説明

フィルタ用不織布濾材、その製造方法およびエアフィルタ

【課題】塗装ブースに提供される空気を清浄するために使用する塗装ブース用エアフィルタに用いられ、空気の整流効果と粉塵の捕捉性能に優れ、しかも振動によっても粉塵の付着保持性能に優れる不織布濾材、その製造方法および塗装ブース用エアフィルタを提供する。
【解決手段】繊度が1〜100デシテックスの高融点ポリエステル短繊維10〜90重量%と、繊度が1〜100デシテックスの熱融着ポリエステル短繊維10〜90重量%とからなり、かつ目付重量が100〜500g/m、厚みが10〜30mmのサーマルボンド不織布を構成する繊維表面全面に、水系粘着性樹脂を付着してなることを特徴とするフィルタ用不織布濾材など。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ用不織布濾材、その製造方法およびエアフィルタに関し、より詳しくは、塗装ブースに提供される空気を清浄するために使用する塗装ブース用エアフィルタに用いられる不織布濾材、その製造方法および塗装ブース用エアフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗装ブース用エアフィルタの流入面に、スプレー方式やローラー接触方式でオイル剤やリン系難燃剤を塗布して、粉塵を捕集させるとともに、粉塵の再飛散の防止にある程度の効果を挙げている。しかし、未だ性能的に十分でなく、改良が要望されている。
【0003】
また、フィルタに粘着剤を塗布して、粉塵を捕捉する方法も、検討され、種々の技術が開示されている(例えば、特許文献1〜3等参照。)。
上記特許文献1には、低密度層から高密度層へと密度勾配を有した、少なくとも2層以上の繊維層から成るエアフィルタ用ろ材であって、上記高密度層の主として最上部分に、粘着性を有する水系熱可塑性樹脂からなる多孔質膜状の粘着部が設けられたことを特徴とするエアフィルタ用ろ材が開示されている。
また、特許文献2には、自動車、精密機械、電気部品、食品等の製造工場で発生するダスト、粉塵、塗料ミスト等を捕捉するためのダスト等吸着用フィルタにおいて、前記ダスト等吸着用フィルタは、平板状の不織布からなるフィルタ状基材の少なくとも片面に粘着層が形成されてあることを特徴とするダスト等吸着用フィルタが開示されている。
さらに、特許文献3には、平均空隙率が94〜97%であって、その全部に0.4〜5.0重量%のシリコーン系樹脂が固着された繊維層と、平均密度が0.1〜0.27g/cmの繊維基材層とを備え、前記繊維層と前記繊維基材層とを熱融着性接着剤により貼合わせて2層の濾材となしたことを特徴とする空気清浄器用濾材が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記の従来技術には、次のような問題点があった。
(i)塗装ブース用フィルタには、空気の整流と粉塵の捕捉といった機能が要求されている。そして、空気の整流は、塗装時の気流を安定させ塗装ムラを少なくするために、必用であり、また、粉塵の捕捉は、塗装表面に異物が付着するのを防ぐために、必用である。
空気の整流については、従来技術でも問題はないが、粉塵の捕捉については、振動により粉塵が流出するという問題があった。つまり、通常使用時でも、風圧による振動や、モーターなどの設備に由来する振動が、塗装ブース用フィルタには常に加えられており、これらの振動に対して十分な対策ができていないため、捕捉された粉塵が振動によって徐々に流出側に移動してしまい、最終的に粉塵が流出してしまう問題があった。
(ii)塗装ブース用フィルタのように密度が高く、厚みがあるフィルタにスプレー方式やローラー接触方式で粘着剤を塗布した場合、不織布の表面層に最も多くの粘着剤が付着してしまう。そのため、不織布表面の粘着性が著しく増大して、不織布表面にベタツキが起こり、取り扱いが困難になる上、離型紙やフィルム等が必用となる。また、粘着剤が不織布内部まで浸透しないので、不織布表面の粘着部分から内部へ移動した粉塵は、振動によって簡易に流出側へ抜けてしまうという問題があった。
(iii)特許文献2、3の方法では、二種類以上のシートを張り合わせるため、最低でも二工程以上を有し、また、二種類以上の材料が要求されるため、生産費用が高くなるという問題があった。
そのため、塗装ブース用フィルタとして、上記の問題点を解消した塗装ブース用フィルタが要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−42323号公報
