説明

フィルムの表面処理方法及び装置並びに偏光板の製造方法

【課題】接着性が相対的に低い樹脂フィルムの接着性を向上させる表面処理における放電を安定化させ、かつガスノズルの設計の自由度を確保する。
【解決手段】重合性モノマーの蒸気を含有する重合性モノマー含有ガスを重合性モノマー供給系3の第1ノズル32から吹出し、難接着性樹脂フィルム11の表面の被処理箇所に接触させ、被処理箇所に重合性モノマーを担持させる。プラズマ処理部2では、重合性モノマー含有ガスとは別のプラズマ生成用ガスを放電空間20aに導入するとともに上記担持工程後の被処理箇所に接触させる。重合性モノマーは、好ましくはアクリル酸又はメタクリル酸であり、より好ましくはアクリル酸である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムの表面を処理する方法及び装置に係り、特に、難接着性の樹脂フィルムと易接着性の樹脂フィルムとを接着するに際して上記難接着性樹脂フィルムに対して行なう表面処理方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には、偏光板が組み込まれている。偏光板は、例えばポリビニルアルコール(以下、適宜「PVA」と称す)を主成分として含む樹脂フィルム(以下、適宜「PVAフィルム」と称す)からなる偏光フィルムにトリアセテートセルロース(以下、適宜「TAC」と称す)を主成分として含む樹脂フィルム(以下、適宜「TACフィルム」と称す)からなる保護フィルムを接着剤を用いて接着したものである。接着剤としては、ポリビニルアルコール系やポリエーテル系等の水系接着剤が用いられている。PVAフィルムは、これら接着剤との接着性が良好であるが、TACフィルムは、接着性が良好でない。そこで、一般に、TACフィルムは、接着に先立って、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ水溶液に漬けられ、鹸化処理される。これにより、TACフィルムの親水性を高め、接着剤がTACフィルムに付きやすくしている。
【0003】
鹸化処理以外の表面処理方法として、例えば特許文献1では、ヘリウムとアルゴンの混合ガスで被処理物の表面を大気圧下でプラズマ処理した後、アクリル酸をスプレーガンによって吹き付け、アクリル酸をグラフト重合させ、被処理物の表面を改質させる方法が提案されている。
【0004】
特許文献2では、窒素、アルゴン等の不活性ガスと有機系の薄膜形成用ガスとを混合し、この混合ガスを大気圧下でプラズマ放電させて被処理物に供給し、被処理物の親水性を高める方法が提案されている。
【特許文献1】特許第3292924号公報
【特許文献2】特開2006−299000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鹸化処理されたTACフィルムは、耐熱性が低下したり、ロール状態での保存時に部分的にブロッキングが生じたりし易い。また、TACフィルムの接着面とは反対側の面にハードコートが施されていると、鹸化処理によってヘイズ値が上がり、光学特性が変化する。鹸化処理に用いるアルカリ水溶液の廃液処理の問題もある。
【0006】
特許文献1の方法は、未反応物質が残り易く、かつ処理が不均一になり易い。したがって、例えば偏光板のような光学フィルムの表面処理には不向きである。また、十分な接着強度を得ることができない(後記比較例1参照)。
特許文献2の方法は、放電空間内にプラズマ生成用の不活性ガスに加えて有機系反応ガスが入る。そのため、放電が不安定になりやすい。また、放電空間が狭い場合、該放電空間にガスを導入するためのノズル部の設計の自由度が小さく、ノズル部に温度調節機構等を組み込むのが容易でない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、接着剤との接着性が相対的に低い難接着性樹脂フィルム(例えばTACフィルム)を、前記接着剤との接着性が相対的に高い易接着性樹脂フィルム(例えばPVAフィルム)に接着する際に、難接着性樹脂フィルムの接着性を鹸化処理以外の方法で高め、更には、処理の安定化及びノズル部等の設計の自由度向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、鋭意研究を行なった。その結果、樹脂フィルムにある種の有機化合物のモノマーを供給しプラズマ処理すると、鹸化処理したのと同様の接着性を得ることができることを見出した。本発明は、このような知見に基づきなされたものである。
本発明に係る表面処理方法は、易接着性樹脂フィルムと接着されるべき難接着性樹脂フィルムの表面を処理する方法であって、
重合性モノマーの蒸気を含有する重合性モノマー含有ガスを前記難接着性樹脂フィルムの表面の被処理箇所に接触させ、前記被処理箇所に前記重合性モノマーを担持させる担持工程と、
前記重合性モノマー含有ガスとは別のプラズマ生成用ガスを放電空間に導入するとともに前記担持工程後の前記被処理箇所に接触させるプラズマ処理工程と、
を実行することを特徴とする。
【0009】
難接着性樹脂フィルムの被処理箇所に対し、まず担持工程を実行し、重合性モノマーを担持させる。続いてプラズマ処理工程を実行する。プラズマ処理工程では、プラズマ生成用ガスを放電空間に導入することにより、プラズマ生成用ガスがプラズマ化(分解、励起、活性化、ラジカル化、イオン化を含む)される。このプラズマ化されたガスが、難接着性樹脂フィルムに担持された重合性モノマーに接触することにより、重合性モノマーが活性化し、難接着性樹脂フィルムと反応する。重合性モノマーの活性化は、重合性モノマーの開裂、重合、分解を含む。また、プラズマ化されたガスが難接着性樹脂フィルムに接触したり、プラズマ光が接着性樹脂フィルムに照射されたりすることにより、難接着性樹脂フィルムの表面のC−C、C−O、C−H等の結合が切断される。この結合切断部に重合性モノマーの重合物がグラフト重合すると考えられる。或いは、重合性モノマーから分解した官能基が上記結合切断部に結合すると考えられる。これにより、難接着性樹脂フィルムの表面に接着性促進層が形成され、難接着性樹脂フィルムの接着性を向上させることができる。
上記の表面処理方法によれば、重合性モノマー含有ガスの吹出し構造を、プラズマ生成用ガスの吹出し構造から分離してそれとは別に設置できる。したがって、重合性モノマー蒸気含有ガスの吹出し構造の設計の自由度を高めることができる。よって、重合性モノマー蒸気含有ガス用の吹出しノズルに温調路は加熱ヒータ等の温調手段を容易に組み込むことができる。しかも、重合性モノマーとプラズマ生成用ガスのうちプラズマ生成用ガスだけをプラズマ化でき、放電を安定させることができる。
【0010】
前記担持工程において、前記難接着性樹脂フィルムの被処理箇所に前記重合性モノマーの凝縮層を形成することが好ましい。
これによって、重合性モノマーを難接着性樹脂フィルムの表面に確実に担持させることができる。
【0011】
前記担持工程において、前記難接着性樹脂フィルムの被処理箇所の温度(以下「フィルム温度」と称す)を、前記重合性モノマー含有ガスの前記難接着性樹脂フィルムへの吹き出し時の温度(以下「吹出し温度」と称す)より低くすることが好ましい。
これにより、難接着性樹脂フィルムの表面に重合性モノマーの凝縮層を確実に形成することができる。
【0012】
前記フィルム温度と前記吹出し温度の差を5℃以上とすることが好ましい。前記フィルム温度が、前記吹出し温度より10℃以上低いことが一層好ましい。
これにより、難接着性樹脂フィルムの表面に重合性モノマーの凝縮層をより確実に形成することができる。
前記フィルム温度は、室温以上であることが好ましい。ここで、室温とは、一般に20〜25℃であり、より一般的には25℃である。
【0013】
前記担持工程の後に前記被処理箇所の周辺の空間から前記重合性モノマー蒸気を除去し、その後、プラズマ処理工程を実行するのが好ましい。これによって、重合性モノマー蒸気が放電空間に侵入するのを確実に防止でき、プラズマ生成用ガスのプラズマ放電を確実に安定化させることができる。
前記被処理箇所の周辺のガスを、少なくとも前記担持工程から前記プラズマ処理工程までの間、不活性ガスに置換することが好ましい。これによって、難接着性樹脂フィルムに担持させた重合性モノマーが変質するのを防止できる。更に、難接着性樹脂フィルムに担持されなかった重合性モノマー蒸気を前記被処理箇所の周辺空間から確実に除去できる。そのうえでプラズマ処理工程を行なうことで、プラズマ放電をより確実に安定させることができ、かつ重合性モノマーと難接着性樹脂フィルムの表面分子とを確実に結合させることができる。ひいては、難接着性樹脂フィルムの接着性を確実に向上させることができる。不活性ガスとして、窒素の他、アルゴン、ヘリウム等の希ガスが挙げられる。
