説明

フィルムの延伸方法及び溶液製膜方法

【課題】光学軸のばらつきを抑制する。
【解決手段】テンタ装置2は、クリップ5と、フィルム搬送路の両側に配された対のレールと、対のレールに沿って走行するチェーンと、チェーンにクリップ5を取り付けるクリップ取付機構とを備える。クリップ5は、クランパ31と、略コ字形状のフレーム35と、付勢部材である板バネ37とを備える。クランパ31は、把持部31Bがポリマーフィルム3の側縁部に当接する当接位置、及び把持部31B、32Bがポリマーフィルム3の側縁部にから離れた離隔位置の間で回動自在となる。板バネ37は、当接位置に向かって各クランパ31,32を付勢する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの延伸方法及び溶液製膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ等の急速な発展・普及により、これら液晶ディスプレイの保護フィルム等に用いられるポリマーフィルム、特にセルロースアシレートフィルムの需要が増大している。この需要の増大に伴い生産性の向上が望まれている。
【0003】
セルロースアシレートフィルム(以下、フィルム)を製造するための溶液製膜方法は、ポリマー及び溶剤を含むドープを支持体に流延し、ドープからなる流延膜を支持体上に形成する膜形成工程と、流延膜の膜面に乾燥風をあてて流延膜から溶剤を蒸発させる膜乾燥工程と、流延膜を支持体から剥ぎ取って湿潤フィルムとする剥離工程と、湿潤フィルムから溶剤を蒸発させてフィルムとするフィルム乾燥工程と、フィルムを幅方向へ延伸して、フィルムの光学特性の調整を行なう延伸工程とを有する。このような溶液製膜方法によれば、溶融押出による製膜方法に比べて、異物が無く光学特性に優れたフィルムが得られる。
【0004】
フィルム乾燥工程や延伸工程ではテンタ装置が用いられる(例えば、特許文献1)。テンタ装置は、フィルム搬送路の両側に配されたレールとレールに沿って走行するクリップとを備える。フィルム乾燥工程では、クリップによって両側縁部を把持された湿潤フィルムの両表面に対し乾燥風をあてることができるため、支持体上の流延膜に対しておこなわれる膜乾燥工程に比べ、溶剤の蒸発を効率よく行なうことができる。また、延伸工程では、フィルムの両側縁部を把持したクリップの間隔が大きくなるようにクリップを走行させることで、フィルムを幅方向に延伸することができる。この延伸条件を適宜設定することにより、フィルムの光学特性の調整を行なうことができる。
【0005】
また、特許文献1には、一のレールに沿って走行するクリップの間隔を小さくすることにより、光学軸のばらつきを抑えることができるテンタ装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2011−042186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1のテンタ装置を用いても、ポリマーフィルムには光学軸のばらつきが残っており、改善が求められていた。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、簡単な構成で光学軸のばらつきを抑制するフィルムの延伸方法及び溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のフィルムの延伸方法は、ポリマー及び溶剤を含む帯状のフィルムの幅方向側縁部を下方から支持するベースと、ベースの上方にて横たわるように支持された回動軸と、前記ベースとにより前記幅方向側縁部を把持可能な把持部を先端に備え、前記把持部が前記幅方向側縁部に当接する当接位置及び前記把持部が前記幅方向側縁部から離れた離隔位置の間で回動自在となるように前記回動軸に取り付けられたクランパと、前記クランパ及び前記回動軸の遊びに起因する前記把持部の浮きを抑えるように、前記クランパを当接位置へ付勢する付勢部材とを備えたクリップテンタを用いて前記フィルムを延伸し、前記クリップテンタは前記クランパを複数有し、前記クランパは前記フィルムの長手方向に並べられ、前記隣り合うクランパの間隔は1mm以上4.5mmであることを特徴とする。
【0010】
