説明

フィルム状異方導電性接着剤

【課題】 使用する樹脂の種類、エラストマーの種類、組合せが限定的にならないように、接着にかかる時間を短縮しても、接続信頼性、耐久性を損なうことなく、加熱時間の短縮を達成できるフィルム状異方導電性接着剤、及び当該フィルム状異方導電性接着剤を用いて回路基板接合体を製造する方法を提供する。
【解決手段】 (A)フェノキシ樹脂;(B)エポキシ樹脂;(C)ゴム及び/又は熱可塑性エラストマー;(D)導電性粒子;及び(E)イミダゾール系潜在性硬化剤を含み、且つ下記要件(a)最低溶融粘度(V1)が500Pa以上1000Pa以下、(b)最低溶融粘度に到達する温度(T1)が110℃以上125℃以下を充足し、好ましくは要件(c)前記最低溶融粘度到達温度(T1)より5℃高い温度(T2=T1+5℃)における溶融粘度(V2)と前記最低溶融粘度(V1)との差(ΔV=V2−V1)が100Pa・s以上を充足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LCDのガラスパネルとフレキシブルプリント配線板(FPC)のような回路基板同士の接合等に使用されるフィルム状異方導電性接着剤に関し、特に接合工程時間(部品の実装時間)の短縮を図ったフィルム状異方導電性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板同士の接合、例えば、図1に示すように、電極1a、1a…が所定間隔をあけて並置されたLCDガラスパネル1と、電極2a、2aが所定間隔をあけて並置されたフレキシブルプリント配線板(FPC)2の接合には、フィルム状の異方導電性接着剤3が用いられている。
【0003】
フィルム状異方導電性接着剤3としては、通常、エポキシ樹脂等の絶縁性に優れた熱硬化性樹脂、及び高分子量のエポキシ樹脂に該当し、熱可塑性を有するフェノキシ樹脂に、導電性粒子を分散してなる組成物を、フィルム状に成形したものが用いられる。
【0004】
接合は、通常、LCDガラスパネル1とFPC2とを、各電極1a、2aの組が相対するように向かいあわせ、これらの間に、フィルム状異方導電性接着剤3を挟み込み、一方の回路基板(図1においてはFPC2)を、クッション材4を介して、プレス熱ヘッド5により、他方の接合部材(図1においてはガラスパネル1)へ向けて、加熱加圧することにより行われる。プレス熱ヘッド5を用いた加熱加圧により、相対する電極同士(1aと2a)の間隔が狭められ、フィルム状異方導電性接着剤3は溶融流動して、同一面上にある電極(1a−1a間、及び2a−2a間)の隙間を埋めるとともに、相対する電極同士(1aと2a)の隙間を埋める。
【0005】
図2は、フィルム状異方導電性接着剤3を用いて接合された状態を示している。一般に、導電性粒子(図2中、3aで示す)の流動が、溶融樹脂の流動より遅いため、相対する電極同士(1aと2a)の隙間に前記導電性樹脂が多く残存することになり、LCDガラスパネル1とFPC2との間が導通状態となる。
【0006】
このような回路基板の接合用フィルム状異方導電性接着剤には、潜在性硬化剤が用いられている。潜在性硬化剤は、室温での硬化反応を抑制して、貯蔵保存性を確保するとともに、加熱により硬化反応を開始できるものである。
【0007】
ところで、液晶パネル等の生産性を上げる観点から、電子部品や回路基板の接合時間の短縮が求められている。かかる要請に応えるために、接続信頼性を損なうことなく、硬化時間を短縮したフィルム状接着剤の開発が進められている。
【0008】
例えば、特開2010−280871号公報(特許文献1)、特開2010−280872号公報(特許文献2)に、ボイド発生を抑制しつつ、短時間硬化することを目的としたフィルム状異方導電性接着剤として、分子量10000以上のフェノキシ樹脂(実施例ではインケム株式会社のPKHH)と、ゴム変性又はアクリル変性したエポキシ樹脂と、マイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤を用いたものが提案されている。これらの特許文献1、2で提案されているフィルム導電性接着剤は、いずれも、実施例において、200℃に加熱しながら、4MPaの圧力で15秒間加圧して接合している(特許文献1の段落番号0060、特許文献2の段落番号0063)。
【0009】
また、特開2010−150362号公報(特許文献3)では、分子量30000以上のビスフェノールA型フェノキシ樹脂(実施例ではジャパンエポキシエジン株式会社のエピコート1256(分子量約5万)を使用)、分子量500以下のエポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、メタクリル酸グリシジル共重合体、マイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤を必須成分とするフィルム状異方導電性接着剤が提案されている。ゴム系樹脂を含有させることで、可撓性を付与し、接着性を高めたものであり、実施例では、190℃に加熱しながら、5MPaで、12秒間加圧して接合している。
【0010】
以上のように、フィルム状異方導電性接着剤は、組成物を構成する樹脂の種類、組合せなどにより異なるが、一般に、190〜200℃に加熱したプレスで、3.5〜5MPaで、10秒間超〜15秒間プレスすることにより、接合作業を行っている。
【0011】
しかしながら、更なる生産コストダウンの要請に応えるために、加熱硬化時間の更なる短縮が求められるようになっている。近年では、10秒間以下、好ましくは5秒間程度で接合できることが求められている。
【0012】
硬化時間を10秒間以下に短縮したフィルム状異方導電性接着剤としては、例えば、特開2010−24416号(特許文献4)に、エポキシ樹脂として、分子量500以下の結晶性エポキシ樹脂と分子量3万以上のフェノキシ樹脂を使用し、硬化剤として尿素系硬化剤とマイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤を併用した接着剤が提案されている。ここでは、硬化剤として尿素系硬化剤を使用することで低温(150℃以下)で短時間(約10秒間)硬化を可能にするとともに、マイクロカプセル型潜在性硬化剤を併用することで、フィルム状異方導電性接着剤の保存安定性を確保している。具体的には、分子量52000のフェノキシ樹脂(インケム株式会社のPKHH)と結晶性エポキシ樹脂を、イミダゾール系潜在性硬化剤(ノバキュアHX3932HP)及び尿素系硬化剤を使用したフィルム状異方導電性接着剤を使用して、140℃に加熱したプレスで、4MPa、10秒間で加圧することにより接合している。そして、得られた接合部材は、初期抵抗が小さく、しかも80℃で500時間放置後も接続抵抗値はほとんど変化なく、優れた接続信頼性を保持できたことが示されている。
