フィルム状製剤
【課題】ケトチフェンフマル酸塩を薬物成分として含有し、ケトチフェンフマル酸塩の安定性に優れると共に、不快な味を感じにくい経口投与用のフィルム状製剤を提供する。
【解決手段】可食性で水溶性のフィルム基剤により1μm〜3000μm厚さのフィルム状に形成された経口投与用のフィルム状製剤であって、ケトチフェンフマル酸塩と、ケトチフェンフマル酸塩1gに対して0.7g〜3.6gの割合のグリチルリチン酸塩とを含有している。
【解決手段】可食性で水溶性のフィルム基剤により1μm〜3000μm厚さのフィルム状に形成された経口投与用のフィルム状製剤であって、ケトチフェンフマル酸塩と、ケトチフェンフマル酸塩1gに対して0.7g〜3.6gの割合のグリチルリチン酸塩とを含有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状製剤に関するものであり、特に、薬物成分としてケトチフェンフマル酸塩を含有する経口投与用のフィルム状製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ケトチフェンフマル酸塩は、抗ヒスタミン作用や気管支平滑筋拡張作用を有し、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、湿疹・蕁麻疹・皮膚掻痒症などの皮膚疾患の治療薬及び予防薬として、広く用いられている。ケトチフェンフマル酸塩を含有する製剤の剤形としては、カプセル剤、錠剤、ドライシロップ剤、点眼用や点鼻用の液剤が一般的である。
【0003】
ところで、近年、嚥下困難者に対しても薬物成分を経口投与し易い製剤に対する要請が高まってきている。特に、社会の高齢化の進行に伴い、老化によって嚥下機能が低下した人が増加する傾向にあることから、口腔内で崩壊または溶解し易く、物を飲み込みにくい人であっても服用し易い製剤が、強く要望されている。そして、花粉症などアレルギー性疾患の罹患率は年々増加しつつあり、また、アトピー性皮膚炎は乳幼児に多く、皮膚掻痒症は高齢者に多くみられることから、ケトチフェンフマル酸塩についても、嚥下機能の低い人も含めて誰もが服用し易い剤形の製剤とされることが求められている。
【0004】
本発明者らは、これまで種々の可食性フィルムについて、強度、溶解性、安定性、異なる機能を持たせた複数のフィルムの積層化などの研究を進めてきており、これらの研究に基づく技術の蓄積を活かして、可食性の水溶性フィルムに更に医薬成分を含有させ、口腔内で速やかに崩壊または溶解すると共に実用的な強度を有するフィルム状製剤について提案している(特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ケトチフェンフマル酸塩を含有するフィルム状製剤を、従来と同様の方法で製造しようとしたところ、安定性に欠けるという問題があった。
【0006】
また、口腔内で速やかに崩壊または溶解させるフィルム状製剤の場合、味も速やかに舌に感じられること、及び、フィルム状製剤の場合は舌と接触する表面積が大きく味を感じ易いことから、錠剤など飲み込むタイプの剤形の製剤に比べ、不快な味がしないということが強く要請される。
【0007】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、ケトチフェンフマル酸塩を薬物成分として含有し、ケトチフェンフマル酸塩の安定性に優れると共に、不快な味を感じにくい経口投与用のフィルム状製剤の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるフィルム状製剤は、「可食性で水溶性のフィルム基剤により1μm〜3000μm厚さのフィルム状に形成された経口投与用のフィルム状製剤であって、ケトチフェンフマル酸塩と、ケトチフェンフマル酸塩1gに対して0.7g〜3.6gの割合のグリチルリチン酸塩とを含有している」ものである。
【0009】
「ケトチフェンフマル酸塩」としては、日本薬局方に収載のものを使用することができる。また、「グリチルリチン酸塩」としては、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸二アンモニウムを例示することができる。
【0010】
本発明のフィルム状製剤の「厚さ」は、1μm〜3000μmの範囲内で設定することが可能であるが、ハンドリングのし易さや製造効率を重視する場合は10μm〜1000μmとすれば好適であり、溶解性または崩壊性を重視する場合は5μm〜500μmとすれば好適であり、10μm〜500μmとすれば両要請を兼ね備え、より好適である。
【0011】
「フィルム基剤」は、フィルム形成能を有し、フィルム状製剤におけるフィルムの母体を形成する材料を指している。フィルム基剤は、ケトチフェンフマル酸塩の安定性には影響を及ぼさないと考えられ、製剤分野で一般的に使用されているものを使用することができるが、不快な味がしないフィルム製剤とするためには、実質的に味のないフィルム基剤が望ましい。例えば、「可食性で水溶性のフィルム基剤」としては、ゼラチン、ペクチン、アラビノキシラン、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、グ アーガム、プルラン、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、水溶性ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロー ス、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等を使用することができる。
【0012】
本発明者らは、ケトチフェンフマル酸塩を含有するフィルムに、ケトチフェンフマル酸塩1gに対して0.7g以上の割合でグリチルリチン酸塩を含有させることにより、ケトチフェンフマル酸塩を安定化することができ、長期間の保存が可能となることを見出した。
【0013】
一方、本発明は、ケトチフェンフマル酸塩の安定性を高めることに加えて、製剤の剤形がフィルム状であるがために要請される、不快な味がしないという課題を有している。すなわち、水溶性のフィルムは口腔内の唾液によって容易に溶解または崩壊するため、舌の上に速やかに味が広がり易い。また、フィルム状製剤の場合は舌と接触する表面積が大きく味を感じ易い。加えて、グリチルリチン酸塩はカンゾウに含まれる成分であって、くせのある特有の甘みを有しており、この味は一般的に不快な甘みとして好まれない。
