説明

フィルム伸縮装置および配向フィルムの製造方法

【課題】 フィルムを延伸する方向又はフィルムの収縮を規制する方向を容易に変更可能なフィルム伸縮装置、および、所望の配向角の配向フィルムを製造する方法を提供する。
【解決手段】 フィルム2を搬送方向E1に延伸し又は収縮を規制する縦伸縮部6と、縦延伸部6と搬送方向に直列に設けられ、フィルム2を2搬送方向に対して傾斜方向E2に延伸し又は収縮を規制する斜方伸縮部9とからなるフィルム伸縮装置1で、縦伸縮部6における伸縮比率を変更することで、総合的にフィルム2が伸縮する方向を変更し、フィルム2の配向角を調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム伸縮装置および配向フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続的にフィルムの幅を広げる延伸装置(テンター)が公知であり、フィルムに所望の配向角、位相差値(旋光特性)を付与した配向フィルムを製造するために、フィルムを所定の方向に引き延ばして幅を広げる延伸装置が特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2003−276082号公報
【特許文献2】特開2003−207625号公報
【0003】
図5に示すように、特許文献1に記載されているような従来のフィルム延伸装置は、フィルム31の両側にフィルム31と同じ面内を周回する2本のチェイン32に設けた多数のクリップ33でフィルム31の両側縁部を把持して搬送する。2本のチェイン32の距離は、フィルム31の進行方向後方ほど大きく、フィルム31は、クリップ33によって両側を引き延ばされて連続的に延伸される。また、フィルム31を斜め方向に延伸するために、従来のフィルム延伸装置は、フィルム31の搬送方向を屈曲させており、これにより両側のクリップ33の相対位置をフィルム21の搬送方向に対して異ならせることで、延伸方向Eを搬送方向に対して徐々に傾斜させている。
【0004】
さらに特許文献2には、フィルム31の搬送方向を屈曲させなくても、片側のチェイン32を蛇行させ、フィルム31の両側のクリップ33の相対位置をフィルム31の搬送方向に対して異ならせることで、延伸方向Eを搬送方向に対して傾斜させる方法が記載されている。
【0005】
また、帯状のフィルムを縦方向に延伸するとフィルムの幅が狭くなるように、フィルムをある方向に延伸する際、フィルムを延伸した方向と直交する方向にも内部応力が作用する。このため、実際にフィルムに作用する延伸力の方向は、機械的にフィルムを引き延ばす角度には必ずしも一致しない。フィルムに実際に作用する延伸力の方向および強さによって、得られる配向フィルムの配向角および位相差値が決定されるが、そのような内部応力は、フィルムの材質や環境温度などによって異なり、理論的に算出することは難しい。よって、所望の配向角および位相差を有するフィルムを得るためには、実際にフィルムを延伸して得られたフィルムの配向角を確認し、延伸方向を変更することによって配向角を調整し、位相差値を確認しながら延伸比率を調整する必要がある。
【0006】
しかしながら、従来のフィルム延伸装置では、2本のチェインの進行経路を非対称にすることでフィルムを延伸する角度を定めるため、フィルムの延伸方向を変更することが難しいという問題があった。
【0007】
また、配向フィルムの製造は、延伸のみならず熱収縮の方向を規制することで行うことも可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記問題に鑑みて、本発明は、フィルムを延伸する方向又はフィルムの収縮を規制する方向を容易に変更可能なフィルム伸縮装置、および、所望の配向角の配向フィルムを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明によるフィルム伸縮装置は、フィルムを搬送方向に延伸し又は収縮を規制する縦伸縮部と、前記縦延伸部と前記搬送方向に直列に設けられ、前記フィルムを前記搬送方向に対して傾斜方向に延伸し又は収縮を規制する斜方伸縮部とからなるものとする。
【0010】