【特許文献2】特開2008−29972号公報
【特許文献3】特公平7−22663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、塗装ブースに提供される空気を清浄するために使用する塗装ブース用エアフィルタに用いられ、空気の整流効果と粉塵の捕捉性能に優れ、しかも振動によっても粉塵の付着保持性能に優れる不織布濾材、その製造方法および塗装ブース用エアフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、高融点ポリエステル繊維と熱融着ポリエステル繊維からなり、目付重量と厚みが特定範囲のサーマルボンド不織布を構成する繊維表面全面に、不織布作製工程における、例えば、熱カレンダー工程の前に、浸漬やスプレーなどにより、不織布バインダーとは異なる別の目的で、水系粘着性樹脂を付着させると、空気の整流効果と粉塵の捕捉性能に優れ、しかも振動によっても粉塵の付着保持性能に優れる不織布が得られることを見出し、これらの知見により、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、繊度が1〜100デシテックスの高融点ポリエステル短繊維10〜90重量%と、繊度が1〜100デシテックスの熱融着ポリエステル短繊維10〜90重量%とからなり、かつ目付重量が100〜500g/m、厚みが10〜30mmのサーマルボンド不織布を構成する繊維表面全面に、水系粘着性樹脂を付着してなることを特徴とするフィルタ用不織布濾材が提供される。
【0009】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記サーマルボンド不織布を構成する繊維全量100重量部に対して、水系粘着性樹脂1〜20重量部を付着することを特徴とするフィルタ用不織布濾材が提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、前記水系粘着性樹脂がアクリル系樹脂であることを特徴とするフィルタ用不織布濾材が提供される。
【0010】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明に係るフィルタ用不織布濾材を用いてなることを特徴とする塗装ブース用エアフィルタが提供される。
【0011】
一方、本発明の第5の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明に係るフィルタ用不織布濾材の製造方法であって、次の工程(I)〜(III)を順次施すことを特徴とする不織布濾材の製造方法が提供される。
(I)ウェブ形成工程:高融点ポリエステル短繊維と熱融着ポリエステル短繊維を混合し、ウェブを形成する工程
(II)水系粘着性樹脂付着工程:形成されたウェブを、水系粘着性樹脂の水溶液もしくはエマルジョンに浸漬する工程または水系粘着性樹脂の水溶液もしくはエマルジョンをスプレーする工程
(III)サーマルボンド不織布作製工程:水系粘着性樹脂が付着したウェブを、エアースルー法、加熱カレンダー法または超音波法により、熱溶融し、繊維間結合して、サーマルボンド不織布を作製する工程
【発明の効果】
【0012】
本発明のフィルタ用不織布濾材は、塗装ブース用エアフィルタに用いると、空気の整流効果と粉塵の捕捉性能に優れ、しかも振動によっても粉塵の付着保持性能に優れるという効果を奏する。
そのため、本発明のフィルタ用不織布濾材を用いた塗装ブース用エアフィルタは、従来の問題点を解消した優れた性能を有する。特に、塗装ブース用の供給空気の清浄化に好適なフィルタであるので、塗装表面の汚れの原因をなくし、塗装品質を向上せしめることができる。
また、本発明のフィルタ用不織布濾材の製造方法は、簡便な方法により、安価で優れた性能の不織布濾材を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のフィルタ用不織布濾材の製造工程の態様を示す概念図である。
【図2】本発明のフィルタ用不織布濾材の製造工程の別の態様を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のフィルタ用不織布濾材は、繊度が1〜100デシテックスの高融点ポリエステル短繊維10〜90重量%と、繊度が1〜100デシテックスの熱融着ポリエステル短繊維10〜90重量%とからなり、かつ目付重量が100〜500g/m、厚みが10〜30mmのサーマルボンド不織布を構成する繊維表面全面に、水系粘着性樹脂を付着してなることを特徴とする。
