説明

フィルタ

【課題】濾過体の高密度部分における断面積を減少させることなく濾過体に密度勾配を形成して、プッシュアウトの発生を抑制できるフィルタを提供する。
【解決手段】フィルタエレメント20の外周部に円筒状の硬化部21を設けフィルタエレメント20の燃料流れ方向の変形を規制し、リテーナ40によりフィルタエレメント20の下流側端面24から上流側端面23に向かって押圧圧縮している。これにより、フィルタエレメント20の断面積である燃料の通路面積を減少させることなく、フィルタエレメント20内に密度勾配を形成して、フィルタエレメント20内の捕集異物分布を均一にし、異物捕集量増加にともなう圧力損失増大、捕集効率低下を最小限度に抑制できる。したがって、濾過体の高密度部分における断面積を減少させることなく濾過体に密度勾配を形成して、プッシュアウトの発生を抑制できるフィルタを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その内部に流体を通過させて流体に混在している固体異物を捕集して流体を浄化するフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のフィルタとして、目の粗さの異なる濾過体を流体の流れ方向に沿って直列に配置し、目の粗い濾過体を上流側に、目の細かい濾過体を下流側に配置したものがある。この構成によれば、大きい異物が目の粗い濾過体に捕集され、異物の捕集率が高められると同時に、フィルタ内における捕集された異物の分布が均一となることから、異物捕集量増加に伴う圧力損失の増大を抑制することができる。
【0003】
また、濾過体の一部を圧縮して目を細かくして、一種類の濾過体、つまり単一な目の粗さの濾過体を用いつつその一部分に目の細かい部分を形成する構成のものがある(特許文献1参照)。
【0004】
この場合、濾過体において上流側部分は圧縮せず、流体の流れ方向において途中から濾過体をケースの壁面に押し付けて圧縮するとともに、下流へ向かうに連れて圧縮率を徐々に増大させている。圧縮されることにより濾過体の密度が高くなり目の粗さが細かくなるが、さらに、下流側へ行くに連れて濾過体の密度が徐々に高くなっている。すなわち、濾過体に密度勾配が形成されている
【特許文献1】特開2003−214270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載される従来のフィルタでは、濾過体に目の細かい部分である高密度部分を形成するために濾過体を圧縮している。このため、圧縮された部分では濾過体の断面積、つまり流体の流れ方向に直交する断面の面積が減少しており、圧縮率が最大、すなわち密度が最大となっている濾過体の下流側端部である濾過体における流体の出口では、断面積が最小となっている。すなわち、従来のフィルタにおける密度勾配を形成するための構造によれば、密度が高くなるに連れて流体の流路の断面積が減少してしまう。流体の流路の断面積が減少するということは異物を捕集するための濾過面積が減少することであり、この部分における異物捕集量が増えて目詰まり状態となると濾過体の圧力損失が増大し、目詰まり部の上流における流体圧力が上昇する。同時に、断面積が小さくなるに連れて流体の流速は増大する。これにより、目詰まり部に捕集されていた異物が流体力を受けて濾過体外へ流出する現象、いわゆるプッシュアウトが発生する。すなわち、流体中に混在する異物がフィルタよりも下流に流出してしまう。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みなされたもので、濾過体の高密度部分における断面積を減少させることなく濾過体に密度勾配を形成して、プッシュアウトの発生を抑制できるフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成する為、以下の技術的手段を採用する。
【0008】
本発明の請求項1に記載のフィルタは、流体の導入口および排出口を備えるケーシングと、ケーシング内において導入口と排出口との間に収容される濾過体と、を備え、流体を導入口からケーシング内へ導入し濾過体を通過させて排出口からケーシング外へ排出するフィルタであって、濾過体の流体の流れ方向に沿う面である外周面の全部あるいは一部が流体の流れ方向に変形しないように拘束され、濾過体における流体の流れ方向下流側の端面である下流側端面から濾過体における流体の流れ方向上流側の端面である上流側端面に向かって濾過体を押圧圧縮したことを特徴としている。
【0009】
