説明

フィレットローリング加工装置及びフィレットローリング加工方法

【課題】フィレットローリング加工時にフィレットローラに欠けなどの破損が発生することを抑制可能なフィレットローリング加工装置及び加工方法を提供する。
【解決手段】フィレットローリング加工装置(100)は、フィレット溝部Fにフィレットローラ(5)を圧接しながら、クランクシャフトSを回転することによりフィレットローリング加工を行う。特に、低圧力値でフィレットローラ(5)をフィレット溝部Fに圧接しながら、低回転速度でクランクシャフトSを回転駆動することにより、フィレット溝部Fの表面上に存在する凹凸を平滑化した後に、フィレットローリング加工を行うように制御する制御手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトに設けられたフィレット溝部にフィレットローラを圧接しながらクランクシャフトを回転することにより、フィレットローリング加工を行うフィレットローリング加工装置及びフィレットローリング加工方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用エンジンなどの内燃機関に用いられるクランクシャフトでは、クランクピンやクランクジャーナルに設けられたフィレット溝部にフィレットローリング加工を施すことにより、疲労強度の向上が図られている。一般的に、フィレットローリング加工は、クランクピン及びクランクジャーナルに丸みを帯びて形成されたフィレット溝部に、フィレットローラで圧力を印加しながらクランクシャフトを回転駆動する(冷間圧延加工する)ことにより行われる。
【0003】
ここで、フィレットローリング加工による疲労強度の向上度合は、フィレット溝部に印加する圧力値を大きく設定する程よいとされているが、一方でフィレット溝部に圧力を印加する側であるフィレットローラの寿命が短くなってしまうという問題がある。このような問題に対して、例えば特許文献1には、フィレット溝部に印加する圧力値をフィレット溝部の周方向で積極的に可変制御することにより、疲労強度の向上とフィレットローラの長寿命化との両立を図っている。また、フィレット溝部に印加する圧力値の別の制御例として、特許文献2には、加工対象(即ち、クランクシャフト)の振れ量及びその方向に応じてフィレットローラの荷重を自動的に変化させることにより、圧力値を可変に制御可能なフィレットローリング加工装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−142431号公報
【特許文献2】特開平6−339857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、この種のフィレットローリング加工装置では、フィレット溝部にフィレットローラを圧接しながらクランクシャフトを回転駆動することによって、フィレットローリング加工が行われる。ここで、フィレット溝部の表面は、クランクシャフトを回転駆動させた際にフィレットローラに欠けなどの破損が生じないように、丸みを帯びて形成されている。しかしながら、このように丸みを帯びて形成されたフィレット溝部の表面においても、実際には、バリなどの凹凸が存在している。そのため、クランクシャフトを回転駆動した際にフィレット溝部とフィレットローラとの間に摩擦力が生じ、当該摩擦力が大きくなるとフィレットローラに欠けなどの破損が生じてしまうおそれがある。特に、クランクシャフトの疲労強度を向上させるためにフィレット溝部に印加する圧力値を大きく設定すると、フィレット溝部とフィレットローラとの間に生じる摩擦力もまた増大し、フィレットローラに破損が生じやすくなってしまう。
【0006】
本発明は、上述した問題点に鑑みなされたものであり、フィレットローリング加工時にフィレットローラに欠けなどの破損が発生することを抑制可能なフィレットローリング加工装置及び加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のフィレットローリング加工装置は上記課題を解決するために、クランクシャフトに設けられたフィレット溝部にフィレットローラを圧接しながら、前記クランクシャフトを回転することによりフィレットローリング加工を行うフィレットローリング加工装置であって、第1の圧力値で前記フィレットローラを前記フィレット溝部に圧接しながら、第1の回転速度で前記クランクシャフトを回転駆動することにより、前記フィレット溝部の表面上に存在する凹凸を平滑化した後に、前記第1の圧力値より大きい第2の圧力値で前記フィレットローラを前記フィレット溝部に圧接しながら、前記第1の回転速度より大きい第2の回転速度で前記クランクシャフトを回転駆動することにより、前記フィレット溝部にフィレットローリング加工を施すように、前記フィレットローラがフィレット溝部に印加する圧力値及び前記クランクシャフトの回転速度を可変に制御する制御手段を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明のフィレットローリング加工装置によれば、フィレットローリング加工を実行する前に、フィレットローリング加工時に比べて低圧力且つ低回転でフィレット溝部の表面上に存在する凹凸を平滑化することにより、フィレットローリング加工時にフィレットローラとフィレット溝部との間に生じる摩擦力を軽減し、フィレットローラに欠けなどの破損が発生することを効果的に抑制することができる。
【0009】
好ましくは、前記フィレットローラ及び該フィレットローラに対向して設けられたレストローラを先端部にそれぞれ有し、前記フィレットローラが前記フィレット溝部に当接するように、前記フィレットローラ及び前記レストローラ間に前記クランクシャフトを固定する一対のアームからなるクランプアームを備え、前記第1の圧力値及び前記第1の回転速度は、前記クランプアームによって固定された前記クランクシャフトが回転可能に設定されるとよい。この場合、フィレット溝部とフィレットローラとの間に生じる摩擦力は極力小さく抑えることができるので、平滑化の際にもフィレットローラに欠けなどの破損が生じる可能性を効果的に抑制することができる。
【0010】
より好ましくは、前記クランクシャフトはそれぞれフィレット溝部が設けられたクランクピン及びクランクジャーナルを備えてなり、前記クランプアームは前記フィレット溝部毎に設けられているとよい。この場合、クランクシャフトに複数設けられたフィレット溝部に対して同時に平滑化及びフィレットローリング加工を施すことができるので、高い生産性を得ることができる。
【0011】
また、前記制御手段は、前記フィレットローラがフィレット溝部に印加する圧力値及び前記クランクシャフトの回転速度の少なくとも一方を時間の経過と共に連続的に変化させるとよい。この場合、フィレット溝部とフィレットローラとの間に生じる摩擦力が急激に変化してショックとなることによって、フィレットローラにかけなどの不具合が生じてしまうことを効果的に防止することができる。
【0012】
本発明のフィレットローリング加工方法は上記課題を解決するために、クランクシャフトに設けられたフィレット溝部にフィレットローラを圧接しながら、前記クランクシャフトを回転することによりフィレットローリング加工を行うフィレットローリング加工方法であって、第1の圧力値で前記フィレットローラを前記フィレット溝部に圧接しながら、第1の回転速度で前記クランクシャフトを回転駆動することにより、前記フィレット溝部の表面上に存在する凹凸を平滑化する平滑化工程と、前記第1の圧力値より大きい第2の圧力値で前記フィレットローラを前記フィレット溝部に圧接しながら、前記第1の回転速度より大きい第2の回転速度で前記クランクシャフトを回転駆動することにより、前記フィレット溝部にフィレットローリング加工を施す加工工程とを備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明に係るフィレットローリング加工方法によれば、上述のフィレットローリング加工装置(上記各種態様を含む)を好適に実現可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フィレットローリング加工を実行する前に、フィレットローリング加工時に比べて低圧力且つ低回転でフィレット溝部の表面上に存在する凹凸を平滑化することにより、フィレットローリング加工時にフィレットローラとフィレット溝部との間に生じる摩擦力を軽減し、フィレットローラに欠けなどの破損が発生することを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るフィレットローリング加工装置によってフィレットローリング加工が施されるクランクシャフトの概略構成を示す側面図である
【図2】本発明に係るフィレットローリング加工装置の全体構成を概略的に示す側面図である。
