説明

フィードバック型アクティブ消音装置及び自動販売機

【課題】 マイクロホンの出力信号をA/D変換するA/Dコンバータが飽和した場合に、高周波を含む制御音が出力されるのを抑制することを目的とする。
【解決手段】 騒音を検出するマイクロホン24と、騒音を抑制するための制御音を出力するスピーカ23と、マイクロホン24の出力をA/D変換して検出信号ejを生成するA/Dコンバータ32と、検出信号ejから制御音の成分を除去した参照信号xjを求める参照信号生成部102と、参照信号xjに基づいてスピーカ23を駆動するための制御音信号ujを生成する騒音制御フィルタ103とを備えたフィードバック型アクティブ消音装置において、検出信号ejをA/Dコンバータ32の飽和レベル以下の閾値a1と比較して判定信号を生成する騒音レベル判定部106と、判定信号に基づいて、制御音の出力を抑制する出力制御部107とを備え、過大な騒音の検出時に不要な制御音が出力されるのを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィードバック型アクティブ消音装置及びこれを利用した自動販売機に係る。さらに詳しくは、騒音を打ち消すための制御音をフィードバック制御により生成するアクティブ消音装置の改良に関する。特に、自動販売機のコンプレッサ等の騒音抑制に好適なフィードバック型アクティブ消音装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
騒音をマイクロホンで検出し、振幅が同一で逆位相となる制御音をスピーカから出力することによって騒音を打ち消すアクティブ消音装置(ANC:Active Noise Controller)が従来から知られている。このようなアクティブ消音装置の制御方式は、フィードフォワード型とフィードバック型に分類されるが、フィードバック型は十分な消音を実現するための調整が難しく、従来のアクティブ消音装置は、そのほとんどがフィードフォワード型を採用している。
【0003】
フィードフォワード型アクティブ消音装置は、騒音伝搬路の上流に配置されたマイクロホン(参照マイク)が騒音を検出し、下流に配置されたスピーカが制御音を出力して上記騒音を打ち消す装置である。つまり、フィードフォワード型では、マイクロホンが参照信号として検出した騒音そのものをスピーカからの制御音で打ち消している。このため、比較的良好な消音効果が得られるという長所がある一方で、騒音が一方向に伝搬し、マイクロホンとスピーカとの間に十分な距離を確保できる伝搬経路にしか適用できないという短所があった。
【0004】
これに対し、フィードバック型アクティブ消音装置は、騒音及び制御音を含む環境音をマイクロホン(エラーマイク)のエラー信号として検出し、このエラー信号に含まれる制御音の成分を演算によって除去して参照信号を求め、この参照信号に基づいて制御音を決定している。このため、騒音の伝搬経路に関わらず適用できるという長所があるが、周期的な騒音でなければ、消音効果を得ることができないという短所があった。
【0005】
また、参照信号から制御音を生成するフィルタに適応フィルタを用いるアクティブ消音装置が提案されている(例えば、特許文献1)。このような適応型アクティブ消音装置では、参照信号を制御音信号に変換するフィルタの伝達係数を自動更新させることによって、騒音源の変化や伝播特性の変化に対応するように学習させることができる。このような適応型アクティブ消音装置では、上記フィルタ機能が、DSP(Digital Signal Processor)を利用したデジタル処理として実現され、マイクロホンの出力は、A/D変換された後にDSPへ入力される。
【0006】
一般に、缶入り飲料などを販売する自動販売機は、温度調整用コンプレッサーや、冷却用ファンなどを内蔵しており、静かな環境下に設置された場合には、これらの内蔵機器が騒音源になりうる。そこで、アクティブ消音装置を搭載して、内蔵機器の騒音を抑制することが考えられる。これらの内蔵機器からの騒音は、その駆動状態に応じて変化するが、駆動状態が一定の期間には周期的な騒音が発生している。従って、この様な騒音の抑制には、フィードバック型アクティブ消音を適用することができ、また、適応フィルタを用いれば、駆動状態の変化や、周辺環境の変化にも対応することができ、良好な消音効果を得ることができると考えられる。
【0007】
ところが、上記マイクロホンは、内蔵機器からの騒音だけでなく、商品購入時や商品補充時における騒音や、人の話し声のような自動販売機外からの騒音も検出している。例えば、商品購入時には、缶入り飲料が自動販売機内で落下することにより大きな騒音が発生し、また、商品補充時には、扉を開閉したり、商品を投入することにより大きな騒音が発生する。この様な騒音の強度はコンプレッサーなどが発する騒音よりも遙かに大きいため、マイクロホンの出力をA/D変換しているA/Dコンバータが飽和し、消音に寄与しない高周波を含む制御音がスピーカから出力されてしまうという問題があった。
【0008】
このような大きな騒音が入力されても飽和しないA/Dコンバータを採用すれば、このような問題を解決することができるが、コストアップや消音効果の低下を招く。商品購入時の騒音などは、コンプレッサなどの内蔵機器の騒音のような周期性がなく、フィードバック型アクティブ消音による消音効果は期待できない。このため、消音対象ではない騒音の強度を考慮して、アクティブ消音装置のA/Dコンバータの性能を決定することは望ましくない。
【特許文献1】特開平4−247497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のアクティブ消音装置では、A/Dコンバータを飽和させる過大な騒音が、マイクロホンによって検出された場合に、消音に寄与しない高周波成分を含む制御音が出力されてしまうという問題があった。また、フィードバック型アクティブ消音装置は、周期性のない騒音を抑制することはできず、このような騒音を検出した場合にも不要な制御音が出力され、当該アクティブ消音装置が新たな騒音源になってしまうという問題があった。
【0010】
