説明

フィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルムおよびフィルムコンデンサ

【課題】熱収縮率が小さく、絶縁破壊電圧が高いフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルムおよび該フィルムを含むフィルムコンデンサを提供する。
【解決手段】下記要件(1)〜(4)を満たすプロピレン単独重合体を用いて形成された延伸フィルムに、吸収線量0.1〜500kGyで電子線を照射して得られることを特徴とするフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルムおよび該フィルムを含むフィルムコンデンサ。(1)ASTM D1238に準拠して、230℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレート(MFR)が、1〜10g/10分の範囲にある。(2)13C−NMRを用いて測定したペンタッドアイソタクティック分率(mmmm分率)が、94%以上である。(3)空気中で完全に燃焼させて得られる灰分量が、30ppm以下である。(4)イオンクロマトグラフ法により測定した塩素量が、10ppm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルムおよびフィルムコンデンサに関する。詳しくは、絶縁破壊電圧が高く、熱収縮率が小さいフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルムおよび該フィルムを含むフィルムコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、優れた延伸特性、絶縁性および耐電圧性を有することから、フィルムコンデンサ用のフィルムとして広く使用されている。フィルムコンデンサは、主に自動車分野や家電分野などで需要が高まっており、さらなる小型化の要求があるため、用いられるフィルムに対して、さらなる絶縁破壊電圧の向上が要望されている。
【0003】
フィルムコンデンサ用のフィルムとしては、たとえば、高立体規則性ポリプロピレンを主体とした組成物からなるフィルム(特許文献1)、ポリプロピレン中に含まれる灰分が40重量ppm以下、塩素が2重量ppm以下である高分子絶縁材料(特許文献2)、アルミニウム残留含有量25ppm未満およびホウ素残留含有量25ppm未満を有するプロピレンポリマーからなるフィルム(特許文献3)、マスターバッチとして長鎖分岐を有するポリプロピレンを高立体規則性ポリプロピレンに添加し、二軸延伸して得られるフィルム(特許文献4)が開示されている。
【0004】
しかしながら、ポリプロピレンの立体規則性の向上、ポリプロピレン中の不純物の低減、あるいは特定のポリプロピレンの添加だけでは、充分な絶縁破壊電圧を有するフィルムを得ることはできず、市場の要求を満足するコンデンサを得ることはできていない。
【0005】
また、特許文献5では、コンデンサの素子作成時の熱処理時に発生し、コンデンサの寿命に著しく悪影響を及ぼす“しわ”を抑制してコンデンサの性能(破壊耐電圧)を保持するために、二軸延伸したポリプロピレン系フィルムに、紫外線または電子線を照射し、フィルムの長手方向の熱収縮率を特定の範囲に規定したフィルムコンデンサ用のフィルムが開示されている。
【0006】
しかしながら、実施例で用いられているポリプロピレンは、立体規則性が91%程度のものであるため、かかる立体規則性が91%程度のものを用いた場合は、この方法を用いて“しわ”を抑制しても十分な絶縁破壊電圧を有するフィルムコンデンサを得ることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−110906号公報
【特許文献2】特開平06−236709号公報
【特許文献3】特表2009−500479号公報
【特許文献4】特開2006−93688号公報
【特許文献5】特開昭54−109160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、熱収縮率が小さく、かつ薄膜フィルムであり、しかも絶縁破壊電圧(以下、BDV;Brake Down Voltageとも称す。)が高いフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルムおよび該フィルムを含むフィルムコンデンサの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記問題点を解決すべく鋭意研究した。その結果、特定のプロピレン単独重合体を用いて形成された延伸フィルムに、特定の吸収線量で電子線を照射して得られるフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルムが、熱収縮率が小さく、しかも絶縁破壊電圧が高いため、フィルムコンデンサに適することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明には、以下の事項が含まれる。
〔1〕下記要件(1)〜(4)を満たすプロピレン単独重合体を用いて形成された延伸フィルムに、吸収線量0.1〜500kGyで電子線を照射して得られることを特徴とするフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルム;
(1)ASTM D1238に準拠して、230℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレート(MFR)が、1〜10g/10分の範囲にある。
(2)13C−NMRを用いて測定したペンタッドアイソタクティック分率(mmmm分率)が、94%以上である。
(3)空気中で完全に燃焼させて得られる灰分量が、30ppm以下である。
(4)イオンクロマトグラフ法により測定した塩素量が、10ppm以下である。
【0011】
