説明

フィルムの固定方法およびフィルム固定用固定ステージ

【課題】フィルムの表面硬度を測定する際に、下地の影響を受けず、かつフィルムのずれによる測定ばらつきを防止可能なフィルムの固定方法およびフィルム固定用固定ステージを提供すること。
【解決手段】フィルムの表面硬度を測定する際に、フィルムを真空吸着することにより固定ステージに固定するフィルムの固定方法であって、フィルムとの当接面の表面硬度が1GPa以上であり、かつ表面粗さRaが5μm以下であるフィルム固定用固定ステージを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの表面硬度を測定する際に、フィルムを真空吸着することによりフィルム固定用固定ステージに固定するフィルムの固定方法およびフィルム固定用固定ステージに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高分子系材料からなるフィルムは層厚みが薄いため、その表面硬度を引っ掻き試験や押し込み試験により行う場合は、下地の影響を非常に受け易く、フィルムの固定方法によって測定結果が大きく変化する場合がある。フィルムの引っ掻き試験や押し込み試験を行う場合には、測定中にフィルムがずれないこと、測定で得られる結果に、下地の影響が出ないこと、が求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
フィルムの表面硬度を測定する際、その固定方法としては、下記の対策(1)〜(3)が考えられる。
(1)フィルムの端部をテープで固定する。
(2)粘着剤でフィルムの全面を固定する。
(3)フィルムの端部または全面を接着剤で固定する。
【0004】
しかしながら、上記対策(1)の場合、フィルムの浮きが発生したり、測定中にフィルムのずれが生ずるという不具合が発生する。また、上記対策(2)の場合、粘着剤のような軟らかい層が下地にあると、測定値に下地の影響が非常に出易いという不具合が発生する。さらに、上記対策(3)の場合、接着剤の物性が測定値に影響する場合がある、フィルムのうねりが生ずる、および接着剤の硬化に時間を要する、という不具合がある。
【0005】
上記のとおり、フィルムの表面硬度を測定する際、その固定方法は未だ確立されているとは言えず、さらなる改良の余地があった。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、フィルムの表面硬度を測定する際に、下地の影響を受けず、かつフィルムのずれによる測定ばらつきを防止可能なフィルムの固定方法およびフィルム固定用固定ステージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち、本発明に係るフィルムの固定方法は、フィルムの表面硬度を測定する際に、前記フィルムを真空吸着することによりフィルム固定用固定ステージに固定するフィルムの固定方法であって、前記フィルム固定用固定ステージは、前記フィルムとの当接面の表面硬度が1GPa以上であり、かつ表面粗さRaが5μm以下であることを特徴とする。
【0008】
また、上記フィルムの固定方法において、前記フィルム固定用固定ステージは、少なくとも前記フィルムとの当接面が多孔質セラミックで構成されたものであることが好ましい。
【0009】
また、上記フィルムの固定方法において、前記多孔質セラミックの平均孔径が、5μm以下であることが好ましい。
【0010】
また、上記フィルムの固定方法において、前記多孔質セラミックが、Alであることが好ましい。
【0011】