濾過体がその下流側端面において上流側に向かって押圧圧縮されると、濾過体は圧縮変形して密度が高くなる。濾過体の上流側端部のみが拘束され濾過体の外周面が拘束されていない場合は、圧縮による濾過体の密度変化は濾過体全体に亘って均一になる。すなわち、濾過体の密度は全体において均一且つ圧縮前よりも高い密度となる。ところが、本発明の請求項1に記載のフィルタにおいては、濾過体は、その外周面が流体の流れ方向において拘束されている。そのため、濾過体の密度は下流側端部に近いほど且つ外周面から離れるほど高く変化する。言い換えれば、濾過体の外周面近傍および上流側端部近傍においては、圧縮による密度変化がほとんどない。そして、濾過体の密度は、押圧圧縮された下流側端面から上流側端面に向かうに連れて徐々に小さくなるように変化している。これにより、密度が均一な単一濾過体を用いて、流体流れの上流側において密度が小さく(目が粗い)下流側において密度が高く(目が細かい)、且つ上流側端面と下流側端面との間で密度が徐々に変化している、言い換えると、密度勾配を有するような濾過体を形成することができる。したがって、濾過体の上流側では主に大きい異物が捕集され、濾過体の下流側では細かい異物が捕集されるので、流体中に混在する種々の大きさの異物を高捕集率で捕集できる。また、濾過体中において捕集された異物の分布が均一になるので、異物捕集による圧力損失の増大を抑制することができる。さらに、濾過体の流体流れ方向に直交する断面の面積である断面積は、濾過体の上流側端面と下流側端面とで変化しない。すなわち、従来のフィルタの濾過体のように、その断面積が下流側(出口側)に向かうに連れて減少することがない。このため、濾過体中における異物捕集による流体の流速の増大を抑制することができる。
【0010】
以上により、本発明の請求項1に記載のフィルタによれば、濾過体の高密度部分における断面積を減少させることなく濾過体に密度勾配を形成して、プッシュアウトの発生を抑制できるフィルタを提供することができる。
【0011】
本発明の請求項2に記載のフィルタは、ケーシングは濾過体の下流側端面に当接して上流側端面に向かって濾過体を圧縮する圧縮部材を備えることを特徴としている。
【0012】
上述の構成において、濾過体は圧縮部材により直接的に押圧圧縮されている。したがって、ケーシングおよび濾過体が同一であっても、圧縮部材の形状を適宜選定することにより、濾過体の異物捕集特性、たとえば濾過体における密度分布等を所望の特性に設定することができる。これにより、ケーシングおよび濾過体を共通に用いつつ、捕集特性の異なるフィルタを容易に形成することができるので、濾過体の高密度部分における断面積を減少させることなく濾過体に密度勾配を形成して、プッシュアウトの発生を抑制できるフィルタの捕集特性バリエーション品を、コスト増大を抑えて製作することができる。
【0013】
この場合、本発明の請求項3に記載のフィルタのように、圧縮部材の濾過体に当接する当接面を濾過体の上流側端面に向かって突出する曲面状に形成する構成とすれば、濾過体を確実に押圧圧縮することができる。
【0014】
本発明の請求項4に記載のフィルタは、濾過体の上流側に目の粗さが濾過体よりも粗い予備濾過体を積層配置したことを特徴としている。
【0015】
上述の構成によれば、一種類の濾過体においてその下流側端面を押圧圧縮して得られる密度勾配範囲に対して、より目の粗い予備濾過体を流れ方向において直列に追加することによって密度勾配範囲を拡大することができる、詳しくは低密度側に拡大することができる。
この場合、本発明の請求項5に記載のフィルタのように、予備濾過体を流体の流れ方向に沿って積層配置された複数の濾材層から構成するとともに、本発明の請求項6に記載のフィルタのように、複数の濾材層の目の粗さは、濾過体と隣接する濾材層の目の粗さが最も細かく、流体の流れ方向上流側に位置する濾材層ほど順次粗くなるように設定される構成とすれば、フィルタ全体としての密度勾配特性をより広範囲に拡大させることができる。
【0016】
本発明の請求項7に記載のフィルタは、濾過体、予備濾過体および濾材層は不織布、繊維集合体または連泡構造を有する樹脂等から形成されることを特徴としている。
【0017】
不織布、繊維集合体または連泡構造を有する樹脂等は、圧縮されると弾性的に変形する性質を有している。したがって、濾過体の高密度部分における断面積を減少させることなく濾過体に密度勾配を形成して、プッシュアウトの発生を抑制できるフィルタを容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を、自動車に搭載され、燃料タンクからエンジンに供給される燃料を濾過するために用いられる燃料フィルタ10に適用した場合を例に図面に基づいて説明する。
