説明

フィルムアンテナおよびその製造方法、ならびに、それに用いるアンテナ基板用フィルム

【課題】高周波領域での電気特性に優れたフィルムアンテナ、および、それに用いるアンテナ基板用の樹脂フィルムの提供。
【解決手段】式(1)のビニル化合物(A)、エラストマー(B)、少なくとも1分子中に2個以上のイソシアネート基またはブロックされたイソシアネート基を含むウレタンプレポリマー(C)、シランカップリング剤(D)を含有し、前記(A)成分100%に対する前記(B)成分の質量割合が10〜90%である樹脂組成物を用いて作成される、アンテナ基板用フィルム。


[式(1)中、R1〜R7は水素、アルキル基等;−(O−X−O)−のXはジフェニレン骨格;−(Y−O)−のYはフェニレン骨格;Zは有機基;a、bは一方が0でない0〜300の整数;c、dは0または1の整数]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムアンテナおよびその製造方法に関する。また、本発明は、フィルムアンテナの製造に用いるアンテナ基板用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムアンテナは、基板をなす樹脂フィルム上にアンテナ回路をフィルム状のアンテナであり、薄肉、軽量であることから各種携帯端末、自動車ウインドウ、パーソナルコンピューター等の情報端末、住宅用窓ガラス等に広範に利用されている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
上記の用途のフィルムアンテナに対して、より高周波数帯の電波の受信に適していることが求められるようになってきている。たとえば、第3世代の携帯電話やPHS、無線LAN、GPS、VICS、ETC、車載用レーダー等に用いられるフィルムアンテナは、GHz領域の高周波帯、具体的には、周波数1〜60GHzの高周波領域の電波の受信に適していることが求められる。
このような用途に用いられるフィルムアンテナに使用する材料は、上記の高周波数帯、すなわち、周波数1〜60GHzの高周波領域での電気信号損失を低減できることが求められる。このため、フィルムアンテナに使用する材料も、周波数1〜60GHzの高周波領域で低誘電率(ε)、および、低誘電正接(tanδ)を示すことが要求される。
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3に記載のフィルムアンテナは、kHz領域からMHz領域までの比較的低い周波数帯の電波の受信に用いられることから、上記の高周波数帯、すなわち、周波数1〜60GHzの高周波領域での電気信号損失を低減することの必要性については認識されておらず、これらの文献でフィルムアンテナに用いられている材料は、周波数1〜60GHzの高周波領域での電気特性が劣ると考えられる。
【0005】
フィルムアンテナを作成する際、フォトリソグラフィプロセス、メッキ法、蒸着法、スクリーン印刷法等の方法を用いて、樹脂フィルム上にアンテナ回路が形成される。
これらの方法のうち、フォトリソグラフィプロセスを用いる方法では、樹脂フィルムに貼り合わせた銅箔、アルミニウム箔等の金属箔にフォトレジスト等で回路パターンを形成した後、不要な部分をエッチングで除去するため、廃液等による環境への負荷という点で問題がある。
メッキ法では、樹脂フィルム上に回路パターンを形成する際に、硫酸、塩酸、シアン化合物等の危険な薬品を使用する問題や、廃液等による環境への負荷という点で問題がある。
蒸着法では、高価な蒸着装置を使用する必要があるため、コスト増となる問題がある。
スクリーン印刷法の場合、上述したような高価な装置の使用や廃液等による環境への負荷といった問題は生じないが、金属粒子を含む導電ペーストを樹脂フィルム上にスクリーン印刷した後、所定の温度で焼成することによって、樹脂フィルム上にアンテナ回路を形成することから、使用する樹脂フィルムの材質によっては、焼成時に樹脂フィルムの形状や寸法が変化し、その結果、アンテナ回路の精度が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−33728号公報
【特許文献2】特開2009−135605号公報
【特許文献3】特開2007−152939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、周波数1〜60GHzの高周波領域で低誘電率(ε)、および、低誘電正接(tanδ)を示すフィルムアンテナ、および、それに用いるアンテナ基板用フィルムを提供することを目的とする。
また、本発明は、高価な装置を使用する必要が無く、廃液等による環境負荷の問題を生じることがなく、精度の高い回路パターンを形成することができるフィルムアンテナの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、式(1)で表されるビニル化合物(A)、熱硬化性エラストマーおよび/または熱可塑性エラストマー(B)、少なくとも1分子中に2個以上のイソシアネート基またはブロックされたイソシアネート基を含むウレタンプレポリマー(C)、および、シランカップリング剤(D)を含有し、前記(A)成分と、前記(B)成分と、の質量割合が3:7〜7:3である樹脂組成物を用いて作成される、アンテナ基板用フィルムを提供する。
【化1】


[式(1)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のハロゲン化アルキル基またはフェニル基を表し、複数のR1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は、同一であっても異なっていてもよい。
−(O−X−O)−は下記式(2)で表される構造であり、−(Y−O)−は下記式(3)で表される繰返し単位であり、Zは酸素原子、窒素原子、イオウ原子、ハロゲン原子を含んでいてもよい炭素原子数1〜3の有機基を表す。
aおよびbは少なくとも一方が0でない0〜300の整数を表し、cおよびdは、それぞれ独立に0または1の整数を表す。]
【化2】


[式(2)中、R8、R9、R10、R14およびR15は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基を表し、R11、R12およびR13は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基を表す。
式(3)中、R16およびR17は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基を表し、R18およびR19は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基を表す。]
【0009】
本発明のアンテナ基板用フィルムにおいて、前記(A)成分の−(O−X−O)−が下記式(4)で表される構造であり、前記−(Y−O)−が下記式(5)または(6)で表される繰返し単位であることが好ましい。
【化3】

【0010】
本発明のアンテナ基板用フィルムにおいて、前記(A)成分の−(Y−O)−が前記式(6)で表される繰返し単位であることがより好ましい。
【0011】
本発明のアンテナ基板用フィルムにおいて、前記(B)成分がスチレン系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【0012】
本発明のアンテナ基板用フィルムにおいて、前記ウレタンプレポリマー(C)の原料イソシアネート基を含む化合物が、イソホロンジイソシアネートまたはヘキサメチレンジイソシアネートであることが好ましい。
【0013】
本発明のアンテナ基板用フィルムにおいて、前記(D)成分がビニルシラン系シランカップリング剤、(メタ)アクリロキシシラン系シランカップリング剤、イソシアネートシラン系シランカップリング剤、エポキシシラン系シランカップリング剤、アミノシラン系シランカップリング剤、メルカプトシラン系シランカップリング剤、クロロプロピルシラン系シランカップリング剤、および、これらシランカップリング剤のオリゴマーからなる群から選択される少なくとも1つのシランカップリング剤であることが好ましい。
【0014】
本発明のアンテナ基板用フィルムは、前記樹脂組成物を無機繊維または有機繊維に含浸させてなることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、離型性を有する支持体上に形成された回路パターンを本発明のアンテナ基板用フィルム上に転写する工程、および、前記アンテナ基板用フィルムを加熱硬化させる工程を有する、フィルムアンテナの製造方法を提供する。
【0016】
本発明のフィルムアンテナの製造方法において、前記支持体上に形成された回路パターンが、金属微粒子を含有する導電ペーストを焼成させてなるものであることが好ましい。
【0017】
