説明

フェニルヒドラジン類の製造方法

【課題】フェニルヒドラジン類(II)を良好な収率で製造する方法を提供すること。
【解決手段】ジアゾニウム塩(I)と、亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種とを水の存在下に反応させ、次いで、得られた反応混合物を塩化水素と0〜10℃で混合した後、10〜30℃で保持することを特徴とするフェニルヒドラジン類(II)の製造方法。前記保持は、前記反応混合物を塩化水素と混合した際の温度より高い温度で行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(II)
【0002】
【化1】

【0003】
(式中、Rは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルコキシ基又はカルボキシアルキル基を表す。)
で示される化合物〔以下、フェニルヒドラジン類(II)ということがある。〕の製造方法に関する。フェニルヒドラジン類(II)は、例えば、医農薬や写真用カプラー等の製造中間体として有用である。
【背景技術】
【0004】
フェニルヒドラジン類(II)を製造する方法として、例えば、特開2005−336103号公報(特許文献1)には、芳香族ジアゾニウム塩を、塩化スズを用いて還元する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−336103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の方法では、フェニルヒドラジン類(II)の収率の点で必ずしも満足のいくものではなかった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、フェニルヒドラジン類(II)を良好な収率で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
【0009】
(1)式(I)
【0010】
【化2】

(式中、Rは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルコキシ基又はカルボキシアルキル基を表し、Xはアニオンを表す。)
で示されるジアゾニウム塩と、亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種とを水の存在下に反応させ、次いで、得られた反応混合物を塩化水素と0〜10℃で混合した後、10〜30℃で保持することを特徴とする式(II)
【0011】
【化3】

(式中、Rは、前記と同じ意味を表す。)
で示される化合物の製造方法。
(2)前記反応混合物を塩化水素と混合した際の温度より高い温度で前記保持を行う前記(1)に記載の製造方法。
(3)前記反応混合物を、pHが3以下となるように、塩化水素と0〜10℃で混合した後、10〜30℃で保持する前記(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)式(I)及び(II)におけるRがアルコキシ基である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)式(I)及び(II)におけるRがメトキシ基である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(6)式(I)におけるXがClである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)式(I)で示されるジアゾニウム塩が、式(III)
【0012】
【化4】

(式中、Rは、前記と同じ意味を表す。)
で示される化合物を塩化水素の存在下に亜硝酸塩と反応させて得られるものである前記(6)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フェニルヒドラジン類(II)を良好な収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明では、式(I)
【0015】
【化5】

【0016】
(式中、Rは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルコキシ基又はカルボキシアルキル基を表し、Xはアニオンを表す。)
で示されるジアゾニウム塩〔以下、ジアゾニウム塩(I)ということがある。〕と、亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種とを水の存在下に反応させる。
【0017】
式(I)中、アルキル基としては、炭素数が1〜6のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基等が挙げられる。シクロアルキル基としては、炭素数が3〜6のシクロアルキル基が好ましく、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。アルケニル基としては、炭素数が2〜6のアルケニル基が好ましく、例えば、ビニル基、アリル基、2−メチルアリル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−メチル−1−プロペニル基、1−メチル−2−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、1−メチル−1−ブテニル基、2−メチル−1−ブテニル基、3−メチル−1−ブテニル基、1−メチル−2−ブテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、3−メチル−2−ブテニル基、2−メチル−3−ブテニル基、2−メチル−2−ペンテニル基、3−メチル−2−ペンテニル基等が挙げられる。アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、3−フェニルプロピル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、トリフェニルエチル基、(1−ナフチル)メチル基、(2−ナフチル)メチル基等が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数が1〜6のアルコキシ基が好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチロキシ基、ヘキシロキシ基等が挙げられる。カルボキシアルキル基としては、例えば、カルボキシメチル基、1−カルボキシエチル基、2−カルボキシエチル基等が挙げられる。ジアゾニウム塩(I)としては、Rがアルコキシ基であるものが好ましく使用され、中でも、Rがメトキシ基のものが好ましく使用される。
【0018】
式(I)中、アニオンとしては、例えば、Cl、1/2SO2−、1/3PO3−、NO等が挙げられる。ジアゾニウム塩(I)としては、XがCl又は1/2SO2−のものが好ましく使用され、Clのものがより好ましく使用される。
【0019】
前記ジアゾニウム塩(I)の中でも、塩化o−メトキシベンゼンジアゾニウムを原料とする場合に、本発明の方法は有利に採用される。
【0020】
本発明のジアゾニウム塩(I)は、例えば、下記式(III)
【0021】
【化6】

