説明

フィルム延伸設備及び延伸方法

【課題】TACフィルムを加熱延伸する際に、その両側縁部の黄変を防止する。
【解決手段】オフライン延伸装置17のテンタ部50に、第1チェーン63及び第2チェーン64の走行を案内する第1及び第2レール61,62を設ける。両チェーン63,64に複数のクリップ65を設ける。第1及び第2レール61,62の周りに、各レール61,62に沿ってクリップ65を覆う第1及び第2クリップカバー67,68を設ける。両クリップカバー67,68内に冷却ガスCをガスパージする。両クリップカバー67,68内への加熱風Hの進入を防ぐことができるので、両側縁部3aの温度を中央部3bの温度よりも10℃以上40℃以下の範囲で低くすることができる。これにより、TACフィルム3の両側縁部3aの黄変が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムをその幅方向に加熱延伸した後、フィルムの耳部を切断してリサイクル用のポリマー原料として再利用するフィルム延伸設備及び延伸方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ等の急速な発展・普及により、これら液晶ディスプレイに用いられる偏向膜の保護フィルム等に用いられるセルロースアシレートフィルム、特にトリアセチルセルロースフィルム(以下、TACフィルムと称する)の需要が増大している。この需要の増大に伴い、TACフィルムの生産性の向上が望まれている。TACフィルムは、連続走行する支持体に、TACと溶媒とを含むドープを流延する流延工程、支持体に形成された流延膜を乾燥や冷却等により自己支持性を持たせた後に支持体から剥がす剥ぎ取り工程、剥ぎ取られた流延膜(軟膜)を乾燥させて巻き取る乾燥工程・巻取工程を経て製造される。このような溶液製膜方法(工程)では、溶融押出による製膜方法に比べて、異物が無く、透過性や光学等方性などの光学特性に優れたフィルムが得られる。
【0003】
特許文献1及び2には、TACフィルムの光学特性、特にレターデーションを調節する方法として、ポリマー分子を所定の方向に配向させるために、延伸装置を用いて、TACフィルムの両側縁部をクリップ等で把持しながらTACフィルムをフィルム幅方向に延伸する方法が記載されている。特許文献1では、上述の剥ぎ取り工程で生成された軟膜を乾燥(加熱)しながら延伸装置によりフィルム幅方向に延伸している。また、特許文献2では、溶液製膜方法で製膜されたTACフィルムをオフライン延伸装置により再度加熱しながらフィルム幅方向に延伸している。
【0004】
このように延伸装置で延伸されたTACフィルムの両側縁部(耳部)は、クリップ等で把持(噛みこみ)されることにより光学特性が乱れているため、製品にはならない。このため、TACフィルムの耳部は、耳切装置により製品部から切断される。
【特許文献1】特開2002−187960号公報
【特許文献2】特開2002−311245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、溶液製膜工程で製品部から切り離された耳部は、ドープの原料として再利用が図られている。しかしながら、この再利用品を用いて製造したフィルムが黄色く変色してしまうことがあり、問題となっていた。本発明者は、鋭意検討した結果、この黄変現象は、オフライン延伸装置で加熱され、耳切装置で分離された耳部をドープの原料として用いたときに発生していることを突き止めた。なお、加熱延伸されたフィルムの幅方向中央部(製品部)も黄変するが、1次品としては問題なく、黄変した耳部をドープの原料として製膜したときの2次加工品で黄変が顕著に出て問題となっている。
【0006】
本発明は上記知見に基づきなされたものであり、フィルムを加熱延伸する際に、その両側縁部(耳部)の黄変を防止することができるフィルム延伸設備及び延伸方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のフィルム延伸設備は、フィルムの両側縁部を把持しながら前記フィルムの走行方向に移動し、該フィルムを幅方向に延伸する複数のクリップを有するテンタ本体、前記クリップで把持されたフィルムに対し加熱風を吹き付ける送風部、前記テンタ本体及び送風部が配置されるテンタ室、前記テンタ室内で前記フィルムを把持した複数のクリップの移動経路を覆うように配置され、前記クリップにより把持された前記フィルムの両側縁部の温度を前記フィルムの幅方向中央部よりも10℃以上40℃以下の範囲で低く保つクリップカバーを有するテンタ装置と、前記テンタ室を出たフィルムの耳部をフィルム走行方向で切断し、リサイクル用のポリマー原料として回収する耳部回収装置とを備えることを特徴とする。
【0008】
前記テンタ装置は、前記クリップカバー内に冷却ガスを導入してガスパージするフィルム耳部冷却部を有することが好ましい。
【0009】
前記フィルムがセルロースアシレートと溶媒とからなるドープを走行する支持体上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜が自己支持性を有した後に前記支持体から軟膜として剥ぎ取り、乾燥させてなるセルロースアシレートフィルムであり、前記送風部による前記フィルムの幅方向中央部の温度が175℃以上210℃以下であることが好ましい。
