説明

フィルムキャパシタ用フィルムの製造方法及びフィルムキャパシタ用フィルム

【課題】 スジやシワ及びダイラインの発生が抑制された耐熱性、耐電圧性、摺動性等に優れたフィルムキャパシタ用フィルムを容易かつ確実に製造可能なフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】 押出機による溶融樹脂の押し出し開始時に、Tダイス7のリップ部7aからポリエーテルイミド樹脂単体を溶融押し出ししてポリエーテルイミド樹脂単体のフィルムを成形後、前記ポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂を含む樹脂組成物に切替えて前記Tダイスから継続して当該樹脂組成物のフィルムを押出成形すると、Tダイス7のリップ部7aの流路面にポリエーテルイミド樹脂単体の極薄の皮膜8aによって被覆された状態で、中心部に、この皮膜8aと親和性があるポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂を含む樹脂組成物層8bが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムキャパシタ用フィルムの製造方法及びフィルムキャパシタ用フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
キャパシタは、誘電体の種類により、フィルムキャパシタ、セラミックキャパシタ及びアルミ電解キャパシタの3種類に区別することができる。これら3種類のキャパシタの中でもフィルムキャパシタは、絶縁性が高く、誘電損失が小さく、温度や周波数に対する特性変化が小さい等の特性で他のキャパシタより優れている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0003】
このフィルムキャパシタ用フィルムは、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF樹脂)、ポリ四フッ化エチレン樹脂(PTFE樹脂)、ポリイミド樹脂(PI樹脂)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)あるいはポリエチレンナフタレート樹脂(PEN樹脂)等により誘電層が形成され、この誘電層を挟んで形成される金属蒸着層が電極として形成されることで実用化されている。
【0004】
現在、実用化されているフィルムキャパシタ用フィルムは、PP樹脂、PET樹脂、PPS樹脂及びPEN樹脂の4種類の樹脂から得られるフィルムであり、他の樹脂から得られるフィルムは、コストや加工適性に問題があるので、ほとんど使用されなくなってきている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、PP樹脂製及びPET樹脂製のフィルムキャパシタ用フィルムは、PP樹脂の使用温度が105℃以下であり、PET樹脂の使用温度が125℃以下なので耐熱性に劣る。従って、例えば、150℃以上の耐熱性を必要とされるハイブリッド車のフィルムキャパシタ用フィルムとして使用するには、(1)軽量化の要請を無視して大型の冷却装置を設置する方法、(2)スペース効率を無視して熱源のエンジンルームから遠く離れた運転席側等にキャパシタを設置する方法を採用せざるを得ず、軽量化やコストの点が解決すべき問題となっている。
【0006】
これに対し、PPS樹脂製のフィルムキャパシタ用フィルムは、使用温度が160℃以下で、良好な耐熱性が得られるものの、絶縁破壊電圧が低く、耐電圧性に劣るため、使用範囲が限定されることになる。また、PEN樹脂製のフィルムキャパシタ用フィルムは、使用温度が160℃以下で、良好な耐熱性が得られるものの、誘電損失が大きく、誘電正接の温度依存性が大きいので、使用範囲が限定されることになる(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0007】
上記に鑑み、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)製のフィルムがフィルムキャパシタ用フィルムとして注目されている(特許文献1参照)。ポリエーテルイミド樹脂製のフィルムキャパシタ用フィルムは、ガラス転移点が200℃以上で耐熱性に優れ、絶縁破壊電圧が高く耐電圧性に優れ、誘電正接の周波数依存性と温度依存性が小さいためフィルムキャパシタ用フィルムとして好適である。
【0008】
フィルムキャパシタ用フィルムとしては、フィルム厚さが10μm以下の薄膜が使用されている。しかし、ポリエーテルイミド樹脂製のフィルムは、フィルムの滑り性(または摺動性)に劣るため、例えば、フィルム製造時のフィルムの巻取りやスリット等の作業に支障を来したり、フィルムに皺が発生したり、フィルム製造時の案内ロール等に巻き付いたりという問題が生じることがある。また、キャパシタ組立て時にフィルムがブロッキングし、巻回されたフィルムを巻き解いた際に、フィルムが破断して、組立てに支障を来すことがある。従って、ポリエーテルイミド樹脂製のフィルムをフィルムキャパシタ用フィルムとして使用するには、摺動性を改良する必要がある。
【0009】
上記特許文献1においては、フィルムキャパシタ用フィルムとして、ポリエーテルイミド樹脂製フィルム表面を、フッ素化雰囲気中でプラズマ処理を施してポリエーテルイミド樹脂製フィルム表面にフッ素化表面を形成したものを使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】狩野 順史、「キャパシタ用フィルムの技術動向」、コンバーテック、No.40、2006年7月号、P82〜P88
【非特許文献2】電波新聞、ハイテクノロジー、第1142号、2008年1月24日発行
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−300126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1記載のポリエーテルイミド樹脂製フィルム表面にフッ素化表面を形成したフィルムは、フィルムの摺動性を改善することが可能である。しかしながら、この特許文献1記載のように、ポリエーテルイミド樹脂製フィルム表面を、フッ素化雰囲気中でのプラズマ処理を施して形成する場合には、プラズマ処理装置を必要とし、製造が煩雑となるだけでなく、製造コストが上昇する問題がある。
