説明

フィルムの表面処理方法及び装置並びに偏光板の製造方法

【課題】オレフィン系モノマー重合フィルムの接着性を確実に向上させる。
【解決手段】モノマー供給系2によって、水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーを含むモノマー混合ガスをオレフィン系モノマー重合フィルム11に吹き付け接触させる。上記2種類のモノマーは、好ましくは互いに混合させずにフィルム11の近傍まで導いて混合する。凝縮手段56によって、モノマー混合ガス中の水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーをフィルム11の表面上で凝縮させる。凝縮の後、プラズマ照射手段4によってフィルム11に大気圧近傍プラズマを照射する。上記モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマーの体積濃度を水溶性モノマーの体積濃度の1.1倍以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂フィルムの表面を処理する方法及び装置、並びに偏光板の製造方法に関し、特に、オレフィン系モノマー重合フィルムに他の樹脂フィルムを接着するに際して上記オレフィン系モノマー重合フィルムに対して行なう表面処理方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液晶表示装置には、偏光板が組み込まれている。典型的な偏光板は、トリアセテートセルロース(TAC)を主成分とするTACフィルム、ポリビニルアルコール(PVA)系の接着剤(以下「PVA接着剤」と称す)、PVAからなる偏光子(以下「PVA偏光子」と称す)、PVA接着剤、TACフィルムの順に積層されている。TACフィルムは、保護フィルムとしての機能を有する。
【0003】
最近では、ポリプロピレン(PP)、シクロオレフィンポリマー(COP)等からなるオレフィン系モノマー重合フィルム、PVA接着剤、PVA偏光子、PVA接着剤、TACフィルムの順に積層された偏光板も登場している。PPフィルムは、廉価タイプの偏光板に用いられている。COPフィルムは、光学特性の優れたグレードの偏光板に用いられている。さらに、COPフィルムを延伸したCOP延伸フィルム、PVA接着剤、PVA偏光子、PVA接着剤、TACフィルムの順に積層された高機能タイプの偏光板も知られている。COP延伸フィルムは、保護フィルムと位相差フィルムの両方の機能を有する。
【0004】
TACフィルムは、鹸化処理により接着性を改善できる。しかし、PPフィルムやCOPフィルムは、鹸化処理をしても接着性が向上しない。
そこで、特許文献1では、ノルボルネンからなるCOP延伸フィルムに大気圧プラズマを照射している。
特許文献2では、保護フィルムの表面に重合性モノマーをスプレー塗布して薄膜を形成した後、酸素及び窒素の混合ガス等の雰囲気下で大気圧プラズマを照射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4020617号公報
【特許文献2】特開2009−25604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、COP延伸フィルムの親水性が高くなり、接着剤の塗布性が向上しているものと考えられるが、接着性そのものの向上効果は低い。
特許文献2では、重合性モノマーとして水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、エポキシ基から選ばれる極性置換基を有する化合物(例えばヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA))を用いているが、それだけではPPやCOP等からなるオレフィン系モノマー重合フィルムとの相容性が十分でなく、接着性が向上しない。また、スプレー塗布された重合性モノマーは、均一な薄膜になりにくく、処理の均一性が十分でない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、オレフィン系モノマー重合フィルムの表面を処理する表面処理方法であって、
水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーを含むモノマー混合ガスを前記オレフィン系モノマー重合フィルムに接触させる接触工程と、
前記モノマー混合ガス中の水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーを前記オレフィン系モノマー重合フィルムの表面上で凝縮させる凝縮工程と、
前記凝縮工程の後、前記オレフィン系モノマー重合フィルムに大気圧近傍プラズマを照射するプラズマ照射工程と、
を備え、前記モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマーの体積濃度が、水溶性モノマーの体積濃度の1.1倍以上であることを特徴とする。
【0008】
前記接触工程及び凝縮工程によって、オレフィン系モノマー重合フィルムの表面に水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーの液化層を形成できる。水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーは混合ガス状態から液化されたものであるから、分子レベルで均一に混合されている。モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマーの体積濃度を水溶性モノマーの体積濃度の1.1倍以上とすることによって、水溶性モノマーの性質を抑えて液化層のオレフィン系モノマー重合フィルムとの相容性を良好にすることができる。続いて、プラズマ照射工程により、オレフィン系モノマー重合フィルムの表面が活性化されるとともに液化層の水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーが活性化され、オレフィン系モノマー重合フィルムの表面に水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーがグラフト共重合して接着性促進層が形成される。具体的には、オレフィン系モノマー重合フィルムの表面分子のC−H結合がプラズマガスとの接触やプラズマ光の照射により切断され、この結合切断部に水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーがグラフト共重合されるものと考えられる。液化層は水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーが分子レベルで均一に混合されているから、共重合反応を効率良く進行させることができる。プラズマ照射を、モノマー混合ガスの吹き付けと同時ではなく凝縮後に行なうことによって、水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーの共重合や各モノマーの重合が気相中で開始されるのを防止でき、極性を有するオリゴマー又はポリマーが気相中で形成されるのを防止できる。したがって、オレフィン系モノマー重合フィルムの表面上で水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーを確実にグラフト共重合させることができ、オレフィン系モノマー重合フィルムの表面に接着性促進層を確実に形成できる。接着性促進層は、非極性のオレフィン系モノマーの濃度を水溶性モノマーの体積濃度の1.1倍以上としてグラフト共重合させたものであるから、非極性のオレフィン系モノマー重合フィルムとの相容性が高い。かつ接着性促進層は、水溶性モノマーに由来する極性を有し、PVA等の極性を有する成分からなる接着剤やフィルム等との相容性が高い。この結果、オレフィン系モノマー重合フィルムの接着性を高めることができる。
【0009】
モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマーの体積濃度の上限は、水溶性モノマーの10.0倍程度が好ましい。それ以上になると、水溶性モノマーの濃度が低くなりすぎ、偏光子等の接着する相手側との相容性が低下し、結果的に接着力が低下する。モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマーの体積濃度のより好ましい範囲は、水溶性モノマーの体積濃度の1.4倍以上4倍未満である。
【0010】
上記のフィルム表面処理方法が、前記水溶性モノマーをガス状態で前記オレフィン系モノマー重合フィルムの近傍まで導く水溶性モノマー供給工程と、前記オレフィン系モノマーをガス状態で、かつ前記水溶性モノマーと混合させることなく前記オレフィン系モノマー重合フィルムの近傍まで導くオレフィン系モノマー供給工程と、前記水溶性モノマー及び前記オレフィン系モノマーどうしを前記接触工程の直前で互いに混合して前記モノマー混合ガスを得る混合工程と、を更に備えることが好ましい。
【0011】
異種のモノマーガスどうしを供給途中に混合しないようにすることで、供給配管が閉塞したりモノマーどうしの混合比が変動したりするのを防止でき、接着性を安定させることができる。混合工程における水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーはガス状態であるから、分子レベルで均一に混合することができる。続く凝縮工程では、分子レベルで均一に混合した液化層を確実に形成でき、更にプラズマ照射工程では、共重合反応を効率良く進行させることができる。
前記水溶性モノマー供給工程における前記「近傍」の位置から前記オレフィン系モノマー重合フィルムの表面までの距離は、好ましくは0mm〜100mm程度である。前記オレフィン系モノマー供給工程における前記「近傍」の位置から前記オレフィン系モノマー重合フィルムの表面までの距離は、好ましくは0mm〜100mm程度である。前記混合工程における前記「直前」から前記接触工程までの時間は、好ましくは0sec〜5sec程度である。
