説明

フィルム状基板およびフィルム状基板の製造方法

【課題】ガスバリア性に優れたフィルム状基板の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】第1に、フィルム状基板の基材となるフレキシブルフィルム11を準備する。第2に、フレキシブルフィルム11の上に封止層12を形成する。第3に、封止層12の表面上をエッチングすることで、封止層12の表面にヒドロキシル基(結合基)を生成する。第4に、封止層12の表面上の結合基と自己組織化膜形成分子の反応基とを結合反応させることで、封止層12上に自己組織化膜13を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状基板およびフィルム状基板の製造方法に関し、特にガスバリア性に優れたフィルム状基板およびフィルム状基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルフィルムを基材として用いたフィルム状基板は、ガラス基板と比較して、軽量、薄型、耐衝撃性に優れるといった特長がある。このため、フィルム状基板を、携帯型情報端末等のディスプレイの基板として用いることが、近年検討されている。
しかしその一方で、フィルム状基板を構成するフレキシブルフィルムは、ガラス基板と比較してガスバリア性が劣る。そのため、ディスプレイが使用状態に置かれると、フレキシブルフィルム上に形成された表示素子が、フレキシブルフィルムを介して浸入してきた水分や酸素に触れることで、経時的に劣化するおそれがある。表示素子の劣化は、ディスプレイの表示領域における非発光部(ダークスポット)の発生や輝度低下等の原因となる。
【0003】
この問題に対処するため、フレキシブルフィルムの上に無機薄膜等からなる封止層を設けたフィルム状基板が検討されている。このようなフィルム状基板の上に表示素子を形成することで、使用環境中に含まれる水分や酸素が、フレキシブルフィルムを介して表示素子に浸入することを抑制することができる。
また特許文献1には、フレキシブルフィルム上に設けた封止層の表面上に、CVD法を用いて自己組織化膜を形成することにより、フィルム状基板のガスバリア性を高める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−276110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1をはじめとして、フィルム状基板のガスバリア性を向上させるための様々な技術が提案されているものの、十分なガスバリア性が得られていない。
例えば、一般に有機ELディスプレイの基板に求められる水蒸気透過率は、10−5[g/m/day]以下とされるのに対して、特許文献1にかかるフィルム状基板の水蒸気透過率は、37.8℃、100%Rhの条件下で、0.42[g/m/day]である(特許文献1参照)。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、ガスバリア性に優れたフィルム状基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一態様であるフィルム状基板の製造方法は、基材の上に、封止層および自己組織化膜を設けたフィルム状基板の製造方法であって、基材を準備する第1工程と、前記基材上に封止層を形成する第2工程と、前記封止層の表面に対しエッチングを施すことで、前記封止層の表面に結合基を生成する第3工程と、前記封止層の結合基と自己組織化膜形成分子の反応基とを結合反応させることで、前記封止層上に自己組織化膜を形成する第4工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
従来のフィルム状基板が、十分なガスバリア性が得られない原因として、封止層のナノレベルの欠損の充填が不十分であることが挙げられる。
本発明の一態様であるフィルム状基板の製造方法によれば、封止層上に自己組織化膜を形成する前に、封止層の表面に対してエッチングを施す。これにより、封止層の表面に結合基が高密度に形成される。
【0009】
自己組織化膜の形成工程において、自己組織化分子との結合サイトとして機能する結合基が、封止層表面に高密度に存在するので、封止層表面に高密度な自己組織化膜を形成することができる。封止層表面の高密度な自己組織化膜により封止層のナノレベルの欠損が充填されるため、ガスバリア性に優れたフィルム状基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)フィルム状基板10の構成を示す部分断面図と、(b)封止層12と自己組織化膜13との界面付近の模式部分拡大図である。