【0013】
一方、ポリエーテルイミド樹脂製のフィルムキャパシタ用フィルムに摺動性を付与するには、耐電圧性に影響を及ぼさずに必要な摺動性を付与でき、300℃を超える成形加工温度においても熱的に安定であるという理由から、フッ素樹脂を添加する方法が考えられる。
【0014】
ところが、ポリエーテルイミド樹脂にフッ素樹脂を添加した樹脂組成物を成形材料として溶融押出成形法でフィルムキャパシタ用フィルムを成形した場合、押出機で溶融混練された樹脂組成物がTダイスから押し出される際、ポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂が分離して、ポリエーテルイミド樹脂がTダイスのリップ部流路面へ不均一に付着する。これについて図5に基づいて説明する。図5は、従来のフィルム製造方法によって成形されるフィルムのTダイスのリップ部近傍の断面図である。即ち、図5に示すように、ポリエーテルイミド樹脂は金属との親和性が高いのに対し、フッ素樹脂は金属との剥離性を有するために、リップ部7aの流路面にポリエーテルイミド樹脂Pが付着している部分とフッ素樹脂Fが当該流路面に顕出してフッ素樹脂Fの剥離性によってポリエーテルイミド樹脂が付着していない部分とが縞状になり、これによって押し出されたフィルムキャパシタ用フィルムにスジが入り、スジの部分とスジのない部分とで応力の差が生じてシワが発生し、フィルムキャパシタ用フィルムの価値が著しく損なわれる問題が発生する。
【0015】
また、フィルムの溶融押出成形時の加工温度が300℃を超えるため、リップ部7aの流路面に付着したポリエーテルイミド樹脂Pが酸化劣化してメヤニ状の固着物を形成し、フィルムキャパシタ用フィルムにメヤニ状固着物に擦られたことによるダイラインが発生する。
【0016】
本発明は、上記に鑑みなされたもので、スジやシワ及びダイラインの発生が抑制された耐熱性、耐電圧性、摺動性等に優れたフィルムキャパシタ用フィルムを容易かつ確実に製造可能なフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法及びこの製造方法によって製造されたフィルムキャパシタ用フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明は、成形材料を押出機に投入してTダイス先端のリップ部からフィルムキャパシタ用フィルムを溶融押し出しし、当該押し出ししたフィルムキャパシタ用フィルムを引取機内の圧着ロールと冷却ロールとの間に挟んで冷却し、当該冷却した所定厚さのフィルムキャパシタ用フィルムを巻取機に巻き取るフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法であって、前記押出機内の空気を不活性ガスで置換した不活性ガス雰囲気下で、前記押出機の押し出し開始時点から前記成形材料としてポリエーテルイミド樹脂単体を溶融押し出しし、その後、前記成形材料をポリエーテルイミド樹脂100質量部にフッ素樹脂を1.0〜30.0質量部添加した樹脂組成物へ切替えて前記フィルムキャパシタ用フィルムを成形することを特徴とする。
【0018】
また、上記発明において、前記所定厚みは、10μm以下の厚みであることを特徴とする。
【0019】
また、上記発明において、前記ポリエーテルイミド樹脂単体の溶融押し出しは、30分以上、2時間以内で行うことを特徴とする。
【0020】
また、上記発明において、前記不活性ガスとして窒素ガスを使用し、当該窒素ガスの前記押出機内への供給量を1時間当たりの押出量1kgにつき10L/時以上、100L/時以下とすることを特徴とする。
【0021】
また、上記発明において、前記樹脂組成物は、ポリエーテルイミド樹脂100質量部にフッ素樹脂を1.0質量部〜30.0質量部を添加した樹脂組成物100質量部に対してフッ素系界面活性剤を0.05質量部〜5.0質量部を添加した樹脂組成物で構成されていることを特徴とする。
【0022】
また、本発明は上記フィルムキャパシタ用フィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とするフィルムキャパシタ用フィルムとしたものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、押出機内の空気を不活性ガスで置換した不活性ガス雰囲気下で、前記押出機の押し出し開始時点から前記成形材料としてポリエーテルイミド樹脂単体を溶融押し出しし、その後、前記成形材料をポリエーテルイミド樹脂100質量部にフッ素樹脂を1.0〜30.0質量部添加した樹脂組成物へ切替えて前記フィルムキャパシタ用フィルムを成形することによって、スジやシワ及びダイラインの発生が抑制された耐熱性、耐電圧性、摺動性等に優れたフィルムキャパシタ用フィルムを容易かつ確実に製造可能なフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法及びこの製造方法によって製造されたフィルムキャパシタ用フィルムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明によるフィルム製造方法によって成形されるフィルムのTダイスのリップ部近傍の断面図である。
【図2】本発明による一実施形態のフィルム製造装置の概略構成を示す図である。
【図3】図2に示すフィルム製造装置の材料投入ホッパー周辺の断面図である。
【図4】本発明による実施例及び比較例の混合組成、窒素供給量、ポリエーテルイミド樹脂単体押出時間と、製造安定性、フィルム評価との関係を示す表図である。
【図5】従来のフィルム製造方法によって成形されるフィルムのTダイスのリップ部近傍の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者らは、上記目的を達成するために、種々検討した結果、押出機の押し出し開始時に、成形材料としてポリエーテルイミド樹脂単体を使用し、Tダイスのリップ部から当該ポリエーテルイミド樹脂単体のフィルムを押出成形した後に、成形材料としてポリエーテルイミド樹脂100質量部にフッ素樹脂を1.0質量部〜30.0質量部を含む樹脂組成物に切替えて前記Tダイスから継続して当該樹脂組成物のフィルムを押出形成すると、押し出されたフィルムキャパシタ用フィルムにスジやシワの発生が抑制されたフィルムキャパシタ用フィルムを容易に製造することができることを究明した。
【0026】