【0014】
前記担持工程を行なう担持位置と前記プラズマ処理工程を行なうプラズマ処理位置とを空間的に離し、前記難接着性樹脂フィルムの被処理箇所を、前記担持位置、前記プラズマ処理位置の順に移動させることが好ましい。担持位置とプラズマ処理位置を離すことによって、重合性モノマー蒸気が放電空間に侵入するのを防止できる。これによって、安定したプラズマ放電を生成できる。
【0015】
前記担持位置と前記プラズマ処理位置との間の空間を窒素の他、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気にすることが好ましい。
これによって、難接着性樹脂フィルムに担持させた重合性モノマーが変質するのを確実に防止できる。また、重合性モノマー蒸気が放電空間に侵入するのを防止でき、プラズマ放電を安定化できる。
【0016】
難接着性樹脂フィルムとは、該フィルムと接着される相手側のフィルムよりも接着剤に対する接着性が相対的に低いフィルムをいう。易接着性樹脂フィルムとは、該フィルムと接着される相手側のフィルムよりも接着剤に対する接着性が相対的に高いフィルムをいう。同一のフィルムが、接着される相手側のフィルムに応じて、難接着性樹脂フィルムになることもあり、易接着性樹脂フィルムになることもある。
【0017】
前記難接着性樹脂フィルムは、非極性樹脂フィルムであることが好ましい。
前記難接着性樹脂フィルムの主成分としては、例えばトリアセテートセルロース(TAC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、シクロオレフィン重合体(COP)、シクロオレフィン共重合体(COC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリイミド(PI)等が挙げられる。
【0018】
前記易接着性樹脂フィルムの主成分としては、例えばポリビニルアルコール(PVA)が挙げられる。
【0019】
重合性モノマーとしては、不飽和結合及び所定の官能基を有するモノマーが挙げられる。所定の官能基は、水酸基、カルボキシル基、アセチル基、グリシジル基、エポキシ基、炭素数1〜10のエステル基、スルホン基、アルデヒド基から選択されることが好ましく、特に、カルボキシル基や水酸基等の親水基が好ましい。
【0020】
不飽和結合及び水酸基を有するモノマーとしては、メタクリル酸エチレングリコール、アリルアルコール、メタクリル酸ヒドロキシエチル等が挙げられる。
不飽和結合及びカルボキシル基を有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マイレン酸、2−メタクリロイルプロピオン酸等が挙げられる。
不飽和結合及びアセチル基を有するモノマーとしては、酢酸ビニル等が挙げられる。
不飽和結合及びグリシジル基を有するモノマーとしては、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。
不飽和結合及びエステル基を有するモノマーとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸2−エチル等が挙げられる。
不飽和結合及びアルデヒド基を有するモノマーとしては、アクリルアルデヒド、クロトンアルデヒド等が挙げられる。
【0021】
好ましくは、前記重合性モノマーは、エチレン性不飽和二重結合及びカルボキシル基を有するモノマーである。かかるモノマーとして、アクリル酸(CH=CHCOOH)、メタクリル酸(CH=C(CH)COOH)が挙げられる。前記重合性モノマーは、アクリル酸又はメタクリル酸であることが好ましい。これによって、難接着性樹脂フィルムの接着性を確実に高めることができる。前記重合性モノマーは、アクリル酸であることがより好ましい。
【0022】
前記重合性モノマーがアクリル酸またはメタクリル酸である場合、前記重合性モノマー含有ガスを、アクリル酸又はメタクリル酸の引火点未満かつ前記難接着性樹脂フィルムより5℃以上高温にすることが好ましい。前記重合性モノマー含有ガスをアクリル酸又はメタクリル酸の引火点未満かつ前記第1フィルムより10℃以上高温にすることがより好ましい。アクリル酸の引火点は、54℃である。メタクリル酸の引火点は、77℃である。ちなみに、アクリル酸の発火点は、360℃である。メタクリル酸の発火点は、360℃である。
【0023】
前記重合性モノマー含有ガスは、前記重合性モノマーの他、キャリアガスを含有していてもよい。キャリアガスは不活性ガスであることが好ましい。不活性ガスは、窒素、アルゴン、ヘリウム等から選択され、経済性の観点からは窒素を用いるのが好ましい。
【0024】
アクリル酸やメタクリル酸をはじめとする上記列挙のモノマーの多くは、常温常圧で液相である。そのようなモノマーは、不活性ガス中に気化させて、気化したモノマー蒸気と不活性ガスとの混合ガスを得て、この混合ガスを重合性モノマー含有ガスとするのが好ましい。アクリル酸やメタクリル酸等のモノマーは、加熱やバブリングなどで気化させ、上記不活性ガスにキャリアさせるとよい。
【0025】
加熱して気化させる場合の加熱器の負担を考慮し、重合性モノマーは、沸点が300℃以下のものを選択するのが好ましい。また、重合性モノマーは、加熱により分解(化学変化)しないものを選択するのが好ましい。
【0026】
前記プラズマ処理は、大気圧近傍の圧力下で行なうのが好ましい。ここで、大気圧近傍とは、1.013×10〜50.663×10Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、1.333×10〜10.664×10Paが好ましく、9.331×10〜10.397×10Paがより好ましい。
【0027】
前記放電空間の酸素濃度(体積濃度)が、0〜3000ppmであることが好ましく、2000ppm以下であることがより好ましく、1000ppm以下であることが一層好ましい。これにより、十分な接着強度を得ることができる。
【0028】
前記プラズマ生成用ガスは、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスであることが好ましく、経済性の観点からは窒素であることがより好ましい。
プラズマ生成用ガスは、複数種の不活性ガスの混合ガスでもよい。
前記プラズマ生成用ガスは、重合性モノマーを含有しないことが好ましい。なお、担持工程の重合性モノマー蒸気が放電空間に入り込むことは有り得る。本発明は、放電空間内に重合性モノマー蒸気が存在することを排除するものではない。
【0029】
また、本発明に係る偏光板の製造方法は、前記難接着性樹脂フィルムが透明な保護フィルムであり、前記易接着性樹脂フィルムが、偏光フィルムであり、上記のフィルム表面処理方法を実行した後、前記難接着性樹脂フィルムを易接着性樹脂フィルムに透明な接着剤を介して接着する接着工程を実行することを特徴とする。
上記表面処理方法により難接着性樹脂フィルムの接着性を高めることができ、難接着性樹脂フィルムが接着剤を介して易接着性樹脂フィルムに良好に接着した偏光板を作製できる。
を用いることができる。
前記接着剤としては、特に限定はないが、透明な接着剤として水系接着剤を用いることが好ましい。
前記接着剤としては、ポリビニルアルコール水溶液、ポリビニルブチラール溶液等を主成分とするポリビニルアルコール系の接着剤液、ブチルアクリレートなどを主成分とするビニル系重合系ラテックス、ポリオレフィン系ポリオール等を主成分とするオレフィン水性接着剤、ポリエーテル系接着剤等が挙げられるが、ポリビニルアルコール水溶液を主成分とするポリビニルアルコール系接着剤を用いるのがより好ましい。
【0030】
また、本発明に係るフィルム表面処理装置は、易接着性樹脂フィルムと接着されるべき難接着性樹脂フィルムの表面を処理する装置であって、
前記重合性モノマーの蒸気を含有する重合性モノマー含有ガスを吹き出す第1ノズルを含む重合性モノマー供給系と、
放電空間を形成する電極と、前記重合性モノマー含有ガスとは別のプラズマ生成用ガスを前記放電空間に導入する第2ノズルとを含むプラズマ処理部と、
前記難接着性樹脂フィルムの被処理箇所を、前記第1ノズルと対向させた後、前記プラズマ処理部に導入する移行手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0031】
本装置によれば、前記重合性モノマーの蒸気が難接着性樹脂フィルムの被処理箇所に接触し、重合性モノマーが被処理箇所に凝縮する等して担持される。次いで、前記被処理箇所にプラズマ化されたプラズマ生成用ガス(以下、適宜「プラズマガス」と称す)が接触される。これにより、担持された重合性モノマーを難接着性樹脂フィルムの表面分子と化学的に結合させ、接着促進層を形成でき、難接着性樹脂フィルムの接着性を向上させることができる。
