説明

フィルム状配線基板の生産工程用テープ

耐熱性、機械特性、成形性、寸法安定性が高く、かつ生産性、作業性に優れ低コストのフィルム状回路基板の生産工程用テープを提供する。
ポリサルフォン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂及びポリエーテル芳香族ケトン樹脂から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂と、板状フィラーとを含有するシートであって、その耐折強さ(JIS P 8155:張力250g、折り曲げ速度;毎分175回、折り曲げ面0.38R)が10回以上であり、線膨張係数が50ppm/℃以下であるシートからなるフィルム状回路基板の生産工程用テープ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は優れた耐熱性、機械強度を必要とするフィルム状配線基板の生産工程用テープに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリエーテル芳香族樹脂は耐熱性、機械特性等に優れたエンジニアリングプラスチックとして広く良く知られている。さらにそれら樹脂の用途拡大のため、ポリエーテル芳香族ケトン樹脂や熱可塑性ポリイミド樹脂のようなスーパーエンジニアリングプラスチックにフィラーを添加し、その諸物性を改良する試みがなされている。例えば、各種無機繊維フィラーを添加しその機械強度や耐熱性を向上させる試みも提案されている(特開昭63−22854号公報)。
【0003】
電子部品に必要なフィルム状の配線基板(以下、単に基板という)の例としては、FPC(フレキシブル配線板)、TAB(テープ・オートメーティッド・ボンディング)やCOF(チップ・オン・フィルム)などと称されるものがある。これらフィルム状基板の生産工程や出荷工程などでは、リードテープやスペーステープなどの生産工程用テープが使用される。これらの生産工程用テープに使用される材料としては、その工程における耐熱温度、機械特性及びコスト等を考慮し、各種の金属や樹脂が採用されている。
【0004】
フィルム状基板の一つであるTABの生産を例にあげると、リール・ツー・リールによる加工生産時に所定工程のリードテープとしてTABの製品自体を用いたり、TABの半製品を用いることがある。この場合、高価なTAB製品の不良を生ずることとなり生産性が低下する。
【0005】
その他、高価な熱硬化性ポリイミド樹脂シートをTAB生産工程時に使用することもある。熱硬化性ポリイミドシートを用いる場合には、機械強度を満たすため比較的厚いシートを用いる必要があり生産コストの点から好ましくない。熱硬化性ポリイミド樹脂シートは溶剤キャスト製法により生産されるため、比較的厚いシートの生産性が低く生産コストが高い。
【0006】
フィルム状基板の生産工程に用いられる他の工程用テープとしては、製品同士の密着を防止するスペーステープがある。耐熱性が必要なスペーステープとしては、SUS等の金属や比較的厚い熱硬化性ポリイミド樹脂シートが挙げられる。しかしながら、これらのシートはいずれも高価で生産コストが大きくなる。また金属製のスペーステープは重量があり生産性が低下する。格別厳しい耐熱性を要求されない場合にはポリエチレンテレフタレートシート等が使用されることもある。
【0007】
このようにフィルム状基板の生産工程に用いられる工程用テープは耐熱性や機械強度を必要とするが、製品そのものをリードテープとして使用して歩留まりの低下を招いたり、また、比較的高価な厚みの大きい熱硬化性ポリイミド樹脂シートの使用により製品コストの上昇を招くなどの問題がある。
【特許文献1】特開昭63−22854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の問題点を解決し、耐熱性、機械特性に優れ、シートの生産性や加工性が高く、かつ低コストなフィルム又はシート用樹脂組成物を提供するものである。また、本発明は、このフィルム又はシートを用いて作製されるフィルム状の基板生産工程用テープを提供するものである。以下、本明細書において「シート」とはフィルムを含む。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、ポリサルフォン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂及びポリエーテル芳香族ケトン樹脂から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂と、板状フィラーとを含有するシートであって、その耐折強さ(JIS P 8155:張力250g、折り曲げ速度;毎分175回、折り曲げ面0.38R)が10回以上であり、線膨張係数が50ppm/℃以下であるシートからなるフィルム状配線基板の生産工程用テープを提供するものである。
また板状フィラーの平均粒径は0.1〜20μmであるのが好ましく、アスペクト比は5以上であるのが好ましい。板状フィラーの添加量は熱可塑性樹脂100重量部に対して5〜60重量部であるのが好ましい。板状フィラーはケイ素、アルミニウム、マグネシウム等の金属酸化物から選ばれた少なくとも1種のフィラーであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の工程用テープは、生産効率の高い溶融押出法により製造できる。また、従来の課題であるフィルム状基板製品の歩留まりが改善されると共に、高価な熱硬化性ポリイミド樹脂シートの使用によるコスト上昇も回避でき、工業的なフィルム状基板生産工程用テープとして好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に用いるポリサルフォン樹脂は特に限定されるものではないが、式(1)〜(8)のいずれかで表わされる繰り返し単位を有するポリサルフォン樹脂が特に好ましい。
【0012】
【化1】

【化2】

【0013】
本発明に用いる熱可塑性ポリイミド樹脂は特に限定されるものではないが、式(9)〜(11)で表される繰り返し単位を有するものが特に好ましい。これらの構造を持つものとして米国GE社製ULTEM(商品名)等がある。その他にもシリコーン変性により柔軟性を付与し耐折強さを向上させたGE社製SILTEM(商品名)等もある。
【0014】
【化3】

【0015】
本発明に用いる熱可塑性ポリエーテル芳香族ケトン樹脂は特に限定されるものではないが、式(12)〜(13)で表される繰返し単位を有するものが好ましい。これらの構造を持つものとしてVICTREX社製PEEK(商品名:商標登録)等がある。
【0016】
【化4】

【0017】
本発明における板状フィラーの添加量は該熱可塑性樹脂100重量部に対して、5〜60重量部であり、好ましくは10〜40重量部である。添加量が前記範囲より少ないと、得られた樹脂組成物の耐熱性、寸法安定性が充分でない。また、添加量が前記の範囲より多い場合には樹脂組成物の成形加工性が低下する。
【0018】
本発明に用いる板状フィラーは、平均粒子径0.1〜20μmのものを用いることが好ましい。さらに好ましくは平均粒子径が0.5〜10μmであり、最も好ましくは2〜8μmである。
【0019】
板状フィラーの平均粒子径が前記の範囲より小さいと工程用テープの耐熱性、寸法安定性等の性能が充分でない。また、樹脂加工時の流動性が悪化し加工が困難となり好ましくない。板状フィラーの平均粒子径が前記範囲より大きな場合、成形品の外観が好ましくなく表面の平滑性が得られにくくなり、また、樹脂加工時の流動性が悪化し加工が困難となり好ましくない。
【0020】
本発明の工程用テープは、板状フィラーにより樹脂組成物の機械強度と寸法安定性が飛躍的に向上する。この板状フィラーは、特に高温領域における工程用テープの使用にあたり樹脂固有の線膨張を抑制し、樹脂の軟化による寸法変化を低減するため機械強度と寸法安定性が向上する。
【0021】
本発明に用いる板状フィラーは基材樹脂に対する分散性に優れ、樹脂中に均一に分散させることができるため、樹脂組成物全体に均等に良好な寸法安定性を付与できる。本発明の樹脂組成物は樹脂と板状フィラーが均一に混合していることが望ましい。
【0022】
本発明に用いる板状フィラーはアスペクト比5以上であるのが好ましい。ここで、板状フィラーのアスペクト比は、平均粒子径/板状フィラーの平均厚みで表わされる。形状が球形に近いアスペクト比5未満の粒子であると、線膨張が充分に低減せず好ましくない。またアスペクト比が100以上で繊維状に近い粒子であると、樹脂の溶融流動性が低下し、樹脂の流動方向に配向が生じ樹脂組成物の異方性が大きくなって均一な機械特性を有するシートが得られない。
【0023】
なお、本発明に用いる板状フィラーの材質は特に限定されるものではないが、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム等の金属酸化物等を主な組成成分とするものが使用できる。これらは単独で用いてもよく併用してもよい。
【0024】
本発明の工程用テープ用の樹脂シートには、その効果を阻害しない限り、必要に応じて繊維補強材(ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、セラミック質繊維、アラミド繊維、ボロン繊維等)、粒状または不定形強化材(炭酸カルシウム、クレー、タルク、マイカ、グラファイト炭素系、二硫化モリブデン等)、導電性向上材(カーボン、酸化亜鉛、酸化チタン等)、熱伝導性向上剤(粉末状金属酸化物等)、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑材、離型剤、染料、顔料、他の熱可塑性樹脂(ポリアミド系、ポリカーボネート系、ポリアセタール系、PET系、PBT系、ポリフェニレンサルファイド系、ポリアリレート系、フッ素系、ポリエーテルニトリル系、液晶ポリマー系等)、熱硬化性樹脂(フェノール系、エポキシ系、シリコン系、ポリアミドイミド系等)を併用しても良い。また、各充填材に対して表面処理を行っても良い。
【0025】
(生産工程用テープの製造)
本発明において樹脂成分と板状フィラーの添加混合・混錬方法は特に限定されることはなく各種混合・混錬手段が用いられる。例えば熱可塑性樹脂にフィラーを添加する場合、各々別々に溶融押出し機に供給して混合してよい。また、あらかじめ粉体原料のみをヘンシェルミキサー、ボールミキサー、ブレンダー、タンブラー等の混合機を用いて乾式予備混錬した後、溶融混錬機を用いて溶融混錬してもよい。
シートの成形方法は基材となる樹脂に適した成形方法を用いることができる。たとえば射出成形、溶融押出し成形、注型成形、圧縮成形、焼結成形、粉体塗装等の各種成形方法が用いられてよい。得られたシートから工程用テープを製造するには、所定幅へのスリット、凹凸金型成型加工、表面導電層、帯電防止層の塗布等の二次加工を行ってもよい。
【0026】
本発明の工程用テープの製造は、原料樹脂を溶融押出成形してシートに成形するのが好ましい。その押出方法、引き取り方法については特に限定されない。シートは単層、多層構成の何れであってもよく特に限定されない。
例えば、熱可塑性樹脂層と熱硬化性ポリイミド樹脂層からなる多層構造のシートを作製するには、熱可塑性樹脂層を溶融押出により作製し、その後で熱硬化性ポリイミド樹脂層を溶剤塗布により積層しても良い。または熱硬化性ポリイミド樹脂シートを熱可塑性樹脂の溶融押出時にラミネート法により貼り合せ積層してもよい。その場合の積層数やラミネート方法については特に限定されないが、熱溶着ラミネートや接着剤を介してのラミネート方法等が実施できる。また本発明における熱可塑性樹脂層を組み合わせて多層構成としても良い。
【0027】
本発明の生産工程用テープには耐熱性が必要である。特に乾燥やベーキング工程等の加熱工程時に、例えばスペーサーとして用いる場合、フィルム状基板とスペーサーテープとの熱時寸法変化の差異ができるだけ少ないことが好ましい。各々の線膨張係数の値が大きく異なると、加熱工程中にフィルム状基板とフィルム状基板生産用スペーサーテープが接触してしまい、スペーサーの機能が得られない。一般的にフィルム状基板は熱硬化ポリイミドや銅箔から構成されており、それらの線膨張係数は20〜30ppm/℃である。したがって本発明工程用テープの線膨張係数は50ppm/℃以下であることが望まれる。好ましくは45ppm/℃以下であり、さらに好ましくは40ppm/℃以下であり、より一層好ましくは35ppm/℃以下である。ただし、かかる物性の適正な範囲は、生産工程用テープと使用されるフィルム状基板との間の相対値によるため一般的には50ppm/℃以下であればほとんどの場合は実使用上問題ないことが多い。一方、本発明におけるシートの線膨張係数が50ppm/℃よりも大きい場合には、加熱工程時でのフィルム状基板との寸法変化の違いが大きくなりすぎて工程時に不具合を発生する。
【0028】
本発明工程用テープの耐折強さは10回以上である事が望ましい。フィルム状基板がリール状で加工される場合に、それらの工程用リードテープやスペーステープもリール状であることが必要となる。耐折強度が10回よりも小さい場合にはリール状で加工するためのロール・ツー・ロールのライン搬送中に割れやすく使用上不具合がある。耐折強さ(回)の値は大きいほど好ましく10回以上であるのが望ましい。特に好ましくは15回以上、さらに好ましくは20回以上である。
【実施例】
【0029】
以下に本発明を実施例、比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。実施例、比較例にて使用した原材料は以下のとおりである。
