説明

フィルムの製造方法

【課題】非常に高さが低く長径の大きい表面欠点をも低減できるフィルムの製造方法の提供。
【解決手段】溶融状態の熱可塑性樹脂をシート状に押し出す工程と、それを巻き取る工程および巻き取られたフィルムを良品と不良品とに選別して良品を製品とする工程とからなるフィルムの製造方法であって、少なくとも巻き取られたフィルムの一方の表面に存在する波長100〜400nmの光の干渉によって検知され、且つその長径が基準値以上の表面欠点数を数え、その表面欠点数が基準値以下のフィルムを良品とするフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの製造方法に関し、特に高密度磁気記録媒体のベースフィルムに用いるフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルに代表されるような熱可塑性樹脂は、成形性に優れることからフィルムなどの原料として用いられている。このフィルムにしたときに、要求される特性はそれぞれの用途によって異なるが、磁気記録媒体のベースフィルムなど平坦性が求められる用途では、表面欠点がないことが要求される。
【0003】
そのような要求に対して、特許文献1〜4では、フィルムの表面にアルミニウムを0.1μmの厚みで蒸着し、その表面を倍率200倍にて光学顕微鏡で1cm×5cmの範囲を観察し、長径が15μm以上の大きさの突起をマーキングし、そのマーキングした突起を非接触三次元粗さ計を用いて、測定倍率40倍、測定面積242μm×239μm(0.058mm)の条件にて測定し、高さ100nm以上の突起の数を数えている。また、特許文献5では、波長580nmの光線を照射し、その干渉縞によって表面欠点を測定している。
【0004】
しかしながら、特許文献1〜4に記載された方法では、測定面積が非常に狭く、また突起も長径が15μm以上のものは緩やかな傾斜の形状であるため、境界が曖昧で高さの高い突起しか見ることができず、これらに記載の方法を工業的なフィルムの製造方法に用いることは、生産性および信憑性の点から不可能であった。一方、特許文献5に記載の方法は、測定波長が580nmということから高さが145nm以上の表面欠点であれば比較的広範囲にある表面欠点を簡便に確認することはできた。一方、近年の市場の要求はますます高くなっており、高さが145nmに満たない突起も長径が大きいものは表面欠点として問題となることが出てきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−114492号公報
【特許文献2】特開2003−291288号公報
【特許文献3】特開2002−363311号公報
【特許文献4】特開2002−363310号公報
【特許文献5】特開2002−59520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、近年の非常に高さの低い表面欠点をも低減するという市場の要求に応えられる表面欠点が少ないフィルムを効率的に製造することができるフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決しようと鋭意研究するにあたって、測定方法として特許文献5に記載の方法と同じ原理を採用し、かつ測定波長として従来用いられなかった極めて短波長の光による干渉縞を用い且つその長径を測定することで、これまで問題とならなかった比較的高さが低く長径の大きい表面欠点をも高い信憑性で効率的に把握することができ、結果として表面欠点の少ない、特に高密度磁気記録媒体のベースフィルムに適したフィルムを効率的に製造できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
かくして本発明によれば、溶融状態の熱可塑性樹脂をシート状に押し出す工程と、それを巻き取る工程および巻き取られたフィルムを良品と不良品とに選別して良品を製品とする工程とからなるフィルムの製造方法であって、少なくとも巻き取られたフィルムの一方の表面に存在する波長100〜400nmの光の干渉によって検知され、且つその長径が基準値以上の表面欠点数を数え、測定された表面欠点数が基準値以下のフィルムを良品とするフィルムの製造方法が提供される。
【0009】
さらにまた、本発明の好ましい態様として、表面欠点とする長径の基準値が10μm以上であること、フィルムの少なくとも一方の表面粗さが1〜10nmの範囲にあること、溶融押出工程において、フィルターによって溶融状態の熱可塑性樹脂をろ過し、そして表面欠点数の測定値に基づいて、当該フィルターを交換すること、フィルムがポリエステルフィルムであること、および、フィルムが、高密度磁気記録媒体のベースフィルムに用いられることの少なくともいずれか一つを具備するフィルムの製造方法も提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフィルムの製造方法によれば、フィルムの中で、例えば記憶容量が1TB以上であるデータストレージといった高密度磁気記録媒体のベースフィルムに用いたときに、ドロップアウトなどの欠点が発生しにくいフィルムを効率的に製造することができ、その工業的価値はきわめて高い。しかも、本発明の評価方法であれば、まず欠点となりうる高さの突起を把握した後、長径を測定することから、非常に効率的に欠点を把握することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、詳述する。
本発明のフィルムの製造方法は、溶融状態の熱可塑性樹脂をシート状に押し出す工程と、それを巻き取る工程および巻き取られたフィルムを良品と不良品とに選別して良品を製品とする工程とからなる。溶融状態の熱可塑性樹脂をシート状に押し出す工程と、それを巻き取る工程とは、それ自体公知の方法を採用できる。
【0012】
まず、本発明の特徴は、巻き取られたフィルムの少なくとも一方の表面について、波長100〜400nmの光の干渉によって検知される欠点数を測定し、且つその長径が基準値以上の表面欠点数を数え、測定された粗大表面欠点数が基準値以下のフィルム良品と測定された表面欠点数が基準値以下のフィルムを良品とすることにある。測定波長が下限未満では、観察される突起が非常に小さく、本発明の製造方法でもその個数を正確に把握することが困難になりやすい。他方測定波長が上限を超えると、前述の特許文献5で測定されるような大きな表面欠点しか確認することができず、良品として判断しても不十分な場合が出てくる。好ましい光の波長は、150〜350nm、さらに200〜300nmの範囲である。また、長径は10μm以上のものを表面欠点とするのが同様な理由から好ましい。
【0013】
