説明

フィルムコンデンサ素子及びフィルムコンデンサ並びにフィルムコンデンサ素子の製造方法

【課題】十分な耐電圧を確保しつつ、小型・大容量化がより高いレベルで実現され、しかも効率的に生産が可能なフィルムコンデンサ素子を提供する。
【解決手段】蒸着重合膜16を少なくとも一つ含む誘電体の少なくとも一つと、金属蒸着膜14a,14bの少なくとも一つとを積層してなる積層構造体を用いて構成した。また、該蒸着重合膜16を、2個のベンゼン環が結合基を介して互いに結合されてなる構造を有する複数種類の原料モノマーを用いた蒸着重合により形成して、構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコンデンサ素子とフィルムコンデンサとフィルムコンデンサ素子の製造方法とに係り、特に、少なくとも一つの誘電体膜と少なくとも一つの金属蒸着膜とを積層してなる構造の積層構造体を用いて得られたフィルムコンデンサ素子と、そのようなフィルムコンデンサ素子を有利に製造可能なフィルムコンデンサ素子の製造方法と、かかるフィルムコンデンサ素子を用いて得られるフィルムコンデンサとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、フィルムコンデンサが、各種の電子機器などに使用されている。このフィルムコンデンサには、積層タイプと巻回タイプとがある。積層タイプのフィルムコンデンサは、例えば、特開平10−208972号公報(特許文献1)等に明らかにされるように、樹脂フィルムからなる誘電体膜の一方の面に、金属蒸着膜が、電極膜として積層形成された積層構造体(金属化フィルム)の複数を互いに積層することにより、構成されている。巻回タイプのフィルムコンデンサは、例えば、特開2008−91605号公報(特許文献2)等に明らかにされるように、上記の構造を有する積層構造体の複数を重ね合わせて巻回することによって構成されている。
【0003】
ところで、近年では、電子機器の小型・高性能化の要望の高まりに伴って、フィルムコンデンサに対しても、十分に高い耐電圧を確保した上での更なる小型化と大容量化の実現が、強く望まれるようになってきている。しかしながら、従来フィルムコンデンサでは、そのようなハイレベルの要求を十分に満たし得るだけの性能を確保することが困難であった。
【0004】
すなわち、従来のフィルムコンデンサでは、フィルムコンデンサ素子の積層構造体を構成する誘電体膜として、一般に、ポリプロピレンやポリエチレンテレフタレート等からなる樹脂フィルムが使用されている。それらポリプロピレンやポリエチレンテレフタレートは、高電圧に耐えられるものの、比誘電率が低い。そのため、そのようなポリプロピレンやポリエチレンテレフタレート等からなる樹脂フィルムに金属蒸着膜が積層されてなる積層構造体の複数を積層し、或いは巻回して得られるフィルムコンデンサ素子において静電容量を増大させようとすると、樹脂フィルムの使用量が不可避的に多くなってしまう。従って、ポリプロピレンフィルムやポリエチレンテレフタレートフィルム等を誘電体膜として使用する従来のフィルムコンデンサでは、更なる小型化と大容量化の両立を図ることが困難であった。
【0005】
そのような状況下、特開平3−50709号公報(特許文献3)には、フッ化又はフルオロアルキル化された複数種類の芳香族原料モノマーを用いた蒸着重合法を実施して、アルミナ等のセラミック基板上に、誘電体膜として、蒸着重合膜を形成してなるコンデンサが開示されている。蒸着重合膜は、不純物の少ない良好な品質を有し、しかも、十分に薄肉化が可能となる。それ故、蒸着重合膜は、樹脂フィルムからなる誘電体膜に比して、耐電圧と比誘電率とが有利に高くされる。従って、そのような従来のコンデンサにおける誘電体膜の形成技術、即ち、誘電体膜を蒸着重合膜にて形成する技術を応用し、フィルムコンデンサの小型・大容量化のために、フィルムコンデンサの誘電体膜として、蒸着重合膜を採用することが考えられる。
【0006】
ところが、本発明者の研究によれば、フッ化又はフルオロアルキル化された複数種類の芳香族原料モノマーを用いた蒸着重合法によって得られた蒸着重合膜を、フィルムコンデンサの誘電体膜として採用しても、近年のフィルムコンデンサに対する、より厳しい大容量化の要求に応えることが難しく、しかも、場合によっては、蒸着重合膜の成膜レート(単位時間当たりの成膜量)が低くなって、生産効率が極端に低下してしまう現象が生ずることが、判明したのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−208972号公報
【特許文献2】特開2008−91605号公報
【特許文献3】特開平3−50709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、上記した事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、十分な耐電圧を確保しつつ、小型・大容量化がより高いレベルで実現され、しかも効率的に生産が可能なフィルムコンデンサ素子及びフィルムコンデンサと、そのようなフィルムコンデンサ素子を有利に製造する方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、そのような課題の解決のために、先ず、前記公報に開示のフッ化又はフルオロアルキル化された複数種類の芳香族原料モノマーを用いた蒸着重合法を実施して、セラミック基板上に蒸着重合膜を形成してなる従来のコンデンサの成膜レートが低くなる原因と大容量化が不充分となる原因について、種々検討を行った。その結果、蒸着重合膜の成膜レートが、原料モノマーの分子量に影響され、また、コンデンサの静電容量を決定する蒸着重合膜の比誘電率が、原料モノマーの分子構造に大きく左右されることが判明した。そして、この判明事実を基に、更に鋭意研究を重ねた結果、分子量が抑えられた特別な分子構造を有する複数種類の原料モノマーを用いて蒸着重合操作を実施することによって、より一層高い比誘電率を有する蒸着重合膜を高い成膜レートで形成し得ることを見出したのである。
【0010】
すなわち、本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであって、その要旨とするところは、少なくとも一つの誘電体膜と少なくとも一つの金属蒸着膜とを積層してなる構造を有する積層構造体を用いて得られたフィルムコンデンサ素子において、前記少なくとも一つの誘電体膜のうちの少なくとも一つが、複数種類の原料モノマーを用いた蒸着重合法により形成された蒸着重合膜にて構成されていると共に、該複数種類の原料モノマーが、結合基を介して2個のベンゼン環を互いに結合してなる構造を、それぞれ有していることを特徴とするフィルムコンデンサ素子にある。
【0011】
本発明の望ましい態様の一つによれば、前記複数種類の原料モノマーが、それぞれ、前記結合基に対してパラ位の位置にある官能基を有し、且つそれら官能基を介して該複数種類の原料モノマーが重合せしめられる。
【0012】
本発明の有利な態様の一つによれば、熱処理、紫外線処理、電子ビーム処理、磁気処理、電場処理、及びプラズマ処理のうちの少なくとも何れか一つの処理が前記蒸着重合膜に施されていることにより、該蒸着重合膜の双極子が配向させられて、構成される。
【0013】
本発明の好適な態様の一つによれば、前記蒸着重合膜がポリユリア樹脂膜にて構成される。
【0014】
なお、蒸着重合膜がポリユリア樹脂膜にて構成される場合には、望ましくは、前記複数種類の原料モノマーが、芳香族ジアミンと芳香族ジイソシアネートとにて構成される。また、好適には、前記蒸着重合膜が、芳香族ジアミンと芳香族ジイソシアネートとを芳香族ジアミンのリッチ雰囲気中で重合させることにより、形成される。また、有利には、前記複数種類の原料モノマーとして、4,4’−ジアミノジフェニルメタンと4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとが選択される。