【0014】
ここで、製剤分野においては、成分の味が好ましくない場合、矯味剤や甘味剤を添加することが多い。これは、いわば、より強い味で好ましくない味を隠蔽しようとするものであり、味の濃いものになり易く組成も複雑となる。これに対し、本発明者らは、他の成分を敢えて添加しなくても、ケトチフェンフマル酸塩1gに対するグリチルリチン酸塩の割合を0.7g〜3.6gとすることにより、ケトチフェンフマル酸塩の安定性を高めるという効果を損なうことなく、不快な味を感じにくいフィルム状製剤を実現できることを見出した。
【0015】
従って、上記構成の本発明によれば、嚥下機能の低い人であっても服用し易く、ケトチフェンフマル酸塩を薬物成分として安定的に含有すると共に、口腔内で速やかに溶解または崩壊しても、不快な味を感じにくいフィルム状製剤を提供することができる。
【0016】
なお、本発明のフィルム状製剤は、上記構成に加え、可塑剤、賦形剤、乳化剤、着色剤、香料、防腐剤等の添加剤を適量含有させることができる。例えば、可塑剤として、マクロゴール、グリセリン、プロピレングリコール等を、賦形剤として、マンニトール、乳糖、果糖、ショ糖、ブドウ糖、トレハロース等の糖類、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コムギデンプン等のデンプン類、結晶セルロース、粉末セルロース等のセルロース類、タルク、酸化チタン、カルメロースナトリウム、エチルセルロース、部分アルファー化デンプン、アルファー化デンプン、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、デキストリン、ゼラチン、プルラン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシビニルポリマー等を、乳化剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等を、着色剤として、食用色素、食用レーキ色素、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄等を、香料として、ウイキョウ油、オレンジ油、カミツレ油、スペアミント油、ケイヒ油、チョウジ油、ハッカ油、ベルガモット油、ユーカリ油、ラベンダー油、レモン油、ローズ油、ローマカミツレ油等を、防腐剤として、安息香酸、安息香酸ナトリウム、安息香酸ベンジル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル等を使用することができる。これらの添加剤は単独で使用し、あるいは併用することができる。
【0017】
また、本発明は、上記のように甘味剤や嬌味剤を添加しなくても、不快な味を感じにくいフィルム状製剤を実現できるものではあるが、甘味剤や嬌味剤を添加することを排除するものではない。例えば、甘味剤として、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア、ソーマチン、スクラロース等を、矯味剤として、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等を、単独または併用して使用することが可能である。
【0018】
本発明にかかるフィルム状製剤は、「前記フィルム基剤として、ヒプロメロース及び/又はヒドロキシプロピルセルロースを含有する」ものとすることができる。
【0019】
「ヒプロメロース」には、2910,2906,2208の置換度タイプがあるが、製剤分野で一般的に使用されているものを何れも使用することができる。例えば、置換度タイプ2910としては、信越化学製METOLOSE 60SH−50(粘度50mPa・s)、60SH−4000(粘度4000mPa・s)、60SH−10000(粘度10000mPa・s)、信越化学製TC−5E(粘度3.0mPa・s)、TC−5M(粘度4.5mPa・s)、TC−5R(粘度6.0mPa・s)、TC−5S(粘度15.0mPa・s)、置換度タイプ2906としては、信越化学製METOLOSE 65SH−50(粘度50mPa・s)、65SH−400(粘度400mPa・s)、65SH−1500(粘度1500mPa・s)、65SH−4000(粘度4000mPa・s)、置換度タイプ2208としては、信越化学製METOLOSE SR 90SH−100(粘度100mPa・s)、90SH−4000(粘度4000mPa・s)、90SH−15000(粘度15000mPa・s)、90SH−100000(粘度100000mPa・s)、信越化学製SB−4(粘度4.0mPa・s)等を使用可能である。なお、粘度は、日本薬局方の規定する20℃における2%水溶液の粘度であり、以下でも同様である。
【0020】
「ヒドロキシプロピルセルロース」は、製剤分野で一般的に使用されているものを何れも使用することができる。例えば、日本曹達製HPC−SSL(粘度2.0〜2.9mPa・s)、HPC−SL(粘度3.0〜5.9mPa・s)、HPC−L(粘度6.0〜10.0mPa・s)、HPC−M(粘度150〜400mPa・s)、HPC−H(粘度1000〜4000mPa・s)等を使用可能である。
【0021】
ヒプロメロース及び/又はヒドロキシプロピルセルロースは、共にフィルム形成能に優れ、形成されたフィルムは水溶性が高いため、上述の作用効果を奏する本発明のフィルム状製剤のフィルム基剤として適している。
【0022】
また、第十三改正日本薬局方ではヒドロキシプロプルセルロースについて、「白色〜帯黄色の白色の粉末で、におい及び味はない」と記述されており、第十四改正日本薬局方ではヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロースの旧称)について、「白色〜帯黄白色の粉末又は粒で、においはないか、又はわずかに特異なにおいがあり、味はない。」と記述されているように、ヒプロメロースとヒドロキシプロピルセルロースは何れも味がないため、不快な味がしないことを課題とする本発明のフィルム状製剤のフィルム基剤として、適している。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明の効果として、ケトチフェンフマル酸塩を薬物成分として含有し、ケトチフェンフマル酸塩の安定性に優れると共に、不快な味を感じにくい経口投与用のフィルム状製剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】表1の組成についてグリチルリチン酸二カリウムの添加量とケトチフェンフマル酸塩の残存率との関係を示すグラフである。