【0012】
前記モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマーとは、二重結合を有しかつ極性官能基を持たない不飽和炭化水素であり、直鎖状でもよく環状でもよく、二重結合の数は1つでもよく2つ以上でもよい。好ましくは、オレフィン系モノマーとして室温付近で液体であり、かつガス化が容易なものを用いる。オレフィン系モノマーの炭素数は5以上8以下が好ましい。
具体的には、直鎖状のオレフィン系モノマーとしては、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等が挙げられる。直鎖の末端に二重結合があるものが好ましいが、特にこれに限定されるものではない。
環状のオレフィン系モノマーとしては、1−シクロペンテン、1−シクロヘキセン、1−シクロヘプテン、1−シクロオクテンの他、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン(DCPD)等の環状ジエンが挙げられる。
前記モノマー混合ガスのオレフィン系モノマーは、好ましくは環状ジエンであり、特にシクロペンタジエン、又はジシクロペンタジエンであることが好ましい。これにより、液化層ひいては接着促進層のオレフィン系モノマー重合フィルムとの相容性を高めることができ、特にシクロオレフィンポリマー(COP)からなるフィルムとの相容性を高めることができる。しかも、環状ジエンは、Diels−alder反応などにより重合性が高く、水溶性モノマーと共重合しやすい。
【0013】
前記水溶性モノマーは、アルデヒド基、カルボキシル基、又は水酸基を有するモノマーであることが好ましい。これにより、PVA等の極性を有する成分からなる接着剤や、偏光子等の被接着部材との相容性を高めることができる。具体的には、水溶性モノマーとして、アセトアルデヒド、ビニルアルコール、アクリル酸(AA)、メタクリル酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミド等が挙げられる。特に、水溶性モノマーとしては、アセトアルデヒド、又はアクリル酸が好ましい。 アセトアルデヒドは、ビニルアルコールとケト−エノール互変異性体を構成し、ビニルアルコールと共存する化合物である。したがって、ビニルアルコール系の接着剤や偏光子等との相容性を高くすることができる。
【0014】
前記オレフィン系モノマー重合フィルムは、オレフィン系モノマーを重合(共重合を含む)させたオレフィン系モノマー重合体を主成分とするフィルムである。前記オレフィン系モノマー重合体として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンの他、シクロオレフィンポリマー(COP)が挙げられ、これらの共重合体でもよく、例えばポリエチレンとシクロオレフィンポリマーとの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマー(COC)でもよい。光学特性の観点からは、前記オレフィン系モノマー重合フィルムが、シクロオレフィンポリマー(COP)を含むことが好ましい。シクロオレフィンポリマーのフィルムは、例えばシクロペンダジエン等を主成分として含む。したがって、モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマーとしてシクロペンダジエン等の環状ジエンを用いることにより、オレフィン系モノマー重合フィルムとモノマー混合ガス中のオレフィン系モノマーとの相容性を高くすることができる。
オレフィン系モノマー重合フィルムの重合体を構成するオレフィン系モノマーとモノマー混合ガス中のオレフィン系モノマーとは、同一のモノマーであってもよく、互いに異なるモノマーであってもよい。
【0015】
本発明に係る偏光板の製造方法は、上記の表面処理方法にて表面処理したオレフィン系モノマー重合フィルムを保護フィルム又は位相差フィルムとして透明な接着剤を介して偏光子と接着することを特徴とする。
上記表面処理によりオレフィン系モノマー重合フィルムからなる保護フィルム又は位相差フィルムの接着性を高めて偏光子と強固に接着することができ、良品質の偏光板を製造することができる。
【0016】
本発明に係る表面処理装置は、オレフィン系モノマー重合フィルムの表面を処理する表面処理装置であって、
前記オレフィン系モノマー重合フィルムを支持する支持手段と、
水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーを含むモノマー混合ガスを、オレフィン系モノマーの体積濃度が水溶性モノマーの体積濃度の1.1倍以上になるよう調節して前記オレフィン系モノマー重合フィルムに接触させるモノマー供給系と、
前記モノマー混合ガス中の水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーを前記オレフィン系モノマー重合フィルムの表面上で凝縮させる凝縮手段と、
前記凝縮手段を経た前記オレフィン系モノマー重合フィルムに大気圧近傍プラズマを照射するプラズマ照射手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0017】
前記モノマー供給系及び凝縮手段によって、オレフィン系モノマー重合フィルムの表面に水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーの液化層を形成できる。モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマーの体積濃度を水溶性モノマーの体積濃度の1.1倍以上とすることによって、水溶性モノマーの性質を抑え、液化層のオレフィン系モノマー重合フィルムとの相容性を良好にすることができる。プラズマ照射手段により、オレフィン系モノマー重合フィルムの表面を活性化できるとともに液化層の水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーを活性化でき、オレフィン系モノマー重合フィルムの表面に水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーがグラフト共重合して接着性促進層を形成できる。水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーを混合ガス状態から液化させることで、分子レベルで均一に混合でき、共重合反応を効率良く進行させることができる。凝縮手段を経たオレフィン系モノマー重合フィルムにプラズマ照射することによって、水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーの共重合や各モノマーの重合が気相中で開始されるのを防止でき、極性を有するオリゴマー又はポリマーが気相中で形成されるのを防止できる。そして、オレフィン系モノマー重合フィルムの表面上で水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーを確実にグラフト共重合させることができ、オレフィン系モノマー重合フィルムの表面に接着性促進層を確実に形成できる。接着性促進層は、非極性のオレフィン系モノマーの濃度を水溶性モノマーの体積濃度の1.1倍以上としてグラフト共重合させたものであるから、非極性のオレフィン系モノマー重合フィルムとの相容性が高く、かつ水溶性モノマーに由来する極性を有し、PVA等の極性を有する成分からなる接着剤やフィルム等との相容性が高い。この結果、オレフィン系モノマー重合フィルムの接着性を高めることができる。
前記凝縮手段は、例えば前記オレフィン系重合フィルムや処理雰囲気の温調手段を含む。前記オレフィン系重合フィルムの温調手段は、例えば前記オレフィン系重合フィルムの支持手段に設けられた温調媒体流路を含む。前記凝縮手段又は前記温調手段としてヒートポンプ、電気−熱変換素子等を用いてもよい。
【0018】
ここで、大気圧近傍とは、1.013×10〜50.663×10Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、1.333×10〜10.664×10Paが好ましく、9.331×10〜10.397×10Paがより好ましい。大気圧近傍プラズマの雰囲気ガスは、HeやArなどの希ガス、窒素、酸素または空気であることが好ましい。特に、上記雰囲気ガス成分のほぼ全部をAr又は窒素とすると、オレフィン系重合フィルムのプラズマ処理領域の接着性が均一的に高くなるのでより好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、オレフィン系モノマー重合フィルムの接着性を確実に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係る表面処理装置を概略的に示す正面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る表面処理装置を概略的に示す正面図である。
【図3】偏光板の断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図3は、液晶表示装置等に用いられる偏光板10を示したものである。偏光板10は、保護フィルム11と、接着剤12と、偏光子13と、接着剤14と、保護フィルム15を順次積層してなる。保護フィルム11は、オレフィン系モノマーの重合体を主成分とするオレフィン系モノマー重合フィルムにて構成されている。ここでは、オレフィン系モノマー重合体として、シクロオレフィンポリマー(COP)が用いられている。以下、保護フィルム11を適宜「オレフィン系モノマー重合フィルム11」又は「COPフィルム11」と表記する。フィルム11の厚さには、特に限定がなく、例えば数十μm〜百数十μmである。COPフィルム11は、延伸されていてもよい。延伸されたCOPフィルム11は、保護フィルムとしてだけでなく、位相差フィルムとしても機能する。
