説明

フィルム洗浄装置

【課題】洗浄水の水流により微細な異物(埃)を効果的に除去することができる、フィルム洗浄装置を提供する。
【解決手段】1または2枚の供給部材と、前記供給部材に形成され供給部材に平行に走行するフィルムの表裏面の少なくとも一方の面に対して洗浄液を吹付ける洗浄液吐出口を備え、前記洗浄液吐出口を、走行するフィルムの面に対して複数方向の洗浄液の流れを形成するように構成した。前記洗浄液吐出口を、走行するフィルムに対してV字状に構成するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムなどの表面に付着した、埃、汚れを液体で洗浄するフィルム洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムは、FPD(Flat Panel Display)分野、エレクトロニクス分野、光学用分野等、様々な分野で使用されている。FPD分野、エレクトロニクス分野に使用されるプラスチックフィルムは、製膜、塗工、貼合などの工程を経て、部材やプロセス材として使用される。その製造工程は、終始クリーン環境下での取り扱いが必須であり、埃、繊維、フィルム粕などの異物の製品への混入や付着、及びそれらに起因するキズ、押し跡などの物理的欠陥の発生は厳重に管理されている。そして、これらの欠陥の発生に対する市場の要求基準は急速に厳しくなってきている。また、欠陥の程度についても、従来問題とされなかった非常に微細な欠陥が許容されなくなってきており、改善が求められている。
【0003】
このような問題を解消するため、近年ではプラスチックフィルムを洗浄することにより、塵埃を除去する取組みが行われている。洗浄手段としてフィルムに沿った水流の速度勾配によってフィルム上の塵埃を除去している。
【0004】
特許文献1には、供給部材とフィルムに対して洗浄液を供給する洗浄液吐出口とを備えた洗浄ノズル装置で、フィルムを走行させながら洗浄することにより、供給部材とフィルムとの隙間で大きな速度勾配を持つフィルムの表面に沿った水流によって、数μmという非常に微細な埃、フィルム片、汚れをフィルムから除去する構成が示されている。洗浄液吐出口から供給されてフィルムに対し平行な水流が形成される洗浄液は、次式(富樫他,機械学会)で表される水平方向の力で異物に作用して異物を除去し、フィルムへのダメージを抑えた状態で効果的に異物を除去できる。上式から異物への作用力は異物の直径dの二乗に比例する。
【0005】
【数1】

【0006】
Fdet:異物に働く力、d:異物の直径、u:水流の速度、η:水の粘性係数、c:補正係数
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−94618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では洗浄液の水流がフィルムの走行方向と平行な一方向(フィルム走行の前後方向を一方向とする)のみであるが、異物の付着した向きと、水流の方向によっては水流の作用力が小さくなり、効果的な除去ができない場合がある。
【0009】
図1に示すように、洗浄対象とする数μmの微細な異物(埃)2が、種々の方向を向いてフィルム上に付着している場合を想定する。異物2a、2b、2dは、長さL1の長辺と長さL2の短辺からなる同一長方形で、付着方向が異なっている。2cは直径L3の球形を呈している。異物2aは、長辺がフィルムの進行方向に対して直交するように付着し、異物2bは、短辺がフィルムの進行方向に対して直交するように付着している。異物2dは、長辺がフィルムの進行方向に対して斜めに交差するように付着している。
【0010】
洗浄液の水流の向きを矢印eの一方向とすると、異物2aは水流が長辺に直角に作用するので、最も大きな作用力を受け、異物2bは水流が短辺に直角に作用するので、最も小さな作用力を受ける。異物2dは水流が長辺と短辺に斜めに作用するので、中程度の作用力を受ける。
【0011】
各異物2a、2b、2dの付着力を同じとすると、異物2aは大きな作用力で除去され易いが、異物2bは作用力が小さいため除去できない場合がある。このように、一方向のみの水流では、異物を効果的に除去できないという問題があった。
【0012】
本発明は、上記従来の欠点に鑑み、異物を洗浄水により効果的に除去するフィルム洗浄装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため本発明は、1または2枚の供給部材と、前記供給部材に形成された洗浄液吐出口であって、前記供給部材に平行に走行するフィルムの表裏面の少なくとも一方の面に対して洗浄液を吹付ける洗浄液吐出口を備えたフィルム洗浄装置において、
前記洗浄液吐出口は、走行するフィルムの面に沿って複数方向の洗浄液の流れを形成するように構成されたことを特徴とする。
【0014】
また、上記に記載のフィルム洗浄装置において、前記洗浄液吐出口は走行するフィルムに対してV字状に構成されたことを特徴とする。
