説明

フィルムへの切り込み加工装置及び切り込み加工方法

【課題】フラット状の刃を採用することができ、切り込み加工の加工工程全体に要する時間が短くて済むフィルムへの切り込み加工装置及びフィルムへの切り込み加工方法を提供する。
【解決手段】フィルムFを搬送させる搬送機構と、フィルムFの搬送方向に移動可能に設けられた刃106と、搬送されるフィルムFを介して刃106とは反対側に設けられ、刃106の刃先の圧力を受ける受け胴ローラ110と、を備え、フィルムFの搬送時に、フィルムFを介して受け胴ローラ110が刃先の圧力を受ける加工位置よりも前記搬送方向における上流側から下流側に向けて、刃106を移動させることで、刃106が前記加工位置付近を通過する際に、刃106と受け胴ローラ110とによりフィルムFを挟み込むことで、フィルムFに対して一定パターンの切り込みを形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムに一定のパターンの切り込みを形成するためのフィルムへの切り込み加工装置及びその加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パウチなどのヒートシール軟包装体への切り込みについては、単にフィルムの厚み方向を貫通するような切り込み(フルカット)と、フィルムの厚み方向の中途位置までとする切り込み(ハーフカット)などが知られている。例えば、特許文献1,2には、フィルムにより構成される袋状包装体に、その開封予定位置に易開封用の切り込み(ハーフカット)を設ける構成が記載されている。
【0003】
このような、フィルムへの切り込み加工に関する従来技術について、図7及び図8を参照して説明する。
【0004】
<従来例1>
図7は従来例1に係るフィルムへの切り込み加工装置の概略構成図である。従来例1に係る加工装置200は、その表面が平らな加工台201と、この加工台201に対向して設けられ、その表面が平らな受け台203とを備えている。そして、加工台201には、フィルムFに形成する切り込みのパターンと同一形状の刃先で構成された刃202が設けられている。そして、これら加工台201に設けられた刃202と、受け台203によりフィルムFを挟み込むことによって、フィルムFに一定のパターンの切り込みが形成される。
【0005】
以上のように構成される加工装置200においては、フィルムFを一枚一枚所定の位置に配置して加工を行うか、長尺状のフィルムFを間欠的に搬送し、加工時においてはフィルムFを静止させるようにしている。そのため、加工工程全体に要する時間が長くなるという欠点がある。また、刃202の刃先と受け台203との面接触によってフィルムFを一度に挟み込んで一定のパターンの切り込みを形成するため、その際に必要な荷重は、刃202の刃先全長に比例して大きくなる。そのため、受け台203と接触する刃先全長が長い(切り込みのパターンが大きい、その形状が複雑である等)と、当該荷重は非常に大きくなってしまう。
【0006】
<従来例2>
図8は従来例2に係るフィルムへの切り込み加工装置の概略構成図である。従来例2に係る加工装置300は、外周曲面に刃302が設けられている加工ローラ301と、この加工ローラ301の回転軸の軸心と平行な軸心を中心に回転する受けローラ303とを備えている。そして、これらの加工ローラ301と受けローラ303を図中矢印方向に回転させた状態で、これら一対のローラ間にフィルムFを搬送させることによって、加工ローラ301に設けられた刃302と、受けローラ303によりフィルムFを挟み込むことによって、フィルムFに一定のパターンの切り込みが形成される。
【0007】
以上のように構成される加工装置300においては、長尺状のフィルムFを連続的に搬送させた状態で、一定のパターンの切り込みを形成できるため、加工工程全体に要する時間を短くできる利点がある。また、刃302の刃先と受けローラ303とによってフィルムを挟み込む部位は、点接触または上記軸心に平行な線接触となるため、刃302と受けローラ303によってフィルムFを挟み込む際に必要な荷重は小さくて済む。
【0008】