【0022】
フィルム11を構成するオレフィン系モノマー重合体は、COPに限られず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンであってもよく、これらの共重合体であってもよい。フィルム11が、シクロオレフィンコポリマー(COC)を主成分とするCOCフィルムにて構成されていてもよい。
【0023】
偏光子13は、ポリビニルアルコール(PVA)を主成分とするPVAフィルムにて構成されている。
【0024】
保護フィルム15は、トリアセテートセルロース(TAC)を主成分とするTACフィルムにて構成されている。以下、保護フィルム15を適宜「TACフィルム15」と表記する。TACフィルム15のトリアセテートセルロースの含有量は90質量%以上である。フィルム15には、更にリン酸トリフェニル(TPP)などのリン酸エステル可塑剤が3〜10質量%程度含有されていてもよく、紫外線吸収剤が含有されていてもよい。フィルム15の厚さには、特に限定がなく、例えば数十μm〜百数十μmである。TACフィルム15の製造方法は特に限定がなく、例えばキャスト法で製造される。TACフィルム15は、鹸化処理されている。
【0025】
保護フィルム11と偏光子13が、接着剤12にて接着されている。偏光子13と保護フィルム15が、接着剤14にて接着されている。接着剤12及び14としては、特に限定はないが、偏光板10等の光学フィルムに適用されることを考慮し、透明な水系接着剤を用いることが好ましい。水系接着剤として、ポリビニルアルコール水溶液、ポリビニルブチラール溶液等を主成分とするポリビニルアルコール系の接着剤液、ブチルアクリレートなどを主成分とするビニル系重合系ラテックス、ポリオレフィン系ポリオール等を主成分とするオレフィン水性接着剤、ポリエーテル系接着剤等が挙げられる。接着剤12,14としては、ポリビニルアルコール水溶液を主成分とするポリビニルアルコール系接着剤(PVA接着剤)を用いるのがより好ましい。2層の接着剤12,14が、互いに同一成分にて構成されていてもよく、互いに異なる成分にて構成されていてもよい。
【0026】
オレフィン系モノマー重合フィルム11は、PVAフィルムからなる偏光子13に比べて接着剤12との接着性が低い。そこで、接着に先立って、オレフィン系モノマー重合フィルム11には接着性向上のための表面処理が施される。
【0027】
図1は、上記の表面処理に用いるフィルム表面処理装置1の一例を示したものである。フィルム表面処理装置1は、モノマー供給系2と、表面処理部4を備えている。
【0028】
モノマー供給系2は、2系統のモノマー含有ガス供給系20,30を含む。水溶性モノマー含有ガス供給系20は、水溶性モノマー供給源として気化器21を備えている。気化器21の下側部に水溶性モノマーが液体の状態で蓄えられている。気化器21内の水溶性モノマーの液面より上側の部分には、水溶性モノマー液から気化した水溶性モノマーの飽和蒸気が存在している。気化器21にはヒータ等の温調手段(図示省略)が組み込まれており、気化器21内の温度を調節することで水溶性モノマーの気化量を調節することができる。
【0029】
水溶性モノマーとして、ここではアクリル酸(CH=CHCOOH)又はアセトアルデヒド(CHCHO)が用いられている。なお、水溶性モノマーは、カルボキシル基、アルデヒド基、水酸基等の極性基を有し、水への溶解性が高いモノマーであればよく、アクリル酸又はアセトアルデヒドの他、ビニルアルコール、メタクリル酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミド等であってもよい。
【0030】
キャリア供給源22からのキャリア導入路23が気化器21に接続されている。キャリア供給源22のキャリアガスとして窒素(N)が用いられている。キャリア導入路23の先端開口は、気化器21内の水溶性モノマー液の液面より上側に配置されているが、水溶性モノマーの液中に差し入れられていてもよい。
【0031】
気化器21から水溶性モノマー含有ガス供給路24が表面処理部4へ延びている。図示は省略するが、水溶性モノマー含有ガス供給路24を構成する管の外周には全長にわたってリボンヒータ(温調手段)が設けられている。
【0032】
オレフィン系モノマー含有ガス供給系30は、オレフィン系モノマー供給源として気化器31を備えている。気化器31の下側部にオレフィン系モノマーが液体の状態で蓄えられている。気化器31内のオレフィン系モノマーの液面より上側の部分には、オレフィン系モノマー液から気化したオレフィン系モノマーの飽和蒸気が存在している。気化器31にはヒータ等の温調手段(図示省略)が組み込まれており、気化器31内の温度を調節することでオレフィン系モノマーの気化量を調節することができる。
【0033】
オレフィン系モノマーとして、ここではシクロペンタジエン又はジシクロペンタジエンが用いられている。なお、オレフィン系モノマーは、1又は複数の二重結合を有する不飽和炭化水素であり、かつ極性官能基を持たない不飽和炭化水素であればよく、シクロペンタジエン又はジシクロペンタジエン等の環状ジエンに限られず、1−シクロペンテン、1−シクロヘキセン、1−シクロヘプテン、1−シクロオクテン等の二重結合の数が1つの環状モノマーでもよく、環状モノマーに限られず、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等の直鎖状モノマーでもよい。
【0034】
キャリア供給源32からのキャリア導入路33が気化器31に接続されている。キャリア供給源32のキャリアガスとして窒素(N)が用いられている。キャリア供給源22及びキャリア供給源32が互いに共通の窒素供給源にて構成されていてもよい。キャリア導入路33の先端開口は、気化器31内のオレフィン系モノマー液の液面より上側に配置されているが、オレフィン系モノマーの液中に差し入れられていてもよい。
【0035】
気化器31からオレフィン系モノマー含有ガス供給路34が表面処理部4へ延びている。図示は省略するが、オレフィン系モノマー含有ガス供給路34を構成する管の外周には全長にわたってリボンヒータ(温調手段)が設けられている。
【0036】
プラズマ照射手段としての表面処理部4は、上側の処理ヘッド40と、下側のステージ50を備えている。処理ヘッド40の内部には電極41が収容されている。電極41は、図1の紙面と直交する方向にフィルム11の巾寸法以上の長さになるよう延びている。電極41の下面に固体誘電体42が設けられている。電極41に電源43が接続されている。電源43は、商用交流電力を直流に整流し、この直流をパルス波状の高周波に変換し、更に昇圧して出力する。電源43からの出力波は、パルス状に限られず、連続波状であってもよい。
【0037】
図示は省略するが、電極41の内部には冷却路が形成されている。この冷却路に冷却水を通すことにより、電極41を冷却(温度調節)できる。
【0038】
電極41の長手方向と直交する方向の一側部(図1において左)にはガス混合噴出部3が設けられている。ガス混合噴出部3は、モノマー供給系2の先端要素を構成する。モノマー供給系2の2系統の供給路24,34がガス混合噴出部3に連なっている。図示は省略するが、ガス混合噴出部3には、供給路24からの水溶性モノマー含有ガスと供給路34からのオレフィン系モノマー含有ガスを互いに混合しながら、又は混合した後に図1の紙面と直交する方向に均一化する混合整流部が設けられている。混合整流部は、1又は複数のチャンバー、1又は複数のスリット、多数の小孔からなる小孔列等によって構成されている。水溶性モノマー含有ガスとオレフィン系モノマー含有ガスの混合によって、モノマー混合ガスが形成される。モノマー混合ガスは、水溶性モノマーとオレフィン系モノマーとキャリアガス(N)を含む。ガス混合噴出部3の下端部には吹き出し口3aが設けられている。吹き出し口3aは、図1の紙面と直交する方向にフィルム11の巾寸法と同程度又はそれより長く延びるスリット状になっているが、図1の紙面と直交する方向に並べられた多数の小孔の列によって構成されていてもよい。上記モノマー混合ガスが、吹き出し口3aから下方へ均一に吹き出される。ガスの吹き出し方向は、電極41の側へ向かって斜めになっているが、まっすぐ下方へ吹き出されるようにしてもよい。
【0039】
さらに、プラズマ生成用ガス供給源60からのプラズマ生成用ガス供給路61が噴出部3に連なっている。噴出部3は、プラズマ生成用ガス供給路61からのプラズマ生成用ガスを下方へ吹き出す。プラズマ生成用ガスとして窒素(N)が用いられている。プラズマ生成用ガス供給源60とキャリア供給源22,32とが互いに共通の窒素供給源にて構成されていてもよい。
【0040】
モノマー供給系2の供給路24,34から噴出部3にガスが供給されるときはプラズマ生成用ガス供給路61が閉じられる。供給路61からプラズマ生成用ガスが噴出部3に供給されるときは、モノマー供給系2の供給路24,34が閉じられる。噴出部3は、モノマー供給系2の2系統のガスの混合及び吹き出し手段としての機能と、プラズマ生成用ガスの吹き出し手段としての機能を兼ねている。
【0041】
処理ヘッド40の左右の両側部には、ガスカーテン形成部44が設けられている。カーテンガス供給源(図示せず)からのガスカーテン路45が各ガスカーテン形成部44に連なっている。ガスカーテン形成部44は、ガスカーテン路45からのカーテンガスを下方へ吹き出す。これにより、処理ヘッド40の左右両端部とステージ50との間にガスカーテンが形成される。カーテンガスとして窒素(N)が用いられている。上記カーテンガス供給源が、プラズマ生成用ガス供給源60及びキャリア供給源22,32と共通の窒素供給源にて構成されていてもよい。
【0042】