前記ベースと前記クランパとにより前記側縁部が把持される前記フィルムの溶剤含有率が1質量以上80質量%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の溶液製膜方法は、前記ポリマー及び溶剤を含むドープからなる流延膜を支持体上に形成する膜形成工程と、前記流延膜から前記溶剤を蒸発させる膜乾燥工程と、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取って前記フィルムとする剥離工程と、上記のフィルムの延伸方法を行なう延伸工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光学軸のばらつきを極めて低いレベルまで抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】テンタ装置の概要を示す平面図である。
【図2】テンタ入口におけるテンタ装置の概要を示す断面図である。
【図3】クリップの斜視図である。
【図4】把持状態のクリップの断面図である。
【図5】開放状態のクリップの断面図である。
【図6】ポリマーフィルムの側縁部を把持するテンタ装置の概要を示す断面図である。
【図7】第1の溶液製膜設備の概略図である。
【図8】第2の溶液製膜設備の概略図である。
【図9】第1直線部と傾斜部との交差角度θ1の説明図である。
【図10】フィルム搬送路7からみたときのクリップ5の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示すように、テンタ装置2は、ポリマーフィルム3の両側縁部をクリップ5で把持してフィルム搬送方向Aに搬送しながらフィルム幅方向Bに延伸するとともに、ポリマーフィルム3を乾燥させるものである。
【0015】
図1及び図2に示すように、テンタ装置2は、クリップ5と、フィルム搬送路7の両側に配された第1レール11及び第2レール12と、これらレール11,12に沿って走行する第1,第2チェーン(エンドレスチェーン)13,14と、第1,第2チェーン13、14にクリップ5を取り付けるクリップ取付機構16とを備える。クリップ取付機構16により、第1,第2チェーン13,14には、クリップ5が一定のピッチで多数取り付けられている(図1参照)。
【0016】
各レール11,12は、フィルム搬送方向Aに延びる第1直線部11A,12Aと、フィルム幅方向Bの外側へ屈曲する第1屈曲部11B,12Bと、この第1屈曲部11B,12Bにより屈曲された傾斜角度で直線状に延びる傾斜部11C,12Cと、フィルム幅方向Bの内側へ屈曲する第2屈曲部11D,12Dと、フィルム搬送方向Aに延びる第2直線部11E,12Eとを備える。レール11,12の形状は、フィルム搬送路7に対し略対称である。
【0017】
テンタ装置2は、図示しない乾燥室内に配置されている。乾燥室は、フィルム搬送方向Aで、予熱ゾーン2A、延伸ゾーン2B、延伸緩和ゾーン2Cに区画されている。各レール11,12の第1直線部11A,12Aの範囲となる予熱ゾーン2Aでは、ポリマーフィルム3は、例えば80℃以上200℃以下で予熱される。この予熱ゾーン2Aでは、一対のクリップ間距離は一定である。
【0018】
各レール11,12の傾斜部11C,12Cの範囲となる延伸ゾーン2Bでは、ポリマーフィルム3は、例えば80℃以上200℃以下で加熱される。この延伸ゾーン2Bでは、クリップ5が傾斜部11C,12Cを移動することにより、一対のクリップ間距離が漸増し、ポリマーフィルム3は、クリップ5によりフィルム幅方向Bに延伸される。第2直線部11E,12Eの範囲となる延伸緩和ゾーン2Cでは、一対のクリップ間距離は一定であり、延伸によって生じた歪みを緩和する延伸緩和が行われる。なお、延伸倍率は所望の光学特性等に合わせて適宜変更されるものである。
【0019】
各レール11、12の下流端部、すなわちテンタ出口2E側には原動スプロケット21,22が設けられる。原動スプロケット21,22は、図示しない駆動機構により回転駆動される。また、各レール11、12の上流端部、すなわちテンタ入口2I側には従動スプロケット23,24がそれぞれ設けられる。
【0020】
第1チェーン13は、原動スプロケット21及び従動スプロケット23の間に掛け渡される。原動スプロケット21の回転駆動により、第1チェーン13は、第1レール11に沿って走行する。同様に、第2チェーン14は、原動スプロケット22及び従動スプロケット24の間に掛け渡され、原動スプロケット22の回転駆動により第2レール12に沿って走行する。各チェーン13,14の走行により、クリップ5は、各レール11、12に沿って走行する。
【0021】
