説明

フィルム製剤およびその製造方法

【課題】医薬品、食品、化粧品などの用途に適したフィルム製剤およびその製造方法の提供、特に、有効成分として熱に不安定な物質を含むことができ、経口投与、特に口腔内投与に適したフィルム製剤の提供。
【解決手段】ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の微生物が産生した多糖を含むフィルム基剤と、該フィルム基剤中に有効成分とを含むフィルム製剤、ならびに、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の微生物が産生した多糖を水に溶解させて水溶液を調製し、該水溶液に有効成分を添加し、該水溶液を塗布後に乾燥させてフィルムを形成する、フィルム製剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルム製剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品などの有効成分は、一般に、経口投与(例えば、口腔内投与、舌下投与など)または非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、経鼻投与、経肺投与など)で体内に投与することができる。
【0003】
しかし、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与などの非経口投与では、注射によって有効成分を体内に投与することがほとんどであり、非常に煩雑であり、しかも、多大な身体的苦痛を伴う。また、貼付剤(例えば、パッチ)などを利用した経皮投与や、エアロゾル剤などを利用した経鼻投与、経肺投与などの非経口投与では、個人差、有効成分の投与量が一定しないなどの問題がある。
【0004】
また、経口投与に関しては、錠剤、散剤、丸剤、溶液剤、カプセル剤などの製剤が一般によく知られているが、これらの製剤は、例えば、口腔局所麻酔薬、口内炎治療薬などの薬物の投与には適していない。また、トローチ剤などの口腔内崩壊錠もあるが、高齢者や口腔内乾燥症(ドライマウス)の患者(降圧剤、精神安定剤などの他の薬物の副作用による口腔内乾燥症や、シェーグレン症候群、糖尿病などの疾患がもたらす唾液分泌量の低下を含む)など、制限された唾液分泌の条件下では、薬物を口腔内で有効に投与することができない。
【0005】
さらに、錠剤や散剤などでは、有効成分によっては苦味や不快臭が強く、矯味矯臭剤などの配合が必要となる場合もある。また、苦味や不快臭を防ぐために、有効成分または錠剤には糖衣コーティングを施す場合もあるが、これは非常に煩雑である。さらに、散剤に関して、従来では、オブラートなどで散剤を包むことによって、有効成分の苦味や不快臭を防ぐことが行われてきた。しかし、このようなオブラートなどで散剤を包むこともまた非常に煩雑である。そこで、最近では、可食性のフィルムに有効成分を配合した、いわゆるフィルム製剤が開発されている。
【0006】
可食性のフィルムを形成することのできる材料としては、例えば、プルラン、カラギーナン、カンテン、ゼラチン、キチン、キトサン、デンプンなどが知られている。プルランのフィルムは、吸湿性が強く、高湿度下でべとつく傾向がある。また、プルランのフィルムは、硬く、口腔内での口溶けが非常に悪い。さらに、カラギーナン、カンテン、ゼラチンなどのフィルムは、冷水への溶解性が低く、なおかつ、ゼラチンのフィルムは吸湿性が非常に高く、表面がべたつくなどの欠点を有する。さらに、ゼラチンは、宗教上の理由、アレルギーの問題、狂牛病の問題などから、その使用は制限されることが多い。また、キチンやキトサンには、特有の臭い(生臭さ)、渋味、エグ味などがあり、口腔内での使用に適していない。
【0007】
また、デンプンをフィルム材料として使用した場合、例えば、オブラートなどの未変性デンプンから形成されるフィルムは、非常に脆く、しかも柔軟性がないので、壊れやすい。そこで、特開2000−342193号公報(特許文献1)には、ヒドロキシプロピル化デンプンから形成され、冷水可溶性で、しかも、吸湿性が低く、高湿度下で表面がべとつかない可食性のフィルムが開示されている。また、特開2006−25682号公報(特許文献2)には、ガラクトマンナン分解物を含有する、口溶けのよい可食性フィルムが開示されている。しかし、これらのデンプンやガラクトマンナンなどの材料からフィルムを形成する際には、これらフィルム材料を水に溶解させるために、加熱処理、場合によっては煮沸が必要となる。また、フィルムの乾燥工程においても、熱風による加熱乾燥が必要となり、その製造は非常に煩雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−342193号公報
【特許文献2】特開2006−25682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の通り、デンプン、ガラクトマンナンなどの材料からフィルムを形成する際には、フィルム材料の煮沸溶解などの加熱処理、さらにフィルム乾燥工程での熱風による加熱処理が必要となり、有効成分として熱に不安定な物質をフィルムに配合する場合、有効成分がこれらの加熱処理の間に分解するのでフィルム製剤とするのが非常に困難であった。また、フィルム製剤を医薬品、食品、化粧品などとして用いる場合、フィルム材料の滅菌、特にオートクレーブ処理などの加熱滅菌が不可欠であり、デンプン、ガラクトマンナンなどのように加熱すると変性して硬化するようなフィルム材料は、これらの用途を目的としたフィルム製剤の製造に適していない。また、医薬品、食品、化粧品などに適したフィルム製剤には、口腔内で唾液などの少量の水分で溶解し、なおかつ、有効成分を所定の期間に口腔内で徐放する性質あるいは速放性が求められる。さらに、これらの用途のフィルム製剤には薄層であることが求められるので、フィルムを形成する材料を含む水溶液の濃度は低いことが望ましい。なお、製造に使用する水溶液の濃度が低いほど、より薄いフィルムを形成することができることが知られている。