【図3】フィレットローラが圧接するフィレット溝部付近の様子を拡大して示す断面図である。
【図4】本発明におけるフィレットローリング加工の一連の動作におけるクランクシャフトの回転速度とフィレット溝部に印加される圧力値の推移を示すグラフ図である。
【図5】クランクピン及びクランクジャーナルのフィレット溝部への圧力分布を示す模式図である。
【図6】比較例における、クランクシャフトの回転速度とフィレット溝部に印加される圧力値の推移を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0017】
図1は本発明に係るフィレットローリング加工装置100によってフィレットローリング加工が施されるクランクシャフトSの概略構成を示す側面図である。クランクシャフトSは、例えば直列4気筒エンジン用のクランクシャフトであり、周知のように5箇所のクランクジャーナルJのほか、同位相の二つのクランクピンP1、当該クランクピンP1に対して位相が180度ずれて設けられた二つのクランクピンP2を備えてなる。クランクピンP1及びP2のそれぞれの逆位相側には、カウンタウェイトCWが設けられており、クランクジャーナルJ、クランクピンP1及びP2の両端にはフィレット溝部Fが形成されている。
【0018】
図2は、本発明に係るフィレットローリング加工装置100の全体構成を概略的に示す側面図である。フィレットローリング加工装置100は、一対のアームである上側アーム1a及び下側アーム1bからなるクランプアーム1を備える。上側アーム1aは下側アーム1bに対して支持軸2を中心に回動可能に取り付けられており、下側アーム1bはベース3に固定された支持ブラケット4の上端に固定されている。
【0019】
上側アーム1aの先端下面にはフィレットローラ5が回転可能に設けられており、下側アーム1bの先端上面にはフィレットローラ5に対向するように、2つのレストローラ6が回転可能に設けられている。フィレットローリング加工装置100は、加工対象であるクランクシャフトSのクランクジャーナルJ及びクランクピンP1、P2をレストローラ6によって下側から支持しつつ、フィレット溝部Fに対し上側からフィレットローラ5を圧接させることによってクランクシャフトSを固定可能なように構成している。尚、図2ではクランクシャフトSのうちクランクピンP1を固定している様子を図示しているが、クランクジャーナルJ及びクランクピンP2に対してフィレットローリング加工を行う場合についてもその固定の様子は、以下に特記しない限り同様である。
【0020】
図3はフィレット溝部Fに当接するフィレットローラ5の様子を拡大して示す断面図である。このように、フィレットローリング加工装置100は、フィレットローラ5をフィレット溝部Fに対して圧接することにより、フィレット溝部Fに圧力を印加する。このとき図1に示すように、クランクシャフトSは、その両側から駆動シャフト30及び31によって固定されており、図2に示すコントローラ11からの指令に基づいて図不示のロータリアクチュエータによって所定の回転速度で回転駆動される。このように、フィレット溝部Fにフィレットローラ5から圧力を印加しつつ、クランクシャフトSを回転駆動することにより、フィレットローリング加工が実行される。
【0021】
再び図2に戻って、上側アーム1a及び下側アーム1bの後端間には、油圧駆動式シリンダ8(以下、単に「シリンダ8」と称する)が設けられている。シリンダ8の本体8aの下端はピン9を介して下側アーム1bに回動可能に取り付けられており、ロッド8bの上端はピン10を介して上側アーム1aに回動可能に取り付けられている。
【0022】
コントローラ11は、上述のようにクランクシャフトSの回転速度Rを制御すると共に、シリンダ8の油圧値を制御することによりフィレット溝部Fに印加される圧力値Pfを制御するコントロールユニットである。即ち、コントローラ11は本発明の「制御手段」の一例である。特に、フィレット溝部Fに印加される圧力値Pfの制御は、コントローラ11が油圧配管12に設けられた油圧センサ13からシリンダ8の油圧値を検出し、当該検出信号に基づいて油圧値を制御することにより、上側アーム1a及び下側アーム1bの後端間にかかるトルクを変化することにより行われる。後に詳述するように、本発明のフィレットローリング加工装置100は、フィレット溝部Fの表面の凹凸を平滑化する平滑化工程が実施された後に、フィレットローリング加工を行う加工工程が実施される。即ち、コントローラ11は、実質的に平滑化工程を行う平滑化手段と加工工程を行う加工手段とからなり、これらの態様は適宜変更可能である。