さらに、検討の結果、押出機内の空気を不活性ガスで置換することにより、Tダイスのリップ部流路面に形成され易いポリエーテルイミド樹脂単体からなる皮膜の酸化劣化が抑制され、メヤニ状の固形物とダイラインの発生を減少させることができることを究明し、本発明を完成させるに至った。
【0027】
この究明について、図1に基づいて説明する。図1は、本発明によるフィルム製造方法によって成形されるフィルムのTダイスのリップ部近傍の断面図である。
即ち、図1に示すように、押出機による溶融樹脂の押し出し開始時に、Tダイス7のリップ部7aからポリエーテルイミド樹脂単体を溶融押し出ししてポリエーテルイミド樹脂単体のフィルムを成形後、前記ポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂を含む樹脂組成物に切替えて前記Tダイスから継続して当該樹脂組成物のフィルムを押出成形すると、Tダイス7のリップ部7aの流路面にポリエーテルイミド樹脂単体の極薄の皮膜8aが形成される。そして、この皮膜8aによってTダイス7の流路面が被覆された状態で、中心部に、この皮膜8aと親和性があるポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂とを含む樹脂組成物層8bが形成される。その結果、Tダイスのリップ部7aの流路面とのポリエーテルイミド樹脂の親和性に基づく前記樹脂組成物中のポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂の分離が抑制されると共に、ポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂を含む樹脂組成物層8bによる耐熱性、耐電圧性、摺動性が維持された状態で、スジ、シワの発生が抑制されたフィルム8を容易かつ確実に成形することができる。
【0028】
この場合に、押出機内の空気を不活性ガスで置換することにより、リップ部7aの流路面のポリエーテルイミド樹脂単体からなる皮膜8aの酸化劣化を抑え、メヤニとダイラインの発生を減少させることができる。
【0029】
フィルムキャパシタ用フィルムとして必要な耐電圧性は、キャパシタの性能保証の観点から最小絶縁破壊電圧が指標となる。この値が1,000V以上あると実用に好適で、さらにはキャパシタの小型化の点でも利点となる。また、摺動性は、摩擦抵抗値が指標となり、この値が0.5以下であるとキャパシタ組み立て時にフィルムキャパシタ用フィルムがブロッキングするといった不具合の発生を抑制することができる。
【0030】
本発明によれば、ガラス転移点が200℃以上のポリエーテルイミド樹脂を主成分とする成形材料を使用するので、仮に150℃以上の温度でも使用可能な耐熱性を得ることができる。また、フィルムキャパシタ用フィルムの絶縁破壊電圧が1,000Vを上回るので、薄いフィルムキャパシタ用フィルムに十分な耐電圧性を付与できる。
【0031】
また、本発明に用いるポリエーテルイミド樹脂は、特に限定されないが、例えば、下記化学式(1)又は(2)で表される繰り返し単位を有する樹脂が挙げられる。
【化1】

【化2】

【0032】
ポリエーテルイミド樹脂の製造方法としては、例えば、特公昭57−9372号公報あるいは特表昭59−500867号公報等の記載の方法等が挙げられる。このポリエーテルイミド樹脂の具体例としては、ガラス転移点が211℃のUltem 1000−1000(SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製、商品名)、ガラス転移点が223℃のUltem 1010−1000の(SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製、商品名)、ガラス転移点が235℃のUltem CRS5001−1000の(SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製、商品名)等が挙げられる。
【0033】
ポリエーテルイミド樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で他の共重合可能な単量体とのブロック共重合体、ランダム共重合体あるいは変性体も使用可能である。例えば、ポリエーテルイミドサルフォン共重合体であるガラス転移点が252℃のUltem XH6050−1000(SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社、商品名)を使用することができる。また、ポリエーテルイミド樹脂は、1種類を単独または2種類以上をアロイ化あるいはブレンドして使用しても構わない。
【0034】
フィルムキャパシタ用フィルムの成形材料には、本発明の特性を損なわない範囲で、ポリイミド樹脂(PI樹脂)あるいはポリアミドイミド樹脂(PAI樹脂)等の熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)あるいはポリエーテルケトン樹脂(PK樹脂)等のポリアリーレンケトン系樹脂、ポリサルホン樹脂(PSU樹脂)、ポリエーテルサルホン樹脂(PES樹脂)あるいはポリフェニレンサルホン樹脂(PPSU樹脂)等の芳香族ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂(PPS樹脂)、ポリフェニレンスルフィドスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィドケトン樹脂等のポリアリーレンサルフィド系樹脂、液晶ポリマー(LCP)等の公知の熱可塑性樹脂を添加することができる。液晶ポリマーはI型、II型あるはIII型のいずれ液晶ポリマーも使用可能である。
【0035】
本発明では、フィルムキャパシタ用フィルムに摺動性を付与するため、ポリエーテルイミド樹脂に特定の溶融粘度を有するフッ素樹脂を混合する。フッ素樹脂は、温度360℃、荷重50kgfの条件下、直径1.0mm、長さ10mmのダイスを用いてフローテスターで測定した溶融粘度が120,000ポイズ以下の、分子構造の主鎖にフッ素原子を持つ化合物である。フッ素樹脂の溶融粘度が120,000ポイズを越えるとフッ素樹脂の流動性が著しく低下するため、フィルムキャパシタ用フィルム表面にフッ素樹脂の微小な突起が現れ、フィルムキャパシタ用フィルムの絶縁破壊電圧が低下し、耐電圧性に問題が生じる。さらに、高溶融粘度で流動性が非常に小さいためゲルとなり、このゲル部分からフィルムキャパシタ用フィルムに穴開きが生じたり、フッ素樹脂の分散不良によりフィルムキャパシタ用フィルムの機械的性質が低下し、フィルムキャパシタ用フィルムの製造中に破断し易くなるため薄いフィルムキャパシタ用フィルムの製造が困難という問題が生じる。
