説明

フィルムコンデンサの製造方法

【課題】フィルム原料を含むフィルム原料液を基板上に塗布して乾燥することにより形成される誘電体フィルムを用いて製造されるフィルムコンデンサの静電容量の低下を抑制する。
【解決手段】フィルムコンデンサ(1)を、フィルム原料を含むフィルム原料液を基板上に塗布して塗膜を形成し該塗膜を乾燥した後に基板から剥離して誘電体フィルム(15)を得るフィルム形成工程と、フィルム形成工程により形成された誘電体フィルム(15)を金属化フィルム(10)に重ね合わせる重ね合わせ工程と、重ね合わせ工程により重ね合わされた金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)を巻回する巻回工程と、巻回工程により巻回された上記金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)を誘電体フィルム(15)の融点よりも高温で加熱する加熱工程と、を備える製造方法により製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のフィルムを重ね合わせて巻回して形成されるフィルムコンデンサの製造方法に関し、特にフィルムコンデンサの静電容量の低下を防止するための対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数のフィルムを重ね合わせて巻回して形成されるフィルムコンデンサが知られている。例えば、特許文献1には、片面に金属膜が蒸着されたフィルムを2枚重ね合わせ、それらを巻回して形成されるフィルムコンデンサが開示されている。また、誘電体フィルムと、両面に金属膜が蒸着された両面金属化フィルムとを重ね合わせ、それらを巻回して形成されるフィルムコンデンサも一般的に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−289459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような誘電体フィルムを形成する方法の1つとして、いわゆるキャスト法が知られている。このキャスト法は、フィルム原料を含むフィルム原料液を基板上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥した後に基板から剥離して誘電体フィルムを得る方法である。この方法によれば、比較的強度の弱い材質であっても、膜厚の薄いフィルムを容易に形成することができる。しかし、このキャスト法により製造されたフィルムの一方側の表面には、上記塗膜の乾燥時における該塗膜中の液体の蒸発に起因する凹凸が形成される。このように凹凸が形成された誘電体フィルムと両面金属化フィルムとを重ね合わせて巻回すると、上記凹凸に起因して両フィルム間に空気層が形成されてしまう。その結果、上記空気層による静電容量が、フィルムコンデンサの静電容量に直列的に付加されるため、フィルムコンデンサ全体としての静電容量が低下してしまう。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、フィルム原料を含むフィルム原料液を基板上に塗布して乾燥させることにより形成される誘電体フィルムを用いて製造されるフィルムコンデンサの静電容量の低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、フィルムコンデンサ(1)の製造方法を対象とし、フィルム原料を含むフィルム原料液を基板上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥した後に上記基板から剥離して誘電体フィルム(15)を得るフィルム形成工程と、フィルム体(11)、及び該フィルム体(11)の両面に形成された金属膜(12a,12b)を有する金属化フィルム(10)に、上記フィルム形成工程により形成された誘電体フィルム(15)を重ね合わせる重ね合わせ工程と、該重ね合わせ工程により重ね合わされた上記金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)を巻回する巻回工程と、該巻回工程により巻回された上記金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)を、該誘電体フィルム(15)の融点よりも高温で加熱する加熱工程と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
第1の発明では、フィルム形成工程において、フィルム原料液を基板上に塗布して形成された塗膜を乾燥し、該塗膜を基板から剥離して誘電体フィルム(15)を形成する。このように形成された誘電体フィルム(15)において、基板から剥離された面と反対側の面には、塗膜の乾燥時における該塗膜中の液体の蒸発に起因して微細な凹凸部が形成される(以下、この凹凸部が形成された面を凹凸面という)。
【0008】