特に、自動販売機は、コンプレッサなどの内蔵機器が周期的な騒音を発生させる一方で、商品購入時や商品補充時には周期性のない大きな騒音が発生する。また、自動販売機外の騒音を予測することはできない。このため、自動販売機内の周期的な騒音をフィードバック型アクティブ消音によって抑制する場合、マイクロホンによって過大な音が検出され、A/Dコンバータが飽和すれば、高周波成分を含む不要な制御音が出力されてしまうという問題があった。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、過大な騒音を検出することにより、フィードバック型アクティブ消音装置から不要な制御音が出力されるのを防止することを目的とする。特に、マイクロホンの出力をA/D変換するA/Dコンバータが飽和することによって、消音に寄与しない高周波を含む制御音が、フィードバック型アクティブ消音装置から出力されるのを防止することを目的とする。
【0012】
また、フィードバック型アクティブ消音により、自動販売機内で発生する周期的な騒音を抑制している自動販売機において、消音対象である周期的な騒音よりも大きく、周期性のない騒音が発生した場合に、不要な制御音が出力されるのを防止することを目的とする。特に、商品購入時や商品補充時の騒音によって、あるいは、外部からの騒音によって、自動販売機から不要な制御音が出力されるのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の本発明によるフィードバック型アクティブ消音装置は、騒音を検出するマイクロホンと、上記騒音を抑制するための制御音を出力するスピーカと、上記マイクロホンの出力をA/D変換して検出信号を生成するA/Dコンバータと、上記検出信号から上記制御音の成分を除去した参照信号を求める参照信号生成手段と、上記参照信号に基づいて上記スピーカを駆動するための制御音信号を生成する制御音信号生成手段とを備えたフィードバック型アクティブ消音装置において、上記検出信号を上記A/Dコンバータの飽和レベル以下の閾値と比較して判定信号を生成する騒音レベル判定手段と、上記判定信号に基づいて、上記制御音の出力を抑制する制御音抑制手段とを備えて構成される。
【0014】
このフィードバック型アクティブ消音装置では、A/D変換後の検出信号から制御音の成分を除去した参照信号に基づいて、騒音を抑制するための制御音信号が生成される。その際、検出信号をA/Dコンバータの飽和レベル以下の閾値と比較し、この比較結果に基づいて、制御音の出力を抑制している。騒音の強度レベルがA/Dコンバータの飽和レベルを越えると、消音に寄与しない高周波を含む制御音が出力される。このような制御音の出力を抑制することによって、過大な騒音が検出された場合に、フィードバック型アクティブ消音装置が騒音源となるのを防止することができる。
【0015】
なお、制御音抑制手段は、スピーカから制御音が出力されるのを抑制する手段であればよい。例えば、制御音信号を減衰させる減衰手段であってもよいし、参照信号を減衰させる減衰手段であってもよいし、制御音信号生成手段を制御し、制御音の強度レベルを低下させる手段であってもよい。また、制御音抑制手段による制御音の出力の抑制には、制御音の遮断も含まれている。
【0016】
第2の本発明によるフィードバック型アクティブ消音装置は、上記構成に加えて、上記制御音抑制手段が、上記判定信号に基づいて上記制御音の出力を遮断し、上記騒音レベル判定手段が、上記検出信号が第1閾値を越えた場合に、上記検出信号が第1閾値以下の第2閾値を下回っている状態が所定時間継続するまで上記判定信号を出力するように構成される。
【0017】
この様な構成によれば、検出信号が第1閾値を越えた場合に、制御音の出力が遮断され、第2閾値を下回っている状態が所定時間継続していた場合には、制御音の出力が再開される。このため、断続的に発生する騒音や、第1閾値をまたいで強度レベルが変動する騒音が検出された場合に、制御音のオンオフが繰り返されるのを防止することができる。スピーカは出力の遮断時又は再開時に不要音を出力するため、制御音の遮断及び再開を繰り返さないように構成することにより、このような不要音が繰り返し出力されるのを防止することができる。なお、第2閾値は第1閾値以下であればよく、両者は異なる値であってもよいし、同じ値であってもよい。
【0018】
第3の本発明によるフィードバック型アクティブ消音装置は、上記構成に加えて、上記制御音信号生成手段が、伝達係数を保持する伝達係数記憶手段と、上記伝達係数を用いて、上記参照信号を上記制御音信号に変換する騒音制御フィルタと、上記検出信号に基づいて上記伝達係数を更新する係数更新手段とを備え、上記判定信号に基づいて、上記伝達係数を初期化するように構成される。
【0019】
制御音信号生成手段に適応フィルタを採用し、検出信号に基づいて伝達係数を更新している場合、過大な騒音の発生時に望ましくない学習を行ってしまう。すなわち、騒音の強度レベルが第1閾値を越える強度レベルに至って判定信号が出力された場合、判定信号の出力直前に伝達係数の更新が行われることにより、伝達係数が望ましくない値になってしまう。このため、判定信号に基づいて伝達係数を初期化することにより、その後に消音動作を再開させた場合に、望ましくない制御音が出力されるのを防止することができる。
【0020】
第4の本発明による自動販売機は、温度調節用のコンプレッサと、上記コンプレッサの騒音を抑制するためのフィードバック型アクティブ消音装置とを備え、上記フィードバック型アクティブ消音装置が、騒音を検出するマイクロホンと、上記騒音を抑制するための制御音を出力するスピーカと、上記マイクロホンの出力をA/D変換して検出信号を生成するA/Dコンバータと、上記検出信号から上記制御音の成分を除去した参照信号を求める参照信号生成手段と、上記参照信号に基づいて、上記スピーカを駆動するための制御音信号を生成する制御音信号生成手段とを有する自動販売機において、上記検出信号を上記コンプレッサの騒音レベルを越え、かつ、上記A/Dコンバータの飽和レベル以下となる閾値と比較して判定信号を生成する騒音レベル判定手段と、上記判定信号に基づいて、上記制御音の出力を抑制する制御音抑制手段とを備えて構成される。
【0021】
この様な構成により、コンプレッサから発生する騒音を効果的に抑制する一方、A/Dコンバータの飽和レベルを越える過大な騒音が発生した場合に不要な制御音が出力されるのを抑制することができる。
【0022】
第5の本発明による自動販売機は、上記構成に加えて、上記コンプレッサは、筐体内に収容され、上記マイクロホンは、上記筐体外の騒音を検出するように構成される。
【0023】