図示は省略するが、処理ヘッド40には搬送機構が接続されている。搬送機構によって、処理ヘッド40が図1において左右方向に往復移動される。処理ヘッド40に代えて、ステージ50が移動されるようになっていてもよい。
【0043】
ステージ50は、板状又は盤状をなし、処理ヘッド40の下側に離れて設置されている。ステージ50の上面に板状の固体誘電体52が設けられている。固体誘電体52の上に処理対象の枚葉状のオレフィン系モノマー重合フィルム11が配置されている。ステージ50は、フィルム11の支持手段を構成する。
【0044】
ステージ50は、金属にて構成され、電気的に接地されている。これにより、ステージ50は、電極41と対をなす接地電極としても機能している。電界印加電極41とステージ兼接地電極50とにより、平行平板電極が構成されている。電源43からの電圧供給によって、電極41とステージ兼接地電極50との間に電界が印加され、固体誘電体42,52どうし間の空間49が大気圧プラズマ空間になる。
【0045】
ステージ50の内部に冷却路56からなる凝縮手段が組み込まれている。冷却路56に冷却媒体が通される。冷却媒体として例えば水が用いられている。冷却媒体によりステージ50を冷却でき、ひいては固体誘電体52を介してオレフィン系モノマー重合フィルム11を冷却(温度調節)できる。
【0046】
上記構成のフィルム表面処理装置1を用いて、オレフィン系モノマー重合フィルム11を表面処理し、更には偏光板10を製造する方法を説明する。
[水溶性モノマー供給工程]
キャリア供給源22のキャリアガス(N)を、キャリア導入路23を経て気化器21に導入する。気化器21内の水溶性モノマー液より上側の部分において、水溶性モノマーガスとキャリアガスが混合され、水溶性モノマー含有ガスが生成される。水溶性モノマー含有ガスの水溶性モノマー濃度は、キャリアガスの気化器21への導入流量及び気化器21内の温度にて調節できる。
【0047】
水溶性モノマー含有ガス、すなわちキャリアガスにキャリアされた水溶性モノマーガスが、水溶性モノマー含有ガス供給路24を経てオレフィン系モノマー重合フィルム11の近傍のガス混合噴出部3へ送られる。このとき、供給路24を構成する管に設けたリボンヒーターなどの温調手段によって水溶性モノマー含有ガスを温調することにより、水溶性モノマーが供給路24内で凝縮するのを防止できる。
【0048】
[オレフィン系モノマー供給工程]
上記の水溶性モノマー供給工程と併行して、キャリア供給源32のキャリアガス(N)を、キャリア導入路33を経て気化器31に導入する。気化器31内のオレフィン系モノマー液より上側の部分において、オレフィン系モノマーガスとキャリアガスが混合され、オレフィン系モノマー含有ガスが生成される。オレフィン系モノマー含有ガスのオレフィン系モノマー濃度は、キャリアガスの気化器31への導入流量及び気化器31内の温度にて調節できる。
【0049】
オレフィン系モノマー含有ガス、すなわちキャリアガスにキャリアされたオレフィン系モノマーガスが、オレフィン系モノマー含有ガス供給路34を経てオレフィン系モノマー重合フィルム11の近傍のガス混合噴出部3へ送られる。このとき、供給路34を構成する管に設けたリボンヒーターなどの温調手段によってオレフィン系モノマー含有ガスを温調することにより、オレフィン系モノマーが供給路34内で凝縮するのを防止できる。
【0050】
水溶性モノマーとオレフィン系モノマーは、ガス混合噴出部3に到達するまで互いに混合されることがない。したがって、これら2種類のモノマーガスが、供給途中で共重合反応を起こすのを防止できる。よって、供給路24,34が詰まるのを防止できる。かつ、各モノマー含有ガスのモノマー濃度が変動するのを防止でき、モノマー濃度を正確に管理することができる。
【0051】
[混合工程]
ガス混合噴出部3は、水溶性モノマー含有ガス供給路24からの水溶性モノマー含有ガスとオレフィン系モノマー含有ガス供給路34からのオレフィン系モノマー含有ガスとを混合し、水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーを含むモノマー混合ガスを生成する。水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーはガス状態であるから、分子レベルで均一に混合することができる。水溶性モノマーとオレフィン系モノマーの混合は、後述する接触工程の直前に行なわれる。
【0052】
モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマーの濃度は、体積比で水溶性モノマーの濃度の1.1倍以上であることが好ましい。モノマー混合ガス中の各モノマーの濃度は、気化器21,31へのキャリア流量及び気化器21,31の温度等により調節することができる。
【0053】
[接触工程]
ガス混合噴出部3は、モノマー混合ガスを下方へ吹き出す。これにより、モノマー混合ガスがオレフィン系モノマー重合フィルム11に接触する。水溶性モノマーとオレフィン系モノマーを混合後直ちに吹き出すことで、ガス混合噴出部3内で水溶性モノマーとオレフィン系モノマーが重合反応を起こすのを防止でき、ガス混合噴出部3内が閉塞されるのを防止できる。
【0054】
[凝縮工程]
冷却水を冷却路56に通す。これより、ステージ50及び固体誘電体52を介してオレフィン系モノマー重合フィルム11を冷却できる。そのため、モノマー混合ガス中の水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーが、オレフィン系モノマー重合フィルム11に接触したとき冷却されて凝縮する。これにより、オレフィン系モノマー重合フィルム11の表面に水溶性モノマーとオレフィン系モノマーの混合液からなる液化層が形成される。
【0055】
水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーをガス状態のときに混合するため、水溶性モノマーとオレフィン系モノマーが分子レベルで均一に混ざった液化層を得ることができる。しかも、水溶性モノマーとオレフィン系モノマーを、オレフィン系モノマー重合フィルム11にスプレー塗布ではなく、ガス状態で吹き付けた後、凝縮させるため、オレフィン系モノマー重合フィルム11の表面に液化層を万遍なく均一に形成できる。液化層中のオレフィン系モノマーを構成するシクロペンタジエン等の環状ジエンはオレフィン系モノマー重合フィルム11との相容性が高い。しかも、モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマーの濃度を水溶性モノマーの濃度の1.1倍以上にすることで、オレフィン系モノマー重合フィルム11と液化層との相容性を確実に向上できる。
【0056】
[液化層形成時搬送工程]
上記の接触工程及び凝縮工程と併行して、吹き出し口3aがフィルム11の左右方向の一端に対応する位置と他端に対応する位置との間を移動するよう、処理ヘッド40を図1において左右方向に往復移動させる。これにより、水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーの液化層をオレフィン系モノマー重合フィルム11の全面に形成でき、かつ液化層の厚さを大きくすることができる。
【0057】
その後、水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーの供給工程を停止し、ひいては混合工程、接触工程、凝縮工程を停止する。
【0058】
[プラズマ照射工程]
続いて、プラズマ生成用ガス供給源60のプラズマ生成用ガス(N)を、供給路61を経て噴出部3に導入し、噴出部3から下方のオレフィン系モノマー重合フィルム11へ吹き出す。併せて、電源43から電極41に電力を供給する。これにより、電極41とステージ50との間に電界が印加されて大気圧下で放電が生成され、プラズマ空間49内でプラズマ生成用の窒素ガスがプラズマ化(分解、励起、活性化、ラジカル化、イオン化を含む)される。これにより、オレフィン系モノマー重合フィルム11におけるプラズマ空間49内に配置された部分の表面に、窒素プラズマやプラズマ光が照射される。このプラズマ照射により、液化層の水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーが活性化されるとともに、オレフィン系モノマー重合フィルム11の表面分子が活性化され、オレフィン系モノマー重合フィルム11の表面分子に水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーが結合する。具体的には、オレフィン系モノマー重合フィルム11の表面分子のC−H結合がプラズマガスとの接触やプラズマ光の照射により切断され、この結合切断部に水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーがグラフト共重合するものと考えられる。これにより、オレフィン系モノマー重合フィルム11の表面に水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーのグラフト共重合体からなる接着性促進層を形成することができる。水溶性モノマーとオレフィン系モノマーを分子レベルで均一に混合しておくことにより、共重合反応を効率よく進行させることができる。
【0059】
モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマーの濃度を水溶性モノマーの濃度の1.1倍以上にしておくことで、オレフィン系モノマー重合フィルム11と接着性促進層との相容性を確実に高めることができる。加えて、水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーに対しガス状態のときにプラズマ照射するのではなく、液化層にしたうえでプラズマ照射することにより、気相中で水溶性モノマーとオレフィン系モノマーの共重合反応が開始されるのを防止でき、オレフィン系モノマー重合フィルム11と接着性促進層との相容性を一層高めることができる。