次に、重ね合わせ工程において、金属化フィルム(10)と、上述のように形成された誘電体フィルム(15)とを重ね合わせ、この重ね合わされた金属化フィルム(10)と誘電体フィルム(15)とを、巻回工程において巻回する。この段階において、誘電体フィルム(15)の凹凸面と金属化フィルム(10)との間には、凹凸部に起因した空気層が形成されてしまう。その結果、フィルムコンデンサ(1)の実質的な静電容量が低下してしまう。
【0009】
そこで、第1の発明では、加熱工程において、上記巻回工程により巻回された金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)を、該誘電体フィルム(15)の融点よりも高温で加熱する。こうすると、上記誘電体フィルム(15)の凹凸部が融解する。その結果、誘電体フィルム(15)の凹凸面が平坦化され、誘電体フィルム(15)と金属化フィルム(10)との間の空気層が小さくなる。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明と同様、フィルムコンデンサ(1)の製造方法を対象とする。そして、フィルム原料を含むフィルム原料液を基板上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥した後に上記基板から剥離して誘電体フィルム(15)を得るフィルム形成工程と、フィルム体(11)、及び該フィルム体(11)の両面に形成された金属膜(12a,12b)を有する金属化フィルム(10)に、上記誘電体フィルム(15)における上記基板からの剥離面(17)と反対側の面(16)を重ね合わせる重ね合わせ工程と、該重ね合わせ工程により重ね合わされた上記金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)を、該誘電体フィルム(15)の融点よりも高温で加熱する加熱工程と、該加熱工程により加熱された上記金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)を巻回する巻回工程と、を備えていることを特徴とする。
【0011】
第2の発明でも、第1の発明と同様、フィルム形成工程において、一方側の表面に微細な凹凸部を有する誘電体フィルム(15)が形成される。それから、重ね合わせ工程では、誘電体フィルム(15)において基板から剥離される面(17)と反対側の面(16)(すなわち誘電体フィルム(15)の凹凸面)を、金属化フィルム(10)に重ね合わせる。この段階において、誘電体フィルム(15)の凹凸面と金属化フィルム(10)との間には、上記凹凸部に起因した空気層が形成される。
【0012】
ここで、第2の発明では、加熱工程において、上記重ね合わせ工程により重ね合わされた金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)を、該誘電体フィルム(15)の融点よりも高温で加熱する。こうすると、第1の発明の場合と同様、誘電体フィルム(15)の凹凸部が融解するため、誘電体フィルム(15)と金属化フィルム(10)との間の空気層が小さくなる。
【0013】
次いで、巻回工程において、金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)が巻回され、フィルムコンデンサ(1)の一部を構成するコンデンサ素子が形成される。
【0014】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、上記誘電体フィルム(15)は、ポリフッ化ビニリデンで構成されていることを特徴とする。
【0015】
第3の発明では、誘電体フィルム(15)は、比誘電率が比較的高いポリフッ化ビニリデンで構成されているため、フィルムコンデンサ(1)が小型化される。
【0016】
また、第3の発明では、上述のように比誘電率の比較的高い材料が誘電体フィルム(15)として使用されているため、誘電体フィルム(15)と金属化フィルム(10)との間に空気層が形成されると、静電容量の低下が顕著になる。具体的には、図8に示すように、誘電体フィルム(15)の比誘電率εが高い方が、空気層が存在する場合におけるフィルムコンデンサ(1)の静電容量Cの低下が大きくなる。従って、比誘電率が比較的高いポリフッ化ビニルデンで構成された誘電体フィルム(15)を用いたフィルムコンデンサ(1)について、上述のような加熱工程によって空気層を小さくすることにより、静電容量の低下が効果的に抑制される。
【0017】
第4の発明は、第1から第3の発明のうちいずれか1つにおいて、上記フィルム体(11)は、ポリエチレンテレフタラートで構成されていることを特徴とする。
【0018】
第4の発明では、金属化フィルム(10)の一部を構成するフィルム体(11)として、ポリエチレンテレフタラートが用いられている。ポリエチレンテレフタラートの融点は、一般的に260℃程度であり、比較的高温である。従って、メタリコン電極を吹き付ける際の溶射熱による金属化フィルム(10)の損傷が抑制される。