以下、不織布濾材、その製造方法および塗装ブース用エアフィルタなどについて、項目毎に、説明する。
【0015】
1.サーマルボンド不織布
本発明に係るサーマルボンド不織布は、繊度が1〜100デシテックスの高融点ポリエステル短繊維10〜90重量%と、繊度が1〜100デシテックスの熱融着ポリエステル短繊維10〜90重量%とからなり、好ましくは、高融点繊維が40重量%〜85重量%の範囲を構成し、かつ高融点繊維の融点が熱融着性複合繊維の低融点成分の融点より50℃以上高いものである。
【0016】
(1)高融点ポリエステル短繊維
上記の高融点ポリエステル短繊維としては、特に制限はなく、熱融着性ポリエステル繊維以外の一般に製造販売されているポリエステル系短繊維を用いることができる。また、高融点繊維としては、ポリエステル以外のナイロンや、ポリプロピレン等の合成繊維を用いてもよい。
ただし、熱融着ポリエステル短繊維との接着性を考慮すれば、熱融着ポリエステル短繊維と接着性の良い材料が好ましい。
また、繊度は、1〜100デシテックスが好ましく、この範囲を外れると、フィルタ濾材としての性能が落ちる。
【0017】
(2)熱融着ポリエステル短繊維
また、上記の熱融着ポリエステル短繊維としては、低融点樹脂と高融点樹脂の融点差のある二種類の樹脂からなる芯鞘型、サイドバイサイド型構造の複合繊維などを用いることができる。また、熱融着性繊維、特に熱融着性複合繊維としては、芯鞘型、サイドバイサイド型構造で、ポリエステル系樹脂以外の、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリアミド系樹脂のいずれかの熱可塑性樹脂の高融点成分と低融点成分からなる複合繊維を用いることもできる。
具体例としては、ポリエステル繊維(融点250℃〜270℃程度)と、低融点ポリエステル繊維(融点100℃〜230℃程度)の複合繊維、エステル/ナイロン複合繊維、ポリエステル/ポリエチレン複合繊維、ポリプロピレン/ポリエチレン複合繊維などが挙げられ、特に高融点ポリエステルと、低融点ポリエステルとの複合繊維は、最も実用的である。この場合、複合繊維を構成する高融点成分の融点が低融点成分の融点より50℃以上、高いこと、また、低融点成分の融点が100℃〜200℃の範囲にあることが好ましい。
高融点成分の融点が低融点成分の融点より50℃未満であると、短繊維間の接着時に高融点繊維側も軟化して、所望のフィルタを得ることができない。また、低融点成分の融点が100℃未満であると、繊維間の接着を実施する処理条件が難しく、耐熱性の点から好ましくない。さらに、低融点成分の融点が200℃を超えると、高融点繊維の熱特性に影響し、フィルタ特性が変動するので好ましくない。
【0018】
熱融着ポリエステル繊維の混合比率は、10〜90重量%であり、10重量%以上とするのは、熱融着ポリエステル繊維の混合比率が10重量%未満の場合、繊維同士の接着交点が少なく、交点強力が弱く、表面が擦れると毛羽立ちが発生し易く、繊維の脱落の原因となる。そのため、熱融着ポリエステル繊維の混合比率は、10重量%以上が好ましい。一方、熱融着ポリエステル繊維の混合比率が90重量%を超えると、厚みが所望のものを得ることが困難になる。
特に、高融点ポリエステル短繊維の構成が40〜85重量%(すなわち、熱融着ポリエステル繊維の混合比率が15〜60重量%)であって、高融点ポリエステル短繊維の融点が熱融着性複合繊維の低融点成分の融点より50℃以上高いことが効果的である。高融点繊維の構成が40重量%未満であると、即ち、熱融着性複合繊維が60質量%を超えると、嵩高性(厚いものが得にくく)が乏しく、低初期圧損のフィルタが得にくい。一方、85質量%を超えると、熱融着性複合繊維が少ないため、嵩高いフィルタを得ても、すぐに型崩れし、へたってしまう。また、短繊維の抜けが生じ易くなり好ましくない。
【0019】
また、熱融着ポリエステル繊維の繊度は、1〜100デシテックスが好ましく、この範囲を外れると、フィルタ濾材としての性能が落ちる。特に、熱融着性複合繊維の繊度は、1〜10デシテックスの範囲がより好ましい。繊度が1デシテックス未満であると、濾過性能を有する充分な嵩高性のあるフィルタを得ることができない。一方、繊度が10デシテックスを超えると、繊維本数が減少し、繊維間接着点も減少して、嵩高性は得られるが、所望の濾過性能を有するフィルタを得ることができない。
【0020】
(3)サーマルボンド不織布