本装置によれば、第1ノズルを、プラズマ処理部の第2ノズルから分離してそれとは別に設置できる。したがって、第1ノズルの設計の自由度を高めることができる。重合性モノマー含有ガスの吹出し温度を調節する必要がある場合、第1ノズルに温度調節手段を容易に組み込むことができる。プラズマ処理部の放電空間が狭隘であっても、第1ノズルを狭隘な放電空間に臨ませる必要がない。一方、第2ノズルについては、温度調節手段を設ける必要が無く、構造を簡素化でき、放電空間が狭隘であっても容易に配置できる。また、プラズマ処理部においては、重合性モノマーとプラズマ生成用ガスのうちプラズマ生成用ガスだけをプラズマ化でき、放電を安定させることができる。
前記プラズマ処理部は、前記難接着性樹脂フィルムを前記放電空間の内部に入れてプラズマガスと接触させるようになっていてもよい。或いは、前記難接着性樹脂フィルムを前記放電空間の外部に配置し、プラズマガスを前記放電空間から吹出して前記難接着性樹脂フィルムに接触させるようになっていてもよく、この場合、前記放電空間の上流端に前記第2ノズルが連なり、前記放電空間の下流端にプラズマ吹出しノズルが設けられている。
【0032】
前記第1ノズルと前記放電空間が一方向に離間し、前記移行手段が、前記難接着性樹脂フィルムを、前記第1ノズル及びプラズマ処理部に対し前記離間方向に相対移動させることが好ましい。
難接着性樹脂フィルムを、第1ノズルの側から放電空間の側へ相対移動させることにより、重合性モノマーを難接着性樹脂フィルムに担持させた後、プラズマを照射できる。第1ノズルと放電空間との離間距離は、第1ノズルからの重合性モノマー蒸気が放電空間に入り込むのを十分に抑制又は防止でき、かつ被処理箇所に担持された重合性モノマーが被処理箇所から解離しない程度の距離に設定するとよい。
【0033】
前記第1ノズルと前記放電空間との間の空間を囲み、かつ前記難接着性樹脂フィルムの被処理箇所を相対移動可能に収容可能なチャンバーと、
前記チャンバーの内部の雰囲気ガスを不活性ガスに置換する雰囲気ガス置換手段と、
を備えたことが好ましい。
これにより、難接着性樹脂フィルムに担持された重合性モノマーがプラズマ処理されるまでの間にチャンバーの外側の外気に触れる等して変質するのを防止できる。また、担持されなかった重合性モノマー蒸気を前記被処理箇所の周辺空間から除去できる。これにより、プラズマ放電を確実に安定させることができ、良好なプラズマ処理を行なうことができる。ひいては、難接着性樹脂フィルムの接着性を確実に向上させることができる。
前記難接着性樹脂フィルムの少なくとも被処理箇所及びその周辺部分が前記チャンバー内に相対移動可能に収容されていればよく、前記難接着性樹脂フィルムの全体が前記チャンバー内に収容されている必要はない。
前記放電空間のほぼ全体が前記チャンバーに囲まれていることがより好ましい。これにより、放電空間内に不純物(例えば空気中の酸素等)が入るのを防止でき、プラズマ放電をより安定化させることができる。
【0034】
前記プラズマ処理部が、一対のロール電極を有し、これらロール電極の間の空間の最も狭い箇所及びその周辺に前記放電空間が形成され、前記難接着性樹脂フィルムが、前記一対のロール電極に跨って掛け回され、かつ前記難接着性樹脂フィルムのロール電極間の部分が、前記放電空間に通されており、前記一対のロール電極が、互いに同一方向に回転して前記難接着性樹脂フィルムを一方向に移動させることにより前記移行手段として提供され、前記第1ノズルが、前記放電空間から前記移動方向の上流側に離れて前記移動方向の上流側のロール電極の周面と対向して配置され、前記第2ノズルが、前記放電空間に臨むように配置されていることが好ましい。
一対のロール電極間の放電空間は狭隘になる。第1ノズルは、狭隘な放電空間に臨ませる必要が無く、設計の自由度を高めることができ、温度調節手段を組み込むのも容易である。
第2ノズルは、温度調節手段を組み込む必要が無いから、上記狭隘な放電空間に臨むよう容易に配置できる。
【0035】
前記重合性モノマー供給系に前記重合性モノマー含有ガスの温度を調節するガス温度調節手段が設けられていることが好ましい。更に、前記難接着性樹脂フィルムの前記被処理箇所の温度を調節するフィルム温度調節手段を備えていることが好ましい。前記ガス温度調節手段又はフィルム温度調節手段により、前記難接着性樹脂フィルムの前記重合性モノマー含有ガスと接触する部分の温度が前記重合性モノマー含有ガスの前記難接着性樹脂フィルムへの吹き出し時の温度より5℃以上、好ましくは10℃以上低くなるよう調節されることが望ましい。
これにより、重合性モノマー蒸気を難接着性樹脂フィルムの表面に確実に凝縮(担持)させることができ、難接着性樹脂フィルムの表面上に重合性モノマーの凝縮層を確実に形成できる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、重合性モノマー含有ガスの吹出し構造の設計の自由度を高めることができ、ノズルに温度調節手段等を容易に組み込むことができる。併せて、安定したプラズマ放電を得ることができ、処理を安定させることができる。ひいては、難接着性樹脂フィルムの接着性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図5は、本発明の実施形態に係る表面処理方法を利用して作製された液晶ディスプレイ用の偏光板10を示したものである。図5(a)に示すように、偏光板10は、偏光フィルム12と、この偏光フィルム12の両面に積層された一対の保護フィルム11とを有している。
【0038】
保護フィルム11は、トリアセテートセルロース(TAC)を主成分とするTACフィルムにて構成されている。TACフィルム11のトリアセテートセルロースの含有量は90質量%以上である。TACフィルム11には、更にリン酸トリフェニル(TPP)、リン酸エステルなどの可塑剤を3〜10質量%程度含有していてもよく、紫外線吸収剤を含有していてもよい。TACフィルム11の厚さには、特に限定がなく、例えば数μm〜数百μmである。TACフィルム11の製造方法は特に限定がなく、例えばキャスト法で製造される。
【0039】
偏光フィルム12は、ポリビニルアルコール(PVA)を主成分とするPVAフィルム12にて構成されている。
【0040】
TACフィルム11とPVAフィルム12は、接着剤13により接着されている。接着剤13としては、特に限定はないが、光学フィルム10に適用されることを考慮し、透明な水系接着剤を用いることが好ましい。水系接着剤として、ポリビニルアルコール水溶液、ポリビニルブチラール溶液等を主成分とするポリビニルアルコール系の接着剤液、ブチルアクリレートなどを主成分とするビニル系重合系ラテックス、ポリオレフィン系ポリオール等を主成分とするオレフィン水性接着剤、ポリエーテル系接着剤等が挙げられる。接着剤13としては、ポリビニルアルコール水溶液を主成分とするポリビニルアルコール系接着剤を用いるのがより好ましい。
【0041】
図5(b)に示す偏光板10では、一方の保護フィルム11の表側面(偏光フィルム12との接着面とは反対側の面)に、機能層としてハードコート層14が積層されている。ハードコート層14に代えて、AR層、その他の機能層が積層されていてもよい。
【0042】
TACフィルム11は、接着剤13との接着性が低く、難接着性樹脂フィルムを構成する。PVAフィルム12は、接着剤13との接着性が高く、易接着性樹脂フィルムを構成する。難接着性のTACフィルム11は、易接着性のPVAフィルム12との接着に際し、接着性向上のための表面処理が施される。
【0043】
図1は、上記の表面処理に用いる表面処理装置1を示したものである。表面処理装置1は、大気圧近傍の圧力下で処理を行なう大気圧プラズマ処理装置であり、プラズマ処理部2と、重合性モノマー含有ガス供給系3を備えている。プラズマ処理部2は、電極構造20と、プラズマ生成用ガス供給系4を有している。
【0044】
電極構造20は、一対の電極21,22Rを含む。電極21は、平板状になっている。電極22Rは、ロール状(円筒状)になっている。ロール電極22Rの軸線は、図1の紙面と直交する方向に向けられている。電極21が上側に配置され、電極22Rが下側に配置されている。
【0045】
上側の平板電極21は、電源23に接続されている。下側のロール電極22Rは、電気的に接地されている。電源23から平板電極21に電圧が供給される。これにより平板電極21とロール電極22Rの間に電界が形成され、電極21,22Rどうし間の空間20aがほぼ大気圧の放電空間になる。電源23からの電圧及び電極21,22R間の電界は例えばパルス状になっている。パルスの立ち上がり時間及び/又は立ち下がり時間は、10μs以下であるのが好ましく、電界強度は、10〜1000kV/cmであるのが好ましく、周波数は、0.5〜100kHzであるのが好ましい。印加電圧及び電界は、パルス状の間欠波に限られず、正弦波等の連続波であってもよい。