【0010】
そこで、本発明は、医薬品、食品、化粧品などの用途に適したフィルム製剤およびその製造方法の提供を目的とし、特に、有効成分として熱に不安定な物質を含むことができ、経口投与、特に口腔内投与に適したフィルム製剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、微生物、なかでもビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の微生物が産生した多糖が、水に溶解した状態、すなわち水溶液の状態であっても加熱滅菌することができ、しかも加熱の間に変性して硬化しないことを見出した。さらに、本発明者らは、このような微生物が産生した多糖が、加熱することなく、低濃度で水に溶解し、また、加熱乾燥することなく、水溶液から簡便に造膜できることを見出した。従って、本発明者らは、微生物が産生した多糖を含む低濃度の水溶液を加熱滅菌後、この水溶液に有効成分、特に熱に不安定な物質を添加し、さらに加熱することなく、室温で乾燥させることによって、この水溶液から、医薬品、食品、化粧品などの用途に適した薄膜フィルム製剤を簡便に形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の微生物が産生した多糖を含むフィルム基剤と、該フィルム基剤中に有効成分とを含むフィルム製剤。
【0013】
本発明のフィルム製剤において、好ましくは、前記微生物が、ビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)である。
【0014】
本発明のフィルム製剤において、好ましくは、前記微生物が産生した多糖が、ビフィダ ポリサッカリド(Bifida polysaccharide(BPS))である。
【0015】
本発明のフィルム製剤において、好ましくは、前記有効成分が、口腔内で作用する物質である。
【0016】
本発明のフィルム製剤において、好ましくは、前記有効成分が、口腔内で吸収される物質である。
【0017】
本発明のフィルム製剤において、好ましくは、前記有効成分が、水溶性または水分散性の物質である。
【0018】
本発明のフィルム製剤において、好ましくは、前記有効成分が、熱に不安定な物質である。
【0019】
本発明のフィルム製剤において、好ましくは、前記有効成分が、経口投与薬物である。
【0020】
本発明のフィルム製剤において、好ましくは、前記有効成分が、口内炎治療薬である。
【0021】
本発明のフィルム製剤において、好ましくは、前記有効成分が、口腔局所麻酔薬である。
【0022】
本発明のフィルム製剤において、好ましくは、前記有効成分が、口腔内抗菌物質である。
【0023】
本発明のフィルム製剤において、好ましくは、前記有効成分が、口腔内消臭物質である。
【0024】
本発明のフィルム製剤において、好ましくは、前記有効成分が、唾液分泌亢進薬である。
【0025】
本発明のフィルム製剤において、好ましくは、前記有効成分が、デキサメタゾン、ラクトフェリン、カテキン、リドカインおよびセビメリンからなる群から選択される。
【0026】
本発明のフィルム製剤は、好ましくは、可塑剤をさらに含む。
【0027】
本発明のフィルム製剤は、医薬品、食品または化粧品に適している。
【0028】
本発明のフィルム製剤は、口腔内投与に適している。
【0029】
また、本発明は、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の微生物が産生した多糖を水に溶解させて水溶液を調製し、該水溶液に有効成分を添加し、該水溶液を塗布後に乾燥させてフィルムを形成する、上記のフィルム製剤の製造方法に関する。
【0030】
本発明のフィルム製剤の製造方法において、好ましくは、前記水溶液を加熱滅菌した後に有効成分を添加する。
【0031】
本発明のフィルム製剤の製造方法において、好ましくは、前記微生物が産生した多糖を含む水溶液の多糖の濃度が0.05〜2重量%である。
【0032】
本発明のフィルム製剤の製造方法において、好ましくは、前記微生物が産生した多糖を含む水溶液の多糖の濃度が0.2〜1重量%である。
【発明の効果】
【0033】
本発明によると、微生物、なかでもビフィドバクテリウム属の微生物が産生した多糖を特に加熱することなく水に溶解させて低濃度水溶液を調製し、望ましくは加熱滅菌した後、この水溶液に有効成分を添加し、水溶液を塗布後、さらに加熱することなく、乾燥させてフィルムを形成することを特徴とする、フィルム製剤の簡便な製造方法を提供することができる。また、本発明は、このような製造方法によって、微生物が産生した多糖を含むフィルム基剤と、このフィルム基剤中に有効成分とを含む、フィルム製剤を提供することができる。
【0034】
従来では、上述の通り、可食性フィルムの材料としては、プルラン、カラギーナン、カンテン、ゼラチン、キチン、キトサン、デンプン、ガラクトマンナンなどのフィルム材料が知られていた。しかし、これらは、いずれも、フィルム製剤、特に、口腔用フィルム製剤の用途には適していないことが本発明者らの研究によって明らかとなった。まず、プルランは、加熱溶解後であっても良好な造膜性を有するが、形成されたフィルムは、硬く、口どけが悪く、口腔用フィルム製剤に適していない。また、プルランは、水溶液とした場合、1%以下の濃度での薄膜形成が困難であり、やはりフィルム製剤の製造には適していないことが分かった。カラギーナン、カンテン、ゼラチンをフィルム材料としてフィルム製剤を製造すると、これらのフィルムは、冷水に溶解しにくく、すなわち、口腔内での口どけが悪く、口腔用フィルム製剤に適してないことが分かった。さらに、キチンやキトサンをフィルム材料としてフィルム製剤を製造すると、これらのフィルムは、キチンやキトサン特有の臭い(生臭さ)、渋味、エグ味などにより、口腔内での不快感が強く、また、溶解過程での酸によるpH低下が問題となる。さらに、デンプン、ガラクトマンナンなどのフィルム材料では、その溶解時およびフィルム乾燥時に加熱処理が必須であり、有効成分として、熱に不安定な物質を配合することができないなどの問題がある。また、これら従来のフィルム材料を用いると、有効成分の優れた徐放性と優れた造膜性との両立が、非常に困難であった。