この干渉縞による表面欠点の測定原理について説明する。まず、フィルムを平坦な面に重ね合わせると、フィルムの表面に突起があることから両者の間に空間ができる。そして、そこに光が当たると、光の波長(λ:nm)に対してλ/4になる間隔の部分は反射光が打ち消しあう。この打ち消しあいによって、突起を中心に黒い点もしくは黒いリング状の模様が発現し、それらを確認することで表面欠点を把握することができる。
【0014】
本発明において重要なことは、照射する光に波長が上記範囲の光を用いたことにある。なお、このような波長領域の光は肉眼では確認できないので、実際に測定する場合は、測定波長の光に対して感度を有する受光部と、該受光部で観察した光の干渉縞を肉眼で確認できるように変換する演算装置と該変換された干渉縞を映し出す画像表示装置や印刷する印刷装置が必要である。また、照射する光は上記波長の光を含んで入れさえすればよく、他の波長の光を含んでいても良い。これは、フィルムに照射する前またはフィルムに照射した後、特定の波長だけを通すフィルターを通過させたり、前記受光部として目的とする特定の波長だけを確認できるような受光部を採用することで、目的とする波長の光による干渉縞を確認できるからである。
【0015】
ところで、特許文献5では、測定するフィルム同士を重ね合わせて測定するが、波長が短くなるとフィルムを構成する熱可塑性樹脂自体が光を吸収し、干渉縞が判断しにくくなることがある。そのような場合は、測定波長の光に対する吸収が少ない例えばガラスプレートなどの透明基材を用い、該透明基材にフィルムを貼り付けて、透明基材側から光を照射すればよい。こうすることで、透明基材と空隙の境界と空隙とフィルム表面の境界とで反射される反射光(フィルムを通過しない光)による干渉の縞を観察でき、フィルムによる測定光の吸収の問題を回避して測定することができる。そして、干渉の縞が確認できるのは波長の1/4以上の高さを有する突起であり、確認できた突起をマーキングし、更にフィルム測定面にアルミ蒸着を施し、そのマーキングした突起を光学顕微鏡の微分干渉像で観察して長径、例えば10μm以上であるかどうかを判断し、その突起の数を数えればよい。
【0016】
このような干渉縞による表面欠点の測定は、フィルムを巻き取った後、製品として使用されるまでの間なら、任意の段階で測定すれば良い。ただ、フィルムを製膜している間に、何らかの要因で表面欠点が増加した場合、本測定をしないと不良品ばかりを生産することになるため、フィルムにできた後、できる限り速やかに測定することが好ましく、特に8時間以内、さらに4時間以内に測定することが好ましい。
【0017】
つぎに、熱可塑性樹脂をシート状に押し出す工程について、詳述する。
まず、本発明における熱可塑性樹脂は、フィルムへの製膜が可能なものであれば、それ自体公知のものを採用でき、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂を用いることができ、特にポリエステル系樹脂(以下、単にポリエステルという)が好ましい。ポリエステルの中でも、力学的特性と表面欠点の低減の観点から、ジオール成分と芳香族ジカルボン酸成分との重縮合によって得られる芳香族ポリエステルが好ましく、かかる芳香族ジカルボン酸成分として、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸などの6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸が挙げられ、またジオール成分として、例えばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオールが挙げられる。これらの中でも、高温での加工時の寸法安定性の点からは、エチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするものが好ましく、特にエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするものが好ましい。また、より環境変化に対する寸法安定性を向上させる観点から、国際公開2008/096612号パンフレットに記載された6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および6,6’−(ブチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分などを共重合したものも好ましく挙げられる。
【0018】
ところで、本発明のフィルムの製造方法で用いる熱可塑性樹脂は、表面欠点の原因となる異物をできる限り少なくしたものであることが好ましい。このような表面欠点の原因となる異物としては、熱可塑性樹脂の原料自体に含まれる異物、熱可塑性樹脂の製造過程やフィルムに製膜する過程で入ってくる異物、また熱可塑性樹脂の製造過程で生じる異物などがあり、それぞれそれ自体公知の方法を採用して、できる限り異物を低減するのが好ましい。
【0019】
そのような異物を低減する上で、比較的簡便でかつ種々の異物に対応できる方法として、熱可塑性樹脂をシート状に押し出す際、すなわち熱可塑性樹脂を溶融状態にしてから押し出すまでの間に、フィルターによってろ過することが挙げられる。このろ過に用いるフィルターは、目的とする表面欠点のレベルに応じて適宜それ自体公知のフィルターを採用すればよい。一般的には、95%ろ過精度(ガラスビーズを通過させたとき、95%以上のガラスビーズが通過できずにフィルター上に残るガラスビーズの粒径)が小さいフィルターほど、より小さな異物を除去することができる。そのため、本発明で問題とする微小な表面欠点を作る異物を低減する観点から、用いるフィルターの95%ろ過精度は、1.5μm以下、さらに1.3μm以下、特に1.0μm以下であることが好ましい。一方、95%ろ過精度を小さくすればするほど異物が除去できるということは、フィルターを通過できずにトラップされた異物がより早くに溜まることになる。そして、このようなフィルターを通過できない異物が溜まると、熱可塑性樹脂をろ過するにもフィルターを通過できる熱可塑性樹脂の量が少なくなってシート状に押し出す際の量が不安定化したり、フィルターが熱可塑性樹脂を押し出そうとする圧力に負けて、トラップされた異物がフィルターから漏れ出したりする。そのため、フィルターの95%ろ過精度の下限は、0.2μm以上、さらに0.3μm以上、特に0.4μm以上であることが好ましい。なお、このように溜まった異物が漏れ出した場合、それ以降の製品は不良品となるが、本発明の製造方法によれば、そのような不良品の発生をいち早く把握することができ、例えばフィルターを交換することなどによって、それ以降の不良品の発生を抑えることができ、しかも、過剰にフィルター交換をすることにもならないので、生産性の観点から極めて有益である。
【0020】