【0046】
TACフィルム11が、ロール電極22Rの上側の周面(放電面)に部分的に、例えば半周程度巻き付けられ、ロール電極22Rの上側の周面を覆っている。TACフィルム11のPVAフィルム12と接着されるべき面が上(平板電極21側)に向けられている。TACフィルム11の左側部は、搬送ロール24に架けられ、TACフィルム11の右側部は搬送ロール25に架けられている。TACフィルム11は、ロール電極22R及び搬送ロール24,25の回転により、一方向(右方向)に搬送される。
ロール電極22R及び搬送ロール24,25は、特許請求の範囲の「移行手段」を構成している。
【0047】
ロール電極22Rより下流側の搬送ロール25は、外周面に粘着材が設けられ、TACフィルム11の表面の塵埃や不純物を粘着させ、除去する機能を有している。搬送ロール25に転写ロール26が接触している。
【0048】
ロール電極22Rには、フィルム温度調節手段28が組み込まれている。フィルム温度調節手段28は、温調路により構成されている。所定温度の温調媒体が、ロール電極22R内の温調路を流通する。温調媒体として例えば水が用いられる。これによって、ロール電極22Rの温度を調節でき、更にはTACフィルム11のロール電極22Rに接する部分の温度を調節することができる。TACフィルム11の温度は、室温以上であることが好ましい。ここで、室温とは、一般に20〜25℃であり、より一般的には25℃である。
【0049】
プラズマ生成用ガス供給系4は、プラズマ生成用ガス供給源40と、第2ノズル42を備えている。供給源40にはプラズマ生成用ガスとして不活性ガスが蓄えられている。不活性ガスとして窒素が用いられている。プラズマ生成用ガスとして、窒素ガスに代えて、アルゴン、ヘリウム等の他の不活性ガスを用いてもよい。ただし、空気等の酸素ガスを含むものは、重合性モノマーの反応性を阻害するため、望ましくない。
【0050】
プラズマ生成用ガス供給源40からプラズマ生成用ガス供給路41が延びている。プラズマ生成用ガス供給路41の先端部が第2ノズル42に連なっている。第2ノズル42は、平板電極21の一側部(図1において左側部)に配置されている。
【0051】
詳細な図示は省略するが、第2ノズル42は、図1の紙面と直交する方向にTACフィルム11の幅とほぼ同じかそれより長く延びている。第2ノズル42の内部には、プラズマ生成用ガス供給路41からのガスを該第2ノズル42の長手方向(図1の紙面直交方向)に均一に分散させる整流路が形成されている。この整流路に第2ノズル42の先端の吹出し口が連なっている。第2ノズル42の吹出し口は、図1の紙面と直交する方向に延びるスリット状になっている。第2ノズル42の吹出し口が、図1の紙面と直交する方向に間隔を置いて配置された多数の小孔状になっていてもよい。
【0052】
重合性モノマー含有ガス供給系3は、重合性モノマー含有ガス供給源30と、キャリアガス供給源34を備えている。重合性モノマー含有ガス供給源30は、恒温容器(恒温槽)で構成されている。恒温容器30内に、表面処理の反応成分として重合性モノマーが蓄えられている。重合性モノマーは、不飽和結合及び所定の官能基を有することが好ましい。重合性モノマーとして、アクリル酸又はメタクリル酸を用いることがより好ましい。ここでは、重合性モノマーとして、アクリル酸(CH=CHCOOH)が用いられている。アクリル酸は、エチレン性不飽和二重結合及びカルボキシル基を有する重合性モノマーである。アクリル酸は液体の状態で恒温容器30内に収容されている。図1において、液体アクリル酸を符号「Ac」で示す。恒温容器30内の液体アクリル酸Acの液面より上側の部分には、液体アクリル酸Acから気化したアクリル酸の飽和蒸気が存在している。
【0053】
恒温容器30には気化手段として加熱器33が組み込まれている。恒温容器30内の液体アクリル酸Acが加熱器33によって加熱されて気化される。液体アクリル酸Acの加熱温度によってアクリル酸の気化量を調節することができる。アクリル酸Acの加熱温度は、アクリル酸蒸気が爆発性であることを考慮し、150℃以下にすることが好ましく、アクリル酸の引火点(54℃)未満にすることがより好ましく、室温(25℃)〜80℃程度が更に好ましく、引火点を考慮すると室温(25℃)〜50℃程度が一層好ましい。室温近傍でもアクリル酸の気化量が必要量を満たす場合には、加熱器33を省略してもよい。
【0054】
キャリアガス供給源34には、キャリアガスとして窒素ガスが充填されている。キャリアガスは、重合性モノマー蒸気を搬送するためのガスであり、窒素ガス以外に、アルゴン、ヘリウム等の他の不活性ガスを用いてもよい。ただし、空気等の酸素ガスを含むものは、重合性モノマーの反応性を阻害するため、望ましくない。
キャリアガス供給源34とプラズマ生成用ガス供給源40を共通のガス供給源で構成してもよい。
【0055】
キャリアガス供給源34からキャリアガス導入路35が延びている。キャリアガス導入路35が恒温容器30に接続されている。キャリアガス導入路35の先端部は、恒温容器30の内部に差し入れられて開口され、かつアクリル酸Acの液面より上側の部分に位置している。
キャリアガス導入路35の先端部をアクリル酸Acの液の内部まで延ばし、アクリル酸Ac内で窒素ガスをバブリングさせてもよい。
【0056】
重合性モノマー供給系3は、更に恒温容器30から延びる重合性モノマー供給路31と、重合性モノマー供給路31の先端部に設けられた重合性モノマーノズル32とを備えている。重合性モノマー供給路31を構成する管は、アクリル酸に対して耐食性があること、外部からの水分浸入を阻止できること、管自体からガスが発生しないこと等の条件を満たすことが好ましい。ここでは、重合性モノマー供給路31の材質として、例えばペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)が用いられている。
【0057】
重合性モノマーノズル32は、アクリル酸に対して耐食性があること、外部からの水分浸入を阻止できること、ノズル自体からガスが発生しないこと等の条件を満たすことが好ましい。ここでは、第1ノズル32の材質として、例えばポリ塩化ビニル(PVC)が用いられている。
【0058】
第1ノズル32は、第2ノズル42より放電空間20a側とは反対側に配置されている。第1ノズル32の先端部は、ロール電極22Rの周面に対向している。TACフィルム11の移動方向(ロール電極22Rの周方向)に沿って上流側に第1ノズル32が配置され、下流側に第2ノズル42ひいては放電空間20aが配置されている。
【0059】
TACフィルム11が第1ノズル32の先端部と対向する位置を「担持位置」と称す。上記放電空間20aの位置を「プラズマ処理位置」と称す。
第1ノズル32の先端部と放電空間20aの離間距離(担持位置とプラズマ処理位置との離間距離)は、第1ノズル32からの吹出ガスが第2ノズル42からの吹出ガス流に巻き込まれない程度の距離にするのが好ましく、かつ後記凝縮層が消滅することなく放電空間20aに到達し得る程度の距離とすることが好ましい。
【0060】
詳細な図示は省略するが、第1ノズル32は、図1の紙面と直交する方向にTACフィルム11の幅とほぼ同じかそれより長く延びている。第1ノズル32の内部には、重合性モノマー供給路31からのガスを該第1ノズル32の長手方向(図1の紙面直交方向)に均一に分散させる整流路が形成されている。この整流路に第1ノズル32の先端部の吹出し口が連なっている。第1ノズル32の先端部の吹出し口は、図1の紙面と直交する方向に延びるスリット状になっている。第1ノズル32の先端部の吹出し口が、図1の紙面と直交する方向に間隔を置いて配置された多数の小孔状になっていてもよい。
第1ノズル32の近傍に、該第1ノズル32の周辺のガスを局所的に吸引する吸引ノズルを設けてもよい。或いは、第1ノズル32の内部に、該第1ノズル32の周辺のガスを局所的に吸引する吸引路を形成してもよい。
【0061】
重合性モノマー供給路31及び第1ノズル32には、ガス温度調節手段38,39が組み込まれている。重合性モノマー供給路31用のガス温度調節手段38は、例えば電熱式リボンヒータで構成されている。リボンヒータが、重合性モノマー供給路31を構成する管の外周に巻き付けられている。リボンヒータは、重合性モノマー供給路31の全長に設けられている。リボンヒータによって重合性モノマー供給路31を構成する管を温調でき、ひいては重合性モノマー供給路31内を通すガスを温調できる。