本発明において、水系粘着性樹脂が付着してなるサーマルボンド不織布は、目付重量が100〜500g/m、好ましくは200〜500g/m、厚みが10〜30mm程度、好ましくは15〜30mm程度である。
目付重量が100g/m未満では、満足する濾過性能を得ることができず、または満足したものができても濾過寿命が短くなるので好ましくない。一方、目付重量が500g/mを超えると、低初期圧損を得るのが難しい。
また、厚みが10mm未満では、粉塵保持容量が少なくなり、寿命が短くなる。一方、厚みが30mmを超えると、輸送に費用が掛かり、濾材を設置する枠に収まらないおそれがある。
【0021】
2.水系粘着性樹脂
本発明において、水系粘着性樹脂は、水のみを分散媒とする水系エマルジョン型(または水溶性)粘着剤といわれるものであって、安価であり、臭気の問題も少なく、環境にもやさしいため、用いられる。水系エマルジョン型粘着剤の樹脂(ポリマー)としては、アクリル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ゴム系ポリマー、それらの変成体、それらの共重合体などが好適に用いられる。また、水系粘着性樹脂として、上記以外では、エポキシ樹脂、テルペン樹脂、フェノール樹脂などの、乾燥後に粘着性のある水系熱可塑性樹脂でもよい。
また、難燃性を付加する場合は、水系粘着性樹脂に、リン系難燃剤を混合することが望ましい。
【0022】
さらに、水系粘着性樹脂である粘着剤には、本発明の効果を阻害しない範囲で、一般に用いられる添加剤、例えば、ロジン、テルペン等の粘着付与樹脂、防腐剤、増粘剤の他、イソシアネート、エポキシ等の硬化剤などを併用してもよい。
【0023】
本発明では、水系粘着性樹脂の付着量は、サーマルボンド不織布を構成する繊維全量100重量部に対して、1〜20重量部程度が好適である。
【0024】
また、水系粘着性樹脂の付着方法は、水系粘着性樹脂を薄く繊維表面全体に付着させるため、ディップ方式またはスプレー方式にて、好ましくはディップ方式にて行うのが望ましい。
不織布ウェブ、若しくは、すでに熱処理されたサーマルボンド不織布全体に、水系粘着性樹脂を含浸させ、マングルロール等で絞って、所定量を付着させ、乾燥工程にて、水分を蒸発させる。熱処理されたサーマルボンド不織布全体より、不織布ウェブで行う方が、工程数が少なくなり、コストが低減されるので、より望ましい。
【0025】
3.フィルタ用不織布濾材の製造方法
本発明のフィルタ用不織布濾材の製造方法は、特に限定されないが、好ましくは、次の工程(I)〜(III)を順次施すことを特徴とする。
(I)ウェブ形成工程:高融点ポリエステル短繊維と熱融着ポリエステル短繊維を混合し、ウェブを形成する工程
(II)水系粘着性樹脂付着工程:形成されたウェブを、水系粘着性樹脂の水溶液もしくはエマルジョンに浸漬する工程または水系粘着性樹脂の水溶液もしくはエマルジョンをスプレーする工程
(III)サーマルボンド不織布作製工程:水系粘着性樹脂が付着したウェブを、エアースルー法、加熱カレンダー法または超音波法により、熱溶融し、繊維間結合して、サーマルボンド不織布を作製する工程
【0026】
(I)ウェブ形成工程
本発明においては、通常、乾式法でウェブを形成する。具体的には、数cm長にカットした、高融点ポリエステル短繊維と、例えば、芯鞘型の熱融着ポリエステル短繊維とを、所望の割合で混合し、その混合繊維を、開綿機とカーディング機(カードまたはエアランダム機)を用いて、ウェブを紡出し、ウェブを形成する工程である。
【0027】
(II)水系粘着性樹脂付着工程
水系粘着性樹脂付着工程は、具体的には、ウェブを、濃度1〜10%の粘着剤溶液に含浸して、所望の付着量になるように、絞りロールの圧力を調整する工程、または、スプレーにてウェブ上方から、粘着剤溶液の散布を行う工程である。
【0028】
(III)サーマルボンド不織布作製工程
サーマルボンド不織布作製工程では、粘着剤の付着したウェブをコンベアでドライヤーに搬入する。そして、ドライヤーでは、ウェブを乾燥させるとともに、熱融着ポリエステル短繊維を融かして融着させる必用があるため、熱融着ポリエステル短繊維の鞘部の融点より、20℃以上高い温度が望ましい。また、乾燥と融着を両方行うため、時間が必要である。
【0029】
4.フィルタ用不織布濾材の用途(塗装ブース用エアフィルタ)