ところで、本発明の製造方法で製造するフィルムは、微小な表面欠点数の低減を図る観点から、少なくとも一方の表面は、表面粗さ(RaA)が1〜10nmの範囲にあることが好ましい。好ましいRaAは、1〜9nm、さらに2〜9nmの範囲である。また、例えばデータストレージにしたときの電磁変換特性を高度に維持させる観点からは、RaAは、1〜4nm、さらに2〜4nmの範囲であることが好ましい。RaAが下限未満では、搬送性や巻取り性が悪くシワができたりする。他方上限を超えると、表面が粗くなりすぎて、本発明の製造方法で良品と不良品の判別が難しくなったり、そもそも本発明で問題とするような高さが低く長径が大きい表面欠点が大量に発生し、本発明の製造方法を用いても、不良品の発生が押えにくくなる。
【0021】
また、本発明の製造方法で製造されるフィルムは、上述の表面粗さ(RaA)を具備させる観点から、その表面を形成する熱可塑性樹脂は、不活性粒子を含有しないか、含有するとしても、平均粒径0.05〜0.5μm、さらに0.07〜0.4μmの不活性粒子を、該表面を形成するポリエステルの重量を基準として、0.005〜0.2重量%、さらに0.007〜0.2重量%の範囲で含有することが好ましい。また、例えばデータストレージにしたときの電磁変換特性を高度に維持させる観点からはその表面を形成する熱可塑性樹脂は、不活性粒子を含有しないか、含有するとしても、平均粒径0.05〜0.15μm、さらに0.07〜0.14μmの不活性粒子を、該表面を形成するポリエステルの重量を基準として、0.005〜0.2重量%、さらに0.007〜0.18重量%の範囲で含有することが好ましい。なお、ここでいう不活性粒子を含有しないとは、平均粒径0.05μm以上の不活性粒子の含有量が0.005重量%未満であることを意味する。
【0022】
含有させる不活性粒子は、もともと粗大粒子を含まないか含有するとしても極めて少ない粒度分布がシャープで、また一次粒子の大半がポリマー中に凝集することなく分散している不活性粒子が好ましい。このような不活性粒子としては、シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレンなどの有機高分子粒子および球状シリカからなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子であることが好ましく、特にシリコーン樹脂、架橋ポリスチレンおよび球状シリカからなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子であることが好ましい。もちろん、これらの不活性粒子を含有させる場合は、さらに粗大粒子をなくすため、フィルターでのろ過を行ったり、分散剤で不活性粒子の表面を処理したり、押出機での混練を強化することが好ましい。
【0023】
本発明の製造方法で製造されるフィルムは、前述の表面粗さを有するものであれば特に制限されず、単層フィルムでも2層以上のポリエステル層からなる積層フィルムであっても良い。積層フィルムの場合、少なくとも本発明の製造方法で表面欠点を測定する側の表面が、前述の表面粗さや不活性粒子を満足していれば、他方の表面はそれに限定されないが、表面欠点を低減する観点からは、両表面が満足することが好ましい。
【0024】
つぎに、本発明のフィルムの製造方法について、さらに好ましい態様を説明する。まず、ポリエステルを例として説明すると、例えば芳香族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールとをエステル化反応もしくはエステル交換反応させてポリエステルの前駆体を合成する第一反応と、該前駆体を重縮合反応させる第二反応とからなり、それ自体公知の方法を採用できる。前述のとおり、原料由来の異物を低減するために、芳香族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールなどの原料は、精製を繰り返して、異物を低減しておくのが好ましい。ここでの異物が多いと、前述のろ過によっても異物が取りきれず、表面欠点が増えてしまうことがある。
【0025】
このように精製された原料は、前述の第一反応によってポリエステル前駆体となる。このポリエステル前駆体を、第二反応を開始する前に、95%濾過精度が10μm以下の第1フィルターでろ過を行い、得られるポリエステルをテトラエチレングリコールによって溶解したときに、孔径8μmの直孔性フィルターを通過できない不溶性粗大異物量を減らすことにある。好ましくは、得られるポリエステルの重量を基準として、孔径8μmの直孔性フィルターを通過できない不溶性粗大異物量を200個/mg以下、さらに150個/mg以下、特に磁性層を形成する側の表面に用いるポリエステルは、40個/mg以下、最も好ましくは30個/mg以下となるように第1フィルターで濾過するのが好ましい。このようにして不溶性粗大異物量を減らすことで、後述の第二反応後の濾過で、さらに不溶性粗大異物量を減らしやすくなる。なお、第1フィルターでの濾過は一度に限定されず、必要であればさらに濾過を繰り返したり、フィルターを多重に使用しても良い。したがって、第一反応と第二反応の間で行なう第1フィルターの濾過精度は、不溶性粗大異物の低減の観点からは小さいほど好ましく、95%濾過精度がさらに8μm以下、さらに5μm以下であることが好ましい。一方、第1フィルターの95%濾過精度の下限は特に制限されないが、小さくしていくとそれだけ詰まりやすく交換周期が短くなるので、生産性などの観点から3μm以上、さらに4μm以上であることが好ましい。また、第1フィルターは、金属繊維の不織布を積層した構造のもので、積層された金属不織布の空隙率は通常40〜80%の範囲にあることが、濾過速度を維持しつつ、濾過圧力に耐えられるので好ましい。なお、このような不溶性粗大異物量は、原料段階から極力減らすことが好ましいが、それだけで取り除くことは難しく、第一反応後のフィルター濾過によって取り除くことが、簡便で且つ極めて有効である。
【0026】
さらに好ましい第一反応の条件について説明する。第一反応は、常圧下で行ってもよいが、0.05MPa〜0.5MPaの加圧下で行うことが反応速度をより速めやすいことから好ましい。また、第一反応の温度は、210℃〜270℃の範囲で行なうことが好ましい。反応圧力を上記範囲内とすることで反応の進行を進みやすくしつつ、ジアルキレングリコールに代表される副生物の発生を抑制できる。このとき、アルキレングリコール成分は、第一反応を行う反応系に存在する酸成分に対し1.1〜6モル倍用いることが、反応速度及び樹脂の物性維持の点から好ましい。より好ましくは2〜5モル倍、さらに好ましくは3〜5モル倍である。
【0027】
