説明

フィルタ装置、そのフィルタ装置を用いた塗装ブース、そのフィルタ装置を用いた簡易塗装ブース

【課題】プリコート剤ノズルを用いるフィルタ装置において、フィルタに向う被処理ガスにおけるプリコート剤の分布を均一化する。
【解決手段】フィルタ装置5の流入口部10を横幅方向に延びるスリット状又は長方形状の開口部にして装置ケース9の側面部9aに設け、この流入口部10の上縁部に、流入口部10の長手方向視で下向きに開口する断面形状の滞留用凹部12を流入口部10の長手方向に連続させて形成し、流入口部10の長手方向における所定箇所において、プリコート剤ノズル11を滞留用凹部12の奥部内面に向けてプリコート剤及び気体を噴出する状態に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置ケースにフィルタを内装するとともに、塗料ミストや油ミストなどの粘着性の捕集対象物質を含む被処理ガスの流入口部を装置ケースに設け、この流入口部に、そこから装置ケース内に流入する被処理ガスに対して粉体状のフィルタ用プリコート剤を気体とともに噴出するプリコート剤ノズルを配置してあるフィルタ装置、並びに、そのフィルタ装置を用いた塗装ブースや簡易塗装ブースに関する。
【背景技術】
【0002】
上記の如きフィルタ装置では流入口部を通じて装置ケース内に流入する被処理ガスに対して確実にプリコート剤を混合する目的でプリコート剤ノズルを流入口部に配置するが、従来、特許文献1の第1図に見られるフィルタ装置では、装置ケースを形成する板材に流入口部として単純な円形や角形の開口を形成し、この開口部分にプリコート剤ノズルを装置ケース内に向けるなどの姿勢で配置している。………(従来例1)
【0003】
また、特許文献2の図1及び図2に見られるフィルタ装置のように、プリコート剤ノズルを装置ケースの内部において流入口部の近傍に配置したものもある。………(従来例2)
【0004】
一方、塗装室から排出する排出空気に含まれる塗料ミストをフィルタにより捕集するようにした塗装ブースとして、従来、特許文献3のFig1やFig15に見られる塗装ブースがある。
【0005】
この特許文献3のFig1に見られる塗装ブースでは(図7参照)塗装室2の下方に塗装室2からの排出空気EAを受け入れる排気室4を設けるとともに、この排気室4を上下に仕切る姿勢の一対の案内板20を、それらの先端縁どうしの間にブース長手方向(即ち、塗装室2での被塗物搬送方向)に延びる中央スリット状間隙21を形成する状態で排気室4内に設けている。
【0006】
そして、これら案内板20により仕切った排気室4の下側領域をフィルタ室として、複数のフィルタ8をブース長手方向に並べた状態で排気室4の下側領域に配置するとともに、上記中央スリット状間隙21を通過する排出空気EAに対してプリコート剤Pを噴出するように、プリコート剤ノズル11を中央スリット状間隙21の近傍で案内板20の下面側に配置している。………(従来例3)
【0007】
また、特許文献3のFig15に見られる塗装ブースでは(図8参照)、上記案内板20ととともにフィルタ8を囲う縦板22を案内板20の先端から垂下して、この縦板22の下端縁と排気室4の底との間にブース長手方向に延びる底部スリット状間隙23を形成し、この底部スリット状間隙23を通過する排出空気EAに対してプリコート剤Pを噴出するように、プリコート剤ノズル11を底部スリット状間隙23の近傍で縦板22の裏面側に配置している。………(従来例4)
【0008】
即ち、これら塗装ブースでは、中央スリット状間隙21や底部スリット状間隙23を通過する排出空気EAの高速流に対してプリコート剤Pを噴出することで、高速流による攪拌をもってプリコート剤Pを排出空気EAに対して均一に混合し、その上で、その排出空気EAをフィルタ8に通過させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭53−109274号公報
【特許文献2】実開平7−37311号公報
【特許文献3】特表2008−536661号公報
【特許文献4】特開2002−336479号公報
【特許文献5】実開昭62−109765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般的にフィルタ装置については、流入口部から流入する被処理ガスを装置ケース内のフィルタに対して均一に通過させるなどのために、あるいはまた、特許文献4に見られる塗装ブースに付属のフィルタ装置や、特許文献5に見られる簡易塗装ブースに付属のフィルタ装置(デミスタ装置)の如く、塗装室からの排出空気を塗装室の全幅にわたって均一かつ円滑にフィルタ装置に流入させるなどのために、フィルタ装置の流入口部を横幅方向に延びる長方形状やスリット状にすることが要求されることも多い。
【0011】
しかし、この場合、上記した従来例1(特許文献1の第1図)のようにプリコート剤ノズルを流入口部としての開口部分に単に設けるだけの構造や、従来例2(特許文献2の図1,図2)のようにプリコート剤ノズルを装置ケースの内部において流入口部の近傍に配置するだけの構造では、横幅方向に長い流入口部から流入する被処理ガスに対してプリコート剤ノズルからの噴出プリコート剤が流入口部の横幅方向で均一に分散せず、この為、フィルタに通過させる被処理ガスにおけるプリコート剤の分布が偏ったものになってフィルタにおけるプリコート層の形成が不良になってしまう。
【0012】
そして、このプリコート剤分布の偏りを防止するには、プリコート剤ノズルを流入口部の横幅方向(長手方向)にできるだけ小さい間隔で多数並置することが必要になり、装置が複雑になるとともに装置コストが嵩む問題が生じる。
【0013】
一方、前記した従来例3及び従来例4(特許文献3のFig1,Fig15)の塗装ブースについてもこれと同様の問題(殊に従来例4について言えば実質的に上記したフィルタ装置での問題そのものに相当)があり、ブース長手方向に延びる中央スリット状間隙21や底部スリット状間隙23を通過する排出空気EAに対してプリコート剤ノズル11からの噴出プリコート剤Pをブース長手方向で均一に混合するためには、プリコート剤ノズル11をブース長手方向にできるだけ小さい間隔で多数並置することが必要になり、この為、やはり装置が複雑になるとともに装置コストが嵩む問題が生じる。