本発明のフィルムアンテナの製造方法において、前記金属微粒子を含む導電ペーストが、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンの混合溶液に、還元剤を添加して銀微粒子を析出させることによって得られることが好ましい。
【0018】
本発明のフィルムアンテナの製造方法において、前記カルボン酸の銀塩が、酢酸銀、プロピオン酸銀及び酪酸銀からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0019】
本発明のフィルムアンテナの製造方法において、前記脂肪族第一級アミンが、3―メトキシプロピルアミン、3−アミノプロパノール及び1,2−ジアミノシクロヘキサンからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0020】
本発明のフィルムアンテナの製造方法において、前記還元剤が、ギ酸、ホルムアルデヒド、アスコルビン酸及びヒドラジンからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、本発明のフィルムアンテナの製造方法により作成されるフィルムアンテナを提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明のフィルムアンテナは、周波数1〜60GHzの高周波領域で低誘電率(ε)、および、低誘電正接(tanδ)を示すことから、当該周波数領域の電波の受信に用いるフィルムアンテナとして好適である。
本発明のフィルムアンテナの製造方法では、離型性を有する支持体上に形成された回路パターンを、本発明のアンテナ基板用フィルムに転写した後、該アンテナ基板を加熱硬化させることによってアンテナフィルムを作成するため、樹脂フィルムに回路パターンを形成する際に、フォトリソグラフィプロセス、メッキ法または蒸着法を使用する従来の方法とは違い、高価な装置を使用する必要がなく、廃液等による環境への負荷が問題となることがない。また、金属微粒子を含有する導電ペーストを支持体上で予め焼成することによって形成した回路パターンを、本発明のアンテナ基板用フィルムに転写するため、従来の方法のように、導電ペーストの焼成によって、アンテナ基板をなすフィルムの形状や寸法が変化することがなく、アンテナ回路の精度が向上している。なお、本発明のアンテナ基板用フィルムは、加熱硬化時に形状や寸法が変化することがない。
また、本発明のアンテナ基板用フィルムは、回路パターンを転写する際の温度域において粘着性に優れており、かつ、該温度域において、フィルムが硬化反応を開始することがないため、本発明のフィルムアンテナの製造方法で使用するアンテナ基板用フィルムとして好適である。
樹脂組成物を無機繊維または炭素繊維に含浸させてなる本発明のアンテナ基板用フィルムは、機械的強度に優れているため、本発明のフィルムアンテナの製造方法で使用するアンテナ基板用フィルムとして特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1(a)〜(c)は、本発明の製造方法によるフィルムアンテナの製造手順の一例を示した模式図である。
【図2】図2は、離型性を有する支持体上に形成された回路パターンの一例を示した斜視図である。
【図3】図3(a)〜(j)は、本発明の製造方法によるフィルムアンテナの製造手順の別の一例を示した模式図である。
【図4】図4は、離型性を有する支持体上に形成された回路パターンの別の一例を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のアンテナ基板用フィルムは、以下に示す(A)〜(D)成分を必須成分として含有する樹脂組成物を用いて作成される。
【0025】
(A)成分:式(1)で表されるビニル化合物
アンテナ基板用フィルムの作成に用いられる樹脂組成物は、(A)成分として、下記式(1)で表される、エーテル結合とベンゼン核を有するビニル化合物を含有する。アンテナ基板用フィルムの作成に用いられる樹脂組成物において、(A)成分は該フィルム用組成物を用いて作成されるアンテナ基板用フィルムの加熱硬化後における、高周波領域での電気特性、具体的には、周波数1〜60GHzの高周波領域での低誘電率(ε)化、および、低誘電正接(tanδ)化に主として寄与する。
【0026】
【化4】

【0027】
式(1)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のハロゲン化アルキル基またはフェニル基を表し、複数のR1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は、同一であっても異なっていてもよい。
【0028】
式(1)中、−(O−X−O)−は下記式(2)で表される構造であり、−(Y−O)−は下記式(3)で表される繰返し単位である。
【0029】
【化5】

【0030】
式(2)中、R8、R9、R10、R14およびR15は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基を表し、R11、R12およびR13は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基を表す。
式(3)中、R16およびR17は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基を表し、R18およびR19は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基を表す。
【0031】
式(1)中、Zは酸素原子、窒素原子、イオウ原子、ハロゲン原子を含んでいてもよい炭素原子数1〜3の有機基を表す。
aおよびbは少なくとも一方が0でない0〜300の整数を表し、cおよびdは、それぞれ独立に0または1の整数を表す。
【0032】
(A)成分において、式(1)中の−(O−X−O)−が下記式(4)で表される構造であり、−(Y−O)−が下記式(5)または(6)で表される繰返し単位であることが好ましい。
【0033】
【化6】

【0034】
(A)成分において、式(1)中のZは炭素原子数が1〜3のアルキレン基であることが好ましい。
【0035】
(A)成分のビニル化合物は、数平均分子量が500〜5000であることが好ましく、1000〜3000であることがより好ましい。
【0036】
式(1)から明らかなように、(A)成分のビニル化合物は、両末端に官能基としてビニル基を有する。ここで、官能基当たりの当量が、数平均分子量の半分に相当する250〜2500であることが好ましく、500〜1500であることがより好ましい。官能基当たりの当量は、樹脂組成物の硬化物の架橋密度の度合いを示すものであり、250以上であると、樹脂組成物を用いて作成されるアンテナ基板用フィルムが加熱硬化後において耐折り曲げ性に優れており、加熱硬化後のフィルムにクラック等が生じることがない。一方、2500以下であると、(B)成分との相溶性が良好で、樹脂組成物を用いて作成されるアンテナ基板用フィルムの透明性に優れている。加えて樹脂組成物の溶融温度が低くなって反応性が向上するため、そのために硬化温度が下がる。なお、数平均分子量はGPCにより、標準ポリスチレンによる検量線を用いて求めた値である。
【0037】
(A)成分のビニル化合物の具体例としては、式(1)において、R1〜R7が水素であり、−(O−X−O)−が構造式(4)であり、−(Y−O)−が構造式(6)であり、Zがメチレン基であり、a〜dが1である化合物で、数平均分子量が2200または1200の2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチルビフェニル−4,4’−ジオール・2,6−ジメチルフェノールとクロロメチルスチレンとの反応生成物(三菱ガス化学株式会社製;「OPE−2st」)や、式(1)において、R1〜R7が水素であり、−(O−X−O)−が構造式(4)であり、−(Y−O)−が構造式(5)であり、Zがメチレン基であり、a〜dが1である化合物で、数平均分子量が2200または1200の2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチルビフェニル−4,4’−ジオール・2,3,6−トリメチルフェノールとクロロメチルスチレンとの反応生成物が挙げられる。
【0038】
(B)成分:熱硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマー
アンテナ基板用フィルムの作成に用いられる樹脂組成物は、(B)成分として、熱硬化性エラストマーおよび/または熱可塑性エラストマーを含有する。すなわち、熱硬化性エラストマーと熱可塑性エラストマーのうち、少なくとも一方を含有する。樹脂組成物は熱硬化性エラストマーと熱可塑性エラストマーの両方を含有してもよい。
アンテナ基板用フィルムの作成に用いられる樹脂組成物において、(B)成分は樹脂組成物の相溶性に寄与し、該樹脂組成物の成膜性を向上させ、また、該樹脂組成物を用いて作成されるアンテナ基板用フィルムの加熱硬化時における接着性を向上させる。