【0060】
[プラズマ照射時搬送工程]
上記プラズマ照射工程と併行して、吹き出し口3aがフィルム11の左右方向の一端に対応する位置と他端に対応する位置との間を移動するよう、処理ヘッド40を図1において左右方向に移動させる。これにより、接着性促進層をオレフィン系モノマー重合フィルム11の全面に形成することができる。
【0061】
[接着工程]
フィルム表面処理装置1による上記表面処理の後、オレフィン系モノマー重合フィルム11の被処理面にPVA接着剤12を塗布し、更にその上にPVA偏光子13を重ね、接着剤12を介してオレフィン系モノマー重合フィルム11とPVA偏光子13を接着する。オレフィン系モノマー重合フィルム11は非極性であるのに対し、接着性促進層は水溶性モノマーに由来する極性を有し、PVAとの相容性が高い。よって、極性のPVA接着剤12とオレフィン系モノマー重合フィルム11との接着性を高めることができ、ひいては極性のPVA偏光子13とオレフィン系モノマー重合フィルム11との接着性を高めることができる。更に、接着性促進層は、オレフィン系モノマー重合フィルム11との相容性が高いオレフィン系モノマーを含んでいる。しかも、上述したように、モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマーの濃度を水溶性モノマーの濃度の1.1倍以上にし、かつ液化層の形成後にプラズマ照射することで、オレフィン系モノマー重合フィルム11と接着促進層との相容性を十分確保することができる。この結果、難接着性のオレフィン系モノマー重合フィルム11の接着性を十分に高めることができ、接着剤12を介してオレフィン系モノマー重合フィルム11をPVA偏光子13に強固に接着することができる。
【0062】
さらに、PVA偏光子13に接着剤14を介して、鹸化したTACフィルムからなる保護フィルム15を接着する。これにより、良品質の偏光板10を得ることができる。
【0063】
次に、本発明の他の実施形態に係る表面処理装置について説明する。以下の実施形態において第1の実施形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を省略する。
図2は、本発明の第2実施形態を示したものである。第2実施形態に係るフィルム表面処理装置1Xは、表面処理部7(プラズマ照射手段)が一対のロール電極71,72にて構成されている。ロール電極71,72は、軸線を図2と直交する方向に向けた円筒状になっている。各ロール電極71,72の外周面の全体には固体誘電体層(図示省略)が設けられている。例えば、右側のロール電極72が電源43に接続されている。左側のロール電極71が電気的に接地されている。勿論、ロール電極71に電源43が接続され、ロール電極72が電気的に接地されていてもよい。電源43からの電力供給によって、ロール電極71,72間の空間の最も狭くなった部分及びその周辺が大気圧近傍のプラズマ空間79になる。
【0064】
第2実施形態のオレフィン系モノマー重合フィルム11は、連続シート状になっている。オレフィン系モノマー重合フィルム11は、2つのロール電極71,72の上側の周面に例えば半周程度掛け回されている。ロール電極71,72どうしの間のオレフィン系モノマー重合フィルム11は、プラズマ空間79に通されて下方へ延出され、一対のガイドロール73,73に掛け回されて折り返されている。ロール電極71,72及びガイドロール73の回転により、オレフィン系モノマー重合フィルム11が、一方向(右方向)に搬送される。
ロール電極71,72及びガイドロール73は、オレフィン系モノマー重合フィルム11の支持手段及び移動手段としての機能を有している。
【0065】
各ロール電極71,72の内部に凝縮手段として冷却路76が設けられている。所定温度の冷却媒体が、冷却路76を流通する。冷却媒体として例えば水が用いられる。これによって、ロール電極71,72の温度を調節でき、更にはオレフィン系モノマー重合フィルム11のロール電極71に接する部分の温度を調節することができる。
【0066】
左側(フィルム11の搬送方向の上流側)のロール電極71の上側に、モノマー混合噴出ノズル74が設けられている。モノマー混合噴出ノズル74に水溶性モノマー含有ガス供給路24及びオレフィン系モノマー含有ガス供給路34の下流端が連なっている。モノマー混合噴出ノズル74において、水溶性モノマー含有ガス供給路24からのガスとオレフィン系モノマー含有ガス供給路34からのガスが混合され、下方へ吹き出される。詳細な図示は省略するが、モノマー混合噴出ノズル74は、図2の紙面と直交する方向にフィルム11の幅とほぼ同じかそれより長く延びている。モノマー混合噴出ノズル74には、上記2種類のガスを混合しながら、又は混合した後、モノマー混合噴出ノズル74の長手方向(図2の紙面直交方向)に均一に分散させる整流路が形成されている。
【0067】
ロール電極71とロール電極72の間の上側部分にプラズマ生成用ガス噴出ノズル75が配置されている。ノズル75にプラズマ生成用ガス供給路61の下流端が連なっている。詳細な図示は省略するが、プラズマ生成用ガス噴出ノズル75は、図2の紙面と直交する方向にフィルム11の幅とほぼ同じかそれより長く延びている。プラズマ生成用ガス噴出ノズル75には、上記プラズマ生成用ガス供給路61からのガスをノズル75の長手方向(図2の紙面直交方向)に均一に分散させる整流路が形成されている。均一化後のガスがノズル75から下方のプラズマ空間79へ吹き出される。
【0068】
フィルム表面処理装置1Xでは、ロール電極71,72及びガイドロール73を図2において時計周りに回転させることによって、オレフィン系モノマー重合フィルム11を右方向に連続的に搬送しながら(搬送工程)、モノマー混合ガスをノズル74からオレフィン系モノマー重合フィルム11におけるノズル74の直下部分に吹き付ける(接触工程)。オレフィン系モノマー重合フィルム11におけるモノマー混合ガスが吹き付けられる部分は、プラズマ空間79より搬送方向の上流側に位置している。
【0069】
併行して、冷却水を冷却路76に通す。これにより、オレフィン系モノマー重合フィルム11に接触したモノマー混合ガス中の水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーが凝縮し、オレフィン系モノマー重合フィルム11の表面に液化層が形成される(凝縮工程)。オレフィン系モノマー重合フィルム11の表面の液化層が形成された部分は、オレフィン系モノマー重合フィルム11の搬送に伴なって、ロール電極71の周面に沿ってプラズマ空間79の側へ伸長していく。
【0070】
さらに、プラズマ生成用ガス供給源60のプラズマ生成用ガスを、供給路61を経てノズル75からプラズマ空間79へ導入する。併せて、電源43からの電圧供給によりロール電極71,72間に電界を印加してプラズマ生成用ガスをプラズマ化する。これにより、オレフィン系モノマー重合フィルム11におけるプラズマ空間79内の部分にプラズマを照射する(プラズマ照射工程)。このプラズマ照射により、オレフィン系モノマー重合フィルム11の表面分子に水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーをグラフト共重合させ、オレフィン系モノマー重合フィルム11の表面に接着性促進層を形成できる。この結果、第1実施形態と同様に、オレフィン系モノマー重合フィルム11の接着性を高めることができ、オレフィン系モノマー重合フィルム11とPVA偏光子13の接着強度を高めることができる。
【0071】
第2実施形態では、オレフィン系モノマー重合フィルム11がロール電極71に沿ってプラズマ空間79を通過した後、ガイドロール73にて折り返されて、ロール電極72に沿ってプラズマ空間79を再び通過する。したがって、オレフィン系モノマー重合フィルム11の各部位のプラズマ照射を2回行なうことができる。
【0072】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々の改変をなすことができる。
例えば、キャリア導入路23から短絡路を分岐させて水溶性モノマー含有ガス供給路24に接続してもよく、そうすると、キャリアガスの気化器21への導入流量と、上記短絡路への分流量とを調節することで、水溶性モノマー含有ガスの水溶性モノマー濃度を調節することができる。
キャリア導入路33から短絡路を分岐させてオレフィン系モノマー含有ガス供給路34に接続してもよく、そうすると、キャリアガスの気化器31への導入流量と、上記短絡路への分流量とを調節することで、オレフィン系モノマー含有ガスのオレフィン系モノマー濃度を調節することができる。
気化器21,31は、液体の水溶性モノマーや液体のオレフィン系モノマーをスプレー噴霧または超音波で霧化し、霧化したモノマーをキャリアガスと混合させる装置であってもよい。
水溶性モノマー含有ガスとオレフィン系モノマー含有ガスをガス混合噴出部3,74から互いに別々に吹き出し、吹き出し後に混合されるようにしてもよい。
プラズマ照射手段は、一対の電極間に被処理フィルムを配置する所謂ダイレクト式構造に限られず、一対の電極間で生成したプラズマを電極間から吹き出し、電極間の外部に配置した被処理フィルムに照射する所謂リモート式構造であってもよい。
本発明のフィルム表面処理方法及び表面処理装置は、偏光板の製造に限られず、それ以外の用途に適用してもよい。
【実施例1】
【0073】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1の表面処理条件及び結果を表1に示す。実施例1では、図1に示すフィルム表面処理装置1と実質的に同じ構造の装置を用いた。処理対象のオレフィン系モノマー重合フィルム11として、ポロプロピレンフィルム(東洋紡製、商品名パイレンフィルム、型式CT)を用いた。フィルム11の巾(図1の紙面直交方向に沿う寸法)は、150mmであり、フィルム11の長さ(図1の左右方向に沿う寸法)は、200mmであった。フィルム11の厚さは、80μmであった。