【0022】
(式中、Rは、前記と同じ意味を表す。)
で示される化合物〔以下、オルト置換アニリン類(III)ということがある。〕をジアゾ化することにより得られる。ジアゾ化反応に用いられるジアゾ化剤としては、例えば、亜硝酸、一酸化窒素、二酸化窒素等の窒素酸化物、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等の亜硝酸塩、亜硝酸n−ブチル、亜硝酸i−ブチル、亜硝酸n−ペンチル、亜硝酸i−ペンチル等の亜硝酸エステル等が挙げられ、中でも、取り扱いが容易である点で、亜硝酸塩が好ましい。亜硝酸塩を使用する場合、固体状のものを使用してもよいし、水溶液として使用してもよいが、好ましくは水溶液として用いられる。亜硝酸塩の使用量は、オルト置換アニリン類(III)1モルに対して、通常1.0〜1.2モルの範囲である。
【0023】
ジアゾ化反応には、通常、ジアゾ化剤と共に、酸が用いられる。酸の存在下にジアゾ化反応を行うことにより、使用した酸の対アニオンをXとして有するジアゾニウム塩(I)が得られる。酸としては、無機酸が好ましく、例えば、塩化水素、硫酸、リン酸、硝酸等が挙げられる。無機酸の中でも、塩化水素、硫酸が好ましい。特に、ジアゾ化剤として窒素酸化物を用いる場合は、得られるジアゾニウム塩(I)の収率の点で、酸として硫酸を用いるのが好ましく、ジアゾ化剤として亜硝酸塩を用いる場合は、得られるジアゾニウム塩(I)の収率の点で、酸として塩化水素を用いるのが好ましい。酸は、好ましくは水溶液として用いられる。酸の使用量は、オルト置換アニリン類(III)1モルに対して、通常1.0〜10モルであり、好ましくは1.5〜5モルであり、より好ましくは2.0〜4.0モルの範囲である。
【0024】
ジアゾ化反応には、通常、水を含む溶媒が用いられる。水を含む溶媒としては、水単独であってもよいし、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよいが、水単独の溶媒が好ましい。該有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、n−ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、n−ドデカノール等のアルコール類、ペンタン、ヘキサン、石油エーテル、リグロイン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエチレン、1,1,2,2−テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられ、必要に応じてこれらの2種以上を用いることもできる。
【0025】
水を含む溶媒の使用量は、オルト置換アニリン類(III)に対して、通常1〜20重量倍、好ましくは1〜10重量倍である。
【0026】
ジアゾ化反応において、オルト置換アニリン類(III)、ジアゾ化剤、酸、及び、水を含む溶媒の添加順序は特に限定されないが、オルト置換アニリン類(III)と、酸と、水を含む溶媒との混合物に、ジアゾ化剤を加えるのが好ましい。ジアゾ化剤として前記窒素酸化物を使用する場合においては、オルト置換アニリン類(III)と、酸と、水を含む溶媒との混合物に、前記窒素酸化物を吹き込むのが好ましい。ジアゾ化反応の反応温度は、通常、−20〜20℃、好ましくは−10〜10℃、より好ましくは−5〜5℃の範囲である。ジアゾ化反応の反応時間は、反応温度等の反応条件により異なるが、通常、1〜20時間である。ジアゾ化反応は通常、常圧付近で実施されるが、必要に応じて加圧下で行ってもよい。ジアゾ化反応の反応方式としては、連続式、半回分式、回分式のいずれも採用することができる。
【0027】
本発明で使用される亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種において、亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム等が挙げられる。また、亜硫酸水素塩としては、亜硫酸水素アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム等が挙げられる。亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の使用量は、ジアゾニウム塩(I)1モルに対して、通常2モル以上であり、好ましくは2.0〜3.0モルであり、より好ましくは2.1〜2.8モルの範囲である。亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩を併用する場合は、その合計使用量が上記範囲となればよい。亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種は、固体状のものを使用してもよいし、水溶液として使用してもよいが、好ましくは水溶液として用いられる。亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む水溶液は、pHが調整されたものを使用するのが好ましく、そのpHとしては、5.0〜8.0の範囲が好ましく、5.5〜7.5の範囲がより好ましい。pHの調整には、塩化水素、硫酸等の酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の塩基を使用することができる。
【0028】
ジアゾニウム塩(I)と、亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と、水との混合方法としては、適宜選択されるが、例えば、(A)亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む水溶液にジアゾニウム塩(I)を加える方法、(B)ジアゾニウム塩(I)に亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む水溶液を加える方法、(C)ジアゾニウム塩(I)と水との混合物に亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を加える方法、(D)ジアゾニウム塩(I)と、亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む水溶液とを反応系内に併注する方法、(E)ジアゾニウム塩(I)及び水の混合物と、亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種とを反応系内に併注する方法、(F)ジアゾニウム塩(I)と、亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と、水とを反応系内に併注する方法等が挙げられるが、前記(A)の方法が好ましい。前記(A)、(B)及び(D)の方法において、ジアゾニウム塩(I)は、水との混合物であってもよい。
【0029】