【図2】封止層12の欠損の充填を模式的に示す図である。
【図3】フィルム状基板10の製造工程例を示す図である。
【図4】カルシウムテストに用いた実験用フィルム状基板の構造を示す模式断面図である。
【図5】カルシウムテストの結果を示す図である。
【図6】フィルム状基板10に形成した発光装置の一例の構造を示す断面図である。
【図7】フィルム状基板10に形成した発光装置の一例の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪本発明の一態様の概要≫
本発明の一態様であるフィルム状基板の製造方法は、基材の上に、封止層および自己組織化膜を設けたフィルム状基板の製造方法であって、基材を準備する第1工程と、前記基材上に封止層を形成する第2工程と、前記封止層の表面に対しエッチングを施すことで、前記封止層の表面に結合基を生成する第3工程と、前記封止層の結合基と自己組織化膜形成分子の反応基とを結合反応させることで、前記封止層上に自己組織化膜を形成する第4工程と、を含む。
【0012】
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、前記エッチングは、ウェットエッチングである。
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、前記ウェットエッチングは、エッチング溶液に酸を用いる。
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、前記酸は、フッ酸である。
【0013】
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、前記エッチングは、ドライエッチングである。
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、前記ドライエッチングは、反応性ガスエッチングである。
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、前記ドライエッチングは、反応性イオンエッチングである。
【0014】
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、前記フィルム状基板の製造方法は、さらに、前記第3工程と前記第4工程の間に、前記封止層を洗浄する工程を含む。
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、前記フィルム状基板の製造方法は、さらに、前記第3工程と前記第4工程の間に、前記封止層を酸素雰囲気中に晒す工程を含む。
【0015】
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、前記封止層の結合基は、ヒドロキシル基である。
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、前記封止層は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、または酸化ケイ素と窒化ケイ素の混合物を含む。
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、前記自己組織化形成分子の反応基は、ハロゲン、−OR基(Rはアルキル基またはアリール基である)、N−C結合、N=C結合、N=N結合、またはN−H結合の少なくとも1つを有する官能基である。
【0016】
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、前記自己組織化膜形成分子は、少なくとも1つのアルキル基またはアリール基が付加したケイ素原子を有する。
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、前記自己組織化膜形成分子は、ヘキサメチルジシラザンである。
【0017】
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、前記自己組織化膜は、少なくとも1つのアルキル基またはアリール基が付加したケイ素原子と、前記封止層に含まれる原子と共有結合した酸素原子と、で構成されるシロキシ基を含む。
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、前記シロキシ基は、トリメチルシロキシ基である。
【0018】
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板は、基材の上に、封止層および自己組織化膜を設けたフィルム状基板であって、基材と、前記基材上に形成された封止層と、前記封止層の表面に存在する結合基と自己組織化膜形成分子の反応基とが結合して形成される自己組織化膜と、を含む。
