説明

フェニルチアゾール誘導体

【課題】ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)の活性化作用を有し、特に糖尿病治療剤として有用な新規化合物の提供。
【解決手段】下記式(I)で示されるフェニルチアゾール誘導体又はその製剤学的に許容される塩。


(式中、Rはハロゲン、アルキルなど、jは0〜4の整数、Xは酸素など、R及びRは水素など、Rは水素又は低級アルキル、Rは水素、低級アルキルなど、Rはピペリジン、ピペラジンなどのヘテロ環、kは0〜2の整数、nは1〜5の整数を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、殊に糖尿病治療剤として有用な新規なフェニルチアゾール誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、インスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし、種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群である。その発症には遺伝因子と環境因子がともに関与し、成因により、(I)1型、(II)2型、(III)その他の特定の機序・疾患によるもの、及び(IV)妊娠糖尿病、の4種に分類される。このうち、1型は発症機構として膵β細胞破壊を特徴とし、2型はインスリン分泌低下とインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)の両者が発症にかかわっている。
【0003】
2型糖尿病治療剤として、PPARγ活性化剤であるロシグリタゾンやピオグリタゾンが臨床で使用されている。ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体PPAR(Peroxisome Proliferator Activated Receptor)は脂肪分解に関与する細胞内小器官であるペルオキシソームを増加させる作用を仲介するタンパク質としてクローニングされた受容体であり(Nature, 347, 645-649 (1990))、エストロゲン、甲状腺ホルモン及び脂溶性ビタミン等をリガンドとする核内受容体と同族の転写因子である。これまでにPPARα、PPARδ及びPPARγの3種のサブタイプが同定されている。PPARαは肝臓、心臓、腎臓、副腎、消化管、骨格筋に、PPARγは免疫系臓器、大腸、小腸、副腎、脂肪細胞に主に発現しており、PPARδは普遍的に発現しているが、特に腸、腎臓、心臓で多いことが知られている。いずれのPPARもレチノイドXレセプター(RXR)と安定なヘテロ二量体を形成して標的遺伝子の特異的DNA認識配列(PPRE)に結合し制御を行う。
【0004】
PPARγ活性化剤は、2型糖尿病患者においてインスリン抵抗性を改善し、高血糖を低下させるとともに、血清脂質に対しても弱い改善作用を有することが報告されている(Diabetes Care, 24, 1226-1232 (2001);同 24, 710-719 (2001);同 23, 1605-1611 (2000);J. Clinical Endocrinology and Metabolism, 86, 280-288 (2001))。しかし一方で、体液貯留、血液希釈、体重増加、浮腫及び心肥大などの副作用を有することが報告されている(J. Medicinal Chemistry, 43, 527-550 (2000);Cell Metabolism, 2, 77-78 (2005))。そのため、臨床においては、体液貯留と浮腫を伴ううっ血性心不全発症のリスクが高まることが特に懸念されている(Drugs, 60, 333-343 (2000);Diabetes Care, 23,:557 (2000);Heart Dis., 2, 326-333 (2000))。
【0005】
一方、PPARαの活性化剤は脂質低下作用を有することから、高脂血症等の治療薬として使用されている(Clin. Chem. Lab. Med., 38, 3-11 (2000))。また、PPARα活性化剤は、肝臓と小腸でATP産生系の最終段階である酸化的リン酸化を阻害する脱共役タンパクのひとつであるUCP-2(uncoupling protein-2)を誘導する作用(Biochemical and Biophysical Research Communications, 257, 879-885 (1999);Biochimica et Biophysica Acta, 1530, 15-22 (2001))、並びに、骨格筋においてもUCP-3(uncoupling protein-3)を誘導する作用が知られていることから(FASEB Journal, 15, 833-845 (2001))、エネルギー消費の亢進による抗肥満作用やインスリン抵抗性改善作用(Diabetes, 50, 411-417 (2001))が期待される。
【0006】
また、PPARδ活性化剤はマクロファージ、線維芽細胞、腸管細胞においてアポA-I依存的なコレステロール搬出を促進し、肥満アカゲザルにおいて血中の高密度リポタンパクを上昇させ、低密度リポタンパク、空腹時トリグリセリドおよび空腹時インスリンを低下させることが(Proceedings of the National Academy of Sciences, 98, 5306-5311 (2001))、db/dbマウスにおいてHDL-C増加作用を示すこと(FEBS Letters, 473, 333-336 (2000))が報告されており、血中脂質組成改善薬として有効であると考えられる。即ち、動脈硬化進展抑制又は治療薬、並びに、メタボリックシンドロームのリスク要因を軽減し虚血性心疾患等の発症を予防する薬剤として期待される。また更に、PPARδ活性化剤は、マウス前駆脂肪細胞の分化促進作用(J. Biol. Chem., 274, 21920-21925 (1999);同 275, 38768-38773 (2000);同 276, 3175-3182 (2001))、ラット及びヒト骨格筋細胞のUCP-2及びUCP-3発現促進作用(J. Biol. Chem., 276, 10853-10860 (2001);Endocrinology, 142, 4189-4194 (2001))が報告されており、アテローム硬化症治療剤(国際公開第92/10468号パンフレット)や糖尿病治療剤・抗肥満薬(国際公開第97/28115号パンフレット)としての可能性が示されている。
【0007】
以上のことから、PPARγ活性化作用に加え、PPARα及び/又はPPARδ活性化作用を有する化合物は、PPARγ活性化に基づく血糖降下作用が増強されるとともに、既存の薬剤の副作用の軽減が期待されることから、良好な糖尿病又は糖尿病関連疾患の治療剤となりうると考えられる。
【0008】
PPARγ活性化作用に加え、PPARα及び/又はPPARδ活性化作用を有する化合物としては、2-フェニルチアゾール/オキサゾール誘導体(特許文献1)、ジフェニルエーテル誘導体(特許文献2)、縮合三環系化合物(特許文献3)などが報告されており、例えば、特許文献1には下記化合物が開示されている。
【化4】

(式中、YはS又はO、X2はO、S又はCH2、R1及びR2は独立して水素又はC1-3アルキルをそれぞれ示す。詳細は当該公報参照。)
【0009】
また、PPAR活性化作用を有する下記化合物が報告されている(特許文献4)。
【化5】

(式中、QはO、単結合、O(CH2)q又はCを;WはO、S等を;XはCmH2mを;Y及びZはS、N及びOから選択され、少なくとも一方はS又はOをそれぞれ示す。詳細は当該公報参照。)
【0010】
【特許文献1】国際公開WO2002/059098号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO2005/054176号パンフレット
【特許文献3】国際公開WO2004/048333号パンフレット
【特許文献4】国際公開WO2003/072102号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、PPAR活性化作用を有する医薬、特に糖尿病治療剤として有用な、新規な化合物の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、PPAR活性化作用を有する化合物について鋭意検討した結果、カルボキシメチルスルファニルフェニル基又はその等価体を有する2-フェニルチアゾール誘導体がPPARγ活性化作用を有することを見出し、更にPPARα及び/又はPPARδ活性化作用も有する化合物も存在することを確認し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、一般式(I)で示されるフェニルチアゾール誘導体又はその塩に関する。
【化6】

(式中の記号は以下の意味を示す。
R1:同一又は互いに異なって、-ハロゲン、-R0、-O-R0、-S-R0、-R00-O-R0、-CN、-ハロゲノ低級アルキル、又は-O-ハロゲノ低級アルキル、
R0:-低級アルキル、
j:0〜4の整数、
R2及びR3:同一又は互いに異なって、-H又は-R0、或いはR2とR3が一体となって、-(CR11R12)m-、
X:O、S又はN(R13)、
R11、R12及びR13:それぞれ、同一又は互いに異なって、-H又は-R0
R4:-H又は-R0
R5:-H、-R0、-O-R0、-S-R0、-ハロゲノ低級アルキル、又は-O-ハロゲノ低級アルキル、
R6:-N(R21)(R22)、又は下記式(a)、又は(b)で示される基
【化7】