また、第一反応の反応速度をより早くするには、それ自体公知の触媒を用いることが好ましく、たとえばLi,Na,K,Mg,Ca,Mn、Co、Tiなどの金属成分を有する金属化合物が好ましく挙げられ、これらの中でも加圧下で行う場合は、反応の進みやすさの点からMnやTi化合物が好ましい。特にTi化合物は、さらに重縮合反応触媒としても使用でき、かつ触媒残渣の析出も少ないことから好ましい。本発明で用いるチタン化合物としては、触媒残渣の析出による不溶性粗大異物の発生を抑制する観点からポリエステル中に可溶な有機チタン化合物が好ましい。特に好ましいチタン化合物としては、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラフェノキシド、トリメリット酸チタンなどを好ましく例示できる。
【0028】
添加する触媒量は、第一反応中に存在する全酸成分のモル数を基準として、金属元素換算で、10〜150ミリモル%の範囲にあることが好ましく、さらに20〜100ミリモル%、特に30〜70ミリモル%の範囲にあることが反応速度を促進しつつ、触媒起因の粗大不溶性異物の生成を抑制でき、さらに得られる共重合芳香族ポリエステルの耐熱性を高度に維持できることから好ましい。なお、チタン化合物を添加する場合の添加時期は、第一反応のエステル化反応開始時から存在するように添加し、前述のとおり、引き続き重縮合反応触媒として使用することが好ましい。もちろん、重縮合反応速度をコントロールする目的で2回以上に分けて添加してもよい。
【0029】
つぎに、第一反応で得られた前駆体を重縮合反応させる第二反応について説明する。
本発明では、得られるポリエステルに、高度の熱安定性を付与させる目的で、第二反応における重縮合反応の開始以前に、反応系にリン化合物からなる熱安定剤を添加することが好ましい。具体的なリン化合物としては、化合物中にリン元素を有するものであれば特に限定されず、例えば、リン酸、亜リン酸、リン酸トリメチルエステル、リン酸トリブチルエステル、リン酸トリフェニルエステル、リン酸モノメチルエステル、リン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸ジエチルエステル、リン酸アンモニウム、トリエチルホスホノアセテート、メチルジエチルホスホノアセテートなどを挙げることができ、これらのリン化合物は二種以上を併用してもよい。なお、リン化合物の添加時期は、第一反応が実質的に終了してから第二反応である重縮合反応初期の間に行なうことが好ましく、添加は一度に行ってもよいし、2回以上に分割して行ってもよい。
【0030】
ところで、重縮合反応の温度は270℃〜300℃の範囲で行い、重縮合反応中の圧力は50Pa以下の減圧下で行うのが好ましい。重縮合反応中の圧力が上限より高いと重縮合反応に要する時間が長くなり且つ重合度の高い共重合芳香族ポリエステルを得ることが困難になる。重縮合触媒としては、それ自体公知のTi,Al,Sb,Geなどの金属化合物を好適に使用でき、それらの中でもエステル化反応時に添加されたチタン化合物を引き続き使用することが触媒残渣による不溶性粗大異物の発生を抑制できることから好ましい。
【0031】
ところで、前述のとおり、さらに表面欠点を低減する観点から、重縮合反応によって得られる所望の分子量を有するポリエステルを、溶融状態で95%濾過精度がさらに1.5μm以下の第2フィルターで濾過することが好ましい。このようにろ過されたポリエステルは、テトラエチレングリコールによって溶解したときに、孔径8μmの直孔性フィルターを通過できない不溶性粗大異物量を40個/mg以下、さらに30個/mg以下、特に磁性層を形成する側の表面は25個/mg以下、さらに20個/mg以下となるように第2フィルターで濾過するのが好ましい。このようなフィルターは、金属不織布メディアを積層した構造のもので、積層された金属不織布の空隙率は通常40〜80%の範囲にあることが、濾過速度を維持しつつ、濾過圧力に耐えられるので好ましい。
【0032】
また、不活性粒子を含有させる方法については、前述のような粗大粒子の低減を行ったものを選択し、それをアルキレングリコールのスラリー状態として、さらにフィルターなどによって粗大粒子を低減し、それを重合工程で添加して粒子含有量が0.02〜1.0重量%の粒子含有マスターポリエステルを作成し、該マスターポリエステルを粒子を含有しないポリエステルで希釈するのが、不活性粒子の凝集による表面欠点を低減する上で好ましい。
【0033】
また、表面欠点は、溶融状態の熱可塑性樹脂をシート状に押し出す工程から、それを巻き取る工程の間で、フィルムを搬送するためのロールによって発生するものがある。そのような表面欠点をも低減する観点から、シート状に押し出す工程から、それを巻き取る工程の間に介在するロールの表面を清掃することが好ましい。この際、清掃に用いる清掃具としては、それ自体が表面欠点の原因となるような糸くずなどの異物を発生しにくいものが好ましく、またロール表面に付着した異物を効率的に除去できるものが好ましい。そのような観点から、繊維径が細い合成繊維からなる布帛が好ましく、帝人ファイバー株式会社製、商品名:あっちこっちふきんなどが好ましく挙げられる。
【0034】
以上のとおり、ポリエステルを例に挙げて説明してきたが、他の熱可塑性樹脂についても、同様な考えで行なえばよいことは容易に理解されるであろう。このようにして得られる熱可塑性樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲で、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、離型剤、核剤、を必要に応じて配合しても良いが、少なくとも表面欠点数を測定する側の表面に用いるポリエステルは、表面欠点を形成しやすい他の熱可塑性樹脂、顔料、充填剤あるいはガラス繊維、炭素繊維、層状ケイ酸塩などは含有させないことが好ましい。
【0035】
本発明の製造方法で製造されるフィルムは、データストレージのベースフィルムなどに用いる場合、二軸配向フィルムであることが好ましい。二軸配向フィルムは、上述の熱可塑性樹脂を溶融状態で押出し、二軸方向に延伸することで製造でき、製膜方法などはそれ自体公知のものを採用することができる。なお、本発明における融点が下限に満たないと二軸配向フィルムの耐熱性が不十分な場合があり、特に融点が上限を超える場合は、後述の溶融混練する際の温度が非常に高温になり、熱劣化などを引き起こし表面欠点の原因となる劣化物が発生しやすくなる。したがって前述の第2フィルターの濾過は、製膜直前であるほど、再凝集などによって後から生成される不溶性粗大異物の影響を低減できることから、製膜する際の溶融押出工程で用いるのが好ましい。
【0036】