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の特定の局面では、前記封止層は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、または酸化ケイ素と窒化ケイ素の混合物を含む。
【0019】
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の特定の局面では、前記自己組織化膜は、少なくとも1つのアルキル基またはアリール基が付加したケイ素原子と、前記封止層に含まれる原子と共有結合した酸素原子と、で構成されるシロキシ基を含む。
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の特定の局面では、前記シロキシ基は、トリメチルシロキシ基である。
【0020】
≪実施の態様≫
(実施の形態1)
[フィルム状基板の構成]
まず、実施の形態1にかかるフィルム状基板の構成について説明する。図1(a)は、フィルム状基板10の構成を示す部分断面図である。フィルム状基板10は、フレキシブルフィルム11、フレキシブルフィルム11の上に形成された封止層12、封止層12の上に形成された自己組織化膜13を備える。以下では、各構成について説明をする。
【0021】
<フレキシブルフィルム11>
フレキシブルフィルム11は、フレキシブル性を有する絶縁体膜であり、フィルム状基板10の基材となる。本実施の形態では、フレキシブルフィルム11は、ポリイミド系樹脂で構成されている。
なお、ポリイミド系樹脂の他に、ポリエチレン2,6−ナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂、等の材料で、フレキシブルフィルム11を形成してもよい。
【0022】
<封止層12>
封止層12は、酸化ケイ素からなる薄膜であり、フィルム状基板のガスバリア性を高める目的で設けられる。
ここで、封止層12の膜圧は、ガスバリア性の観点からは厚いほうが好ましい。一方、透明性、フレキシブル性の観点からは、薄いほうが好ましい。これらの兼ね合いから、封止層12の膜圧は、100〜2000[nm]の範囲内であることが好ましい。
【0023】
なお、封止層12は、酸化ケイ素に限られず、フレキシブル性を持たせるために薄くしてもガスバリア性を有する無機化合物からなる薄膜であればよい。このような封止層に用いることができる無機化合物としては、酸化ケイ素の他に、窒化ケイ素、酸化ケイ素および窒化ケイ素の混合物、酸化アルミニウムの混合物等がある。
<自己組織化膜13>
自己組織化膜13は、封止層12の欠損を充填する目的で設けられている。
【0024】
ここで、自己組織化膜とは、皮膜対象の物体の表面に存在する原子(結合基)と結合可能な官能基(反応基)を有する化合物を、皮膜対象の物体と共存させることにより、反応基が皮膜対象の物体表面の原子と結合し形成される分子会合体をいう。皮膜対象の物体の表面に存在する原子が、結合サイトとして機能し、反応基を有する化合物と化学吸着を起こすことにより、分子が緻密に集合した分子膜が形成される。皮膜対象の物体に吸着した反応基とは反対側にある官能基によって、皮膜対象の物体表面を覆うことにより、基板に物理的、化学的機能を付加することができる。本実施の形態では、シロキシ基からなる自己組織化膜を形成することにより、基板のガスバリア性を高めている。
【0025】
また、このような皮膜対象の物体の表面に存在する原子(結合基)と結合可能な官能基(反応基)を有する化合物を、自己組織化膜形成分子と呼ぶ。
以下では、図面を参照しながら、自己組織化膜13の詳細について説明する。図1(b)は、封止層12と自己組織化膜13との界面付近の模式部分拡大図である。図1(b)に示すように、自己組織化膜13は、メチル基が3つ付加したケイ素原子(Si原子)14と、封止層12に含まれる原子と共有結合した酸素原子(O原子)15とで構成されるシロキシ基16を含む。すなわち、本実施の形態におけるシロキシ基16は、トリメチルシロキシ基である。
【0026】
フィルム状基板の製造方法の説明の項で述べるように、封止層12の表面に高密度に存在するヒドロキシル基と、自己組織化膜形成分子の官能基が結合することで、自己組織化膜13は形成される。この自己組織化膜13により、封止層12のナノレベルの欠損を充填する。
