説明

フィルム表面処理装置

【課題】重合性モノマーを用いて被処理フィルムを表面処理する際に、ロール電極に付着した重合性モノマーの凝縮物又は重合物等からなる付着物を除去し、上記付着物に起因する歩留まりの低下を防止する。
【解決手段】被処理フィルム9を、フィルム表面処理装置1のロール電極11の外周面の軸方向の端部分11eより内側かつ周方向の一部分11aに巻き付ける。ロール電極11を軸線回りに回転させながら、重合性モノマーを含有する反応流体を被処理フィルム9に接触させ、かつロール電極11と対向電極11との間の放電空間15において被処理フィルム9にプラズマを照射する。第1洗浄ロール30を、ロール電極11の端部分11eと内側の部分11bとに跨るようにして上記フィルム巻付部分11aから周方向にずれた部分に接触させる。第1洗浄ロール30の少なくとも外周部32を絶縁性にし、かつ外周部32の最外周部分34を粘着性材料にて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理フィルムに重合性モノマーを接触させるとともにプラズマを照射することによって、被処理フィルムを表面処理する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、偏光板の保護フィルムを易接着化するために、重合性モノマーを用いてフィルムをプラズマ処理する装置は公知である(特許文献1等参照)。特許文献1の装置は、ロール電極と、このロール電極の外周面と対向する対向電極とを有している。ロール電極の金属本体の外周面は誘電体層で覆われている。このロール電極に被処理フィルムを巻き付ける。この被処理フィルムに重合性モノマーをスプレー塗布する。塗布後又は塗布と同時に、ロール電極と対向電極との間に印加することによって被処理フィルムにプラズマを照射する。これによって、被処理フィルムの表面に重合性モノマーのプラズマ重合膜が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−25604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のフィルム表面処理装置では、ロール電極の外周面の一部分が被処理フィルムにて覆われ、上記外周面の残部が露出した状態になる。特に、ロール電極の外周面の軸方向の両端部分が、被処理フィルムで覆われることなく露出する。この露出した部分には、重合性モノマーの凝縮物又は重合物が汚れになって付着しやすい。この汚れが被処理フィルムに移ることで、歩留まりが低下するおそれがある。
【0005】
ロールの一般的な洗浄方式として、回転体等の洗浄部材を洗浄液で濡らしてウェット状態にし、この洗浄部材をロールに擦り付けるウェット方式がある。しかし、洗浄対象のロールが電極である場合、高電圧の電気が洗浄液を伝ってリークするおそれがある。そうすると、安定した放電状態を損ない、量産性に悪影響を与えてしまう。
また、サンドペーパー等の硬質部材で洗浄対象を擦る洗浄方式もあるが、これを上記フィルム表面処理装置に適用すると、ロール電極の外周面の誘電体層が損傷してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、重合性モノマーを含有する反応流体を被処理フィルムに接触させ、かつ前記被処理フィルムにプラズマを照射するフィルム表面処理装置において、
外周面の軸方向の端部分より内側かつ周方向の一部分に前記被処理フィルムを巻き付け、かつ軸線回りに回転されるロール電極と、
前記ロール電極と対向し、前記ロール電極との間に前記プラズマ照射のための放電空間を形成する対向電極と、
前記ロール電極の外周面の前記端部分と、該端部分より前記軸方向の内側の部分とに跨り、かつ前記被処理フィルムを巻き付けた部分(フィルム巻付部分)から周方向にずれた部分に接する第1洗浄ロールと
を備え、前記第1洗浄ロールの少なくとも外周部が絶縁性を有し、かつ前記外周部の最外周部分が粘着性材料にて構成されていることを特徴とする。
【0007】
前記反応性流体を被処理フィルムに接触させることで、重合性モノマーを被処理フィルムの表面に付着させることができる。更に、被処理フィルムにプラズマを照射することによって、被処理フィルムの表面上で重合性モノマーのプラズマ重合反応を起こさせ、被処理フィルムの表面に重合性モノマーのプラズマ重合膜を形成できる。
ロール電極の外周面の軸方向の端部分は、被処理フィルムにて覆われることなく露出するために、重合性モノマーの凝縮物又は重合物からなる付着物が形成されやすい。この露出した端部分に、第1洗浄ロールの粘着性を有する最外周部分を接触させることによって、前記付着物を第1洗浄ロールの最外周部分に粘着させて第1洗浄ロールに移すことができる。これによって、ロール電極から付着物を除去でき、ないしは付着物の堆積量を低減できる。特に、ロール電極における第1洗浄ロールとの接触範囲を、前記端部分だけでなく、そこよりも軸方向の内側の部分にも及ばせることによって、フィルム巻付部分の軸方向の縁付近に付いた付着物を確実に除去できる。したがって、前記付着物が被処理フィルムに移って被処理フィルムが汚れるのを防止又は抑制できる。ひいては、前記付着物に起因する歩留まりの低下を回避又は抑制できる。
ここで、粘着性とは、第1洗浄ロールをロール電極に接触させたとき、ロール電極上の重合性モノマーの重合物又は凝縮物からなる付着物と粘着することで、該付着物をロール電極から引き剥がして第1洗浄ロールに移すことができる性質を言う。
また、第1洗浄ロールの外周部に絶縁性を持たせることで、高圧電流がロール電極から第1洗浄ロールを伝ってリークするのを防止できる。したがって、放電空間における放電状態を安定させることができ、プラズマ表面処理を安定的に行うことができる。
