説明

フェノールの製造方法

フェノール又は置換フェノール及び副産物の製造方法であって、以下の工程:(i)アルキル芳香族化合物を含む第1ストリームを、環状イミドを含む第1触媒の存在下で酸素含有ガスを含む第2ストリームと、前記アルキル芳香族化合物の少なくとも一部をアルキル芳香族ヒドロペルオキシドに変換する条件下で接触させる工程、(ii)前記環状イミド、前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシド、及び前記アルキル芳香族化合物を含む流出物ストリームであって、10〜40wt%のアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度を有する流出物ストリームを生成する工程;及び(iii)第2反応器内で、前記流出物ストリームの少なくとも一部を第2触媒と接触させて、前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシドをフェノールと前記副産物を含む製品ストリームに変換する工程;を含む方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連発明の相互参照)
この出願は、2009年2月26日に出願された先の米国仮特許出願第61/155,746号(参照によってその全体が本明細書に援用される)の利益を主張する。
(分野)
本発明は、フェノール又は置換フェノール及び副産物(co-product)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
フェノールは化学工業で重要な製品である。例えば、フェノールはフェノール樹脂、ビスフェノールA、ε-カプロラクタム、アジピン酸、アルキルフェノール、及び可塑剤の生産に有用である。
現在、フェノールの生産の最も一般的な経路はホック法(Hock process)である。これは3工程法であり、第1工程は、酸性触媒の存在下でアルキル芳香族化合物クメンを生成するためのプロピレンによるベンゼンのアルキル化を含む。第2工程は、対応するクメンヒドロペルオキシドへのクメンの酸化、好ましくは好気的酸化である。第3工程は、不均一系又は均一系触媒の存在下での等モル量のフェノールと副産物アセトンへのクメンヒドロペルオキシドの開裂である。しかしながら、フェノールに対する世界の需要は、アセトンに対する需要より急速に大きくなっている。加えて、プロピレンの供給不足が生じているため、プロピレンのコストが増大する可能性がある。
従って、供給原料としてのプロピレンの使用を回避するか又は減らし、かつアセトンではなく、より高級なケトン、例えばメチルエチルケトン及び/又はシクロヘキサノンを連産する方法は、フェノール生産にとって魅力的な代替経路であろう。例えば、メチルエチルケトンは、ラッカー及び溶媒として、また潤滑油の脱蝋のための使用に対する需要がある。さらに、工業用溶媒として、酸化反応の活性化剤として、またアジピン酸、シクロヘキサノン樹脂、シクロヘキサノンオキシム、カプロラクタム及びナイロン6の生産で用いられるシクロヘキサノンの市場は成長している。
【0003】
sec-ブチルベンゼンを酸化してsec-ブチルベンゼンヒドロペルオキシドを得、このヒドロペルオキシドを所望のフェノールとメチルエチルケトンに分解する、ホック法の変形によってフェノールとメチルエチルケトンを同時に生産できることは知られている。sec-ブチルベンゼンは、MCM-22ファミリーのゼオライトβ又は分子ふるいの存在下での直鎖ブテンによるベンゼンのアルキル化によって生産され得る。該方法の詳細は、例えば、国際特許公開第WO2006/015826号で見つけられる。
同様に、米国特許第6,037,513号は、MCM-22ファミリーの分子ふるいと、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、コバルト及びその混合物から選択された少なくとも1種の水素化金属とを含む二機能性触媒の存在下でベンゼンを水素と接触させることによってシクロヘキシルベンゼンを生産できることを開示している。‘513特許は、結果として生じたシクロヘキシルベンゼンを対応するヒドロペルオキシドに酸化してから所望のフェノールとシクロヘキサノン副産物に分解できることをも開示している。
商業的ホック法では、酸化工程から得た希クメンヒドロペルオキシドを最初に真空下で80%超えまで濃縮してから開裂反応器に送る。濃ヒドロペルオキシドを取り扱うことに伴う危険に加えて、濃ヒドロペルオキシドの開裂にも反応の急速かつ極度の発熱性のため安全に対する懸念がある。さらに、濃クメンヒドロペルオキシドからは相当量の副生物をも生じ得る。実際には、より良く反応熱を管理し、かつ副生物の形成を制御するためアセトン等の溶媒で濃クメンヒドロペルオキシドを希釈することが多い。