【0013】
10秒未満にまで硬化時間を短縮したフィルム状異方導電性接着剤としては、特開2009−54377号公報(特許文献5)で提案されている異方導電性フィルムがある。これは、分子量20000−60000のフェノキシ樹脂、ビスフェノールA型又はF型エポキシ樹脂、カチオン硬化剤を配合したもので、150−200℃で、4−6秒間で接合しても、高い信頼性を確保できるフィルム状異方導電性接着剤と記載されている(段落番号0029)が、実施例では、分子量30000のフェノキシ樹脂、2種類の液状エポキシ樹脂、ポリブタジエン粒子、スルホニウムカチオン系硬化剤(三新化学工業株式会社の「SI−60L」)を用いたフィルム状異方導電性接着剤を用いて、170℃、3.5MPaで、4秒間で圧着接合する場合が示されているだけである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2010−280871号公報
【特許文献2】特開2010−280872号公報
【特許文献3】特開2010−150362号公報
【特許文献4】特開2010−24416号公報
【特許文献5】特開2009−54377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
硬化時間10秒間未満、好ましくは5秒間以下を達成できたフィルム状異方導電性接着剤としては、特許文献5で提案されているフィルム状異方導電性接着剤だけである。ここで使用しているカチオン系硬化剤は、室温では硬化反応が抑制されているので、潜在性硬化剤に分類されているが、マイクロカプセル型硬化剤ではなく、60℃程度から硬化反応を開始し、硬化反応スピードが速いという特徴を有している(三新化学ホームページのカチオン重合開始剤の説明、http://www.sanshin-ci.co.jp/index/setumei/material/cationic.htm参照)。
【0016】
このように硬化開始温度が速く、且つ硬化反応スピードが速い硬化剤を使用することで硬化時間を短縮することは可能である。一方、特許文献4で使用する尿素系硬化剤や特許文献5で使用するカチオン系硬化剤は、硬化反応が速いことから、このような硬化剤を単独で用いた場合に、高分子量のフェノキシ樹脂やエラストマー又はゴム成分との併用が困難になる。例えば、特許文献1〜特許文献4で用いているような、分子量5万以上のフェノキシ樹脂を用いたフィルム状導電接着剤を、特許文献5の実施例で採用しているような加熱加圧条件(170℃、3.5MPaで4秒間)に適用した場合、十分に溶融できず、ひいては、電気的に接続しようとする、相対する電極同士(図1中の1aと2a)の間隔(図2中の「d」に相当)を十分に狭めるように加圧できず、接着不良となってしまう。特許文献5においても、比較例1で、分子量60000のフェノキシ樹脂を用いた場合には、接着強度が低くなっており、導電抵抗も高めの結果が示されている。この場合、特許文献1〜3の実施例で採用しているような接合条件、すなわち190℃、200℃といった高温で加熱加圧することが考えられるが、加熱温度を高く設定することは、マイクロカプセル型でない潜在性硬化剤との併用系において、硬化反応をさらに速めることになり、その結果、高分子量のフェノキシ樹脂の溶融流動が十分に進まず、接着不良を助長するおそれがある。
【0017】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、フィルム状異方導電性接着剤において、使用する樹脂の種類、エラストマーの種類、組合せが限定的にならないように、接着にかかる時間を短縮しても、接続信頼性、耐久性を損なうことなく、加熱時間の短縮を達成できるフィルム状異方導電性接着剤、及び当該フィルム状異方導電性接着剤を用いて回路基板接合体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、フィルム状接着剤の加熱加圧条件とフィルム状接着相樹脂の溶融粘度、得られる接合体の特性について、種々検討し、本発明を完成した。すなわち、本発明のフィルム状異方導電性接着剤は、(A)フェノキシ樹脂;(B)エポキシ樹脂;(C)ゴム及び/又は熱可塑性エラストマー;(D)導電性粒子;及び(E)イミダゾール系潜在性硬化剤を含み、且つ下記要件(a)(b)を充足するものである。
(a)最低溶融粘度(V1)が500Pa以上1000Pa以下
(b)最低溶融粘度に到達する温度(T1)が110℃以上125℃以下。
【0019】
さらに、下記要件(c)を充足することが好ましい。
(c)前記最低溶融粘度到達温度(T1)より5℃高い温度(T2=T1+5℃)における溶融粘度(V2)と前記最低溶融粘度(V1)との差(ΔV=V2−V1)が100Pa・s以上。
【0020】
前記(E)イミダゾール系潜在性硬化剤は、マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤であることが好ましく、また前記(A)フェノキシ樹脂の重量平均分子量は4万以上であることが好ましい。また、前記(C)ゴム及び/又は熱可塑性エラストマーは、熱可塑性エラストマーであることが好ましく、より好ましくはポリアミド系熱可塑性エラストマーである。
【0021】
前記(B)エポキシ樹脂は、液状エポキシ樹脂及び固形エポキシ樹脂を含むことが好ましく、前記導電性粒子は、アスペクト比5以上の粒子であることが好ましい。
【0022】
本発明の回路基板接合体の製造方法は、複数の電極が並置された2つの回路基板を、前記電極が対向するように向かい合わせ、前記回路基板の間に、上記本発明のフィルム状異方導電性接着剤を配置する工程;及び150〜220℃の温度、圧力2〜6MPaで、前記フィルム状異方導電性接着剤を10秒未満、加熱加圧する工程を含む。