図2は、封止層12の欠損の充填を模式的に示す図である。図2(a)は、フレキシブルフィルム11の上に、封止層12を形成したフィルム状基板を示す。このように、封止層12には、クラック等のナノレベルの欠損が存在する。一方、図2(b)は、封止層12の表面に高密度に存在するヒドロキシル基と、自己組織化膜形成分子の官能基とを結合させることにより、封止層12上に自己組織化膜13を形成したフィルム状基板を示す。本図に模式的に示されるように、封止層12に存在するクラック等の欠損をシロキシ基からなる自己組織化膜で覆うことにより、封止層12に存在する欠損を充填し、基板のガスバリア性を高めている。
【0027】
ここで、自己組織化膜13は、シロキシ基16を有する化合物の単分子膜の厚さ以上、10[nm]の厚さ以下であることが望ましい。「シロキシ基16を有する化合物」とは、シロキシ基の酸素原子15から、ケイ素原子14に付加した官能基までの部分17を指す。フィルム状基板10を、発光素子を形成する基板として用い、かつ、発光素子から出射した光をフレキシブルフィルム11側から取り出す場合、出射光が自己組織化膜13で吸収されるおそれがある。しかしながら、自己組織化膜13を上記のような膜厚にすることにより、自己組織化膜13において出射光が吸収されることを抑制し、光取り出し効率の低下を防止することが可能である。
【0028】
なお、図1(b)に示す例では、自己組織化膜13は、メチル基が3つ付加したケイ素原子を含むトリメチルシロキシ基からなるとしたが、これに限られない。自己組織化膜13は、少なくとも1つのアルキル基またはアリール基(アルキル基、アリール基の炭素に結合する原子には、ハロゲン、水素、窒素なども含む。)が付加したケイ素原子を含むシロキシ基からなるものであればよい。アルキル基またはアリール基により、封止層12の表面を覆うことにより、封止層12に生じているナノレベルの欠損を充填することができる。
【0029】
[フィルム状基板の製造方法]
次に、フィルム状基板10の製造方法について説明する。フィルム状基板10の製造方法は、以下の工程からなる。
(1)フレキシブルフィルムの製造工程
(2)封止層の形成工程
(3)エッチング工程
(4)自己組織化膜形成工程
図3は、フィルム状基板10の製造方法の一例を示す図である。以下では、図3を参照しながら、各工程について説明する。
【0030】
<1.フレキシブルフィルムの製造工程>
図3(a)に示されるように、まず、フレキシブルフィルム11を準備する。フレキシブルフィルム11は、インフレーション法、Tダイ法、流延法等の公知の一般的方法により製造することができる。例えばインフレーション法では、材料となる樹脂を押出し機で溶融後、環状ダイから押し出し急冷することによりフレキシブルフィルムを製造する。
【0031】
<2.封止層の形成工程>
次に、フレキシブルフィルム11の上に、酸化ケイ素からなる封止層12を形成する。具体的には、フレキシブルフィルム11を、1.0×10−4[Pa]以下に減圧したチャンバー内に載置し、容量結合型プラズマCVDにより、フレキシブルフィルム状に窒化ケイ素膜を形成する。
【0032】
なお、酸化ケイ素の他に、窒化ケイ素、酸化ケイ素および窒化ケイ素の混合物、酸化アルミニウムの混合物等を用いて封止層12を形成してもよい。
<3.エッチング工程>
次に、図3(b)に示されるように、封止層12の表面をフッ酸溶液に曝すことにより、前記封止層12表面をエッチングする。このとき、エッチング溶液により封止層12表面のSi−N結合、Si−H結合、N−H結合が切断され、ダングリングボンドが生成する。ダングリングボンドは、フッ酸溶液もしくは空気中に含まれる水および酸素と反応する。その結果、図3(c)に示されるように、封止層12表面には高密度にヒドロキシル基が形成される。
【0033】
このように、封止層表面をウェットエッチングすることにより、封止層表面の分子構造にかかわらず、高密度にヒドロキシル基を形成することができる。
また、封止層表面をウェットエッチングすることにより、封止層の形成工程で生じた封止層表面上の残渣を除去することができる。
CVDはパーティクル(残渣)が発生しやすいという短所がある。封止層表面に存在する残渣は、フィルム状基板のガスバリア性、透明性、フレキシブル性に影響を及ぼす。本実施の形態では、自己組織化膜を形成する前に、封止層の表面をウェットエッチングすることにより、残渣を低減し、安定した歩留りを実現している。
【0034】
また、本実施の形態にかかるフィルム状基板の製造方法においては、自己組織化膜形成工程の前に、封止層表面をエッチングし、結合サイトとして機能するヒドロキシル基を封止層表面上に生成するので、封止層の材料が酸化ケイ素などの表面にヒドロキシル基を有する金属酸化物に限定されないという利点がある。