さらに、第1洗浄ロールの最外周部分に柔軟性又は弾性を持たせることで、ロール電極の固体誘電体層が損傷するのを防止できる。
ロール電極は回転駆動機構及び通電機器(電源接続端子又は接地端子)に接続されているため、取り外しや交換等のメンテナンス作業が容易でないが、第1洗浄ロールは、上記回転駆動機構や通電機器に接続する必要が無い。したがって、第1洗浄ロールの汚れが進行したときは、第1洗浄ロールを装置から簡単に取り外して、洗浄、交換等のメンテナンスを行なうことができる。更に、第1洗浄ロールをロール電極より小型(小径、短小)にすることで軽量にでき、取り外し、交換、洗浄等のメンテナンス作業を一層容易化できる。
【0008】
前記第1洗浄ロールの前記軸方向の長さが、前記ロール電極の前記端部分の前記軸方向の長さより大きいことが好ましい。或いは、前記第1洗浄ロールの前記軸方向の長さが、前記ロール電極の前記軸方向の長さと前記被処理フィルムの前記軸方向の寸法との差の2分の1より大きいことが好ましい。そうすることで、前記端部分の前記軸方向の全域に第1洗浄ロールを当てることができ、前記端部分の前記軸方向の全域を掃除できる。また、第1洗浄ロールを前記露出部分と前記内側部分とに確実に跨らせることができ、ひいてはフィルム巻付部分の縁付近から付着物を一層確実に除去できる。
前記第1洗浄ロールの前記軸方向の長さは、前記ロール電極の軸長の半分より短いことが好ましく、前記端部分の前記軸方向の長さの2倍以下であることがより好ましい。
【0009】
前記第1洗浄ロールが、前記ロール電極の軸方向の両側の端部分にそれぞれ設けられていることが好ましい。これによって、前記ロール電極の両側の端部分に付いた付着物をそれぞれ除去することができ、被処理フィルムが汚れるのを一層確実に防止でき、ひいては前記付着物に起因する歩留まりの低下を一層確実に回避又は抑制できる。
【0010】
前記粘着性材料が、アクリルゴム、シリコンゴム、ブタジエンゴム、又はイソプレンゴムにて構成されていることが好ましい。これによって、前記重合性モノマーの凝縮物又は重合物を第1洗浄ロールに確実に粘着させることができる。前記粘着性材料の成分は、前記重合性モノマーの組成に応じて適宜調節することが好ましい。前記粘着性材料のヤング率は、10dyn/cm以下が好ましく、10dyn/cm〜10dyn/cm程度がより好ましい。
【0011】
前記フィルム表面処理装置が、前記第1洗浄ロールの外周面を洗浄する洗浄手段を更に備えていることが好ましい。第1洗浄ロールに着いた付着物を前記洗浄手段にて除去することで、粘着性の最外周部分を露出させることができる。したがって、ロール電極から付着物を継続的に除去することができる。
【0012】
前記洗浄手段が、前記第1洗浄ロールの外周面に接する第2洗浄ロールを含み、前記第2洗浄ロールの外周部が、洗浄液を保持した洗浄部材にて構成されていることが好ましい。
これによって、第1洗浄ロールに付いた前記付着物を第2洗浄ロールにて剥ぎ落とし、又は擦り落とすことができるだけでなく、洗浄液にて洗い落とすことができる。したがって、第1洗浄ロールを確実に清浄にでき、ひいてはロール電極を確実に清浄にできる。ロール電極と第2洗浄ロールとの間に第1洗浄ロールが介在することで、ロール電極に洗浄液が直接的に接触するのを回避でき、ロール電極から高圧電流が洗浄液を伝ってリークするのを防止できる。
【0013】
前記洗浄部材が、不織布にて構成されていることが好ましい。これによって、第1洗浄ロールに付いた前記付着物を不織布にて剥ぎ落とし、又は擦り落とすことができる。更に、不織布に洗浄液を含浸(保持)させることで、第1洗浄ロールを洗浄液にて確実に洗浄できる。
【0014】
前記ロール電極と対向電極との間に放電ガスを導入するとともに、前記電極間に電界を印加することによって前記放電ガスをプラズマ化させ、このプラズマ化した放電ガスを被処理フィルムに接触させることで、プラズマ照射を行なうことが好ましい。これによって、被処理フィルム上の重合性モノマーのプラズマ重合反応を確実に起こさせることができる。前記放電ガスとしては、窒素(N)や希ガス(Ar、Ne、He等)の不活性ガスが挙げられる。
【0015】
前記反応流体の接触及び前記プラズマ照射は、大気圧近傍下で行なうことが好ましい。ここで、大気圧近傍とは、1.013×10〜50.663×10Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、1.333×10〜10.664×10Paが好ましく、9.331×10〜10.397×10Paがより好ましい。
【0016】
本発明は、難接着性の光学樹脂フィルムの処理に好適であり、該難接着性の光学樹脂フィルムを易接着性の光学樹脂フィルムに接着するにあたり、難接着性の光学樹脂フィルムの接着性を向上させるのに好適である。
前記難接着性の光学樹脂フィルムの主成分としては、例えばトリアセチルセルロース(TAC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、シクロオレフィン重合体(COP)、シクロオレフィン共重合体(COC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリイミド(PI)等が挙げられる。
【0017】
前記易接着性の光学樹脂フィルムの主成分としては、例えばポリビニルアルコール(PVA)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)等が挙げられる。
【0018】
前記重合性モノマーとしては、不飽和結合及び所定の官能基を有するモノマーが挙げられる。所定の官能基は、水酸基、カルボキシル基、アセチル基、グリシジル基、エポキシ基、炭素数1〜10のエステル基、スルホン基、アルデヒド基から選択されることが好ましく、特に、カルボキシル基や水酸基等の親水基が好ましい。