【発明の効果】
【0019】
上記第1の発明によれば、金属化フィルム(10)と、表面に凹凸部が形成された誘電体フィルム(15)とを重ね合わせて巻回した後、これら(10,15)を誘電体フィルム(15)の融点よりも高い温度で加熱するため、誘電体フィルム(15)に形成された凹凸部が融解する。これにより、金属化フィルム(10)と誘電体フィルム(15)との間に形成された空気層が小さくなる。従って、上記空気層に起因して形成されフィルムコンデンサ(1)に直列付加される静電容量を低減できるため、フィルムコンデンサ(1)の静電容量の低下を抑制できる。
【0020】
また、上記第2の発明によれば、金属化フィルム(10)と、誘電体フィルム(15)における凹凸部が形成された面(16)とを重ね合わせた後、これら(10,15)を誘電体フィルム(15)の融点よりも高い温度で加熱するため、第1の発明の場合と同様、誘電体フィルム(15)に形成された凹凸部が融解する。これにより、金属化フィルム(10)と誘電体フィルム(15)との間に形成された空気層が小さくなるため、フィルムコンデンサ(1)の静電容量の低下を抑制できる。
【0021】
また、上記第3の発明によれば、誘電体フィルム(15)として比誘電率が比較的高いポリフッ化ビニルデンを用いるため、加熱工程によって静電容量の低下が効率的に抑制される。
【0022】
また、上記第4の発明によれば、金属化フィルム(10)のフィルム体(11)として比較的融点の高いポリエチレンテレフタラートを用いるため、メタリコン電極形成時における金属化フィルムの損傷を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るフィルムコンデンサの縦断面図である。
【図2】図2は、フィルムコンデンサの横断面図である。
【図3】図3は、金属化フィルム及び誘電体フィルムを示す斜視図である。
【図4】図4は、金属化フィルム及び誘電体フィルムが巻回された状態の断面図であって、加熱工程が行われる前の状態を示す図である。
【図5】図5は、金属化フィルム及び誘電体フィルムが巻回された状態の断面図であって、加熱工程が行われた後の状態を示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施形態に係るフィルムコンデンサの製造方法を示すフローチャートである。
【図7】図7は、その他の実施形態における金属化フィルム及び誘電体フィルムを示す斜視図である。
【図8】図8は、比誘電率の異なる誘電体フィルムを用いてフィルムコンデンサを形成した場合における、空気層の厚さと静電容量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0025】
−フィルムコンデンサの全体構成−
本発明の実施形態に係るフィルムコンデンサ(1)は、図1,2に示すように、巻芯(2)と、該巻芯(2)に巻回されたコンデンサ素子(3)と、該コンデンサ素子(3)の両端部に設けられたメタリコン電極(4,4)と、メタリコン電極(4,4)にそれぞれ電気的に接続されたリード線(5,5)と、コンデンサ素子(3)を覆う外装フィルム(6)と、巻芯(2)、コンデンサ素子(3)、メタリコン電極(4,4)、リード線(5,5)及び外装フィルム(6)を封止する封止樹脂(7)とを備えている。このようなフィルムコンデンサ(1)は、例えば、インバータ回路とコンバータ回路との間の平滑コンデンサ等として用いられる。
【0026】
巻芯(2)は、円筒状の樹脂部材で構成されている。巻芯(2)としては、例えば、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂やセラミックス等が用いられる。
【0027】
コンデンサ素子(3)は、金属化フィルム(10)と、誘電体フィルム(15)とを備えている。具体的には、コンデンサ素子(3)は、それぞれが細長い帯状に形成された金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)が、互いに重ね合わされて巻回されることにより構成されている。金属化フィルム(10)は、誘電体フィルム(15)よりもやや幅広であり、コンデンサ素子(3)の両端面において、金属化フィルム(10)の方が誘電体フィルム(15)よりもやや突出している。
【0028】
金属化フィルム(10)は、ポリエチレンテレフタラート(PET)で構成されたフィルム体としてのPETフィルム(11)と、PETフィルム(11)の両面に蒸着された金属膜(12a,12b)とを有している。
【0029】
PETフィルム(11)は、細長い帯状に形成されている。PETフィルム(11)は、詳しくは後述する溶融押出法により形成されており、その表面は比較的凹凸の少ない滑らかな形状に形成されている。ポリエチレンテレフタラートは、融点が260℃程度であり、比誘電率が2から3程度である。
【0030】
