説明

フィルム延伸装置及び方法

【課題】安定してフィルムを延伸する。
【解決手段】フィルム入口37側には、矯正ローラ41、巻付けローラ42が設けられている。矯正ローラ41は、中心軸部41a、側縁軸部41bからなり、側縁軸部41bは、中心軸部41aよりも大径で形成されている。フィルム3は、巻付けローラ42により、矯正ローラ41に巻き付けられ、側縁部3aが側縁軸部41bに巻き付けられる。これにより、フィルム3は、側縁部3aの耳伸びが矯正されて平坦化される。側縁部3aの耳伸びが矯正されて平坦化されたフィルム3は、噛み外れすることなくクリップ30により確実に把持される。クリップ30で確実に把持されたフィルム3は、テンタ5で安定して延伸される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの幅方向両側縁部を把持しながら搬送して延伸するフィルム延伸装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ等の急速な発展・普及により、これら液晶ディスプレイの保護フィルム等に用いられるセルロースアシレートフィルム、特にトリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)の需要が増大している。この需要の増大に伴い生産性の向上が望まれている。TACフィルムは、連続走行する支持体に、流延ダイを用いて、TACと溶媒とを含むドープを流延し、この流延膜を乾燥や冷却等により自己支持性を持たせた後に、支持体から剥がして、乾燥させて巻き取ることにより製造されている。このような溶液製膜方法では、溶融押出による製膜方法に比べて、異物が無く光学特性に優れたフィルムが得られる。
【0003】
フィルムの光学特性、特にレタデーションを調節する方法として、テンタを用いて延伸することが行われている。テンタでは、左右のガイドレールに沿って同一速度で走行するクリップ等の把持部材により、フィルムの両側縁部を把持させて移動させながら予熱し、予熱後に幅方向に延伸させている。クリップは、フレームに載せたフィルムを、開閉するフラッパにより把持するものであり、残留溶媒が多い軟膜のフィルムの場合には、把持開始位置でフラッパを閉じたときに、フィルムが破けてしまうことがある。そこで、特許文献1では、残留溶媒が多い軟膜のフィルムを確実に把持できる溶液製膜方法が提案されている。
【特許文献1】特開2005−81785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、製膜時にフィルムの両側縁部の厚みが薄くなった場合に、搬送中の張力作用によって、この厚みが薄い両側縁部に応力が集中して、両側縁部が薄くなるとともにフィルム搬送方向に伸びてしまう「耳伸び」と呼ばれる現象が発生する。このように、平面であるはずのフィルムの両側縁部に余長が生じるため、100〜300mm程度の周期でフィルム搬送方向に凹凸変形が起きて、図5に示すような耳伸びとなる。
【0005】
このような耳伸び現象はフィルムの製膜時のみではなく、フィルムをロール形態に巻き取る際にナーリング加工を施すことによって発生する場合もある。ナーリング加工は、フィルムをロール形態に巻き取る際に、巻きズレを防止するために、フィルムの両側縁部にローレット加工などにより微小な凹凸を形成する。このようにナーリング処理されたフィルムでは、フィルム幅方向の中央部に比べて両側縁部が微小な凹凸によって厚みが少し厚くなっている。このフィルムをロール形態に巻き取っていくと、巻き取り終期には、中央部と耳部とでは耳部の方が累積巻き取りによる巻き取り径が中央部よりも大きくなるため、この巻き取り径の差によって、耳部に耳伸びが発生する。
【0006】
図5はこの耳伸びの一例を示したものであり、フィルム100の両側縁部100aが耳伸びによってひだ状になり、フィルム厚み方向での凹凸変形量が大きくなる。このように凹凸変形量が大きくなると、台座を有するフレームと、このフレームに揺動自在に取り付けられるフラッパとからなり、台座とフラッパとの間でフィルムを把持するクリップを用いたテンタにより、フィルム100を延伸させるときに、両側縁部100aを挟持しようとフラッパが揺動すると、この揺動するフラッパが両側縁部100aに衝突したときの衝撃で両側縁部100aにシワが発生することがある。両側縁部100aにシワが発生すると、隣のクリップで両側縁部100aを把持する際に、フラッパが両側縁部100aを蹴り出して、両側縁部100aが台座からズレたり脱落してしまう。この場合には、フラッパによる両側縁部100aの把持不良や噛み外れを起こしてしまい、フィルム100を安定して延伸することができないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、安定してフィルムを延伸することができるフィルム延伸装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のフィルム延伸装置は、フィルムの両側縁部を把持しながら前記フィルムの走行方向に移動し、前記フィルムを幅方向に延伸する複数のクリップを有する延伸装置本体と、前記延伸装置本体のフィルム入口側に配置され、前記フィルムの幅方向両側縁部が接触する第1のエリアが、前記フィルムの幅方向中央部が接触する第2のエリアよりも大径である矯正ローラと、前記矯正ローラに前記フィルムを巻き付ける巻付けローラとを備えることを特徴とする。
【0009】
また、前記巻付けローラは、前記フィルムの幅方向両側縁部が接触する第1のエリアが、前記フィルムの幅方向中央部が接触する第2のエリアよりも大径に形成されていることが好ましい。
【0010】
さらに、前記クリップは、台座を有するフレームと、前記台座との間で前記フィルムを把持するように前記フレームに揺動自在に取り付けられるフラッパと、前記フラッパの先端を前記台座から離した開放位置、前記フラッパの先端を前記台座に押し当てて前記フラッパの先端及び台座により前記フィルムを把持する把持位置の両方向に付勢するコイルバネとを有し、前記フィルム入口側には、前記フラッパに当接し、前記フラッパを前記開放位置から前記把持位置に付勢して前記フィルムの両側縁部を前記クリップにより把持させるクリップクローザーが設けられていることが好ましい。
【0011】
また、本発明のフィルム延伸方法は、フィルムの両側縁部を複数のクリップにより把持しながら前記フィルムの走行方向に移動し、前記フィルムを幅方向に延伸する延伸工程と、前記フィルムを前記クリップで把持する前に、前記フィルムの幅方向両側縁部が接触する第1のエリアが、前記フィルムの幅方向中央部が接触する第2のエリアよりも大径である矯正ローラに前記フィルムを巻き付ける巻付け工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フィルムの幅方向両側縁部が接触する第1のエリアが、前記フィルムの幅方向中央部が接触する第2のエリアよりも大径である矯正ローラを用い、この矯正ローラにフィルムを巻き掛けて搬送するため、耳伸びが発生しているフィルムの両側縁部のパス長を、伸びがない中央部のパス長に比べて長く設定することができる。これにより、クリップ把持位置にて耳伸び部分を引っ張ることができ、シワの発生が抑えられる。シワの発生がなくなるので、クリップのフラッパでフィルムを押し出してしまうことがなくなり、フィルムの両側縁部を確実に把持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に示すように、オフライン延伸装置2は、TACフィルム3(以下、フィルム3)を延伸するものであり、フィルム供給室4と、テンタ(延伸装置本体)5と、熱緩和室6と、冷却室7と、巻取室8とを備え、これらがフィルム搬送方向Aに沿って順に配置されている。フィルム供給室4には溶液製膜設備で製造されたフィルムロール9がセットされている。フィルムロール9はフィルム3を巻芯に巻き取ってロール状にしたものである。フィルムロール9からフィルム3が送り出され、このフィルム3がテンタ5で加熱されながらフィルム幅方向Bに延伸され、この延伸したフィルム3が熱緩和室6及び冷却室7を経て温度が下げられて巻取室8で巻き取られる。テンタ5ではフィルム3を幅方向に100.5%〜300%の所定の倍率で延伸する。フィルム供給室4、テンタ5、熱緩和室6、冷却室7及び巻取室8には、フィルム3の蛇行を抑制して正確に搬送させるための制御を行う図示しないEPC(エッジポジションコントローラ)が設けられている。
【0014】
フィルム供給室4は、ターレット型のフィルム送出装置10と、接合部11とを有する。フィルム送出装置10は、両端部に取付軸12が設けられたターレットアーム13を有する。各取付軸12にはフィルムロール9が装着される。ターレットアーム13は、180度間欠回転し、一方の取付軸12を送出位置(接合部11の側)に位置させ、他方の取付軸12を巻芯交換位置に位置させる。送出位置にある取付軸12に装着されたフィルムロール9からフィルム3が接合部11に送り出される。全てのフィルム3が送り出されるとターレットアーム13が回転し、巻芯交換位置に位置した取付軸12から空の巻芯が取り外されて新たなフィルムロールが装着される。
【0015】
接合部11では、テンタ5に連続してフィルム3を供給するために、先行して送り出されたフィルム3の後端部と、後行して送り出されたフィルム3の先端部とを接合する。
【0016】
フィルム供給室4とテンタ5との間にはリザーバ16が配置されており、このリザーバ16は、フィルム接合処理に必要な長さ分以上のフィルム3のループを形成する。このため、フィルム接合時には、テンタ5にはリザーバ16に収納されていたフィルム3が送り出されるから、テンタ5を停止させることなくフィルム3の接合処理を行うことができる。
【0017】
図2に示すように、テンタ5は、フィルム3をフィルム搬送方向Aに搬送しながら、フィルム3をフィルム幅方向Bに延伸するものであり、第1レール21、第2レール22、第1レール21に案内される第1チェーン23、第2レール22に案内される第2チェーン24を有する。
【0018】
第1チェーン23は原動スプロケット25及び従動スプロケット26の間に掛け渡され、第2チェーン24は原動スプロケット27及び従動スプロケット28の間に掛け渡されている。各原動スプロケット25,27は、図示しない駆動機構により回転駆動される。
【0019】
第1チェーン23及び第2チェーン24には、クリップ30が一定間隔で多数取り付けられている。これらのクリップ30は、フィルム3の側縁部を把持しながら、各レール21,22に沿って移動することで、フィルム3をフィルム幅方向Bに延伸する。点PAはクリップ30のフィルム把持開始位置を示し、点PBはクリップ30のフィルム把持開放位置を示している。また、点PCはクリップ30による延伸開始位置を示し、点PDはクリップ30による延伸終了位置を示している。延伸処理により、フィルム3のフィルム幅はWaからWb(>Wa)になる。なお、フィルム3の延伸倍率は所望の光学特性等に合わせて適宜変更されるものである。
【0020】
テンタ5は、フィルム搬送方向Aで、予熱ゾーン5a、延伸ゾーン5b、延伸緩和ゾーン5cに区画されている。予熱ゾーン5aでは、フィルム3は予熱されるともに、一対のクリップ間距離は変化がなく、クリップ30によるフィルム幅方向Bでの延伸は行われない。延伸ゾーン5bでは、フィルム3は加熱されるとともに、一対のクリップ間距離が漸増し、フィルム3は、クリップ30によりフィルム幅方向Bに延伸される。延伸緩和ゾーン5cでは、一対のクリップ間距離は変化がなく、または漸減し、延伸緩和(熱緩和)が行われる。
【0021】
図3に示すように、クリップ30は、略コ字形状のフレーム31、フラッパ32、レール取付部33から構成されている。フラッパ32は、取付軸31aによりフレーム31に回動自在に取り付けられ、フレーム31の台座31bとの間でフィルム3を把持する。レール取付部33には、第1チェーン23または第2チェーン24が取り付けられる。フラッパ32は、フラッパ下面32aを台座31bに押し当ててフラッパ下面32a及び台座31bによりフィルム3を把持する把持位置と、クリップオープナー35に係合頭部32bが接触して斜めに回転した状態となる開放位置との間で変位し、通常はコイルバネ(図示せず)により把持位置及び開放位置のいずれかとなるように両方向に付勢されている。
【0022】
図2に示すように、フィルム入口37側のフィルム把持開始位置PAでは、図3に示すように円錐面を有するクリップクローザー36によって把持方向にフラッパ32が押されることにより、フラッパ32は、デッドポイントを過ぎてコイルバネにより把持位置にされ、フィルム3の側縁部3aがクリップ30により把持される。同様にして、図2に示すように、フィルム出口38側のフィルム把持開放位置PBでは、クリップオープナー35によりフラッパ32が開放位置に押されることにより、フラッパ32はデッドポイントを過ぎてコイルバネにより開放位置にされ、クリップ30による側縁部3aの把持が開放される。
【0023】
図4に示すように、フィルム入口37側には、側縁部3aの耳伸びを矯正する矯正ローラ41と、矯正ローラ41との間でフィルム3を引っ張り、フィルム3を矯正ローラ41に巻き付ける巻付けローラ42とが設けられている。各ローラ41,42は、回転自在に設けられており、矯正ローラ41はモータ43により回転され、巻付けローラ42はモータ44により回転される。矯正ローラ41は、フィルム把持開始位置PAまでの長さが、フィルム3の幅よりも短くなる位置に配されている。このように、矯正ローラ41を、フィルム把持開始位置PAに近接させて配置することにより、耳伸びを効率良く矯正することができる。
【0024】
矯正ローラ41には、フィルム3の下面が接触し、巻付けローラ42には、フィルム3の上面が接触する。各ローラ41,42は、フィルム3を傷付けることがないように、表面粗さ0.2〜50Sとなるように表面をバフ研磨したメタルローラが用いられる。メタルローラの素材としては、ハードクロムメッキを施したアルミニウム合金(例えば、A5056等)やSUS304が用いられる。また、ローラはゴム製であってもよく、硬度は40〜90°、表面粗さは0.5〜50S、線圧は10〜100N/mが好ましく、硬度は50〜90°、表面粗さは0.5〜10S、線圧は10〜50N/mがより好ましく用いられる。
【0025】
矯正ローラ41は、中心軸部41aと、この中心軸部41aの両端に連設された側縁軸部41bとからなり、側縁軸部41bは中心軸部41aよりも大径で形成されている。中心軸部41aはフィルム3の幅方向中央部に接触し、側縁軸部41bはフィルム3の側縁部3aに接触する。なお、側縁軸部41bの径及び幅は、適宜変更可能であるが、側縁軸部41bは、中心軸部41aよりも0.2〜8mm大径であることが好ましく、0.4〜4mm大径であることがさらに好ましい。
【0026】
フィルム3は、巻付けローラ42により、矯正ローラ41に巻き付けられており、側縁部3aが側縁軸部41bに巻き付けられる。これにより、側縁部3aのパス長をフィルム3の中央部に比べて長くして、フィルム搬送方向Aにシワを伸ばすことができ、側縁部3aが平坦化される。側縁部3aが平坦化されたフィルム3は、噛み外れすることなくクリップ30により確実に把持されるから、フィルム搬送方向Aでの延伸ムラがなくなる。また、巻付けローラ42を、矯正ローラ41と同様に、側縁部が中央部よりも大径の段付きローラから構成してもよい。この場合には、上下に矯正ローラを用いることで、側縁部3aのパス長をフィルム3の中央部に比べて更に長くとることができ、フィルム把持開始位置PAでの側縁部3aにシワを発生させることがなくなる。
【0027】
図1に戻って、フィルム3は、テンタ5で延伸された後、耳切装置50に送られる。耳切装置50は、フィルム3の両側縁部3aをフィルム搬送方向Aに切断して製品部3bと耳部3cとに切り離す。切り離されたスリット状の耳部3cは、カットブロア51で細かく小片にカットされる。カットされた耳部小片は、図示しない風送装置によりクラッシャー52に送られ、粉砕されてチップとなる。このチップはドープ調製用に再利用される。
【0028】
耳切装置50により側縁部3aが切り離されたフィルム3は、熱緩和室6に送られる。熱緩和室6には、多数のローラ53が備えられており、フィルム3はローラ53により熱緩和室6内を搬送される。熱緩和室6には、送風機(図示せず)から所望の温度の風が送り込まれてフィルム3が熱処理される。このときの風の温度は、20℃〜250℃であることが好ましい。フィルム3は徐々に温度を下げる。
【0029】
熱緩和後のフィルム3は冷却室7に送られて30℃以下に冷却された後、巻取室8に送られる。巻取室8の内部には、巻芯54がセットされた巻取機55が設けられている。巻巻取室8に送られたフィルム3は、巻芯54で巻き取られる。この際にプレスローラ55aで押圧されて巻き取られる。
【0030】
フィルム3は、周知の溶液製膜方法で製造されるものであればよく、例えば、特開2005−104148号公報に記載されているTACフィルムを用いることができる。特に、製膜速度の向上を図るべく、冷却した流延ドラムの周面に、TACと溶媒とを含むドープを流延し、この流延膜が冷却ゲル化して自己支持性を有した後に剥ぎ取って、ピンテンタを経て乾燥させ巻取り収納したTACフィルムに対して、本発明を実施することにより、効率よく且つ無駄なく光学特性に優れたTACフィルムを製造することができる。
【0031】
なお、上記実施形態では、矯正ローラ41及び巻付けローラ42をモータ43,44により回転駆動する構成にしたが、フリーローラとして構成してもよい。この場合、各ローラ41,42は、フィルム3から受ける駆動力でフィルム3と同速で回転する。
【0032】
また、上記実施形態では、巻付けローラ42によりフィルム3を矯正ローラ41に巻き付けて、フィルム3の側縁部3aの耳伸びを矯正する構成にしたが、矯正ローラ41のみを用いて、側縁部3aの耳伸びを矯正する構成にしてもよい。
【0033】
さらに、上記実施形態では、バネ付勢により開閉するクリップを用いたが、この他に、自重落下方式のクリップや、その他の各種駆動手段を有するクリップを用いてもよい。
【0034】
また、上記実施形態では、ポリマーフィルムとしてTACフィルムを用いて説明を行ったが、TACフィルムに限定されることなく、各種ポリマーフィルムにも本発明が適用できる。
【0035】
本発明に用いることのできるポリマーフィルムとしては、例えば、セルロースアシレートフィルムのほかに、溶液製膜方法によって製造される環状オレフィン等のポリマーフィルムや、溶融製膜方法によって製造されたポリマーフィルムに対し本発明を適用することができる。
【0036】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわちアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBはアシル基の置換度を表わし、置換度Aはアセチル基の置換度、また置換度Bは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
また、本発明に用いられるポリマーはセルロースアシレートに限定されるものではない。
【0037】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0038】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0039】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0040】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0041】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。セルロースアシレートを用いた溶液製膜方法によるフィルムの製造方法についても、同じく特開2005−104148号の[0517]段落から[0913]段落に詳細に記載されている。これらの記載も本発明に適用可能である。
【0042】
(環状オレフィン)
環状オレフィンはノルボルネン系化合物から重合されるものが好ましい。この重合は開環重合、付加重合いずれの方法でも行える。付加重合としては例えば特許3517471号公報記載のものや特許3559360号公報、特許3867178号公報、特許3871721号公報、特許3907908号公報、特許3945598号公報、特表2005−527696号公報、特開2006−28993号公報、国際公開第2006/004376号パンフレットに記載のものが挙げられる。特に好ましいのは特許3517471号公報に記載のものである。
【0043】
開環重合としては国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報、特許3220478号公報、特許3273046号公報、特許3404027号公報、特許3428176号公報、特許3687231号公報、特許3873934号公報、特許3912159号公報記載のものが挙げられる。なかでも好ましいのが国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報記載のものである。これらの環状オレフィンの中でも付加重合のものの方がより好ましい。
【0044】
(ラクトン環含有重合体)
下記(一般式1)で表されるラクトン環構造を有するものを指す。
【0045】
【化1】

【0046】
(一般式1)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0047】
(一般式1)のラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。
【0048】
(一般式1)で表されるラクトン環構造以外に、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記(一般式2)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
【0049】
【化2】

【0050】
(一般式2)中、R4は水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R5基、又は−C−O−R6基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R5及びR6は水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。
【0051】
例えば、国際公開第2006/025445号パンフレット、特開2007−70607号公報、特開2007−63541号公報、特開2006−171464号公報、特開2005−162835号公報記載のものを用いることができる。
【0052】
(溶融製膜方法で用いるポリマー)
溶融製膜方法に用いることのできるポリマーは、熱可塑性樹脂であれば特に限定されない。例えば、セルロースアシレート、ラクトン環含有重合体、環状オレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状オレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状オレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状オレフィンである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】オフライン延伸装置を示す平面図である。
【図2】テンタを示す平面図である。
【図3】クリップの把持開始直前の状態を示す側面図である。
【図4】フィルム、矯正ローラ、巻付けローラ、クリップを示す斜視図である。
【図5】テンタで延伸する前の従来のフィルムを示す図である。
【符号の説明】
【0054】
2 オフライン延伸装置
3 TACフィルム
3a 側縁部
5 テンタ
30 クリップ
31 フレーム
31b 台座
32 フラッパ
36 クリップクローザー
41 矯正ローラ
41a 中心軸部
41b 側縁軸部
42 巻付けローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの両側縁部を把持しながら前記フィルムの走行方向に移動し、前記フィルムを幅方向に延伸する複数のクリップを有する延伸装置本体と、
前記延伸装置本体のフィルム入口側に配置され、前記フィルムの幅方向両側縁部が接触する第1のエリアが、前記フィルムの幅方向中央部が接触する第2のエリアよりも大径である矯正ローラと、
前記矯正ローラに前記フィルムを巻き付ける巻付けローラとを備えることを特徴とするフィルム延伸装置。
【請求項2】
前記巻付けローラは、前記フィルムの幅方向両側縁部が接触する第1のエリアが、前記フィルムの幅方向中央部が接触する第2のエリアよりも大径に形成されていることを特徴とする請求項1記載のフィルム延伸装置。
【請求項3】
前記クリップは、台座を有するフレームと、前記台座との間で前記フィルムを把持するように前記フレームに揺動自在に取り付けられるフラッパと、前記フラッパの先端を前記台座から離した開放位置、前記フラッパの先端を前記台座に押し当てて前記フラッパの先端及び台座により前記フィルムを把持する把持位置の両方向に付勢するコイルバネとを有し、
前記フィルム入口側には、前記フラッパに当接し、前記フラッパを前記開放位置から前記把持位置に付勢して前記フィルムの両側縁部を前記クリップにより把持させるクリップクローザーが設けられていることを特徴とする請求項1または2記載のフィルム延伸装置。
【請求項4】
フィルムの両側縁部を複数のクリップにより把持しながら前記フィルムの走行方向に移動し、前記フィルムを幅方向に延伸する延伸工程と、
前記フィルムを前記クリップで把持する前に、前記フィルムの幅方向両側縁部が接触する第1のエリアが、前記フィルムの幅方向中央部が接触する第2のエリアよりも大径である矯正ローラに前記フィルムを巻き付ける巻付け工程とを備えることを特徴とするフィルム延伸方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−82854(P2010−82854A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252180(P2008−252180)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】