【0019】
不飽和結合及び水酸基を有するモノマーとしては、メタクリル酸エチレングリコール、アリルアルコール、メタクリル酸ヒドロキシエチル等が挙げられる。
不飽和結合及びカルボキシル基を有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マイレン酸、2−メタクリロイルプロピオン酸等が挙げられる。
不飽和結合及びアセチル基を有するモノマーとしては、酢酸ビニル等が挙げられる。
不飽和結合及びグリシジル基を有するモノマーとしては、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。
不飽和結合及びエステル基を有するモノマーとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸2−エチル等が挙げられる。
不飽和結合及びアルデヒド基を有するモノマーとしては、アクリルアルデヒド、クロトンアルデヒド等が挙げられる。
【0020】
好ましくは、前記重合性モノマーは、エチレン性不飽和二重結合及びカルボキシル基を有するモノマーである。かかるモノマーとして、アクリル酸(CH=CHCOOH)、メタクリル酸(CH=C(CH)COOH)が挙げられる。前記重合性モノマーは、アクリル酸又はメタクリル酸であることが好ましい。これによって、難接着性樹脂フィルムの接着性を確実に高めることができる。前記重合性モノマーは、アクリル酸であることがより好ましい。
【0021】
前記被処理フィルムが、COP、COC、PP、PE等のオレフィン系モノマー重合フィルムである場合、前記重合性モノマーが、水溶性モノマー及びオレフィン系モノマーでることが好ましい。オレフィン系モノマーは、二重結合を有しかつ極性官能基を持たない不飽和炭化水素であり、直鎖状でもよく環状でもよく、二重結合の数は1つでもよく2つ以上でもよい。好ましくは、オレフィン系モノマーとして室温付近で液体であり、かつガス化が容易なものを用いる。オレフィン系モノマーの炭素数は5以上8以下が好ましい。具体的には、直鎖状のオレフィン系モノマーとしては、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等が挙げられる。直鎖の末端に二重結合があるものが好ましいが、特にこれに限定されるものではない。環状のオレフィン系モノマーとしては、1−シクロペンテン、1−シクロヘキセン、1−シクロヘプテン、1−シクロオクテンの他、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン(DCPD)等の環状ジエンが挙げられる。前記オレフィン系モノマーは、好ましくは環状ジエンであり、特にシクロペンタジエン、又はジシクロペンタジエンであることが好ましい。これにより、液化層ひいては接着促進層のオレフィン系モノマー重合フィルムとの相容性を高めることができ、特にシクロオレフィンポリマー(COP)からなるフィルムとの相容性を高めることができる。しかも、環状ジエンは、Diels−alder反応などに因り重合性が高く、水溶性モノマーと共重合しやすい。
【0022】
前記水溶性モノマーは、アルデヒド基、カルボキシル基、又は水酸基を有するモノマーであることが好ましい。これにより、PVA等の極性を有する成分からなる接着剤や、偏光子等の被接着部材との相容性を高めることができる。具体的には、水溶性モノマーとして、アセトアルデヒド、ビニルアルコール、アクリル酸(AA)、メタクリル酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミド等が挙げられる。特に、水溶性モノマーとしては、アセトアルデヒド、又はアクリル酸が好ましい。 アセトアルデヒドは、ビニルアルコールとケト−エノール互変異性体を構成し、ビニルアルコールと共存する化合物である。したがって、ビニルアルコール系の接着剤や偏光子等との相容性を高くすることができる。
【0023】
前記反応流体は、好ましくは気体(反応ガス)である。前記反応流体中の重合性モノマーは、好ましくは気相である。一方、アクリル酸やメタクリル酸等の重合性モノマーの多くは、常温常圧で液相であるから、そのような重合性モノマーはキャリアガス中に気化させるとよい。前記反応流体が、気化した重合性モノマー蒸気とキャリアガスとを含んでいることが好ましい。キャリアガスは、好ましくは窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスから選択される。経済性の観点からは、キャリア流体として窒素を用いるのが好ましい。重合性モノマーをキャリアガス中に気化させる方法としては、重合性モノマー液の液面上の飽和蒸気をキャリアガスで押し出す方法、重合性モノマー液中にキャリアガスをバブリングする方法、重合性モノマー液を加熱して蒸発を促進させる方法等が挙げられる。押し出しと加熱、又はバブリングと加熱を併用してもよい。
【0024】
重合性モノマーを加熱して気化させる場合、加熱器の負担を考慮し、重合性モノマーは、沸点が300℃以下のものを選択するのが好ましい。また、重合性モノマーは、加熱により分解(化学変化)しないものを選択するのが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、重合性モノマーを用いて被処理フィルムを表面処理する際に、ロール電極に付着した重合性モノマーの凝縮物又は重合物等からなる付着物をすみやかに除去でき、上記付着物に起因する歩留まりの低下を抑制又は防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係るフィルム表面処理装置の側面図である。
