説明

フェノフィブラートの固体分散体及びこれを含む高脂血症治療剤

【課題】フェノフィブラートとポリエチレングリコールとの組成物を配合した高脂血症の治療薬剤について、薬効を低下させずに、小型化して服用し易くした製剤、またその溶解性を向上させた製剤を提供する。
【解決手段】フェノフィブラートをポリエチレングリコールとともに融解混合した後、固化させることによって調製した固体分散体であり、固体分散体に対するフェノフィブラートの割合が50質量%以上の固体分散体である。また、上記の固体分散体を含んでなるカプセル剤又は錠剤である。また、上記の固体分散体に結晶セルロースを混合してカプセルに充填してなるカプセル剤である。また、上記の固体分散体に、結晶セルロース、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムを混合してカプセルに充填してなるカプセル剤である。更に、上記の固体分散体を有効成分とする高脂血症治療剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノフィブラートの固体分散体、及びそれを含む高脂血症治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノフィブラート(化学名:イソプロピル2−〔4−(4−クロロベンゾイル)フェノキシ〕−2−メチルプロピオネート)は、肝細胞の核内受容体 peroxisome proliferator-activated receptorα(PPARα) を活性化して脂質代謝に係わる種々のタンパク質の発現を調節する作用があり、体内のトリグリセライドとコレステロールを低下させ、HDL-コレステロールを増加させて脂質代謝を総合的に改善させる効果がある。そのため、高脂血症治療剤として多用されている。
【0003】
フェノフィブラートは水に難溶性である。このことがフェノフィブラートの生物学的利用能の低下につながっている。従って、フェノフィブラートの生物学的利用能を高めるためには、生体内における溶解性を高める必要がある。従来、フェノフィブラートの溶解性を改善する試みが種々なされてきている。例えば、特許文献1には、フェノフィブラートと固形界面活性剤との均質混合物を共微粉砕処理して溶解性を高めた組成物(以下、微粉化処理フェノフィブラートという)が開示されている。この組成物を硬カプセルに充填した製剤(以下、微粉化フェノフィブラート製剤という)は、リピディルカプセル、トライコアカプセルという名称で上市されいる。
【0004】
しかし、フェノフィブラートと固形界面活性剤の均質混合物の共微粉砕処理には、作業に長時間を要し、且つ費用がかかる。また、共微粉砕処理して微粉化した粒子はサイズの調整の必要があり、更にこの微粉化粒子を硬質ゼラチンカプセルに均一量充填するのは困難である。そこで、微粉化処理せずに、フェノフィブラートの生物学的利用能を向上させる技術が提案されている。その一例として、特許文献2には、フェノフィブラートとポリエチレングリコールなどの賦形剤との混合物よりなる組成物で、フェノフィブラートと賦形剤が共融混合物を生成する組成物、及びこの組成物を高脂血症患者に投与することが開示されている。
【特許文献1】特公平7−14876号公報
【特許文献2】特表2003−500439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の発明は、フェノフィブラートと賦形剤とが共融混合物を生成した組成物に係わるが、特許文献2の発明では、この組成物について、フェノフィブラートの割合が、共融混合物のフェノフィブラートと賦形剤の割合より、約0.5%(w/w)から約10%高い範囲の組成物が好ましいとしている。ところが、賦形剤としてポリエチレングリコールを用いた場合は、フェノフィブラートに対するポリエチレングリコールの質量比が大きいために、例えば特許文献2の実施例1に記載のように、フェノフィブラートとポリエチレングリコールの比が15:85の組成物を用いたときは、実用にあたっては、1カプセルの質量が446.7mgの大きなカプセル(カプセル1号(長径約19.1mm、短径6.9mm)もしくはそれ以上の大きなサイズのカプセル)が必要になる。
【0006】
フェノフィブラートの適応症である高脂血症においては、長期間にわたり薬剤を服用する必要があり、製剤の大きさは服薬コンプライアンスに大きく影響する。また高脂血症の患者には高齢者が多く、嚥下機能等の低下が認められる場合が多い。したがって、高脂血症の治療においては、特に服用する製剤の大きさは、服薬コンプライアンスの向上にとって重要である。
本発明は、フェノフィブラートとポリエチレングリコールとの共融混合物について、薬効を低下させずに、小型化して服用し易くした製剤を提供することを目的とする。更に、本発明は、フェノフィブラートとポリエチレングリコールとの共融混合物の溶解性を向上さることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、フェノフィブラートをポリエチレングリコールとともに融解混合した後、固化させることによって調製した固体分散体であって、固体分散体に対するフェノフィブラートの割合が50質量%以上であることを特徴とする固体分散体である。また、上記の固体分散体を含んでなるカプセル剤又は錠剤である。また、上記の固体分散体に結晶セルロースを混合してカプセルに充填してなるカプセル剤である。また、上記の固体分散体に結晶セルロース、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムを混合してカプセルに充填したカプセル剤である。