しかしながら、かかる加工装置300においては、加工ローラ301の外周面に刃302の刃先形状を設ける必要がある。刃先形成手段としては、(1)切削加工やエッチングなどによって前記ローラの外周面に刃先形状を直接形成する、(2)カール加工された刃(例えば、フレキシブルなピナクルダイ(登録商標))を加工ローラ301の外周面取り付ける、等が挙げられる。しかしながら、(1)の場合は製作費用及び保管費用につきコスト高となり、(2)の場合は、カール加工された刃に形成されたパターンに剛性の大きな部分があり、特に、切り込みパターンが複雑であると、前記部分が曲がりにくいため、加工ローラ301の外周面にしっかりと沿わせた状態で取り付けることが容易でない。また(2)において、刃302の回転方向の両端のエッジ部が浮き上がっている状態で加工を行った場合、他の部位に比べて前記エッジ部はフィルムに深く切り込むこととなり、均一な深さの切り込みが形成されず、フィルムを貫通してしまう場合がある。そのため、加工前には非常に微細な調整が必要とされ、生産性低下の要因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−257597号公報
【特許文献2】特開2007−22612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、フラット状の刃を採用することができ、比較的複雑なパターンの切り込みであっても、切り込み加工工程全体としての加工時間が短くて済むフィルムへの切り込み加工装置及び切り込み加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0012】
すなわち、本発明のフィルムへの切り込み加工装置は、
フィルムを搬送させる搬送機構と、
フィルムの搬送方向に移動可能に設けられ、前記フィルムの搬送速度と等速で移動する刃と、
搬送されるフィルムを介して前記刃とは反対側に設けられ、該刃の刃先の圧力を受ける受け胴ローラと、
を備え、
加工位置で、前記刃と受け胴ローラとにより前記フィルムを挟み込むことにより、該フィルムに一定パターンの切り込みを形成することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、フィルムを搬送させながら、フィルムに一定のパターンの切り込みを形成できるので、切り込み加工工程全体に要する時間を短くできる。また、刃と受け胴ローラとによりフィルムを挟み込むことで、フィルムに対して切り込みを形成するため、フィルムを挟み込む部位は、点接触または受け胴ローラの回転軸の軸心に平行な線接触となり、刃と受け胴ローラによってフィルムを挟み込む際に、従来の上下動式プレスと比べて必要な荷重は小さくて済む。
【0014】
また、本発明における刃はフィルムの搬送方向に移動可能に設けられており、好適にはフラット状の刃を用いるとよい。なお、前記フラット状の刃とは、切り込みが所定のパターンとなるよう、刃(のセット)が平面に配置され、加工工具全体として平坦であることを指す。さらに、フィルムの搬送速度と等速で刃が移動するため、刃とフィルムとの間には相対的な移動が伴わない。従って、前記加工位置において、刃と受け胴ローラとによりフィルムを挟み込んで切り込みパターンを形成するときに、該切り込みパターンの位置合
わせが容易となる。また、刃がフィルムと等速で移動するので、切り込み加工時に発生し得るフィルムへの張力を減少させることができ、フィルムの引き裂きを防止することができる。
【0015】
また、前記刃は平面上に形成されることを特徴とし、好適にはフラット状の刃を可動台上に取り付けるとよい。これにより、刃の高さ精度の向上を図ることが可能となり、微細な調節を必要とすることなく、安定した切り込みパターンを形成することができる。
【0016】
また、前記刃は、フィルムの搬送方向と反対方向に移動可能に設けられることを特徴とする。
【0017】
これにより、一枚、あるいは少ない枚数の刃で切り込み加工を繰り返し行うことができるため、装置の省スペース化が可能となる。また、刃の摩耗などが原因で必要となる交換作業において手間をかけることなく、刃を精度良く取り付けることができ、安定した切り込みパターンを形成することができる。
【0018】
また、前記受け胴ローラは、搬送されるフィルムに向かう方向と離れる方向に移動可能に設けられていることを特徴とする。
【0019】
前記受け胴ローラは搬送されるフィルムに向かう方向に移動することで、平面状態で搬送されているフィルムを撓ませて加工位置に到達させ、これにより前記受け胴ローラと前記刃によってフィルムを挟み込んで切り込み加工を行うことが可能となる。また、前記受け胴ローラが搬送されるフィルムと離れる方向に移動することで、撓んでいる搬送フィルムが平面状態に戻り、加工位置において前記刃とフィルム間の隙間が復元される。