【図2】表2の組成についてグリチルリチン酸二カリウムの添加量とケトチフェンフマル酸塩の残存率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態であるフィルム状製剤について説明する。本実施形態のフィルム状製剤は、可食性で水溶性のフィルム基剤により1μm〜3000μm厚さのフィルム状に形成された経口投与用のフィルム状製剤であって、ケトチフェンフマル酸塩と、ケトチフェンフマル酸塩1gに対して0.7g〜3.6gの割合のグリチルリチン酸塩とを含有している。また、本実施形態では、フィルム基剤として、ヒプロメロース及び/又はヒドロキシプロピルセルロースを含有している。
【0026】
ここで、本実施形態のフィルム状製剤は、ケトチフェンフマル酸塩、ヒプロメロース及び/又はヒドロキシプロプルセルロース、及びグリチルリチン酸塩を含む混合液を調製する混合液調製工程と、混合液をベースフィルム上に流延する流延工程と、流延された混合液を乾燥させてフィルム化する乾燥工程と、形成されたフィルム状製剤をベースフィルムから剥離する剥離工程と、フィルム状製剤を所定のサイズにカットする切断工程とを具備する製造方法により製造することができる。
【0027】
より詳細に説明すると、混合液調製工程では、ケトチフェンフマル酸塩、ヒプロメロース及び/又はヒドロキシプロプルセルロース、グリチルリチン酸塩、及び適宜の添加剤を、水または有機溶媒と混合・撹拌して溶液または懸濁液とし、脱泡処理して、混合液を調製する。
【0028】
流延工程では、平滑な平面にベースフィルムを固定し、調製された混合液をベースフィルム上に均一にコーティングする。ここで、ベースフィルムは、フィルム状製剤の原液である混合液をその上面に流延することにより、フィルムを成形する原型となる面を構成するフィルムであり、例えば、鏡面研磨したステンレス製のベルトやドラム等の平滑な面上に固定された、ポリエチレンテレフタレートやポリプロピレン等のプラスチックフィルムを使用することができる。なお、フィルム状製剤の厚さは、混合液の濃度、粘度、コーティング速度に依存するため、所望の厚さとなるように調整する。
【0029】
乾燥工程では、例えば、温度及び湿度が調整された空気の対流、遠赤外線の照射によって、流延された溶液をベースフィルムごと乾燥させることにより、混合液がフィルム化され、フィルム状製剤を得ることができる。なお、剥離工程と切断工程の順序を逆とし、或いは、生産者側では剥離工程を行わない構成とすることもできる。例えば、ベースフィルムに貼着された状態でフィルム状製剤を保存し、服用時にベースフィルムからフィルム状製剤を剥離するタイプの製剤とすることもできる。
【0030】
次に、本実施形態のフィルム状製剤を上記構成とした根拠を説明する。まず、組成の異なるフィルム状製剤について、安定性の検討を行った結果を示す。安定性の検討は、表1及び表2に示す複数の組成について、フィルム状製剤を製造して行った。なお、表1及び表2の何れにおいても、各成分の数値は質量(g)を示している。
【0031】
各組成において、ヒドロキシプロピルセルロースとしては、日本曹達製のHPC−Lを使用し、ヒプロメロースとしては置換度タイプ2910、信越化学製のMETOLOSE 60SH−4000を使用した。
【0032】
各組成について上述のように混合液を調製し、混合液を流延、乾燥して得られた厚さ約100μmのフィルム状製剤を、20mm×15mmのサイズにカットし、下記の方法で安定性試験を行った。
<安定性試験(過酷試験)>
恒温槽を用いて60℃の高温下で保存し、1ヵ月間経過後のケトチフェンフマル酸塩の含有量を測定し、測定結果と試験前のケトチフェンフマル酸塩の含有量とから残存率(%)を算出して安定性の指標とした。なお、ケトチフェンフマル酸塩の含有量は、液体クロマトグラフィーを用いて測定した。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
表1の組成R1,S1〜S3のフィルム状製剤について、安定性試験によるトチフェンフマル酸の残存率を図1に示す。ここで、組成S1〜S3はケトチフェンフマル酸塩の安定化剤としてグリチルリチン酸二カリウムを添加し、その添加量を増加させた場合であり、組成R1はグリチルリチン酸塩を含有しない対照用の組成である。
【0036】
図1から明らかなように、組成R1ではケトチフェンフマル酸塩の残存率は90%程度であったが、組成S1〜S3ではグリチルリチン酸二カリウムの添加量の増加に伴って残存率は上昇した。また、図1において各試料の残存率は上に膨らんだ曲線上にのっており、内挿及び外挿により、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの質量約2.5gでケトチフェンフマル酸塩の残存率はほぼ100%に達し、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの質量が少なくとも1〜8gの範囲であれば、97%以上のケトチフェンフマル酸塩の残存率が得られることを読み取ることができる。また、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの質量が0.5〜8gの範囲であれば、93%以上のケトチフェンフマル酸塩の残存率が得られることを読み取ることができる。
【0037】
表2の組成R2,S4〜S6のフィルム状製剤について、安定性試験によるケトチフェンフマル酸塩の残存率を図2に示す。ここで、組成S4〜S6はケトチフェンフマル酸塩の安定化剤としてグリチルリチン酸二カリウムを添加し、その添加量を増加させた場合であり、組成R2はグリチルリチン酸塩を含有しない対照用の組成である。なお、表2の組成は、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウムを、可塑剤としてマクロゴール6000を添加している点で、表1の組成と異なっている。
【0038】