金属膜(12a,12b)は、アルミニウム等の金属箔で構成されている。金属化フィルム(10)の片面側に蒸着された金属膜(12a)は、PETフィルム(11)の幅方向の一端側における所定幅の部位を除いて、上記片面側に一様に形成されている。つまり、上記PETフィルム(11)の幅方向における一端側には、金属膜が形成されていないマージン部(13a)が細長い帯状に形成される。一方、金属化フィルム(10)の他面側に蒸着された金属膜(12b)は、PETフィルム(11)の幅方向の他端側における所定幅の部位を除いて、上記他面側に一様に蒸着されている。つまり、上記PETフィルム(11)の幅方向における他端側には、金属膜が形成されていないマージン部(13b)が細長い帯状に形成される。
【0031】
誘電体フィルム(15)は、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)で構成されている。このポリフッ化ビニルデンは、比誘電率が8から10程度と比較的高く、フィルムコンデンサ(1)の小型化に適した材料である。また、このポリフッ化ビニルデンの融点は、150℃〜170℃程度である。
【0032】
誘電体フィルム(15)は、PETフィルム(11)よりもやや幅の細い、細長い帯状に形成される。また、誘電体フィルム(15)は、詳しくは後述するキャスト法によって作成されるため、その一方側の表面(16)が、微細な凹凸部が形成される凹凸面(16a)を構成し、他方側の表面が、比較的滑らかな平坦面(17)を構成する。
【0033】
上述のように、金属化フィルム(10)の表面は比較的滑らかに形成されている一方、誘電体フィルム(15)の一方側の表面(16)は凹凸面(16a)を構成している。従って、この2枚のフィルム(10,15)が重なって巻回されると、図4に示すように、2枚のフィルム(10,15)の間に上記誘電体フィルム(15)凹凸面(16a)に起因する空気層(S)が形成される。これに対して、上記金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)には、詳しくは後述する加熱工程が施されているため、図5に示すように、誘電体フィルム(15)の一方側の表面(16)の凹凸部が滑らかになって平滑面(16b)となる。
【0034】
また、上述のように形成された略円筒状のコンデンサ素子(3)において、その一端面には金属化フィルム(10)の片面側に形成された金属膜(12a)が露出する一方、その他端面には金属化フィルム(10)の他端側に形成された金属膜(12b)が露出している。
【0035】
メタリコン電極(4,4)は、コンデンサ素子(3)の軸方向両端部にそれぞれ設けられている。このメタリコン電極(4,4)は、それぞれ、コンデンサ素子(3)の軸方向端部に金属を溶射することによって形成されている。メタリコン電極(4,4)は、コンデンサ素子(3)の軸方向端部において露出している、金属化フィルム(10)の金属膜(12a,12b)と電気的に導通している。
【0036】
リード線(5,5)は、棒状に形成されている。各リード線(5,5)は、その基端がメタリコン電極(4,4)のいずれかに電気的に接続され、その先端がメタリコン電極(4,4)の径方向外方に向かって延びている。リード線(5,5)の先端は、上記封止樹脂(7)から外方に突出している。リード線(5,5)の先端部は、例えば、基板(図示省略)に接続される。
【0037】
外装フィルム(6)は、コンデンサ素子(3)の外周に巻回されている。これにより、外装フィルム(6)は、コンデンサ素子(3)を外方から覆って被覆する。
【0038】
封止樹脂(7)は、上記外装フィルム(6)の外周側、メタリコン電極(4,4)及びリード線(5,5)の基端を封止するように設けられている。すなわち、この封止樹脂(7)は、リード線(5,5)の先端側を除いて、フィルムコンデンサ(1)の構成部品全体を覆うように設けられている。
【0039】
なお、本実施形態に係るフィルムコンデンサ(1)は、封止樹脂(7)が外側に露出しているが、この限りではなく、コンデンサ素子(3)をコンデンサケース内に収納して、該ケース内に封止樹脂(7)を充填したものであってもよい。
【0040】
−フィルムコンデンサの製造方法−
上記フィルムコンデンサ(1)の製造方法について、図6に基づき、金属化フィルム(10)の製造工程、誘電体フィルム(15)の製造工程、それら(10,15)を用いてフィルムコンデンサ(1)を製造する工程の順に説明する。
【0041】
金属化フィルム(10)の製造工程において、ステップSA1では、PETフィルムを溶融押出法により形成する。具体的には、高温により溶融されたPET樹脂を押出機によって押し出し、冷却しながら引き延ばして幅広の帯状のPETフィルムを形成する。このPETフィルムは、弛ませないように所定の張力がかけられた状態でロール状に巻き取られる。
【0042】
次に、ステップSA2では、ロール状に巻き取られた上記PETフィルムを引き出し、その両面に所定のパターンの金属膜(12a,12b)を蒸着する。