【0019】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による燃料フィルタ10は、大きくは図1に示すように、所定位置に流体である燃料の導入口31aおよび排出口32aを設けたケーシング30と、このケーシング30内に収容される濾過体であるフィルタエレメント20とから構成されている。
【0020】
ケーシング30は、それぞれ略有底円筒状に形成されたアッパーケース31およびロアケース32を互いの開口端側をつき合わせて接合して形成されている。アッパーケース31およびロアケース32は、たとえば樹脂材料を成型加工して作られている。アッパーケース31の底部、つまり、図1における上端部には、ケーシング30内へ燃料を導入するための導入口31aが設けられている。アッパーケース31は、円筒状の収容部31cを備え、この収容部31c内に後述する濾過体であるフィルタエレメント20が収容されている。アッパーケース31は、その底部近傍から底部にかけての部分において直径寸法が収容部31cよりも小さく絞られており、それにより、収容部31cと小径部との境界に両者の直径差によって突き当て部31dが形成されている。突き当て部31dは、フィルタエレメント20の導入口31aへ向かう方向の移動を規制している。アッパーケース31の開口端には、図1に示すように、ガイド部31bが形成されている。ガイド部31bの内径寸法は、後述する圧縮部材であるリテーナ40のフランジ部43の外周面と嵌合するように設定されている。また、ガイド部31bにおける開口端から深さ寸法は、上述のフランジ部43の厚さ寸法と等しく設定されている。ロアケース32の底部、つまり、図1における下端部には、ケーシング30内から燃料を排出するための排出口32aが設けられている。燃料タンク(図示せず)からエンジン(図示せず)へ燃料を供給する燃料配管(図示せず)の途中に燃料フィルタ10が取付けられる、つまり導入口31aを燃料配管の上流側に、排出口32aを燃料配管の下流側にそれぞれ接続すると、燃料は、導入口31aから燃料フィルタ10内へ流入し、フィルタエレメント20を通過して、排出口32aから流出する。
【0021】
濾過体であるフィルタエレメント20は、不織布から形成されている。フィルタエレメント20は、燃料の流れ方向に沿う面である外周面に硬化部21が薄い円筒状に形成されている。硬化部21は、フィルタエレメント20における燃料流れ方向(図1において上下方向)の全長に亘って形成されている。硬化部21は、フィルタエレメント20を構成する不織布の表面のみを加熱手段により溶融、硬化させて、図2に示すように、円筒状に形成されており、その内周側の不織布からなる未硬化部22とは一体化している。加熱手段としては、たとえば超音波溶着装置等が用いられる。フィルタエレメント20単体の形状は、円柱状に形成されている。フィルタエレメント20がアッパーケース31の収容室31c内へ組み込まれ、後述するリテーナ40が装着されると、フィルタエレメント20は、フィルタエレメント20の下流側端面24がリテーナ40によって押圧されて、図1に示すような形状に、リテーナ40の形状に倣いつつ部分的に圧縮変形する。なお、本実施形態では、濾過体として不織布を用いているが、不織布に限定する必要はなく、他の種類の濾過体、たとえば連泡構造を有するウレタン樹脂からなる多孔質体、繊維集合体(樹脂、無機物、金属、天然繊維等から形成されるもの)等を用いても良い。また、フィルタエレメント20の材質は、当然ながら濾過対象である流体としての燃料に対して安定であるような材質が用いられる。
【0022】
圧縮部材であるリテーナ40は、たとえば樹脂材料を成型加工して、あるいは金属板にプレス加工を施す等して作られている。リテーナ40は、フィルタ10に組みつけられた状態においてフィルタエレメント20の下流側端面24に当接し上流側端面23に向かって突出する曲面である円錐面部41と、この円錐面部41の底縁から外周へ延出されるフランジ部42を備えている。円錐面部41およびフランジ部42には、図1に示すように、複数の貫通孔43が形成されている。フィルタエレメント20へ流入し濾過された燃料は、貫通孔43を通ってフィルタエレメント20外へ流出する。貫通孔43は、この燃料流れを妨げないように、図3に示すように、円錐面部41およびフランジ部42の全域にわたって多数設けられている。
