛イオンの吸着量が増えるに従って(ジチゾンの全分子における鉛イオンが配位結合してオレンジ色へ変化するジチゾンの分子数が増えるに従って)、白色→薄オレンジ色→オレンジ色と変化していく。
【0067】
例えば、フィルター膜23にテトラフェニルポルフィンテトラスルホン酸が含まれている場合、カドミウムイオンの吸着量が増えるに従って(テトラフェニルポルフィンテトラスルホン酸の全分子におけるカドミウムイオンが配位結合して緑色へ変化するテトラフェニルポルフィンテトラスルホン酸の分子数が増えるに従って)、薄黄色→薄緑色→緑色と変化していく。
【0068】
例えば、フィルター膜23にα、β、γ、δ−テトラキスメチルピリジルポルフィンが含まれている場合、水銀イオンの吸着量が増えるに従って(α、β、γ、δ−テトラキスメチルピリジルポルフィンの全分子における水銀イオンが配位結合してオレンジ色へ変化するα、β、γ、δ−テトラキスメチルピリジルポルフィンの分子数が増えるに従って)、薄緑色→薄オレンジ色→オレンジ色と変化していく。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1 フィルタ装置、 10 ハウジング、 10a 空間、 10b 内周面、 11 窓、 20 フィルターエレメント、 21 第1のサポート材、 22 第2のサポート材、 23 フィルター膜、 30 インナーコアケージ、 30a 穴、 30b 空間、 30c 外周面、 40 アウターケージ、 40a 穴、 40b 内周面、 40c 空間、 50 フィルターカートリッジ、 50a 外周面、 50b 排出口、 60 導入配管、 70 排出配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルター膜と前記フィルター膜を支持するサポート材とを有するフィルターエレメントを備え、
前記フィルター膜と前記サポート材との少なくとも一方は、メタルイオンの吸着量に応じて色が変化する物質を含んでいる
ことを特徴とするフィルター装置。
【請求項2】
前記物質は、イオノクロミズムの性質を有する有機分子を複数含む
ことを特徴とする請求項1に記載のフィルター装置。
【請求項3】
前記有機分子は、ポルフィリン、フタロシアニン、及びそれらの誘導体の少なくともいずれかを含む
ことを特徴とする請求項2に記載のフィルター装置。
【請求項4】
前記フィルターエレメントの外側に設けられたハウジングをさらに備え、
前記ハウジングは、外部から前記物質の色を観察するための窓を有する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のフィルター装置。
【請求項5】
薬液中のメタル不純物を除去するための請求項1から4のいずれか1項に記載のフィルター装置と、
前記フィルター装置によりメタル不純物の除去された薬液を基板上に塗布する塗布装置と、
を備えたことを特徴とする薬液塗布システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−40537(P2012−40537A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186477(P2010−186477)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】