【0010】
ポリマー及び溶媒を含むドープを走行する支持体上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜が自己支持性を有した後に前記支持体から軟膜として剥ぎ取り乾燥し、ポリマーフィルムを製造する工程と、前記製造したポリマーフィルムの両側縁部を複数のクリップにより把持しながら該フィルムを加熱し、幅方向に延伸する延伸工程と、前記テンタ室内で前記フィルムを把持した複数のクリップの移動経路をクリップカバーにより覆い、前記クリップにより把持された前記フィルムの両側縁部の温度を前記フィルムの幅方向中央部よりも10℃以上40℃以下の範囲で低く保つフィルム耳部冷却部工程と、前記フィルムの耳部をフィルム走行方向で切断し、リサイクル用のポリマー原料として回収する耳部回収工程とを有することが好ましい。
【0011】
フィルム耳部冷却部工程では、前記クリップカバー内に冷却ガスを導入してガスパージを行うことが好ましい。
【0012】
前記ポリマーはセルロースアシレートであり、前記フィルムの幅方向中央部の温度が175℃以上210℃以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフィルム延伸設備及び延伸方法は、フィルムを、その両側縁部を複数のクリップにより把持して搬送しながらフィルム幅方向に加熱延伸する際に、フィルムを把持したクリップの移動経路をクリップカバーで覆うことにより、フィルムの両側縁部の温度を幅方向中央部の温度よりも10℃以上40℃以下の範囲で低く保つようにしたので、両側縁部の黄変を防止することができる。これにより、フィルムの両側縁部のリサイクルが可能になり、更にリサイクル比率を上げることができる。また、両側縁部と幅方向中央部との温度差が大きくなることで、温度ムラによりフィルムの光学特性にムラが発生することが防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1に示すように、TACフィルム3を製膜する溶液製膜設備10は、ストックタンク11と、流延室12と、ピンテンタ13と、乾燥室14と、冷却室15と、巻取室16と、オフライン延伸装置(テンタ装置)17とを有する。
【0015】
ストックタンク11は、攪拌翼11aとジャケット11bとを備える。ストックタンク11の内部には、TACフィルム3の原料となるポリマーが溶媒に溶解したドープ20が貯留されている。ストックタンク11内のドープ20は、ジャケット11bにより温度が略一定となるように調整される。また、攪拌翼11aの回転によって、ポリマーなどの凝集を抑制しつつ、ドープ20を均一な品質に保持している。ストックタンク11内のドープ20は、図示しないポンプにより、配管21を介して流延室12の流延ダイ22へ送液される。
【0016】
流延室12には、流延ダイ22、支持体としての流延ドラム23、剥取ローラ24、温調装置25,26、及び減圧チャンバ27が設置されている。流延ドラム23は、図示を省略した駆動装置により軸23aを中心としてZ1方向に回転する。流延室12内及び流延ドラム23は、温調装置25,26によって、流延膜28が冷却固化(ゲル化)し易い温度に設定されている。
【0017】
流延ダイ22は、回転する流延ドラム23の周面に向けてドープ20(流延ビード)を吐出する。この流延ビードが流延ドラム23の周面に流延されて流延膜28が形成される。そして、流延ドラム23が約3/4回転する間に、ゲル化による自己支持性が流延膜28に発現し、流延膜28は剥取ローラ24によって流延ドラム23から剥ぎ取られ、軟膜(湿潤フィルム)30となる。
【0018】
減圧チャンバ27は、流延ダイ22の近傍に配置されており、流延ビードの背面側を所望の圧力に減圧する。これにより、流延ドラム23の回転により発生する同伴風の影響を少なくし、流延ダイ22と流延ドラム23との間に安定した流延ビードを形成し、膜厚ムラの少ない流延膜28を形成することができる。
【0019】
流延ダイ22の材質は、電解質水溶液、ジクロロメタンやメタノールなどの混合液に対する高い耐腐食性、及び低い熱膨張率を有する素材から形成される。流延ダイ22の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。
【0020】
流延ドラム23の周面は、クロムメッキ処理が施され、十分な耐腐食性と強度を有する。また、温調装置26は、流延ドラム23の周面の温度を所望の温度に保つために、流延ドラム23の内部に伝熱媒体を循環させる。伝熱媒体は所望の温度に保持されており、流延ドラム23内の伝熱媒体流路を通過することにより、流延ドラム23の周面の温度が所望の温度に保持される。
【0021】
流延ドラム23の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。流延ドラム23の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム23の周面に施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
【0022】