【0020】
また、本発明の装置において、前記搬送されるフィルムと受け胴ローラとの間に、該ローラと刃を保護する保護フィルムを搬送することを特徴とする。
【0021】
これにより、フィルムの厚み方向を貫通するような切り込みを形成する場合、接触する恐れのある受け胴ローラ及び刃が破損してしまうことを抑制できる。
【0022】
また、本発明のフィルムへの切り込み加工方法は、
フィルムの搬送方向に向けて移動可能に設けられ、前記フィルムの搬送速度と等速で移動する刃と、該フィルムを介して前記刃と反対側に設けられた受け胴ローラとにより該フィルムを挟み込み、該フィルムに一定パターンの切り込みを形成することを特徴とする。
【0023】
本発明の加工方法によれば、フィルムを搬送させながら、フィルムに一定のパターンの切り込みを形成できるので、切り込み加工工程全体に要する時間を短くできる。また、刃と受け胴ローラとによりフィルムを挟み込むことで、フィルムに対して切り込みを形成するため、フィルムを挟み込む部位は、点接触または受け胴ローラの回転軸の軸心に平行な線接触となる。従って、刃と受け胴ローラによってフィルムを挟み込む際に必要な荷重は小さくて済む。
【0024】
また、本発明の加工方法では、刃はフィルムの搬送方向に移動可能に設けられており、好適にはフラット状の刃を用いるとよい。これにより、微細な調節を必要とすることなく、安定した切り込みパターンを形成することができる。さらに、フィルムの搬送速度と等速で刃が移動するため、刃とフィルムとの間には相対的な移動が伴わない。従って、前記加工位置において、刃と受け胴ローラとによりフィルムを挟み込んで切り込みパターンを形成するときに、該切り込みパターンの位置合わせが容易となる。また、切り込み加工時に発生し得るフィルムへの張力を減少させることができ、フィルムの引き裂きを防止する
ことができる。
【0025】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、フラット状の刃を採用することができ、切り込み加工工程全体の加工時間が短くて済む。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は本発明の実施例に係るフィルムへの切り込み加工装置の概略構成図(加工動作開始直後の状態)である。
【図2】図2は本発明の実施例に係るフィルムへの切り込み加工装置の概略構成図(切り込み加工開始時点の状態)である。
【図3】図3は本発明の実施例に係るフィルムへの切り込み加工装置の概略構成図(切り込み加工途中の状態)である。
【図4】図4は本発明の実施例に係るフィルムへの切り込み加工装置の概略構成図(切り込み加工終了時点の状態)である。
【図5】図5は本発明の実施例に係るフィルムへの切り込み加工装置の概略構成図(可動台復帰動作中の状態)である。
【図6】図6は本発明の実施例に係るフィルムへの切り込み加工装置の模式的断面図である。
【図7】図7は従来例1に係るフィルムへの切り込み加工装置の概略構成図である。
【図8】図8は従来例2に係るフィルムへの切り込み加工装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0029】
(実施例)
図1〜図6を参照して、本発明の実施例に係るフィルムへの切り込み加工装置及びフィルムへの切り込み加工方法について説明する。ここで、図1〜図5は本発明の実施例に係るフィルムへの切り込み加工装置の概略構成図であり、図1は加工動作開始直後の状態、図2は切り込み加工開始時点の状態、図3は切り込み加工途中の状態、図4は切り込み加工終了時点の状態、図5は可動台復帰動作中の状態をそれぞれ示している。また、図6は本発明の実施例に係るフィルムへの切り込み加工装置の模式的断面図であり、図6(a)は図1及び5中のAA断面図に相当し、図6(b)は図2乃至4中のAA断面図に相当する。
【0030】
<切り込み加工装置>