R21及びR22:同一又は互いに異なって、-H、-R0又は-R00-(置換されていてもよいへテロ環)、
R00:-低級アルキレン、
p:0〜2の整数、
r:0〜2の整数、
u:0〜1の整数
R23及びR24:同一又は互いに異なって、-H、-R0、-OH、-R00-OH、-R00-O-R0又は-O-R0
Y:C(R31)(R32)、O、S、SO、SO2又はN(R33)、
R31及びR32:同一又は互いに異なって、-H、-ハロゲン、-R0、-ハロゲノ低級アルキル、-OH、-R00-OH、-R00-O-R0、-O-R0、-O-ハロゲノ低級アルキル、-CO2-R0、-O-R00-O-R0、-(置換されていてもよいへテロ環)、-R00-(置換されていてもよいへテロ環)、-(置換されていてもよいアリール)、-R00-(置換されていてもよいアリール)、-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-R00-(置換されていてもよいシクロアルキル)、又は-N(R41)(R42)、或いはR31とR32が一体となって、1又は2個のメチレンがO、S、NH又はCOで置き換わっていてもよい-(CH2)t-、又はオキソ、
R41及びR42:同一又は互いに異なって、-H、-R0、-R00-OH、-R00-O-R0、-CO2-R0、-CO-R0、-SO2-R0、-CO-ハロゲノ低級アルキル、-(置換されていてもよいへテロ環)、-R00-(置換されていてもよいへテロ環)、-CO-(置換されていてもよいへテロ環)、-SO2-(置換されていてもよいへテロ環)、-(置換されていてもよいアリール)、-R00-(置換されていてもよいアリール)、-CO-(置換されていてもよいアリール)、-SO2-(置換されていてもよいアリール)、-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-R00-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-CO-(置換されていてもよいシクロアルキル)、又は-SO2-(置換されていてもよいシクロアルキル)、
t:2〜6の整数、
R33:-H、-R0、-ハロゲノ低級アルキル、-R00-OH、-R00-O-R0、-CO2-R0、-CO-ハロゲノ低級アルキル、-(置換されていてもよいへテロ環)、-(置換されていてもよいアリール)、-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-R00-(置換されていてもよいへテロ環)、-R00-(置換されていてもよいアリール)、-R00-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-R00-N(R41)(R42)、-CO-(置換されていてもよいへテロ環)、-CO-(置換されていてもよいアリール)、-CO-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-CO-N(R41)(R42)、-SO2-(置換されていてもよいへテロ環)、-SO2-(置換されていてもよいアリール)、-SO2-(置換されていてもよいシクロアルキル)、又は-SO2-N(R41)(R42)、
R25及びR26:同一又は互いに異なって、-H、-R0、-OH、-R00-OH、-R00-O-R0、-O-R0、-S-R0、-ハロゲノ低級アルキル、又は-O-ハロゲノ低級アルキル、
k:0〜2の整数、
m:2〜7の整数、
n:1〜5の整数、但し、nが2以上のときR5は互いに同一又は互いに異なってもよい。以下同様。)
【0013】
更に本願は、一般式(I)で示されるフェニルチアゾール誘導体又はその塩を有効成分とする医薬組成物に関し、殊にPPAR活性化剤に関し、あるいは糖尿病の予防剤又は治療剤にも関する。
【0014】
また本発明は、前記一般式(I)で表されるフェニルチアゾール誘導体又はその製薬学的に許容される塩の有効量を患者に投与することからなる、糖尿病の予防又は治療方法にも関する。
【0015】
更に本発明は、糖尿病の予防または治療剤を製造するための、前記一般式(I)で表されるフェニルチアゾール誘導体又はその製薬学的に許容される塩の使用にも関する。
【0016】
更に本発明は、フェニルチアゾール誘導体の製造原料である下記一般式(i)及び(ii)で表される化合物にも関する。
【化8】

R1:同一又は互いに異なって、-ハロゲン、-R0、-O-R0、-CN、
R0:-低級アルキル、
j:0〜4の整数、
R2及びR3:同一又は互いに異なって、-H又は-R0、或いはR2とR3が一体となって、-(CR11R12)m-、
R11、R12:それぞれ、同一又は互いに異なって、-H又は-R0
R4:-H又は-R0
P1:-H、-R0、-PMB、-TBS、-PMB
【化9】

Q1:-CO2-R0、-R00-OH
R00:-低級アルキレン、
R6:下記一般式(e)で示される基
【化10】

r:0〜2の整数、
Y:C(R31)(R32)、O、S、SO、SO2又はN(R33)、
R31及びR32:同一又は互いに異なって、-H、-ハロゲン、-R0、-ハロゲノ低級アルキル、-OH、-R00-OH、-R00-O-R0、-O-R0、-O-ハロゲノ低級アルキル、-CO2-R0、-O-R00-O-R0、-(置換されていてもよいへテロ環)、-R00-(置換されていてもよいへテロ環)、-(置換されていてもよいアリール)、-R00-(置換されていてもよいアリール)、-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-R00-(置換されていてもよいシクロアルキル)、又は-N(R41)(R42)、或いはR31とR32が一体となって、1又は2個のメチレンがO、S、NH又はCOで置き換わっていてもよい-(CH2)t-、又はオキソ、
R41及びR42:同一又は互いに異なって、-H、-R0、-R00-OH、-R00-O-R0、-CO2-R0、-CO-R0、-SO2-R0、-CO-ハロゲノ低級アルキル、-(置換されていてもよいへテロ環)、-R00-(置換されていてもよいへテロ環)、-CO-(置換されていてもよいへテロ環)、-SO2-(置換されていてもよいへテロ環)、-(置換されていてもよいアリール)、-R00-(置換されていてもよいアリール)、-CO-(置換されていてもよいアリール)、-SO2-(置換されていてもよいアリール)、-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-R00-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-CO-(置換されていてもよいシクロアルキル)、又は-SO2-(置換されていてもよいシクロアルキル)、
t:2〜6の整数、
R33:-H、-R0、-ハロゲノ低級アルキル、-R00-OH、-R00-O-R0、-CO2-R0、-CO-ハロゲノ低級アルキル、-(置換されていてもよいへテロ環)、-(置換されていてもよいアリール)、-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-R00-(置換されていてもよいへテロ環)、-R00-(置換されていてもよいアリール)、-R00-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-R00-N(R41)(R42)、-CO-(置換されていてもよいへテロ環)、-CO-(置換されていてもよいアリール)、-CO-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-CO-N(R41)(R42)、-SO2-(置換されていてもよいへテロ環)、-SO2-(置換されていてもよいアリール)、-SO2-(置換されていてもよいシクロアルキル)、又は-SO2-N(R41)(R42)、
【発明の効果】
【0017】
本発明化合物は、PPAR活性化作用を有することから、耐糖能障害、糖尿病(2型糖尿病、妊娠糖尿病)、糖尿病合併症(例えば、糖尿病性壊疽、糖尿病性関節症、糖尿病性骨減少症、糖尿病性糸球体硬化症、糖尿病性腎症、糖尿病性皮膚障害、糖尿病性神経障害、糖尿病性白内障、糖尿病性網膜症、糖尿病性高浸透圧昏睡、口腔乾燥症、聴覚の低下、大血管障害、抹消血行障害等)、肥満、インスリン抵抗性症候群(例えばインスリン受容体異常症、Rabson-Mendenhall症候群、レブリコニズム、Kobberling-Dunnigan症候群、Seip症候群、Lawrence症候群、Cushing症候群、先端巨大症等)、多嚢胞性卵巣症候群、高脂血症(例えば高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、低HDL血症、食後高脂血症)、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化性疾患(例えば末梢動脈閉塞症、間歇性跛行)、心臓血管疾患(例えば狭心症、心筋梗塞、心不全等)、脳血管障害(例えば脳梗塞、脳卒中、脳血管性痴呆)、経皮的冠動脈形成術後の再狭窄、高血糖症(例えば摂食障害等の異常糖代謝で特徴づけられるもの)、膵炎、消化性潰瘍、骨粗鬆症、メタボリックシンドローム、高インスリン血症、高尿酸血症、高血圧症、炎症性腸疾患、感染症(例えば呼吸器感染症、尿路感染症、消化器感染症、皮膚軟部組織感染症、下肢感染症等)、悪液質(例えば癌性悪液質、結核性悪液質、糖尿病性悪液質、血液疾患性悪液質、内分泌疾患性悪液質、感染症性悪液質、後天性免疫不全症候群による悪液質)、脂肪肝、腎臓疾患(例えば糖尿病性ネフロパシー、糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、高血圧性腎硬化症、末期腎臓疾患)、筋ジストロフィー、腫瘍(例えば白血病、乳癌、前立腺癌、皮膚癌)、過敏性腸症候群、急性または慢性下痢、炎症性疾患(例えば慢性関節リウマチ、変形性脊椎炎、変形性関節炎、腰痛、痛風、手術外傷後の炎症、腫脹の緩解、神経痛、咽喉頭炎、膀胱炎、肝炎(非アルコール性脂肪性肝炎、アルコール性肝炎、B型肝炎、C型肝炎)、胃粘膜損傷、肺炎、潰瘍性大腸炎等)、過剰増殖性皮膚疾患(例えば乾癬、湿疹、基底細胞癌、扁平上皮癌、角化症、角質化疾患)、食欲不振、神経性過食症、ウイルス疾患(例えばエイズ、劇症肝炎)、神経変性疾患(例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、色素性網膜炎、小脳変性)、脊髄異形成疾患(例えば再生不良性貧血)等の予防及び/又は治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本明細書中、「アルキル」及び「アルキレン」とは、直鎖状又は分枝状の炭化水素鎖を意味する。「低級アルキル」は、好ましくは炭素数1〜6個(以下、C1-6と略す)のアルキル基であり、より好ましくはC1-4、より更に好ましくはメチル及びエチルである。「低級アルキレン」は、上記「低級アルキル」の任意の水素原子1個を除去してなる二価基(C1-6アルキレン)を意味し、好ましくはC1-4アルキレンであり、より好ましくはメチレン、エチレン、プロピレン及びジメチルメチレンであり、より更に好ましくはメチレン及びエチレンである。
【0020】
「ハロゲン」は、F、Cl、Br及びIを示す。
【0021】
「ハロゲノ低級アルキル」とは、好ましくは、1個以上のハロゲンで置換されたC1-6アルキルを意味し、より好ましくはハロゲノC1-3アルキルであり、更に好ましくはフルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、1,1-ジフルオロエチル、2,2,2-トリフルオロエチル及び3,3,3-トリフルオロプロピル、より更に好ましくは、トリフルオロメチル、1,1-ジフルオロエチル及び2,2,2-トリフルオロエチルである。
【0022】
「シクロアルキル」は、好ましくはC3-10のシクロアルキルであり、架橋されていてもよい。より好ましくはシクロプロピル、シクロペンチル、シクロブチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びアダマンチルであり、更に好ましくはシクロペンチル及びシクロヘキシルである。
【0023】
「アリール」とは、C6-14の芳香族炭化水素基であり、好ましくはフェニル、ナフチル及びテトラヒドロナフチルであり、より好ましくはフェニルである。
【0024】
「へテロ環」とは、i) O、S及びNから選択されるヘテロ原子を1〜4個有していてもよい単環4〜8員、好ましくは5〜7員の、飽和、一部不飽和又は芳香族ヘテロ環、ii) 上記i)に示すヘテロ環が縮環した2環式へテロ環、但し、縮合する環は互いに同一でも異なっていてもよい、及びiii) 上記i)に示すヘテロ環とベンゼン環又は5〜7員シクロアルカンが縮合した2環式へテロ環、から選択される環からなる1価基を意味する。例えば、i) ピペリジル、ピロリジニル、ピペラジニル、アゼパニル、ジアゼパニル、モルホリニル、チオモルホリニル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、イミダゾリル、ピロリル、ピロリジニル、チエニル、フリル、ジオキサニル、ジオキソラニル、トリアジニル、トリアゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、オキサジアゾリル、ピラゾリル、ピラゾリジニル、イソチアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、ピペリジル、ピペラジニル、アゼパニル、ジアゼパニル、テトラヒドロフラニル、モルホリニル、ii) ナフチリジニル、イミダゾピリジニル、ピロロピリミジニル、ナフチリジル、チエノピリジニル、チエノピロリル、iii) ジヒドロベンゾフラニル、キノリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル、ベンゾチアジアゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾイソチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾイソオキサゾリル、キノリル、イソキノリル、テトラヒドロキノリル、テトラヒドロイソキノリル、ジヒドロベンゾフラニル、キナゾリニル、キノキサリニル、フタラジニル、メチレンジオキシフェニル、エチレンジオキシフェニル、トリチアニル、インドリル、イソインドリル、インドリニル、インダゾリル、テトラヒドロベンゾイミダゾリル、クロマニルが挙げられる。また、環のS又はNが酸化されて、オキシドやジオキシドを形成していてもよい。
【0025】
「置換されていてもよい」とは、「無置換」あるいは「同一又は異なる置換基を1〜5個有していること」を示す。
【0026】
「置換されていてもよいへテロ環」における置換基としては、好ましくは-R0、-OH、オキソ、ハロゲン、-OR0、-R00OR0、-SR0、ハロゲノ低級アルキル、-O-ハロゲノ低級アルキルであり、より好ましくは、-R0、オキソ、ハロゲン、-OR0である。
【0027】
「置換されていてもよいアリール」における置換基としては、好ましくは-O-R0、ハロゲン、-R00OR0、-SR0、ハロゲノ低級アルキル、-O-ハロゲノ低級アルキルであり、より好ましくは、-O-R0、ハロゲンである。
【0028】
「置換されていてもよいシクロアルキル」における置換基としては、好ましくは-OH、オキソ、ハロゲン、-OR0、-R00OR0、-SR0、ハロゲノ低級アルキル、-O-ハロゲノ低級アルキルである。
【0029】
本発明の好ましい態様を以下に示す。
(1)R1として、好ましくはハロゲン、R0又はO-R0、-CN、より好ましくはF、Cl、C1-3アルキル又はO-C1-3アルキル、更に好ましくはF、Cl、C1-2アルキル又はO-C1-2アルキルである。ここに、jとして、好ましくは0〜3、より好ましくは0〜2である。
【0030】
(2)R2及びR3として、好ましくはH、R0、又は、R2とR3が一体となって、-(CR11R12)m-、より好ましくはH又はC1-2アルキル、更に好ましくはH又はメチルである。
ここに、R11及びR12として、好ましくはHである。
また、mとして、好ましくは2〜7、より好ましくは3〜5である。
【0031】
(3)R5として、好ましくはハロゲノ低級アルキル、より好ましくはハロゲノC1-2アルキル、更に好ましくはトリフルオロメチルである。
【0032】
(4)R6として、好ましくは、
【化11】