【0036】
フッ素樹脂は、通常、融点未満の温度では固体状が好ましい。例えば、フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(四フッ化エチレン樹脂、融点:325〜330℃、連続使用温度:260℃、以下、PTFE樹脂と略す)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(四フッ化エチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体樹脂、融点:300〜315℃、連続使用温度:260℃、以下、PFA樹脂と略す)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピル共重合体(四フッ化エチレン-六フッ化プロピル共重合体樹脂、融点270℃、連続使用温度:200℃、以下、FEP樹脂と略す)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(四フッ化エチレン-エチレン共重合体樹脂、融点:260〜270℃、連続使用温度:150℃、以下、ETFE樹脂と略す)、ポリビニリデンフルオライド(フッ化ビニリデン樹脂、融点:170〜175℃、連続使用温度:150℃、以下、PVDF樹脂と略す)、ポリクロロトリフルオロエチレン(三フッ化塩化エチレン樹脂、融点:210〜215℃、連続使用温度:120℃、以下、PCTFE樹脂と略す)等を挙げることができる。これらフッ素樹脂の中では、連続使用温度が200℃以上と耐熱性に優れ、コスト及び取り扱いやすさの点からPFA樹脂とFEP樹脂が好ましい。PFA樹脂とFEP樹脂は、単独あるいはブレンドして使用しても構わない。
【0037】
なお、熱可塑性樹脂成形物あるいは熱硬化性樹脂成形物に摺動性を付与する場合は、一般的にはPTFE樹脂を添加する方法が効果的である。ただし、PTFE樹脂は連続使用温度が260℃で耐熱性に優れているが、溶融粘度が非常に高いため溶融流動性がほとんど認められない。従って、熱可塑性樹脂に添加し、熱可塑性樹脂との組成物を作製し、この組成物から溶融押出成形法により製造したフィルムキャパシタ用フィルム中でPTFE樹脂は微小な粒子として存在するため、無機化合物を添加した場合と同様にフィルムキャパシタ用フィルム表面にPTFE樹脂の微小な突起が形成され、フィルムキャパシタ用フィルムの絶縁破壊電圧が低下し、耐電圧性に問題が生じる。さらに、高溶融粘度で流動性が非常に小さいためゲルとなり、このゲル部分からフィルムキャパシタ用フィルムに穴開きが生じたり、フッ素樹脂の分散不良によりフィルムキャパシタ用フィルムの機械的性質が低下し、フィルムキャパシタ用フィルムの製造中に破断し易くなるため薄いフィルムキャパシタ用フィルムの製造が困難という問題が生じる。
【0038】
液状のフッ素樹脂は、溶融押出成形後のキャパシタ用フィルムからブリードし、フィルムキャパシタ用フィルムの両面に形成される電極としての金属蒸着不良を引き起こしたり、金属蒸着後金属が剥がれるあるいはキャパシタ内を汚染する等の悪影響を及ぼす虞があるため好ましくない。
【0039】
フッ素樹脂の添加量は、ポリエーテルイミド樹脂100質量部に対して1.0質量部〜30.0質量部の範囲で添加され、好ましくは1.0質量部〜20.0質量部、より好ましくは1.0質量部〜10.0質量部の範囲である。フッ素樹脂の添加量が1.0質量部未満の場合は、フィルムキャパシタ用フィルムに摺動性を十分に付与することができない。30.0質量部を越えて添加してもフィルムキャパシタ用フィルムの摺動性改善効果に変化は無く、30.0質量部以下の添加量で十分である。さらに、30.0質量部を越えて添加するとフッ素樹脂の割合が多くなるため絶縁破壊電圧が低下し、フィルムキャパシタ用フィルムとしての適性が低下する。その上、引張強度が低下し、フィルムキャパシタ用フィルムの製造中に破断しやくなるため薄いフィルムキャパシタ用フィルムの製造が困難になったり、フィルムキャパシタ用フィルムに穴開きが発生したり、金属の蒸着性能に悪影響を及ぼす虞がある。
【0040】
ポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂との樹脂組成物からなる成形材料には、本発明の特性を損なわない範囲で、フッ素系界面活性剤、滑剤等を添加することができる。
【0041】
フッ素系界面活性剤として好適なものは、分解温度が380℃以上の化合物である。これは、ポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂との樹脂組成物の成形加工温度が380℃程度にまで達することがあるからである。フッ素系界面活性剤の具体例としては、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム(CFSOK)、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム(CFSONa)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(CFSOLi)、ペンタフルオロエタンスルホン酸カリウム(CSOK)、ペンタフルオロエタンスルホン酸ナトリウム(CSONa)、ペンタフルオロエタンスルホン酸リチウム(CSOLi)、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸カリウム(C37SOK)、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸ナトリウム(C37SONa)、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸リチウム(C37SOLi)、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム(C49SOK)、ノナフルオロブタンスルホン酸ナトリウム(C49SONa)、ノナフルオロブタンスルホン酸リチウム(C49SOLi)、ビス(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドカリウム塩((C37SO2) 2NK)、ビス(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドナトリウム塩((C37SO2) 2NNa)、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドカリウム塩((C49SO2) 2NK)、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドナトリウム塩((C49SO2) 2NNa)、シクロ−ヘキサフルオロプロパン-1,3-ビス(スルホニル)イミドカリウム塩(CF(CFSONK)、シクロ−ヘキサフルオロプロパン-1,3-ビス(スルホニル)イミドナトリウム塩(CF(CFSONNa)等が挙げられる。