本実施例に係る切り込み加工装置100は、各種構成部品を支持するフレーム101を備えている。このフレーム101には、加工対象であるフィルムFを搬送するために、一対のローラによってそれぞれ構成される搬送ローラ102,103が、フィルムFの搬送方向の前後に各々設けられている。本実施例においては、搬送方向の前側の搬送ローラ102が、不図示の駆動力によって回転し、フィルムFを送り出すためのフィードローラとして機能するように構成されている。なお、これら搬送ローラ102,103によって、フィルムFを搬送させる搬送機構を構成している。
【0031】
そして、フレーム101の底部には、スライダー104と、スライダー104上を移動
する可動台105が設けられている。スライダー104は、スライドレール104aとスライドレール104a上に設けられるリニアベアリング104bとから構成されており(図6参照)、可動台105は、リニアベアリング104bを介してスライドレール104a上を滑らかに往復移動することができるように構成されている。
【0032】
また、フレーム101には、油圧・空圧・水圧などの圧力制御またはサーボモータなどによって、ロッド108を往復移動させる第1駆動部107が設けられている。このロッド108の先端に、可動台105が固定されており、第1駆動部107における駆動制御によって、可動台105は往復移動する。ここで、可動台105は、フィルムFの搬送方向と、この搬送方向と反対方向に移動可能なように構成されている。
【0033】
可動台105は、その上面が平面で構成されており、この上面にフラット状の刃106が固定されている。刃106の刃先の形状は、フィルムFに形成する一定の切り込みパターンと同一形状となるように構成されている。本実施例においては、例えば、フラット状のピナクル(登録商標)刃を用いることができるので、切削加工やエッチングなどによってローラ外周面に刃を直接形成する、または刃にカール加工を施してローラ外周面に取り付ける等の作業を必要せず、低コストで精度の高い切り込みパターンが実現可能である。また、可動台105がフィルムFの搬送方向に移動する過程で、加工位置では刃106の刃先が搬送されるフィルムFに接触するように、刃106の刃先の高さ位置が設定されている。
【0034】
また、可動台105の一方の端部には、フィルムFの搬送方向と平行となるように、ラックギア118が設けられている。ラックギア118は、後述する受け胴ローラ110の一方の端部に設けられたスパーギア119と噛み合って、可動台105と同期させて受け胴ローラ110を回転させる。
【0035】
また、フレーム101には、受け胴ローラ110が回転可能に設けられている。この受け胴ローラ110は、刃106の刃先の圧力を受けるため、搬送されるフィルムFを介して可動台105とは反対側に設けられている。また、刃先の圧力を調節して切り込み深さを安定させる場合、可動台105の上面に設置された刃106の両脇にフィルムFの搬送方向と平行になるようにスペーサ109を設けると好適である。このとき、スペーサ109は加工位置において受け胴ローラ110と接触するように設けられることで、切り込み深さの調節の他、加工中のフィルムFの滑りを防止する効果もある。
【0036】
この受け胴ローラ110に関する機構について、特に、図6(a)及び(b)を参照して、より詳細に説明する。受け胴ローラ110は、図中eだけ偏心しているエキセントリックシャフト112に第1ベアリング114を介して回転するローラ本体部111を備えている。これにより、受け胴ローラ110をフィルムFと離間する状態から、フィルムFに接触させるための数mm間の上下動を容易に行うことができる。なお、偏心eは一定であり、ローラ本体部111の回転軸111a(図6中、短い一点鎖線)と、エキセントリックシャフト112の中心軸112a(図6中、長い一点鎖線)間の距離である。
【0037】
また、ローラ本体部111の一方の端部には、ワンウェイクラッチ機構113を介してスパーギア119が設けられている。そして、スパーギア119が可動台105に設けられたラックギア118と噛み合うことにより、受け胴ローラ110を、可動台105の速度と等速で回転させることができる。
【0038】
そして、ワンウェイクラッチ機構113によって、ラックギア118とスパーギア119のギア同士が外れない程度に噛み合った状態であっても、後述する可動台105がホームポジションに復帰時に、ローラ本体部111(受け胴ローラ110)を逆回転させるこ
となく、慣性力によってローラ本体部111を正回転方向(フィルムFを搬送させる際の回転方向)に回転させたままとすることができる。
【0039】
