説明

フィルム用消臭剤及び消臭フィルム

【課題】硫黄化合物等の悪臭に対しても優れた消臭性能を発揮するとともに、樹脂フィルムを白化させにくいフィルム用消臭剤及び消臭フィルムを提供する。
【解決手段】多孔質無機物質と、アミン化合物と、金属酸化物とを含有する消臭剤において、前記消臭剤を構成する成分の少なくとも1成分は、平均粒径が5μm〜30μmとすることでホルムアルデヒド、アンモニアのみならず硫黄化合物等の悪臭に対しても優れた消臭性能を発揮するとともに、樹脂フィルムを白化させにくいフィルム用消臭剤が得られることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内における空気中の、ホルムアルデヒド、アンモニア、硫黄化合物等の悪臭を効率よく吸着除去することができるフィルム用消臭剤、及びこの消臭剤を付着した消臭フィルムの関する。
【背景技術】
【0002】
現代人にとって生活臭の問題は大きな関心事となってきている。また、住宅に限らず、自動車の室内や、電車、旅客機等の室内空間の様々ないやな臭いに対する消臭の要求も大きくなってきており、様々な悪臭に有効な消臭剤を用いて消臭する方法が開示されている。
【0003】
出願人は、このような要求に答えるべく、特許文献1のような提案を行ってきた。この製造方法で製造した消臭組成物を繊維布帛等に固着させると優れた消臭効果を発揮する。しかしながら、樹脂フィルムに付着させた場合、ホルムアルデヒド、アンモニアに対する消臭性能は優れた効果を発揮するものの、硫黄化合物等の悪臭に対しては消臭性能が劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−094406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、ホルムアルデヒド、アンモニアのみならず硫黄化合物等の悪臭に対しても優れた消臭性能を発揮するとともに、樹脂フィルムを白化させにくいフィルム用消臭剤及び消臭フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明者は、以下の手段を提供する。
【0007】
[1]多孔質無機物質と、アミン化合物と、金属酸化物とを含有する消臭剤において、前記消臭剤を構成する成分の少なくとも1成分は、平均粒径が5μm〜30μmであることを特徴とするフィルム用消臭剤。
【0008】
[2]前記消臭剤が、バインダー樹脂を介してフィルム表面の少なくとも一部に付着していることを特徴とする消臭フィルム。
【0009】
[3]フィルム表面への前記多孔質無機物質の付着量が0.1〜2.0g/m、アミン化合物の付着量が0.1〜1.0g/m、金属酸化物の付着量が0.1〜2.0g/mである前項2に記載の消臭フィルム。
【発明の効果】
【0010】
[1]の発明では、多孔質無機物質と、アミン化合物と、金属酸化物とを含有する消臭剤であるので、ホルムアルデヒド、アンモニアのみならず硫黄化合物等の悪臭ガスに対して優れた消臭性能が得られる。かつ、前記消臭剤を構成する成分の少なくとも1成分は、平均粒径が5μm〜30μmであるので樹脂フィルムに付着させても白化しにくいフィルム用消臭剤とすることができる。
【0011】
[2]の発明では、前記消臭剤が、バインダー樹脂を介してフィルム表面の少なくとも一部に付着しているので、様々な悪臭ガスに対して優れた消臭性能を発揮する消臭フィルムを提供できる。
【0012】
[3]の発明では、フィルム表面への前記多孔質無機物質の付着量が0.1〜2.0g/m、アミン化合物の付着量が0.1〜1.0g/m、金属酸化物の付着量が0.1〜2.0g/mであるので十分な消臭機能を有する消臭フィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の消臭剤を構成する多孔質無機物質は、表面積が大きく、悪臭の吸着能力の優れたものとなる。例えばこのような多孔質無機物質としては、酸化珪素、ゼオライト、多孔質シリカ、活性炭、シリカゲル、麦飯石、珪藻土等が挙げられる。中でも、アンモニアガス、トリメチルアミン等に対して優れた吸着能を有するゼオライトや酸化珪素を用いるのが好ましい。
【0014】
また、ゼオライトは、白色であり繊維に担持させた場合に活性炭よりも布帛の色彩に影響が少ないので良好である。ゼオライトは、ケイ素とアルミニウムが酸素を介して三次元的に結合した骨格構造をしている。この骨格中には分子レベルの穴(細孔)が開き、水や有機分子など様々な分子を骨格中に取り込むことから、吸着剤として非常に有用なものである。ゼオライトには、種々のものが存在し、中でも人工ゼオライトのMFI型ゼオライトは、結晶構造に由来する2種類の細孔が三次元的につながっていることから、吸着剤として非常に効果のあるものとして認められている。本発明では、MFI型ゼオライトを、吸着剤として使用すれば、アンモニア、トリメチルアミン等の塩基性ガスに優れた吸着能を発揮する。
【0015】
本発明の消臭剤を構成するアミン化合物としては、ヒドラジン誘導体あるいは、ポリアミン化合物を担持した無機ケイ素化合物を挙げられる。ヒドラジン誘導体は、例えば、ヒドラジン系化合物と長鎖の脂肪族系化合物とを反応させたもの、あるいはヒドラジン系化合物と芳香族系化合物とを反応させたもの等が挙げられる。中でも、ヒドラジン及びセミカルバジドからなる群より選ばれる1種または2種の化合物と、炭素数8〜16のモノカルボン酸、ジカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、および芳香族ジカルボン酸からなる群より選ばれる1種または2種以上の化合物との反応生成物や、ヒドラジン及びセミカルバジドからなる群より選ばれる1種または2種の化合物と炭素数8〜16のモノグリシジル誘導体及びジグリシジル誘導体からなる群より選ばれる1種または2種以上の化合物との反応生成物が好適である。
【0016】
このようなヒドラジン誘導体を用いることによりアルデヒド類に対して化学反応を起こし優れた吸着作用を発揮し悪臭除去性能を確保することができる。前記反応生成物としては、具体的には、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンニ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等を挙げられる。なお、このようなヒドラジン誘導体の水に対する溶解度は25℃において5g/L以下であるのが望ましい。水に対する溶解度がこの範囲内であれば、洗濯等によって水と接触することがあっても、ヒドラジン誘導体がこの水に溶解して流出してしまうことが防止される。
【0017】
また、ポリアミン化合物を担持した無機ケイ素化合物としては、特に限定されるものではないが、例えばポリアミン化合物を担持した多孔質二酸化ケイ素、ポリアミン化合物を担持したケイ酸アルミニウム等が挙げられる。
【0018】
前記ポリアミン化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、脂環式ポリアミン等が挙げられる。具体的には、例えば、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン等が挙げられる。
【0019】
前記ポリアミン化合物は、特にアルデヒドガスの消臭に有効で、また、無機ケイ素化合物は塩基性ガスの消臭に有効であって、さらに無機多孔質物質と、金属酸化物と、水酸化金属を併用することにより、様々な臭気を効果的に消臭することができる。
【0020】
本発明の消臭剤を構成する金属酸化物としては、例えば酸化亜鉛、酸化チタン、酸化銅、アルミナ、酸化鉄、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物を挙げられるが、これら例示のものに特に限定されるものではない。これら金属酸化物は、硫化水素、メルカプタン等の酸性ガスの分解に優れた効果を発揮する。
【0021】
消臭剤を構成する各成分の平均粒径は5μm〜30μmである。平均粒径が5μm〜30μmであるので、樹脂フィルムに付着したとき、白化しにくく、ざらつき感を受けることなく、風合も良好な樹脂フィルムを得ることができる。中でも、平均粒径は5μm〜15μmにするのが好ましい。
【0022】
多孔質無機物質と、アミン化合物と、金属酸化物の配合比率は特に限定しないが、酸化チタン等の金属酸化物の配合量が増えると、金属酸化物の樹脂フィルムに結合する確率が増え、樹脂フィルムを劣化させる原因となる。また、ゼオライト等の多孔質無機物質の配合量が増えると、樹脂フィルムが白化して好ましくない。また、バインダー樹脂の配合量が増えた場合は、多孔質無機物質や金属酸化物の表面をバインダー樹脂が覆ってしまうことになり、消臭性能が低下することから、多孔質無機物質と、アミン化合物と、金属酸化物ととバインダー樹脂の四者の配合バランスが大切である。消臭成分三種(アミン化合物と、多孔質無機物質と、金属酸化物)とバインダー樹脂の配合比率としては、消臭成分三種/バインダー樹脂=1〜3がよい。
【0023】
多孔質無機物質のフィルム表面への固着量は0.1〜2.0g/mが好ましい。2.0g/mを越えるとザラツキ感が発現し、白色化する。0.1g/mを下回ると消臭効果が減少することとなり好ましくない。アミン化合物のフィルム表面への固着量は0.1〜1.0g/mが好ましい。1.0g/mを越えるとザラツキ感が発現し、白色化する。0.1g/mを下回ると消臭効果が減少することになり好ましくない。また、金属酸化物のフィルム表面への固着量は0.1〜2.0g/mが好ましい。2.0g/mを越えるとザラツキ感が発現し、白色化する。0.1g/mを下回ると消臭効果が減少することになり好ましくない。
【0024】
前記消臭剤のフィルム表面への塗布量は、消臭をする室内空間の大きさによるが、2〜50g/m(乾燥重量)とするのが好ましい。2g/m未満では十分な除去性能が得られなくなるので好ましくない。また、50g/mを超えても大きな消臭性能の向上はなく、徒にコストを増大することになり好ましくない。
【0025】
前記消臭剤の塗布液の作成方法は、まず、多孔質無機物質と、アミン化合物と、金属酸化物とバインダ−樹脂を水に分散させた水分散液からなる処理液を調合する。この時、多孔質無機物質と、アミン化合物と、金属酸化物とバインダ−樹脂を可能な限り分散させることが好ましく、バインダ−樹脂については、水との間でエマルジョン状態を形成することがより好ましい。こうすることにが、より均一に分散させるうえで好ましい。
【0026】
前記バインダ−樹脂は、どのような樹脂でも使用することができる。例えば、自己架橋型アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、グリオキザ−ル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ブタジエン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル−シリコン共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、イソブチレン無水マレイン酸共重合体樹脂、エチレン−スチレン−アクリレート−メタアクリレ−ト共重合体樹脂などが挙げられる。また、これらの樹脂を2種類以上混合してバインダ−樹脂としてもよい。
【0027】
また、前記消臭剤の塗布液には、分散剤や、増粘剤などの各種添加剤を、各種特性向上のため配合してもよい。こうして得られる消臭剤を例えば化粧板、壁装材、床材等のフィルム表面に塗布させる。この塗布する手段としては、特に限定されるものではないが、例えばスプレ−法、浸漬法、コ−ティング法、パディング法等が挙げられる。
【0028】
また、コーティング法は、バインダー樹脂を表面層上に皮膜状に層となって全面接着するよりも、網目状に接着させることが可能な加工方法として有用な加工である。これは、バインダー樹脂が層となって全面接着するのではなく、網目状に接着させることにより、表面層上に消臭、防汚、アレルゲン低減以外の機能性を付与する部分としての空間を残すことができ、例えば難燃性をさらに付与することができる。
【0029】
上記のように、処理液を付与した後に乾燥させるが、乾燥手段としては、加熱処理する方法が乾燥効率から好ましい。加熱処理温度は、100〜180℃とするのが好ましい。この温度での加熱処理によって、消臭剤の固着性をより高め、悪臭除去性能の持続耐久性を一層向上させることができる。
【実施例】
【0030】
次に、この発明の具体的実施例について説明するが、これらの実施例のものに特に限定されるものではない。
<実施例1>