第6の本発明による自動販売機は、温度調節用のコンプレッサと、上記コンプレッサの騒音を抑制するためのフィードバック型アクティブ消音装置とを備え、上記フィードバック型アクティブ消音装置が、騒音を検出するマイクロホンと、上記騒音を抑制するための制御音を出力するスピーカと、上記マイクロホンの出力をA/D変換して検出信号を生成するA/Dコンバータと、上記検出信号から上記制御音の成分を除去した参照信号を求める参照信号生成手段と、上記参照信号に基づいて上記スピーカを駆動するための制御音信号を生成する制御音信号生成手段とを備えた自動販売機において、人為的操作を検出する操作検出手段と、上記操作検出手段による検出結果に基づいて、上記制御音の出力を抑制する制御音抑制手段とを備えて構成される。
【0024】
この様な構成によれば、人為的操作に起因して不要な制御音が出力されるのを抑制することができる。すなわち、人為的操作により過大な騒音が発生し、A/Dコンバータを飽和させ、消音に寄与しない高周波を含む制御音が生成されるのを抑制することができる。例えば、商品購入者の操作や、商品補充などを行う管理者の操作によって過大な騒音が発生する場合に、当該騒音の発生を予測して不要な制御音の出力を抑制することができる。
【0025】
第7の本発明による自動販売機は、上記構成に加えて、上記操作検出手段が、商品購入のための操作入力を検出するように構成される。この様な構成によれば、商品購入者による商品選択や代金投入などの操作に基づいて制御音を抑制することができるため、不要な制御音の出力を早期に、あるいは、確実に抑制することができる。
【0026】
第8の本発明による自動販売機は、上記構成に加えて、上記制御音抑制手段が、上記操作検出手段による検出結果に基づいて、一定時間、上記制御音の出力を抑制するように構成される。商品購入者の操作によって発生する騒音は、その発生期間が予測可能であることから、操作検出時から一定時間、上記制御音の出力を抑制することによって、簡単な構成により、不要な制御音が出力されるのを抑制することができる。
【0027】
第9の本発明による自動販売機は、上記構成に加えて、上記検出信号を閾値と比較して判定信号を生成する騒音レベル判定手段を備え、上記制御音抑制手段が、上記操作検出手段による検出結果に基づいて上記制御音の抑制を開始し、上記判定信号に基づいて上記制御音の抑制を終了するように構成される。この様な構成により、人為的操作を検出した場合に制御音の抑制を開始し、騒音の強度レベルに基づいて制御音の抑制を終了することができる。このため、騒音の発生時間に応じて、制御音の抑制時間を異ならせることができる。
【0028】
第10の本発明による自動販売機は、上記構成に加えて、上記操作検出手段が、商品補充用開閉扉の開放状態を検出し、上記制御音抑制手段は、上記商品補充用開閉扉が開放状態の間、上記制御音の出力を抑制するように構成される。自動販売機の管理者が、商品の補充などを行う作業時間を予測することは困難であることから、商品補充用開閉扉の開放期間に応じて制御音を抑制することによって、簡単な構成により、不要な制御音が出力されるのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によるフィードバック型アクティブ消音装置は、騒音の検出信号をA/Dコンバータの飽和レベル以下の閾値と比較し、この比較結果に基づいて、制御音の出力を抑制している。このため、過大な騒音が検出された場合に、マイクロホンの出力をA/D変換しているA/Dコンバータが飽和し、消音に寄与しない高周波を含む制御音が出力されるのを抑制することができる。
【0030】
また、本発明によるフィードバック型アクティブ消音装置は、検出信号が閾値を越えれば制御音の出力が遮断され、第2閾値を下回っている状態が所定時間継続していた場合に、制御音の出力が再開される。このため、出力の遮断又は再開に伴ってスピーカから出力される不要音が、繰返し出力されるのを抑制することができる。
【0031】
また、本発明による自動販売機は、フィードバック型アクティブ消音装置を利用した制御音の出力を人為的操作の検出結果に基づいて抑制している。このため、簡単な構成により、不要な制御音の出力を抑制することができる。また、過大な騒音が発生することを早期に、あるいは、確実に検知して、制御音の出力を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
実施の形態1.
まず、本発明の実施の形態1によるフィードバック型アクティブ消音装置が搭載された自動販売機について、図1〜図3を用いて以下に説明する。本実施の形態によるフィードバック型アクティブ消音装置は、この自動販売機内で発生する騒音を消音するのに用いられる。
【0033】
<自動販売機>
図1(a)及び(b)は、本発明の実施の形態1によるフィードバック型アクティブ消音装置を備えた自動販売機の概略構成の一例を示した図である。図1(a)には、自動販売機1を正面から見た様子が示され、図1(b)には、側面から見た様子が示されている。また、図2は、図1の自動販売機1の開閉扉3を開いた状態を示した図である。また、図3は、図1の自動販売機1の側断面図である。この自動販売機1は、缶に封入された飲料を商品として販売する自動販売機であり、縦長の直方体形状からなる筐体2内に多数の商品を収容している。以下では、図1(b)における左側を前方、右側を後方として説明することとする。
【0034】
筐体2の前面には、当該前面全体を開放する前面開口2Aが形成されており、この前面開口2Aが筐体2に対して開閉可能に取り付けられた開閉扉3により覆われている。筐体2の底面には、脚部4が取り付けられている。
【0035】
開閉扉3の前面中央部には、商品を購入しようとする利用者が貨幣を投入する際に使用する貨幣投入領域5が形成されている。この貨幣投入領域5には、硬貨を投入するための硬貨投入口5Aと、紙幣を投入するための紙幣投入口5Bと、投入された貨幣の返却を指示するための返却レバー5Cと、投入された貨幣の合計金額を表示する投入金額表示部5Dが設けられている。貨幣投入後に返却レバー5Cを操作した場合、紙幣は紙幣投入口5Bから返却され、硬貨は開閉扉3の下部に形成されている硬貨返却口6から返却される。
【0036】