例えば、二軸配向積層フィルムで説明すると、押出し口金内または口金以前(一般に、前者はマルチマニホールド方式、後者はフィードブロック方式と呼ぶ)で、不活性粒子を含有させた熱可塑性樹脂Bと、必要に応じて不活性粒子を含有させた熱可塑性樹脂Aとを、それぞれさらに前述のような高精度のフィルターでろ過したのち、溶融状態にて積層複合し、上記好適な厚み比の積層構造となし、次いで口金より熱可塑性樹脂の融点(Tm)〜(Tm+50)℃の温度でフィルム状に共押出ししたのち、30〜70℃の冷却ロールで急冷固化し、未延伸積層フィルムを得る。その後、上記未延伸積層フィルムを常法に従い、一軸方向(縦方向または横方向)に(熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)−10)〜(Tg+70)℃の温度で2.5〜8.0倍の倍率で、好ましくは3.0〜7.5倍の倍率で延伸し、次いで上記延伸方向とは直角方向(一段目延伸が縦方向の場合には、二段目延伸は横方向となる)に(Tg)〜(Tg+70)℃の温度で2.5〜8.0倍の倍率で、好ましくは3.0〜7.5倍の倍率で延伸する。さらに、必要に応じて、縦方向および/または横方向に再度延伸してもよい。すなわち、2段、3段、4段あるいは多段の延伸を行うとよい。全延伸倍率としては、通常9倍以上、好ましくは10〜35倍、さらに好ましくは12〜30倍である。
【0037】
さらに、前記二軸配向フィルムは(Tg+70)〜(Tm−10)℃の温度、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムの場合、180〜250℃で熱固定結晶化することによって、優れた寸法安定性が付与される。その際、熱固定時間は1〜60秒が好ましい。
【0038】
このようにして得られた熱可塑性樹脂フィルムは、つぎに円筒状のコアなどに巻きつけて巻き取られ、必要に応じて、目的とする製品幅や長さに裁断される。そして、前述のとおり、製品として使用するまでの間に、波長100〜400nmの光の干渉によって検知された突起の長径を測定し、例えば長径が10μm以上の表面欠点の数を測定し、ある基準値以下を良品、その基準値を超えるものを不良品として選別する。また、必要に応じて、目的とする基準値以下になるように、各段階でのフィルターによるろ過を強化すること、フィルムへの製膜工程における溶融混練を、できる限り低温で短時間に行うこと、さらに各段階でのフィルターを交換したりすることが好ましい。また、具体的な溶融条件としては、ポリエステルの融点(Tm)からTm+20℃で混練し、さらにTm+20℃からTm+50℃の温度で1〜5秒という比較的短時間で劣化異物の発生を抑えつつ、未溶融異物がでてこないように、温度勾配をつけて段階的に混練するのが好ましい。
【0039】
このように、本発明のフィルムの製造方法によれば、波長100〜400nmの光の干渉によって検知され、かつ長径が例えば10μm以上の表面欠点の数が少ないフィルムを効率的に製造することができ、記憶容量が例えば0.8TB以上であるデータストレージのベースフィルムに用いたときのエラーが非常に低減されるフィルムを効率的に製造することができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明におけるポリエステル、ポリエステルフィルムおよびデータストレージの特性は、下記の方法で測定および評価した。
【0041】
(1)固有粘度
得られた熱可塑性樹脂の固有粘度は、前述のとおり、o−クロロフェノール、35℃で測定し、o−クロロフェノールでは均一に溶解するのが困難な場合は、P−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いて35℃で測定して求めた。
【0042】
(2)不溶性粗大異物の含有量
(2−1)粗大異物量1
粗大異物量1は、熱可塑性樹脂の重合工程における前述の第1反応が終了後、第2反応に移行する間に、フィルター(第1フィルター)で熱可塑性樹脂に重合する前の前駆体をろ過し、そのろ過したものをテトラエチレングリコールによって200℃に加熱して分解・溶解し、溶解液とした。そして、その溶解液を、孔径8μmの直孔性メンブレンフィルターによってろ過し、フィルター上に残った不溶性粗大異物の数をカウントし、溶解させた重合前の前駆体から得られる熱可塑性樹脂の重量を基準として、含有量を個/mgとして算出した。
なお、この値は、後述の参考例1〜10で作成した樹脂1〜8の値として算出されるので、それぞれ各実施例および比較例の値は、これら樹脂1〜8のそれぞれの結果を元に、用いたそれぞれの樹脂の割合に基づいて、算出した。具体的には、実施例XのA層が樹脂YとZを2:1で用いたものである場合、粗大異物量1は樹脂Yの(粗大異物量1×2/3)と樹脂Zの(粗大異物量1×1/3)との和である。
【0043】
(2−2)粗大異物量2
粗大異物量2は、後述の参考例1〜8で得られた樹脂1〜8を、それぞれ所望の割合で用い、乾燥させた後、溶融状態でダイから押し出すが、その溶融押出工程で後述の実施例・比較例の説明にあるように、フィルター(第2フィルター)でろ過を行う。この第2フィルター通過後のポリエステルを、テトラエチレングリコールによって200℃に加熱して分解・溶解し、溶解液とした。そして、その溶解液を、孔径8μmの直孔性メンブレンフィルターによってろ過し、フィルター上に残った不溶性粗大異物の数をカウントし、溶解させたポリエステルの重量を基準として、各ポリエステル層の含有量を個/mgとして算出した。
【0044】
(3)第1および第2フィルターの濾過精度
試験粉体のガラスビーズ(JIS−Z8901:2006記載)を蒸留水中に分散させ、フィルター濾過前後の粒度分布の変化を測定し、95%カット値を持って濾過精度とする。
【0045】
(4)表面欠点の数
フィルムサンプルをゴミなどが入らないように注意しつつ石英オプティカルフラットに重ね、オプティカルフラット側から260nmに最短波長ピークを有する水銀ランプを中心波長260nmのバンドパスフィルター通して照射した。そして、UV−CCDカメラで干渉縞から観測される高さ65nm以上の表面欠点をマーキングして抽出し、更にオプティカルフラットから剥がしてアルミニウムを0.05μmの厚みで蒸着し、50倍対物レンズ×スケール付10倍接眼レンズを具備した光学顕微鏡の微分干渉像で観察して長径が10μm以上の数を確認した。測定は、測定面積25cmで、10箇所の測定行い、それらの平均値を100cm当りの個数に換算した。このとき、小数点以下1桁目を四捨五入した。なお、本発明における表面欠点とは、粗大突起およびフィルム表面付着異物、フィルム表面傷を意味する。
また、バンドパスフィルターを中心波長200nmのものに変更する以外は同様な操作を繰り返して、波長200nmによる高さ50nm以上の表面欠点数を測定した。さらにまた、バンドパスフィルターを中心波長360nmのものに変更する以外は同様な操作を繰り返して、波長360nmによる高さ90nm以上の表面欠点数を測定した。
一方、比較として、特許文献5(特開2002−59520号公報)に記載の方法に基づき、波長580nmによる高さ145nm以上の表面欠点数を同様に測定した。
【0046】
(5)中心面平均粗さ(Ra)
非接触式三次元表面粗さ計(ZYGO社製:New View5022)を用いて測定倍率25倍、測定面積283μm×213μm(=0.0603mm)の条件にて測定し、該粗さ計に内蔵された表面解析ソフトMetro Proにより中心面平均粗さ(Ra)を求めた。