そして、エキセントリックシャフト112は、フレーム101に対して、第2ベアリング115を介して回転するように構成されている。このエキセントリックシャフト112の一端部には、偏心駆動レバー116が取付けられている。この偏心駆動レバー116は、油圧・空圧・水圧などの圧力制御またはサーボモータなどによって、駆動制御される第2駆動部117によって、所定の角度θの範囲内で揺動するように構成されている(図5参照)。この第2駆動部117によって、偏心駆動レバー116を揺動させることによって、エキセントリックシャフト112を軸とするローラ本体部111の回転中心の高さが数mmの範囲で変化するように構成されている。
【0040】
また、本実施例に係る切り込み加工装置100においては、受け胴ローラ110や刃106を保護するために、保護フィルム123を搬送する搬送ユニット120が設けられている。この搬送ユニット120は、フィルム厚み方向に貫通する切り込み(フルカット)を形成する場合に必要となり、保護フィルム123を順次送り出すための一対の駆動ローラからなるフィードローラ121と、保護フィルム123の弛みを調整するためのテンションローラ122とを備えている。
【0041】
なお、フィルムの厚み方向の中途位置まで切り込み(ハーフカット)を形成する場合には、保護フィルムを用いる必要がないため、受け胴ローラ110と搬送されるフィルムFが直接接触する構成とすることができる。
【0042】
<切り込み加工方法>
上述した切り込み加工装置を用いて、フィルムFに切り込みを形成する切り込み加工方法、特にフィルムFの厚み方向に貫通する切り込みを形成する場合について説明する。
【0043】
加工動作開始直前時においては、偏心駆動レバー116の先端側が上方に押し上げられてエキセントリックシャフト112が所定の角度θだけ図中反時計回り方向に回転して、ローラ本体部111の回転中心が上方に移動した状態で待機している。このとき、受け胴ローラ110は、搬送されるフィルムFの表面から離れる方向に移動している。なお、保護フィルム123は、テンションローラ122から受け胴ローラ110に掛けまわされた状態となっており、保護フィルム123も同様に、搬送されるフィルムFから離れている。このとき、受け胴ローラ110、及び搬送される保護フィルム123は静止している。また、ラックギア118およびスパーギア119はギア同士が外れない程度に噛み合った状態となっている。
【0044】
そして、第1駆動部107における駆動制御によって、フィルムFの搬送方向に、このフィルムFの搬送速度と同一の移動速度により、可動台105を移動させる。可動台105が移動中であって、刃106が加工位置に達する前においては、可動台105に設けられた刃106の刃先は、フィルムFから僅かに離間した状態となっている。なお、刃106の移動速度とフィルムFの搬送速度は等しいので、搬送されるフィルムFと、刃106の刃先とは相対的に静止した状態となっている。また、ラックギア118およびスパーギア119によって可動台105の移動速度と受け胴ローラ110の周速も等速となっている。
【0045】
そして、可動台105に設けられた刃106の刃先が加工位置に到達する前に、第2駆動部117によって偏心駆動レバー116の先端側が下方に押し下げられ、エキセントリックシャフト112が所定の角度θだけ図中時計回り方向に回転して、ローラ本体部111の回転軸111aが下方に移動する(図1参照)。これにより、受け胴ローラ110は
、搬送されるフィルムFの表面に向かう方向に移動し、受け胴ローラ110に掛けまわされた保護フィルム123がフィルムFと接触する。このとき、搬送されるフィルムFは平面状態から、前記加工位置を頂点として僅かに撓んだ状態となる。また、ラックギア118とスパーギア119のギア同士は噛み合った状態となる。
【0046】
図2は刃106の刃先のうち、フィルムFの搬送方向における最先端部が、受け胴ローラ110における刃先の圧力を受ける加工位置(受け胴ローラ110における最下部)に到達した状態を示している。そして、刃106の刃先が、この加工位置に達すると、フィルムFは、刃106と保護フィルム123を介した受け胴ローラ110によって挟み込まれる。これにより、フィルムFの表面に刃106のパターンの切り込みが形成される。なお、加工開始のタイミングは、フィルムに印刷されたマーカーなどを検出して制御を行うと好適である。なお、保護フィルム123は受け胴ローラ110の回転力とフィードローラ121によって、加工毎に搬送方向の上流側から前記加工位置へ搬送される。