【0035】
しかし、本発明では、フィルム材料として、微生物が産生した多糖、特に、ビフィドバクテリウム属菌産生多糖を使用することによって、熱に不安定な物質を有効成分として含むフィルム製剤を提供することができる。これは、これらの微生物が産生した多糖が、加熱滅菌を含む加熱処理後においても優れた造膜性を有し、乾燥工程においても加熱処理を必要としないことに起因する。また、本発明のフィルム製剤では、微生物が産生した多糖、特に、ビフィドバクテリウム属菌産生多糖を使用することによって、口腔内での唾液などの少量の水分による溶解性を適切に制御することができ、口腔内で非常に口どけがよく、しかも、有効成分の徐放性を任意に調節することができる。従って、本発明は、有効成分の優れた徐放性と優れた造膜性との両立を達成することができる。
【0036】
また、微生物が産生した多糖は、フィルム製剤に優れた柔軟性を付与することができ、とりわけて可塑剤などを添加する必要がなく、その製造が非常に簡便である。さらに、本発明のフィルム製剤は、微生物が産生した多糖を使用するので、吸湿性が低く、保存安定性にも優れている。また、本発明で使用する微生物が産生した多糖には、苦味、渋味、エグ味、臭いなどの不快感なく、口腔内に無理なく適用することができる。
【0037】
さらに、本発明で使用する微生物が産生した多糖は、2重量%以下、望ましくは1重量%以下の低濃度で水に溶解することができ、しかも、溶解の際に煮沸などの加熱処理を行う必要が全くない。また、造膜時の乾燥工程においても加熱する必要が全くない。従って、本発明では、非常に簡便な操作でフィルム製剤を製造することができ、非常に経済的である。
【0038】
また、本発明のフィルム製剤は、有効成分として、医薬品成分、食品成分、化粧品成分などを配合することができ、医薬品、食品、化粧品などとして非常に有益である。特に、本発明のフィルム製剤は、上述の利点から、経口投与、特に、口腔内投与に適した医薬品または食品として非常に有益である。特に、本発明のフィルム製剤は、口内炎治療薬であるデキサメタゾン(dexamethasone)、口腔内抗菌物質であるラクトフェリン(lactoferrin)、口腔内消臭物質であるカテキン(catechine)、口腔局所麻酔薬であるリドカイン(lidocaine)、唾液分泌亢進薬であるセビメリン(cevimeline)(塩酸塩水和物)などの口腔内投与に適している。なお、デキサメタゾン、カテキン、リドカイン、セビメリンなどの成分を従来のフィルムなどに配合することは、その製造工程において、デンプンなどのフィルム材料の加熱または煮沸による溶解ならびに造膜時の熱風による加熱乾燥が必要であったために、好ましくなく、特にラクトフェリンのような非常に熱に不安定な物質を配合することは不可能であった。また、これらの有効成分を口腔内に直接塗布すること、特に口腔内で徐放性を持たせて投与することは、従来では非常に困難であった。
【0039】
さらに、本発明のフィルム製剤では、有効成分の徐放性を任意に設定することができるので、有効成分を速放性として放出させることもできる。従って、本発明では、速放性のフィルム製剤とした場合、フィルムは少量の水分にも迅速に溶解することができ、高齢者や口腔内乾燥症(ドライマウス)の患者(降圧剤、精神安定剤などの他の薬物の副作用による口腔内乾燥症や、シェーグレン症候群、糖尿病などの疾患がもたらす唾液分泌量の低下などを含む)など、制限された唾液分泌の条件下であっても、有効成分として、例えば、唾液腺のムスカリン(M)受容体アゴニストであるセビメリン塩酸塩水和物、口腔内抗菌作用のあるラクトフェリンなどを口腔内で有意に直接的に投与することができ、非常に有益である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】0.75mgのデキサメタゾン(DM)を含む0.5%BPS(Bifida polysaccharide)水溶液(加熱滅菌なし)から製造したフィルム製剤のDMの経時放出挙動を示す。
【図2】0.75mgのデキサメタゾン(DM)を含む0.5%BPS(Bifida polysaccharide)水溶液(加熱滅菌あり)から製造したフィルム製剤のDMの経時放出挙動を示す。
【図3】0.75mgのデキサメタゾン(DM)を含む0.75%BPS(Bifida polysaccharide)水溶液(加熱滅菌あり)から製造したフィルム製剤のDMの経時放出挙動を示す。
【図4】3.0mgのラクトフェリン(LF)を含む0.5%BPS(Bifida polysaccharide)水溶液(加熱滅菌あり)から製造したフィルム製剤のラクトフェリンの経時放出挙動を示す。
【図5】1.5mgのカテキン(catechine)を含む0.5%BPS(Bifida polysaccharide)水溶液(加熱滅菌あり)から製造したフィルム製剤のカテキンの経時放出挙動を示す。
【図6】1.5mgのリドカイン(lidocaine)を含む0.5%BPS(Bifida polysaccharide)水溶液(加熱滅菌あり)から製造したフィルム製剤のリドカインの経時放出挙動を示す。