なお、上記の説明では、エッチング溶液にフッ酸溶液を用いるとしたがこれに限られない。エッチング溶液には、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化ケイ素及び窒化ケイ素の混合物、又は酸化アルミニウムのエッチャントとして機能する公知の溶液を用いることができる。封止層12が、酸化ケイ素、酸化窒素、または酸化ケイ素および窒化ケイ素の混合物からなる場合、フッ酸、フッ硝酸、リン酸等をエッチング溶液に用いることができる。また、封止層12が酸化アルミニウムからなる場合、フッ硝酸をエッチング溶液に用いることができる。
【0035】
<4.自己組織化膜形成工程>
次に、図3(d)に示されるように、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)18を、封止層12の表面上のヒドロキシル基と反応させる。具体的には、エッチング処理を施した封止層12を、常圧チャンバー内に載置する。そして、チャンバー内に気体状にしたヘキサメチルジシラザン(HMDS)18を導入する。
【0036】
チャンバー内では、ヘキサメチルジシラザンのイミノ基(=NH基)が反応基として、封止層12の表面上のヒドロキシル基と結合反応する。これにより、図3(e)に示されるように、封止層12上に、メチル基が3つ付加したケイ素原子14と、封止層12に含まれる原子と共有結合した酸素原子15とで構成されるトリメチルシロキシ基からなる自己組織化膜13が形成される。
【0037】
自己組織化膜形成工程の前に、封止層表面をウェットエッチングしているので、封止層表面には高密度にヒドロキシル基が存在する。ヘキサメチルジシラザンの結合サイトとして機能するヒドロキシル基が高密度に存在するため、トリメチルシロキシ基が、封止層12上に高密度に形成され、封止層12に生じているナノレベルの欠損を充填することができる。その結果、フィルム状基板10のガスバリア性は向上する。
【0038】
また、本実施の形態では、自己組織化分子との結合サイトとして機能する結合基が封止層表面に高密度に存在するので、常圧環境下で、エッチング処理を施した基板および気化したヘキサメチルジシラザンを放置すれば、封止層の表面上に高密度に形成されたヒドロキシル基とヘキサメチルラザンの反応基が結合反応し、自己組織化膜が形成される。結合反応を起こさせるために熱、プラズマ、光等によりエネルギーを与える必要が無く、装置構成を簡略化することができ、製造コストを抑えることができる。
【0039】
なお、上記の例では、自己組織化膜形成分子としてヘキサメチルジシラザンを用いたが、これに限られない。自己組織化膜形成分子として、R−Si−X、R−Si−X、またはR−Si−Xの一般式で示される有機シラン系化合物を用いることができる。
ここで、Rはアルキル基またはアリール基(アルキル基、アリール基の炭素に結合する原子には、ハロゲン、水素、窒素なども含む。)である。またXは、ハロゲン、−OR基(Rはアルキル基またはアリール基である。)、N−C結合、N=C結合、N=N結合、またはN−H結合の少なくとも1つを有する官能基である。
【0040】
Xで示される官能基は、封止層表面上の結合基と結合反応し、封止層に吸着する。また、Rで示される官能基は、封止層表面を覆うことで、封止層12に生じているナノレベルの欠損を充填し、フィルム状基板のガスバリア性を高める。
このような自己組織化膜形成分子としては、例えば、テトラメチルジシラザン(TMDS)、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオヲアセトアミド(BSTFA)、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、オクチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリエトキシシラン、イソブチルトリメトロキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシランがある。
【0041】
[フィルム状基板の製造方法の変形例]
上記の例では、エッチング工程において、封止層12の表面をエッチング溶液に曝す(ウェットエッチング)場合を説明したが、これに限定されない。ウェットエッチングの代わりに、ドライエッチングしてもよい。
封止層12の表面に対して、ドライエッチングを行うことにより、封止層12表面のSi−N結合、Si−H結合、N−H結合が切断され、ダングリングボンドが生成する。ドライエッチングの後、封止層を酸素雰囲気中に晒すことにより、水蒸気および酸素と反応し、封止層12の表面に高密度にヒドロキシル基が生成される。
【0042】
また、酸素雰囲気は、酸化させることができればよく、他の気体(窒素、アルゴン等)が含まれていてもよい。
