説明

フィルム製剤

【課題】薬物を含むフィルム製剤を提供する。
【解決手段】キトサンナノファイバー及び薬物を含むフィルム製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
天然高分子としてゼラチン、コラーゲンなどを用いた数ナノメーターないし数十マイクロメーターの短径を有する繊維の不織布、また、キトサン、コンドロイチン硫酸、ペクチン、ヒアルロン酸などの多糖類も短径が500nm程度である繊維の不織布が医療用材料として応用されている。特に、自然界に豊富に存在するバイオマスであるキトサンは、優れた生体適合性を有するため注目されているが、強固な結晶構造を形成しているために分解・微細化が困難であり、その利用が滞っている。
【0003】
酸処理キトサンおよびキトサンペースト(特許文献1)、極細ナノファイバーの製造方法(特許文献2)、機能性創傷被覆材(特許文献3)、骨補填材、及びその製造方法(特許文献4)に関する文献が知られているが、その製造には特殊な試薬が使用されており、生体への安全性の点で問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-1829
【特許文献2】特開2009-270210
【特許文献3】特開平10-151184
【特許文献4】特開平10-309287
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、薬物の放出、強度、崩壊性などの性質に優れたフィルム製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、キトサンナノファイバーと薬物を含むフィルム製剤が、薬物の放出特性、崩壊性などに優れ、製剤化に必要な強度を有することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、以下のフィルム製剤を提供するものである。
項1. キトサンナノファイバー及び薬物を含むフィルム製剤。
項2. さらに可塑剤を含む項1に記載のフィルム製剤。
項3. 可塑剤が、グリセリン、ポリエチレングリコール、その他の可塑剤である、項2に記載のフィルム製剤。
項4. さらに添加剤を含む、項1〜3のいずれかに記載のフィルム製剤。
項5. キトサンナノファイバーの平均繊維幅(短径)が4〜100nm、好ましくは4〜40nmである、項1〜4のいずれかに記載のフィルム製剤。
項6. キトサンナノファイバーが、キトサンの分散流体を30〜245MPaで高圧噴射して衝突用硬質体に5回以上衝突させて得られたものである、項1〜5のいずれかに記載のフィルム製剤。
項7. 衝突用硬質体への衝突回数が5〜10回である項6に記載のフィルム製剤。
項8. 口腔粘膜貼付剤、DDS製剤、又は皮膚外用剤である項1〜7のいずれかに記載のフィルム製剤。
【発明の効果】
【0008】
キトサンを酸性溶液に溶解し、成膜したフィルムは知られているが、このフィルムは酸を使用するため生体への影響が懸念される。これに対し、本発明は、キトサンナノファイバーのみで十分な成膜性を有し、有機溶剤を使用しない生体材料の作製という点で、環境への負荷、生体への危険性がない。
【0009】
本発明のフィルム製剤は、シャーレ法(シャーレ内に満たした試験液表面上にフィルムを浮かべ、崩壊または溶解時間を測定する方法)において第15改正日本薬局方による崩壊試験第1液(水1L中にNaCl(2g)、HCl(7ml)を含む室温溶液)に速やかに崩壊(もしくは溶解)し、かつ、蒸留水に崩壊(もしくは)溶解しない性質を有し、医薬品の放出のための製剤、例えば口腔粘膜、臓器、組織等への貼付剤、経口剤、経皮吸収のための皮膚外用剤などとして優れている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の方法で使用するキトサンのナノファイバーの平均径(短径)は、4〜100nm程度、好ましくは4〜50nm程度、より好ましくは4〜40nm程度、さらに好ましくは4〜25nm程度、最も好ましくは20nm程度である。このようなキトサンのナノファイバーは、キトサンの分散流体を高圧噴射して製造することができる。
【0011】