【0042】
フッ素系界面活性剤は、フッ素樹脂の分散安定化の機能を有していて、フッ素樹脂のポリエーテルイミド樹脂中への均一分散性と分散安定性を向上させる。この添加量は、ポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂とからなる樹脂組成物100質量部に対し0.05質量部〜5.0質量部の範囲が好ましい。添加量が0.05質量部未満では、添加した効果が発現しない。反対に、5.0質量部を超えると未溶融物が残ったり、滑性が過多になって溶融押出成形時に押し出しが不安定になるので好ましくない。
【0043】
滑剤として好適なものは、カルボン酸とジアミンを反応させて製造したアマイド系ワックスであって、その中でもカルボン酸として高級脂肪族モノカルボン酸及び多塩基酸の混合物を反応させて製造した軟化点が200℃を超える高級脂肪酸ポリアマイドである。高級脂肪族モノカルボン酸としては炭素数16以上の飽和脂肪族モノカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸が好ましく、具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。多塩基酸としては二塩基酸以上のカルボン酸であり、具体例としては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキシルコハク酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。ジアミンとしては、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、トリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン等が挙げられる。この化合物の具体例としては、エチレンジアミン/ステアリン酸/セバシン酸重縮合物が挙げられる。
【0044】
上記滑剤は、溶融押出成形時の溶融樹脂へ押出機やダイスの金属面に対する滑性を与え、特にダイリップ部への溶融樹脂の付着を防止してダイラインの発生を低減する効果がある。この添加量は、ポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂とからなる樹脂組成物100質量部に対し0.05〜2.0質量部の範囲が好ましい。添加量が0.05質量部未満では、添加した効果が発現しない。反対に、2.0質量部を超えると滑性が過多になって溶融押出成形時に押し出しが不安定になるので好ましくない。
【0045】
本発明におけるフィルムキャパシタ用フィルムは、Tダイスを用いた溶融押出成形法により製造する。ポリエーテルイミド樹脂単体又はポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂との樹脂組成物からなる成形材料を、単軸押出機あるいは二軸押出機等の押出機を使用して、押出機内及び成形材料間の間隙に存在する空気を不活性ガスで置換した雰囲気下で溶融混練し、押出機先端に配置されたTダイス先端のリップ部からフィルムキャパシタ用フィルムを溶融押し出しし、このフィルムキャパシタ用フィルムを引取機内の圧着ロールと冷却ロールとの間に挟んで冷却し、次いで巻取機で巻取管に順次巻取り、フィルムキャパシタ用フィルムを製造する方法である。
【0046】
本発明による一実施形態に係るフィルムキャパシタ用フィルムの製造装置の概略構成について、図2及び図3に基づいて説明する。図2は、本発明による一実施形態のフィルム製造装置の概略構成を示す図である。図3は、図2に示すフィルム製造装置の材料投入ホッパー周辺の断面図である。
図2に示すように、本発明による一実施形態に係るフィルムキャパシタ用フィルムの製造装置は、成形材料を投入する材料投入ホッパー2、押出機1、Tダイス7、引取機11、巻取機15を備えている。そして、成形材料を投入する材料投入ホッパー2には、図3に示すように、ガス供給用パイプ3がスペーサー3aを介して挿入されている。そして、ガス供給用パイプ3は、その先端を材料投入口1cの中央部を通して押出機1の押出スクリュー1aの外周端近傍まで延設されている。従って、材料投入ホッパー2から投入される成形材料中及び押出機1内に含まれる酸素は、押出機1の押出スクリュー1aで成形材料が混合、撹拌される際に、不活性ガスで置換される。なお、この点については、後述する。
【0047】
押出機1は、押出スクリュー1aで成形材料を混合、撹拌しながら矢印B方向に搬送すると共に、シリンダー1b内に組み込まれた電熱手段で、成形材料を加熱、溶融する。このようにして溶融されて搬送される成形材料は、接続管4を介してフィルター手段に送給される。そして、フィルター5によって、未溶融の成形材料を分離し、溶融された成形材料をギヤポンプ6へ送給する。ギヤポンプ6では、溶融された成形材料の圧力を高めながらTダイス7に溶融成形材料を押し出す。Tダイス7では、所定圧力で溶融成形材料を押し出し、Tダイス7のリップ部7aから所定厚み、所定幅のフィルム8を成形する。このようにして成形されたフィルム8は、引取機11の冷却ロール10の外周面上に引き取られながら圧着ロール9で所定厚みに調整されると共に、冷却、固化され、搬送ロール対12、13で巻取機15に搬送される。
【0048】
巻取機15では、フィルム8は、案内ロール15a、15b、15cで案内されて巻取管16によって巻き取られる。なお、搬送ロール対12、13と案内ロール15aとの間には、厚さ測定器14が配設されており、所望の厚さとなるように、厚さ測定器14で測定された厚さに基づいて、冷却ロール10の周速度を調整、制御するようになっている。
