説明

フェニレンジアミン、それを用いて形成される配向膜、および該配向膜を含む液晶表示素子

【課題】 本発明の課題は、電圧保持率が高く、「焼き付き」が起こりにくいという特性を有する液晶表示素子を提供すること、好ましくは垂直配向(VA)方式の液晶表示素子を提供することである。また、該液晶表示素子に用いることができる配向膜を製作するための新規化合物を提供することである。
【解決手段】 一般式(1)で表されるフェニレンジアミン、及びそれを原料として製造されるポリマー。ならびにそれを利用して製作した配向膜、及びそれを用いた液晶表示素子。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフェニレンジアミン化合物、該フェニレンジアミンを原料として合成したポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミド、またはポリアミドイミドに関する。さらに本発明は、前記ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミドおよびポリアミドイミドから選ばれる少なくとも1つを含有するワニスを用いて形成された配向膜、ならびに該配向膜を有する液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は画面の拡大化やカラー化、コントラストや発色等の表示品位や応答速度向上の要求に伴い、表示原理がツイステッドネマチック方式(Twisted Nematic:TN)から、スーパーツイステッドネマチック方式(Super Twisted Nematic :STN)へ発展し、また駆動方式がパッシブマトリクス方式からアクティブマトリクス方式へ発展してきた。現在では、画素一つ一つに薄膜トランジスタ(Thin Filmed Transistor:TFT)を取り付けたTFT型表示素子が代表的な液晶表示素子となっている。
さらに近年では、TFT型表示素子の駆動方式の改良が進み、例えば視野角をさらに拡大するため、イン−プレ−ン スイッチング(In-Plain Switching:IPS)方式や垂直配向(Vertical Aliment、以下、VAと略す)方式が開発され、さらに動画に対応可能な応答速度を持つ光学補償ベンド(Optically Compensated Bend:OCB)方式が開発されている。
【0003】
配向膜は、液晶表示素子において基板と液晶の界面に設けられる膜であり、液晶分子を、1)一定方向に配向させること、および2)基板平面に対して傾けること(プレチルト角を付与すること)の2つの役割を果たしている。基板平面に対する液晶分子の傾きの角度を「プレチルト角」と称する。本明細書中でも、以下においてこの名称を使用する。配向膜は、液晶分子の配向の経時的な劣化、化学的な劣化、および熱的な劣化を最小限に抑える必要があるため、配向膜の材料としては、ガラス転移点(Tg)が高く、かつ耐薬品性や耐熱性に優れたポリイミドが主に使用されている。
【0004】
配向膜は、通常以下の手順により形成される。
1)ポリアミック酸または可溶性ポリイミドを含む溶液を、スピナー法や印刷法等により電極付ガラス基板に塗布し、
2)その基板を加熱してポリアミック酸を脱水して閉環することによりポリイミドとするか、または可溶性ポリイミド溶液の溶媒を蒸発させることによってポリイミドの薄膜を形成し、
3)さらにラビング等の配向処理工程を施す。
【0005】
このようにして表面に配向膜を形成した基板を、対向させて2枚貼り合わせてセルを組み立て、該セルの内部(2つの基板の間)を減圧にした後、液晶に浸すことで開口部からセル中に液晶を注入させ、液晶表示素子は作製される。しかしながら、この作製方法では液晶の注入に時間がかかり、このことは特に大画面用の表示素子を作製する際の問題となっていた。そこで生産性を向上させるために、液晶を基板上の配向膜の上に直接滴下した後に、基板を貼り合わせて液晶表示素子を作製する、「滴下注入」が最近行われ始めている。
【0006】
配向膜は、液晶表示素子において以下のような効果を発揮し、またそれを含む液晶表示素子は以下のような特性を有することが要求される。
(1)液晶分子に適切なプレチルト角を付与すること。かつ、配向膜をラビング処理した時の押込み強度や、加熱したときの温度の差による該プレチルト角の変化が小さいこと。(2)配向処理をされても、液晶表示素子に配向の欠陥を発生させないこと。
(3)液晶表示素子に適切な電圧保持率(Voltage Holding Ratio: V. H. R.)を与えること。
(4)液晶表示素子に任意の画像を長時間表示させた後、別の画像に変えたときに前の画像が残像として残る「焼き付き」と呼ばれる現象が起きにくいこと。
特に、TFT型表示素子は高い電圧保持率を有し、しかも焼き付き現象を起こしにくいことが要求されるので、該表示素子に用いられる配向膜はそのような要求をみたす高品質な配向膜であることが要求されている。
【0007】
また、垂直配向(VA)方式においては、電圧無印加時に液晶分子を基板に対して垂直に配向させる必要がある。これは通常、配向膜の成分(ポリマー、例えばポリイミド)の原料であるジアミン化合物に、大きな置換基を導入することで達成し得ることが知られている。このような目的を持つ、大きな置換基を導入されたジアミン化合物としては、置換フェニレンジアミン誘導体が適しており、該置換フェニレンジアミン誘導体としては、下記式(6)で表される化合物(特許文献1参照)および下記式(7)で表される化合物(特許文献2参照)が知られている。
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

【0010】
しかしながら、上記した要求特性を満足する配向膜を設計し、また上記した特性を有する液晶表示素子を作製するには、配向膜の成分の原料となる種々のジアミン、すなわち様々な置換基を有するフェニレンジアミン誘導体をさらに開発することが必要である。
【特許文献1】WO97/30107
【特許文献2】特開2002−327058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、電圧保持率(VHR)が高く、「焼き付き」が起こりにくいという特性を有する液晶表示素子を提供することである。また、好ましくは、このような特性を満たす垂直配向(VA)方式の液晶表示素子を提供することである。
また、本発明の目的は、液晶表示素子に前記特性をもたらし得る配向膜を提供することであり、例えば、液晶表示素子における配向の欠陥を発生させることなく配向処理するこ
とが可能な配向膜、または液晶分子に適切なプレチルト角を付与することができ、ラビング処理や加熱された場合にも該プレチルト角を変化させにくい配向膜を提供することである。また、好ましくは液晶分子を垂直に配向させることができる配向膜を提供することである。さらには、液晶表示素子において液晶中の可動イオンの密度を低減させうる(例えば該イオンをトラップする)配向膜を提供することである。
さらに、本発明の目的は、前記配向膜を形成するための材料(例えばワニス)、その材料に含まれるポリマー(例えばポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミドまたはポリアミドイミド)、そのポリマーの原料となる化合物(フェニレンジアミン)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は鋭意研究開発を進めた結果、特定のフェニレンジアミンを原料として製造される特定のポリマーを含むワニスを用いて形成した配向膜が、液晶表示素子において数度〜90゜までのプレチルト角を与え、さらに配向処理(ラビングを含む)や洗浄などの処理が施されても該プレチルト角を変化させないことを見出した。
また、この配向膜を含む液晶表示素子は、液晶分子の配向の安定性が優れており、電圧保持率(VHR)が高く、かつ焼き付きが少ないことを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は以下から構成される。
[1] 下記一般式(1)で表されるフェニレンジアミン。
【0014】
【化3】

【0015】
[2] 前記一般式(1)において、アミノ基(−NH)がアミド基に対して3,5−位に位置する、[1]に記載のフェニレンジアミン。
[3] 前記一般式(1)において、アミノ基(−NH)がアミド基に対して2,5−位に位置する、[1]に記載のフェニレンジアミン。
[4] 前記一般式(1)において−N−Cycleが、以下の一般式(2)で表される環状アミノ基である、[1]〜[3]のいずれかに記載のフェニレンジアミン。
【0016】
【化4】

【0017】
[5] 前記一般式(2)において、
が水素または炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐鎖アルキルであり、
、A、およびAは、それぞれ独立して単結合、1,4‐シクロヘキシレン、1,4−フェニレンであり、
、B、およびBは、それぞれ独立して単結合、炭素数1〜4の直鎖アルキレンである、[4]に記載のフェニレンジアミン。
[6] 前記一般式(2)において、
が炭素数1〜12の直鎖または分岐鎖アルキルであり、
,AおよびAが、それぞれ独立して1,4−シクロへキシレンまたは単結合であって、かつ少なくとも1つが単結合であり、
,BおよびBが、それぞれ独立してエチレンまたは単結合であって、かつ少なくとも2つが単結合であることを特徴とする、[4]に記載のフェニレンジアミン。
[7] 前記一般式(1)において、−N−Cycleが以下の一般式(3)または一般式(4)で表される環状アミノ基である、[1]〜[3]のいずれかに記載のフェニレンジアミン。
【0018】
【化5】

