説明

フィルム用無溶剤型シリコーン剥離剤組成物及びそれを用いてなる剥離フィルム

【課題】プラスチックフィルム基材に対する密着性が良く、しかも剥離性に優れた無溶剤型の硬化性シリコーン剥離剤組成物、及びこの組成物の硬化皮膜が形成されてなる剥離フィルムを提供する。
【解決手段】(A)下記(A1)成分と(A2)成分とをアルカリ触媒を用いて加熱反応させて得られた生成物 100質量部、
(A1)一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有し、該アルケニル基の含有量が0.010〜0.05モル/100gの範囲内であり、25℃における粘度が100〜1,500mPa.sであるジオルガノポリシロキサン 97〜80質量部、
(A2)RSiO1/2単位(ここで、Rは脂肪族不飽和結合を含有しない同種又は異種の炭素数が1から10の1価炭化水素基、または水酸基)及びSiO4/2単位を含有し、RSiO1/2単位とSiO4/2単位とのモル比が0.6〜1.5の範囲内であるポリオルガノシロキサン3〜20質量部、
〔ここで、(A1)成分と(A2)成分の合計量は100質量部である〕
(B)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有し、25℃における粘度が5〜1,000mPa.sであるオルガノハイドロジェンポリシロキサン 0.5〜10質量部、
(C)有効量の付加反応抑制剤、及び
(D)有効量の白金族金属系触媒
を含有し、25℃における粘度が100〜1,500mPa.sの範囲内であることを特徴とする、プラスチックフィルム用の無溶剤型硬化性シリコーン剥離剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフィルムとの密着性が優れた無溶剤型硬化性シリコーン剥離剤組成物およびそれを用いてなる剥離フィルムに関するものである。この組成物の硬化皮膜が基材フィルム上に形成された剥離フィルムはフィルム粘着ラベルやフィルム粘着テープとして好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
従来、紙やプラスチックフィルムなどの基材と粘着性物質との間の接着又は固着を防止することを目的として、基材面にシリコーン組成物の硬化皮膜を形成させて剥離性を付与することが行われている。
【0003】
この場合、基材表面にシリコーン皮膜を形成する方法としては、白金系化合物を触媒として、アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを付加反応させて剥離性皮膜を形成する方法(例えば、特許文献1参照)が広く用いられている。
一方、シリコーン剥離剤は、近年では安全・衛生等の面からトルエン、キシレンなどの有機溶剤を含む溶剤タイプから有機溶剤を含まない無溶剤タイプへの転換が進んでいる。
【0004】
無溶剤型シリコーン組成物としては各種のものが知られている(例えば、特許文献2及び3参照)。しかしながら、これらの組成物は紙基材に対する密着性はよいものの、プラスチックフィルム基材に対する密着性が悪いという問題点があった。
【0005】
上記問題点を解決するために、特許文献4及び5の発明に於いては、分岐構造を有し、アルケニル基含有量の多いオルガノポリシロキサンを用いている。これらの発明では確かにプラスチックフィルム基材に対する密着性は改善されているものの、架橋剤であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンの含有量も多くなることにより、剥離抵抗が大きくなるという問題点があった。
【特許文献1】特開昭47−32072号公報
【特許文献2】特開昭50−141591号公報
【特許文献3】特開昭52−39791号公報
【特許文献4】特開平06−293881号公報
【特許文献5】特開2005−231355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、プラスチックフィルム基材に対する密着性が良く、しかも剥離性に優れた無溶剤型の硬化性シリコーン剥離剤組成物、及びこの組成物の硬化皮膜が形成されてなる剥離フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成するために主成分となるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンに関して種々検討した結果、通常、一般的に常用されるアルケニル基含有の直鎖状ジオルガノポリシロキサンに、いわゆるMQレジン(分岐状又は三次元状の分子構造を有するシロキサン樹脂)を単純に混合した場合にはフィルム基材との密着性が低下するが、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとMQレジンとを、アルカリ触媒を用い加熱反応させることにより得た生成物は、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン構造中にMQレジンが組み込まれることにより、硬化後の皮膜強度が上昇し、さらにMQレジン中のシラノールの縮合により残存シラノール基量も少なくなるため、フィルム基材との密着性が格段に向上することを見出した。