で示される基である。ここにR31及びR32として、好ましくはH、-ハロゲン、R0、-(置換されていてもよいへテロ環)、-R00-(置換されていてもよいへテロ環)、-(置換されていてもよいアリール)、-R00-(置換されていてもよいアリール)、-(置換されていてもよいシクロアルキル)又は-R00-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-N(Me)2、-NHAc、或いはR31とR32が一体となって、1又は2個のメチレンがO、S、NH又はCOで置き換わっていてもよい-(CH2)t-、又はオキソ、より好ましくはH、R0、-(置換されていてもよいへテロ環)、-C1-2アルキレン-(置換されていてもよいへテロ環)、-(置換されていてもよいアリール)、-C1-2アルキレン-(置換されていてもよいアリール)、-(置換されていてもよいシクロアルキル)又は-C1-2アルキレン-(置換されていてもよいシクロアルキル)、或いはR31とR32が一体となって、O-(CH2)3、O-(CH2)4、O-(CH2)2-O、O-(CH2)3-O又は-(CH2)-O-(CH2)2-、更に好ましくはR31とR32が一体となって、O-(CH2)3、O-(CH2)4、O-(CH2)2-O、O-(CH2)3-O又は-(CH2)-O-(CH2)2-。
ここにtとして好ましくは、3〜5である。
また、R33として、好ましくはH、R0、ハロゲノ低級アルキル、-CO2-R0、-CO-ハロゲノ低級アルキル、-(置換されていてもよいへテロ環)、-(置換されていてもよいアリール)、-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-R00-(置換されていてもよいへテロ環)、-R00-(置換されていてもよいアリール)、-R00-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-R00-N(R41)(R42)、-CO-(置換されていてもよいへテロ環)、-CO-(置換されていてもよいアリール)、-CO-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-CO-N(R41)(R42)、-SO2-(置換されていてもよいへテロ環)、-SO2-(置換されていてもよいアリール)、-SO2-(置換されていてもよいシクロアルキル)、又は-SO2-N(R41)(R42)、より好ましくはH、R0、-CO2-R0、-(置換されていてもよいへテロ環)、-(置換されていてもよいアリール)、-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-CO-N(R41)(R42)、又は-R00-N(R41)(R42)、更に好ましくはH、-R0、-CO2-R0、-(置換されていてもよいへテロ環)、-(置換されていてもよいアリール)、-CO-N(R41)(R42)であり、ここに「置換されていてもよいへテロ環」としては、それぞれ低級アルキル又はハロゲンで置換されていてもよい、単環又は2環式ヘテロ環が好ましい。
【0033】
(5)kとして、好ましくは0である。
【0034】
(6)Xとして、好ましくはOである。
【0035】
別の好ましい態様としては、上記(1)〜(6)に記載の各好ましい基の組合せからなる化合物が好ましい。
【0036】
本発明の化合物は、置換基の種類によっては他の互変異性体や幾何異性体が存在する場合もある。本明細書中、それら異性体の一形態のみで記載することがあるが、本発明にはこれらの異性体も包含し、異性体の分離したもの、あるいは混合物も包含する。
【0037】
また、本発明の化合物(I)は、置換基の種類によっては、不斉炭素原子を有する場合があり、その他の軸不斉を有する場合もある。本発明はこれらの光学異性体の混合物や単離されたものを全て包含する。
【0038】
更に、本発明には、化合物(I)の薬理学的に許容されるプロドラッグも含まれる。薬理学的に許容されるプロドラッグとは、加溶媒分解により又は生理学的条件下で本発明のアミノ基、OH、CO2H等に変換できる基を有する化合物である。プロドラッグを形成する基としては、例えば、Prog. Med., 5, 2157-2161 (1985)や「医薬品の開発」(廣川書店、1990年)第7巻 分子設計163-198に記載の基が挙げられる。
【0039】
更に、本発明化合物は、酸付加塩又は置換基の種類によっては塩基との塩を形成する場合もあり、かかる塩が製薬学的に許容され得る塩である限りにおいて本発明に包含される。具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、又はグルタミン酸等の有機酸との酸付加塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の無機塩基、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リシン、オルニチン等の有機塩基との塩やアンモニウム塩等が挙げられる。更には、分子内で塩を形成していてもよい。
【0040】
本発明は、本発明化合物及びその製薬学的に許容され得る塩の各種の水和物や溶媒和物、及び結晶多形を有する物質も包含する。
【0041】
(製造法)
本発明化合物及びその製薬学的に許容され得る塩は、その基本骨格あるいは置換基の種類に基づく特徴を利用し、種々の公知の合成法を適用して製造することができる。その際、官能基の種類によっては、当該官能基を原料乃至中間体の段階で適当な保護基(容易に当該官能基に転化可能な基)に置き換えておくことが製造技術上効果的な場合がある。このような官能基としては例えばアミノ基、水酸基、カルボキシル基等であり、それらの保護基としては例えばグリーン(Greene)及びウッツ(Wuts)著、「Protective Groups in Organic Synthesis(第3版、1999年)」に記載の保護基等を挙げることができ、これらを反応条件に応じて適宜選択して用いればよい。このような方法では、当該保護基を導入して反応を行った後、必要に応じて保護基を除去することにより、所望の化合物を得ることができる。
【0042】
また、化合物(I)のプロドラッグは上記保護基と同様、原料乃至中間体の段階で特定の基を導入、あるいは得られた化合物(I)を用い反応を行うことで製造できる。反応は通常のエステル化、アミド化、脱水等、当業者により公知の方法を適用することにより行うことができる。
【0043】
本発明化合物の製造における原料化合物・各種試薬は、塩や水和物あるいは溶媒和物を形成していてもよく、いずれも出発原料、使用する溶媒等により異なり、また反応を阻害しない限りにおいて特に限定されない。
また、用いる溶媒についても、出発原料、試薬等により異なり、また反応を阻害せず出発物質をある程度溶解するものであれば特に限定されないことは言うまでもない。
【0044】
以下、本発明化合物の代表的な製造法を説明する。なお、本発明の製造法は以下に示した例には限定されない。
【0045】
第1製法
【化12】