次に、この発明の一例として、平均粒径5μm酸化ケイ素5質量部と、平均粒径1μmヒドラジド化合物3質量部と、平均粒径15μm金属酸化物5質量部とを水77質量部の水を加えた後、攪拌機により攪拌を行い、分散液を得た。この分散液に更にウレタン系バインダー樹脂(固形分50%)15質量部を加え、よく攪拌してから均一な処理液を得た。こうして得られた処理液を6時間放置し、凝集や沈殿の状況を観察し、長期間の液安定性の評価を行い問題ないことを確認した。塗布後の見た目を観察し、問題ないことを確認した。次にポリエステル製のフィルムを用意し、前記処理液をスプレー法によりポリエステル製のフィルム表面に均一塗布し、120℃×5分で乾燥し消臭フィルムを得た。ポリエステル製のフィルムへの付着量は、酸化ケイ素0.5g/m、ヒドラジド化合物0.3g/m、酸化亜鉛0.5g/mであった。
【0031】
<実施例2〜8、比較例1〜6>
実施例1において、処理液の組成を表1のようにした以外は実施例1と同様にして消臭フィルムを得た。各種組成物のポリエステル製のフィルムへの付着量を表2に、各種ガスの消臭試験をおこない悪臭の除去率と処理液安定性及び白化試験の評価を表3にそれぞれ記載した。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
表3から分かるように、実施例1〜8においては、フィルムの白化が抑制されるとともに、アンモニア、硫化水素、アセトアルデヒドに対する消臭性能も良好であったが、比較例1〜6は満足する性能にはならなかった。
【0036】
<消臭試験>
なお上記例における各種消臭性能の測定は次のように行った。
(アンモニア消臭性能)
試験片(10cm×10cm)を内容量500ミリリットルの袋内に入れた後、袋内において濃度が200ppmとなるようにアンモニアガスを注入し、1時間経過後にアンモニアガスの残存濃度を測定し、この測定値よりアンモニアガスを除去した総量を算出し、これよりアンモニアガスの除去率(%)を算出した。
【0037】
(硫化水素消臭性能)
アンモニアガスに代えて硫化水素ガスを用いて袋内において濃度が20ppmとなるように注入した以外は、上記アンモニア消臭性能測定と同様にして硫化水素の除去率(%)を算出した。
【0038】
(アセトアルデヒド消臭性能)
アンモニアガスに代えてアセトアルデヒドガスを用いて袋内において濃度が80ppmとなるように注入し、4時間経過後にアセトアルデヒドガスの残存濃度を測定した以外は、上記アンモニア消臭性能測定と同様にしてアセトアルデヒドの除去率(%)を算出した。
【0039】
そして、除去率が95%以上であるものを「◎」、除去率が90%以上95%未満であるものを「○」、除去率が85%以上90%未満であるものを「△」、除去率が80%以上85%未満であるものを「▽」、除去率が80%未満であるものを「×」と評価した。
【0040】
(処理液安定性)
処理液を常温で6時間放置し、水と分離していないものを「○」、分離したものを「×」と評価した。
【0041】
(白化試験)
処理液をフィルム表面に均一塗布し、乾燥後のフィルム表面に粒が認められないものを「○」、粒が認められたものを「×」と評価した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質無機物質と、アミン化合物と、金属酸化物とを含有する消臭剤において、前記消臭剤を構成する成分の少なくとも1成分は、平均粒径が5μm〜30μmであることを特徴とするフィルム用消臭剤。
【請求項2】
前記消臭剤が、バインダー樹脂を介してフィルム表面の少なくとも一部に付着していることを特徴とする消臭フィルム。
【請求項3】
フィルム表面への前記多孔質無機物質の付着量が0.1〜2.0g/m、アミン化合物の付着量が0.1〜1.0g/m、金属酸化物の付着量が0.1〜2.0g/mである請求項2に記載の消臭フィルム。

【公開番号】特開2013−22322(P2013−22322A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161371(P2011−161371)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(390014487)住江織物株式会社 (294)
【Fターム(参考)】