説明

フェノキシ−ピロリジン誘導体ならびにその使用および組成物

【課題】フェノキシ-ピロリジン誘導体ならびにその使用および組成物を提供すること。
【解決手段】肥満を治療するため、エネルギー消費を増加させるため、または過脂肪の低減のための、式I:


の化合物、またはその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物もしくは水和物を含む医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、フェノキシ-ピロリジン誘導体ならびにその組成物および使用、特にステアロイルCoA不飽和化酵素(SCD1)インヒビターとして使用するためのフェノキシ-ピロリジン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
ステアロイルCoA不飽和化酵素(SCD1)は、哺乳動物において、飽和脂肪アシルCoA基質からの一価不飽和脂肪酸のデノボ生合成を触媒するミクロソーム酵素である。具体的に、SCD1は、パルミトイルCoA(16:0)およびステアロリルCoA(18:0)などの飽和脂肪酸のC9〜C10位置にシス二重結合を導入する。得られた一価不飽和脂肪酸パルミトレオイルCoA(16:1)およびオレオイルCoA(18:1)は、次に、リン脂質、コレステロールエステル、およびトリグリセリドなどの様々な脂質への取り込みのための基質となる。一価不飽和脂肪酸は、また、シグナル伝達および細胞分化などのいくつかの他のプロセスのメディエーターである。脂質組成は、かなり生理学的に重要である。細胞膜の重要な成分として、リン脂質組成は最終的に膜の流動性を決定するが、コレステロールエステルおよびトリグリセリドの組成はリポタンパク質代謝および肥満症に影響を与えることがある。マウスにおける研究は、SCD1活性が皮脂腺およびマイボーム腺内の脂質合成における主要な役割の結果として皮膚および眼瞼の正常な機能を維持するために重要であることをさらに示唆する。非特許文献1。SCD1発現は、免疫組織化学によりヒト頭皮の皮脂腺においておよびRT-PCRにより不死化皮脂腺細胞株SZ95において確認されている。
【0003】
皮膚は、3つの主要な層:角質層、表皮および真皮から構成される脂質の多い器官である。角質層は外層であり、その主な機能は外部環境に対する障壁として機能することである。水に対する角質層の透過性を減少させるためおよびひび割れから皮膚を保つために、皮脂腺は皮膚表面に分布する皮脂と呼ばれる脂性物質を分泌する。皮脂は、眼瞼の縁に沿って位置する特別な種類の皮脂腺であるマイボーム腺(または瞼板腺)によっても分泌され、眼の涙液膜の蒸発を妨げる。皮脂は遊離脂肪酸、トリグリセリド、ステロールエステル、ワックスエステルおよびスクアレンを一般的に含む複合脂質混合物である;しかしその正確な組成は種から種で変化する。皮脂は皮脂腺の腺房細胞で生成され、これらの細胞年齢として蓄積する。成熟すると、腺房細胞は溶解して管腔に皮脂を放出し、皮膚表面に沈着することがある。
【0004】
ヒトでは、皮脂腺は、手の平および足の裏を除く皮膚の全ての領域に存在する。これらの腺の最大集中が、頭皮および顔で生じる。皮脂が果たす重要な機能にも関わらず、多くの個体は、ざ瘡または脂漏皮膚炎などの皮膚の状態の発生の増大と関連する過剰な皮脂生成を経験する。ざ瘡のない個体でも、皮膚がてかてかした、べとべとしたようにまたは脂性のように見え、かつ髪が弱弱しく汚れたように見えることによって、過剰な皮脂生成は皮膚および髪の美容的外観を損なう。皮脂の生成の減少は、これらの状態を経験する個体において脂性皮膚および脂性髪を緩和する。
【0005】
過剰な皮脂の生成を取り扱う現在の治療は、最適を下回っている。非芳香族レチノイドのイソトレチノインは、90%まで皮脂の生成を抑制することが示されているが、重度の先天的欠損および多くの他の潜在的に重大な副作用とも関連している。従って、イソトレチノインは、単純に化粧目的の皮脂分泌の減少のためではなく、重度のざ瘡の治療に利用されるだけである。他の芳香族レチノイド、例えばエトレチネートは、ざ瘡の治療に使用されるが、皮脂合成を減らさない。非特許文献2。
【0006】
結果的に、過剰な皮脂生成を緩和する最も実践的な手段は、皮膚表面の頻度の高い洗浄である。頻度の高い洗浄によって皮膚から過剰な皮脂が除去されるが、この効果は一次的なものであり、皮脂生成を減らすものではない。事実、洗浄のし過ぎまたは刺激の強い製品を用いた洗浄は皮膚から水分を奪うことがあり、実際に皮脂腺を刺激して皮脂生成を減らすのとは反対に増大させる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Miyazaki, J. Nutr., 131 :2260-2268 (2001)
【非特許文献2】Christos C. Zouboulis, J. Clin. Derm., 22: 360-366 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、フェノキシ-ピロリジン誘導体ならびにその使用および組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕肥満を治療するため、エネルギー消費を増加させるため、または過脂肪の低減のための、式I:


の化合物、またはその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物もしくは水和物を含む医薬組成物、
〔2〕アテローム硬化症の治療のため、血清コレステロールの低減のため、血漿トリグリセリドの低減のため、または高トリグリセリド血症の治療のための、式I:


の化合物、またはその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物もしくは水和物を含む医薬組成物、
〔3〕糖尿病の治療のため、またはインスリン感受性の増大のための、式I:


の化合物、またはその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物もしくは水和物を含む医薬組成物、
〔4〕癌の治療のための、式I:


の化合物、またはその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物もしくは水和物を含む医薬組成物、
〔5〕該組成物が、局所投与、経口投与または非経口投与に適している、〔1〕〜〔4〕いずれか記載の医薬組成物
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、フェノキシ-ピロリジン誘導体ならびにその使用および組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(概要)
本発明は、式Iで表されるステアロイルCoA不飽和化酵素インヒビター、ならびにその塩、溶媒和物および水和物を提供する。また、化合物は(S)-2-(4-(ヒドロキシメチル)フェノキシ)-1-(3-(2-(トリフルオロメチル)フェノキシ)ピロリジン-1-イル)エタノンとも称される場合がある。