(式中、L1は脱離基を示す。以下同様。)
本製法は、エステル化合物(III)をアルキル化反応に付すことにより、R4が低級アルキル(R0)である本発明化合物(Ia)を製造する方法である。
【0046】
L1の脱離基としては、メタンスルホニルオキシもしくはp-トルエンスルホニルオキシ等の有機スルホニルオキシ基、ハロゲン等が挙げられる。場合によってはL1がOHである化合物を用いて光延反応を適用することもできる。更に、XがN(R13)のとき、(II)としてアルデヒド化合物を用い、還元的アルキル化反応(例えば日本化学会編「実験化学講座(第4版)」20巻(1992年)(丸善)等に記載の方法)によっても製造することができる。
【0047】
反応は、無溶媒中もしくは反応に不活性な溶媒中、冷却下乃至加熱還流下に行うことができる。反応温度は化合物に応じて適宜設定できる。溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジグリム、1,2-ジメトキシエタン、2-メトキシジエチルエーテル等のエーテル類;ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;メタノール、エタノール等のアルコール類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド系溶媒;アセトニトリル;酢酸エチル;ジメチルスルホキシド(DMSO)等を単独で、又は2種以上混合して用いることができる。また、化合物(II)及び(III)は、等モル乃至過剰量を、反応や化合物に応じて適宜使用する。化合物によっては、有機塩基(好ましくは、ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルモルホリン、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン、トリエチルアミン、ピリジン、コリジン、モルホリン、2,6-ルチジン)又は無機塩基(好ましくは、水素化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)の存在下に行うのが有利な場合がある。また、ピリジン等の有機塩基は溶媒を兼ねることもできる。
【0048】
第2製法
【化13】

(式中、L2はL1と同様の脱離基を示す。以下同様。)
本製法は、アミノ化合物(V)をアルキル化反応に付すことにより、R4が低級アルキル(R0)である本発明化合物(Ia)を製造する方法である。
【0049】
反応は、第1製法に記載の条件と同様の条件が適用できる。
【0050】
第3製法
第1及び第2製法で得られたエステル体である本発明化合物(Ia)を原料として、加水分解反応に付すことにより、カルボン酸体である本発明化合物(Ib)を製造することができる。反応は、加水分解反応の常法が適用でき、例えば、前記「Protective Groups in Organic Synthesis」に記載の、カルボン酸の種々の脱保護反応が適用できる。
【0051】
原料製法1
原料化合物(II)のうち、L1がOHである原料化合物(IIa)は下記式の方法で製造できる。なお、原料化合物(IIa)のOHは、常法により有機スルホニルオキシ基やハロゲン等へ変換可能である。
【化14】

(式中、Rは低級アルキル基等を示す。以下同様。)
【0052】
原料化合物(IIa)は、化合物(XI)のエステルを還元反応に付すことにより製造できる。反応は、エーテル類等の反応に不活性な溶媒中、種々の還元剤(例えば、水素化ホウ素ナトリウム、リチウムアルミニウムハイドライド(LAH)、水素化ジイソブチルアルミニウム等)を用いて行うことができる。
【0053】
化合物(XI)は、化合物(X)を前記第2製法と同様にアルキル化反応に付すことにより製造できる。
【0054】
化合物(X)は、化合物(IX)を、臭素やN-ブロモスクシンイミド等の臭素化試薬を用いるハロゲン化反応により製造できる。臭素化の代わりに塩素化を行ってもよい。
【0055】
化合物(IX)は、チオアミド化合物(VII)とクロロアセチル酢酸(VIII)との環化反応に付すことにより、製造できる。
【0056】
チオアミド化合物(VII)は、ニトリル体(VI)を硫化水素やヒドロスルフィドナトリウム等で処理することで製造できる。或いは、五硫化リンやLawesson試薬等を用いるチオアミド化反応も適用でき、その際、必要に応じて対応するベンズアミド体を原料化合物として用いることができる。
【0057】
原料製法2
【化15】

原料化合物(IIa)は、化合物(X)を用い、アルキル化反応と還元反応を前記原料製法1と逆の順番で行っても製造できる。
【0058】
原料製法3
【化16】

(式中、L3はL1と同様の脱離基を示す。以下同様。)
脱離基L3を有する原料化合物(IVa)は、上記方法によって製造できる。各反応は前記原料製法1に記載の方法と同様にして行うことができる。
【0059】
化合物(XVI)は、化合物(XV)を、有機スルホニルオキシ基やハロゲン等への変換反応の常法に付すことにより製造可能である。脱離基L3としては好ましくは有機スルホニルオキシ基やハロゲンであり、特にClが好ましい。
【0060】
原料製法4
【化17】