ジアゾニウム塩(I)と、亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種との反応における温度は、通常20〜100℃であり、好ましくは30〜85℃である。該反応は、特に、最終的に得られるフェニルヒドラジン類(II)の収率を高くすることができる点で、ジアゾニウム塩(I)と、亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と、水とを45〜100℃、好ましくは50〜80℃で混合した後、得られた混合物を45〜100℃、好ましくは55〜85℃で熱処理することにより行うことが好ましい。この場合、最終的に得られるフェニルヒドラジン類(II)の収率を高くすることができる点で、混合時におけるpHは、好ましくは5.5〜7.5の範囲であり、より好ましくは6.0〜7.0の範囲である。pHの調整には、上述の酸や塩基を使用することができる。
【0030】
ジアゾニウム塩(I)と、亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種との反応における水の使用量は、亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種に対して、通常1〜20重量倍、好ましくは1〜10重量倍である。亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩を併用する場合は、その合計使用量に対して水の使用量が上記範囲となればよい。
【0031】
ジアゾニウム塩(I)と、亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種との反応においては、有機溶媒を使用してもよい。該有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、n−ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、n−ドデカノール等のアルコール類、ペンタン、ヘキサン、石油エーテル、リグロイン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエチレン、1,1,2,2−テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられ、必要に応じてこれらの2種以上を用いることもできる。
【0032】
ジアゾニウム塩(I)と、亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種との反応は、通常、常圧付近で実施されるが、必要に応じて加圧下で行ってもよい。該反応の反応方式としては、連続式、半回分式、回分式のいずれも採用することができる。
【0033】
ジアゾニウム塩(I)と、亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種との反応後に得られる反応混合物を、次いで、塩化水素と0〜10℃で混合する。混合方法としては、前記反応混合物に塩化水素を添加する方法、前記反応混合物を塩化水素に添加する方法、前記反応混合物と塩化水素とを反応系内に併注する方法等が挙げられるが、最終的に得られるフェニルヒドラジン類(II)の収率を高くすることができる点で、前記反応混合物に塩化水素を添加する方法が好ましい。塩化水素としては、塩化水素ガス又は塩酸が使用できるが、塩酸を使用するのが好ましい。塩酸中の塩化水素の濃度は、通常10〜40重量%、好ましくは25〜37重量%である。塩化水素の使用量は、ジアゾニウム塩(I)1モルに対して、通常1.0〜10モルであり、好ましくは2.0〜8.0モルであり、より好ましくは3.0〜7.0モルの範囲である。尚、塩化水素との混合後の混合物におけるpHは、3以下が好ましく、1以下がより好ましい。塩化水素との混合後の混合物におけるpHを3以下とすることにより、最終的に得られるフェニルヒドラジン類(II)の収率を高くすることができる。塩化水素との混合後の混合物におけるpHは、塩化水素の使用量により調整することができる。塩化水素との混合時の温度は、通常0〜10℃であり、好ましくは2〜7℃である。塩化水素との混合時の温度を0〜10℃とすることにより、最終的に得られるフェニルヒドラジン類(II)の収率を高くすることができる。塩化水素との混合は、通常、常圧付近で実施されるが、必要に応じて加圧下で行ってもよい。
【0034】
前記反応混合物と塩化水素との混合時には、さらに溶媒を混合してもよい。該溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、n−ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、n−ドデカノール等のアルコール類、ペンタン、ヘキサン、石油エーテル、リグロイン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエチレン、1,1,2,2−テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、水等が挙げられ、必要に応じてこれらの2種以上を用いることもできる。
【0035】
ジアゾニウム塩(I)と、亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種との反応後に得られる反応混合物を、0〜10℃で塩化水素と混合した後、次いで、10〜30℃で保持する。塩化水素と混合後の保持温度は、好ましくは10〜25℃である。保持温度を10〜30℃とすることにより、最終的に得られるフェニルヒドラジン類(II)の収率を高くすることができる。保持温度は、塩化水素と混合した際の温度より高い温度とするのが好ましい。保持時間は、保持温度等の条件により異なるが、0.5〜3時間が好ましい。保持の際の圧力は、通常、常圧付近であるが、必要に応じて加圧されていてもよい。
【0036】
前記保持の際には、溶媒を使用してもよい。該溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、n−ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、n−ドデカノール等のアルコール類、ペンタン、ヘキサン、石油エーテル、リグロイン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエチレン、1,1,2,2−テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、水等が挙げられ、必要に応じてこれらの2種以上を用いることもできる。
【0037】
前記塩化水素との混合と、混合後の保持は、同じ反応器内で回分式により行ってもよいし、直列に接続した複数の反応器に連続して流通させて、混合と保持とを別々の反応器で連続式により実施してもよい。前記反応器としては、通常、攪拌混合方式の反応器が使用される。回分式で前記反応混合物に塩化水素を添加する場合、塩化水素の添加時間は、使用量等により適宜設定されるが、好ましくは0.5〜5時間である。
【0038】
かくして、式(II)
【0039】
【化7】