【図2】図2は、上記フィルム表面処理装置の処理部の斜視図である。
【図3】図3は、上記フィルム表面処理装置のロール電極及び洗浄ロールの正面図である。
【図4】図4は、図3のIV−IV線に沿う断面図である。
【図5】図5は、本発明の第2実施形態に係るフィルム表面処理装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1及び図2は、本発明の第1実施形態に係るフィルム表面処理装置1を示したものである。装置1の処理対象9は、例えば偏光板(フィルム積層体)の保護フィルムとなるべき透明な光学樹脂フィルムである。被処理フィルム9は、トリアセチルセルロース(TAC)を主成分として含むTACフィルムにて構成され、連続シート状になっている。フィルム9の厚さは、例えば100μm程度である。
【0028】
なお、被処理フィルム9は、TACフィルムに限られず、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、シクロオレフィン重合体(COP)、シクロオレフィン共重合体(COC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリイミド(PI)等の種々の樹脂からなるフィルムであってもよい。
【0029】
図1及び図2に示すように、フィルム表面処理装置1は、3つ(複数)の円筒形状のロール電極11と、第1、第2のノズル21,22を備えている。図4に示すように、各ロール電極11は、電極本体12と、固体誘電体層13を有している。電極本体12は、円筒形状をなし、少なくとも外周部分が金属にて構成されている。電極本体12の外周面の全体が固体誘電体層13にて被覆されている。固体誘電体層13は、シリコンゴムにて構成されているが、これに限られず、アルミナ等の溶射膜にて構成されていてもよい。
【0030】
図1及び図2に示すように、3つのロール電極11は、互いに同一径、同一軸長になっている。各ロール電極11の軸線L11が、図1の紙面と直交するw方向(軸方向)に向けられている。3つのロール電極11が、w方向と直交する水平方向(x方向、図1の左右)に並べられている。隣り合う2つのロール電極11,11どうしの間にギャップ15が形成されている。電極間ギャップ15の最も狭い箇所の厚さは、例えば約1mm〜数mm程度になっている。
【0031】
中央のロール電極11は、高周波電源2に接続され(図3)、高圧電極となっている(図3)。両側のロール電極11は、電気的に接地され、接地電極となっている。電源2の供給電力は、例えばパルス等の間欠波状であるが、これに限られず、正弦波等の連続波状でもよい。この電力供給によって、隣り合うロール電極11どうし間に電界が印加されてプラズマ放電が生成され、電極間ギャップ15が放電空間になる。図3に示すように、放電空間15は、ロール電極11の略全長にわたってw方向に延びている。1つのロール電極11に対して、それと隣り合う他の電極11は、特許請求の範囲の「対向電極」を構成する。
【0032】
図3に示すように、各ロール電極11のシャフトは、回転駆動機構3に連結されている。詳細な図示は省略するが、回転駆動機構3は、モータ等の駆動部と、該駆動部の駆動力をロール電極11の軸に伝達する伝達手段とを含む。伝達手段は、例えばベルト・プーリ機構やギア列にて構成されている。回転駆動機構3によって、ロール電極11が自らの軸線L11の周りに回転される。
【0033】
図1及び図2に示すように、隣り合う2つのロール電極11,11どうしの間の下方には、一対(複数)の反転ロール14が配置されている。反転ロール14の軸線L14は、ロール電極11の軸線L11と平行に向けられている。
【0034】
回転駆動機構3及びロール11,14は、被処理フィルム9を支持し、かつ搬送する支持搬送手段を構成している。連続シート状の被処理フィルム9が、その連続方向を搬送方向に沿わせ、かつ幅方向をw方向(図1の紙面と直交する方向)に向けて、3つのロール電極11に掛け回されている。被処理フィルム9における隣り合う2つのロール電極11どうし間に跨る部分は、ギャップ15を通して、ギャップ15よりも下方に垂らされ、反転ロール14に掛け回されている。回転駆動機構3によって、3つのロール電極11が互いに同期して図1において時計回りに回転することで、被処理フィルム9が、概略右方向に搬送される。被処理フィルム9の搬送速度は、例えば2m/min〜60m/min程度の範囲内で設定されている。
【0035】
更に詳述すると、図1及び図3に示すように、被処理フィルム9は、各ロール電極11の外周面のw方向の両側の端部分11e,11eより内側かつ周方向の上側部分11a(一部分)に巻き付けられている。図3において、ロール電極11のフィルム巻付部分11aを斜線部にて示す。フィルム巻付部分11aは、部分円筒面状になっている。図3に示すように、被処理フィルム9はロール電極11の軸方向(w方向)のちょうど中央部に配置されている。ロール電極11が被処理フィルム9よりもw方向の両外側にはみ出し、ロール電極11の外周面の両端部分11e,11eが被処理フィルム9にて覆われることなく露出している。ロール電極11の一方の端部分11eのw方向の寸法と他方の端部分11eのw方向の寸法は互いに同じ大きさになっている。なお、被処理フィルム9がロール電極11に対してw方向の片側に偏って配置されていてもよく、2つの端部分11e,11eのw方向の寸法が互いに異なっていてもよい。
【0036】
図3に示すように、放電空間15がフィルム巻付部分11aをw方向に横断している。放電空間15のw方向の両端部15e,15eは、フィルム巻付部分11aからはみ出している。この放電空間端部15eにロール電極11の端部分11eが面している。
【0037】