【0012】
別の局面において、本発明は、治療有効量の式Iの化合物、またはその薬学的に許容され得る塩、または前記化合物もしくは塩の溶媒和物もしくは水和物ならびに薬学的に許容され得る担体、ビヒクル、希釈剤または賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0013】
別の局面において、本発明は、治療の必要がある哺乳動物に、治療有効量の式Iの化合物、またはその薬学的に許容され得る塩、または前記化合物もしくは塩の水和物もしくは溶媒和物を投与する工程を含む、哺乳動物におけるステアロイルCoA不飽和化酵素によって媒介される皮膚の状態または表面(cosmetic)の状態の治療方法を提供する。ある態様によれば、式Iの化合物、またはその薬学的に許容され得る塩、または前記化合物もしくは塩の水和物もしくは溶媒和物は、過剰な皮脂生成、脂性皮膚、脂性髪、およびざ瘡の治療、緩和または予防において局所投与される。他の態様において、化合物は経口投与される。
【0014】
本発明の他の局面は、過剰な皮脂生成および/または分泌と関連する状態を緩和するための化合物の利用方法を顧客に知らせる説明書と共に、小売のためにパッケージされた、治療有効量の式Iの化合物またはその薬学的に許容され得る塩または前記化合物もしくは塩の溶媒和物もしくは水和物を含む製品またはキットを提供する。
【0015】
式Iの化合物およびその医薬組成物は、ステアロイルCoA不飽和化酵素によって媒介される皮膚の状態または表面の状態の治療に有用である。かかる皮膚の状態または表面の状態としては、限定されないが、過剰な皮脂生成、ざ瘡、脂性皮膚、脂性髪、てかてかした(shiny)皮膚または脂ぎって見える(greasy-looking)皮膚、および脂漏性皮膚炎が挙げられる。
【0016】
式Iの化合物およびその医薬組成物は、ヒト被験体の皮脂腺によって生成および/または分泌される皮脂量を減らすためにも有用である。
【0017】
(発明の詳細な説明)
以下は、式Iの化合物のさらなる非限定の詳細および本発明の他の局面を提供する。本文書内の見出しは、読者によるレビューを行うために利用されるだけであり、いかなる方法においても本発明または特許請求の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0018】
定義
特許請求の範囲などの本願を通じて使用する場合、以下の用語は、具体的に別の方法で示されない限り下記に定義される意味を有する。
【0019】
句「式Iの化合物」、「本発明の化合物」、および「化合物」は、本願を通じて互換的に使用され、同義語として扱われるべきである。
【0020】
明白に別の方法で記載されない限り、句「式Iの化合物」、「本発明の化合物」、および「化合物」とは、(S)-2-(4-(ヒドロキシメチル)フェノキシ)-1-(3-(2-(トリフルオロメチル)フェノキシ)ピロリジン-1-イル)エタノンおよびその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物、水和物およびプロドラッグの全てのことをいう。
【0021】
句「薬学的に許容され得る」は、明示される担体、ビヒクル、希釈剤、溶媒和物、塩またはプロドラッグが一般的に製剤を含む他の成分と化学的および/または物理的に適合し、そのレシピエントと生理学的に適合することを示す。
【0022】
用語「治療する」、「治療すること」、「治療される」、および「治療」には、本明細書で使用される場合、予防的(preventative)(例えば予防的(prophylactic))、改善的、緩和的および治療的使用および/または結果が含まれる。用語予防的(preventative)または予防的(prophylactic)は、互換的に使用され、特定の状態または疾患状態の1つ以上の症状の発症前の治療のことをいう。より具体的に、これらの用語は、無症状、即ち特定の状態または疾患状態の症状が容易に明白でないかまたは検出可能でない場合の患者の治療のことをいい、特定の状態または疾患状態の1つ以上の症状の発症における実質的な予防、抑制または遅延をもたらす。改善的治療は、特定の状態または疾患状態の1つ以上の症状の重症度を改善するおよび/または小さくするものである。テトラサイクリンなどの抗生物質は、ざ瘡の予防治療の一例である。テトラサイクリンは、ざ瘡の発生の原因である細菌を殺傷することによって将来の発生を妨げる。
【0023】
句「治療」および「治療有効量」は、本明細書で使用される場合、それぞれ、(a) 特定の疾患、状態または障害を治療する; (b) 特定の疾患、状態または障害から生じる1つ以上の症状または合併症を弱くし、改善しまたは排除する; (c) 特定の疾患、状態または障害と関連する1つ以上の症状または合併症の発症を妨げるまたは遅延する、化合物、組成物または医薬の効果および量を示す。用語「治療」および「治療有効量」は、前記効果(a)〜(c)のいずれかを単独でまたは他の(a)〜(c)のいずれかと組み合わせて含むことが理解される。
【0024】
用語「哺乳動物」、「患者」および「被験体」とは、温血動物、例えばモルモット、マウス、ラット、アレチネズミ、ネコ、ウサギ、イヌ、サル、チンパンジー、およびヒトなどのことをいう。
【0025】
式Iの化合物は、不斉中心を有し、従って種々の立体異性体配置で存在することができる。結果的に、式Iの化合物は、個々の(純粋な)エナンチオマーおよびエナンチオマーの混合物として生じることができる。本発明の範囲は、単一のエナンチオマーおよびあらゆる比のその混合物の両方を含む。本発明の範囲は、式Iの化合物の互変異性形態(互変異性体)全て、および任意の比のその混合物全てをさらに含む。単一の化合物は1つより多くの種類の異性(isomerism)を示し得ることを、当業者は理解する。
【0026】
式Iの化合物は、当業者に公知の方法によって、例えば結晶化によって分離され得るジアステレオ異性体塩の形成によって; 例えば結晶化、ガス液体または液体クロマトグラフィーによって分離され得るジアステレオ異性体誘導体または複合体の形成によって; 1つのエナンチオマーとエナンチオマー特異的試薬との選択的反応、例えば酵素エステル化によって;または例えば結合キラルリガンドを有するキラル支持上またはキラル溶媒の存在下での、キラル環境におけるガス液体または液体クロマトグラフィーなどによって純粋なエナンチオマーに分離され得る。所望の立体異性体が上記の分離手順の1つによって別の化学部分に変換される場合、さらなる工程が所望のエナンチオマー形態を遊離するために必要とされることが理解される。あるいは、光学的に活性な出発物質を用いることによって、光学的に活性な試薬、基質、触媒または溶媒を用いた不斉合成によって、あるいは不斉転移もしくは反転により1つの立体異性体を他の立体異性体に変換することによって、特定の立体異性体を合成し得る。
【0027】
本発明の化合物は、水、エタノールなどのような薬学的に許容され得る溶媒と共に非溶媒化形態および様々な溶媒化形態で存在してもよい。一般に、溶媒化形態は、本発明の目的のための非溶媒化形態に同等であるとみなされる。薬学的に許容され得る溶媒は、D2O、d6-DMSOなどのような同位体が置換された溶媒をさらに含むことが理解される。用語「溶媒和物」は、本発明の化合物および水を含む1つ以上の薬学的に許容され得る溶媒分子を含む複合体を説明するために本明細書で使用される。従って、化合物の全ての様式の水和物は用語「溶媒和物」に含まれる。本発明は、非溶媒化形態、溶媒化形態および任意の比の溶媒化形態の混合物を含むことを意図する。
【0028】
本発明の化合物および/またはその塩および/またはその溶媒和物は、不定固体として存在してもよく、または1つ以上の結晶状態、即ち多形で存在してもよい。式Iの化合物の多形は、本発明に含まれ、例えば、種々の溶媒または種々の溶媒混合物を使用するなどの多くの種々の条件下での結晶化; 種々の温度での結晶化;および結晶化中の非常に早い〜非常に遅い範囲の様々な冷却様式の使用により調製されてもよい。また、多形は、式Iの化合物を加熱または融解して勾配冷却または高速冷却を続けて得られてもよい。多形の存在は、固体NMR分光法、IR分光法、示差走査熱量計測定法、粉末X線回折または他の技術によって決定されてもよい。全てのかかる結晶形態および不定形態の式Iの化合物およびその塩、溶媒和物およびプロドラッグは、本発明および特許請求の範囲によって含まれることが理解されるはずである。
【0029】
また、本発明は、式Iの化合物の薬学的に許容され得る同位体標識されたバリエーションの全てを含む。かかる同位体標識されたバリエーションは式Iの化合物と同じ構造および分子式を有する化合物であるが、1つ以上の原子は通常天然に見られる原子質量または質量番号とは異なる原子質量または質量番号を有する原子によって置換されている。本発明の化合物に組み込まれ得る同位体の例としては、水素、炭素、フッ素、窒素および酸素の同位体、例えば2H、3H、11C、13C、14C、18F、13N、15N、15O、17O、および18Oのそれぞれが挙げられる。
【0030】
本発明の化合物の特定の同位体標識されたバリエーション、例えば3Hおよび14Cなどの放射性同位体を組み込んだものなどは、薬物および/または基質組織分布試験に有用である。トリチウム、即ち3Hおよび炭素-14、即ち14Cは、調製および検出の容易さのために特に好ましい。さらに、重水素即ち2Hなどの重い同位体での置換は、高い代謝安定性、例えば高いインビボ半減期、または低い用量要件から得られる特定の治療利点を付与することができ、従っていくつかの状況において好ましくあり得る。同位体標識した本発明の式Iの化合物およびそのプロドラッグは、同位体標識されていない試薬を容易に入手可能な同位体標識された試薬で置換するスキームおよび/または実施例に開示される手順を実施して一般的に調製することができる。
【0031】
式Iの化合物は、それ自体またはその薬学的に許容され得る塩または溶媒和物の形態で単離され、使用されてもよい。句「薬学的に許容され得る塩」としては、前記化合物の薬理学的に許容され得る無機塩および有機塩が挙げられる。これらの塩は、化合物(もしくはプロドラッグ)の最終単離および/または精製中にインサイチュで、あるいは化合物(もしくはプロドラッグ)を適切な有機酸または無機酸と別々に反応させて形成された塩を単離することによって、調製することができる。式Iの化合物の薬学的に許容され得る塩は、適宜、水性媒体、非水性媒体または部分的水性媒体のいずれかにおいて式Iの化合物および所望の酸または塩基を混合するなどの従来の方法によって容易に調製されてもよい。得られた塩は、多くの標準方法、例えば濾過、溶液の沈殿後の濾過、溶媒の蒸発によって、または水溶液の場合の凍結乾燥によって回収されてもよい。塩におけるイオン化の程度は、完全にイオン化されるからほとんどイオン化されないまで変化してもよい。全てのかかる塩は、本発明の範囲内である。
【0032】
用語「塩」は、薬学的に許容され得る塩、および工業プロセスにおける使用、例えば化合物または対応する中間体の調製に適切な塩のことを示すことを意図する。これらの塩は、実質的に溶媒化形態または実質的に非溶媒化形態またはその混合物で存在することができる。全てのかかる形態は本発明の範囲内であることが理解される。
【0033】
代表的な塩としては、限定されないが、酢酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベシレート、重炭酸塩/炭酸塩、重硫酸塩/硫酸塩、ホウ酸塩、カンシラート、クエン酸塩、エジシレート、エシレート、蟻酸塩、フマル酸塩、グルセプテート、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヒベンゼート、塩酸塩/塩化物、臭化水素塩/臭化物、ヨウ化水素塩/ヨウ化物、イセチオン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メシレート、メチル硫酸塩、ナフチル酸塩、2-ナプシレート、ニコチン酸塩、硝酸塩、オロチン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモエート、リン酸塩/リン酸水素塩/リン酸二水素塩、糖酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、トシレート、トリフルオロ酢酸塩などが挙げられる。代表的な塩の他の例としては、アルカリ金属カチオンまたはアルカリ土類金属カチオン、例えばナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなど、ならびに非毒性アンモニウム、第四級アンモニウムおよびアミンカチオン、例えば限定されないが、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、リジン、アルギニン、ベンザチン、コリン、トロメタミン、ジオラミン、グリシン、メグルミン、オラミンなどが挙げられる。本発明は、種々の塩の混合物をさらに含む。
【0034】
式Iの化合物は、プロドラッグとして投与されてもよい。用語「プロドラッグ」とは、インビボで転換されて式Iの化合物または該化合物の薬学的に許容され得る塩または溶媒和物を生じる化合物のことをいう。転換は、様々な機構により、例えば、血液中の加水分解を介して生じてもよい。式Iの化合物のプロドラッグは、当該技術分野で公知の方法による従来の方法で形成されてもよい。プロドラッグの完全な説明は、T. Higuchi and V. Stella, Pro-drugs as Novel Delivery Systems, Vol. 14 of the A.C.S. Symposium Series, およびBioreversible Carriers in Drug Design, Edward B.編 Roche, American Pharmaceutical Association and Pergamon Press, 1987に提供され、両方は参照によって本明細書に援用される。
【0035】
合成
一般に、式Iの化合物は、特に本明細書に含まれる説明の観点で、当業者の知識と組み合わせた化学分野で公知の多くの方法を用いて調製されてもよい。様々な出発物質、中間体および試薬は、市販の供給元から購入されてもよいし、または文献方法もしくはその適合によって作製されてもよい。他の試薬、化合物または方法は、実施または試験において使用することができるが、式Iの化合物の調製のための一般的な方法は、以下の説明および反応スキームによって例示される。式Iの化合物の調製のための他の方法を、実施例の項に記載する。スキーム、説明および実施例に概略されているものなどの本明細書に開示される方法は、例示目的のために意図され、いかなる方法でもその限定として解釈されない。様々な変更および改変は、本開示の恩恵を受ける当業者に明白であり、添付の特許請求の範囲にさらに定義されるように本開示の精神および範囲内にあるとみなされる。
【0036】
本発明の様々な局面の具体的な態様は、スキーム、調製および/または実施例を参照して説明されるが、かかる態様は実施例のみによるものであり、本開示の原則の応用を表すことができる多くの可能な具体的態様のうちの少数を単に例示することが理解される。
【0037】