【0019】
[8] [1]〜[7]のいずれかに記載のフェニレンジアミンと、テトラカルボン酸二無水物との反応生成物である、ポリアミック酸またはポリイミド。
[9] [1]〜[7]のいずれかに記載のフェニレンジアミンと、ジカルボン酸またはその誘導体との反応生成物である、ポリアミド。
[10] [1]〜[7]のいずれかに記載のフェニレンジアミンと、テトラカルボン酸二無水物およびジカルボン酸もしくはその誘導体との反応生成物、または[1]〜[7]のいずれかに記載のフェニレンジアミンと、トリカルボン酸またはその誘導体との反応生成物である、ポリアミドイミド。
[11] [8]に記載のポリアミック酸またはポリイミドを含有するワニス。
[12] [9]に記載のポリアミドを含有するワニス。
[13] [10]に記載のポリアミドイミドを含有するワニス。
[14] [11]〜[13]のいずれかに記載のワニスを用いて形成される配向膜。
[15] [14]に記載の配向膜を含む液晶表示素子。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、新規なフェニレンジアミンを提供することができ、該フェニレンジアミンを原料として新規なポリマー(ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミドおよびポリアミドイミドを含む)を提供することができる。さらに本発明によれば、上記フェニレンジアミンを短い合成ルートで安価に合成することができるので、下記する高機能な液晶表示素子をより安価に提供することが可能となる。
また、本発明によれば、前記ポリマーを含有するワニスを用いて、液晶表示素子において、液晶分子に対して安定したプレチルト角を与えることができる配向膜を形成することができ、かつ配向不良による光抜けを起こしにくくすることができる配向膜を形成することもできる。特に、長い側鎖を有するフェニレンジアミンから製造されるポリマーを含有するワニスを用いることにより、液晶表示素子においてプレチルト角を垂直にすることができる配向膜を形成することもできる。
さらに、本発明によれば、前記配向膜を用いて、電圧保持率(VHR)が高く、かつ/または焼き付きが少ない液晶表示素子を製造することができる。特に前記したプレチルト角を垂直にすることができる配向膜を用いることにより、優れた特性を有する垂直配向(VA)方式の液晶表示素子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
<本発明のフェニレンジアミン>
本発明のフェニレンジアミンは上記一般式(1)で表される化合物である。一般式(1)において、2つのアミノ基(−NH)およびRは、それぞれベンゼン環の環炭素に結合している。
一般式(1)においてRは、水素またはメチルであるが、好ましくは水素である。Rは、2つのアミノ基およびアミド基がいずれも結合していない、フェニル環の環炭素のいずれかに結合している。
【0022】
一般式(I)を含むジアミンと、後述するカルボン酸類または酸無水物とを反応させて得られるポリマーの主鎖の直線性を上げるために、一般式(1)における2つのアミノ基はそれぞれ、アミド基が結合したフェニル環の環炭素を1位とした場合に、3位および5位、あるいは2位および5位に結合していることが好ましい。前記主鎖の直線性が低いポリマー(特に分子量が小さいポリマー)を用いて形成される配向膜は、ラビング処理などにより「削れ」が発生することがあり、配向欠陥の原因となる。
【0023】
一般式(1)において−N−Cycleは環状アミノ基であり、該環状アミノ基の環は非芳香族性の環であることが好ましい。環状アミノ基の環を構成する原子の少なくとも一つは炭素であることが好ましい。環状アミノ基の環を構成する原子としては、炭素の他、窒素、酸素、硫黄などが挙げられる。環状アミノ基の環を構成する炭素原子は一価の有機基を有していてもよい。
なお、環状アミノ基の環の員数は特に限定されず、3員環以上であればよい。
前記一価の有機基が、バルキーな置換基または長鎖状の置換基であるフェニレンジアミンから作製される配向膜は、液晶表示素子において液晶分子を垂直に配向させることができる。従って、垂直配向(VA)方式の液晶表示素子に用いる配向膜を形成する場合は、前記一価の有機基をバルキーな置換基または長鎖状の置換基とすることが好ましい。
【0024】
前記環状アミノ基としては、N−ピペリジニル基が好ましく例示される。N−ピペリニジニル基の環炭素(好ましくはピペリジニル環の4位の炭素)は、一価の有機基を有することが好ましい。前記環状アミノ基であるN−ピペリジニル基として、具体的に上記一般式(2)で表される基が好ましく例示される。
【0025】
一般式(2)においてRは、水素または炭素数1〜20(好ましくは1〜12)のアルキルである。該アルキルは直鎖状または分岐鎖状のアルキルであるが、好ましくは直鎖状のノルマルアルキルである。該アルキルを構成するメチレン(−CH−)はジフルオロメチレン(−CF−)、エーテル基(−O−)またはカルボニル基(−CO−)で置換されていてもよい。但し、連続しているメチレンのいずれもが、エーテル基(−O−)またはカルボニル基(−CO−)で置換されない、すなわち、エーテル基(−O−)またはカルボニル基(−CO−)が互いに隣り合わないことが好ましい。
【0026】
一般式(2)においてRが、水素またはアルキル(フルオロアルキルを含む)である環上アミノ基(−N−Cycle)を有するフェニレンジアミンを用いて作製される本発明の液晶表示素子は、高い電圧保持率を有する。
さらに、Rがジフルオロメチレン(−CF−)を含むアルキルであるフェニレンジアミンを用いて形成される配向膜は、Rがフルオロメチレンを含まないアルキルであるフェニレンジアミンを用いて形成される配向膜と比較して、小さい表面エネルギーを有する。配向膜の表面エネルギーを小さくすると、液晶表示素子におけるプレチルト角は大きくなる傾向がある。よって、IPS方式やTN方式の液晶表示素子用途の配向膜を形成させるために使用する場合には、Rがジフルオロメチレン(−CF−)を含むアルキルである環上アミノ基(−N−Cycle)を有するフェニレンジアミンの使用量は、必要最小限の量とするのが好ましい。
【0027】
また、後述のポリマーブレンド(ワニスに複数種のポリマーを含有させること)を行う場合、Rがフルオロメチレンを含むアルキルである環上アミノ基を有するフェニレンジアミンを用いれば、ブレンドされたポリマーのそれぞれの層が形成され、それらの層の分離状態がよくなる。したがって何らかの理由により、ポリマーブレンドを行うには、これらのフェニレンジアミンを用いることが好ましい。
【0028】
一般式(2)において、A、A、およびAはそれぞれ独立して、単結合、1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、または1,4−ビシクロ[2,2,2]オクタニレンである。これらのうち、合成が容易であることから1,4−シクロヘキシレンまたは1,4−フェニレンが好適である。また1,4−フェニレンはベンゼン環上の1〜4個(好ましくは1〜2個)の水素が、メチル、メトキシまたはフッ素で置換されていてもよい。
【0029】
〜Aの一または二以上が、1,4−シクロへキシレン、または1,4−フェニレン(無置換または、ベンゼン環上の水素がメチルもしくはフッ素(好ましくはフッ素)で置換されていてもよい)である環状アミノ基、特に1,4−シクロへキシレンである環状アミノ基を有するフェニレンジアミンを用いて製造される本発明の液晶表示素子は、高い電圧保持率を保つことができ、焼き付き現象を抑えることができる。
【0030】
また、A〜Aの一または二以上がフッ素で置換された1,4−フェニレンである環状アミノ基を有するフェニレンジアミンを用いて形成される配向膜は、フッ素で置換されない1,4−フェニレンである環状アミノ基を有するフェニレンジアミンを用いて形成される配向膜と比較して、小さい表面エネルギーを有する。従って、上記と同様の理由で、IPS方式やTN方式の液晶表示阻止用途の配向膜を形成させるために使用する場合は、A〜Aの一または二以上がフッ素で置換された1,4−フェニレンである環状アミノ基を有するフェニレンジアミンの使用量は、必要最小限とするのが好ましい。
また、上記と同様の理由で、ポリマーブレンドを行う場合、ブレンドされるそれぞれのポリマーの層を形成させ、それらの層分離状態を良くするためには、これらのジアミンを用いることが好ましい。
【0031】
一般式(2)において、B、B、およびBはそれぞれ独立して、単結合、炭素数1〜4のアルキレン、エーテル結合(−O−)、オキシカルボニル基、またはアミノカルボニル基である。
前記炭素数1〜4のアルキレンにおいて、任意のメチレン(−CH−)がジフルオロメチレン(−CF−)、エーテル基(−O−)またはカルボニル基(−C(=O)−)で置換されていてもよい。但し、連続しているメチレンのいずれもが、エーテル基(−O−)またはカルボニル基(−C(=O)−)で置換されない、すなわちエーテル基(−O−)またはカルボニル基(−C(=O)−)は、互いに隣り合わないことが好ましい。
前記オキシカルボニル基は、−C(=O)O−および−OC(=O)−のいずれをも含む。すなわち、例えばBであれば、AおよびAのいずれにカルボニル炭素原子(または酸素原子)が結合していてもよい。
前記アミノカルボニル基は、−C(=O)N(−R)−および−N(−R)C(=O)−のいずれをも含む。すなわち、例えばBであれば、AおよびAのいずれにカルボニル炭素原子(または窒素原子)が結合していてもよい。
【0032】
〜Bは、それぞれ独立して単結合もしくはエチレン(−CHCH−)であることがより好ましい。さらに、BおよびBの少なくとも1つが単結合であることが特に好ましい。B〜Bがこのような結合または基である環状アミノ基を有するフェニレンジアミンを用いて製造された本発明の液晶表示素子は、高い電圧保持率を有し得る。
【0033】
一般式(2)で表される環状アミノ基のより具体的な例として、(2−1)〜(2−10)で表される環状アミノ基が好ましく挙げられる。さらに、一般式(2)におけるA〜Aがフェニレンであるよりも、1,4−シクロへキシレンであるほうがより好ましいと考えられ、これらのうち、(2−1)〜(2−8)で表される環状アミノ基がより好ましく、(2−1)〜(2−3)で表される環状アミノ基がさらに好ましい。すなわち、(2−10)と比較して、(2−8)または(2−7)がより好ましく、(2−3)はさらに好ましい:(2−9)と比較して、(2−6)または(2−5)がより好ましく、(2−2)はさらに好ましい:(2−4)と比較して(2−1)がより好ましい。
このような環状アミノ基(N−Cycle)を有するフェニレンジアミンを用いて形成される本発明の配向膜を有する液晶表示素子は、より高い電圧保持率を有し、焼き付き現象が抑制されている。
【0034】
【化6】