【0004】
シクロヘキシルベンゼン酸化の場合、シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを酸化するという別の欠点が存在する。シクロヘキシルベンゼンの非常に高い沸点のため、シクロヘキシルベンゼンを除去してシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを濃縮するためには高真空及び高温が必要であり、シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドの望ましくない分解につながり得る。
さらに、sec-ブチルベンゼン及び/又はシクロヘキシルベンゼンをアルキルベンゼン前駆体として使用するフェノールの生産は、クメンに基づいた方法では存在しないか又は深刻でない特定の問題を伴う。例えば、クメンに比し、sec-ブチルベンゼン及びシクロヘキシルベンゼンの対応するヒドロペルオキシドへの酸化は触媒の非存在下では非常に遅く、かつ不純物の存在に対して非常に敏感である。結果として、米国特許第6,720,462号及び第6,852,893号は、触媒としてN-ヒドロキシフタルイミド等の環状イミドを用いて、sec-ブチルベンゼン及びシクロヘキシルベンゼン等のアルキルベンゼンの酸化を促進することを提案した。
これらの全ての問題は、開裂法に関与する複雑さ及び投資を増大にするので、種々の代替法が提案されている。
Aokiら(Tetrahedron, Vol. 61 pages 5219-5222 (2005))によって開示されているように、N-ヒドロキシフタルイミドの存在下でシクロヘキシルベンゼンの好気的酸化後に硫酸で処理するフェノールとシクロヘキサノンのワンポット合成は、25%の転化率でそれぞれ96%と91%の選択性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明により、今や、酸化反応器からの直接ヒドロペルオキシドの開裂は、ヒドロペルオキシドを最初に濃縮する必要なしで達成されることが分かった。未反応アルキルベンゼンがペルオキシドの希釈剤として作用し、開裂反応の熱の管理を助けることができ、かつ重質副生物の形成をより良く制御することができる。98%以上の選択性でフェノールと副産物が生産される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(概要)
一態様では、開示発明は、フェノール又は置換フェノール及び副産物を製造するための連続法であって、以下の工程:
(a)第1反応器内で、アルキル芳香族化合物を含む第1ストリームを、環状イミドを含む第1触媒の存在下で酸素含有ガスを含む第2ストリームと、前記アルキル芳香族化合物の少なくとも一部をアルキル芳香族ヒドロペルオキシドに変換する条件下で接触させる工程
(ここで、前記アルキル芳香族化合物は、下記一般式(II):
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、但しR1とR2が結合して4〜10個の炭素原子を有する環状基を形成してもよく、前記環状基は任意に置換されていてもよく、かつR3は、水素、1〜4個の炭素原子を有する1つ以上のアルキル基又はシクロヘキシル基を表す)
を有し、
前記環状イミドは、下記一般式(III):
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立に、1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビル及び置換ヒドロカルビル基、又は基SO3H、NH2、OH、及びNO2、又は原子H、F、Cl、Br、及びIから選択され、但しR4とR5が共有結合を介して連結されることがあり、Q1及びQ2は、それぞれ独立にC、CH、N、CR6から選択され、X及びZは、それぞれ独立にC、S、CH2、N、P及び元素周期表の4族の元素から選択され、YはO又はOHであり、kは0、1、又は2であり、lは0、1、又は2であり;
mは1〜3であり;かつR6はR4について列挙したいずれの構成要素であってもよい)
を有し、かつ
前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシドは、下記一般式(I):
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ前記定義どおりである)
を有する);
(b)前記環状イミド、前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシド、及び前記アルキル芳香族化合物を含む流出物ストリームであって、10〜40wt%(質量%)のアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度を有する流出物ストリームを生成する工程;及び