【0023】
前記加熱加圧は、加圧ツールを用いて、前記回路基板を20〜100mm/secで押圧することにより行うことが好ましい。
【0024】
本明細書において、最低溶融粘度(V1)及び最低溶融粘度到達温度(T1)は、粘弾性測定装置を用いて、昇温速度10℃/minで昇温しながら、周波数1Hzの条件で溶融粘度を測定して得られた粘度曲線の極小粘度(Pa・s)及び当該極小粘度を示す温度をいう。
【0025】
また、加熱温度とは、フィルム状異方導電性接着剤の加熱温度をいい、フィルム状異方導電性接着剤が最終的に到達予定の温度をいう。例えば、細径の熱電対をフィルム状異方導電性接着剤中に埋め込み、ガラスパネル1とフレキシブルプリント配線板2の間に挟み込んで実測する方法が用いられる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のフィルム状異方導電性接着剤は、被着体の凹部を埋めることができる必要十分な最低溶融粘度到達温度(T1)と最低溶融粘度(V1)を有しているので、接続信頼性を確保しつつ、加熱硬化時間を短縮できる。従って、本発明の回路基板接合体の製造方法によれば、接続信頼性の高い回路基板接合体を効率よく生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】フィルム状異方導電性接着剤を用いた、回路基板同士の接合方法を説明するための図である。
【図2】フィルム状異方導電性接着剤を用いて接合された回路基板を示す模式断面図である。
【図3】フィルム状異方導電性接着剤の加熱温度と溶融粘度との関係を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、今回、開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0029】
〔フィルム状異方導電性接着剤〕
本発明のフィルム状異方導電性接着剤は、(A)フェノキシ樹脂;(B)エポキシ樹脂;(C)熱可塑性エラストマー;(D)イミダゾール系潜在性硬化剤;及び(E)導電性粒子を含むフィルム状異方導電性接着剤であって、下記要件(a)(b)、好ましくは、さらに下記要件(c)を充足するものである。以下、各特性について、図3を参照しつつ説明する。
【0030】
(a)最低溶融粘度(V1)が500Pa・s以上1000Pa・s以下
(b)最低溶融粘度に到達する温度(T1)が110℃以上125℃以下
(c)最低溶融粘度到達温度よりも5℃高い温度T2(=T1+5)での溶融粘度V2と最低溶融粘度V1との差が100Pa・s以上
【0031】
はじめに、上記要件(a)(b)(c)について、図3を参照しつつ説明する。
図3は、接合工程時のフィルム状異方導電性接着剤の温度と粘度変化の関係を示している。熱プレスを用いて、加熱温度Tで加圧する場合、加熱加圧時間の経過にしたがって、フィルム状異方導電性接着剤の温度が上昇しはじめ、フィルム状異方導電性接着剤が軟化溶融することにより、粘度が下がり始める一方、硬化剤の種類に応じた加熱温度で硬化反応を開始し、増粘もはじまる。接合工程の初期には、これらのことが複合的に進行していると考えられる。そして、所定温度以上では、硬化反応が優先的に進行するようになり、粘度上昇が大きくなって、硬化反応が完了する。
【0032】
上記要件(a)(b)(c)を充足する場合、接着剤の粘度変化は、図3において、実線で示されるように進む。
【0033】
要件(a)(b)は、接合工程初期の硬化反応進行状況を特定する要件である。最低溶融粘度(V1)を500Pa以上1000Paの範囲内とすることにより、回路間距離(d)を、1μm以下程度、好ましくは0.8μm以下程度にまでプレスすることが可能となる。
【0034】
この点、最低溶融粘度が高くなると、例えば、1000Paを超えると、プレス圧力を大きくしないと、接合しようとする電極間距離(d)を1μm以下にまでプレスすることが困難となる。さらに、接着剤に含まれる樹脂の流動性が低いために、隣接回路間の隙間を十分に埋められない状態、いわゆる接合部分にボイドが生じやすくなる。一方、最低溶融粘度が500Pa未満といった低い粘度になると、樹脂とともに、導電性粒子も流れやすくなり、回路間に残存する導電性粒子量が減って、導電性が低下したり、ひどい場合には、被着体である回路基板から樹脂が流れ出るようなことも起こり得る。
【0035】
最低溶融粘度到達温度(T)を110℃以上とすることで、分子量4万以上のフェノキシ樹脂であっても、十分に軟化溶融することが可能となる。また、熱可塑性エラストマーについても、軟化溶融させることが可能となる。この点、図3において点線で示されるような場合は、硬化反応の開始、あるいは硬化反応の進行が速すぎる場合に該当し、要件(b)を充足しない。すなわち、最低溶融粘度到達温度が110℃未満の場合、一般に、高分子量の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーが十分に軟化溶融していない場合が多く、溶融粘度が高くなる傾向にある。使用するポリマー成分(フェノキシ樹脂、熱可塑性エラストマーの種類など)によっては、十分に軟化溶融する前に、低分子量エポキシ樹脂や液状エポキシ樹脂の硬化反応が早期に開始してしまい、その結果、隣接回路間の隙間を十分に埋められない状態、いわゆる接合部分にボイドが生じやすくなったり、加圧が不十分となって、接合しようとする電極間距離dを十分に狭めることができなくなるおそれがある。反対に、図3中、一点鎖線が示すように、硬化開始が遅い、あるいは硬化反応速度が遅いために、最低溶融粘度到達温度Tが125℃を超える場合、10秒未満、特に本発明で好ましいとする5秒以下の加圧接着時間では、硬化反応を終了できないおそれがある。
【0036】
要件(c)は、硬化反応速度が速いことを意味する。すなわち、硬化反応の開始が遅くても、迅速に硬化反応が進行することで、電極間距離dを十分狭めるための時間を確保するとともに、硬化時間の短縮を図ることができる。
【0037】
本発明のフィルム状異方導電性接着剤は、上記要件(a)(b)さらに好ましくは(c)を充足するものであり、このような特性を充足するように、上記(A)フェノキシ樹脂、(B)エポキシ樹脂、(C)熱可塑性エラストマー、(D)導電性粒子、(E)イミダゾール系潜在性硬化剤の種類を適宜選択し、組み合わせる。