【0038】
反応1において、式Iの化合物は、対応するアルデヒド2の還元によって調製されてもよい。還元は当該技術分野で公知の手順によって行なわれる。典型的に、アルデヒド2は、メタノールなどの極性溶媒中の、ホウ化水素ナトリウムなどの還元剤で処理される。約周囲温度などの適切な温度で、約1時間〜約4時間などの適切な時間、混合物を撹拌する。あるいは、アルデヒド2は、水素ガスおよびニッケルなどの適切な金属触媒を用いて対応するアルコールに還元されてもよい。水素化反応は、典型的に、周囲温度でのテトラヒドロフラン(THF)などの極性溶媒中で行われる。
【0039】
反応2において、アルデヒド2は、フェノキシ-ピロリジン4とホルミル-フェノキシ-酢酸3とを縮合させて調製されてもよい。カップリング反応は、例えばジクロロメタンなどの非プロトン溶媒中の、例えばトリエチルアミン(TEA)などの有機塩基の存在下で、ジエチルシアノホスフェート(DECP)を用いて行われてもよい。典型的に、4および3は、周囲温度などの適切な温度で塩基と共に混合される。次にDEPCを反応混合物に滴下する。約12時間〜約24時間などの適切な時間、反応物を撹拌する。あるいは、カップリング反応は、約4時間などの適切な時間、酢酸エチルおよび水などの極性溶媒または溶媒の混合物中の1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDAC)およびトリエチルアミン(TEA)の存在下で、4と3を混合することによって達成されてもよい。
【0040】
式Iの化合物の代替調製を、以下のスキームIIに示す。
【0041】

【0042】
スキームIIに示すように、式Iの化合物は、当該技術分野で公知の標準酸活性化カップリング手順を用いてフェノキシ-ピロリジン4とベンジル型アルコール9とを直接縮合させて調製されてもよい。ホルミル-フェノキシ-酢酸3(スキームI)およびベンジル型アルコール9(スキームII)は、公知の市販供給元から購入されてもよいし、または当該技術分野で公知の手順を用いて作製されてもよい。
【0043】
フェノキシ-ピロリジン4の調製をスキームIIIに説明する。
【0044】

【0045】
反応1において、フェノキシ-ピロリジン4は、標準の脱保護手順によって対応するN-保護フェノキシ-ピロリジン5からの窒素保護基「P」の除去により調製されてもよい。例えば、Pがtert-ブトキシカルボニルを表す場合、脱保護反応は、酸、例えばp-トルエンスルホン酸(TsOH)またはトリフルオロ酢酸(TFA)または酸溶液、例えば、ジオキサン中のHClを用いて実施することができる。反応は、典型的に、例えば、ジエチルエーテル、または溶媒混合物などの極性溶媒中で実施され、例えば周囲温度などの適切な温度で、約4時間〜約24時間などの適切な時間撹拌する。いくつかの場合において、TFAで5を脱保護することによって、Pがトリフルオロメチルカルボニルを表す副生成物(約15%で存在)の形成がもたらされ得る。湿った酢酸エチル中の炭酸リチウムで不純物を処理してフェノキシ-ピロリジン4を得る。
【0046】
反応2において、N-保護フェノキシ-ピロリジン5は、当該技術分野で公知の手順によって求核性置換を介して調製されてもよい。典型的に、置換反応は、約65℃などの適切な温度での、不活性雰囲気(典型的に窒素)下で、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミドなどのような非プロトン溶媒中の水素化ナトリウム、t-ブトキシドカリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなどのような過剰の塩基と共にメシレート7およびトリフルオロメチルフェノール6を混合することにより実施される。反応は、約4時間〜約24時間などの適切な時間撹拌する。トリフルオロメチルフェノール6は、当該技術分野で公知であり、公知の市販供給元から購入されてもよい。
【0047】
反応3において、メシレート7は、トリエチルアミンなどの塩基の存在下で、塩化メシル(塩化メタンスルホニル)を用いるなどの標準の手順によって対応するN-保護ヒドロキシ-ピロリジン8から調製されてもよい。N-保護ピロリジン8(Pは窒素保護基tert-ブトキシカルボニル(BOC)を表す)は、当該技術分野で公知であり、公知の市販供給元から購入されてもよい。あるいは、N-保護ピロリジン8は、当該技術分野で公知の標準の手順を用いて3-ヒドロキシピロリジンから調製されてもよい。
【0048】
上記の反応シークエンスは、スキームIVに示す出発物質としてラセミ体N-保護ピロリジンを用いて行うこともできる。
【0049】