また、(B)成分は、該樹脂組成物を用いて作成されるアンテナ基板用フィルムの柔軟性に寄与する。
【0039】
熱硬化性エラストマーとしては、スチレン−ブタジエンゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム、アクリルゴム等のゴム類が挙げられる。これらのゴム類は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
一方、熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。熱可塑性エラストマーは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
(B)成分としては、(A)成分との相溶性が良好であること、樹脂組成物を用いてアンテナ基板用フィルムを作成する際の成膜性に優れること、樹脂組成物を用いて作成されるアンテナ基板用フィルムが、加熱硬化時の接着性に優れること、および、アンテナ基板用フィルムが柔軟性に優れること等の理由から、熱可塑性エラストマーが好ましく、スチレン系熱可塑性エラストマーが特に好ましい。
【0041】
スチレン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、または、それらの二重結合の一部を水添した共重合体が挙げられ、より具体的には、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)等が挙げられる。これらの中でも、SBS、SEBSが、樹脂組成物の硬化物のガラス転移点を適切な範囲に制御しやすく、樹脂組成物を用いて作成されるアンテナ基板用フィルムの接着強度が高温でも良好であることから好ましい。
【0042】
(B)成分として、スチレン系熱可塑性エラストマーを用いる場合、質量平均分子量が20,000〜250,000であるのが好ましい。また、成分(A)との相溶性が良好で、樹脂組成物を用いて作成されるアンテナ基板用フィルムが透明性に優れることから、スチレン系熱可塑性エラストマーにおけるスチレン含有量は25〜60質量%であることが好ましく、より好ましくは30〜50質量%である。なお、質量平均分子量はGPCにより、標準ポリスチレンによる検量線を用いて求めた値である。
スチレン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、JSR株式会社製のスチレン−ブタジエンブロック共重合体「JSR TR」シリーズ、スチレン−イソプレンブロック共重合体「JSR SIS」シリーズなどが挙げられる。
【0043】
(C)成分:ウレタンプレポリマー
アンテナ基板用フィルムの作成に用いられる樹脂組成物は、(C)成分として、1分子中に2個以上のイソシアネート基またはブロックされたイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを含有する。このようなウレタンプレポリマーは、ポリオールと、少なくとも1分子中に2個以上のイソシアネート基またはブロックされたイソシアネート基を有する化合物と、を構成成分とする。
アンテナ基板用フィルムの作成に用いられる樹脂組成物において、(C)成分は該樹脂組成物を用いて作成されるアンテナ基板用フィルムの粘着性に寄与し、回路パターンを転写する際の温度域におけるアンテナ基板用フィルムの粘着性を向上させる。また、該樹脂組成物を用いて作成されるアンテナ基板用フィルムの加熱硬化時の反応性を向上させ、より低い温度での加熱硬化を可能とする。
また、アンテナ基板用フィルムの作成に用いられる樹脂組成物は、(C)成分のウレタンプレポリマーの使用による効果を損なわない限り、他のウレタンプレポリマーを混在させてもよい。
【0044】
(C)成分のウレタンプレポリマーの原料として用いるポリオールの具体例は、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、ポリイソプレンポリオール等を水素化して得られるポリオレフィン系ポリオール、ダイマー酸をカルボン酸成分として用いたダイマー酸ポリエステルポリオール等が挙げられる。
また、(C)成分のウレタンプレポリマーの原料として用いるポリオールの別の具体例としては、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコールなどの2官能アルコール、トリメチロールプロパン等の3官能アルコールが挙げられる。
これらのポリオールは2種以上を併用してもよい。
【0045】
(C)成分のウレタンプレポリマーの原料として用いるイソシアネート基を有する化合物は、イソシアネート基またはブロックされたイソシアネート基を、1分子中に合計で2個以上有するものである限り、特に限定されない。1分子中に2個以上イソシアネート基を有する化合物の具体例としては、例えばトリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられるが、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが特に好適である。また、ブロックされたイソシアネート基を有する化合物としては、ここに例示したイソシアネート基を有する化合物をアルコール類、フェノール類、オキシム類等のブロック剤でブロックした化合物が挙げられる。
【0046】
(C)成分のウレタンプレポリマーの製造は、イソシアネート基と反応する活性水素を有しない有機溶媒を用いて行われる。このような有機溶剤としてはトルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が例示される。これらの中でもトルエンが特に好ましい。
【0047】
上述したように、(C)成分のウレタンプレポリマーは、イソシアネート基もしくはブロックされたイソシアネート基を1分子中に合計で2個以上含んでいる。
アンテナ基板用フィルムの作成に用いられる樹脂組成物において、通常は活性の高いイソシアネート基をそのままウレタンプレポリマー中に存在させることが望ましい。しかしながら、乾燥条件次第、具体的には、アウトガスの発生を許容する乾燥条件の場合、イソシアネート基をブロック剤でブロックしたブロックジイソシアネートも利用できる。使用できるブロック剤は特に限定されないが、乾燥温度などからメチルエチルケトンオキシムが好ましい。
【0048】
(C)成分として好ましいウレタンプレポリマーは、ポリブタジエンポリオールおよび1,4−ブタンジオールと、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートまたはヘキサメチレンジイソシアネートととから得られるウレタンプレポリマーを50質量部以上含有するウレタンプレポリマーである。
【0049】
(D)成分:シランカップリング剤
アンテナ基板用フィルムの作成に用いられる樹脂組成物は、(D)成分としてシランカップリング剤を含有する。アンテナ基板用フィルムの作成に用いられる樹脂組成物において、(D)成分は、フィルムアンテナ製造時において、離型性を有する支持体上に形成されたアンテナパターンとの密着性に寄与する。
【0050】
(D)成分として用いるシランカップリング剤の具体例としては、ビニルシラン系シランカップリング剤、(メタ)アクリロキシシラン系シランカップリング剤、イソシアネートシラン系シランカップリング剤、エポキシシラン系シランカップリング剤、アミノシラン系シランカップリング剤、メルカプトシラン系シランカップリング剤、クロロプロピルシラン系シランカップリング剤、および、これらシランカップリング剤のオリゴマーが挙げられる。これらの中でも、好ましいのは(メタ)アクリロキシシラン系シランカップリング剤、および、アミノシラン系シランカップリング剤である。
【0051】
ビニルシラン系シランカップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、アリルトリクロロシラン、アリルトリエトキシラン、アリルトリメトキシシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、トリクロロビニルシラン等が挙げられる。
(メタ)アクリロキシシラン系シランカップリング剤としては、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(トリメトキシシリル)プロピルアクリレート、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
イソシアネートシラン系シランカップリング剤としては、3−(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネート等が挙げられる。
エポキシシラン系シランカップリング剤としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