また、流延室12内には、蒸発している溶媒を凝縮液化するための凝縮器(コンデンサ)32と、凝縮液化した溶媒を回収する回収装置33とが備えられている。回収装置33で回収された溶媒は、再生装置で再生された後にドープ調製用溶媒として再利用される。
【0023】
流延室12の下流には、渡り部35、ピンテンタ13が順に設置されている。渡り部35では、搬送ローラ35aが軟膜30をピンテンタ13へ搬送する。
【0024】
ピンテンタ13は、軟膜30の両側縁部を貫通して保持する多数のピンプレートを有している。ピンプレートは所定の軌道上を走行する。ピンプレートにより走行する軟膜30に対し乾燥風が送られ、軟膜30は乾燥してTACフィルム3となる。ピンテンタ13は、TACフィルム3を、その残留揮発分が10wt%以下となるまで乾燥させる。
【0025】
ピンテンタ13のフィルム搬送方向下流には耳部回収装置37が設けられている。耳部回収装置37はTACフィルム3の両側縁部を裁断する。この裁断した両側縁部は、送風によりクラッシャ38に送られて小片に切断された後、ドープ20等の原料として再利用される。
【0026】
乾燥室14には、多数のローラ14aが設けられており、これらにTACフィルム3が巻き掛けられて搬送される。乾燥室14内の温度は、50℃以上150℃以下の範囲で略一定になるように調節されている。乾燥室14を通過することにより、TACフィルム3に残留する溶媒が揮発する。また、乾燥室14には、吸着回収装置40が取り付けられている。揮発溶媒は、吸着回収装置40により吸着回収される。溶媒成分が除去された大気は、乾燥室14内に乾燥風として再度送風される。
【0027】
乾燥室14の出口側には冷却室15が設けられており、この冷却室15でTACフィルム3が室温となるまで冷却される。冷却室15の下流には強制除電装置(除電バー)41が設けられており、TACフィルム3が除電される。さらに、強制除電装置41の下流側には、ナーリング付与ローラ42が設けられており、TACフィルム3の両側縁部にナーリングが付与される。
【0028】
巻取室16には、プレスローラ43を有する巻取機44が設置されており、TACフィルム3が巻き芯にロール状に巻き取られ、巻取機44によりフィルムロール45が得られる。フィルムロール45は、オフライン延伸装置17にセットされる。
【0029】
図2に示すように、オフライン延伸装置17は、上述の溶液製膜法で形成されたTACフィルム3をそのフィルム幅方向に加熱延伸する。このオフライン延伸装置17は、大別して、供給室49と、テンタ部50と、熱緩和室51と、冷却室52と、巻取室53とから構成されている。
【0030】
供給室49には、先に製造されたフィルムロール45がセットされ、供給ローラ49aにより、フィルムロール45からTACフィルム3を引き出してテンタ部50へ供給する。なお、供給室49とテンタ部50と間に、ダンサローラ(リザーバ)やフィルム接合装置等を設けてもよい。
【0031】
テンタ部50は、本発明のテンタ本体に相当するものであり、TACフィルム3を加熱するとともに、その両側縁部3a(図3参照)を複数のクリップにより把持して搬送しながらフィルム幅方向に延伸する。なお、図中の矢印Aは、フィルム搬送方向を示す。
【0032】
テンタ部50で加熱延伸されたTACフィルム3は、耳部回収装置56に送り出される。TACフィルム3は、耳部回収装置56により両側縁部3aが切り離され、切り離されたスリット状の両側縁部3a(耳部)は、図示しない風送装置によりクラッシャ57に送られ、そこでチップに切断される。このチップはドープ調製用に再利用される。
【0033】
熱緩和室51には、多数のローラ51aが備えられており、TACフィルム3はローラ51aにより熱緩和室51内を搬送されて熱緩和された後、冷却室52に送られる。なお、熱緩和室51では、送風機(図示せず)から所望の温度の風が送風される。このときの風の温度は、20℃〜250℃であることが好ましい。
【0034】
熱緩和後のTACフィルム3は、冷却室52で30℃以下に冷却された後、巻取室53に送られる。巻取室53の内部には、巻芯53a、プレスローラ53bが設けられている。巻取室53に送られたTACフィルム3は、プレスローラ53bにより押圧されながら、巻取ローラ53aに巻き取られる。
【0035】
図3に示すように、テンタ部50はテンタ室60内に配置されている。このテンタ部50は、大別して、第1及び第2レール61,62と、第1及び第2チェーン(エンドレスチェーン)63,64と、クリップ65と、送風部66(図4参照)と、第1及び第2クリップカバー67,68と、これら各部を覆う図示しないケーシングとから構成される。なお、図中の矢印Bはフィルム幅方向を示す。
【0036】
第1及び第2レール61,62は、それぞれ第1チェーン63、第2チェーン64の走行を案内する。両レール61,62の間隔は、フィルム入口IN側からフィルム出口OUT側に向かって次第に拡がるように調節されている。なお、本実施形態における延伸倍率は103%に設定されているため、図3中のフィルム入口IN側とフィルム出口OUT側とのレール間隔にあまり差が見られないが、延伸倍率が高く設定されている場合には、フィルム出口OUT側のレール間隔が図3に示した状態よりも大きくなる。