【0038】
(A)フェノキシ樹脂
フェノキシ樹脂とは、高分子量のエポキシ樹脂に該当し、重合度(n)が100程度以上のものをいう。本発明に用いられるフェノキシ樹脂は、GPCにより測定される重量平均分子量が3万以上のもの、好ましくは4万以上のもの、より好ましくは45000以上である。このような高分子量のエポキシ樹脂に該当するフェノキシ樹脂は、通常、軟化点80〜150℃程度であり、常温で固体である。熱可塑性樹脂として挙動することから、フィルム形成性がよい。また、高分子量のフェノキシ樹脂は、接合のための加熱処理の早期段階でおこる、エポキシ樹脂の流動による急激な粘度低下を阻止するとともに、エポキシ樹脂と(E)イミダゾール系潜在性硬化剤との急激な硬化反応の進行を防止する。これにより、接合作業の間の適切な流動性を保持し、被接合部材の同一面上にある電極間の隙間(例えば、図1,2における2a−2a間、1a−1a間間隙)にまで樹脂が流入できて、ボイドが少なく、均質性の高い接合部を形成することができる。このように、本発明のフィルム状導電性接着剤では、高分子量フェノキシ樹脂、好ましくは分子量4万以上、45000以上のフェノキシ樹脂を用いても、最低溶融粘度到達温度を110℃以上として、十分に溶融軟化、流動できるように調節しているので、高い接着強度の達成が容易となる。
【0039】
本発明で使用するフェノキシ樹脂は、特にその種類は限定しない。例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、その蒸留品、ナフタレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂を用いることができる。
【0040】
フェノキシ樹脂は、樹脂全量の20〜40重量%含有することが好ましく、より好ましくは、25〜35重量%である。20重量%未満では、組成物全体としての固形性を保持することが困難になり、フィルム状異方導電性接着剤を作製することが困難になる傾向にある。
【0041】
(B)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂は、分子中にエポキシ基をもつポリマーであればよく、重合度、分子量、種類などは特に限定しない。例えば、重合度が1以下、重量平均分子量が700以下で、常温で液状を示す液状エポキシ樹脂、重合度が1超の固形エポキシ樹脂、結晶性エポキシ樹脂など、いずれを用いることもできる。
【0042】
また、エポキシ樹脂の種類としても、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、その蒸留品、ナフタレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アルコキシ含有シラン変性エポキシ樹脂、フッ素化エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂等の変性エポキシ樹脂を用いてもよい。
【0043】
これらのエポキシ樹脂は、単独又は必要に応じて、分子量、反応性、軟化点などが異なる種類のエポキシ樹脂と組み合わせて用いてもよい。好ましくは、室温で液状を示す液状エポキシ樹脂と室温で固体である固形エポキシ樹脂とを組み合わせて使用する。液状エポキシ樹脂は、室温で液状を示すことから、加熱開始とともに速やかに粘度が下がって硬化剤と混ざり合い、素早く反応を進めることができる。固形エポキシ樹脂は、液状エポキシ樹脂の加熱開始に伴う急激な粘度低下、これに伴う反応の進行を緩める働きがある。すなわち、液状エポキシ樹脂による急激な粘度低下を抑制し、粘度調整に役立つ。
【0044】
接着剤用組成物におけるエポキシ樹脂の含有率は、同一面上の電極間の絶縁性保持の点から、通常、50〜90重量%程度であり、好ましくは50〜80重量%程度である。
【0045】
(C)ゴム及び/又は熱可塑性エラストマー
熱可塑性エラストマーは、応力緩和材として含有される。
すなわち、エポキシ樹脂は耐熱性、耐湿性に優れているが、この硬化物は非常に脆く靱性(可撓性)に欠けている。そのため、クラックの発生によって剥離を生じる場合があり、接着力が低くなる。またエポキシ樹脂は接続時の熱により硬化収縮することで接着力を発現するが、この硬化収縮によって接着界面や接着剤内部に応力が発生する。硬化収縮時の応力は接着剤の貯蔵弾性率に比例して増大するが、エポキシ樹脂は硬化後の貯蔵弾性率が高いことから硬化収縮時の応力が高くなり、接着界面や接着剤内部に残留応力が残り、その後、高温高湿状態に解放されると界面剥離が生じることになる。このようなエポキシ樹脂の欠点を補うために、ゴム系材料や熱可塑性エラストマーを含有させて、フィルム状異方導電性接着剤に可撓性を付与している。
【0046】
本発明で用いられるゴム系材料、熱可塑性エラストマーとしては、例えば、エポキシ化ポリブタジエン、アクリルゴム、ニトリルゴム等のゴム系材料;スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。これらのうち、高温で溶融可塑化される熱可塑性エラストマーが好ましく用いられ、さらにエポキシ樹脂との相溶性に優れているという点から、硬質相にポリアミドを用いたポリアミド系熱可塑性エラストマーが好ましく用いられる。
【0047】
本発明で用いられる熱可塑性エラストマーの分子構造は特に限定せず、トリブロック共重合型、テトラブロック共重合型、マルチブロック共重合型、星型ブロック共重合型などいずれであってもよい。
【0048】
上記ゴム材料の場合、ゴム粉末として、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂中に分散させておくことが好ましい。熱可塑性エラストマーは、樹脂粒子として、組成物中に配合してもよいが、好ましくは、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂と予め、混練しておくことが好ましい。特に、ポリアミド系熱可塑性エラストマーのように、相溶性の高い熱可塑性エラストマーを用いることにより、均一に混練することが可能となり、加熱圧着時に均等に混合した状態で溶融、流動が可能となる。ひいては、硬化物の可撓性、応力緩和性の向上にも役立つ。