キトサンを水の分散流体とし高圧噴射処理によりナノファイバーとすることができる。ここで、「分散流体」とは、キトサンを水に分散したものであり、濃度が薄い場合には、流動性の分散液になるが、キトサンが微細化するにしたがって粘性が高くなり、濃度が高くなるとペーストに近い性状となる。キトサンのナノファイバーの分散流体の濃度は、高濃度ほど処理効率が高まるため好ましいが、特にナノレベルの微細化した繊維の場合、粘度が高くなりすぎペースト状になると高圧噴射が困難になる。本発明では、キトサンのファイバー(好ましくはキトサンのナノファイバー)が高濃度であっても高圧噴射することができる装置を開発したため、分散流体中のバイオマスの濃度は例えば1〜20重量%程度、好ましくは5〜20重量%程度、より好ましくは10〜20重量%程度、さらに好ましくは11〜20重量%程度であってもよい。
【0012】
キトサンを高圧噴射処理によりナノファイバーとする際に、薬物粒子をキトサンと混合してナノファイバー化すれば、キトサンと薬物粒子の微細化を同時に行うことができるため好ましい。
【0013】
本発明のフィルム製剤において、キトサンのナノファイバーは、他の生体適合性材料と組み合わせて使用することができる。このような生体適合性材料としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリεカプロラクトンなどの生分解性ポリエステル、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチンなどの生体由来高分子、ハイドロキシアパタイト、二酸化チタン、硫酸バリウムなどの無機化合物が挙げられる。
【0014】
本発明で使用するキトサンの原料は、繊維状、粒状などの任意の形態であってもよい。キトサンは、一般的に知られている方法で除タンパク質・脱カルシウム処理された精製キトサンを原料として使用するのが好ましい。キトサンは、市販の原料を使用してもよい。キトサンの原料としては、例えば甲陽ケミカル製のFM-80、FM-200、FH-80などが挙げられる。
【0015】
ウォータージェット装置でバイオマスを高圧噴射処理すると、キトサンは繊維の長さを保ったまま繊維同士の絡まりがほどけて細くなるが、噴射圧力や処理回数などの処理条件を変えることで、繊維の切断もしくは分子量を低下させることも可能である。なお、本明細書において「ナノファイバー」とは、繊維の幅がナノサイズになったものを意味する。ナノファイバーの直径(幅)は、電子顕微鏡写真により測定することができる。このような繊維は、長さはナノサイズではないが、直径(幅)がナノサイズであるので、本明細書においてナノファイバーと記載する。
【0016】
キトサンは、繊維状、粒状などの高圧噴射前の形態では成膜性がなく、高圧噴射の回数が多くなるにしたがって、成膜性が向上する。これはナノファイバーの繊維同士が絡まりやすくなったためと考えられる。通常、3回以上、好ましくは5回以上高圧噴射処理を行えば、キトサンナノファイバーのみで十分な成膜性を有するようになる。
【0017】
本発明のキトサンナノファイバーは、繊維長/繊維幅(アスペクト比)が大きいため、強度を保ちつつ、不織布のようにナノファイバーが絡み合ったフィルムに成型することが容易であり、フィルム製剤として好適に使用できる。本発明のフィルム製剤は、透明性が高い特徴がある。
【0018】
キトサンの分散流体は、(株)スギノマシンが開発したウォータージェットを用いた超微細化装置を用いてノズルより高圧噴射することによりキトサンナノファイバーにすることができる。高圧噴射の圧力は、30〜245MPa程度、好ましくは100〜245MPa程度である。噴射速度は、242〜700m/s程度である。
【0019】
高圧噴射して衝突用硬質体に衝突させたキトサンの分散流体は回収し、再度ノズルより衝突用硬質体に向けて高圧噴射され、この操作を必要な回数、例えば1〜50回程度、好ましくは1〜40回程度、より好ましくは1〜30回程度、さらに好ましくは1〜20回程度、特に好ましくは1〜10回程度繰り返す。キトサンは、衝突用硬質体に衝突することで、繊維の絡まりがほどけ、繊維径が縮小し、ナノサイズに微細化していく。なお、衝突用硬質体としては、ボール状、平板状などの形状が挙げられる。分散流体を高圧噴射するノズルの直径としては、0.1〜0.8mm程度が挙げられる。
【0020】