【0015】
また、上記に記載のフィルム洗浄装置において、前記洗浄液吐出口はV字状の頂点がフィルムの進行方向を向くように構成されたことを特徴とする。
【0016】
また、上記に記載のフィルム洗浄装置において、前記洗浄液吐出口は前記供給部材に複数個配置されたことを特徴とする。
【0017】
また、上記に記載のフィルム洗浄装置において、前記供給部材に洗浄液を吸込む洗浄液吸込み口が複数設けられ、前記洗浄液吐出口と洗浄液吸込み口とは千鳥配置されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、洗浄液吐出口から複数方向の流れを形成することにより、異物を効果的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】フィルムへの異物付着の概念図である。
【図2】本発明実施例を組み込んだフィルム塗布装置の構成図。
【図3】本発明実施例1のフィルム洗浄装置の要部の構成説明図。
【図4】同じくフィルム洗浄装置の動作説明図。
【図5】本発明実施例2のフィルム洗浄装置の動作説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図2は、本発明実施例を組み込んだフィルム塗布装置の概略側面図である。図2において、フィルム塗布装置40内には、プラスチックフィルムロールの巻出部42、フィルム洗浄装置36、乾燥部38、塗工部44、乾燥部(塗工後の乾燥部)46、巻取部48が順に配置されている。前記巻出部42より順次巻き出されたシート状のプラスチックフィルム12は、搬送ローラ14、16を経由してフィルムの洗浄システム10に搬送される。
【0021】
図2のフィルムの塗布装置40は、走行するフィルム12を洗浄するフィルム洗浄装置36と、洗浄したフィルムの乾燥を行う乾燥部38とを備えている。ここで、フィルム洗浄装置36は2段、乾燥部38が1段である例を示しているがこの限りでなく、例えば、フィルム洗浄装置36が3段、乾燥部38が2段であっても良い。なお、フィルム洗浄装置36と乾燥部38との全体を覆う全体カバー50が設けられていることが好ましい。
【0022】
本発明実施例における洗浄対象は、プラスチックフィルムの表面に付着した数μmという非常に微細な埃、フィルム片、汚れである。
【0023】
そして、本発明実施例に係るフィルム洗浄装置36は、フィルムを走行させながら、フィルム表裏面の少なくとも一方の面側に供給された洗浄液による一方の面に沿った水流で洗浄する構造であり、洗浄液は絶えず供給されている。
【0024】
(実施例1)
図3は、本発明に係るフィルム洗浄装置36の実施例1を示したものである。図3(a)は要部の斜視図であり、図3(b)は図3(a)の下方の供給部材の洗浄液の流れを説明した斜視図である。図3のフィルム洗浄装置は、フィルム1の両面を洗浄する構成を示している。
【0025】
フィルム洗浄装置は、離間して配置される2枚の供給部材3、5の間に、フィルム1が平行に走行するように構成される。供給部材3、5には、それぞれ、フィルム1の表裏両面に対して垂直に洗浄液を吹付ける洗浄液吐出口4、6が一対設けられる。洗浄液吐出口4、6は、走行するフィルム1に対して連続した開口でV字状に形成される。V字状の頂点4eは、所定角度αの尖った形状となるが、フィルムの進行方向を向くように形成される。V字状の頂点4eをフィルムの進行方向を向けることにより、走行するフィルム1への頂点4eの引っ掛かかりを防止している。また、洗浄液吐出口4、6のV字状の各辺の開口は、フィルムの進行方向に対して傾斜して配置される。供給部材3、4とフィルム1との隙間は、0.25mm以下の幅が好ましい。
【0026】
図3はフィルム洗浄装置の要部として、供給部材3、5と洗浄液吐出口4、6を簡易化して示している。実際には、供給部材3、5に洗浄液を供給する供給路が接続され、この供給路は、洗浄液吐出口のV字状開口から均一に洗浄液が流出するのに適した形状に形成されている。また、フィルムに吹出された洗浄液は、除去された異物と共にフィルムの進行の前後方向に流出するが、これを案内する流出路が設けられ、外部に排出される。
【0027】
上記構成において、洗浄液は、供給部材3では洗浄液吐出口4を通じて表面から裏面に流れ、供給部材5では洗浄液吐出口6を通じて裏面から表面に流れる。洗浄液は、洗浄液吐出口4、6のV字状を構成する2辺の開口からフィルム1に吹出される。図3(B)は、供給部材5の洗浄液吐出口6から吹出された洗浄液の流出状況を示している。吐出口6から吹出された洗浄液は、V字状を構成する各辺の開口から両側に垂直な矢印6a、6bと6c、6dの2方向にフィルム1の面に沿って流出する。その後は、両水流が合流してフィルム1の走行に沿った前後方向の矢印8方向に流れる。したがって、フィルム1の表面には3方向(矢印6a、6b、矢印6c、6d、矢印8)の水流が流れることになる。
【0028】