また、アルケニル基の含有量を極端に多くする必要がないため、架橋剤として用いるオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量を抑えることができ、剥離性能の低下を防ぐことが可能であることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、
(A)下記(A1)成分と(A2)成分とをアルカリ触媒を用いて加熱反応させて得られた生成物 100質量部、
(A1)一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有し、該アルケニル基の含有量が0.010〜0.05モル/100gの範囲内であり、25℃における粘度が100〜1,500mPa.sであるジオルガノポリシロキサン 97〜80質量部、
(A2)RSiO1/2単位(ここで、Rは脂肪族不飽和結合を含有しない同種又は異種の炭素数が1から10の1価炭化水素基、または水酸基)及びSiO4/2単位を含有し、RSiO1/2単位とSiO4/2単位とのモル比が0.6〜1.5の範囲内であるポリオルガノシロキサン3〜20質量部、
〔ここで、(A1)成分と(A2)成分の合計量は100質量部である〕
(B)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有し、25℃における粘度が5〜1,000mPa.sであるオルガノハイドロジェンポリシロキサン 0.5〜10質量部、
(C)有効量の付加反応抑制剤、及び
(D)有効量の白金族金属系触媒
を含有し、25℃における粘度が100〜1,500mPa.sの範囲内であることを特徴とする、プラスチックフィルム用の無溶剤型硬化性シリコーン剥離剤組成物を提供するものである。
本発明はまた、上記無溶剤型硬化性シリコーン剥離剤組成物の硬化皮膜が形成された剥離フィルムを提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の無溶剤型硬化性シリコーン剥離剤組成物は、硬化した場合、強度が高く、フィルム基材との密着性が高くさらに剥離性に優れた皮膜を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を更に詳しく説明する。
本発明における主成分である(A)成分を得るための(A1)成分のオルガノポリシロキサンは、硬化性の向上及び剥離特性向上のため、一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有し、該アルケニル基の含有量が0.01〜0.05モル/100g〔(A1)成分)〕の範囲内であり、25℃における粘度が100〜1,500mPa.sであるジオルガノポリシロキサンである。例えば、一般式(1)で示すように、一分子当り少なくとも2個の、Rで示されるケイ素原子に結合したアルケニル基を有するものであり、好ましくは直鎖状のジオルガノポリシロキサンである。
(RSiO1/2(RSiO2/2(RSiO2/2
(1)
〔ここで、Rは-(CH2)C-CH=CH2(cは0〜8までの整数)で示されるアルケニル基であり、Rは脂肪族不飽和結合を含有しない同種又は異種の炭素数1から10の一価の炭化水素基であり、そしてa及びbはそれぞれ60≦a≦280、0≦b≦10を満足する整数である。〕
このアルケニル基Rとしては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、デセニル基等が例示されるが、コスト・性能上よりビニル基が好適である。
【0011】
で示される脂肪族不飽和結合を含有しない同種又は異種の炭素数が1から10の一価の炭化水素基としては、メチル基,エチル基,プロピル基等のアルキル基,フェニル基、トリル基等のアリール基などが挙げられるが、硬化性,剥離性の向上の点から80モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0012】