【0049】
この場合に、ポリエーテルイミド樹脂又はポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂との樹脂組成物からなる成形材料の含水率は、溶融押出成形前に5,000ppm以下、好ましくは2,000ppm以下に調整する。これは、含水率が5,000ppmを越える場合には、フィルムキャパシタ用フィルムが発泡してしまう虞があるからである。含水率の調節方法は、熱風乾燥機で行うことができる。
【0050】
本発明において使用する不活性ガスとしては、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス等のほかに、窒素ガス、二酸化炭素ガス等が挙げられるが、これらの中では窒素ガスが取り扱い易く、安価に使用できるので好ましい。
【0051】
窒素ガスは、窒素ガス発生装置から得る方法、窒素ガスボンベから得る方法、液体窒素を気化させて得る方法等により材料投入口へ供給すればよいが、窒素ガスの純度の点から、窒素ガスボンベから得る方法と液体窒素を気化させて得る方法とがよい。特に、液体窒素を気化させて得る方法は、窒素を液化させる工程で不純物の水が氷となって取り除かれているため窒素ガスの純度が高いので好適に使用できる。
【0052】
押出機内を窒素ガス雰囲気にするには、押出機の材料投入口から成形材料とともに窒素ガスを供給し、押出機内および成形材料間の空隙に存在する空気を窒素ガスで置換すればよい。押出機内へ材料投入口から窒素ガスを供給する方法は特に限定されるものではないが、押出機内の押出スクリューの外周端から窒素ガス供給位置までの距離は、短いほうが窒素ガスによる空気の置換効率が高くなるのでよい。以下に一例を図3に基づいて示す。押出機1の材料投入口1cとその上に設置された材料投入ホッパー2との間から、ガス供給用パイプ3を材料投入口1cの中央部を通して、押出スクリュー1aの外周端からガス供給用パイプ3の下端までの距離Aが5mm以上20mm以下、好ましくは5mm以上15mm以下、より好ましくは5mm以上10mm以下の間隔になるよう設置して供給するのがよい。押出スクリュー1aの外周端からガス供給用パイプ3の下端までの距離Aが5mm未満の場合、成形材料のペレットの移動が妨げられたり成形材料の重さでガス供給用パイプが下がって押出スクリューと干渉する虞があるので好ましくない。反対に、距離Aが20mmを超えると、成形材料のペレットの移動は良好であるが、窒素ガスによる空気の置換が不十分で押出機1内へ空気中の酸素が流入してしまい、ポリエーテルイミド樹脂の酸化劣化を招くので好ましくない。ガス供給用パイプ3は金属製のパイプが好適であるが、これに限定されるものではなくプラスチック製等でもよい。また、パイプではなくビニールホース等を固定して使用するのでもよい。押出機1の材料投入口1cとその上に設置された材料投入ホッパー2との間にガス供給用パイプを固定するには、スペーサー等の治具を設けてガス供給用パイプを保持させればよい。
【0053】
窒素ガスの押出機内への供給量は、1時間当たりの押出量1kgにつき10L/時以上100L/時以下であり、好ましく15L/時以上、90L/時以下、より好ましくは20L/時以上、80L/時以下である。窒素ガスの供給量が1時間当たりの押出量1kgにつき10L/時未満の場合、窒素ガスによる空気の置換が不十分で押出機内へ空気中の酸素が流入してしまい、ポリエーテルイミド樹脂の酸化劣化を防止できない。反対に、窒素ガスを100L/時を超えて供給しても、窒素ガスで空気を完全に置換できているので効果が飽和しているにもかかわらず費用だけが増加するので好ましくない。
【0054】
本発明では、押出機の押出開始時点ではポリエーテルイミド樹脂単体を溶融押し出しすることが必須である。まず、ポリエーテルイミド樹脂単体を溶融押し出しすることによりTダイスのリップ部流路面にポリエーテルイミド樹脂単体の皮膜が形成される。ポリエーテルイミド樹脂単体を溶融押し出しする時間は、押し出し開始から概ね30分以上あればよい。30分未満では押し出しが安定せず、皮膜が形成されない場合がある。また、押し出し開始から2時間以上ポリエーテルイミド樹脂単体を溶融押し出しする必要はない。これは、押し出し開始から2時間以内に皮膜が形成されるからである。ポリエーテルイミド樹脂単体を溶融押し出しすることなく押し出し開始時点からポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂とからなる樹脂組成物を溶融押し出しした場合、押し出されたフィルムキャパシタ用フィルムにスジが入り、この影響でシワが発生する。これは、ポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂が分離して、ポリエーテルイミド樹脂がダイスのリップ部流路面へ不均一に付着するために起こる。ポリエーテルイミド樹脂は金属との親和性が高いのに対し、フッ素樹脂は金属との剥離性を有するために、リップ部流路面にポリエーテルイミド樹脂が付着している部分とフッ素樹脂の剥離性によってポリエーテルイミド樹脂が付着していない部分が縞状になり、これによって押し出されたフィルムキャパシタ用フィルムにスジが入る。
【0055】
本発明では、押出機内の空気を不活性ガス、好適には窒素ガスで置換した窒素ガス雰囲気下で溶融押し出しすることが必須である。これは、ダイスのリップ部流路面に皮膜となって存在するポリエーテルイミド樹脂の酸化劣化を防止するためでる。ポリエーテルイミド樹脂の皮膜は稼働中長時間にわたり加熱されるため、酸素存在下では酸化劣化が起きてリップ部でメヤニ状の固着物が発生し、ダイラインの原因となる。これを防止し、安定した皮膜を保持するために必須である。
【0056】
本発明のフィルムキャパシタ用フィルムは、キャパシタ組立て時のフィルムキャパシタ用フィルムのブロッキングを防止するため、フィルムキャパシタ用フィルム表面に微細な凹凸を形成することもできる。その方法としては、前述した金属製の冷却ロールの外周面に微細な凹凸を形成しておき、該冷却ロールに溶融状態にあるフィルムキャパシタ用フィルムを圧着ロールで圧着する際、冷却ロールの外周面に形成された微細な凹凸をフィルムキャパシタ用フィルム表面に転写させる方法が簡便でよい。
【0057】