本発明に係るフィルム固定用固定ステージは、フィルムの表面硬度を測定する際に、前記フィルムを真空吸着することにより固定するためのフィルム固定用固定ステージであって、前記フィルムとの当接面の表面硬度が1GPa以上であり、かつ表面粗さRaが5μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るフィルムの固定方法は、フィルムの表面硬度を測定する際に、フィルムを真空吸着することにより、フィルムの位置ずれを防止しつつフィルム固定用固定ステージにフィルムを固定することができる。したがって、フィルムとフィルム固定用固定ステージとを、接着剤や粘着剤などを介して固定する必要が無く、フィルムの表面硬度を測定するに際し、接着剤層や粘着剤層などの硬度の影響を受けない。さらに、下地として、フィルムとの当接面の表面硬度が1GPa以上であり、かつ表面粗さRaが5μm以下であるフィルム固定用固定ステージを使用するため、フィルムの表面硬度を正確に測定することができる。
【0013】
なお、フィルムを真空吸着する際、所謂スルーホールタイプの固定ステージにフィルムを固定すると、フィルムのずれに対する十分な保持力を得るためには、ホールの面積が大きくなり、フィルムのゆがみなどに起因した測定ばらつきが大きくなって、フィルムの表面硬度を正確に測定できないことが懸念される。しかしながら、本発明に係るフィルムの固定方法において、フィルムとの当接面が多孔質セラミックで構成されたフィルム固定用固定ステージを使用した場合、フィルム表面の凹凸の発生が防止でき、フィルムの表面硬度をより正確に測定することができる。フィルムの表面硬度をさらに正確に測定するためには、多孔質セラミックの平均孔径が、5μm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明に係るフィルム固定用固定ステージは、上述した構成を備えるため、フィルムの表面硬度を正確に測定する際に有用である。本発明に係るフィルムの固定方法およびフィルム固定用固定ステージは、接着剤や粘着剤などを介して固定する必要が無く、かつフィルムの位置ずれを防止することができるため、後述のとおり硬度評価部位を繰り返しスキャンする硬度評価方法に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るフィルムの固定方法およびフィルム固定用固定ステージを示す概略図
【図2】押し込み荷重と押し込み痕深さとの関係の一例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るフィルムの固定方法は、フィルムの表面硬度を測定する際に、フィルムを真空吸着することによりフィルム固定用固定ステージに固定する。かかるフィルム固定用固定ステージは、フィルムとの当接面の表面硬度が1GPa以上であり、かつ表面粗さRaが5μm以下である。
【0017】
フィルム固定用固定ステージの形状は特に限定されるものではないが、例えば、フィルムとの当接面が多孔質セラミックで構成され、この当接面の背面側から真空引きが可能なものが例示される(図1参照)。本発明では、フィルム固定用固定ステージのフィルムとの当接面の表面硬度が1GPa以上であり、かつ表面粗さRaが5μm以下に調整されている。なお、表面硬度を1GPa以上とするためには、少なくとも当接面を構成する多孔質セラミック自体の硬度が1GPa以上となる材料を適宜選択すれば良く、そのような材料として、例えばAlからなる多孔質セラミックが挙げられる。フィルムの表面硬度をより正確に測定するためには、フィルム固定用固定ステージの少なくともフィルム当接面の表面硬度を1.5GPa以上とすることが好ましく、表面粗さについては2μm以下とすることが好ましい。当接面の表面粗さを5μm以下とするためには、例えば多孔質セラミックのフィルムとの当接面側を、当業者に公知の手法により表面研磨する方法が採用可能である。
【0018】
フィルム固定用固定ステージの少なくともフィルム当接面を多孔質セラミックで構成する場合、多孔質セラミックの平均孔径を5μm以下とすることが好ましく、1μm以下とすることがより好ましい。多孔質セラミックの孔径を十分に小さくすることで、多孔質セラミックで構成されたフィルム固定用固定ステージの表面粗さRaを小さくし、表面硬度を大きくできる。
【0019】