図示は省略するが、各ロール電極11の内部には、水等の温調媒体を流す温調路(フィルム温調手段)が設けられている。これによって、ロール電極11を温調でき、ひいては該ロール電極11に接する被処理フィルム9を温調できる。ロール電極11ひいては被処理フィルム9の設定温度は、好ましくは後記重合性モノマーの凝縮温度より低温である。
【0038】
搬送方向の前段(図1において左)及び中段(図1において中央)のロール電極11の上方には、それぞれ第1ノズル21が配置されている。第1ノズル21は、w方向に長く延びる容器状になっている。図示は省略するが、第1ノズル21の内部には、該ノズル21を通るガス(流体)をw方向に均一化する整流部が設けられている。第1ノズル21の下面が、ロール電極11の上側の周面と対面し、ひいてはロール電極11上の被処理フィルム9と対面している。第1ノズル21の下面に吹出口21eが設けられている。詳細な図示は省略するが、吹出口21eは、第1ノズル21の下面の長辺方向及び短辺方向の広い範囲にわたって分布している。
【0039】
第1ノズル21は、反応流体供給路4aを介して反応流体供給源4に接続されている。供給源4は、重合性モノマーをキャリアガス中に気化させる気化器にて構成されている。重合性モノマーとしては、アクリル酸(AA)が用いられている。キャリアガスとしては、窒素(N)が用いられている。アクリル酸の気化方式としては、気化器内のアクリル酸の液中にキャリアガスをバブリングするバブリング方式であってもよく、気化器内のアクリル酸の液面上の飽和蒸気をキャリアガスで押し出す押し出し方式であってもよい。気化したアクリル酸とキャリアガスとが混合することで、アクリル酸(重合性モノマー)を含有するガス状の反応流体(AA+N)が生成される。
なお、重合性モノマーは、アクリル酸に限定されるものではなく、メタクリル酸、イタコン酸、マイレン酸等であってもよい。また、キャリアガスは、窒素(N)に限定されるものではなく、Ar、He等の希ガス又は他の不活性ガスであってもよい。
【0040】
上記反応流体が供給路4aを介して第1ノズル21に供給され、ノズル21内の整流部を経て吹出口21eから吹き出される。この反応流体の吹出流はw方向に均一な流れになる。
【0041】
図示は省略するが、供給路4aを構成する管にはリボンヒータ(反応流体温調手段、図示省略)が巻き付けられている。これによって、供給路4a内を通る反応流体の温度をアクリル酸の凝縮温度以上になるように調節でき、供給路4a内でアクリル酸が凝縮するのを防止できる。更に、第1ノズル21の内部には、水等の温調媒体を流す温調路(反応流体吹出温度調節手段、図示省略)が設けられている。これによって、ノズル21内を通る反応流体の温度をアクリル酸の凝縮温度以上になるように調節でき、ノズル21内でアクリル酸が凝縮するのを防止でき、更には反応流体の吹き出し温度を調節できる。
【0042】
隣り合うロール電極11どうし間には、上下一対の第2ノズル22,22が設けられている。これら第2ノズル22,22は、電極間ギャップ15を挟んで上下に対峙している。各第2ノズル22は、w方向に長く延び、かつw方向と直交する断面がギャップ15に向かって先細になっている。第2ノズル22の内部には、該ノズル22を通るガスをw方向に均一化する整流部(図示省略)が設けられている。第2ノズル22のギャップ15を向く先端部(下ノズル22の上端部、上ノズル22の下端部)には、吹出口22eが形成されている。詳細な図示は省略するが、吹出口22eは、w方向に延びるスリット状になっている。
【0043】
各第2ノズル22は、放電ガス供給路5aを介して放電ガス供給源5に接続されている。放電ガスとしては、窒素(N)が用いられている。放電ガス(N)が供給源5から供給路5aを経て第2ノズル22に送られ、ノズル22内の整流部を経て、吹出口22eからギャップ15へ吹き出される。この放電ガスの吹出流は、w方向に均一な流れになる。なお、この実施形態では、上下一対の第2ノズル22,22のうち、下側のノズル22からだけ放電ガスを吹き出すようになっているが、上下両方のノズル22,22から放電ガスを吹き出してもよく、上側のノズル22からだけ放電ガスを吹き出してもよい。
放電ガスとして、Nに代えて、Ar、He、Ne等の希ガスを用いてもよい。
【0044】
図示は省略するが、各第2ノズル22の内部には、水等の温調媒体を流す温調路(放電ガス温調手段)が設けられている。これによって、第2ノズル22を温調でき、ひいては放電ガスの吹き出し時の温度を調節できる。ノズル22の設定温度は、好ましくはアクリル酸の凝縮温度より低温である。
【0045】
更に、フィルム表面処理装置1は、第1の洗浄ロール30と、第2の洗浄ロール40(洗浄手段)とを備えている。第1洗浄ロール30は、ロール電極11を洗浄する。第2洗浄ロール40は、第1洗浄ロール30を洗浄する。
【0046】
洗浄ロール30は、ロール電極11より小径の円筒体になっている。図4に示すように、洗浄ロール30の軸部31は、ステンレス、鉄、アルミニウム等の金属にて構成され、所要の剛性が確保されている。洗浄ロール30の外周部32は、軸部31を囲む筒状の絶縁部33と、この絶縁部33を囲む筒状の最外周部分34との2層構造になっている。これら外周部材33,34は、絶縁材料にて構成されている。したがって、外周部32の全体が絶縁性を有している。絶縁部33を構成する絶縁材料として、ポリビニルクロライド(ポリ塩化ビニル、PVC)やポリエチレン(PE)等の樹脂が挙げられる。耐食性を必要とする場合は、テフロン(登録商標)系の材質(PTFE、PFA)などを選定する。
【0047】
最外周部分34は、絶縁性に加えて、粘着性をも有する材料にて構成されている。具体的には、最外周部分34は、アクリルゴム、シリコンゴム、ブタジエンゴム、又はイソプレンゴム等の絶縁性かつ粘着性の材料にて構成されている。