*1:ポリサルフォン樹脂
ソルベイアドバンストポリマーズ製 UDEL P−1700NT(商品名)
*2:熱可塑性ポリイミド樹脂
GE製 ULTEM CRS5001−1000
*3:ポリエーテル芳香族ケトン樹脂
VICTREX製 PEEK450G(商品名)
*4:ガラス繊維(繊維状)
旭硝子製 RES−TP29 アスペクト比:100以上
*5:アルミナ粒子(粒子状)
アドマテックス製 AO−502 アスペクト比:1
*6:板状タルク(板状)
日本タルク製 MS−1 アスペクト比:17 平均粒径:13μm
*7:板状タルク(板状)
日本タルク製 L−1 アスペクト比:25 平均粒径:5μm
【0030】
表1及び表2に示す配合にて各材料を2軸混錬押出機に供給し、溶融混錬してペレットを製造した。表中、各実施例及び比較例の配合量の数値は重量部である。製造したペレットを単軸押出機とT型ダイス等を用いて溶融押出加工によりシート状サンプルを得た。なお、比較例5については熱プレス加工によりシート状サンプルを得た。
【0031】
各種評価については下記に基づき実施した。
(1)耐折強さ:0.2mm厚みのシート状サンプルを用いて耐折強さを測定
(JIS P 8155準拠)した。
(2)線膨張係数:熱機械分析測定試験機を用い、サンプルの線膨張係数を測定
(JIS K 7196準拠)した。
(3)耐熱性:軟化寸法変化挙動の判定:200℃に加熱し、加熱前後でのサンプル形状変化について、変形のないものを○、変形少ないものを△、変形するものを×とした。
(4)成形性:二軸混錬機および単軸混錬機でのストランド加工およびシート加工成形を行い得られたサンプルの外観を目視で評価。外観良好なものを○、安定した成形品が得られないものについて×とした。
(5)TAB生産工程条件において不具合が発生せず良好に使用できるものを○とし、寸法変化やシートの波うちやたわみによる不具合が発生するものを×とした。シートが脆い為、作業時に割れてしまい評価不可能な場合は××とした。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、耐熱性、機械特性、成形性、寸法安定性、作業性に優れた低コストのフィルム状基板の生産工程用テープが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリサルフォン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂及びポリエーテル芳香族ケトン樹脂から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂と、板状フィラーとを含有するシートであって、その耐折強さ(JIS P 8155:張力250g、折り曲げ速度;毎分175回、折り曲げ面0.38R)が10回以上であり、線膨張係数が50ppm/℃以下であるシートからなるフィルム状配線基板の生産工程用テープ。
【請求項2】
板状フィラーの平均粒径が0.1〜20μmである請求項1のテープ。
【請求項3】
板状フィラーのアスペクト比が5以上である請求項1のテープ。
【請求項4】
板状フィラーの添加量が熱可塑性樹脂100重量部に対して、5〜60重量部である請求項1のテープ。

【国際公開番号】WO2005/054345
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【発行日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515897(P2005−515897)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017046
【国際出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】