【0049】
熱可塑性エラストマーの軟化溶融温度は、種類により異なるが、予めマトリックスとなるフェノキシ樹脂と混練しておくことで、フェノキシ樹脂の軟化溶融流動に伴い、熱可塑性エラストマーも流動できる。この点、本発明のフィルム状接着剤では、マトリックス樹脂となるフェノキシ樹脂が十分に流動できる程度の溶融粘度を有するので、熱可塑性エラストマーの軟化温度、ガラス転移点などについて、広範囲から選択可能である。
【0050】
(D)導電性粒子
導電性粒子としては、導電性を有する粒子であればよく、例えば、半田粒子、ニッケル粒子、金メッキニッケル粉、銅粉末、銀粉末、ナノサイズの金属結晶、金属の表面を他の金属で被覆した粒子等の金属粒子;スチレン樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂等の樹脂粒子に金、ニッケル、銀、銅、半田などの導電性薄膜で被覆した粒子等が使用できる。このような導電性粒子の粒径は特に限定しないが、通常、平均粒径0.1〜5μmである。
【0051】
これらのうち、導電性粒子を所定方向(本発明においてはフィルムの厚み方向)に配向させやすいという点から、磁性を有する粒子が好ましく用いられる。また、導電性粒子を厚み方向に配向させやすいという観点から、アスペクト比5以上の導電性粒子が好ましく用いられる。具体的には、微細な金属粒が直鎖状につながった形状、あるいは、針状粒子が好ましく用いられる。このような導電性粒子は、フィルム成形の際に磁場の作用により、厚み方向に配向させることができる。
【0052】
導電性粒子の含有量は、用途により異なるが、回路基板の接合に用いられる異方導電性接着剤では、同一面上に並置された隣接する電極間間隙を導通させるには不十分な量で、且つ相対する電極間を導通させることができる量であり、具体的には、導電性接着剤の全体積に対して、0.01〜10体積%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜1体積%である。
【0053】
(E)イミダゾール系潜在性硬化剤
イミダゾール系潜在性硬化剤は、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂の硬化剤として含有されるもので、マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤の他、室温で粉末、液体、固体のイミダゾール系潜在性硬化剤を用いることも可能である。
これらのイミダゾール系潜在性硬化剤は、溶融粘度に関する上記要件(a)及び(b)、好ましくは(c)を充足するように、他の成分(A)(B)(C)(D)の種類に応じて、適宜選択すればよいが、フィルム状異方導電性接着剤としての保存安定性の点からは、マイクロカプセル型潜在性硬化剤が好ましく用いられる。
【0054】
ここで、マイクロカプセル型潜在性硬化剤とは、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂の硬化剤として作用する、イミダゾール系誘導体を核とし、当該核を膜で被覆したものである。
核となるイミダゾール系誘導体は、通常、常温で固体の粉末であり、エポキシ化合物とイミダゾール化合物あるいはイミダゾール化合物のカルボン酸塩との付加物を、適当な粒度に粉砕したものが好ましく用いられる。
上記イミダゾール誘導体としては、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチル−5−メチルイミダゾール、2−フェニル−3−メチル5−ヒドロキシメチルイミダゾールなどが挙げられる。上記エポキシ化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF及びブロム化ビスフェノールA等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ダイマー酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル等が挙げられる。
【0055】
被覆膜としては、エポキシ樹脂との相性が良好であるという理由から、通常、ウレタン結合を有する被膜が好ましく用いられる。具体的には、硬化剤本体である粉体表面のOH基に、イソシアネート基を有する化合物を重合反応させて得られる被膜が好ましく用いられる。
上記イソシアネート化合物としては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。これらのイソシアネート化合物を、常温にて、イミダゾール化合物の表面で重合することにより、被膜が形成される。
【0056】
以上のようなマイクロカプセル型潜在性硬化剤は、通常、平均粒子径1〜10μmであることが好ましい。ここで、平均粒子径の測定は、レーザー回折型測定装置RODOS SR型(SYMPATEC HEROS&RODOS)を用いて、キシレン有機溶剤により固形分として取り出したマイクロカプセル粒子を測定し、体積積算平均粒子径を平均粒子径とした。
【0057】
以上のような構成を有するマイクロカプセル型潜在性硬化剤としては、マイクロカプセル粒子単独でなく、液状エポキシ樹脂などに分散させた状態で用いられてもよい。また、市販品を用いてもよく、例えば、旭化成イーマテリアルズ社製のノバキュアシリーズが挙げられる。
【0058】
以上のようなマイクロカプセル型潜在性硬化剤は、他の成分(A)(B)(C)(D)との組合せで用いて、溶融粘度に関する上記要件(a)(b)好ましくは、更に(c)を充足できるように選択すればよい。他の成分、特に樹脂成分である(A)(B)(C)の種類、組合せ、配合比率等により異なるが、硬化開始温度が高く、硬化反応スピードが速いマイクロカプセル型潜在性硬化剤を用いることが好ましい。マイクロカプセル型潜在性硬化剤の硬化開始温度、硬化反応スピードなど、接着剤の加熱溶融粘度特性に影響を及ぼす要因は、マイクロカプセル型潜在性硬化剤の被膜となる樹脂の種類、核と被膜の質量比、被膜厚み、分散媒などにより適宜調節されるので、溶融粘度に関する上記要件(a)(b)好ましくは、更に(c)を充足できるように選択すればよい。