【0074】
[液化層形成工程]
水溶性モノマー含有ガス供給系20の水溶性モノマーとしてアクリル酸(AA)を用いた。供給系20のキャリアガス(N)の流量は2slmとした。気化器21の温度は50℃とした。供給路24の温度は60℃とした。
【0075】
オレフィン系モノマー含有ガス供給系30のオレフィン系モノマーとして、ジシクロペンタジエン(DCPD)を用いた。供給系30のキャリアガス(N)の流量は8slmとした。気化器31の温度は80℃とした。供給路34の温度は90℃とした。
【0076】
窒素にてキャリアされたアクリル酸ガス及び窒素にてキャリアされたジシクロペンタジエンガスをそれぞれ供給路24,34からガス混合噴出部3に導いて混合し、モノマー混合ガスを生成した。モノマー混合ガス中のアクリル酸濃度は0.085vol%であり、ジシクロペンタジエン濃度は0.339vol%であり、残部は窒素であった。したがって、モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマー(ジシクロペンタジエン)の濃度は水溶性モノマー(アクリル酸)の濃度の3.988倍であった。表1の「オレフィン系モノマー濃度比」は、水溶性モノマー濃度に対するオレフィン系モノマー濃度の比である(表2〜表4において同じ)。モノマー(アクリル酸及びジシクロペンタジエン)の濃度は、別途、供給系20,30にキャリアガス(N)を10slmで10分間流し、各気化器21,31内のモノマー液の重量変化(気化量)を測定し、この測定結果から換算した。
【0077】
このモノマー混合ガスを吹き出し口3aからフィルム11に吹き付け、接触させた。温調手段56によってフィルム11の温度を25℃に調節し、フィルム11の表面にモノマー(アクリル酸及びジシクロペンタジエン)を凝縮させた。なお、カーテンガスの流量は、両側のガスカーテン形成部44,44の合計で30slm(片側15slm)とした。
【0078】
上記モノマー混合ガスの吹き付けと併行し、処理ヘッド40を往復移動させた。処理ヘッド40の移動速度は、0.5m/minとした。処理ヘッド40の移動回数は、往方向、復方向の片道移動を1回として、5回とした。処理ヘッド40の片道1回分の移動距離は400mmであった。
その後、モノマー供給系2からのガス供給を停止した。
【0079】
[プラズマ照射工程]
続いて、プラズマ生成用ガスとしての窒素ガスを、供給路62を経て噴出部3に導入し吹き出し口3aから吹き出した。プラズマ生成用の窒素ガス流量は10slmとした。これと併行して、電源43から電極41に電力を供給した。電源43におけるパルス変換前の直流電圧は110V、直流電流は3.8A、電力は418Wであった。電界印加電極41とステージ兼接地電極50との間の印加電圧はVpp=16.5kVであった。電極41の長さ(図1の紙面と直交する方向の寸法)は、200mmであった。電極41の下面とステージ兼接地電極50の上面間の距離は、2.7mmであった。固体誘電体42,52の厚さは、共に1mmであった。したがって、放電空間49の厚さは0.7mmであった。これにより、窒素ガスをプラズマ化し、フィルム11に窒素プラズマを照射した。プラズマ照射と併行して、処理ヘッド40を片道1回だけ移動させた。処理ヘッド40の移動距離は400mmであり、移動速度は1m/mimとした。カーテンガス流量は液相形成時と同じとした。
【0080】
[接着工程]
表面処理後の被処理フィルム11に、PVA系の接着剤12を塗布した。接着剤12として、(A)PVA 5wt%水溶液と、(B)カルボキシメチルセルロースナトリウム 2wt%水溶液とを、(A):(B)=20:1で混合した水溶液を用いた。接着剤1
3の乾燥条件は80℃、5分間とした。この接着剤12を介してフィルム11とPVA偏光子13を接着した。さらに、PVA偏光子13と鹸化したTACフィルム15とをPVA接着剤14にて接着し、偏光板10のサンプルを作成した。
【0081】
[評価]
上記のサンプルにおける被処理フィルム11とPVA偏光子13との間の接着強度を浮動ローラー法(JIS K6854)にて測定した。測定結果は10.4N/inchであり、十分な接着強度が得られた。
【実施例2】
【0082】
実施例2の表面処理条件及び結果を表1に示す。実施例2では、実施例1と同じ装置(図1)を用い、かつ処理対象のオレフィン系モノマー重合フィルム11として、シクロオレフィンポリマーフィルム(積水化学工業製、商品名エスシーナ)を用いた。フィルムの大きさは、実施例1と同じとした。
【0083】
水溶性モノマー含有ガス供給系20の水溶性モノマーとしては、アセトアルデヒド(CHCHO)を用いた。水溶性モノマー含有ガス供給系20のキャリア(N)の流量は、0.5slmとした。気化器21の温度は25℃とした。供給路24の温度は30℃とした。
【0084】
オレフィン系モノマー含有ガス供給系30のオレフィン系モノマーとしては、ジシクロペンタジエン(DCPD)を用いた。供給系30のキャリアガス(N)の流量は9.5slmとした。気化器31の温度は80℃とした。供給路34の温度は90℃とした。これにより、噴射部3におけるモノマー混合ガス中のアセトアルデヒド濃度は0.174vol%になり、ジシクロペンタジエン濃度は0.403vol%になった。したがって、モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマー(ジシクロペンタジエン)の濃度は水溶性モノマー(アセトアルデヒド)の濃度の2.316倍であった。その他の処理条件は、実施例1と同じとした。
【0085】
さらに、実施例1と同様にして偏光板10のサンプルを作成した。このサンプルのフィルム11とPVA偏光子13との間の接着強度を実施例1と同一方法で測定したところ、結果は9.2N/inchであり、十分な接着強度が得られた。
【実施例3】
【0086】
実施例3の表面処理条件及び結果を表1に示す。実施例3では、実施例1と同じ装置(図1)を用い、かつ実施例2と同じシクロオレフィンポリマーフィルムを処理対象のオレフィン系モノマー重合フィルム11とした。
【0087】
水溶性モノマー含有ガス供給系20の水溶性モノマーとしては、アクリル酸(AA)を用いた。水溶性モノマー含有ガス供給系20のキャリア(N)の流量は、4slmとした。気化器21の温度は50℃とした。供給路24の温度は60℃とした。
【0088】
オレフィン系モノマー含有ガス供給系30のオレフィン系モノマーとしては、ジシクロペンタジエン(DCPD)を用いた。供給系30のキャリアガス(N)の流量は6slmとした。気化器31の温度は80℃とした。供給路34の温度は90℃とした。これにより、噴射部3におけるモノマー混合ガス中のアクリル酸濃度は0.17vol%になり、ジシクロペンタジエン濃度は0.254vol%になった。したがって、モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマー(ジシクロペンタジエン)の濃度は水溶性モノマー(アクリル酸)の濃度の1.494倍であった。その他の処理条件は、実施例1と同じとした。
【0089】
さらに、実施例1と同様にして偏光板10のサンプルを作成した。このサンプルのフィルム11とPVA偏光子13との間の接着強度を実施例1と同一方法で測定したところ、結果は10.1N/inchであり、十分な接着強度が得られた。
【実施例4】
【0090】
実施例4の表面処理条件及び結果を表1に示す。実施例4では、実施例1と同じ装置(図1)を用い、かつ実施例2と同じシクロオレフィンポリマーフィルムを処理対象のオレフィン系モノマー重合フィルム11とした。
【0091】
水溶性モノマー含有ガス供給系20の水溶性モノマーとしては、アクリル酸(AA)を用いた。水溶性モノマー含有ガス供給系20のキャリア(N)の流量は、3slmとした。気化器21の温度は50℃とした。供給路24の温度は60℃とした。
【0092】
オレフィン系モノマー含有ガス供給系30のオレフィン系モノマーとしては、ジシクロペンタジエン(DCPD)を用いた。供給系30のキャリアガス(N)の流量は7slmとした。気化器31の温度は80℃とした。供給路34の温度は90℃とした。これにより、噴射部3におけるモノマー混合ガス中のアクリル酸濃度は0.127vol%になり、ジシクロペンタジエン濃度は0.297vol%になった。したがって、モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマー(ジシクロペンタジエン)の濃度は水溶性モノマー(アクリル酸)の濃度の2.339倍であった。その他の処理条件は、実施例1と同じとした。
【0093】
さらに、実施例1と同様にして偏光板10のサンプルを作成した。このサンプルのフィルム11とPVA偏光子13との間の接着強度を実施例1と同一方法で測定したところ、結果は10.2N/inchであり、十分な接着強度が得られた。
【0094】
【表1】

【実施例5】
【0095】
実施例5の表面処理条件及び結果を表2に示す。実施例5では、実施例1と同じ装置(図1)を用い、かつ実施例2と同じシクロオレフィンポリマーフィルムを処理対象のオレフィン系モノマー重合フィルム11とした。
【0096】
水溶性モノマー含有ガス供給系20の水溶性モノマーとしては、アクリル酸(AA)を用いた。水溶性モノマー含有ガス供給系20のキャリア(N)の流量は、2slmとした。気化器21の温度は50℃とした。供給路24の温度は60℃とした。
【0097】
オレフィン系モノマー含有ガス供給系30のオレフィン系モノマーとしては、ジシクロペンタジエン(DCPD)を用いた。供給系30のキャリアガス(N)の流量は8slmとした。気化器31の温度は80℃とした。供給路34の温度は90℃とした。これにより、噴射部3におけるモノマー混合ガス中のアクリル酸濃度は0.085vol%になり、ジシクロペンタジエン濃度は0.339vol%になった。したがって、モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマー(ジシクロペンタジエン)の濃度は水溶性モノマー(アクリル酸)の濃度の3.988倍であった。その他の処理条件は、実施例1と同じであった。