【0035】
一般式(2−1)〜(2−10)においてRは、一般式(2)において説明されたRと同様であるが、より好ましくは、水素または炭素数1〜10のアルキルもしくはフルオロアルキルであり、特に好ましくは、水素または炭素数1〜10のアルキルである。Rが水素またはこれらの基である環状アミノ基を有するフェニレンジアミンを用いることで、本発明の配向膜を有する液晶表示素子に、高い電圧保持率を付与することができる。
およびBは、一般式(2)において説明されたBおよびBと同様であるが、好ましくは、それぞれ独立して、単結合、メチレン(−CH−)、エーテル結合(−O−)、エチレン(−CHCH−)、オキシカルボニル基(−C(=O)O−および−OC(=O)−のいずれをも含む。すなわち、例えばBであれば、AおよびAのいずれにカルボニル炭素原子(または酸素原子)が結合していてもよい)、またはアミノカルボニル基(−C(=O)N(−R)−および−N(−R)C(=O)−のいずれをも含む。すなわち、例えばBであれば、AおよびAのいずれにカルボニル炭素原子(または窒素原子)が結合していてもよい)である。
このとき、より高い電圧保持率を配向膜に付与させるには、BおよびBが単結合もしくはエチレン(−CHCH−)であることがより好ましい。またBおよびBの少なくとも1つが単結合であることが特に好ましい。
【0036】
一般式(2)で表される好適な環状アミノ基を、以下の表1中でさらに具体的に例示した。表1において、Bは1,4−フェニレン、Chは1,4−シクロヘキシレン、BOは
ビシクロ[2,2,2]オクタニレンを表す。
また、表1中、AにおけるB(3F,5F)はRに対して、AにおけるB(3F,5F)はBに対して、AにおけるB(3F,5F)はBに対して、それぞれ3,5−位の水素がフッ素で置換された1,4−フェニレンを表す。また、B(2F,6F)はRに対して2,6−位の水素がフッ素で置換された1,4−フェニレンを表す。
表1に例示される環状アミノ基(一般式(1)における−N−Cycle)を有するフェニレンジアミンを用いて形成した配向膜を含む液晶表示素子は、電圧保持率が高く、焼き付きが抑制されており、液晶が垂直配向されているなどの特性を有しうる。
【0037】
【表1−1】

【0038】
【表1−2】

【0039】
【表1−3】

【0040】
【表1−4】

【0041】
【表1−5】

【0042】
【表1−6】

【0043】
表1におけるNo.1〜30の環状アミノ基(いずれも、A,A,B,Bが全て単結合である)を有するフェニレンジアミンを少なくとも一つの原料として合成したポリマー(ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミドまたはポリアミドイミドを含む)を含有するワニスを用いて形成させた配向膜は、液晶表示素子においてプレチルト角を5〜10度程度に調整することができる。従ってTN用の配向膜を形成するために用いられるフェニレンジアミンとして特に好適である。
【0044】
表1におけるNo.30〜154の環状アミノ基(一般式(1)における−N−Cycle)を有するフェニレンジアミンを原料として合成したポリマー(ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミドまたはポリアミドイミドを含む)を含有するワニスを用いて形成させた配向膜は、液晶表示素子においてプレチルト角を90度近くに保持することができ、また該プレチルト角は非常に安定している。従って、基板に対して垂直に近いプレチルト角が要求される垂直配向(VA)方式の液晶表示素子用の配向膜を形成するために用いられるフェニレンジアミンとして特に好適である。
また、これらのフェニレンジアミンを少なくとも原料の一つとして合成したポリマーを含有するワニスを用いて形成させた配向膜を有する液晶表示素子は、電圧保持率(VHR)が高く、この特性を改善する上でも特に好適である。
【0045】
一方、一般式(1)における−N−Cycleとしては、上記一般式(3)または一般式(4)で表される環状アミノ基も好ましく例示される。
【0046】
一般式(3)または式(4)で表される環状アミノ基において、XはOまたはSであり、nは1〜6の整数である。好ましくは、一般式(3)または式(4)で表される環状アミノ基において、n=2〜6が好ましく、n=3〜5がより好ましい。式(3)または(4)で表される環状アミノ基は、その環内にイオンを選択的に取り込むことができることが好ましく、取り込むべきイオンに応じて(例えばイオン半径に応じて)nの値を適宜選択すればよい。
【0047】
また、取り込むべきイオンが、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、またはアンモニウムイオンの場合は、Xとして酸素原子(O)を選択することが好ましく、取り込むべきイオンがその他の金属イオンの場合は、少なくとも1つのXとして硫黄原子(S)を選択することが好ましい。
【0048】
一般式(3)または式(4)で表される環状アミノ基の好適な具体例として、以下の構造式(No.155〜No.163)で表される基が挙げられる。
【0049】
【化7】