【0014】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、プリコート剤ノズルから噴出するプリコート剤について合理的な攪拌混合方式を採ることにより上記の如き問題を効果的に解消する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1特徴構成はフィルタ装置に係り、その特徴は、
装置ケースにフィルタを内装するとともに、粘着性の捕集対象物質を含む被処理ガスの流入口部を前記装置ケースに設け、この流入口部に、そこから前記装置ケース内に流入する被処理ガスに対して粉体状のフィルタ用プリコート剤を気体とともに噴出するプリコート剤ノズルを配置してあるフィルタ装置であって、
前記流入口部を横幅方向に延びるスリット状又は長方形状の開口部にして前記装置ケースの側面部に設け、
この流入口部の上縁部に、前記流入口部の長手方向視で下向きに開口する断面形状の滞留用凹部を前記流入口部の長手方向に連続させて形成し、
前記流入口部の長手方向における所定箇所において、前記プリコート剤ノズルを前記滞留用凹部の奥部内面に向けてプリコート剤及び気体を噴出する状態に配置してある点にある。
【0016】
つまり、この構成によれば、滞留用凹部の奥部内面に向けてプリコート剤ノズルから粉体状のプリコート剤を気体とともに噴出することにより、流入口部における被処理ガスの流れが滞留用凹部の下向き開口の開口面部近傍を通過することとも相俟って、滞留用凹部において噴出プリコート剤を伴う気体の適当時間にわたる渦流的な滞留を生じさせることができ、この渦流的な滞留により攪拌を伴いながらプリコート剤を、流入口部の長手方向に連続する滞留用凹部においてプリコート剤ノズルの配置箇所から流入口部の長手方向(横幅方向)へ拡散させることができる。
【0017】
そして、このようにプリコート剤を流入口部の長手方向へ拡散させながら、その拡散したプリコート剤を滞留用凹部の下向き開口から流入口部における被処理ガスの通過流に徐々に取り込ませる形態で被処理ガスに混合することができ、これにより、流入口部から装置ケース内に流入する被処理ガスに対してプリコート剤を流入口部の長手方向において均一な分散状態に混合することができる。
【0018】
即ち、このことにより流入口部を種々の要求に応じて横幅方向に延びるスリット状や長方形状の開口部とする構造を採りながらも、多数のプリコート剤ノズルを小さい間隔で流入口部の横幅方向(長手方向)に並置することを回避することができ、流入口部に対して1つのプリコート剤ノズルを設けるだけで済ませる、あるいは、プリコート剤ノズルを流入口部の横幅方向に並置するにしても並置間隔を大きくして並置数を効果的に削減することができる。
【0019】
この構成の実施において、流入口部の長手方向視における滞留用凹部の具体的な形状は弧状や多角形状など種々の形状を採用することができ、被処理ガスの流速やプリコート剤の材質等々に応じて選定すればよい。
【0020】
本発明の第2特徴構成は、第1特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
【0021】
前記流入口部における被処理ガスの通過方向で前記滞留用凹部の上流側の端縁部を縦姿勢の上流側垂れ壁にしてある点にある。
【0022】
この構成によれば、滞留用凹部における渦流的な滞留において被処理ガス通過方向における滞留用凹部の上流側端に至った拡散状態のプリコート剤及び気体を、縦姿勢の上流側垂れ壁により下向きに案内して流入口部の上流側部分で被処理ガスの通過流に積極的に合流させることができる。
【0023】
即ち、このことにより、プリコート剤を流入口部の高さ方向(短辺方向)についても効果的に分散させた状態で被処理ガスに混合することができ、フィルタに通過させる被処理ガスのプリコート剤分布を一層均一化することができる。
【0024】
本発明の第3特徴構成は、第1又は第2特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記流入口部における被処理ガスの通過方向で前記滞留用凹部の下流側の端縁部を縦姿勢の下流側垂れ壁にしてある点にある。
【0025】
つまり、この構成によれば、前記の上流側垂れ壁と同様、滞留用凹部における渦流的な滞留において被処理ガス通過方向における滞留用凹部の下流側端に至った拡散状態のプリコート剤及び気体を、縦姿勢の下流側垂れ壁により下向きに案内して流入口部の下流側部分で被処理ガスの通過流に積極的に合流させることができる。
【0026】
即ち、このことにより、プリコート剤を流入口部の高さ方法(短辺方向)についても効果的に分散させた状態で被処理ガスに混合することができ、フィルタに通過させる被処理ガスのプリコート剤分布を一層均一化することができる。
【0027】
なお、第1又は第2特徴構成において、流入口部の下縁部に滞留用凹部に対して対向する底部を流入口部の長手方向に連続させて形成する場合には、上流側垂れ壁や下流側垂れ壁による案内で形成する下向き流により、流入口部における被処理ガスの通過流に対して混合するプリコート剤のうちの適当な一部量を確実に流入口部の上記底部に至らせて、その底部上にプリコート剤層を形成することもでき、これにより、被処理ガス中に含まれる粘着性の捕集対象物質が流入口部の底部に付着堆積することをその底部上のプリコート剤層により効果的に防止することもできる。
【0028】
殊に、上記底部として被処理ガス通過方向における下流側ほど低くなる後述の如き傾斜底を設ける場合では、下流側垂れ壁による案内で形成する下向き流によりプリコート剤の一部を傾斜壁の下流側部分に至らせるとともに、傾斜壁の下流側部分に至った後の下向き流の傾斜底に沿った上流側への反転流成分(即ち、傾斜底を駆け上る気流成分)により、傾斜壁の下流側部分に至ったプリコート剤を傾斜底上に拡げた状態にして保持することもでき、これにより、流入口部の底部を傾斜底にしながらも、その傾斜底上に形成する付着防止用のプリコート剤層を安定的に維持することもできる。