本発明のフィルタ用不織布濾材は、特定のサーマルボンド不織布と水系粘着性樹脂の効果が相俟って、例えば、塗装ブース用エアフィルタに用いると、空気の整流効果と粉塵の捕捉性能に優れ、しかも振動によっても粉塵の付着保持性能に優れるという効果を発揮する。したがって、本発明のフィルタ用不織布濾材を用いた塗装ブース用エアフィルタは、特に、塗装ブース用の供給空気の清浄化に好適なフィルタであるので、塗装表面の汚れの原因をなくし、塗装品質を向上せしめることができる。
また、本発明のフィルタ用不織布濾材は、優れた性能を有するので、塗装ブース用エアフィルタのみならず、例えば、空調機、タービン、クリーンルーム内エアーの循環用フィルタ等のエアフィルタ濾材や、自動車の車室内吸気および循環用として好適なエアフィルタ濾材にも適用できる。
【実施例】
【0030】
本発明を、図及び実施例により説明する。
図1、2は、本発明に基づく実施例1、2に用いた製造工程の概略図である。
【0031】
[実施例1]
次の繊維構成で、表面が平滑なサーマルボンド法の不織布濾材を作製した。
高融点ポリエステル繊維として、ポリエチレンテレフタレート系ポリエステル繊維(繊度=6.6デシテックス、融点270℃)を80重量%用い、熱融着ポリエステル繊維として、芯成分が融点255℃のポリエステル樹脂で、鞘成分が融点110℃のポリエステル樹脂から形成された芯鞘型の熱融着ポリエステル系繊維(繊度=2.2デシテックス)を20重量%用い、混合した。
次に、開綿機とカーディング機10を用いて、ウェブ1を紡出し、さらに、これを重ね合わせて目的の重量とし、ディップ加工機11を用いて、粘着剤として、(丸菱油化工業(株)製の「コアッテクス」)である変性アクリル樹脂5%濃度液に、ウェブ1を含浸させ、絞りロール12で絞り、搬送コンベアを用いて加熱炉13内に導入した。
濾材の厚み方向の中心温度が140℃になる温度で加熱炉13内にて加熱し、目付重量350g/m(内、粘着剤20g/m)、厚み20mmのサーマルボンド不織布濾材2を得た。
【0032】
この不織布濾材を20cm角にカットして、流入側にJIS 15種粉塵0.1gを直径2cm円状に均一に散布して、1cmの高さから300回の落下振動試験を行った結果、粉塵の流失は見られなかった。
ここで、上記の落下振動試験は、以下の要領で実施した。
落下振動試験は、試験フィルタに強弱の振動を一定のサイクルを繰り返し、加えた。そして、この振動は、一定間隔で自動的に動くアームがある試験装置により行った。また、このアームは、連続したストレスを1分間に200回の上下に動き、予め決められたサイクル迄(今回は、300回)まで振動させて通過した粉末(フィルタを通り抜けた粉末の粒子の数)を数えることにより、評価したものである。
【0033】
また、JIS B−9908形式3に準じた試験方法において評価すると、質量法による粒子捕集平均効率が94.4%であり、濾過寿命は、粉塵捕集量651g/mであった。
なお、試験条件は、風速0.5m/sec、最終の圧力損失390Paとした。また、この不織布の初期の圧力損失は、23.5Paであった。
また、この不織布をJIS L−1091 A−1法に準じた難燃試験法で評価すると、難燃性の評価値が区分3であり、塗装ブース用フィルタとして要求される難燃性を有していた。
このように、実施例1で得られた不織布濾材は、塗装ブース用フィルタとして好適な塗装ブース用フィルタであった。
【0034】
[実施例2]
高融点ポリエステル繊維として、ポリエチレンテレフタレート系ポリエステル繊維(繊度=6.6デシテックス、融点270℃)を80重量%用い、熱融着ポリエステル繊維として、芯成分が融点255℃のポリエステル樹脂で、鞘成分が融点110℃のポリエステル樹脂から形成された芯鞘型の熱融着ポリエステル系繊維(繊度=2.2デシテックス)を20重量%用い、混合した。
次に、開綿機とカーディング機10を用いて、ウェブ1を紡出し、さらにこれを重ね合わせて目的の重量とし、スプレー加工機14を用いて、粘着剤として、(丸菱油化工業(株)製の「コアッテクス」)である変性アクリル樹脂5%濃度液をウェブ1上に散布し、搬送コンベア12を用いて加熱炉13内に導入した。
濾材の厚み方向の中心温度が140℃になる温度で加熱炉13内にて加熱し、重量350g/m(内、粘着剤20g/m)、厚みが20mmのサーマルボンド不織布濾材3を得た。
【0035】
この不織布を20cm角にカットして、実施例1と同様に、流入側にJIS 15種粉塵0.1gを直径2cm円状に均一に散布して、1cmの高さから300回の落下振動試験を行った結果、微量ではあるが粉塵の流失がみられた。
また、JIS B−9908形式3に準じた試験方法において評価すると、質量法による粒子捕集平均効率が94.4%であり、濾過寿命は、粉塵捕集量651g/mであった。