【0098】
さらに、実施例1と同様にして偏光板10のサンプルを作成した。このサンプルのフィルム11とPVA偏光子13との間の接着強度を実施例1と同一方法で測定したところ、結果は10.3N/inchであり、十分な接着強度が得られた。
【実施例6】
【0099】
実施例6の表面処理条件及び結果を表2に示す。実施例6では、実施例1と同じ装置(図1)を用い、かつ実施例2と同じシクロオレフィンポリマーフィルムを処理対象のオレフィン系モノマー重合フィルム11とした。
【0100】
水溶性モノマー含有ガス供給系20の水溶性モノマーとしては、アクリル酸(AA)を用いた。水溶性モノマー含有ガス供給系20のキャリア(N)の流量は、1slmとした。気化器21の温度は50℃とした。供給路24の温度は60℃とした。
【0101】
オレフィン系モノマー含有ガス供給系30のオレフィン系モノマーとしては、ジシクロペンタジエン(DCPD)を用いた。供給系30のキャリアガス(N)の流量は9slmとした。気化器31の温度は80℃とした。供給路34の温度は90℃とした。これにより、噴射部3におけるモノマー混合ガス中のアクリル酸濃度は0.042vol%になり、ジシクロペンタジエン濃度は0.382vol%になった。したがって、モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマー(ジシクロペンタジエン)の濃度は水溶性モノマー(アクリル酸)の濃度の9.095倍であった。それ以外の処理条件は、実施例1と同一とした。
【0102】
さらに、実施例1と同様にして偏光板10のサンプルを作成した。このサンプルのフィルム11とPVA偏光子13との間の接着強度を実施例1と同一方法で測定したところ、結果は8.5N/inchであり、十分な接着強度が得られた。
【実施例7】
【0103】
実施例7の表面処理条件及び結果を表2に示す。実施例7では、実施例1と同じ装置(図1)を用い、かつ処理対象のオレフィン系モノマー重合フィルム11として、シクロオレフィンポリマーとポリエチレンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーフィルム(積水化学工業製、商品名エスシーナ)を用いた。フィルムの大きさは、実施例1と同じとした。それ以外の処理条件は、実施例5と同一とした。したがって、モノマー混合ガス中の水溶性モノマー(アクリル酸)の濃度は、0.085vol%と算出され、オレフィン系モノマー(ジシクロペンタジエン)の濃度は、水溶性モノマー濃度の3.988倍の0.339vol%と算出された。
【0104】
さらに、実施例1と同様にして偏光板10のサンプルを作成した。このサンプルのフィルム11とPVA偏光子13との間の接着強度を実施例1と同一方法で測定したところ、結果は10.2N/inchであり、十分な接着強度が得られた。
【0105】
【表2】

【実施例8】
【0106】
実施例8の表面処理条件及び結果を表3に示す。実施例8では、図2に示すフィルム表面処理装置1と実質的に同じ構造の装置を用いた。実施例2と同じシクロオレフィンポリマーフィルムからなる連続シートを処理対象のオレフィン系モノマー重合フィルム11とした。フィルム11の巾(図2の紙面直交方向の寸法)は、150mmであった。
【0107】
水溶性モノマー含有ガス供給系20の水溶性モノマーとしては、アクリル酸(AA)を用いた。水溶性モノマー含有ガス供給系20のキャリア(N)の流量は、4slmとした。気化器21の温度は50℃とした。供給路24の温度は60℃とした。
【0108】
オレフィン系モノマー含有ガス供給系30のオレフィン系モノマーとしては、ジシクロペンタジエン(DCPD)を用いた。供給系30のキャリアガス(N)の流量は16slmとした。気化器31の温度は80℃とした。供給路34の温度は90℃とした。これにより、噴射部3におけるモノマー混合ガス中のアクリル酸濃度は0.085vol%になり、ジシクロペンタジエン濃度は0.339vol%になった。したがって、モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマー(ジシクロペンタジエン)の濃度は水溶性モノマー(アクリル酸)の濃度の3.988倍であった。
【0109】
フィルム11の搬送速度が10m/minになるよう、ロール電極71,72及びガイドロール73を回転させた。プラズマ生成用ガス噴出ノズル75からのプラズマ生成用の窒素ガスの吹き出し流量は、15slmとした。電源43におけるパルス変換前の直流電圧は280V、直流電流は2.5A、電力は700Wであった。ロール電極71,72間の印加電圧はVpp=16.5kVであった。ロール電極71,72の外周面どうし間の最も狭くなった箇所の距離は、2.7mmであった。各ロール電極71,72の外周面には固体誘電体層として厚さ1mmのシリコンゴムを被膜した。したがって、放電空間79の最も狭い箇所のギャップは、0.7mmであった。
【0110】
さらに、実施例1と同様にして偏光板10のサンプルを作成した。このサンプルのフィルム11とPVA偏光子13との間の接着強度を実施例1と同一方法で測定したところ、結果は10.2N/inchであり、十分な接着強度が得られた。
【0111】
【表3】

【0112】
[比較例1]
比較例1の表面処理条件及び結果を表4に示す。比較例1では、実施例1と同じ装置(図1)を用い、かつ実施例2と同じシクロオレフィンポリマーフィルムを処理対象のオレフィン系モノマー重合フィルム11とした。
【0113】
水溶性モノマー含有ガス供給系20を閉じ、オレフィン系モノマー含有ガス供給系30によってのみモノマー供給を行った。供給系30のオレフィン系モノマーとしては、ジシクロペンタジエン(DCPD)を用いた。供給系30のキャリアガス(N)の流量は10slmとした。気化器31の温度は80℃とした。供給路34の温度は90℃とした。供給系30のみによるモノマー含有ガス中のオレフィン系モノマー(ジシクロペンタジエン)の濃度は0.424vol%となった。該モノマー含有ガスの残部は窒素であった。それ以外の処理条件は、実施例1と同一とした。
【0114】
さらに、実施例1と同様にして偏光板10のサンプルを作成した。このサンプルのフィルム11とPVA偏光子13との間の接着強度を実施例1と同一方法で測定したところ、結果は0.8N/inchであり、所要の接着強度が得られなかった。
【0115】
[比較例2]
比較例2の表面処理条件及び結果を表4に示す。比較例2では、実施例1と同じ装置(図1)を用い、かつ実施例2と同じシクロオレフィンポリマーフィルムを処理対象のオレフィン系モノマー重合フィルム11とした。
【0116】
水溶性モノマー含有ガス供給系20の水溶性モノマーとしては、アクリル酸(AA)を用いた。水溶性モノマー含有ガス供給系20のキャリア(N)の流量は、5slmとした。気化器21の温度は50℃とした。供給路24の温度は60℃とした。
【0117】
オレフィン系モノマー含有ガス供給系30のオレフィン系モノマーとしては、ジシクロペンタジエン(DCPD)を用いた。供給系30のキャリアガス(N)の流量は5slmとした。気化器31の温度は80℃とした。供給路34の温度は90℃とした。これにより、噴射部3におけるモノマー混合ガス中のアクリル酸濃度は0.212vol%になり、ジシクロペンタジエン濃度は、それと同じ0.212vol%になった。すなわち、モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマー(ジシクロペンタジエン)の濃度は水溶性モノマー(アクリル酸)の濃度の1.0倍であった。それ以外の処理条件は、実施例1と同一とした。
【0118】
さらに、実施例1と同様にして偏光板10のサンプルを作成した。このサンプルのフィルム11とPVA偏光子13との間の接着強度を実施例1と同一方法で測定したところ、結果は1.1N/inchであり、所要の接着強度が得られなかった。
【0119】
[比較例3]
比較例3の表面処理条件及び結果を表4に示す。比較例3では、実施例1と同じ装置(図1)を用い、かつ実施例2と同じシクロオレフィンポリマーフィルムを処理対象のオレフィン系モノマー重合フィルム11とした。
【0120】
水溶性モノマー含有ガス供給系20の水溶性モノマーとしては、アクリル酸(AA)を用いた。水溶性モノマー含有ガス供給系20のキャリア(N)の流量は、7slmとした。気化器21の温度は50℃とした。供給路24の温度は60℃とした。
【0121】
オレフィン系モノマー含有ガス供給系30のオレフィン系モノマーとしては、ジシクロペンタジエン(DCPD)を用いた。供給系30のキャリアガス(N)の流量は3slmとした。気化器31の温度は80℃とした。供給路34の温度は90℃とした。これにより、噴射部3におけるモノマー混合ガス中のアクリル酸濃度は0.297vol%になり、ジシクロペンタジエン濃度は、0.127vol%になった。したがって、モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマー(ジシクロペンタジエン)の濃度は水溶性モノマー(アクリル酸)の濃度の0.428倍であった。それ以外の処理条件は、実施例1と同一とした。
【0122】
さらに、実施例1と同様にして偏光板10のサンプルを作成した。このサンプルのフィルム11とPVA偏光子13との間の接着強度を実施例1と同一方法で測定したところ、結果は1.2N/inchであり、所要の接着強度が得られなかった。
【0123】
[比較例4]
比較例4の表面処理条件及び結果を表4に示す。比較例4では、実施例1と同じ装置(図1)を用い、かつ実施例2と同じシクロオレフィンポリマーフィルムを処理対象のオレフィン系モノマー重合フィルム11とした。
【0124】
水溶性モノマー含有ガス供給系20の水溶性モノマーとしては、アクリル酸(AA)を用いた。水溶性モノマー含有ガス供給系20のキャリア(N)の流量は、9slmとした。気化器21の温度は50℃とした。供給路24の温度は60℃とした。
【0125】
オレフィン系モノマー含有ガス供給系30のオレフィン系モノマーとしては、ジシクロペンタジエン(DCPD)を用いた。供給系30のキャリアガス(N)の流量は1slmとした。気化器31の温度は80℃とした。供給路34の温度は90℃とした。これにより、噴射部3におけるモノマー混合ガス中のアクリル酸濃度は0.382vol%になり、ジシクロペンタジエン濃度は、0.042vol%になった。したがって、モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマー(ジシクロペンタジエン)の濃度は水溶性モノマー(アクリル酸)の濃度の0.11倍であった。それ以外の処理条件は、実施例1と同一とした。
【0126】
さらに、実施例1と同様にして偏光板10のサンプルを作成した。このサンプルのフィルム11とPVA偏光子13との間の接着強度を実施例1と同一方法で測定したところ、結果は1.4N/inchであり、所要の接着強度が得られなかった。
【0127】
【表4】

【0128】
[比較例5]
比較例5の表面処理条件及び結果を表5に示す。比較例5では、実施例1と同じ装置(図1)を用い、かつモノマー混合ガスの吹き付けによる液化層の形成とプラズマ照射を同時に行った。処理対象のオレフィン系モノマー重合フィルム11としては、実施例2と同じシクロオレフィンポリマーフィルムを用いた。
【0129】
水溶性モノマー含有ガス供給系20の水溶性モノマーとしては、アクリル酸(AA)を用いた。水溶性モノマー含有ガス供給系20のキャリア(N)の流量は、2slmとした。気化器21の温度は50℃とした。供給路24の温度は60℃とした。
【0130】
オレフィン系モノマー含有ガス供給系30のオレフィン系モノマーとしては、ジシクロペンタジエン(DCPD)を用いた。供給系30のキャリアガス(N)の流量は8slmとした。気化器31の温度は80℃とした。供給路34の温度は90℃とした。これにより、噴射部3におけるモノマー混合ガス中のアクリル酸濃度は0.085vol%になり、ジシクロペンタジエン濃度は、0.339vol%になった。したがって、モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマー(ジシクロペンタジエン)の濃度は水溶性モノマー(アクリル酸)の濃度の3.988倍であった。
【0131】
上記モノマー混合ガスのフィルム11への吹き付けと併行して、電源43から電極41へ電力供給を行った。電源43の出力は実施例1と同じとした。更に併行して、処理ヘッド40を往復移動させた。処理ヘッド40の移動速度及び移動回数は、実施例1の液化層形成工程と同じとした。それ以外の処理条件については、実施例1と同一とした。
【0132】
さらに、実施例1と同様にして偏光板10のサンプルを作成した。このサンプルのフィルム11とPVA偏光子13との間の接着強度を実施例1と同一方法で測定したところ、結果は0.8N/inchであり、所要の接着強度が得られなかった。このことから、モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマー濃度が水溶性モノマー濃度より大きくても、モノマー混合ガスの吹き付けと同時にプラズマ照射すると、接着性の向上効果が小さいことが確認された。これは、モノマー混合ガスが気相中でプラズマ照射を受け、水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーが気相中で活性化して互いに共重合したり各モノマーが重合したりすることにより、オリゴマーやポリマーが気相中で形成され、オレフィン系モノマー重合フィルムとのグラフト共重合反応が起きにくくなるためと推察される。
【0133】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明は、例えば液晶表示パネルの偏光板の製造に適用可能である。
【符号の説明】
【0135】
1 表面処理装置
10 偏光板
11 保護フィルム(オレフィン系モノマー重合フィルム)
12 接着剤
13 偏光子
14 接着剤
15 保護フィルム(TACフィルム)
2 モノマー供給系
20 水溶性モノマー含有ガス供給系
21 気化器(水溶性モノマー供給源)
22 キャリア供給源
23 キャリア導入路
24 水溶性モノマー含有ガス供給路
30 オレフィン系モノマー含有ガス供給系
31 気化器(オレフィン系モノマー供給源)
32 キャリア供給源
33 キャリア導入路
34 オレフィン系モノマー含有ガス供給路
3 ガス混合噴出部
4 表面処理部(プラズマ照射手段)
43 電源
40 処理ヘッド
41 電極
42 固体誘電体
44 ガスカーテン形成部
45 カーテンガス路
49 大気圧プラズマ空間
50 ステージ(支持手段)
52 固体誘電体
56 冷却路(凝縮手段)
60 プラズマ生成用ガス供給源
61 プラズマ生成用ガス供給路
7 表面処理部(プラズマ照射手段)
71 ロール電極(支持手段)
72 ロール電極(支持手段)
73 ガイドロール(支持手段)
74 モノマー混合噴出ノズル
75 プラズマ生成用ガス噴出ノズル
76 冷却路(凝縮手段)
79 大気圧プラズマ空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系モノマー重合フィルムの表面を処理する表面処理方法であって、
水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーを含むモノマー混合ガスを前記オレフィン系モノマー重合フィルムに接触させる接触工程と、
前記モノマー混合ガス中の水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーを前記オレフィン系モノマー重合フィルムの表面上で凝縮させる凝縮工程と、
前記凝縮工程の後、前記オレフィン系モノマー重合フィルムに大気圧近傍プラズマを照射するプラズマ照射工程と、
を備え、前記モノマー混合ガス中のオレフィン系モノマーの体積濃度が、水溶性モノマーの体積濃度の1.1倍以上であることを特徴とする表面処理方法。
【請求項2】
前記水溶性モノマーをガス状態で前記オレフィン系モノマー重合フィルムの近傍まで導く水溶性モノマー供給工程と、
前記オレフィン系モノマーをガス状態で、かつ前記水溶性モノマーと混合させることなく前記オレフィン系モノマー重合フィルムの近傍まで導くオレフィン系モノマー供給工程と、
前記水溶性モノマー及び前記オレフィン系モノマーどうしを前記接触工程の直前で互いに混合して前記モノマー混合ガスを得る混合工程と、
を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載のフィルム表面処理方法。
【請求項3】
前記モノマー混合ガスのオレフィン系モノマーが、環状ジエンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理方法。
【請求項4】
前記モノマー混合ガスのオレフィン系モノマーが、シクロペンタジエン、又はジシクロペンタジエンであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の表面処理方法。
【請求項5】
前記水溶性モノマーが、アルデヒド基、カルボキシル基、又は水酸基を有するモノマーであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の表面処理方法。
【請求項6】
前記水溶性モノマーが、アセトアルデヒド、又はアクリル酸であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の表面処理方法。
【請求項7】
前記オレフィン系モノマー重合フィルムが、シクロオレフィンポリマーを含むことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の表面処理方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載の表面処理方法にて表面処理したオレフィン系モノマー重合フィルムを保護フィルム又は位相差フィルムとして透明な接着剤を介して偏光子と接着することを特徴とする偏光板の製造方法。
【請求項9】
オレフィン系モノマー重合フィルムの表面を処理する表面処理装置であって、
前記オレフィン系モノマー重合フィルムを支持する支持手段と、
水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーを含むモノマー混合ガスを、オレフィン系モノマーの体積濃度が水溶性モノマーの体積濃度の1.1倍以上になるよう調節して前記オレフィン系モノマー重合フィルムに接触させるモノマー供給系と、
前記モノマー混合ガス中の水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーを前記オレフィン系モノマー重合フィルムの表面上で凝縮させる凝縮手段と、
前記凝縮手段を経た前記オレフィン系モノマー重合フィルムに大気圧近傍プラズマを照射するプラズマ照射手段と、
を備えたことを特徴とする表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−74362(P2011−74362A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187038(P2010−187038)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】