キトサンのナノファイバーは、繊維径(繊維幅)を細くすることで、繊維同士が高密度に絡まり、強度を増加する効果が期待できる。また、繊維間の空隙を増加させることで、細胞の増殖に必要な物質の移動や、細胞が接着する足場の機能を強化することができる。
本発明のナノファイバーを用いて作製されたフィルムは、優れた強度、薬物放出特性を有することから、薬物を含むフィルム製剤として優れている。
【0021】
本発明のフィルム製剤は、水とナノファイバーと薬物のみで構成でき、触媒や有害な薬品を使用する必要がなく、生体に対する悪影響がない優れた製剤である。しかも本発明で使用するキトサンナノファイバーは、従来のマイクロオーダーの極細繊維に比較しても格段に大きな比表面積を有するため、薬物の吸着性に優れており、薬物を徐放性に放出するDDS製剤としても優れている。
【0022】
フィルム製剤の膜厚としては、下限は20μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、80μm、90μm、100μm程度であり、上限は1000μm、900μm、800μm、700μm、600μm、500μm、400μm、300μm、200μm程度である。十分な薬物を長時間(例えば12時間もしくは24時間、或いは48時間)放出する場合には膜厚の厚いフィルムを用いることができる。速崩壊性のフィルムの場合には、フィルム厚は30〜200μm程度、好ましくは70〜170μm程度である。一方、薬物を多量に配合して持続的に薬物を放出させる場合には、200μm以上、場合により膜厚1mm〜2mm程度のフィルムを使用することもできる。薬物を多量に含む徐放性フィルムとしては、口腔内貼付型のフィルム(例えばbuccal film)などが挙げられる。
【0023】
フィルム製剤に配合される薬物としては、
・アスピリン、アセトアミノフェン、エテンザミド、サザピリン、サリチルアミド、ラクチルフェネチジン、イソプロピルアンチピリン、イブプロフェンなどの解熱鎮痛剤、
・ジフェニルピラリン、メブヒドロリン、メキタジン、dl−クロルフェニラミン、フェニラミン、トリプロリジン、トンジルアミン、メトジラジン、カルビノキサミン、アリメマジン、クレマスチン、プロメタジン、ケトチフェン、イソチペンジル、d−クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン、トリペレナミン、シプロヘプタジン、ジフェテロール、ホモクロルシクリジン、フェネタジン、イプロヘプチンなどの抗ヒスタミン剤、
・アロクラミド、クロペラスチン、ペンタトキシベリン(カルベタペンタン)、チペピジン、ジブナート、デキストロメトルファン、コデイン、ジヒドロコデイン、ノスカピン、メチルエフェドリン、ジメモルファンなどの鎮咳剤、
・チペピジン、メチルエフェドリン、グアヤコールスルホン酸、グアイフェネシンなどの去痰剤、
・エフェドリン、メチルエフェドリンなどの気管支拡張剤、
・サリチル酸メチル、ジフルニサルおよびアモキシプリン(amoxiprin)などのサリチル酸誘導体、ジクロフェナック、インドメタシンおよびスリンダクなどのアリールアルカン酸類;カプロフェン、ナプロキセンおよびケトプロフェンなどのプロピオン酸誘導体(プロフェン類);メフェナム酸、メクロフェナム酸およびフルフェナム酸などのN-アリールアントラニル酸類(フェナム酸誘導体);ピロキシカム、スドキシカム、イソキシカムおよびメロキシカムなどのオキシカム類;セレコキシブ、ロフェコキシブ、バルデコキシブ、パルセコキシブおよびエトリコキシブなどのコキシブ類;ニメスリドなどのスルホンアニリド類;およびテポキサリンなどのシクロオキシゲナーゼなどの非ステロイド性抗炎症剤、
・テオフィリン、サルブタモール、アミノフィリン、デキストロメトルファン、シュードエフェドリンなどの呼吸器系疾患治療剤
・ブプレノルフィン、コデイン、フェンタニィル、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、ラボルファノール、メペリジン、モルヒネ、オキシコドン、ペンタゾシン、プロポキシフェン、トラマドールなどのオピオイド類、
・フルオキセチン、パロキセチン、ブスピロン、カルマバゼピン、カルビドパ、レボドパ、メチルフェニデート、トラゾドン、バルプロ酸、アミトリプチリン、カルバマゼピン、エルゴロイド、ハロペリドール、ロラゼパムなどの精神神経系薬物、