【0040】
(式中、Rは、前記と同じ意味を表す。)
で示される化合物〔フェニルヒドラジン類(II)〕を含む反応混合物を得ることができる。前記保持後の後処理操作については、適宜選択されるが、例えば前記保持後に得られる反応混合物を濃縮することによりフェニルヒドラジン類(II)を分離してもよいし、前記保持後に得られる反応混合物のpHを調整し、有機溶媒で抽出することにより有機溶媒溶液としてフェニルヒドラジン類(II)を分離してもよいし、前記保持後に得られる反応混合物がフェニルヒドラジン類(II)のスラリーである場合には、濾過によりフェニルヒドラジン類(II)を分離してもよい。前記抽出において、pHは、通常、8〜12の範囲に調整され、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の塩基を添加することにより調整することができる。抽出に使用する有機溶媒としては、水と分液可能なものであればよいが、例えば、n−ブタノール、n−ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、n−ドデカノール等の炭素数4〜12の脂肪族アルコール類、ペンタン、ヘキサン、石油エーテル、リグロイン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエチレン、1,1,2,2−テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられ、必要に応じてこれらの2種以上を用いることもできる。尚、ジアゾニウム塩(I)と亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種との反応や、上述の塩化水素との混合や、上述の塩化水素との混合後の保持の際に、抽出溶媒を兼ねて水と分液可能な有機溶媒を使用してもよい。分離されたフェニルヒドラジン類(II)は、必要に応じて再結晶、蒸留、クロマトグラフィー等の操作により精製することができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれによって限定されるものではない。尚、実施例中、o−アニシジン〔式(III)中、Rがメトキシ基である化合物〕の含有量、塩化o−メトキシベンゼンジアゾニウム〔式(I)中、Rがメトキシ基であり、XがClである化合物〕の収率や含有量、及びo−メトキシフェニルヒドラジン〔式(II)中、Rがメトキシ基である化合物〕の収率や含有量は、高速液体クロマトグラフィーにより分析し、算出した。
【0042】
参考例1
300mlフラスコに、o−アニシジン20.14g(0.16モル)と、水25.12gと、20重量%塩酸60.77g(0.33モル)とを入れて室温で攪拌し溶液とした。該溶液を攪拌しながら0℃に冷却し、40重量%亜硝酸ナトリウム水溶液28.49g(0.17モル)を、混合液の温度を0℃に保ちながら、1時間かけて滴下して、塩化o−メトキシベンゼンジアゾニウムを含む混合液(i)134.52gを得た。該混合液(i)を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、混合液(i)中の塩化o−メトキシベンゼンジアゾニウムの含有量は20.76重量%であり、o−アニシジンに対する塩化o−メトキシベンゼンジアゾニウムの収率は100%であった。
【0043】
実施例1
1Lフラスコに、35重量%亜硫酸水素ナトリウム水溶液107.89g(0.36モル)と、塩化ナトリウム34.65g(0.59モル)と、水83.40gとを入れて室温で攪拌し溶液とした。該溶液を攪拌しながら、25重量%アンモニア水溶液を加え、pH6.0に調整し、混合液(A)を得た。得られた混合液(A)を攪拌しながら60℃に昇温し、60℃で、25重量%アンモニア水溶液を加えてpH6.0に保ちながら、参考例1に記載の方法で得られた混合液(i)を、0.5時間かけて全量加えた。次いで、75℃に昇温し、75℃で1時間攪拌した後、5℃に冷却し、反応混合物(A)を得た。得られた反応混合物(A)は溶液であり、pHは9.1であった。該反応混合物(A)を攪拌し5℃に保ちながら、35重量%塩酸83.60g(0.80モル)を、2時間かけて滴下した。滴下終了後の混合物のpHは−0.14であった。滴下終了後、25℃に昇温し、25℃で1時間攪拌し、反応混合物(B)を得た。得られた反応混合物(B)のpHは−0.85であった。得られた反応混合物(B)に48重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを9.6に調整した後、トルエン142.76gを加えて0.5時間攪拌した。攪拌後、0.2時間静置することで油水分離し、有機相として、o−メトキシフェニルヒドラジンのトルエン溶液161.22gを得た。この溶液を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、溶液中のo−メトキシフェニルヒドラジンの含有量は11.67重量%であり、塩化o−メトキシベンゼンジアゾニウムに対するo−メトキシフェニルヒドラジンの収率は83.3%であった。