【0015】
そして、本発明は、上記した構造を有するフィルムコンデンサ素子を含んで構成されていることを特徴とするフィルムコンデンサをも、その要旨とするものである。
【0016】
また、本発明は、少なくとも一つの誘電体膜と少なくとも一つの金属蒸着膜とを積層してなる構造の積層構造体を用いてフィルムコンデンサ素子を製造するに際して、(a)前記少なくとも一つの誘電体膜と、前記少なくとも一つの金属蒸着膜とを積層すると共に、該少なくとも一つの金属蒸着膜を互いに非接触の形態において形成することにより、前記積層構造体を得る工程と、(b)該積層構造体を用いて、目的とするフィルムコンデンサ素子を得る工程とを含み、且つ前記少なくとも一つの誘電体層のうちの少なくとも一つを、2個のベンゼン環が結合基を介して互いに結合されてなる構造を有する複数種類の原料モノマーを用いた蒸着重合法により得られる蒸着重合膜にて、形成することを特徴とするフィルムコンデンサ素子の製造方法をも、また、その要旨とするものである。
【0017】
なお、本発明の好適な態様に一つによれば、前記複数種類の原料モノマーが、それぞれ、前記結合基に対してパラ位の位置にある官能基を有し、且つそれら官能基を介して該複数種類の原料モノマーが重合せしめられる。
【0018】
本発明の有利な態様の一つによれば、蒸着重合法によって前記蒸着重合膜を形成した後、該蒸着重合膜に対して、熱処理、紫外線処理、電子ビーム処理、磁気処理、電場処理、及びプラズマ処理のうちの少なくとも何れか一つの処理が施される。
【0019】
本発明の望ましい態様の一つによれば、前記複数種類の原料モノマーとして、芳香族ジアミンと芳香族ジイソシアネートとが用いられて、蒸着重合法が実施されることにより、ポリユリア樹脂膜からなる前記蒸着重合膜が形成される。
【0020】
なお、複数種類の原料モノマーとして、芳香族ジアミンと芳香族ジイソシアネートとが用いられる場合には、好適には、芳香族ジアミンと芳香族ジイソシアネートとを芳香族ジアミンのリッチ雰囲気中で重合させることにより、前記蒸着重合膜が形成される。また、望ましくは、前記複数種類の原料モノマーとして、4,4’−ジアミノジフェニルメタンと4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとが選択される。
【発明の効果】
【0021】
すなわち、本発明に従うフィルムコンデンサ素子にあっては、少なくとも一つの誘電体膜のうちの少なくとも一つが、蒸着重合膜にて構成されている。この蒸着重合膜は、真空中での蒸着重合によって形成される。そのため、蒸着重合膜は、不純物の少ない良好な品質を有し、しかも、十分に薄肉化が可能となる。それ故、そのような蒸着重合膜を含む誘電体膜全体の耐電圧と比誘電率とが、樹脂フィルムだけからなる誘電体膜全体の耐電圧と比誘電率よりも高くされる。
【0022】
そして、特に、蒸着重合膜が、結合基を介して2個のベンゼン環を互いに結合してなる構造を有する芳香族の原料モノマー同士の蒸着重合によって形成されている。これによって、蒸着重合膜の比誘電率が、更に一層効果的に高められる。また、芳香族原料モノマーの分子量が有利に小さくされ、その結果として、蒸着重合膜の成膜レートも有利に高められる。
【0023】
従って、本発明に従うフィルムコンデンサ素子にあっては、十分な耐電圧を確保しつつ、小型・大容量化がより高いレベルで実現され得る。しかも、蒸着重合膜の成膜レートの向上により、フィルムコンデンサ素子全体の生産効率の向上が、極めて効果的に図られ得るのである。
【0024】
そして、本発明に従うフィルムコンデンサにおいては、上記したフィルムコンデンサ素子において奏される作用・効果と実質的に同一の作用・効果が有効に享受され得る。
【0025】
本発明に従うフィルムコンデンサ素子の製造方法によれば、上記の如き優れた特徴を有するフィルムコンデンサ素子が、優れた生産性をもって極めて有利に製造され得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に従う構造を有するフィルムコンデンサ素子の一例を示す部分拡大縦断面説明図である。
【図2】図1に示されたフィルムコンデンサ素子の製造装置を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0028】
先ず、図1には、本発明に従う構造を有するフィルムコンデンサ素子の一実施形態が、その縦断面形態において示されている。かかる図1から明らかなように、本実施形態のフィルムコンデンサ素子10は、誘電体膜としての樹脂フィルム12の一方の面に金属蒸着膜14aが積層されてなる金属化フィルム15を有している。そして、そのような金属化フィルム15の金属蒸着膜14a側とは反対側の面(樹脂フィルム12の他方の面)に、別の金属蒸着膜14bが積層され、また、この金属蒸着膜14b上に、蒸着重合膜16が、更に積層形成されて、構成されている。つまり、本実施形態では、フィルムコンデンサ素子10が、金属蒸着膜14aと樹脂フィルム12と金属蒸着膜14bと蒸着重合膜16とが、その順番で積層されてなる積層構造体として、構成されているのである。
【0029】
より具体的には、樹脂フィルム12は、ポリプロピレン製の二軸延伸フィルムからなり、1〜10μm程度の薄い厚さを有している。この樹脂フィルム12には、従来のフィルムコンデンサの誘電体膜を構成する樹脂フィルムが、何れも使用可能である。例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンナフタレート等からなる樹脂フィルムが用いられ得る。また、それらの樹脂フィルムは、必ずしも、二軸延伸フィルムでなくとも良い。
【0030】
金属蒸着膜14a,14bは、アルミニウムからなっている。この金属蒸着膜14a,14bは、フィルムコンデンサ素子10を用いて作製されるフィルムコンデンサの内部電極を構成するものであって、公知の手法に従って、樹脂フィルム12の両面に積層形成される。即ち、金属蒸着膜14a,14bは、フィルムコンデンサの内部電極を形成する公知の金属材料を蒸着材として用いて、PVDやCVDの範疇に属する、従来から公知の真空蒸着法を実施することにより、樹脂フィルム12の両面上に積層形成されるのである。従って、金属蒸着膜14a,14bは、アルミニウムに限定されるものではなく、亜鉛等からなるものであっても良い。このような金属蒸着膜14a,14bの膜抵抗値は1〜50Ω/cm2 程度とされ、また、その膜厚は、膜抵抗値等によって適宜に決定される。
【0031】
蒸着重合膜16は、ポリユリア樹脂膜からなっている。この蒸着重合膜16は、公知の真空蒸着重合法によって、金属蒸着膜14a上に積層形成されるものである。これにより、蒸着重合膜16において、不純物の少ない良好な品質が確保され、また、その厚さが、樹脂フィルム12の厚さよりも十分に薄くされている。その結果、フィルムコンデンサ素子10を用いて作製されるフィルムコンデンサの小型・高性能化が効果的に図られるようになっている。
【0032】
なお、蒸着重合膜16の膜厚は、特に限定されるものではないが、0.001〜10μm程度とされていることが望ましい。何故なら、蒸着重合膜16を0.001μm未満の膜厚で形成することは容易ではない。そのため、蒸着重合膜16の膜厚が、現実的には、0.001μm以上とされるからである。また、蒸着重合膜16の厚さが10μmを超える場合には、誘電体として蒸着重合膜16を有するフィルムコンデンサの小型化を促進することが困難となるからである。
【0033】
また、蒸着重合膜16は、真空蒸着法によって成膜可能な樹脂膜であれば、その種類が、何等限定されるものではない。即ち、蒸着重合膜16を、ポリユリア樹脂膜に代えて、ポリアミド樹脂膜、ポリイミド樹脂膜、ポリアミドイミド樹脂膜、ポリエステル樹脂膜、ポリアゾメチン樹脂膜、ポリウレタン樹脂膜等にて構成しても良い。そして、その中でも、樹脂フィルム12よりも高い比誘電率を有する樹脂膜が、好適に採用される。そのような樹脂膜にて蒸着重合膜16を形成することによって、フィルムコンデンサの静電容量を効果的に増大させることが可能となる。