【0062】
第1ノズル32用のガス温度調節手段39は、例えば第1ノズル32の内部に形成された温調路で構成されている。温調路に、所定温度の温調媒体が通される。これにより、第1ノズル32の構造体を温調でき、ひいては第1ノズル32内を通るガスを温調できる。
【0063】
上記構成のフィルム表面処理装置1を用いて、TACフィルム11を表面処理し、更には偏光板10を製造する方法を説明する。
[移行工程]
ロール電極22R及び搬送ロール24,25を図1において時計回りに継続的に回転させる。これにより、TACフィルム11が右方向に継続的に移動される。TACフィルム11の各ポイント(被処理箇所)は、第1ノズル32と対向する担持位置を通り、その後、放電空間20aの内部すなわちプラズマ処理位置へ送られる。以下の工程は、移行工程と併行して行なう。
【0064】
[重合性モノマー含有ガス生成工程]
キャリアガス供給源34のキャリアガス(窒素)を、キャリアガス導入路35に通し、恒温容器30内の上側部分に導入する。恒温容器30内の上側部分で、窒素ガスとアクリル酸蒸気とが混合され、アクリル酸蒸気と窒素ガスの混合ガスからなる重合性モノマー含有ガスが生成される。重合性モノマー含有ガス(アクリル酸+窒素)中のアクリル酸の濃度は、2%以下であることが好ましく、1%程度がより好ましい。アクリル酸濃度は、加熱器33による液体アクリル酸Acの加熱及びキャリアガス流量により調節できる。
【0065】
[担持工程]
重合性モノマー含有ガスを、恒温容器30から重合性モノマー供給路31を経て、第1ノズル32から吹き出す。この重合性モノマー含有ガスが、TACフィルム11における第1ノズル32の先端部と対向する部分(TACフィルム11の移動方向に沿って放電空間20aより上流側の部分)に接触し、重合性モノマー含有ガス中のアクリル酸(重合性モノマー)が、TACフィルム11の表面に担持される。具体的には、アクリル酸蒸気がTACフィルム11の表面上で凝縮し、TACフィルム11の表面にアクリル酸の凝縮層が形成される。
液体アクリル酸を例えば霧状にする等して液の状態でTACフィルム11に供給するのではなく、アクリル酸を蒸気の形でTACフィルム11に供給することにより、アクリル酸をTACフィルム11の表面にムラなく均一に付着させることができ、均一な凝縮層を生成することができる。
重合性モノマー含有ガスの流量ひいてはアクリル酸蒸気の流量は、TACフィルム11の表面にアクリル酸蒸気が付着する程度に小さくできる。アクリル酸蒸気とプラズマ生成用ガスとの流量比を考慮する必要はない。
【0066】
[温調工程]
併せて、ガス温度調節手段38によって重合性モノマー供給路31を通過中の重合性モノマー含有ガスの温度を所望に維持する。さらに、ガス温度調節手段39によって第1ノズル32を通過中の重合性モノマー含有ガスの温度を所望に維持する。これにより、重合性モノマー含有ガスが第1ノズル32から吹き出される時の温度(以下「吹出し温度」と称す)をフィルム11より高温の設定温度にすることができる。吹出し温度の上限は、TACフィルム11が膨潤等の熱変形を来たさない範囲で設定するのが好ましい。TACフィルム11が膨潤等の熱変形を来たさない限界温度は、処理条件等にも依るが、例えば80℃前後である。吹出し温度の下限は、重合性モノマー供給路31及び第1ノズル32内での結露を防止する観点から室温以上であることが好ましい。吹出し温度は、35℃〜80℃程度であることが好ましく、40℃〜50℃程度がより好ましい。
【0067】
更に、フィルム温度調節手段28によって、TACフィルム11のロール電極22Rと接触する部分の温度(以下「フィルム温度」と称す)を重合性モノマー含有ガスの吹出し温度より低い所望の温度に維持する。好ましくは、フィルム温度が、吹出し温度より5℃以上低くなるようにする。より好ましくは、フィルム温度が、吹出し温度より10℃以上低くなるようにする。この温度調節により、TACフィルム11の表面にアクリル酸の凝縮層を確実に形成でき、TACフィルム11にアクリル酸を確実に担持させることができる。
【0068】
TACフィルム11の表面における第1ノズル32の先端部と対向する箇所より右側(移動方向の下流側)の部分には、アクリル酸の凝縮層が連続的に形成される。
【0069】
[重合性モノマー蒸気隔離工程]
第1ノズル32から吹き出された重合性モノマー含有ガス中のアクリル酸蒸気のうちTACフィルム11に凝縮しなかった蒸気は、TACフィルム11から離れるように拡散する。したがって、担持位置(第1ノズル32の先端部周辺)からTACフィルム11の移動方向の下流側(右側)に向かうにしたがって、該TACフィルム11の表面の周辺空間のアクリル酸蒸気の濃度が低下する。第1ノズル32と放電空間20aの離間距離を十分に確保することにより、放電空間20aに入り込むアクリル酸蒸気を十分に減らすことができ、アクリル酸蒸気を放電空間20aから隔離できる。
第1ノズル32の近傍に吸引ノズルを設け、又は第1ノズル32内に吸引路を設け、第1ノズル32の周辺のガスを局所的に吸引することにしてもよく、そうするとTACフィルム11の表面周辺の空間からアクリル酸の不凝縮蒸気を確実に除去でき、アクリル酸蒸気を放電空間20aから確実に隔離できる。
【0070】
[プラズマ処理工程]
電源23から平板電極21に電圧を供給し、電極21,22R間に大気圧放電を形成し、電極間空間20aを放電空間にする。併せて、プラズマ生成用ガス供給源40の窒素ガスを、供給路41に通して第2ノズル42から吹き出す。この窒素ガスが放電空間20a内に導入されてプラズマ化され、窒素プラズマ(不活性ガスプラズマ)が生成される。この窒素プラズマが、放電空間20a内のTACフィルム11の表面に接触する。また、窒素プラズマからの紫外線(337nm)がTACフィルム11の表面に照射される。これにより、TACフィルム11の表面に担持(凝縮)されたアクリル酸がTACフィルム11の表面分子と反応して化学的に結合する。例えば、窒素プラズマによって、アクリル酸が活性化(二重結合の開裂、重合、分解、励起等)される。さらに、TACフィルム11の表面分子のC−C、C−O、C−H等の結合が切断される。この結合切断部にアクリル酸の重合物が結合(グラフト重合)し、或いはアクリル酸から分解したCOOH基等が結合すると考えられる。これにより、TACフィルム11の表面に接着性促進層が形成されると考えられる。
【0071】
窒素の純ガスを放電空間20a内に導入することにより、良好で安定した放電を得ることができる。担持位置とプラズマ処理位置との離間距離の設定や吸引操作によって、アクリル酸の不凝縮蒸気が放電空間20a内に混入するのを抑制又は防止できるため、空間20a内の放電を一層確実に良好で安定なものにすることができる。これにより、TACフィルム11の表面上のアクリル酸凝縮層と窒素プラズマとの反応を確実に起こさせることができる。また、放電空間20a内でアクリル酸の不凝縮蒸気がプラズマ化されるのを防止できる。したがって、励起又は活性化したアクリル酸蒸気が拡散して周辺部材を腐蝕させるのを防止できる。
【0072】
第1ノズル32がプラズマ処理部2から分離されて第2ノズル42とは別途に設けられるため、第1ノズル32の設計の自由度を高めることができる。第1ノズル32を狭隘な放電空間20aにガス導入可能に構成する必要がない。したがって、第1ノズル32にガス温度調節手段39を容易に組み込むことができる。これにより、重合性モノマー含有ガスの吹出し温度を確実に制御することができ、ひいては重合性モノマー含有ガスの吹出し温度とTACフィルム11の温度との差を確実に制御できる。
【0073】
[洗浄工程]
プラズマ処理後のTACフィルム11は、ロール電極22Rより下流側の搬送ロール25に掛けられる。このとき、TACフィルム11表面に付着した未反応物や塵埃が搬送ロール25の表面の粘着材に移される。これによって、TACフィルム11を洗浄できる。搬送ロール25に移った未反応物や塵埃は、搬送ロール25と転写ロール26との接触部において転写ロール26に移される。さらに、未反応物や塵埃は、転写ロール26に接するブレード等の回収機構(図示せず)により回収される。TACフィルム11を水等の洗浄液にて洗浄することにしてもよい。
【0074】
[接着工程]
フィルム表面処理装置1によって上記表面処理を施したTACフィルム11を接着剤13にてPVAフィルム12と接着する。これにより、偏光板10を得ることができる。接着に先立ち、TACフィルム11に上記表面処理を施しておくことによって、TACフィルム11の接着性を高めることができ、TACフィルム11をPVAフィルム12にしっかりと接着でき、偏光板10の品質を確保できる。
【0075】