【0043】
次に、ステップSA3では、両面に金属膜(12a,12b)が蒸着されたPETフィルムを所定幅に切断する。これにより、細長い帯状の金属化フィルム(10)が製造される。この金属化フィルム(10)は、所定の張力がかけられた状態でロール状に巻き取られる。
【0044】
誘電体フィルム(15)の製造工程において、誘電体フィルム(15)を、ステップSB1からステップSB4で示されるキャスト法により形成する。
【0045】
具体的には、ステップSB1において、フィルム原料としてのポリフッ化ビニリデンを溶媒に溶解してPVDF溶液を作製する。この溶媒としては、アミド系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、カーボネート系溶剤などを用いることができる。これらの溶剤は、単独で用いても混合して用いてもよい。
【0046】
次に、ステップSB2において、上記PVDF溶液をPET基材フィルムで構成された基板上に塗布して塗膜を形成し、ステップSB3において該塗膜を乾燥する。このように乾燥されてフィルム状となった塗膜は、PET基材フィルムとともにロール状に巻き取られる。
【0047】
そして、ステップSB4で、塗膜をPET基材フィルムから剥離し、ステップSB5において、剥離されたフィルムを所定幅に切断して誘電体フィルム(15)を形成する。このように形成された誘電体フィルム(15)において、PET基材フィルムからの剥離面は、滑らかな平坦面(17)を構成する。一方、この剥離面(17)と反対側の面(16)には、溶媒の蒸発に起因して凹凸部が形成される。これにより、誘電体フィルム(15)における剥離面(17)と反対側の面(16)は、凹凸面(16a)となる。この誘電体フィルム(15)は、所定の張力がかけられた状態でロール状に巻き取られる。
【0048】
フィルムコンデンサ(1)を製造する工程において、ステップSC1では、上述のようにロール状に巻き取られた金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)を、巻回機によって重ね合わせ、巻芯(2)に所定の回数巻回する。この際、誘電体フィルム(15)の凹凸面(16a)を金属化フィルム(10)に重ね合わせて巻回してもよく、上記凹凸面(16a)とは反対側の面(17)を金属化フィルム(10)に重ね合わせて巻回してもよい。この段階において、金属化フィルム(10)と、誘電体フィルム(15)の凹凸面(16a)との間には、図4に示すような空気層(S)が形成される。
【0049】
そして、このように巻回された金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)を、巻回されていない金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)から切断により分離して、円柱状のコンデンサ素子(3)を構成する。このコンデンサ素子(3)の外周面に、外装フィルム(6)を取り付ける。
【0050】
次に、ステップSC2では、コンデンサ素子(3)の両端面に金属を溶射してメタリコン電極(4,4)を形成する。上記コンデンサ素子(3)の一部を構成する金属化フィルム(10)には、比較的融点の高いポリエチレンテレフタラートが用いられている。そして、この金属化フィルム(10)は、コンデンサ素子(3)の両端面において、比較的融点の低いポリフッ化ビニルデンで形成された誘電体フィルム(15)よりも突出している。これにより、メタリコン電極(4,4)を金属化フィルム(10)の金属膜(12a,12b)に対して確実に接触させることができる。
【0051】
そして、ステップSC3で示す加熱工程では、上述のように外装フィルム(6)及びメタリコン電極(4,4)が取り付けられたコンデンサ素子(3)を、ポリフッ化ビニルデンの融点以上、且つポリエチレンテレフタラートの融点以下の温度(例えば、150℃〜170℃)で、約1時間加熱する。こうすると、誘電体フィルム(15)の凹凸面(16a)に形成された凹凸部が融解する。そうなると、上記凹凸面(16a)が平滑化されて平滑面(16b)となるため、金属化フィルム(10)と誘電体フィルム(15)との間の空気層(S)が小さくなる。その結果、フィルムコンデンサ(1)に直列付加される、上記空気層(S)に起因した静電容量を低減できるため、フィルムコンデンサ(1)全体の静電容量が低下してしまうのを抑制できる。
【0052】