【0050】
前記したように、一般式(3)または式(4)で表される環状アミノ基(−N−Cycle)を有するフェニレンジアミンは、−N−Cycle部位の環内に金属イオンやアンモニウムイオンを補足することができる。従って、このフェニレンジアミンを原料として合成したポリマー(ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミドまたはポリアミドイミドを含む)を含有するワニスから形成される配向膜を含む液晶表示素子において、液晶中のイオン、または配向膜から液晶へ抽出されたイオンは、該配向膜によって除去され得る。液晶中のイオンは、液晶表示素子の電圧保持率(VHR)の低下や焼き付き現象の一因であることが知られている。よって、これらの特性を改善する目的で、一般式(3)または式(4)で表される環状アミノ基を有するフェニレンジアミンを用いて、本発明の液晶表示素子を製造することができる。
好ましくは、一般式(3)または式(4)で表される環状アミノ基を有するフェニレンジアミンから得られる配向膜を有する本発明の液晶表示素子は、電圧保持率が低下しておらず、焼き付きが抑制されており、かつ液晶中のイオン密度が低減している。
【0051】
本発明のフェニレンジアミン(一般式(1)で表される化合物)は、任意の方法で製造することができるが、例えば以下のスキーム1に示されるような方法で合成することができる。
【0052】
【化8】

【0053】
スキーム1における、式(1−a)で表される化合物は環状アミン化合物であり、例えばDE4234627A1等に記載の方法に従って合成することができる。また、式(1−b)で表される化合物はフェニル環に2つのニトロ基およびR(水素またはメチルである)を有するベンゾイルクロリドであり、例えばWO9631462等に記載の方法に従って合成することができる。
【0054】
式(1−a)で表される化合物と式(1−b)で表される化合物を、塩基存在下で反応させることにより、式(1−c)で表される化合物を合成することができる。用いられる塩基としては、好ましくはトリエチルアミン、ピリジンなどの有機アミンを用いることができるが、その他の塩基(例えば炭酸ナトリウム等)を用いることもできる。また、該反応は、反応溶媒を用いてもよく、好ましくは塩化メチレンなどのハロゲン系溶媒を用いるが、その他の非プロトン性溶媒(例えばテトラヒドロフランやジメチルホルムアミド等)を用いることもできる。反応温度は通常室温以下で行うが、適宜選択すればよい。
【0055】
得られた式(1−c)で表される化合物を、常法に従って水素添加反応を行うことによって、式(1)で表される化合物を得ることができる。水素添加反応は、例えばPd−Cを触媒とする接触水素化反応である。
【0056】
式(1)で表される化合物(本発明のフェニレンジアミン)の製造法は上記の方法に限定されるものではない。また式(1)で表される化合物の合成について、後述の実施例でさらに詳細に説明した。
【0057】
式(1)で表される化合物(本発明のフェニレンジアミン)を、カルボン酸または酸無水物などと反応させることによりポリマーを製造することができる。例えば、以下のポリマーを製造することができる。
1)式(1)で表される化合物と、酸二無水物(例えばテトラカルボン酸二無水物)とを反応させてポリアミック酸を得ることができ、さらにポリアミック酸を脱水反応させるなどしてポリイミドを得ることができる。
2)式(1)で表される化合物と、酸二無水物(例えばテトラカルボン酸二無水物)およびジカルボン酸類の混合物、またはトリカルボン酸もしくはその誘導体とを反応させる
ことによりポリアミドイミドを得ることができる。
3)式(1)で表される化合物と、ジカルボン酸またはその誘導体とを反応させることによりポリアミドを得ることができる。
【0058】
前記ポリマーの製造において、式(1)で表される化合物は一種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて反応させることもできる。また、前記ポリマーの製造において、式(1)で表されるフェニレンジアミンと、式(1)で表される化合物以外のジアミンとを組み合わせて反応させることもできる。
【0059】
上記したように、ポリマーの製造において、式(1)で表される化合物(本発明のフェニレンジアミン)は、他のジアミンと併用して反応させることができるが、併用することのできるジアミンとしては公知の任意のジアミンが挙げられ、特に限定されない。特に好適な例として、表2に記載するジアミンが例示される。
【0060】
【表2−1】

【0061】
【表2−2】

【0062】
【表2−3】

【0063】
前記ポリマーの製造において、本発明のフェニレンジアミンと併用することのできるジアミンとしては、上記表2で示されるジアミン以外に、一般式(5)で表されるシロキサン系のジアミンを挙げることができる。
【0064】
【化9】

【0065】
一般式(5)において、R10およびR11は炭素数1〜3のアルキルまたはフェニルであり、R10とR11は同じ基であっても異なる基であってもよい。また、R12はメチレン、フェニレンまたはアルキル置換されたフェニレンである。mは1〜6の整数であり、nは1〜10の整数である。
【0066】
なお、本発明のフェニレンジアミン化合物は、液晶表示素子の配向膜用の樹脂(例えばポリイミド樹脂)の原料として用いる以外にも、各種のポリイミドコーティング剤、あるいはポリイミド樹脂成型品、フィルム、または繊維などの原料として利用することができる。さらにはポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリウレア樹脂の原料、あるいはエポキシ樹脂の硬化剤などとして用いることもできる。
【0067】
<本発明のポリマー>
次に、本発明のポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミドおよびポリアミドイミド(これらを総称して「本発明のポリマー」とも称する)について説明する。本発明のポリマーは、いずれも上記で説明された式(1)で表される化合物(本発明のフェニレンジアミン)を原料として製造され得る高分子化合物である。
【0068】
前記したように、本発明のポリアミック酸は、式(1)で表されるフェニレンジアミンと酸二無水物(例えばテトラカルボン酸ニ無水物)とを反応させて得られる化合物である。また、本発明のポリイミドはこのポリアミック酸を脱水反応等することによって得られる。本発明のポリアミドイミドは、式(1)で表されるフェニレンジアミンと酸二無水物(例えばテトラカルボン酸二無水物)およびジカルボン酸類の混合物とを反応させて得られる。なお、本発明のポリアミドイミドは、式(1)で表されるフェニレンジアミンとトリカルボン酸またはその誘導体とを反応させることによっても得ることができる。本発明のポリアミドは、式(1)で表されるフェニレンジアミンとジカルボン酸またはその誘導体とを反応させることによって得られる。
なお、式(1)で表されるフェニレンジアミンと反応させる酸二無水物、ジカルボン酸およびその誘導体、ならびにトリカルボン酸またはその誘導体を総称して、「カルボン酸類」とも称する。
【0069】
溶媒への溶解性、印刷性、および既述の削れの問題から、本発明のポリマーの重量平均分子量は1×10〜1×10(より好ましくは1×10〜1×10)であることが好ましい。本発明のポリマーの重量平均分子量は、下述の実施例に記載された方法で測定することができる。
【0070】
本発明のポリマー(例えばポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド)の製造において用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、公知の任意のテトラカルボン酸二無水物が挙げられるが、特に好適な例として、表3に記載する化合物が挙げられる。
【0071】
【表3−1】