図2から明らかなように、組成R2ではケトチフェンフマル酸塩の残存率は89%程度であったが、組成S4〜S6ではグリチルリチン酸二カリウムの添加量の増加に伴って残存率は上昇した。この残存率の上昇は、図1に示した表1の組成の場合より緩やかであるが、これは添加している界面活性剤及び可塑剤の影響であると推測される。しかしながら、図2において各試料の残存率はやや上に膨らんだ曲線上にのっており、内挿及び外挿により、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの質量1g以上であれば、95%以上のケトチフェンフマル酸塩の残存率が得られることを読み取ることができる。また、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの質量0.7g以上であれば、93%以上のケトチフェンフマル酸塩の残存率が得られることを読み取ることができる。
【0039】
このことから、乳化剤や可塑剤を添加しても、効果がわずかに減少するものの、グリチルリチン酸二カリウムの添加によってケトチフェンフマル酸塩の残存率が上昇する効果は、十分に得られることが確認された。ここで、フィルム状製剤の製造においては、乳化剤の添加により、フィルムの原液である混合液がより調製し易いものとなる。また、製造されたフィルムを口当たりが良い柔軟なものとし、ひび割れや折れを生じにくくするためには、可塑剤の添加が有効である。従って、乳化剤や可塑剤を添加しても、グリチルリチン酸二カリウムの添加によってケトチフェンフマル酸塩の残存率を高めることができることは、剤形がフィルム状である製剤にとって、非常に意義が高い。
【0040】
表1及び表2の組成のフィルム状製剤についての検討結果を考え合わせると、ケトチフェンフマル酸塩1g当たり1〜8gの割合でグリチルリチン酸二カリウムを添加することにより、ケトチフェンフマル酸塩の残存率を95%以上の高率とすることができる。また、ケトチフェンフマル酸塩1g当たり0.7〜8gの割合でグリチルリチン酸二カリウムを添加することにより、ケトチフェンフマル酸塩の残存率93%を確保することができる。
【0041】
次に、フィル状製剤の味覚についての検討結果を示す。検討は、上記組成のフィルム状製剤R1、S1〜S4を被験者A,B,Cの三名に経口投与し、その際の味の印象を評価してもらうことにより行った。その結果を表3に示す。ここで、味の評価は、以下の三段階とした。
「○」不快な味を感じないか、ほとんど感じない。
「△」わずかに不快な味を感じるが、許容できる。
「×」不快な味を感じ、許容できない。
【0042】
【表3】
【0043】
表3に示すように、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの割合が3.6g以下であれば、ほとんどの人にとって不快な味はしないか許容できる程度であり、1.5g以下であれば、全てと言ってよい割合の人にとって、不快な味はしないか許容できる程度であると考えられた。
【0044】
なお、フィルム状製剤S4は、他のフィルム状製剤R1,S1〜S3と異なり、乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウム及び可塑剤としてマクロゴール6000を含有しているが、グリチルリチン酸二カリウムが添加されていないフィルム状製剤R1と同様に、不快な味を感じないか、ほとんど感じないものであった。このことから、ラウリル硫酸ナトリウム及びマクロゴール6000は、フィルム状製剤の味には影響を与えないと考えられた。
【0045】
上記の安定性に関する検討結果と、味覚に関する検討結果を考え合わせると、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの割合が、0.7〜3.6gであれば、ケトチフェンフマル酸塩の残存率93%を確保できると共に、ほとんどの人が不快な味を感じにくいと考えられた。そして、ケトチフェンフマル酸塩の安定性を重視する場合は、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの割合を1〜3.6gとし、味覚を重視する場合はケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの割合を0.7〜1.5gとするのが望ましいと考えられた。更に、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの割合を1〜1.5gとすれば、ケトチフェンフマル酸塩の残存率95%以上という高い安定性と、全てと言ってよい割合の人が不快な味を感じにくいという効果の二つを、兼ね備えるフィルム状製剤を実現することができると考えられた。
【0046】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0047】
例えば、上記ではグリチルリチン酸塩としてグリチルリチン酸二カリウムを用いた場合を例示したが、ナトリウム塩やアンモニウム塩を用いても同様の作用効果が得られると考えられる。このような場合、グリチルリチン酸二カリウムの添加量として望ましい範囲を、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりの質量として表した上記の数値範囲は、正確にはそのまま適用できないこととなるが、グリチルリチン酸二カリウムの分子量は約899と大きいため、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩と塩の種類が異なったとしても、大差なく上記の数値範囲を適用可能であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0048】
【特許文献1】特開2008−169138号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状製剤に関するものであり、特に、薬物成分としてケトチフェンフマル酸塩を含有する経口投与用のフィルム状製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ケトチフェンフマル酸塩は、抗ヒスタミン作用や気管支平滑筋拡張作用を有し、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、湿疹・蕁麻疹・皮膚掻痒症などの皮膚疾患の治療薬及び予防薬として、広く用いられている。ケトチフェンフマル酸塩を含有する製剤の剤形としては、カプセル剤、錠剤、ドライシロップ剤、点眼用や点鼻用の液剤が一般的である。