図4は両洗浄液吐出口4、6と、吐出口から流出した洗浄液の流れの説明図であり、図4(A)は側面図で両洗浄液吐出口4、6を断面で示し、図4(B)では平面図で洗浄液吐出口4を上面から示している。
【0029】
図4(B)において、前記吐出口6と同様に、吐出口4から吹出された洗浄液は、V字状を構成する各辺の開口から両側に垂直な矢印4a〜4d方向にフィルム1の面に沿って流出し、その後、両水流が合流してフィルム1の走行に沿った前後方向の矢印7方向に流れる。従って、吐出口4から流出した洗浄液は、フィルム1に沿って矢印4a〜4d、7の3方向(矢印4a、4b、矢印4c、4d)に流れることになる。
【0030】
前記吐出口4、6からの3方向の水流によれば、図1に示されるように、フィルム1の両面に異なる方向に付着したゴミは、その長辺が上記3方向の水流と直交する機会、および直交に近い角度で交差する機会が増加し、効率的に除去される。
【0031】
なお、上記洗浄液吐出口4、6は複数対設けても良く、この場合付着ゴミの除去はより確実となる。
【0032】
(実施例2)
図5は、本発明実施例2を示したものであり、洗浄液吐出口、洗浄液吸込み口および洗浄液の流れを模擬的に示している。
【0033】
9は洗浄液吐出口で、11は洗浄液吸込み口であり、共に図3の供給部材3と5にそれぞれ設けられている。吐出口9と吸込み口11はマトリックス状に多数配置され、吐出口9または吸込み口11を個別的にみれば、千鳥配置されている。全体として互いに千鳥配置されている。吐出口9から流出した洗浄液は、フィルム1に当たった後、吸込み口11に吸込まれるようにフィルムに沿って流れる。具体的には、図5に示すように各吐出口9から吸込み口11に向かう矢印9a〜9dで示す2方向(矢印9a、9b、矢印9c、9d)に流れる。説明を分かり易くするため、吐出口9を星型に、吸込み口11を円形に図示しているが、両者同一形状でも良く別な他の形状でも良い。
【0034】
吐出口9から流出した洗浄液で吸込み口11に吸込まれなかったものは、合流してフィルム1の進行方向に沿った前後の矢印7で示す方向に流れる。従って、吐出口9から流出した洗浄液は、フィルム1に沿って矢印9a〜9d、7の3方向に流れることになる。図1に示されるような、フィルム1の裏面に異なる方向に付着したゴミは、その長辺が上記3方向の水流に直交または直交に近い角度で捉えられる機会が増加し、効果的に除去される。また、フィルム1の進行に際し、千鳥配置された吐出口9と吸込み口11が繰り返し通過するので、洗浄液の水流方向が繰り返し変化して異物に振動的な圧力を与えることになり、より効果的に異物を除去できる。
【0035】
実施例2の変形例として、供給部材3、5に上記吐出口9と吸込み口11とを全て吐出口として構成しても良い。この場合、複数の吐出口からフィルム1に吹出された洗浄水はランダムな方向に流れ、最終的に合流して矢印7の方向に流れる。この場合においても、図1に示されるようにフィルム1に異なる方向に付着したゴミは、その長辺が上記ランダムな方向と矢印7の方向の複数方向の水流により捉えられる機会が増加し、効果的に除去される。
【符号の説明】
【0036】
1、12…フィルム、2(2a〜2d)…異物、3、5…供給部材、4、6、9…洗浄液吐出口、4e…V字状の頂点、11…洗浄液吸込み口、4a〜4d、6a〜6d、7、8…複数方向の洗浄液の流れ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液を供給する供給部材と、前記供給部材に形成され、前記供給部材に平行に走行するフィルムの表裏面の少なくとも一方の面に対して洗浄液を吹付ける洗浄液吐出口を備えたフィルム洗浄装置において、
前記洗浄液吐出口は、走行するフィルムの面に沿って複数方向の洗浄液の流れを形成するように構成されたことを特徴とするフィルム洗浄装置。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルム洗浄装置において、前記洗浄液吐出口は走行するフィルムに対してV字状に構成されたことを特徴とするフィルム洗浄装置。
【請求項3】
請求項2に記載のフィルム洗浄装置において、前記洗浄液吐出口はV字状の頂点がフィルムの進行方向を向くように構成されたことを特徴とするフィルム洗浄装置。
【請求項4】
請求項1に記載のフィルム洗浄装置において、前記洗浄液吐出口は前記供給部材に複数個配置されたことを特徴とするフィルム洗浄装置。
【請求項5】
請求項4に記載のフィルム洗浄装置において、前記供給部材に洗浄液を吸込む洗浄液吸込み口が複数設けられ、前記洗浄液吐出口と洗浄液吸込み口とは千鳥配置されたことを特徴とするフィルム洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−55854(P2012−55854A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203022(P2010−203022)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】