・ベザフィブラート、フェノフィブラート、ジェムフィブロジル、ナイアシン、アトルバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、エトフィブラート、ロバスタチン、シムバスタチンなどの高脂血症治療薬、
・アミノサリチル酸塩、クロファジミン、シクロセリン、エチオナミド、リファブチンなどの抗マイコバクテリア薬、
・アルベンダゾール、イベルメクチン、メベンダゾール、プラジクァンテルなどの駆虫薬、
・バラシクロビル、ジダノシン、ファムシクロビル、バルガンシクロビル、インジナビル、ラミブジン、メシル酸ネルフィナビ、ネビラピン、リトナビル、スタブジン、燐酸オセルタミビルなどの抗ウイルス薬、
・ばアモキシシリン、アンピシリン、セフロキシムナトリウム、セフロキシムアクセチル、ペニシリンGおよびV塩、セフジトレン、セフィキシム、クロキサシリンナトリウム、ジクロキサシリンナトリウムなどのβ−ラクタム系抗生物質、
・エリスロマイシンエストレート、エチルコハク酸エリスロマイシン、ステアリン酸エリスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質;
・シプロフロキサシン、エノキサシンなどのフルオロキノロン;
・塩酸デメクロサイクリン、ドキシサイクリンカルシウム、テトラサイクリン、塩酸テトラサイクリンなどのテトラサイクリン類;
・アルトレタミン、ブスルファン、クロラムブシル、メルファラン、シクロホスファミド、塩酸プロカルバジン、テモゾロミドなどのアルキル化剤;
・メトトレキセート、メルカプトプリン、チオグアニンなどの代謝拮抗物質、
・ビカルタミド、フルタミド、ニルタミド、アミノグルテチミド、アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール、クエン酸タモキシフェン、クエン酸トレミフェンなどのホルモン薬および拮抗薬;
・燐酸エトポシドなどの有糸分裂阻害剤;
・アザチオプリン、シクロスポリン、マイコフェノラートモフェチル、シロリムス、タクロリムスなどの免疫抑制薬、
・塩酸アミノダロン、ジゴキシン、燐酸ジソピラミド、ドフェチライド、酢酸フレカイニド、塩酸メキシレチン、塩酸モリシジン、塩酸プロカインアミド、塩酸プロパフェノン、塩酸ソタロール、硫酸キニジン、グルコル酸キニジン、トカイニドなどの抗不整脈薬、
・メシル酸ドキサゾシン、ロサルタンカリウム、トランドラプリル、イルベサルタン、テルミサルタン、ロサルタン、塩酸クロニジン、カプトプリル、ベナゼプリル、エナラプリル、塩酸メチルドーペート、カンデサルタン、バルサルタン、モエキシプリル、、塩酸プラゾシン、、塩酸ヒドロラジン、塩酸テラゾシン、、塩酸ラベタロール、ミノキシジル、酢酸グアナベンズ、硫酸グアナドレル、塩酸グアンファシン、レセルピンなどの抗高血圧薬、
・アセブトロール、アテノロール、ベタキソロール、ビソプロロール、カルテオロール、ラベタロール、カルベジロール、メトプロロール、ナドロール、ピンドロール、ペンブトロール、チモロール、プロプラノロール、ソルタロールなどのβ−アドレナリン作動性遮断薬、
・アムロジピン、ベプリジル、ジルチアゼム、フェロジピン、イスラジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ベラパミル、ニモジピン、ニソルジピンなどのカルシウムチャンネル遮断剤、
・二硝酸イソソルビド、ニトログリセリン、ニトロプルシドナトリウムなどの硝酸塩、
・カルバマゼピン、エトスクシミド、フェルバメート、ガバペンチン、クロナゼパム、レベチラセタム、オキシカルバゼピン、ラモトリジン、フェノバルビタール、フェニトイン、チアガビン、プリミドン、トピラメート、ゾニサミド、バルプロ酸、プロエックスナトリウムなどの抗痙攣薬、
・ミルタザピン、アモキサピン、ブプロピオン、フェネルジン、トラニルシプロミン、シタロプラム、フルオキセチン、パロキセチン、フルボキサミン、セルトラリン、ベンラファキシン、トラゾドン、マプロチリン、ネファゾドン、アミトリプチリン、クロミプラミン、デシプラミン、デキセピン、イミプラミン、ノルトリプチリン、プロトリプチリン、トリミプラミンなどの抗うつ薬、
・クロルプロマジン、チオリダジン、ロキサピン、モリンドン、オランザピン、クロザピン、クエチアピン、ジプラシドン、リスペリドン、フルフェナジン、ハロペリドール、ペルフェナジン、チオチキセン、トリフルオペラジンなどの抗精神病薬、