【0003】
ところで、近年、嚥下困難者に対しても薬物成分を経口投与し易い製剤に対する要請が高まってきている。特に、社会の高齢化の進行に伴い、老化によって嚥下機能が低下した人が増加する傾向にあることから、口腔内で崩壊または溶解し易く、物を飲み込みにくい人であっても服用し易い製剤が、強く要望されている。そして、花粉症などアレルギー性疾患の罹患率は年々増加しつつあり、また、アトピー性皮膚炎は乳幼児に多く、皮膚掻痒症は高齢者に多くみられることから、ケトチフェンフマル酸塩についても、嚥下機能の低い人も含めて誰もが服用し易い剤形の製剤とされることが求められている。
【0004】
本発明者らは、これまで種々の可食性フィルムについて、強度、溶解性、安定性、異なる機能を持たせた複数のフィルムの積層化などの研究を進めてきており、これらの研究に基づく技術の蓄積を活かして、可食性の水溶性フィルムに更に医薬成分を含有させ、口腔内で速やかに崩壊または溶解すると共に実用的な強度を有するフィルム状製剤について提案している(特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ケトチフェンフマル酸塩を含有するフィルム状製剤を、従来と同様の方法で製造しようとしたところ、安定性に欠けるという問題があった。
【0006】
また、口腔内で速やかに崩壊または溶解させるフィルム状製剤の場合、味も速やかに舌に感じられること、及び、フィルム状製剤の場合は舌と接触する表面積が大きく味を感じ易いことから、錠剤など飲み込むタイプの剤形の製剤に比べ、不快な味がしないということが強く要請される。
【0007】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、ケトチフェンフマル酸塩を薬物成分として含有し、ケトチフェンフマル酸塩の安定性に優れると共に、不快な味を感じにくい経口投与用のフィルム状製剤の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるフィルム状製剤は、「可食性で水溶性のフィルム基剤により1μm〜3000μm厚さのフィルム状に形成された経口投与用のフィルム状製剤であって、ケトチフェンフマル酸塩と、ケトチフェンフマル酸塩1gに対して0.7g〜3.6gの割合のグリチルリチン酸塩とを含有している」ものである。
【0009】
「ケトチフェンフマル酸塩」としては、日本薬局方に収載のものを使用することができる。また、「グリチルリチン酸塩」としては、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸二アンモニウムを例示することができる。
【0010】
本発明のフィルム状製剤の「厚さ」は、1μm〜3000μmの範囲内で設定することが可能であるが、ハンドリングのし易さや製造効率を重視する場合は10μm〜1000μmとすれば好適であり、溶解性または崩壊性を重視する場合は5μm〜500μmとすれば好適であり、10μm〜500μmとすれば両要請を兼ね備え、より好適である。
【0011】
「フィルム基剤」は、フィルム形成能を有し、フィルム状製剤におけるフィルムの母体を形成する材料を指している。フィルム基剤は、ケトチフェンフマル酸塩の安定性には影響を及ぼさないと考えられ、製剤分野で一般的に使用されているものを使用することができるが、不快な味がしないフィルム製剤とするためには、実質的に味のないフィルム基剤が望ましい。例えば、「可食性で水溶性のフィルム基剤」としては、ゼラチン、ペクチン、アラビノキシラン、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、グ アーガム、プルラン、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、水溶性ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロー ス、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等を使用することができる。
【0012】
本発明者らは、ケトチフェンフマル酸塩を含有するフィルムに、ケトチフェンフマル酸塩1gに対して0.7g以上の割合でグリチルリチン酸塩を含有させることにより、ケトチフェンフマル酸塩を安定化することができ、長期間の保存が可能となることを見出した。
【0013】
一方、本発明は、ケトチフェンフマル酸塩の安定性を高めることに加えて、製剤の剤形がフィルム状であるがために要請される、不快な味がしないという課題を有している。すなわち、水溶性のフィルムは口腔内の唾液によって容易に溶解または崩壊するため、舌の上に速やかに味が広がり易い。また、フィルム状製剤の場合は舌と接触する表面積が大きく味を感じ易い。加えて、グリチルリチン酸塩はカンゾウに含まれる成分であって、くせのある特有の甘みを有しており、この味は一般的に不快な甘みとして好まれない。
【0014】
ここで、製剤分野においては、成分の味が好ましくない場合、矯味剤や甘味剤を添加することが多い。これは、いわば、より強い味で好ましくない味を隠蔽しようとするものであり、味の濃いものになり易く組成も複雑となる。これに対し、本発明者らは、他の成分を敢えて添加しなくても、ケトチフェンフマル酸塩1gに対するグリチルリチン酸塩の割合を0.7g〜3.6gとすることにより、ケトチフェンフマル酸塩の安定性を高めるという効果を損なうことなく、不快な味を感じにくいフィルム状製剤を実現できることを見出した。
【0015】
従って、上記構成の本発明によれば、嚥下機能の低い人であっても服用し易く、ケトチフェンフマル酸塩を薬物成分として安定的に含有すると共に、口腔内で速やかに溶解または崩壊しても、不快な味を感じにくいフィルム状製剤を提供することができる。
【0016】
なお、本発明のフィルム状製剤は、上記構成に加え、可塑剤、賦形剤、乳化剤、着色剤、香料、防腐剤等の添加剤を適量含有させることができる。例えば、可塑剤として、マクロゴール、グリセリン、プロピレングリコール等を、賦形剤として、マンニトール、乳糖、果糖、ショ糖、ブドウ糖、トレハロース等の糖類、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コムギデンプン等のデンプン類、結晶セルロース、粉末セルロース等のセルロース類、タルク、酸化チタン、カルメロースナトリウム、エチルセルロース、部分アルファー化デンプン、アルファー化デンプン、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、デキストリン、ゼラチン、プルラン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシビニルポリマー等を、乳化剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等を、着色剤として、食用色素、食用レーキ色素、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄等を、香料として、ウイキョウ油、オレンジ油、カミツレ油、スペアミント油、ケイヒ油、チョウジ油、ハッカ油、ベルガモット油、ユーカリ油、ラベンダー油、レモン油、ローズ油、ローマカミツレ油等を、防腐剤として、安息香酸、安息香酸ナトリウム、安息香酸ベンジル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル等を使用することができる。これらの添加剤は単独で使用し、あるいは併用することができる。
【0017】
また、本発明は、上記のように甘味剤や嬌味剤を添加しなくても、不快な味を感じにくいフィルム状製剤を実現できるものではあるが、甘味剤や嬌味剤を添加することを排除するものではない。例えば、甘味剤として、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア、ソーマチン、スクラロース等を、矯味剤として、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等を、単独または併用して使用することが可能である。
【0018】
本発明にかかるフィルム状製剤は、「前記フィルム基剤として、ヒプロメロース及び/又はヒドロキシプロピルセルロースを含有する」ものとすることができる。
【0019】
「ヒプロメロース」には、2910,2906,2208の置換度タイプがあるが、製剤分野で一般的に使用されているものを何れも使用することができる。例えば、置換度タイプ2910としては、信越化学製METOLOSE 60SH−50(粘度50mPa・s)、60SH−4000(粘度4000mPa・s)、60SH−10000(粘度10000mPa・s)、信越化学製TC−5E(粘度3.0mPa・s)、TC−5M(粘度4.5mPa・s)、TC−5R(粘度6.0mPa・s)、TC−5S(粘度15.0mPa・s)、置換度タイプ2906としては、信越化学製METOLOSE 65SH−50(粘度50mPa・s)、65SH−400(粘度400mPa・s)、65SH−1500(粘度1500mPa・s)、65SH−4000(粘度4000mPa・s)、置換度タイプ2208としては、信越化学製METOLOSE SR 90SH−100(粘度100mPa・s)、90SH−4000(粘度4000mPa・s)、90SH−15000(粘度15000mPa・s)、90SH−100000(粘度100000mPa・s)、信越化学製SB−4(粘度4.0mPa・s)等を使用可能である。なお、粘度は、日本薬局方の規定する20℃における2%水溶液の粘度であり、以下でも同様である。
【0020】
「ヒドロキシプロピルセルロース」は、製剤分野で一般的に使用されているものを何れも使用することができる。例えば、日本曹達製HPC−SSL(粘度2.0〜2.9mPa・s)、HPC−SL(粘度3.0〜5.9mPa・s)、HPC−L(粘度6.0〜10.0mPa・s)、HPC−M(粘度150〜400mPa・s)、HPC−H(粘度1000〜4000mPa・s)等を使用可能である。
【0021】
ヒプロメロース及び/又はヒドロキシプロピルセルロースは、共にフィルム形成能に優れ、形成されたフィルムは水溶性が高いため、上述の作用効果を奏する本発明のフィルム状製剤のフィルム基剤として適している。
【0022】
また、第十三改正日本薬局方ではヒドロキシプロプルセルロースについて、「白色〜帯黄色の白色の粉末で、におい及び味はない」と記述されており、第十四改正日本薬局方ではヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロースの旧称)について、「白色〜帯黄白色の粉末又は粒で、においはないか、又はわずかに特異なにおいがあり、味はない。」と記述されているように、ヒプロメロースとヒドロキシプロピルセルロースは何れも味がないため、不快な味がしないことを課題とする本発明のフィルム状製剤のフィルム基剤として、適している。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明の効果として、ケトチフェンフマル酸塩を薬物成分として含有し、ケトチフェンフマル酸塩の安定性に優れると共に、不快な味を感じにくい経口投与用のフィルム状製剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】表1の組成についてグリチルリチン酸二カリウムの添加量とケトチフェンフマル酸塩の残存率との関係を示すグラフである。
【図2】表2の組成についてグリチルリチン酸二カリウムの添加量とケトチフェンフマル酸塩の残存率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態であるフィルム状製剤について説明する。本実施形態のフィルム状製剤は、可食性で水溶性のフィルム基剤により1μm〜3000μm厚さのフィルム状に形成された経口投与用のフィルム状製剤であって、ケトチフェンフマル酸塩と、ケトチフェンフマル酸塩1gに対して0.7g〜3.6gの割合のグリチルリチン酸塩とを含有している。また、本実施形態では、フィルム基剤として、ヒプロメロース及び/又はヒドロキシプロピルセルロースを含有している。
【0026】
ここで、本実施形態のフィルム状製剤は、ケトチフェンフマル酸塩、ヒプロメロース及び/又はヒドロキシプロプルセルロース、及びグリチルリチン酸塩を含む混合液を調製する混合液調製工程と、混合液をベースフィルム上に流延する流延工程と、流延された混合液を乾燥させてフィルム化する乾燥工程と、形成されたフィルム状製剤をベースフィルムから剥離する剥離工程と、フィルム状製剤を所定のサイズにカットする切断工程とを具備する製造方法により製造することができる。
【0027】
より詳細に説明すると、混合液調製工程では、ケトチフェンフマル酸塩、ヒプロメロース及び/又はヒドロキシプロプルセルロース、グリチルリチン酸塩、及び適宜の添加剤を、水または有機溶媒と混合・撹拌して溶液または懸濁液とし、脱泡処理して、混合液を調製する。
【0028】
流延工程では、平滑な平面にベースフィルムを固定し、調製された混合液をベースフィルム上に均一にコーティングする。ここで、ベースフィルムは、フィルム状製剤の原液である混合液をその上面に流延することにより、フィルムを成形する原型となる面を構成するフィルムであり、例えば、鏡面研磨したステンレス製のベルトやドラム等の平滑な面上に固定された、ポリエチレンテレフタレートやポリプロピレン等のプラスチックフィルムを使用することができる。なお、フィルム状製剤の厚さは、混合液の濃度、粘度、コーティング速度に依存するため、所望の厚さとなるように調整する。
【0029】
乾燥工程では、例えば、温度及び湿度が調整された空気の対流、遠赤外線の照射によって、流延された溶液をベースフィルムごと乾燥させることにより、混合液がフィルム化され、フィルム状製剤を得ることができる。なお、剥離工程と切断工程の順序を逆とし、或いは、生産者側では剥離工程を行わない構成とすることもできる。例えば、ベースフィルムに貼着された状態でフィルム状製剤を保存し、服用時にベースフィルムからフィルム状製剤を剥離するタイプの製剤とすることもできる。
【0030】
次に、本実施形態のフィルム状製剤を上記構成とした根拠を説明する。まず、組成の異なるフィルム状製剤について、安定性の検討を行った結果を示す。安定性の検討は、表1及び表2に示す複数の組成について、フィルム状製剤を製造して行った。なお、表1及び表2の何れにおいても、各成分の数値は質量(g)を示している。
【0031】
各組成において、ヒドロキシプロピルセルロースとしては、日本曹達製のHPC−Lを使用し、ヒプロメロースとしては置換度タイプ2910、信越化学製のMETOLOSE 60SH−4000を使用した。
【0032】
各組成について上述のように混合液を調製し、混合液を流延、乾燥して得られた厚さ約100μmのフィルム状製剤を、20mm×15mmのサイズにカットし、下記の方法で安定性試験を行った。
<安定性試験(過酷試験)>
恒温槽を用いて60℃の高温下で保存し、1ヵ月間経過後のケトチフェンフマル酸塩の含有量を測定し、測定結果と試験前のケトチフェンフマル酸塩の含有量とから残存率(%)を算出して安定性の指標とした。なお、ケトチフェンフマル酸塩の含有量は、液体クロマトグラフィーを用いて測定した。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
表1の組成R1,S1〜S3のフィルム状製剤について、安定性試験によるトチフェンフマル酸の残存率を図1に示す。ここで、組成S1〜S3はケトチフェンフマル酸塩の安定化剤としてグリチルリチン酸二カリウムを添加し、その添加量を増加させた場合であり、組成R1はグリチルリチン酸塩を含有しない対照用の組成である。
【0036】
図1から明らかなように、組成R1ではケトチフェンフマル酸塩の残存率は90%程度であったが、組成S1〜S3ではグリチルリチン酸二カリウムの添加量の増加に伴って残存率は上昇した。また、図1において各試料の残存率は上に膨らんだ曲線上にのっており、内挿及び外挿により、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの質量約2.5gでケトチフェンフマル酸塩の残存率はほぼ100%に達し、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの質量が少なくとも1〜8gの範囲であれば、97%以上のケトチフェンフマル酸塩の残存率が得られることを読み取ることができる。また、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの質量が0.5〜8gの範囲であれば、93%以上のケトチフェンフマル酸塩の残存率が得られることを読み取ることができる。
【0037】
表2の組成R2,S4〜S6のフィルム状製剤について、安定性試験によるケトチフェンフマル酸塩の残存率を図2に示す。ここで、組成S4〜S6はケトチフェンフマル酸塩の安定化剤としてグリチルリチン酸二カリウムを添加し、その添加量を増加させた場合であり、組成R2はグリチルリチン酸塩を含有しない対照用の組成である。なお、表2の組成は、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウムを、可塑剤としてマクロゴール6000を添加している点で、表1の組成と異なっている。
【0038】
図2から明らかなように、組成R2ではケトチフェンフマル酸塩の残存率は89%程度であったが、組成S4〜S6ではグリチルリチン酸二カリウムの添加量の増加に伴って残存率は上昇した。この残存率の上昇は、図1に示した表1の組成の場合より緩やかであるが、これは添加している界面活性剤及び可塑剤の影響であると推測される。しかしながら、図2において各試料の残存率はやや上に膨らんだ曲線上にのっており、内挿及び外挿により、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの質量1g以上であれば、95%以上のケトチフェンフマル酸塩の残存率が得られることを読み取ることができる。また、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの質量0.7g以上であれば、93%以上のケトチフェンフマル酸塩の残存率が得られることを読み取ることができる。
【0039】
このことから、乳化剤や可塑剤を添加しても、効果がわずかに減少するものの、グリチルリチン酸二カリウムの添加によってケトチフェンフマル酸塩の残存率が上昇する効果は、十分に得られることが確認された。ここで、フィルム状製剤の製造においては、乳化剤の添加により、フィルムの原液である混合液がより調製し易いものとなる。また、製造されたフィルムを口当たりが良い柔軟なものとし、ひび割れや折れを生じにくくするためには、可塑剤の添加が有効である。従って、乳化剤や可塑剤を添加しても、グリチルリチン酸二カリウムの添加によってケトチフェンフマル酸塩の残存率を高めることができることは、剤形がフィルム状である製剤にとって、非常に意義が高い。