【0037】
第1及び第2チェーン63,64には、それぞれクリップ65が一定間隔で複数取り付けられている。各クリップ65がTACフィルム3の両側縁部3aを把持しながら、両レール61,62に沿って移動することで、TACフィルム3がフィルム搬送方向Aに搬送されるとともに、フィルム幅方向Bに延伸される。
【0038】
第1及び第2チェーン63,64は、それぞれ原動スプロケット70a及び従動スプロケット70bの間、原動スプロケット71a及び従動スプロケット71bの間に掛け渡されている。これら各スプロケット70a,70b,71a,71bの間では、第1チェーン63は第1レール61によって案内され、第2チェーン64は第2レール62によって案内される。原動スプロケット70a,71aは、両レール61,62のフィルム出口OUT側に設けられており、それぞれ図示しない駆動機構により回転駆動される。
【0039】
また、フィルム入口IN及びフィルム出口OUTには、クリップ65を開かせるための開放部材73が各スプロケット70a,70b,71a,71bに近接して配置されている。なお、符号PAは、クリップ65による把持開始位置を示し、符号PBは、把持解除位置を示す。
【0040】
図3のIV−IV線に沿う断面を示す図4において、クリップ65は、略コ字形状のフレーム75と、フラッパ76と、レール取付部77とから構成されている。フラッパ76は、取付軸75aによりフレーム75に回動自在に取り付けられている。フラッパ76は、鉛直状態(図6参照)となるフィルム把持位置と、開放部材73に係合頭部76aが接触して斜めに回転した状態となる開放位置との間で変位する。フラッパ76は、通常は自重によりフィルム把持位置となるように付勢されている。
【0041】
クリップ65が把持開始位置PA(図3参照)を通過すると、開放部材73と係合頭部76aとが非接触になり、フラッパ76はフィルム把持位置に変位する。これにより、フラッパ76の下面76bとフレーム75とによってTACフィルム3の両側縁部3aが把持される。そして、クリップ65が把持解除位置PB(図3参照)に到達すると、開放部材73と係合頭部76aとの接触によりフラッパ76が開放位置に変位して、両側縁部3aの把持が解除される。
【0042】
レール取付部77は、取付フレーム79と、ガイドローラ80,81,82とから構成されている。取付フレーム79には、第1チェーン63または第2チェーン64が取り付けられる。ガイドローラ80〜82は、原動スプロケット70a,71aの各支持面や、第1及び第2レール61,62の支持面に接触して、回転する。これにより、フレーム75及びフラッパ76が、原動スプロケット70a,71aや両レール61,62から脱落することなく、両レール61,62に沿って案内される。
【0043】
送風部66は、TACフィルム3に加熱風Hを吹き付ける、すなわち、TACフィルム3を加熱するためのものであり、送風ダクト85a,85bと、加熱風供給装置86とから構成される。送風ダクト85a、86bは、TACフィルム3の搬送路の上方及び下方にそれぞれ配置され、且つフィルム搬送方向Aに所定ピッチで複数並べられている。各送風ダクト85a,85bは、フィルム幅方向Bに長く延びた形状を有しており、そのTACフィルム3に対向する面側には複数の吹き出し口(図示せず)が設けられている。
【0044】
熱風供給装置86は、各送風ダクト85a,85bに熱風を供給する。これにより、各送風ダクト85a,85bの吹き出し口からTACフィルム3へ熱風が吹き付けられる。熱風供給装置86は、TACフィルム3の幅方向中央部(以下、中央部という)3bの温度が175℃以上210℃以下の範囲となるように、各送風ダクト85aへ供給する熱風の温度・供給量を調節する。ここで、中央部3bとは、両側縁部3aに挟まれている部分をいう。なお、テンタ部50には、図示は省略するが排気ダクトも設けられている
【0045】
このように、テンタ部50では加熱延伸時にTACフィルム3(中央部3b)を高温で加熱している。これは、オフライン延伸の場合には、溶媒がポリマフィルム(TACフィルム)に含まれていないために、熱エネルギーだけでポリマ分子を動かし易くするためである。また、ポリマフィルム中に含まれていた添加剤は、このオフライン延伸でも蒸発するが、気化する添加剤のうち高沸点添加剤は高沸点を有しているため、テンタ部50内の温度が沸点を超えた後、少しの温度低下によりテンタ部50内にあるポリマフィルムに結露して結晶化する可能性があるためである。
【0046】
そこで、本実施形態では、第1及び第2レール61,62の周りに、両レール61,62に沿ってクリップ65を覆う第1及び第2クリップカバー67,68(図6参照)が設けられている。両クリップカバー67,68は、例えば断熱性の材料で形成されており、把持開始位置PAと把持解除位置PBとの間の全域[すなわち、両側縁部3aを把持した状態のクリップ65の移動経路(以下、単にクリップ65の移動経路という)のほぼ全域に亘って設けられている。
【0047】
また、両クリップカバー67,68には、TACフィルム3の搬送の妨げとならないように、フィルム搬送方向Aの全域に亘ってスリット状のフィルム通路67a,68aがそれぞれ形成されている。各フィルム通路67a,68aの幅は、カバー67,68内への熱風の進入を防ぐため可能な限り狭く形成されていることが好ましい。