【0059】
イミダゾール系潜在性硬化剤は、使用するエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ゴム、熱可塑性エラストマーの種類、配合量により異なるが、樹脂成分合計量(エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ゴム、及び熱可塑性エラストマーの合計量)100質量部に対して、8〜20質量部含有することが好ましい。
【0060】
(F)その他の添加剤
本発明のフィルム状異方性導電性接着剤には、上記成分の他、必要に応じて、補強材、充填剤、カップリング剤、硬化促進剤、難燃化剤などを含有してもよい。
【0061】
また、バインダー成分用樹脂としては、上記要件(a)(b)を充足する範囲内であれば、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂以外の樹脂、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂等の他の熱硬化性樹脂や、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等の熱可塑性樹脂などを、必要に応じて適宜含有してもよい。
【0062】
〔フィルム状異方導電性接着剤の製造〕
本発明のフィルム状異方導電性接着剤は、以上のような成分を含有する接着剤用組成物をフィルム状に成形したものである。フィルム状異方導電性接着剤の製造方法は特に限定しないが、通常、以下のような方法で製造される。
【0063】
上記(A)(B)(C)(D)(E)、さらに必要に応じて(F)成分を所定量配合し、溶剤に溶解して、接着剤の塗工用溶液を調製する。溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル、芳香族炭化水素などが挙げられる。また、フィルム状異方導電性接着剤が、導電性粒子として針状粒子(例えばアスペクト比5以上の導電性粒子)を用いている場合、乾燥中に、導電性粒子が厚み方向に配向できるような揮発速度を有する溶剤が好ましく用いられる。具体的には、PGMEA、PMA等のエステル系が好ましく用いられる。
前記塗工用溶液の固形分率としては、特に限定しないが、40〜70重量%であることが好ましい。
【0064】
調製した塗工用溶液を、基材フィルム上に塗工、流延、加熱乾燥してフィルム状とする。
フィルム状異方導電性接着剤を製造するための乾燥温度は、使用する有機溶剤により異なるが、通常、60〜80℃程度である。
【0065】
フィルム状異方導電性接着剤が、(D)成分として、磁性を有する粒子又はアスペクト比5以上の導電性粒子を含有する場合、加熱乾燥前または同時に、磁場を通過させて、導電性粒子を厚み方向に整列させておくことが好ましい。
フィルム状異方導電性接着剤の厚みは、特に限定しないが、通常10〜50μmであり、好ましくは15〜40μmである。
【0066】
〔回路基板接合体の製造方法〕
本発明の回路基板接合体の製造方法は、接合に使用するフィルム状異方導電性接着剤として、上記本発明のフィルム状異方導電性接着剤を使用するところに特徴がある。
【0067】
具体的には、図1に示すように、複数の電極が並置された2つの回路基板を、前記電極が対向するように向かい合わせ、前記回路基板の間に、上記本発明のフィルム状異方導電性接着剤を介在させ、以下に示す条件で加熱加圧する。
【0068】
加熱加圧方法は、特に限定しないが、通常、所定温度に加熱したプレス機、押圧部材等の加圧ツールを用いて行う。被着体となる回路基板と加圧ツールとの間には、適宜クッション材を介在させてもよい。
【0069】
加熱温度は、150〜220℃、好ましくは170〜200℃、より好ましくは、180〜200℃である。ここで、加熱温度とは、フィルム状異方導電性接着剤が到達すべき温度であり、例えば、細径の熱電対をフィルム状異方導電性接着剤中に埋め込み、ガラスパネル1とフレキシブルプリント配線板2の間に挟み込んで実測する方法が用いられる。
【0070】
加圧圧力は、2〜6MPa、好ましくは3〜5MPaである。本発明のフィルム状異方導電性接着剤は、110〜125℃で、最低溶融粘度500〜1000Pa・sとなるので、この程度の加圧圧力で、圧着することができる。
加圧時間は、10秒未満、好ましくは5秒以下である。具体的には、加圧ツールを20〜100mm/secの速度で押圧することにより行う。
【0071】
本発明のフィルム状異方導電性接着剤は、加熱加圧により軟化溶融して、同一平面上の電極間間隙に流入するとともに、接合しようとする電極間距離は1μm以下にまで狭められて硬化する。このようにして得られた接合体は、硬化時間(接合作業時間)を短縮して製造されたにもかかわらず、優れた導電性及びその耐久性(接続信頼性)を有している。
【実施例】
【0072】
本発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0073】
〔評価測定方法〕
(1)最低溶融粘度(V1)及びその到達温度(T1
作製した異方導電性フィルムを25枚重ねて、厚み500μmとした。これを、粘弾性測定装置(レオメトリック社製のARES)を用いて、30℃〜200℃まで、10℃/分で昇温しながら粘度変化を測定し、粘度曲線を得た。得られた粘度曲線から、溶融粘度が最小のときの粘度を最低溶融粘度(V1)、そのときの温度を最低溶融粘度到達温度(T1)とした。
【0074】
また、前記溶融曲線から、T1+5℃(=T2)のときの粘度(V2)を読み取り、ΔV(V2−V1)を算出した。
【0075】
(2)初期抵抗(Ω)
作製した接合体において、接続された124か所の抵抗値を四端子法により求め、その値を124で除することで、1か所当たりの接続抵抗を算出した。
【0076】
(3)耐熱・耐湿性
作製した接合体を、85℃、85%Rhに設定した高温・高湿槽内に投入し、500時間経過後に取り出して、再び抵抗値を測定した。
【0077】
〔フィルム状異方導電性接着剤の作製及び回路基板接合体の製造〕
No1:
フェノキシ樹脂として、(a)JER(株)製のエピコート1256(重量平均分子量5万)、エポキシ樹脂として、固形エポキシ樹脂((b)JER(株)製エピコート1007(数平均分子量2900)と液状エポキシ樹脂((c)DIC(株)製のエピクロン4032D)、熱可塑性エラストマーとして(d)富士化成工業社のTPAEを用いた。
イミダゾール系潜在性硬化剤として、マイクロカプセル型潜在性硬化剤((e)旭化成イーマテリアルズ(株)製ノバキュアLSA−H0910、マイクロカプセル粒子が液状エポキシ樹脂に分散されたものでマイクロカプセル粒子分35質量%)を用いた。
導電性粒子としては、1μmから12μmまでの鎖長分布を有する直鎖状ニッケル微粒子を用いた。
【0078】
上記(a)〜(e)を、質量比でa:b:c:d:e=25:25:10:5:35の割合(樹脂成分100質量部に対して硬化剤14質量部に相当)で混合し、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)と酢酸ブチルの混合溶媒(混合比率90/10)に溶解した後、遠心攪拌ミキサーを用いて3分間混合して、固形分60%の均質溶液を調製した。
【0079】
次いで、固形分(導電性粒子+樹脂+エラストマー)の総量に占める割合で表される導電性粒子の充填率が、0.2体積%となるように上記導電性粒子を添加した後、遠心ミキサーを用いて撹拌することで均一分散させ、フィルム状異方導電性接着剤溶液を調製した。
【0080】
上記で調製した接着剤溶液を、離型処理したPETフィルム上にドクターナイフを用いて塗布し、磁束密度100mTの磁場中で60℃、30分間、乾燥、固化させることにより、直鎖状粒子が磁場方向に配向した、厚み20μmの異方導電性フィルムを作成した。
【0081】
幅50μm、高さ18μmのAuメッキしたCu回路が50μmの間隔をあけて124本配列されたFPCと、幅150μmのITO回路が50μm間隔をあけて形成されたガラス基板とを用意した。その後、124か所の接続抵抗が測定可能なデイジーチェーンを形成するように向かい合わせて配置し、その間に、上記で作製したフィルム状異方導電性接着剤を挟んだ。かかる状態で、180℃に加熱したプレスを用いて、FPCとガラス基板の双方を、3MPaの圧力で4秒間加圧して、FPCとガラス基板との接合体を得た。
【0082】
No.2:
マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤をノバキュアHXA−5052HP(マイクロカプセル粒子が液状エポキシ樹脂に分散されたものでマイクロカプセル粒子分35質量%)に変更した以外はNo.1と同様にしてフィルム状異方導電性接着剤を作製し、更に、これを用いて接合体を得た。
No.3:
樹脂成分65質量部の配合組成比率をa:b:c:d=25:5:34:1に変更し、さらに硬化剤をノバキュアHXA−3932HP(マイクロカプセル粒子が液状エポキシ樹脂に分散されたものでマイクロカプセル粒子分33質量%)に変更した以外は、No.1と同様にしてフィルム状異方導電性接着剤を作製し、更に、これを用いて接合体を得た。
No.4:
マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤をノバキュアHXA−3042HP(マイクロカプセル粒子が液状エポキシ樹脂に分散されたものでマイクロカプセル粒子分34質量%)に変更した以外は、No.1と同様にしてフィルム状異方導電性接着剤を作製し、更に、これを用いて接合体を得た。
【0083】
No.5:
イミダゾール系潜在性硬化剤を、カチオン系硬化剤SI−60L(室温で粉末のイミダゾール系潜在性硬化剤。)に変更した(樹脂成分100質量部に対して硬化剤54質量部に相当)以外は、No.1と同様にしてフィルム状異方導電性接着剤を作製し、更に、これを用いて接合体を得た。
【0084】
No.6:
樹脂成分65質量部の配合組成比率をa:b:c:d=30:20:10:5に変更した以外は、No.2と同様にして、フィルム状異方導電性接着剤を作製し、更に、これを用いて接合体を得た。
【0085】
No.7:
樹脂成分65質量部の配合組成比率をa:b:c:d=25:5:34:1に変更し、さらに、マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤をノバキュアHXA−3792(マイクロカプセル粒子が液状エポキシ樹脂に分散されたものでマイクロカプセル粒子分35質量%)に変更した以外は、No.1と同様にしてフィルム状異方導電性接着剤を作製し、更に、これを用いて接合体を得た。
【0086】
No.8:
フェノキシ樹脂として、(a)インケム社製のPKHB(重量平均分子量4万)、エポキシ樹脂として、固形エポキシ樹脂((b)JER(株)製エピコート1007(数平均分子量2900)と液状エポキシ樹脂((c)ダイソーケミカル社のLX−01)、熱可塑性エラストマーとして(d)富士化成工業社のTPAE、マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤としてノバキュアHXA−3042HP(マイクロカプセル粒子が液状エポキシ樹脂に分散されたものでマイクロカプセル粒子分34質量%)を使用し、上記(a)〜(e)を、質量比でa:b:c:d:e=25:25:10:5:35の割合とした以外は、No.1と同様にして、フィルム状異方導電性接着剤を作製し、更に、これを用いて接合体を得た。
【0087】
No.9:
フェノキシ樹脂として、(a)JER(株)製のエピコート1256(重量平均分子量5万)、エポキシ樹脂として、固形エポキシ樹脂((b)JER(株)製エピコート1007(数平均分子量2900)と液状エポキシ樹脂((c1)DIC(株)製のエピクロン4032D及び(c2)ダイソーケミカル社のLX−01)、熱可塑性エラストマーとして(d)富士化成工業社のTPAEを用いた。
イミダゾール系潜在性硬化剤として、マイクロカプセル型でない、室温で粉末のイミダゾール系潜在性硬化剤((e)四国化成製の2MZ−P)を使用し、上記(a)〜(e)を、質量比でa:b:c1:c2:d:e=30:20:10:30:5:8の割合(樹脂成分100質量部に対して硬化剤8.4質量部に相当)とした以外は、No.1と同様にして、フィルム状異方導電性接着剤を作製し、更に、これを用いて接合体を得た。
【0088】
【表1】

【0089】