【0050】
N-保護ピロリジン8に相当するラセミ開始物質(式中、PはBOCなどの窒素保護基を示す)も公知の市販供給源から購入し得る。
【0051】
上述の中間生成物は、抽出、蒸発または当該技術分野に公知の他の技術によって回収し得る。次いで、粗製物質は、クロマトグラフィー、HPLC、再結晶化、粉砕、蒸留または当該技術分野に公知の他の技術によって任意に精製され得る。
【0052】
当業者に理解されるように、上述のような、かかる化合物の調製に有用ないくつかの方法は、例えば分子内の他の部位での反応における機能性による干渉を防ぐため、またはかかる機能性の完全性を保存するために特定の機能性の保護を要し得る。かかる保護の必要性およびその種類は、当業者に容易に決定され、例えば機能性の性質および選択される調製方法の条件に応じて変化する。保護基の導入方法およびその除去方法は、当業者に周知であり、Greene and Wutz, Protective Groups in Organic Synthesis(第3版、John Wiley & Sons, 1999)に記載されている。
【0053】
同様に、上述のスキームI〜IVに参照される標準的な手法は、例えば表題Compendium of Organic Synthetic Methods(Wiley-Interscience)のシリーズおよびRichard LarockによるComprehensive Organic Transformationsなどの標準参考図書に見られ得るものであることが、当業者には理解されよう。代替的な試薬、開始物質、および本明細書に記載される手順を最適化または適合させる方法も当業者により容易に決定される。
【0054】
医薬用途および化粧用途
式Iの化合物はステアロイルCoA不飽和化酵素のインヒビターであることがわかり、過剰な皮脂生成および分泌に関連する皮膚の状態および表面の状態の治療および緩和に有用であり得る。より具体的には、式Iの化合物は、ざ瘡、脂性皮膚、脂性髪、てかてかした皮膚または脂ぎって見える皮膚、および脂漏性皮膚炎などの皮膚の状態および表面の状態を治療する、緩和するおよび予防するために使用され得る。脂質生成の中心的な酵素制御因子として、SCD1活性の乱れが、肥満、アテローム硬化症、癌および糖尿病などの広範囲の疾患において役割を果たすと考えられる。例えば、マウスにおけるSCD1遺伝子のターゲット欠失は、脂質ホメオスタシスおよび体重制御に対するSCD1の重要性を示す。Ntambi, J.M. and Miyazaki, M., Curr. Opin. Lipidol. 14, 255-261(2003)およびDobryzn A., Ntambi, J.M., Obes. Rev., 6, 156-174(2005)。SCD1ノックアウトマウスの他の研究は、SCD1欠損と、エネルギー消費の増加、過脂肪の低減、インスリン感受性および食餌誘導性肥満に対する抵抗性の増加とを相関させている。Dobrzyn, A., Ntambi, J.M., Trends Cardiovasc. Med., 14, 77-81(2004)。他の研究により、SCD1活性と高トリグリセリド血症を患うヒトにおける血漿トリグリセリドとの間での正の相関が示されている。Attie, A.D. et al. J. Lipid Res., 43, 1899-1907(2002)。他の研究により、SCD1発現および活性の増加は、重症肥満者の骨格筋における異常な脂肪酸の分配に寄与することが示唆される。Hulver, M.W. et al., Cell Metab., 2, 251-261(2005)。
【0055】
SCD1の阻害と皮脂生成の低下の関係も、SCD1ノックアウトマウスおよび自発的な突然変異の結果として機能的SCD1を欠損したマウス(asebiaマウス)に関与する研究において示されている。asebiaマウスは、未発達な皮脂腺、うろこの表皮および細い毛を有することを特徴とする。Zheng, Y. et al, Nature Genetics, 23:268-270(1999)。asebiaマウスの特徴に加えて、SCD1ノックアウトマウスも、皮脂細胞萎縮、皮脂生成の低下または減少、および眼乾燥を示した。Miyazaki, M. et al Journal of Nutrition, 131(9): 2260-2268(2001)。より重要なことに、ノックアウトマウスは皮脂の重要な2成分であるトリグリセリドおよびコレステロールエステルを欠損したこと、ならびにこれらの欠損はマウスに高オレイン酸および/またはパルミトレイン酸食餌を与えても回復しなかったことに注意されたい。ヒトにおいては、皮脂生成および分泌のレベルの増加は、ざ瘡プロピオンバクテリウムの増殖を促進し、その後炎症、ケラチン産生細胞増殖およびざ瘡を特徴とする病変形成に寄与する。Sidiropoulos M., University of Toronto Medical Journal, 83(2), 93-95(2006)。したがって、皮脂腺における皮脂の合成を減少または抑制するようなSCD1活性の阻害は、ざ瘡、脂性皮膚、脂性髪、てかてかした皮膚または脂ぎって見える皮膚、および脂漏性皮膚炎などの過剰な皮脂生成に関連する状態を患った被験体において、望ましい治療効果を有するはずである。
【0056】
製剤
本発明の化合物は、薬学、皮膚および化粧用途を目的とし、医薬組成物として調製され、哺乳動物、例えばヒト患者に、選択される投与経路、すなわち経口、局所または皮下に合わせた種々の形態で投与され得る。本発明は選択された投与経路に限定されないことが理解されるはずである。化合物は、単独でまたは1つ以上の他の治療剤と組み合わせて投与され得る。
【0057】
所望の場合、該化合物は、任意の賦形剤を有することなく直接投与され得る。しかし、典型的な態様において、本発明の化合物は、1つ以上の薬学的に許容され得る賦形剤と組み合わせた製剤として投与される。用語「賦形剤」は、本明細書で使用される場合、本発明の化合物以外の、ビヒクル、担体、希釈剤、保存剤等の製剤中の任意の成分のことをいう。本明細書で使用される場合、用語賦形剤は用語「ビヒクル」および「担体」と交換可能に使用される。賦形剤(1つまたは複数)の選択は、主に、特定の投与様式、可溶性および安定性に関する賦形剤(1つまたは複数)の効果、投与形態の性質などの要因に依存する。本明細書で使用される場合、用語「製剤」および「組成物」は交換可能に使用される。いくつかの態様によれば、化合物は皮膚用賦形剤または化粧用賦形剤と共に調製される。この適用において、用語「皮膚用賦形剤」および「化粧用賦形剤」は、交換可能に使用され、一般的に、皮膚または髪への直接投与に適した成分または製剤のことをいう。
【0058】
典型的な態様において、化合物は局所投与される。局所投与は、ざ瘡、過剰な皮脂、脂性皮膚または脂性髪、およびてかてかした皮膚または脂ぎって見える皮膚の治療に特に適切である。本明細書で使用する場合、局所は、皮膚および/または髪への化合物(および任意の担体)の直接適用をいう。本発明の局所組成物は、溶液、ローション、膏薬、クリーム、軟膏、リポソーム、スプレー、ゲル、泡、ローラースティック、または皮膚科学に常用される任意の他の製剤の形態であり得る。
【0059】
別の典型的な態様において、化合物は経口投与される。経口投与のために、化合物は、カプセル、丸薬、錠剤、トローチ剤、溶解剤、粉末、懸濁物、またはエマルジョンなどの固体製剤または液体製剤に調製され得る。固体単位投与形態は、例えば、界面活性剤、滑剤、およびラクトース、スクロース、およびコーンスターチなどの不活性充填剤を含む通常のゼラチン型のカプセルであり得るか、または徐放性製剤であり得る。
【0060】
いくつかの態様において、式Iの化合物は、アラビアゴム、コーンスターチまたはゼラチンなどの結合剤、ポテトスターチまたはアルギン酸などの崩壊剤、ならびにステアリン酸またはステアリン酸マグネシウムなどの滑剤と組み合わせた、ラクトース、スクロースおよびコーンスターチなどの従来の錠剤ベースで錠剤化される。液体製剤は、水性または非水性の薬学的に許容され得る溶媒に活性成分を溶解して調製され、当該技術分野で公知の懸濁剤、甘味剤、香料、および保存剤も含み得る。
【0061】
別の態様において、化合物は非経口投与される。非経口投与のために、化合物は、溶液または懸濁液のいずれかとして投与され得る。適切な薬学担体の例は、水、食塩水、デキストロース溶液、フルクトース溶液、エタノール、または動物、植物もしくは合成起源の油である。薬学担体はまた、当該技術分野で公知の保存剤、バッファ等を含み得る。化合物が鞘内投与される場合、該化合物は当該技術分野で公知のように脳脊髄液に溶解され得る。
【0062】
他の態様において、本発明の組成物はまた、化粧落とし用の石鹸、ゲルもしくは棒としての使用に適した固体または半固体製剤を含み得る。これらの組成物は通常の方法により調製され、任意に、保湿剤(moisturizer)、着色剤、芳香剤などのようなさらなる賦形剤を含み得る。
【0063】
化合物はまた、水性、アルコール性もしくは水性-アルコール性溶液の形態で、またはクリーム、ゲル、エマルジョンもしくはムースの形態で、あるいは加圧された高圧ガスも含むエーロゾル組成物の形態で髪に適用するために調製され得る。本発明の組成物は、ヘアケア組成物、特にシャンプー、毛髪セット用ローション、治療用ローション、スタイリングクリームもしくはゲル、色素組成物、毛髪減少予防用ローションもしくはゲル等であり得る。本発明の種々の組成物中の賦形剤の量は、当該分野において従来使用される量である。
【0064】
本発明の化合物の送達に適した医薬組成物およびその調製方法は、当業者に対して容易に明らかとなる。かかる組成物およびそれらの調製方法は、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences、第19版(Mack Publishing Company, 1995)に見られ得る。
【0065】
投与
本発明の化合物の用量および投与計画は、治療分野において周知の方法および実施にしたがって最適な所望の応答を提供するように調節され得る。例えば、単回丸薬用量が投与され得るか、または数回に分けた用量が長期に渡り投与され得る。用量はまた、治療状況の緊急性を示す場合に、比例して減少または増加され得る。適切な投与計画、それぞれの投与の用量および/または投与の間隔は、化合物、医薬組成物の種類、治療を必要とする被験体の特性および治療される状態の重症度など、多くの要因に依存する。
【0066】
化合物の用量は変化するが、皮膚用投与の一般的なガイドラインとして、化合物は、約0.01〜50w/w%、より典型的には約0.1〜10w/w%の量で皮膚科学的に許容され得る製剤中に存在する。いくつかの態様において、製剤は、1日に1〜4回、罹患した領域に適用され得る。「皮膚科学的に許容され得る製剤」は、皮膚または髪に適用され得かつ薬物が作用部位に拡散することを可能にする製剤である。
【0067】