【図7】1.5mgのリドカイン(lidocaine)を含む0.6%BPS(Bifida polysaccharide)水溶液(加熱滅菌あり)から製造したフィルム製剤のリドカインの経時放出挙動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は、微生物が産生した多糖を含むフィルム基剤と、フィルム基剤中に有効成分とを含むフィルム製剤およびその製造方法を提供する。
【0042】
本発明で使用することのできる「微生物が産生した多糖」としては、ビフィドバクテリウム属の微生物が産生した多糖が特に好ましく、これらは総称して、ビフィダ ポリサッカリド(Bifida polysaccharide(BPS))と呼ばれる。ビフィドバクテリウム属のなかでも、特に、ビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)が好ましい。
【0043】
ビフィドバクテリウム ロンガムが産生する多糖としては、グルコースのみからなる多糖類(特開平7−255465号公報);グルコース、ガラクトース、ウロン酸などからなる多糖(Appl.Microbial.Biotechnol.43巻、995−1000頁);ビフィドバクテリウム ロンガムJBL05株が産生する多糖、特にビフィドバクテリウム ロンガムJBL05株(NITE BP−82)から得られる、ガラクトース、グルコース、ラムノースおよびピルビン酸を含有する多糖(ガラクトース:グルコース:ラムノース=4:2:1(モル比)、ピルビン酸4〜7重量%)(国際公開第2007/007562号パンフレット)が例示できる。
【0044】
微生物が産生した多糖は、加熱することなく、容易に水に溶解させることができる。微生物が産生した多糖を含む水溶液を塗布し、さらに加熱することなく、室温(通常、約1〜30℃)で乾燥させるだけの非常に簡単な操作で可食性フィルムを簡便に形成することができる。従って、微生物が産生した多糖は、優れた造膜性を有する。
【0045】
微生物が産生した多糖のなかでも、ビフィドバクテリウム属、特に、ビフィドバクテリウム ロンガムが産生する多糖は、保湿剤として利用できるほど高い保水力を有し、特に加熱することなく、水に容易に溶解し、低濃度多糖水溶液を形成することができる。従来のように、フィルムを形成することのできる材料としてよく知られているデンプンなどでは、加熱または煮沸によって水溶液を調製する必要があったので、水溶液はどうしても濃厚化し、低濃度水溶液を形成することは、その製造工程上、不可能であった。また、加熱したデンプン水溶液を塗布してフィルムを形成する際には、その乾燥時においても熱風による加熱処理が必要であった。しかも、従来では、このような熱風による加熱乾燥工程が必須であっために、熱に不安定な物質を配合することが非常に困難であった。
【0046】
本発明のフィルム製剤の製造方法では、微生物が産生した多糖を含む水溶液の多糖の濃度は、0.05〜2重量%、より好ましくは0.2〜1重量%である。濃度が0.05重量%未満であると、形成されるフィルムの強度が著しく低下し、フィルムが破れるなどの問題の恐れがあり、濃度が2重量%を超えると、形成されるフィルムの柔軟性が低下し、硬くなり、フィルム製剤を口腔内投与した場合に口腔内でのフィルムの溶解速度が著しく低下するなどの恐れがある。従って、本発明では、濃度が2重量%以下、望ましくは1重量%以下であると、優れた柔軟性の薄層フィルムの形成が容易となり、特に口腔内投与に適した薄層フィルムを提供することができる。
【0047】
また、微生物が産生した上述の多糖は、熱を加えても変性または硬化することがなく、加熱滅菌することができ、しかも、その造膜性が加熱滅菌後に著しく低下することもない。本発明のフィルム製剤の製造方法では、特に、微生物が産生した多糖を含む水溶液をそのまま加熱することによって滅菌することができ、例えば、オートクレーブでの加熱滅菌が可能となる。オートクレーブ処理では、通常、温度が115〜135℃、好ましくは120〜130℃で15〜60分間、好ましくは20〜30分間にわたって加熱滅菌すれば十分である。また、このとき、オートクレーブ内の圧力を1.7〜2.0気圧に調節して加圧滅菌としてもよい。
【0048】
微生物が産生した多糖を滅菌することによって、本発明のフィルム製剤は、特に、医薬品、食品、化粧品などの用途において、より安全に安定して使用することができる。
【0049】
本発明では、上述の微生物が産生した多糖を含む水溶液から形成したフィルム中に有効成分を配合し、フィルム基剤と有効成分とを含むフィルム製剤を製造することができる。本発明のフィルム製剤に配合することのできる有効成分としては、特に限定はなく、医薬品成分、食品成分、化粧品成分などが挙げられる。
【0050】
有効成分としては、特に、口腔内で作用する物質、口腔内で吸収される物質などが好ましい。また、本発明の製造方法から、有効成分は、水溶性または水分散性の物質が望ましく、驚くべきことに、熱に不安定な物質であってもよい。
【0051】
医薬品成分としては、経口投与薬物、非経口投与薬物のいずれでもよいが、本発明のフィルム製剤は口腔内投与が望ましいので、経口投与薬物、経皮吸収性薬物などの薬物が特に好ましい。
【0052】
医薬品成分としては、例えば、口内炎治療薬(例えば、デキサメタゾン(dexamethasone)(WAKO社から入手可能)、トリアムシノロンアセトニド、グリチルリチン酸二カリウム、アズレンスルホン酸ナトリウム、酢酸ヒドロコルチゾンなど);
口腔局所麻酔薬(例えば、リドカイン(lidocaine)(WAKO社から入手可能、例えば、リドカイン塩酸塩(SIGMA Co.))、パラアミノ安息香酸エチル、オキシプロカイン、テトラカイン、プロカイン、パラブチルアミノ安息香酸、ジエチルアミノエチルなど);