また、酸素雰囲気中に晒す代わりに、封止層を洗浄してもよい。洗浄液には、水(HO)、CHOH等のアルコールを用いることができる。ドライエッチング後、封止層を洗浄することにより、水と反応し、封止層12の表面にヒドロキシル基が生成される。
【0043】
なお、ドライエッチングは、反応ガス中に被エッチング物を晒す反応性ガスエッチングと、被エッチング物を載置した電極に高周波電力を印加し、プラズマから生成されたイオンを加速して被エッチング物に衝撃させる反応性イオンエッチングに大別されるが、何れのエッチング手法であってもよい。
[検証実験]
本実施の形態に係るフィルム状基板10のガスバリア性を確認するため、以下の3パターンのフィルム状基板に対して、カルシウムテストを行い、フィルム状基板の水蒸気透過率の測定を行った。
【0044】
(a)本実施の形態にかかるフィルム状基板
(b)比較例1
(c)比較例2
カルシウムテストに用いたフィルム状基板の構造を、図4(a),(b),(c)にそれぞれ示す。
【0045】
図4(a)は、カルシウムテストにおける、本実施の形態にかかるフィルム状基板10の構造を示す模式断面図である。本図に示されるように、自己組織化膜13の上にカルシウム層19を形成し、カルシウム層19を覆うようにガラスキャップ20で封止した。ここでは、自己組織化膜13とガラスキャップ20との間をエポキシ樹脂(図示せず)を用いて接着することにより、封止空間を形成している。
【0046】
図4(b)は、カルシウムテストにおける、比較例1にかかるフィルム状基板の構造を示す模式断面図である。比較例1にかかるフィルム状基板は、本実施の形態にかかるフィルム状基板の製造方法に対して、ウェットエッチング工程を省略した製造方法により製造したフィルム状基板である。他の製造工程については、図4(a)に示すフィルム状基板の製造工程と同様である。本図に示すように、比較例1にかかるフィルム状基板は、フレキシブルフィルム11aの上に封止層12aが形成され、更にその封止層12の上に自己組織化膜13aが形成されている。
【0047】
図4(c)は、カルシウムテストにおける、比較例2にかかるフィルム状基板の構造を示す模式断面図である。比較例2にかかるフィルム状基板は、本実施の形態にかかるフィルム状基板の製造方法に対して、自己組織化膜形成工程、およびウェットエッチング工程を省略した製造方法により製造したフィルム状基板である。他の製造工程については、図4(a)に示すフィルム状基板の製造工程と同様である。本図に示すように、比較例2にかかるフィルム状基板は、フレキシブルフィルム11bの上に封止層12bが形成されている。
【0048】
各フレキシブルフィルム、封止層、自己組織化膜は、製造方法の説明の項で述べた方法により形成した。なお、封止層は、容量結合型プラズマCVDにより、酸化ケイ素膜を600nm形成することにより作製したが、その後、図4(a)に示すフィルム状基板に対して、ウェットエッチングした結果、封止層12、封止12bの膜厚は540nmとなった。ウェットエッチング工程を省略した比較例1および比較例2における封止層11aの膜厚は、600nmとなった。
【0049】
図4(a)、(b)、(c)に示すフィルム状基板を、温度60[℃]、湿度90[%]の環境下に放置し、所定時間経過時におけるカルシウム層19の抵抗値Rを測定した。
水蒸気透過率算出に用いた式を以下に示す。
【0050】
【数1】

【0051】
上記の数式において、M(HO)は水の分子量、M(Ca)はカルシウムの分子量、ρCaはカルシウムの密度、δはカルシウムの電気抵抗率、LCaはカルシウムの長さ、WCaはカルシウムの幅を表す。
図5は、カルシウムテストの結果を示す図である。横軸は放置時間[hr]、縦軸はカルシウム層19の抵抗値の逆数1/R[a.u.]を示している。ここで、カルシウムは水分や酸素を吸着すると変質し、抵抗値Rが上昇する性質がある。したがって、抵抗値の逆数1/Rの値が小さいフィルム状基板ほど、カルシウム層19の変質が進んでいる、すなわち、ガスバリア性が低いことを示している。
【0052】
本実施の形態の結果(四角のプロット)と比較例1の結果(三角のプロット)を比較すると、本実施の形態に係る実験用フィルム状基板の方が1/Rの値が大きく、カルシウム層19の変質を抑制できていることがわかる。
また、比較例1の結果(三角のプロット)と比較例2の結果(丸のプロット)を比較すると、1/Rの値がほぼ同じとなっている。
【0053】
ここで、図5に示されるグラフの傾きを、上記の数1に代入して得られた水蒸気透過率を下記の表に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