また、(A1)成分のジオルガノポリシロキサン中のケイ素原子に結合したアルケニル基の含有量が重要であり、(A1)成分100g当り0.01〜0.05モルの範囲内にすることにより、目標とする密着性及び剥離性能を得ることができる。0.05モルを超えると硬化皮膜が脆くなり密着性が低下する。この範囲にするためには式(1)中のbを調整すればよく、0≦b≦10、好ましくは0≦b≦5とすればよい。
【0013】
さらに、塗工性の観点から組成物としての適正粘度範囲である25℃における粘度を100〜1,500mPa.sにするためには、式(1)中のaは60≦a≦280、好ましくは70≦a≦250とすればよい。(A1)成分は単独であっても2種類以上を併用してもよい。
【0014】
(A2)成分は、RSiO1/2単位(ここで、Rは脂肪族不飽和結合を含有しない同種又は異種の炭素数が1から10の一価炭化水素基または水酸基である)及びSiO4/2単位を含有し、RSiO1/2単位とSiO4/2単位のモル比が0.6〜1.5の範囲内であるポリオルガノシロキサン(分岐状又は三次元状の分子構造を有する、所謂MQレジン)である。RSiO1/2単位とSiO4/2単位のモル比が0.6未満では(A1)成分とのアルカリ触媒による加熱反応時にゲルの発生が多くなり、1.5を超えるとフィルム基材との密着性向上の効果が得られない。Rで示される脂肪族不飽和結合を含有しない同種又は異種の炭素数が1から10の一価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基などが挙げられるが、メチル基が好ましい。
【0015】
(A2)成分はケイ素原子に結合したOH基を含有してもよく、OH基含有量は0.2モル/100g〔(A2)成分〕未満、更に0〜0.15モル/100g〔(A2)成分〕未満であるのが好ましい。0.2モル以上であると目的とする密着性が得られなくなるためである。(A2)成分は単独であっても2種類以上を併用してもよい。
【0016】
(A1)成分と(A2)成分の混合物を、アルカリ触媒を用い加熱反応させることにより、目的とする生成物(A)を得ることが出来る。
【0017】
アルカリ触媒としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、ナトリウムメトキシド、カリウムブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド、ブチルリチウムなどの有機アルカリ金属、予め環状のジメチルポリシロキサンとアルカリ金属水酸化物とを反応させたシリコネートなどが用いられる。ポリオルガノシロキサンへの溶解性の観点より、水酸化カリウムのシリコネートが特に好ましい。アルカリ触媒の使用量は、(A1)成分と(A2)成分との合計100質量部に対して、0.001〜2.0質量部が好ましく、0.002〜1.0質量部が更に好ましい。
【0018】
(A1)成分と(A2)成分の反応温度及び時間は特に限定されないが、トルエンやキシレン等の有機溶剤を使用する場合はその有機溶剤の還流温度とすればよい。また、反応により生成する縮合水は系外に取り除くことが好ましい。具体的な反応条件としては、80〜180℃で0.5〜20時間、好ましくは100〜160℃で1〜12時間とすればよい。(A1)成分と(A2)成分との配合量は、(A1)成分と(A2)成分との合計100質量部に対し、(A1)成分97〜80質量部、(A2)成分は3〜20質量部の範囲とする必要があり、この範囲を外れると目的とするフィルム基材に対する密着性が得られない。好ましい配合量は、(A1)成分と(A2)成分との合計100質量部に対し、(A1)成分95〜82質量部、(A2)成分は5〜18質量部である。
【0019】
反応後は、2−クロロエタノール、塩酸、炭酸ガス、トリメチルクロロシランなどの中和剤を(A1)成分と(A2)成分との合計100質量部に対し、0.003〜3.0質量部添加し、40〜160℃で0.5〜20時間中和することが好ましい。有機溶剤を使用した場合は、公知の方法により加熱減圧下で有機溶剤の除去を行う。また、必要に応じて中和塩を取り除くために精製濾過を行ってもよい。
【0020】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分中にケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を3個以上(通常、3〜200個)、好ましくは4個以上(例えば、4〜150個)、より好ましくは4〜100個程度有し、このSiH基と、(A1)成分と(A2)成分とをアルカリ触媒を用いて加熱反応させて得られた生成物中のアルケニル基とが付加反応して硬化皮膜が形成される。(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、直鎖状、分岐状、環状、三次元樹脂状等の何れであってもよく、25℃における粘度が5〜1,000mPa.sのものであればよい。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、1分子中のケイ素原子数(又は重合度)が、通常、3〜300個、好ましくは3〜200個、より好ましくは4〜100個程度のものが好適に使用できる。
【0021】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンとして、具体的には、例えば、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)メチルシラン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH33SiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C653SiO1/2単位とからなる共重合体や、上記の各例示化合物においてメチル基の一部または全部がエチル基、プロピル基等の他のアルキル基やフェニル基で置換されたものなどが挙げられる他、下記式(3)で表されるものを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
(RSiO1/2(HRSiO)(RSiO) …(3)
(ここで、Hは水素原子、Rは脂肪族不飽和結合を含有しない同種又は異種の炭素数が1から10の一価炭化水素、RはHまたはRであり、r、sはそれぞれ、1≦r≦250、0≦s≦250、8≦r+s≦250を満足する整数である。ただし、RがRのときは、rは3以上である)。ここで、Rとしてはメチル基,エチル基,プロピル基等のアルキル基、フェニル基,トリル基等のアリール基などが挙げられるが、付加反応速度の向上の点から、メチル基であることが好ましい、(B)成分は単独であっても2種類以上を併用してもよい。
【0022】
(B)成分の配合量は、(A1)成分と(A2)成分とをアルカリ触媒を用いて加熱反応させて得られた生成物である(A)成分100質量部に対して0.5〜10.0質量部、好ましくは1.0〜8.0質量部であるが、(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基量と(B)成分中のSiH基量によって調整されるものであり、(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基1モルに対する(B)成分中のSiH基のモル比が1.0〜5.0の範囲となる量である。該モル比が1.0より小さいと良好な硬化皮膜が形成できず、該モル比が5.0より大きくなると、剥離抵抗が大きくなり、好ましくないためである。好ましくは(B)成分の配合量は、該モル比が1.3〜4.0の範囲となるように調整される。
【0023】
(C)成分の付加反応遅延剤は、(D)成分である白金族金属系触媒の常温での触媒活性を抑制して、本発明の組成物の可使時間を長くする所謂ポットライフ延長剤であり、例えば、各種有機窒素化合物、有機リン化合物、アセチレン系化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物などの公知の化合物を単独でまたは2種類以上を併用して使用することができる。特にアセチレンアルコール類及びアセチレンアルコールのシリル化物が好適である。
なお、(C)成分の配合量は有効量でよく、本発明の組成物の硬化性およびポットライフのバランスを考慮すると、(A)成分100質量部に対して、0.01〜10質量部、更に0.05〜5質量部の範囲とするのが好ましい。
【0024】
(D)成分の白金族金属系触媒は、(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基と(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子との付加反応を促進するための触媒であり、付加反応触媒として公知の白金族金属系触媒が使用できる。このような白金族金属系触媒としては、例えば白金系、パラジウム系、ロジウム系などの触媒が挙げられ、これらの中で特に白金系触媒が好ましい。このような白金系触媒としては、例えば塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液若しくはアルデヒド溶液、塩化白金酸と各種オレフィン若しくはビニルシロキサンとの錯体などが挙げられる。
これら白金族金属系触媒の添加量は有効量であるが、良好な硬化皮膜を得ると共に経済的な見地から、(A)成分の重量に対して白金族金属量として1〜1,000ppm、更に10〜300ppmの範囲とすることが好ましい。
【0025】
本発明の組成物は、上記(A)〜(D)成分の所定量を配合することによって得られるが、上記の各成分の外に、さらに、下記式(2)で示される(E)成分を(A)生成物100質量部に対し0〜30質量部含有することができる。
【0026】
【化1】


(ここで、p、qはそれぞれ、0≦p≦20,0≦q≦20 でかつ、14≦p+q≦20を満たす整数である。)
【0027】
(E)成分は2鎖型オレフィンで所謂反応型希釈剤であり、組成物の粘度を下げて塗工性を向上させるだけでなく、フィルム基材との密着性向上にも作用する。2鎖型オレフィンは同炭素数α-オレフィンに比較して加熱硬化時における揮発性が少なく、14≦p+q≦20であれば、加熱硬化時における白煙の発生の問題は生じなくなる。
【0028】
(E)成分は(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子と付加反応することにより硬化皮膜中に組み込まれるため、(E)成分を使用した場合は(B)成分の配合量は、(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基1モルに対する(B)成分中のSiH基のモル比が1.5〜5.0の範囲となる量であるのが好ましい。
【0029】
(E)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0〜30質量部の範囲であるのが好ましく、更に0〜25質量部、特に0.1〜20質量部であるのが好ましい。30質量部を超えると本発明組成物に対する相溶性が低下するためである。
【0030】
式(2)で示される2鎖型オレフィンは、例えば出光興産株式会社よりリニアレンダイマーとして上市されている。
【0031】
さらに他の任意成分として、例えば、滑り性を付与させるために高粘度のジメチルポリシロキサン等の添加剤を添加することができる。なお、任意成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0032】
本発明のシリコーン組成物の調製に際しては、(A)〜(C)成分、さらに場合により(E)成分及び任意成分を均一混合後、最後に(D)成分を添加するのが好ましく、各成分は単一で使用しても2種以上を併用してもよい。ただし、組成物全体としての25℃における粘度は100〜1,500mPa.sの範囲内とされる。粘度が1,500mPa.sを超えると塗工性が低下するため、実用上の使用が困難となる。
【0033】
次ぎに、本願第2の発明である剥離フィルムについて、その製造方法の一例を述べるが、本発明の剥離フィルムは以下の方法によってのみ製造されるものではなく、その他通常行われる製造方法も使用可能である。
【0034】
本発明の組成物を塗布して硬化皮膜を形成する基材としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミドなどの合成樹脂から得られるフィルム又はシートが挙げられる。
【0035】
上記基材に本発明の組成物を塗布するには、グラビア・オフセット3本ロール方式または5本、6本などの多段ロール方式などの公知の方法を用いることができる。該組成物の塗布量は0.01〜5.0g/m2、特に、0.1〜2.0g/m2の範囲内が好適であり、基材の全面または剥離性の必要な箇所に部分的に塗布する。基材に塗布した後、60〜200℃、好ましくは70〜180℃で、1秒〜5分の加熱によって該組成物を硬化させて、本発明の剥離フィルムを得る。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。なお、各例中の部はいずれも質量部であり、粘度は25℃における値である。
【0037】
また、シリコーン組成物の密着性(初期及び経時)、剥離力及び残留接着率は下記の方法により測定した。
【0038】
(密着性:初期及び経時)
シリコーン組成物を薄膜状フィルム又はシート状の基材表面に所定量塗布し、所定温度の熱風式乾燥機中で所定時間加熱して、硬化皮膜を成形した直後のシリコーン硬化皮膜を指で10往復こすり、脱落の有無により初期密着性を評価し、以下のように表す。
脱落なし:○
脱落あり:×
さらに、25℃、湿度60%の雰囲気で20日間まで保管し、脱落しないものを脱落なし:○、として評価する。なお、20日を待たずに脱落したものは、その時点での日数を経時密着性として評価する。
【0039】
(剥離力)
シリコーン組成物を薄膜状フィルム又はシート状の基材表面に所定量塗布し、所定温度の熱風式乾燥機中で所定時間加熱して、硬化皮膜を成形した後、25℃で24時間、セパレーターでエイジング後、この硬化皮膜表面にアクリル系溶剤型粘着剤であるオリバインBPS−5127(商品名、東洋インキ製造株式会社製)を湿式で130μmの厚さに塗布して、100℃で3分間加熱処理する。次に、この処理面に、シリコーン塗工に使用した同じ基材を表面基材として貼り合わせ、25℃で20時間エイジングさせた後、試料を50mm幅に切断し、引張り試験機(株式会社島津製作所製DSC−500型試験機)を用いて180度の角度で剥離速度0.3m/分で、表面基材を引張り、剥離させるのに要する力(N)を測定する。
【0040】
(残留接着率)
剥離力測定の場合と同様にして、基材表面に形成されたシリコーン組成物の硬化皮膜の表面にポリエステルテープ(商品名:No.31Bテ−プ、日東電工株式会社製)を貼り合わせ、1.96KPaの荷重を載せて70℃で20時間エイジングした後、テープを剥がして、ステンレス板に貼り付ける。次に、このテープをステンレス板から180度の角度で剥離速度0.3m/分で剥がし、剥離するのに要する力A(N)を測定する。また、ブランクとしてポリエステルテープをテフロン(登録商標)シートに貼り合わせ、同様に処理したテープをステンレス板から剥離するのに要する力B(N)を測定し、(A/B)×100の値を残留接着率(%)とする。
【0041】
[合成例1:(A)成分の調製]
撹拌装置、温度計、還流冷却器、及び滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコに、(A1)成分として、前記一般式(1)において、Rがメチル基、Rがビニル基、a=146、b=0であり、ビニル基の含有量が0.018モル/100g、粘度が400mPa.sである下記平均組成式(1−1)で示されるジメチルポリシロキサンを900g、
【0042】
【化2】

【0043】
及び環状のジメチルポリシロキサンに10質量%の量の水酸化カリウムを予め反応させて得たカリウムシリコネートを1.0g仕込み、窒素雰囲気下で120℃まで昇温させ、カリウムシリコネートをビニル基含有ジメチルポリシロキサンに完全に溶解させた。これを60℃まで冷却した後、これに、(A2)成分として、RSiO1/2単位(ここで、Rはメチル基または水酸基)及びSiO4/2単位を含有し、RSiO1/2単位/SiO4/2単位のモル比が0.75であり、OH基の含有量が0.03モル/100gであるMQレジンの70%トルエン溶液を143g(有効成分で100g)仕込み、再び昇温し、生成する縮合水は系外へ取り除きながら、140℃で6時間反応させた。その後120℃まで冷却し、2−クロロエタノールを1.5g添加して120℃で2時間中和した後、減圧ストリップして、オルガノポリシロキサンA−iを得た。このオルガノポリシロキサンのビニル基の含有量は0.016モル/100g(オルガノポリシロキサンA−i)であり、粘度は440mPa.sであった。
【0044】
[合成例2:(A)成分の調製]
(A1)成分として前記平均組成式(1−1)で示されるビニル基含有のジメチルポリシロキサンを900g、(A2)成分として、RSiO1/2単位(ここで、Rはメチル基または水酸基)及びSiO4/2単位を含有し、RSiO1/2単位/SiO4/2単位のモル比が1.15であり、OH基の含有量が0.06モル/100gであるMQレジンの70%トルエン溶液を143g(有効成分で100g)、及び実施例1で用いたカリウムシリコネートを1.0g仕込み、窒素雰囲気下で昇温させ、生成する縮合水は系外へ取り除きながら、140℃で6時間反応させた。その後70℃まで冷却し、トリメチルクロロシラン0.5gを添加して70℃で2時間中和した後、減圧ストリップして、オルガノポリシロキサンA−iiを得た。このオルガノポリシロキサンのビニル基の含有量は0.016モル/100g(オルガノポリシロキサンA−ii)であり、粘度は430mPa.sであった。
【0045】
[合成例3:(A)成分の調製]
(A1)成分として、前記一般式(1)において、Rがメチル基、Rがビニル基、a=177、b=1であり、ビニル基の含有量が0.022モル/100g、粘度が500mPa.sである下記平均組成式(1−2)で示されるジメチルポリシロキサンを850g、
【0046】
【化3】

【0047】
(A2)成分として、合成例1と同じMQレジンの70%トルエン溶液を214g(有効成分で150g)とした以外は合成例1と同様にして、オルガノポリシロキサンA−iiiを得た。このオルガノポリシロキサンのビニル基の含有量は0.019モル/100g(オルガノポリシロキサンA−iii)であり、粘度は560mPa.sであった。
【0048】
[実施例1]
(A)成分として合成例1で得たオルガノポリシロキサンA−iを100部、(B)成分として下記平均組成式(3−1)で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサンを2.2部[SiH/(SiCH=CH)=2.0]、
【0049】
【化4】

【0050】
(C)成分として1−エチニル−1−シクロヘキサノールを0.2部加え、均一になるまで攪拌した後、(D)成分として、式:Pt/[HC=C(CHSi]2Oで示される白金とビニルシロキサンとの錯体を、上記オルガノポリシロキサンA−iに対して白金換算で100ppmになるように添加し、粘度406mPa.sのシリコーン組成物を調製した。
【0051】
次に、得られたシリコーン組成物を厚さ25μmのポリエステルフィルム(商品名:ルミラーNo.25 S10、株式会社きもと製)に0.4〜0.5g/m塗布し、120℃で20秒間加熱して硬化皮膜を形成させた。この硬化皮膜を用いて、密着性、剥離力、及び残留接着率を測定した。これらの測定結果を表2に示す。
【0052】
[実施例2]
(A)成分として合成例2で得たオルガノポリシロキサンA−iiを100部とした以外は実施例1と同様にして、粘度400mPa.sのシリコーン組成物を調製し、同様に硬化皮膜を形成させて、硬化皮膜の性能を評価した。この結果を表2に示す。
【0053】
[実施例3]
(A)成分として合成例3で得たオルガノポリシロキサンA−iiiを100部、(B)成分の平均組成式(3−1)で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサンを2.6部[SiH/(SiCH=CH)=2.0]とした以外は実施例1と同様にして、粘度505mPa.sのシリコーン組成物を調製し、同様に硬化皮膜を形成させて、硬化皮膜の性能を評価した。その結果を表2に示す。
【0054】
[実施例4]
実施例1の(B)成分のメチルハイドロジェンポリシロキサンを2.8部[SiH/(SiCH=CH)=2.5]とし、さらに(E)成分とし下記構造式(2−1)で示される2鎖型オレフィン(リニアレンダイマーA−20:出光興産株式会社製)を15部配合した以外は実施例1と同様にして、粘度220mPa.sのシリコーン組成物を調製し、同様に硬化皮膜を形成させて、硬化皮膜の性能を評価した。その結果を表2に示す。
【0055】
【化5】

【0056】
[比較例1〜4]
表1に示す成分及び配合比で、実施例1と同様にして比較例1〜4の組成物を調製した。
実施例1〜4及び比較例1〜4の組成物の各成分、各成分の配合比、及び粘度を表1にまとめて示す。
なお、比較例3の(A2)成分は、RSiO1/2単位(ここで、Rはメチル基、ビニル基または水酸基)及びSiO4/2単位を含有し、RSiO1/2単位/SiO4/2単位のモル比が0.85であり、ビニル基の含有量が0.07モル/100g〔(A2)成分〕、水酸基の含有量が0.03モル/100g〔(A2)成分〕であるMQレジンの70%トルエン溶液である。比較例4の(A1)成分は、前記一般式(1)において、Rがメチル基、Rがビニル基、a=10、b=0、ビニル基の含有量が0.21モル/100g〔(A1)成分〕であり、粘度が10mPa.sであるジメチルポリシロキサンである。
比較例1〜4のシリコーン組成物から、実施例1と同様に硬化皮膜を形成させて、硬化皮膜の性能を評価した結果を表2に示す。
【0057】
[比較例5]
下記平均組成式(4)で示され、ビニル基の含有量が0.57モル/100gで粘度が25mPa.sであるオルガノポリシロキサン56部、
【0058】
【化6】

【0059】
前記した平均組成式(1−1)で示される分子鎖両末端にケイ素原子に結合したビニル基を有するジメチルオルガノポリシロキサン34部、
下記平均組成式(5)で表される、ビニル基の含有量が0.07モル/100gで粘度が1,000,000mPa.sであるオルガノポリシロキサン10部、
【0060】
【化7】

【0061】