更に本発明は、上記の固体分散体を有効成分とする高脂血症治療剤である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のフェノフィブラートとポリエチレングリコールの固体分散体は、固体分散体中のフェノフィブラートの割合が50質量%以上と大きいので、同量の固体分散体を用いても、高い薬効が期待できる。したがって、カプセル剤や錠剤の大きさを小さくできるので、服薬コンプライアンスの向上を果たすことができる。また、この固体分散体に結晶セルロースを混合してカプセル剤にすることにより、生体内での溶解性を高め、微粉化処理しなくても、微粉化処理フェノフィブラートと同様の生物学的利用能が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、フェノフィブラートとポリエチレングリコールとの固体分散体に係わる。固体分散体(solid dispersion)の調製方法には、溶液法、融解法、粉砕法、吸着法などが知られているが、本発明は融解法で調製した固体分散体に係わる。すなわち、本発明の固体分散体は、フェノフィブラートをポリエチレングリコールとともに融解混合した後、固化させることによって調製する。例えば、フェノフィブラートとポリエチレングリコールの両方が融解し透明な溶液を得るのに十分な温度まで加熱し混合した後、冷却固化することによって得られる。得られた固体分散体は、フェノフィブラートがポリエチレングリコール中に微細な結晶として分散した状態にある。上記のポリエチレングリコールとしては分子量600〜20000のもの、好ましくは4000〜6000のものが用いられる。
【0010】
フェノフィブラートをポリエチレングリコールで固体分散化体にすることによりフェノフィブラートの生体内での溶解性が向上する。本発明の上記の固体分散体において、固体分散体に対するフェノフィブラートの割合(固体分散中のフェノフィブラートの割合)は50質量%以上、好ましくは67質量%以上にする。すなわち、本発明の固体分散体中には、フェノフィブラートがポリエチレングリコールよりも多く存在する。この固体分散体は、そのまま、或は粉砕してサイズを調整し、必要に応じて添加剤を配合して、硬質ゼラチンカプセル等に充填してカプセル剤にするか、或は圧縮成形して錠剤にする。
【0011】
ところで、上記の固体分散体は、フェノフィブラートの割合が大きいためか、溶解性が不十分で生物学的利用能が十分でない。この固体分散体に結晶セルロースを混合し、これをカプセルに充填して作成したカプセル剤は、溶解性、特に初期の溶解性が良くなり、従来フェノフィブラート薬剤として優れたものとされていた微粉化フェノフィブラート製剤と同様な溶解性を示す。結晶セルロースの配合量は、固体分散体100質量部に対して30〜60質量部、好ましくは35〜50質量部である。また、固体分散体中のフェノフィブラートの割合を多くする、例えば、フェノフィブラートとポリエチレングリコールの割合を2:1にすると、結晶セルロースを添加しても十分に溶解性を良くすることはできないが、このとき結晶セルロースと共にラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムを混合してカプセルに充填してカプセル剤にすると、溶解性が更に改善し、微粉化フェノフィブラート製剤の溶解性に近似する。ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムの配合量は、夫々固体分散体100質量部に対して、5〜10質量部及び1〜5質量部である。
【0012】
本発明の固体分散体を含むカプセル剤や錠剤を作成するとき、添加剤として、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤などが用いられる。崩壊剤としては、クロスポピドン(別名:架橋ポリビニルピロリドン)、カルメロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム等が用いられる。界面活性剤としては、高級アルコールのアルカリ金属硫酸塩、酸化エチレン・酸化プロピレン共重合物(例:ポリソルベート)、ショ糖脂肪酸エステル等が用いられ、滑沢剤としては、ステアリン酸、カルナバロウ、ケイ酸マグネシウム、タルク等が用いられる。
【0013】
また、上記の他に製薬的に許容可能な賦形剤を、望ましい最終生成物を作成する前に調合物に加えてもよい。この賦形剤としては、ショ糖、乳糖、デンプン類、硫酸カルシウム、沈降炭酸カルシウムなどが挙げられる。更に、上記の添加剤の他に、カプセル剤又は錠剤を調製するのに必要な他の製薬的に許容可能な結合剤、充填剤、希釈剤、潤滑剤又は分解剤を配合してもよい。
【0014】
次に、実施例及び試験例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
フェノフィブラートと分子量6000のポリエチレングリコールとを、質量比が1:1となるように量り取り、混合した後、約85℃まで加熱し混合して、透明な溶液を得た。次に溶液を室温で冷却し、固体分散体を生成させた。この固体分散体を砕いて、60−100メッシュスクリーンでサイズを揃えた。この固体分散体粒子134mg(67mgのフェノフィブラートを含む)を4号カプセルに充填してカプセル剤を作った。
【実施例2】
【0016】
実施例1で得た固体分散体粒子100質量部に、部分アルファー化デンプン50質量部を加えて混合した。この混合物の201mg(67mgのフェノフィブラートを含む)を3号カプセルに充填してカプセル剤を作った。
【実施例3】
【0017】
