説明

フィルタ装置、及び、そのフィルタ装置を用いた塗装ブース

【課題】粘着性の捕集対象物質を含む被処理ガスをフィルタに通過させることにおいて、その被処理ガスに対してプリコート剤を均一な分散状態で混合する。
【解決手段】フィルタ装置5の流入口部10における上縁部に、流入口部10の長手方向視で下向きに開口する滞留用凹部12を形成し、流入口部10の長手方向における所定箇所にプリコート剤ノズル11を配置し、このプリコート剤ノズル11によりプリコート剤P及び気体を滞留用凹部12の奥部に向けて噴出する。また、流入口部10に配置した拡散補助具11Xにより、流入口部10における通過被処理ガスEAを流入口部長手方向における一方側と他方側とに向き変化を伴う状態で分流させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルタ装置及びそのフィルタ装置を用いた塗装ブースに関する。
【0002】
このフィルタ装置では基本的に、被処理ガスが流入する流入口部が装置ケースに形成され、被処理ガスに含まれる粘着性の捕集対象物質を捕集するフィルタが装置ケースに内装される。
【0003】
また、プリコート剤ノズルが流入口部に配置され、このプリコート剤ノズルは粉体状のフィルタ用プリコート剤を気体とともに噴出する。
【0004】
この噴出により粉体状のプリコート剤が被処理ガスに混合され、この被処理ガスがフィルタを通過することで、プリコート層(プリコート剤からなる被覆層)がフィルタ表面に形成され、被処理ガスに含まれる粘着性の捕集対象物質は、このプリコート層の存在によりフィルタ表面への直接の付着が防止された状態でフィルタに捕集される。
【背景技術】
【0005】
ところで従来、特許文献1の第1図に見られるフィルタ装置では、流入口部として単純な円形開口や角形開口が装置ケースの形成板材に形成され、この開口部分にプリコート剤ノズルが装置ケース内に向けるなどの姿勢で配置されている。………(従来例1)
【0006】
特許文献2の図1及び図2に見られるフィルタ装置では、プリコート剤ノズルが装置ケース内において流入口部の近傍に配置されている。………(従来例2)
【0007】
特許文献3のFig1やFig15に見られる塗装ブースでは、塗装室からの排出空気に含まれる塗料ミストをフィルタにより捕集する。
【0008】
この特許文献3のFig1に見られる塗装ブースでは(図8参照)、塗装室2からの排出空気EAを受け入れる排気室4が塗装室2の下方に配置されている。
この排気室4の室内を上下に仕切る一対の案内板20が設けられ、これら案内板20の先端縁どうしの間に中央間隙21が形成されている。
この中央間隙21はブース長手方向(即ち、塗装室2での被塗物搬送方向)に延びるスリット状の間隙である。
【0009】
これら案内板20により仕切られた排気室4の下側領域はフィルタ室にしてあり、このフィルタ室に複数のフィルタ8が配置され、これらフィルタ8はブース長手方向に並べて配置されている。
プリコート剤ノズル11は、中央間隙21の近傍で案内板20の下面側に配置され、このプリコート剤ノズル11は中央間隙21を通過する排出空気EAに対してプリコート剤Pを噴出する。………(従来例3)
【0010】
特許文献3のFig15に見られる塗装ブースでは(図9参照)、上記案内板20とともにフィルタ8を囲う縦板22が各案内板20の先端から垂設され、この縦板22の下端縁と排気室4の底との間に底部間隙23が形成されている。この底部間隙23もブース長手方向に延びるスリット状の間隙である。
【0011】
プリコート剤ノズル11は底部間隙23の近傍で縦板22の裏面側に配置され、このプリコート剤ノズル11は底部間隙23を通過する排出空気EAに対してプリコート剤Pを噴出する。………(従来例4)
【0012】
即ち、これら塗装ブースでは、スリット状の中央間隙21や底部間隙23を通過する排出空気EAの高速流に対してプリコート剤Pが噴出され、噴出されたプリコート剤Pは排出空気EAの高速流により攪拌され、この攪拌によりプリコート剤Pが分散状態で排出空気EAに混合される。
【0013】
このようにプリコート剤Pが混合された排出空気EAがフィルタ8を通過することで、プリコート層がフィルタ表面に形成され、排出空気EAに含まれる塗料ミストは、このプリコート層の存在によりフィルタ表面への直接の付着が防止された状態でフィルタ8に捕集される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭53−109274号公報
【特許文献2】実開平7−37311号公報
【特許文献3】特表2008−536661号公報
【特許文献4】特開2002−336749号公報
【特許文献5】実開昭62−109765号公報
【特許文献6】特願2010−78318
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
一般的にフィルタ装置では、流入口部を横幅方向に延びる長方形状やスリット状の横偏平形状にすることが要求されることも多い。
【0016】
これは、流入口部から流入する被処理ガスを装置ケース内のフィルタに対して均一に通過させるためである。
あるいはまた、特許文献4に見られる塗装ブースの付属フィルタ装置や、特許文献5に見られる簡易塗装ブースの付属フィルタ装置(デミスタ装置)のように、塗装室からの排出空気を塗装室の全幅にわたって均一かつ円滑にフィルタ装置に流入させるなどのためである。
【0017】
しかし、この場合、上記した従来例1(特許文献1の第1図)のようにプリコート剤ノズルが単純な開口部分に配置されるだけの構造や、従来例2(特許文献2の図1,図2)のようにプリコート剤ノズルが装置ケース内において流入口部の近傍に配置されるだけの構造では次の問題が生じる。
【0018】
つまり、横幅方向に延びる流入口部を通過する被処理ガスに対して、プリコート剤ノズルからの噴出プリコート剤が流入口部の横幅方向(即ち、流入口部の長手方向)において均一に分散されない。
この為、フィルタに通過させる被処理ガス中のプリコート剤分布が偏ったものになり、これが原因でフィルタにおけるプリコート層の形成が不良になる。
【0019】
このプリコート剤分布の偏りを防止するには、プリコート剤ノズルを流入口部の横幅方向(長手方向)にできるだけ小さい間隔で多数並置することが必要になる。しかし、この場合、装置が複雑になるとともに装置コストが嵩む問題が生じる。
【0020】
一方、前記した従来例3及び従来例4(特許文献3のFig1,Fig15)の塗装ブースについても同様の問題がある。
【0021】
つまり、ブース長手方向に延びるスリット状の中央間隙21や底部間隙23を通過する排出空気EAに対して、プリコート剤ノズル11からの噴出プリコート剤Pをブース長手方向(間隙長手方法)で均一な分散状態に混合するには、プリコート剤ノズル11をブース長手方向においてできるだけ小さい間隔で多数並置することが必要になる、この為、やはり装置が複雑になるとともに装置コストが嵩む問題が生じる。
【0022】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、噴出プリコート剤の攪拌混合について合理的な攪拌混合方式を採ることで、上記の如き問題を効果的に解消する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
フィルタ装置に係る本発明の第1の特徴構成は、
被処理ガスが流入する流入口部を装置ケースに形成するとともに、被処理ガスに含まれる粘着性の捕集対象物質を捕集するフィルタを装置ケースに内装し、
粉体状のフィルタ用プリコート剤を気体とともに噴出するプリコート剤ノズルを、前記流入口部に配置してあるフィルタ装置であって、
前記流入口部を横幅方向に延びる横偏平形状の開口部にし、
この流入口部の長手方向視で下向きに開口する断面形状の滞留用凹部を、前記流入口部の長手方向に連続させて前記流入口部の上縁部に形成し、
前記プリコート剤ノズルを、前記滞留用凹部の奥部に向けてプリコート剤及び気体を噴出させる状態で前記流入口部の長手方向における所定箇所に配置し、
前記流入口部における通過被処理ガスを前記流入口部の長手方向における一方側と他方側とへ向き変化を伴う状態で分流する拡散補助具を、前記流入口部の長手方向における前記プリコート剤ノズルの配置箇所近傍で前記流入口部に配置してある点にある。
【0024】
この構成によれば、滞留用凹部の奥部に向けてプリコート剤ノズルから粉体状のプリコート剤を気体とともに噴出することにより、流入口部における被処理ガスの流れが滞留用凹部の下向き開口の近傍を通過することとも相俟って、滞留用凹部において噴出プリコート剤を伴う気体の適当時間にわたる渦流的な滞留を生じさせることができる。(特許文献6参照)
【0025】
この渦流的な滞留により、流入口部の長手方向に連続する滞留用凹部において、攪拌を伴いながらプリコート剤をプリコート剤ノズルの配置箇所から流入口部の長手方向(横幅方向)へ拡散させることができる。
【0026】
そして、このようにプリコート剤を流入口部の長手方向へ拡散させながら、その拡散したプリコート剤を滞留用凹部の下向き開口から流入口部における被処理ガスの通過流に徐々に取り込ませることができ、これにより、流入口部から装置ケース内に流入する被処理ガスに対してプリコート剤を流入口部の長手方向において均一な分散状態で混合することができる。
【0027】
また、流入口部における通過被処理ガスを拡散補助具により流入口部の長手方向における一方側と他方側とへ向き変化を伴う状態で分流することにより、その分流による被処理ガスの向き変化をもって、上記の如き滞留用凹部でのプリコート剤の流入口部長手方向(横幅方向)への拡散を一層促進できるとともに、拡散したプリコート剤を滞留用凹部から被処理ガスの通過流に取り込ませる過程でもプリコート剤をさらに拡散させることができ、これらのことにより、被処理ガスに対するプリコート剤の均一な分散状態での混合をさらに促進することができる。
【0028】
これらのことから、流入口部を種々の要求に応じて横幅方向に延びる横偏平な開口部にしながらも、多数のプリコート剤ノズルを小さい間隔で流入口部の横幅方向(長手方向)に並置することを回避することができ、流入口部に対し1つのプリコート剤ノズルを設けるだけで済ませる、あるいは、プリコート剤ノズルを流入口部の横幅方向に並置するにしても、並置間隔を大きくして並置数を効果的に削減することができる。
【0029】
なお、この構成の実施において、流入口部の長手方向視における滞留用凹部の具体的な形状は弧状や多角形状など種々の形状を採用することができ、被処理ガスの流速やプリコート剤の材質等々に応じて選定すればよい。
【0030】
フィルタ装置に係る本発明の第2の特徴構成は、
前記拡散補助具は、被処理ガス通過方向における上手側に向かって尖るナイフエッジ構造の板縁部を備える縦姿勢の板状体にしてある点にある。
【0031】
この構成によれば、拡散補助具が被処理ガスの大きな通過抵抗になって送風機動力の浪費を招くことを効果的に回避しながら、被処理ガスを流入口部長手方向における一方側と他方側とへ向き変化を伴う状態で円滑に分流させることができる。
【0032】
フィルタ装置に係る本発明の第3の特徴構成は、
前記拡散補助具は、前記流入口部における上部側にのみ配置してある点にある。
【0033】
この構成によれば、流入口部の上部側では拡散補助具の存在により被処理ガスを向き変化を伴う状態で分流させながらも、流入口部の下部側では拡散補助具の不存により被処理ガスを流入口部長手方向において均一な一体状態で通過させることができ、このことで、流入口部全体としての通過被処理ガスの流入口部長手方向での均一性及び一体性を極力良好に維持することができる。
【0034】
即ち、このことにより、プリコート剤を混合した被処理ガスを装置ケース内のフィルタに対して均一に通過させる状態を良好に維持することができる。
【0035】
フィルタ装置に係る本発明の第4の特徴構成は、
前記プリコート剤ノズルの噴出口は、被処理ガス通過方向において前記滞留用凹部の中央部より下流側寄りに配置してある点にある。
【0036】
この構成によれば、プリコート剤ノズルからのプリコート剤及び気体の噴出により滞留用凹部において形成する渦流的な滞留域を、滞留用凹部における被処理ガス通過方向の下流側部分よりも上流側部分(即ち、滞留用凹部の上流側端とプリコート剤ノズルとの間の部分)において大きく形成することができる。
【0037】
そして、このことにより、流入口部における被処理ガスの通過流に対して滞留用凹部からプリコート剤を取り込ませる箇所を、全体として被処理ガス通過方向における滞留用凹部の上流側端寄りに偏らせることができ、この偏り分だけ、流入口部通過過程にある被処理ガス中でのプリコート剤の拡散を一層促進することができる。
【0038】
フィルタ装置に係る本発明の第5の特徴構成は、
前記拡散補助具は、被処理ガス通過方向において前記滞留用凹部の中央部より下流側寄りに配置してある点にある。
【0039】
この構成によれば、被処理ガス通過方向において拡散補助具よりも上流側の箇所で滞留用凹部から被処理ガスの通過流にプリコート剤を十分に取り込ませて、そのようにプリコート剤を十分に取り込んだ後の通過被処理ガスに対し拡散補助具を作用させることができる。
【0040】
即ち、プリコート剤を十分に取り込んだ後の通過被処理ガスを拡散補助具により向き変化を伴う状態で分流させることができ、これにより、その分流に伴う被処理ガスの向き変化を通過被処理ガス中におけるプリコート剤の拡散に一層効果的に寄与させることができる。
【0041】
フィルタ装置に係る本発明の第6特徴構成は、
前記拡散補助具は、その上端部が前記滞留用凹部の内部に位置する状態に配置してある点にある。
【0042】
この構成によれば、滞留用凹部においてプリコート剤を伴って渦流的に滞留する気体に対しても拡散補助具を前述の如く向き変化を伴わせる状態で分流作用させることができ、これにより、滞留用凹部での攪拌を伴うプリコート剤の流入口部長手方向(横幅方向)への拡散をさらに効果的に促進することができる。
【0043】
フィルタ装置に係る本発明の第7の特徴構成は、
被処理ガス通過方向における前記滞留用凹部の上流側の端縁部は、縦姿勢の上流側垂れ壁にしてある点にある。
【0044】
この構成によれば、滞留用凹部における渦流的な滞留において被処理ガス通過方向における滞留用凹部の上流側端に至った拡散状態のプリコート剤及び気体の一部を、縦姿勢の上流側垂れ壁により下向きに案内することができる。
【0045】
そして、この上流側垂れ壁による下向きへの案内により、プリコート剤を流入口部の上流側部分で被処理ガスの通過流に積極的に合流させることができ、これにより、プリコート剤を流入口部の高さ方向(短辺方向)についても効果的に分散させた状態で被処理ガスに混合することができて、フィルタに通過させる被処理ガスのプリコート剤分布を一層均一化することができる。
【0046】
フィルタ装置に係る本発明の第8の特徴構成は、
被処理ガス通過方向における前記滞留用凹部の下流側の端縁部は、縦姿勢の下流側垂れ壁にしてある点にある。
【0047】
この構成によれば、前記の上流側垂れ壁と同様、滞留用凹部における渦流的な滞留において被処理ガス通過方向における滞留用凹部の下流側端に至った拡散状態のプリコート剤及び気体の一部を、縦姿勢の下流側垂れ壁により下向きに案内することができる。
【0048】
そして、この下流側垂れ壁による下向きへの案内により、プリコート剤を流入口部の下流側部分で被処理ガスの通過流に積極的に合流させることができ、これにより、プリコート剤を流入口部の高さ方向(短辺方向)についても効果的に分散させた状態で被処理ガスに混合することができて、フィルタに通過させる被処理ガスのプリコート剤分布を一層均一化することができる。
【0049】
なお、第7又は第8特徴構成において、流入口部の下縁部に滞留用凹部に対して対向する底部を形成する場合には、次の効果も得ることができる。
【0050】
つまり、上流側垂れ壁や下流側垂れ壁による案内で形成する下向き流により、流入口部における被処理ガスの通過流をある程度斜め下向きに変化させることができ、これにより、被処理ガスの通過流に対して滞留用凹部から取り込ませたプリコート剤の一部を確実に流入口部の上記底部に至らせることができて、その底部上にプリコート剤層を形成することができる。
【0051】
即ち、このプリコート剤層の形成により、被処理ガスに含まれる粘着性の捕集対象物質が流入口部の底部に付着堆積することを効果的に防止することができる。
【0052】
フィルタ装置に係る本発明の第9特徴構成は、
前記拡散補助具は、その上端部が被処理ガス通過方向において前記下流側垂れ壁から前記滞留用凹部の内部に突出する状態に配置してある点にある。
【0053】
この構成によれば、滞留用凹部においてプリコート剤を伴って渦流的に滞留する気体に対して拡散補助具の上端部を分流作用させることに加え、拡散補助具の上端部とその基端に位置する下流側垂れ壁とが形成するコーナー構造により分流後の気体を流入口部長手方向の一方側と他方側とへ一層効果的に向き変化させることができ、これにより、滞留用凹部での攪拌を伴うプリコート剤の流入口部長手方向(横幅方向)への拡散をさらに効果的に促進することができる。
【0054】
フィルタ装置に係る本発明の第10特徴構成は、
前記拡散補助具は、その下端部が前記下流側垂れ壁の下方で被処理ガス通過方向に延びる状態に配置してある点にある。
【0055】
この構成によれば、拡散補助具の下端部が下流側垂れ壁の下方で被処理ガス通過方向に延びることで、流入口部の通過被処理ガスに対する拡散補助具の分流作用を高めることができ、これにより、流入口部長手方向へのプリコート剤の拡散をさらに促進することができる。
【0056】
フィルタ装置に係る本発明の第11特徴構成は、
前記拡散補助具は、前記プリコート剤ノズルに取り付けてある点にある。
【0057】
この構成によれば、拡散補助具専用の支持部材を不要にすることができて、流入口部の内部構造を簡素にすることができ、また、拡散用補助具を予めプリコート剤ノズルに取り付けておくことで、両者の相対的な配置関係を適切に保った状態で拡散補助具とプリコート剤ノズルとを一挙に流入口部に装備することができ、装置の製作を容易にすることができる。
【0058】
フィルタ装置に係る本発明の第12の特徴構成は、
前記滞留用凹部に対向するとともに被処理ガス通過方向における下流側ほど低くなる傾斜底を、前記流入口部の長手方向に連続させて前記流入口部の下縁部に形成してある点にある。
【0059】
つまり、この構成によれば、被処理ガスに含まれる粘着性の捕集対象物質がプリコート剤との混合状態で傾斜底に堆積したとしても、傾斜壁の傾斜をもって、また、前述の如き底部上のプリコート剤層がある場合には、そのプリコート剤層による付着防止効果とも相俟って、その混合状態の堆積物を速やかに装置ケース内方側へ排除することができ、これにより、フィルタ装置の運転を良好かつ安定的に維持することができる。
【0060】
フィルタ装置に係る本発明の第13の特徴構成は、
被処理ガス通過方向における前記傾斜底の上流側の端縁部は、前記滞留用凹部の上流側の端縁部に向かって立ち上がる縦姿勢の上流側立上り壁にしてある点にある。
【0061】
この構成によれば、滞留用凹部の上流側の端縁部に向かって立ち上がる上流側立上り壁の存在により、流入口部の下縁側(即ち、傾斜底の側)において被処理ガスの通過風速を抑制することができる。
【0062】
即ち、流入口部の上縁部では滞留用凹部の存在(特に滞留用凹部の上流側端縁部の存在)により被処理ガスの通過風速が抑制されるが、これに対し、流入口部の下縁側でも上流側立上り壁の存在により被処理ガスの通過風速を抑制することで、流入口部における被処理ガス通過風速のバランスを採ることができる。
【0063】
即ち、このことにより、流入口部を通じた装置ケース内への被処理ガスの流入、及び、流入口部での被処理ガスに対するプリコート剤の混合を円滑かつ安定的に保つことができる。
【0064】
そしてまた、この上流側立上り壁の存在により、傾斜底にも渦流的な滞留を生じさせることができ、これにより、前記下流側垂れ壁を設ける場合では、前述の如く下流側垂れ壁による案内で形成する下向き流により、被処理ガスの通過流をある程度斜め下向きに変化させて、被処理ガスに取り込ませたプリコート剤の一部を傾斜壁の下流側部分に至らせることにおいて、傾斜底の下流側部分に至ったプリコート剤を傾斜底上の上記渦流的な滞留により傾斜底を駆け上がらせる状態にして傾斜底上に拡げることができる。
【0065】
即ち、このことにより、流入口部の底部を傾斜底にしながらも、その傾斜底上に形成する付着防止用のプリコート剤層を安定的に維持することができる。
【0066】
フィルタ装置に係る本発明の第14の特徴構成は、
前記流入口部は、前記被処理ガス通過方向における前記滞留用凹部の上流側の端縁部とその下方に位置する前記傾斜底の上流側の端縁部との間を上流側開口とし、かつ、前記被処理ガス通過方向における前記滞留用凹部の下流側の端縁部とその下方に位置する前記傾斜底の下流側の端縁部との間を下流側開口とする筒構造にし、
この筒構造において前記下流側開口は前記上流側開口より低位置に配置し、
前記装置ケースの内部において前記下流側開口よりも高位置に前記フィルタを配置してある点にある。
【0067】
この構成によれば、被処理ガスを流入口部における高位の上流側開口から下位の下流側開口に向かって斜め下向きに通過させるのに続き、その斜め下向きから上向きへ大きく向き変化させて、流入口部の下流側開口より高位のフィルタに通過させることができる。
【0068】
即ち、この大きな向き変化により、流入口部の通過過程で被処理ガスに混合したプリコート剤の被処理ガス中での拡散を一層促進することができ、これにより、フィルタに通過させる被処理ガスのプリコート剤分布を一層均一化することができる。
【0069】
フィルタ装置に係る本発明の第15の特徴構成は、
前記滞留用凹部は、その上底部を形成する上底壁面と、被処理ガス通過方向における前記滞留用凹部の上流側端縁部に位置する縦姿勢の上流側垂れ壁と、被処理ガス通過方向の上流側ほど低くなる傾斜姿勢で前記上底壁面の被処理ガス通過方向における上流側端と上流側垂れ壁の基端とにわたる上流側傾斜底壁面とを備える構造にし、
前記上流側傾斜底壁面における前記上流側垂れ壁の近傍箇所に、下方に向かって前記滞留用凹部の内部に突出する拡散補助突起を備えさせ、この拡散補助突起の下方への突出寸法は、前記上流側垂れ壁の下方への延出寸法より小さくし、
前記プリコート剤ノズルの噴出口は、被処理ガス通過方向の下流側から前記上底壁面に向けて斜め上向きにプリコート剤及び気体を噴出する状態に配置してある点にある。
【0070】
この構成によれば、プリコート剤ノズルから噴出したプリコート剤及び気体を、上底壁面、上流側傾斜底壁面、並びに、上流側垂れ壁の夫々により案内することで、滞留用凹部の下向き開口近くを通過する被処理ガスの流れとも相俟って、前述の渦流的な滞留域を滞留用凹部における上流側部分において効果的に生じさせることができる。
【0071】
また、このように渦流的な滞留域を滞留用凹部における上流側部分において効果的に生じさせることにおいて、プリコート剤ノズルから噴出したプリコート剤及び気体の一部を上流側傾斜底壁面による案内下において上記拡散補助突起に衝突させ、この衝突によりプリコート剤の流入口部長手方向への拡散を助長するができる。
【0072】
即ち、この衝突による拡散助長により、前述の如き渦流的な滞留による攪拌を伴う滞留用凹部でのプリコート剤の流入口部長手方向(横幅方向)へ拡散をさらに効果的に促進することができる。
【0073】
なお、この構成の実施において上底壁面や上流側傾斜底壁面は平面に限られるものではなく、滞留用凹部の断面形状を弧状にする湾曲面であってもよい。
【0074】
塗装ブースに係る本発明の第16の特徴構成は、
塗装室から下方に排出される塗料ミスト含有の排出空気を受け入れる排気室を、前記塗装室の下方に設けた塗装ブースにおいて、
前記フィルタ装置を前記排気室の横外側に隣接させて配置し、
このフィルタ装置の前記流入口部を前記排気室の側壁部で前記排気室の室内に開口させてある点にある。
【0075】
この構成によれば、塗装室から下方の排気室に排出された空気を流入口部の横幅方向(即ち、ここでは塗装ブースの長手方向)において均一な気流状態でフィルタ装置の流入口部に流入させて、その排出空気をフィルタ装置内のフィルタに均一に通過させることができ、これにより、塗装室からの排出空気に含まれる捕集対象物質としての塗料ミストを円滑かつ効率的にフィルタ装置で捕集することができる。
【0076】
そしてまた、フィルタ装置の流入口部では、前述の如く流入口部の上縁部に形成した滞留用凹部により、プリコート剤ノズルからの噴出プリコート剤を流入口部長手方向に効果的に分散させて被処理ガス(即ち、排出空気)に混合することができ、これにより、先述の如くブース長手方向に延びる中央間隙や底部間隙において多数のプリコート剤ノズルを小さい間隔でブース長手方向に並置する必要がある従来例3,4(特許文献3のFig1,Fig15)に見られる塗装ブースに比べ、プリコート剤ノズルの必要装備数を大幅に削減することができる。
【0077】
即ち、このことにより、フィルタ装置を含む塗装ブースの構造を簡素化することができて、塗装ブースの装置コストを低減することができ、また、メンテナンスも容易な塗装ブースにすることができる。
【0078】
また、フィルタ装置の流入口部を排気室の側壁部で直接的に排気室内に開口させるから、フィルタ装置の流入口部と排気室とを接続する長尺な接続ダクトも不要になり、この点からも、フィルタ装置を含む塗装ブースの構造を簡素にすることができる。
【0079】
この構成の実施において、排気室の横外側にフィルタ装置を隣接状態に配置するにあたっては、塗装室とほぼ同じ幅を有する排気室の横外側にフィルタ装置を隣接させる配置形態、あるいは、排気室を塗装室よりも幅狭にして排気室の横外側で塗装室の下方に形成される窪み部にフィルタ装置を配置する配置形態など、種々の配置形態を採ることができる。
【0080】
なお、塗装室の下方に排気室を設けない簡易塗装ブースの場合には、被塗物を吹き付け塗装する塗装室の横外側に隣接させて前記フィルタ装置を配置し、このフィルタ装置の前記流入口部を前記塗装室の底部で前記塗装室の側壁部に開口させるようにしてもよい。
【0081】
この場合も、上記と同様に、プリコート剤ノズルの必要装備数を大幅に削減することができて、フィルタ装置を含む簡易塗装ブースの構造を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】塗装ブースの横断面図
【図2】図1におけるII−II線矢視図
【図3】流入口部の拡大断面図
【図4】図3におけるIV−IV線矢視図
【図5】別実施形態を示す塗装ブースの横断面図
【図6】別実施形態を示す簡易塗装ブースの側面視断面図
【図7】別実施形態を示す流入口部の拡大断面図
【図8】従来の塗装ブースを示す横断面図
【図9】従来の他の塗装ブースを示す横断面図
【発明を実施するための形態】
【0083】
図1,図2は塗装ブースを示し、この塗装ブースには、室内において被塗物1(本例では自動車ボディ)を塗装ガンにより塗装する塗装室2を形成し、この塗装室2には被塗物1を搬送する搬送装置3を装備してある。
【0084】
塗装室2は被塗物1の搬送方向(図1における奥行き方向)に延びるトンネル状の室内形状にしてあり、この塗装室2にはトンネル状の室内全体に対して温湿度調整した換気用空気SAが天井部2aから供給される。
【0085】
塗装室2の下方には、塗装室2と同じく被塗物1の搬送方向に延びる排気室4を形成してあり、この排気室4は、塗装室2に対する換気用空気SAの供給に伴い塗装室2から格子床2bを通じて下向きに排出される排出空気EAを受け入れる。
【0086】
この排出空気EAには塗装室2でのオーバースプレーで生じた浮遊塗料ミストが含まれており、塗装室2の天井部2aから換気用空気SAを供給するのに伴い、ピストン流的に塗装室2の室内空気EAを下方の排気室4へ排出し、これにより、塗装室2において生じる浮遊塗料ミストを迅速かつ確実に塗装室2から排除して、被塗物1の塗装品質を高く保つとともに塗装室2の作業環境を良好に保つ。
【0087】
塗装室2とほぼ同じ室幅を有する排気室4の両横外側には夫々、被塗物1の搬送方向である塗装ブース長手方向に並べてフィルタ装置5を並置してあり、排気室4に流入した塗装室2からの排出空気EAを続いてこれらフィルタ装置5に通過させることで、排出空気EA中に含まれる塗料ミストをフィルタ装置5により捕集して排出空気EAを浄化する。
【0088】
フィルタ装置5で浄化された排出空気EAは、各フィルタ装置5の上部に接続した排気ダクト6を通じて排気ファン7により外部へ排出(又は、換気用空気SAとして空調機を通じ塗装室2へ還送)する。
【0089】
各フィルタ装置5の装置ケース9には、複数のバグフィルタ8を垂下姿勢で縦列状態に配置して内装してあり、これらバグフィルタ8よりも下方で装置ケース9における側壁9aの下部には、横幅方向に延びる横偏平形状の2つの流入口部10を形成してあり、これら2つの流入口部10はそれらの横幅方向に一列に並べて形成してある。
【0090】
即ち、装置ケース9の上端部に接続した前記排気ダクト6を通じて排気ファン7により付与される吸引力により、被処理ガスとしての排出空気EAを排気室4から横偏平形状の流入口部10を通じ装置ケース9に流入させてバグフィルタ8に通過させ、これにより、捕集対象物質である排出空気EA中の塗料ミストをバグフィルタ8により捕集する。
【0091】
捕集対象物質である塗料ミストは粘着性を有することから、フィルタ装置5の流入口部10にはプリコート剤ノズル11を装備してあり、このプリコート剤ノズル11により、流入口部10を通過する排出空気EAに粉体状のプリコート剤Pを混合する。
【0092】
つまり、粉体状のプリコート剤Pを混合した排出空気EAをバグフィルタ8に通過させることにより、バグフィルタ8の捕集面にプリコート層(プリコート剤Pからなる被覆層)を形成し、このプリコート層の存在下において排出空気EA中の塗料ミストをバグフィルタ8により捕集する。このプリコート層は、具体的には排出空気EA中の塗料ミストが分散状態で混じったプリコート剤Pの堆積層になる。
【0093】
並置したフィルタ装置5の夫々における横偏平形状の流入口部10は、ブース長手方向に一列に並べた状態で排気室4の両側壁4a夫々の下端部で排気室4内に開口させてあり、これにより、塗装室2から排気室4に下向きに流入する排出空気EAは、図中矢印で示す如くブース横幅方向で大きく2流に分流し、それら2流の排出空気EAは、ブース長手方向において均一な気流状態を保ちながら、排気室両側壁4a下端部の流入口部10に向かって排気室4内を斜行して各フィルタ装置5の流入口部10に偏りなく吸入される。
【0094】
図3に示すように、フィルタ装置5の各流入口部10における上縁部には滞留用凹部12を形成してあり、この滞留用凹部12は、流入口部10の長手方向視において下向きに開口する断面形状してあり、また、流入口部10の長手方向(横幅方向)に連続させた状態で流入口部10の全幅にわたって形成してある。
【0095】
流入口部10における排出空気EAの通過方向において、滞留用凹部12の上流側の端縁部は、排気室4の側壁4aに連なる縦姿勢の上流側垂れ壁12aにし、同様に、この滞留用凹部12の下流側の端縁部は、装置ケース9の側壁9aに連なる縦姿勢の下流側垂れ壁12bにしてある。
【0096】
流入口部10の下縁部には傾斜底13を形成してあり、この傾斜底13は、上縁部の滞留用凹部12に対して対向し、かつ、流入口部10における排出空気EAの通過方向において下流側ほど低くなる。また、この傾斜底13も流入口部10の長手方向(横幅方向)に連続させた状態で流入口部10の全幅にわたって形成してある。
【0097】
そして、流入口部10における排出空気EAの通過方向において、傾斜底13の上流側端縁部は、滞留用凹部12の上流側端縁部12aに向かって立ち上がる縦姿勢の上流側立上り壁13aにしてある。
【0098】
流入口部10は全体として筒構造にしてあり、滞留用凹部12の上流側端縁部12aとその下方に位置する傾斜底13の上流側端縁部13aとの間を筒構造の上流側開口10aとし、滞留用凹部12の下流側端縁部12bとその下方に位置する傾斜底13の下流側端縁部13bとの間を筒構造の下流側開口10bとしている。
また、この筒構造において、下流側垂れ壁12bを上流側垂れ壁12aより低位置に配置して、下流側開口10bを上流側開口10aよりも低位にしてある。
【0099】
このような構造にした流入口部10において、プリコート剤ノズル11は、各流入口部10の長手方向における中央箇所で滞留用凹部12の奥部に向けてプリコート剤Pを圧送空気とともに噴出する状態に配置してある。
【0100】
つまり、流入口部10における排出空気EAの流れが滞留用凹部12の下向き開口の近傍を通過する状況の下で、上記の如くプリコート剤ノズル11により滞留用凹部12の奥部に向けて粉体状のプリコート剤Pを圧送空気とともに噴出することにより、図中塗り潰しの矢印で示す如くプリコート剤Pを伴う空気流の適当時間にわたる渦流的な滞留を滞留用凹部12において生じさせる。
【0101】
これにより、渦流的な滞留による攪拌を伴いながらプリコート剤Pを滞留用凹部12において流入口部10の長手方向(横幅方向)へ拡散させ、その拡散したプリコート剤Pを滞留用凹部12の下向き開口から流入口部10における排出空気EAの通過流に徐々に取り込ませ、これにより、排出空気EAに対しプリコート剤Pを流入口部10の長手方向において均一な分散状態で混合する。
【0102】
また、滞留用凹部12の上流側垂れ壁12a及び傾斜底13の上流側立上り壁13aにより排出空気EAの通過流速を流入口部10の上下方向でも均等化し、この状態で、滞留用凹部12の上流側垂れ壁12a及び下流側垂れ壁12bの夫々により滞留用凹部12における拡散状態のプリコート剤Pを空気をとともに下向きに案内し、これにより、プリコート剤Pを流入口部10の高さ方向(短辺方向)についても効果的に分散させる。
【0103】
さらに、下流側垂れ壁12bによる案内で形成した下向き流により流入口部10における排出空気EAの通過流を適度に斜め下向きに向き変化させて、排出空気EAの通過流に取り込んだプリコート剤Pの一部を傾斜底13の下流側部分に至らせ、このように傾斜底13の下流側部分に至らせたプリコート剤Pを、上流側立上り壁13aの影響で傾斜底13上に形成される渦流的な滞留により傾斜底13上に拡げた状態に保持し、これにより、プリコート剤層を傾斜底13上に安定的に形成して、傾斜底13への塗料ミストの付着を防止する。
【0104】
そしてまた、上記の如く流入口部10の筒構造における下流側開口10bを上流側開口10aよりも低位置にすることで、流入口部10を斜め下向きに通過させた排出空気EAを斜め下向きから上向きへ大きく向き変化させて上方のバグフィルタ8に向わせるようにし、このことでも、排出空気EAに混合したプリコート剤Pの排出空気EA中での拡散を一層促進する。
【0105】
上記流入口部10についてさらに詳述すると、滞留用凹部12には、その上底部を形成するほぼ水平姿勢の上底壁面12cを備えさせるとともに、排出空気通過方向の上流側ほど低くなる傾斜姿勢で上底壁面12cの排出空気通過方向における上流側端と上流側垂れ壁12aの基端とにわたる上流側傾斜底壁面12d、並びに、排出空気通過方向の下流側ほど低くなる傾斜姿勢で上底壁面12cの排出空気通過方向における下流側端と下流側垂れ壁12bの基端とにわたる下流側傾斜底壁面12dを備えさせてある。
【0106】
プリコート剤ノズル11の噴出口11aは、流入口部10における排出空気EAの通過方向において滞留用凹部12の中央部よりも下流側寄りの位置に配置してあり、具体的には、この噴出口11aは、プリコート剤P及び圧送空気を滞留用凹部12の下流側傾斜底壁面12eに沿わせる状態で、滞留用凹部12の奥部(即ち、上底壁面12c)に向けて斜め上向きに噴出する状態に配置してある。
【0107】
即ち、プリコート剤ノズル11から下流側傾斜底壁面12eに沿わせて斜め上向きに噴出したプリコート剤P及び圧送空気を、上底壁面12c、上流側傾斜底壁面12d、並びに、上流側垂れ壁12aの夫々により案内することで、滞留用凹部12の下向き開口近くを通過する排出空気EAの流れとも相俟って、前述の渦流的な滞留域を滞留用凹部12における上流側部分において効果的に生じさせ、これにより、流入口部10における排出空気EAの通過流にプリコート剤Pを混入する箇所を滞留用凹部12の上流端側へ偏らせて、混入後のプリコート剤Pの拡散時間を極力大きく確保する。
【0108】
滞留用凹部12の上流側傾斜壁面12dにおける上流側垂れ壁12aの近傍箇所には、下方に向かって滞留用凹部12内に突出する拡散補助突起12fを備えさせてあり、この拡散補助突起12fの下方への突出寸法は、上流側垂れ壁12aの下方への延出寸法より十分に小さくしてある。
【0109】
即ち、上記の如く渦流的な滞留域を滞留用凹部12における上流側部分において効果的に生じさせることにおいて、プリコート剤ノズル11から噴出したプリコート剤P及び圧送空気の一部を上流側傾斜底壁面12dによる案内下において拡散補助突起12fに衝突させることで、プリコート剤Pの流入口部長手方向(横幅方向)への拡散を助長し、これにより、渦流的な滞留による攪拌を伴う滞留用凹部12でのプリコート剤Pの流入口部長手方向(横幅方向)へ拡散をさらに効果的に促進する。
【0110】
なお、この拡散補助突起12fは、流入口部10の長手方向においてプリコート剤ノズル11の配置箇所に対応する箇所にのみ設ける形態、あるいは、プリコート剤ノズル11の配置箇所に対応する箇所から流入口部長手方向へ連続に延びる状態に設ける形態のいずれを採用してもよい。
【0111】
図3及び図4に示すように、プリコート剤ノズル11には、縦姿勢の三角板状体からなる拡散補助具11Xを取り付けてあり、この拡散補助具11Xは、その上半部が排出空気通過方向で下流側垂れ壁12bを貫通して滞留用凹部12の内部に突出する状態に、かつ、下半部が下流側垂れ壁12bの下方で排出空気通過方向に延びる状態に配置してある。
【0112】
拡散補助具11Xの前縁部ea(即ち、三角板状体の排出空気通過方向における上流側板縁部)は、排出空気通過方向の上流側に向かって尖るナイフエッジ構造にしてあり、また、この拡散補助具11Xの下縁部eaも下方側に向かって尖るナイフエッジ構造にしてある。
【0113】
この拡散補助具11Xは、その存在により、流入口部10における通過排出空気EA、及び、滞留用凹部12でプリコート剤Pを伴って渦流的に滞留する空気を、流入口部10の長手方向(横幅方向)における一方側と他方側とへ向き変化を伴う状態で分流し、この分流に伴う通過排出空気EA及び渦流的滞留空気の向き変化により、滞留用凹部12でのプリコート剤Pの流入口部長手方向(横幅方向)への拡散を一層促進し、また、プリコート剤Pを滞留用凹部12から排出空気EAの通過流に取り込ませる過程でのプリコート剤Pの拡散も促進する。
【0114】
拡散補助具11Xは、流入口部10における上部側にのみ配置してあり、これにより、流入口部10の上部側では排出空気EAを向き変化を伴う状態で分流させながらも、流入口部10の全体としては通過排出空気EAの流入口部長手方向での均一性及び一体性を極力良好に維持する。
【0115】
また、拡散補助具11Xは、プリコート剤ノズル11の噴出口11aと同様、排出空気EAの通過方向において滞留用凹部12の中央部より下流側寄りに配置してあり、これにより、拡散補助具11Xよりも上流側の箇所で滞留用凹部12から排出空気EAの通過流にプリコート剤Pを十分に取り込ませて、そのようにプリコート剤Pを十分に取り込んだ後の通過排出空気EAに対して拡散補助具11Xを分流作用させるようにしてある。
【0116】
フィルタ装置5の装置ケース9内においてバグフィルタ8の下方で流入口部10の下流側開口10bより低い箇所には、搬出手段としてのベルトコンベア14を設けてあり、このベルトコンベア14はブース長手方向に並ぶ複数のフィルタ装置5にわたらせて設けてある。
【0117】
即ち、バグフィルタ8の捕集面から剥離して落下する捕集堆積物(即ち、塗料ミストとプリコート剤Pとの混合物)や、バグフィルタ8に至る過程でプリコート剤Pと塗料ミストとが結合して生じる落下物を、このベルトコンベア14により受け止めた状態でブース長手方向に搬送して各フィルタ装置5から搬出する。
【0118】
図中19は、ベルトコンベア14による搬出物を受け入れる回収ホッパであり、この回収ホッパ19に受け入れた搬出物は空気搬送などにより所定の回収部に送る。
【0119】
また、フィルタ装置5の装置ケース9内において、バグフィルタ8の上方近傍には圧縮空気をパルス的に噴出する剥離装置15を装備してある。
即ち、塗料ミストとプリコート剤Pとの混合物からなるバグフィルタ捕集面上の捕集物堆積層がある程度成長すると、この剥離装置15により各バグフィルタ8に対して空気通過方向の下流側から圧縮空気をパルス的に作用させ、これにより、捕集物堆積層をバグフィルタ8の捕集面から強制的に剥離させてベルトコンベア14上に落下させ、バグフィルタ8を再生する。
【0120】
流入口部10における傾斜底13の下流側端からはベルトコンベア14の上方域へ水平姿勢で突出する舞い上がり防止用案内板16を連設してあり、流入口部10を通過した排出空気EAをこの舞い上がり防止用案内板16による案内下で上方のバグフィルタ8に向わせ、これにより、ベルトコンベア14上の落下混合物のうちの軽量な粉状分が排出空気EAにより舞い上げられるのを防止する。
【0121】
〔別実施形態〕
図5は上記塗装ブースに改良を施した塗装ブースを示し、この塗装ブースでは、排気室4の室幅を塗装室2の室幅よりも小さくして、排気室4の両横側で塗装室2の下方に窪み部17を形成してある。
【0122】
そして、フィルタ装置5は、これら窪み部17において排気室4の横外側に隣接させた状態でブース長手方向に並置してある。
これらフィルタ装置5における横偏平形状の流入口部10は、前記塗装ブースと同様、ブース長手方向に一列に並べた状態で排気室4の両側壁4a夫々の下端部において排気室4に開口させてある。
【0123】
この塗装ブースによれば、排気室4に隣接させてフィルタ装置5をブース長手方向に並置する構造を採りながらも、それらフィルタ装置5を含めた塗装ブースの必要設置面積を小さくすることができる。
【0124】
この塗装ブースにおいてもフィルタ装置5の流入口部10には、前述の図3及び図4で示したものと同構造の滞留用凹部12,プリコート剤ノズル11,拡散補助具11Xを配備してある。
【0125】
図6は簡易塗装ブースを示し、この簡易塗装ブースでは、被塗物1を塗装する塗装室2の側壁のうち、塗装ガン18の配備側とは被塗物1に対して反対側に位置する側壁2cをフィルタ装置5における装置ケース9の一側壁として共用する形態で、フィルタ装置5を塗装室2に隣接させてある。
【0126】
横幅方向に延びるフィルタ装置5の流入口部10は、上記共用側壁2cの下端部で塗装室2の底部に開口させてある。
【0127】
フィルタ装置5では、基本的には前述の実施形態で示したフィルタ装置と同様、塗装室2から流入口部10を通じて装置ケース9内に吸入した排出空気EAを上方へ向き変化させてバグフィルタ8に通過させることで、排出空気EA中の塗料ミストをバグフィルタ8により捕集する。
【0128】
この簡易塗装ブースにおいてもフィルタ装置5の流入口部10には、図3及び図4に示すものとほぼ同構造の滞留用凹部12、プリコート剤ノズル11、拡散補助具11Xを配備してある。
【0129】
装置ケース9の底部には回収容器20を内装してあり、バグフィルタ8の捕集面から剥離させて落下させる捕集堆積物(塗料ミストとプリコート剤Pとの混合堆積物)をこの回収容器20により受け止めて収容する。
【0130】
これら塗装ブースや簡易塗装ブースの実施においては、フィルタ装置5における装置ケース9の側壁9aを排気室4の側壁4aや塗装室2の側壁2cに対して近接させる隣接設置形態、あるいは、排気室4の側壁4aや塗装室2の側壁2cをフィルタ装置5における装置ケース9の側壁9aとして共用する隣接設置形態のいずれを採用してもよい。
【0131】
また、本発明の実施において、滞留用凹部12の流入口部長手方向視における具体的断面形状は各種の多角形形状や弧状形状など種々の構成変更が可能である。
【0132】
本発明の実施において、プリコート剤ノズル11や拡散補助具11Xの具体的な構造や配置は種々の変更が可能であり、例えば図7に示すように、プリコート剤ノズル11の噴出口11aを滞留用凹部12の傾斜底壁面12eに対する斜め向き姿勢や垂直姿勢に配置し、この噴出口11aの近傍で拡散補助具11Xをプリコート剤ノズル11に取り付けるようにしてもよい。
【0133】
拡散補助具11Xは、板縁部eaがナイフエッジ構造の縦姿勢板状体により形成するのに代えて、被処理ガス通過方向の上流側に向かって尖るV字断面形状の部材により形成するなどしてもよい。
【0134】
また、前述の実施形態の如く拡散補助具11Xの上端部を滞留用凹部12の内部に位置させるのに換えて、拡散補助具11Xの全体を滞留用凹部12の下方に配置してもよく、さらにまた、前述の実施形態の如く拡散補助具11Xを流入口部10の上部にのみ装備するのに代えて、拡散補助具11Xを流入口部10の上下方向全体にわたらせて配置してもよい。
【0135】
前述の実施形態では、拡散補助突起12fを鉛直姿勢に配置する例を示したが、この拡散補助突起12fは、その下端側ほど被処理ガス通過方向の上流側や下流側に位置する傾斜姿勢で配置してもよい。
【0136】
本発明の実施において拡散補助突起12fは省略することが可能であり、また、参考装置として、拡散補助突起12fの装備に対して拡散補助板11Xを省略したフィルタ装置も考えられる。
【0137】
流入口部10の上流側開口10aと下流側開口10bとは同じ高さに配置してもよく、また逆に、下流側開口10bを上流側開口10aより高位置に配置してもよい。
【0138】
プリコート剤Pとしては、炭酸カルシウム粉体、苛性ソーダ粉体、消石灰粉体、水酸化カルシウム粉体、ケイ酸カルシウム粉体、ゼオライト粉体、岩粉、アルミニウム酸化物粉体、シリコン酸化物粉体、粉体塗料など、粘着性の捕集対象物質に応じて種々の粉体状物
質を使用することができる。
中でも特に、塗料ミストなどの捕集対象物質との結合により捕集対象物質の粘着性を低減し得るものや、脱臭効果、殺菌効果などを備えるものが好ましい。
【0139】
捕集対象物質を含む被処理ガスは空気に限らず、どのような気体であってもよい。
【0140】
装置ケース9に内装するフィルタ8は、バグフィルタに限られるものではなく、捕集対象物質やプリコート剤Pに応じてプリーツ状、平板状、ボックス状などの各種のフィルタを採用することができる。
【0141】
本発明によるフィルタ装置やそれを用いた塗装ブースの実施においては、捕集対象物質の捕集に先立ちフィルタ8の捕集面に噴出プリコート剤Pのみの堆積被覆層を予め形成しておく運転方法を採用してもよい。
【0142】
また、捕集対象物質の捕集運転中は、プリコート剤Pを継続して噴出する運転方法に限らず、捕集運転中において間欠的にプリコート剤Pを噴出する運転方法を採用してもよい。
【0143】
本発明によるフィルタ装置は、塗料ミストの捕集に限らず、各種分野において粘着性の捕集対象物を捕集するのに用いることができる。
【0144】
また、本発明による塗装ブースは、自動車ボディや自動車部品あるいは家電製品のケースや各種鋼材など、種々の被塗物の塗装に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明は塗装設備を初め粘着性の捕集対象物を捕集する必要がある各種分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0146】
9 装置ケース
8 フィルタ
EA 被処理ガス,排出空気
10 流入口部
P プリコート剤
11 プリコート剤ノズル
11X 拡散補助具
ea 板縁部
12 滞留用凹部
12a 上流側垂れ壁
12b 下流側垂れ壁
12c 上底壁面
12d 上流側傾斜底壁面
12f 拡散補助突起
13 傾斜底
10a 上流側開口
10b 下流側開口
13a 上流側立上り壁
1 被塗物
2 塗装室
4 排気室
5 フィルタ装置
4a 側壁
2c 側壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理ガスが流入する流入口部を装置ケースに形成するとともに、被処理ガスに含まれる粘着性の捕集対象物質を捕集するフィルタを装置ケースに内装し、
粉体状のフィルタ用プリコート剤を気体とともに噴出するプリコート剤ノズルを、前記流入口部に配置してあるフィルタ装置であって、
前記流入口部を横幅方向に延びる横偏平形状の開口部にし、
この流入口部の長手方向視で下向きに開口する断面形状の滞留用凹部を、前記流入口部の長手方向に連続させて前記流入口部の上縁部に形成し、
前記プリコート剤ノズルを、前記滞留用凹部の奥部に向けてプリコート剤及び気体を噴出させる状態で前記流入口部の長手方向における所定箇所に配置し、
前記流入口部における通過被処理ガスを前記流入口部の長手方向における一方側と他方側とへ向き変化を伴う状態で分流する拡散補助具を、前記流入口部の長手方向における前記プリコート剤ノズルの配置箇所近傍で前記流入口部に配置してあるフィルタ装置。
【請求項2】
前記拡散補助具は、被処理ガス通過方向における上手側に向かって尖るナイフエッジ構造の板縁部を備える縦姿勢の板状体にしてある請求項1記載のフィルタ装置。
【請求項3】
前記拡散補助具は、前記流入口部における上部側にのみ配置してある請求項1又は2記載のフィルタ装置。
【請求項4】
前記プリコート剤ノズルの噴出口は、被処理ガス通過方向において前記滞留用凹部の中央部より下流側寄りに配置してある請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
【請求項5】
前記拡散補助具は、被処理ガス通過方向において前記滞留用凹部の中央部より下流側寄りに配置してある請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
【請求項6】
前記拡散補助具は、その上端部が前記滞留用凹部の内部に位置する状態に配置してある請求項1〜5のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
【請求項7】
被処理ガス通過方向における前記滞留用凹部の上流側の端縁部は、縦姿勢の上流側垂れ壁にしてある請求項1〜6のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
【請求項8】
被処理ガス通過方向における前記滞留用凹部の下流側の端縁部は、縦姿勢の下流側垂れ壁にしてある請求項1〜7のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
【請求項9】
前記拡散補助具は、その上端部が被処理ガス通過方向において前記下流側垂れ壁から前記滞留用凹部の内部に突出する状態に配置してある請求項8記載のフィルタ装置。
【請求項10】
前記拡散補助具は、その下端部が前記下流側垂れ壁の下方で被処理ガス通過方向に延びる状態に配置してある請求項9記載のフィルタ装置。
【請求項11】
前記拡散補助具は、前記プリコート剤ノズルに取り付けてある請求項1〜10のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
【請求項12】
前記滞留用凹部に対向するとともに被処理ガス通過方向における下流側ほど低くなる傾斜底を、前記流入口部の長手方向に連続させて前記流入口部の下縁部に形成してある請求項1〜11のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
【請求項13】
被処理ガス通過方向における前記傾斜底の上流側の端縁部は、前記滞留用凹部の上流側の端縁部に向かって立ち上がる縦姿勢の上流側立上り壁にしてある請求項12記載のフィルタ装置。
【請求項14】
前記流入口部は、前記被処理ガス通過方向における前記滞留用凹部の上流側の端縁部とその下方に位置する前記傾斜底の上流側の端縁部との間を上流側開口とし、かつ、前記被処理ガス通過方向における前記滞留用凹部の下流側の端縁部とその下方に位置する前記傾斜底の下流側の端縁部との間を下流側開口とする筒構造にし、
この筒構造において前記下流側開口は前記上流側開口より低位置に配置し、
前記装置ケースの内部において前記下流側開口よりも高位置に前記フィルタを配置してある請求項12又は13記載のフィルタ装置。
【請求項15】
前記滞留用凹部は、その上底部を形成する上底壁面と、被処理ガス通過方向における前記滞留用凹部の上流側端縁部に位置する縦姿勢の上流側垂れ壁と、被処理ガス通過方向の上流側ほど低くなる傾斜姿勢で前記上底壁面の被処理ガス通過方向における上流側端と上流側垂れ壁の基端とにわたる上流側傾斜底壁面とを備える構造にし、
前記上流側傾斜底壁面における前記上流側垂れ壁の近傍箇所に、下方に向かって前記滞留用凹部の内部に突出する拡散補助突起を備えさせ、この拡散補助突起の下方への突出寸法は、前記上流側垂れ壁の下方への延出寸法より小さくし、
前記プリコート剤ノズルの噴出口は、被処理ガス通過方向の下流側から前記上底壁面に向けて斜め上向きにプリコート剤及び気体を噴出する状態に配置してある請求項1〜14のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載のフィルタ装置を用いた塗装ブースであって、
塗装室から下方に排出される塗料ミスト含有の排出空気を受け入れる排気室を、前記塗装室の下方に設けた塗装ブースにおいて、
前記フィルタ装置を前記排気室の横外側に隣接させて配置し、
このフィルタ装置の前記流入口部を前記排気室の側壁部で前記排気室の室内に開口させてある塗装ブース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−232254(P2012−232254A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101920(P2011−101920)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000149790)株式会社大気社 (136)
【Fターム(参考)】