開閉扉3の前面上部には、商品の見本が展示されたディスプレイ領域7が形成されている。このディスプレイ領域7には、展示されている各見本に対応付けられた購入ボタン7Aが設けられており、利用者は、硬貨投入口5A又は紙幣投入口5Bから貨幣を投入した後、いずれかの購入ボタン7Aを操作することにより、その購入ボタン7Aに対応する商品の購入することができる。購入が指示された商品は、筐体2内の下部に送り出され、開閉扉3の下部に形成された横長形状の商品取出口8から取り出すことができる。
【0037】
開閉扉3の背面中央部には、前面の貨幣投入領域5の裏側に対応する位置に、貨幣処理ユニット9が設けられている。この貨幣処理ユニット9は、硬貨投入口5A及び紙幣投入口5Bから投入される貨幣を貯留するとともに、必要に応じて硬貨返却口6又は紙幣投入口5Bから貨幣を返却する処理を行うための機構である。開閉扉3の背面中央部における貨幣処理ユニット9の側方には制御ユニット10が設けられ、この制御ユニット10に備えられているプロセッサによって、この自動販売機1の動作が制御されるようになっている。
【0038】
筐体2内には、その中央部から上部にわたる領域に商品を収容するための商品収容部11が形成されており、商品収容部11内の商品を冷却するための冷却装置12が筐体2内の下部に配置されている。商品収容部11は、それぞれ縦長形状からなる冷却商品収容部11A及び加熱商品収容部11Bが左右に並べて配置されることにより形成されている。冷却商品収容部11Aの下方には、当該冷却商品収容部11A内の空気を冷却するための冷却器13が配置されている。一方、加熱商品収容部11Bの下方には、当該加熱商品収容部11B内の空気を加熱するための加熱器14が配置されている。筐体2内の前側には、商品収容部11から商品取出口8側へ商品を排出するための商品排出口15が形成されている。商品排出口15は複数形成されており、各商品排出口15が冷却商品収容部11A又は加熱商品収容部11Bに対応付けられている。
【0039】
冷却装置12は、冷却商品収容部11A内に収容されている商品を冷却するためのものであり、上記冷却器13の他、冷却器13へ供給される冷媒を圧縮するコンプレッサー16、圧縮された冷媒を液化させる凝縮器17、及び、コンプレッサー16や凝縮器17を冷却するための冷却ファン18などが備えられている。
【0040】
冷却器13、コンプレッサー16及び凝縮器17は、配管を介して互いに連通しており、これらの各部に冷媒を循環させることにより、冷却器13を介して冷却商品収容部11A内の空気を冷却することができる。
【0041】
開閉扉3の底部には、その両端部が開閉扉3の左右両端部の近傍に位置する横長形状の吸気口19が形成されている。一方、筐体2の背面底部には、その少なくとも一部が吸気口19に対して前後方向に対向するように、横長形状の排気口20が形成されている。筐体2内における商品収容部11の下方には仕切板21が設けられており、この仕切板21の下方の領域が、吸気口19及び排気口20を開口部として有し、筐体2内を前後方向に貫通するダクト状空間22を形成している。
【0042】
ダクト状空間22内には、冷却装置12の構成部品のうち、凝縮器17、冷却ファン18及びコンプレッサー16が配置されている。一方、冷却器13は、ダクト状空間22の上方に配置されている。
【0043】
冷却装置12が駆動されているときには、冷却ファン18が回転駆動されることにより、機外の空気が吸気口19から機内に送り込まれる。そして、機内に送り込まれた空気が、ダクト状空間22内において凝縮器17及びコンプレッサー16の周囲を通り、排気口20から機外へ送り出されることにより、凝縮器17及びコンプレッサー16が冷却される。
【0044】
筐体2の前面開口2Aを覆う開閉扉3の下部には、吸気口19の上方であって商品取出口8の下方となる位置に、2つの開口部25が左右対称に形成されている。2つの開口部25は、それぞれ左右方向に延びる複数のスリットからなり、これらの複数のスリットが互いに平行となるように上下方向に並べて形成されることにより構成されている。各開口部25は、開閉扉3において冷却装置12の前方に対向する部分に形成されている。各開口部25には、それぞれスピーカ23が設けられ、各スピーカ23が前方に向けて配置されている。
【0045】
2つのスピーカ23は、開閉扉3内に形成された共通の内部空間26内に配置されている。すなわち、2つの開口部25が開閉扉3の内部空間26を介して連通しており、これらの開口部25にそれぞれ対向するようにスピーカ23が配置されることにより、2つのスピーカ23の背面側を連通する閉空間が形成されている。
【0046】
開閉扉3の前面には、自動販売機1内で発生した騒音を入力するためのマイクロホン24が設けられている。このマイクロホン24は、開閉扉3の左右方向中央部を通って上下方向に延びる中心線上における吸気口19の上方に配置されている。このように、マイクロホン24を開閉扉3の左右方向中央部に配置するとともに、2つのスピーカ23を開閉扉2内において左右対称に配置することにより、各スピーカ23とマイクロホン24の距離を同一にすることができる。
【0047】
筐体2内の冷却装置12から発生する駆動音は、吸気口19から機外に漏洩し、筐体2の外部からマイクロホン24に入力される。また、2つのスピーカ23から出力される音は、それぞれ対向する開口部25から機外に漏洩し、筐体2の外部からマイク24に入力される。
【0048】
なお、本実施の形態では、スピーカ23を前方に向けて配置させた自動販売機の例について説明するが、スピーカ23は後方に向けて、つまり、内部空間26に向けて配置することもできる。
【0049】
次に、本発明の実施の形態1によるフィードバック型アクティブ消音装置について、以下に説明する。このフィードバック型アクティブ消音装置は、自動販売機1内の冷却装置12から発生した駆動音をスピーカ23から出力する制御音で打ち消すことによって消音するアクティブノイズコントローラである。
【0050】
<アクティブノイズコントローラ>
図4は、図1の自動販売機1の要部における構成例を示したブロック図であり、自動販売機1内に設けられたフィードバック型のアクティブ消音装置30が示されている。このアクティブ消音装置30は、マイクロホン24及びスピーカ23の他に、マイクアンプ31、A/Dコンバータ32、DSP33、D/Aコンバータ34及びスピーカアンプ35により構成される。マイクアンプ31、A/Dコンバータ32、DSP33、D/Aコンバータ34及びスピーカアンプ35は、例えば、開閉扉3の制御ユニット10内に設けられている。