化合物の用量は変化するが、経口投与のための一般的なガイドラインとして、化合物は、約0.1mg〜約1.0グラムの量で、経口投与に適した製剤中に存在する。いくつかの態様において、化合物は1日に1回経口投与される。他の態様において、化合物は1日に1回より多く経口投与される。本明細書で使用する場合、句「経口投与」は口により摂取されることを意味する。
【0068】
当業者はまた、最大許容用量、検出可能な治療恩恵を患者に提供する治療有効量、および検出可能な治療恩恵を患者に提供するための各薬剤を投与するための時間的要件を容易に決定することを予想し得る。したがって、特定の用量および投与計画が本明細書中に例示されるが、これらの例示は、本発明の実施において患者に提供され得る用量および投与計画を限定するものではない。特定の患者に対する最適な用量の決定は当業者に周知である。
【0069】
局所投与に適した薬学的に許容され得るビヒクルの特定の非限定的な例としては、プロピレングリコール:トランスクタノール(transcutanol):エタノール(20:20:60、v/v/v)およびプロピレングリコール:エタノール(30:70、v/v)が挙げられる。いくつかの態様において、式Iの化合物は約1.5%〜約2.0%(w/v)の濃度で存在し得る。
【0070】
共投与
本発明のさらなる態様において、所望の治療効果を増強もしくは補うためにまたは潜在的な副作用を最小限にするために、化合物は、他の薬剤と共投与される。かかる態様の非限定的な例は以下に記載される。
【0071】
最初に、血清コレステロールの増加の治療についてアシルCoAコレステロールアシルトランスフェラーゼ(ACAT)インヒビターが評価された。その後、これらの化合物は皮脂生成を減少することが発見された(米国特許第6,133,326号)。任意のかかるACATインヒビターは、皮脂生成を減少するため、脂性皮膚を緩和するなどのために、式Iの化合物と共投与され得る。
【0072】
テトラサイクリンおよびクリンダマイシンなどの抗生物質は、ざ瘡を緩和するために使用されている。該抗生物質は、微生物のざ瘡プロピオンバクテリウムを根絶し、患者のざ瘡の減少をもたらす。式Iの化合物は、ざ瘡の治療に適した任意の抗生物質と共投与され得る。
【0073】
特定のレチノイドはざ瘡を治療するために使用されるが、皮脂生成を効果的には減少しない。本発明の一態様において、皮脂生成を減少するためおよびざ瘡または脂漏症を治療するために、式Iの化合物はレチノイドと共投与される。共投与に適した代表的なレチノイドとしては、限定されないが、エトレチネート、トレチノインおよびアリトレチノインが挙げられる。
【0074】
エストロゲンおよびプロゲステロンはそれぞれ、皮脂生成を減少することが示されている。これらの化合物、またはかかる化合物の任意の合成アゴニストは、皮脂生成を減少するために式Iの化合物と共投与され得る。
【0075】
本願で使用される場合、用語「共投与される」または「共投与」は、所望の結果を促進するために、式Iの化合物が典型的に異なる作用機構を有する第二治療剤と共に投与される投与計画をいう。「共投与」は投与経路(1つまたは複数)に限定されず、同時投与、1日のうちに異なる回数での投与、またはさらに異なる日数での投与を表し得ることが理解されるはずである。化合物は別々に投与され得るか、または単一製剤に合わされ得る(すなわち固定された組み合わせ)。
【0076】
別の態様において、化合物および任意のさらなる治療剤を含む医薬用製剤および化粧用製剤は、典型的に小売りのためにパッケージされる(すなわち製造品またはキット)。かかる物品は、患者に製品の使用方法を指示する様式で標識され、パッケージされる。かかる指示には、治療される状態、治療の期間、投与スケジュールなどが含まれる。
【0077】
式Iの化合物はまた、任意の不活性担体と組み合わされ得、当該技術分野で公知なように、患者の血清、尿等における化合物の濃度を決定するための実験室アッセイに利用され得る。該化合物は、研究ツールとしても使用され得る。
【0078】
本発明は、その具体的な態様に関して記載されているが、さらなる改変が可能であり、本願が、一般的に、本発明の原理に従い、本発明の技術分野で公知または慣例の実施になる本開示からの逸脱を含む、本発明の任意の変形、使用または適合の包含を意図することが理解されよう。以下の実施例および生物学的データは、本発明をさらに説明するために存在する。この開示は、いかなる様式においても本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0079】
下記において、以下の略語:THF(テトラヒドロフラン)、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)、BOC(tert-ブトキシカルボニル)、DEPC(ジエチルシアノホスフェート)、TEA(トリエチルアミン)、HOBT(1-ヒドロキシベンゾトリアゾール)、EDAC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)およびEtOH(エタノール)が使用される。
【実施例】
【0080】
実施例1A
(S)-2-(4-(ヒドロキシメチル)フェノキシ)-1-(3-(2-(トリフルオロメチル)フェノキシ)ピロリジン-1-イル)エタノン
工程1:THF(20ml)中のR-1-BOC-3-ヒドロキシ-ピロリジン(1.0g、5.34mmol)およびトリエチルアミン(0.89ml、6.41mmol)の混合物を氷浴中で冷却した。これに塩化メタンスルホニル(0.46ml、5.87mmol)を添加した。次いで、反応物を室温に温めて、4時間攪拌した。水を添加して反応をクエンチし、酢酸エチル(2x)で抽出した。有機抽出物を合わせ、飽和NaCl溶液で洗浄し、無水MgSO4で乾燥させ、ろ過し、濃縮して1.42gの透明な油を得て、これをさらに精製することなく使用した。
1H NMR δ(ppm) (CDCl3) 1.48(9H, s), 2.05〜2.30(2H, m), 3.05(3H, s), 3.40〜3.75(4H, m), 5.27(1H, br).
【0081】
工程2:工程1の生成物をDMF(15ml)中で2-(トリフルオロメチル)フェノール(868mg、5.35mmol)および炭酸セシウム(2.620g、8.03mmol)と合わせた。得られた混合物を65℃に温め、一晩攪拌した。水を添加して、反応物を酢酸エチル(2X)で抽出した。有機抽出物を合わせて、MgSO4で乾燥させ、ろ過し、濃縮して1.77gの黄色油を得て、これをさらに精製することなく使用した。
1H NMR δ(ppm) (CDCl3) 1.50(9H, s), 2.02〜2.30(2H, m), 3.40〜3.70(4H, m), 5.01(1H, br.), 6.90〜7.10(2H, m), 7.40〜7.70(2H, m).
MS(M+1-100)=232
【0082】
工程3:工程2の生成物(1.77g、5.15mmol)をジエチルエーテル(20ml)に溶解した。これにジオキサン(5.0ml)中の4M HClを添加して、反応混合物を一晩攪拌した。得られた沈殿をろ過して回収し、ジエチルエーテルで洗浄して0.86gの白色固体を得て、これをさらに精製して使用した。
1H NMR δ(ppm) (CDCl3) 2.30〜2.42(2H, br.), 3.40〜4.20(4H, m), 5.18(1H, br.), 6.90〜7.10(2H, m), 7.40〜7.60(2H, m).
MS(M+1)=232
【0083】
工程4:工程3の生成物(2.00g、8.65mmol)をジクロロメタン(40ml)中の2-(4-ホルミルフェノキシ)酢酸(1.42g、7.86mmol)およびトリエチルアミン(2.85ml、20.4mmol)と合わせた。これにDEPC(1.55ml、10.2mmol)を5分間かけて滴下した。次いで反応混合物を室温で18時間攪拌した。反応物を50%容量まで濃縮し、5%〜100%酢酸エチル/ヘキサン溶出勾配を使用した中圧液体クロマトグラフィーで精製し、1.83gの無色透明油を得た。
1H NMR δ(ppm)) (CDCl3) 2.41〜2.08(2H, m), 3.69〜3.94(4H, m), 4.61〜4.66(2H, m), 5.06(1H, m), 6.89〜7.58(m, 7H), 9.90(1H, s).
MS(M+1)=394
【0084】
工程5:工程4の生成物(1.83g、4.65mmol)をメタノール(25ml)に溶解した。これに水素化ホウ素ナトリウム(968mg、2.56mmol)を添加した。得られた混合物を室温で2時間攪拌して、そこに5.0mlの2N NaOHを添加し、反応物をさらに1時間攪拌した。次いで、反応物を100mlの酢酸エチル、20mlの飽和NaCl溶液で希釈し、5分間攪拌した。有機層を分離して水層を酢酸エチル(2X、30ml)で洗浄した。有機層を合わせて、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、ろ過し、濃縮した。これにより得られた粗製物質を中圧液体クロマトグラフィーで精製して、淡黄色ゴム状物を得て、これを10mlのジクロロメタンに溶解し、ヘプタンで粉砕し白色固体の表題の化合物を得た。この固体をろ過して回収し、50℃で18時間乾燥させた。
1H NMR δ(ppm) (CDCl3) 1.64(1H, s), 2.41〜2.08(2H, m), 3.69〜3.94(4H, m), 4.61〜4.66(4H, m), 5.06(1H, m), 6.89〜7.58(m, 7H).
MS(M+1)=396
[α]20D=122.3(c5.3, MeOH)
キラルHPLC:保持時間:12.62分(条件:カラム-キラルセル(chiralcel)OJ、#0500CE-KJ010、4.6x250mm、溶媒:EtOH/ヘプタン 25/75、流速:0.9ml/分).
【0085】
実施例1B
この実施例では、本発明の化合物の代替的な調製を説明する。
【0086】
工程1:約15%の(S)-2,2,2-トリフルオロ-1-(3-(2-(トリフルオロメチル)フェノキシ)ピロリジン-1-イル)エタノンを含む(S)-3-(2-(トリフルオロメチル)フェノキシ)ピロリジン(200g、.579mol)を酢酸エチル(500ml)および水(100ml)中でLi2CO3(85.61g、1.16mol)と合わせた。得られた反応混合物を2時間攪拌し、次いで水と酢酸エチルに分離した。有機層を分離して水(2X)で洗浄し、生成物を濃縮または単離することなく次の工程に使用した。
【0087】
工程2:HOBT(71.17g、0.527mol)およびEDAC(131.24g、0.685mol)の存在下で工程1の有機生成層を(4-ホルミルフェノキシ)酢酸(95.0g、0.527mol)で処理した。得られたスラリーにTEA(100ml、0.717mol)および水(50ml)を添加し、その後、反応物を37℃に発熱させた。次いで混合物を室温で3時間攪拌し、その後反応物を水で分けた。次いで、有機層を以下のように洗浄した:水(1X)、水性1.0M HCl(1X)、飽和水性NaHCO3(1X)、水性1.0M HCl(1X)、および飽和水性NaHCO3(1X)。次いで有機物にシリカゲル(150g)を添加して、ろ過の前に混合物を5〜10分間攪拌した。次いで、生成物を濃縮または単離することなく有機物を次の反応工程に使用した。