【0029】
本発明の第4特徴構成は、第1〜第3特徴構成のいずれかの実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記プリコート剤ノズルをその噴出中心軸芯が前記滞留用凹部の奥部内面に対して斜交する状態に配置してある点にある。
【0030】
つまり、この構成によれば、プリコート剤ノズルから気体とともに噴出したプリコート剤が衝突により滞留用凹部の奥部内面に付着堆積することを上記斜交による衝突エネルギの逸散により防止することができ、これにより、被処理ガスの湿度が高い場合やプリコート剤の凝固性が高い場合などでも滞留用凹部でのプリコート剤の拡散を安定的かつ良好に維持することができる。
【0031】
また、この構成によれば、プリコート剤ノズルの噴出中心軸芯に対して斜交する奥部内面による案内で、プリコート剤ノズルから噴出したプリコート剤及び気体の滞留用凹部での渦流的な滞留を促進して、滞留用凹部でのプリコート剤の流入口部長手方向への拡散を一層促進することもできる。
【0032】
なお、この構成の実施においてプリコート剤ノズルの噴出中心軸芯を滞留用凹部の奥部内面に対して斜交させるのに、プリコート剤ノズルの噴出中心軸芯を鉛直方向に対して傾斜させる配置形態、又は、滞留用凹部の奥部内面を水平に対して傾斜させる配置形態、あるいはまた、プリコート剤ノズルの噴出中心軸芯を鉛直方向に対して傾斜させるとともに滞留用凹部の奥部内面を水平に対して傾斜させる配置形態のいずれを採用してもよい。
【0033】
本発明の第5特徴構成は、第1〜第4特徴構成のいずれの実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記流入口部における被処理ガスの通過方向で前記プリコート剤ノズルの噴出口を前記滞留用凹部の中央部よりも下流側寄りに配置してある点にある。
【0034】
つまり、この構成によれば、プリコート剤ノズルからのプリコート剤及び気体の噴出により滞留用凹部において形成する渦流的な滞留域を、滞留用凹部における被処理ガス通過方向の下流側部分よりも上流側部分(即ち、滞留用凹部の上流側端とプリコート剤ノズルとの間の部分)において大きく形成することができ、これにより、流入口部を通過する被処理ガスに対してプリコート剤を混入する箇所を被処理ガス通過方向において滞留用凹部の上流端側へ偏らせることができる。
【0035】
即ち、この偏り分だけ、流入口部通過過程における被処理ガス中でのプリコート剤の拡散を促進することができて、フィルタに通過させる被処理ガスのプリコート剤分布を一層均一化することができる。
【0036】
本発明の第6特徴構成は、前記流入口部の下縁部に、前記滞留用凹部に対して対向し、かつ、前記流入口部における被処理ガスの通過方向で下流側ほど低くなる傾斜底を前記流入口部の長手方向に連続させて形成してある点にある。
【0037】
つまり、この構成によれば、被処理ガスに含まれる粘着性の捕集対象物質がプリコート剤との混合状態で傾斜底に堆積したとしても、傾斜壁の傾斜をもって、また、前述の如き底部上のプリコート剤層がある場合には、そのプリコート剤層による付着防止効果とも相俟って、その混合状態の堆積物を速やかに装置ケース内方側へ排除することができ、これにより、フィルタ装置の運転を良好かつ安定的に維持することができる。
【0038】
本発明の第7特徴構成は、第6特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記流入口部における被処理ガスの通過方向で前記滞留用凹部の下流側の端縁部を上流側の端縁部より低位置に配置して、
前記滞留用凹部の下流側の端縁部とその下方に位置する前記傾斜底の下流側の端縁部との間に形成される下流側開口が、前記滞留用凹部の上流側の端縁部とその下方に位置する前記傾斜底の上流側の端縁部との間に形成される上流側開口より低位置になる状態にするとともに、
前記装置ケースの内部において前記下流側開口よりも高位置に前記フィルタを配置してある点にある。
【0039】
つまり、この構成によれば、被処理ガスを流入口部における高位の上流側開口から下位の下流側開口に向かって斜め下向きに通過させるのに続き、その斜め下向きから上向きへ大きく向き変化させて流入口部の下流側開口よりも高位のフィルタに通過させることができ、この大きな向き変化により、流入口部の通過過程で被処理ガスに混合したプリコート剤の被処理ガス中での拡散を一層促進することができて、フィルタに通過させる被処理ガスのプリコート剤分布を一層均一化することができる。
【0040】
本発明の第8特徴構成は、第6又は第7特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記流入口部における被処理ガスの通過方向で前記傾斜底の上流側の端縁部を、前記滞留用凹部の上流側の端縁部に向かって立ち上がる縦姿勢の上流側立上り壁にしてある点にある。
【0041】
つまり、流入口部の上縁部では滞留用凹部の存在(特に滞留用凹部の上流側端縁部の存在)により被処理ガスの通過風速が抑制されるが、この構成によれば、滞留用凹部の上流側の端縁部に向かって立ち上がる上流側立上り壁の存在により、流入口部の下縁側(即ち傾斜底の側)でも被処理ガスの通過風速を抑制して、流入口部における被処理ガス通過風速のバランスを採ることができ、これにより、流入口部を通じた装置ケース内への被処理ガスの流入、及び、流入口部での被処理ガスに対するプリコート剤の混合を円滑かつ安定的に保つことができる。
【0042】
本発明の第9特徴構成は、第1〜第8特徴構成のいずれかの実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記装置ケースの内部において前記流入口部よりも高位置に前記フィルタを配置するとともに、
前記フィルタの下方で前記流入口部よりも低位置に、前記フィルタから剥離して落下した落下混合物を前記流入口部の長手方向に搬送して前記装置ケースの外部に搬出する搬出手段を設けてある点にある。
【0043】