・アカルボース、メトホルミン、ナテグリニド、アセトヘキサミド、クロルプロパミド、トラザミド、グリメピリド、ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、グリピシド、レパグリニド、グルブリド、トルブタミドなどの抗糖尿病薬、
・エストラジオールおよびそのエステル、エストロゲン、エストロピペート、ヒドロキシプロゲステロン、酢酸ノルエチンドロン、ミフェプリストン、ラロキシフェンなどのホルモン;
・アロプリノール、コルヒチン、プロベネシド、スルフィンピラゾンなどの痛風治療薬、
などが好適に例示できる。
【0024】
フィルム製剤には、フィルム形成時の収縮などによる剥離を抑制し、フィルムの柔軟性を向上させるために可塑剤を配合するが、可塑剤としては、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどが挙げられる。
【0025】
他の添加剤としては、炭酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどのステアリン酸塩、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカデンプン、馬鈴薯デンプン、米デンプン、小麦デンプン、サゴデンプンなどのデンプン類ないし加工デンプン、アルファ化デンプン、部分アルファ化デンプン(PCS)、香料、甘味料、着色剤、顔料、酸味料、ビタミン類、保存料、結晶セルロース(例えばセオラスDX-2,、セオラスPH101、旭化成株式会社製)、微粒子状シリカ(例えば、サイリシア350、富士シリシア化学株式会社製、アエロジル200、デグサ社製)などが挙げられる。
【0026】
本発明のフィルム製剤の各成分の配合量は、キトサンナノファイバー(固形分)100重量部に対し、
可塑剤:10〜200重量部程度、好ましくは20〜150重量部、より好ましくは25〜100重量部程度、さらに好ましくは30〜70重量部程度、特に35〜65重量部程度;
PCSなどの添加剤0〜350重量部、好ましくは50〜300重量部程度、より好ましくは100〜250重量部程度、特に150〜250重量部程度;
薬物0.1〜1000重量部程度、好ましくは1〜900重量部程度、より好ましくは10〜800重量部程度、さらに好ましくは50〜600重量部程度;特に100〜500重量部程度を配合することができる。
【0027】
グリセリンなどの可塑剤の添加はフィルムの柔軟性を向上させる。添加により、製造時のベースフィルムからの剥離が抑制される。可塑剤の配合量が上記の範囲内であれば、フィルム製剤時の剥離を抑制しつつ、ベースフィルムの離脱は容易にし、柔軟性を維持し、かつ、工業生産に適した強度を維持できるため、好ましい。
【0028】
薬物は、固形物(結晶、粉末)としてキャスティング液などのフィルム製剤の調製液に配合してもよく、溶媒の溶液として配合してもよく、担体に吸着させたり、リポソーム、ゼラチン、寒天などのマイクロカプセルに封入して配合するなどの他の形態でフィルム製剤に配合してもよい。
【0029】
本発明のフィルム製剤は、キャスティングなどの通常の製法によりフィルムに成膜できる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0031】
以下の実施例において、キトサンナノファイバーとして、甲陽ケミカル製のFM-80を原料とし、これを混合したスラリー状の流体を(株)スギノマシン製のウォータージェット装置を用い、100〜245 MPaの超高圧に加圧し、微細なオリフィスノズル(φ0.1〜0.8mm)から高圧で5回噴射を繰り返し、キトサンナノファイバーを得、これを微細化したキトサン懸濁液として使用した。
【0032】
実施例1−11:微細化キトサン膜の調製方法
調 液
(1) ビーカーなどの適切な容器に、微細化したキトサン懸濁液試料を所定量秤量した。
(2) 処方に従って、可塑剤を秤量し加え、攪拌機または少量の場合にはスパーテルで均一となるように攪拌した。
(3) 薬物を含有させる場合には、(2)に薬物を秤量して加え、攪拌機または少量の場合にはスパーテルで均一となるようにさらに攪拌した。
【0033】
キャスティング