【0072】
【表3−2】

【0073】
【表3−3】

【0074】
上記表3中に示された酸二無水物のうち、No.2−2、2−12、2−13、2−14、2−15、2−16、2−17、2−18、2−20、2−21、2−22、2−23、2−24、2−28、2−29、2−30、2−31、2−32、2−38等の、脂環骨格を有する酸二無水物の一種類以上が好ましく選択され得る。
このような酸二無水物(混合物でもよい)と一般式(1)で表される化合物(本発明のフェニレンジアミン)を反応させて得られるポリマーを用いてワニスを調製し、このワニスを用いて基板上に配向膜を形成させ、その配向膜を含む液晶表示素子を作製した場合、該液晶表示素子は高い電圧保持率(VHR)を有する。
【0075】
また、上記表3中に示された酸二無水物のうち、No.2−1、2−3、2−4、2−5、2−6、2−7、2−8、2−9、2−10、2−11、2−19等の酸二無水物が好ましく選択され得る。これらの酸二無水物とその他の化合物(例えば、ジカルボン酸もしくはトリカルボン酸またはそれらの誘導体など)を適宜組み合わせて、一般式(1)で表される化合物(フェニレンジアミン)と反応させて得られるポリマーを含むワニスを調製し、これを用いて基板に配向膜を形成させ、その配向膜を含む液晶表示素子を作製した場合、該液晶表示素子の焼き付き現象が抑制されている。
【0076】
一般式(1)で表されるフェニレンジアミンと反応させることができるカルボン酸類の中には、異性体(エナンチオマーを含む)を有するものがあるが、異性体単独または異性体混合物として式(1)で表されるフェニレンジアミンと反応させることができる。また、一種のカルボン酸類を単独で、または2種以上のカルボン酸類を組み合わせて使用しても良い。
なお、本発明に使用されるカルボン酸類(テトラカルボン酸二無水物を含む)は上記化
合物に限定されないことは言うまでもない。
【0077】
本発明のポリマーは、一般式(1)で表されるフェニレンジアミンを少なくとも一の原料として用いること以外は、ジアミンとカルボン酸類(酸二無水物、ジカルボン酸、トリカルボン酸など)との反応により製造することができる。ジアミンとカルボン酸類との反応によるポリマーの製造法は、「新高分子実験学3、高分子の合成(2)、共立出版株式会社、1996年発行」等に詳細に記載されている。また、後述の実施例にも記載されている。
【0078】
<本発明のワニス>
本発明のワニスは、上記した本発明のフェニレンジアミン(他のジアミンを含みうる)とカルボン酸類(例えば酸二無水物)から製造される本発明のポリマー(ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミドなど)から選ばれる1つ以上を含有するポリマー溶液である。また、本発明のワニスは、本発明のポリマー以外のポリマー、および任意の成分(有機シリコーン化合物など)をも含有することができる。
【0079】
本発明のワニスの溶媒は、特に限定されるものではないが、本発明のポリマーを溶解させる溶媒であることが好ましい。例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコールモノブチルエーテル(BC)、エチレングリコールモノエチルエーテル、γ−ブチロラクトンなどを挙げることができる。本発明のワニスの溶媒は、一種類の溶媒でもよいが、2種以上の溶媒の混合溶媒であってもよい。
【0080】
スピンナー法や印刷機によりワニスを基板に塗布する場合は、印刷性の点から、本発明のワニスの粘度は10〜100mPa・s(より好ましくは20〜50mPa・s)であることが好ましく、また最近行われているインクジェット法により塗布する場合は、1〜30mPa・s(より好ましくは5〜20mPa・s)であることが好ましい。なお、本発明のワニスの粘度は、塗布条件により上記の範囲外でもよい。
該粘度は下述の実施例に記載された方法に基づいて測定することができる。
【0081】
本発明のワニスは、配向膜、保護膜、絶縁膜等の形成に使用できるが、特に液晶表示素子用の配向膜を形成するためのワニスとして有用である。本発明のワニスから形成される配向膜を有する液晶表示素子は、高いVHRを有し、焼き付き現象を防ぐとともに、高い液晶配向能力を有し得る。従って本発明のワニスは、しきい値電圧が低い液晶組成物を含有し、低電圧で駆動するTFT型表示素子のための配向膜を形成する上で特に有用である。
【0082】
また、本発明のワニスは、本発明のポリマーの1種類だけを含有してもよいが、2種類以上を任意に混ぜて用いても良い(このような複数のポリマーがブレンドされたワニスを「ポリマーブレンドされたワニス」とも呼ぶ)。ポリマーブレンドされたワニスは、それを用いて形成した配向膜に所望の特性を付与することができる。
【0083】
例えば、本発明のワニスは、ポリアミドまたはポリアミドイミドと、ポリアミック酸またはポリイミドとがポリマーブレンドされたワニスであることが好ましい。そのようなポリマーブレンドされたワニスを用いて形成した配向膜を有する液晶表示素子は、VHRの低下が抑制され、配向の熱的、機械的な安定性が改善されうる。
このとき、ポリアミドもしくはポリアミドイミドまたはそれらの混合物の添加量は、ポリアミック酸もしくはポリイミドまたはそれらの混合物に対し、0.01〜30重量%であることが好ましく、0.01〜10重量%であることがより好ましい。
【0084】
さらに、配向膜としてのより良い特性を発現させるため、本発明のワニスは、本発明のポリマーと、公知の任意のポリマーから選ばれる一種類以上とをポリマーブレンドされたワニスでもよい。公知のポリマーとしては、例えば、公知のポリアミドイミド、ポリアミド等の他の高分子化合物が挙げられる。
このとき、全ポリマー中に占める本発明ポリマーの割合は、本発明の効果(電圧保持率の向上、焼き付きが抑制された液晶表示素子を提供することを含む)を効果的に発現させるため、50〜約100重量%の範囲が好ましく、70〜約100重量%の範囲がより好ましい。
【0085】
本発明のワニスに含まれるポリマーの割合は、特に限定されるものではなく、下記するように、配向膜を基板に形成させるために選択されるワニスの塗布法(刷毛塗り法、浸漬法、スピンナー法、スプレー法、印刷法等)に応じて、適宜、最適な値を選べば良い。通常、塗布時のムラやピンホール等を抑えるため、ワニス重量に対するポリマーの割合を、好ましくは0.1〜30重量%、より好ましくは1〜10重量%とする。
【0086】
本発明のワニスは、ポリマー以外の任意の成分を含有することができる。
例えば、本発明のワニスに有機シリコーン化合物を添加することにより、該ワニスを用いて形成される配向膜のガラス基板への密着性や硬さを調節することが可能である。かつ、該形成された配向膜を配向処理(ラビング処理を含む)した場合に、配向膜が削られることに起因する表示不良を改善することができる。
【0087】
本発明のワニスに含有される有機シリコーン化合物は特に限定されるものではないが、例えば、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤、ジメチルポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサンなどのシリコーンオイルが挙げられる。
【0088】
該有機シリコーン化合物のワニス中における含有量は、上記の配向膜に要求される特性を損なうことなく、表示不良を改善することができる範囲であれば特に制限はない。しかしながら、ワニスへの有機シリコーン化合物の含有量が多くなると、形成させた配向膜に液晶の配向不良が生じやすくなる。したがって、本発明のワニスの有機シリコーン化合物の濃度は、ワニスに含有されるポリマーの重量に対して、0.01〜5重量%であることが好ましく、特に好ましくは0.1〜3重量%である。
【0089】
本発明のワニスは、1)本発明のフェニレンジアミンとカルボン酸類(酸二無水物を含む)とを溶媒中で反応させることによって得られたポリマー溶液(すなわち反応溶液)、2)前記反応溶液にさらに溶媒を添加して希釈させることによって得られた溶液、3)前記反応溶液から溶媒を除去して得られるポリマーを、別の溶媒に溶解させて得られる溶液などであり得る。
【0090】
<本発明の配向膜>
第4に、本発明の配向膜について説明する。本発明の配向膜は、前記した本発明のワニスを用いて基板上に形成される配向膜である。本発明の配向膜は、本発明のワニスの中から選ばれた1種を用いて形成されたものであっても良く、既述のように2種以上のワニスの混合物を用いて形成されたものであっても良い。
【0091】
本発明の配向膜は基板上に形成されるが、その形成方法は特に限定されない。例えば、下記のステップを有する方法が例示できる。
(1)本発明のワニスを刷毛塗り法、浸漬法、スピンナー法、スプレー法、印刷法等により基板上に塗布する。
(2)50〜150℃、好ましくは80〜120℃で溶媒を蒸発させる。
(3)150〜400℃、好ましくは180〜280℃で加熱し成膜する。
(4)膜表面を布などでラビング処理する。
なお、ワニスの塗布前に基板表面をシランカップリング剤などで処理し、その上に配向膜を成膜すれば、配向膜と基板との接着性が改善される。
【0092】
本発明の配向膜の厚さは、既述の配向膜に要求される特性を満足させるため、表示素子の作製条件により種々選択することができるが、一般的には10〜200μmであることが好ましい。
【0093】
本発明の配向膜はワニスを用いて形成されるが、前記したようにワニスはポリマーブレンドされたワニスでもよい。そこで、表面張力の低い成分と高い成分とをブレンドしたワニスを用いて配向膜を形成させることで、表面張力の低い成分が膜表面に偏析した配向膜とすることができる(この技術に関しては特開平8−43831号公報に記載されている)。
そこで、表面張力の低い本発明のポリマー(ポリアミック酸またはポリイミド)(例えば、式(1)で表されるフェニレンジアミンの環状アミノ基(好ましくは式(2)で表される)にフッ素原子を導入することで表面張力を下げることができる)と、表面張力の高いポリマー(公知のポリマーとすることができる)とを組み合わせたワニスを用いれば、本発明のポリマー成分が膜表面に集中する配向膜を形成することができ、本発明の特徴の一つである安定した液晶配向特性を効果的に発現する配向膜を得ることができる。
あるいは、表面張力の高い本発明のポリマー(例えば式(1)で表されるフェニレンジアミンの環状アミノ基(好ましくは式(2)で表される)を無置換とすることで表面張力を挙げることができる)と、表面張力の低いポリマー(公知のポリマーとすることができる)とを組み合わせれば、本発明のポリマー成分が膜内部に集中するので、本発明の特徴の一つである優れた電気特性(焼き付きの抑制、高い電圧保持率など)を効果的に発現させることができる。
もちろん、表面張力の低いポリマーおよび高いポリマーの両方を、本発明のポリマーとしてもよい。
このようにして、本発明の配向膜の膜表面に液晶配向特性の優れた層を形成させ、バルクに電気特性に優れた層を形成させることができ、いずれの特性にも優れた配向膜を形成させることができる。
【0094】
上記の表面張力のより小さいポリマー(以下、ポリマー1とする)と表面張力の大きいポリマーとの混合比は、それぞれ1重量%〜99重量%の間で任意に選択できる。しかしながら、良好な液晶配向特性およびプレチルト角を保持したまま良好な電気的特性を発現させるためには、全ポリマー重量に対してポリマー1を、1〜30重量%の間で添加するのが好ましく、5〜15重量%の間で添加するのがより好ましい。
【0095】
<本発明の液晶表示素子>
第5に、本発明の配向膜を含む液晶表示素子(以下、「本発明の液晶表示素子」とも称する)について説明する。本発明の液晶表示素子は、配向膜として本発明の配向膜を含むこと以外は、公知の任意の液晶表示素子と同様の構成とすることができる。
【0096】
本発明の液晶表示素子は、例えば高い電圧保持率、焼き付きの改善、安定した液晶配向性などの有利な特性を有している。したがって、本発明の液晶表示素子は、例えばTFT
用液晶表示素子とすることが好ましい。TFT用液晶表示素子は、特に高い電圧保持率が要求され、焼き付きを改善する必要性が高いといえるので、本発明の液晶表示素子に含まれる配向膜の効果が特に有効に作用する。
TFT用液晶表示素子に使用される液晶組成物は、特許第3086228号、特許2635435号、特表平5−501735、および特平開9−255956などに記載されている。本発明の液晶表示素子は、これらに記載された液晶組成物を用いることが好ましい。
【0097】
また、好ましい形態においては、本発明の液晶表示素子は垂直配向(VA)方式の液晶表示素子としても有利である。VA方式の液晶表示素子は、プレチルト角を大きくする必要があるので、本発明の液晶表示素子に含まれる配向膜が特に効果的に作用しうる。
【0098】
<実施例>
以下、実施例により、本発明のフェニレンジアミンの合成、およびフェニレンジアミンからの本発明のポリマーの合成、ポリマーを含むワニスの調製、ならびにワニスを用いた液晶配向膜の形成、その液晶配向膜を含む液晶表示素子の製造について具体的に説明する。なお、本発明の範囲がこれらの実施例により限定されることはない。
【0099】
実施例中、NMRはすべて重クロロホルムを溶媒として測定した(500MHz)。分子量はポリスチレンを標準溶液とし、DMFを溶出液とするGPCを用いて測定した。粘度は、回転粘度計(東機産業株式会社製、TV−20)を用いて測定した。
【0100】
<実施例1〜5:フェニレンジアミンの合成>
実施例1:1−(3,5−ジアミノベンゾイル)−4−n−プロピルピペリジン(一般式(1)においてジアミンがアミド基に対し3,5−位にあり、Rが水素であり、N−Cycleが一般式(2)で表される環状アミノ基であって、一般式(2)においてRがプロピルであり、A、A、A、B、B、およびBが単結合である化合物)の合成
【0101】
【化10】