【0047】
(6)不活性粒子の平均粒径
島津製作所製CP−50型セントリフューグル パーティクルサイズ アナライザー(Centrifugal Particle Size Analyzer)を用いて測定する。得られる遠心沈降曲線を基に算出した各粒径の粒子とその存在量との積算曲線から、50マスパーセントに相当する粒径「等価球直径」を読み取り、この値を上記平均粒径とする(Book「粒度測定技術」日刊工業新聞発行、1975年、頁242〜247参照)。
【0048】
(7)ガラス転移点および融点
ガラス転移点、融点はDSC(TAインスツルメンツ株式会社製、商品名:Thermal lyst2920)により昇温速度20℃/minで測定した。
【0049】
(8)ヤング率
得られたフィルムを試料巾10mm、長さ15cmで切り取り、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件で万能引張試験装置(東洋ボールドウィン製、商品名:テンシロン)にて引っ張る。得られた荷重−伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算する。
【0050】
(9)データストレージ(磁気テープ)の作成
1m幅にスリットした熱可塑性樹脂フィルムを、張力20kg/mで搬送させ、フィルムの平坦な側の表面に下記組成の磁性塗料および非磁性塗料をエクストルージョンコーターにより重層塗布(上層は磁性塗料で、塗布厚0.1μm、非磁性下層の厚みは1.0μmとした。)し、磁気配向させ、乾燥温度100℃で乾燥させる。次いで反対面に下記組成のバックコートを固形分の厚みが0.5μmとなるように塗布した後、小型テストカレンダー装置(スチール/ナイロンロール、5段)で、温度85℃、線圧200kg/cmでカレンダー処理し、巻き取る。上記テープ原反を1/2インチ幅にスリットし、それをLTO用のケースに組み込み、長さが820mで磁気記録容量が0.8TBのデータストレージカートリッジを作成した。
(非磁性塗料の組成)
・非磁性無機質粉末(α−酸化鉄:平均長軸長:0.15μm,平均針状比:7,BET比表面積:52m/g):100重量部
・エスレックA(積水化学製塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体:10重量部
・ニッポラン2304(日本ポリウレタン製ポリウレタンエラストマ):10重量部
・コロネートL(日本ポリウレタン製ポリイソシアネート):5重量部
・レシチン:1重量部
・メチルエチルケトン:75重量部
・メチルイソブチルケトン:75重量部
・トルエン:75重量部
・カーボンブラック(平均粒子径:20nm):2重量部
・ラウリン酸:1.5重量部
(磁性塗料の組成)
・磁性粉(戸田工業株式会社製、商品名:NF30x):100重量部
・エスレックA(積水化学製塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体):10重量部
・ニッポラン2304(日本ポリウレタン製ポリウレタンエラストマ):10重量部
・コロネートL(日本ポリウレタン製ポリイソシアネート):5重量部
・レシチン: 1重量部
・メチルエチルケトン:75重量部
・メチルイソブチルケトン:75重量部
・トルエン:75重量部
・カーボンブラック(平均粒子径:20nm):2重量部
・ラウリン酸:1.5重量部
(バックコートの組成)
・カーボンブラック(平均粒径20nm):95重量部
・カーボンブラック(平均粒径280nm):10重量部
・αアルミナ:0.1重量部
・変成ポリウレタン:20重量部
・変成塩化ビニル共重合体:30重量部
・シクロヘキサノン:200重量部
・メチルエチルケトン:300重量部
・トルエン:100重量部
【0051】
(10)ドロップアウト(DO)
上記(9)で作成されたデータストレージカートリッジを、IBM社製LTO4ドライブ(記録ヘッドはインダクティブヘッド、再生ヘッドはMRヘッドを搭載)に装填してデータ信号を800GB記録し、それを再生した。平均信号振幅に対して50%以下の振幅(P−P値)の信号をミッシングパルスとし、4個以上連続したミッシングパルスをドロップアウトとして検出した。なお、ドロップアウトは、896トラックのうち1トラックについてのみ、820m長1巻を評価し、その個数を求めた。
【0052】
[参考例1]樹脂1の作成
蒸留による精製を繰り返した2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルとエチレングリコールとをそれぞれ100部と70部用意し、それらを攪拌機、精留塔、冷却器を供えた反応槽に仕込み、150℃まで昇温した。その後、トリメリット酸チタンをTi元素量として、全ジカルボン酸成分のモル数に対して7mmol%となるように添加し、反応槽全体を窒素により0.25MPaの圧力下で加熱して、反応槽内部温度を240℃に昇温した。反応の進行に従い、圧力一定のまま内温を250℃まで上げた。その後、反応槽内の圧力を常圧にゆっくりと戻し、トリメチルホスフェートをリン元素量で、全ジカルボン酸成分のモル数に対して12mmol%となるように添加し、余剰のエチレングリコールを追い出して、エステル交換反応を終了させた。
得られた反応生成物を重合反応槽へと移送した。このとき、移送途中で95%濾過精度5μmの金属繊維製のフィルターを通して濾過した。重合反応槽では250℃からゆっくりと昇温しながら、また減圧させながら重縮合反応を行い、最終的に290℃、30Paで所定の重合度になるまで重縮合を行い、実質的に不活性粒子を含有しない、固有粘度0.6dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレートを得た。
【0053】
[参考例2]樹脂2の作成
蒸留による精製を繰り返した2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルとエチレングリコールとをそれぞれ100部と70部用意し、それらを攪拌機、精留塔、冷却器を供えた反応槽に仕込み、150℃まで昇温した。その後、トリメリット酸チタンをTi元素量として、全ジカルボン酸成分のモル数に対して3mmol%となるように添加し、反応槽全体を窒素により0.25MPaの圧力下で加熱して、反応槽内部温度を240℃に昇温した。反応の進行に従い、圧力一定のまま内温を250℃まで上げた。その後、反応槽内の圧力を常圧にゆっくりと戻し、トリメチルホスフェートをリン元素量で、全ジカルボン酸成分のモル数に対して7mmol%となるように添加し、余剰のエチレングリコールを追い出して、エステル交換反応を終了させた。