(式中、P1は保護基を、L4はL1と同様の脱離基を示す。以下同様。)
原料化合物(III)のうち、XがOである化合物は上記式の方法で製造できる。
【0061】
保護基P1、並びに、保護/脱保護反応は、前述の「Protective Groups in Organic Synthesis」に記載の基及び条件を、原料化合物に応じて適宜選択できる。
【0062】
S-アルキル化反応は、例えばJ. Org. Chem., 2004, 69, 3236-3239に記載の方法により行うことができる。
【0063】
酸化反応は、スルファニルからスルフィニル又はスルホニルへの酸化反応の常法を適用することができ、例えば、m-クロロ安息香酸等の過酸やOXONE(Aldrich、商品名)、過酸化水素等の酸化剤が使用できる。
【0064】
還元反応は種々の還元剤が使用でき、例えばLAHを用いるのが好適である。或いは、加水分解反応(例えば、水酸化ナトリウム水溶液など)によっても製造することが出来る。
【0065】
原料化合物(XVIII)は、例えばJ. Org. Chem., 1993, 58(21), 5855-5857に記載の方法により製造することができる。
【0066】
本発明化合物は、遊離化合物、その製薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、あるいは結晶多形の物質として単離され、精製される。本発明化合物(I)の製薬学的に許容される塩は、常法の造塩反応に付すことにより製造することもできる。
【0067】
単離、精製は、抽出、分別結晶化、各種分画クロマトグラフィー等通常の化学操作を適用して行われる。
【0068】
各種の異性体は、適当な原料化合物を選択することにより、あるいは異性体間の物理化学的性質の差を利用して分離することができる。例えば、光学異性体は一般的な光学分割法(例えば、光学活性な塩基又は酸とのジアステレオマー塩に導く分別結晶化やキラルカラム等を用いたクロマトグラフィー等)により、立体化学的に純粋な異性体に導くことができる。また、適当な光学活性な原料化合物より製造することもできる。
【0069】
本発明化合物(I)又はその塩の1種又は2種以上を有効成分として含有する製剤は、当分野において通常用いられている薬剤用担体、賦形剤等を用いて通常使用されている方法によって調製することができる。
【0070】
投与は錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与、又は、関節内、静脈内、筋肉内等の注射剤、坐剤、点眼剤、眼軟膏、経皮用液剤、軟膏剤、経皮用貼付剤、経粘膜液剤、経粘膜貼付剤、吸入剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。
【0071】
本発明による経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては、1種又は2種以上の有効成分を、少なくとも1種の不活性な賦形剤、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、及び/又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウム等と混合される。組成物は、常法に従って、不活性な添加剤、例えばステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤やカルボキシメチルスターチナトリウム等のような崩壊剤、安定化剤、溶解補助剤を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被膜してもよい。
【0072】
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤又はエリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水又はエタノールを含む。当該液体組成物は不活性な希釈剤以外に可溶化剤、湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
【0073】
非経口投与のための注射剤は、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤又は乳濁剤を含有する。水性の溶剤としては、例えば注射用蒸留水又は生理食塩液が含まれる。非水溶性の溶剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール又はオリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、又はポリソルベート80(局方名)等がある。このような組成物は、さらに等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、又は溶解補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。また、これらは無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解又は懸濁して使用することもできる。
【0074】
吸入剤や経鼻剤等の経粘膜剤は固体、液体又は半固体状のものが用いられ、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば公知の賦形剤や、更に、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、安定剤や増粘剤等が適宜添加されていてもよい。投与は、適当な吸入又は吹送のためのデバイスを使用することができる。例えば、計量投与吸入デバイス等の公知のデバイスや噴霧器を使用して、化合物を単独で又は処方された混合物の粉末として、もしくは医薬的に許容し得る担体と組み合わせて溶液又は懸濁液として投与することができる。乾燥粉末吸入器等は、単回又は多数回の投与用のものであってもよく、乾燥粉末又は粉末含有カプセルを利用することができる。あるいは、適当な駆出剤、例えば、クロロフルオロアルカン、ヒドロフルオロアルカン又は二酸化炭素等の好適な気体を使用した加圧エアゾールスプレー等の形態であってもよい。
【0075】
通常経口投与の場合、1日の投与量は、体重当たり約0.001〜100mg/kg、好ましくは0.1〜30mg/kg、更に好ましくは0.1〜10mg/kgが適当であり、これを1回であるいは2乃至4回に分けて投与する。静脈内投与される場合は、1日の投与量は、体重当たり約0.0001〜10mg/kgが適当で、1日1回乃至複数回に分けて投与する。また、経粘膜剤としては、体重当たり約0.001〜100mg/kgを1日1回乃至複数回に分けて投与する。投与量は症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
【実施例】
【0076】
以下、実施例に基づき本発明化合物(I)の製法を更に詳細に説明する。本発明化合物は下記実施例に記載の化合物に限定されるものではない。また原料化合物の製法を参考例に示す。
【0077】
参考例中及び後記表中、以下の略号を用いる。REx:参考例番号、Ex:実施例番号、No:化合物番号、Str:構造式、Syn:製造法(数字のみの場合は同様に製造した実施例番号を、(REx)は参考例番号をそれぞれ示す。)、Sal:塩(酸成分の数字は組成比を表し、例えば2HClは2塩酸塩を示す。−はフリー体を示す。)Dat:物理化学的データ(NMR1:DMSO-d6中の1H NMRにおけるδ(ppm)、NMR2:CDCl3中の1H NMRにおけるδ(ppm)、NMR3:CD3OD中の1H NMRにおけるδ(ppm)、FAB:FAB-MS (陽イオン)、FAB-N:FAB-MS (陰イオン)、ESI:ESI-MS (陽イオン)、ESI-N:ESI-MS (陰イオン)、EI:EI-MS (陽イオン))、Me:メチル、Et:エチル、tBu:tert-ブチル、Pen:n-ペンチル、Ac:アセチル、PMB:パラメトキシベンジル、TBS:tert-ブチルジメチルシリル。
【0078】
参考例1
-78℃に冷却した4-ブロモ-2-クロロ-1-メトキシベンゼン(3.22 g)のジエチルエーテル(50 ml)-トルエン(10 ml)の混媒溶液に、n-ブチルリチウム/n-ヘキサン溶液(1.58 M、11 ml)を滴下しそのままの温度で70分間攪拌した。硫黄粉末(512 mg)を加えさらに2時間攪拌した。ブロモ酢酸エチル(2.4 ml)を加え室温に昇温して22時間攪拌した。水を加え、酢酸エチルで2回抽出し、有機層を1M水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル)で精製して、[(3-クロロ-4-メトキシフェニル)スルファニル]酢酸エチル(2.95 g)を黄色油状物として得た。
【0079】
参考例2
トルエン(20 ml)に塩化アルミニウム(3.02 g)を加え室温にて攪拌した。懸濁液に1-ドデカンチオール(11 ml)を加え室温にて10分間攪拌した。[(3-クロロ-4-メトキシフェニル)スルファニル]酢酸エチル(2.95 g)のトルエン溶液(10 ml)を加え室温にて2時間攪拌した。水を加え、酢酸エチルで2回抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル)で精製して、[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)スルファニル]酢酸エチル(2.3 g)を白色固体として得た。
【0080】
参考例3
4-ブロモ-3-メトキシフェノール(4.68 g)のDMF溶液に、炭酸カリウム(3.50 g)、1-(クロロメチル)-4-メトキシベンゼン(3.44 ml)を加え、室温下撹拌した。反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出し、有機層を1M水酸化ナトリウムで洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下、溶媒を留去し、得られた油状物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製して、1-ブロモ-2-メトキシ-4-[(4-メトキシベンジル)オキシ]ベンゼン(5.30 g)を白色固体として得た。EI: 322。
【0081】
参考例4
5-ブロモ-2-ヒドロキシベンゾニトリル(5.0 g)のDMF (50 ml)溶液にイミダゾール(2.6 g)及びtert-ブチルジメチルシリルクロライド(5.7 g)を加え室温下17時間攪拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液及び飽和食塩水にて洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル)で精製して、5-ブロモ-2-{[tert-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}ベンゾニトリル(7.1 g)を白色固体として得た。FAB: 314。
【0082】
参考例5
[(4-{[tert-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}-3-シアノフェニル)スルファニル]酢酸エチル(2.67 g)のTHF (25 ml)溶液にテトラn-ブチルアンモニウムフルオリド(1.0 M/THF溶液、12 ml)を加え室温下4.5時間攪拌した。溶媒を減圧下留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル)で精製して、[(3-シアノ-4-ヒドロキシフェニル)スルファニル]酢酸エチル(808 mg)を黄色固体として得た。FAB-N: 236。
【0083】
参考例6
5-フルオロ-2-メチルフェノール(4.98 g)のメタノール溶液(50 ml)に室温下、チオシアン酸ナトリウム(10.25 g)を加えた。次いで、氷冷下、臭化ナトリウム(4.06 g)と臭素(2.10 ml)のメタノール溶液(50 ml)を加えた。そのまま氷浴上で2時間攪拌した。氷冷下、飽和重曹水を加え、pH=8とした。反応液を濃縮後、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル)で精製して、2-フルオロ-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニルチオシアネート (5.52 g)を白色固体として得た。FAB: 184。
【0084】
参考例7
水素化リチウムアルミニウム(1.17 g)のTHF (100 ml)溶液に氷冷下、2-フルオロ-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニルチオシアネート(5.52 g)のTHF (100 ml)溶液を加えた。氷浴で2時間攪拌した。反応液に氷冷下、1M塩酸を加えた後、濃縮し、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル)で精製して、無色油状物5-フルオロ-2-メチル-4-スルファニルフェノール(2.15 g)を得た。
【0085】
参考例8
6-フルオロ-2-メチル-4-スルファニルフェノール(2.80 g)のDMF (30 ml)溶液に、室温下、炭酸カリウム(2.44 g)を加え、次いで氷冷下、2-ブロモ-2-メチルプロピオン酸エチル(2.63 ml)を加えた。氷冷下で30分間攪拌した後、反応液に水を加え酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル)で精製後、得られた固体をヘキサンで洗浄して、2-[(2-フルオロ-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)スルファニル]-2-メチルプロピオン酸エチル(3.24 g)を白色固体として得た。
【0086】
参考例9
2-[(4-メトキシフェニル)スルファニル]-2-メチルプロピオン酸エチル(517 mg)のメタノール(3 ml)及び水(2 ml)溶液に氷冷下、オキソン(1.63 g)を加え、室温下一晩攪拌した。オキソン(1.63 g)を追加し、更に室温下3時間攪拌した。反応混合物に水を加え酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル)で精製して、2-[(4-メトキシフェニル)スルホニル]-2-メチルプロピオン酸エチル(518 mg)を無色油状物として得た。NMR2: 1.24 (3H, t, J = 7.2 Hz), 1.60 (6H, s), 3.89 (3H, s), 4.16 (2H, q, J = 7.2 Hz), 7.01 (2H, d, J = 9.1 Hz), 7.77 (2H, d, J = 9.1 Hz)。
【0087】
得られた4-メトキシ化合物を用い、参考例2と同様に処理して、2-[(4-ヒドロキシフェニル)スルホニル]-2-メチルプロピオン酸エチルを得た。NMR2: 1.24 (3H, t, J = 7.1 Hz), 1.61 (6H, s), 4.15 (2H, q, J = 7.1 Hz), 5.61 (1H, br s), 6.94 (2H, d, J = 9.1 Hz), 7.74 (2H, d, J = 9.1 Hz)。
【0088】
参考例10
4-(トリフルオロメチル)ベンゾニトリルのメタノール−水(5:1)溶液に水硫化ナトリウムを加え50℃で12時間撹拌下反応して、4-(トリフルオロメチル)ベンゼンカルボチオアミドを黄色固体として得た。得られた化合物をエタノール中、2-クロロ-3-オキソブタン酸エチルエステルと18時間加熱還流して、4-メチル-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-カルボン酸エチルを得た。得られた化合物を、四塩化炭素中、触媒量の過酸化ベンゾイル存在下、N-ブロモスクシンイミドと、加熱還流下5時間反応して、4-ブロモメチル-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-カルボン酸エチルを灰色固体として得た。FAB: 394。
【0089】
参考例11
4-(ブロモメチル)-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-カルボン酸エチル(10.0 g)のDMF (120 ml)溶液に、1-(2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-5-イル)ピペラジン 2塩酸塩(8.4 g)及び炭酸カリウム(8.8 g)を加え室温下25時間攪拌した。溶媒を減圧下留去し、残渣に水を加え酢酸エチルで抽出した。有機層を水及び飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧下留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル)で精製して、4-{[4-(2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-5-イル)-1-ピペラジニル]メチル}-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-カルボン酸エチル(5.3 g)を黄色固体として得た。
【0090】
参考例12
窒素気流下、水素化アルミニウムリチウム(625 mg)のジエチルエーテル(50 ml)溶液を氷冷し、4-{[4-(2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-5-イル)-1-ピペラジニル]メチル}-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-カルボン酸エチル(7.1 g)のTHF (100 ml)溶液を滴下した後、室温下4.5時間攪拌した。反応混合物に、水(1 ml)、1M水酸化ナトリウム水溶液(1 ml)及び水(3 ml)を順次加え、室温下攪拌した。不溶物を濾別し、溶媒を減圧下留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル)で精製して、(4-{[4-(2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-5-イル)-1-ピペラジニル]メチル}-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル)メタノール(4.2 g)を黄色固体として得た。
【0091】
参考例13
4-({5-({4-[(2-エトキシ-1,1-ジメチル-2-オキソエチル)スルファニル]-2-メトキシ-5-メチルフェノキシ}メチル)-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-4-イル}メチル)-1-ピペラジンカルボン酸 tert-ブチルエステル(10 g)の酢酸エチル(50 ml)溶液に、4 M塩化水素/酢酸エチル溶液(20 ml)を加え、室温下5時間攪拌した。反応液を濃縮し、得られた褐色のオイルにエタノールを加えることで固体化させた。得られた固体をろ取、エタノール洗浄後、減圧乾燥して、2-{[5-メトキシ-2-メチル-4-({4-(1-ピペラジニルメチル)-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル}メトキシ)フェニル]スルファニル}-2-メチルプロパン酸 エチルエステル 二塩酸塩(7.4 g)を得た。FAB: 624。
【0092】
参考例14
2-{[5-メトキシ-2-メチル-4-({4-(1-ピペラジニルメチル)-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル}メトキシ)フェニル]スルファニル}-2-メチルプロパン酸 エチルエステル 二塩酸塩(300 mg)のピリジン(5.0 ml)溶液に、クロロギ酸 4-ニトロフェニル(130 mg)を加え、室温下一晩攪拌した。反応液を水に空け、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル)で精製して、4-({5-({4-[(2-エトキシ-1,1-ジメチル-2-オキソエチル)スルファニル]-2-メトキシ-5-メチルフェノキシ}メチル)-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-4-イル}メチル)-1-ピペラジンカルボン酸 4-ニトロフェニルエステル(330 mg)を得た。ESI: 429。
【0093】
参考例15
4-(ブロモメチル)-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-カルボン酸 エチルエステル(1 g)のトルエン(10 ml)溶液を、窒素気流下-60℃に冷却し、水素化ジイソブチルアルミニウムの1 M トルエン溶液(7.5 ml)を滴下した。同温で1時間攪拌し、メタノール(5 ml)を滴下した。室温まで反応液を昇温し、不溶物をセライトで濾過し、セライト上の残渣をTHFで洗浄した。濾液を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下濃縮して、{4-(ブロモメチル)-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル}メタノール(0.79 g)を得た。FAB: 352。
【0094】
参考例16
4-(トリフルオロメチル)ベンゼンカルボチオアミドをエタノール中、2-クロロ-3-オキソコハク酸ジエチルと加熱下6時間反応して、2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-4,5-ジカルボン酸ジエチルを得た。得られた化合物を、THF、メタノール及び酢酸(触媒量)混合物中、ソジウムボロハイドライドと反応して、{2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-4,5-ジイル}ジメタノールを淡緑色粉末として得た。FAB: 290。