【0088】
工程3:工程2の生成物の酢酸エチル溶液を、操作容量1600mlを有するSS Parr振盪器に添加した。これにニッケル(100g)を添加して、メタノールおよびTHFで洗浄し、添加の前に水を除去した。得られた反応混合物を窒素(3X)でパージし、その後水素(5X)でパージした後、水素ガスで50psiまで加圧した。反応温度が45℃を超えないように注意して混合物を50psiで、室温で振盪した。必要に応じて反応容器を再度加圧し、水素の取り込みについて反応をモニターした。H2の取り込みが止まったところで、反応物をろ過してニッケルを除去した。次いで、ニッケルをTHFで洗浄して沈殿した任意の生成物を溶解した。有機物を合わせて、セライトのパッドでろ過して、約400mlに濃縮した。これにヘプタン(hepanes)(約650ml)を添加して、生成物が沈殿するまで混合物を攪拌した。次いで固体をろ過して回収し、酢酸エチルで洗浄して粗生成物(171g)を得た。次いで、そうして得られた物質を800mlの酢酸エチルと合わせて、全ての固体が溶解するまで80℃に加熱した。次いで、生成物が結晶化するまで溶液を室温で攪拌した。溶液が約30℃に達したところで固体をろ過して酢酸エチルで洗浄し、真空下、50℃で16時間乾燥させ、(S)-2-(4-(ヒドロキシメチル)フェノキシ)-1-(3-(2-(トリフルオロメチル)フェノキシ)ピロリジン-1-イル)エタノンを得た。
【0089】
実施例1C
この実施例では本発明の化合物の反対のエナンチオマー、つまり(R)-2-(4-(ヒドロキシメチル)フェノキシ)-1-(3-(2-(トリフルオロメチル)フェノキシ)ピロリジン-1-イル)エタノンの調製を説明する。
【0090】
実施例1Aの工程3の生成物(700mg、2.62mmol)、2-(4-ヒドロキシメチル)フェノキシ)酢酸(855mg、4.7mmol)、HOBT(376mg、2.78mmol)、EDAC.HCl(621mg、3.24mmol)および4-メチルモルホリン(3g、30mmol)の混合物を塩化メチレン(20mL)中、23℃で18時間攪拌した。反応混合物をメチレン(20mL)で希釈し、水(30mL)および5%クエン酸溶液(30mL)で洗浄した。有機層をMgSO4で乾燥させ、ろ過し、濃縮した。酢酸エチル/ヘプタンからのさらなる再結晶化により所望の生成物を得た(実施例1C、645mg、収率76.1%)。
1H NMR δ(ppm) (CDCl3) 1.58(1H, s) 2.43〜2.08(2H, m), 3.6〜3.94(4H, m), 4.61〜4.66(4H, m), 5.06(1H, m), 6.89〜7.58(m, 7H).
MS(M+1)=396
キラルHPLC:保持時間:15.17分(条件:カラム-キラルセルOJ、#0500CE-KJ010、4.6x250mm、溶媒:EtOH/ヘプタン 25/75、流速:0.9ml/分).
【0091】
薬理学試験
ラットミクロソームアッセイ
以下のラットミクロソームアッセイを使用して、ステアロイルCoA不飽和化酵素(SCD1)に対する式Iの化合物の阻害活性を示した。下記のように、LC/MS/MSを使用して、アッセイにより標識ステアロイルCoAのオレオイルCoAへの転換を測定した。
【0092】
ラット肝臓ミクロソームにおけるSCD1活性を増加させるために、Sprague Dawleyラットを40時間絶食させる。絶食後、48時間自由にありつけるように食餌を遊離脂肪酸欠乏食餌に取り替える。次いで、CO2窒息を使用してラットを安楽死させ、肝臓を除去する。肝臓の重量を測定して、細切れにし、氷上で均質化バッファ(0.15mM KCl、0.25mMスクロース、50mM Tris-HCl、pH7.5、5mM EDTA、1.5mM GSH)に入れる。ポリトロンを用いて均質化して数回遠心分離工程を行い、ミクロソームを単離する。最終の遠心分離の後、得られたペレットを均質化バッファに再懸濁し、タンパク質濃度を測定する。使用するまでアリコートを-80℃に保存する。
【0093】
ステアロイル補酵素Aからオレオイル補酵素Aへの転換を阻害する式Iの化合物の能力を試験するために、式Iの化合物の存在下でラット肝臓ミクロソームを、D3で標識したステアロイル補酵素Aと反応させる。アセトニトリルを使用して反応を終結させる。試料を2M KOHを用いて70℃でけん化して、遊離脂肪酸を抽出する。次いで、蟻酸を用いて試料を酸性化し、最終的にクロロホルムで抽出する。有機層を移して、窒素ガス下で蒸発させる。試料を9:1のメタノール:水に再構成させて、内部標準として2μg/mlのヘプタデカン酸を添加し、LC/MS/MSで分析する。ステアロイルCoAのオレオイルCoAへの転換を阻害する能力をIC50として表す。
【0094】
上述のアッセイを使用して、式Iの化合物は、40μMの基質(2x Km)の存在下で、5.8nMのIC50でSCD1活性を阻害した。この値は複数の試験の平均である(N=3)。
【0095】
ヒト脂肪細胞アッセイ
SCD1の役割は、脂肪細胞と皮脂細胞で同様であると考えられている。完全なヒト細胞中で化合物がSCD1酵素を阻害する能力を、下記のHuman AdipoRedアッセイを使用して測定した。細胞を前脂肪細胞として回収し、その後、384ウェル形式で5日間分化させた。種々の濃度で化合物を6日間添加する。次いで、分泌されたトリグリセリドに特異的に結合する特有の色素により、トリグリセリドの生成を評価した。トリグリセリドの生成を阻害する能力をIC50として表す。
【0096】
ヒト脂肪細胞アッセイの実験手順
凍結保存した皮下前脂肪細胞(カタログ番号:PT-5001、供給業者:Cambrex Bio Science)を37℃で素早く融解し、1000rpmで5分間スピンダウンした。前脂肪細胞を30mlの増殖培地(GM、カタログ番号:PT-8202、Cambrex Bio Science)に再懸濁し、75,000細胞/mlの終濃度まで希釈する。次いで、40μlの細胞を、384ウェルBDファルコンポリスチレンアッセイプレートのウェルに、ウェル当たり3,000細胞(40μl)の密度で播種する。
【0097】
3日後、各ウェルに40μlの2X分化培地(DM、カタログ番号:PT-9502、Cambrex Bio Science)を添加して細胞を分化誘導する。
【0098】
分化の5日後に、Biomek FXを用いて、細胞を96ウェル化合物プレートからの2μlの化合物で、全く同じに二通り処理した。化合物処理の6日後に、分化した脂肪細胞を含む384ウェルプレートをDPBSで2回洗浄し、1.5μlのAdipoRed(カタログ番号:PT-7009、Cambrex Bio Science)試薬を用いて、室温で15分間染色する。その後、細胞内トリグリセリドの蓄積を、SpectraMax M5マイクロプレートリーダー上で572nmの蛍光を測定して定量する。
【0099】
上述のアッセイを使用して、本発明の化合物が6.8nMのIC50を有することを測定した。この値は複数の試験の平均である(N=6)。
【0100】
ハムスター耳モデル
ハムスター耳モデルは、化合物が皮脂腺機能および皮脂分泌を調節し得るかどうかを試験するための検証した動物モデルである。Luderschmidt et al, Arch. Derm. Res. 258, 185-191(1977)。このモデルには、耳に皮脂腺が含まれる、雄のゴールデンハムスターを使用する。以下に概略を示した手順にしたがって、このモデルにおいて本発明の化合物をスクリーニングした。これらの試験において、ハムスターには、1日に2回(BID)で2週間、週に5日間(月曜日から金曜日)、局所投与を行う。それぞれの用量は、25μlのビヒクル対照または調製した試験物からなり、左右両耳の腹側表面の約3cm2に均一に適用した。屠殺して、脂質分析、組織学および試験化合物の皮膚濃度のために皮膚パンチ片を入手する。
【0101】
皮脂生成の阻害のための動物モデル
9〜10週齢の雄のゴールデンハムスターを実験室環境に導入し、試験に使用する前に2週間順応させた。それぞれの群は5匹の動物からなり、ビヒクルおよび陽性対照と並行して行った。投与前に、十分な量のそれぞれの化合物を、エタノール、トランスクタノールおよびプロピレングリコール(60/20/20 v/v/v)からなる1mLの溶媒に溶解して3.0w/v%の終濃度とした。
【0102】
動物には、1日2回、週5日、2週間局所投与を行った。それぞれの用量は、25μlのビヒクル対照または薬物からなった。用量を左右両耳の腹側表面に適用した。最終投与の約18〜24時間後に全ての動物を屠殺した。それぞれの動物から右耳を回収し、皮脂分析に使用した。
【0103】
以下の様式で、耳をHPLC分析用に調製した。試料の面積を標準化するために、耳の解剖「V」印の直上の8mm遠位の生検パンチ片を得た。該パンチ片をばらばらにした。腹側生検表面(局所用量が皮脂腺に直接適用された領域)を試験のために残し、生検パンチ片の背側表面を廃棄した。
【0104】
組織試料にN2ガスを吹き付け、HPLC分析まで窒素下で-80℃で保存した。耳試料に加えて、それぞれの薬物およびビヒクルのアリコート(少なくとも250μl)も、HPLC分析に加えるために-80℃で保存した。
【0105】
組織試料抽出物を用いてHPLC分析を行った。組織試料を3mlの溶媒(2,2,4-トリメチルペンタンおよびイソプロピルアルコールの4:1混合物)と接触させた。混合物を15分間振盪して、室温で一晩遮光して保存した。翌朝、試料に1mlの水を添加して15分間振盪した。次いで、試料を約1500rpmで15分間遠心分離した。2mlの有機相(上層)をガラスバイアルに移して、37℃、窒素下で約1時間乾燥させ、次いで約48時間凍結乾燥した。次いで試料を凍結乾燥機から取り出し、それぞれのバイアルを600μlの溶媒A(トリメチルペンタン/テトラヒドロフラン(99:1)で再構成した。次いで、試料に再度フタをして、5分間ボルテックスにかけた。
【0106】
次いで、200μlのそれぞれの試料を、200μLのガラス挿入物を有する予備標識200μl HPLCバイアルに移した。Agilent 1100シリーズHPLCユニット用の自動試料採取器トレイにHPLCバイアルを入れた。Agilent 1100 HPLCシステムは、温度自動調節自動試料採取器、4組のポンプ、カラムヒーターおよびA/Dインターフェイスモジュールからなった。全ての部分は、Agilent ChemStationソフトウェアで制御された。Waters Spherisorb S3W 4.6x100mm分析カラムを、Agilentカラムヒーターユニットで30℃に維持した。HPLC自動試料採取器は、稼働中に試料温度を20℃に保つようにプログラムした。
【0107】
それぞれの試料の10μLを3回同じようにカラムに注入した。溶媒の勾配のために2種類の溶媒を使用した。溶媒Aはトリメチルペンタンとテトラヒドロフラン(99:1)の混合物であった。溶媒Bは酢酸エチルであった。使用した勾配を以下の表に記載する:
【0108】