【0044】
実施例2
実施例1と同様の操作を行い、反応混合物(A)を得た。該反応混合物(A)を攪拌し10℃に保ちながら、35重量%塩酸86.12g(0.83モル)を、2時間かけて滴下した。滴下終了後の混合物のpHは−0.50であった。滴下終了後、25℃に昇温し、25℃で1時間攪拌し、反応混合物(C)を得た。得られた反応混合物(C)のpHは−0.87であった。得られた反応混合物(C)に48重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを9.6に調整した後、トルエン142.90gを加えて0.5時間攪拌した。攪拌後、0.2時間静置することで油水分離し、有機相として、o−メトキシフェニルヒドラジンのトルエン溶液161.17gを得た。この溶液を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、溶液中のo−メトキシフェニルヒドラジンの含有量は11.41重量%であり、塩化o−メトキシベンゼンジアゾニウムに対するo−メトキシフェニルヒドラジンの収率は81.4%であった。
【0045】
実施例3
実施例1と同様の操作を行い、反応混合物(A)を得た。該反応混合物(A)を攪拌し5℃に保ちながら、35重量%塩酸92.28g(0.89モル)を、2時間かけて滴下した。滴下終了後の混合物のpHは−0.11であった。滴下終了後、10℃に昇温し、10℃で2.5時間攪拌し、反応混合物(D)を得た。得られた反応混合物(D)のpHは−0.55であった。得られた反応混合物(D)に48重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを9.6に調整した後、トルエン143.22gを加えて0.5時間攪拌した。攪拌後、0.2時間静置することで油水分離し、有機相として、o−メトキシフェニルヒドラジンのトルエン溶液160.49gを得た。この溶液を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、溶液中のo−メトキシフェニルヒドラジンの含有量は11.36重量%であり、塩化o−メトキシベンゼンジアゾニウムに対するo−メトキシフェニルヒドラジンの収率は80.7%であった。
【0046】
実施例4
実施例1と同様の操作を行い、反応混合物(A)を得た。該反応混合物(A)を攪拌し5℃に保ちながら、35重量%塩酸84.39g(0.81モル)を、2時間かけて滴下した。滴下終了後の混合物のpHは−0.13であった。滴下終了後、15℃に昇温し、15℃で3時間攪拌し、反応混合物(E)を得た。得られた反応混合物(E)のpHは−0.59であった。得られた反応混合物(E)に48重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを9.6に調整した後、トルエン142.48gを加えて0.5時間攪拌した。攪拌後、0.2時間静置することで油水分離し、有機相として、o−メトキシフェニルヒドラジンのトルエン溶液160.45gを得た。この溶液を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、溶液中のo−メトキシフェニルヒドラジンの含有量は11.63重量%であり、塩化o−メトキシベンゼンジアゾニウムに対するo−メトキシフェニルヒドラジンの収率は82.6%であった。
【0047】
実施例5
実施例1と同様の操作を行い、反応混合物(A)を得た。該反応混合物(A)を攪拌し5℃に保ちながら、35重量%塩酸84.45g(0.81モル)を、2時間かけて滴下した。滴下終了後の混合物のpHは−0.17であった。滴下終了後、20℃に昇温し、20℃で1.5時間攪拌し、反応混合物(F)を得た。得られた反応混合物(F)のpHは−0.80であった。得られた反応混合物(F)に48重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを9.6に調整した後、トルエン143.66gを加えて0.5時間攪拌した。攪拌後、0.2時間静置することで油水分離し、有機相として、o−メトキシフェニルヒドラジンのトルエン溶液161.39gを得た。この溶液を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、溶液中のo−メトキシフェニルヒドラジンの含有量は11.40重量%であり、塩化o−メトキシベンゼンジアゾニウムに対するo−メトキシフェニルヒドラジンの収率は81.4%であった。
【0048】
比較例1
実施例1と同様の操作を行い、反応混合物(A)を得た。該反応混合物(A)を攪拌し15℃に保ちながら、35重量%塩酸85.77g(0.82モル)を、2時間かけて滴下した。滴下終了後の混合物のpHは−0.61であった。滴下終了後、25℃に昇温し、25℃で1時間攪拌し、反応混合物(G)を得た。得られた反応混合物(G)のpHは−0.81であった。得られた反応混合物(G)に48重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを9.6に調整した後、トルエン142.78gを加えて0.5時間攪拌した。攪拌後、0.2時間静置することで油水分離し、有機相として、o−メトキシフェニルヒドラジンのトルエン溶液159.34gを得た。この溶液を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、溶液中のo−メトキシフェニルヒドラジンの含有量は9.58重量%であり、塩化o−メトキシベンゼンジアゾニウムに対するo−メトキシフェニルヒドラジンの収率は67.6%であった。