〔2〕前記延伸フィルムは、前記プロピレン単独重合体に架橋剤を添加して形成された延伸フィルムであることが好ましい。
〔3〕前記延伸フィルムは、前記プロピレン単独重合体100重量%に対して架橋剤0.01〜10重量%を添加して形成された延伸フィルムであることが好ましい。
【0012】
〔4〕前記延伸フィルムに照射される電子線の吸収線量は、1〜300kGyであることが好ましい。
〔5〕前記延伸フィルムは、二軸延伸フィルムであることが好ましい。
【0013】
〔6〕前記ポリプロピレンフィルムの厚みは1〜20μmであることが好ましい。
〔7〕前記フィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルムを含むことを特徴とするフィルムコンデンサ。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルムは、熱収縮率が小さく、かつ薄膜フィルムであり、しかも絶縁破壊電圧が高いため、小型で大容量のキャパシタフィルムを提供することができ、たとえば、ハイブリッド自動車の高出力化、小型化および軽量化に大きく貢献することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明に係るフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルムおよび該フィルムを含むフィルムコンデンサについて、好ましい実施形態も含めて詳細に説明する。なお、フィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルムを単に「ポリプロピレンフィルム」とも記す。
【0016】
〔フィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルム〕
本発明に係るフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルムは、後述する要件(1)〜(4)を満たすプロピレン単独重合体を用いて形成された延伸フィルムに、吸収線量0.1〜500kGyで電子線を照射して得られることを特徴とする。ポリプロピレンフィルムの絶縁破壊電圧および熱収縮率がより一層向上することから、前記延伸フィルムは、前記プロピレン単独重合体に架橋剤を添加して形成された延伸フィルムであることが好ましい。
【0017】
《延伸フィルム》
前記延伸フィルムは、後述する要件(1)〜(4)を満たすプロピレン単独重合体、好ましくは該プロピレン単独重合体に架橋剤を添加して形成された延伸フィルムである。より詳しくは、前記延伸フィルムは、前記プロピレン単独重合体、好ましくは前記プロピレン単独重合体と架橋剤とを含有する樹脂組成物からなる原反シートを延伸(たとえば、一軸延伸、二軸延伸)、好ましくは二軸延伸して形成される。すなわち、前記延伸フィルムは二軸延伸フィルムであることが好ましい。
【0018】
前記原反シートは、たとえば、粉末状、顆粒状またはペレット状の前記プロピレン単独重合体または前記樹脂組成物を、溶融押出し成形(たとえば180〜280℃)またはプレス成形(たとえば180〜280℃)して得られる。なお、原反シート成形時または造粒(ペレタイズ)時に、窒素シールをしておくことが好ましい。
【0019】
前記原反シートの厚みは、80〜800μmが好ましく、120〜500μmがより好ましい。前記原反シートの厚みが前記範囲を下回ると延伸時に破断することがあり、前記範囲を上回ると薄膜の延伸フィルムが得られないことがあるため、フィルムコンデンサ用のフィルムとして適さないことがある。
【0020】
一軸延伸は、好ましくは100〜160℃で2〜10倍に、より好ましくは110〜150℃で3〜8倍に、機械方向(前記原反シートを成形する際に押出される樹脂の流れと平行な方向)に延伸することによりなされる。
【0021】
二軸延伸法としては、一軸延伸によって得られたフィルムをさらに一軸延伸と同様な条件で機械方向とは直角に延伸する逐次二軸延伸法;機械方向および機械方向に対して直角方向への延伸を同時に行う同時二軸延伸法などが挙げられる。具体的には、テンター法、チューブラーフィルム法などの従来公知の逐次二軸延伸法および同時二軸延伸法を用いることができる。
【0022】
テンター法では、Tダイから溶融押出しされた溶融シートを冷却ロールで固化させ、該シートを必要により予熱した後に延伸ゾーンに導入し、次いで100〜160℃の温度で縦方向に3〜7倍、横方向に5〜11倍で該シートを延伸する。合計の延伸面倍率は、好ましくは20〜70倍、より好ましくは30〜50倍である。延伸面倍率が前記範囲を下回るとフィルム強度が大きくならないことがあり、前記範囲を上回るとボイドが生じやすく、幅方向の強度が低くなり、長さ方向に裂けやすくなる。
【0023】
また、一軸延伸または二軸延伸されたフィルムに対し、160〜190℃で熱固定することも必要により行われる。これにより、熱寸法安定性、耐水性および耐摩耗性などがより向上したポリプロピレンフィルムを得ることができる。また、以上のようにして形成された延伸フィルムは、電子線照射装置の設備などの諸条件に応じて、適宜裁断しておいてもよい。
【0024】
《電子線照射》
本発明に係るポリプロピレンフィルムは、前記延伸フィルムに、吸収線量0.1〜500kGy、好ましくは1〜300kGy、より好ましくは1〜100kGyで電子線を照射して得られる。なお、電子線の吸収線量(kGy)は、電子線照射装置の加速電圧と電流と照射時間との積で算出された値である。また、電子線の吸収線量は合計量であり、電子線を1回のみ照射してもよく、吸収線量の合計量が前記範囲に収まるのであれば複数回に分けて照射してもよい。
【0025】
延伸フィルムに対して電子線照射がなされるのであれば、そのタイミングなどは特に限定されない。たとえば、逐次二軸延伸法を用いる場合であれば、一軸延伸によって得られたフィルムに電子線を照射し、さらに一軸延伸と同様な条件で機械方向とは直角に延伸して二軸延伸フィルムとしてもよい。また、電子線照射後の延伸フィルムを、さらに延伸してもよい。これらの中では、二軸延伸フィルムに電子線照射をすることが好ましい。