上記の表に示すように、本実施の形態にかかるフィルム状基板の水蒸気透過率は4.6×10−3[g/m/day]であり、比較例1にかかるフィルム状基板の水蒸気透過率は1.0×10−2[g/m/day]であり、比較例2にかかるフィルム状基板の水蒸気透過率は8.3×10−3[g/m/day]である。このように、本実施の形態にかかる製造方法で製造したフィルム状基板10が最も低い水蒸気透過率を示した。
【0056】
本実施の形態にかかるフィルム状基板と、比較例1におけるフィルム状基板の違いは、製造におけるウェットエッチング工程の有無のみである。
本実施の形態にかかるフィルム状基板においては、自己組織化膜13を形成する前にウェットエッチング工程を採用することで、封止層12表面に高密度にヒドロキシル基を形成している。自己組織化膜の形成工程において、自己組織化分子との結合サイトとして機能する結合基が、封止層表面に高密度に存在するので、封止層表面に高密度な自己組織化膜を形成することができる。封止層表面の高密度な自己組織化膜を形成することができるので、封止層のナノレベルの欠損を効果的に充填することが可能となり、本実施の形態にかかるフィルム状基板においては、水蒸気の透過率が低く、カルシウム層19の変質を抑制することができている。
【0057】
一方、比較例1にかかるフィルム状基板においては、ウェットエッチング工程が無い。酸化ケイ素など金属酸化物は親水性を示し、その表面においてヒドロキシル基を有することが知られているが、そのヒドロキシル基の密度はウェットエッチング工程を行ったものと比較して低い。自己組織化膜の形成工程において、自己組織化分子との結合サイトとして機能するヒドロキシル基が低密度であるため、前記封止層12a表面に形成される自己組織化膜13aが低密度となり、封止層のナノレベルの欠損を充填できず、比較例1にかかるフィルム状基板においては、本実施の形態にかかるフィルム状基板と比べて水蒸気の透過率が高く、カルシウム層19の変質を抑制することができていない。
【0058】
また、比較例2にかかるフィルム状基板においては、自己組織化膜がなく、封止層12bに存在するナノレベルの欠損により、本実施の形態にかかるフィルム状基板と比べて水蒸気の透過率が高く、カルシウム層19の変質を抑制することができていない。
[補足]
なお、上記の実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は上記の実施の形態に限定されないことはもちろんである。以下のような場合も本発明に含まれる。
【0059】
(1)上記の実施の形態にかかるフィルム状基板10の上に、有機EL発光装置を形成してもよい。図6は、フィルム状基板10に形成した発光装置の一例の構造を示す断面図である。
本図に示されるように、自己組織化膜13の上にTFT層21が形成されており、このTFT層21の上に陽極層22が形成されている。陽極層22の上には、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層等からなる有機EL層23が形成されており、この有機EL層23の上に陰極層24が形成されている。陰極層24の上には、保護層25が形成されており、この保護層25の上に樹脂層26が形成されている。樹脂層26の上には、封止層27が形成されており、この封止層27の上にフレキシブルフィルム28が形成されている。
【0060】
また、図7に示すように、フィルム状基板10の上に平坦化層29を形成した後、有機EL発光装置を形成してもよい。
また、ボトムエミッション型の有機EL発行装置に限らず、トップエミッション型の有機EL発行装置にフィルム状基板10を用いてもよい。
(2)上記の実施の形態においては、自己組織化膜13としてSi系化合物を用いることとしたが、本発明は必ずしもこの場合に限定されない。例えば、アルミニウム系の化合物を用いることもできる。
【0061】
(3)封止層12および自己組織化膜13は、通常の製造過程で混入し得る程度に、微量の不純物を含んでいることとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のフィルム状基板は、例えば、携帯型情報端末等に搭載されるディスプレイ等を構成するフィルム状基板に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 フィルム状基板
11、11a、11b フレキシブルフィルム
12、12a、12b 封止層
13、13a、13b 自己組織化膜
14 ケイ素原子
15 酸素原子
16 シロキシ基
17 シロキシ基16を有する化合物
18 ヘキサメチルジシラザン
19 カルシウム層
20 ガラスキャップ
21 TFT層
22 陽極層
23 有機EL層
24 陰極層
25 保護層
26 樹脂層
27 封止層
28 フレキシブルフィルム