【0109】
Sedex 75蒸発光散乱検出器(ELSD)は、45℃、ゲイン5で作動させ、N2圧を3.1バールに維持した。該機器により得られたアナログ信号を、Agilent A/Dインターフェイスモジュールに送信し、デジタル出力に変換した。変換は10000mAU/ボルト設定値に基づき、データ速度は10Hzに設定した(0.03分)。次いで、得られたデジタル出力を、ピーク面積の統合のためにAgilent ChemStationソフトウェアに送った。結果は、ビヒクル対照と比較した場合の、コレステロールエステル(CE)およびワックスエステル(WE)生成の減少として記録する。負の値は皮脂の増加を表し、正の値は減少を表す。
【0110】
このアッセイを使用して、試験化合物(プロピレングリコール/トランスクタノール/エタノール 20/20/60、w/vのビヒクル中、1.5%で投与)での処理により、CEにおいて62%の減少およびWEにおいて82%の減少、ハムスターモデルにおける皮脂生成の機構バイオマーカー、ならびに皮脂腺の大きさの減少が生じたことを測定した。次いで、化合物のED50を測定するために、用量応答実験を行った。この試験について、試験化合物はプロピレングリコール:エタノール、30:70(w/v)中に調製され、CEおよびWE生成の両方の用量依存的減少をもたらした。皮脂腺の大きさおよび数の用量関連変化も組織学的に観察された。式Iの化合物についてのWE減少に基づいたED50は、2週間の局所BID適用について0.3%(0.025mg/cm2)であると決定された。
【0111】
本発明の態様として、以下のものが挙げられる。
[1]式I