しかも、誘電体フィルム(15)は比誘電率が8〜10程度と比較的大きいため、上記空気層(S)に起因する静電容量の低下が顕著になる。これに対して、本実施形態によれば、上述のように空気層(S)を小さくできるため、静電容量の低下を効果的に抑制できる。具体的には、本実施形態のように誘電体フィルムとしてPVDFフィルム(比誘電率ε=10)を用いて形成されたフィルムコンデンサと、誘電体フィルムとしてPETフィルム(比誘電率ε=3)を用いて形成されたフィルムコンデンサとを比較すると、図8に示すように、空気層が0.1μmの場合、PVDFを用いたフィルムコンデンサの静電容量は69μF程度となる一方、PETを用いたフィルムコンデンサの静電容量は92μF程度となる。これらのフィルムコンデンサに上記加熱工程を施して空気層がなくなった場合、フィルムコンデンサの静電容量はともに理想的な静電容量(図8の場合は100μF)となる。このように、静電容量の比較的大きいPVDFフィルムを誘電体フィルムとして用いたフィルムコンデンサについて、加熱工程を施すことにより、静電容量の低下が効果的に抑制される。
【0053】
しかも、ステップSC3で示す加熱工程では、金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)が巻回されたコンデンサ素子(3)が加熱される。加熱の対象となるこのコンデンサ素子(3)は、巻回前の金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)と比べると表面積が小さいため、該コンデンサ素子(3)を加熱するための機構を小型化することができる。
【0054】
また、コンデンサ素子(3)の一部を構成する金属化フィルム(10)には、ポリエチレンテレフタラートが用いられている。ポリエチレンテレフタラートの融点は約260℃程度であるため、ステップSC3の加熱工程においてコンデンサ素子(3)を加熱しても金属化フィルム(10)の融解が回避される。従って、コンデンサ素子(3)全体の融解が抑制される。
【0055】
次に、ステップSC4で、メタリコン電極(4,4)のそれぞれにリード線(5,5)を半田付け等によって接続し、最後に、ステップSC5において、封止樹脂(7)によって、コンデンサ素子(3)、メタリコン電極(4,4)、リード線(5,5)の基端部、外装フィルム(6)を封止する。これにより、フィルムコンデンサ(1)が完成する。
【0056】
−実施形態の効果−
以上のように、本実施形態に係るフィルムコンデンサ(1)の製造方法では、金属化フィルム(10)と誘電体フィルム(15)とを重ね合わせて巻回した後、誘電体フィルム(15)の融点よりも高い温度で加熱した。これにより、誘電体フィルム(15)の凹凸面(16a)に起因して金属化フィルム(10)と誘電体フィルム(15)との間に形成された空気層(S)が小さくなるため、フィルムコンデンサ(1)の静電容量の低減を抑制できる。
【0057】
また、加熱工程における加熱は、金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)が巻回された段階で行われるため、加熱工程で用いられる加熱機構を小型化できる。
【0058】
また、誘電体フィルム(15)として用いられるポリフッ化ビニルデンは、比誘電率が8から10程度と比較的高いためフィルムコンデンサ(1)を小型化でき、且つ、上述のように空気層(S)を小さくすることにより、静電容量の低下を効果的に抑制できる。
【0059】
また、金属化フィルム(10)のフィルム体(11)として用いられるポリエチレンテレフタラートは、融点が260℃程度と比較的高く、コンデンサ素子(3)の両端面において、融点が比較的低い誘電体フィルム(15)よりも突出しているため、メタリコン電極(4,4)が形成される際などにコンデンサ素子(3)の両端部が融解してしまうのを抑制できる。
【0060】
−その他の実施形態−
上記実施形態については、以下のような構成にしてもよい。
【0061】
上記実施形態では、金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)を巻回してコンデンサ素子(3)を形成した後に加熱工程を行ったが、この限りでなく、2枚のフィルム(10,15)を重ね合わせた後であって巻回する前に、加熱工程を行っても良い。このような順序で加熱工程を行っても、金属化フィルム(10)と誘電体フィルム(15)との間の空気層(S)を小さくすることができる。この場合には、金属化フィルム(10)と誘電体フィルム(15)とを重ね合わせる際、誘電体フィルム(15)における剥離面(17)と反対側の面(16)である凹凸面(16a)を、金属化フィルム(10)に重ね合わせた後に加熱工程を行えばよい。
【0062】
また、上記実施形態では、金属化フィルム(10)の材料としてPETを用いたが、この限りでなく、例えばPPS(ポリフェニレンサルファイド)や、PEN(ポリエチレンナフタレート)等を用いてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、誘電体フィルム(15)をポリフッ化ビニルデンで構成したが、この限りでなく、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合物で構成してもよい。このフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合物は、融点が約130℃程度であり、誘電率もPVDFとほぼ同等であるため、誘電体フィルムの材料として用いることができる。