【0048】
洗浄ロール30は、各ロール電極11のw方向の両端部の下側に配置され、その軸線L30が、ロール電極11の軸線L11と平行にw方向へ向けられている。洗浄ロール30のw方向に沿う軸長は、ロール電極11の各端部分11eのw方向の寸法(ロール電極11の全長と被処理フィルム9の幅との差の2分の1)より少し大きく、ロール電極11の全長の2分の1より十分小さい。洗浄ロール30の外周面が、ロール電極11のフィルム巻付部分11aから周方向にずれた部分(ロール電極11の下側部分)に接している。好ましくは、洗浄ロール30は、ロール電極11に軽く押し当てられている。更に、図3に示すように、洗浄ロール30は、ロール電極11の端部分11eと、該端部分11eより内側の部分11bとに跨っている。洗浄ロール30のw方向の外側の端面は、ロール電極11の同じ側の端面と面一に揃えられているが、洗浄ロール30がロール電極11よりもw方向に突出していてもよい。或いは、洗浄ロール30がロール電極11よりもw方向に少しだけ引っ込んでいてもよい。洗浄ロール30におけるロール電極11の内側部分11bと接する部分は、端部分11eと接する部分よりもw方向に短いが、これら部分が互いに同じ長さであってもよく、内側部分11bと接する部分のほうが端部分11eと接する部分よりも長くてもよい。
【0049】
図1及び図2に示すように、第2洗浄ロール40は、第1洗浄ロール30とほぼ同じ大きさの円筒体になっている。すなわち、第2洗浄ロール40の直径は第1洗浄ロール30の直径とほぼ同じであり、第2洗浄ロール40の軸長は第1洗浄ロール30の軸長とほぼ同じである。なお、第2洗浄ロール40の大きさ(径、軸長)が、第1洗浄ロール30の大きさと異なっていてもよい。
【0050】
図4に示すように、第2洗浄ロール40の軸部41は、ステンレス、鉄、アルミニウム等の金属にて構成され、所要の剛性が確保されている。第2洗浄ロール40の外周部は、絶縁材料にて構成されている。さらに、第2洗浄ロール40の最外周部分は、洗浄液を保持した洗浄部材42にて構成されている。洗浄部材42は、例えば不織布にて構成されている。不織布42に洗浄液が含浸(保持)されている。洗浄液としては、例えば水が用いられているが、これに限られず、水以外の洗浄剤を用いてもよい。洗浄液は、供給ノズル等を用いて常時又は周期的に不織布42に供給してもよい。洗浄液を入れた容器に第2洗浄ロール40の下側部分を収容し、第2洗浄ロール40の下側部分が洗浄液に常時浸かるようにしてもよい。
【0051】
図3に示すように、第2洗浄ロール40は、その軸線L40を第1洗浄ロール30の軸線L30と平行に向けて、各第1洗浄ロール30の下側(ロール電極11の側とは反対側)に配置されている。第2洗浄ロール40の外周面が、第1洗浄ロール30の外周面の下側部分に接している。好ましくは、第2洗浄ロール40は、第1洗浄ロール30に軽く押し当てられている。
【0052】
洗浄ロール30,40の支持構造を説明する。
図3に示すように、各ロール電極11のw方向の両端部の下側にはロール支持部50が設けられている。この支持部50に、洗浄ロール30,40がそれぞれ自らの軸線L30,L40の周りに回転可能に、かつ着脱可能に支持されている。回転駆動機構3によってロール電極11が回転駆動されると、ロール電極11と第1洗浄ロール30との間に摩擦力が働き、この摩擦力が回転トルクになって第1洗浄ロール30が回転する。更に、第1洗浄ロール30と第2洗浄ロール40との間に摩擦力が働き、この摩擦力が回転トルクになって第2洗浄ロール40が回転する。
【0053】
図3において模式的に図示するように、支持部50には、第1付勢手段51と、第2付勢手段52とが設けられている。第1付勢手段51は、第1洗浄ロール30の軸受(図示省略)を介して第1洗浄ロール30を上方へ付勢する。この付勢によって、第1洗浄ロール30をロール電極11に押し当てることができる。第2付勢手段52は、第2洗浄ロール40の軸受(図示省略)を介して第2洗浄ロール40を上方へ付勢する。この付勢によって、第2洗浄ロール40を第1洗浄ロール30に押し当てることができる。付勢手段51,52は、エアシリンダー又は油圧シリンダー等の流体圧アクチュエータでもよく、バネ等の弾性体でもよい。
【0054】
上記のように構成されたフィルム表面処理装置1を用いて被処理フィルム9を表面処理する方法を説明する。
被処理フィルム9を3つのロール電極11に掛け回す。そして、3つのロール電極11を回転駆動機構3によって回転させ、被処理フィルム9を図1において大略右方向に搬送する。併行して、ガス状の反応流体(AA+N)をノズル21から吹き出し、被処理フィルム9上で反応流体中のアクリル酸モノマーを凝縮させ、被処理フィルム9の表面にアクリル酸モノマーの凝縮層を形成する。また、放電ガス(N)を第2ノズル22からギャップ15内に導入するとともに、電源2からの電力供給によって、隣り合うロール電極11間に電界を印加してギャップ15内に放電を生成し、放電ガスをプラズマ化する。被処理フィルム9の搬送に伴なって、被処理フィルム9における上記アクリル酸モノマー凝縮層が形成された部分が放電空間15に導入される。これによって、放電空間15内における被処理フィルム9ひいてはアクリル酸モノマー凝縮層に窒素プラズマが照射され、アクリル酸のプラズマ重合反応が起き、被処理フィルム9の表面にアクリル酸重合膜からなる接着性促進層が形成される。この結果、被処理フィルム9を易接着化できる。2つのノズル21,21及び2つの放電空間15,15によって、反応流体の吹き付けとプラズマ照射を2段階にわたって行なうことによって、接着性促進層の厚みを増大させることができ、被処理フィルム9の接着性をより向上させることができる。