【0023】
尚、図2では図示を省略しているが、クランクアーム1はそれぞれフィレット溝部Fが設けられたクランクピンP1、P2及びクランクジャーナルJの各々に対応するように、クランクシャフトSに対して複数設けられている。以下、主にクランクピンP1に設けられたフィレット溝部Fにフィレットローリング加工を行う場合について説明を行うが、クランクピンP2及びクランクジャーナルJに設けられたフィレット溝部Fにフィレットローリング加工を行う場合についても特段の記載が無い限り同様として説明する。
【0024】
図4は、フィレットローリング加工の一連の動作におけるクランクシャフトSの回転速度Rとフィレット溝部Fに印加される圧力値Pfの推移を示すグラフ図である。図4(a)はクランクシャフトSの回転速度Rの推移を示しており、図4(b)はクランクシャフトSのうちクランクジャーナルJに設けられたフィレット溝部Fに印加される圧力値Pfjの推移を示しており、図4(c)はクランクシャフトSのうちクランクピンP1、P2に設けられたフィレット溝部Fに印加される圧力値Pfpの推移を表している。尚、図4の各グラフにおける横軸はクランクシャフトSの回転数である。
【0025】
まず図4(a)(b)に示すように、フィレットローリング加工装置100にクランクシャフトSがセットされると、コントローラ11は、フィレット溝部Fに印加される圧力値をPfj1に設定して、クランプアーム1でクランクシャフトSをクランプする。このとき、クランクシャフトSの回転速度はゼロである(即ち、停止状態にある)。
【0026】
クランクシャフトSのクランプが完了すると、コントローラ11はフィレット溝部Fに印加される圧力値をPfj1(本発明の第1の圧力値)に維持しつつ、クランクシャフトSを本発明の第1の回転速度R1で回転駆動して、フィレット溝部Fの表面上に存在する凹凸を平滑化する。つまり、フィレットローリング加工を実行する前に、フィレットローラ5とフィレット溝部Fとの間の摩擦力が小さい状態でフィレット溝部Fの表面上に存在する凹凸をフィレットローラ5で削り取るように平滑化する。これにより、後にフィレットローリング加工を実施した際に、フィレット溝部Fとフィレットローラ5との間に生じる摩擦力を低減させ、フィレットローラ5に欠けなどの破損が発生することを効果的に抑制することができる。
【0027】
第1の圧力値Pfj1及び第1の回転速度R1は、後述するフィレットローリング加工時における第2の圧力値Pfj2及び第2の回転速度R2に比べて小さく設定されている。これにより、フィレット溝部Fの表面上に存在する凹凸を平滑化する際にフィレット溝部Fとフィレットローラ5との間に生じる摩擦力を小さく抑え、フィレットローラ5に欠けなどの破損が発生することを防止できる。
【0028】
このようなフィレット溝部Fの表面上に存在する凹凸の平滑化は、クランクシャフトSが3回転する期間T1継続される。期間T1の長さは、クランクシャフトSの表面をより確実に平滑化するという観点からは極力長く設定することが好ましいが、その反面、一連のフィレットローリング加工に要する時間が長期化し、生産性が低下してしまう。そのため、クランクシャフトSの表面の平滑化の確実性と生産性のバランスとを考慮して適宜設定するとよい。
【0029】
また、第1の回転速度R1及び第1の圧力値Pfj1は、クランプアーム1によって固定されたクランクシャフトSが回転可能に設定されるとよい。より好ましくは、クランクシャフトSが回転可能、且つ、フィレットローラ5が確実にフィレット溝部Fに当接可能な範囲において極力小さく設定するとよい。この場合、フィレット溝部Fの表面上に存在する凹凸を平滑化する際に、フィレット溝部Fとフィレットローラ5との間に生じる摩擦力をより低減することができるので、フィレットローラ5に欠けなどの破損が発生する可能性をより効果的に低減することができる。
【0030】
期間T1が経過すると、コントローラ11は、シリンダ8の油圧値の制御を介して、フィレット溝部Fに印加する圧力値を第1の圧力値Pfj1から第2の圧力値Pfj2に向かって増加させると共に、クランクシャフトSの回転速度を第1の回転速度R1から第2の回転速度R2に変更し、フィレットローリング加工を開始する。ここで、第2の回転速度R2及び第2の圧力値Pfj2は、第1の回転速度R1及び第1の圧力値Pfj1に比べて大きく設定される。上述したように、期間T1においてフィレット溝部Fの表面に存在する凹凸はすでに平滑化されているので、このようにクランクシャフトSの回転速度やフィレット溝部Fに印加される圧力値を増加させてフィレットローリング加工を行ったとしても、フィレットローラ5に欠けなどの破損は生じない。