【0049】
比較例2
実施例1と同様の操作を行い、反応混合物(A)を得た。該反応混合物(A)を攪拌し25℃に保ちながら、35重量%塩酸86.61g(0.83モル)を、2時間かけて滴下した。滴下終了後の混合物のpHは−0.82であった。滴下終了後、25℃で1時間攪拌し、反応混合物(H)を得た。得られた反応混合物(H)のpHは−0.76であった。得られた反応混合物(H)に48重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを9.6に調整した後、トルエン143.22gを加えて0.5時間攪拌した。攪拌後、0.2時間静置することで油水分離し、有機相として、o−メトキシフェニルヒドラジンのトルエン溶液160.94gを得た。この溶液を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、溶液中のo−メトキシフェニルヒドラジンの含有量は9.47重量%であり、塩化o−メトキシベンゼンジアゾニウムに対するo−メトキシフェニルヒドラジンの収率は67.4%であった。
【0050】
比較例3
実施例1と同様の操作を行い、反応混合物(A)を得た。該反応混合物(A)を攪拌し5℃に保ちながら、35重量%塩酸84.97g(0.82モル)を、2時間かけて滴下した。滴下終了後の混合物のpHは−0.16であった。滴下終了後、5℃で4時間攪拌し、反応混合物(I)を得た。得られた反応混合物(I)のpHは−0.10であった。得られた反応混合物(I)に48重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを9.6に調整した後、トルエン142.69gを加えて0.5時間攪拌した。攪拌後、0.2時間静置することで油水分離し、有機相として、o−メトキシフェニルヒドラジンのトルエン溶液157.95gを得た。この溶液を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、溶液中のo−メトキシフェニルヒドラジンの含有量は9.64重量%であり、塩化o−メトキシベンゼンジアゾニウムに対するo−メトキシフェニルヒドラジンの収率は67.4%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

(式中、Rは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルコキシ基又はカルボキシアルキル基を表し、Xはアニオンを表す。)
で示されるジアゾニウム塩と、亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種とを水の存在下に反応させ、次いで、得られた反応混合物を塩化水素と0〜10℃で混合した後、10〜30℃で保持することを特徴とする式(II)
【化2】

(式中、Rは、前記と同じ意味を表す。)
で示される化合物の製造方法。
【請求項2】
前記反応混合物を塩化水素と混合した際の温度より高い温度で前記保持を行う請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記反応混合物を、pHが3以下となるように、塩化水素と0〜10℃で混合した後、10〜30℃で保持する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
式(I)及び(II)におけるRがアルコキシ基である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
式(I)及び(II)におけるRがメトキシ基である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
式(I)におけるXがClである請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
式(I)で示されるジアゾニウム塩が、式(III)
【化3】

(式中、Rは、前記と同じ意味を表す。)
で示される化合物を塩化水素の存在下に亜硝酸塩と反応させて得られるものである請求項6に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−246275(P2012−246275A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121550(P2011−121550)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】