つまり、この種のフィルタ装置では、被処理ガスに含まれる粘着性の捕集対象物と被処理ガスに混合したプリコート剤との混合物からなるフィルタ表面上の捕集物堆積層がある程度成長すると適当な手段により、その捕集物堆積層を形成する混合物をフィルタから剥離させてフィルタを再生するが、上記構成によれば、このフィルタ再生の際の剥離で落下する混合物や、通常運転中において自ずとフィルタから剥離して落下する混合物を搬出手段により装置ケースの外部に搬出することができる。
【0044】
また、この構成によれば、流入口部を通過した後、フィルタに至るまでの過程で粘着性の捕集対象物質とプリコート剤とが結合して生じる落下混合物や、フィルタに至るまでの過程で落下してしまうプリコート剤も、フィルタから剥離した落下混合物とともに搬出手段により装置ケースの外部に搬出することができ、この点で、フィルタ装置のメンテナンスを容易にすることができる。
【0045】
本発明の第10特徴構成は、第9特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記流入口部の下縁部から前記搬出手段の側へ水平姿勢で突出する舞い上がり防止用案内板を設けてある点にある。
【0046】
つまり、この構成によれば、流入口部を通過した被処理ガスの気流が搬出手段に対して影響することを、その被処理ガスに対する舞い上がり防止用案内板による気流案内により防止した状態で、被処理ガスを上方へ向き変化させてフィルタに向わせることができる。
【0047】
即ち、このことにより、フィルタの下方において搬出手段により搬出する落下混合物中の軽量な粉状分が流入口部を通過した被処理ガスにより舞い上げられてしまうことを防止することができ、プリコート剤ノズルから供給した新鮮なプリコート剤のみが被処理ガスに混合された適切な混合状態で被処理ガス中における粘着性の捕集対象物質をフィルタにより捕集することができ、また、搬出手段による落下混合物の搬出も確実かつ良好にすることができる。
【0048】
本発明の第11特徴構成は、第1〜第10特徴構成のいずれかによるフィルタ装置を用いた塗装ブースに係り、その特徴は、
被塗物を塗装する塗装室の下方に排気室を設け、前記塗装室から下方に排出される塗料ミストを含む排出空気を前記排気室に受け入れるようにした塗装ブースにおいて、
複数の前記フィルタ装置をブース長手方向に並べて配置し、これらフィルタ装置の前記流入口部をブース長手方向に列状に並べた配置で前記排気室の室内に対して開口させてある点にある。
【0049】
つまり、この構成によれば、ブース長手方向に列状に並ぶ流入口部による吸引により、排気室に流入する塗装室からの大風量の排出空気をブース長手方向において均一な気流状態で安定的に各フィルタ装置の流入口部に至らせて、ブース長手方向に並ぶフィルタ装置の夫々に偏りなく被処理ガスとして流入させることができ、これにより、塗装室からの大風量の排出空気に含まれる捕集対象物質としての塗料ミストを円滑かつ効率的にフィルタ装置で捕集することができる。
【0050】
そして、各フィルタ装置の流入口部においては前述の如く流入口部の上縁部に形成した滞留用凹部によりプリコート剤ノズルからの噴出プリコート剤を流入口部の長手方向(即ち、ブース長手方向)へ効果的に分散させて流入口部を通過する被処理ガス(即ち、排出空気)に混合することができるから、先述の如くブース長手方向に延びる中央スリット状間隙や底部スリット状間隙において多数のプリコート剤ノズルを小さい間隔でブース長手方向に並置する必要がある従来例3,4(特許文献3のFig1,Fig)15)に見られる塗装ブースに比べ、フィルタ装置を含む塗装ブース全体としてのプリコート剤ノズルの必要装備数を大幅に削減することができ、これにより、塗装ブースの構造を簡素化することができて塗装ブースの装置コストを低減することができ、また、メンテナンスも容易な塗装ブースにすることができる。
【0051】
本発明の第12特徴構成は、第11特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記流入口部を前記排気室の底部でブース長手方向に列状に並べて配置してある点にある。
【0052】
つまり、この構成によれば、列状に並ぶ流入口が排気室の底部に位置することで、塗装室から下向きに排気室に流入した大風量の排出空気を排気室の底壁により水平向きに気流案内した状態で各フィルタ装置の流入口部へ円滑に導くことができ、これにより、前記の如く塗装室からの排出空気をブース長手方向において均一な気流状態で安定的に各フィルタ装置の流入口部に向わせ得ることと相俟って、塗装室からの大風量の排出空気を一層円滑かつ効率的にフィルタ装置で処理することができる。
【0053】
本発明の第13特徴構成は、第11又は第12特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記フィルタ装置を前記排気室に隣接させてブース長手方向に並べて配置し、これらフィルタ装置の前記流入口部を前記排気室の側壁に形成してある点にある。
【0054】
つまり、この構成によれば、例えば、フィルタ装置を排気室の室内に設置してフィルタ装置の流入口部を排気室に対し開口させる設置形態に比べ、ブース長手方向に並ぶフィルタ装置の夫々に対するメンテナンス作業を塗装ブースの外部から容易に行なうことができる。
【0055】
また、それらフィルタ装置の流入口部を排気室の側壁に直接的に形成するから、フィルタ装置を塗装ブースから離れた位置に設置してフィルタ装置の流入口部と排気室とを長尺の接続ダクトを通じて連通させるのに比べ、接続ダクトに対するメンテナンスも不要にすることができ、これらの点でメンテナンス性に優れた塗装ブースにすることができる。
【0056】
なお、この構成の実施においては、塗装室とほぼ同じ幅を有する排気室に対して各フィルタ装置を隣接させた設置形態、あるいは、塗装室よりも幅狭にした排気室に各フィルタ装置を隣接させて、ブース長手方向で排気室の横外側で塗装室の下方に形成される窪み部に各フィルタ装置を入り込ませた設置形態など、フィルタ装置について種々の設置形態を採ることができる。
【0057】