前記した平均組成式(3−1)で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサンを39部[SiH/(SiCH=CH)=1.8]、及び1−エチニル−1−シクロヘキサノールを1.0部加え、均一になるまで攪拌した後、式:Pt/[HC=C(CHSi]2Oで示される白金とビニルシロキサンとの錯体を、前記平均組成式(1−1)のジメチルオルガノポリシロキサンと前記平均組成式(5)のオルガノポリシロキサンとの合計量に対して白金換算で100ppmになるように添加し、粘度400mPa.sのシリコーン組成物を調製した。このシリコーン組成物から、実施例1と同様に硬化皮膜を形成させて、硬化皮膜の性能を評価した結果を表2に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
表2の結果から、本発明の無溶剤型のシリコーン組成物は、プラスチックフィルムに対する経時での密着性が良好であることに加え、優れた剥離性能を提供する硬化性皮膜を与えることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記(A1)成分と(A2)成分とをアルカリ触媒を用いて加熱反応させて得られた生成物 100質量部、
(A1)一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有し、該アルケニル基の含有量が0.010〜0.05モル/100gの範囲内であり、25℃における粘度が100〜1,500mPa.sであるジオルガノポリシロキサン 97〜80質量部、
(A2)RSiO1/2単位(ここで、Rは脂肪族不飽和結合を含有しない同種又は異種の炭素数が1から10の1価炭化水素基、または水酸基)及びSiO4/2単位を含有し、RSiO1/2単位とSiO4/2単位とのモル比が0.6〜1.5の範囲内であるポリオルガノシロキサン 3〜20質量部、
〔ここで、(A1)成分と(A2)成分の合計量は100質量部である〕
(B)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有し、25℃における粘度が5〜1,000mPa.sであるオルガノハイドロジェンポリシロキサン 0.5〜10質量部、
(C)有効量の付加反応抑制剤、及び
(D)有効量の白金族金属系触媒
を含有し、25℃における粘度が100〜1,500mPa.sの範囲内であることを特徴とする、プラスチックフィルム用の無溶剤型硬化性シリコーン剥離剤組成物。
【請求項2】
(A1)成分であるアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンが、下記一般式(1)で示される直鎖状のジオルガノポリシロキサンである請求項1記載の無溶剤型硬化性シリコーン剥離剤組成物。
(RSiO1/2(RSiO2/2(RSiO2/2 …(1)
〔ここで、Rは−(CH−CH=CH(cは0〜8までの整数)で示されるアルケニル基、Rは脂肪族不飽和結合を含有しない同種又は異種の炭素数が1から10の一価の炭化水素基であり、a、bはそれぞれ60≦a≦280、0≦b≦10を満足する整数である。〕
【請求項3】
(A1)成分であるジオルガノポリシロキサンと(A2)成分であるポリオルガノシロキサンの合計100質量部に対して、アルカリ触媒を0.001〜2.0質量部添加し、80〜180℃で0.5〜24時間反応を行った後、中和剤を0.005〜3.0質量部添加し、40〜160℃で0.5〜24時間中和反応を行うことにより得られる生成物を(A)成分として用いた、請求項1または請求項2記載の無溶剤型硬化性シリコーン剥離剤組成物。
【請求項4】
(E)下記式(2)で示される2鎖型オレフィンを、(A)成分100質量部に対して0〜30質量部さらに含有する、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の無溶剤型硬化性シリコーン剥離剤組成物。
【化1】


(ここで、p、qはそれぞれ、0≦p≦20,0≦q≦20でかつ、14≦p+q≦20を満たす整数である。)
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の無溶剤型硬化性シリコーン剥離剤組成物の硬化皮膜が少なくとも片面に形成されてなる剥離性プラスチックフィルム。

【公開番号】特開2008−214497(P2008−214497A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54044(P2007−54044)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】