冷却ロールの表面形状は、中心線の平均粗さで1μm〜10μm、好ましくは中心線の平均粗さで2μm〜7μm、更に好ましくは中心線平均粗さで2μm〜5μmである。中心線の平均粗さが1μm未満の場合は、フィルムキャパシタ用フィルム表面に微細な凹凸を形成することが困難となる。中心線の平均粗さが10μmを越える場合には、冷却ロールに融着し破断してしまう。
【0058】
フィルムキャパシタ用フィルム表面の微細な凹凸形状は、中心線の平均粗さで0.05μm〜0.50μm、好ましくは0.10μm〜0.40μm、0.15μm〜0.35μmである。中心線の平均粗さが0.05μm未満の場合には、フィルムキャパシタ製造時のフィルムキャパシタ用フィルムへのアルミニウム蒸着工程で蒸着性が低下したり、フィルムキャパシタ用フィルムの摺動性が低下する虞がある。
【0059】
圧着ロールの表面は、フィルムキャパシタ用フィルムと金属製の冷却ロールとの密着性を向上させる観点から、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ノルボルネンゴンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等を使用して形成されるが、好ましくは耐熱性に優れるシリコーンゴムあるいはフッ素ゴム等が良い。この圧着ロールの表面には、シリカ、アルミナ等の無機化合物を添加しても良い。
【0060】
フィルムキャパシタ用フィルムの厚さは0.5μm〜10.0μm、好ましくは1.0μm〜7.0μm、より好ましくは1.5μm〜5.0μmである。これは、フィルムキャパシタ用フィルムの厚さが0.5μm未満の場合には、フィルムキャパシタ用フィルムの引張強度が著しく低下するので、フィルムキャパシタ用フィルムの製造が困難になるからである。フィルムキャパシタ用フィルムの厚さが10.0μmを越える場合には、体積当たりの静電容量が小さくなるからである。
【0061】
上記構成によれば、フィルムキャパシタ用フィルムとして、ガラス転移点が200℃以上のポリエーテルイミド樹脂と連続使用温度が200℃以上のフッ素樹脂を混合して使用するので、150℃以上の温度でも使用可能な耐熱性と、優れた耐電圧性及びフッ素樹脂を混合した効果による摺動性とを得ることが出来る。また、フィルムキャパシタ用フィルム表面にスジやシワの発生のないフィルムキャパシタ用フィルムを得ることができる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明に係わるフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法及びフィルムキャパシタ用フィルムについて実施例を比較例と共に説明するが、本発明に係わるフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法及びフィルムキャパシタ用フィルムは以下の実施例に何ら限定されるのではない。
【0063】
・ポリエーテルイミド樹脂:
Ultem1010−1000:商品名、SABICイノベーティブプラスチックスジャパン社製、ガラス転移点223℃。
・フッ素樹脂:
フルオンPFA P−62XP:商品名、旭硝子社製、PFA樹脂、360℃における溶融粘度は11,100ポイズ。
・フッ素系界面活性剤:
エフトップKFBS:商品名、三菱マテリアル社製、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム(C49SOK)
【0064】
図4は、本発明による実施例及び比較例の混合組成、窒素供給量、ポリエーテルイミド樹脂単体押出時間と、製造安定性、フィルム評価との関係を示す表図である。
タンブラーミキサーに10kgの上記ポリエーテルイミド樹脂100質量部を投入し、これにフッ素樹脂を図4に記載した質量部を投入し、30分間攪拌混合して実施例1〜実施例4及び比較例3,4の成形材料を調製した。このようにしてポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂を攪拌混合した混合物を、真空ポンプを取り付けたφ30mmの高速二軸押出成形(PCM30、L/D=35、池貝社製)に供給し、減圧下、シリンダー温度:320〜350℃、アダプター温度:360℃、ダイス温度:360℃で溶融混練を行い、ダイスより棒状に押出、水冷後カットし、長さ:4mm〜6mm、直径:2mm〜4mmのペレット状の樹脂組成物を調製した。また、比較例1及び2として、図4に示すようにポリエーテルイミド樹脂単体のペレットを使用した。
【0065】
調製した樹脂組成物及び成形材料を160℃に加熱した排気口付きの熱風オーブン中に24時間静置して乾燥させた。乾燥後の樹脂組成物の含水率は250ppmだった。この樹脂組成物をφ40mm、L/D=25の単軸押出機(アイ・ケー・ジー社製)に供給し、圧縮比2.5のフルフライト押出スクリューを使用してシリンダー温度:320〜350℃の条件化で溶融混練し、リップクリアランスを0.3mmに調整した幅400mmのTダイスからダイス温度:350〜360℃、押出量7kg/時の条件化で連続的に押し出した。この押し出ししたフィルムキャパシタ用フィルムを引取機内の圧着ロールと冷却ロールとの間に挟んで冷却し、巻取機において両端部をスリット刃で裁断し、フィルムキャパシタ用フィルムを巻取管に巻き取ることにより、厚さ5μm、長さ1,000m、幅250mmのフィルムキャパシタ用フィルムを製造した。押し出し開始時点からのポリエーテルイミド樹脂単体の押し出し時間を、図4に記載した。
【0066】
図3に示したように、押出機1の材料投入口1cの上にスペーサー3を設置し、このスペーサーにSUS製のガス供給用パイプ3を保持させ、押出スクリュー1aの外周端からパイプ下端までの距離Aが8mmになるよう調整した。窒素ガスは窒素ガスボンベから得る方法で供給し、供給圧力を0.4Mpaに調整した状態で、図4に示した量を、流量計を使用して供給した。
【0067】
フィルムキャパシタ用フィルムの製造時には製造安定性を評価し、得られたフィルムキャパシタ用フィルムについては摩擦係数及び絶縁破壊電圧を測定し、結果を図4にまとめた。
【0068】
製造安定性は、Tダイスのリップ部内部から溶融樹脂の厚薄が縞状に発生した現象をスジ、リップ部に溶融樹脂が付着して固化したものをメヤニ、リップ部に付着したメヤニによりフィルムキャパシタ用フィルム表面に擦れた跡がついた現象をダイラインとして、目視確認によって製造開始(押し出し開始)から発生までの稼働時間で評価した。また、フィルムキャパシタ用フィルムの穴開き及びフィルムキャパシタ用フィルムの切れについて発生の有無を確認した。