図2及び図3に示すように、クリップ5は、クランパ31と、略コ字形状のフレーム35と、付勢部材である板バネ37とを備える。
【0022】
図4及び図5に示すように、クランパ31は、フレーム35に回動自在に取り付けられる軸部31Aと、軸部31Aからベース35Bに向かって延設され、ベース35Bとによりポリマーフィルム3の側縁部を把持する把持部31Bと、軸部31Aから把持部31Bと逆方向に延設された頭部31Cとを備える。軸部31Aは、フレーム35の取付軸(後述する)が挿入可能な挿通孔31AOが設けられる。挿通孔31AOの径は、取付軸の径に遊び量を加えたものであり、取付軸の径よりも若干大きい。
【0023】
フレーム35は、ポリマーフィルム3の側縁部を下面側から支持するベース35Bと、ベース35Bから起立するように設けられたアーム35Aと、アーム35Aの先端に設けられた取付軸35AXとを備える。
【0024】
挿通孔31AOに取付軸35Aを通すことにより、クランパ31はフレーム35に取り付けられる。これにより、クランパ31は、把持部31Bがポリマーフィルム3の側縁部に当接する当接位置(図4参照)、及び把持部31Bがポリマーフィルム3の側縁部にから離れた離隔位置(図5参照)の間で回動自在となる。こうして、クリップ5は、ベース35Bとによりポリマーフィルム3を把持する把持状態(図6参照)と、把持を開放する開放状態(図2参照)との間で変移自在となる。
【0025】
板バネ37は、当接位置に向かってクランパ31を付勢するためのものであり、一端はクランパ31の把持部31Bに取り付けられ、他端はアーム35Aに取り付けられる。
【0026】
図2に戻って、クリップ取付機構16は、取付フレーム16Fと、ローラ16RA,16RB,16RCとから構成されている。取付フレーム16Fには、第1チェーン13または第2チェーン14が取り付けられる。ローラ16RA〜16RCは、原動スプロケット21,22の各支持面に接触するか、第1レール11または第2レール12の支持面に接触するかして、回転する。クリップ取付機構16により、各スプロケット21〜24や各レール11,12から脱落することなく、各レール11,12に沿ってクリップ5を案内することができる。
【0027】
図1に戻って、テンタ入口2Iの第1、第2チェーン13、14の走行路上には把持開始位置PAが設定され、テンタ出口2Eの第1、第2チェーン13、14の走行路上には把持開放位置PBが設定される。
【0028】
クリップオープナ40は、クリップ5を開放状態にするためのものであり、テンタ入口2I及びテンタ出口2Eに設けられる。テンタ入口2Iに設けられたクリップオープナ40は、クリップ5の走行路上において、把持開始位置PAからクリップ5の走行方向上流側に向かって延設される。テンタ出口2E26に設けられたクリップオープナ40は、クリップ5の走行路上において、把持開放位置PBからクリップ5の走行方向下流側に向かって延設される。
【0029】
把持開始位置PAよりも上流側において、頭部31Cがクリップオープナ40に接触すると、クリップ5は開放状態となる(図2参照)。これにより、クリップ5は、ポリマーフィルム3の側縁部の受け入れが可能な状態となる。その後、クリップ5が把持開始位置PAに到達するまでに、ポリマーフィルム3の側縁部がベース35Bに支持される。そして、クリップ5が把持開始位置PAを通過するときに頭部31Cがクリップオープナ40から離れるため、自重及び板バネ37により、クリップ5は開放状態から把持状態にセットされて、ポリマーフィルム3の側縁部が把持される(図6参照)。同様にして、原動スプロケット21,22の把持開放位置PBでは、頭部31Cがクリップオープナ40に接触するため、クリップ5が開放状態となる。これにより、ポリマーフィルム3の側縁部の把持が開放される。
【0030】
テンタ装置2では、延伸開始位置PCでポリマーフィルム3の延伸が開始され、延伸終了位置PDでポリマーフィルム3の延伸が終わる。把持開始位置PAから延伸開始位置PCまでの予熱ゾーン2Aでは、ポリマーフィルム3は延伸されずに搬送される。さらに、延伸終了位置PDから把持開放位置PBまでの延伸緩和ゾーン2Cでも、ポリマーフィルム3は延伸されずに搬送される。
【0031】
図4及び図5に示すように、軸部31Aと回動軸33Aとには一定量の遊びZ1があるため、クランパ31の自重のみにより、クリップ5を開放状態から把持状態にセットした場合、把持部31Bの一部がポリマーフィルム3の側縁部から浮いてしまう結果、把持部31B全体がポリマーフィルム3の側縁部の把持に寄与しない場合がある。このような状態で、ポリマーフィルム3を幅方向Bへ延伸してしまうと、ポリマーフィルム3において光学軸のばらつきが生じることとなる。