【0051】
マイクロホン24は、騒音を検出する入力手段である。マイクロホン24の出力信号はマイクアンプ31で増幅された後、A/Dコンバータ32へ入力される。A/Dコンバータ32は、増幅されたマイクロホン24の出力信号をデジタル信号に変換し、検出信号としてDSP33へ出力するアナログ−デジタル変換回路である。このA/Dコンバータ32では、消音対象とする騒音の周波数よりも十分に高いサンプリングレート、例えば、3000Hzで検出信号のサンプリングが行われている。
【0052】
スピーカ23は、騒音を干渉によって打ち消すための制御音を出力する出力手段である。DSP33によって生成された制御音信号は、D/Aコンバータでアナログ信号に変換され、スピーカアンプ35へ出力される。スピーカ23は、スピーカアンプ35によって増幅された制御音信号に基づいて制御音を出力する。
【0053】
DSP33は、アクティブ制御による消音処理回路であり、マイクロホン24からの検出信号ejに基づいて、騒音を打ち消すための制御音信号ujを生成している。アクティブ制御による消音とは、騒音源が発する騒音に対して別の音源(2次音源)から音波を出力し、音波間の干渉によって騒音を低減させる方法である。このDSP33では、例えば、所定の制御プログラムに従って消音処理が実行される。
【0054】
<DSP>
図5は、図4のDSP33の構成例を示したブロック図である。このDSP33は、帰還フィルタ101、参照信号生成部102、騒音制御フィルタ103、2次フィルタ104、係数更新部105、騒音レベル判定部106、出力制御部107及び係数初期化部108により構成される。
【0055】
帰還フィルタ101は、制御音信号ujから検出信号ejに含まれる制御音の成分を求めるフィルタ処理部である。この帰還フィルタ101は、DSP33内で生成された制御音信号ujが、検出信号ejとして帰還されるまでの特性、つまり、制御音信号ujがスピーカ23から制御音として空間に放出され、さらにマイクロホン24で検出信号ejとして検出されるまでの伝達特性に近い伝達係数を有している。この伝達係数を用いて演算処理を行うことによって、制御音信号ujから検出信号ejに含まれる制御音の成分を求めている。
【0056】
参照信号生成部102は、検出信号ej中に含まれる制御音の成分を除去することによって、参照信号xjを求める演算処理部である。ここでは、マイクロホン24で検出された検出信号ejから、帰還フィルタ101で求められた制御音の成分を減算する減算処理部として構成され、検出信号ejから制御音の成分を除去した参照信号xjを生成している。
【0057】
騒音制御フィルタ103は、参照信号xjから制御音信号ujを求めるフィルタ処理部である。騒音制御フィルタ103は、伝達係数Wを保持する伝達係数記憶部113を備え、参照信号生成部102からの参照信号xjは、所定の伝達係数Wに基づいて、制御音信号ujに変換される。この騒音制御フィルタ103では、騒音が制御音によって打ち消されるように、つまり、検出信号ejが小さくなるように、参照信号Xjの振幅及び位相を調整して制御音信号ujとして出力している。
【0058】
検出信号ejは、マイクロホン23によって検出された騒音及び制御音を含む信号であるため、この検出信号ejから制御音信号ujを求めるDSP33は、フィードバック型のアクティブ消音装置である。このため、周期性のある騒音であれば、適切な伝達関数を用いることによって良好な消音効果を得ることができる。一方、周期性のない騒音は打ち消すことができず、消音に寄与しない不要な制御音を出力してしまう場合がある。
【0059】
ここで、帰還フィルタ101の伝達係数は、例えば、アクティブ消音装置30の電源投入時に同定され、その後の稼働中は固定されているものとする。これに対し、騒音制御フィルタ103は、伝達係数Wが自動更新される適応フィルタであり、伝達係数Wは一定の時間間隔で更新されているものとする。なお、伝達係数とは、入力信号の振幅及び位相を調整するための係数であり、例えば、周波数成分ごとに振幅及び位相を調整する係数であってもよい。
【0060】
2次フィルタ104は、マイクロホン24で検出された騒音成分をスピーカ23の位置における値に変換するためのフィルタであり、帰還フィルタ101に対応するフィルタ処理部である。具体的には、帰還フィルタ101の伝達特性と同じ伝達関数のフィルタを用いることができる。この2次フィルタ104では、参照信号生成部102からの参照信号xjを変換して係数更新部105へ出力する動作が行われる。
【0061】
係数更新部105は、検出信号ejと、2次フィルタ104による変換後の参照信号Xjとに基づいて、騒音制御フィルタ103内の伝達係数Wを更新する動作を行っている。この更新処理は、一定の時間間隔で行われ、検出信号ejの音圧レベルが小さくなるように伝達係数Wが最適化される。
【0062】
具体的には、更新前の伝達係数Wに対する更新後の伝達係数をWj+1として、関係式Wj+1=W+μ×C(z)xj×ejに基づいて伝達係数が更新される。この関係式におけるμは、ステップサイズパラメータと呼ばれる定数である。一般に、パラメータμを小さくすると、伝達係数Wが最適化されるまでに要する時間が長くなる。伝達係数Wを更新するレートは、A/Dコンバータ32が検出信号をA/D変換する際のサンプリングレート未満であるものとする。
【0063】
騒音レベル判定部106は、マイクロホン24からの検出信号ejを所定の閾値a1と比較し、その比較結果を判定信号として出力制御部107及び係数初期化部108へ出力する。上記閾値a1は、A/Dコンバータ32が飽和状態となる強度レベルよりも小さな値であり、検出信号ejの強度レベル、例えば振幅レベルがこの閾値a1を越えると判定信号を出力する。この騒音レベル判定部106による判定処理は、A/Dコンバータ32のサンプリングレート以上で行われ、各サンプルリングデータごとに閾値比較が行われるものとする。
【0064】
出力制御部107は、騒音レベル判定部106による比較結果に基づいて、制御音信号ujの出力を遮断している。具体的には、検出信号ejの強度レベルが閾値a1よりも高くなり、騒音レベル判定部106が判定信号を出力している場合に、制御音信号ujの出力を遮断し、騒音レベル判定部106から判定信号が出力されなくなると、制御音信号ujの出力を再開する。