唾液分泌亢進薬(例えば、唾液腺のムスカリン(M)受容体アゴニストであるセビメリン(cevimeline)(塩酸塩水和物)、ピロカルピン塩酸塩、アネトールトリチオンなど)などが挙げられる。
【0053】
食品成分としては、(口腔内)抗菌物質(例えば、ラクトフェリン(lactoferrin)、エピガロカテキンガレート、プロポリスなど);(口腔内)消臭物質(例えば、カテキン(catechine)、パセリシードオイル、ローズマリーエキス、シャンピニオンエキス、緑茶エキスなど)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
化粧品成分としては、ビタミン類(例えば、ビタミンC、ビタミンE、マルチビタミンなど)、アルブチン、エラグ酸、CoQ10、コラーゲン、ヒアルロン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。なお、これらの化粧品成分は、経口投与薬物ではないが、携帯性に優れたフィルム化粧品とすることができ、非常に有益である。
【0055】
本発明では、上述の通り、微生物が産生した多糖を含む水溶液の調製後、望ましくは加熱滅菌後、有効成分を水溶液に配合することが好ましい。そうすることで、熱に不安定な物質を簡便にフィルム中に配合することができ、非常に有益である。また、上述の通り、本発明では、微生物が産生した多糖を含む水溶液の塗布後、さらに加熱してフィルムを乾燥させる必要がないので、本発明は、上記の有効成分の中でも、特に、熱に不安定な物質の配合に適している。なかでも、本発明は、特に、デキサメタゾン、リドカイン、セビメリンなどの薬物や、ラクトフェリン、カテキンなどの抗菌物質や消臭物質の配合に適している。
【0056】
有効成分の配合量は、特に限定されず、有効成分の種類、所望の用途および目的に応じて適宜選択すればよく、フィルム基剤の重量に対して、通常は、0.01〜40重量%、好ましくは0.1〜30重量%、より好ましくは1〜20重量%である。有効成分の配合量が、0.01重量%未満であると、有効成分の含有量が少ないため、投与フィルム量が多くなり、服用し難いなどの問題の恐れがあり、40重量%を超えると、造膜性および柔軟性が低下するなどの問題の恐れがある。また、2種以上の有効成分を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0057】
また、本発明の微生物が産生した多糖から形成され得るフィルム基剤は、十分な柔軟性を有しているので、とりわけて可塑剤を添加する必要はない。しかし、微生物が産生した多糖を含む水溶液を基体に塗布し、乾燥させてフィルムを形成し、その後、形成したフィルムを基体から剥がすとき、十分な柔軟性が必要となるので、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールや、ソルビトール、マンニトール等の糖アルコールなどの可塑剤を単独または2種以上を混合してフィルム中に添加してもよい。可塑剤の配合量は、特に限定されず、フィルム製剤全重量に対して、通常は、0.1〜25重量%、好ましくは0.5〜20重量%、より好ましくは1〜10重量%である。可塑剤の配合量が、0.1重量%未満であると、低湿度環境において、フィルムがヒビ割れ易くなるなどの問題の恐れがあり、25重量%を超えると、フィルム製造時に基体へのフィルムの付着性が増し、基体からフィルムが剥がれにくくなるなどの恐れがある。
【0058】
さらに、本発明のフィルム製剤には、上記の成分以外にも、可食性フィルムに配合することのできる通常の添加剤、例えば、着色料、香料、甘味料、矯味剤、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、帯電防止剤などを適切な量で適宜配合することができる。
【0059】
本発明のフィルム製剤の厚みは、特に限定されず、有効成分の種類、所望の用途および目的に応じて適宜選択すればよく、通常は、5〜500μm、好ましくは10〜300μm、より好ましくは20〜200μmである。厚みが5μm未満であると、フィルム強度が低く破れ易くなる恐れがあり、500μmを超えると、口腔内での溶解性が悪くなるなどの問題がある。
【0060】
上述の通り、本発明では、上記の微生物が産生した多糖を水に溶解させて水溶液を調製し、この水溶液に上述の有効成分を添加し、有効成分を配合した水溶液を金属、ガラスまたはプラスチックなどの基体、好ましくはプラスチックの基体に塗布後、乾燥させてフィルムを形成し、基体からフィルムを剥がすことによって、本発明のフィルム製剤を簡便に製造することができる。なお、本発明の製造方法は、水溶液の調製およびフィルムの乾燥の際に加熱を必要としないので、非常に簡便である。
【0061】
従って、本発明のフィルム製剤の製造方法は、室温でフィルム製剤を製造することができ、非常に簡便であり、しかも、非常に経済的である。また、本発明の製造方法は、別途に加熱処理を必要としないことから、熱に不安定な物質をフィルム基剤中に配合することができ、非常に有益である。また、上述の通り、本発明の製造方法では、上述の微生物が産生した多糖を含む水溶液を加熱滅菌(例えば、オートクレーブ処理)しても、優れた造膜性が失われることがないので、医薬品、食品、化粧品などの用途に適したフィルム製剤をさらに安全に安定して提供することができる。特に、本発明のフィルム製剤は、口腔内での口溶け感に優れ、口腔内投与に適したフィルム製剤を提供することができる。
【実施例】
【0062】
実施例1
微生物としてビフィドバクテリウム属のビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)が産生した多糖(Bifida polysaccharide(BPS))(森下仁丹社製、JBL−BPS−0807)を室温(25℃)で水に溶解して0.5%BPS水溶液を調製した(pH:5.99、粘度:30mPa・s(20℃))。