【0047】
図3は刃106が受け胴ローラ110における上記加工位置を通過中の状態を示しており、図4は刃106における刃先のうちフィルムFの搬送方向における最後端部が、上記加工位置を通過した直後の状態を示している。
【0048】
なお、少なくとも加工時には、可動台105が、フィルムFの搬送速度と同じ速度で移動するため、刃106が、上記加工位置を通過すると、刃106の刃先の形状と同一の形状の切り込みがフィルムFに形成される。
【0049】
図5は、フィルムFに一定パターンの切り込みを形成した後に、可動台105をホームポジションに復帰させる動作を示している。
【0050】
刃106における刃先のうちフィルムFの搬送方向における最後端部が、上記加工位置を通過した後に、第2駆動部117によって、偏心駆動レバー116の先端側が押し上げられて、エキセントリックシャフト112が所定の角度θだけ図中反時計回り方向に回転し、ローラ本体部111の回転軸111aが上方に移動する。これにより、受け胴ローラ110(ローラ本体部111)は、搬送されるフィルムFの表面から離れる方向に移動し、それに伴って僅かに撓んだ状態になっていたフィルムFが平面状態に復帰する。
【0051】
そして、保護フィルム123を介して受け胴ローラ110と接していたフィルムFと刃106の間には、加工位置(受け胴ローラ110における最下部)において、数mm程度の隙間が形成された状態となる。その後、可動台105をフィルムFの搬送方向とは反対方向に移動させる。このとき、フィルムFと刃106の間には、加工位置において隙間が形成されているので、フィルムFが刃106の刃先と受け胴ローラ110によって挟まれてしまうことはなく、刃106がフィルムFと接触して、傷をつけてしまうということはない。
【0052】
そして、ローラ本体部111は、その回転軸111aを上方の位置に維持したまま待機しており、加工時には回転軸111aが再び下方に移動し、刃106に圧力をかけて切り込み加工を行う。
【0053】
ここで、エキセントリックシャフト112が所定の角度θだけ図中反時計回り方向に回転し、ローラ本体部111の回転軸111aが上方に移動すると、ラックギア118とスパーギア119のギア同士は外れない程度に噛み合った状態となる。そして、ワンウェイクラッチ機構113によって、可動台105をフィルムFの搬送方向とは反対方向に移動するとき、ローラ本体部111(受け胴ローラ110)を、逆回転させずに、慣性力によって正回転方向(フィルムFを搬送させる際の回転方向)に回転させたままとすることが
できる。これにより、フィルムFに形成された切り込みに、受け胴ローラ110と刃106の同期ズレによって生じる張力が働いて、フィルムFが引き裂かれてしまうことを防止できる。また、保護フィルム123が巻き戻されることがなく、常に新しい保護フィルムを使用することができる。
【0054】
以上のような動作手順によって、フィルムFに一定パターンの切り込みを形成することができる。ここで、本実施例においては、長尺状のフィルムFを連続的に搬送する間に、上記の動作手順を繰り返し行うようにしている。すなわち、長尺状のフィルムFを連続的に搬送する間に、可動台105を複数回往復移動させることによって、フィルムFに複数個分の一定パターンの切り込みを形成するようにしている。このように、一定の間隔で、フィルムFの搬送と同期を取りながら可動台105を往復移動させることによって、所望の位置に複数の一定パターンの切り込みを形成することができる。
【0055】
また、別の実施例(図示せず)として、フィルムFが枚葉状のパウチの場合には、複数のパウチを順次連続的に搬送する間に、前記可動台が複数回往復移動することによって、各パウチにそれぞれ一定パターンの切り込みを形成することができる。このとき、搬送ローラ102,103間の距離を狭めることで、パウチの上端部と下端シール部を搬送ローラ102,103で挟み込んで搬送する、あるいはパウチ未加工部分(例えばサイドシール部)を把持して加工することが出来るような別途の搬送手段(ベルト、ロープ、チェーンなど)を設けてパウチを搬送するとよい。
【0056】