得られた反応生成物を重合反応槽へと移送した。このとき、移送途中で95%濾過精度5μmの金属繊維製のフィルターを通して濾過した。重合反応槽では250℃からゆっくりと昇温しながら、また減圧させながら重縮合反応を行い、最終的に290℃、30Paで所定の重合度になるまで重縮合を行い、実質的に不活性粒子を含有しない、固有粘度0.6dl/gのポリエチレンテレフタレートを得た。
【0054】
[参考例3]樹脂3の作成
平均粒径が0.1μmで相対標準偏差が0.13のアルコキシド法で作成した真球状シリカ粒子を、エチレングリコールに10重量%となるように添加して、100℃で20分間過熱したのち、95%濾過精度5μmの金属繊維製のフィルターを通過するように循環させて、真球状シリカ粒子の含有量が10重量%のエチレングリコールスラリーを作成した。そして、このエチレングリコールスラリーを、エステル交換反応の段階で、真球状シリカ粒子の含有量が、得られるポリエステルの重量に対して、0.5重量%となるように添加したほかは、参考例1と同様な操作を繰り返して、樹脂3を作成した。
【0055】
[参考例4]樹脂4の作成
平均粒径が0.1μmで相対標準偏差が0.13のアルコキシド法で作成した真球状シリカ粒子を、エチレングリコールに10重量%となるように添加して、100℃で20分間過熱したのち、95%濾過精度5μmの金属繊維製のフィルターを通過するように循環させて、真球状シリカ粒子の含有量が10重量%のエチレングリコールスラリーを作成した。そして、このエチレングリコールスラリーを、エステル交換反応の段階で、真球状シリカ粒子の含有量が、得られるポリエステルの重量に対して、0.5重量%となるように添加したほかは、参考例2と同様な操作を繰り返して、樹脂4を作成した。
【0056】
[参考例5]
真球状シリカ粒子を、平均粒径が0.3μmで相対標準偏差が0.12の真球状シリカ粒子に変更したほかは、参考例3と同様な操作を繰り返して、樹脂5を作成した。
【0057】
[参考例6]
真球状シリカ粒子を、平均粒径が0.3μmで相対標準偏差が0.12の真球状シリカ粒子に変更したほかは、参考例4と同様な操作を繰り返して、樹脂6を作成した。
【0058】
[参考例7]
真球状シリカ粒子の変わりに、平均粒径が0.1μmで相対標準偏差が0.19のシリコーン粒子を用いたほかは、参考例3と同様な操作を繰り返して、樹脂7を作成した。
【0059】
[参考例8]
参考例1において、金属繊維製のフィルターを95%濾過精度10μmのものに変更したほかは、同様な操作を繰り返して、樹脂8を作成した。
【0060】
[実施例1]
A層用ポリマーとして樹脂1と3とを平均粒径0.1μmの真球状シリカ粒子の含有量が0.1重量%となるように用意し、また、B層用のポリマーとして、樹脂1、3、5を平均粒径0.1μmの真球状シリカ粒子の含有量が0.1重量%、平均粒径0.3μmの真球状シリカ粒子の含有量が0.2重量%となるように用意し、それぞれ、170℃で6時間乾燥させた。こうして、乾燥させたチップを、それぞれ2台の押出機ホッパーに供給し、270℃で混練し、さらに290℃の温度で2秒、温度勾配をつけて段階的に混練し、マルチマニホールド型共押出ダイを用いてA層の片側にB層を積層させて積層未延伸フィルムを得た。なお、A層用のポリマーとB層用のポリマーは、溶融状態にした後、ダイに供給する前に、それぞれ95%ろ過精度が1μmのフィルター(第2フィルター)でろ過した。また、A層用樹脂の粗大異物量1は31個/mgおよび粗大異物量2は9個/mgで、B層用樹脂の粗大異物量1は108個/mgおよび粗大異物量2は17個/mgであった。
このようにして得られた積層未延伸フィルムを、布帛(帝人ファイバー株式会社製、商品名:あっちこっちふきん)で清掃した金属ロール上で120℃に予熱し、さらに同様に前記布帛で清掃した低速、高速のロール間でフィルムを130℃に加熱して4.8倍に延伸し後、急冷し、縦延伸フィルムを得た。
続いてステンターに供給し、150℃にて横方向に5.1倍に延伸した。得られた二軸延伸フィルムを200℃の熱風で3秒間熱固定しつつ横方向に10%延伸を行い、厚み4.7μm(A層の厚み1.7μm、B層の厚み3.0μm)の積層二軸配向ポリエステルフィルムを1000時間生産した。なお、表面欠点数の増加が確認されたので、途中600時間で第2フィルターを交換し、巻き取り工程予熱ロールおよび延伸ロールを前記布帛で清掃した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表1に示す。
【0061】
[比較例1]
途中で第2フィルターの交換を行わずに、1000時間連続生産した以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
[実施例2]
A層用ポリマーとして樹脂2と4とを平均粒径0.1μmの真球状シリカ粒子の含有量が0.07重量%となるように用意し、また、B層用のポリマーとして樹脂2、4、6を平均粒径0.1μmの真球状シリカ粒子の含有量が0.1重量%、平均粒径0.3μmの真球状シリカ粒子の含有量が0.15重量%となるように用意し、それぞれ、170℃で6時間乾燥させた。こうして、乾燥させたチップを、それぞれ2台の押出機ホッパーに供給し、270℃で混練し、さらに290℃の温度で2秒、温度勾配をつけて段階的に混練し、、マルチマニホールド型共押出ダイを用いてA層の片側にB層を積層させて積層未延伸フィルムを得た。なお、A層用のポリマーとB層用のポリマーは、溶融状態にした後、ダイに供給する前に、それぞれ95%ろ過精度が1μmのフィルター(第2フィルター)でろ過した。また、A層用樹脂の粗大異物量1は30個/mgおよび粗大異物量2は10個/mgで、B層用樹脂の粗大異物量1は106個/mgおよび粗大異物量2は15個/mgであった。
このようにして得られた積層未延伸フィルムを、前記布帛で清掃した金属ロール上で100℃に予熱し、さらに同様に前記布帛で清掃した低速、高速のロール間でフィルムを110℃に加熱して3.5倍に延伸し後、急冷し、縦延伸フィルムを得た。
続いてステンターに供給し、105℃にて横方向に4.6倍に延伸した。得られた二軸延伸フィルムを210℃の熱風で3秒間熱固定しつつ横方向に5%延伸を行い、厚み4.7μm(A層の厚み4.2μm、B層の厚み0.5μm)の積層二軸配向ポリエステルフィルムを1000時間生産した。なお、表面欠点数の増加が確認されたので、途中600時間で第2フィルターを交換し、巻き取り工程予熱ロールおよび延伸ロールを前記布帛で清掃した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表2に示す。
【0064】
[比較例2]
途中で第2フィルターの交換を行わずに、1000時間連続生産した以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
[実施例3]
