説明

フィルム繰出装置及び方法、光学フィルム製造装置及び方法、並びに表示装置

【課題】良好な光学特性を有する光学フィルムを高効率的に製造する。
【解決手段】
ロール状に巻回されたフィルムロール4からフィルム5を繰り出し、対象装置に供給するフィルム繰出装置である。フィルムロール4を回転可能に支持する支持部14と、支持部4の姿勢を調整する姿勢調整装置12,13と、フィルムロール4から繰り出されたフィルム5の両側縁のフィルム繰出方向D1における張力を検出する張力検出装置17a,17bとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルム等の光学フィルムの製造に用いられる、フィルム繰出装置及び方法、光学フィルム製造装置及び方法、並びにこれらを用いて製造された光学フィルムを備える表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液晶ディスプレイ(LCD)は、高画質、薄型、軽量、低消費電力などの特長を有し、テレビ受像機、パーソナルコンピュータなどのフラットパネルディスプレイとして広く使用されている。また、カラー液晶ディスプレイとしては、単純マトリクス方式で構造が簡単な超ねじれネマチック(STN)液晶が知られているが、STN液晶に基づく楕円偏光により、液晶ディスプレイ表示の色相が緑色ないし黄赤色を帯びるという問題を生じる。この問題を解決する手段の一つとして、位相差フィルムを用い、STN液晶の複屈折により生じる位相差を補償し、楕円偏光を直線偏光に戻す対策が講じられている。
【0003】
この位相差フィルムを製造する方法としては、例えば、未延伸フィルムをその長さ方向又は幅方向に一軸延伸したフィルムを、該延伸フィルムの側辺に対して所定の傾斜角度となるように裁断して、所望の方向に配向軸を有する光学フィルムを得る方法が知られている。しかしながら、この方法では、斜めに裁断することになるため、最大面積が得られるように裁断しても、裁断ロスが必ず生じ、製品歩留まりが高くないという問題がある。
【0004】
この点を改善するため、特開平02−113920号公報、特開平03−182701号公報、特開2000−9912号公報に開示されているように、フィルム延伸装置としてのテンターによる延伸を、フィルムの長手方向に対して斜め方向に行う、若しくはテンターの左右クリップに速度差をつけることによって、フィルムの長手方向に対して斜め方向に配向を生じさせるようにした延伸方法(以下、斜め延伸ということがある)が提案されている。これらの斜め延伸方法のうち、光学フィルム用としては幅方向に対し分子配向の均一性や厚みムラなどを比較的均一にすることが可能なことから、巻取方向に対して角度を持たせてフィルムを繰り出す手法が用いられることが多い。
【0005】
ところで、位相差フィルムの製造装置は、一般に、未延伸のフィルムがロール状に巻回されたフィルムロールからフィルムを繰り出す繰出装置と、該繰出装置から繰り出されたフィルムを所定の高温度下で延伸する延伸装置(テンター)と、該延伸装置により延伸されたフィルムを巻き取る巻取装置とを備えて構成される。テンターは、一対の無端状レール上を走行する多数のクリップ(把持部)を備え、フィルムの両側縁をこれらのクリップで把持して進行させるとともに、フィルムに適宜に張力を付与することにより、フィルムを延伸させる装置である。
【0006】
ここで、通常のテンター延伸では、フィルムの進行方向と延伸方向が直交する関係にあるため、フィルムの供給方向と進行方向及び巻取方向は一致している。従って、繰り出されるフィルム幅さえ決まれば、テンターの入口のレール幅を調整してクリップでの把持を安定させることは比較的容易である。
【0007】
しかしながら、斜め延伸においては、角度の要素が加わるため、その位置調整作業は難しく、熟練と時間を要する作業であるとともに、わずかなズレが生じてもクリップ外れの原因となるため、その生産性を低下させる原因となっている。また、クリップ外れまでは起こさなくても、位置関係のずれた状態でフィルムがテンターに供給されると、斜め延伸後のフィルムにおける厚み、リタデーション(Re)、配向角等が不均一となる場合があり、良好な光学特性を有する延伸フィルムの製造ができない場合がある。従って、巻取方向に対して角度を持たせてフィルムを繰り出す斜め延伸においては、種々の配向角を有するフィルムを製造するため、フィルムの繰出方向をテンターの入口部との関係で、その都度変更・調整する必要がある。
【0008】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、光学フィルム等の製造における生産性の向上及び作業の容易化を図るとともに、良好な光学特性を有する光学フィルムを製造できるようにすることを目的とする。
【特許文献1】特開平02−113920号公報
【特許文献2】特開平03−182701号公報
【特許文献3】特開2000−9912号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、ロール状に巻回されたフィルムロールからフィルムを繰り出し、対象装置(例えば、フィルム延伸装置)に供給するフィルム繰出装置であって、前記フィルムロールを回転可能に支持する支持装置と、前記支持装置の姿勢を調整する姿勢調整装置(例えば、スライド機構、回転テーブル機構)と、前記フィルムロールから繰り出されたフィルムの両側縁のうちの一の端縁側のフィルム繰出方向に沿う方向おける張力を検出する第1張力検出装置と、前記フィルムロールから繰り出されたフィルムの両側縁のうちの他の端縁側のフィルム繰出方向に沿う方向おける張力を検出する第2張力検出装置とを備えるフィルム繰出装置が提供される。
【0010】
本発明では、姿勢調整装置並びに第1及び第2張力検出装置を備えているので、フィルム両側縁のフィルム繰出方向に沿う方向の張力差を検出することができる。フィルム繰出装置のフィルム繰出位置及び方向と該繰出装置からフィルムの供給を受ける対象装置のフィルム入口との位置及び方向の関係が適正であるかどうかは、この張力差から判断することができるので、これに基づき姿勢調整装置により、支持装置の姿勢、即ちフィルムの繰出位置及び方向を調整することにより、対象装置のフィルム入口との関係で、フィルムの繰出位置及び方向を最適化することが可能である。
【0011】
従って、対象装置のフィルム入口の位置及び姿勢を調整することなく、しかも張力差という客観的データに基づいて、フィルムを適正に繰り出し、対象装置に対して適正に且つ安定的に供給することができるので、その作業が極めて容易になり、生産性を向上することができるとともに、対象装置の仕様に応じて、良好な性能を有する光学フィルム等の製造を高効率的に実現することができる。なお、本発明の他の態様、その作用・効果については、後述する実施形態において明らかになる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光学フィルム等の製造における生産性の向上及び作業の容易化を達成できるとともに、良好な光学特性を有する光学フィルム等の製造を実現できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ、詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る延伸フィルム製造装置の概略構成を示す平面図、図2はこのシステムに採用されているフィルム繰出装置を示す斜視図である。この延伸フィルム製造装置は、長尺のフィルムがロール状に巻回されたフィルムロール4からフィルム5を繰り出すフィルム繰出装置1と、フィルム繰出装置1から繰り出されたフィルム5を所定の高温度下で延伸するフィルム延伸装置(テンター)2と、フィルム延伸装置2により延伸されたフィルム5を巻き取るフィルム巻取装置3とを備えて構成される。
【0014】
[フィルムロール]
フィルムロール4は、所定の波長に対して透明である透明樹脂からなる長尺のフィルムをロール状に巻回したものである。フィルムの原料としては、主として熱可塑性樹脂が用いられ、一般的な光学フィルム用樹脂としてのポリカーボネート、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリオレフィン等を用いることができる。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリ塩化ビエル、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、脂環式オレフィンポリマー等を用いてもよい。これらの中でも固有複屈折値が正である樹脂が好ましく、脂環式オレフィンポリマーがより好ましい。フィルムとしては、主として未延伸フィルムが用いられるが、既に縦延伸、横延伸、斜め延伸のいずれかを単独で、あるいは複数回実施したフィルムであっても構わない。
【0015】
脂環式オレフィンポリマーは、特開平05−310845号公報に記載されている環状オレフィンランダム多元共重合体、特開平05−97978号公報に記載されている水素添加重合体、特開平11−124429号公報に記載されている熱可塑性ジシクロペンタジエン系開環重合体及びその水素添加物等である。
【0016】
脂環式オレフィンポリマーをより具体的に説明する。脂環式オレフィンポリマーは、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造や不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造のごとき脂環式構造を有するポリマーである。脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。脂環式オレフィンポリマー中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、適宜選択すればよいが、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式ポリオレフィン樹脂中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、フィルムの透明性および耐熱性が向上するので好ましい。
【0017】
脂環式オレフィンポリマーとしては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いられる。ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体又はそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体又はそれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いられる。
【0018】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン構造を有する単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。極性基の種類としては、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン基などが挙げられる。
【0019】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類およびその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエンおよびその誘導体;などが挙げられる。ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に(共)重合することにより得ることができる。
【0020】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンおよびこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィンおよびこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
【0021】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素添加物、およびノルボルネン構造を有する単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加共重合体の水素添加物は、これらの重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素添加触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素添加することによって得ることができる。
【0022】
ノルボルネン系樹脂の中でも、繰り返し単位として、X:ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの繰り返し単位の含有量が、ノルボルネン系樹脂の繰り返し単位全体に対して90重量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの重量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このような樹脂を用いることにより、位相差フィルムを製造する場合に、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れるものにすることができる。
【0023】
透明樹脂の分子量は使用目的に応じて適宜選定されるが、溶媒としてシクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン換算(溶媒がトルエンのときは、ポリスチレン換算)の重量平均分子量(Mw)で、通常10,000〜100,000、好ましくは15,000〜80,000、より好ましくは20,000〜50,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、位相差フィルムの機械的強度および成型加工性とが高度にバランスされ好適である。
【0024】
透明樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、好ましくは80℃以上、より好ましくは100〜250℃の範囲である。ガラス転移温度がこのような範囲にあると、位相差フィルムを、高温下での使用における変形や応力が生じることがなく耐久性に優れるものにすることができる。
【0025】
透明樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は特に制限されないが、通常1.0〜10.0、好ましくは1.1〜4.0、より好ましくは1.2〜3.5の範囲である。
【0026】
透明樹脂の光弾性係数の絶対値は、10×10−12Pa−1以下であることが好ましく、7×10−12Pa−1以下であることがより好ましく、4×10−12Pa−1以下であることが特に好ましい。光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、C=Δn/σで表される値である。透明樹脂の光弾性係数がこのような範囲にあると、位相差フィルムの面内方向のレターデーション(Re)のバラツキを小さくすることができる。
【0027】
透明樹脂は、顔料や染料のごとき着色剤、蛍光増白剤、分散剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、溶剤などの配合剤が適宜配合されたものであってもよい。なお、フィルムは、単層フィルムであっても、多層フィルムであってもよい。
【0028】
[フィルム延伸装置]
次に、フィルム延伸装置2について、図1を参照して説明する。この実施形態のフィルム延伸装置(テンター)2は、フィルム繰出装置1により繰り出されるフィルム5の進行方向(繰出方向)D1に対して、フィルム巻取装置3により巻き取られる際のフィルム5の進行方向(巻取方向)D2が、図1に示すように、角度θをもって斜交するように設定された、いわゆる斜め延伸装置である。この角度θは、製造される光学フィルムが用いられる液晶パネル等の表示装置の設計に合わせて、10〜60度の範囲から適宜選択される。
【0029】
フィルム延伸装置2は、予熱ゾーンA、延伸ゾーンB及び固定ゾーンCからなる恒温室(不図示)と、フィルムを搬送するための把持手段が走行する左右で一対のレール21,21と不図示の把持クリップとを少なくとも備えている。把持クリップは、フィルム繰出装置1により、フィルムロール4から繰り出され、フィルム延伸装置2の入口部Tinに順次供給されるフィルム5の両端を把持し、恒温室内にフィルム5を導き、フィルム延伸装置2の出口部Tout(フィルム巻取装置3の手前)でフィルム5を開放する。把持クリップから開放されたフィルム5はフィルム巻取装置3によって巻き取られる。一対のレール21は、それぞれ無端状の連続軌道を有し、フィルム延伸装置2の出口部Toutでフィルム5の把持を開放した把持クリップは、外側を走行して順次入口部Tinに戻されるようになっている。
【0030】
フィルム5は、予熱ゾーンA、延伸ゾーンB及び固定ゾーンCからなる恒温室内を通過している間に、把持クリップからの張力によって延伸される。予熱ゾーンA、延伸ゾーンB及び固定ゾーンCは、それぞれ独立に温度を設定でき、それぞれのゾーンでは温度が、通常、一定に保たれている。各ゾーンの温度は適宜選択できるが、フィルムを構成する透明樹脂のガラス転移温度Tg(℃)に対して、予熱ゾーンAは通常Tg〜Tg+30℃、、延伸ゾーンBは通常Tg〜Tg+20℃、固定ゾーンCは通常Tg〜Tg+15℃である。なお、幅方向の厚みムラの制御のために延伸ゾーンBにおいて幅方向に温度差を付けてもよい。延伸ゾーンBにおいて幅方向に温度差をつけるには、温風を恒温室内に送り込むノズルの開度を幅方向で差を付けるように調整する方法や、ヒーターを幅方向に並べて加熱制御するなどの公知の手法を用いることができる。予熱ゾーンA、延伸ゾーンB及び固定ゾーンCの長さは適宜選択でき、延伸ゾーンBの長さに対して、予熱ゾーンAの長さが通常100〜150%、固定ゾーンCの長さが通常50〜100%である。
【0031】
把持クリップは、配置の変形が可能なレール21上を走行する。レール21は、フィルム5が所望の延伸倍率で延伸されるように、配置される。フィルム走行方向は、フィルム繰出装置1からフィルム巻取装置3までのフィルム幅方向の中点を結んだ線の方向である。予熱ゾーンAと延伸ゾーンBとの境目及び延伸ゾーンBと固定ゾーンCとの境日には、フィルムが通過できるスリットを有する仕切板が設置されている。
【0032】
予熱ゾーンAは、フィルム走行方向(繰出方向)D1に直角な方向のフィルム長さ(フィルム幅)を実質的に変えずにフィルム5を温めながら搬送するゾーンである。延伸ゾーンBは、フィルム幅を拡大しながらフィルム5を搬送するゾーンである。延伸ゾーンBにおけるフィルム走行方向は、予熱ゾーンAと延伸ゾーンBの境目におけるフィルム6の中点から延伸ゾーンBと固定ゾーンCの境日におけるフィルム5の中点に結んだ直線の方向であるが、延伸ゾーンBが図1のように一定の角度で両側に広がったレール配置においては、予熱ゾーンAの走行方向(繰出方向)に一致している。但し、この延伸ゾーンBのフィルム走行方法は予熱ゾーンAの走行方向と一致していなくてもよく、即ち斜交していてもよい。
【0033】
固定ゾーンCは、フィルム幅を実質的に変えずにフィルム5を冷ましながら搬送するゾーンである。固定ゾーンCのフィルム走行方向は、フィルム巻取装置3によりフィルムが巻き取られる方向(巻取方向)D2に平行な方向である。
【0034】
なお、斜め延伸時の温度、及び倍率は求められる光学特性に従って適宜変更しても構わない。一般的に延伸温度としては、フィルムを構成する透明樹脂のガラス転移温度Tg(℃)に対して、Tg〜Tg+30℃の範囲が好ましく、延伸倍率としては1.3〜4.5倍の範囲が好適である。
【0035】
[フィルム巻取装置]
フィルム巻取装置3は、フィルム延伸装置2により所定の配向軸を有するように延伸され、フィルム延伸装置3の出口部Toutから排出されたフィルム5を順次巻き取る巻取ローラを備えて構成される。巻取ローラは、当該出口部Toutから排出されるフィルム5の特性に悪影響を与えない程度で、且つ巻取ローラに確実に巻き取ることができる程度の比較的に弱い駆動力で該フィルム5を巻き取るように駆動される。巻取ロールはその中心軸がフィルム延伸装置3によるフィルム5の排出方向(巻取方向)D2に略直交するように設定されている。
【0036】
[フィルム繰出装置]
次に、フィルム繰出装置1の構成を、図1及び図2を参照して説明する。フィルム繰出装置1は、フィルム延伸装置2の入口部Tinの近傍に設置され(図1参照)、フィルムロール4からフィルム5を繰り出して、フィルム延伸装置2に対して供給する装置である。フィルム繰出装置1は、図2に示されているように、ベース部11上に、回転テーブルを有する回転テーブル機構12、スライド機構13、フィルムロール支持部14、複数本(図2では4本)のロール15a〜15dを備えて構成されている。ベース部11、回転テーブル機構12及びスライド機構13により、台座部16が構成されている。
【0037】
図1に示されているように、ベース部11は、レール18に沿って移動可能に支持されており、フィルム繰出装置1の全体を、フィルム延伸装置2の入口部Tinに対して、比較的にラフに位置決めし、固定できるようになっている。このベース部11のレール18に沿った移動は、手動、自動のどちらでも構わない。なお、図示はしていないが、フィルム繰出装置1の全体の方位を、フィルム延伸装置2の入口部Tinに対して、比較的にラフに位置決めし、固定するための回転機構を設けることもできる。この場合の回転動作も、手動、自動のどちらでも構わない。また、図1では、レール18の延在方向は、繰出方向D1に斜交しているが、直交していてもよい。
【0038】
図2に示されているように、回転テーブル機構12の回転テーブル上には、スライド機構13を介して、フィルムロール支持部14が設けられている。回転テーブル機構12は、回転テーブルを所定の角度範囲内で且つ任意の位置で位置決め可能に回転させる機構である。回転テーブルの回転は、ラック・アンド・ピニオン機構及びサーボモータ並びに回転角度を検出するエンコーダ等を用いた通常の駆動機構により行われ、後述する制御装置からの制御信号に基づいて作動される。位置決め可能な角度範囲は、例えば、所定の基準に対して、左右(時計回り及び反時計回り)に±50度程度、位置決めの分解能は、0.1度程度とすることができる。
【0039】
スライド機構13は、フィルムロール4を着脱可能に支持するフィルムロール支持部14を所定の1軸方向に沿った移動範囲内で且つ任意の位置で位置決め可能にスライドさせる機構である。スライド機構13によるフィルムロール支持部14のスライドは、ラック・アンド・ピニオン機構及びサーボモータ並びに移動位置を検出するエンコーダ等を用いた通常の駆動機構により行われ、後述する制御装置からの制御信号に基づいて作動される。位置決め可能なスライド範囲は、例えば、所定の基準に対して、左右(所定の1軸方向の+側及び−側)に±50mm程度、位置決めの分解能は、1mm程度とすることができる。スライド機構13によるフィルムロール支持部14のスライド方向は、フィルムロール支持部14のフィルムロール4を支持する軸受部の中心に実質的に平行となるように設定されている。なお、フィルムロール支持部14は、図2では、1つ表示しているが、複数設置してもよい。
【0040】
4本のロール15a〜15dは、フィルム5の走行を案内する従動ロールであり、不図示の軸受部を介して回転テーブル12にそれぞれ回転自在に軸支されている。ロール15a〜15dの材質は公知のものを用いることが可能であるが、フィルムの傷つきを防止するためにセラミックコートを施したり、アルミニウム等の軽金属にクロームメッキを施す等、軽量化を図るのが好適である。これらのロール15a〜15dは、フィルム5の走行時の軌道を安定させるために設けられるものであり、ここでは一例として4本としたが、一般に3〜5本程度が設けられる。
【0041】
また、これら4本のロール15a〜15dのうち、最終のロール(フィルム延伸装置2に最も近いロール)15dを除くロール15a〜15cのうちの1本(ここでは、例えば、ロール15cとする)は、ゴムロールを圧接させてニップすることが好ましい。このようなニップロールにすることで、フィルムの流れ方向における繰出張力の変動を抑えることが可能だからである。なお、このニップロールの一方を駆動ローラとし、その駆動力によってフィルムロール4からフィルム5を積極的に繰り出すようにしてもよい。また、これらのロール15a〜15dは、ここでは、回転テーブル上に軸支されているものとしたが、スライド機構13上に軸支し、フィルムロール支持部14と一体的にスライドされるようにしてもよい。
【0042】
最終のロール15dの両端(左右)の一対の軸受部には、当該ロール15dにおいてフィルムに生じている張力を検出するための第1張力検出装置17a、第2フィルム張力検出装置17bがそれぞれ設けられている。フィルム張力検出装置17a,17bとしては、例えばロードセルを用いることができる。ロードセルとしては、引張または圧縮型の公知のものを用いることができる。ロードセルは、着力点に作用する荷重を起歪体に取り付けられた歪ゲージにより電気信号に変換して検出する装置である。
【0043】
ロードセルはロール15dの左右の軸受部に設置されることにより、走行中のフィルム5がロール15dに及ぼす力、即ちフィルム5の両側縁近傍に生じているフィルム進行方向における張力を左右独立に検出するものである。なお、ロール15dの軸受部を構成する支持体に歪ゲージを直接取り付けて、該支持体に生じる歪に基づいて荷重、即ちフィルム張力を検出するようにしてもよい。発生する歪とフィルム張力との関係は、予め計測され、既知であるものとする。フィルム張力検出装置17a,17bによる検出結果は、後述する制御装置に供給される。
【0044】
上述したようなフィルム張力検出装置17a,17bを設けて、最終のロール15dにおけるフィルム5の両側縁近傍の張力を検出するようにしたのは、本願発明者による以下のような所見に基づくものである。フィルム繰出装置1から繰り出されるフィルム5の位置及び方向が、フィルム延伸装置2の入口部Tinの位置及び方向に対してズレが生じている場合、このズレ量に応じて、最終のロール15dにおけるフィルム5の両側縁近傍の張力に差を生じることになるため、この張力差を検出することによって、当該ズレの程度を判別することが可能である。即ち、フィルム繰出装置1から繰り出されるフィルム5の位置及び方向が、フィルム延伸装置2の入口部Tinの位置及び方向との関係で適正であれば、ロール15dに作用する荷重は左右で粗均等になり、互いの位置がズレていれば左右のフィルム張力に差が生じるのである。
【0045】
従って、最終のロール15dにおける左右のフィルム張力差が等しくなるように、上述した二つの姿勢調整機構(回転テーブル機構12、スライド機構13)により、フィルム延伸装置2の入口部Tinに対するフィルム5の繰出位置及び角度を、適切に調整すれば、フィルム延伸装置2の入口部Tinにおける把持クリップによる把持が安定し、クリップ外れ等の障害の発生を少なくでき、更に、フィルム延伸装置2による斜め延伸後のフィルム5の幅方向における物性を安定させることができるのである。
【0046】
[フィルム繰出装置の制御系の構成]
図3は、フィルム繰出装置1の制御系の構成を示すブロック図である。この制御系CNTは、パーソナルコンピュータ又はエンジニアリング・ワークステーション等からなる制御装置C1、入力装置(キーボード、マウス等)C2、外部記憶装置C3,及び表示装置(表示ディスプレイ)C4等を備えて構成されている。この制御系CNTは、LAN等を介して、この光学フィルム製造装置全体又はこれらの製造ラインが複数設置された製造工場全体を統括管理する上位のホストコンピュータとの間で通信できるように構成されていてもよい。
【0047】
外部記憶装置C3は、CD(compact disc),DVD(digital versatile disc)(登録商標),MO(magneto-optical disc)あるいはFD(flexible disc)等の可搬性の情報記録媒体のドライブ装置又はHD(hard disk)装置等である。制御装置C1が実行するフィルム繰出装置1用のフィルム繰出制御プログラム及びこの制御に必要な各種のデータはHDに予め記憶され、あるいは情報記録媒体に記憶されたものがドライブ装置に適宜にセットされて読み込まれることにより、その機能が実現される。なお、制御系CNTはこのようなシステムでなくてもよく、例えばワンチップ・マイコン等を用いてもよい。
【0048】
上述したフィルム張力検出装置17a,17bからの検出信号は、不図示のA/D(アナログ/デジタル)変換器を介して制御装置C1に供給され、制御装置C1は前記制御プログラムに従って、スライド機構駆動部C5及び回転機構駆動部C6を介して、スライド機構13及び回転テーブル機構12の作動を制御する。なお、ここでは、制御装置C1がフィルム張力検出装置17a,17bの検出値に基づいて、スライド機構13及び回転テーブル機構12を自動制御して、フィルム繰出装置1からのフィルム5の繰出位置及び方向を、フィルム延伸装置2の入口部Tinとの関係で、適宜に調整するものとするが、フィルム張力検出装置17a,17bによる検出結果、即ち、フィルム5の左右の張力をそれぞれ、又はその張力差を、表示装置C4に表示するようにし、作業員がスライド機構13及び回転テーブル機構12を手動操作して、試行錯誤的に適宜な位置関係を見つけるようにしてもよい。
【0049】
[フィルム繰出装置における制御系の処理]
図4は、制御装置C1により実行される、フィルム繰出装置1によるフィルム繰出位置及び方向を、フィルム延伸装置2の入口部Tinに対して最適化するための処理(フィルム繰出制御プログラム)を示すフローチャートである。
【0050】
処理が開始されると、まず、所定のしきい値が取得される(S1)。このしきい値は、作業員によって、入力手段C2を介して予め入力された値、あるいはデータとして記憶装置C3に記憶された値を用いる。このしきい値は、左右(一端側及び他端側)のフィルム張力検出装置17a,17bによる検出値の差の絶対値として与えられる。左右の張力差は小さい程、最適であると言えるが、本発明者の実験によれば、張力差が80Nを超えると斜め延伸後のフィルム物性が乱れたり、クリップ外れを起こして加工を中断せざるを得ない場合があることが判明したため、80N以下であることが好ましい。従って、しきい値としても、この80Nを用いること好ましく、より好ましくは60N、さらに好ましくは50Nを用いるとよい。
【0051】
最終のロール15dにおけるフィルム5の左右(両側縁の一方及び他方)の張力は、フィルム繰出装置1からのフィルム5の繰り出しからフィルム延伸装置2の把持クリップまでのフィルム5の軌道が安定することから、それぞれ300N以上とすることが好ましく、400N以上の値とすることがより好ましい。
【0052】
次に、フィルム張力検出装置17a,17bによる検出値がそれぞれ取得され、その差分の絶対値が張力差として算出される(S2)。張力差が算出されたならば、この張力差がS1で取得されたしきい値未満になっているか否かが判断され(S3)、しきい値以上と判断された場合(Noの場合)には、スライド機構駆動部C5又は回転機構駆動部C6に対して、スライド機構13又は回転テーブル機構12を微少移動又は微少回転させるための制御信号としての姿勢調整信号を出力する(S4)。
【0053】
この姿勢調整信号が出力されることにより、スライド機構13又は回転テーブル機構12が、当該姿勢調整信号で指定された量だけ移動又は回転される。この場合の移動量(スライドピッチ)又は回転角(回転ピッチ)は、予め最適値が求められており、これらを用いるものとする。なお、姿勢調整信号は、スライド機構13及び回転テーブル機構12を同時に作動させるものであってもよい。スライド機構13及び回転テーブル機構12の何れを作動させるか、若しくは両方を作動させるかは、予め決められたアルゴリズムに従って選定される。スライド方向又は回転方向、即ち正方向か又は負方向かは、S2で取得される張力差を逐次記憶しておき、その張力差が小さくなる方向が選択される。
【0054】
S3において、S2で取得された張力差がS1で取得されたしきい値未満になっていると判断された場合(Yesの場合)には、最初にしきい値未満になってから、予め決められた所定の時間が経過したか否かが判断され(S5)、所定の経過時間が経過していない場合(Noの場合)には、S2に戻り、所定の経過時間が経過した場合(Yesの場合)には、スライド機構駆動部C5及び回転機構駆動部C6に対して、スライド機構13及び回転テーブル機構12を固定するための制御信号(固定指示信号)を出力し(S6)、一連の処理を終了する。S6の固定指示信号により、スライド機構13及び回転テーブル機構12のそれぞれが備えるロック機構が作動されることにより、これらが固定される。なお、このようなロック機構は姿勢を固定するために設けられることが好ましいが、設けられていなくてもよい。
【0055】
[延伸フィルムの製造]
作用員は、処理対象としてのフィルムロール4をフィルム繰出装置1のフィルムロール支持部14にセットし、フィルムを5引き出して、ロール15a〜15dに案内させる。このとき、ロール15cはニップロールになっているので、フィルム5はこのニップ部を通過させる。次いで、フィルム5の先端を、フィルム延伸装置2の入口部Tinにおいて、把持クリップにより把持させるとともに、レール18に沿ってフィルム繰出装置1の位置を、フィルム延伸装置2の入口部Tinに対してラフに位置決めし、フィルム繰出装置1を固定する。
【0056】
次いで、この光学フィルム製造装置の運転を開始、即ちフィルム繰出装置1、フィルム延伸装置2、及びフィルム巻取装置3が作動される。なお、フィルム先端がフィルム巻取装置3に達した時点で、当該先端はフィルム巻取装置3の巻取ロールに自動又は手動により接続されるものとする。フィルム繰出装置1においては、制御装置C1で、上述したフローチャート(図4)に従って、フィルム張力検出装置17a,17bによるフィルム両側縁近傍の張力がモニターされ、当該張力差が所定のしきい値未満になるように、スライド機構13及び回転テーブル機構12が駆動され、該しきい値未満である状態が所定時間経過したならば、フィルム繰出装置1によるフィルム繰出位置及び方向がフィルム延伸装置2の入口部Tinの位置及び方向との関係で最適化されたものとして、スライド機構13及び回転テーブル機構12に対する制御が終了される。
【0057】
このように、本実施形態では、フィルム繰出装置1によるフィルム繰出位置及び方向が、フィルム延伸装置2の入口部Tinの位置及び方向との関係で自動的に最適化されるので、常に安定してフィルム5をフィルム延伸装置2に供給することができ、良好な物性(光学特性等)を有する光学フィルム(位相差フィルム等)を製造することができるようになる。また、従来は、フィルム繰出位置及び方向の調整は、熟練者による手作業で行っており、この作業に多くの工数を要していたが、このような工数及び人員を削減することができるとともに、安定してフィルムを供給できるため、把持クリップによるクリップ外れなどの障害が発生することも少なくなり、生産性を大幅に向上することができる。
【0058】
フィルム繰出装置1により繰り出され、フィルム延伸装置2に順次供給されたフィルム5は、上述したようにフィルム延伸装置2の恒温室内を通過されつつ、延伸され、フィルム延伸装置2の出口部Toutから排出されて、順次、フィルム巻取装置3により巻き取られることにより、長尺の延伸フィルムが製造される。
【0059】
[液晶表示装置等の製造]
上述した延伸フィルムから切り出された位相差フィルムは、例えば、液晶表示装置の製造に用いることができる。液晶表示装置の一例としては、偏光透過軸を電圧の調整で変化させることができる液晶パネルと、それを挟むように配置される偏光板とで構成されるものが挙げられる。また、位相差フィルムは、光学補償、偏光変換などのために液品表示装置に用いられる。なお、液晶表示装置には、液晶パネルに光を送りこむために、表示面の裏側に、透過型液晶表示装置ではバックライト装置が、反射型液晶表示装置では反射板が、通常備えられている。バックライト装置としては、冷陰極管、水銀平面ランプ、発光ダイオード、ELなどが挙げられる。液晶表示装置としては、反射型表示方式の液晶パネルを備える反射型液晶表示装置が好ましい。液晶パネルはその表示モードによって特に制限されない。例えば、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モードなどを挙げることができる。液晶表示装置には、その他に、プリズムアレイシート、レンズアレイシート、光拡散板、輝度向上フィルム等の適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。
【0060】
上述した延伸フィルムは、液晶表示装置以外に、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、FED(電界放出)表示装置、SED(表面電界)表示装置にも適用することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例を示しながら、さらに詳細に説明する。本実施例における評価は、以下の方法によって行う。
【0062】
(1)繰出し部のフィルム張力及び左右張力差
フィルム延伸装置2の入口部Tinに最も近いロール(最終のロール15d)の左右の軸受部にロードセルを取り付けて左右の張力T1、T2を測定し、その差の絶対値を張力差とした。
【0063】
(2)厚み及び厚みムラ
スナップゲージ(ミツトヨ社製、ID−C112BS)を用いて、フィルムの幅方向50mm間隔で厚みを測定し、平均値T(μm)を求めた。厚みムラは、厚みの最大値と最小値の差とした。
【0064】
(3)リタデーション(Re)及びそのばらつき
位相差計(王子計測社製、KOBRA−21ADH)を用いて、フィルムの幅方向50mm間隔でReを求め、その平均値を測定値とした。Reのバラツキは、最大値と最小値の差とした。
【0065】
(4)配向角θ及びそのばらつき
偏光顕微鏡(オリンパス社製、BX51)を用いて、フィルムの幅方向50mm間隔で測定し、面内の遅相軸を測定し、遅相軸の方向とフィルム幅方向(巻取方向D2と直角な方向)とのなす角度(配向角θ)の平均値を求め測定値とした。配向角θのばらつきは、最大値と最小値の差とした。
【0066】
実施例1
脂環式オレフィンポリマーの一種である熱可塑性ノルボルネン樹脂のペレット(日本ゼオン社製、ZEONOR1420、ガラス転移点137℃)を100℃で5時間乾燥した。前記ペレットを押出機に供給し、押出機内で溶融させ、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経て、Tダイからキャスティングドラム上にシート状に押出し、冷却し、厚み100μm、幅1200mmの未延伸フィルムロールを得た。
【0067】
この未延伸フィルムロールを、図3に概略を示したフィルム繰出装置1にセットし、テンター方式のフィルム延伸装置(斜め延伸機)2に巻取方向D2に対して45度傾斜した方向(D1)から供給し、延伸温度140℃、延伸倍率1.5倍で斜め延伸を行い、エッジ部を切り落として配向角が巻取方向(長手方向)D2に対し45°に傾斜した斜め延伸フィルムを幅1500mmで得た。フィルム繰出装置1の左右のフィルム張力T1,T2の差(張力差の絶対値)は、製膜中は、常に約50Nに保つことができた。延伸条件、及び延伸フィルムの特性を表1に示す。
【0068】
比較例1
張力のフィードバックを行わずに手動による調整に頼って製膜を行ったところ、左右の張力差が150N程度になった。クリップ外れは生じなかったが、フィルム物性は悪化した。延伸条件、及び延伸フィルムの特性を表1に示す。
【0069】
比較例2
張力のフィードバックを行わずに手動による調整に頼って製膜を行ったところ、左右の張力差が300N程度になった。製膜はスタート後数分でクリップ外れによって中断し、位置調整をやり直すことになった。延伸条件を表1に示す。
【表1】

【0070】
なお、以上説明した実施形態及び実施例は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態及び実施例に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施形態に係る光学フィルム製造装置の概略構成を示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るフィルム繰出装置の概略構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係るフィルム繰出装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係るフィルム繰出装置の制御系の処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0072】