アミノシラン系シランカップリング剤としては、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン等が挙げられる。
クロロプロピルシラン系シランカップリング剤としては、3−クロロプロピルトリクロロシラン等が挙げられる。
メルカプトシラン系シランカップリング剤としては、(3−メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン等が挙げられる。
また、これらのシランカップリング剤のオリゴマーも(D)成分として用いることができる。
【0052】
これらの中でも好ましいのは、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(トリメトキシシリル)プロピルアクリレート、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシシラン系シランカップリング剤、および、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン系シランカップリング剤である。
【0053】
アンテナ基板用フィルムの作成に用いられる樹脂組成物において、(A)成分と、(B)成分と、の質量割合は、3:7〜7:3である。(A)成分と、(B)成分と、の質量割合が上記の範囲であると、樹脂組成物の相溶性が良好であり、樹脂組成物を用いてアンテナ基板用フィルムを作成する際の製膜性に優れており、該樹脂組成物を用いて作成されるアンテナ基板用フィルムの加熱硬化時における接着性に優れている。
(A)成分と、(B)成分と、の質量割合は、4:6〜6:4であることが好ましい。
【0054】
アンテナ基板用フィルムの作成に用いられる樹脂組成物において、(A)成分と(B)成分の総量に対する(C)成分の質量割合は、99:1〜40:60であることが好ましい。これらの成分の質量割合が上記の範囲であると、樹脂組成物の相溶性が良好であり、かつ、フィルム形成性の点で優れている。
(A)成分と(B)成分の総量に対する(C)成分の質量割合は、より好ましくは97.5:2.5〜50:50であり、さらに好ましくは95:5〜60:40である。
【0055】
アンテナ基板用フィルムの作成に用いられる樹脂組成物において、(A)成分〜(C)成分の総量に対する(D)成分の質量割合は99.99:0.01〜90:10であることが好ましい。これらの成分の質量割合が上記の範囲であると、樹脂組成物の相溶性が良好であり、かつ、フィルムアンテナ製造時において、離型性を有する支持体上に形成されたアンテナパターンとの密着性の点で優れている。
(A)成分〜(C)成分の総量に対する(D)成分の質量割合は、より好ましくは99.9:0.1〜95:5であり、さらに好ましくは99.7:0.3〜98:2である。
【0056】
アンテナ基板用フィルムの作成に用いられる樹脂組成物は、本来の物性、特性を損なわない限り、上述した(A)〜(D)成分以外の任意の成分を含んでいてもよい。このような任意の成分の具体例としては、樹脂組成物を用いて作成されるアンテナ基板用フィルムの機械的強度を向上させる目的で使用される充填剤が挙げられる。このような充填剤の具体例としては、銀粉、金粉、銅粉等の金属や、シリカ、アルミナ、チタニア、窒化ホウ素、酸化鉄等の金属化合物、あるいは、カーボン等の有機充填剤が挙げられる。
【0057】
樹脂組成物に上記の任意成分を含有させる場合、その含有量は、含有させることにより意図した効果を発揮することができ、かつ、樹脂組成物の本来の物性、特性を損なわない範囲で適宜選択することができる。任意成分として、充填剤を含有させる場合、(A)成分〜(D)成分の総量に対する充填剤の質量割合が、9:1〜1:9であることが好ましく、より好ましくは8:2〜2:8であり、さらに好ましくは7:3〜3:7である。
【0058】
アンテナ基板用フィルムの作成に用いられる樹脂組成物は、上記の(A)〜(D)成分を、樹脂組成物が上述した任意成分を含有する場合は、さらにこれらの任意成分を、公知の方法、例えば、碇型攪拌機を備えた混合器を用い攪拌混合することによって調製することができる。
【0059】
本発明のアンテナ基板用フィルムは、上記の樹脂用組成物から公知の方法により得ることができる。例えば、上記の樹脂組成物を有機溶剤で希釈してワニスとし、このワニスを支持体に塗布し乾燥し、冷却することによって、アンテナ基板用フィルムを得ることができる。本発明のアンテナ基板用フィルムは、支持体付のフィルム、または、支持体から剥離したフィルムとして提供することができる。
ワニスの塗布量によりアンテナ基板用フィルムの厚みが決まるが、アンテナ基板用フィルムの厚みは5〜100μmであることが好ましい。
【0060】
ワニスの作成に使用する有機溶媒は、樹脂組成物の各成分(上記の(A)〜(D)成分、樹脂組成物が上記の任意成分を含有する場合は、さらにこれらの任意成分)を均一に溶解または分散できるものであればよく、具体的には、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン;エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。好ましいのはMEK、MIBK、トルエン、キシレン等である。
【0061】
ワニスの塗布は通常の方法で実施されるが、グラビア法によるのが好ましい。
ワニスの乾燥は有機溶媒が十分に揮散する条件、例えば、200℃で2時間加熱したときの前後の質量減少率が2質量%以下になる条件、すなわち、60〜200℃で、0.1〜90分間加熱して行う。
アンテナ基板用フィルムの冷却は、通常の方法、すなわち、室温放置によるのが好ましい。
【0062】
ワニスを塗布する支持体は、樹脂組成物の製膜時の加熱、乾燥に耐えるものであれば、特に制限されない。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等のフィルムが挙げられる。これらのフィルムを2種以上組合せて複層フィルムとしてもよい。これらのフィルムをシリコーン離型剤で表面処理してもよい。
【0063】
また、本発明のアンテナ基板用フィルムは、上記の樹脂組成物をガラス繊維や炭素繊維のような無機繊維や、アラミド繊維のような有機繊維に含浸させることによっても得ることができる。上記の樹脂組成物を無機繊維や有機繊維に含浸させる場合、上記の樹脂組成物を有機溶剤で希釈したワニスの状態で無機繊維や有機繊維に含浸させることが好ましい。
上記の樹脂組成物を無機繊維や有機繊維に含浸させることによって得られるアンテナ基板用フィルムは機械的強度に優れているため、機械的強度が求められる用途のフィルムアンテナ、例えば、第3世代の携帯電話やPHS、無線LAN、GPS、VICS、ETC、車載用レーダー等に用いられるフィルムアンテナを製造するのに好ましい。
上記の樹脂組成物を含浸させる無機繊維、有機繊維は特に限定されないが、ガラス繊維が機械的強度とコストの両立の面から好ましい。
【0064】
また、上記の(A)〜(D)成分(必要に応じて、さらに上述した任意成分)に、有機溶媒に添加し混合したワニスとして、樹脂組成物を調製することもできる。
例えば、上記の(A)〜(D)成分(必要に応じて、さらに上述した任意成分)を任意の順序に有機溶媒に溶解し混合してワニスを調製することができる。混合方法に特に制限はなく、公知の方法が採用できる。例えば、金属容器やガラス容器に、上記の(A)〜(D)成分(必要に応じて、さらに上述した任意成分)、および有機溶媒を入れ加熱攪拌する方法で実施される。加熱温度は(A)成分の重合が進行しない程度の温度である0〜100℃が好ましく、20〜80℃がより好ましい。
【0065】
上記の手順で得られる本発明のアンテナ基板用フィルムは、加熱硬化後において、周波数1〜60GHzの高周波領域での電気特性に優れており、該高周波領域で低誘電率(ε)、および、低誘電正接(tanδ)を示す。
より具体的には、加熱硬化後のアンテナ基板用フィルムは、周波数1〜60GHzの高周波領域で誘電率(ε)が5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。また、周波数1〜60GHzの高周波領域で誘電正接(tanδ)が0.01以下であることが好ましく、0.005以下であることがより好ましく、0.003以下であることがさらに好ましい。
【0066】
本発明のアンテナ基板用フィルムは、回路パターンを転写する際の温度域において粘着性に優れている。
詳しくは後述するが、本発明のアンテナ基板用フィルムを用いてフィルムアンテナを製造する際には、表面に回路パターンが形成された支持体を、本発明のアンテナ基板用フィルムに加熱圧着させることにより、該支持体上に形成された回路パターンをアンテナ基板用フィルムに転写する。加熱圧着の手順の際、アンテナ基板用フィルムは、100〜150℃の温度に加熱される。この温度域において、本発明のアンテナ基板用フィルムは、粘着性に優れている。具体的には、粘着性の指標として、タック試験を用いた場合、30〜500gfとなる。