【0095】
参考例17
4-(1,1-ジオキシドチオモルホリン-4-イル)ピペリジン-1-カルボン酸-1,1-ジメチルエチル (1.26 g)のトリフルオロ酢酸溶液 (10 ml)を室温で3時間攪拌した。トリフルオロ酢酸を減圧下留去し、得られた固体にトルエンを加え固体化させた。得られた固体を濾取して、4-ピペリジン-4-イルチオモルホリン1,1-ジオキシド 二トリフルオロ酢酸塩 (1.22 g)を白色粉末として得た。FAB: 319。
【0096】
参考例18
{2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-4,5-ジイル}ジメタノール(18.93 g)をDMFに溶解し、氷冷下、トリエチルアミン(37 ml)及びメシルクロライド(20 ml)を加え、60℃で2時間撹拌した。反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去して得られた油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル)で精製して、黄白色固体4,5-ビス(クロロメチル)-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール(10.08 g)を得た。FAB: 326。
【0097】
参考例19
4,5-ビス(クロロメチル)-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール(9.47 g)をアセトニトリル(200 ml)に溶解し、氷冷下、2-[(4-ヒドロキシフェニル)スルファニル]-2-メチルプロピオン酸エチル(6.98 g)及び炭酸セシウム(18.9 g)を加え撹拌した。反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下溶媒を留去して得られた油状物をシリカゲルクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル)で精製し、得られた黄色固体をヘキサンで洗浄して、2-{[4-({4-(クロロメチル)-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル}メトキシ)フェニル]スルファニル}-2-メチルプロピオン酸エチル (4.74 g)を得た。FAB: 530。
【0098】
参考例20
窒素気流下、tert-ブチル-1-ピペラジンカルボキシレート(22.5 g)のトルエン溶液(200 ml)にトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(4.6 g)及び1,1'-ビナフタレン-2,2'-ジイルビス(ジフェニルホスフィン) (9.4 g)を加え室温下攪拌した。5-ブロモ-2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン(20g)及びナトリウムtert-ブトキシド(14.5 g)を加え90℃で24時間攪拌した。室温まで冷却した後、不溶物をセライトで濾過で除去した。溶媒を減圧留去後、水を加え、酢酸エチルで2回抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧下留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル)で精製して、tert-ブチル 4-(2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-5-イル)-1-ピペラジンカルボキシレート(5.45 g)を橙色固体として得た。FAB: 305。
【0099】
参考例21
tert-ブチル 4-(2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-5-イル)-1-ピペラジンカルボキシレート(5.45 g)を1,4-ジオキサン(10 ml)に溶解し、4M 塩化水素/1,4-ジオキサン溶液(50 ml)を加え、室温下110分間攪拌した。溶媒を減圧下留去し、残渣をジエチルエーテルで洗浄し、得られた固体を濾別、乾燥して、1-(2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-5-イル)ピペラジン 二塩酸塩(3.61 g)を白色固体として得た。EI: 204。
【0100】
参考例22
(4-{[4-(2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-5-イル)-1-ピペラジニル]メチル}-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル)メタノール(1.0 g)のクロロホルム(50 ml)溶液に二酸化マンガン(3.6 g)を加え室温にて24時間攪拌した。二酸化マンガン(5.5 g)を加え、更に5日間攪拌した。セライト濾過後、溶媒を減圧留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル)で精製して、4-{[4-(2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-5-イル)-1-ピペラジニル]メチル}-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-カルバルデヒドを橙色固体として得た(343 mg)。FAB: 474。
【0101】
参考例1と同様にして参考例23〜35の化合物を、参考例2と同様にして参考例36〜46の化合物を、参考例1及び2と同様にして参考例47〜51の化合物を、参考例7と同様にして参考例52及び53の化合物を、参考例8と同様にして参考例54〜61の化合物を、参考例11と同様にして参考例62〜74の化合物を、参考例12と同様にして参考例75〜82の化合物を、それぞれ対応する原料を使用して製造した。各参考例化合物の構造及び物理化学的データを後記表2〜8に示す。
【0102】
〔実施例1〕
0℃に冷却した(4-{[4-(2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-5-イル)-1-ピペラジニル]メチル}-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル)メタノール(400 mg)のジクロロメタン溶液(5 ml)にメタンスルホン酸クロリド(0.1 ml)及びトリエチルアミン(0.24 ml)を加え2時間攪拌した。反応液に水を加え、クロロホルムで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去して得られた残渣を、アセトニトリル(5 ml)及びクロロホルム(1 ml)に溶解し、[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)スルファニル]酢酸エチル(250 mg)及び炭酸セシウム(550 mg)を加え、60℃で12時間攪拌した。反応混合物に水を加え、クロロホルムで2回抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル)で精製して、({3-クロロ-4-[(4-{[4-(2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-5-イル)-1-ピペラジニル]メチル}-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル)メトキシ]フェニル}スルファニル)酢酸エチル(341 mg)を黄色油状物として得た。
【0103】
〔実施例2〕
({3-クロロ-4-[(4-{[4-(2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-5-イル)-1-ピペラジニル]メチル}-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル)メトキシ]フェニル}スルファニル)酢酸エチル(330 mg)をTHF (5 ml)及びエタノール(1 ml)に溶解し、5M水酸化ナトリウム水溶液(0.2 ml)を加え室温下1時間攪拌した。1M塩酸(1 ml)を加え、クロロホルムで2回抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去後、残渣をアセトニトリル(5 ml)に溶解し、4M塩化水素/1,4-ジオキサン溶液を加え、溶媒を減圧下留去した。残渣をイソプロピルアルコール−水より再結晶して、({3-クロロ-4-[(4-{[4-(2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-5-イル)-1-ピペラジニル]メチル}-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル)メトキシ]フェニル}スルファニル)酢酸 塩酸塩(240 mg)を薄黄色固体として得た。
【0104】
〔実施例3〕
2-({4-[(4-{[4-(2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-5-イル)-1-ピペリジニル]メチル}-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル)メトキシ]フェニル}スルファニル)-2-メチルプロピオン酸エチル及び塩化メチレン(10 ml)の混合物に、氷冷下m-クロロ過安息香酸(48 mg)を加えた。反応液を氷冷下30分攪拌した後、室温に昇温した。m-クロロ過安息香酸(50 mg)を加え室温で撹拌した。酢酸エチルと水を加え分液操作を行い、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール)で精製し油状物を得た。得られた油状生成物をメタノール(5 ml)に溶解し、1M 水酸化ナトリウムを加え、2時間加熱還流した。反応液を室温に冷却し、水及び1M塩酸を加えた。酢酸エチルで抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール)で精製し油状物を得た。得られた油状生成物を酢酸エチルに溶解し、4M塩化水素/酢酸エチル溶液(1 ml)を加えた。溶媒を留去し、得られた白色固体をジエチルエーテルで洗浄して、2-{[4-({4-{[4-(2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-5-イル)-1-オキシドピペラジン-1-イル]メチル}-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル}メトキシ)フェニル]スルファニル}-2-メチルプロピオン酸 塩酸塩(10 mg)を白色固体として得た。
【0105】
〔実施例4〕
2-({2-メトキシ-4-[(4-メトキシベンジル)オキシ]フェニル}スルファニル)-2-メチルプロピオン酸エチル(500 mg)をエタノールに懸濁し、4M塩化水素/ジオキサン(5 ml)を加え、室温で4時間撹拌した。反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル)で精製して得た油状物を用い、以下実施例1及び実施例2と同様にして、2-({4-[(4-{[4-(2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-5-イル)-1-ピペラジンイル]メチル}-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル)メトキシ]-2-メトキシフェニル}スルファニル)-2-メチルプロピオン酸 二塩酸塩(198mg)を得た。
【0106】
〔実施例5〕
2-{[4-({4-(1,4-ジオキサ-8-アザスピロ[4.5]デカ-8-イルメチル)-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル}メトキシ)フェニル]スルファニル}-2-メチルプロピオン酸エチル、濃塩酸、THF及び水の混合物を2日間加熱還流した。反応液を放冷後、酢酸エチルと水を加えて分液し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下溶媒を留去して得られた粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル)で精製して、2-メチル-2-{[4-({4-[(4-オキソ-1-ピペリジニル)メチル]-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル}メトキシ)フェニル]スルファニル}プロピオン酸エチルを得た。
【0107】
〔実施例6〕
2-{[5-メトキシ-2-メチル-4-({4-(1-ピペラジニルメチル)-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル}メトキシ)フェニル]スルファニル}-2-メチルプロパン酸 エチルエステル 二塩酸塩(300 mg)のアセトニトリル(10 ml)溶液にトリエチルアミン(0.21 ml)を加え、1-イソシアナートペンタン(55 mg)を加えて室温にて1時間攪拌した。反応液に水を加えて、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル)で精製して、2-{[5-メトキシ-2-メチル-4-({4-({4-[(ペンチルアミノ)カルボニル]-1-ピペラジニル}メチル)-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル}メトキシ)フェニル]スルファニル}-2-メチルプロパン酸 エチルエステル(300 mg)を得た。
【0108】
〔実施例7〕
4-({5-({4-[(2-エトキシ-1,1-ジメチル-2-オキソエチル)スルファニル]-2-メトキシ-5-メチルフェノキシ}メチル)-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-4-イル}メチル)-1-ピペラジンカルボン酸 4-ニトロフェニルエステル(330 mg)のアセトニトリル(3 ml)溶液にN-メチルペンチルアミン(1.0 g)を加え、加熱還流下、一晩攪拌した。室温まで放冷後、水を加えて酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル)で精製して、2-{[5-メトキシ-2-メチル-4-({4-[(4-{[メチル(ペンチル)アミノ]カルボニル}-1-ピペラジニル)メチル]-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル}メトキシ)フェニル]スルファニル}-2-メチルプロパン酸 エチルエステル(250 mg)を得た。
【0109】
〔実施例8〕
2-{[4-({4-(クロロメチル)-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル}メトキシ)フェニル]スルファニル}-2-メチルプロピオン酸エチル(300 mg)のDMF (5 ml)溶液に4-ピペリジン-4-イルチオモルホリン1,1-ジオキシド二トリフルオロ酢酸塩 (379 mg)及び炭酸カリウム(313 mg)を加え60℃で2時間攪拌した。反応液に飽和食塩水を加えクロロホルムで抽出後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を濃縮して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール)で精製して、2-{[4-({4-{[4-(1,1-ジオキシドチオモルホリン-4-イル)ピペリジン-1-イル]メチル}-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル}メトキシ)フェニル]スルファニル}-2-メチルプロピオン酸エチル(116 mg)を白色粉末として得た。
【0110】
〔実施例9〕
2-{[5-メトキシ-2-メチル-4-({4-(1-ピペラジニルメチル)-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル}メトキシ)フェニル]スルファニル}-2-メチルプロパン酸 エチルエステル 二塩酸塩(400 mg)のDMF(4.0 ml)溶液にトリエチルアミン(0.16 ml)を加え、次いで3,3,3-トリフルオロプロピオン酸(0.062 ml)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(95 mg)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド 塩酸塩(135 mg)を加え、室温下2時間攪拌した。反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル)で精製し、2-({5-メトキシ-2-メチル-4-[(2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-{[4-(3,3,3-トリフルオロプロパノイル)-1-ピペラジニル]メチル}-1,3-チアゾール-5-イル)メトキシ]フェニル}スルファニル)-2-メチルプロピオン酸 エチルエステル(335 mg)を得た。
【0111】
〔実施例10〕
4-{[4-(2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-5-イル)-1-ピペラジニル]メチル}-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-カルバルデヒド(335 mg)及び2-[(4-アミノフェニル)スルファニル]-2-メチルプロピオン酸エチル(186 mg)のジクロロメタン溶液(6 ml)にテトライソプロポキシドチタン(250μl)を加え室温下17時間攪拌した。反応溶液にメタノール(6 ml))を加え、室温下、水素化ホウ素ナトリウム(26 mg)を加え2時間攪拌した。水素化ホウ素ナトリウム(54 mg)を加え更に2時間攪拌した。反応液に水を加えた後、減圧下濃縮した。残渣を酢酸エチルで2回抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル)で精製して、2-({4-[({4-{[4-(2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-5-イル)ピペラジン-1-イル]メチル}-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル}メチル)アミノ]フェニル}スルファニル)-2-メチルプロピオン酸エチル(214 mg)を黄色油状物として得た。
【0112】
上記実施例と同様にして、後記表に示す各実施例化合物を、それぞれ対応する原料を使用して製造した。各実施例化合物の構造及び物理化学的データを後記表9〜33に示す。
本発明化合物の薬理活性は以下の試験により確認した。
【0113】
試験例1 PPAR転写活性化作用
ヒト及びマウスPPARα/γ/δ転写活性化作用に対する化合物の作用について、CV-1細胞での一時的トランスフェクションアッセイで測定した。CV-1は10%牛胎児血清FBS (fetal bovine serum) 含有DMEM (Dulbecco's modified Eagles' medium) で培養した。
【0114】
G8Luc (PGV-B2のルシフェラーゼ遺伝子の上流にGAL結合配列を8個導入したレポーターベクター)と、pGAL-PPAR-LBD(ヒト及びマウスのPPARα/γ/δのリガンド結合部位LBD (ligand binding domain)と酵母転写因子Gal4 DNA (deoxyribonucleic acid) 結合部位の融合タンパクの発現ベクター)をCV-1細胞の一時的トランスフェクトに用いた。FuGENEミックス(Opti-MEM (minimum essential medium) + FuGENE6)をG8LucとpGAL-PPAR-LBDのDNA混合液に混ぜて室温で15分間置いた後に、5%FBS -DMEM に懸濁したCV-1細胞に加えてトランスフェクトし、その後96マルチウェルプレートに播種した。
【0115】
CO2インキュベーターで約24時間培養し、培地を除去した後に5% FBS-DMEMで適切な濃度に希釈した化合物溶液を添加し、さらに約18時間培養した。
【0116】
細胞溶解液にルシフェリン基質を添加してレポーターのルシフェラーゼ活性を測定した。無反応の対照には0.5% DMSO液を用い、更に活性対照としては、それぞれ選択的なPPARγ、α又はδ活性化剤であるロシグリタゾン、GW-9578及びGW-501516を用いた。0.5% DMSO液の反応を0%とし、化合物によるルシフェラーゼ活性化作用が飽和したときの反応を100%として、反応が50%に達する化合物濃度をEC50値として算出した。
【0117】
(GW-9578:2-(4-{2-[3-(2,4-ジフルオロフェニル)-1-ヘプチルウレイド]エチル}フェニルスルファニル)-2-メチルプロピオン酸(Bioorg. Med. Chem. Lett., 11 (9), 1225-7, 2001);GW-501516:{2-メチル-4-[({4-メチル-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル}メチル)チオ]フェノキシ}酢酸(Bioorg. Med. Chem. Lett., 13 (9), 1517-21, 2003))
【0118】
上記試験の結果、本発明化合物はPPARγ転写活性化作用を有することが判明した。主な化合物の作用を下記表1に示す。
【表1】