本発明において、表面硬度の評価対象であって、固定対象となるフィルムは、相対的に柔らかく(例えば、JIS K5600で規定される鉛筆硬度が5B〜5H程度)、かつ厚みが薄い(例えば、0.01〜1mm)ものが挙げられる。本発明において、フィルムとしてより具体的には、偏光板、ハードコート、アンチグレア、低反射処理されたフィルム、断熱フィルム、各種保護フィルム、光学フィルムなどが挙げられる。
【0020】
本発明に係るフィルムの固定方法およびフィルム固定用固定ステージは、フィルムの表面硬度を測定する際に有用である。フィルムの表面硬度を測定する方法としては、例えばJIS K5600で規定される鉛筆硬度試験が挙げられる。しかしながら、本実施形態においては、鉛筆硬度試験に比べて、フィルムの表面硬度を正確かつ簡便に測定可能である下記の代替評価方法に、本発明に係るフィルムの固定方法およびフィルム固定用固定ステージを適用した例を以下に示す。かかる代替評価方法は、鉛筆硬度試験に比べて、フィルムの表面硬度(引っかき硬度)を正確かつ簡便に測定可能であるため、非常に有用である。
【0021】
鉛筆硬度試験に代わる上記代替評価方法は、曲率半径が20〜500μmである先端を有し、モース硬度が7以上の材料で形成された圧子を、直線方向に移動させつつ被評価フィルム表面に押し込んだときの押し込み痕深さ(A)を測定する測定ステップと、被評価フィルム表面にかかる押し込み荷重が1.5〜3Nである地点のうち、任意の地点における押し込み痕深さ(A)に基づき、既知の鉛筆硬度を有する複数の標準試験フィルムの鉛筆硬度(B)と標準押し込み痕深さ(C)との関係から、被評価フィルムの引っかき硬度を評価する評価ステップと、を有する。かかる代替評価方法では、押し込み痕深さを正確に測定することが重要であるが、被評価フィルムを固定する際に、本発明に係るフィルムの固定方法およびフィルム固定用固定ステージを適用することにより、被評価フィルムの押し込み痕深さを正確に測定できる。
【0022】
本発明に係るフィルムの固定方法およびフィルム固定用固定ステージを適用した、鉛筆硬度試験に代わる代替評価方法を示す概略図を図1に示す。この例では、フィルムとして偏光板Xを使用し、この偏光板Xは、上層よりハードコート層1、保護フィルム2、偏光子3、保護フィルム4を有する。フィルム固定用固定ステージYは、フィルムの当接面を構成する多孔質セラミック5と、多孔質セラミックを囲む外枠部6と、を有する。外枠部6には、偏光板Xとの当接面の背面側から真空引き可能な吸引口6aが配され、この吸引口6aより例えば真空ポンプ(図1では図示を省略)を用いて、偏光板Xとフィルム固定用固定ステージYの外枠部6とに囲まれた部分を真空状態とすることにより、偏光板Xを真空吸着することができる。なお、外枠部6は、真空吸引する際に形状を保持可能なステンレスなどで構成すれば良い。
【0023】
圧子7として、曲率半径が20〜500μmである球面部を先端に有し、モース硬度が7以上の材料で形成された圧子を使用する。鉛筆硬度試験の結果との相関を高めるためには、圧子7の球状の先端の曲率半径は50〜200μmであることが好ましい。モース硬度が7以上の材料としては、ダイヤモンド(モース硬度10)が好適に使用可能であるが、他に石英(モース硬度7)、トパーズ(モース硬度8)、サファイアおよびルビー(モース硬度9)も使用可能である。
【0024】
図1に示すとおり、この実施形態に係る代替評価方法では、圧子7を直線方向Iに移動させつつ被評価フィルム表面(偏光板X表面)に押し込んだときの押し込み痕深さ(A)を測定する。本実施形態では、被評価フィルム表面に圧子を押し込む際に作用させる押し込み荷重として、1.5N〜3Nの範囲を含む任意の範囲に設定可能であるが、例えば0N〜10Nが挙げられる。
【0025】
本実施形態において、被評価フィルムに対する圧子7の押し込み角度Fは特に限定されるわけではないが、図1に示す例では被評価フィルム表面に対して略垂直(90°±5°)に設定している。鉛筆硬度試験の結果との相関を高めるためには、直線方向Iに移動させる際の圧子7の移動速度を30mm/min以下とすることが好ましく、20mm/min以下とすることがより好ましい。圧子7の移動速度の下限としては、例えば1mm/minが挙げられる。