【0065】
ここで、騒音レベル判定部106は、検出信号ejの強度レベルが第1閾値a1よりも高くなった場合には、直ちに判定信号を出力し、制御音信号ujの出力を遮断させる。一方、判定信号の出力中は、強度レベルが第2閾値a2以下となる状態が所定の判定時間t1だけ継続しなければ、判定信号の出力を終了させない。つまり、検出信号ejの強度レベルが第2閾値a2を下回っても、判定時間t1未満の短時間だけであれば、判定信号の出力は継続される。
【0066】
スピーカ23は入力信号の遮断又は再開時に、例えば「ブツッ」というような音を出力してしまう。このため、出力制御部107が制御音信号ujのオンオフを繰り返すと、スピーカ23が騒音源になってしまう。このため、騒音レベル判定部106が、判定時間t1を用いて判定することにより、過大な騒音が検出された場合には、制御音信号ujを直ちに遮断する一方、断続的な騒音や、第2閾値a2をまたいで変動する騒音が検出された場合には、遮断状態を維持させ、出力制御部107がオンオフを繰り返すのを防止している。
【0067】
なお、第2閾値は閾値a1と同じ値であってもよい。また、判定時間t1は、例えば、缶入り飲料が自動販売機1内で落下して静止するまでに要する時間を考慮して予め定めることが望ましい。
【0068】
缶入り飲料などを販売する自動販売機の場合、筐体内に収容している温度調整用のコンプレッサや冷却用ファンから比較的小音量の騒音が発生している。このような騒音は、回転動作に伴って発生する周期性を有する騒音であるため、フィードバック型アクティブ消音によって良好な消音効果が得られる。
【0069】
一方、商品購入時に缶入り飲料が落下する音は周期性がなく、消音効果がほとんど期待できない。それだけでなく、この落下音は、コンプレッサなどの騒音に比べて遙かに大音量であることから、騒音の強度レベルがA/Dコンバータ32を飽和させてしまう。騒音の強度レベルがA/Dコンバータ32の入力レンジを越えると、騒音抑制フィルタ103は、消音に寄与しない高周波成分を含む制御音信号ujを生成し、スピーカ23が騒音源となる。
【0070】
このため、騒音レベル判定部106が、検出信号ejに基づいて判定信号を生成し、出力制御部107が、この判定信号に基づいて制御音信号ujの出力を遮断することにより、消音に寄与しない高周波成分を含む不要な制御音がスピーカ23から出力されるのを防止することができる。
【0071】
係数初期化部108は、判定信号に基づいて、騒音制御フィルタ103内の伝達関数Wを初期化する。過大な騒音が検出され、判定信号が出力された場合、判定信号の出力直前に伝達係数Wの更新が行われることにより、伝達係数Wが望ましくない値になっている場合がある。このため、判定信号に基づいて伝達係数を初期化することにより、その後に消音動作を再開させた場合に、望ましくない制御音が出力されるのを防止することができる。なお、伝達関数Wの初期化は、判定信号が出力されるたびに行われればよく、判定信号の出力開始時でもよいし、出力終了時でもよい。
【0072】
図6(a)及び(b)は、図4のアクティブ消音装置30の動作例を示した図である。図6(a)には、横軸を時間軸とし、縦軸を信号レベルとしてマイクアンプ31の出力信号の一例が示されている。図6(b)には、横軸を時間軸としてアクティブノイズコントロール動作、つまり、出力制御部107のオン又はオフの状態が示されている。なお、ここでは、閾値a1及びa2が等しい場合について説明する。
【0073】
マイクアンプ31の出力信号の振幅レベルが、a1を上回ると、出力制御部107は、オン状態からオフ状態に切り替えられる。すなわち、制御音信号ujの出力レベルを低下させる動作が行われる。ここで、第1閾値a1は、A/Dコンバータ32が飽和状態となる信号強度の下限値bよりも小さな値となっている。
【0074】
アクティブノイズコントロールのオフ状態は、マイクアンプ31の出力信号の振幅レベルが少なくともa1(=a2)以下となってから判定時間t1が経過するまで継続され、判定時間t1が経過すると、オン状態に自動的に切り替えられる。すなわち、振幅レベルがa1よりも高くなってオフ状態に切り替えられた後、信号レベルがa1以下となった場合に、信号レベルがa1以下の状態が判定時間t1以上継続した場合に、オン状態に切り替えられる。
【0075】
一方、信号レベルがa1以下となってから判定時間t1が経過するまでに、信号レベルが再度、a1を上回ると(経過時間t2<t1)、出力制御部107はオン状態に切り替えられない。この様に構成することにより、信号レベルがa1よりも高くなってアクティブノイズコントロールをオフさせた際に、信号レベルがa1以下の状態が判定時間t1以上継続した場合に元のオン状態に戻されるので、アクティブノイズコントロールのオン又はオフが頻繁に行われるのを抑制することができ、また、過大な騒音が断続的に検出されている場合に制御音の出力が再開されるのを抑制することができる。
【0076】
本実施の形態によれば、検出信号ejの強度レベルと閾値a1との比較結果から強度レベルが閾値a1よりも高くなったことが検知されると、制御音信号ujの出力レベルを自動的に低下させるので、A/Dコンバータ32を飽和させる騒音が検出された場合に、消音に寄与しない高周波が制御音として出力されるのを抑制することができる。また、検出信号ejの強度レベルに基づいて制御音信号ujの出力を遮断しているので、周期性のない過大な騒音がマイクロホン24に入力された場合に、過大な制御音が出力されるのを抑制することができる。
【0077】
なお、本実施の形態では、出力制御部107が、騒音制御フィルタ103から出力された制御音信号ujを遮断することにより、不要な制御音が出力されるのを抑制する場合の例について説明したが、本発明はこの様な場合には限定されない。例えば、参照信号xjを遮断するものであってもよいし、騒音制御フィルタ103による制御音信号ujの出力動作を制御するものであってもよい。
【0078】
また、本実施の形態では、出力制御部107が、制御音信号ujの出力を遮断する場合の例について説明したが、本発明はこの様な場合に限定されない。すなわち、判定信号に基づいて、制御音の出力を抑制するものであればよく、制御音の出力を完全に遮断するものには限定されない。例えば、出力制御部107は、制御音信号ujを減衰させ、制御音の音量を低下させる減衰手段であってもよい。
【0079】
実施の形態2.