次に、本発明の他の実施形態に係る表面処理装置について説明する。以下の実施形態において第1の実施形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を省略する。
第2実施形態
図2は、本発明の第2実施形態を示したものである。第2実施形態に係る表面処理装置1は、チャンバー5を備えている。チャンバー5は、担持位置からプラズマ処理位置にかけての部分を囲んでいる。具体的には、チャンバー5は、平板電極21及びロール電極22Rの上側部を囲み、ひいては放電空間20aを囲んでいる。第2ノズル42が、チャンバー5の内部に配置されている。また、第1ノズル32の先端部が、チャンバー5の内部に配置されている。さらに、TACフィルム11のロール電極22Rの上側部に被さる部分が、チャンバー5内に収容されている。
【0076】
TACフィルム11は、チャンバー5内において第1ノズル32と対向し、重合性モノマー含有ガスを吹き付けられる。さらに、TACフィルム11は、チャンバー5内において放電空間20aに導入され、プラズマ処理される。
【0077】
チャンバー5に雰囲気ガス置換手段50が接続されている。雰囲気ガス置換手段50は次のように構成されている。
プラズマ生成用ガス供給路41から置換ガス供給路51が分岐している。置換ガス供給路51の先端部が、チャンバー5の内部に挿入されて開口されている。チャンバー5に排気手段52が連なっている。
【0078】
第2実施形態では、表面処理の期間中、プラズマ生成用ガス供給源40の窒素ガス(不活性ガス)の一部を、置換ガス供給路51に分流させ、チャンバー5の内部に導入する。さらに、排気手段52によってチャンバー5の内部のガスを吸引する。これにより、チャンバー5内の雰囲気ガスを常時、窒素ガスに置換できる。特に、第1ノズル32の先端部から放電空間20aまでの間のTACフィルム11の周辺の空間の雰囲気ガスを、常時、窒素に置換できる。これによって、凝縮層のアクリル酸が空気中の酸素や水分等と接触するのを防止でき、凝縮アクリル酸が変質するのを防止できる。また、凝縮しなかったアクリル酸蒸気をTACフィルム11の周辺空間から確実に除去でき、排気手段52から排出できる。したがって、アクリル酸蒸気が装置1の周囲に拡散するのを防止でき、周辺部材が腐蝕するのを防止できる。さらに、放電空間20aにアクリル酸蒸気や空気等の不純物が入るのを防止でき、安定で良好なプラズマを確実に生成できる。これにより、凝縮アクリル酸とTACフィルム11の表面分子とを確実に結合させることができる。ひいては、TACフィルム11の接着性を確実に向上させることができる。さらには、アクリル酸蒸気がプラズマ化されて周囲に拡散するのを防止でき、周辺部材が腐蝕するのを一層確実に防止できる。
【0079】
第3実施形態
図3は、本発明の第3実施形態に係るフィルム表面処理装置1Xを示したものである。フィルム表面処理装置1Xは、一対のロール電極21R,22Rを備えている。これらロール電極21R,22Rが、左右に対向して配置されている。ロール電極21Rに電源23の高圧端子が接続されている。ロール電極22Rが電気的に接地されている。ロール電極21R,22Rの間の空間の最も狭い箇所及びその周辺にほぼ大気圧の放電空間20aが形成される。放電空間20aの上方に、第2ノズル42が先端の開口を下へ向けて配置されている。第2ノズル42の先端部は、下に向かうにしたがって細くなり、ロール電極21R,22Rの間の次第に狭くなる部分に差し入れられ、放電空間20aに臨んでいる。
第2ノズル42には温度調節手段等を組み込む必要がない。したがって、第2ノズル42を狭隘な放電空間20aに臨むように容易に配置できる。
【0080】
第1ノズル32は、第2ノズル42ひいては放電空間20aから一のロール電極の側、例えば電源側のロール電極21Rの側に離れて配置されている。第1ノズル32の先端部が、ロール電極21Rの周面の放電空間20aより少し上側の部分と対向している。第1ノズル32は、狭隘な放電空間20aに臨ませる必要がなく、ガス温度調節手段39を容易に組み込むことができる。
【0081】
ロール電極21R,22Rの間の部分の下側には、一対の折り返しロール27が左右に離れて配置されている。連続シート状のTACフィルム11が、2つのロール電極21R,22Rに跨り、各ロール電極21R,22Rの上側の周面に例えば半周程度掛け回されている。ロール電極21R,22Rどうしの間のTACフィルム11は、放電空間20aに通されて下方へ延出され、一対の折り返しロール27,27に掛け回されて折り返されている。2つのロール電極21R,22Rの回転により、TACフィルム11が、一方向(右方向)に搬送される。ロール電極21R,22Rは、被処理物であるTACフィルム11の支持手段及び搬送手段(担持工程からプラズマ処理位置への移行手段)としての機能を兼ねている。
【0082】
チャンバー5が、2つのロール電極21R,22Rに跨るように配置されている。チャンバー5内に第2ノズル42及び第1ノズル32の先端部が収容されている。チャンバー5が、放電空間20aの上側部を囲んでいる。チャンバー5内の雰囲気ガスを窒素に置換することにより、凝縮アクリル酸の変質を防止するとともに、良好な放電を確保している。
【0083】
ロール電極21Rの内部にフィルム温度調節手段28が設けられている。ロール電極21R内のフィルム温度調節手段28は、温調路で構成されている。温調媒体として水が用いられている。ガス温度調節手段38,39及びフィルム温度調節手段28によって、重合性モノマー含有ガス吹出し温度とTACフィルム11の温度との差を調節でき、TACフィルム11にアクリル酸を確実に担持(凝縮)させることができる。
同様に、ロール電極22Rにもフィルム温度調節手段28が設けられており、ロール電極22Rの温度を調節できるようになっている。
【0084】
フィルム表面処理装置1Xにおいては、ロール電極21R,22R及び折り返しロール27を例えば図3において時計回りに回転させ、TACフィルム11を右方向に送る。TACフィルム11の各ポイント(被処理箇所)は、ロール電極21R上の放電空間20aの少し手前でアクリル酸を凝縮(担持)させた後、放電空間20aでプラズマ処理され、更に折り返しロール27,27で折り返した後、再び放電空間20aでプラズマ処理される。したがって、1つの放電空間20aでTACフィルム11を2回表面処理できる。
ロール電極21R,22Rは、特許請求の範囲の「移行手段」を兼ねる。
【0085】
第4実施形態
図4は、本発明の第4実施形態に係るフィルム表面処理装置1Yを示したものである。フィルム表面処理装置1Yでは、平板電極21ひいては放電空間20aの両側(図4において左右)に第2ノズル42がそれぞれ設けられている。プラズマ生成用ガス供給路41が、分岐して各第2ノズル42に連なっている。両側の第2ノズル42,42が、それぞれ不活性ガス(窒素ガス)を放電空間20a内に供給できるようになっている。
【0086】
第2ノズル42,42の左右の両外側に一対の第1ノズル32,32が配置されている。重合性モノマー供給路31が、分岐して各第1ノズル32に連なっている。2つの第1ノズル32,32の1つから選択的に重合性モノマー含有ガスを吹き出すようになっている。
【0087】
電極21の下側にステージ状の平板電極22が配置されている。プラズマ処理部2の電極構造20は、平行平板電極になっている。下側の平板電極22の平らな上面にTACフィルム11が載置されている。平板電極22の内部に温調路からなるフィルム温度調節手段28が設けられている。
【0088】
平板電極22に移行手段6が接続されている。詳細な図示は省略するが、移行手段6は、モータ等の駆動部、及び駆動部と平板電極22とを繋ぐ伝達機構を含み、21を左右に往復移動させるようになっている。
【0089】
フィルム表面処理装置1Yにおいては、平板電極22ひいてはTACフィルム11を右方向へ移動させるときは、左側(移動方向の上流側)の第1ノズル32から重合性モノマー含有ガスを吹き出す。右側(移動方向の下流側)の第1ノズル32からの吹出しは停止する。これにより、TACフィルム11の各ポイント(被処理箇所)が、アクリル酸を担持(凝縮)させた後、プラズマ処理される。平板電極22ひいてはTACフィルム11を左方向へ移動させるときは、右側(移動方向の上流側)の第1ノズル32から重合性モノマー含有ガスを吹き出す。左側(移動方向の下流側)の第1ノズル32からの吹出しは停止する。これにより、同様に、TACフィルム11の各ポイント(被処理箇所)が、アクリル酸を担持(凝縮)させた後、プラズマ処理される。
TACフィルム11の移動方向に拘らず、両側の第1ノズル32,32から重合性モノマー含有ガスを常時吹き出すことにしてもよい。