の化合物またはその薬学的に許容され得る塩。
[2]ざ瘡、脂性皮膚、脂性髪、てかてかした皮膚、脂ぎって見える皮膚、脂ぎって見える髪または脂漏性皮膚炎から選択される状態を治療、改善または予防するための、[1]記載の化合物の使用。
[3]ステアロイルCoA不飽和化酵素の活性を阻害するための、[1]記載の化合物の使用。
[4]皮脂の合成を阻害するための、[1]記載の化合物の使用。
[5]哺乳動物の皮脂腺におけるコレステロールエステルおよびワックスエステルの合成を阻害するための、[1]記載の化合物の使用。
[6]過剰な皮脂生成と関連する状態を治療または緩和するための医薬の製造における、[1]記載の化合物の使用。
[7]皮脂の合成を阻害するための医薬の製造における、[1]記載の化合物の使用。
[8]ざ瘡の治療または予防のための、[1]記載の化合物の使用。
[9]化合物(R)-2-(4-(ヒドロキシメチル)フェノキシ)-1-(3-(2-(トリフルオロメチル)フェノキシ)ピロリジン-1-イル)エタノン。
[10]化合物2-(4-ヒドロキシメチル)フェノキシ)-1-(3-(2-トリフルオロメチル)フェノキシ)ピロリジン-1-イル)エタノン。
[11]化合物(S)-2-(4-(ヒドロキシメチル)フェノキシ)-1-(3-(2-(トリフルオロメチル)フェノキシ)ピロリジン-1-イル)エタノン、または前記化合物の薬学的に許容され得る塩;および
薬学的に許容され得る担体、ビヒクル、希釈剤または賦形剤
を含む医薬組成物。
[12]化合物(S)-2-(4-(ヒドロキシメチル)フェノキシ)-1-(3-(2-(トリフルオロメチル)フェノキシ)ピロリジン-1-イル)エタノン、または前記化合物の薬学的に許容され得る塩;
第二治療剤; および
薬学的に許容され得る担体、ビヒクル、希釈剤または賦形剤
を含む医薬組成物。
[13]皮膚または髪への適用に適切である、[11]または[12]記載の組成物。
[14]摂食に適切である、[11]または[12]記載の組成物。
[15]ヒトを含む哺乳動物に、治療有効量の(S)-2-(4-(ヒドロキシメチル)フェノキシ)-1-(3-(2-(トリフルオロメチル)フェノキシ)ピロリジン-1-イル)エタノンまたは前記化合物の薬学的に許容され得る塩を単独でまたは第二治療剤と組み合わせて投与する工程を含む、治療の必要があるヒトを含む哺乳動物における過剰な皮脂生成と関連する状態の治療方法または緩和方法。
[16]ヒトを含む哺乳動物に、治療有効量の(S)-2-(4-(ヒドロキシメチル)フェノキシ)-1-(3-(2-(トリフルオロメチル)フェノキシ)ピロリジン-1-イル)エタノンまたは前記化合物の薬学的に許容され得る塩を単独でまたは第二治療剤と組み合わせて投与する工程を含む、治療の必要があるヒトを含む哺乳動物におけるざ瘡、脂性皮膚、脂性髪、てかてかした皮膚、脂ぎって見える皮膚、脂ぎって見える髪、または脂漏性皮膚炎から選択される状態の治療方法または緩和方法。
[17]ヒトを含む哺乳動物に、治療有効量の(S)-2-(4-(ヒドロキシメチル)フェノキシ)-1-(3-(2-(トリフルオロメチル)フェノキシ)ピロリジン-1-イル)エタノンまたは前記化合物の薬学的に許容され得る塩を単独でまたは第二治療剤と組み合わせて投与する工程を含む、治療の必要があるヒトを含む哺乳動物におけるステアロイルCoA不飽和化酵素の活性の阻害方法。
[18]過剰な皮脂生成と関連する状態を緩和するための化合物の利用方法を顧客に知らせ、小売のためにパッケージされた、[1]記載の化合物を含むキット。
[19]ざ瘡、脂性皮膚、脂性髪、てかてかした皮膚、脂ぎって見える皮膚、脂ぎって見える髪、または脂漏性皮膚炎から選択される状態を緩和するための化合物の利用方法を顧客に知らせ、小売のためにパッケージされた、[1]記載の化合物を含むキット。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
肥満を治療するため、エネルギー消費を増加させるため、または過脂肪の低減のための、式I:


の化合物、またはその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物もしくは水和物を含む医薬組成物。
【請求項2】
アテローム硬化症の治療のため、血清コレステロールの低減のため、血漿トリグリセリドの低減のため、または高トリグリセリド血症の治療のための、式I:


の化合物、またはその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物もしくは水和物を含む医薬組成物。
【請求項3】
糖尿病の治療のため、またはインスリン感受性の増大のための、式I:


の化合物、またはその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物もしくは水和物を含む医薬組成物。
【請求項4】
癌の治療のための、式I:


の化合物、またはその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物もしくは水和物を含む医薬組成物。
【請求項5】
該組成物が、局所投与、経口投与または非経口投与に適している、請求項1〜4いずれか記載の医薬組成物。


【公開番号】特開2013−100377(P2013−100377A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−43265(P2013−43265)
【出願日】平成25年3月5日(2013.3.5)
【分割の表示】特願2010−519537(P2010−519537)の分割
【原出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(502105258)メディシス・ファーマシューティカル・コーポレーション (4)
【Fターム(参考)】