なお、試験条件は、風速0.5m/sec、最終の圧力損失390Paとした。また、この不織布の初期の圧力損失は23.5Paであった。
また、この不織布をJIS L−1091 A−1法に準じた難燃試験法で評価すると、難燃性の評価値が区分3であり、塗装ブース用フィルタとして要求される難燃性を有していた。
このように、比較例1で得られた不織布は、総合的に判断して、塗装ブース用フィルタとして好適な塗装ブース用フィルタであった。
【0036】
[比較例1]
粘着剤を付加しないこと以外、実施例1と同様の加工により、不織布を作製した。
この不織布を20cm角にカットして、実施例1と同様に、流入側にJIS 15種粉塵0.1gを直径2cm円状に均一に散布して、1cmの高さから300回の落下振動試験を行った結果、著しい粉塵の流失がみられた。
よって、比較例2で得られた不織布は、塗装ブース用フィルタとして不適な塗装ブース用フィルタであった。
実施例1、2及び比較例1の概要と、評価結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のフィルタ用不織布濾材は、好ましくは、塗装ブース用フィルタに用いられ、使用時に粉塵離脱による粉塵の飛散が防止されるように、加工されたものである。そのため、塗装ブース用フィルタ以外にも、空調機、タービン、クリーンルーム内エアーの循環用フィルタ等のエアフィルタ濾材として利用可能である。
また、本発明のフィルタ用不織布濾材の製造方法では、その製造工程が不織布生産に連結一貫し、且つ、単一層構成であるので、工程が簡略化される点において、産業上の利用の可能性が高い。
【符号の説明】
【0039】
1 短繊維ウェブ
2 ディップ加工で粘着剤を付着させたサーマルボンド短繊維不織布
3 スプレー加工で粘着剤を付着させたサーマルボンド短繊維不織布
10 カーディング紡出機(またはカーディング機)
11 ディップ加工機
12 絞りロール
13 乾燥・加熱炉
14 スプレー加工機
15 巻き取り製品(ロール)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊度が1〜100デシテックスの高融点ポリエステル短繊維10〜90重量%と、繊度が1〜100デシテックスの熱融着ポリエステル短繊維10〜90重量%とからなり、かつ目付重量が100〜500g/m、厚みが10〜30mmのサーマルボンド不織布を構成する繊維表面全面に、水系粘着性樹脂を付着してなることを特徴とするフィルタ用不織布濾材。
【請求項2】
前記サーマルボンド不織布を構成する繊維全量100重量部に対して、水系粘着性樹脂1〜20重量部を付着することを特徴とする請求項1に記載のフィルタ用不織布濾材。
【請求項3】
前記水系粘着性樹脂がアクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフィルタ用不織布濾材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のフィルタ用不織布濾材を用いてなることを特徴とする塗装ブース用エアフィルタ。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のフィルタ用不織布濾材の製造方法であって、次の工程(I)〜(III)を順次施すことを特徴とする不織布濾材の製造方法。
(I)ウェブ形成工程:高融点ポリエステル短繊維と熱融着ポリエステル短繊維を混合し、ウェブを形成する工程
(II)水系粘着性樹脂付着工程:形成されたウェブを、水系粘着性樹脂の水溶液もしくはエマルジョンに浸漬する工程または水系粘着性樹脂の水溶液もしくはエマルジョンをスプレーする工程
(III)サーマルボンド不織布作製工程:水系粘着性樹脂が付着したウェブを、エアースルー法、加熱カレンダー法または超音波法により、熱溶融し、繊維間結合して、サーマルボンド不織布を作製する工程

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−81389(P2012−81389A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228198(P2010−228198)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000201881)倉敷繊維加工株式会社 (41)
【Fターム(参考)】