【0102】
DE4234627A1に記載の方法に従って合成した4−n−プロピルピペリジン7.0g(55mmol)、およびトリエチルアミン6.7g(66mmol)の塩化メチレン(100ml)溶液中に、3,5−ジニトロ安息香酸クロリド14g(60mmol)を室温以下で加えた。室温で3時間攪拌した後、純水(30ml)を加えた。有機層を分離した後、有機層をさらに純水(30ml)で洗浄した。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過し、得られたろ液の溶媒を減圧留去した。得られた残さをカラムクロマトグラフィー(シリカゲル/トルエン:酢酸エチル=10:1)、および再結晶(エタノール)することによって、目的とする1−(3,5−ニトロベンゾイル)−4−n−プルピルピペリジンを得た。収量14g(収率82%)。
得られた化合物10g(31mmol)をトルエン:エタノール(1:1、v/v)溶媒(100ml)中、Pd/C(5%:500mg)を触媒として水素添加反応することによって、目的とする1−(3,5−ジアミノベンゾイル)−4−n−プルピルピペリジ
ンを得た。収量5.4g(収率66%)。
【0103】
実施例2:1−(3,5−ジアミノベンゾイル)−4−(2−(4−n−プロピルシクロヘキシル)エチル)ピペリジン(一般式(1)において、ジアミンがアミド基に対し3,5−位にあり、Rが水素であり、N−Cycleが一般式(2)で表される環状アミノ機であって、一般式(2)においてRがプロピルであり、Aが1,4−シクロヘキシルであり、Bがエチレンであり、A、A、B、およびBが単結合である化合物)の合成
【0104】
【化11】

【0105】
4−n−プロピルピペリジンの代わりに4−(2−(4−n−プロピルシクロヘキシル)エチル)ピペリジンを用いる以外は、実施例1と同様の方法で合成した。
【0106】
実施例3:1−(3,5−ジアミノベンゾイル)−4−(4−(4−n−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル)ピペリジン(一般式(1)においてジアミンがアミド基に対し3,5−位にあり、Rが水素であり、N−Cycleが一般式(2)で表される環状アミノ基であって、一般式(2)においてRがプロピルであり、AおよびAが1,4−シクロヘキシルであり、A、B、B、およびBが単結合である化合物)の合成
【0107】
【化12】

【0108】
4−n−プロピルピペリジンの代わりに4−(4−(4−n−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル)ピペリジンを用いる以外は、実施例1と同様の方法で合成した。
【0109】
実施例4:1−(3,5−ジアミノベンゾイル)−4−(2−(4−(4−n−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキシル)エチル)ピペリジン(一般式(1)においてジアミンがアミド基に対し3,5−位にあり、Rが水素であり、N−Cycleが一般式(2)で表される環状アミノ基であって、一般式(2)においてRがペンチルであり、AおよびAが1,4−シクロヘキシレンであり、A、B、およびBが単結合であり、Bがエチレンである化合物)の合成
【0110】
【化13】

【0111】
4−n−プロピルピペリジンの代わりに4−4−(2−(4−(4−n−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキシル)エチル)ピペリジンを用いる以外は、実施例1と同様の方法で合成した。
融点;257.8−258.8℃.
H−NMRδ(ppm);6.08(d,2H,d=1.85Hz)、6.02(d,1H,d=1.85Hz)、4.62−4.64(m,1H)、3.63−3.80(m,1H)、3.4−3.9(brs、4H)、2.80−2.89(m,1H)、2.64−2.78(m,1H)、0.80−1.90(m,39H).
【0112】
実施例5:N−(3,5−ジアミノベンゾイル)−1−アザ−15−クラウン−5(一般式(1)において、ジアミンがアミド基に対し3,5−位にあり、Rが水素であり、N−Cycleが一般式(3)で表される環状アミノ基であって、一般式(3)においてXがすべてOであり、nが4である化合物)の合成
【0113】
【化14】