実施の形態1では、騒音レベル判定部106による比較結果に基づいて、出力制御部107が制御音信号ujの出力を遮断し、係数初期化部108が、騒音制御フィルタ103内の伝達係数wを初期化する場合の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、出力制御部107がオペレータによる操作入力に基づいて制御音信号ujの出力を遮断する場合について説明する。
【0080】
図7は、本発明の実施の形態2によるフィードバック型アクティブ消音装置を備えた自動販売機の概略構成の一例を示した図であり、自動販売機1の商品補充用の開閉扉3を開いた状態が示されている。この自動販売機1には、開閉扉3の背面中央部にDSPリセットスイッチ42が設けられ、背面下部に開閉検出スイッチ41が設けられている。
【0081】
開閉検出スイッチ41は、開閉扉3の開閉を検出するための検出装置である。DSPリセットスイッチ42は、自動販売機1の設置時などに、DSP33を初期化するための入力装置である。このDSPリセットスイッチ42を操作して開閉扉3を閉めると、開閉扉3が閉まってから一定時間が経過した後に、DSP33の初期化処理が開始される。
【0082】
DSP33の初期化処理は、例えば、騒音制御フィルタ103が保持している伝達係数Wが初期化されるとともに、帰還フィルタ101の伝達係数を同定する動作が行われる。帰還フィルタ101の伝達係数の同定は、スピーカ23から白色雑音を出力することによって行われる。
【0083】
図8は、図7の自動販売機1の要部における構成例を示したブロック図であり、DSP33の他の構成例が示されている。このDSP33を図5の場合と比較すれば、操作検知部43を備えている点で異なる。
【0084】
操作検知部43は、購入者や管理者などによる人為的な操作入力を検知する検知手段であり、例えば、開閉扉3の開閉、DSPリセットスイッチ42、購入ボタン7A、返却レバー5Cの操作、硬貨の投入などが検知される。
【0085】
出力制御部107では、操作検知部43による検知結果に基づいて、制御音信号ujの出力を遮断する動作が行われる。例えば、商品を補充するために、管理者が開閉扉3を開けた場合に、開閉扉3が開いたことを検知して制御音信号ujが遮断される。また、商品を購入するために、購入ボタン7Aが操作された場合には、購入ボタン7Aの操作を検知して制御音信号ujが遮断される。また、商品購入のために硬貨が硬貨投入口5Aに投入されたことを検知して制御音信号ujが遮断される。
【0086】
一般に、自動販売機1では、開閉扉3の開閉時、購入ボタン7Aの操作によって缶入り飲料が自動販売機1内で落下する際や、返却レバー5Cの操作によって硬貨が硬貨返却口6から返却される際には、比較的大きな音が発生する。この様な人為的操作によって、その後に大きな音が発生することが想定される場合には、操作入力の検知結果に基づいて制御音信号ujの出力を遮断させている。
【0087】
操作検知部43の出力に基づく制御音信号ujの遮断は、騒音が発生する前に、その発生を予測するものである。このため、操作検知部43の出力に基づいて、出力制御部107が、制御音の出力を遮断する場合であっても、係数更新部105が伝達係数Wの更新を停止していれば、係数初期化部108が伝達係数Wを初期化する必要はない。
【0088】
出力制御部107は、操作検知部43が人為的操作を検出することによって、制御音信号ujの出力を遮断した場合、その後、一定時間が経過すれば、制御音信号ujの出力を再開する。人為的操作による騒音の発生は、発生時間が予め想定できることから、一定時間だけ遮断した後は、制御音信号ujの出力を再開させることができる。
【0089】
ただし、開閉扉3の開閉検出については、開操作や解錠操作が検出された場合に、制御音信号ujの出力を直ちに遮断する一方、閉操作が検出されてから一定時間が経過した場合に、制御音信号ujの出力を再開するようにしてもよい。
【0090】
実施の形態3.