本発明の第14特徴構成は、第1〜第10特徴構成のいずれかによるフィルタ装置を用いた簡易塗装ブースに係り、その特徴は、
被塗物を吹き付け塗装する塗装室に隣接させて前記フィルタ装置を配置し、このフィルタ装置の前記流入口部を前記塗装室の底部で前記塗装室の側壁に形成してある点にある。
【0058】
つまり、この構成によれば、塗装室でのオーバースプレーで生じる浮遊塗料ミストを含む室内空気を被処理ガスとして塗装室底部の側壁に形成した流入口部を通じてフィルタ装置に流入させ、これにより、その空気(即ち、排出空気)に含まれる捕集対象物質としての塗料ミストを円滑かつ効率的にフィルタ装置で捕集することができる。
【0059】
そして、前述の如くフィルタ装置の流入口部においては流入口部の上縁部に形成した滞留用凹部によりプリコート剤ノズルからの噴出プリコート剤を流入口部の長手方向へ効果的に分散させて流入口部を通過する被処理ガス(即ち、排出空気)に混合することができるから、フィルタ装置を含む簡易塗装ブース全体としてのプリコート剤ノズルの必要装備数を大幅に削減することができ、これにより、プリコート剤ノズルの装備を必要としながらも、簡易塗装ブースの装置コストを低減することができ、また、メンテナンスも容易な簡易塗装ブースにすることができる。
【0060】
また、フィルタ装置を塗装室に隣接させてフィルタ装置の流入口部を塗装室の側壁に直接的に形成するから、簡易塗装ブース本来のコンパクトさはそのまま維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】第1実施形態を示す塗装ブースの横断面図
【図2】図1で示す塗装ブースの側面視断面図
【図3】要部の拡大図
【図4】第2実施形態を示す塗装ブースの横断面図
【図5】第3実施形態を示す簡易塗装ブースの断面図
【図6】別実施形態を示す要部の拡大図
【図7】従来の塗装ブースを示す側面視断面図
【図8】従来の他の塗装ブースを示す側面視断面図
【発明を実施するための形態】
【0062】
〔第1実施形態〕
図1,図2は塗装ブースを示し、この塗装ブースは被塗物1(本例では自動車ボディ)を塗装ガンにより塗装する塗装室2を形成し、この塗装室2には被塗物1を搬送する搬送装置3を装備してある。
【0063】
塗装室2は被塗物1の搬送方向(図1における奥行き方向)に延びるトンネル状の室内形状にしてあり、この塗装室2にはトンネル状の室内全体に対して温湿度調整した換気用空気SAが天井部2aから供給される。
【0064】
塗装室2の下方には、塗装室2と同じく被塗物1の搬送方向に延びる排気室4を形成してあり、この排気室4は、塗装室2に対する換気用空気SAの供給に伴い塗装室2から格子床2bを通じて下向きに排出される排出空気EAを受け入れる。
【0065】
この排出空気EAには塗装室2でのオーバースプレーで生じた浮遊塗料ミストが含まれており、塗装室2の天井部2aから換気用空気SAを供給するのに伴いピストン流的に塗装室2の室内空気EAを下方の排気室4へ排出することで、塗装室2において生じる浮遊塗料ミストを迅速かつ確実に塗装室2から排除し、これにより、被塗物1の塗装品質を高く保つとともに塗装室2の作業環境を良好に保つ。
【0066】
塗装室2とほぼ同じ室幅を有する排気室4の両側には夫々、被塗物1の搬送方向である塗装ブース長手方向に並べてフィルタ装置5を並置してあり、排気室4に流入した塗装室2からの排出空気EAを続いてこれらフィルタ装置5に通過させることで、排出空気EA中に含まれる塗料ミストをフィルタ装置5により捕集して排出空気EAを浄化する。
【0067】
フィルタ装置5で浄化された排出空気EAは各フィルタ装置5の上部に接続した排気ダクト6を通じて排気ファン7により外部へ排出(又は、換気用空気SAとして空調機を通じ塗装室2へ還送)する。
【0068】
各フィルタ装置5は、垂下姿勢で縦列状態に配置した複数のバグフィルタ8を装置ケース9に内装するとともに、内装のバグフィルタ8よりも下方で装置ケース9における側壁9aの下部に、横幅方向に延びるスリット状又は長方形状(以下、これらをスリット状を総称する)の2つの流入口部10をそれらの横幅方向に一列に並べて形成したものである。
【0069】
即ち、装置ケース9の上端部に接続した前記排気ダクト6を通じて排気ファン7により付与される吸引力により、被処理ガスとしての排出空気EAを排気室4からスリット状の流入口部10を通じ装置ケース9に流入させてバグフィルタ8に通過させ、これにより、捕集対象物質である排出空気EA中の塗料ミストをバグフィルタ8により捕集する。
【0070】
また、このフィルタ装置5では、捕集対象物質の塗料ミストが粘着性を有するものであることから、流入口部10を通過する排出空気EAに粉体状のプリコート剤Pを混合すプリコート剤ノズル11を流入口部10に装備してある。
【0071】
つまり、粉体状のプリコート剤Pを混合した排出気体EAをバグフィルタ8に通過させることで、バグフィルタ8の捕集面にプリコート層(具体的には、排出空気EA中の塗料ミストが分散状態で混じったプリコート剤Pの堆積層)を形成する捕集形態で排出空気EA中の塗料ミストを捕集する。
【0072】
フィルタ装置5は排気室4の両側夫々に隣接させた状態でブース長手方向に並置し、それらフィルタ装置5のスリット状の流入口部10はブース長手方向に一列に並べた状態で排気室4の両側壁4a夫々の下端部に形成して排気室4の底部で排気室4内に開口させてあり、これにより、塗装室2から排気室4に下向きに流入する排出空気EAを図中矢印で示す如くブース横幅方向で2流に分けて、それら2流の排出空気EAの夫々をブース長手方向において均一な気流状態に保って、かつ、排気室2の底部では排気室4の底壁4bにより横外向きに円滑に案内して各フィルタ装置5のスリット状流入口部10に偏りなく吸入させる。
【0073】
フィルタ装置5の各流入口部10における上縁部には、図3に示す如く、流入口部10の長手方向視において下向きに開口する断面形状の滞留用凹部12を流入口部10の長手方向(横幅方向)に連続させて形成してあり、流入口部10における排出空気EAの通過方向において、この滞留用凹部12の上流側の端縁部は排気室4の側壁4aに連なる縦姿勢状態の上流側垂れ壁12aにし、同様に、この滞留用凹部12の下流側の端縁部は装置ケース9の側壁9aに概ね連なる縦姿勢状態の下流側垂れ壁12bにしてある。