【0032】
本発明では、自重及び板バネ37を用いて、クリップ5を開放状態から把持状態にセットするため、把持部31Bの一部がポリマーフィルム3の側縁部から浮くことを抑え、把持部31B全体がポリマーフィルム3の側縁部の把持に寄与することができる。したがって、ポリマーフィルム3において光学軸のばらつきを抑えることができる。
【0033】
板バネ37の付勢力として、把持部31B全体がポリマーフィルム3の側縁部に当接できる程度のものであればよい。付勢部材としては、板バネの他、スプリングなど公知のものを用いてもよい。また、付勢部材としては、当接位置近傍のクランパ31に対し当接位置へ向かってクランパ31を付勢し、かつ離隔位置近傍のクランパ31に対し離隔位置へ向かってクランパ31を付勢する、いわゆるトグルバネでもよい。
【0034】
次に、ポリマーフィルム3の製造方法について説明する。ただし、以下に述べる製造方法ならびに製造装置は、本発明の一例であり、これに限定されるものではない。
【0035】
図7に示すように、溶液製膜設備50は、ドープ51と流延室52と2個のテンタ装置2と乾燥室54と冷却室55と巻取室56とを有する。本実施形態では、2個のテンタ装置2のうち、最初にフィルム延伸を行うもの(図7における左側、すなわち上流側)を第1のテンタ装置2と称し、後にフィルム延伸を行うもの(図7における右側、すなわち下流側)を第2のテンタ装置2と称する。
【0036】
ドープ51は、ポリマーフィルム3を製造するためのものであり、ポリマーフィルムの原料となるポリマーと溶剤とを含む。ドープ51は、流延ダイ60に送られる。
【0037】
流延室52には、流延ダイ60、2個の回転ドラム61、この2個の回転ドラム61に掛け渡されて移動する流延バンド62、乾燥装置63、剥取ローラ64、減圧チャンバ65が設置されている。回転ドラム61は駆動装置(図示せず)により回転する。回転ドラム61の回転により流延バンド62が移動する。流延ダイ60は、移動する流延バンド62に向けて、流延ダイ60からドープ51を連続的に流出する。こうして、ドープ51からなる流延膜66が流延バンド62上に形成される膜形成工程が行われる。
【0038】
乾燥装置63は流延膜に対して乾燥風をあてて、流延膜66から溶剤を蒸発させる。こうして、流延膜66から溶剤を蒸発させる膜乾燥工程が行なわれる。そして、溶剤の蒸発によって自己支持性を有するものとなった流延膜は、剥取ローラ64によって、流延バンド62から剥ぎ取られて、湿潤フィルム68となる。
【0039】
減圧チャンバ65は、流延ダイ60に対し、流延バンド62の走行方向上流側に配置されており、減圧チャンバ65内を負圧に保っている。これにより、流延ビードの背面(後に、流延バンド62に接する面)側を所望の圧力に減圧し、流延バンド62が高速で走行することにより発生する同伴風の影響を少なくしている。
【0040】
流延室52の下流には、渡り部71、第1のテンタ装置2、第2のテンタ装置2が順に設置されている。渡り部71は、搬送ローラ72によって剥ぎ取った湿潤フィルム68を第1のテンタ装置2・第2のテンタ装置2へと順に導入する。第1のテンタ装置2において、湿潤フィルム68は延伸されるとともに乾燥され、ポリマーフィルム3となるフィルム乾燥工程が行われる。第2のテンタ装置2においてポリマーフィルム3は延伸されるとともに乾燥され、ポリマーフィルム3には所望の光学特性が付与される延伸工程が行われる。
【0041】
第1のテンタ装置2に導入される湿潤フィルム68の溶剤含有量は、例えば、20質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。第2のテンタ装置2に導入される湿潤フィルム68の溶剤含有量は、例えば、1質量%以下である。
【0042】
ここで、溶剤含有量は、流延膜や各フィルム中に含まれる溶剤の量を乾量基準で示したものであり、対象のフィルムからサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100と表される。
【0043】
第1のテンタ装置2におけるフィルム乾燥工程は、湿潤フィルム68の乾燥、及びこの乾燥による湿潤フィルムのシワの発生を抑えるために行なわれる。また、第2のテンタ装置2における延伸工程は、ポリマーフィルムの光学特性の調整のために行なわれる。