【0114】
4−n−プロピルピペリジンの代わりに市販の1−アザ−15−クラウン−5を用いる以外は、実施例1と同様の方法で合成した。
【0115】
<実施例6〜16:ポリマーの合成、およびワニスの調製>
実施例6:ポリアミック酸の合成
100mlの4つ口フラスコに、実施例2で合成した1−(3,5−ジアミノベンゾイル)−4−(2−(4−n−プロピルシクロヘキシル)エチル)ピペリジン 1.5752g(4.2396mmol)を入れ、NMP25gに溶解した。ここにピロメリット酸無水物(PMDA)0.9247g(4.240mmol)を加え、20℃にて1時間攪拌した。その後、この溶液をBC(エチレングリコールモノブチルエーテル)22.5gで希釈することにより、ポリアミック酸約5重量%の透明溶液が得られた。このポリアミック酸の重量平均分子量は8.2万であった。また、この溶液の25℃での粘度は43mPa・sであった。以下、この溶液をワニスAとする。
【0116】
実施例7:ポリアミドの合成
三口フラスコ(500ml)に実施例2で合成した1−(3,5−ジアミノベンゾイル)−4−(2−(4−n−プロピルシクロヘキシル)エチル)ピペリジン3.7156g
(10.00mmol)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(DDM)0.9913g(5.000mmol)、テレフタル酸(TPA)2.4920g(15.00mmol)、および塩化リチウム3.8g(88mmol)を入れ、NMP(120ml)に溶解させた。ここに亜リン酸トリフェニル11.8g(38mmol)を滴下し、窒素気流中、100℃で4時間反応させた。冷却後反応物をメタノール1Lに加え、ポリマーを沈澱させ、これを濾取した。この粗生成物を、純水500mlで2回、メタノール500mlで1回、各30分間程度、煮沸洗浄した。120℃で7時間真空乾燥させ、ポリアミド5.8gを得た。このポリアミドの重量平均分子量は13万であった。
【0117】
三口フラスコに上記ポリアミド5.0gを入れ、NMP(75ml)に溶解させた。ここにナトリウムメトキシド1.89g(35mmol) を加え、室温で3時間攪拌させた。この溶液にヨウ化メチル5.4g(38mmol)を添加し、さらに室温で2時間反応させた。反応物を純水0.5Lに再沈させ、これを濾取し、純水250mLで2回各30分間煮沸洗浄した後、純水/IPA(2−プロパノール)(1/1 w/w)混合溶媒120mlで1回洗浄した。120℃で8時間真空乾燥させポリメチルアミド4.6gを得た。このポリメチルアミドの重量平均分子量は6.3万であり、アミド水素のメチル基への置換率は、NMRの測定から100%であった。
【0118】
実施例8:ポリアミドイミドの合成
三口フラスコ(500ml)に実施例2で合成した1−(3,5−ジアミノベンゾイル)−4−(2−(4−n−プロピルシクロヘキシル)エチル)ピペリジン3.7156g(10.00mmol)、DDM 0.9913g(5.000mmol)、およびピリジン1.3g(16mmol)の混合物をNMP(50ml)に溶解させ、トリメリット酸塩化物無水物(TMAClA) 3.1585g(15.00mmol)を加え、室温で1晩反応させた。この反応液に無水酢酸1.53g(15.0mmol)およびピリジン1.19g(15.0mmol)を加え、100℃で1時間反応させた。冷却後、反応物をメタノール250mLに加え、ポリマーを再沈澱させ、これを濾取した。この粗生成物を、純水250mlで2回、メタノール250mlで1回、各30分程度煮沸洗浄した。120℃で7時間真空乾燥させポリアミドイミド6.2gを得た。このポリアミドイミドの重量平均分子量は4.8万であった。
【0119】
三口フラスコに上記ポリアミドイミド5.0gを入れ、NMP(75ml)に溶解させた。ここにナトリウムメトキシド0.95g(18mmol)を加え、室温で3時間攪拌させた。この溶液にヨウ化メチル2.0g(14mmol)を添加し、さらに室温で2時間反応させた。反応物を純水0.5Lに再沈させ、これを濾取した後、純水250mLで2回各30分間煮沸洗浄した後、純水/IPA(2−プロパノール)(1/1 w/w)混合溶媒120mlで1回洗浄した。120℃で8時間真空乾燥させポリメチルアミドイミド4.1gを得た。このポリメチルアミドイミドの重量平均分子量は2.5万であり、アミド水素のメチル基への置換率は、NMRの測定から93%であった。
【0120】
実施例9〜12:ポリアミック酸の合成
実施例2のジアミンの代わりに、実施例1、3,4,5のジアミンを用いた(それぞれ実施例9,10,11,12に対応する)以外は、実施例6と同様の方法でポリアミック酸約5重量%の透明溶液を得た。実施例9〜12で得られたポリイミド酸の分子量および25℃における溶液の粘度を表4に記載した。なお、実施例9〜12において得られた溶液をそれぞれワニスB、C、D、Eとする。
【0121】
実施例13〜16:ポリアミック酸の合成
実施例2のジアミンの代わりに、下記するジアミンを用いた以外は、実施例6と同様の方法でポリアミック酸約5重量%の透明溶液を得た。実施例13〜16で得られたポリイミド酸の分子量および25℃における溶液の粘度を表4に記載した。なお、実施例13〜16において得られた溶液をそれぞれワニスF、G、H、Iとする。
・実施例13;実施例1のジアミンと4,4−ジアミノジメタン(DDM)の混合物(実施例1:DDM=90:10(モル比))を用いた。
・実施例14;実施例2のジアミンとDDMの混合物(実施例2:DDM=30:70(モル比))を用いた。
・実施例15;実施例3のジアミンとDDMの混合物(実施例3:DDM=90:10(モル比))を用いた。
・実施例16;実施例4のジアミンとDDMの混合物(実施例4:DDM=90:10(モル比))を用いた。
【0122】
<比較例1〜3:ポリイミド酸の合成>
比較例1;実施例2のジアミンの代わりにDDMを、かつPMDAの代わりにPMDAと1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物の混合物(モル比50:50)を用いた以外は、実施例6と同様の方法でポリアミック酸約5重量%の透明溶液を得た。
比較例2;実施例2のジアミンの代わりに、3,5−ジアミノ安息香酸 4−n−ペンチルシクロヘキシルフェノレート(以下、「5ChBEB」と略記する。WO9730107に記載の方法に従って合成した。)とDDMの混合物(モル比90:10)を用いた以外は、実施例6と同様の方法でポリアミック酸約5重量%の透明溶液を得た。
比較例3;実施例2のジアミンの代わりに、上記の化合物(7)(特開2002−327058号参照)を用いた以外は、実施例6と同様の方法でポリアミック酸約5重量%の透明溶液を得た。
比較例1〜3で得られたポリアミック酸の分子量および25℃における溶液の粘度を表4に記載した。なお、比較例1〜3において得られた溶液をそれぞれワニスJ〜Lとする。
【0123】
【表4】


【0124】
<実施例17〜23:本発明の配向膜の形成、および液晶表示素子の作製>
実施例17
3つ口フラスコに、ワニスCおよびワニスJをそれぞれ1.82mlおよび18.2ml量り取り、室温で1時間攪拌した。その後、BC12mlを加え、約3重量%の樹脂組成物を得た。片面にITO電極を設けた透明ガラス基板上に、この組成物を滴下し、スピンナー法により塗布した(2500rpm、15秒)。塗布後80℃で5分間溶媒を蒸発させた後、オーブン中250℃で30分間加熱処理を行い、膜厚約60nmの樹脂膜を形成した。この樹脂膜(すなわち配向膜)を形成したガラス基板2枚を合わせ、セル厚20μmの液晶セルを組み立てた。このセル中に下記表に示された液晶組成物Aを注入し、110℃で30分間アイソトロピック処理を行い、室温まで冷却し液晶表示素子を得た。
【0125】
【表5】