【0031】
本実施例では特に、フィレット溝部Fに印加させる圧力値を第1の圧力値Pfj1から第2の圧力値Pfj2に向かって連続的に増加させている。これにより、この場合、フィレット溝部Fとフィレットローラ5との間に生じる摩擦力が急激に変化してショックとなることによって、フィレットローラ5にかけなどの不具合が生じてしまうことを効果的に防止することができる。より詳しく説明すると、フィレット溝部Fに印加する圧力値を次第に増加させることにより、圧力値が小さい領域ではフィレットローラ5に極力破損が生じないようにしつつフィレット溝部Fの表面上の凹凸を慎重に削り取って平滑化し、次第に印加する圧力値を増大して大きな凹凸も平滑化できるように状態を遷移させるのである。これにより、フィレットローラ5の破損防止と、フィレット溝部Fの平滑化とを効果的に両立することができる。
【0032】
尚、図4に示す例では、クランクシャフトSの回転速度Rとフィレット溝部への印加圧力のうち後者のみを連続的に変化させる場合を例示したが、前者のみ或いは、両者とも連続的に変化させてもよい。
【0033】
そしてフィレットローリング加工が終了すると、クランクシャフトSの回転速度Rとフィレット溝部への印加圧力を再び低下させ、一連の工程を終了する。このときもクランクシャフトSの回転速度Rとフィレット溝部への印加圧力を連続的に低下させることによって、フィレット溝部Fとフィレットローラ5との間に生じる摩擦力が急激に変化してショックとなることによって、フィレットローラ5にかけなどの不具合が生じてしまうことを効果的に防止することができる。
【0034】
続いて、図4(a)(c)に示すように、クランクジャーナルJに設けられたフィレット溝部Fに対しては、まず、クランクピンP1、P2と同様にクランプ後、平滑化が行われる。平滑化の完了後は、図4(c)に示すように、クランクピンP1、P2に設けられたフィレット溝部Fへの印加圧力値Pfpが、周期的に低圧側のPfp21と高圧側のPfp22とを繰り返すように制御される。
【0035】
一般的に、クランクシャフトSの疲労強度を向上させるためには、フィレットローリング加工時にフィレット溝部Fに印加する圧力値が大きい程よいとされているが、一方でフィレットローラ5の寿命は、フィレット溝部Fに加えられる圧力が大きくなるに従い、極端に短くなってしまうことが知られている。クランクシャフトSが実際にエンジンに組み込まれた状態では、クランクシャフトSのうちクランクピンP1、P2のボトム側に大きな荷重が加わる一方で、ボトム側とは反対側のトップ側ではボトム側程大きな荷重が加わらない。そのため、図5に示すように、コントローラ11は、クランクピンP1、P2のトップ側34を低圧側のPfp21で加工すると共に、ボトム側35を高圧側のPfp22で加工するように、フィレット溝部Fに印加される圧力値を切り替え制御することにより、フィレットローラ5の長寿命化とクランクシャフトSの疲労強度の確保とを両立することができる。尚、本実施例では、図5に示すように、クランクピンP1、P2の外周のうち130度分をトップ側34、その他の外周をボトム側35としている。
【0036】
そしてフィレットローリング加工が終了すると、クランクシャフトSの回転速度Rとフィレット溝部への印加圧力を再び低下させ、一連の工程を終了する。
【0037】
ここで図6は、フィレットローリング加工前に平滑化を行わない比較例における、クランクシャフトSの回転速度Rとフィレット溝部Fに印加される圧力値の推移を示すグラフ図である。本願発明者の実験によれば、本発明のように平滑化を行うことによって、比較例に比べてフィレットローラ5に発生する欠けなどの破損が極めて良好に抑制されることが示されている。
【0038】