【0026】
また、本発明の目的を損なわない範囲で、粉末状、顆粒状またはペレット状の前記プロピレン単独重合体または前記樹脂組成物に予め電子線を照射しておいてもよく、原反シートに予め電子線を照射しておいてもよい。
【0027】
電子線の吸収線量が前記範囲を下回ると照射による効果が得られないため、高い絶縁破壊電圧を有するポリプロピレンフィルムおよび該フィルムを含むフィルムコンデンサを提供できないことがある。電子線の吸収線量が前記範囲を上回るとプロピレン単独重合体が劣化することがあり、さらに、電子線照射の出力を上げる必要があるため、生産性および経済性の観点からも妥当ではない。
【0028】
前記延伸フィルムへの電子線照射は、何れの面に対してでもよく、片面のみでも、両面に照射してもよい。また、前記延伸フィルムは平坦性に優れており、前記延伸フィルムに電子線を低い出力電圧で均一に照射することができるため、絶縁破壊電圧が均一な(むらのない)ポリプロピレンフィルムを得ることができる。すなわち、生産性および経済性の観点からも、延伸フィルムに対する電子線照射は好ましい。
【0029】
本発明において、前記延伸フィルムに電子線を前記範囲で照射することにより、ポリプロピレンフィルムの絶縁破壊電圧が顕著に向上する理由は、延伸フィルムに含まれるプロピレン単独重合体の非晶部内の分子が架橋することで、分子同士の絡み合いが増大し、分子が動きにくくなることにより、電子の通り道が遮断されることにあると推定される。
【0030】
《ポリプロピレンフィルムの物性、形状など》
本発明に係るポリプロピレンフィルムは、従来公知のポリプロピレンフィルムに比べて、高い絶縁破壊電圧を有し、かつ熱収縮率が低い。このため、小型で大容量のキャパシタフィルムとして好適に用いることができ、たとえば、ハイブリッド自動車の高出力化、小型化および軽量化に大きく貢献できる。
【0031】
本発明に係るポリプロピレンフィルムの絶縁破壊電圧(BDV)は、具体的には後述する実施例に記載のとおりであり、従来公知のポリプロピレンフィルムのBDVに比べて優れている。
【0032】
本発明に係るポリプロピレンフィルムの熱収縮率(%)は、好ましくは−2.0〜+2.0%、より好ましくは−1.5〜+1.5%である。熱収縮率が前記範囲を下回ると素子の巻き締まりが不十分で形態保持が困難となる可能性、あるいは空隙が生じて素子の劣化が起こる可能性がある。熱収縮率が前記範囲を上回ると素子の変形が起き、変形による空隙が生じて素子の劣化や、さらには破壊が起こる可能性がある。ここで、ポリプロピレンフィルムを樹脂の流れ方向(MD方向)に10mm幅で100mmの長さにカットし、カットしたものを120℃の熱風オーブンに入れて15分間加熱し、元の長さに対する収縮した長さの割合(収縮した場合を+、伸長した場合を−とする。)を熱収縮率(%)とした。
【0033】
本発明に係るポリプロピレンフィルムの厚みは、好ましくは1〜20μm、より好ましくは1〜15μm、さらに好ましくは2〜8μm、特に好ましくは2〜4μmである。厚みが前記範囲にある(好ましくは8μm以下の、特に好ましくは4μm以下の)ポリプロピレンフィルムは、従来公知の材料を使用した場合よりも良好な電気特性(絶縁破壊電圧)を示す。厚みが前記範囲を下回るフィルムは、現在の技術では成形が困難となることがあり、厚みが前記範囲を上回るフィルムを用いた場合には、フィルムコンデンサが大きくなってしまい、現状のコンデンサの小型化に対する要求に応えられないことがある。
【0034】
《原料》
以下、本発明で原料として用いられるプロピレン単独重合体、好ましく用いられる架橋剤、およびその他の添加剤について説明する。延伸フィルムを形成する際には、前記プロピレン単独重合体をそのまま用いてもよく、前記プロピレン単独重合体と架橋剤やその他の添加剤とを含有する樹脂組成物として用いてもよい。
【0035】
前記プロピレン単独重合体または樹脂組成物の形状は、粉末、顆粒およびペレットの何れであってもよい。粉末、顆粒は前記プロピレン単独重合体または樹脂組成物から直接得られ、ペレットは粉末、顆粒を造粒することによって得られる。
【0036】
粉末であれば、平均粒径が、たとえば50〜150μm程度であり、顆粒であれば、平均粒径が、たとえば150〜2000μm程度であり、ペレットであれば、平均粒径が2〜10mm程度、高さが1〜5mm程度である。
【0037】
<プロピレン単独重合体>
本発明で用いられるプロピレン単独重合体は、下記要件(1)〜(4)を満たす。成形性が良好となり、耐電圧が向上することから、下記要件(5)および/または(6)をさらに満たすことが好ましい。
【0038】
(1)ASTM D1238に準拠して、230℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレート(MFR)が、1〜10g/10分、好ましくは2〜5g/10分の範囲にある。MFRが前記範囲を下回るとシートの成形性に劣り、かつ、シートの延伸が容易でなく、前記範囲を上回るとシートの延伸時に破断が起こる場合がある。なお、破断が起こるのは、溶融張力が不足していることが原因と考えられる。
【0039】
(2)13C−NMRを用いて測定したペンタッドアイソタクティック分率(mmmm分率)が、94%以上、好ましくは96%以上、さらに好ましくは98%以上である。ポリプロピレン単独重合体のペンタッドアイソタクティック分率(mmmm分率)が前記値未満では、電子線を照射しても、高い絶縁破壊電圧を有するポリプロピレンフィルムおよび該フィルムを含むフィルムコンデンサが得られない。これは、ペンタッドアイソタクティック分率が低いため、電気を通しやすい非晶部が多いことが原因と推定される。なお、ペンタッドアイソタクティック分率の上限は特に制限されないが、通常は99.5%程度である。
【0040】