実施の形態2では、人為的操作の検出時から一定時間が経過するまで、制御音信号ujの出力を遮断する場合について説明した。これに対し、本実施の形態では、人為的操作の検出時に制御音信号ujの遮断を開始するが、制御音信号ujの出力の再開は、検出信号ejの強度レベルに基づいて行う場合について説明する。
【0091】
図9は、本発明の実施の形態3による自動販売機1の要部における構成例を示したブロック図であり、DSP33の更に他の構成例が示されている。このDSP33を図8の場合と比較すれば、操作検知部43の出力が騒音レベル判定部106に入力されている点で異なる。
【0092】
騒音レベル判定信号106では、検出信号ejが、第1閾値a1を越えた場合における制御音信号ujの遮断動作や、その後の再開動作は、実施の形態1の場合と同様に行われる。一方、人為的操作が行われた場合には、操作検知部43の出力に基づいて判定信号が出力される。従って、制御音信号ujの遮断動作は、実施の形態2の場合と同様であるが、その後の再開動作は、実施の形態1の場合と同様となる。
【0093】
すなわち、人為的操作が検出された場合には、直ちに制御音信号ujの出力を遮断する。その後、一定時間内に検出信号ejのレベルが第1閾値a1を越えなければ、制御音信号ujの出力を再開する。この場合の動作は、実施の形態2と全く同様の動作となる。しかしながら、一定時間内に検出信号ejが第1閾値a1を越えれば、その後に第2閾値を下回った状態が所定の判定時間だけ継続するまで制御音信号ujの出力を遮断する。このような構成により、人為的操作が検出された場合には直ちに制御音の出力を遮断させる一方で、制御音を遮断させている時間は、騒音の発生時間に応じて変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の実施の形態1によるフィードバック型アクティブ消音装置を備えた自動販売機の概略構成の一例を示した図である。
【図2】図1の自動販売機1の開閉扉3を開いた状態を示した図である。
【図3】図1の自動販売機1の側断面図である。
【図4】図1の自動販売機1の要部における構成例を示したブロック図であり、自動販売機1内に設けられたフィードバック型のアクティブ消音装置30が示されている。
【図5】図4のDSP33の構成例を示したブロック図である。
【図6】図4のアクティブ消音装置30の動作例を示した図である。
【図7】本発明の実施の形態2によるフィードバック型アクティブ消音装置を備えた自動販売機の概略構成の一例を示した図であり、自動販売機1の商品補充用の開閉扉3を開いた状態が示されている。
【図8】図7の自動販売機1の要部における構成例を示したブロック図であり、DSP33の他の構成例が示されている。
【図9】本発明の実施の形態3による自動販売機1の要部における構成例を示したブロック図であり、DSP33の更に他の構成例が示されている。
【符号の説明】
【0095】
1 自動販売機
23 スピーカ
24 マイクロホン
30 アクティブ消音装置
31 マイクアンプ
32 A/Dコンバータ
33 DSP
34 D/Aコンバータ
35 スピーカアンプ
41 開閉検出スイッチ
42 DSPリセットスイッチ
43 操作検知部
101 帰還フィルタ
102 参照信号生成部
103 騒音制御フィルタ
104 2次フィルタ
105 係数更新部
106 騒音レベル判定部
107 出力制御部
108 係数初期化部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音を検出するマイクロホンと、上記騒音を抑制するための制御音を出力するスピーカと、上記マイクロホンの出力をA/D変換して検出信号を生成するA/Dコンバータと、上記検出信号から上記制御音の成分を除去した参照信号を求める参照信号生成手段と、上記参照信号に基づいて上記スピーカを駆動するための制御音信号を生成する制御音信号生成手段とを備えたフィードバック型アクティブ消音装置において、
上記検出信号を上記A/Dコンバータの飽和レベル以下の閾値と比較して判定信号を生成する騒音レベル判定手段と、
上記判定信号に基づいて、上記制御音の出力を抑制する制御音抑制手段とを備えたことを特徴とするフィードバック型アクティブ消音装置。
【請求項2】
上記制御音抑制手段は、上記判定信号に基づいて上記制御音の出力を遮断し、
上記騒音レベル判定手段は、上記検出信号が第1閾値を越えた場合に、上記検出信号が第1閾値以下の第2閾値を下回っている状態が所定時間継続するまで上記判定信号を出力することを特徴とする請求項1に記載のフィードバック型アクティブ消音装置。
【請求項3】
上記制御音信号生成手段は、伝達係数を保持する伝達係数記憶手段と、上記伝達係数を用いて、上記参照信号を上記制御音信号に変換する騒音制御フィルタと、上記検出信号に基づいて上記伝達係数を更新する係数更新手段とを備え、
上記判定信号に基づいて、上記伝達係数を初期化することを特徴とする請求項1に記載のフィードバック型アクティブ消音装置。
【請求項4】
温度調節用のコンプレッサと、上記コンプレッサの騒音を抑制するためのフィードバック型アクティブ消音装置とを備え、
上記フィードバック型アクティブ消音装置が、騒音を検出するマイクロホンと、上記騒音を抑制するための制御音を出力するスピーカと、上記マイクロホンの出力をA/D変換して検出信号を生成するA/Dコンバータと、上記検出信号から上記制御音の成分を除去した参照信号を求める参照信号生成手段と、上記参照信号に基づいて、上記スピーカを駆動するための制御音信号を生成する制御音信号生成手段とを有する自動販売機において、
上記検出信号を上記コンプレッサの騒音レベルを越え、かつ、上記A/Dコンバータの飽和レベル以下となる閾値と比較して判定信号を生成する騒音レベル判定手段と、
上記判定信号に基づいて、上記制御音の出力を抑制する制御音抑制手段とを備えたことを特徴とする自動販売機。
【請求項5】
上記コンプレッサは、筐体内に収容され、
上記マイクロホンは、上記筐体外の騒音を検出することを特徴とする請求項4に記載の自動販売機。
【請求項6】
温度調節用のコンプレッサと、上記コンプレッサの騒音を抑制するためのフィードバック型アクティブ消音装置とを備え、
上記フィードバック型アクティブ消音装置が、騒音を検出するマイクロホンと、上記騒音を抑制するための制御音を出力するスピーカと、上記マイクロホンの出力をA/D変換して検出信号を生成するA/Dコンバータと、上記検出信号から上記制御音の成分を除去した参照信号を求める参照信号生成手段と、上記参照信号に基づいて上記スピーカを駆動するための制御音信号を生成する制御音信号生成手段とを備えた自動販売機において、
人為的操作を検出する操作検出手段と、
上記操作検出手段による検出結果に基づいて、上記制御音の出力を抑制する制御音抑制手段とを備えたことを特徴とする自動販売機。
【請求項7】
上記操作検出手段が、商品購入のための操作入力を検出することを特徴とする請求項6記載の自動販売機。
【請求項8】
上記制御音抑制手段は、上記操作検出手段による検出結果に基づいて、一定時間、上記制御音の出力を抑制することを特徴とする請求項7に記載の自動販売機。
【請求項9】
上記検出信号を閾値と比較して判定信号を生成する騒音レベル判定手段を備え、
上記制御音抑制手段は、上記操作検出手段による検出結果に基づいて上記制御音の抑制を開始し、上記判定信号に基づいて上記制御音の抑制を終了することを特徴とする請求項8に記載の自動販売機。
【請求項10】
上記操作検出手段が、商品補充用開閉扉の開放状態を検出し、
上記制御音抑制手段は、上記商品補充用開閉扉が開放状態の間、上記制御音の出力を抑制することを特徴とする請求項6に記載の自動販売機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−237719(P2009−237719A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80681(P2008−80681)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【出願人】(000223182)ティーオーエー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】