【0044】
第1,第2のテンタ装置2の下流にはそれぞれ耳切装置73が設けられている。耳切装置73はフィルム両端部の耳を裁断する。この裁断した耳は風送によりクラッシャ74に送られて、ここで粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。
【0045】
乾燥室54には、複数のローラ77が設けられており、これらにポリマーフィルム3が巻き掛けられて搬送されることにより乾燥が行われる。乾燥室54には吸着回収装置78が接続されており、ポリマーフィルム3から蒸発した溶媒が吸着回収される。
【0046】
乾燥室54の出口側には冷却室55が設けられており、この冷却室55でポリマーフィルム3が室温となるまで冷却される。冷却室55の下流には強制除電装置(除電バー)79が設けられており、ポリマーフィルム3が除電される。さらに、強制除電装置79の下流側には、ナーリング付与ローラ80が設けられており、ポリマーフィルム3の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室56には、プレスローラ82を有する巻取機81が設置されており、ポリマーフィルム3が巻き芯にロール状に巻き取られる。
【0047】
なお、図8に示すように、第2のテンタ装置2を省略しても良い。この場合には、第1のテンタ装置2において、フィルム乾燥工程を行なってもよいし、フィルム乾燥工程及び延伸工程を順次行なってもよい。また、図7に示す溶液製膜設備50において、第1のテンタ装置2を省略しても良い。
【0048】
図9に示すように、第1屈曲部11B,12Bにおける屈曲角度、すなわち第1直線部11A,12Aと傾斜部11C,12Cとの交差角度θ1は、例えば、0.01°以上10°以下である。第2屈曲部11D,12Dにおける屈曲角度、すなわち傾斜部11C,12Cと第2直線部11E,12Eとの交差角度θ2は、例えば、0.01°以上10°以下である。ここで、交差角度θ1は、第1直線部11A,12Aの延長線から傾斜部11C,12Cまでの角度であり、第1直線部11A,12Aの延長線から幅方向Bの外側に向かって180°までの場合に正の値をとり、第1直線部11A,12Aの延長線から幅方向Bの内側に向かって180°までの場合に負の値をとる。同様に、交差角度θ2は、傾斜部11C,12Cの延長線から第2直線部11E,12Eまでの角度であり、傾斜部11C,12Cの延長線から幅方向Bの外側に向かって180°までの場合に正の値をとり、傾斜部11C,12Cの延長線から幅方向Bの内側に向かって180°までの場合に負の値をとる。第1屈曲部11B,12B及び第2屈曲部11D,12Dにおける曲げ半径(曲率半径)は、例えば、1000mm以上10000mm以下である。
【0049】
図10に示すように、クランパ間隔L1は、1mm以上4.5mm以下であることが好ましく、1mm以上3.5mm以下であることがより好ましい。クリップ間隔L2は、
0.5mm以上4mm以下であることが好ましく、0.5mm以上3.0mm以下であることがより好ましい。ここで、クランパ間隔L1は、隣り合うクランパ31同士の間隙であり、クリップ間隔L2は、隣り合うクリップ5同士の間隔である。
【0050】
(ポリマー)
ポリマーフィルムの原料となるポリマーは、特に限定されず、例えば、セルロースアシレートや環状ポリオレフィン等がある。
【0051】
(セルロースアシレート)
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわち、アシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものが好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、アシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、トリアセチルセルロース(TAC)の90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.0≦A+B≦3.0
(II) 1.0≦ A ≦3.0
(III) 0 ≦ B ≦2.0
【0052】
アシル基の全置換度A+Bは、2.20以上2.90以下であることがより好ましく、2.40以上2.88以下であることが特に好ましい。また、炭素原子数3〜22のアシル基の置換度Bは、0.30以上であることがより好ましく、0.5以上であることが特に好ましい。