【0067】
本発明のアンテナ基板用フィルムは、180℃以上の温度で加熱することによって硬化反応が開始するので、180℃以上の温度で60〜90分間加熱することによって、加熱硬化させることができる。
本発明のアンテナ基板用フィルムの加熱温度が高すぎると、フィルムの形状変化や寸法変化が生じるおそれがあるため、フィルムの加熱温度は300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましく、220℃以下であることがさらに好ましい。 上記の温度域、すなわち、180℃以上220℃以下の温度域で加熱硬化を実施した場合、本発明のアンテナ基板用フィルムは、加熱硬化時の形状変化および寸法変化が少ない。具体的には、加熱硬化時のフィルムの形状変化および寸法変化が0.075mm以内であり、好ましくは0.05mm以内であり、より好ましくは0.01mm以内である。
なお、本発明のアンテナ基板用フィルムは、180℃以上の温度で加熱した際に硬化反応が開始するため、上述した回路パターンを転写する際の温度域では硬化反応を開始しない。
【0068】
次に、本発明のフィルムアンテナの製造方法について説明する。
本発明のフィルムアンテナの製造方法は、離型性を有する支持体上に形成された回路パターンを本発明のアンテナ基板用フィルム上に転写する工程、および、前記アンテナ基板用フィルムを加熱硬化させる工程を有する。
【0069】
図1(a)〜(c)は、本発明の製造方法によるフィルムアンテナの製造手順の一例を示した模式図である。
本発明のフィルムアンテナの製造方法では、まず初めに、本発明のアンテナ基板用フィルムと、回路パターンが形成された離型性を有する支持体と、を準備する。図1(a)において、支持体20付のフィルムとして、本発明のアンテナ基板用フィルム10が示されている。離型性を有する支持体30上には、製造されるフィルムアンテナに応じた所定の形状の回路パターン40が形成されている。図2は、離型性を有する支持体30上に形成された回路パターン40の一例を示した斜視図である。
【0070】
次に、図1(b)に示すように、本発明のアンテナ基板用フィルム10(支持体20付のフィルム10)と、回路パターン40が形成された支持体30と、を所定の温度で加熱圧着させる。例えば、真空プレス(1MPa)により、150℃で30sec加熱圧着させる。
熱圧着を実施した後、離型性を有する支持体30を剥離することにより、図1(c)に示すように、粘着性に優れた本発明のアンテナ基板用フィルム10に回路パターン40が転写される。なお、上述したように、加熱圧着の際、本発明のアンテナ基板用フィルム10は100〜150℃の温度に加熱される。
このようにして、回路パターン40が転写された本発明のアンテナ基板用フィルム10を、所定の温度で加熱硬化させることで、フィルムアンテナを得ることができる。なお、上述したように、本発明のアンテナ基板用フィルム10は、180℃以上の温度に加熱することによって加熱硬化する。
ここで、図1(c)に示すように、アンテナ基板用フィルム10の一方の面にのみ回路パターン40を転写させる場合、アンテナ基板用フィルム10と回路パターン40が形成された支持体30との加熱圧着と、アンテナ基板用フィルム10の加熱硬化と、を同時に実施してもよい。すなわち、100〜150℃の温度域でアンテナ基板用フィルム10と回路パターン40が形成された支持体30とを加熱圧着する代わりに、180℃以上の温度で両者を加熱圧着することにより、アンテナ基板用フィルム10への回路パターン40の転写と、該アンテナ基板用フィルム10の加熱硬化を同時に実施することができる。
【0071】
図3(a)〜(j)は、本発明の製造方法によるフィルムアンテナの製造手順の別の一例を示した模式図であり、アンテナ基板用フィルムの両面に回路パターンが形成されたフィルムアンテナの製造手順を示している。
本製造手順において、図3(a),(b)に示す手順は、図1(a),(b)に示した手順と同様である。すなわち、本発明のアンテナ基板用フィルム10(支持体20付フィルム10)と、回路パターン40が形成された離型性を有する支持体30と、を準備し、本発明のアンテナ基板用フィルム10(支持体20付のフィルム10)と、回路パターン40が形成された支持体30と、を所定の温度で加熱圧着させる。
【0072】
次に本製造手順では、図3(c)に示すように、ジャンパーを形成するための孔50を形成する。形成された孔50に導電ペーストを充填することで、アンテナ基板用フィルムの両面に形成される回路パターンの導通を確保するためのジャンパー60が形成される。孔50に導電性ペーストを充填する手順は、公知の方法、例えば、スクリーン印刷法を用いて実施することができる。孔50に充填する導電ペーストとしては、公知の導電ペーストを用いることができる。また、後述する手順において、離型性を有する回路パターンを形成するのに使用する導電ペーストも用いることができる。
なお、図示した態様では、アンテナ基板用フィルムの両面に形成される回路パターンの導通を確保する手段としてジャンパーを用いているが、アンテナ基板用フィルムの両面に形成される回路パターンの導通を確保する手段はこれに限定されず、例えば、めっきを用いてもよい。
【0073】
次に本製造手順では、図3(e),(f)に示すように、本発明のアンテナ基板用フィルム10の支持体20を剥離することによって露出するアンテナ基板用フィルム10の面に転写するための回路パターン80が形成された離型性を有する支持体70を準備する。離型性を有する支持体70上には、製造されるフィルムアンテナに応じた所定の形状の回路パターン80が形成されている。図4は、離型性を有する支持体70上に形成された回路パターン80の一例を示した斜視図である。
【0074】
次に本製造手順では、図3(g)に示すように、本発明のアンテナ基板用フィルム10と、回路パターン80が形成された支持体70と、を所定の温度で加熱圧着させる。両者を加熱圧着させる際の条件については、上述したアンテナ基板用フィルム10と、回路パターン40が形成された支持体30と、を加熱圧着させる際の条件と同様である。
熱圧着を実施した後、離型性を有する支持体70を剥離することにより、図3(h)に示すように、粘着性に優れた本発明のアンテナ基板用フィルム10に回路パターン80が転写される。なお、図示した態様では、図3(h)に示す段階で支持体30を剥離しているが、図3(b)に示す段階でアンテナ基板用フィルム10に加熱圧着させた支持体30を剥離する段階はこれに限定されない。すなわち、加熱圧着により、アンテナ基板用フィルム10に回路パターン40を転写させた後、ただちに支持体30を剥離してもよいし、図3(e)でアンテナ基板用フィルム10の支持体20を剥離する際に支持体30を剥離してもよい。但し、アンテナ基板用フィルム10に転写された回路パターン40の保護の観点からは、図3(h)に示すように、アンテナ基板用フィルム10の両面に転写された回路パターン40,80を転写した後に支持体30を剥離することが好ましい。
【0075】
このようにして、両面に回路パターン40,80が転写された本発明のアンテナ基板用フィルム10を、所定の温度で加熱硬化させることで、フィルムアンテナを得ることができる。なお、上述したように、本発明のアンテナ基板用フィルム10は、180℃以上の温度に加熱することによって加熱硬化する。
ここで、アンテナ基板用フィルム10と回路パターン80が形成された支持体70との加熱圧着と、アンテナ基板用フィルム10の加熱硬化と、を同時に実施してもよい。すなわち、100〜150℃の温度域でアンテナ基板用フィルム10と回路パターン80が形成された支持体70とを加熱圧着する代わりに、180℃以上の温度で両者を加熱圧着することにより、アンテナ基板用フィルム10への回路パターン80の転写と、該アンテナ基板用フィルム10の加熱硬化を同時に実施することができる。
また、図3に示す手順では、回路パターン40の転写と、回路パターン80の転写と、を別々の手順として実施しているが、これらの手順を単一の手順として同時に実施してもよい。すなわち、アンテナ基板用フィルム10に対して、支持体30および支持体70を同時に加熱圧着させてもよい。
【0076】
上記の手順で得られるフィルムアンテナは、必要に応じてカバーフィルムによって被覆することができる。図3に示した製造手順では、図3(i),(j)に示す手順を実施することにより、アンテナ基板用フィルム10の両面をカバーフィルムで被覆している。具体的には、図3(i)に示すように、アンテナ基板用フィルム10の両面に支持体110,130付のカバーフィルム100,120を加熱圧着させる。例えば、真空プレス(1MPa)により、200℃で60sec加熱圧着させる。その後、図3(j)に示すように、カバーフィルム100,120の支持体110,130を剥離することにより、アンテナ基板用フィルム10の両面をカバーフィルム100,120によって被覆している。
【0077】