【0034】
なお、蒸着重合膜16を構成するポリユリア樹脂は、樹脂フィルム12よりも高い比誘電率が確保されるだけでなく、原料モノマー(ジイソシアネートとジアミン)の重合に際して、加熱処理が不要であり、しかも、水やアルコール等の脱離が全くない重付加重合反応において形成される。このため、ここでは、原料モノマーの重合時に加熱処理を実施するための設備が不要となって、低コスト化が実現され得る。また、加熱処理時の熱によって、樹脂フィルム12が変形する、所謂熱負けが惹起されることが有利に回避され得る。更に、重合反応によって脱離した水やアルコール等を、重合反応が進行する真空チャンバ内から除去する必要がない。そのため、脱離された水やアルコール等を除去するための設備も不要となる。これによっても、低コスト化が、有利に実現可能となる。加えて、ポリユリア樹脂膜は、優れた耐湿性を有している。それによって、蒸着重合膜16の高い耐電圧が、より安定的に確保され得ることとなる。
【0035】
そして、本実施形態では、蒸着重合膜16が、ポリユリア樹脂の中でも、特に、芳香族ポリユリア樹脂にて構成されている。また、そのような芳香族ポリユリア樹脂膜からなる蒸着重合膜16は、2個のベンゼン環が結合基を介して互いに結合されてなる構造を有する芳香族ジイソシアネートと芳香族ジアミンとが蒸着重合されることによって形成されている。
【0036】
さらに、本実施形態においては、芳香族ジイソシアネートとして、下記(化1)の一般式で示される4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が用いられている。また、芳香族ジアミンには、下記(化2)の一般式で示される4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)が用いられている。そして、蒸着重合膜16が、それらの芳香族ジイソシアネートと芳香族ジアミンとの蒸着重合により形成されていることによって、蒸着重合膜16の比誘電率と成膜レートの向上が図られているのである。
【0037】
【化1】

【0038】
【化2】

【0039】
すなわち、ベンゼン環を有する芳香族モノマーは、分子構造が平面状とされて、直鎖構造や脂環構造を有するモノマーよりも安定した構造となっている。それ故、そのような芳香族モノマーであるMDIとMDAとの蒸着重合によって形成される蒸着重合膜16は、樹脂フィルム12に積層された金属蒸着膜14b上において、平面状に重なり合って、緻密に形成されている。これにより、蒸着重合膜16の密度が高められ、以て、蒸着重合膜16の比誘電率の更なる向上が図られている。
【0040】
また、蒸着重合膜16を形成するMDIとMDAは、2個のベンゼン環を有している。2個のベンゼン環を有するMDIとMDAは、3個以上のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネートや芳香族ジアミンよりも、分子量がそれぞれ小さくされている。それ故、そのような分子量の小さいMDIとMDAとの蒸着重合によって蒸着重合膜16を形成する際には、3個以上のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネートと芳香族ジアミンを用いる場合に比して、分子量が小さくされている分だけ、それらMDIとMDAのそれぞれの蒸発速度が効果的に高められる。それによって、蒸着重合膜16の成膜レートの向上が図られているのである。
【0041】
また、一般に、直鎖構造や脂環構造を有するジイソシアネートやジアミンは、芳香族ジイソシアネートや芳香族ジアミンに比べて、分子構造が不安定である。特に、脂環構造のジイソシアネートやジアミンは、屈曲した構造を有し、立体障害が大きい。そのため、そのような脂環構造のジイソシアネートや脂環構造のジアミンとを用いた蒸着重合によって蒸着重合膜16を形成した場合、蒸着重合膜16の密度が不可避的に小さくなって、比誘電率の更なる向上が望めない。また、芳香族ジイソシアネートや芳香族ジアミンのうち、ベンゼン環を1個だけ有するものや、2個のベンゼン環が結合基を介することなく直接に結合されたものは、分子内での原子団の動きが、ジイソシアネートとジアミンとを重合させる官能基の周りだけに制限される。そのため、分子構造の並びを一直線に近い形で並べることが困難となる。
【0042】
これに対して、2個のベンゼン環が結合基によって互いに結合されてなる芳香族ジイソシアネートと芳香族ジアミンであるMDIとMDAは、安定した分子構造を有している。しかも、分子内での原子団の動きが、官能基の周りと結合基の周りとにおいて許容されるため、分子構造の並びを一直線に近い形で並べることができる。それ故、そのようなMDIとMDAとの蒸着重合によって形成された蒸着重合膜16は、樹脂フィルム12に積層された金属蒸着膜14b上において、平面状に重なり合って緻密に形成される。それによって、蒸着重合膜16の比誘電率の更なる向上が図られている。
【0043】
さらに、上記(化1)及び(化2)から明らかなように、蒸着重合膜16の形成する芳香族ジイソシアネートと芳香族ジアミンであるMDIとMDAは、それぞれの官能基であるイソシアネート基(−NCO)とアミノ基(−NH2 )が、結合基[メチル基(−CH2− )]に対してパラ位の位置にある。換言すれば、即ち、MDIとMDAは、それぞれ、結合基に対してパラ位の位置にある官能基を有し、且つそれら官能基を介してMDIとMDAが重合せしめられる。そのため、それらMDIとMDAは、分子構造の並びを一直線に近い形で並べることができる。これによって、蒸着重合膜16の比誘電率の更なる向上が図られている。
【0044】
なお、芳香族ポリユリア樹脂膜からなる蒸着重合膜16を形成するのに用いられる芳香族ジイソシアネートと芳香族ジアミンは、例示したMDIとMDAに、特に限定されるものではない。2個のベンゼン環が結合基を介して互いに結合されてなる構造を有するものであれば、各種の芳香族ジイソシアネートと芳香族ジアミンとが使用可能である。例えば、芳香族ジアミンとしては、ビス(4−アミノフェニル)スルフィドや、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン等も、用いられ得る。
【0045】
また、そのような芳香族ジイソシアネートと芳香族ジアミンの中でも、結合基がメチル基(−CH2− )、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(−S−)であるものが好適に使用され、更に、それらの中でも、結合基がメチル基(−CH2− )であるものが、特に好適に使用される。これらのものを用いることによって、成膜される芳香族ポリユリア樹脂膜からなる蒸着重合膜16の比誘電率の向上と成膜レートの増大が、共に有効に図られ得る。
【0046】
そして、上記の如き構造とされたフィルムコンデンサ素子10を用いて、巻回タイプのフィルムコンデンサを得る際には、先ず、フィルムコンデンサ素子10を、例えば、蒸着重合膜16が内側となるように1回又は複数回巻き付けて、巻回物を得る。このとき、所定の巻芯を用いても良い。次に、得られた巻回物の両側端面に対して、メタリコン電極をそれぞれ形成すると共に、それら各メタリコン電極に対して外部端子等を取り付ける。その後、必要に応じて、積層構造体を所定のケース内に封止する。これによって、目的とする巻回タイプのフィルムコンデンサを得るのである。
【0047】
また、フィルムコンデンサ素子10の複数を用いて、フィルムコンデンサを得ることもできる。この場合には、フィルムコンデンサ素子10が、フィルムコンデンサの基本素子を構成する積層構造体として、複数用いられる。そして、先ず、複数のフィルムコンデンサ素子10を積層する。このとき、互いに積層されるフィルムコンデンサ素子10のうちの一方における金属蒸着膜14aと、それらのうちの他方における蒸着重合膜16とを互いに重ね合わせる。次に、この積層体を1回又は複数回巻き付けて、巻回物を得る。その後、得られた巻回物(巻回型のフィルムコンデンサ素子)の両側端面に対して、メタリコン電極をそれぞれ形成すると共に、それら各メタリコン電極に対して外部端子等を取り付ける。そして、必要に応じて、積層構造体を所定のケース内に封止する。これにより、目的とする巻回タイプのフィルムコンデンサを得るのである。
【0048】
また、フィルムコンデンサ素子10を用いて、積層タイプ型のフィルムコンデンサを作製することもできる。この場合にも、フィルムコンデンサ素子10が、フィルムコンデンサの基本素子を構成する積層構造体として、複数用いられる。そして、先ず、複数のフィルムコンデンサ素子10を互いに積層して、積層体を形成する。このとき、互いに積層されるフィルムコンデンサ素子10のうちの一方における金属蒸着膜14aと、それらのうちの他方における蒸着重合膜16とを互いに重ね合わせる。次に、積層構造体の両側端面に対して、メタリコン電極をそれぞれ形成すると共に、それら各メタリコン電極に対して外部端子等を取り付ける。その後、必要に応じて、積層構造体を所定のケース内に封止することによって、目的とする積層タイプのフィルムコンデンサを得るのである。
【0049】
ところで、上記の如きフィルムコンデンサ素子10は、例えば、図2に示されるような構造を有する製造装置18を用いて製造される。以下、フィルムコンデンサ素子10の製造装置18について詳述する。
【0050】
図2から明らかなように、製造装置18は、所定大きさの真空チャンバ20を有している。この真空チャンバ20内には、その内側空間を二つに仕切る仕切壁22が設けられている。この仕切壁22によって、真空チャンバ20内に、第一真空室24と第二真空室26とが、画成されている。
【0051】
第一真空室24と第二真空室26とには、それら各真空室24,26の内側空間を外部に連通させる排気パイプ28,28が、それぞれ接続されている。そして、それら各排気パイプ28,28上には、真空ポンプ30,30が、各々設けられている。これら二つの真空ポンプ30,30の作動により、第一真空室24内と第二真空室26内とが、それぞれ真空状態とされるようになっている。また、二つの真空ポンプ30,30の作動が互いに独立して制御可能とされている。それによって、第一真空室24と第二真空室26とが、互いに異なる真空度にて真空状態とされ得るようになっている。
【0052】
真空チャンバ20の第一真空室24内には、巻出しローラ32と巻取りローラ34とが設置されている。巻出しローラ32は、樹脂フィルム12の一方の面に金属蒸着膜14aが積層されてなる金属化フィルム15を巻回したフィルムロール36が取り付けられるようになっている。巻取りローラ34は、巻出しローラ32に取り付けられたフィルムロール36から巻き出された金属化フィルム15の先端部分が取り外し可能に取り付けられて、図示しない電動モータ等によって回転駆動するようになっている。これにより、フィルムロール36から巻き出された金属化フィルム15が、巻取りローラ34の回転駆動に伴って、巻取りローラ34にて巻き取られるようになっている。
【0053】
第一真空室24内には、キャンローラ38が設置されている。このキャンローラ38は、鉄等の金属製の円筒体からなり、図示しない電動モータ等によって回転駆動するようになっている。また、キャンローラ38は、その外周面の一部が、前記仕切壁22に設けられた窓部40を通じて、第二真空室26内に露出している。
【0054】
そして、フィルムロール36から巻き出された金属化フィルム15が、キャンローラ38に対して、その外周面に、金属蒸着膜14aを接触させた状態で巻き掛けられてから、巻取りローラ34に取り付けられるようになっている。これにより、フィルムロール36から巻き出された金属化フィルム15が、樹脂フィルム12の金属蒸着膜14a形成側とは反対側の面を真空チャンバ20内に露呈させた状態で、キャンローラ38の回転駆動に伴って、キャンローラ38の周方向の一方向(図2の矢印:A方向)に走向した後、巻取りローラ34に向かって送り出されて、巻取りローラ34にて巻き取られるようになっている。
【0055】
また、キャンローラ38の内部には、冷却機構42が設けられている。この冷却機構42は、例えば、冷却媒体の循環等によって、キャンローラ38の筒部の外周面を冷却する公知の構造を有している。これにより、キャンローラ38に巻き掛けられた金属化フィルム15が、冷却機構42にて冷却されたキャンローラ38の外周面により冷却されるようになっている。
【0056】
真空チャンバ20内におけるキャンローラ38の周囲には、金属蒸着膜形成装置44と蒸着重合膜形成装置46と赤外線照射装置48とプラズマ照射装置50とが、キャンローラ38の周方向に並んで配置されている。それら4個の装置44,46,48,50は、キャンローラ38の回転に伴って走行する金属化フィルム15の走向方向の上流側から下流側に向かって、上記の順番で、並べられている。また、それら4個の装置44,46,48,50のうち、金属蒸着膜形成装置44だけが、第二真空室26内に配置され、残りの3個の装置46,48,50は、第一真空室24内に配置されている。
【0057】
金属蒸着膜形成装置44は、アルミニウム等の金属からなる蒸着原料(図示せず)を収容する収容部52とヒータ54とを有している。そして、この金属蒸着膜形成装置44は、収容部52に収容された蒸着原料を、ヒータ54にて加熱し、蒸発させて、金属蒸気を発生させ、また、そのような金属蒸気を、キャンローラ38に巻き掛けられた金属化フィルム15に付着させ得るようになっている。これにより、金属化フィルム15おける樹脂フィルム12の金属蒸着膜14a形成面とは反対側の面に対して、金属蒸着膜14bを形成するようになっている。
【0058】
蒸着重合膜形成装置46は、ケーシング56を有している。このケーシング56は、その内側空間が混合室58とされている。また、ケーシング56は、キャンローラ38の外周面に向かって開口する開口部60を有し、この開口部60を通じて、混合室58が、第一真空室24内に連通している。更に、ケーシング56内には、液体状の原料モノマーを収容する第一及び第二モノマーポット62a,62bと第一及び第二ヒータ64a,64bとが設けられている。
【0059】
そして、この蒸着重合膜形成装置46は、第一及び第二モノマーポット62a,62b内にそれぞれ収容された2種類の原料モノマーを、第一及び第二ヒータ64a,64bにて加熱し、蒸発させて、2種類のモノマー蒸気を発生させるようになっている。また、それら2種類のモノマー蒸気を混合室58内で混合させた後、混合した2種類のモノマー蒸気を、キャンローラ38に巻き掛けられた金属化フィルム15に向かって、開口部60から吹き出すようになっている。これにより、金属化フィルム15おける樹脂フィルム12の金属蒸着膜14a形成面とは反対側の面に、2種類のモノマー蒸気を付着させ、そして、樹脂フィルム12上で、それら2種類のモノマー蒸気を重合させることにより、蒸着重合膜16を形成するようになっている。
【0060】
赤外線照射装置48は、赤外線を発生させる公知の構造を有している。そして、発生させた赤外線を、キャンローラ38の外周面上に照射し得るようになっている。これによって、キャンローラ38に巻き掛けられて走行する金属化フィルム15に対して、赤外線照射による熱処理が行われるようになっている。
【0061】
プラズマ照射装置50は、プラズマ(例えば、アルゴンガスのプラズマ)を発生させる公知の構造を有している。そして、発生させたプラズマを、キャンローラ38の外周面上に照射し得るようになっている。これによって、キャンローラ38に巻き掛けられて走行する金属化フィルム15に対して、プラズマ照射によるプラズマ処理が行われるようになっている。
【0062】
なお、ここでは、プラズマ照射装置50によるキャンローラ38の外周面に対するプラズマの照射位置と、赤外線照射装置48によるキャンローラ38の外周面に対する照射位置とが、互いに同一の位置とされている。これにより、キャンローラ38に巻き掛けられて走行する金属化フィルム15の一部に対して、熱処理とプラズマ処理とが同時に実施されるようになっている。
【0063】
このような構造を有する製造装置18を用いて、フィルムコンデンサ素子10を得る際には、図2に示されるように、例えば、先ず、フィルムロール36を巻出しローラ32に外挿して、セットする。次に、フィルムロール36から金属化フィルム15を巻き出して、キャンローラ38に巻き掛けた後、その先端部を巻取りローラ34に取り付ける。
【0064】
一方、そのような金属化フィルム15のキャンローラ38への巻掛け操作と同時に、或いはその操作の前後に、キャンローラ38に内蔵の冷却機構42を作動させて、キャンローラ38の外周面を冷却する。これによって、キャンローラ38に巻き掛けられた金属化フィルム15を冷却する。この冷却機構42による金属化フィルム15の冷却温度は、特に限定されるものではなく、金属化フィルム15に対して実施される、後述の蒸着重合操作を安定的に実施可能な温度とされ、一般には、−15〜30℃程度とされる。
【0065】
また、金属化フィルム15のキャンローラ38への巻掛け操作とは別に、金属蒸着膜形成装置44の収容部52内に、アルミニウムからなる蒸着原料を収容する。更に、蒸着重合膜形成装置46の第一モノマーポット62a内に、前記した特別な分子構造を有する芳香族ジイソシアネート(例えば、MDI)の所定量を、液体状態で収容する。また、第二モノマーポット62b内に、前記した特別な分子構造を有する芳香族ジアミン(例えば、MDA)の所定量を、液体状態で収容する。
【0066】
その後、真空ポンプ30,30を作動させて、真空チャンバ20の第一真空室24内と第二真空室26内とを減圧して、それぞれ真空状態とする。これによって、第一真空室24の内圧が10-1〜100Pa程度とされ、第二真空室26の内圧が、第一真空室24の内圧よりも低い10-2×5Pa程度とされる。また、金属蒸着膜形成装置44のヒータ54と蒸着重合膜形成装置46の第一及び第二ヒータ64a,64bとを作動させて、収容部52内のアルミニウムの蒸着原料と、第一及び第二モノマーポット62a,62b内の芳香族ジイソシアネートと芳香族ジアミンとを、それぞれ加熱し、蒸発させる。
【0067】
次に、キャンローラ38を回転させる電動モータを回転駆動させて、キャンローラ38を図2の矢印:A方向に回転させる。それと同時に、巻取りローラ34回転駆動させる。これにより、フィルムロール36から巻き出された金属化フィルム15を矢印:A方向に走行させる一方、キャンローラ38から送り出された金属化フィルム15の巻取りローラ34による巻取りを可能とする。
【0068】
そして、キャンローラ38に巻き掛けられた金属化フィルム15の一部を、キャンローラ38の回転によって、第二真空室26内に進入させる。そこで、金属蒸着膜形成装置44にて発生させられたアルミニウムの蒸気を、金属化フィルム15のキャンローラ38の外周面側とは反対側の面(真空チャンバ20内への露呈面)に吹き付けて、付着させる。これにより、金属化フィルム15の金属蒸着膜14aの形成面とは反対側の面に対して、金属蒸着膜14bを積層形成する。
【0069】
このとき、第二真空室26の内圧が、第一真空室24の内圧よりも低くされているため、金属蒸着膜形成装置44で発生したアルミニウム蒸気が、第二真空室26から第一真空室24内に侵入することが有利に防止される。また、冷却機構42によるキャンローラ38の外周面の冷却によって金属化フィルム15が冷却されているため、高温のアルミニウム蒸気との接触(付着)による樹脂フィルム12の熱ダメージの発生が、有利に防止される。
【0070】
次に、金属蒸着膜14bが積層形成された金属化フィルム15部分を、キャンローラ38の回転によって、第二真空室26内から第一真空室24内に再び進入させて、蒸着重合膜形成装置46の設置箇所に位置させる。そして、蒸着重合膜形成装置46のケーシング56の混合室58内で混合されて、開口部60から吹き出される芳香族ジイソシアネート蒸気と芳香族ジアミン蒸気を、金属化フィルム15に積層された金属蒸着膜14b上に付着させて、金属蒸着膜14b上で自己重合させる。これにより、金属蒸着膜14b上に、芳香族ポリユリア樹脂膜からなる蒸着重合膜16を積層形成する。そうして、目的とするフィルムコンデンサ素子10を得る。
【0071】
なお、蒸着重合膜16の形成工程は、好ましくは、芳香族ジアミンの蒸気圧が、芳香族ジイソシアネートの蒸気圧よりも高くされて、蒸着重合膜形成装置46の混合室58内が、芳香族ジアミンのリッチ雰囲気とされた中で行われる。つまり、芳香族ジアミンのリッチ雰囲気中で、蒸着重合操作が実施されるのである。それによって、蒸着重合膜16の比誘電率が有利に高められることとなる。これは、以下の理由によるものと考えられる。
【0072】
すなわち、芳香族ジアミンのリッチ雰囲気中では、芳香族ジアミンの分子数が、芳香ジイソシアネートの分子数よりも多くなる。このような状態下での芳香族ジアミンと芳香族ジイソシアネートとの蒸着重合によって形成された芳香族ポリユリアは、芳香族ジアミンと芳香族ジイソシアネートの組成比が1:1の雰囲気中での蒸着重合によって形成された芳香族ポリユリアに比べて、分子鎖の長さ(オリゴマー状態)が短くなる。分子鎖が短い芳香族ポリユリア膜は、分子鎖が長い芳香族ポリユリア膜に比べて、膜内部での分子の動きの自由度が大きく、分子の動きが活発となる。これによって、芳香族ジアミンのリッチ雰囲気中で、芳香族ジアミンと芳香族ジイソシアネートとの蒸着重合によって形成される蒸着重合膜16の比誘電率が高くなると考えられる。
【0073】
なお、芳香族ジイソシアネートのリッチ雰囲気中では、芳香ジイソシアネートの分子数が、芳香族ジアミンの分子数よりも多くなる。そのような状態下では、イソシアネート基が空気中の水分と反応し易くなる。そのため、特に、芳香族イソシアネートを収容するモノマーポットが真空チャンバ20の外部に設置される場合には、芳香族ジイソシアネートのリッチ雰囲気中で、芳香族ジアミンと芳香族ジイソシアネートとの蒸着重合によって形成される蒸着重合膜16の比誘電率が、芳香族ジアミンのリッチ雰囲気中で、芳香族ジアミンと芳香族ジイソシアネートとの蒸着重合によって形成される蒸着重合膜16の比誘電率程、高くならないと考えられる。
【0074】
芳香族ジアミンのリッチ雰囲気は、例えば、蒸着重合膜形成装置46の第二ヒータ64bによる第二モノマーポット62b内の芳香族ジアミンの加熱温度を、第一ヒータ64aによる第一モノマーポット62a内の芳香族ジイソシアネートの加熱温度よりも高くすることによって容易に形成される。また、この芳香族ジアミンのリッチ雰囲気中の芳香族ジアミンと芳香族ジイソシアネートの組成比は、特に限定されるものではないものの、好ましくは、芳香族ジアミンの量が芳香族ジイソシアネートの量の1倍を超え、且つ4倍以下の量とされる。何故なら、芳香族ジアミンの量が芳香族ジイソシアネートの量よりも4倍を超える雰囲気中では、芳香族ジアミンが多過ぎて、芳香族ジアミンと芳香族ジイソシアネートとの重合が不充分となり、芳香族ポリユリア樹脂からなる蒸着重合膜16の形成が困難となる恐れがあるからである。
【0075】
次に、キャンローラ38の回転によって、金属蒸着膜14bと蒸着重合膜16とが積層形成された金属化フィルム15部分を、赤外線照射装置48により赤外線が照射されると同時にプラズマ照射装置50によりプラズマが照射される箇所に位置させる。そして、赤外線照射装置48とプラズマ照射装置50からそれぞれ発射される赤外線とプラズマとを、蒸着重合膜16に同時に照射する。これにより、蒸着重合膜16に対する熱処理とプラズマ処理とを同時に実施する。このとき、赤外線照射による熱処理は、例えば、蒸着重合膜が160℃で10分間加熱される条件で行われる。
【0076】
このような蒸着重合膜16に対する熱処理とプラズマ処理によって、蒸着重合膜16の比誘電率が高められる。この比誘電率の向上の理由は、熱処理とプラズマ処理により、蒸着重合膜16内部の双極子が一定方向に配向(分極)して、蒸着重合膜16内部の分極率が増大するためであると考えられる。
【0077】
なお、蒸着重合膜16に対する熱処理とプラズマ処理とによる後処理は、上記のように、蒸着重合膜16内部の双極子の配向を促進させることを目的として実施されるものである。従って、蒸着重合膜16に対する後処理は、そのような目的を達成し得るものであれば、熱処理とプラズマ処理の同時処理以外の処理であっても良い。例えば、蒸着重合膜16に対する後処理が、蒸重合膜16に対して、熱処理とプラズマ処理のうちの何れか一方を先に実施した後、それらのうちの何れか他方を後から行うものであっても良い。また、熱処理とプラズマ処理に代えて、紫外線処理と電子ビーム処理と磁気処理と電場処理のうちの何れか一つの処理を実施するものでも良い。更に、それら熱処理とプラズマ処理と紫外線処理と電子ビーム処理と磁気処理と電場処理のうちの少なくとも二つを同時に或いは別個に行うものであっても良い。
【0078】
なお、紫外線処理と電子ビーム処理を行う場合には、例えば、紫外線照射装置と電子ビーム照射装置が、キャンローラ38の周囲に設置される。そして、それらの装置から発射される紫外線や電子ビームを蒸着重合膜16に照射することによって、紫外線処理や電子ビーム処理が実施される。また、磁気処理は、例えば、作製されたフィルムコンデンサ素子10を、コイル等にて形成される磁場内に所定時間配置することによって実施される。更に、電場処理は、例えば、二つの電極間に、作製されたフィルムコンデンサ素子10を配置した状態で、それら二つの電極間に所定の電圧を印加することにより、電場雰囲気中にフィルムコンデンサ素子10を所定時間配置すること等によって実施される。
【0079】
そして、蒸着重合膜16に対する後処理が終了したら、キャンローラ38の回転によって、得られたフィルムコンデンサ素子10をキャンローラ38から送り出して、巻取りローラ34にて巻き取る。これにより、フィルムコンデンサ素子10が巻回されたフィルムロール66を得るのである。
【0080】
このように、本実施形態のフィルムコンデンサ素子10では、誘電体膜として、樹脂フィルム12と共に、薄肉の蒸着重合膜16が形成されている。そして、この蒸着重合膜16が、結合基を介して2個のベンゼン環を互いに結合してなる構造を有する芳香族ジイソシアネートと芳香族ジアミンとの蒸着重合によって形成されている。これにより、蒸着重合膜16において、十分な耐電圧を確保しつつ、比誘電率が更に有利に高められ、しかも、成膜レートの向上も図られている。
【0081】
従って、本実施形態のフィルムコンデンサ素子10にあっては、優れた耐電圧特性を維持しつつ、小型・大容量化が、より高いレベルで実現されている。そして、蒸着重合膜16の成膜レートの向上による生産効率の向上が、極めて効果的に図られ得るのである。
【0082】
また、フィルムコンデンサ素子10では、官能基が結合基に対してパラ位の位置にある芳香族ジイソシアネートと芳香族ジアミンであるMDIとMDAとを、芳香族ジアミンのリッチ雰囲気中で重合させて、蒸着重合膜16が形成されている。更に、そのような蒸着重合膜16に対して熱処理とプラズマ処理が施されて、蒸着重合膜16の双極子が配向させられている。そして、それらにより、蒸着重合膜16の比誘電率が、より一層十分に高められている。従って、このようなフィルムコンデンサ10においては、静電容量の増大が、更に効果的に達成され得るのである。
【0083】
次に、本発明に従うフィルムコンデンサ素子が上記のような優れた特徴を有するものであることを確かめるために、本発明者が実施した幾つかの試験について、詳述する。
【0084】
最初に、本発明に従う構造を備えた芳香族ジイソシアネートと芳香族ジアミンとの蒸着重合によって形成される蒸着重合膜が高い比誘電率と高い成膜レートとを有するものであることを確かめるために、以下の試験を行った。
【0085】
すなわち、先ず、結合基を介して2個のベンゼン環が互いに結合されてなる構造を有する芳香族ジイソシアネートとして、MDIを所定量準備した。また、結合基を介して2個のベンゼン環が互いに結合されてなる構造を有する芳香族ジアミンとして、MDAとビス(4−アミノフェニル)スルフィドと4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを、それぞれ所定量ずつ準備した。更に、ポリプロピレンフィルムの一方の面に、アルミニウムの蒸着膜が積層形成された市販の金属化フィルムを準備し、また、公知の構造を有する蒸着重合膜形成装置を準備した。
【0086】
そして、蒸着重合膜形成装置の真空チャンバ内に、金属化フィルムをセットした後、真空チャンバ内を真空状態とした。その後、真空チャンバ内に、MDI蒸気とMDA蒸気とを導入し、それらを金属化フィルムのアルミニウム蒸着膜上で重合させて、アルミニウム蒸着膜上に、芳香族ポリユリア樹脂膜からなる蒸着重合膜を形成して、積層フィルムを作製した。そして、この積層フィルムを試験例1とした。
【0087】
また、それとは別に、原料モノマーとして、MDIとビス(4−アミノフェニル)スルフィドを用いる以外、試験例1の積層フィルムを作製する際と同様にして、試験例1の積層フィルムに形成される蒸着重合膜とは種類の異なる芳香族ポリユリア樹脂膜からなる蒸着重合膜が積層形成された積層フィルムを作製した。この積層フィルムを試験例2とした。
【0088】
さらに、原料モノマーとして、MDIと4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを用いる以外、試験例1の積層フィルムを作製する際と同様にして、試験例1や試験例2の積層フィルムに形成される蒸着重合膜とは更に種類の異なる芳香族ポリユリア樹脂膜からなる蒸着重合膜が積層形成された積層フィルムを作製した。この積層フィルムを試験例3とした。
【0089】
その後、試験例1〜3の各積層フィルムに形成された蒸着重合膜の比誘電率を、公知の手法によりそれぞれ測定した。その結果を、下記表1に示した。なお、試験例1〜3の各積層フィルムに形成された蒸着重合膜の形成条件は、排気圧力:1Pa、成膜時間:5分、芳香族ジアミン蒸気のバルブ圧力と芳香族ジイソシアネート蒸気のバルブ圧力を、それぞれ2Paとした。
【0090】
次に、表1に示されるように、ジアミンとジイソシアネートとが何れも芳香族ではあるものの、それらのうちの何れか一方が、結合基を介して2個のベンゼン環が互いに結合されてなる構造を有しないものの組合せ(αの組合せ)と、ジアミンとジイソシアネートのうちの少なくとも何れか一方が芳香族でないものの組合せ(βの組合せ)で、ジアミンとジイソシアネートとを準備した。
【0091】
なお、αの組合せは、以下の組合せとした。(a)2個のベンゼン環を直接に結合してなる構造を有するジアミンと、結合基を介して2個のベンゼン環が互いに結合されてなる構造を有するジイソシアネートとの組合せ(後述する試験例4)。(b)結合基を介して3個のベンゼン環が互いに結合されてなる構造を有するジアミンと、結合基を介して2個のベンゼン環が互いに結合されてなる構造を有するジイソシアネートとの組合せ(後述する試験例5)。(c)結合基を介して4個のベンゼン環が互いに結合されてなる構造を有するジアミンと、結合基を介して2個のベンゼン環が互いに結合されてなる構造を有するジイソシアネートとの組合せ(後述する試験例6)。
【0092】