【0053】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0054】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0055】
(溶剤)
ドープを調製する溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶剤に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0056】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。ポリマーの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0057】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶剤組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素原子数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶剤が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶剤として用いることができる。
【0058】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載も本発明にも適用できる。また、溶剤及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
【実施例】
【0059】
本発明の効果を確認するために、以下の実験1〜6を行なった。
【0060】
(実験1)
図7に示す溶液製膜設備50において、流延バンド62の表面上に、セルロースアシレート及び溶剤を含むドープ51を流延して流延膜66を形成した。自己支持性を有する流延膜66を剥取ローラ63で支持しながら剥ぎ取り、湿潤フィルム68を得た。
【0061】
その後、溶剤含有量が40質量%の湿潤フィルム68を第1のテンタ装置2に導入した。第1のテンタ装置2の概要は次の通りである。第1屈曲部11B,12Bにおける屈曲角度θ1(図9参照)は、2°であった。第2屈曲部11D,12Dにおける屈曲角度θ2は、−2°であった。第1屈曲部11B,12Bにおける曲げ半径は7000mmであった。第2屈曲部11D,12Dにおける曲げ半径は第1屈曲部11B,12Bと同一であった。第1のテンタ装置2のクランパ間隔L1及びクリップ間隔L2(図10参照)は、表1に示すとおりであった。
【0062】
【表1】

【0063】
第1のテンタ装置2では、乾燥温度が140℃の予熱ゾーン2A,延伸ゾーン2B,延伸緩和ゾーン2Cに湿潤フィルム68を送り、湿潤フィルム68に対し予熱、延伸、延伸緩和を行い、ポリマーフィルム3とした。延伸前の湿潤フィルム68の幅を100%としたときに、第1のテンタ装置2の延伸ゾーン2Bにおける延伸率は105%であった。第1のテンタ装置2から出たポリマーフィルム3は、溶剤含有量が1質量%であった。
【0064】
その後、溶剤含有量が1質量%以下のポリマーフィルム3を、第1のテンタ装置2と同様の構造の第2のテンタ装置2へ導入した。第2のテンタ装置2では、乾燥温度が140℃の予熱ゾーン2A,延伸ゾーン2B,延伸緩和ゾーン2Cにポリマーフィルム3を送り、ポリマーフィルム3に対し予熱、延伸、延伸緩和を行った。第2のテンタ装置2の導入前のポリマーフィルム3の幅を100%としたときに、第2のテンタ装置2の延伸ゾーン2Bにおける延伸率は105%であった。第2のテンタ装置2から出たポリマーフィルム3は、溶剤含有量が1質量%であった。
【0065】
第2のテンタ装置2の下流に設置した耳切装置73でポリマーフィルム3の両側端部を切断した後、乾燥室54において複数のローラ77に巻き掛けて搬送する間に、ポリマーフィルム3の乾燥を十分に促進させた。冷却室55においてポリマーフィルム3を略室温となるまで冷却した後、巻取室56に送り、プレスローラ82で押圧しながら巻き芯に巻き取ってロール状のポリマーフィルム3を得た。なお、巻き取りの前に、強制除電装置79により帯電圧を調整し、また、ナーリング付与ローラ80により、ナーリングを付与した。
【0066】
(実験2〜6)
実験2〜6では、表1に示すこと以外は、実験1と同様にしてポリマーフィルム3をつくった。また、実験4〜6では、第2のテンタ装置2と、第2のテンタ装置2の下流の耳切装置73とを省略したこと、及び表1に示すこと以外は、実験1と同様にしてポリマーフィルム3をつくった。
【0067】
(評価)
得られたポリマーフィルム3について、次の評価を行なった。
【0068】
(面内レターデーションReの変動量)
ロール状のポリマーフィルム3からサンプルフィルム(長さ10mm)を切り出し、自動複屈折率計を用いて、サンプルフィルムの長手方向において連続的に面内レターデーションReを測定した。面内レターデーションReの測定値の変動量を表1に示す。
【0069】
(面内レターデーションReの測定方法)
サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、自動複屈折率計(KOBRA21ADH 王子計測(株))にて589.3nmにおける垂直方向から測定したレターデーション値の外挿値より次式に従い算出した。
Re=|nX−nY|×d
nXは、遅相軸方向における屈折率,nYは進相軸方向の屈折率,dはフィルムの厚み(膜厚)を表す。
【0070】
(厚み方向レターデーションRthの変動量)
サンプルフィルムを切り出し、自動複屈折率計を用いて、サンプルフィルムの長手方向において連続的に厚み方向レターデーションRthを測定した。厚み方向レターデーションRthの測定値の変動量を表1に示す。
【0071】
(厚み方向レターデーションRthの測定方法)
サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、自動複屈折率計(KOBRA21ADH 王子計測(株))にて589.3nmにおける垂直方向から測定した値と、フィルム面を傾けながら同様に測定したレターデーション値の外挿値とから下記式に従い算出した。
Rth={(nX+nY)/2−nZ}×d
nZは厚み方向の屈折率を表す。
【0072】
(光学軸の変動量)
自動複屈折率計により、長手方向における光学軸の変動量を求めた。得られた光学軸の変動量を表1に示す。
【0073】
なお、上記の各測定値の変動量は、最大の測定値から、最小の測定値を減じたものである。
【符号の説明】
【0074】
2 テンタ装置
3 ポリマーフィルム
5 クリップ
31 クランパ
31A 軸部
31AO 挿通孔
35 フレーム
35AX 回動軸
35A アーム
35B ベース
37 板バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー及び溶剤を含む帯状のフィルムの幅方向側縁部を下方から支持するベースと、ベースの上方にて横たわるように支持された回動軸と、前記ベースとにより前記幅方向側縁部を把持可能な把持部を先端に備え、前記把持部が前記幅方向側縁部に当接する当接位置及び前記把持部が前記幅方向側縁部から離れた離隔位置の間で回動自在となるように前記回動軸に取り付けられたクランパと、前記クランパ及び前記回動軸の遊びに起因する前記把持部の浮きを抑えるように、前記クランパを当接位置へ付勢する付勢部材とを備えたクリップテンタを用いて前記フィルムを延伸し、
前記クリップテンタは前記クランパを複数有し、
前記クランパは前記フィルムの長手方向に並べられ、
前記隣り合うクランパの間隔は1mm以上4.5mmであることを特徴とするフィルムの延伸方法。
【請求項2】
前記ベースと前記クランパとにより前記側縁部が把持される前記フィルムの溶剤含有率が1質量以上80質量%以下であることを特徴とする請求項1記載フィルムの延伸方法。
【請求項3】
前記ポリマー及び溶剤を含むドープからなる流延膜を支持体上に形成する膜形成工程と、
前記流延膜から前記溶剤を蒸発させる膜乾燥工程と、
前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取って前記フィルムとする剥離工程と、
請求項1または2項記載のフィルムの延伸方法を行なう延伸工程とを有することを特徴とする溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−63569(P2013−63569A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203233(P2011−203233)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】