また、フィルムアンテナによっては、回路パターンが形成されたアンテナ基板用フィルムを複数枚積層させた構造のものもある。このようなフィルムアンテナを製造する場合、上記の手順で回路パターンを転写させたアンテナ基板用フィルムを所定枚数積層させた後、該アンテナ基板用フィルムの積層体を加熱硬化させればよい。
【0078】
本発明のフィルムアンテナの製造方法において、離型性を有する支持体上に形成された回路パターンが、金属微粒子を含有する導電ペーストを焼成させてなるものであることが好ましい。
上述したように、金属微粒子を含む導電ペーストを樹脂フィルム上にスクリーン印刷した後、所定の温度で焼成することによってアンテナ回路を形成する方法は、高価な装置の使用や廃液等による環境への負荷といった問題を生じることがない点でアンテナ回路の形成に用いられる他の方法、すなわち、フォトリソグラフィプロセス、メッキ法、蒸着法等にくらべて優れている。
上記の方法の問題点は、使用する樹脂フィルムの材質によっては、導電ペーストの焼成時に樹脂フィルムの形状や寸法が変化し、その結果、アンテナ回路の精度が低下することである。本発明のフィルムアンテナの製造方法では、離型性を有する支持体上に形成した回路パターンを本発明のアンテナ基板用フィルムに転写するため、金属微粒子を含む導電ペーストをスクリーン印刷した後、該導電ペーストを所定の温度で焼成することによって回路パターンを形成する支持体として、導電ペーストの焼成時に形状や寸法の変化が生じないものを用いることで、上記の方法の問題点を解消することができる。
【0079】
回路パターンの形成に用いる導電ペーストに含まれる金属微粒子としては、導電性、耐酸化性に優れることから銀微粒子が好ましく用いられる。
銀微粒子を含む導電ペーストとしては、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンの混合溶液に、還元剤を添加して銀微粒子を析出させることによって得られるものが、焼成温度が200℃以下と低く、かつ、焼成によって得られる回路パターンが十分な導電性(例えば、比抵抗値1〜10μΩレベル)を有することから好ましい。導電ペーストに含まれる銀微粒子の平均粒子径が小さいため、より微細化する回路パターン形成への要求にも応え得るものである。
【0080】
上記の導電ペーストは、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンの混合溶液に、還元剤を添加して、反応温度20〜80℃で銀微粒子を析出させることによって得ることができる。
【0081】
カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンの混合溶液中では、カルボン酸の銀塩に脂肪族第一級アミンが配位し、一種のアミン錯体を形成していると考えられる。
カルボン酸の銀塩は、脂肪族、芳香族いずれのカルボン酸の銀塩であってもよい。また、モノカルボン酸の銀塩であっても、ジカルボン酸等のポリカルボン酸の銀塩であってもよい。脂肪族カルボン酸の銀塩は、鎖状脂肪族カルボン酸の銀塩であっても、環状脂肪族カルボン酸の銀塩であってもよい。好ましくは鎖状脂肪族モノカルボン酸の銀塩であり、より好ましくは、酢酸銀、プロピオン酸銀又は酪酸銀であり、特に酢酸銀である。これらは、単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0082】
脂肪族第一級アミンは、鎖状脂肪族第一級アミンであっても、環状脂肪族第一級アミンであってもよい。また、モノアミン化合物であっても、ジアミン化合物等のポリアミン化合物であってもよい。脂肪族第一級アミンには、脂肪族炭化水素基が、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、プロピル基等のアルコキシ基、で置換されたものも含む。より好ましくは、3−メトキシプロピルアミン、3−アミノプロパノール及び1,2−ジアミノシクロヘキサンである。これらは、単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0083】
脂肪族第一級アミンの使用量は、生成する銀微粒子の後処理等プロセス上の要請や装置から決められるが、カルボン酸の銀塩1当量に対して1当量以上であることが、後述するような、粒子径が制御された銀微粒子を含有する導電ペーストを得ることができることから好ましい。過剰な脂肪族第一級アミンは、加熱により導電ペーストから気化して環境等に影響を及ぼす可能性があるため、1.0〜3.0当量であることが好ましく、より好ましくは1.0〜1.5当量、特に好ましくは1.0〜1.1当量である。
【0084】
カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとの混合は、有機溶媒の非存在下又は存在下に行うことができる。有機溶媒の使用により、混合を容易にすることができる。有機溶媒としては、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、プロピレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらは、単独で、又は2種以上を併用することができる。有機溶媒の使用量は、混合の利便性、後続の工程での銀微粒子の析出の点から、任意の量とすることができる。
【0085】
カルボン酸塩の銀塩と脂肪族第一級アミンとの混合は、例えば、第一級脂肪族アミン、又は第一級脂肪族アミンと有機溶媒の混合物を攪拌しながら、カルボン酸の銀塩を添加して行う。添加終了後も、適宜、攪拌を続けることができる。その間、温度を、20〜80℃に維持することが好ましく、より好ましくは、20〜60℃である。
【0086】
その後、還元剤を添加して、銀微粒子を析出させる。還元剤としては、反応の制御の点から、ギ酸、ホルムアルデヒド、アスコルビン酸又はヒドラジンが好ましく、より好ましくは、ギ酸である。これらは単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0087】
還元剤の使用量は、通常、カルボン酸の銀塩に対して酸化還元当量以上であり、酸化還元当量が、0.5〜5倍であることが好ましく、より好ましくは1〜3倍である。カルボン酸の銀塩がモノカルボン酸の銀塩であり、還元剤としてギ酸を使用する場合、ギ酸のモル換算での使用量は、カルボン酸の銀塩1モルに対して、0.5〜1.5モルであることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.0モル、さらに好ましくは0.5〜0.75モルである。
【0088】
還元剤の添加及びその後の反応においては、温度を20℃〜80℃に維持する。温度は、20〜70℃であることが好ましく、より好ましくは、20〜60℃である。温度がこの範囲にあると、銀微粒子の粒成長が十分であり、生産性も高く、また二次凝集も抑制される。還元剤の添加及びその後の反応に要する時間は、反応装置の規模に依存するが、通常、10分〜10時間である。なお、還元剤の添加及びその後の反応に際して、必要に応じて、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、プロピレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、トルエン等の芳香族炭化水素等の有機溶媒を追加で添加することができる。
【0089】
還元剤の添加及びその後の反応においては、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとを混合した溶液、還元剤、及び任意の有機溶媒の合計の容積(L)に対する、カルボン酸の銀塩の量(mol)が、1.0〜6.0mol/Lの範囲となるようにすることが好ましく、より好ましくは、2.0〜5.0mol/L、さらに好ましくは2.0〜4.0mol/Lである。濃度がこの範囲にあると、反応液の攪拌を十分行い、反応熱を除去することができるため、析出する銀微粒子の平均粒子径が適切となり、ひいては後続する工程での沈降デカント、溶媒置換等の操作に支障を来すこともない。
【0090】
反応容器にカルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとを混合した溶液と任意の有機溶媒を仕込み、還元剤を連続的に供給するセミバッチ方式で反応を行った場合、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとを混合した溶液、還元剤及び任意の有機溶媒の合計の容積1Lにつき、還元剤の添加開始から反応終了までの所要時間1時間当たりの銀微粒子の析出量は、0.3〜1.0mol/h/Lの範囲とすることができ、生産性が非常に大きい。
【0091】
このようにして析出した銀微粒子は粒度分布が狭く、幾何標準偏差を2.0以下とすることができる。本明細書において、幾何標準偏差は、レーザー回折散乱式散乱式粒度分布測定による、個数基準の50%粒子径(D50値)に対する、84.3%粒子径(D84.3値)の比(D84.3値/D50値)をいう。