【0074】
一方、流入口部10の下縁部には、上縁部の滞留用凹部12に対して対向し、かつ、流入口部10における排出空気EAの通過方向において下流側ほど低くなる傾斜底13を流入口部10の長手方向(横幅方向)に連続させて形成してあり、流入口部10における排出空気EAの通過方向において、この傾斜底13の上流側端縁部は滞留用凹部12の上流側端縁部12aに向かって立ち上がる縦姿勢の上流側立上り壁13aにしてある。
【0075】
また、滞留用凹部12の下流側端縁部である下流側垂れ壁12bを上流側端縁部である上流側垂れ壁12aより低位置に配置することで、滞留用凹部の下流側端縁部12bとその下方に位置する傾斜底13の下流側端縁部13bとの間に形成される下流側開口10bが、滞留用凹部12の上流側端縁部12aとその下方に位置する傾斜底13の上流側端縁部13aとの間に形成される上流側開口10aより低位置になる状態にしてある。
【0076】
そして、このような構造にした流入口部10において、プリコート剤Pを圧縮空気とともに噴出するプリコート剤ノズル11は各流入口部10の長手方向における中央箇所で滞留用凹部12の奥部内面に向けてプリコート剤P及び圧縮空気を吹き付ける状態に配置してある。
【0077】
つまり、このように滞留用凹部12の奥部内面に向けて粉体状のプリコート剤Pを圧縮空気とともに噴出することにより、図中塗り潰しの矢印で示す如くプリコート剤Pを伴う空気流の適当時間にわたる渦流的な滞留を滞留用凹部12において生じさせ、これにより、渦流的な滞留による攪拌を伴いながらプリコート剤Pを流入口部10の長手方向に連続する滞留用凹部12において流入口部10の長手方向(横幅方向)へ拡散させて、その拡散したプリコート剤Pを流入口部10における排出空気EAの通過流に徐々に取り込ませる形態で排出空気EAに対しプリコート剤Pを流入口部10の長手方向において均一な分散状態に混合する。
【0078】
また、滞留用凹部12の上流側垂れ壁12a及び傾斜底13の上流側立上り壁13aにより排出空気EAの通過流速を流入口部10の上下方向でも均等化した状態で、滞留用凹部12の上流側垂れ壁12a及び下流側垂れ壁12bの夫々により滞留用凹部12における拡散状態のプリコート剤Pを空気をとともに下向きに案内することで、プリコート剤Pを流入口部10の高さ方向(短辺方向)についても効果的に分散させるとともに、下流側垂れ壁12bによる案内で形成した下向き流の傾斜壁13に至った後の傾斜底13に沿った上流側への反転流成分により、プリコート剤Pの一部を傾斜底13上に拡げた状態に保持して、傾斜底13への塗料ミストの付着を防止するプリコート剤層を傾斜底13上で安定的に維持する。
【0079】
そしてまた、流入口部10の下流側開口10bを上流側開口10aよりも低位置にすることで、流入口部10を斜め下向きに通過させた排出空気EAを斜め下向きから上向きへ大きく向き変化させて上方のバグフィルタ8に向わせるようにし、このことでも排出空気EAに混合したプリコート剤Pの排出空気EA中での拡散を一層促進する。
【0080】
プリコート剤ノズル11の噴出口11aは流入口部10における排出空気EAの通過方向において滞留用凹部12の中央部よりも下流側寄りの位置でほぼ鉛直上方向きに配置してあり、これに対し、滞留用凹部12の奥部内面のうちプリコート剤P及び圧縮空気を吹き付ける部分は傾斜底13とほぼ平行姿勢の傾斜面12cにして、その傾斜面12cに対しプリコート剤ノズル11の噴出中心軸芯が斜交する状態にしてある。
【0081】
即ち、この斜交配置により、プリコート剤ノズル11から噴出したプリコート剤Pが滞留用凹部12の奥部内面に付着堆積することを防止するとともに、前述の渦流的な滞留域を主に滞留用凹部12における上流側部分で形成して、流入口部10を通過する排出空気EAにプリコート剤Pを混入する箇所を混入後の拡散時間の確保のために滞留用凹部12の上流端側へ偏らせるようにしてある。
【0082】
フィルタ装置5の装置ケース9内においてバグフィルタ8の下方で流入口部10の下流側開口10bより低い箇所には、搬出手段としてのベルトコンベア14をブース長手方向に並ぶ複数のフィルタ装置5にわたらせて設けてあり、バグフィルタ8の捕集面から剥離して落下する捕集堆積物(即ち、塗料ミストとプリコート剤Pとの混合物)や、バグフィルタ8に至る過程でプリコート剤Pと塗料ミストとが結合して生じる落下物を、このベルトコンベア14により受け止めた状態でブース長手方向に搬送して各フィルタ装置5から搬出する。
【0083】
図中19は、ベルトコンベア14による搬出物を受け入れる回収ホッパであり、この回収ホッパ19に受け入れた搬出物は空気搬送などにより所定の回収部に送る。
【0084】
また、フィルタ装置5の装置ケース9内においてバグフィルタ8の上方近傍には圧縮空気をパルス的に噴出する剥離装置15を装備してあり、塗料ミストとプリコート剤Pとの混合物からなるバグフィルタ捕集面上の捕集物堆積層がある程度成長すると、この剥離装置15により各バグフィルタ8に対して空気通過方向の下流側から圧縮空気をパルス的に作用させることで、捕集物堆積層をバグフィルタ8の捕集面から強制的に剥離させてベルトコンベア14上に落下させる。
【0085】
流入口部10における傾斜底13の下流側端からはベルトコンベア14の上方域へ水平姿勢で突出する舞い上がり防止用案内板16を連設してあり、流入口部10通過した排出空気EAをこの舞い上がり防止用案内板16による案内下で上方のバグフィルタ8に向わせることで、ベルトコンベア14上の落下混合物のうちの軽量な粉状分が排出空気EAにより舞い上げられてしまうことを防止する。
【0086】
〔第2実施形態〕
図4は第1実施形態の塗装ブースに改良を施した塗装ブースを示し、この塗装ブースでは、排気室4の室幅を塗装室2の室幅よりも小さくして、排気室2の両横側で塗装室2の下方に窪み部17を形成してある。
【0087】
そして、フィルタ装置5は、これら窪み部17において排気室4に隣接させた状態でブース長手方向に並置し、これらフィルタ装置5のスリット状流入口部10は第1実施形態の塗装ブースと同様、ブース長手方向に一列に並べた状態で排気室4の両側壁4a夫々の下端部に形成して排気室4の底部で排気室4内に開口させてある。
【0088】
前述の図3に示す如きフィルタ装置5の流入口部10におけるプリコート剤ノズル11の配備構造など、その他の構造は第1実施形態の塗装ブースと同じであり、この塗装ブースによれば、排気室4に隣接させてフィルタ装置5をブース長手方向に並置する構造を採りながらも、それらフィルタ装置5を含めた塗装ブースの必要設置面積を小さくすることができる。
【0089】
〔第3実施形態〕
図5は簡易塗装ブースを示し、この簡易塗装ブースでは、被塗物1を塗装する塗装室2の側壁のうち塗装ガン18の配備側とは被塗物1に対して反対側に位置する側壁2cを装置ケース9の一側壁として共用する形態で、フィルタ装置5を塗装室2に隣接させてある。
【0090】
横幅方向に延びるスリット状にしたフィルタ装置5の流入口部10は、上記共用側壁2aの下端部に形成して塗装室2の底部に開口させてある。
【0091】
フィルタ装置5は、基本的には第1実施形態で示したフィルタ装置と同様、塗装室2からスリット状の流入口部10を通じて装置ケース9内に吸入した排出空気EAを上方へ向き変化させてバグフィルタ8に通過させることで、排出空気EA中の塗料ミストをバグフィルタ8により捕集するものである。
【0092】
フィルタ装置5の流入口部10には、前述の図3に示すものとほぼ同構造の滞留用凹部12を上縁部で流入口10の長手方向(横幅方向)に連続させて形成するとともに、その滞留用凹部12の奥部内面に向けてプリコート剤Pを圧縮空気とともに噴出するプリコート剤ノズル11を流入口部10の長手方向(横幅方向)の中央部に配備してある。
【0093】
即ち、この簡易塗装ブースにおいても、第1実施形態で示したフィルタ装置と同様、滞留凹部12において渦流的な滞留を生じさせることで、プリコート剤ノズル11から噴出したプリコート剤Pを流入口部10の長手方向に拡散させた状態で流入口部10を通過する排出空気EAに混合し、これにより、プリコート剤ノズル11の必要装備数を少なくしながらも、バグフィルタ8に向わせる排出空気EA中のプリコート剤分布を流入口部10の長手方向(換言すれば、塗装室2の横幅方向)で効果的に均一化する。
【0094】
装置ケース9の底部には、バグフィルタ8の捕集面から剥離させて落下させる捕集堆積物(塗料ミストとプリコート剤Pとの混合堆積物)を受け止めて収容する回収容器20を内装してある。
【0095】
〔別実施形態〕
次に別実施形態を列記する
フィルタ装置5を排気室4や塗装室2に隣接配置してフィルタ装置5の流入口部10を排気室4の側壁4aや塗装室2の側壁2cに形成するには、フィルタ装置5における装置ケース9の側壁9aを排気室4の側壁4aや塗装室2の側壁2cに対して近接させる隣接設置形態あるいは排気室4の側壁4aや塗装室2の側壁2cをフィルタ装置5における装置ケース9の側壁9aとして共用する隣接設置形態のいずれを採用してもよい。
【0096】
フィルタ装置5のスリット状流入口部10の上縁部に設ける滞留用凹部12の流入口部長手方向視における具体的断面形状は各種の多角形形状や弧状形状など種々の構成変向が可能であり、また、図6の(a),(b)に示す如く、滞留用凹部12の奥部にさらに凹部を備えさせる形状や図6の(c)に示す如く滞留用凹部12における奥部内面の全てを下流側ほど低位となる傾斜面にする形状などを採用してもよい。
【0097】
また、滞留用凹部12の奥部内面に向けてプリコート剤Pを気体とともに噴出するプリコート剤ノズル11の配備姿勢も、その噴出中心軸芯が滞留用凹部12の奥部内面に対して斜交ないし直交する各種姿勢を採用することができ、図6の(a)〜(c)に示す如き姿勢に配置してもよい。
【0098】
横幅方向に延びるスリット状流入口部10の長手方向視における具体的な断面形状及び構造は前述の実施形態に示した形状及び構造に限らず、上縁部に設ける滞留用凹部12との関係において種々の構成変更が可能であり、場合によっては、上流側開口10aと下流側開口10bとを同じ高さに配置したり、逆に下流側開口10bを上流側開口10aよりも高位置に配置してもよく、また、下縁部を底壁のない単なる縦板の切り縁にするなどしてもよい。
【0099】
プリコート剤Pとしては、炭酸カルシウム粉体、苛性ソーダ粉体、消石灰粉体、水酸化カルシウム粉体、ケイ酸カルシウム粉体、ゼオライト粉体、岩粉、アルミニウム酸化物粉体、シリコン酸化物粉体、粉体塗料など、粘着性の捕集対象物質に応じて種々の粉体状物質を使用することができ、中でも特に、塗料ミストなどの捕集対象物質との結合により捕集対象物質の粘着性を低減し得るものや、脱臭効果、殺菌効果などを備えるものが好ましい。
【0100】
捕集対象物質を含む被処理ガスは空気に限らず、どのような気体であってもよい。
【0101】
装置ケース9に内装するフィルタ8はバグフィルタに限られるものではなく、捕集対象物質やプリコート剤Pに応じてプリーツ状、平板状、ボックス状などの各種のフィルタを採用することができる。
【0102】
本発明によるフィルタ装置やそれを用いた塗装ブース、簡易塗装ブースの実施においては、捕集対象物質の捕集に先立ちフィルタ8の捕集面に噴出プリコート剤Pのみの堆積層を予め形成しておく運転方法を採用してもよい。
【0103】
また、捕集対象物質の捕集運転中は、プリコート剤Pを継続して噴出する運転方法に限らず、捕集運転中において間欠的にプリコート剤Pを噴出する運転方法を採用してもよい。
【0104】
本発明によるフィルタ装置は、塗料ミストの捕集に限らず、各種分野において粘着性の捕集対象物を捕集するのに用いることができる。
【0105】
また、本発明による塗装ブース及び簡易塗装ブースは、自動車ボディや自動車部品あるいは家電製品のケースや各種鋼材など、種々の被塗物の塗装に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は塗装設備を初め粘着性の捕集対象物を捕集する必要がある各種分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0107】