更に、これらの化合物は、PPARα及び/又はδの活性化作用を有していることが確認された。例えば、実施例15の化合物は、PPARα及びδにそれぞれ0.08μM及び0.04μMのEC50活性を示した。
【0119】
試験例2 マウスにおける血糖値及び血漿中トリグリセリド低下作用
KK-Ay/Taマウス(雄性、6週齢)を日本クレアより購入し、餌(CMF、オリエンタル酵母)、水道水を自由に摂取させ、2週間馴化させた。8週齢になったマウスから、非絶食下において尾静脈よりヘパリンコートしたヘマトクリット管1本分を採血した。遠心後血漿を採取し、血糖値および血漿中トリグリセリド濃度を、それぞれグルコースCIIテストワコー(和光純薬)およびデタミナーTG II M(協和メディックス)を用いて酵素法により定量した。採血時に体重も測定し、体重、血糖値、および血漿中トリグリセリド濃度がほぼ等しくなるように一群6匹に群分けを行った。被検化合物は0.5%メチルセルロース懸濁液とし、自由摂食・摂水下で1日1回7日間反復強制経口投与を行なった。対照群には0.5%メチルセルロース液を同様に投与した。群分けの日を0日目と規定し、7日目において、体重を測定後、非絶食下において群分け時と同様に採血を行ない、血糖値および血漿中トリグリセリド濃度を測定した。
【0120】
上記試験の結果、実施例15の化合物は、10 mg/kg経口投与で、血糖値を50%、トリグリセリド濃度を82%それぞれ低下させた。
【0121】
以上の試験結果より、本発明化合物は、良好なPPAR活性化作用を有することが確認され、その作用に基づく血糖降下作用及び/又はトリグリセリド低下作用を有することから、本発明化合物は糖尿病等の予防・治療薬として有用であることは明らかである。
【0122】
【表2】