(4) 平板なガラス板上に台紙、ベースフィルム(コロナ処理OPPフィルム)の順に敷き固定した。調製液をベースフィルム上に注ぎ拡げた。
(5) 任意の間隙(475μm,925μm,1375μm)に調整したベーカーアプリケーター(YBA−6型、ヨシミツ精機)を用いて、この液をベースフィルム上に展延した。
【0034】
乾 燥
(6) ベースフィルム上に展延したフィルムの乾燥は通風式乾燥機(基本条件:40℃、2時間)により行った。
【0035】
試験片の調製
(7) 乾燥後、試料フィルムは、各試験に適するサイズ(2cm×3cm)に切り分け、ベースフィルムを剥して各試験に用いた。
(8) この際、試料片質量、試料片厚さを測定した。
【0036】
試験方法
(9) 引張強度
強度測定装置としては、FUDOHレオメーター(J型、レオテック)を用いた。フィルム試料を装置グリップ間(上下グリップ間の距離1.5cm)に挟みセットした。2cm/minの速さで引張り、試料片が破断するまでに記録された最大荷重を試料断面積(試料の幅×試料の厚さ、cm)で除して、引張強度(MPa)を算出した。
(10) 崩壊試験
シャーレに蒸留水または第15改正日本薬局方による溶出試験液第一液を適量(50mL)入れ、2cm×3cmにカットしたフィルム試料を液表面に浮かせた。試験片が全域で崩壊した時間(sec)を測定した。また、この崩壊時間を試料片質量で除した値を崩壊指数(sec/mg)として算出した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
フィルム状態に関し、
「良好」:フィルム製剤のベースフィルムからの剥離がなく強度も十分であり、薬物の放出性にも優れている
「剥離」:フィルム製剤がベースフィルムから剥離したが、強度は十分であり、薬物の放出性にも優れている。
「脆性」:フィルム製剤のベースフィルムからの剥離はない。強度は強い力を加えるとフィルムが破れることがあり取り扱いにやや注意を要する。薬物の放出性は優れている
「過剰添加」:フィルム製剤のベースフィルムからの剥離はない。強度は弱く、バッチ試験であれば問題はないが、工業的生産は難しいレベルである。薬物の放出性は優れている。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のフィルム製剤は、フィルムの基剤としてる粘膜付着特性に優れたキトサンのナノファイバーを主として使うことから、口腔内での付着フィルム、口腔内崩壊フィルム、経粘膜薬物吸収フィルム(経鼻、経眼、経膣、経直腸)などの用途に好適に使用することができる。さらに、キトサンは生体親和性にも優れており、かつ、キトサンナノファイバーは薬物を含む生理活性物質を吸着する性質があるため、薬物徐放性フィルム、経皮薬物吸収用フィルムなどの用途に幅広く応用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサンナノファイバー及び薬物を含むフィルム製剤。
【請求項2】
さらに可塑剤を含む請求項1に記載のフィルム製剤。
【請求項3】
可塑剤が、グリセリン、ポリエチレングリコール、その他の可塑剤である、請求項2に記載のフィルム製剤。
【請求項4】
さらに添加剤を含む、請求項1〜3のいずれかに記載のフィルム製剤。
【請求項5】
キトサンナノファイバーの平均繊維幅(短径)が4〜100nm、好ましくは4〜40nmである、請求項1〜4のいずれかに記載のフィルム製剤。
【請求項6】
キトサンナノファイバーが、キトサンの分散流体を30〜245MPaで高圧噴射して衝突用硬質体に5回以上衝突させて得られたものである、請求項1〜5のいずれかに記載のフィルム製剤。
【請求項7】
衝突用硬質体への衝突回数が5〜10回である請求項6に記載のフィルム製剤。
【請求項8】
口腔粘膜貼付剤、DDS製剤、又は皮膚外用剤である請求項1〜7のいずれかに記載のフィルム製剤。

【公開番号】特開2011−225461(P2011−225461A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94749(P2010−94749)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(591091043)株式会社ツキオカ (38)
【出願人】(000132161)株式会社スギノマシン (144)
【Fターム(参考)】