また、βの組合せは、以下の組合せとした。(a)直鎖構造を有するジアミンと脂環構造を有するジイソシアネートの組合せ(後述する試験例7,8)。(b)脂環構造を有するジアミンと脂環構造を有するジイソシアネートの組合せ(後述する試験例9)。(c)脂環構造を有するジアミンと芳香族ジイソシアネートの組合せ(後述する試験例10,11,13,14)。(d)直鎖構造を有するジアミンと芳香族ジイソシアネートの組合せ(後述する試験例12)。
【0093】
そして、上記各種の組合せでジアミンとジイソシアネートとを用いて、11個の金属化フィルムのそれぞれの表面上に、互いに分子構造の異なるポリユリア樹脂膜からなる蒸着重合膜をそれぞれ形成して、11個の積層フィルムを得た。それら11個の積層フィルムを、それぞれ試験例4〜14とした。
【0094】
なお、試験例4〜14の蒸着重合膜の形成条件は、試験例1の蒸着重合膜の形成条件と同一とした。また、下記表1に示されるように、ここでは、2個のベンゼン環を直接に結合してなる構造を有するジアミンとして、1,5−ジアミノナフタレンを用いた。結合基を介して3個のベンゼン環が互いに結合されてなる構造を有するジアミンとしては、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを用いた。結合基を介して4個のベンゼン環が互いに結合されてなる構造を有するジアミンとしては、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホンを用いた。直鎖構造を有するジアミンとしては、1,8−ジアミノオクタンと、N,N’−ジメチル−1,6−ジアミノヘキサンと、1,12−ジアミノドデカンとを用いた。脂環構造を有するジアミンとしては、1,3−ビス(アミノメチルシクロヘキサン)(cis-,trans-混合物)と、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)(異性体混合物)とを用いた。芳香族ジアミンとしては、MDAを用いた。脂環構造を有するジイソシアネートとしては、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを用いた。芳香族ジイソシアネートとしては、MDIの他に、m−キシリレンジイソシアネートと、1,4−フェニレンジイソシアネートとを用いた。
【0095】
そして、試験例1〜14の積層フィルムのうち、試験例1〜6の積層フィルムの作製時において、それら各積層フィルムに形成される蒸着重合膜の成膜レートを、それぞれ調べた。また、それとは別に、試験例1〜14の積層フィルムの作製後に、それら各積層フィルムに形成された蒸着重合膜の比誘電率を、公知の手法によりそれぞれ測定した。それらの結果を、下記表1に併せて示した。
【0096】
【表1】

【0097】
表1の結果から明らかなように、2個のベンゼン環が結合基を介して結合されてなる構造を有する芳香族ジアミンと芳香族ジイソシアネートとの蒸着重合によって蒸着重合膜が形成された試験例1〜3の各積層フィルムでは、蒸着重合膜の比誘電率が4.68〜5.08の範囲内の値であり、また、成膜レートが0.214〜0.500μm/minの範囲内の値であった。これに対して、ジアミンとジイソシアネートのうちの一方(ここではジアミン)が2個のベンゼン環を直接に結合してなる構造を有するジアミンとジイソシアネートの組合せで蒸着重合膜が形成された試験例4の積層フィルムでは、蒸着重合膜の比誘電率が4.27となっていた。これは、試験例1〜3の各積層フィルムに形成された蒸着重合膜の比誘電率よりも明らかに小さな値となっている。
【0098】
また、ジアミンとジイソシアネートのうちの一方(ここではジアミン)が3個以上のベンゼン環を有する構造のジアミンとジイソシアネートの組合せで蒸着重合膜が形成された試験例5及び6の各積層フィルムでは、成膜レートが、0.004〜0.035μm/minの範囲内の値となっていた。これは、試験例1〜3の各積層フィルムに形成された蒸着重合膜の成膜レートよりも明らかに小さな値となっている。
【0099】
さらに、ジアミンとジイソシアネートのうちの少なくとも何れか一方が芳香族でないジアミンとジイソシアネートの組合せで蒸着重合膜が形成された試験例7〜14の各積層フィルムでは、蒸着重合膜の比誘電率が、全て、4.53以下となっていた。これは、試験例1〜3の各積層フィルムに形成された蒸着重合膜の比誘電率よりも明らかに小さな値となっている。
【0100】
以上のことから、本発明に従う構造を有する芳香族ジアミンと芳香族ジイソシアネートとの蒸着重合によって形成された蒸着重合膜において、比誘電率が十分に高められると共に、成膜レートの向上が有利に図られることが、明確に認識され得る。
【0101】
次に、本発明に従う構造を備えた芳香族ジイソシアネートと芳香族ジアミンとの蒸着重合に際して、芳香族ジイソシアネート蒸気と芳香族ジアミン蒸気との組成比が、蒸着重合膜の比誘電率に及ぼす影響を調べるために、以下の試験を行った。
【0102】
すなわち、先ず、芳香族ジイソシアネートと芳香族ジアミンとして、市販のMDIとMDAとを、それぞれ所定量ずつ準備した。また、ポリプロピレンフィルムの一方の面にアルミニウム蒸着膜が積層形成されてなる市販の金属化フィルムを7個準備した。更に、蒸着重合膜形成装置として、前記試験例1の蒸着重合膜の形成の際に用いられたもの同じ装置を準備した。
【0103】
そして、下記表2に示されるように、MDIの蒸気のバルブ圧力とMDAの蒸気のバルブ圧力とを種々変更しながら、前記試験例1の蒸着重合膜の形成時と同様な条件で同様な操作を行って、7個の金属化フィルムのアルミニウム蒸着膜上に、蒸着重合膜をそれぞれ形成して、7個の積層フィルムを得た。そして、それら7個の積層フィルムを、それぞれ試験例15〜21とした。
【0104】
【表2】

【0105】
表2の結果から明らかなように、MDIの蒸気のバルブ圧力とMDAの蒸気のバルブ圧力とが互いに同一とされた状態、即ち、芳香族ジイソシアネートと芳香族ジアミンの組成比(重量比)が1:1とされた状態での蒸着重合により形成された試験例15の蒸着重合膜の比誘電率は5.08であった。これに対して、MDIの蒸気のバルブ圧力が2Paで、MDAの蒸気のバルブ圧力が4Paとされた状態、つまり、芳香族ジイソシアネートと芳香族ジアミンの組成比(重量比)が1:4とされた状態での蒸着重合、即ち、芳香族ジアミンのリッチ雰囲気中での蒸着重合により形成された試験例17の蒸着重合膜の比誘電率は5.75であった。また、MDAの蒸気のバルブ圧力が、MDIの蒸気のバルブ圧力よりも小さくされた状態での蒸着重合、即ち、芳香族ジイソシアネートのリッチ雰囲気中での蒸着重合により形成された試験例19〜21の蒸着重合膜の比誘電率は、何れも、試験例15の蒸着重合膜の比誘電率よりも低い値となっていた。
【0106】
これは、芳香族ジアミンのリッチ雰囲気中での蒸着重合により蒸着重合膜を形成することによって、蒸着重合膜の比誘電率を効果的に高め得ることを如実に示している。なお、MDAのバルブ圧力が5Paで、MDIの蒸気のバルブ圧力が2Paとされた状態では、芳香族ジアミン蒸気が過剰となって、蒸着重合膜が形成されなかった。
【0107】
次に、本発明に従う構造を備えた芳香族ジイソシアネートと芳香族ジアミンとの蒸着重合によって形成された蒸着膜に対する後処理が、蒸着重合膜の比誘電率に及ぼす影響を調べるために、以下の試験を行った。
【0108】
すなわち、先ず、芳香族ジイソシアネートと芳香族ジアミンとして、市販のMDIとMDAとを、それぞれ所定量ずつ準備した。また、ポリプロピレンフィルムの一方の面にアルミニウム蒸着膜が積層形成されてなる市販の金属化フィルムを4個準備した。更に、蒸着重合膜形成装置として、前記試験例1の蒸着重合膜の形成の際に用いられたもの同じ装置を準備した。
【0109】
そして、前記試験例1の蒸着重合膜の形成時と同様な操作を行って、4個の金属化フィルムのアルミニウム蒸着膜上に、蒸着重合膜をそれぞれ形成して、4個の積層フィルムを得た。
【0110】