【0023】
次に、以上説明した本発明の第1実施形態による燃料フィルタ10の組み付け方法について説明する。
【0024】
燃料フィルタ10の組み付け工程までに、フィルタエレメント20には硬化部21が形成されている。先ず、アッパーケース31の収容室31cへフィルタエレメント20を装着する。このとき、フィルタエレメント20の上流側端面23を、アッパーケース31の突き当て面31dに当接させる。
【0025】
次に、リテーナ40をアッパーケース31に装着する。このとき、リテーナ40の円錐面部41の頂点をフィルタエレメント20の下流側端面24に当接させ、リテーナ40をフィルタエレメント20の上流側端面23へ向かって押し込み、リテーナ40のフランジ部42をアッパーケース31のガイド部31bに嵌合させる。
【0026】
続いてロアケース32をアッパーケース31へ固定する。ロアケース32のアッパーケース31への固定は、たとえば超音波溶接等により行われる。
【0027】
次に、以上説明した工程により組み立てられた燃料フィルタ10における、フィルタエレメント20の密度分布について説明する。フィルタエレメント20を構成する不織布は、樹脂繊維を均一に絡み合わせて形成され、弾力性、柔軟性に飛んでいる。フィルタエレメント20は、自然状態(外力をほとんど受けない状態)では、フィルタエレメント20の内部における繊維間隔、言い換えると繊維間の隙間の大きさが略同一となっている。フィルタエレメント20の密度、すなわち単位体積当たりの繊維体積が占める割合、が全体として一様になっている。ところが、燃料フィルタ10に組み込まれた状態においては、フィルタエレメント20は、その下流側端面24においてリテーナ40により押圧圧縮されている。
【0028】
フィルタエレメント20に外力が加えられると、フィルタエレメント20は弾性体的に変形して体積が減少する。それにともなって、密度が高くなる。ここで、フィルタエレメント20に硬化部21が無い場合は、フィルタエレメント20の体積減少度合いはフィルタエレメント20全体に均一となり、したがって、上昇後の密度も全体に均一となる。これに対して、本発明の第1実施形態による燃料フィルタ10のように硬化部21がある場合は、フィルタエレメント20における力の作用方向、つまり燃料流れ方向である上流側端面23および下流側端面24を結ぶ方向における変形が、硬化部21により規制される。そのため、フィルタエレメント20において力を受ける部分、すなわちリテーナ40と当接する部分である下流側端面24近傍において、フィルタエレメント20の変形量がもっとも大きくなり、下流側端面24から離れるにしたがってフィルタエレメント20の変形量が小さくなる。言い換えると、下流側端面24近傍においてフィルタエレメント20密度が最大となり、下流側端面24から遠ざかるに連れて密度は減少し、下流側端面24から最も離れた部位である上流側端面23付近においては、密度はほとんど変化せず自然状態のときの密度となっている。すなわち、本発明の第1実施形態による燃料フィルタ10のフィルタエレメント20においては、密度が均一ではなく、上流側端面23から下流側端面24に向かうに連れて密度が徐々に上昇して、いわゆる密度勾配が形成されている。本発明の第1実施形態による燃料フィルタ10のフィルタエレメント20における密度分布状態は、たとえば、図4に示すようになっている。すなわち、図4中の領域Aにおいては密度が最大であり、領域B、領域C、領域Dと移行するに連れて密度が順次低下し、領域Eにおいて密度は自然状態のときと同等となっている。
【0029】
従来のフィルタでは、濾過体を流体流れに直交する方向に押圧圧縮して密度勾配を形成している。このため、圧縮率が高い高密度部位ほど濾過体の断面積である流体の通路面積が減少している。これに対して、本発明の第1実施形態による燃料フィルタ10においては、リテーナ40によりフィルタエレメント20を燃料流れ方向に沿う方向であるケーシング30の収容室31cの軸方向に押圧圧縮することにより、フィルタエレメント20に密度勾配を形成している。そのため、フィルタエレメント20の断面積、つまり燃料の通路面積はフィルタエレメント20における燃料入り口から出口に到るまで変化せずに一定である。
【0030】