上記で調製した0.5%BPS水溶液3gに有効成分として口内炎治療薬デキサメタゾン(dexamethasone(DM))(WAKO社から入手)0.75mgを配合した。
直径54mmのディスポ・プラスチックシャーレに上記水溶液を塗布し、室温(30℃)でさらに加熱することなく乾燥させて、薄く均一で柔軟性のある厚み30μmのフィルムを得た。なお、フィルムの膜厚測定には、Nikon DIGIMICRO STAND MS−1C型を使用した。
【0063】
実施例2
微生物としてビフィドバクテリウム属のビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)が産生した多糖(Bifida polysaccharide(BPS))(森下仁丹社製、JBL−BPS−0807)を室温(25℃)で水に溶解して0.5%BPS水溶液を調製した(pH:5.99、粘度:30mPa・s(20℃))。
0.5%BPS水溶液をオートクレーブ内で加熱滅菌した(121℃、15分間、2気圧)。
上記で調製した0.5%BPS水溶液3gに有効成分として口内炎治療薬デキサメタゾン(dexamethasone(DM))(WAKO社から入手)0.75mgを配合した。
直径54mmのディスポ・プラスチックシャーレに上記水溶液を塗布し、室温(30℃)でさらに加熱することなく乾燥させて、薄く均一で柔軟性のある厚み30μmのフィルムを得た。なお、フィルムの膜厚測定には、Nikon DIGIMICRO STAND MS−1C型を使用した。
【0064】
実施例3
微生物としてビフィドバクテリウム属のビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)が産生した多糖(Bifida polysaccharide(BPS))(森下仁丹社製、JBL−BPS−0807)を室温(25℃)で水に溶解して0.75%BPS水溶液を調製した(pH:5.99、粘度:48mPa・s(20℃))。
0.75%BPS水溶液をオートクレーブ内で加熱滅菌した(121℃、15分間、2気圧)。
上記で調製した0.75%BPS水溶液3gに有効成分として口内炎治療薬デキサメタゾン(dexamethasone(DM))(WAKO社から入手)0.75mgを配合した。
直径54mmのディスポ・プラスチックシャーレに上記水溶液を塗布し、室温(30℃)でさらに加熱することなく乾燥させて、薄く均一で柔軟性のある厚み30μmのフィルムを得た。なお、フィルムの膜厚測定には、Nikon DIGIMICRO STAND MS−1C型を使用した。
【0065】
実施例4
微生物としてビフィドバクテリウム属のビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)が産生した多糖(Bifida polysaccharide(BPS))(森下仁丹社製、JBL−BPS−0807)を室温(25℃)で水に溶解して0.5%BPS水溶液を調製した(pH:5.99、粘度:30mPa・s(20℃))。
0.5%BPS水溶液をオートクレーブ内で加熱滅菌した(121℃、15分間、圧力2気圧)。
上記で調製した0.5%BPS水溶液3gに有効成分として口腔内抗菌物質ラクトフェリン(lactoferrin(LF))(WAKO社から入手)3.0mgを配合した。
直径54mmのディスポ・プラスチックシャーレに上記水溶液を塗布し、室温(30℃)でさらに加熱することなく乾燥させて、薄く均一で柔軟性のある厚み30μmのフィルムを得た。なお、フィルムの膜厚測定には、Nikon DIGIMICRO STAND MS−1C型を使用した。
【0066】
実施例5
微生物としてビフィドバクテリウム属のビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)が産生した多糖(Bifida polysaccharide(BPS))(森下仁丹社製、JBL−BPS−0807)を室温(25℃)で水に溶解して0.5%BPS水溶液を調製した(pH:5.99、粘度:30mPa・s(20℃))。
0.5%BPS水溶液をオートクレーブ内で加熱滅菌した(121℃、15分間、2気圧)。
上記で調製した0.5%BPS水溶液3gに有効成分としてカテキン(catechine)(WAKO社から入手)1.5mgを配合した。
直径54mmのディスポ・プラスチックシャーレに上記水溶液を塗布し、室温(30℃)でさらに加熱することなく乾燥させて、薄く均一で柔軟性のある厚み30μmのフィルムを得た。なお、フィルムの膜厚測定には、Nikon DIGIMICRO STAND MS−1C型を使用した。
【0067】
実施例6
微生物としてビフィドバクテリウム属のビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)が産生した多糖(Bifida polysaccharide(BPS))(森下仁丹社製、JBL−BPS−0807)を室温(25℃)で水に溶解して0.5%BPS水溶液を調製した(pH:5.99、粘度:30mPa・s(20℃))。
0.5%BPS水溶液をオートクレーブ内で加熱滅菌した(121℃、15分間、2気圧)。
上記で調製した0.5%BPS水溶液3gに有効成分として口腔局所麻酔薬であるリドカイン(lidocaine)(塩酸塩)(WAKO社から入手)1.5mgを配合した。
直径54mmのディスポ・プラスチックシャーレに上記水溶液を塗布し、室温(30℃)でさらに加熱することなく乾燥させて、薄く均一で柔軟性のある厚み30μmのフィルムを得た。なお、フィルムの膜厚測定には、Nikon DIGIMICRO STAND MS−1C型を使用した。
【0068】