以上説明したように、本実施例に係るフィレットローリング加工装置100によれば、フィレットローリング加工を実行する前に、フィレットローリング加工時に比べて低圧力且つ低回転でフィレット溝部Fの表面上に存在する凹凸を平滑化することにより、フィレットローリング加工時にフィレットローラ5とフィレット溝部Fとの間に生じる摩擦力を軽減し、フィレットローラ5に欠けなどの破損が発生することを効果的に抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、クランクシャフトに設けられたフィレット溝部にフィレットローラを圧接しながらクランクシャフトを回転することにより、フィレットローリング加工を行うフィレットローリング加工装置及びフィレットローリング加工方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 アーム
1a 上側アーム
1b 下側アーム
2 支持軸
3 ベース
4 支持ブラケット
5 フィレットローラ
6 レストローラ
8 シリンダ
11 コントローラ
100 フィレットローリング加工装置
S クランクシャフト
J クランクジャーナル
P1 クランクピン
P2 クランクピン
F フィレット溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトに設けられたフィレット溝部にフィレットローラを圧接しながら、前記クランクシャフトを回転することによりフィレットローリング加工を行うフィレットローリング加工装置であって、
第1の圧力値で前記フィレットローラを前記フィレット溝部に圧接しながら、第1の回転速度で前記クランクシャフトを回転駆動することにより、前記フィレット溝部の表面上に存在する凹凸を平滑化した後に、
前記第1の圧力値より大きい第2の圧力値で前記フィレットローラを前記フィレット溝部に圧接しながら、前記第1の回転速度より大きい第2の回転速度で前記クランクシャフトを回転駆動することにより、前記フィレット溝部にフィレットローリング加工を施すように、
前記フィレットローラがフィレット溝部に印加する圧力値及び前記クランクシャフトの回転速度を可変に制御する制御手段を備えることを特徴とするフィレットローリング加工装置。
【請求項2】
前記フィレットローラ及び該フィレットローラに対向して設けられたレストローラを先端部にそれぞれ有し、前記フィレットローラが前記フィレット溝部に当接するように、前記フィレットローラ及び前記レストローラ間に前記クランクシャフトを固定する一対のアームからなるクランプアームを備え、
前記第1の圧力値及び前記第1の回転速度は、前記クランプアームによって固定された前記クランクシャフトが回転可能に設定されることを特徴とする請求項1に記載のフィレットローリング加工装置。
【請求項3】
前記クランクシャフトはそれぞれフィレット溝部が設けられたクランクピン及びクランクジャーナルを備えてなり、前記クランプアームは前記フィレット溝部毎に設けられていることを特徴とする請求項2に記載のフィレットローリング加工装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記フィレットローラがフィレット溝部に印加する圧力値及び前記クランクシャフトの回転速度の少なくとも一方を時間の経過と共に連続的に変化させることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のフィレットローリング加工装置。
【請求項5】
クランクシャフトに設けられたフィレット溝部にフィレットローラを圧接しながら、前記クランクシャフトを回転することによりフィレットローリング加工を行うフィレットローリング加工方法であって、
第1の圧力値で前記フィレットローラを前記フィレット溝部に圧接しながら、第1の回転速度で前記クランクシャフトを回転駆動することにより、前記フィレット溝部の表面上に存在する凹凸を平滑化する平滑化工程と、
前記第1の圧力値より大きい第2の圧力値で前記フィレットローラを前記フィレット溝部に圧接しながら、前記第1の回転速度より大きい第2の回転速度で前記クランクシャフトを回転駆動することにより、前記フィレット溝部にフィレットローリング加工を施す加工工程と
を備えたことを特徴とするフィレットローリング加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−106310(P2012−106310A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256760(P2010−256760)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】