【0048】
このように、第1及び第2クリップカバー67,68により、クリップ65により把持されるTACフィルム3の両側縁部3aを覆うことで、送風ダクト85a,85bからの熱風が両側縁部3aに当たることが防止されるため、両側縁部3aの温度を中央部3bの温度よりも低くすることができる。そして、本実施形態では、両側縁部3aの温度を中央部3bの温度よりも10℃以上〜40℃以下の範囲で低くしている。これは、両者の温度差が10℃を下回ると、特に中央部3bの温度が高く(例えば190℃〜210℃)設定されている場合に、両側縁部3aに黄変が発生するためである。逆に両者の温度差が40℃を上回ると中央部3bに温度ムラが生じて、TACフィルム3(製品)の光学特性にムラが発生するためである。
【0049】
従って、本実施形態では、両側縁部3aの温度を中央部3bの温度よりも上記範囲内で低くするため、両クリップカバー67,68の材質・厚み、フィルム通路67a,68aの幅の大きさを適宜決定している。更に本実施形態では、両クリップカバー67,68内に窒素ガス等の冷却ガスC(図5、図6参照)を導入(ガスパージ)している。
【0050】
図5に示すように、テンタ部50には、本発明のフィルム耳部冷却部に相当し、両クリップカバー67,68内へそれぞれ冷却ガスCを導入する第1冷却ユニット88、第2冷却ユニット89が設けられている。両冷却ユニット88,89は、複数に分岐したガス配管90を介して、両クリップカバー67,68内の複数箇所に接続している。なお、両冷却ユニット88,89は、冷却ガスCを供給する供給先が異なる以外は基本的に同じ構造であるので、以下の説明では第1冷却ユニット88による第1クリップカバー67内への冷却ガスCの導入を例に挙げて説明を行う。
【0051】
図6に示すように、ガス配管90は、第1クリップカバー67の上面及び下面に接続している。これにより、クリップ65の上方及び下方からそれぞれクリップ65に向けて冷却ガスCが吹き付けられる。
【0052】
第1クリップカバー67の外側面には、搬送中のTACフィルム3の中央部3bの付近の温度を検出する第1温度センサ95aが設けられている。また、第1クリップカバー67の内側面には、側縁部3aの付近の温度を検出する第2温度センサ95bが設けられている。各温度センサ95a,95bは、それぞれ温度検出結果を図示しない信号線を介して、第1冷却ユニット88へ出力する。
【0053】
第1冷却ユニット88は、例えば、冷却ガス供給部97とブロア98とCPU99とから構成される。冷却ガス供給部97は、冷却ガスCを貯留するガスタンク97a(例えば、冷却ガスCが窒素の場合には、液体窒素でも可)と、冷却ガスCの温度を調整する温度調節部97bとを備えている。冷却ガス供給部97は、温度調節部97bにより所定の温度に調節された冷却ガスをブロア98へ供給する。ブロア98は、冷却ガス供給部97からの冷却ガスCを、ガス配管90を介して、第1クリップカバー67内へ導入(ガスパージ)する。
【0054】
CPU99は、冷却ガス供給部97及びブロア98の動作を制御する。CPU99は、第1及び第2温度センサ95a,95bから入力される温度検出結果に基づき、TACフィルム3の中央部3b及び両側縁部3aの温度をそれぞれ求めた後、両者の温度差を求める。
【0055】
なお、各温度センサ95a,95bによる温度検出結果と、中央部3b及び側縁部3aの実際の温度との間には「ずれ」が生じるが、各ずれの大きさは、実験等で求めることができる。従って、CPU99は、各温度センサ95a,95bの温度検出結果に対して、実験結果等で得られた補正値に基づいて補正を行うことで、中央部3b及び側縁部3aの温度を正確に検出する。また、各温度センサ95a,95bがそれぞれ複数設けられている場合には、それぞれの温度検出結果の平均値を中央部3b及び側縁部3aの温度として決定する。
【0056】
CPU99は、中央部3b及び両側縁部3aの温度差が10℃を下回っていると判断した場合には、例えば、冷却ガス供給部97及びブロア98を制御して、第1クリップカバー67内へ供給する冷却ガスCのパージ量を増加させると共に、その温度を下げる。逆に、CPU99は、両者の温度差が40℃を上回っていると判断した場合には、冷却ガス供給部97及びブロア98を制御して、第1クリップカバー67内へ供給する冷却ガスCのパージ量を減少またはゼロにする、或いはその温度を上げる。これにより、TACフィルム3の第1レール61側の側縁部3aの温度を中央部3bの温度よりも10℃以上〜40℃以下の範囲で低く保つことができる。
【0057】
また、第2冷却ユニット89も、第1冷却ユニット88と同様にして、第2クリップカバー68内に供給する冷却ガスCのパージ量・温度を調整することで、TACフィルム3の第2レール62側の側縁部3aの温度を中央部3bの温度よりも10℃以上〜40℃以下の範囲で低く保つことができる。
【0058】