実施例7
微生物としてビフィドバクテリウム属のビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)が産生した多糖(Bifida polysaccharide(BPS))(森下仁丹社製、JBL−BPS−0807)を室温(25℃)で水に溶解して0.6%BPS水溶液を調製した(pH:5.99、粘度:38mPa・s(20℃))。
0.6%BPS水溶液をオートクレーブ内で加熱滅菌した(121℃、15分間、2気圧)。
上記で調製した0.6%BPS水溶液3gに有効成分として口腔局所麻酔薬であるリドカイン(lidocaine)(塩酸塩)(WAKO社から入手)1.5mgを配合した。
直径54mmのディスポ・プラスチックシャーレに上記水溶液を塗布し、室温(30℃)でさらに加熱することなく乾燥させて、薄く均一で柔軟性のある厚み30μmのフィルムを得た。なお、フィルムの膜厚測定には、Nikon DIGIMICRO STAND MS−1C型を使用した。
【0069】
フィルム含有有効成分の放出挙動評価
実施例で作製したフィルム製剤を生理食塩水中に浸漬し、フィルムの溶解に伴う各有効成分の放出量を以下の測定条件で決定した。
【0070】
(測定条件)
直径54mmのシャーレに37℃の生理食塩水10ml(口腔内を想定した条件)を加え、その中に各実施例で作製したフィルム製剤を浸漬し、シェーキングインキュベーター(アズワン SI−300:37℃、300rpm)にて振とうしながら経時的に試料をサンプリングし、取り出した試料にメタノールを添加し、十分に撹拌および遠心分離(10000rpm、5分)して多糖を分離した後、HPLCにて有効成分の量を決定した。
【0071】
(HPLC条件)
デキサメタゾン(DM)
カラム:Cosmosil 5C18−MS−II(4.6×150mm)
流速:0.8ml/分
溶離液:10mM リン酸緩衝液(pH2.3):CHCN=7:3
検出:220nm
試料注入量:10μl(Shimadzu auto injector SIL−10A)
カテキン
カラム:Cosmosil 5C18−MS−II(4.6×150mm)
流速:0.8ml/分
溶離液:0.1% クエン酸:CHCN=870:130
検出:280nm
試料注入量:10μl(Shimadzu auto injector SIL−10A)
[T.Fu.,et al.,J.Chromatogr.B,875,363−367(2008)を参照のこと]
リドカイン
カラム:Cosmosil 5C18−MS−II(4.6×150mm)
流速:0.8ml/分
溶離液:50mM リン酸緩衝液(pH3.0):CHCN=850:150
検出:220nm
試料注入量:10μl(Shimadzu auto injector SIL−10A)
[A.Kotate,et al.,J.Pharm.Biomedicai.Anal.,47,190−194(2008)を参照のこと]
【0072】
なお、ラクトフェリン(LF)に関しては、フィルム製剤を37℃の生理食塩水10ml中に浸漬し、シェーキングインキュベーター(アズワン SI−300:37℃、300rpm)にて振とうしながら経時的に試料(25μl)を96ウェルマイクロプレートにサンプリングし、BCA法を用いて、マルチプレートリーダー(大日本製薬(株)製、Viento)によって、ラクトフェリン(LF)の量を測定した。
【0073】
図1のグラフに示す通り、縦軸にデキサメタゾン(DM)の放出量(mg)をとり、横軸に放出時間(分)をとると、実施例1で製造したフィルム製剤(0.5%BPS水溶液を使用)は、約20分間かけて、デキサメタゾンの全量(0.75mg)を放出する徐放性を示した。また、0.25%BPS水溶液を使用した場合であっても、フィルム製剤は同様の徐放性を示した。
【0074】
図2のグラフに示す通り、実施例2で製造したフィルム製剤においても、約20分間かけて、デキサメタゾンの全量(0.75mg)を放出する徐放性を示した。
【0075】
図3のグラフに示す通り、実施例3で製造したフィルム製剤では、実施例1(図1)および実施例2(図2)と比較して、デキサメタゾン(DM)の初期放出量を抑制し、20〜30分間にかけて、デキサメタゾンの全量(0.75mg)を放出するゆるやかな徐放性を示した。
【0076】
実施例1〜3の結果から、本発明のフィルム製剤によると、デキサメタゾン(DM)を有効成分として口腔内に投与することができ、しかも、徐放性を持たせることによって、従来の口腔用軟膏(日本化薬製の市販薬デキサルチン(デキサメタゾン1mg/g含有))による塗布と比べて、投薬効果を飛躍的に向上させることができた。
【0077】
また、図4のグラフに示す通り、縦軸にラクトフェリン(LF)の放出量(mg)をとり、横軸に放出時間(分)をとると、実施例4で製造したフィルム製剤は、約15分間で、ラクトフェリンの全量(3.0mg)を放出する徐放性を示した。
【0078】
さらに、図5のグラフに示す通り、縦軸にカテキン(catechine)の放出量(mg)をとり、横軸に放出時間(分)をとると、実施例5で製造したフィルム製剤は、瞬時にカテキンの全量(1.5mg)を放出する速放性を示した。
【0079】
図6のグラフに示す通り、縦軸にリドカイン(lidocaine)の放出量(mg)をとり、横軸に放出時間(分)をとると、実施例6で製造したフィルム製剤(0.5%BPS水溶液を使用)は、瞬時にリドカインの全量(1.5mg)を放出する速放性を示した。
【0080】
また、図7のグラフに示す通り、実施例7で製造したフィルム製剤(0.6%BPS水溶液を使用)は、瞬時にリドカインの全量(1.5mg)を放出する速放性を示した。
【0081】