【0064】
また、上記実施形態では、誘電体フィルム(15)をポリフッ化ビニルデンで構成したが、この限りでなく、無機酸化物が添加されたポリフッ化ビニルデンで構成してもよい。この無機酸化物としては、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、アンチモン酸鉛、チタン酸亜鉛、チタン酸鉛、酸化チタンなどを用いることができる。こうすると、誘電体フィルムの比誘電率を20から40程度にすることができるため、フィルムコンデンサをより小型化できる。また、誘電体フィルムに無機酸化物が添加されたPVDF(比誘電率ε=40とする)を用いてフィルムコンデンサを形成すると、図8に示すように、空気層が0.1μmの場合、静電容量が32μF程度となる。このフィルムコンデンサに加熱工程を施して空気層がなくなると、該フィルムコンデンサの静電容量は理想的な静電容量になる。つまり、無機酸化物が添加されたPVDFを誘電体フィルムとして用いると、PETフィルム(比誘電率ε=3)や無機酸化物が添加されていないPVDF(比誘電率ε=10)を誘電体フィルムとして用いた場合と比べて、加熱工程を行うことによる静電容量の低下を抑制する効果が大きくなる。
【0065】
また、上記実施形態では、フィルムコンデンサの製造方法を、1枚の金属化フィルム(10)及び1枚の誘電体フィルム(15)を重ね合わせて巻回されるフィルムコンデンサ(1)に適用したが、この限りでなく、例えば図7に示すように、2枚の金属化フィルム(10)及び2枚の誘電体フィルム(15)を重ね合わせて巻回されるフィルムコンデンサに適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したように、本発明は、キャスト法によって形成される誘電体フィルムを用いて製造されるフィルムコンデンサに特に有用である。
【符号の説明】
【0067】
1 フィルムコンデンサ
10 金属化フィルム
11 PETフィルム(フィルム体)
12a,12b 金属膜
15 誘電体フィルム
16 表面、面(剥離面と反対側の面)
17 平坦面、面(剥離面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム原料を含むフィルム原料液を基板上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥した後に上記基板から剥離して誘電体フィルム(15)を得るフィルム形成工程と、
フィルム体(11)、及び該フィルム体(11)の両面に形成された金属膜(12a,12b)を有する金属化フィルム(10)に、上記フィルム形成工程により形成された誘電体フィルム(15)を重ね合わせる重ね合わせ工程と、
上記重ね合わせ工程により重ね合わされた上記金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)を巻回する巻回工程と、
上記巻回工程により巻回された上記金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)を、該誘電体フィルム(15)の融点よりも高温で加熱する加熱工程と、を備えていることを特徴とするフィルムコンデンサ(1)の製造方法。
【請求項2】
フィルム原料を含むフィルム原料液を基板上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥した後に上記基板から剥離して誘電体フィルム(15)を得るフィルム形成工程と、
フィルム体(11)、及び該フィルム体(11)の両面に形成された金属膜(12a,12b)を有する金属化フィルム(10)に、上記誘電体フィルム(15)における上記基板からの剥離面(17)と反対側の面(16)を重ね合わせる重ね合わせ工程と、
上記重ね合わせ工程により重ね合わされた上記金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)を、該誘電体フィルム(15)の融点よりも高温で加熱する加熱工程と、
上記加熱工程により加熱された上記金属化フィルム(10)及び誘電体フィルム(15)を巻回する巻回工程と、を備えていることを特徴とするフィルムコンデンサ(1)の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記誘電体フィルム(15)は、ポリフッ化ビニリデンで構成されていることを特徴とするフィルムコンデンサ(1)の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のうちいずれか1つにおいて、
上記フィルム体(11)は、ポリエチレンテレフタラートで構成されていることを特徴とするフィルムコンデンサ(1)の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate