説明

フィルム表面処理方法及び装置

【課題】PMMAフィルムの接着強度を向上させる。
【解決手段】アクリル酸を含む第1反応ガスをPMMAフィルムに接触させる(第1接触工程)。次に、アルゴンプラズマをPMMAフィルムに照射する(第1照射工程)。次に、アクリル酸を含む第2反応ガスをPMMAフィルムに接触させる(第2接触工程)。次に、アルゴンプラズマをPMMAフィルムに照射する(第2照射工程)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学樹脂フィルムの表面を処理する方法及び装置に関し、特に、ポリメタクリル酸メチル(以下「PMMA」と称す)を主成分とする樹脂フィルム(以下「PMMAフィルム」と称す)の接着性を向上させるのに適した表面処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1,2では、偏光板の保護フィルムの接着性を向上させるために、上記保護フィルムに重合性モノマー含有ガスを接触させるとともにプラズマを照射している。重合性モノマーとしては、例えばアクリル酸が用いられている。保護フィルムの一例として、PMMAフィルムが挙げられている。プラズマ生成用ガスの一例として、アルゴンが挙げられている。処理済みの保護フィルムを接着剤を介して偏光フィルムと貼り合わせることで偏光板が構成される。接着剤としては、ポリビニルアルコール(以下「PVA」と称す)系やポリエーテル系等の水系接着剤が用いられている。偏光フィルムとしては、PVAを主成分とする樹脂フィルム(以下「PVAフィルム」と称す)が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−150372号公報(0013、0017)
【特許文献2】特開2010−150373号公報(0011、0018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、PMMAフィルムは極めて難接着性である。接着性の向上処理としてコロナ放電処理を行なったり接着剤を工夫したりすることも行なわれているが、これらの処理では接着性が不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明方法は、PMMAフィルムの表面を処理するフィルム表面処理方法であって、
アクリル酸をキャリアガスに気化させてなる第1反応ガスをPMMAフィルムに接触させる第1接触工程と、
前記第1接触工程後又は前記第1接触工程と併行して、大気圧近傍下で生成したアルゴンプラズマを前記PMMAフィルムに照射する第1照射工程と、
前記第1照射工程後にアクリル酸をキャリアガスに気化させてなる第2反応ガスを前記PMMAフィルムに接触させる第2接触工程と、
前記第2接触工程後又は前記第2接触工程と併行して、大気圧近傍下で生成したアルゴンプラズマを前記PMMAフィルムに照射する第2照射工程と、
を含むことを特徴とする。
【0006】
第1接触工程によってPMMAフィルムの表面にアクリル酸の第1凝縮層を形成できる。次に、第1照射工程によって上記第1凝縮層をプラズマ重合させて、ポリアクリル酸の第1プラズマ重合膜を形成できる。次に、第2接触工程によって上記第1プラズマ重合膜上にアクリル酸の第2凝縮層を形成できる。次に、第2照射工程によって上記第2凝縮層をプラズマ重合させて、ポリアクリル酸の第2プラズマ重合膜を上記第1プラズマ重合膜上に積層形成できる。これら第1、第2プラズマ重合膜がPMMAフィルムの接着性促進層となる。これによって、難接着性のPMMAフィルムの接着強度を向上でき、更には接着耐久性を充分に向上させることができる。ここで、接着耐久性とは、接着後の対象物を高湿度かつ高温の湿熱環境に晒した後に接着強度が低下しない度合いを云う。
【0007】
本発明装置は、PMMAフィルムの表面を処理するフィルム表面処理装置であって、
互いに平行に並べられ、隣り合うものどうし間のギャップに大気圧近傍下で放電を生成する第1、第2、第3のロール電極と、
前記第1ロール電極の周面に面して、アクリル酸を含有する第1反応ガスを吹き出す第1反応ガスノズルと、
前記第1ロールと前記第2ロールとの間のギャップにアルゴンを吹き出す第1放電ガスノズルを含み、
前記第2ロール電極の周面に面して、アクリル酸を含有する第2反応ガスを吹き出す第2反応ガスノズルと、
前記第2ロールと前記第3ロールとの間のギャップにアルゴンを吹き出す第2放電ガスノズルを含み、
前記PMMAフィルムが前記第1、第2、第3ロール電極に掛け回され、かつ前記第1、第2、第3ロール電極の回転によって前記PMMAフィルムが前記第1ロール電極、前記第2ロール電極、前記第3ロール電極の順に搬送されることを特徴とする。
【0008】
PMMAフィルムを第1ロール電極、第2ロール電極、第3ロール電極の順に送りながら、第1ロール電極の周面上で第1反応ガスノズルから第1反応ガスをPMMAフィルムに吹き付ける。これによって、PMMAフィルムの表面にアクリル酸の第1凝縮層を形成できる。次いで、第1、第2ロール電極間のギャップでPMMAフィルムにアルゴンプラズマを照射する。これによって、上記第1凝縮層をプラズマ重合させて、ポリアクリル酸の第1プラズマ重合膜を形成できる。続いて、第2ロールの周面上で第2反応ガスノズルから第2反応ガスをPMMAフィルムに吹き付ける。これによって、上記第1プラズマ重合膜上にアクリル酸の第2凝縮層を形成できる。その後、第2、第3ロール間のギャップでPMMAフィルムにアルゴンプラズマを照射する。これによって、上記第2凝縮層をプラズマ重合させて、ポリアクリル酸の第2プラズマ重合膜を上記第1プラズマ重合膜上に積層形成できる。この結果、難接着性のPMMAフィルムの接着強度を向上でき、更には接着耐久性を充分に向上させることができる。第1、第2、第3ロール電極は、PMMAフィルムの支持手段及び搬送手段を兼ねる。
【0009】
前記第1、第2反応ガスのキャリアガスが、アルゴンであることが好ましい。これによって、キャリアガスが、第1、第2照射工程を行う空間(例えばロール電極間のギャップ)内に流入したとしても、放電状態が変わるのを防止できる。また、前記キャリアガスは、ランニングコストを低減させるために、窒素でもよい。
【0010】
前記表面処理は、大気圧近傍下にて行なうことが好ましい。ここで、大気圧近傍とは、1.013×10〜50.663×10Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、1.333×10〜10.664×10Paが好ましく、9.331×10〜10.397×10Paがより好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、難接着性のPMMAフィルムの接着強度を向上でき、更には接着耐久性を充分に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る表面処理装置を示す側面図である。
【図2】上記表面処理装置の電極部及びノズル部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1は、本発明の第1実施形態を示したものである。被処理物は、偏光板の保護フィルム用のPMMAフィルム9である。PMMAフィルム9は、PMMAを主成分として含み、極めて難接着性である。ここで、PMMAを主成分として含むとは、フィルム9に占めるPMMAの割合が60wt%〜100wt%であることを云う。言い換えると、フィルム原料に占めるメタクリル酸メチル(MMA)の割合が60wt%〜100wt%であることを云う。フィルム9のPMMA以外の含有成分としては、紫外線吸収剤、安定剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃助剤、発泡剤、充填剤、着色剤、艶消剤等が挙げられる。
【0014】
図1及び図2に示すように、フィルム表面処理装置1は、電極構造10と、ガス供給手段20〜50を備えている。電極構造10は、第1ロール電極11と、第2ロール電極12と、第3ロール電極13を有している。これらロール電極11〜13は、互いに同一径、同一軸長の円筒体になっている。ロール電極11〜13の少なくとも外周部は金属にて構成され、かつ該金属製の外周部の外周面には固体誘電体層が被膜されている。各ロール電極11,12,13の軸線が、図1の紙面と直交する水平方向(以下「処理幅方向」と称す。)に向けられている。3つのロール電極11,12,13が、この順に、かつ平行に並べられている。図1において左側の第1ロール電極11と中央の第2ロール電極12との間の第1ギャップ14と、中央の第2ロール電極12と右側の第3ロール電極13との間の第2ギャップ15の厚さは互いに等しい。ギャップ14,15の最も狭い箇所の厚さは、好ましくは0.5mm〜1.0mm程度である。
【0015】
図示は省略するが、中央のロール電極12に電源が接続され、かつ左右のロール電極11,13が電気的に接地されている。これに代えて、左右のロール電極11,13に電源がそれぞれ接続され、かつ中央のロール電極12が電気的に接地されていてもよい。電源は、例えばパルス波状の高周波電力を出力する。この電力供給によって、左側のロール電極11と中央のロール電極12との間に大気圧近傍の圧力下でプラズマ放電が生成され、ギャップ14が大気圧近傍の第1放電空間になる。また、上記電力供給によって、中央のロール電極12と右側のロール電極13との間に大気圧近傍の圧力下でプラズマ放電が生成され、ギャップ15が大気圧近傍の第2放電空間になる。ギャップ14,15間の印加電圧は、Vpp=6.0kV〜7.0kV程度であることが好ましい。上記高周波電力の周波数は、50kHz〜70kHz程度であることが好ましい。上記パルスの立ち上がり時間及び立下り時間は、10μsec以下であることが好ましい。上記パルスの継続時間は1〜1000μsecであることが好ましい。上記高周波は、パルス波に限られず、連続波でもよい。
【0016】
ロール電極11,12の下方に複数(図では2つ)の前段ガイドロール16,16が配置されている。ロール電極12,13の下方に複数(図では2つ)の後段ガイドロール17,17が配置されている。
【0017】
連続シート状のPMMAフィルム9が、幅方向を上記処理幅方向(図1の紙面直交方向)に向けて、3つのロール電極11,12,13の上側の周面にそれぞれ半周程度掛け回されている。各ロール電極11,12,13の上側の周面及びギャップ14,15を画成する部分を含む約半周部分が、PMMAフィルム9にて覆われている。
【0018】
ロール電極11,12間のPMMAフィルム9は、ギャップ14から下方に垂らされ、ガイドロール16,16に掛け回されている。ギャップ14とガイドロール16,16との間のPMMAフィルム9が、折り返し部分9aを形成している。
【0019】
ロール電極12,13間のPMMAフィルム9は、ギャップ15から下方に垂らされ、ガイドロール17,17に掛け回されている。ギャップ15とガイドロール17,17との間のPMMAフィルム9が、折り返し部分9bを形成している。
【0020】
図示は省略するが、各ロール電極11,12,13に回転機構が連結されている。回転機構は、モータ、内燃機関等の駆動部と、該駆動部の駆動力をロール電極11,12,13の軸に伝達する伝達手段とを含む。伝達手段は、例えばベルト・プーリ機構やギア列にて構成されている。図1において白抜き円弧状矢印にて示すように、回転機構によって、ロール電極11,12,13が、それぞれ自らの軸線まわりに、かつ互いに同期して同方向(図1において時計周り)に回転される。これにより、PMMAフィルム9が、第1ロール電極11、第2ロール電極12、第3ロール電極13の順に概略右方向へ搬送される。
電極構造10は、PMMAフィルム9を支持する支持手段、及びPMMAフィルム9を搬送する搬送手段としての機能を兼ねている。
【0021】
各ロール電極11,12,13には、温調手段(図示省略)が設けられている。温調手段は、例えばロール電極11,12,13内に形成された温調路にて構成されている。温調路に、温調された水等の媒体を流すことにより、ロール電極11,12,13を温調できる。ひいては、ロール電極11,12,13の周面上のPMMAフィルム9を温調できる。ロール電極11,12,13の設定温度は、好ましくは重合性モノマー(アクリル酸)の凝縮温度より低温である。PMMAフィルム9の設定温度は、好ましくは25℃〜45℃程度である。
【0022】
第1反応ガス供給手段20は、第1反応ガスの供給源21と、第1反応ガスノズル23を備えている。第1反応ガスは、重合性モノマー及びキャリアガスを含有する。重合性モノマーとしては、アクリル酸(AA)が用いられている。キャリアガスとしては窒素(N)が用いられている。第1反応ガスは、アクリル酸と窒素の混合ガスにて構成されている。
【0023】
詳細な図示は説明するが、第1反応ガス供給源21は、気化器を含む。気化器において、液体のアクリル酸がキャリアガス中に気化される。気化は、バブリング方式でもよく、押し出し方式でもよい。気化したアクリル酸とキャリアガスとが混合することにより、第1反応ガスが生成される。ここで、バブリング方式とは、気化器内の液体アクリル酸の液中にキャリアガスを注入し、キャリアガスの気泡中にアクリル酸を気化させる方式を云う。押し出し方式とは、気化器内の液体アクリル酸の液面より上側の空間部分にキャリアガスを導入し、上記空間部分の飽和アクリル酸蒸気をキャリアガスと混合して押し出す方式を云う。
【0024】
第1反応ガス供給源21が、ガス路22を介して第1反応ガスノズル23に接続されている。第1反応ガスノズル23は、第1ロール電極11の上方に配置されている。第1反応ガスノズル23は、処理幅方向に長く延び、かつ第1ロール電極11の周方向(図1の左右)にある程度の幅を有している。第1反応ガスノズル23の下面には、吹出し口が設けられている。吹き出し口は、第1反応ガスノズル23の下面の広い範囲(処理幅方向及びロール周方向)に分布するよう形成されている。第1反応ガスノズル23の吹出し面(下面)が、第1ロール電極11上のPMMAフィルム9に面している。第1反応ガス供給源21からの第1反応ガスが、第1反応ガスノズル23に供給され、第1反応ガスノズル23内の整流部(図示省略)にて均一化されたうえで、第1反応ガスノズル23の吹出し口から吹き出される。第1反応ガスの吹出し流は、処理幅方向に均一に分布した流れになる。
【0025】
ガス路22及び第1反応ガスノズル23には、温調手段(図示省略)が設けられている。ガス路22の温調手段はリボンヒータ等にて構成されている。第1反応ガスノズル23の温調手段は、温調水を通す温調路にて構成されている。ガス路22及び第1反応ガスノズル23の設定温度は、アクリル酸の凝縮温度より高温である。これによって、アクリル酸が吹出し前に凝縮するのを防止できる。ガス路22及び第1反応ガスノズル23の設定温度は、好ましくは60℃〜80℃程度である。
【0026】
第1反応ガスノズル23の底部の両側には遮蔽部材24が設けられている。遮蔽部材24は、第1ロール電極11の周方向に沿う円弧状の断面をなして、処理幅方向にロール電極11とほぼ同じ長さ延びる湾曲板状になっている。遮蔽部材24が、第1反応ガスノズル23よりも第1ロール電極11の周方向に延び出ている。図1において左側の遮蔽部材24の左端部は解放されている。図1において右側の遮蔽部材24の右端部は、後記ノズル34に当接又は近接している。
【0027】
第1反応ガスノズル23と第1ロール電極11との間に第1吹付空間25が画成されている。第1吹付空間25は、第1ロール電極11の上側の周面に沿う断面円弧状の空間になっている。遮蔽部材24によって、第1吹付空間25が、第1反応ガスノズル23よりも第1ロール電極11の周方向の両側に延長されている。図1において、第1吹付空間25の左側の端部は、ロール電極11の左側(ロール電極12側とは反対側)の外部空間に連なっている。図1において、第1吹付空間25の右側の端部は、後記ノズル34とロール電極11との間の隙間を介してギャップ14に連なっている。
【0028】
第1放電ガス供給手段30は、第1放電ガス供給源31と、第1放電ガスノズル33,34を備えている。ガス供給源31には、第1放電生成ガスとしてアルゴン(Ar)が蓄えられている。
【0029】
ガス供給源31からのガス路32が第1放電ガスノズル33,34に接続されている。第1放電ガスノズル33,34は、ギャップ14を挟んで上下に一対をなしている。下側の第1放電ガスノズル33は、PMMAフィルム9の折り返し部分9aの内部に配置されている。上側の第1放電ガスノズル34は、ギャップ14より上側のロール電極11,12間に配置されている。これら第1放電ガスノズル33,34は、処理幅方向に長く延び、かつその延び方向と直交する断面が互いの対向側に向かって先細になっている。各第1放電ガスノズル33,34の先端の吹き出し口がギャップ14に臨んでいる。ガス供給源31からのアルゴンガスが、第1放電ガスノズル33,34内の整流部(図示省略)にて処理幅方向に均一化されたうえで、第1放電ガスノズル33,34の吹出し口からギャップ14へ向けて吹き出される。この吹出し流は、処理幅方向に均一に分布した流れになる。
【0030】
第1放電ガスノズル33,34内には、図示しない温調路が設けられている。水等の温調媒体が第1放電ガスノズル33,34内の上記温調路に通される。これによって、第1放電ガスノズル33,34を温調でき、ひいてはアルゴンガス(第1放電ガス)の吹き出し温度を調節できる。第1放電ガスノズル33,34の設定温度は、好ましくは25℃〜45℃程度である。
【0031】
第2反応ガス供給手段40は、第2反応ガスの供給源41と、第2反応ガスノズル43を備えている。第2反応ガスは第1反応ガスと同一のガスにて構成されている。すなわち、第2反応ガスは、重合性モノマー及びキャリアガスを含有する。重合性モノマーとしては、アクリル酸(AA)が用いられている。キャリアガスとしては窒素(N)が用いられている。第2反応ガスは、アクリル酸と窒素の混合ガスにて構成されている。
【0032】
詳細な図示は説明するが、第2反応ガス供給源41は、気化器を含む。気化器において、液体のアクリル酸がキャリアガス中に気化される。気化は、バブリング方式でもよく、押し出し方式でもよい。気化したアクリル酸とキャリアガスとが混合することにより、第2反応ガスが生成される。第1反応ガス供給源21と第2反応ガス供給源41が共通のアクリル酸供給源にて構成されていてもよい。
【0033】
第2反応ガス供給源41は、ガス路42を介して第2反応ガスノズル43に接続されている。第2反応ガスノズル43は、第2ロール電極12の上方に配置されている。第2反応ガスノズル43は、処理幅方向に長く延び、かつ第2ロール電極12の周方向(図1の左右)にある程度の幅を有している。第2反応ガスノズル43の下面には、吹出し口が設けられている。吹き出し口は、第2反応ガスノズル43の下面の広い範囲(処理幅方向及びロール周方向)に分布するよう形成されている。第2反応ガスノズル43の吹出し面(下面)が、第2ロール電極12上のPMMAフィルム9に面している。第2反応ガス供給源41からの第2反応ガスが、第2反応ガスノズル43に供給され、第2反応ガスノズル43内の整流部(図示省略)にて均一化されたうえで、第2反応ガスノズル43の吹出し口から吹き出される。第2反応ガスの吹出し流は、処理幅方向に均一に分布した流れになる。
【0034】
ガス路42及び第2反応ガスノズル43には、温調手段(図示省略)が設けられている。ガス路42の温調手段はリボンヒータ等にて構成されている。第2反応ガスノズル43の温調手段は、温調水を通す温調路にて構成されている。ガス路42及び第2反応ガスノズル43の設定温度は、アクリル酸の凝縮温度より高温である。これによって、アクリル酸が吹出し前に凝縮するのを防止できる。ガス路42及び第2反応ガスノズル43の設定温度は、好ましくは60℃〜80℃程度である。
【0035】
第2反応ガスノズル43の底部には遮蔽部材44が設けられている。遮蔽部材44は、第2ロール電極12の周方向に沿う円弧状の断面をなして、処理幅方向にロール電極12とほぼ同じ長さ延びる湾曲板状になっている。遮蔽部材44が、第2反応ガスノズル43よりも第2ロール電極12の周方向に延び出ている。図1において左側の遮蔽部材44の左端部は、第1放電ガスノズル34の側部に当接又は近接している。図1において右側の遮蔽部材44の右端部は、後記ノズル54に当接又は近接している。
【0036】
遮蔽部材44と第2ロール電極12との間に第2吹付空間45が画成されている。第2吹付空間45は、第2ロール電極12の上側の周面に沿う断面円弧状の空間になっている。遮蔽部材44によって、第2吹付空間45が、第2反応ガスノズル43よりも第2ロール電極12の周方向の両側に延長されている。図1において、第2吹付空間45の左側の端部は、第1放電ガスノズル34とロール電極12との間の隙間を介して、第1放電空間14に連なっている。図1において、第2吹付空間45の右側の端部は、後記ノズル54とロール電極12との間の隙間を介してギャップ15に連なっている。
【0037】
第2放電ガス供給手段50は、第2放電ガス供給源51と、第2放電ガスノズル53,54を備えている。第2放電ガス供給源51には、第2放電生成ガスとしてアルゴン(Ar)が蓄えられている。第1放電ガス供給源31と第2放電ガス供給源51が共通のアルゴンガス供給源にて構成されていてもよい。
【0038】
ガス供給源51からのガス路52が第2放電ガスノズル53,54に接続されている。第2放電ガスノズル53,54は、ギャップ15を挟んで上下に一対をなしている。下側の第2放電ガスノズル53は、PMMAフィルム9の折り返し部分9bの内部に配置されている。上側の第2放電ガスノズル54は、ギャップ15より上側のロール電極11,12間に配置されている。これら第2放電ガスノズル53,54は、処理幅方向に長く延び、かつその延び方向と直交する断面が互いの対向側に向かって先細になっている。各第2放電ガスノズル53,54の先端の吹き出し口がギャップ15に臨んでいる。ガス供給源51からのアルゴンガスが、第2放電ガスノズル53,54内の整流部(図示省略)にて処理幅方向に均一化されたうえで、第2放電ガスノズル53,54の吹出し口からギャップ15へ向けて吹き出される。この吹出し流は、処理幅方向に均一に分布した流れになる。
【0039】
第2放電ガスノズル53,54内には、図示しない温調路が設けられている。水等の温調媒体が第2放電ガスノズル53,54内の上記温調路に通される。これによって、第2放電ガスノズル53,54を温調でき、ひいてはアルゴンガス(第2放電ガス)の吹き出し温度を調節できる。第2放電ガスノズル53,54の設定温度は、好ましくは25℃〜45℃程度である。
【0040】
上記構成のフィルム表面処理装置1によってPMMAフィルム9を表面処理する方法、ひいては偏光板を製造する方法を説明する。
[支持工程、搬送工程]
ロール電極11〜13及びガイドロール16,17に、連続シート状のPMMAフィルムからなるPMMAフィルム9を掛け回す。
ロール電極11〜13を図1において時計周りに回転させ、PMMAフィルム9を第1ロール電極11、第2ロール電極12、第3ロール電極13の順に、図1において概略右方向へ搬送する。搬送速度は、好ましくは1m/min〜30m/min程度である。
【0041】
[第1接触工程]
第1反応ガス供給手段20では、キャリアガス(N)中にアクリル酸(AA)を気化させて第1反応ガス(AA+N)を生成する。第1反応ガス中のアクリル酸の体積濃度は、好ましくは2%〜8%である。この第1反応ガスを反応ガスノズル23から第1吹付空間25に吹き出す。第1反応ガスは、第1吹付空間25内のPMMAフィルム9の表面に接触する。これによって、第1反応ガス中のアクリル酸モノマーが凝縮して、PMMAフィルム9に付着し、PMMAフィルム9の表面にアクリル酸モノマーからなる第1の凝縮層が形成される。
【0042】
[第1照射工程]
第1ロール電極11の回転に伴ない、上記第1接触工程を経たPMMAフィルム9がギャップ14すなわち第1放電空間14へ搬送される。第1放電ガス供給手段30では、第1放電ガスとしてアルゴンを第1放電ガスノズル33,34から第1放電空間14に吹き出す。上下両方の第1放電ガスノズル33,34からアルゴンを吹き出してもよく、片方の第1放電ガスノズル33又は34からだけアルゴンを吹き出してもよい。好ましくは、下側の第1放電ガスノズル33からアルゴンを吹き出す。併行して、ロール電極12に電力を供給し、第1放電空間14内に大気圧近傍の放電を生成し、アルゴン(第1放電ガス)をプラズマ化する。このアルゴンプラズマが第1放電空間14内のPMMAフィルム9の表面に接触する。これによって、上記第1凝縮層のアクリル酸モノマーがプラズマ重合し、PMMAフィルム9の表面にポリアクリル酸からなる第1のプラズマ重合膜が形成される。放電ガスとしてアルゴンを用いることでプラズマ密度を高くでき、上記第1プラズマ重合膜の重合度を高くできると考えられる。PMMAフィルム9は、ガイドロール16にて折り返されることによって、第1放電空間14を往復し、第1放電ガス供給手段30にて2回処理される。
【0043】
[第2接触工程]
その後、PMMAフィルム9は、第2ロール電極12に添って第2吹付空間45へ搬送される。第2反応ガス供給手段40では、キャリアガス(N)中にアクリル酸(AA)を気化させて第2反応ガス(AA+N)を生成する。第2反応ガス中のアクリル酸の体積濃度は、好ましくは2%〜8%である。第2反応ガスのアクリル酸濃度は、第1反応ガスのアクリル酸濃度と同じでもよく、第1反応ガスのアクリル酸濃度より高くてもよく、第1反応ガスのアクリル酸濃度より低くてもよい。この第2反応ガスを第2反応ガスノズル43から第2吹付空間45に吹き出す。第2反応ガスは、第2吹付空間45内のPMMAフィルム9の表面に接触する。この第2反応ガス中のアクリル酸モノマーが凝縮して、PMMAフィルム9に付着し、上記第1のプラズマ重合膜の上に更にアクリル酸モノマーからなる第2の凝縮層が形成される。
【0044】
[第2照射工程]
第2ロール電極12の回転に伴ない、上記第2接触工程を経たPMMAフィルム9がギャップ15すなわち第2放電空間15へ搬送される。第2放電ガス供給手段50では、第2放電ガスとしてアルゴンを第2放電ガスノズル53,54から第2放電空間15に吹き出す。上下両方の第2放電ガスノズル53,54からアルゴンを吹き出してもよく、片方の第2放電ガスノズル53又は54からだけアルゴンを吹き出してもよい。好ましくは、下側の第2放電ガスノズル53からアルゴンを吹き出す。第2放電空間15内では、ロール電極12への電力供給によって大気圧近傍の放電が生成され、アルゴン(第2放電ガス)がプラズマ化される。このアルゴンプラズマが第2放電空間15内のPMMAフィルム9の表面に接触する。これによって、上記第1プラズマ重合膜の重合度が更に高まるとともに、上記第2凝縮層のアクリル酸モノマーがプラズマ重合し、上記第1プラズマ重合膜上に更にポリアクリル酸からなる第2のプラズマ重合膜が積層形成される。上記第1、第2のプラズマ重合膜によって接着性促進層が構成される。第1プラズマ重合膜は、第1照射工程だけでなく第2照射工程でも重合が進むから、第2プラズマ重合膜より重合度が高い。第2照射工程の放電ガスとしてアルゴンを用いることで第2放電空間15内のプラズマ密度を高くでき、上記第1、第2プラズマ重合膜の重合度を高くできると考えられる。PMMAフィルム9は、ガイドロール16にて折り返されることによって、第2放電空間15を往復し、第2放電ガス供給手段50にて2回処理される。第2放電空間を往復後のPMMAフィルム9は、第3ロール電極13に添って送られ、装置1から搬出される。
【0045】
上記表面処理後のPMMAフィルム9を、PVA系接着剤を介してPVAフィルムと接着し、偏光板を作製する。接着に先立って上記表面処理を行うことによって、難接着性のPMMAフィルム9とPVA接着剤との接着強度を向上でき、更には高温かつ高湿度環境下に晒した場合の接着耐久性を充分に高めることができる。特に、反応成分の重合性モノマーとしてアクリル酸を用い、放電ガスとしてアルゴンを用いることで、上記接着強度ひいては接着耐久性を確実に高めることができる。接着耐久性に関しては、PMMAフィルムを高温かつ高湿度環境下に晒すと、晒す前よりも却って接着強度を高くできる(後記実施例1〜4参照)。これによって、偏光板の剥がれを防止でき、品質を高めることができる。
【0046】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、第1、第2反応ガスのキャリアガスは、窒素(N)に限られず、アルゴン(Ar)であってもよい。上記キャリアガスが、第1、第2放電生成ガスと同一成分であってもよい。そうすると、キャリアガス(Ar)が放電空間14,15内に流入したとしても、放電状態が変わるのを防止でき、安定した放電を維持できる。更に、上記キャリアガスは、ヘリウム、ネオン等の他の希ガスであってもよい。
第1接触工程と第1照射工程を同時併行して行なってもよい。ガスノズル23を省略し、ガスノズル33,34からアクリル酸とアルゴンを含む第1反応ガスを第1放電空間14に吹き出してもよい。このアルゴンは、第1反応ガスのキャリアガスと第1放電生成ガスとを兼ねる。
第2接触工程と第2照射工程を同時併行して行なってもよい。ガスノズル43を省略し、ガスノズル53,54からアクリル酸とアルゴンを含む第2反応ガスを第2放電空間15に吹き出してもよい。このアルゴンは、第2反応ガスのキャリアガスと第2放電生成ガスとを兼ねる。
偏光板の製造工程において、PMMAフィルムを高温かつ高湿度環境下に晒すことにしてもよい。これによって、PMMAフィルムの接着耐久性を高くできる。
ロール電極を4つ以上並べ、アクリル酸含有反応ガスの吹き付け及びアルゴンプラズマ照射を3回以上行ってもよい。この場合、連続する2回のアクリル酸含有反応ガス吹き付け及びアルゴンプラズマ照射のうち、先行のアクリル酸含有反応ガス吹き付けが「第1接触工程」となり、先行のアルゴンプラズマ照射が「第1照射工程」となり、後行のアクリル酸含有反応ガス吹き付けが「第2接触工程」となり、後行のアルゴンプラズマ照射が「第2照射工程」となる。
【実施例1】
【0047】
実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
PMMAフィルム9として、光学用フィルム(OP−PMMA)を用いた。フィルム9の幅は、320mmであった。
前処理として、N及びOの混合ガスをプラズマ化して上記PMMAフィルム9に照射し、上記フィルム9の表面を洗浄(有機不純物の除去)した。
次に、図1の表面処理装置1と実質的に同一構造の装置を用いて、上記PMMAフィルム9に対し第1接触工程、第1照射工程、第2接触工程、第2照射工程を順次行なった。表面処理装置1の寸法構成及び処理条件は、以下の通りであった。
ロール電極11,12,13の処理幅方向の軸長:390mm
ロール電極11,12,13の直径:310mm
ロール電極12への供給電力: 250W(直流電圧120V×直流電流2.1Aを高周波変換)
供給周波数: 50kHz
ロール電極11,12間、及びロール電極12,13間の印加電圧:Vpp=6.5kV
PMMAフィルム9の搬送速度: 20m/min
PMMAフィルム9の設定温度: 40℃
第1反応ガス(AA+N)の吹出し温度:75℃
第1反応ガス(AA+N)の流量:30slm
第1反応ガス中のアクリル酸の体積濃度: 7.8%
第1放電ガスノズル33からのアルゴン流量:15slm
第1放電ガスノズル34からのアルゴン流量:0slm
第2反応ガス(AA+N)の吹出し温度:75℃
第2反応ガス(AA+N)の流量:30slm
第2反応ガス中のアクリル酸の体積濃度: 7.8%
第2放電ガスノズル53からのアルゴン流量:15slm
第2放電ガスノズル54からのアルゴン流量:0slm
【0048】
表面処理後のPMMAフィルム9の被処理面にPVA系接着剤を塗布し、PVAフィルムと貼り合わせた。PVA系接着剤として、(A)重合度500のPVA 5wt%水溶液と、(B)カルボキシメチルセルロースナトリウム 2wt%水溶液とを混合した水溶液を用いた。(A)及び(B)の混合比は、(A):(B)=20:1とした。接着剤の乾燥条件は80℃、5分間とした。
別途、TACフィルムにアクリル酸を吹き付け、かつNプラズマを照射した。このTACフィルムをPVAフィルムの反対側の面に上記と同じPVA系接着剤にて貼り合わせた。これにより、3層構造の偏光板サンプルを複数作製した。偏光板サンプルの幅は、25mmとした。
【0049】
[初期接着強度]
上記PVA系接着剤が硬化した後、後述する湿熱処理を経ていない偏光板サンプルについて、PMMAフィルム9とPVAフィルムとの接着強度(「初期接着強度」と称す)を測定した。測定方法は浮動ローラー法(JIS K6854)に依った。結果は平均で2.9N/inchであった。
【0050】
[耐久接着強度]
残りの偏光板サンプルに対して、PVA接着剤が硬化した後、湿熱処理した。湿熱処理槽の内部を60℃、95%RHの高温高湿度環境にし、この湿熱処理槽内に偏光板サンプルを1時間留置した。その後、偏光板サンプルを湿熱処理槽から出し、室温下で3分間冷却した。そして、PMMAフィルム9とPVAフィルムとの接着強度(「耐久接着強度」と称す)を上記初期接着強度と同じ浮動ローラー法(JIS K6854)にて測定した。結果は8.4N/inchで材破した。したがって、PMMAフィルムを湿熱環境に晒すと却って接着強度が高くなった。
なお、実施例1では、PMMAフィルム9の表面処理、偏光板サンプルの作製、及び評価(初期接着強度測定・耐久接着強度測定)をすべて同日中に行なった。
【実施例2】
【0051】
実施例2では、第1反応ガス中のアクリル酸濃度を5.8%とし、かつ第2反応ガス中のアクリル酸濃度を5.8%とした。それ以外の条件は、実施例1と同じであった。表面処理後の偏光板サンプルの作製手順、並びに初期接着強度及び耐久接着強度の測定手順についても実施例1と同じであった。初期接着強度は平均で1.8N/inchであった。耐久接着強度の測定では、8.4N/inchで材破した。
【実施例3】
【0052】
実施例3では、PMMAフィルム9の搬送速度を10m/minとした。それ以外の条件は、実施例2と同じであった。表面処理後の偏光板サンプルの作製手順、並びに初期接着強度及び耐久接着強度の測定手順については実施例1、2と同じであった。初期接着強度は平均で2.9N/inchであった。耐久接着強度の測定では、8.7N/inchで材破した。
【0053】
実施例1〜実施例3の結果より、第1、第2反応ガス中のアクリル酸濃度の設定、又は搬送速度の設定によって初期接着強度を調節できることが確認された。すなわち、アクリル酸濃度を高くするか、搬送速度を遅くすることで初期接着強度を高くすることができた。また、耐久接着強度に関しては、アクリル酸濃度及び搬送速度に拘わらず、十分に高くすることができた。
【実施例4】
【0054】
実施例4では、実施例1と同一条件でPMMAフィルム9(OP−PMMA)の表面処理を行なった。表面処理後のPMMAフィルム9を巻いてロール状にし、これを38日間、室温で留置した。そして、実施例1と同じ手順で偏光板サンプルを作製し、かつ初期接着強度及び耐久接着強度を測定した。初期接着強度は平均で2.8N/inchであった。耐久接着強度の測定では、9.9N/inchで材破した。
表面処理後の経時変化は殆ど起きないことが確認された。
【0055】
表1は、実施例1〜4の主な処理条件及び評価をまとめたものである。
【表1】

【0056】
[比較例1]
比較例1として、上記表面処理を行なっていないPMMAフィルム9(OP−PMMA)について、偏光板サンプルを作製し、初期接着強度及び耐久接着強度を測定した。偏光板サンプルの作製手順、並びに初期接着強度及び耐久接着強度の測定手順については実施例1と同じであった。初期接着強度は平均で0.4N/inchであった。耐久接着強度は平均で0.5N/inchであった。
【0057】
[比較例2]
比較例2として、PMMAフィルム9(OP−PMMA)の表面処理において第2接触工程及び第2照射工程を省略し、第1接触工程及び第1照射工程のみを行なった。それ以外の表面処理条件、偏光板サンプルの作製手順、並びに初期接着強度及び耐久接着強度の測定手順については実施例1と同じであった。初期接着強度は平均で1.2N/inchであった。耐久接着強度は平均で2.7N/inchであった。
上記実施例及び比較例2の結果から、アクリル酸吹き付け及びアルゴンプラズマ照射を反復することで、初期接着強度及び耐久接着強度を向上できることが確認された。
【0058】
[比較例3]
比較例3として、第1、第2放電生成ガスとして窒素(N)を用いた。それ以外の表面処理条件は、第1、第2放電生成ガスの流量を含めて、実施例1と同じとした。偏光板サンプルの作製手順、並びに初期接着強度及び耐久接着強度の測定手順についても実施例1と同じであった。初期接着強度は平均で1.3N/inchであった。耐久接着強度は平均で6.3N/inchであった。
上記実施例及び比較例3の結果から、放電生成ガスとしてアルゴンを用いることで初期接着強度及び耐久接着強度を向上できることが確認された。
【0059】
[比較例4]
比較例4では、比較例3において第2接触工程及び第2照射工程を省略し、第1接触工程及び第1照射工程のみを行なった。それ以外の表面処理条件、偏光板サンプルの作製手順、並びに初期接着強度及び耐久接着強度の測定手順については、比較例3と同じであった。初期接着強度は平均で1.2N/inchであった。耐久接着強度は平均で1.6N/inchであった。
【0060】
[比較例5]
ここまでの実施例1〜4及び比較例1〜4では、PMMAフィルムとしてOP−PMMAを用いたが、以下の比較例5〜7では、PMMAフィルムとして積水化学工業株式会社製OS−PMMAを用いた。比較例5では、表面処理を行なっていないPMMAフィルム(積水化学工業株式会社製OS−PMMA)について、偏光板サンプルを作製し、初期接着強度及び耐久接着強度を測定した。偏光板サンプルの作製手順、並びに初期接着強度及び耐久接着強度の測定手順については実施例1と同じであった。初期接着強度は平均で0.4N/inchであった。耐久接着強度は平均で0.5N/inchであった。
【0061】
[比較例6]
比較例6では、PMMAフィルム(積水化学工業株式会社製OS−PMMA)に対する表面処理において第2接触工程及び第2照射工程を省略し、第1接触工程及び第1照射工程のみを行なった。それ以外の表面処理条件、偏光板サンプルの作製手順、並びに初期接着強度及び耐久接着強度の測定手順については、実施例1と同じであった。初期接着強度は平均で2.7N/inchであった。耐久接着強度は平均で4.8N/inchであった。
【0062】
[比較例7]
比較例7では、比較例6において第1放電生成ガスとして窒素(N)を用いた。それ以外の処理条件は、第1放電生成ガスの流量を含めて、比較例6と同じとした。偏光板サンプルの作製手順、並びに初期接着強度及び耐久接着強度の測定手順については、実施例1と同じであった。初期接着強度は平均で2.7N/inchであった。耐久接着強度は平均で4.8N/inchであった。
【0063】
表2は、比較例1〜7の主な処理条件及び評価をまとめたものである。表2において、「処理数」の欄の「single」は、表面処理工程として第1接触工程及び第1照射工程のみを行なったことを示し、「twin」は、表面処理工程として第1接触工程及び第1照射工程、並びに第2接触工程及び第2照射工程を行なったことを示す。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、例えばフラットパネルディスプレイ(FPD)の偏光板に適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 フィルム表面処理装置
9 被処理フィルム(PMMAフィルム)
10 電極構造
11 第1ロール電極
12 第2ロール電極
13 第3ロール電極
14 ギャップ、第1放電空間
15 ギャップ、第2放電空間
16 ガイドロール
17 ガイドロール
20 第1反応ガス供給手段
21 第1反応ガス供給源
22 ガス路
23 第1反応ガスノズル
24 遮蔽部材
25 第1吹付空間
30 第1放電ガス供給手段
31 第1放電ガス供給源
32 ガス路
33 下側の第1放電ガスノズル
34 上側の第1放電ガスノズル
40 第2反応ガス供給手段
41 第2反応ガス供給源
42 ガス路
43 第2反応ガスノズル
44 遮蔽部材
45 第2吹付空間
50 第2放電ガス供給手段
51 第2放電ガス供給源
52 ガス路
53 下側の第2放電ガスノズル
54 上側の第2放電ガスノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリメタクリル酸メチルを主成分とする樹脂フィルム(以下「PMMAフィルム」と称す)の表面を処理するフィルム表面処理方法であって、
アクリル酸をキャリアガスに気化させてなる第1反応ガスをPMMAフィルムに接触させる第1接触工程と、
前記第1接触工程後又は前記第1接触工程と併行して、大気圧近傍下で生成したアルゴンプラズマを前記PMMAフィルムに照射する第1照射工程と、
前記第1照射工程後にアクリル酸をキャリアガスに気化させてなる第2反応ガスを前記PMMAフィルムに接触させる第2接触工程と、
前記第2接触工程後又は前記第2接触工程と併行して、大気圧近傍下で生成したアルゴンプラズマを前記PMMAフィルムに照射する第2照射工程と、
を含むことを特徴とするフィルム表面処理方法。
【請求項2】
PMMAフィルムの表面を処理するフィルム表面処理装置であって、
互いに平行に並べられ、隣り合うものどうし間のギャップに大気圧近傍下で放電を生成する第1、第2、第3のロール電極と、
前記第1ロール電極の周面に面して、アクリル酸を含有する第1反応ガスを吹き出す第1反応ガスノズルと、
前記第1ロールと前記第2ロールとの間のギャップにアルゴンを吹き出す第1放電ガスノズルを含み、
前記第2ロール電極の周面に面して、アクリル酸を含有する第2反応ガスを吹き出す第2反応ガスノズルと、
前記第2ロールと前記第3ロールとの間のギャップにアルゴンを吹き出す第2放電ガスノズルを含み、
前記PMMAフィルムが前記第1、第2、第3ロール電極に掛け回され、かつ前記第1、第2、第3ロール電極の回転によって前記PMMAフィルムが前記第1ロール電極、前記第2ロール電極、前記第3ロール電極の順に搬送されることを特徴とするフィルム表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−207182(P2012−207182A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75647(P2011−75647)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【特許番号】特許第5039220号(P5039220)
【特許公報発行日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】