【0026】
本実施形態では、被評価フィルム表面に対する圧子7の押し込み荷重を、例えば0Nから連続的に変化(増大)させつつ一度に押し込み痕深さ(A)を測定しても良い。押し込み荷重を連続的に変化させて押し込み痕深さ(A)を測定する場合、その押し込み荷重を変化させる速度を10N/min以上の速度で増大させることが好ましく、30N/min以上の速度で増大させることがより好ましい。圧子7の荷重(変化)速度の下限としては、例えば1N/minが挙げられる。あるいは押し込み荷重(例えば、1.5N、2N、2.5N、3N)一定で、複数回に分けて、各押し込み荷重での押し込み痕深さ(A)を測定しても良い。押し込み荷重を連続的に変化させつつ測定する、あるいは一定荷重で複数回測定することにより、被評価フィルム表面にかかる押し込み荷重が1.5〜3Nである地点のうち、任意の地点における押し込み痕深さ(A)を測定することができる(測定ステップ)。
【0027】
本実施形態において、測定ステップにて使用する装置は、圧子を直線方向に移動させつつ被評価フィルム表面に押し込む機能と、圧子を被評価フィルム表面に押し込んだ後、繰り返し押し込み痕をスキャンすることにより押し込み痕深さ(A)を測定する機能と、を有する装置であれば特に限定することなく使用可能である。このような機能を有する装置としては、例えばCSM Instruments社製「マイクロスクラッチテスターMST−Z−AU−0000」が挙げられる。この装置では、例えば図2に示すとおり、圧子7を直線方向Iに5mm移動させる間に、押し込み荷重0Nから10Nまで連続的に変化させた場合(横軸)、各押し込み荷重での押し込み痕深さ(A)を正確に記録することができるため、本評価方法を実施するに際して有用である。図2において、10は押し込み痕深さ、11は押し込み深さ(圧子7を直線方向Iに移動させつつ被評価フィルム表面に押し込む際に、圧子7が被評価フィルムに侵入する深さ(被評価フィルム表面〜圧子7先端までの距離))を示す。
【0028】
上述した測定ステップにて測定した押し込み痕深さ(A)に基づき、既知の鉛筆硬度を有する複数の標準試験フィルムの鉛筆硬度(B)と標準押し込み痕深さ(C)との関係から、被評価フィルムの引っかき硬度を評価する(評価ステップ)。評価ステップは、JIS K5600で規定される鉛筆硬度試験に準拠して、硬度の異なる複数の標準試験フィルムの鉛筆硬度(B)をそれぞれ測定する第1ステップと、圧子を、直線方向に移動させつつ標準試験フィルム表面に押し込み、標準試験フィルムの表面に対してかかる押し込み荷重が1.5〜3Nである地点のうち、任意の押し込み荷重の地点における標準押し込み痕深さ(C)を、複数の標準試験フィルムそれぞれにおいて測定する第2ステップと、複数の標準試験フィルムの各鉛筆硬度(B)と標準押し込み痕深さ(C)との関係から、任意の押し込み荷重における一次相関式を決定する第3ステップと、を有する。
【0029】
本発明に係るフィルム固定用固定ステージを使用したフィルムの固定方法は、フィルムの表面硬度を測定する際に、下地の影響を受けず、かつフィルムのずれを防止可能であるため、鉛筆硬度試験や、上述した鉛筆硬度試験に代わる代替評価方法におけるフィルムの固定方法として特に有用である。以下に、上述した鉛筆硬度試験に代わる代替評価方法において、圧子を、直線方向に移動させつつ被評価フィルム表面に押し込み荷重2Nにて押し込んだときの押し込み痕深さ(A)を測定し、この押し込み痕深さ(A)のばらつきおよび固定性(被評価フィルムのずれの有無)を評価した例を示す。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例などについて説明する。なお、実施例などにおいて使用した多孔質セラミックの表面硬度および表面粗さは下記のようにして測定を行った。
【0031】