【0055】
上記の第1ノズル21からの反応流体は、被処理フィルム9のw方向の全長にわたって吹き付けられ、更にはロール電極11の端部分11eにも吹き付けられる。したがって、端部分11eの表面にアクリル酸モノマーが凝縮する。この端部分11e上のアクリル酸モノマーが放電空間端部15eに導入されてプラズマ照射を受ける。したがって、図3及び図4に示すように、端部分11eには、アクリル酸モノマーの凝縮物又はプラズマ重合物からなる付着物8が形成されやすい。
【0056】
上記端部分11eにおける付着物8が形成された部分は、ロール電極11の回転によって、やがて第1洗浄ロール30の粘着性最外周部分34と接する。このとき、粘着性最外周部分34の粘着力によって付着物8を第1洗浄ロール30に移すことができる。付着物8が放電空間15eを通過後、ほとんど間をおかずに第1洗浄ロール30が付着物8と接触することで、付着物8を第1洗浄ロール30に容易かつ確実に移すことができる。これによって、端部分11eから付着物8を除去でき、ないしは付着物8の堆積量を低減できる。特に、ロール電極11における第1洗浄ロール30との接触範囲を、端部分11eだけでなく、端部分11eから内側部分11b(すなわち半回転すればフィルム巻付部分11aとなる部分)にも及ばせることによって、フィルム巻付部分11aのw方向の縁付近に付いた付着物8を確実に除去できる。よって、付着物8が被処理フィルム9に移って被処理フィルム9が汚れるのを防止でき、ひいては歩留まりの低下を防止できる。
しかも、最外周部分34は柔軟であるから、ロール電極11の固体誘電体層13が損傷するのを防止できる。
【0057】
粘着性最外周部分34における付着物8が転写された部分は、第1洗浄ロール30の回転によって、やがて第2洗浄ロール40の最外周の不織布42と接する。この第2洗浄ロール40と第1洗浄ロール30との接触によって、第1洗浄ロール30から付着物8を剥ぎ落とし、ないしは擦り落とすことができる。更には、不織布42に含浸させた洗浄液(水)によって、第1洗浄ロール30から付着物8を洗い落とすことができる。これによって、粘着性最外周部部分34を露出させることができ、第1洗浄ロール30を清浄化できる。この清浄化された第1洗浄ロール30がロール電極11の端部分11eに接触する。したがって、付着物8をロール電極11から第1洗浄ロール30に確実かつ継続的に転写させることができる。
【0058】
第1洗浄ロール30の少なくとも外周部32を絶縁材料にて構成することによって、ロール電極11から電流が第1洗浄ロール30を伝ってリークするのを防止できる。更には、第2洗浄ロール40とロール電極11との間に第1洗浄ロール30を介在させることによって、ロール電極11には洗浄液が直接当たらないようにでき、電流が洗浄液を伝ってリークするのを防止できる。したがって、電源2からの供給電力を放電空間15における放電に確実に供することができ、安定した放電状態を得ることができ、量産性を確保できる。
【0059】
洗浄ロール30,40の汚れが進行したときは、ロール30,40を支持部50から取り外して、洗浄、交換等のメンテナンスを行なう。洗浄ロール30,40は、ロール電極11とは異なり回転駆動機構や電源2に連結されておらず、しかも、ロール電極11よりも十分に小さく軽量であるから、支持部50からの取り外し、洗浄、交換等のメンテナンス作業を簡単に行なうことができる。
【0060】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の形態と重複する部分については図面に同一符号を付して説明を省略する。
図5は、本発明の第2実施形態を示したものである。第2実施形態では、各ロール電極11の端部分11eに対して第1洗浄ロール30が2つ(複数)設けられている。これら第1洗浄ロール30は、ロール電極11の下側の周面部分の周方向に互いに離れて配置されている。各第1洗浄ロール30の下側(ロール電極11側とは反対側)に第2洗浄ロール40が設けられている。
【0061】
第2実施形態によれば、ロール電極11における、放電空間15を通過後の端部分11eを2回(複数回)にわたって第1洗浄ロール30に接触させることができる。したがって、端部分11eから付着物8を一層確実に除去でき、端部分11eを一層確実に清浄化できる。よって、歩留まりの低下を一層確実に抑制又は防止できる。
【0062】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変態様を採用できる。
例えば、ロール電極11の両端の第1洗浄ロール30,30が一体に連なっていてもよい。第1洗浄ロール30が、ロール電極11のほぼ全長にわたって延びていてもよい。
ロール電極30の片側の端部にのみ洗浄ロール30,40を設けてもよい。被処理フィルム9をロール電極30の上記片側とは反対側の端部に偏らせて巻き付けてもよい。
洗浄ロール30,40が自ら回転駆動されることで、付着物8を剥ぎ落とし、又は擦り落とすようにしてもよい。
第1洗浄ロール30を洗浄する洗浄手段として、第2洗浄ロール40に代えて、ナイフ状の剥落部材を用いてもよく、ジェット流吹出ノズルを用いてもよい。上記洗浄手段を省略してもよい
第2実施形態において、各端部分11eにおける第1洗浄ロール30の数は、2つに限られず、3つ以上でもよい。
電極構造は、ロール電極どうしが対になった構造に限られず、ロール電極と平板電極が対になった構造でもよく、ロール電極と凹曲面電極が対になった構造でもよい。1つのロール電極と対向する対向電極は、平板電極であってもよく、凹曲面電極であってもよい。
【0063】