また、フィルムFの厚み方向の中途位置までの深さの切り込み(ハーフカット)を形成する場合には保護フィルム123を用いる必要はなく、ローラ本体部111の回転中心を下方の位置に移動させた状態で切り込み加工を開始してもよい。すなわち、受け胴ローラ110は搬送されるフィルムFと接触していてもよく、そのときは、搬送フィルムFとの摩擦力、または可動台105に設けられたラックギア118からの推進力などによって回転している。そして、フィルム厚み方向に貫通する切り込み(フルカット)を形成する場合と同様に、フィルムFに切り込み加工を行った後、ローラ本体部111の回転軸111aを上方に移動させて、可動台105をフィルムFの搬送方向とは反対方向に移動させるが、その直後に、ローラ本体部111の回転軸111aを下方の元の位置に移動させることができる。
【0057】
また、本実施例においては、搬送されるフィルムFの片面のみに前記一定パターンの切り込みを形成することができるが、前記切り込み加工装置にフィルムを反転させて切り込み加工を行う、または片面に前記切り込み加工を施したフィルムFに対し、前記装置構成を反転させたもので再度加工を施すことにより、搬送されるフィルムFの両面に前記一定パターンの切り込みを形成することができる。
【0058】
また、本実施例において示したエキセントリックシャフト112を用いる代わりに、刃(可動台)を復帰させる際にフィルムと離間させる方法として、(1)受け胴ローラ110の回転軸111aを直接エアシリンダー等で持ち上げる、(2)受け胴ローラ110の回転軸111aは固定で、刃(可動台)側が退避する、(3)受け胴ローラ110の回転軸111a、および刃106(可動台)とも固定し、受け胴ローラ110の非加工範囲が1段掘り下げられている(この場合、受け胴ローラは従動でなく同期的に回転する)など、適宜に選択することができる。
【0059】
<本実施例の優れた点>
本実施例に係る切り込み加工装置100及び加工方法によれば、フィルムFを搬送させながら、フィルムFに一定のパターンの切り込みを形成できるので、切り込み加工工程全体に要する時間を短くできる。また、刃106と受け胴ローラ110とによりフィルムF
を挟み込むことで、フィルムFに対して切り込みを形成するため、フィルムFを挟み込む部位は、点接触または受け胴ローラ110の回転軸の軸心に平行な線接触となる。従って、刃106と受け胴ローラ110によってフィルムFを挟み込む際に、従来の上下動式プレスと比べて必要な荷重は小さくて済む。
【0060】
また、刃106はフィルムFの搬送方向に移動可能に設けられており、好適にはフラット状の刃を取り付けるとよい。例えば、上記のように、ピナクル(登録商標)刃を平面的に用いる他、トムソン刃など各種の刃を採用することができる。これにより、受け胴ローラ110の外周面に刃を形成する場合に比べて製作費用及び保管費用を抑えることができる。また、刃106を可動台上に複数設けて使用することもできる。さらに、刃106の形状は切り込みの程度によって適宜選択可能であり、フィルムの厚み方向の中途位置までの深さの刃と、フィルムを貫通する刃を組み合わせて用いる、あるいは一枚の刃106に刃先の寸法が異なるものを形成することもできる。
【0061】
更に、刃106にフラット状のものを用いることにより、刃の高さ精度の向上を図ることが可能となり、微細な調節を必要とすることなく、安定した切り込みパターンを形成することができる。
【0062】
また、本実施例においては、刃106が受け胴ローラ110における前記加工位置を通過する際における可動台105のフィルムFの搬送方向への移動速度は、フィルムFの搬送方向への搬送速度と等しくなるように設定されている。そのため、刃106とフィルムFとの間には相対的な移動が伴わない。従って、前記加工位置において、刃106と受け胴ローラ110とによりフィルムFを挟み込んで切り込みパターンを形成するときに、該切り込みパターンの位置合わせが容易となる。また、刃がフィルムと等速で移動するので、切り込み加工時に発生し得るフィルムへの張力を減少させることができ、フィルムの引き裂きを防止することができる。
【0063】
また、可動台105をフィルムFの搬送方向とは反対方向に移動させる際には、受け胴ローラ110を上方に移動させて、前記加工位置においてフィルムFと刃106との間に隙間ができるようにしたので、刃106がフィルムFと接触することを防止できる。
【0064】
更に、本実施例によれば、長尺状のフィルムFを連続的に搬送させながら、可動台105を複数回往復移動させて、複数の一定パターンの切り込みを形成できるので、効率良く加工を行うことができる。