2つの第2ノズル42,42についても、TACフィルム11の移動方向に応じて窒素ガスを吹き出す第2ノズル42を切り替えることにしてもよい。2つの第2ノズル42,42の何れか1つを省略してもよい。
【0090】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々の改変をなすことができる。
例えば、重合性モノマー含有ガス中の重合性モノマーとして、アクリル酸に代えて、メタクリル酸を用いてもよく、その他の重合性モノマーを用いてもよい。
TACフィルム11は、TACフィルムに限らず、COP、PP、PE、PET等の難接着性の樹脂フィルムを用いてもよい。
重合性モノマーのTACフィルム11への担持は、重合性モノマー蒸気が凝縮することに限られず、重合性モノマー蒸気を含む重合性モノマー含有ガスがTACフィルム11の表面上に薄く層をなす状態であってもよい。TACフィルム11が多孔質の場合、重合性モノマー蒸気がTACフィルム11の孔に入り込むことで担持されるようになっていてもよい。
TACフィルム11が静止され、第1ノズル32及びプラズマ処理部2が移動されるようになっていてもよい。
フィルム温度調節手段28は、電熱ヒータや熱線ヒータや温風ヒータでもよい。ヒータは、電極に内蔵されていてもよく、電極の外部に配置されていてもよい。
重合性モノマー供給路31用のガス温度調節手段38として、リボンヒータに代えて断熱材を用いてもよい。加熱器33においてガス温度を所望になるよう設定し、重合性モノマー供給路31では、上記断熱材によってガス温度を恒温槽30内での温度と同じになるよう維持することにしてもよい。重合性モノマー供給路31用のガス温度調節手段38として、重合性モノマー供給路31に沿う熱交換パイプを用いてもよい。
第1ノズル32用のガス温度調節手段39として、上記温調路に代えて、電熱ヒータ等の他の温調手段を用いてもよい。第1ノズル32用のガス温度調節手段39として、第1ノズル32の外周に断熱材を設けてもよい。
プラズマ処理装置1の電極構造20は、実施形態に示したものに限られず、例えば図1、図2に示す平板電極21の代わりに、下面(放電面)がロール電極22Rの曲面に沿う凹面である電極を用いてもよく、ロール電極22Rと同径又は直径が異なるロール電極又は棒状電極を用いてもよい。
上記実施形態では、プラズマ処理部2の電極間の放電空間20a内にTACフィルム11が通され、放電空間20aが、処理空間となっていたが、処理空間が放電空間から離れ、放電空間で生成された不活性プラズマが、処理空間に位置するTACフィルム11に向けて吹き出されるようになっていてもよい。
プラズマの生成は、大気圧近傍に限られず、真空下で行なってもよい。
チャンバー5が、表面処理装置を全体的に覆っていてもよい。第1ノズル32の全体がチャンバー5内に収容されていてもよい。
上記表面処理方法及び表面処理装置は、偏光板10の製造以外の用途に適用してもよい。
第1〜第4の実施形態を互いに組み合わせてもよい。例えば、第4実施形態(図2)でもチャンバー5を設けてもよい。
【実施例1】
【0091】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
図3に示すように、一対のロール電極21R,22Rを備えた表面処理装置1Xを用いた。これらロール電極に連続シート状のTACフィルムを掛け回し、図3において右方向に連続的に搬送した。TACフィルムの移動速度は、5m/minとした。このTACフィルムに対し、担持工程とプラズマ処理工程を順次実行した。担持工程では、重合性モノマーとしてアクリル酸を用いた。液体アクリル酸を恒温容器30に蓄えた。恒温容器30の設定温度は50℃とした。窒素ガスをキャリアガスとして恒温容器30に供給し、アクリル酸蒸気と窒素との混合ガスからなる重合性モノマー含有ガスを得た。キャリアガスの供給流量ひいては重合性モノマー含有ガスの流量は、10L/minとした。この重合性モノマー含有ガスを、供給路31を経て第1ノズル32から吹き出し、担持位置(ノズル32と対向する部分)のTACフィルムに接触させた。温度調節手段38,39の設定温度ひいては重合性モノマー含有ガスの吹出し温度は、50℃とした。ロール電極21R,22R内の穏当手段28の設定温度ひいてはTACフィルムの温度は、25℃とした。続くプラズマ処理工程では、プラズマ生成用ガスとして窒素の純ガスを用いた。窒素ガスを第2ノズル42から大気圧の電極間空間20a内に吹出し、かつ電極23にて電極21R,22R間に電圧を印加して放電を生成した。電源23からの供給電力は、451W(110V及び4.1Aの直流を交流変換)とした。ロール電極21R,22Rどうし間の空間20aの最も狭くなった部分のギャップは、1mmであった。電極21R,22R間の印加電圧は、Vpp=11.6kVとした。これにより、放電空間20a内で窒素ガスをプラズマ化し、TACフィルムに接触させた。これら工程を行ったときの室温は23℃、湿度は27%であった。
なお、後段のロール電極22Rから出たTACフィルムを巻き取ったところ、自着(巻いたフィルムの各層どうしがくっつくこと)は起きなかった。また、TACフィルムが上記表面処理によって白化すること(フィルムが白味がかること)はなかった。
【0092】
上記表面処理後のTACフィルムの対水接触角を測定した。TACフィルムの表面処理した面の18個の点で対水接触角を測定したところ、平均の対水接触角は、38.5°であった。
【0093】
表面処理後のTACフィルムから2枚の試料片を切り取った。各TACフィルム試料片の幅は25mmとし、長さは125mmとした。2枚のTACフィルム試料片をPVAフィルムの試料片の両面にそれぞれ接着し、図5(a)に示す偏光板10と同じ断面構造の偏光板試料を作製した。PVAフィルム試料片の幅は25mmとし、長さは50mmとした。3枚の試料片の長さ方向を互いに揃え、かつ、PVAフィルム試料片を2枚のTACフィルム試料片の長さ方向の一端側に偏らせて積層した。PVAフィルム試料片の他端から2枚のTACフィルム試料片を70mm程度延出させた。接着剤として、重合度500のPVA5%水溶液を用いた。
【0094】
上記の接着剤が硬化した後、接着性の評価を行なった。評価方法はT型剥離法(JIS K−6854)を採った。2枚のTACフィルム試料片のPVAフィルム試料片からの延出部分を互いに反対方向に引っ張った。その結果、TACフィルム試料片の延出部分とPVAフィルム試料片との接着部分とのちょうど境目できれいに横切れ材破した。材破直前の引っ張り力(接着力)は、7.17N/inchであった。これにより、均一で充分に強固な接着力が発現していることが確認された。
【0095】
〔比較例1〕
比較例1では、表面処理時のTACフィルムの搬送方向を実施例1とは逆にし、TACフィルムを先ず窒素プラズマにてプラズマ処理し、プラズマ処理後のTACフィルムに重合性モノマー含有ガス(アクリル酸+窒素)を吹き付けた。要するに、プラズマ処理工程と担持工程の順序を実施例1とは逆にしたものであり、上掲特許文献1(特許第3292924号公報)に記載の処理方法に対応する。工程の順序以外の処理条件については、実施例1と同じにした。表面処理後のTACフィルムの白化及び自着は共に起きなかった。表面処理後のTACフィルムの対水接触角を18個の測定点で測定したところ、平均して54.7°であった。したがって、実施例1が比較例1より大きな親水性向上作用を得ることができた。
【0096】
さらに、比較例1において、実施例1と同様に、表面処理後のTACフィルムの2枚の試料片でPVAフィルム試料片を挟んでなる偏光板試料を作製し、T型剥離法(JIS K-6854)にて接着性の評価を行なった。その結果、TACフィルム試料片の延出部分がPVAフィルム試料片との接着部分との境よりも接着部分の側に少し入り込んでギザギザに材破した。ギザギザ材破直前の引っ張り力(接着力)は、4.72N/inchであった。したがって、実施例1が比較例1より大きな接着力を得ることができた。また比較例1は、実施例1より、接着強度が不均一であることが確認できた。
【0097】
[比較例2]
比較例2として、表面処理(担持工程及びプラズマ処理工程)を行なっていないTACフィルムを用いて実施例1と同一構造の偏光板試料片を作製、T型剥離法(JIS K-6854)にて接着性の評価を行なった。その結果、TACフィルム試料片とPVAフィルム試料片とが剥がれ、材破は起きなかった。引っ張り力は最大で4.32N/inchであった。したがって、表面処理していないTACフィルムでは接着性を確保できないことが確認された。なお、表面処理していないTACフィルムの対水接触角は、18個の測定点の平均で61.3°であった。
【0098】
[比較例3]