【0069】
(測定と評価)
(溶融粘度)
溶融粘度は、フローテスター(島津製作所社製 島津フローテスター CFT−500形A)を使用して測定した。測定は、樹脂1.5cmを、ダイ(直径:1mm、長さ:10mm)を取り付けたシリンダー(シリンダー温度:360℃)内に充填し、上部にプランジャー(面積:1cm)を装着し、シリンダーの温度が360℃に達したとき、5分間予備加熱し、予備加熱後、直ちに荷重50kgfを印加し、樹脂を溶融流出させ溶融粘度を測定した。
【0070】
(フィルムキャパシタ用フィルムの厚さ)
接触式の厚み計(Mahr社製 商品名:電子マイクロメータミロトロン1240)を使用し、フィルム幅方向19点、フィルム流れ方向5箇所の95点箇所の平均厚みにより求めた。
【0071】
(摩擦抵抗値)
フィルムキャパシタ用フィルムの摩擦抵抗値は、JIS K 7125−1999に準拠し、測定した。具体的には、万能材料試験機(エー・アンド・デイ社製、テンシロン)を使用し、23℃、50%RHの環境下にて、試験速度100mm/minでガラスとの動摩擦力を測定した。
【0072】
(フィルムキャパシタ用フィルムの絶縁破壊電圧)
フィルムキャパシタ用フィルムの絶縁破壊電圧は、JIS C 2110−1994に準拠し、気中法による短時間絶縁破壊試験で測定した。この測定は、23℃の環境下で実施した。電極の形状は、円柱状(上部形状 直径:25mm、高さ:25mm、下部形状 直径:25mm、高さ:15mm)を使用した。
【0073】
図4に示す結果から明らかなように、比較例1で示すポリエーテルイミド樹脂を単独で使用し、窒素ガスで置換しないものでは、メヤニ付着、ダイラインが2時間後に発生した。また、比較例2で示すポリエーテルイミド樹脂を単独で使用し、窒素ガスで置換したものでは、メヤニ付着、ダイラインの発生が抑制されるものの、摩擦抵抗が0.59と0.50を超える値となり摺動性が低下した。また、比較例3で示すポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂とを混合した樹脂組成物を使用したが、ポリエーテルイミド樹脂単体での押出予備処理を行わなかったものでは、2時間後にスジの発生が認められた。また、比較例4で示すポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂とを混合した樹脂組成物を使用し、ポリエーテルイミド樹脂単体での押出予備処理を行ったものの、樹脂組成物中のフッ素樹脂の添加量が35質量部と30質量部を超えたものでは、フィルムの穴開きと破れにより、サンプルを製造することができなかった。
【0074】
これに対し、本発明による各実施例のフィルムキャパシタ用フィルムは、12時間経過しても、スジの発生やメヤニ付着、ダイラインの発生がなく、製造安定性に優れていて、しかも、最小絶縁破壊電圧が1,000V以上を保ちながら、摩擦抵抗が0.5以下と良好な摩擦抵抗を示し、良好な摺動性が付与されていることが明らかである。以上のことから、本発明の製造方法によれば、耐熱性、耐電圧性及び摺動性に優れたキャパシタ用フィルムを得ることが可能になる。
【0075】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またその様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0076】
1 押出機
1a 押出スクリュー
1b シリンダー
1c 材料投入口
2 材料投入ホッパー
3 ガス供給用パイプ
4 接続管
5 フィルター
6 ギヤポンプ
7 Tダイス
7a リップ部
8 フィルム
8a 皮膜
8b 樹脂組成物層
9 圧着ロール
10 冷却ロール
11 引取機
12、13 搬送ロール対
14 厚さ測定器
16 巻取管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形材料を押出機に投入してTダイス先端のリップ部からフィルムキャパシタ用フィルムを溶融押し出しし、当該押し出ししたフィルムキャパシタ用フィルムを引取機内の圧着ロールと冷却ロールとの間に挟んで冷却し、当該冷却した所定厚さのフィルムキャパシタ用フィルムを巻取機に巻き取るフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法であって、
前記押出機内の空気を不活性ガスで置換した不活性ガス雰囲気下で、前記押出機の押し出し開始時点から前記成形材料としてポリエーテルイミド樹脂単体を溶融押し出しし、その後、前記成形材料をポリエーテルイミド樹脂100質量部にフッ素樹脂を1.0〜30.0質量部添加した樹脂組成物へ切替えて前記フィルムキャパシタ用フィルムを成形することを特徴とするフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記所定厚みは、10μm以下の厚みであることを特徴とする請求項1に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ポリエーテルイミド樹脂単体の溶融押し出しは、30分以上、2時間以内で行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記不活性ガスとして窒素ガスを使用し、当該窒素ガスの前記押出機内への供給量を1時間当たりの押出量1kgにつき10L/時以上、100L/時以下とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記樹脂組成物は、ポリエーテルイミド樹脂100質量部にフッ素樹脂を1.0質量部〜30.0質量部を添加した樹脂組成物100質量部に対してフッ素系界面活性剤を0.05質量部〜5.0質量部を添加した樹脂組成物で構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とするフィルムキャパシタ用フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−126104(P2011−126104A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285930(P2009−285930)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】