A層用ポリマーとして樹脂3と8とを平均粒径0.1μmの真球状シリカ粒子の含有量が0.1重量%となるように用意し、また、B層用のポリマーとして、樹脂3、5、8を平均粒径0.1μmの真球状シリカ粒子の含有量が0.1重量%、平均粒径0.3μmの真球状シリカ粒子の含有量が0.2重量%となるように用意した以外は、実施例1と同様な操作を繰り返して、積層二軸配向ポリエステルフィルムを1000時間生産した。なお、なお、A層用のポリマーとB層用のポリマーは、溶融状態にした後、ダイに供給する前に、それぞれ95%ろ過精度が1μmのフィルター(第2フィルター)でろ過した。なお、A層用樹脂の粗大異物量1は267個/mgおよび粗大異物量2は23個/mgで、B層用樹脂の粗大異物量1は487個/mgおよび粗大異物量2は26個/mgであった。また、表面欠点数の増加が確認されたので、途中600時間で第2フィルターを交換し、巻き取り工程予熱ロールおよび延伸ロールを前記布帛で清掃した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表3に示す。
【0067】
[比較例3]
途中で第2フィルターの交換を行わずに、1000時間連続生産した以外は、実施例3と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
[実施例4]
A層用ポリマーとして樹脂2を用意し、また、B層用のポリマーとして、樹脂2、4、6を平均粒径0.1μmの真球状シリカ粒子の含有量が0.1重量%、平均粒径0.3μmの真球状シリカ粒子の含有量が0.15重量%となるように用意し、A層の厚みが1.7μm、B層の厚み3.0μmとなるように変更した以外は、実施例2と同様な操作を繰り返して、積層二軸配向ポリエステルフィルムを1000時間生産した。なお、A層用のポリマーとB層用のポリマーは、溶融状態にした後、ダイに供給する前に、それぞれ95%ろ過精度が1μmのフィルター(第2フィルター)でろ過した。なお、A層用樹脂の粗大異物量1は11個/mgおよび粗大異物量2は4個/mgで、B層用樹脂の粗大異物量1は106個/mgおよび粗大異物量2は15個/mgであった。また、表面欠点数の増加が確認されたので、途中600時間で第2フィルターを交換し、巻き取り工程予熱ロールおよび延伸ロールを前記布帛で清掃した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表4に示す。
【0070】
[比較例4]
途中で第2フィルターの交換を行わずに、1000時間連続生産した以外は、実施例4と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表4に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
[実施例5]
A層用ポリマーとして樹脂1と7とを平均粒径0.1μmのシリコーン粒子の含有量が0.1重量%となるように用意し、また、B層用のポリマーとして、樹脂1、5、7を平均粒径0.1μmのシリコーン粒子の含有量が0.1重量%、平均粒径0.3μmの真球状シリカ粒子の含有量が0.2重量%となるように用意し、それぞれ、170℃で6時間乾燥させた。こうして、乾燥させたチップを、それぞれ2台の押出機ホッパーに供給し、270℃で混練し、さらに290℃の温度で2秒、温度勾配をつけて段階的に混練し、マルチマニホールド型共押出ダイを用いてA層の片側にB層を積層させて積層未延伸フィルムを得た。なお、A層用のポリマーとB層用のポリマーは、溶融状態にした後、ダイに供給する前に、それぞれ95%ろ過精度が1μmのフィルター(第2フィルター)でろ過した。また、A層用樹脂の粗大異物量1は33個/mgおよび粗大異物量2は10個/mgで、B層用樹脂の粗大異物量1は111個/mgおよび粗大異物量2は17個/mgであった。
このようにして得られた積層未延伸フィルムを、前記布帛で清掃した金属ロール上で120℃に予熱し、さらに同様に前記布帛で清掃した低速、高速のロール間でフィルムを130℃に加熱して4.8倍に延伸し後、急冷し、縦延伸フィルムを得た。
続いてステンターに供給し、150℃にて横方向に5.1倍に延伸した。得られた二軸延伸フィルムを200℃の熱風で3秒間熱固定しつつ横方向に10%延伸を行い、厚み4.7μm(A層の厚み1.7μm、B層の厚み3.0μm)の積層二軸配向ポリエステルフィルムを1000時間生産した。なお、表面欠点数の増加が確認されたので、途中600時間で第2フィルターを交換し、巻き取り工程予熱ロールおよび延伸ロールを前記布帛で清掃した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表5に示す。
【0073】
[比較例5]
途中で第2フィルターの交換を行わずに、1000時間連続生産した以外は、実施例5と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表5に示す。
【0074】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法として好適に用いることができ、特に磁気記録媒体のベースフィルムの製造方法に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態の熱可塑性樹脂をシート状に押し出す溶融押出工程と、それを巻き取る工程および巻き取られたフィルムを良品と不良品とに選別して良品を製品とする工程とからなるフィルムの製造方法であって、少なくとも巻き取られたフィルムの一方の表面に存在する波長100〜400nmの光の干渉によって検知され、且つその長径が基準値以上の表面欠点数を数え、測定された表面欠点数が基準値以下のフィルムを良品とすることを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項2】
長径の基準値が10μm以上である請求項1記載のフィルムの製造方法。
【請求項3】
フィルムの少なくとも一方の表面粗さが1〜10nmの範囲にある請求項1記載のフィルムの製造方法。
【請求項4】
溶融押出工程において、フィルターによって溶融状態の熱可塑性樹脂をろ過すること、そして表面欠点数の測定値に基づいて、当該フィルターを交換する請求項1記載のフィルムの製造方法。
【請求項5】
フィルムがポリエステルフィルムである請求項1記載のフィルムの製造方法。
【請求項6】
フィルムが、高密度磁気記録媒体のベースフィルムに用いられる請求項1記載のフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−45807(P2012−45807A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189489(P2010−189489)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】