【0092】
また、このようにして析出した銀微粒子は、通常、略球状であり、1次粒子の平均粒子径が好ましくは40〜350nmであり、より好ましくは40〜100nmであり、さらに好ましくは50〜80nmである。銀微粒子の平均粒子径が上記の範囲であると、銀微粒子の凝集が抑制されるため、導電ペーストの保存安定性が良好である。また微細回路パターン印刷用の導電ペーストとして好適である。
【0093】
また、このようにして析出した銀微粒子は、結晶子径が好ましくは20〜70nmであり、より好ましくは20〜50nmである。銀微粒子の結晶子径が上記の範囲であると、焼成時の体積収縮が抑制されるとともに、焼成によって形成される回路パターンの緻密性や表面平滑性が確保されるので、精密な電子回路用途の導電ペーストとして好適である。
【0094】
なお、本明細書において、平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定による、個数基準に基づく平均粒子径をいう。また、本明細書において、結晶子径は、CuのKα線を線源とした粉末X線回折法による測定から、面指数(1,1,1)面ピークの半値幅を求め、Scherrerの式より計算した結果をいう。
【0095】
また、このようにして析出した銀微粒子は、1次銀微粒子の結晶子径に対する平均粒子径の比(平均粒子径/結晶子径)が1〜5であり、好ましくは1〜4であり、より好ましくは1〜3の範囲である。上記の比がこの範囲であると、導電ペーストの焼成によって得られる回路パターンが、200℃以下の焼成温度で十分な導電性を示す。
【0096】
反応により析出した銀微粒子は沈降させて、デカンテーション等により上澄みを除去するか、又はメタノール、エタノール、テレピネオール等のアルコール等の溶媒を添加して分取することができる。銀微粒子を含む層はそのまま、導電ペーストとして使用することができる。導電ペーストは、導電ペースト中の銀含有率を40〜90質量%とすることが好ましく、より好ましくは45〜80質量%である。
【0097】
上記の手順で得られる導電ペーストの焼成温度は、好ましくは、60〜200℃であり、より好ましくは60〜150℃である。
【0098】
上述したスクリーン印刷法によって回路パターンを形成する場合、使用する支持体は、離型性を有することに加えて、導電ペーストの焼成時に形状や寸法の変化が生じないことが求められる。導電ペーストとして、上述した手順で得られる、銀微粒子を含有する導電ペーストを用いる場合、焼成温度は60〜200℃、より好ましくは60〜150℃である。
このような支持体の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等の樹脂フィルムにシリコーン離型剤で表面処理を施したものが例示される。
【実施例】
【0099】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0100】
(実施例1)
アンテナ基板用フィルムの作成には、下記成分を含有する樹脂組成物を用いた。
(A)成分:ビニル化合物
2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチルビフェニル−4,4’−ジオール-2、6−ジメチルフェノールとクロロメチルスチレンとの反応生成物(三菱ガス化学株式会社製;「OPE−2st」;数平均分子量1200) 54.3部
(B)成分:熱可塑性エラストマー
スチレン−ブタジエンブロック共重合体(JSR株式会社製:「TR2003」:質量平均分子量約10万、スチレン含有量43質量%) 36.2部
(C)成分:ウレタンプレポリマー
還流冷却器、攪拌翼、温度計を備えた2000mlの四つ口フラスコにトルエン600g、ポリオール(「エポールPIP−H」、出光石油化学製;sp=8.20)633.3g、1,4−ブタンジオール33.3g、イソホロンジイソシアネート233.3gを仕込み、均一に溶解した後、触媒としてトリエチレンジアミン0.06gを加えた。フラスコ内部温度が70℃から80℃となるように加熱し、ウレタン化反応を7時間行った。その後、冷却して固形分あたりの遊離イソシアネート量が3.5質量%のウレタンプレポリマーのトルエン溶液を得た。 9部
(D)成分:シランカップリング剤
γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(「KBM−5103」、信越化学工業株式会社製) 0.5部
【0101】
上記各成分をスリーワンモーター(新東科学株式会社製、BLW1200)を用いて周速度400rpmで乾式混合し樹脂組成物を調製した。該樹脂組成物を溶媒メチルエチルケトンに加えて加熱攪拌してワニス(固形分濃度約30質量%)を調製した。該ワニスを支持体であるPETフィルム(厚さ50μm)にグラビアコーターで塗布した後、80〜120℃で10分間乾燥し、放置冷却することにより、支持体付のアンテナ基板用フィルムを得た。アンテナ基板用フィルムの膜厚は30mで均一であった。
【0102】
上記の手順で得られたアンテナ基板用フィルムについて、以下の評価を実施した。
【0103】
誘電率(ε)、誘電正接(tanδ):上記の手順で得られたアンテナ基板用フィルムを200℃ 60min加熱硬化させた後、該フィルムから試験片(40±0.5mm×100±2mm)を切り出し、厚みを測定した。試験片を長さ100mm、直径2mm以下の筒状に丸めて、空洞共振器摂動法(20GHz)にて、誘電率(ε)および誘電正接(tanδ)を測定した。その結果、誘電率(ε)は2.4であり、誘電正接(tanδ)は0.0025であった。
【0104】
粘着性:タッキネス試験機(株式会社レスカ製、タック−II)を用いて、プローグの押込速度1.0mm/min、試験速度600mm/min、初期荷重100gf、加圧時間1.0sec、温度20〜200℃でアンテナ基板用フィルムのタック荷重の変化を測定した。その結果、回路パターンを転写する際の温度域(100〜150℃)において粘着性に優れていること(粘着性が30〜500gfの範囲であること)が確認された。
【0105】
次に、上記手順で得られたアンテナ基板用フィルムを用いて、図3(a)〜(f)の手順を実施することにより、フィルムアンテナを作成した。
回路パターン40を形成する離型性を有する支持体30には、スペリオ(登録商標)UT(三菱樹脂株式会社製のポリイミドフィルム)を用いた。
【0106】
回路パターン40の形成に使用する導電ペーストは以下の手順で作成した。
10Lのガラス製反応容器に3−メトキシプロピルアミン3.0kg(30.9mol)を入れた。撹拌しながら、反応温度を45℃以下に保持しつつ、酢酸銀5.0kg(30.0mol)を添加した。添加直後は、透明な溶液となり溶解していくが、添加が進むにつれ溶液が次第に濁り、全量を添加すると灰茶濁色の粘調溶液となった。そこへ95質量%のギ酸1.0kg(21.0mol)をゆっくり滴下した。滴下直後から激しい発熱が認められたが、その間、反応温度を30〜45℃に保持した。当初、灰濁色の粘調溶液が、茶色から黒色へ変化した。全量を滴下した後反応を終了させた。反応混合物を40℃で静置すると二層に分かれた。上層は黄色の透明な液であり、下層には黒色の銀微粒子が沈降した。上層の液には、銀成分が含まれていなかった。上層の液をデカンテーションで除去し、メタノールを使用して層分離させて銀含有率65質量%の導電ペーストを得た。ギ酸の滴下開始から反応終了までに要した時間は6時間であった。また、反応容積当たり銀微粒子の析出量は、0.57mol/h/Lであった。なお、銀含有率は、導電ペースト約3gをルツボに採取し精秤した後、電気炉を使用し、800℃で0.5時間焼成して有機生成物を除去して質量を測定し、算定した値である。
【0107】
上記の手順で得られた導電ペースト約0.5gを、分散水(AEROSOL 0.5%含有水)50ccに添加し、超音波分散機で5分間分散した。分散試料を、ベックマン・コールター社製の3(LS230)により測定し、個数基準に基づき、平均粒子径、10%粒子径(D10値)、25%粒子径(D25値)、50%粒子径(D50値)、75%粒子径(D75値)、90%粒子径(D90値)、84.3%粒子径(D84.3値)を測定し、さらに幾何標準偏差(50%粒子径(D50値)に対する84.3%粒子径(D84.3値)の比)を求めた。結果を以下に示す。
平均粒子径:61nm
D10:46
D25:51
D50:61
D75:69
D90:80
D84.3:75
幾何標準偏差:1.23
マックサイエンス社製X線回折測定装置(M18XHF22)による測定によって、CuのKα線を線源とした面指数(1,1,1)面ピークの半値幅を求め、Scherrerの式より結晶子径を計算した。その結果、結晶子径は40nmであった。また、この結果と上記の平均粒子径の測定結果から、平均粒子径/結晶子径は1.5となる。
【0108】