(1)表面硬度
ダイプラ・ウィンテス社製のSAICAS−DN20型を用いてインデンテーション試験を行い、得られた結果から算出した値をフィルム固定用固定ステージの表面硬度Hとして評価した。
【0032】
上記インデンテーション試験は、圧子(ロックウェル型(円錐型)ダイヤモンド圧子)を徐々に荷重Pをかけて所定の最大荷重Pmaxとなるまで被検材に押し込む過程と、徐々に除荷して荷重Pが0になるまで引き抜く過程において得られる、圧子の荷重Pと押し込み深さhとの関係から、被検材の弾性的および塑性的性質を測定する試験である。
【0033】
押し込み深さhは、圧子の先端と初期状態の被検材表面(圧子を押し込む前の被検材表面)との距離を意味し、圧子が被検材の表面に初めて接触した位置を基準とした圧子の変位量に相当する。
【0034】
フィルム固定用固定ステージの表面硬度Hは、上記のインデンテーション試験によって得られる圧子の荷重Pから圧子と被検材の接触射影面積Zを除することで求められる(下記式(1))。
H=P/Z (1)
【0035】
接触射影面積Zは、圧子の位置が最大押し込み深さhmaxに到達したときにおける圧子と被検材表面との接触部分の面積を、圧子の押し込み方向に射影した面積を意味し、下記式(2)により求められる。
Z=π{R−(R−h} (2)
【0036】
上記式(2)において、πは円周率、Rは圧子の先端曲率半径である。また、hは最大押し込み深さhmax、最大荷重Pmaxおよび接触剛性率Sを用いて、下記式(3)で表される。
=hmax−0.72・Pmax/S (3)
【0037】
接触剛性率Sは、インデンテーション試験によって得られる圧子の荷重Pと押し込み深さhの関係のうち、除荷過程で得られる関係に基づき算出される。接触剛性率Sは、圧子の位置が最大押し込み深さhmax(最大荷重Pmaxをかけたときの押し込み深さ)に到達してから除荷過程に遷移した直後の除荷曲線の傾きによって定義される。換言すれば、接触剛性率Sは点(hmax、Pmax)における除荷曲線に対する接線Lの勾配(dP/dh)を意味する。
【0038】
この接触剛性率Sは、除荷過程において圧子の荷重Pが初めて0になったときの押し込み深さhfと正の相関を有する。押し込み深さhfは、圧子の荷重Pが0になっても、変形した被検材表面が初期状態に戻らない(弾性回復しない)度合い、すなわち負荷過程における被検材の塑性変形量を示す指標である。従って、この押し込み深さhfと正の相関を有する接触剛性率Sは、被検材の塑性変形のし易さ(弾性回復のし難さ)を示す指標であると言える。
【0039】
本発明に係るフィルム固定用固定ステージの表面硬度の評価では、多孔質セラミックに対して、曲率半径が200μmである球面部を先端に有し、ダイヤモンドで形成された圧子を用いて、0.2μm/secの速さで押し込み深さが10μmに達するまで負荷および除荷を行い、最大押し込み深さhmaxが10μmのときの硬さHを表面硬度とした。結果を表1に示す。
【0040】
(2)表面粗さ
本発明に係るフィルム固定用固定ステージの表面粗さの評価には、日本ビーコ社製の3次元表面形状粗さ計:Wyko−NT3300を用い、算術平均粗さRa(JIS B0601)を測定した。なお、測定の範囲は241×184μm(対物レンズ50×、内部レンズ0.5×)とした。結果を表1に示す。
【0041】
実施例1〜3、比較例1〜2
図1のとおり、偏光板Xを真空吸着することによりフィルム固定用固定ステージYに固定し、上述したマイクロスクラッチテスターに圧子7(曲率半径が10μmである球面部を先端に有し、ダイヤモンドで形成された圧子)を装着し、移動速度10mm/minにて直線方向Iに5mm移動させつつ被評価体表面に押し込み、圧子を被評価フィルム表面に押し込んだ後、繰り返し押し込み痕をスキャンすることにより、押し込み荷重が2Nである地点における押し込み痕深さ(A)を測定した(圧子7の荷重(変化)速度30N/min)。押し込み痕深さ(A)の測定は、n=3で行い、標準偏差(σ)をばらつきの指標とした。標準偏差(σ)が0.1μm未満であればA、0.1〜μm以上0.3μm未満であればB、0.3μm以上であればCとした。