比較例3では、表面処理の担持工程とプラズマ処理工程のうち担持工程のみを実行し、プラズマ処理工程を省略した。担持工程の諸条件(重合性モノマー含有ガスの成分及び流量並びに吹出し温度、TACフィルムの温度及び移動速度等)は、実施例1の担持工程と同じにした。処理後のTACフィルムの白化及び自着は共に起きなかった。処理後のTACフィルムの対水接触角を測定したところ、18個の測定点の平均で59.8°であった。処理後のTACフィルムを用いて、実施例1と同様の偏光板試料を作製し、T型剥離法(JIS K-6854)にて接着性の評価を行なった。その結果、引っ張り力は最大で7.71N/inchになったが、TACフィルム試料片とPVAフィルム試料片とが剥がれ、材破は起きなかった。したがって、アクリル酸蒸気を吹き付けるだけの表面処理ではTACフィルムの接着性を向上できないことが確認された。なお、比較例3の引っ張り力は実施例1や比較例1の引っ張り力より大きいが、評価としては材破するか剥がれるかが優先される。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る表面処理装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る表面処理装置を示す概略構成図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る表面処理装置を示す概略構成図である。
【図4】本発明の第4の実施形態に係る表面処理装置を示す概略構成図である。
【図5】(a)は、偏光板の断面図を示し、(b)は、ハードコード層付きの偏光板の断面図を示す。
【符号の説明】
【0100】
1,1X,1Y フィルム表面処理装置
10 偏光板
11 TACフィルム(難接着性樹脂フィルム、保護フィルム)
12 PVAフィルム(易接着性樹脂フィルム、偏光フィルム)
13 接着剤
14 ハードコート層
2 プラズマ処理部
20 電極構造
20a 放電空間、電極間空間
21,22 平板電極
21R,22R ロール電極、移行手段
23 電源
24 搬送ロール
25 搬送ロール
26 転写ロール
27 折り返しロール
28 フィルム温度調節手段
3 重合性モノマー供給系
30 重合性モノマー供給源
31 重合性モノマー供給路
32 第1ノズル
33 加熱器
34 キャリアガス供給源
35 キャリアガス導入路
38 ガス温度調節手段
4 プラズマ生成用ガス供給系
40 プラズマ生成用ガス供給源
41 プラズマ生成用ガス供給路
42 第2ノズル
5 チャンバー
50 雰囲気ガス置換手段
51 置換ガス供給路
52 排気手段
6 移行手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
易接着性樹脂フィルムと接着されるべき難接着性樹脂フィルムの表面を処理する方法であって、
重合性モノマーの蒸気を含有する重合性モノマー含有ガスを前記難接着性樹脂フィルムの表面の被処理箇所に接触させ、前記被処理箇所に前記重合性モノマーを担持させる担持工程と、
前記重合性モノマー含有ガスとは別のプラズマ生成用ガスを放電空間に導入するとともに前記担持工程後の前記被処理箇所に接触させるプラズマ処理工程と、
を実行することを特徴とするフィルム表面処理方法。
【請求項2】
前記担持工程において、前記難接着性樹脂フィルムの被処理箇所に前記重合性モノマーの凝縮層を形成することを特徴とする請求項1に記載のフィルム表面処理方法。
【請求項3】
前記担持工程において、前記難接着性樹脂フィルムの被処理箇所の温度(以下「フィルム温度」と称す)を、前記重合性モノマー含有ガスの前記難接着性樹脂フィルムへの吹き出し時の温度(以下「吹出し温度」と称す)より低くすることを特徴とする請求項1又は2に記載のフィルム表面処理方法。
【請求項4】
前記フィルム温度と前記吹出し温度の差を5℃以上とすることを特徴とする請求項3に記載のフィルム表面処理方法。
【請求項5】
前記被処理箇所の周辺のガスを、少なくとも前記担持工程から前記プラズマ処理工程までの間、不活性ガスに置換することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のフィルム表面処理方法。
【請求項6】
前記担持工程を行なう担持位置と前記プラズマ処理工程を行なうプラズマ処理位置とを空間的に離し、前記難接着性樹脂フィルムの被処理箇所を、前記担持位置、前記プラズマ処理位置の順に移動させることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のフィルムの表面処理方法。
【請求項7】
前記担持位置と前記プラズマ処理位置との間の空間を不活性ガス雰囲気にすることを特徴とする請求項6に記載のフィルムの表面処理方法。
【請求項8】
前記重合性モノマーが、アクリル酸又はメタクリル酸であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のフィルム表面処理方法。
【請求項9】
前記プラズマ生成用ガスが、不活性ガスであることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載のフィルム表面処理方法。
【請求項10】
前記難接着性樹脂フィルムが透明な保護フィルムであり、前記易接着性樹脂フィルムが、偏光フィルムであり、請求項1〜9の何れかに記載のフィルム表面処理方法を実行した後、前記難接着性樹脂フィルムを易接着性樹脂フィルムに透明な接着剤を介して接着する接着工程を実行することを特徴とする偏光板の製造方法。
【請求項11】
易接着性樹脂フィルムと接着されるべき難接着性樹脂フィルムの表面を処理する装置であって、
前記重合性モノマーの蒸気を含有する重合性モノマー含有ガスを吹き出す第1ノズルを含む重合性モノマー供給系と、
放電空間を形成する電極と、前記重合性モノマー含有ガスとは別のプラズマ生成用ガスを前記放電空間に導入する第2ノズルとを含むプラズマ処理部と、
前記難接着性樹脂フィルムの被処理箇所を、前記第1ノズルと対向させた後、前記プラズマ処理部に導入する移行手段と、
を備えたことを特徴とするフィルム表面処理装置。
【請求項12】
前記第1ノズルと前記放電空間が一方向に離間し、前記移行手段が、前記難接着性樹脂フィルムを、前記第1ノズル及びプラズマ処理部に対し前記離間方向に相対移動させることを特徴とする請求項11に記載のフィルム表面処理装置。
【請求項13】
前記第1ノズルと前記放電空間との間の空間を囲み、かつ前記難接着性樹脂フィルムの被処理箇所を相対移動可能に収容するチャンバーと、
前記チャンバーの内部の雰囲気ガスを不活性ガスに置換する雰囲気ガス置換手段と、
を更に備えたことを特徴とする請求項11又は12に記載のフィルム表面処理装置。
【請求項14】
前記プラズマ処理部が、一対のロール電極を有し、これらロール電極の間の空間の最も狭い箇所及びその周辺に前記放電空間が形成され、前記難接着性樹脂フィルムが、前記一対のロール電極に跨って掛け回され、かつ前記難接着性樹脂フィルムのロール電極間の部分が、前記放電空間に通されており、前記一対のロール電極が、互いに同一方向に回転して前記難接着性樹脂フィルムを一方向に移動させることにより前記移行手段として提供され、前記第1ノズルが、前記放電空間から前記移動方向の上流側に離れて前記移動方向の上流側のロール電極の周面と対向して配置され、前記第2ノズルが、前記放電空間に臨むように配置されていることを特徴とする請求項11〜13の何れか1項に記載のフィルム表面処理装置。
【請求項15】
前記重合性モノマー供給系に前記重合性モノマー含有ガスの温度を調節する重合性モノマー含有ガス温度調節手段が設けられ、
更に、前記難接着性樹脂フィルムの前記被処理箇所の温度を調節するフィルム温度調節手段を備え、前記ガス温度調節手段又はフィルム温度調節手段により、前記難接着性樹脂フィルムの前記重合性モノマー含有ガスと接触する部分の温度が前記重合性モノマー含有ガスの前記難接着性樹脂フィルムへの吹き出し時の温度より5℃以上低くなるよう調節されることを特徴とする請求項11〜14の何れか1項に記載のフィルム表面処理装置。
【請求項16】
前記重合性モノマーが、アクリル酸又はメタクリル酸であり、前記プラズマ生成用ガスが、不活性ガスであることを特徴とする請求項11〜15の何れか1項に記載のフィルム表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−150372(P2010−150372A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329590(P2008−329590)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】