【0040】
表1及び表2の組成のフィルム状製剤についての検討結果を考え合わせると、ケトチフェンフマル酸塩1g当たり1〜8gの割合でグリチルリチン酸二カリウムを添加することにより、ケトチフェンフマル酸塩の残存率を95%以上の高率とすることができる。また、ケトチフェンフマル酸塩1g当たり0.7〜8gの割合でグリチルリチン酸二カリウムを添加することにより、ケトチフェンフマル酸塩の残存率93%を確保することができる。
【0041】
次に、フィル状製剤の味覚についての検討結果を示す。検討は、上記組成のフィルム状製剤R1、S1〜S4を被験者A,B,Cの三名に経口投与し、その際の味の印象を評価してもらうことにより行った。その結果を表3に示す。ここで、味の評価は、以下の三段階とした。
「○」不快な味を感じないか、ほとんど感じない。
「△」わずかに不快な味を感じるが、許容できる。
「×」不快な味を感じ、許容できない。
【0042】
【表3】
【0043】
表3に示すように、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの割合が3.6g以下であれば、ほとんどの人にとって不快な味はしないか許容できる程度であり、1.5g以下であれば、全てと言ってよい割合の人にとって、不快な味はしないか許容できる程度であると考えられた。
【0044】
なお、フィルム状製剤S4は、他のフィルム状製剤R1,S1〜S3と異なり、乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウム及び可塑剤としてマクロゴール6000を含有しているが、グリチルリチン酸二カリウムが添加されていないフィルム状製剤R1と同様に、不快な味を感じないか、ほとんど感じないものであった。このことから、ラウリル硫酸ナトリウム及びマクロゴール6000は、フィルム状製剤の味には影響を与えないと考えられた。
【0045】
上記の安定性に関する検討結果と、味覚に関する検討結果を考え合わせると、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの割合が、0.7〜3.6gであれば、ケトチフェンフマル酸塩の残存率93%を確保できると共に、ほとんどの人が不快な味を感じにくいと考えられた。そして、ケトチフェンフマル酸塩の安定性を重視する場合は、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの割合を1〜3.6gとし、味覚を重視する場合はケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの割合を0.7〜1.5gとするのが望ましいと考えられた。更に、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりのグリチルリチン酸二カリウムの割合を1〜1.5gとすれば、ケトチフェンフマル酸塩の残存率95%以上という高い安定性と、全てと言ってよい割合の人が不快な味を感じにくいという効果の二つを、兼ね備えるフィルム状製剤を実現することができると考えられた。
【0046】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0047】
例えば、上記ではグリチルリチン酸塩としてグリチルリチン酸二カリウムを用いた場合を例示したが、ナトリウム塩やアンモニウム塩を用いても同様の作用効果が得られると考えられる。このような場合、グリチルリチン酸二カリウムの添加量として望ましい範囲を、ケトチフェンフマル酸塩1g当たりの質量として表した上記の数値範囲は、正確にはそのまま適用できないこととなるが、グリチルリチン酸二カリウムの分子量は約899と大きいため、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩と塩の種類が異なったとしても、大差なく上記の数値範囲を適用可能であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0048】
【特許文献1】特開2008−169138号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可食性で水溶性のフィルム基剤により1μm〜3000μm厚さのフィルム状に形成された経口投与用のフィルム状製剤であって、
ケトチフェンフマル酸塩と、
ケトチフェンフマル酸塩1gに対して0.7g〜3.6gの割合のグリチルリチン酸塩とを含有している
ことを特徴とするフィルム状製剤。
【請求項2】
前記フィルム基剤として、ヒプロメロース及び/又はヒドロキシプロピルセルロースを含有する
ことを特徴とする請求項1に記載のフィルム状製剤。
【請求項1】
可食性で水溶性のフィルム基剤により1μm〜3000μm厚さのフィルム状に形成された経口投与用のフィルム状製剤であって、
ケトチフェンフマル酸塩と、
ケトチフェンフマル酸塩1gに対して0.7g〜3.6gの割合のグリチルリチン酸塩とを含有している
ことを特徴とするフィルム状製剤。
【請求項2】
前記フィルム基剤として、ヒプロメロース及び/又はヒドロキシプロピルセルロースを含有する
ことを特徴とする請求項1に記載のフィルム状製剤。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2011−16781(P2011−16781A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164191(P2009−164191)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(591091043)株式会社ツキオカ (38)
【出願人】(390031093)テイカ製薬株式会社 (38)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(591091043)株式会社ツキオカ (38)
【出願人】(390031093)テイカ製薬株式会社 (38)
【Fターム(参考)】
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