【0065】
また、別の実施例(図示せず)によれば、複数の枚葉状のフィルムFを順次連続的に搬送させながら、可動台105を往復移動させて、一定パターンの切り込みを各フィルムFにそれぞれ形成できるので、製袋後の製品に対しても効率良く加工を行うことができる。
【0066】
<その他>
上述した切り込み加工装置100及び加工方法を適用することの好適例として、パウチに切り込み加工を施す場合を挙げることができる。より具体的には、ポリエチレン製のフィルムと、その表面に設けられたナイロン製のフィルムからなる多層構造のフィルムにおいて、表面側からポリエチレン製のフィルムの中途位置まで切り込み加工を施す場合に、上記の切り込み加工装置100を好適に用いることができる。上述した切り込み加工装置100及び加工方法によって形成できる切り込みパターンは、特に限定されるものではない。例えば、開封をし易くするために開封位置に沿って設けられた易開封溝(直線状の溝)や、飲料用のパウチにおけるストローを突き刺し易くするための格子状の切り込みパターンや、くもの巣状の切り込みパターンなど、各種の切り込みパターンに応用可能である。
【0067】
また、上述した切り込み加工装置100及び加工方法によれば、上記の通り、刃の高さ精度の向上を図ることが可能となり、フィルムFの厚み方向の中途位置までの深さの切り込みを形成する場合に有効に用いることができる。また、フィルムFの厚み方向を貫通するような切り込み加工を施して異形パウチの製造やパウチへの穴開けを行う場合にも、上述した加工装置100及び加工方法を用いることができる。
【符号の説明】
【0068】
100 加工装置
101 フレーム
102,103 搬送ローラ
104 スライダー
104a スライドレール
104b リニアベアリング
105 可動台
106 刃
107 第1駆動部
108 ロッド
109 スペーサ
110 受け胴ローラ
111 ローラ本体部
111a 回転軸
112 エキセントリックシャフト
112a 中心軸
113 ワンウェイクラッチ機構
114 第1ベアリング
115 第2ベアリング
116 偏心駆動レバー
117 第2駆動部
118 ラックギア
119 スパーギア
120 搬送ユニット
121 フィードローラ
122 テンションローラ
123 保護フィルム
F フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムを搬送させる搬送機構と、
フィルムの搬送方向に移動可能に設けられ、前記フィルムの搬送速度と等速で移動する刃と、
搬送されるフィルムを介して前記刃とは反対側に設けられ、前記刃の刃先の圧力を受ける受け胴ローラと、
を備え、
加工位置で、前記刃と受け胴ローラとにより前記フィルムを挟み込むことにより、該フィルムに一定パターンの切り込みを形成することを特徴とするフィルムへの切り込み加工装置。
【請求項2】
前記刃が、平面上に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のフィルムへの切り込み加工装置。
【請求項3】
前記刃は、フィルムの搬送方向と反対方向に移動可能に設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載のフィルムへの切り込み加工装置。
【請求項4】
前記受け胴ローラは、搬送されるフィルムに向かう方向と離れる方向に移動可能に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載のフィルムへの切り込み加工装置。
【請求項5】
前記搬送されるフィルムと前記受け胴ローラとの間に、該受け胴ローラと刃を保護する保護フィルムを搬送することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載のフィルムへの切り込み加工装置。
【請求項6】
フィルムの搬送方向に向けて移動可能に設けられ、前記フィルムの搬送速度と等速で移動する刃と、該フィルムを介して前記刃と反対側に設けられた受け胴ローラとにより該フィルムを挟み込み、該フィルムに一定パターンの切り込みを形成することを特徴とするフィルムへの切り込み加工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate