説明

フィルム延伸装置及び方法

【課題】光学軸のバラツキを抑制する。
【解決手段】テンター装置2は、クリップ5、クリップ5を案内する第1,第2レール11,12を備える。各レール11,12は、第1直線部11a,12a、第1屈曲部11b,12b、傾斜部11c,12c、第2屈曲部11d,12d、第2直線部11e,12eを備える。クリップ5は、第1直線部11aから第1屈曲部11bに移動して傾いたときにも、隣り合うクリップ5同士が接触しない範囲でクリップ間隙L5が小さくなるように、第1屈曲部11bの屈曲率に応じたピッチP1で第1チェーン13に取り付けられる。第1屈曲部11bの曲げ角度θ=2°,曲げ半径=7000mm、クリップ5の非把持部長さL1=1.8mm、把持部長さL2=62mm、シュー30同士の間隙L3=1.8mm、クリップ長さL4=126mm、クリップ間隔L5=1.6mm、ピッチP1=127.6mmとされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムを延伸するフィルム延伸装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ等の急速な発展・普及により、これら液晶ディスプレイの保護フィルム等に用いられるポリマーフィルム、特にセルロースアシレートフィルムの需要が増大している。この需要の増大に伴い生産性の向上が望まれている。セルロースアシレートフィルム(以下、フィルム)は、連続走行する支持体に、流延ダイを用いてドープを流延し、この流延膜を支持体から剥がした後、乾燥させて巻き取ることにより製造されている。このような溶液製膜方法では、溶融押出による製膜方法に比べて、異物が無く光学特性に優れたフィルムが得られる。
【0003】
フィルムの光学特性、特にレタデーションを調節する方法として、テンター装置等のフィルム延伸装置を用いて延伸することが行われている。テンター装置では、フィルムの両側縁部を把持するクリップを、フィルムの長手方向に延びる直線部とフィルムの幅方向に屈曲する屈曲部とを有する一対のレールに沿って移動させることにより、フィルムを幅方向に延伸している。延伸後のフィルムにおいて、把持部分の近傍部分は、光学特性のバラツキが大きく製品として使用することができないため、フィルムは、これらの側縁部分が切り落とされて製品となる。この切り落とし量を少なくすることにより、製品として使用する部分を広げて、生産性を向上する技術が提案されている。
【0004】
特許文献1記載のセルローストリアセテートフィルムの製造方法及びクリップでは、複数のクリップそれぞれに、フィルムを把持するT字型のシューを設けるとともに、複数のT字型のシューを交互に逆向きに配することにより、フィルム搬送方向において重複した範囲のフィルムを把持している。そして、フィルム搬送方向における任意のフィルム長さをLtとし、このフィルム長さLtにおいてシューにより把持している部分のフィルム全長をLttとしたときに、1.0≦(Ltt/Lt)≦1.99としている。これにより、フィルム把持全長Lttが、フィルム長さLt以上となり、フィルム搬送方向においてフィルムを把持していない部分がなくなるから、延伸後のフィルムの長手方向における光学軸(遅相軸)のバラツキが抑制される。光学軸のバラツキを抑制することにより、延伸後のフィルムにおける把持部分近傍の切り落とし量を削減している。
【0005】
また、特許文献2記載の光学フィルム、及びその製造方法では、フィルム長手方向の光学物性の周期的変動を検出して、この検出した周期的変動と目標値とのズレを用いて、次の1周期のフィルム搬送・延伸を制御している。左右のクリップの位相差が検出された場合には、左右のクリップをそれぞれ独立して速度制御することによりクリップ位相差をなくして、クリップ位相差に起因して発生する光学物性のバラツキを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−090943号公報
【特許文献2】特開2006−256064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、フィルムの長手方向における光学軸のバラツキを抑制することにより、把持部分近傍の切り落とし量は削減されるが、フィルム幅方向において交互に逆向きに配された複数のT字型のシューによりフィルム側縁部を把持しているため、幅方向におけるフィルムを把持している部分は長くなる。把持部分は製品として使用することができず、切り落とす必要があるため、フィルム全体としては切り落とし量が増加し、生産性が悪い。さらに、シューの数が多くなるため、装置が複雑になるとともにコストが高くなり、その装置で製造するフィルム自体もコストが高くなる。また、特許文献2では、左右のクリップの位相差によるフィルム長手方向の光学物性のバラツキを抑制することはできるが、光学軸のバラツキを抑制することはできない。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、簡単な構成で光学軸のバラツキを抑制して生産性を向上することができるフィルム延伸装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のフィルム延伸装置は、フィルムの搬送方向に延びる直線部と、前記フィルムの幅方向に屈曲する屈曲部とを有する一対のレールと、前記フィルムの両側縁部を把持しながら前記レールに沿って移動して、前記フィルムを幅方向に延伸する複数のクリップと、を備え、前記複数のクリップは、前記屈曲部を移動するときに隣り合うクリップ同士が接触しない範囲で前記隣り合うクリップ同士の隙間が小さくなるように、前記屈曲部の屈曲率に応じたピッチで配されていることを特徴とする。なお、前記フィルムは、ポリマーフィルムであることが好ましく、セルロースアシレートフィルムであることがさらに好ましい。セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)やジアセチルセルロース(DAC)が挙げられる。
【0010】
また、前記クリップは、前記フィルムの側縁部が載せられるベースを有するフレームと、前記フレームに回転自在に取り付けられ、前記ベースとの間に前記フィルムを把持する把持位置と把持を開放する開放位置との間で回転するシューとを備え、前記シューは、フィルム搬送方向のほぼ中心に設けられ、前記フィルムを把持しない非把持部と、前記非把持部により分割され、前記フィルムを把持する2個の把持部とを備え、前記非把持部の長さをL1とし、1個の前記把持部の長さをL2としたときに、1mm≦L1≦2.5mm、50mm≦L2≦150mmを満たすことが好ましい。なお、L1は、1mm〜2mmであることが好ましい。
【0011】
さらに、前記シューは、前記把持部をそれぞれ有し、独立して回転する2個のクランパから構成され、前記2個のクランパは、フィルム搬送方向において隙間をあけて配され、前記隙間が前記非把持部であること、または、前記シューは、前記2個の把持部が一体に形成されるとともに、フィルム搬送方向のほぼ中心に凹部が形成され、前記凹部が前記非把持部であることが好ましい。
【0012】
また、前記隣り合うクリップの前記シュー同士の間隙をL3としたときに、1mm≦L3≦2.5mmを満たすことが好ましい。
【0013】
さらに、前記クリップの長さをL4としたときに、101mm≦L4≦302.5mmを満たすことが好ましい。
【0014】
また、本発明のフィルム延伸方法は、フィルムの両側縁部を把持する複数のクリップを、フィルムの搬送方向に延びる直線部と、前記フィルムの幅方向に屈曲する屈曲部とを有する一対のレールに沿って移動することにより、前記フィルムを幅方向に延伸するフィルム延伸方法において、前記複数のクリップは、前記屈曲部を移動するときに隣り合うクリップ同士が接触しない範囲で前記隣り合うクリップ同士の隙間が小さくなるように、前記屈曲部の屈曲率に応じたピッチで配されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数のクリップは、レールの屈曲部を移動するときに隣り合うクリップ同士が接触しない範囲で隣り合うクリップ同士の隙間が小さくなるように、屈曲部の屈曲率に応じたピッチで配されているから、クリップ同士の隙間であり、フィルムを把持していない部分を少なくすることができる。これにより、光学軸のバラツキを抑制して生産性を向上することができる。
【0016】
また、クリップに設けられたシューの非把持部の長さをL1とし、把持部の長さをL2としたときに、1mm≦L1≦2.5mm、50mm≦L2≦150mmを満たすから、安定したフィルム把持を行いながらも、フィルムを把持していない部分を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】テンター装置を示す平面図である。
【図2】クリップとクリップオープナとを示す正面図である。
【図3】クリップを示す斜視図である。
【図4】クリップを示す平面図である。
【図5】クリップとクリップクローザとを示す斜視図である。
【図6】クリップとクリップクローザとを示す正面図である。
【図7】溶液製膜設備の概略図である。
【図8】クリップを示す側面図である。
【図9】ポリマーフィルムの素材、非把持部長さ、把持部長さ、クリップ長さを変えたときの延伸後における光学軸の変動幅バラツキの実験結果を示す表である。
【図10】シューの中心部に凹部が設けられたクリップを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示すように、テンター装置2は、ポリマーフィルム3の両側縁部をクリップ5で把持してフィルム搬送方向Aに搬送しながらフィルム幅方向Bに延伸するとともに、ポリマーフィルム3を乾燥させる。
【0019】
テンター装置2は、第1レール11と、第2レール12と、これらレール11,12に案内される第1,第2チェーン(エンドレスチェーン)13,14とを備えている。第1,第2チェーン13,14には、クリップ5が一定のピッチで多数取り付けられている。
【0020】
各レール11,12は、フィルム搬送方向Aに延びる第1直線部11a,12aと、フィルム幅方向Bにおける外側方向に屈曲する第1屈曲部11b,12bと、この第1屈曲部11b,12bにより屈曲された傾斜角度で直線状に延びる傾斜部11c,12cと、フィルム幅方向Bにおける内側方向に屈曲する第2屈曲部11d,12dと、フィルム搬送方向Aに延びる第2直線部11e,12eとを備える。第1屈曲部11b,12bと、第2屈曲部11d,12dとは、屈曲する方向は異なるが、同じ屈曲率で屈曲されている。
【0021】
テンター装置2は、図示しない乾燥室内に配置されている。乾燥室は、フィルム搬送方向Aで、予熱ゾーン2a、延伸ゾーン2b、延伸緩和ゾーン2cに区画されている。各レール11,12の第1直線部11a,12aの範囲となる予熱ゾーン2aでは、ポリマーフィルム3は、例えば80℃以上200℃以下で予熱される。この予熱ゾーン2aでは、一対のクリップ間距離は変化がなく、クリップ5によるフィルム幅方向Bでの延伸は行われない。
【0022】
各レール11,12の傾斜部11c,12cの範囲となる延伸ゾーン2bでは、ポリマーフィルム3は、例えば80℃以上200℃以下で加熱される。この延伸ゾーン2bでは、クリップ5が傾斜部11c,12cを移動することにより、一対のクリップ間距離が漸増し、ポリマーフィルム3は、クリップ5によりフィルム幅方向Bに延伸される。第2直線部11e,12eの範囲となる延伸緩和ゾーン2cでは、一対のクリップ間距離は変化がなく、延伸緩和が行われる。なお、延伸倍率は所望の光学特性等に合わせて適宜変更されるものである。
【0023】
第1,第2チェーン13,14は、原動スプロケット21,22及び従動スプロケット23,24の間に掛け渡されており、これらスプロケット21〜24の間では、第1チェーン13は第1レール11によって、第2チェーン14は第2レール12によって案内される。原動スプロケット21,22はテンタ出口27側に設けられており、これらは図示しない駆動機構により回転駆動され、従動スプロケット23,24はテンタ入口26側に設けられている。
【0024】
図2及び図3に示すように、クリップ5は、クリップ本体28とレール取付部29とから構成されている。クリップ本体28は、第1クランパ31及び第2クランパ32からなるシュー30と、略コ字形状のフレーム33とから構成されている。このフレーム33は、各クランパ31,32を回動自在に支持する取付軸33aと、ポリマーフィルム3の側縁部が載せられるベース33bとを備える。
【0025】
各クランパ31,32は、フレーム33に取り付けられる軸部31a,32aと、ベース33bとの間にポリマーフィルム3を把持する把持部31b,32bと、頭部31c,32cとからなる。各クランパ31,32は、フィルム搬送方向Aにおいて把持部31bと把持部32bとの間に僅かな隙間ができるように、フレーム33に取り付けられている。
【0026】
各クランパ31,32は、ベース33bとの間にポリマーフィルム3を把持する把持位置(図3(A)参照)と、把持を開放する開放位置(図2及び図3(B)参照)との間で回転し、通常は自重により把持位置となる。把持開始位置PAでは、ベース33bと把持部31b,32bとによりポリマーフィルム3が把持される。
【0027】
レール取付部29は、取付フレーム35と、ガイドローラ36,37,38とから構成されている。取付フレーム35には、第1チェーン13または第2チェーン14が取り付けられる。ガイドローラ36〜38は、原動スプロケット21,22の各支持面に接触するか、第1レール11または第2レール12の支持面に接触するかして、回転する。これにより、各スプロケット21,22や各レール11,12からクリップ本体28が脱落することなく、各レール11,12に沿って案内される。
【0028】
図1及び図2に示すように、各スプロケット21〜24に近接して、クリップ5を開放するためのクリップオープナ40が配置されている。クリップオープナ40は、テンタ入口26の従動スプロケット23,24では、把持開始位置PAの前で、クリップ5の頭部31c,32cに接触してこれを開放状態にし、ポリマーフィルム3の側縁部の受け入れを可能にする。そして、把持開始位置PAを通過するときにクリップオープナ40が頭部31c,32cから離れ、クリップ5が自重により開放位置から把持位置にセットされて、ポリマーフィルム3の側縁部が把持される。同様にして、テンタ出口27の原動スプロケット21,22では、ポリマーフィルム3の把持開放位置PBでクリップオープナ40によりクリップ5が開放位置にされて、ポリマーフィルム3の側縁部の把持が開放される。
【0029】
テンター装置2では、延伸開始位置PCでポリマーフィルム3の延伸が開始され、延伸終了位置PDでポリマーフィルム3の延伸が終わる。把持開始位置PAから延伸開始位置PCまでの予熱ゾーン2aでは、ポリマーフィルム3は延伸されずに搬送される。さらに、延伸終了位置PDから把持開放位置PBまでの延伸緩和ゾーン2cでも、ポリマーフィルム3は延伸されずに搬送される。
【0030】
図4に示すように、クリップ5は、第1レール11の第1屈曲部11bを移動するとき、詳しくは第1直線部11aから第1屈曲部11bに移動したときに、隣り合うクリップ5(図4における下方のクリップ5)に近付くように傾き、クリップ5同士の隙間が小さくなる。この傾いたときにも、クリップ5同士が接触しない範囲でクリップ間隙L5が小さくなるように、第1屈曲部11bの屈曲率に応じたピッチP1で、クリップ5は第1チェーン13に取り付けられている。同様に、第1屈曲部12bの屈曲率に応じたピッチで、クリップ5は第2チェーン14に取り付けられている。また、第2屈曲部11d,12dは、第1屈曲部11b,12bと同じ屈曲率で屈曲されているから、クリップ5が、傾斜部11c,12cから第2屈曲部11d,12dに移動したときに傾き、隣り合うクリップ5同士の隙間が小さくなったときにも、クリップ5同士は接触しない。さらに、クリップ5は、各スプロケット21〜24を移動(回転)するときにも、隣り合うクリップ5同士で接触しない。なお、図4においては、第1屈曲部11bの屈曲率を実際よりも大きくして描いている。
【0031】
図5及び図6に示すように、把持開始位置PAと延伸開始位置PCとの間には、クリップ5を閉じる方向に加勢する2個のクリップクローザ42が設けられている。このクリップクローザ42は、クリップ5の頭部31c,32cに接触してこれを閉じる方向に力を加える。クリップクローザ42は、レール11に沿って移動するクリップ5の各クランパ31,32を反時計方向に回転させ、レール12に沿って移動するクリップ5の各クランパ31,32を時計方向に回転させ、それぞれクリップ5を閉じる方向に加勢する。
【0032】
クリップクローザ42は、フィルム搬送方向Aの上流側から順に、テーパ部42a、加勢部42bが形成されている。テーパ部42aは、頭部31c,32cを案内する。テーパ部42aにより、頭部31c,32cが加勢部42bまで案内されると、第1,第2クランパ31,32は回転され、クリップ5は閉じる方向に加勢される。なお、クリップクローザ42は、頭部31c,32cとの接触抵抗を小さく抑えるために、樹脂製のものが好ましく用いられる。樹脂としては、ナイロン、デルリン(登録商標)等が用いられる。
【0033】
次に上記ポリマーフィルム3の製造方法について説明する。ただし、以下に述べる製造方法ならびに製造装置は、本発明の一例であり、これに限定されるものではない。
【0034】
図7に示すように、溶液製膜設備50は、ドープ51と流延室52と2個のテンター装置2と乾燥室54と冷却室55と巻取室56とを有する。本実施形態では、2個のテンター装置2のうち、最初にフィルム延伸を行うもの(図7における左側、すなわち上流側)を第1のテンター装置2と称し、後にフィルム延伸を行うもの(図7における右側、すなわち下流側)を第2のテンター装置2と称する。
【0035】
ドープ51は、ジアセチルセルロースフィルムとしてのポリマーフィルム3を製造するためのものであり、このドープ51は、流延ダイ60に送られる。
【0036】
流延室52には、流延ダイ60、2個の回転ドラム61、この2個の回転ドラム61に掛け巡らされて移動する流延バンド62、剥取ローラ63、減圧チャンバ64が設置されている。回転ドラム61は駆動装置(図示せず)により回転されており、この回転ドラム61の回転により移動する流延バンド62に向けて、流延ダイ60からドープ51が吐出され、流延バンド62に流延膜65が形成される。
【0037】
流延室52は、温調装置(図示せず)によって、流延膜65が冷却固化(ゲル化)し易い温度に設定されている。そして、流延バンド62が約9/10回転する間に、流延膜65は自己支持性を有するゲル強度に達し、剥取ローラ63は、流延バンド62上の流延膜65を湿潤フィルム68として剥ぎ取る。また、流延室52内では、流延膜65は乾燥風が吹き付けられて乾燥され、流延室52を出た湿潤フィルム68は、残留溶媒量が30質量%程度となる。
【0038】
減圧チャンバ64は、流延ダイ60に対し、ドラム走行方向上流側に配置されており、減圧チャンバ64内を負圧に保っている。これにより、流延ビードの背面(後に、流延バンド62に接する面)側を所望の圧力に減圧し、回転ドラム61が高速で回転することにより発生する同伴風の影響を少なくしている。
【0039】
流延室52の下流には、渡り部71、第1のテンター装置2、第2のテンター装置2が順に設置されている。渡り部71は、搬送ローラ72によって剥ぎ取った湿潤フィルム68を第1のテンター装置2に導入する。第1のテンター装置2において、湿潤フィルム68は延伸されるとともに乾燥され、ポリマーフィルム3となる。第1のテンター装置2での所定条件下の延伸処理によって、第1のテンター装置2を出たポリマーフィルム3には所望の光学特性が付与される。同様に、第2のテンター装置2においてポリマーフィルム3は延伸されるとともに乾燥され、第1のテンター装置2を出たポリマーフィルム3には所望の光学特性が付与される。なお、第1のテンター装置2と第2のテンター装置2との間に、ローラによりポリマーフィルム3を搬送しながら乾燥する乾燥室を設けてもよい。
【0040】
第1,第2のテンター装置2の下流にはそれぞれ耳切装置73が設けられている。耳切装置73はフィルム両端部の耳を裁断する。この裁断した耳は風送によりクラッシャ74に送られて、ここで粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。
【0041】
乾燥室54には、複数のローラ77が設けられており、これらにポリマーフィルム3が巻き掛けられて搬送されることにより乾燥が行われる。乾燥室54には吸着回収装置78が接続されており、ポリマーフィルム3から蒸発した溶媒が吸着回収される。
【0042】
乾燥室54の出口側には冷却室55が設けられており、この冷却室55でポリマーフィルム3が室温となるまで冷却される。冷却室55の下流には強制除電装置(除電バー)79が設けられており、ポリマーフィルム3が除電される。さらに、強制除電装置79の下流側には、ナーリング付与ローラ80が設けられており、ポリマーフィルム3の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室56には、プレスローラ82を有する巻取機81が設置されており、ポリマーフィルム3が巻き芯にロール状に巻き取られる。
【0043】
本実施形態では、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いている。セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)やジアセチルセルロース(DAC)が挙げられる。
【実施例1】
【0044】
図7に示す溶液製膜設備50において、流延バンド62の表面上に、ドープ51を流延して流延膜65を形成した。自己支持性を有する流延膜65を剥取ローラ63で支持しながら剥ぎ取り、湿潤フィルム68を得た。この得られた湿潤フィルム68は、残留溶媒量が30質量%となっている。
【0045】
第1のテンター装置2では、湿潤フィルム68の両側端部をクリップ5で把持した後、残留溶媒量が30質量%の湿潤フィルム68を、乾燥温度が140℃の予熱ゾーン2a,延伸ゾーン2b,延伸緩和ゾーン2cに送り、予熱、延伸、延伸緩和を行い、ポリマーフィルム3とした。延伸前の湿潤フィルム68の幅を100%としたときに、第1のテンター装置2の延伸ゾーン2bにおける延伸率は105%とした。第1のテンター装置2から出たポリマーフィルム3は、残留溶媒量が1質量%以下(例えば、1質量%)となる。
【0046】
第1のテンター装置2の下流に設置した耳切装置73でポリマーフィルム3の両側端部を切断した後、ポリマーフィルム3を第2のテンター装置2に送る。第2のテンター装置2では、残留溶媒量が1質量%のポリマーフィルム3の両側端部をクリップ5で把持しながら、乾燥温度が175℃の予熱ゾーン2a,延伸ゾーン2b,延伸緩和ゾーン2cに送り、予熱、延伸、延伸緩和を行った。延伸前のポリマーフィルム3の幅を100%としたときに、延伸ゾーン2bにおける延伸率は120%とした。
【0047】
第2のテンター装置2の下流に設置した耳切装置73でポリマーフィルム3の両側端部を切断した後、乾燥室54において複数のローラ77に巻き掛けて搬送する間に、ポリマーフィルム3の乾燥を十分に促進させた。冷却室55においてポリマーフィルム3を略室温となるまで冷却した後、巻取室56に送り、プレスローラ82で押圧しながら巻き芯に巻き取ってロール状のポリマーフィルム3を得た。なお、巻き取りの前に、強制除電装置79により帯電圧を調整し、また、ナーリング付与ローラ80により、ナーリングを付与した。
【0048】
図8に示すように、非把持部の長さをL1(単位;mm)、把持部31b,32bの長さをL2(単位;mm)、隣り合うクリップ5のシュー30同士の間隙をL3(単位;mm)、クリップ5の長さをL4(単位;mm)、クリップ5とクリップ5との間隔(以下、クリップ間隔と称する)をL5(単位;mm)とする。非把持部は、各クランパ31,32間の隙間であり、ポリマーフィルム3を把持しない。これらの各長さ及び間隔L1〜L5は、いずれもフィルムの搬送方向Aにおける長さである。
【0049】
把持部31b,32b及び非把持部は、1mm≦L1≦2.5mm、50mm≦L2≦150mmを満たすことが好ましい。L1が1mm以上の場合には、1mm未満の場合よりも、レールの屈曲部で隣り合うクリップがより接触しにくい。2.5mm以下の場合には、2.5mmよりも大きい場合よりも、確実に光学軸のばらつきが抑制される。また、L2が50mm以上の場合には、50mm未満の場合に比べて少ない数のクリップで安定して把持をすることができ、設備コストがより低く抑えられる。150mm以下の場合には、150mmよりも大きい場合よりも、テンターレール屈曲部で十分な曲げ半径が付与され、隣り合うクリップがより接触しにくい。また、シュー30は、非把持部によりふたつの把持部31b,32bに分割されているので、非把持部が無く、フィルム搬送方向に長いひとつの把持部とされているものに比べて、各クリップ5内におけるフィルムの把持力がより均一となる。このため、各クリップ5内における光学軸のばらつきはより抑制される。
【0050】
隣り合うクリップ5のシュー30同士の間隙L3は、1mm≦L3≦2.5mmを満たすことが好ましい。L3が1mm以上の場合には、1mm未満の場合に比べて、レールの屈曲部で隣り合うクリップ5がより接触しにくい。L3が2.5mm以下の場合には、2.5mmよりも大きい場合に比べて、確実に光学軸のばらつきが抑制される。なお、クリップ5が第1,第2レール11,12の各屈曲部11d,12dに移動したときや、一対のクリップ間距離が減少する収縮ゾーンを設けた場合にクリップ5がこの収縮ゾーンに移動したときには、隣り合うクリップ5において、ベース33bのフィルム幅方向Bにおける内側縁の両端部が最も近接して接触しやすいため、この部分をR形状にしたり、テーパ形状にすることにより、隣り合うクリップ5で接触しないようにしてもよい。この場合には、クリップ5のR形状及びテーパ形状の分だけ接触しにくくなるから、L3を小さくすることができ、好ましいL3の下限値が下がる。
【0051】
クリップ5の長さL4は、101mm≦L4≦302.5mmであることが好ましい。L4が101mm以上の場合には、101mm未満の場合に比べて少ない数のクリップで安定して把持することができ、設備コストがより低く抑えられる。また、L4が302.5mm以下の場合には、302.5mmよりも大きい場合よりも、テンターレール屈曲部で十分な曲げ半径が付与され、隣り合うクリップ5がより接触しにくい。なお、クリップ5が第1,第2レール11,12の各屈曲部11b,12bに移動したときには、隣り合うクリップ5において、フレーム33のフィルム幅方向Bにおける外側縁の両端部が最も近接して接触しやすいため、この部分をR形状にしたり、テーパ形状にすることにより、隣り合うクリップ5で接触しないようにしてもよい。この場合には、クリップ5のR形状及びテーパ形状により短くなった部分では、好ましいL4の上限値が下がる。
【0052】
図8及び図9に示すように、実施例1では、第1,第2のテンター装置2において、各クランパ31,32間の隙間でありポリマーフィルム3を把持しない非把持部長さL1=1.8mm、各クランパ31,32の長さである把持部長さL2=62mm、隣り合うクリップ5のシュー30同士の間隙L3=1.8mm、クリップ長さL4=126mm、クリップ間隔L5=1.6mmとした。この場合、クリップ5のピッチP1=127.6mmとなり、第1,第2のテンター装置2において、各屈曲部11b,11d,12b,12dに移動したときに隣り合うクリップ5同士で接触することがないように、各屈曲部11b,11d,12b,12dの曲げ角度θ(図4参照)=2°、曲げ半径=7000mmとした。さらに、ポリマーフィルム3をDACから構成した。
【0053】
そして、第1,第2のテンター装置2で延伸されたポリマーフィルム3において、フィルム幅方向Bのクリップ5先端から150mm内側部分の光学軸の変動幅を、光学測定器を用いて連続的に100m測定し、光学軸の変動幅が小さい場合(±0.50°未満)に○、光学軸の変動幅が大きい場合(±0.50°以上)に×とした。以下、実施例1に対して、非把持部長さL1、把持部長さL2、シュー間隔L3、クリップ長さL4、クリップ間隔L5、ピッチP1、ポリマーフィルム3の素材を変えて、実施例2〜6、比較例1〜4を得た。その他のフィルム製造条件は、実施例1と同じにした。この実験の結果を図9に示す。
【0054】
本実験の結果、実施例1〜6では、延伸後のポリマーフィルム3の光学軸の変動幅が小さく、耳きりする範囲を狭くすることができるから、生産性が良かった。また、比較例1〜4では、延伸後のポリマーフィルム3の光学軸の変動幅が大きく、耳きりする範囲が広くなるため、生産性が悪かった。
【0055】
また、図10に示すように、シュー30に代えて、フィルム搬送方向Aにおけるほぼ中心に凹部91dが設けられたシュー91を有するクリップ90を用いて、同様の実験を行った場合にも、同様の結果を得られた。なお、シュー91は、クランパ31,32と同様に、軸部91a、把持部91b及び頭部91cからなる。把持部91bは2個設けられ、各把持部91bの間に凹部91dが設けられている。
【0056】
また、シュー91は、ふたつの把持部91b,92bが一体に形成されているが、これらふたつの把持部91b,92bの間には、非把持部としての凹部91dが形成されてある。このため、シュー30と同様に、各クリップ5内におけるフィルムの把持力がより均一となる。このため、各クリップ5内における光学軸のばらつきはより抑制される。
【符号の説明】
【0057】
2 テンター装置
3 ポリマーフィルム
5 クリップ
11,12 第1,第2レール
11a,12a 第1直線部
11b,12b 第1屈曲部
11c,12c 傾斜部
11d,12d 第2屈曲部
11e,12e 第2直線部
30,91 シュー
31,32 第1,第2クランパ
31b,32b 把持部
91b 把持部
91d 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの搬送方向に延びる直線部と、前記フィルムの幅方向に屈曲する屈曲部とを有する一対のレールと、
前記フィルムの両側縁部を把持しながら前記レールに沿って移動して、前記フィルムを幅方向に延伸する複数のクリップと、を備え、
前記複数のクリップは、前記屈曲部を移動するときに隣り合うクリップ同士が接触しない範囲で前記隣り合うクリップ同士の隙間が小さくなるように、前記屈曲部の屈曲率に応じたピッチで配されていることを特徴とするフィルム延伸装置。
【請求項2】
前記クリップは、前記フィルムの側縁部が載せられるベースを有するフレームと、前記フレームに回転自在に取り付けられ、前記ベースとの間に前記フィルムを把持する把持位置と把持を開放する開放位置との間で回転するシューとを備え、
前記シューは、フィルム搬送方向のほぼ中心に設けられ、前記フィルムを把持しない非把持部と、前記非把持部により分割され、前記フィルムを把持する2個の把持部とを備え、
前記非把持部の長さをL1とし、
1個の前記把持部の長さをL2としたときに、
1mm≦L1≦2.5mm
50mm≦L2≦150mm
を満たすことを特徴とする請求項1記載のフィルム延伸装置。
【請求項3】
前記シューは、前記把持部をそれぞれ有し、独立して回転する2個のクランパから構成され、
前記2個のクランパは、フィルム搬送方向において隙間をあけて配され、
前記隙間が前記非把持部であることを特徴とする請求項2記載のフィルム延伸装置。
【請求項4】
前記シューは、前記2個の把持部が一体に形成されるとともに、フィルム搬送方向のほぼ中心に凹部が形成され、
前記凹部が前記非把持部であることを特徴とする請求項2記載のフィルム延伸装置。
【請求項5】
前記隣り合うクリップの前記シュー同士の間隙をL3としたときに、
1mm≦L3≦2.5mm
を満たすことを特徴とする請求項2ないし4いずれか1つ記載のフィルム延伸装置。
【請求項6】
前記クリップの長さをL4としたときに、
101mm≦L4≦302.5mm
を満たすことを特徴とする請求項2ないし5いずれか1つ記載のフィルム延伸装置。
【請求項7】
フィルムの両側縁部を把持する複数のクリップを、フィルムの搬送方向に延びる直線部と、前記フィルムの幅方向に屈曲する屈曲部とを有する一対のレールに沿って移動することにより、前記フィルムを幅方向に延伸するフィルム延伸方法において、
前記複数のクリップは、前記屈曲部を移動するときに隣り合うクリップ同士が接触しない範囲で前記隣り合うクリップ同士の隙間が小さくなるように、前記屈曲部の屈曲率に応じたピッチで配されていることを特徴とするフィルム延伸方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−213101(P2011−213101A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42186(P2011−42186)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】