その後、それら4個の積層フィルムのうちの1個に形成された蒸着重合膜に対して、アルゴンガスのプラズマを照射するプラズマ処理を行った。このプラズマ処理された蒸着重合膜を有する積層フィルムを試験例22とした。また、別の1個の積層フィルム上の蒸着重合膜を160℃で10分間加熱する熱処理を行った。この熱処理された蒸着重合膜を有する積層フィルムを試験例23とした。更に、別の1個の積層フィルム上の蒸着重合膜に対して、160℃で10分間加熱する熱処理と、アルゴンガスのプラズマを照射するプラズマ処理とを同時に実施した。この熱処理とプラズマ処理とが同時に実施された蒸着重合膜を有する積層フィルムを試験例24とした。一方、後処理が何等施されていない蒸着重合膜を有する積層フィルムを試験例25とした。そして、それら試験例22〜25の積層フィルムに形成された蒸着重合膜の比誘電率を、公知の手法によりそれぞれ測定した。その結果を、下記表3に併せて示した。
【0111】
【表3】

【0112】
表3の結果から明らかなように、後処理が何等施されていない試験例25の蒸着重合膜の比誘電率よりも、熱処理とプラズマ処理の少なくとも何れか一方の処理が施された試験例22〜24の蒸着重合膜の比誘電率の方が高くなっている。これによって、蒸着重合膜に対して熱処理やプラズマ処理等の後処理を施すことによって、蒸着重合の比誘電率の向上が図られ得ることが、明確に認識され得る。
【0113】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
【0114】
例えば、樹脂フィルム12上に積層される蒸着重合膜16と金属蒸着膜14a,14bの積層形態は、前記例示されたものに、何等限定されるものではない。即ち、例えば、樹脂フィルム12上に金属蒸着膜14aと蒸着重合膜16と金属蒸着膜14bとを、その順番で積層しても良い。
【0115】
また、蒸着重合膜16の数は、複数であっても良い。即ち、樹脂フィルム12の一方又は両方の面上に、複数の蒸着重合膜16と複数の金属蒸着膜14bとを、一つずつ交互に積層しても良い。或いは、樹脂フィルム12の一方の面と他方の面とに、金属蒸着膜14a,14bをそれぞれ介して、蒸着重合膜16を、それぞれ一つずつ積層しても良い。若しくは、樹脂フィルム12の一方の面に、蒸着重合膜16を、金属蒸着膜14aを介して一つだけ積層する一方、他方の面に、複数の蒸着重合膜16と複数の金属蒸着膜14bとを、一つずつ交互に積層しても良い。なお、蒸着重合膜16が複数設けられる場合には、それら複数の蒸着重合膜16が、同一種類の樹脂膜であっても、それらのうちの少なくとも一つが異なる種類の樹脂膜であっても、何等差し支えない。
【0116】
樹脂フィルム12を省略して、誘電体膜を蒸着重合膜16だけで構成することもできる。その場合には、例えば、一つの蒸着重合膜16の一方の面に、金属蒸着膜14aが一つだけ積層されてなる構造の積層構造体の複数を用い、この複数の積層構造体を、蒸着重合膜16と金属蒸着膜14aとが交互に位置するように積層することによって、フィルムコンデンサ素子が構成される。また、一つの蒸着重合膜16の一方の面に金属蒸着膜14aが積層される一方、その他方の面に金属蒸着膜14bが積層されてなる積層構造体にて、フィルムコンデンサ素子を構成しても良い。更に、複数の蒸着重合膜16と複数の金属蒸着膜14aとが交互に積層されてなる積層構造体にて、フィルムコンデンサ素子を構成することもできる。
【0117】
なお、誘電体膜を蒸着重合膜16だけで構成したフィルムコンデンサ素子は、例えば、図2に示される製造装置18から巻出しローラ32と巻取りローラ34とが省略されると共に、金属蒸着膜形成装置44と蒸着重合膜形成装置46とが、金属蒸着膜14a(14b)と蒸着重合膜16の積層数に応じた数だけ、真空チャンバ20内に設置されてなる構造の製造装置を用いて、製造される。また、そのような製造装置では、金属蒸着膜形成装置44と蒸着重合膜形成装置46とが、キャンローラ38の周りに、その周方向に交互に並んで配置される。
【0118】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【符号の説明】
【0119】
10 フィルムコンデンサ素子 12 樹脂フィルム
14a,14b 金属蒸着膜 15 金属化フィルム
16 蒸着重合膜 18 製造装置
20 真空チャンバ 30 真空ポンプ
38 キャンローラ 44 金属蒸着膜形成装置
46 蒸着重合膜形成装置 48 赤外線照射装置
50 プラズマ照射装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの誘電体膜と少なくとも一つの金属蒸着膜とを積層してなる構造を有する積層構造体を用いて得られたフィルムコンデンサ素子にして、
前記少なくとも一つの誘電体膜のうちの少なくとも一つが、複数種類の原料モノマーを用いた蒸着重合法により形成された蒸着重合膜にて構成されていると共に、該複数種類の原料モノマーが、結合基を介して2個のベンゼン環を互いに結合してなる構造を、それぞれ有していることを特徴とするフィルムコンデンサ素子。
【請求項2】
前記複数種類の原料モノマーが、それぞれ、前記結合基に対してパラ位の位置にある官能基を有し、且つそれら官能基を介して該複数種類の原料モノマーが重合せしめられている請求項1に記載のフィルムコンデンサ素子。
【請求項3】
熱処理、紫外線処理、電子ビーム処理、磁気処理、電場処理、及びプラズマ処理のうちの少なくとも何れか一つの処理が前記蒸着重合膜に施されていることによって、該蒸着重合膜の双極子が配向させられている請求項1又は請求項2に記載のフィルムコンデンサ素子。
【請求項4】
前記蒸着重合膜がポリユリア樹脂膜である請求項1乃至請求項3のうちの何れか一つに記載のフィルムコンデンサ素子。
【請求項5】
前記複数種類の原料モノマーが、芳香族ジアミンと芳香族ジイソシアネートである請求項4に記載のフィルムコンデンサ素子。
【請求項6】
前記蒸着重合膜が、前記芳香族ジアミンと前記芳香族ジイソシアネートとを該芳香族ジアミンのリッチ雰囲気中で重合させることにより、形成されている請求項5に記載のフィルムコンデンサ素子。
【請求項7】
前記芳香族ジアミンが4,4’−ジアミノジフェニルメタンであり、前記芳香族ジイソシアネートが4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートである請求項5又は請求項6に記載のフィルムコンデンサ素子。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のうちの何れか1項に記載のフィルムコンデンサ素子を含んで構成されていることを特徴とするフィルムコンデンサ。
【請求項9】
少なくとも一つの誘電体膜と少なくとも一つの金属蒸着膜とを積層してなる構造の積層構造体を用いてフィルムコンデンサ素子を製造するに際して、
(a)前記少なくとも一つの誘電体膜と、前記少なくとも一つの金属蒸着膜とを積層すると共に、該少なくとも一つの金属蒸着膜を互いに非接触の形態において形成することにより、前記積層構造体を得る工程と、(b)該積層構造体を用いて、目的とするフィルムコンデンサ素子を得る工程とを含み、
且つ前記少なくとも一つの誘電体層のうちの少なくとも一つを、2個のベンゼン環が結合基を介して互いに結合されてなる構造を有する複数種類の原料モノマーを用いた蒸着重合法により得られる蒸着重合膜にて、形成することを特徴とするフィルムコンデンサ素子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−222299(P2012−222299A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89441(P2011−89441)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【Fターム(参考)】