(c)第2反応器内で、前記流出物ストリームの少なくとも一部を第2触媒と接触させて、前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシドをフェノールと前記副産物を含む製品ストリームに変換する工程
を含む方法である。
【0013】
一実施形態では、前記流出物ストリームを接触させることによって、前記環状イミドの少なくとも一部が流出物から除去される。
一実施形態では、流出物ストリームが前記接触工程(c)の前に実質的に濃縮されない。
別の実施形態では、前記流出物ストリームを固体吸着剤と接触させることによって、前記環状イミドの少なくとも一部が除去される。便宜上、前記固体吸着剤は、金属酸化物、金属炭酸塩及び/又は金属炭酸水素塩、粘土、及び/又はイオン交換樹脂を含む。
好都合には、前記環状イミドは下記一般式(IV):
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、R7、R8、R9、及びR10は、それぞれ独立に、1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビル及び置換ヒドロカルビル基、又は基SO3H、NH2、OH、及びNO2、又は原子H、F、Cl、Br、及びIから選択され、X及びZは、それぞれ独立に、C、S、CH2、N、P及び元素周期表の4族の元素から選択され、YはO又はOHであり、kは0、1、又は2であり、かつlは0、1、又は2である)
を有する。
【0016】
一実施形態では、前記環状イミドがN-ヒドロキシフタルイミドを含む。
これらの環状イミドは、単独又はフリーラジカル開始剤の存在下で使用され、また液相、均一系触媒として使用され、或いは固体担体上に支持されて不均一系触媒をもたらし得る。典型的に、N-ヒドロキシ置換環状イミドは、シクロヘキシルベンゼンの0.0001wt%〜15wt%、例えば0.001wt%〜5wt%、0.01wt%〜3wt%、0.05wt%〜0.5wt%、0.01wt%〜0.2wt%、0.1wt%〜1wt%の量で使用される。一実施形態では、環状イミド触媒は、シクロヘキシルベンゼン供給原料又は反応媒体(又はその組合せ)に溶解させることによって酸化反応に添加される。触媒は、温度が既に高く、かついくらかのヒドロペルオキシドが存在する反応媒体に添加されると、両方とも固体触媒の溶解度の改善に寄与するので有利である。
一実施形態では、フェノールの収率が約0.90以上、好ましくは約0.93以上、さらに好ましくは約0.96以上、最も好ましくは約0.98以上である。
別の実施形態では、前記アルキル芳香族化合物がsec-ブチルベンゼンであり、前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシドがsec-ブチルベンゼンヒドロペルオキシドであり、かつ前記副産物がメチルエチルケトンである。好都合には、メチルエチルケトンの収率が約0.90以上、好ましくは0.93以上、さらに好ましくは0.96以上、最も好ましくは0.98以上である。
別の実施形態では、前記アルキル芳香族化合物がシクロヘキシルベンゼンであり、前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシドがシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドであり、かつ前記副産物がシクロヘキサノンである。好都合には、シクロヘキサノンの収率が約0.90以上、好ましくは0.93以上、さらに好ましくは0.96以上、最も好ましくは0.98以上である。
【0017】
別の実施形態では、前記アルキル芳香族化合物がシクロヘキシルベンゼン及び1,2-又は1,3-メチルシクロペンチルベンゼン(0〜50wt%)であり;前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシドがシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシド及び1,2-又は1,3-メチルシクロペンチルベンゼンペルオキシドであり;かつ前記副産物がシクロヘキサノン及び2-又は3-メチルシクロペンタノンである。
別の実施形態では、前記アルキル芳香族化合物が1,2-又は1,3-メチルシクロペンチルベンゼンであり、前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシドが1,2-又は1,3-メチルシクロペンチルベンゼンペルオキシドであり、かつ前記副産物が2-又は3-メチルシクロペンタノンである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態の詳細な説明)