表1からわかるように、粘度に関する要件(a)(b)を充足するフィルム状異方導電性接着剤No.1、2は、初期抵抗1.0Ω以下であり、高温高湿条件下で500時間放置した後も、接続抵抗の増加は2.5倍以下であった。さらに、要件(c)を充足するNo.1のフィルム状異方導電性接着剤は、粘度増加度が小さいNo.2のフィルム状異方導電性接着剤と比べて、初期抵抗が低く、耐久試験後の抵抗増加度も小さかった。
【0090】
一方、最低溶融粘度に到達するのが速く、最低溶融粘度(V)も高かったNo.3の異方導電性接着剤では、初期抵抗が高く、耐久性試験に耐えることができなかった。一方、樹脂成分の配合率が異なるために、最低溶融粘度到達温度について、要件(b)を充足するが、要件(a)を充足しないNo.4、No.6のフィルム状異方導電性接着剤は、溶融粘度が低すぎる、あるいは高すぎるため、初期抵抗が高めとなり、高温高湿条件で500時間放置した後の抵抗の増加も3倍以上となった。
【0091】
一方、No.7は、要件(a)を充足するが、要件(b)を充足せず、最低溶融粘度への到達が遅いフィルム状異方導電性接着剤であり、初期抵抗が高めであるだけでなく、耐久試験に耐えることができなかった。No.5は、最低溶融粘度到達温度(T)が100℃で、早期に硬化が開始したためと思われるが、最低溶融粘度(V)が高いため、初期抵抗が高く、耐熱耐湿性が劣っていた。
【0092】
No.8は、要件(a)(b)(c)のいずれも充足するフィルム状異方導電性接着剤であり、初期抵抗1.0Ω以下であり、高温高湿条件下で500時間放置した後も、接続抵抗の増加は2.5倍以下であった。フェノキシ樹脂として、No.1、2で使用したエピコート1256よりも分子鎖が短いものを使用し、液状エポキシ樹脂として、No.1、2で使用したエピクロン4032よりも粘度を下げやすいものを使用したため、No.1と比べて、初期抵抗、耐久試験後の抵抗のいずれも高めとなっていた。
【0093】
No.9は、マイクロカプセル型潜在性硬化剤でない、イミダゾール系潜在性硬化剤を使用した場合である。樹脂成分の配合比率、樹脂成分に対する硬化剤量を変えることによって、要件(a)(b)(c)を充足させた場合であり、初期抵抗1.0Ω以下であり、高温高湿条件下で500時間放置した後も、接続抵抗の増加は2.5倍以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のフィルム状異方導電性接着剤を用いれば、接合工程時間を短縮できるので、回路基板の接合を伴う部品の実装作業の効率化、さらには加熱時間の短縮による省エネルギー化を図ることができる。また、本発明で規定する粘度に関する要件(a)(b)、好ましくは更に(c)を充足するように、樹脂成分(フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂)、硬化剤の種類、配合比率を調節選択することにより、硬化時間の短縮と接続信頼性を満足できるフィルム状異方導電性接着剤の配合組成を決めることができるので、本発明は好適なフィルム状異方導電性接着剤の配合組成の選択指標としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)フェノキシ樹脂;
(B)エポキシ樹脂;
(C)ゴム及び/又は熱可塑性エラストマー;
(D)導電性粒子;及び
(E)イミダゾール系潜在性硬化剤を含み、
且つ下記要件(a)(b)を充足することができるフィルム状異方導電性接着剤。
(a)最低溶融粘度(V1)が500Pa以上1000Pa以下
(b)最低溶融粘度に到達する温度(T1)が110℃以上125℃以下。
【請求項2】
さらに、下記要件(c)を充足する請求項1に記載のフィルム状異方導電性接着剤。
(c)前記最低溶融粘度到達温度(T1)より5℃高い温度(T2=T1+5℃)における溶融粘度(V2)と前記最低溶融粘度(V1)との差(ΔV=V2−V1)が100Pa・s以上。
【請求項3】
前記(E)成分は、マイクロカプセル型潜在性硬化剤である請求項1又は2に記載のフィルム状異方導電性接着剤。
【請求項4】
前記(A)フェノキシ樹脂の重量平均分子量は4万以上である請求項1〜3のいずれかに記載のフィルム状異方導電性接着剤。
【請求項5】
前記(C)ゴム及び/又は熱可塑性エラストマーは、熱可塑性エラストマーである請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルム状異方導電性接着剤。
【請求項6】
前記(C)熱可塑性エラストマーは、ポリアミド系熱可塑性エラストマーである請求項5に記載のフィルム状異方導電性接着剤。
【請求項7】
前記(B)エポキシ樹脂は、液状エポキシ樹脂及び固形エポキシ樹脂を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載のフィルム状異方導電性接着剤。
【請求項8】
前記導電性粒子は、アスペクト比5以上の粒子である請求項1〜7のいずれか1項に記載のフィルム状異方導電性接着剤。
【請求項9】
複数の電極が並置された2つの回路基板を、前記電極が対向するように向かい合わせ、前記回路基板の間に、請求項1〜8のいずれか1項に記載のフィルム状異方導電性接着剤を配置する工程;及び
150〜220℃の温度、圧力2〜6MPaで、前記フィルム状異方導電性接着剤を10秒未満、加熱加圧する工程
を含む回路基板接合体の製造方法。
【請求項10】
前記加熱加圧は、加圧ツールを用いて、前記回路基板を20〜100mm/secで押圧することにより行う請求項9に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−234804(P2012−234804A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−93456(P2012−93456)
【出願日】平成24年4月17日(2012.4.17)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【復代理人】
【識別番号】100104307
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 尚司
【Fターム(参考)】