1…フィルム繰出装置
2…フィルム延伸装置
3…フィルム巻取装置
4…フィルムロール
5…フィルム
11…ベース部
12…回転テーブル機構
13…スライド機構
14…フィルムロール支持部
15a〜15d…ロール
17a,17b…第1フィルム張力検出装置、第2フィルム張力検出装置
21…レール
Tin…フィルム延伸装置入口部
Tout…フィルム延伸装置出口部
CNT…制御系
C1…制御装置
C2…入力装置
C3…記憶装置
C4…表示装置
C5…スライド機構駆動部
C6…回転機構駆動部
D1…フィルム繰出方向
D2…フィルム巻取方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール状に巻回されたフィルムロールからフィルムを繰り出し、対象装置に供給するフィルム繰出装置であって、
前記フィルムロールを回転可能に支持する支持装置と、
前記支持装置の姿勢を調整する姿勢調整装置と、
前記フィルムロールから繰り出されたフィルムの両側縁のうちの一の端縁側のフィルム繰出方向に沿う方向おける張力を検出する第1張力検出装置と、
前記フィルムロールから繰り出されたフィルムの両側縁のうちの他の端縁側のフィルム繰出方向に沿う方向おける張力を検出する第2張力検出装置と
を備えることを特徴とするフィルム繰出装置。
【請求項2】
前記姿勢調整装置は、前記支持装置を前記フィルムの繰出方向に対して交差する方向に沿ってスライドさせるスライド機構を有することを特徴とする請求項1に記載のフィルム繰出装置。
【請求項3】
前記姿勢調整装置は、前記支持装置を回転させる回転機構を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のフィルム繰出装置。
【請求項4】
前記第1張力検出装置は、前記フィルムロールから繰り出されたフィルムを案内するロールの両端の軸受部のうちの一端側に作用する荷重を検出する荷重センサを有し、
前記第2張力検出装置は、前記ロールの両端の軸受部のうちの他端側に作用する荷重を検出する荷重センサを有することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のフィルム繰出装置。
【請求項5】
前記第1張力検出装置及び前記第2張力検出装置により検出された検出値に基づいて、前記姿勢調整装置を自動制御する制御装置を更に備えることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のフィルム繰出装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記第1張力検出装置による検出値と前記第2張力検出装置による検出値の差が予め決められた所定の値未満となるように、前記姿勢調整装置を制御することを特徴とする請求項5に記載のフィルム繰出装置。
【請求項7】
前記所定の値は80Nであることを特徴とする請求項6に記載のフィルム繰出装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載のフィルム繰出装置と、
前記フィルム繰出装置から繰り出されたフィルムを進行させながら、該フィルム面内における少なくとも1軸方向に該フィルムを延伸させるフィルム延伸装置と、
前記フィルム延伸装置により延伸されたフィルムを巻き取るフィルム巻取装置と
を備えることを特徴とする光学フィルム製造装置。
【請求項9】
前記フィルム延伸装置は、前記フィルムの長手方向に対して斜交する方向に該フィルムを延伸させる斜め延伸装置であることを特徴とする請求項8に記載の光学フィルム製造装置。
【請求項10】
ロール状に巻回されたロールフィルムからフィルムを繰り出すフィルム繰出方法であって、
前記ロールフィルムから繰り出されたフィルムの両側縁のうちの一端縁側のフィルム繰出方向に沿う方向おける張力を検出する第1張力検出工程と、
前記ロールフィルムから繰り出されたフィルムの両側縁のうちの他端縁側のフィルム繰出方向に沿う方向おける張力を検出する第2張力検出工程と、
前記第1張力検出工程及び前記第2張力検出工程で検出された検出値に基づいて、前記ロールフィルムの姿勢を調整する姿勢調整工程と
を備えることを特徴とするフィルム繰出方法。
【請求項11】
前記姿勢調整工程は、前記第1張力検出工程による検出値と前記第2張力検出工程による検出値の差が予め決められた所定の値未満となるように、前記ロールフィルムの姿勢調整を行うことを特徴とする請求項10に記載のフィルム繰出方法。
【請求項12】
前記所定の値は80Nであることを特徴とする請求項11に記載のフィルム繰出方法。
【請求項13】
請求項10〜12の何れか一項に記載のフィルム繰出方法を用いてフィルムを繰り出す繰出工程と、
前記繰出工程により繰り出されたフィルムを少なくとも一軸方向に延伸させる延伸工程と、
前記延伸工程により延伸されたフィルムを巻き取る巻取工程と
を備えることを特徴とする光学フィルム製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の光学フィルム製造方法により製造された光学フィルムを備えることを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−80768(P2008−80768A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266622(P2006−266622)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】