【0123】
【表3】

【0124】
【表4】

【0125】
【表5】

【0126】
【表6】

【0127】
【表7】

【0128】
【表8】

【0129】
【表9】

【0130】
【表10】

【0131】
【表11】

【0132】
【表12】

【0133】
【表13】

【0134】
【表14】

【0135】
【表15】

【0136】
【表16】

【0137】
【表17】

【0138】
【表18】

【0139】
【表19】

【0140】
【表20】

【0141】
【表21】

【0142】
【表22】

【0143】
【表23】

【0144】
【表24】

【0145】
【表25】

【0146】
【表26】

【0147】
【表27】

【0148】
【表28】

【0149】
【表29】

【0150】
【表30】

【0151】
【表31】

【0152】
【表32】

【0153】
【表33】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で示されるフェニルチアゾール誘導体又はその製薬学的に許容される塩。
【化1】

(式中の記号は以下の意味を示す。
R1:同一又は互いに異なって、-ハロゲン、-R0、-O-R0、-S-R0、-R00-O-R0、-CN、-ハロゲノ低級アルキル、又は-O-ハロゲノ低級アルキル、
R0:-低級アルキル、
j:0〜4の整数、
R2及びR3:同一又は互いに異なって、-H又は-R0、或いはR2とR3が一体となって、-(CR11R12)m-、
X:O、S又はN(R13)、
R11、R12及びR13:それぞれ、同一又は互いに異なって、-H又は-R0
R4:-H又は-R0
R5:-H、-R0、-O-R0、-S-R0、-ハロゲノ低級アルキル、又は-O-ハロゲノ低級アルキル、
R6:-N(R21)(R22)、あるいは、下記式(a)、又は(b)で示される基
【化2】

R21及びR22:同一又は互いに異なって、-H、-R0又は-R00-(置換されていてもよいへテロ環)、
R00:-低級アルキレン、
p:0〜2の整数、
r:0〜2の整数、
u:0〜1の整数、
R23及びR24:同一又は互いに異なって、-H、-R0、-OH、-R00-OH、-R00-O-R0又は-O-R0
Y:C(R31)(R32)、O、S、SO、SO2又はN(R33)、
R31及びR32:同一又は互いに異なって、-H、-ハロゲン、-R0、-ハロゲノ低級アルキル、-OH、-R00-OH、-R00-O-R0、-O-R0、-O-ハロゲノ低級アルキル、-CO2-R0、-O-R00-O-R0、-(置換されていてもよいへテロ環)、-R00-(置換されていてもよいへテロ環)、-(置換されていてもよいアリール)、-R00-(置換されていてもよいアリール)、-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-R00-(置換されていてもよいシクロアルキル)、又は-N(R41)(R42)、或いはR31とR32が一体となって、1又は2個のメチレンがO、S、NH又はCOで置き換わっていてもよい-(CH2)t-、又はオキソ、
R41及びR42:同一又は互いに異なって、-H、-R0、-R00-OH、-R00-O-R0、-CO2-R0、-CO-R0、-SO2-R0、-CO-ハロゲノ低級アルキル、-(置換されていてもよいへテロ環)、-R00-(置換されていてもよいへテロ環)、-CO-(置換されていてもよいへテロ環)、-SO2-(置換されていてもよいへテロ環)、-(置換されていてもよいアリール)、-R00-(置換されていてもよいアリール)、-CO-(置換されていてもよいアリール)、-SO2-(置換されていてもよいアリール)、-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-R00-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-CO-(置換されていてもよいシクロアルキル)、又は-SO2-(置換されていてもよいシクロアルキル)、
t:2〜6の整数、
R33:-H、-R0、-ハロゲノ低級アルキル、-R00-OH、-R00-O-R0、-CO2-R0、-CO-ハロゲノ低級アルキル、-(置換されていてもよいへテロ環)、-(置換されていてもよいアリール)、-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-R00-(置換されていてもよいへテロ環)、-R00-(置換されていてもよいアリール)、-R00-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-R00-N(R41)(R42)、-CO-(置換されていてもよいへテロ環)、-CO-(置換されていてもよいアリール)、-CO-(置換されていてもよいシクロアルキル)、-CO-N(R41)(R42)、-SO2-(置換されていてもよいへテロ環)、-SO2-(置換されていてもよいアリール)、-SO2-(置換されていてもよいシクロアルキル)、又は-SO2-N(R41)(R42)、
R25及びR26:同一又は互いに異なって、-H、-R0、-OH、-R00-OH、-R00-O-R0、-O-R0、-S-R0、-ハロゲノ低級アルキル、又は-O-ハロゲノ低級アルキル、
k:0〜2の整数、
m:2〜7の整数、
n:1〜5の整数、但し、nが2以上のときR5は互いに同一又は互いに異なってもよい
【請求項2】
XがO、R6が下記式(c)、又は(d)で示される基である請求項1記載のフェニルチアゾール誘導体又はその製薬学的に許容される塩。
【化3】


【公開番号】特開2009−132620(P2009−132620A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61344(P2006−61344)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】