29 平坦化層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の上に、封止層および自己組織化膜を設けたフィルム状基板の製造方法であって、
基材を準備する第1工程と、
前記基材上に封止層を形成する第2工程と、
前記封止層の表面に対しエッチングを施すことで、前記封止層の表面に結合基を生成する第3工程と、
前記封止層の表面の結合基と自己組織化膜形成分子の反応基とを結合反応させることで、前記封止層上に自己組織化膜を形成する第4工程と、を含むことを特徴とする、
フィルム状基板の製造方法。
【請求項2】
前記エッチングは、ウェットエッチングであることを特徴とする、
請求項1に記載のフィルム状基板の製造方法。
【請求項3】
前記ウェットエッチングは、酸性のエッチング溶液を用いることを特徴とする、
請求項2に記載のフィルム状基板の製造方法。
【請求項4】
前記ウェットエッチングは、エッチング溶液としてフッ酸を用いることを特徴とする、
請求項2に記載のフィルム状基板の製造方法。
【請求項5】
前記エッチングは、ドライエッチングであることを特徴とする、
請求項1に記載のフィルム状基板の製造方法。
【請求項6】
前記ドライエッチングは、反応性ガスエッチングであることを特徴とする、
請求項5に記載のフィルム状基板の製造方法。
【請求項7】
前記ドライエッチングは、反応性イオンエッチングであることを特徴とする、
請求項5に記載のフィルム状基板の製造方法。
【請求項8】
前記フィルム状基板の製造方法は、さらに、
前記第3工程と前記第4工程の間に、前記封止層を洗浄する工程を含むことを特徴とする、
請求項5に記載のフィルム状基板の製造方法。
【請求項9】
前記フィルム状基板の製造方法は、さらに、
前記第3工程と前記第4工程の間に、前記封止層を酸素雰囲気中に晒す工程を含むことを特徴とする、
請求項5に記載のフィルム状基板の製造方法。
【請求項10】
前記封止層の結合基は、ヒドロキシル基であることを特徴とする、
請求項1に記載のフィルム状基板の製造方法。
【請求項11】
前記封止層は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、または酸化ケイ素と窒化ケイ素の混合物を含むことを特徴とする、
請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載のフィルム状基板の製造方法。
【請求項12】
前記自己組織化形成分子の反応基は、
ハロゲン、−OR基(Rはアルキル基またはアリール基である)、N−C結合、N=C結合、N=N結合、またはN−H結合の少なくとも1つを有する官能基であることを特徴とする、
請求項11に記載のフィルム状基板の製造方法。
【請求項13】
前記自己組織化膜形成分子は、少なくとも1つのアルキル基またはアリール基が付加したケイ素原子を有することを特徴とする、
請求項12に記載のフィルム状基板の製造方法。
【請求項14】
前記自己組織化膜形成分子は、ヘキサメチルジシラザンであることを特徴とする、
請求項13に記載のフィルム状基板の製造方法。
【請求項15】
前記自己組織化膜は、少なくとも1つのアルキル基またはアリール基が付加したケイ素原子と、前記封止層に含まれる原子と共有結合した酸素原子と、で構成されるシロキシ基を含むことを特徴とする、
請求項12に記載のフィルム状基板の製造方法。
【請求項16】
前記シロキシ基は、トリメチルシロキシ基であることを特徴とする、
請求項15に記載のフィルム状基板の製造方法。
【請求項17】
基材の上に、封止層および自己組織化膜を設けたフィルム状基板であって、
基材と、
前記基材上に形成された封止層と、
前記封止層の表面に存在する結合基と自己組織化膜形成分子の反応基とが結合して形成される自己組織化膜と、を含むことを特徴とする、
フィルム状基板。
【請求項18】
前記封止層は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、または酸化ケイ素と窒化ケイ素の混合物を含むことを特徴とする、
請求項17に記載のフィルム状基板。
【請求項19】
前記自己組織化膜は、少なくとも1つのアルキル基またはアリール基が付加したケイ素原子と、前記封止層に含まれる原子と共有結合した酸素原子と、で構成されるシロキシ基を含むことを特徴とする、
請求項18に記載のフィルム状基板。
【請求項20】
前記シロキシ基は、トリメチルシロキシ基であることを特徴とする、
請求項19に記載のフィルム状基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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