反応流体は、気体に限られず、液体であってもよい。反応流体中のアクリル酸等の重合性モノマーが液体の状態になっていてもよい。液体の重合性モノマーを含む反応流体を噴霧器によって被処理フィルム9に噴霧してもよい。液体の重合性モノマーを含む反応流体を塗布ローラ等の塗布機によって被処理フィルム9に塗布してもよい。
反応流体用のノズル21を放電空間15に直接臨ませ、重合性モノマーを含む反応流体を放電空間15に直接的に導入してもよい。反応流体中のキャリアガスが放電ガスを兼ねていてもよい。
本発明は、偏光板用保護フィルムの表面処理に限られず、種々の樹脂フィルムに重合性モノマーの重合膜を形成する処理に適用可能である。
【実施例1】
【0064】
実施例を説明するが、本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
第1実施形態(図1〜図4)のフィルム表面処理装置1と実質的に同じ装置を用いた。被処理フィルム9として、TACフィルムを用いた。
TACフィルム9の幅(w方向の寸法)は、1490mmであった。ロール電極11のw方向の寸法は、1600mmであった。したがって、ロール電極11のw方向の両側の端部分11e,11eのw方向の寸法は、それぞれ55mmであった。
重合性モノマーとしてアクリル酸 100g/min.をNからなるキャリアガスに気化させ、反応流体を生成した。この反応流体(AA+N)をTACフィルム9に接触させ、かつ窒素プラズマを照射したところ、TACフィルム9の端部分11eに重合物からなる付着物8が形成された。隣接するロール電極11,11間の印加電圧は、Vpp=17kVであった。
【0065】
第1洗浄ロール30のw方向の寸法は、100mmであり、直径はφ100mmであった。第1洗浄ロール30の軸部31は、ステンレス製であり、その直径はφ20mmであった。絶縁部33はPVC製であった。最外周部分34は、イソプレンゴム製であり、その厚みは20mmであった。この第1洗浄ロール30をエアシリンダー51にて端部分11eに押し当てたところ、上記付着物8の第1洗浄ロール30への転写が確認された。
第2洗浄ロール40の最外周部分42は、不織布にて構成した。該不織布42に洗浄液として純水を含ませた。この第2洗浄ロール40を第1洗浄ロール30に押し当て、不織布42を第1洗浄ロール30に面接触させたところ、第1洗浄ロール30の外周面を洗浄できた。
第2洗浄ロール40への電流のリークは確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、例えばフラットパネルディスプレイ(FPD)の偏光板の製造に適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 フィルム表面処理装置
2 電源
3 回転駆動機構
4 気化器(反応流体供給源)
4a 反応流体供給路
5 放電ガス供給源
5a 放電ガス供給路
8 付着物
9 被処理フィルム
11 ロール電極
11a フィルム巻き付け部分(一部分)
11b 内側部分
11e 端部分
12 電極本体
13 固体誘電体層
14 反転ロール
15 電極間ギャップ(放電空間)
15e 放電空間端部
21 第1ノズル
22 放電ガスノズル
30 第1洗浄ロール
31 軸部
32 外周部
33 絶縁部
34 最外周部分
40 第2洗浄ロール(洗浄手段)
41 軸部
42 洗浄部材(最外周部)
50 ロール支持部
51 第1付勢手段
52 第2付勢手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性モノマーを含有する反応流体を被処理フィルムに接触させ、かつ前記被処理フィルムにプラズマを照射するフィルム表面処理装置において、
外周面の軸方向の端部分より内側かつ周方向の一部分に前記被処理フィルムを巻き付け、かつ軸線回りに回転されるロール電極と、
前記ロール電極と対向し、前記ロール電極との間に前記プラズマ照射のための放電空間を形成する対向電極と、
前記ロール電極の外周面の前記端部分と、該端部分より前記軸方向の内側の部分とに跨り、かつ前記被処理フィルムを巻き付けた部分から周方向にずれた部分に接する第1洗浄ロールと
を備え、前記第1洗浄ロールの少なくとも外周部が絶縁性を有し、かつ前記外周部の最外周部分が粘着性材料にて構成されていることを特徴とするフィルム表面処理装置。
【請求項2】
前記第1洗浄ロールの前記軸方向の長さが、前記ロール電極の前記端部分の前記軸方向の長さより大きいことを特徴とする請求項1に記載のフィルム表面処理装置。
【請求項3】
前記粘着性材料が、アクリルゴム、シリコンゴム、ブタジエンゴム、又はイソプレンゴムにて構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のフィルム表面処理装置。
【請求項4】
前記第1洗浄ロールの外周面を洗浄する洗浄手段を更に備えたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のフィルム表面処理装置。
【請求項5】
前記洗浄手段が、前記第1洗浄ロールの外周面に接する第2洗浄ロールを含み、前記第2洗浄ロールの外周部が、洗浄液を保持した洗浄部材にて構成されていることを特徴とする請求項4に記載のフィルム表面処理装置。
【請求項6】
前記洗浄部材が、不織布にて構成されていることを特徴とする請求項5に記載のフィルム表面処理装置。
【請求項7】
前記第1洗浄ロールが、前記ロール電極の軸方向の両側の端部分にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のフィルム表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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