以上のように本発明では、TACフィルム3の両側縁部3aを把持したクリップ65の移動経路を両クリップカバー67,68により覆い、更に両クリップカバー67,68内へ冷却ガスCをガスパージすることで、両クリップカバー67,68内への加熱風Hの進入を防ぎつつ、カバー内の温度を下げることができる。その結果、残留揮発分が10%以下のTACフィルム3を175℃以上210℃以下で加熱延伸する際に、両側縁部3aの温度を中央部3bの温度よりも10℃以上40℃以下で低くすることができる。これにより、加熱による両側縁部3aの黄変が防止されるとともに、温度ムラによりTACフィルム3の光学特性にムラが発生することが防止される。
【0059】
上記実施形態では、両冷却ユニット88,89により、両クリップカバー67,68内に冷却ガスCを供給しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、両クリップカバー67,68内の空気を吸引し、吸引した空気を冷却して両クリップカバー67,68内に戻すようにしてもよい。また、一つの冷却ユニットにより、両クリップカバー67,68内に冷却ガスCや冷却風を供給してもよい。
【0060】
なお、両クリップカバー67,68は、クリップ65の移動経路を覆う形状であれば、図3〜図6で示した形状に特に限定はされない。
【0061】
上記実施形態では、加熱延伸処理をオフライン延伸装置17にて行ったが、本発明はこれに限定されるものではなく、溶液製膜設備10のピンテンタ13と乾燥室14と間、或いは乾燥室14と冷却室15との間で、オフライン延伸装置17で行った処理と同様の加熱延伸処理を行ってもよい。また、ピンテンタ13で行う乾燥処理(残留揮発分が10%以下になるまで行う乾燥処理)を、ピンテンタ13とテンタ部50との間の任意のポイントで行ってもよい。
【0062】
上記実施形態では、支持体として流延ドラム23を用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、ローラに架け渡され、ローラの回転によりエンドレスに走行する流延バンドを用いてもよい。
【0063】
上記実施形態では、1種類のドープから流延膜を形成したが、本発明はこれに限られない。上記の溶液製膜方法において、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させることもできる。さらに両共流延を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフィルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0064】
上記実施形態では、ポリマーフィルムとしてセルロースアシレートフィルム(TACフィルム3)を例に挙げて説明を行ったが、セルロースアシレートフィルムの他に溶液製膜方法によって製造されたポリマーフィルムに対し本発明を適用することができる。
【0065】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわちアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBはアシル基の置換度を表わし、置換度Aはアセチル基の置換度、また置換度Bは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
また、本発明に用いられるポリマーはセルロースアシレートに限定されるものではない。
【0066】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0067】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0068】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0069】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0070】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。なお、加熱延伸されるフィルムに含まれる添加剤として使用される物質の中には、高い沸点をもつものがある。このような添加剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート(TTP)やビフェニルジフェニルホスフェート(BDP)等がある。また、セルロースアシレートを用いた溶液製膜方法によるフィルムの製造方法についても、同じく特開2005−104148号の[0517]段落から[0913]段落に詳細に記載されている。これらの記載も本発明にも適用することができる。
【0071】
(環状オレフィン)
環状オレフィンはノルボルネン系化合物から重合されるものが好ましい。この重合は開環重合、付加重合いずれの方法でも行える。付加重合としては例えば特許3517471号公報記載のものや特許3559360号公報、特許3867178号公報、特許3871721号公報、特許3907908号公報、特許3945598号公報、特表2005−527696号公報、特開2006−28993号公報、国際公開第2006/004376号パンフレットに記載のものが挙げられる。特に好ましいのは特許3517471号公報に記載のものである。
【0072】
開環重合としては国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報、特許3220478号公報、特許3273046号公報、特許3404027号公報、特許3428176号公報、特許3687231号公報、特許3873934号公報、特許3912159号公報記載のものが挙げられる。なかでも好ましいのが国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報記載のものである。これらの環状オレフィンの中でも付加重合のものの方がより好ましい。
【0073】
(ラクトン環含有重合体)
下記(一般式1)で表されるラクトン環構造を有するものを指す。
【0074】
【化1】

【0075】
(一般式1)中、R1 、R2 、R3 は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0076】
(一般式1)のラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。
【0077】
(一般式1)で表されるラクトン環構造以外に、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記(一般式2)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
【0078】
【化2】

【0079】
(一般式2)中、R4は水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R5 基、又は−C−O−R6 基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R5 及びR6 は水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。
【0080】
例えば、国際公開第2006/025445号パンフレット、特開2007−70607号公報、特開2007−63541号公報、特開2006−171464号公報、特開2005−162835号公報記載のものを用いることができる。
【0081】
(溶融製膜方法で用いるポリマー)
溶融製膜方法に用いることのできるポリマーは、熱可塑性樹脂であれば特に限定されない。例えば、セルロースアシレート、ラクトン環含有重合体、環状オレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状オレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状オレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状オレフィンである。
【実施例】
【0082】
以下、本発明について行なった実施例及び比較例を具体的に説明する。
【0083】
実施例1では、図1に示す溶液製膜設備10で製膜されたTACフィルム3を、図2に示すオフライン延伸装置17にて加熱延伸した。下記表1に示すように、溶液製膜設備10のピンテンタ13でTACフィルム3を、その残留揮発分が9wt%になるまで乾燥した。
【0084】
オフライン延伸装置17では、両クリップカバー67,68を有するテンタ部50(図2〜図6参照)にて、TACフィルム3を加熱延伸した。この際に、TACフィルム3の中央部3bの膜面温度は190℃に調整し、両側縁部3aの温度は中央部3bよりも20℃低い170℃に調整した。次いで、耳部回収装置56によりTACフィルム3の両側縁部3aを切り離し、この両側縁部3a(耳部)をクラッシャ57により粉砕してチップにした。そして、このチップを再度溶剤に溶解させたものをドープ20の原料とした。
【0085】
このようなリサイクル原料からなるドープ20を用い、溶液製膜設備10及びオフライン延伸装置17にてTACフィルム3を製造した。そして、リサイクル原料を30%以上使用してもTACフィルム3が黄変しない場合には「○」、リサイクル原料の使用が30%未満であれば黄変しない場合には「△」、リサイクル原料の使用が30%未満であってもTACフィルム3が黄変した場合には「×」と評価した。なお、TACフィルム3が黄変しているか否かの判定は、リサイクル原料を使用していないドープ20で製造されたTACフィルム3の色を基準として目視にて判定した。
【0086】
実施例1では、リサイクル原料を30%以上使用してもTACフィルム3が黄変しないことが確認された。
【0087】
[実施例2]
加熱延伸処理時に、TACフィルム3の中央部3bの膜面温度を175℃に調整し、両側縁部3aの温度を中央部3bよりも10℃低い165℃に調整した以外は、実施例1と同じ条件とした。リサイクル原料を30%以上使用してもTACフィルム3が黄変しないことが確認された。
【0088】
[実施例3]
加熱延伸処理時に、TACフィルム3の中央部3bの膜面温度を210℃に調整し、両側縁部3aの温度を中央部3bよりも40℃低い170℃に調整した以外は、実施例1と同じ条件とした。リサイクル原料を30%以上使用してもTACフィルム3が黄変しないことが確認された。
【0089】
[比較例1]
両クリップカバー67,68を取り外したテンタ部にて加熱延伸処理を行い、TACフィルム3の中央部3b及び両側縁部3aの温度を共に190℃に調整した以外は、実施例1と同じ条件とした。リサイクル原料の使用が30%未満であってもTACフィルム3が黄変した。
【0090】
[比較例2]
TACフィルム3の中央部3b及び両側縁部3aの温度を共に175℃に調整した以外は、比較例1と同じ条件とした。リサイクル原料の使用が30%以上でTACフィルム3が黄変した。
【0091】
[比較例3]
TACフィルム3の中央部3b及び両側縁部3aの温度を共に210℃に調整した以外は、比較例1と同じ条件とした。リサイクル原料の使用が30%未満であってもTACフィルム3が黄変した。
【0092】
[比較例4]
TACフィルム3の中央部3bの膜面温度を210℃に調整し、両側縁部3aの温度は中央部3bよりも45℃低い165℃に調整した以外は、実施例1と同じ条件とした。リサイクル原料を30%以上使用してもTACフィルム3の黄変は発生しなかったが、中央部3bと両側縁部3aとの温度差が大きすぎるため、製品となる部分(中央部3b)に温度分布が生じ、光学特性のムラが発生した。
【0093】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】溶液製膜設備の概略図である。
【図2】オンライン延伸装置の概略図である。
【図3】テンタ部を上方から見た概略図である。
【図4】図3中のIV−IV線に沿う断面図である。
【図5】第1及び第2冷却ユニットを説明するための説明図である。
【図6】第1クリップカバーとガス配管及び吸引配管との接続箇所の断面図である。
【符号の説明】
【0095】
3 TACフィルム
3a 両側縁部
3b 中央部
10 溶液製膜設備
13 ピンテンタ
17 オフライン延伸装置
50 テンタ部
65 クリップ
66 送風部
67 第1クリップカバー
68 第2クリップカバー
88 第1冷却ユニット
89 第2冷却ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの両側縁部を把持しながら前記フィルムの走行方向に移動し、該フィルムを幅方向に延伸する複数のクリップを有するテンタ本体、
前記クリップで把持されたフィルムに対し加熱風を吹き付ける送風部、
前記テンタ本体及び送風部が配置されるテンタ室、
前記テンタ室内で前記フィルムを把持した複数のクリップの移動経路を覆うように配置され、前記クリップにより把持された前記フィルムの両側縁部の温度を前記フィルムの幅方向中央部よりも10℃以上40℃以下の範囲で低く保つクリップカバーを有するテンタ装置と、
前記テンタ室を出たフィルムの耳部をフィルム走行方向で切断し、リサイクル用のポリマー原料として回収する耳部回収装置と
を備えることを特徴とするフィルム延伸設備。
【請求項2】
前記テンタ装置は、前記クリップカバー内に冷却ガスを導入してガスパージするフィルム耳部冷却部を有することを特徴とする請求項1記載のフィルム延伸設備。
【請求項3】
前記フィルムがセルロースアシレートと溶媒とからなるドープを走行する支持体上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜が自己支持性を有した後に前記支持体から軟膜として剥ぎ取り、乾燥させてなるセルロースアシレートフィルムであり、前記送風部による前記フィルムの幅方向中央部の温度が175℃以上210℃以下であることを特徴とする請求項1または2記載のフィルム延伸設備。
【請求項4】
ポリマー及び溶媒を含むドープを走行する支持体上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜が自己支持性を有した後に前記支持体から軟膜として剥ぎ取り乾燥し、ポリマーフィルムを製造する工程と、
前記製造したポリマーフィルムの両側縁部を複数のクリップにより把持しながら該フィルムを加熱し、幅方向に延伸する延伸工程と、
前記テンタ室内で前記フィルムを把持した複数のクリップの移動経路をクリップカバーにより覆い、前記クリップにより把持された前記フィルムの両側縁部の温度を前記フィルムの幅方向中央部よりも10℃以上40℃以下の範囲で低く保つフィルム耳部冷却部工程と、
前記フィルムの耳部をフィルム走行方向で切断し、リサイクル用のポリマー原料として回収する耳部回収工程とを有することを特徴とするフィルム延伸方法。
【請求項5】
フィルム耳部冷却部工程では、前記クリップカバー内に冷却ガスを導入してガスパージを行うことを特徴とする請求項4記載のフィルム延伸方法。
【請求項6】
前記ポリマーはセルロースアシレートであり、前記フィルムの幅方向中央部の温度が175℃以上210℃以下であることを特徴とする請求項4または5記載のフィルム延伸方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−82986(P2010−82986A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254602(P2008−254602)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】