上記の手順で得られた導電ペーストを支持体30上に所定の回路パターン形状となすようにスクリーン印刷した後、200℃、10min焼成することによって、該支持体30上に回路パターン40を形成した。
なお、図3(f)に示す手順で使用する回路パターン80を有する支持体70も同様の手順で作成した。
【0109】
次に、図3(b)に示すように、上記の手順で得られた支持体20付のアンテナ基板用フィルム10と、上記の手順で回路パターン40を形成した支持体30と、を真空プレス(1MPa)により、150℃で30sec加熱圧着させて、アンテナ基板用フィルム10に回路パターン40を転写させた。
【0110】
次に、図3(c)に示すように、ジャンパーを形成するための孔50をパンチングにより形成した。スクリーン印刷を実施することにより、形成された孔50に上記の手順で作成した導電ペーストを充填することで、アンテナ基板用フィルムの両面に形成される回路パターンの導通を確保するためのジャンパー60を形成した。
【0111】
次に、図3(e)に示すように、アンテナ基板用フィルム10から支持体20を剥離した後、図3(f),(g)に示すように、アンテナ基板用フィルム10と、回路パターン80が形成された支持体70と、を真空プレス(1MPa)により、200℃で60min加熱圧着させて、アンテナ基板用フィルム10に回路パターン80を転写し、かつ、アンテナ基板用フィルム10を加熱硬化させた。
【0112】
次に、図3(h)に示すように、支持体30,70を剥離することにより、アンテナ基板用フィルム10の両面に回路パターン40,80が形成されたフィルムアンテナを得た。
得られたフィルムアンテナでは回路パターン40,80の位置ずれはマイクロスコープで認められなかった。
【0113】
(実施例2)
実施例1と同様の手順で支持体付きのアンテナ基板用フィルムを作成する。但し、支持体であるPETフィルムのワニスを塗布する面上にガラス繊維(1000TF、旭化成イーマテリアル社製)を配置した状態でワニスを塗布することで、ガラス繊維にワニスを含浸させる。ワニスの塗布後、80〜120℃で10分間乾燥し、放置冷却することにより、ガラス繊維に樹脂組成物を含浸させてなる、支持体付きのアンテナ基板用フィルムが得られる。
得られるアンテナ基板用フィルムは、実施例1のアンテナ基板用フィルムと同様の物性(誘電率(ε)、誘電正接(tanδ)、粘着性)を有する。
また、実施例1と同様に、得られるアンテナ基板用フィルムを用いて、図3(a)〜(f)の手順を実施することにより、フィルムアンテナを作成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明のフィルムアンテナは、周波数1〜60GHzの高周波領域で低誘電率(ε)、および、低誘電正接(tanδ)を示すことから、当該周波数領域の電波の受信に用いるフィルムアンテナ、例えば、第3世代の携帯電話やPHS、無線LAN、GPS、VICS、ETC、車載用レーダー等に用いられるフィルムアンテナとして好適である。
【符号の説明】
【0115】
10:アンテナ基板用フィルム
20,30,70,110,130:支持体
40,80:回路パターン
50:孔
60:ジャンパー
100,120:カバーフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるビニル化合物(A)、ゴムおよび/または熱可塑性エラストマー(B)、少なくとも1分子中に2個以上のイソシアネート基またはブロックされたイソシアネート基を含むウレタンプレポリマー(C)、および、シランカップリング剤(D)を含有し、前記(A)成分と、前記(B)成分と、の質量割合が3:7〜7:3である樹脂組成物を用いて作成される、アンテナ基板用フィルム。
【化1】


[式(1)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のハロゲン化アルキル基またはフェニル基を表し、複数のR1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は、同一であっても異なっていてもよい。
−(O−X−O)−は下記式(2)で表される構造であり、−(Y−O)−は下記式(3)で表される繰返し単位であり、Zは酸素原子、窒素原子、イオウ原子、ハロゲン原子を含んでいてもよい炭素原子数1〜3の有機基を表す。
aおよびbは少なくとも一方が0でない0〜300の整数を表し、cおよびdは、それぞれ独立に0または1の整数を表す。]
【化2】


[式(2)中、R8、R9、R10、R14およびR15は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基を表し、R11、R12およびR13は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基を表す。
式(3)中、R16およびR17は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基を表し、R18およびR19は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基を表す。]
【請求項2】
前記(A)成分の−(O−X−O)−が下記式(4)で表される構造であり、前記−(Y−O)−が下記式(5)または(6)で表される繰返し単位である、請求項1に記載のアンテナ基板用フィルム。
【化3】

【請求項3】
前記(A)成分の−(Y−O)−が前記式(6)で表される繰返し単位である、請求項2に記載のアンテナ基板用フィルム。
【請求項4】
前記(B)成分がスチレン系熱可塑性エラストマーである、請求項1〜3のいずれかに記載のアンテナ基板用フィルム。
【請求項5】
前記ウレタンプレポリマー(C)の原料イソシアネート基を含む化合物が、イソホロンジイソシアネートまたはヘキサメチレンジイソシアネートである、請求項1〜4のいずれかに記載のアンテナ基板用フィルム。
【請求項6】
前記(D)成分がビニルシラン系シランカップリング剤、(メタ)アクリロキシシラン系シランカップリング剤、イソシアネートシラン系シランカップリング剤、エポキシシラン系シランカップリング剤、アミノシラン系シランカップリング剤、メルカプトシラン系シランカップリング剤、クロロプロピルシラン系シランカップリング剤、および、これらシランカップリング剤のオリゴマーからなる群から選択される少なくとも1つのシランカップリング剤である、請求項1〜5のいずれかに記載のアンテナ基板用フィルム。
【請求項7】
前記樹脂組成物を無機繊維または有機繊維に含浸させてなる、請求項1〜6のいずれかに記載のアンテナ基板用フィルム。
【請求項8】
離型性を有する支持体上に形成された回路パターンを、請求項1〜7のいずれかに記載のアンテナ基板用フィルム上に転写する工程、および、前記アンテナ基板用フィルムを加熱硬化させる工程を有する、フィルムアンテナの製造方法。
【請求項9】
前記支持体上に形成された回路パターンが、金属微粒子を含有する導電ペーストを焼成させてなる、請求項8に記載のフィルムアンテナの製造方法。
【請求項10】
前記金属微粒子を含む導電ペーストが、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンの混合溶液に、還元剤を添加して銀微粒子を析出させることによって得られる、請求項9に記載のフィルムアンテナの製造方法。
【請求項11】
前記カルボン酸の銀塩が、酢酸銀、プロピオン酸銀及び酪酸銀からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項10に記載のフィルムアンテナの製造方法。
【請求項12】
前記脂肪族第一級アミンが、3―メトキシプロピルアミン、3−アミノプロパノール及び1,2−ジアミノシクロヘキサンからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項10または11に記載のフィルムアンテナの製造方法。
【請求項13】
前記還元剤が、ギ酸、ホルムアルデヒド、アスコルビン酸及びヒドラジンからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項10〜12のいずれかに記載のフィルムアンテナの製造方法。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれかに記載のフィルムアンテナの製造方法により作成されるフィルムアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−52064(P2012−52064A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197683(P2010−197683)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(591252862)ナミックス株式会社 (133)
【Fターム(参考)】