実施例1で得た固体分散体粒子100質量部に、D−マンニトース50質量部を加えて混合した。この混合物の201mg(67mgのフェノフィブラートを含む)を3号カプセルに充填してカプセル剤を作った。
【実施例4】
【0018】
実施例1で得た固体分散体粒子100質量部に、乳糖50質量部を加えて混合した。この混合物の201mg(67mgのフェノフィブラートを含む)を3号カプセルに充填してカプセル剤を作った。
【実施例5】
【0019】
実施例1で得た固体分散体粒子100質量部に、結晶セルロース50質量部を加えて混合した。この混合物の201mg(67mgのフェノフィブラートを含む)を3号カプセルに充填してカプセル剤を作った。
【実施例6】
【0020】
フェノフィブラートと分子量6000のポリエチレングリコールとを、質量比が2:1となるように量り取り、混合した後、約85℃まで加熱し混合して、透明な溶液を得た。次に溶液を室温で冷却し、固体分散体を生成させた。この固体分散体を砕いて60−100メッシュスクリーンでサイズを揃えた。得られた固体分散体粒子100.0質量部に、結晶セルロース67.0質量部を加えて混合した。この混合物の150mg(67mgのフェノフィブラートを含む)を4号カプセルに充填してカプセル剤を作った。
【実施例7】
【0021】
実施例6で得た固体分散体粒子100質量部に、結晶セルロース39質量部、ラウリル硫酸ナトリウム8質量部及びステアリン酸マグネシウム3質量部を加えて混合した。この混合物の150mg(67mgのフェノフィブラートを含む)を4号カプセルに充填してカプセル剤を作った。
【0022】
試験例1
フェノフィブラートと分子量6000のポリエチレングリコールとを、質量比が0:100、5:95、10:90、15:85、50:50、67:33、100:0となるよう各々量り取り、混合した後、約85℃まで加熱混合して、透明な溶液を得た。次に溶液を室温で冷却し、固体分散体を得た。得られた各々の固体分散体の融点を測定した。その結果を図1に示す。
【0023】
図1から明らかなように、共融点は、固体分散体中のフェノフィブラートの割合が5%から15%の間で認められると考えられた。したがって、上記の実施例1及び6に示す固体分散体は、共融混合物よりも、少なくとも35%以上多くフェノフィブラートを含有することが分かる。
【0024】
試験例2
上記の実施例1〜7で得られたカプセル剤、微粉化フェノフィブラート製剤(リピディルカプセル67)及び微粉化処理していないフェノフィブラート製剤(リパンチルカプセル100)を、日局一般試験法溶出試験法第2法(パドル法)に準じ、試験液に1%ポリソルベート80を含む日局崩壊試験第2液(pH6.8)900mLを用い、毎分50回転させて、溶出率を調べた。その結果を図2、図3に示す。
【0025】
図2から明らかなように、フェノフィブラートと分子量6000のポリエチレングリコールの質量比が1:1である固体分散体粒子を充填した実施例1のカプセル剤における溶出率は、微粉化処理していないフェノフィブラート製剤(リパンチルカプセル100)に比べ改善していた。また、部分アルファ化デンプン、D−マンニトース、乳糖、又は結晶セルロースを添加した実施例2〜5は、これら添加剤を加えない実施例1に比し溶出率が改善されたが、中でも、結晶セルロースを添加したものは、その溶出パターン、特に初期溶出パターンが優れており、微粉化フェノフィブラート製剤(リピディルカプセル67)の溶出パターンとほぼ同じであった。
【0026】
また、図3から明らかなように、フェノフィブラートと分子量6000のポリエチレングリコールの質量比が2:1である固体分散体粒子に、結晶セルロース、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムを混合してカプセルに充填した実施例7のカプセル剤は、結晶セルロースのみを混合してカプセルに充填した実施例6のカプセル剤に較べて、溶出性が向上し、微粉化フェノフィブラート製剤(リピディルカプセル67)の溶出パターンに近似している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】フェノフィブラートとポリエチレングリコール混合物の融点を測定した結果を示すグラフ。
【図2】溶出率を測定した結果を示すグラフ。
【図3】溶出率を測定した結果を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノフィブラートをポリエチレングリコールとともに融解混合した後、固化させることによって調製した固体分散体であって、固体分散体に対するフェノフィブラートの割合が50質量%以上であることを特徴とする固体分散体。
【請求項2】
請求項1記載の固体分散体を含んでなるカプセル剤又は錠剤。
【請求項3】
請求項1記載の固体分散体に結晶セルロースを混合してカプセルに充填してなるカプセル剤。
【請求項4】
請求項1記載の固体分散体に、結晶セルロース、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムを混合してカプセルに充填してなるカプセル剤。
【請求項5】
請求項1記載の固体分散体を有効成分とする高脂血症治療剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−161588(P2007−161588A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−355765(P2005−355765)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(592086318)壽製薬株式会社 (24)
【Fターム(参考)】