【0042】
また、押し込み痕深さ(A)を測定する際に、偏光板Xのずれが発生しない場合は“OK”、ずれが発生した場合は“NG”とした。この標準偏差(σ)が0.3μm未満であり、偏光板Xのずれが発生しない場合は、フィルム固定用固定ステージに偏光板Xが確実に固定され、偏光板Xの表面硬度を測定する際に、下地の影響を受けることなく、偏光板Xの表面硬度が正確に測定可能であることを意味する。結果を表1に示す。
【0043】
なお、実施例1〜3、比較例1〜2では、使用したフィルム固定用固定ステージのフィルム当接面を構成する多孔質セラミックを変更して評価を行った。表1中、「研磨の有無」では、多孔質セラミックのフィルムとの当接面を研磨した場合を「有」、研磨していない場合を「無」とした。また、表1中、「孔径」とは平均孔径を意味する。
【0044】
比較例3
偏光板Xを真空吸着することによりフィルム固定用固定ステージYに固定するのに代えて、ガラス板からなる固定ステージに粘着剤(日東電工社製 アクリル系粘着剤(20μm厚))を介して偏光板Xを固定したこと以外は、実施例1〜3、比較例1〜2と同様の方法により評価した。
【0045】
比較例4
偏光板Xを真空吸着することによりフィルム固定用固定ステージYに固定するのに代えて、ガラス板からなる固定ステージに偏光板Xの端部をテープで固定したこと以外は、実施例1〜3、比較例1〜2と同様の方法により評価した。
【0046】
【表1】

【0047】
表1の結果から、実施例1〜3に係るフィルム固定用固定ステージを使用して偏光板(フィルム)を固定した場合、フィルムのずれが無く、押し込み痕深さの測定値のばらつきも小さいため、フィルムの表面硬度を測定する際のフィルムの固定方法として優れていることがわかる。一方、フィルムとの当接面が1GPa未満であり、かつ表面粗さが5μmを超える比較例1および2では、フィルムのずれは発生しないものの、押し込み痕深さの測定値のばらつきが大きかった。なお、比較例3では、フィルムのずれは発生せず、かつ(フィルム+粘着剤層)の押し込み痕深さのばらつきは小さいものの、押し込み痕深さの値の大部分はフィルムに比して柔らかい粘着剤層の押し込み痕深さであるため、フィルム自体の押し込み痕深さを正確に測定できなかった。また、比較例4では、フィルムのずれが大きく、かつ押し込み痕深さの測定値のばらつきも大きかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの表面硬度を測定する際に、前記フィルムを真空吸着することによりフィルム固定用固定ステージに固定するフィルムの固定方法であって、
前記フィルム固定用固定ステージは、前記フィルムとの当接面の表面硬度が1GPa以上であり、かつ表面粗さRaが5μm以下であることを特徴とするフィルムの固定方法。
【請求項2】
前記フィルム固定用固定ステージは、少なくとも前記フィルムとの当接面が多孔質セラミックで構成されたものである請求項1に記載のフィルムの固定方法。
【請求項3】
前記多孔質セラミックの平均孔径が、5μm以下である請求項2に記載のフィルムの固定方法。
【請求項4】
フィルムの表面硬度を測定する際に、前記フィルムを真空吸着することにより固定するためのフィルム固定用固定ステージであって、
前記フィルムとの当接面の表面硬度が1GPa以上であり、かつ表面粗さRaが5μm以下であることを特徴とするフィルム固定用固定ステージ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−88252(P2013−88252A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228068(P2011−228068)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)