フェノール又は置換フェノール及び副産物の製造方法であって、以下の工程:(i)第1反応器内で、アルキル芳香族化合物を含む第1ストリームを、環状イミドを含む第1触媒の存在下で酸素含有ガスを含む第2ストリームと、前記アルキル芳香族化合物の少なくとも一部をアルキル芳香族ヒドロペルオキシドに変換する条件下で接触させる工程、(ii)前記環状イミド及び前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシドを含む流出物ストリームであって、10〜40wt%(質量%)のアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度を有する流出物ストリームを生成する工程;及び(iii)第2反応器内で、前記流出物ストリームを第2触媒と接触させて、前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシドをフェノールと前記副産物を含む製品ストリームに変換する工程;を含む方法を開示する。
好ましくは、開示方法は連続的であるが、バッチ法も考えられる。
前記アルキル芳香族化合物は下記一般式(II):
【0019】
【化5】

【0020】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、但しR1とR2が結合して4〜10個の炭素原子を有する環状基を形成してもよく、前記環状基は任意に置換されていてもよく、かつR3は、水素、1〜4個の炭素原子を有する1つ以上のアルキル基又はシクロヘキシル基を表す)
を有する。
前記環状イミドは、下記一般式(III):
【0021】
【化6】

【0022】
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立に、1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビル及び置換ヒドロカルビル基、又は基SO3H、NH2、OH、及びNO2、又は原子H、F、Cl、Br、及びIから選択され、但しR4とR5が共有結合を介して連結されることがあり、Q1及びQ2は、それぞれ独立にC、CH、N、CR6から選択され、X及びZは、それぞれ独立にC、S、CH2、N、P及び元素周期表の4族の元素から選択され、YはO又はOHであり、kは0、1、又は2であり、lは0、1、又は2であり;mは1〜3であり;かつR6はR4について列挙したいずれの構成要素であってもよい)
を有する。
前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシドは、下記一般式(I):
【0023】
【化7】

【0024】
(式中、R1、R2及びR3は、前記一般式(III)の定義どおりである)
を有する。
アルキル芳香族化合物の対応するヒドロペルオキシドにするのに適したアルキル芳香族化合物の例としては、クメン、sec-ブチルベンゼン、p-メチル-sec-ブチルベンゼン、1,4-ジフェニルシクロヘキサン、sec-ペンチルベンゼン、sec-ヘキシルベンゼン、シクロペンチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン及びシクロオクチルベンゼンが挙げられる。一般式(I)の好ましいアルキル芳香族ヒドロペルオキシドとしては、クメンヒドロペルオキシド、sec-ブチルベンゼンヒドロペルオキシド及びシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドが挙げられる。
例えば、米国特許第6,037,513に記載されているような、MCM-22ファミリーの分子ふるいと水素化金属を含む二機能性触媒の存在下でのベンゼンのヒドロアルキル化によってシクロヘキシルベンゼンを生成し得る。シクロヘキシルベンゼンに加えて、ベンゼンのヒドロアルキル化は副生物、例えばシクロヘキサン;メチルシクロペンタン;ジシクロヘキシルベンゼン;並びに1,2-及び1,3-メチルシクロペンチルベンゼンといったメチルシクロペンチルベンゼンの種々の異性体をも生成し得る。好都合には、本明細書で述べる酸化及び開裂工程によって、1,2-及び1,3-メチルシクロペンチルベンゼンをフェノールと2-及び3-メチルシクロペンタノンに変換することができる。
【0025】
(アルキル芳香族ヒドロペルオキシドの生産)
本方法で使用するアルキル芳香族ヒドロペルオキシドは、典型的に下記一般式(II):
【化8】

【0026】
(式中、R1、R2及びR3は、上記一般式(III)の定義で述べた意味を有する)