実施例4〜7の結果から、本発明のフィルム製剤によると、口内炎治療薬であるデキサメタゾン(DM)以外にも、口腔内抗菌物質であるラクトフェリン、消臭作用などを有するカテキン、口腔局所麻酔薬であるリドカインなどの有効成分をフィルム製剤化することができ、しかも、徐放性だけでなく、速放性を持たせて口腔内に投与することができた。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のフィルム製剤は、滅菌処理を施すことができるので、医薬品、機能食品などの食品、化粧品などとして非常に有益である。また、本発明のフィルム製剤は、医薬品、特に、経口投与薬物、なかでも歯科、口腔外科で使用する口腔内投与薬物の投与に非常に有用である。また、本発明のフィルム製剤は、熱に不安定な物質、例えばラクトフェリンにも適用することができ、非常に有益である。
【0083】
また、本発明のフィルム製剤では、有効成分を徐放性もしくは速放性として投与することもできる。従って、本発明では、速放性のフィルム製剤とした場合、フィルムは少量の水分にも迅速に溶解することができ、高齢者や口腔内乾燥症(ドライマウス)の患者(降圧剤、精神安定剤などの他の薬物の副作用による口腔内乾燥症や、シェーグレン症候群、糖尿病などの疾患がもたらす唾液分泌量の低下などを含む)など、制限された唾液分泌の条件下であっても、有効成分として、例えば、唾液腺のムスカリン(M)受容体アゴニストであるセビメリン(塩酸塩水和物)、抗菌物質であるラクトフェリンなどの有効成分を口腔内で有意に直接的に投与することができ、非常に有益である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の微生物が産生した多糖を含むフィルム基剤と、該フィルム基剤中に有効成分とを含むフィルム製剤。
【請求項2】
前記微生物が、ビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)である、請求項1に記載のフィルム製剤。
【請求項3】
前記微生物が産生した多糖が、ビフィダ ポリサッカリド(Bifida polysaccharide(BPS))である、請求項1または2に記載のフィルム製剤。
【請求項4】
前記有効成分が、口腔内で作用する物質である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルム製剤。
【請求項5】
前記有効成分が、口腔内で吸収される物質である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルム製剤。
【請求項6】
前記有効成分が、水溶性または水分散性の物質である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のフィルム製剤。
【請求項7】
前記有効成分が、熱に不安定な物質である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のフィルム製剤。
【請求項8】
前記有効成分が、経口投与薬物である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のフィルム製剤。
【請求項9】
前記有効成分が、口内炎治療薬である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のフィルム製剤。
【請求項10】
前記有効成分が、口腔局所麻酔薬である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のフィルム製剤。
【請求項11】
前記有効成分が、口腔内抗菌物質である、請求項1〜10のいずれか1項に記載のフィルム製剤。
【請求項12】
前記有効成分が、口腔内消臭物質である、請求項1〜11のいずれか1項に記載のフィルム製剤。
【請求項13】
前記有効成分が、唾液分泌亢進薬である、請求項1〜12のいずれか1項に記載のフィルム製剤。
【請求項14】
前記有効成分が、デキサメタゾン、ラクトフェリン、カテキン、リドカインおよびセビメリンからなる群から選択される、請求項1〜13のいずれか1項に記載のフィルム製剤。
【請求項15】
可塑剤をさらに含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載のフィルム製剤。
【請求項16】
医薬品、食品または化粧品に適した、請求項1〜15のいずれか1項に記載のフィルム製剤。
【請求項17】
口腔内投与に適した、請求項1〜16のいずれか1項に記載のフィルム製剤。
【請求項18】
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の微生物が産生した多糖を水に溶解させて水溶液を調製し、該水溶液に有効成分を添加し、該水溶液を塗布後に乾燥させてフィルムを形成する、請求項1〜17のいずれか1項に記載のフィルム製剤の製造方法。
【請求項19】
前記水溶液を加熱滅菌した後に有効成分を添加する、請求項18に記載のフィルム製剤の製造方法。
【請求項20】
前記微生物が産生した多糖を含む水溶液の多糖の濃度が0.05〜2重量%である、請求項18または19に記載のフィルム製剤の製造方法。
【請求項21】
前記微生物が産生した多糖を含む水溶液の多糖の濃度が0.2〜1重量%である、請求項18〜20のいずれか1項に記載のフィルム製剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−32218(P2011−32218A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180399(P2009−180399)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000191755)森下仁丹株式会社 (30)
【Fターム(参考)】