この構成によれば、機械的にフィルムを延伸し又は収縮を規制する方向を変更せずにフィルムの搬送方向の伸縮の比率を変更し、縦方向の伸縮成分を増減することで総合的な伸縮方向を変更することができる。搬送方向の伸縮比率の変更するのは公知で簡単な方法が適用可能であり、フィルムの伸縮方向を変更して、配向角を容易に調整することができる。
【0011】
また、本発明のフィルム伸縮装置において、前記縦伸縮部は、それぞれ、フィルムを挟み込んで搬送する基準ロールおよび比率ロールと、前記基準ロールと前記比率ロールとの間で、前記フィルムを加熱する加熱手段とからなり、前記基準ロールと前記比率ロールとの搬送速度の比を変更可能であってもよい。
【0012】
この構成によれば、基準ロールと比率ロールとの搬送速度の比率でフィルムが搬送方向に伸縮される。このため、基準ロール又は比率ロールの搬送速度を変更するだけで、フィルムの伸縮方向を変更でき、配向角を容易に調整することができる。
【0013】
また、本発明のフィルム伸縮装置において、前記斜方伸縮部は、前記フィルムの搬送経路の両側に設けた2本のチェインと、前記チェインに設けた多数のベースと、前記ベース上にそれぞれ摺動可能に取り付けられて一端が前記フィルム側に突出可能なアームと、前記アームの前記フィルム側の一端にそれぞれ設けられて前記フィルムの両側縁部を把持可能なクリップとからなり、前記クリップで前記フィルムの両側縁部を把持して搬送しながら、前記アームを前記ベース上で前記フィルムの搬送方向に傾斜する方向に摺動するものとしてもよい。
【0014】
この構成によれば、フィルムの搬送方向を変更することなく、フィルムを傾斜方向に均等に伸縮できる。このため、フィルムを所望の配向角が得られるようにムラなく伸縮することができる。
【0015】
また、本発明による配向フィルムの製造方法は、長尺フィルムを長手方向に延伸し又は収縮を規制してから、前記長手方向に対して傾斜方向に延伸し又は収縮を規制するか、長尺フィルムを長手方向に対して傾斜方向に延伸し又は収縮を規制してから、前記長手方向に延伸し又は収縮を規制する。
【0016】
この方法によれば、傾斜方向の伸縮によりフィルムに実際に作用する力は、傾斜方向の伸縮による力と長手方向の伸縮による力とのベクトル和になる。このため、傾斜方向の延伸又は長手方向の伸縮の比率を変えることで、フィルムに作用する力の方向を変えることができる。これにより、物理的に延伸又は収縮を規制する方向を変えずに、フィルムに所望の方向の力を作用させ、所望の配向角を付与することができる。特に、長手方向に伸縮する際の伸縮比率を変更する方が、傾斜方向に伸縮する際の比率を変更するよりも容易であるので、配向角を調節する場合、長手方向の伸縮比率を変更すればよい。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明のフィルム伸縮装置は、フィルムを傾斜方向の延伸と縦方向の延伸との2段階に分けたので、フィルムを延伸する角度を、縦方向の延伸の比率によって調整することができるの。このため、フィルムの延伸方向を変える際の機械的な調整が容易である。
【0018】
また、本発明による配向フィルムの製造方法は、フィルムを異なる方向に2段階に分けて延伸するので、延伸の比率を変更するだけで、フィルムに付与する配向角を調整できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1および図2に、本発明の一実施形態であるフィルム延伸装置(伸縮装置)1の平面および断面を示す。フィルム延伸装置1は、フィルム2を供給する供給装置3と、フィルムを加熱する縦延伸炉4と、フィルム2を下流に搬送する中間搬送装置5とからなる縦延伸部(縦伸縮部)6と、フィルム2を搬送しながら搬送方向に対して傾斜し方向に延伸する斜方延伸機7と、斜方延伸機7の中央部を覆うように設けられ、フィルム2を加熱する斜方延伸炉8とからなる斜方延伸部(斜方伸縮部)9と、フィルム2を巻き取る巻取装置10とからなっている。
【0020】
供給装置3は、フィルム2を巻き付けた原反リール11が装着され、フィルム2を基準ロール12とニップロール13で挟み込んで所定の搬送速度で送り出す。縦延伸炉4は、フィルム2に上下から互い違いに熱風を吹きかける熱風ダクト(加熱手段)14を有する断熱材で構成した箱体である。中間搬送装置5は、フィルム2を比率ロール15とニップロール16で挟み込んで搬送し、搬送方向と平行なE1方向に延伸する。斜方延伸機7は、フィルム2の両側に配した延伸チェイン17でフィルム2を搬送しながら、搬送方向に対して角度αだけ傾斜したE2方向に延伸するものであるが詳細は後述する。斜方延伸炉8は、フィルム2に上下から熱風を吹きかける熱風ダクト18を有する断熱材で構成した箱体である。巻取装置10は、テンションロール19で張力を調整しながら、フィルム2を製品リール20に巻き取る。
【0021】
図3に、斜方延伸機7の構成を示す。斜方延伸機7は、平行する2本の延伸チェイン17と、延伸チェイン17にそれぞれ一定間隔で設けた多数のベース21と、それぞれのベース21に一定方向に摺動可能に取り付けたアーム22と、それぞれのアーム22の先端に設けたクリップ23とからなっている。クリップ23は、フィルム2の両側縁部を把持できるようになっており、延伸チェイン17はフィルム2の面に垂直なスプロケット24に架け渡されて周回するようになっている。
【0022】
図4は、斜方延伸機7のさらに詳細な構造を示す。延伸チェイン17には1コマおきにベース21が固定されている。ベース21にはそれぞれ延伸チェイン17に対して45°(図1の角度α)傾斜した2つの摺動軸25が設けられ、それぞれの摺動軸25に沿って摺動可能にアーム22が取り付けられている。アーム22の上部には、ベアリングからなる位置決め部材26が設けられており、ガイド27で位置決め部材26を案内することでアーム22を突出および後退させるようになっている。アーム22の先端に設けたクリップ23は、公知のフィルム把持機構であり、ガイド28で開閉(フィルム2の把持又は解放)される。
【0023】
斜方延伸機7は、延伸チェイン17のベース21からアーム22を突出させてクリップ23によりフィルム2の両側縁部を把持し、延伸チェイン17が進行することでフィルム2を搬送する。この間に、クリップ23でフィルム2を把持したままアーム22を後退させることでフィルム2をアーム22の摺動する方向(図1のE2方向)に延伸して拡幅する。拡幅の際、アーム22の摺動方向に対向するアーム22どうしの後退量は等しくなっている。フィルム2が拡幅された後、クリップ23は、フィルム2を開放する。そして、アーム22は、さらに後退し、延伸チェイン17がスプロケット24に沿って折り返されるときにクリップ23がフィルム2に接触しないようにする。
【0024】
続いて、以上の構成からなるフィルム延伸装置1におけるフィルム2の延伸について説明する。
縦延伸部6において、フィルム2は、基準ロール12で所定の速度で送り出され、比率ロール15によって基準ロール12よりも速い速度で搬送されると、縦延伸炉4内で加熱された部分が搬送方向(E1方向)に、比率ロール15の基準ロール12に対する搬送速度の比と同じ比率で延伸される。この縦方向の延伸によって、フィルム2は、分子が搬送方向に並び、縦方向の配向角が付与される。
【0025】
さらに、斜方延伸部9において、フィルム2は、搬送方向に対して角度αだけ傾斜下方向にE2方向に延伸される。この傾斜方向の延伸によって、フィルム2には、E2方向の引っ張りと、フィルム2の変形に対する応力とが作用し、E2方向よりも搬送方向に対して大きな角度に分子を配列させようとする延伸力が働き、傾斜方向の配向角が付与される。
【0026】
この結果、フィルム2は、縦延伸部6において付与された配向角と、斜方延伸部9において付与された配向角とを足し合わせた方向の配向角を得、縦延伸部6および斜方延伸部9における延伸の強さ(延伸比率)に応じて位相差値が与えられる。
【0027】
フィルム2をフィルム延伸装置1で斜方延伸して配向フィルムを製造する場合、実際にフィルム2を縦延伸部6および斜方延伸部9で延伸し、得られたフィルム2の配向角を測定し、所望の配向角が得られるように、比率ロール15の速度を増減することで、縦延伸部6における延伸比率を調整する。また、斜方延伸部9における延伸比率を調整することで所望の位相差値を得る。
【0028】
例として、ポリカーボネイトフィルムを延伸して位相差フィルム(配向フィルム)を製造する場合、基準ロール12と比率ロール15の速度を同じ(縦延伸部6における延伸率が0%)に設定し、斜方延伸部9においてα=45°で18%の斜方延伸をしたとき、フィルム2の配向角が搬送方向に対しておよそ60°となる条件で、斜方延伸部9の延伸条件を変えないで、縦延伸部6において約10%の延伸をする(比率ロール15の速度を基準ロール12より約10%速くする)ことで、フィルム2の配向角を45°にすることができた。
【0029】
つまり、フィルム延伸装置1では、傾斜延伸機7の延伸方向E2の搬送方向に対する角度αを、経験的に所望の配向角が得られると思われるおおよその値に定め、実際にフィルム2を延伸しながら、比率ロール15の速度を調整することで、配向角を調整する。比率ロール15は、インバータや、無段変速器によって運転しながら変更可能であり、容易に所望の配向角が得られる。
【0030】
以上の実施形態は、フィルム2を傾斜方向に延伸するものであるが、斜方延伸機7を逆向きに設置して逆回転させれば。熱収縮性のフィルムの斜方延伸炉8内部でのE2方向の収縮を規制して傾斜方向に分子が配列するように熱収縮させる装置として使用することができる。
【0031】
また、本発明によれば、フィルムを傾斜方向に延伸し又は収縮を規制してから、縦方向にフィルムを延伸し又は収縮を規制してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のフィルム伸縮装置の概略平面図。
【図2】図1のフィルム伸縮装置の概略断面図。
【図3】図1の斜方延伸機の概略構成図。
【図4】図1の斜方延伸機の部分斜視図。
【図5】従来のフィルム伸縮装置の平面図。
【符号の説明】
【0033】
1 フィルム伸縮装置
2 フィルム
6 縦伸縮部
7 斜方延伸機
12 基準ロール
14 熱風ダクト(加熱手段)
15 比率ロール
17 延伸チェイン
21 ベース
22 アーム
23 クリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムを搬送方向に延伸し又は収縮を規制する縦伸縮部と、
前記縦延伸部と前記搬送方向に直列に設けられ、前記フィルムを前記搬送方向に対して傾斜方向に延伸し又は収縮を規制する斜方伸縮部とからなるフィルム伸縮装置。
【請求項2】
前記縦伸縮部は、それぞれ、フィルムを挟み込んで搬送する基準ロールおよび比率ロールと、
前記基準ロールと前記比率ロールとの間で、前記フィルムを加熱する加熱手段とからなり、前記基準ロールと前記比率ロールとの搬送速度の比を変更可能であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム伸縮装置。
【請求項3】
前記斜方伸縮部は、前記フィルムの搬送経路の両側に設けた2本のチェインと、
前記チェインに設けた多数のベースと、
前記ベース上にそれぞれ摺動可能に取り付けられて一端が前記フィルム側に突出可能なアームと、
前記アームの前記フィルム側の一端にそれぞれ設けられて前記フィルムの両側縁部を把持可能なクリップとからなり、
前記クリップで前記フィルムの両側縁部を把持して搬送しながら、前記アームを前記ベース上で前記フィルムの搬送方向に傾斜する方向に摺動させることを特徴とする請求項1又は2に記載のフィルム伸縮装置。
【請求項4】
長尺フィルムを長手方向に延伸し又は収縮を規制してから、前記長手方向に対して傾斜方向に延伸し又は収縮を規制することを特徴とする配向フィルムの製造方法。
【請求項5】
長尺フィルムを長手方向に対して傾斜方向に延伸し又は収縮を規制してから、前記長手方向に延伸し又は収縮を規制することを特徴とする配向フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−30466(P2007−30466A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220943(P2005−220943)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(390002015)ヒラノ技研工業株式会社 (18)
【Fターム(参考)】