【0126】
実施例18
実施例17において、樹脂膜を以下の条件でラビング処理し、ラビング方向が逆平行になるように液晶セルを組み立てた。その後、実施例17と同様の方法で液晶表示素子を作製した。
(ラビング条件;毛先押しこみ量;0.4mm、ローラー回転数;300rpm、ローラー送り速度;30mm/sec、回数;1回)
【0127】
実施例19
ワニスCの代わりにワニスDを用いた以外は、実施例17と同様の方法で液晶表示素子を製作した。
【0128】
実施例20および21
ワニスCを以下に示すワニスに変えた以外は実施例17と同様にして液晶表示素子を製作した。
【0129】
比較例4
ワニスCの代わりにワニスKを用いた以外は、実施例17と同様の方法で液晶表示素子を製作した。
【0130】
比較例5
ワニスCの代わりにワニスLを用いた以外は、実施例17と同様な方法で液晶表示素子を製作した。
【0131】
実施例22
ワニスCの代わりにワニスGを用い、液晶組成物Aの代わりに下記表6に示された液晶組成物Bを用いた以外は、実施例18と同様な方法で液晶表示素子を製作した。
【0132】
【表6】

【0133】
実施例23
ワニスJの代わりにワニスEとワニスJの重量比1:10の混合物を用いた以外は、実施例22と同様な方法で液晶表示素子を製作した。
【0134】
<試験例>
実施例17〜23および比較例4および5で製作した液晶表示素子について、1)プレチルト角、2)焼き付き(残留電荷)、3)電圧保持率、4)配向性、5)液晶中のイオン量(イオン密度)について測定または評価した。それぞれについての測定方法または評価方法は以下の通りである。
【0135】
液晶表示素子の評価法
1.プレチルト角
クリスタルローテーション法により測定した。
2.焼き付き(残留電荷)
「三宅他、信学技報、EID91−111,p19」に記載の方法により、液晶セルに50mV、1kHzの交流および周波数0.0036Hzの直流の三角波を重畳させて残留DC電圧を測定した。この残留電荷を焼き付きの指標にした。つまり残留電荷が多いほど焼き付きやすいとした。
3.電圧保持率
「水嶋他、第14回液晶討論会予稿集 p78」に記載の方法により測定した。測定条件は、ゲート幅69μs、周波数60Hz、波高±4.5Vであった。
4.配向性
偏光顕微鏡観察による目視により評価した。
5.液晶中のイオン量測定(イオン密度)
応用物理、第65巻、第10号、1065(1996)に記載の方法に従い、東陽テクニカ社製、液晶物性測定システム6254型を用いて測定した。周波数0.01Hzの三角波を用い、±10Vの電圧範囲で測定した。
【0136】
<試験例1:実施例17〜21および比較例4〜5の液晶表示素子の試験>
(実施例17の液晶表示素子についての試験)
実施例17の液晶表示素子について、
25℃における残留DCを測定した結果、123mVであった。
20℃、60℃および90℃における電圧保持率(VHR)をそれぞれ測定した結果、99.2%、98.7%および96.8%であった。
プレチルト角を測定した結果、90度であった。
偏光顕微鏡による観察の結果、配向不良による光りぬけは全く観察されなかった
これらの結果を表7において、条件:初期として記載した。
【0137】
次に、実施例17の液晶表示素子を、110℃にて20時間静置したのち、室温にまで冷却した。冷却後、再び同様の測定および観察を行った。結果残留DCは132mV(25℃)であり、VHRは99.0(20)、98.4(60)、96.7%(90℃)、プレチルト角は90度であった。さらに偏光顕微鏡観察の結果、配向不良による光りぬけは全く観察されなかった。これらの結果を表7において、条件:高温後として記載した。
【0138】
(実施例18〜21および比較例4〜5の液晶表示素子についての試験)
実施例18〜21および比較例4〜5の液晶表示素子について、実施例17の液晶表示素子と同様に、測定および観察を行った。その結果を表7に記載した。
【0139】
【表7】

【0140】
表7に示されたとおり、実施例17〜21の液晶表示素子は、比較例4、5の液晶表示素子と比較して、残留DCが小さく、電圧保持率(VHR)が高く、その液晶分子が安定なプレチルト角を有しかつ安定に配向していることがわかる。
よって、本発明の配向膜は、液晶表示素子に上記の特性を付与することができることがわかる。
【0141】
<試験例2:実施例22〜23の液晶表示素子の試験>
実施例22〜23の液晶表示素子について、実施例17の液晶表示素子と同様に、測定および観察を行い、さらにイオン密度の測定を行った。その結果を、以下の表8に示す。
【0142】
【表8】

【0143】
表8に示されたとおり、実施例23の液晶表示素子は、実施例22の液晶表示素子と比較して、液晶中のイオン密度が低減されていることがわかる。一方で、残留DCの増加、VHRの低下などの現象が見られず、また、プレチルト角や配向の安定性が損なわれることもないことがわかる。
よって、クラウンエーテル部位(上記一般式(3)で表される環状アミノ基)を有する本発明の液晶配向膜は、液晶表示素子の特性(配向特性および電気特性など)を悪化させることなく、液晶中のイオンを除去することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明の一般式(1)で表されるフェニレンジアミン誘導体を原料とする配向膜を用いた液晶表示素子は、VHRが高く焼き付きが少ない。また液晶に対し、安定したプレチルト角を与えることができる。さらに本発明のフェニレンジアミン(1)を用いて液晶表示素子の配向膜を形成させた場合、配向不良による光抜けを抑制することができる。
また本発明のフェニレンジアミン(1)は、短い合成ルートで安価に製造することができるので、高機能な液晶表示素子をより安価に提供することが可能になる。
特に長い側鎖を有するフェニレンジアミン(1)を用いると、プレチルト角を垂直に近くすることができるため、このものはVA方式の液晶表示素子用途に重要である。一方、特にクラウンエーテル環を有するフェニレンジアミン(1)を用いると、液晶中のイオン密度を低減させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるフェニレンジアミン。
【化1】

【請求項2】
前記一般式(1)において、アミノ基(−NH)がアミド基に対して3,5−位に位置する、請求項1に記載のフェニレンジアミン。
【請求項3】
前記一般式(1)において、アミノ基(−NH)がアミド基に対して2,5−位に位置する、請求項1に記載のフェニレンジアミン。
【請求項4】
前記一般式(1)において−N−Cycleが、以下の一般式(2)で表される環状アミノ基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフェニレンジアミン。
【化2】

【請求項5】
前記一般式(2)において、
が水素または炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐鎖アルキルであり、
、A、およびAは、それぞれ独立して単結合、1,4‐シクロヘキシレン、1
,4−フェニレンであり、
、B、およびBは、それぞれ独立して単結合、炭素数1〜4の直鎖アルキレンである、請求項4に記載のフェニレンジアミン。
【請求項6】
前記一般式(2)において、
が炭素数1〜12の直鎖または分岐鎖アルキルであり、
,AおよびAが、それぞれ独立して1,4−シクロへキシレンまたは単結合であって、かつ少なくとも1つが単結合であり、
,BおよびBが、それぞれ独立してエチレンまたは単結合であって、かつ少なくとも2つが単結合であることを特徴とする、請求項4に記載のフェニレンジアミン。
【請求項7】
前記一般式(1)において、−N−Cycleが以下の一般式(3)または一般式(4)で表される環状アミノ基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフェニレンジアミン。
【化3】

【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のフェニレンジアミンと、テトラカルボン酸二無水物との反応生成物であるポリアミック酸またはポリイミド。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のフェニレンジアミンと、ジカルボン酸またはその誘導体との反応生成物であるポリアミド。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のフェニレンジアミンと、テトラカルボン酸二無水物およびジカルボン酸もしくはその誘導体との反応生成物、または
請求項1〜7のいずれか一項に記載のフェニレンジアミンと、トリカルボン酸またはその誘導体との反応生成物
であるポリアミドイミド。
【請求項11】
請求項8に記載のポリアミック酸またはポリイミドを含有するワニス。
【請求項12】
請求項9に記載のポリアミドを含有するワニス。
【請求項13】
請求項10に記載のポリアミドイミドを含有するワニス。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか一項に記載のワニスを用いて形成される配向膜。
【請求項15】
請求項14に記載の配向膜を含む液晶表示素子。

【公開番号】特開2006−28098(P2006−28098A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209836(P2004−209836)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】