なお、ペンタッドアイソタクティック分率(mmmm分率)は、A.ZambelliらのMacromolecules,8,687(1975)に示された帰属により定められた値であり、13C−NMRを使用して測定される分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖の存在割合を示しており、ペンタッドアイソタクティック分率=(21.7ppmでのピーク面積)/(19〜23ppmでのピーク面積)で算出される。
【0041】
(3)空気中で完全に燃焼させて得られる灰分量が、30ppm以下、好ましくは25ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下である。灰分量が前記値を超えると、高い絶縁破壊電圧を有するポリプロピレンフィルムが得られないことがある。これは、灰分が多いとボイドができやすいため、破壊耐電圧に影響を与えるためと推定される。
【0042】
(4)イオンクロマトグラフ法により測定した塩素量が、10ppm以下、好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは2ppm以下である。塩素量が前記値を超えると、高い絶縁破壊電圧を有するポリプロピレンフィルムが得られないことがある。これは、塩素が塩酸となり徐々にポリプロピレンを破壊してしまい、長期使用時の破壊耐電圧に影響を与えるためと推定される。
【0043】
(5)示差走査熱量計(DSC)測定により得られる融点(Tm)が、好ましくは155℃以上、より好ましくは160℃以上、さらに好ましくは163℃以上である。なお、Tmの上限は特にはないが、通常は170℃程度である。Tmが前述の範囲にあると、耐熱収縮および破壊耐電圧などに優れるポリプロピレンフィルムが得られる。これは、自由に動き回れる非晶部が少ないためと推定される。
【0044】
(6)ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法で測定した分子量分布Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)が、好ましくは4.0以上、より好ましくは4.5〜9.0、さらに好ましくは4.5〜7.5である。分子量分布Mw/Mnが前記範囲にあると、成形性および延伸性に優れたシートが得られる。
【0045】
−プロピレン単独重合体の製造方法−
前記要件(1)〜(4)(好ましくはさらに前記要件(5)および/または(6))を満たすプロピレン単独重合体は、従来公知のプロピレン重合用触媒を用いたプロピレンの重合方法により製造し得るが、なかでも担持型チタン触媒を用いた製造方法が好ましい。
【0046】
担持型チタン触媒としては、チタン、マグネシウム、ハロゲンおよび内部添加電子供与性化合物を含む固体状チタン触媒成分と、周期律表の第I族、II族、III族から選ばれた金属を含む有機金属化合物と、外部添加電子供与性化合物とからなる重合触媒が好ましく用いられる。
【0047】
重合触媒としては、より具体的には、工業的にポリプロピレンを含むプロピレン系重合体を製造するために用いられる触媒が使用される。たとえば、ハロゲン化マグネシウムなどの担持体上に、三塩化チタンまたは四塩化チタンを担持させたもの、ならびに有機アルミニウム化合物が用いられる。なかでも特に、高活性で、かつ、チタン成分のもともと少ない触媒を用いることが好ましい。
【0048】
前記プロピレン単独重合体は、フィルムコンデンサ用途に使用するため、触媒の単位量当りのポリマー生成量が少ない場合には、後処理を行って触媒残渣を除去する必要がある。また、触媒の活性が高いためにポリマーの生成量が多い場合でも、後処理を行って触媒残渣を除去することが好ましい。後処理の方法としては、重合して得られたプロピレン単独重合体を液状のプロピレン、ブタン、ヘキサンまたはヘプタンなどで洗浄する方法が挙げられる。このとき、水、アルコール化合物、ケトン化合物、エーテル化合物、エステル化合物、アミン化合物、有機酸化合物または無機酸化合物などを添加してチタンやマグネシウムなどの触媒成分を可溶化し、抽出し易くしてもよい。また、水またはアルコールなどの極性化合物で洗浄することも好ましい。
【0049】
さらに上記の重合により得られたプロピレン単独重合体は、脱ハロゲン処理することが好ましい。特に、エポキシ化合物を用いた脱ハロゲン処理が好ましい。ここで、エポキシ化合物としては、たとえば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブテンオキサイドまたはシクロヘキセンオキサイドなどのアルコキシオキサイドあるいはグリシジルアルコール、グリシジル酸またはグリシジルエステルなどが好ましく用いられる。これらのエポキシ化合物を用いてプロピレン単独重合体の脱塩素処理を行う時には、エポキシ化合物と等モル以上のヒドロキシル基(OH基)をもった化合物を用いると非常に効果的である。ここでOH基を持った化合物としては、水もしくはアルコールが挙げられる。
【0050】
さらに、高立体規則性プロピレン重合用触媒の存在下に、多段重合により製造することもできる。すなわち、本発明で用いられるプロピレン単独重合体は、担持型チタン触媒の存在下に、実質的に水素の存在下もしくは非存在下でプロピレンを重合させて、プロピレン単独重合体部を、2段以上の多段重合により製造することができる。また、プロピレン単独重合体を製造するに際して、予め予備重合を行うこともできる。
【0051】
重合条件は、重合温度が約−50〜+200℃、好ましくは約20〜100℃の範囲で、また重合圧力が常圧〜9.8MPa(ゲージ圧)、好ましくは約0.2〜4.9MPa(ゲージ圧)の範囲内で適宜選択される。なお、重合媒体として、不活性炭化水素類を用いてもよく、また液状のプロピレンを重合媒体としてもよい。また、分子量の調整方法は特に制限されないが、分子量調整剤として水素を使用する方法が好ましい。
【0052】
<架橋剤>
本発明において、架橋剤を好ましく用いることができる。架橋剤を前記プロピレン単独重合体に添加することで、より高い絶縁破壊電圧を有するポリプロピレンフィルムが得られる。これは、電子線照射による前記プロピレン単独重合体の分子切断が、架橋剤で架橋されることにより低減されるため、絶縁破壊電圧の効果がより発現されるところまで電子線の吸収線量を増やすことができるためと推定される。
【0053】
前記架橋剤としては、重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体であることが好ましい。前記架橋性単量体としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2'−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2'−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパンなどのジアクリレート化合物;
トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレートなどのトリアクリレート化合物;
ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどのテトラアクリレート化合物;
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどのヘキサアクリレート化合物;
エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2'−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパンなどのジメタクリレート化合物;
トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレートなどのトリメタクリレート化合物;
グリセリン−α−アリルエーテル、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0054】
これらの中でも、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサングリコールジアクリレート、グリセリン−α−アリルエーテル、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレートが好ましく、シートおよびフィルム成形時における揮発量が少なく、かつ電子線照射時の反応が緩やかであるため、取扱いが容易という理由から、トリアリルイソシアヌレートがより好ましい。
【0055】
本発明において、前記架橋剤は、前記プロピレン単独重合体100重量%に対して、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.5〜5重量%の量で添加される。架橋剤の添加量が前記範囲を下回ると、架橋剤を添加した効果が得られない恐れがある。架橋剤の添加量が前記範囲を上回ると、前記樹脂組成物をシート状に成形することが困難となる恐れがある。
【0056】
<その他の添加剤>
本発明において、本発明の目的を損なわない範囲で、前記プロピレン単独重合体に、酸化防止剤(イルガノックス1010、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、イルガフォス168など)、塩酸吸収剤(ステアリン酸カルシウムなど)、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、核剤、滑剤、顔料、染料、可塑剤、老化防止剤などの添加剤を添加してもよい。
【0057】
〔フィルムコンデンサ〕
本発明に係るフィルムコンデンサは、前記フィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルムを含むことを特徴とする。すなわち、本発明において、前記フィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルムを、公知のフィルムコンデンサに用いることができる。本発明に係るフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルムは、薄膜においても小さい熱収縮率および高い絶縁破壊電圧を示すことから、小型で大容量のキャパシタフィルムを得ることができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例および比較例において各物性は以下のように測定した。(1)〜(6)は原料として用いられるプロピレン単独重合体についての物性であり、(7)〜(8)は二軸延伸フィルムまたは電子線照射後の二軸延伸フィルムについての物性である。
【0059】
(1)メルトフローレート(MFR)
試料(プロピレン単独重合体)のMFRは、ASTM D1238に準拠して、230℃、2.16kg荷重にて測定した。
【0060】
(2)ペンタッドアイソタクティック分率(mmmm分率)
試料(プロピレン単独重合体)のペンタッドアイソタクティック分率(mmmm分率)は、A.ZambelliらのMacromolecules,8,687(1975)に示された帰属に基づき、下記条件で13C−NMRを用いて測定し、ペンタッドアイソタクティック分率=(21.7ppmでのピーク面積)/(19〜23ppmでのピーク面積)とした。
【0061】
〈測定条件〉
種類:JNM−Lambada400(日本電子(株)社製)
分解能:400MHz
測定温度:125℃
溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼン=7/4(体積比)
パルス幅:7.8μsec
パルス間隔:5sec
積算回数:2000回
シフト基準:TMS=0ppm
モード:シングルパルスブロードバンドデカップリング
【0062】
(3)灰分量
100gの試料(プロピレン単独重合体)を磁性ルツボに入れ、電熱器上で加熱し試料を燃焼させ、750℃の電気炉に30分入れ、完全灰化させた。ルツボをデシケーター中で1時間冷却した後に精密天秤で灰分の重量を0.1mg単位まで測定し、試料に対する灰分量(ppm)を算出した。
【0063】
(4)塩素量
試料燃焼装置(三菱化学(株)社製QF−02)に試料(プロピレン単独重合体)約0.7gをセットし、完全燃焼する条件でゆっくりと燃焼させ、出てきた燃焼ガスを吸収液(超純水)に通し塩素を捕集した。吸収液を濃縮装置付きのイオンクロマトグラフ(日本ダイオネクス(株)社製DX−300)に導入し、得られたクロマトグラムの面積より塩素量を算出した。なお、検出限界は、1ppmである。
【0064】
(5)融点(Tm)
試料(プロピレン単独重合体)0.40g程度を0.2mm厚フィルムの成形金型に入れ、240℃で7分加熱後、冷却プレスしフィルムを作成した。得られたフィルムから5.0mg±0.5mgを切り取り、専用アルミパンでクリンプし測定サンプルとした。サンプルを、パーキンエルマー社製DSC7を用い窒素気流下で、30℃で0.5分間保持したのち、30℃から240℃までを30℃/minで昇温し、240℃で10分間保持したのち、240℃から30℃までを10℃/minで降温し、30℃でさらに2分間保持したのち、次いで10℃/minで昇温する際の吸熱曲線から融点(Tm)を求めた。
【0065】
(6)分子量分布(Mw/Mn)
プロピレン単独重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、Waters社製ゲル浸透クロマトグラフAlliance GPC−2000型を用い、以下のようにして測定した。分離カラムは、TSKgel GNH6−HTを2本およびTSKgel GNH6−HTLを2本であり、カラムサイズはいずれも直径7.5mm、長さ300mmであり、カラム温度は140℃とし、移動相にはo−ジクロロベンゼンおよび酸化防止剤としてBHT0.025重量%を用い、1.0ml/分で移動させ、試料(プロピレン単独重合体)濃度は15mg/10mLとし、試料注入量は500μLとし、検出器として示差屈折計を用いた。標準ポリスチレンは、分子量がMw<1000およびMw>4×106については東ソー社製を用い、1000≦Mw≦4×106についてはプレッシャーケミカル社製を用いた。
【0066】
(7)熱収縮率
実施例および比較例で得られたフィルムをMD方向に10mm幅で100mmの長さにカットした。カットしたものを120℃の熱風オーブンに入れて15分間加熱した。元の長さに対する収縮した長さの割合で熱収縮率(%)を求めた。
【0067】
(8)絶縁破壊電圧(BDV)
JIS C2330に準じ、春日電気(株)社製6点式直流交流切替式15KV耐圧試験機を用い、80℃の温度の基で、100〜500V/secの電圧上昇をもって、実施例および比較例で得られたフィルム(250mm×300mmにカットしたもの、厚み15μm)に電圧を印加して絶縁破壊電圧を測定し、耐圧特性を求めた。上部電極は質量500g、25mmφの黄銅製円柱を(+)電極として、下部電極はシリコンゴムに、JIS H4160に規定するアルミニウム箔を巻き付けて、これを(−)電極とした。また、測定は、フィルム1枚に対して6点を、フィルム3枚に対して行い、平均値をBDV値とした。なお、絶縁破壊電圧は、破壊耐電圧の測定値(V)をフィルムの厚み(μm)で除したものである。
【0068】
〔プロピレン単独重合体の製造例〕
(1)固体状チタン触媒成分の調製
無水塩化マグネシウム952g、デカン4420mLおよび2−エチルヘキシルアルコール3906gを、130℃で2時間加熱して均一溶液とした。この溶液中に無水フタル酸213gを添加し、130℃でさらに1時間撹拌混合を行って無水フタル酸を溶解させた。得られた均一溶液を23℃まで冷却した後、この均一溶液750mLを−20℃に保持された四塩化チタン2000mL中に1時間かけて滴下した。滴下後、得られた混合液の温度を4時間かけて110℃に昇温し、110℃に達したところでフタル酸ジイソブチル(DIBP)52.2gを加え、同温度で2時間加熱した。次いで、熱時濾過にて固体部を採取し、この固体部を2750mLの四塩化チタンに再懸濁させた後、再び110℃のデカンおよびヘキサンを用いて、洗浄液中にチタン化合物が検出されなくなるまで洗浄した。このようにして調整された固体状チタン触媒成分は、ヘキサンスラリーとして保存される。このヘキサンスラリーの一部を乾燥して触媒組成を調べたところ、固体状チタン触媒成分は、チタンを2重量%、塩素を57重量%、マグネシウムを21重量%およびDIBPを20重量%含有していた。
【0069】
(2)前重合触媒の製造
遷移金属触媒成分(固体状チタン触媒成分)120g、トリエチルアルミニウム20.5mLおよびヘプタン120Lを内容量200Lの撹拌機付きオートクレーブに入れ、内温5℃に保ちながら、プロピレンを720g加え、60分撹拌して反応させた。重合終了後、固体成分を沈降させ、上澄み液の除去およびヘプタンによる洗浄を2回行った。得られた前重合触媒を精製ヘプタンに再懸濁して、遷移金属触媒成分濃度で1g/Lとなるようにした。この前重合触媒は遷移金属触媒成分1g当り、プロピレン重合体を6g含んでいた。
【0070】
(3)本重合
内容量100Lの撹拌機付きベッセル重合器に、プロピレンを110kg/時間、(2)で製造した触媒スラリーを遷移金属触媒成分として1.4g/時間、トリエチルアルミニウムを5.8mL/時間およびジシクロペンチルジメトキシシランを2.6mL/時間、連続的に供給し、水素を気相部の水素濃度が0.9mol%になるように供給した。重合温度73℃および圧力3.2MPa/Gで重合を行った。得られたスラリーを内容量1000Lの撹拌機付きベッセル重合器に送り、さらに重合を行った。プロピレンを30kg/時間、および水素を気相部の水素濃度が1.3mol%になるように重合器に供給した。重合温度71℃および圧力3.0MPa/Gで重合を行った。得られたスラリーを内容量500Lの撹拌機付きベッセルに送り、さらに重合を行った。プロピレンを46kg/時間および水素を、気相部の水素濃度が1.3mol%になるように重合器に供給した。重合温度69℃および圧力2.9MPa/Gで重合を行った。得られたスラリーは失活させた後、液体プロピレンによる洗浄槽に送り、プロピレン単独重合体パウダーを洗浄した。このスラリーを気化させた後、気固分離を行い、プロピレン単独重合体を得た。得られたプロピレン単独重合体をコニカル乾燥機に導入して、80℃で真空乾燥した。次いで、この生成物100kgに対し、純水35.9gとプロピレンオキサイド0.63Lとを添加して、90℃で2時間脱塩素処理を行った後に、80℃で真空乾燥し、プロピレン単独重合体パウダーを得た。
【0071】
得られたプロピレン単独重合体の各物性は、MFR:4.2g/10分、mmmm:98%、灰分量:20ppm、塩素量:1ppm、Tm:166℃、Mw/Mn:6.5であった。
【0072】
[比較例1]
前記製造例で得られたプロピレン単独重合体のペレット(平均粒径3mm)を、30mmφ押出機((株)GMエンジニアリング社製押出シート成形機)を用いて、成形温度210℃にて溶融し、Tダイから押出し、冷却温度30℃にて保持された冷却ロールにより、引取速度1.0m/分の条件で除冷し、厚み0.5mmのシートを得た。
【0073】
このシートを85mm×85mmにカットして、二軸延伸機(ブルックナー社製KARO IV)を用いて、予熱温度154℃、予熱時間60秒、延伸温度154℃、延伸倍率5×7倍(MD方向:5倍、TD方向:7倍)、延伸速度6m/分の条件で、逐次二軸延伸し、厚み15μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムについて、評価結果(熱収縮率およびBDVに関する。以下同じ。)を表1に示す。
【0074】
[実施例1〜3、比較例2]
電子線照射機((株)NHVコーポレーション社製EBC300−60。以下同じ。)を用いて、表1記載の吸収線量で、比較例1で得られた二軸延伸フィルムに電子線を照射した。得られたフィルムについて、評価結果を表1に示す。なお、比較例2では電子線照射により二軸延伸フィルムが劣化したため、得られたフィルムについて、上記評価を行うことができなかった。
【0075】
[比較例3]
比較例1において、ペレットとしてプロピレン単独重合体(MFR:2.9g/10分、mmmm:94%、灰分量:23ppm、塩素量:1ppm、Tm:163℃、Mw/Mn:5.0)のペレット(平均粒径3mm)を用い、二軸延伸機の予熱温度および延伸温度を151℃としたこと以外は比較例1と同様にして二軸延伸フィルムを作製した。得られた二軸延伸フィルムについて、評価結果を表1に示す。
【0076】
[実施例4]
電子線照射機を用いて、表1記載の吸収線量で、比較例3で得られた二軸延伸フィルムに電子線を照射した。得られたフィルムについて、評価結果を表1に示す。
【0077】
[比較例4]
比較例1において、ペレットとしてプロピレン単独重合体(MFR:2.8g/10分、mmmm:91%、灰分量:27ppm、塩素量:3ppm、Tm:160℃、Mw/Mn:8.0)のペレット(平均粒径3mm)を用い、二軸延伸機の予熱温度および延伸温度を147℃としたこと以外は比較例1と同様にして二軸延伸フィルムを作製した。得られた二軸延伸フィルムについて、評価結果を表1に示す。
【0078】
[比較例5]
電子線照射機を用いて、表1記載の吸収線量で、比較例4で得られた二軸延伸フィルムに電子線を照射した。得られたフィルムについて、評価結果を表1に示す。
【0079】
[比較例6]
前記製造例で得られたプロピレン単独重合体(MFR:4.2g/10分、mmmm:98%、灰分量:20ppm、塩素量:1ppm、Tm:166℃、Mw/Mn:6.5)のペレット(平均粒径3mm)99重量%と、プロピレン単独重合体(バセル社製ポリプロピレンPF−814、MFR:3.2g/10分、mmmm:91.0%、灰分量:220ppm、塩素量:24ppm、Tm:158℃、Mw/Mn:8.5)1重量%とを、二軸押出機(神戸製鋼(株)社製HYPERKTX30、30mmφ×2)を用いて、成形温度210℃にて溶融混練し、ペレットを得た。
【0080】
比較例1において、ペレットとして本比較例6で得たペレットを用いたこと以外は比較例1と同様にして二軸延伸フィルムを作製した。得られた二軸延伸フィルムについて、評価結果を表1に示す。
【0081】
[比較例7]
比較例1において、ペレットとしてプロピレン単独重合体(MFR:3.0g/10分、mmmm:98.5%、灰分量:300ppm、塩素量:70ppm、Tm:167℃、Mw/Mn:5.0)のペレット(平均粒径3mm)を用いたこと以外は比較例1と同様にして二軸延伸フィルムを作製した。得られた二軸延伸フィルムについて、評価結果を表1に示す。
【0082】
[比較例8]
プロピレン単独重合体(バセル社製ポリプロピレンPF−814(商品名)、MFR:3.2g/10分、mmmm:91.0%、灰分量:220ppm、塩素量:24ppm、Tm:158℃、Mw/Mn:8.5)のペレットを、プレス成型機(進藤金属工業(株)社製SFA−20型)を用いて、予熱/加圧温度210℃、予熱時間5分、加圧時間2分、加圧圧力10MPa、冷却時間3分の条件でプレスし、0.5mmのプレスシートを得た。
【0083】
このプレスシートを、85mm×85mmにカットし、二軸延伸機(ブルックナー社製KARO IV)を用いて、予熱温度150℃、予熱時間60秒、延伸温度150℃、延伸倍率5×7倍(MD方向:5倍、TD方向:7倍)、延伸速度6m/分の条件で、逐次二軸延伸し、厚み15μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムについて、評価結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

[比較例9]
前記製造例で得られたプロピレン単独重合体(MFR:4.2g/10分、mmmm:98%、灰分量:20ppm、塩素量:1ppm、Tm:166℃、Mw/Mn:6.5)のペレット(平均粒径3mm)100重量%と、トリアリルイソシアヌレート(日本化成(株)社製、TAIC)0.5重量%とを、二軸押出機(神戸製鋼(株)社製HYPERKTX30、30mmφ×2)を用いて、成形温度210℃にて溶融混練し、ペレットを得た。
【0085】
比較例1において、ペレットとして本比較例9で製造したペレットを用いたこと以外は比較例1と同様にして二軸延伸フィルムを作製した。得られた二軸延伸フィルムについて、評価結果を表2に示す。
【0086】
[実施例5〜8、比較例10]
電子線照射機を用いて、表2記載の吸収線量で、比較例9で得られた二軸延伸フィルムに電子線を照射した。得られたフィルムについて、評価結果を表2に示す。なお、比較例10では電子線照射により二軸延伸フィルムが劣化したため、得られたフィルムについて、上記評価を行うことができなかった。
【0087】
[比較例11]
比較例9において、架橋剤TAICの使用量を1重量%としたこと以外は比較例9と同様にして二軸延伸フィルムを作製した。得られた二軸延伸フィルムについて、評価結果を表2に示す。
【0088】
[実施例9〜10]
電子線照射機を用いて、表2記載の吸収線量で、比較例11で得られた二軸延伸フィルムに電子線を照射した。得られたフィルムについて、評価結果を表2に示す。
【0089】
[実施例11]
比較例9において、架橋剤TAICの使用量を5重量%としたこと以外は比較例9と同様にして二軸延伸フィルムを作製した。電子線照射機を用いて、表2記載の吸収線量で、この二軸延伸フィルムに電子線を照射した。得られたフィルムについて、評価結果を表2に示す。
【0090】
[実施例12]
比較例9において、ペレットとしてプロピレン単独重合体(MFR:2.9g/10分、mmmm:94%、灰分量:23ppm、塩素量:1ppm、Tm:163℃、Mw/Mn:5.0)のペレット(平均粒径3mm)100重量%にTAIC1重量%を添加して得られたペレットを用い、二軸延伸機の予熱温度および延伸温度を151℃としたこと以外は比較例9と同様にして二軸延伸フィルムを作製した。電子線照射機を用いて、表2記載の吸収線量で、この二軸延伸フィルムに電子線を照射した。得られたフィルムについて、評価結果を表2に示す。
【0091】
[比較例12]
比較例9において、ペレットとしてプロピレン単独重合体(MFR:2.8g/10分、mmmm:91%、灰分量:27ppm、塩素量:3ppm、Tm:160℃、Mw/Mn:8.0)のペレット(平均粒径3mm)100重量%にTAIC1重量%を添加して得られたペレットを用い、二軸延伸機の予熱温度および延伸温度を147℃としたこと以外は比較例9と同様にして二軸延伸フィルムを作製した。電子線照射機を用いて、表2記載の吸収線量で、この二軸延伸フィルムに電子線を照射した。得られたフィルムについて、評価結果を表2に示す。
【0092】
[比較例13]
比較例9において、架橋剤TAICの使用量を15重量%としたが、架橋剤の量が多すぎたためペレタイズできず、二軸延伸フィルムを作製できなかった。
【0093】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明に係るフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルムは、薄膜においても小さい熱収縮率および高い絶縁破壊電圧を示すことから、小型で大容量のキャパシタフィルムを提供することができ、たとえば、ハイブリッド自動車の高出力化、小型化および軽量化に大きく貢献することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(1)〜(4)を満たすプロピレン単独重合体を用いて形成された延伸フィルムに、吸収線量0.1〜500kGyで電子線を照射して得られることを特徴とするフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルム;
(1)ASTM D1238に準拠して、230℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレート(MFR)が、1〜10g/10分の範囲にある。
(2)13C−NMRを用いて測定したペンタッドアイソタクティック分率(mmmm分率)が、94%以上である。
(3)空気中で完全に燃焼させて得られる灰分量が、30ppm以下である。
(4)イオンクロマトグラフ法により測定した塩素量が、10ppm以下である。
【請求項2】
前記延伸フィルムが、前記プロピレン単独重合体に架橋剤を添加して形成された延伸フィルムであることを特徴とする請求項1に記載のフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
前記延伸フィルムが、前記プロピレン単独重合体100重量%に対して架橋剤0.01〜10重量%を添加して形成された延伸フィルムであることを特徴とする請求項2に記載のフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
前記延伸フィルムに照射される電子線の吸収線量が、1〜300kGyであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
前記延伸フィルムが、二軸延伸フィルムであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
厚みが1〜20μmであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルム。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載のフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルムを含むことを特徴とするフィルムコンデンサ。

【公開番号】特開2010−219328(P2010−219328A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64806(P2009−64806)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【Fターム(参考)】