以上説明したように、本発明の第1実施形態による燃料フィルタ10においては、フィルタエレメント20の外周部に円筒状の硬化部21を設けてフィルタエレメント20の燃料流れ方向の変形を規制するとともに、リテーナ40によりフィルタエレメント20の下流側端面24から上流側端面23に向かって押圧圧縮している。これにより、フィルタエレメント20の断面積である燃料の通路面積を減少させることなく、フィルタエレメント20内に密度勾配を形成し、低密度であるフィルタエレメント20の上流側において主に大きい異物を捕集し、高密度であるフィルタエレメント20の下流側においてより細かい異物を捕集して、フィルタエレメント20内の捕集異物分布を均一にして、異物捕集量増加にともなう圧力損失増大、捕集効率低下を最小限度に抑制できる。したがって、濾過体の高密度部分における断面積を減少させることなく濾過体に密度勾配を形成して、プッシュアウトの発生を抑制できるフィルタを提供することができる。
【0031】
また、以上説明したように、本発明の第1実施形態による燃料フィルタ10においては、リテーナ40によりフィルタエレメント20を押圧圧縮するとともに、リテーナ40におけるフィルタエレメント20を押圧する部分をフィルタエレメント20の上流側端面23に向かって突出する円錐面状に形成している。これにより、フィルタエレメント20の密度勾配仕様の異なる燃料フィルタを、フィルタエレメント20およびケーシング30は共通として、リテーナの形状のみを変更するという容易な手段により設定することができる。
【0032】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態による燃料フィルタ10は、本発明の第1実施形態による燃料フィルタ10に対して、フィルタエレメント20の上流側に予備濾過体であるプライマリフィルタ50を積層配置している点のみが異なっている。
【0033】
プライマリフィルタ50は、不織布から形成され、その目の粗さはフィルタエレメント20の自然状態時における粗さよりも粗く設定されている。すなわち、プライマリフィルタ50の密度はフィルタエレメント20の自然状態時における密度よりも小さく設定されている。また、プライマリフィルタ50の外周側には、フィルタエレメント20の場合と同様にして硬化部51が形成されている。これにより、燃料フィルタ10の組み付け工程において、リテーナ40によりフィルタエレメント20を押圧圧縮した際の押圧力は硬化部21から硬化部51へ伝達されて、プライマリフィルタ50の未硬化部52へは伝達されないので、プライマリフィルタ50の密度は変化しない。
【0034】
以上説明した本発明の第2実施形態による燃料フィルタ10によれば、濾過体としてフィルタエレメント20のみを用いる場合に比べて、濾過体の密度勾配範囲を低密度側に拡大することができる。したがって、燃料中に混在する異物の形状の大きさの範囲が広い場合においても、つまり、より大きい異物が混在する燃料を濾過する場合においても、異物捕集効率を向上させつつ、異物捕集量増加にともなう圧力損失増大、捕集効率低下を最小限度に抑制できる燃料フィルタ10を提供できる。
【0035】
また、プライマリフィルタ50を、一つの濾過体から構成するのではなく、複数個の濾材を燃料の流れ方向に積層して形成しても良い。たとえば、図6に示すように、3個の濾材層61、62、63からなるプライマリフィルタ60を用いても良い。この場合、フィルタエレメント20、各濾材層61、62、63の目の粗さである密度は、フィルタエレメント20、濾材層61、濾材層62、濾材層63の順番で、すなわち下流側から上流側に向かって、小さくなるように設定されている。このような構成によっても、濾過体としてフィルタエレメント20のみを用いる場合に比べて、濾過体の密度勾配範囲を低密度側に拡大することができる。なお、プライマリフィルタ50、60は、不織布のほかには、連泡構造を有するウレタン樹脂からなる多孔質体、繊維集合体(樹脂、無機物、金属、天然繊維等から形成されるもの)等を用いても良い。
【0036】
なお、以上説明した本発明の第1実施形態および第2実施形態によるフィルタ10では、リテーナ40におけるフィルタエレメント20を押圧圧縮する部位の形状を円錐面状としているが、円錐面に限る必要はなく、フィルタエレメント20の上流側端面23に向かって突出する形状であればどのような形状であっても良い。たとえば、球面状であってもよい。さらに、突出部を一個ではなくて複数個設けても良い。
【0037】
また、以上説明した、第1実施形態および第2実施形態によるフィルタ10では、加熱によりフィルタエレメント20の外周の表皮部を溶融・硬化させて、円筒状の硬化部21を設け、それによってフィルタエレメント20が押圧圧縮されたときのフィルタエレメント20の燃料流れ方向の変形を規制しているが、他の手段により、フィルタエレメント20が押圧圧縮されたときのフィルタエレメント20の燃料流れ方向の変形を規制しても良い。たとえば、フィルタエレメント20に硬化部21を設けずに、フィルタエレメント20を収容室31cの内壁に接着あるいは溶着等により接合固定しても良い。あるいは、フィルタエレメント20の外周に別部材としての樹脂あるいは金属からなる薄肉円筒状のスリーブを嵌合固着してもよい。以上の手法は、本発明の第2実施形態によるフィルタ10において、プライマリフィルタ50の外周に硬化部51を形成する場合に適用しても良い。
【0038】
また、以上説明した実施例は、いずれも本発明を燃料フィルタに適用した場合を例に説明しているが、濾過対象である液体を燃料に限定する必要はなく、他の種類の流体を濾過するフィルタに適用しても良い。例えば、流体として、飲料用水、工業用水、各種食用飲料、各種薬品等の液体、あるいは気体に適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施形態による燃料フィルタ10の断面図である。
【図2】図1中のII―II線断面図である。
【図3】図1中のIII矢視図である。
【図4】フィルタエレメント20内の密度分布を説明する模式図である。
【図5】本発明の第2実施形態による燃料フィルタ10の断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態の変形例による燃料フィルタ10の断面図である。
【符号の説明】
【0040】
10 燃料フィルタ(フィルタ)
20 フィルタエレメント(濾過体)
21 硬化部
22 未硬化部
23 上流側端面
24 下流側端面
30 ケーシング
31 アッパーケース
31a 導入口
31b ガイド部
31c 収容部
31d 突き当て部
32 ロアケース
32a 排出口
40 リテーナ(圧縮部材)
41 円錐面部
42 フランジ部
43 貫通孔
50 プライマリフィルタ(補助濾過体)
51 硬化部
52 未硬化部
60 プライマリフィルタ(補助濾過体)
61 濾材層
62 濾材層
63 濾材層
A〜E 密度領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の導入口および排出口を備えるケーシングと、
前記ケーシング内において前記導入口と排出口との間に収容される濾過体と、を備え、
流体を前記導入口から前記ケーシング内へ導入し前記濾過体を通過させて前記排出口から前記ケーシング外へ排出するフィルタであって、
前記濾過体の流体の流れ方向に沿う面である外周面の全部あるいは一部が流体の流れ方向に変形しないように拘束され、
前記濾過体における流体の流れ方向下流側の端面である下流側端面から前記濾過体における流体の流れ方向上流側の端面である上流側端面に向かって前記濾過体を押圧圧縮したことを特徴とするフィルタ装置。
【請求項2】
前記ケーシングは前記濾過体の前記下流側端面に当接して前記上流側端面に向かって前記濾過体を圧縮する圧縮部材を備えることを特徴とする請求項1に記載のフィルタ装置。
【請求項3】
前記圧縮部材の前記濾過体に当接する当接面は前記濾過体の上流側端面に向かって突出する曲面状に形成されることを特徴とする請求項2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記濾過体の上流側に目の粗さが前記濾過体よりも粗い予備濾過体を積層配置したことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一つに記載のフィルタ。
【請求項5】
前記予備濾過体は流体の流れ方向に沿って積層配置された複数の濾材層から構成されることを特徴とする請求項4に記載のフィルタ。
【請求項6】
複数の前記濾材層の目の粗さは、前記濾過体と隣接する濾材層の目の粗さが最も細かく、流体の流れ方向上流側に位置する前記濾材層ほど順次粗くなるように設定されることを特徴とする請求項5に記載のフィルタ。
【請求項7】
前記濾過体、前記予備濾過体および前記濾材層は不織布、繊維集合体または連泡構造を有する樹脂等から形成されることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一つに記載のフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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