9 装置ケース
8 フィルタ
EA 被処理ガス,排出空気
10 流入口部
P プリコート剤
11 プリコート剤ノズル
12 滞留用凹部
12a 上流側垂れ壁
12b 下流側垂れ壁
13 傾斜底
10a 上流側開口
10b 下流側開口
13a 上流側立上り壁
14 搬出手段
16 舞い上がり防止用案内板
1 被塗物
2 塗装室
4 排気室
5 フィルタ装置
4a 側壁
2c 側壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置ケースにフィルタを内装するとともに、粘着性の捕集対象物質を含む被処理ガスの流入口部を前記装置ケースに設け、この流入口部に、そこから前記装置ケース内に流入する被処理ガスに対して粉体状のフィルタ用プリコート剤を気体とともに噴出するプリコート剤ノズルを配置してあるフィルタ装置であって、
前記流入口部を横幅方向に延びるスリット状又は長方形状の開口部にして前記装置ケースの側面部に設け、
この流入口部の上縁部に、前記流入口部の長手方向視で下向きに開口する断面形状の滞留用凹部を前記流入口部の長手方向に連続させて形成し、
前記流入口部の長手方向における所定箇所において、前記プリコート剤ノズルを前記滞留用凹部の奥部内面に向けてプリコート剤及び気体を噴出する状態に配置してあるフィルタ装置。
【請求項2】
前記流入口部における被処理ガスの通過方向で前記滞留用凹部の上流側の端縁部を縦姿勢の上流側垂れ壁にしてある請求項1記載のフィルタ装置。
【請求項3】
前記流入口部における被処理ガスの通過方向で前記滞留用凹部の下流側の端縁部を縦姿勢の下流側垂れ壁にしてある請求項1又は2記載のフィルタ装置。
【請求項4】
前記プリコート剤ノズルをその噴出中心軸芯が前記滞留用凹部の奥部内面に対して斜交する状態に配置してある請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
【請求項5】
前記流入口部における被処理ガスの通過方向で前記プリコート剤ノズルの噴出口を前記滞留用凹部の中央部よりも下流側寄りに配置してある請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
【請求項6】
前記流入口部の下縁部に、前記滞留用凹部に対して対向し、かつ、前記流入口部における被処理ガスの通過方向で下流側ほど低くなる傾斜底を前記流入口部の長手方向に連続させて形成してある請求項1〜5のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
【請求項7】
前記流入口部における被処理ガスの通過方向で前記滞留用凹部の下流側の端縁部を上流側の端縁部より低位置に配置して、
前記滞留用凹部の下流側の端縁部とその下方に位置する前記傾斜底の下流側の端縁部との間に形成される下流側開口が、前記滞留用凹部の上流側の端縁部とその下方に位置する前記傾斜底の上流側の端縁部との間に形成される上流側開口より低位置になる状態にするとともに、
前記装置ケースの内部において前記下流側開口よりも高位置に前記フィルタを配置してある請求項6記載のフィルタ装置。
【請求項8】
前記流入口部における被処理ガスの通過方向で前記傾斜底の上流側の端縁部を、前記滞留用凹部の上流側の端縁部に向かって立ち上がる縦姿勢の上流側立上り壁にしてある請求項6又は7記載のフィルタ装置。
【請求項9】
前記装置ケースの内部において前記流入口部よりも高位置に前記フィルタを配置するとともに、
前記フィルタの下方で前記流入口部よりも低位置に、前記フィルタから剥離して落下した落下混合物を前記流入口部の長手方向に搬送して前記装置ケースの外部に搬出する搬出手段を設けてある請求項1〜8のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
【請求項10】
前記流入口部の下縁部から前記搬出手段の側へ水平姿勢で突出する舞い上がり防止用案内板を設けてある請求項9記載のフィルタ装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のフィルタ装置を用いた塗装ブースであって、
被塗物を塗装する塗装室の下方に排気室を設け、前記塗装室から下方に排出される塗料ミストを含む排出空気を前記排気室に受け入れるようにした塗装ブースにおいて、
複数の前記フィルタ装置をブース長手方向に並べて配置し、これらフィルタ装置の前記流入口部をブース長手方向に列状に並べた配置で前記排気室の室内に対して開口させてある塗装ブース。
【請求項12】
前記流入口部を前記排気室の底部でブース長手方向に列状に並べて配置してある請求項11記載の塗装ブース。
【請求項13】
前記フィルタ装置を前記排気室に隣接させてブース長手方向に並べて配置し、これらフィルタ装置の前記流入口部を前記排気室の側壁に形成してある請求項11又は12記載の塗装ブース。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のフィルタ装置を用いた簡易塗装ブースであって、
被塗物を吹き付け塗装する塗装室に隣接させて前記フィルタ装置を配置し、このフィルタ装置の前記流入口部を前記塗装室の底部で前記塗装室の側壁に形成してある簡易塗装ブース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−206718(P2011−206718A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78318(P2010−78318)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【特許番号】特許第4738539号(P4738539)
【特許公報発行日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000149790)株式会社大気社 (136)
【Fターム(参考)】