を有するアルキル芳香族化合物の触媒酸化によって生成される。今度はアルキル芳香族前駆体化合物が既知の芳香族アルキル化法によって生成される。例えば、sec-ブチルベンゼンヒドロペルオキシドは、国際特許公開第WO2006/015826号に記載されているような、MCM-22ファミリー触媒の存在下でのベンゼンの直鎖ブテンによるアルキル化の結果生じたsec-ブチルベンゼン生成物の酸化によって好都合に生成される。同様に、シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドは、米国特許第6,037,513号に記載されているような、MCM-22ファミリーの分子ふるいと水素化金属を含む二機能性触媒の存在下でのベンゼンのヒドロアルキル化の結果生じたシクロヘキシルベンゼン生成物の酸化によって好都合に生成される。同様の方法を用いて、本方法で使用できる他のヒドロペルオキシドを生成することができる。
所望のヒドロペルオキシドの生産で使用する酸化法は、一般的に下記一般式(III):
【0027】
【化9】

【0028】
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立に、1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビル及び置換ヒドロカルビル基、又は基SO3H、NH2、OH、及びNO2、又は原子H、F、Cl、Br、及びIから選択され、但しR4とR5が共有結合によって相互に連結することがあり;Q1及びQ2は、それぞれ独立にC、CH、N、CR6から選択され;X及びZは、それぞれ独立にC、S、CH2、N、P及び元素周期表の4族の元素から選択され;YはO又はOHであり;kは0、1、又は2であり;lは0、1、又は2であり;mは1〜3であり;かつ
R6は、R4について列挙したいずれの構成要素であってもよい)
を有する環状イミドを含む第1触媒の存在下でアルキル芳香族前駆体を酸素含有ガスと反応させる工程を含み、かつ前記接触工程は、アルキル芳香族化合物を所望のヒドロペルオキシドに変換する条件下で行なわれる。
好都合には、第1触媒の環状イミドが下記一般式(IV):
【0029】
【化10】

【0030】
(式中、R7、R8、R9、及びR10は、それぞれ独立に、1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビル及び置換ヒドロカルビル基、又は基SO3H、NH2、OH、及びNO2、又は原子H、F、Cl、Br、及びIから選択され、X及びZは、それぞれ独立にC、S、CH2、N、P及び元素周期表の4族の元素から選択され;YはO又はOHであり;kは0、1、又は2であり;かつlは0、1、又は2である)
を有する。
一実施形態では、環状イミドがN-ヒドロキシフタルイミド(「NHPI」)を含む。
別の実施形態では、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等の追加のラジカル開始剤の非存在下で環状イミドを用いて酸化反応を行なう。
酸化工程に適した条件には、約70℃〜約200℃、例えば約90℃〜約130℃の温度、及び約0.5〜約20気圧(50〜2000kPa)の圧力が含まれる。一実施形態では、酸化反応は触媒蒸留装置内で好都合に行なわれる。通過毎(per-pass)の転化率を50%未満、好ましくは45〜35%の範囲、さらに好ましくは30〜20%の範囲に維持して、副生物の形成を最小限にする。好ましい実施形態では、酸化反応は、開裂反応から離れた第1反応器内で起こり、開裂反応は第2反応器内で行なわれる。第1反応器は1つ又は一連の反応器又は2つ以上の並列した反応器であってよい。さらに、第2反応器も1つ又は一連の反応器又は2つ以上の並列した反応器であってよい。
【0031】
酸化工程は、アルキル芳香族前駆体化合物をその関連ヒドロペルオキシドに変換する。しかし、酸化プロセスは、副生物として水及び有機酸(例えば、酢酸又はギ酸)を発生させる傾向もあり、これらが触媒を加水分解し、ヒドロペルオキシド種の分解をもたらすこともある。そこで、一実施形態では、酸化工程で用いる条件、特に圧力と酸素濃度を、反応媒体中の水と有機酸の濃度を50ppm未満に維持するように制御する。このような条件には典型的に、比較的低い圧力、例えば300kPa未満、例えば約100kPa〜約200kPaの圧力で酸化を行なうことが含まれる。さらに、0.1〜100%の広い酸素濃度範囲で酸化を行なうことができるが、比較的低い酸素濃度、例えば酸素含有ガス中21体積%以下、例えば約0.1〜約21体積%、通常は約1〜約10体積%の酸素で操作すると好ましい。加えて、水と有機酸の所望の低レベルの維持は、酸化工程中に反応媒体にストリッピングガスを通すことによって促進される。一実施形態では、ストリッピングガスが酸素含有ガスと同一である。別の実施形態では、ストリッピングガスが酸素含有ガスと異なり、かつ反応媒体及び環状イミド触媒に不活性である。適切なストリッピングガスとして、不活性ガス、例えばヘリウム及びアルゴンが挙げられる。
【0032】
酸化プロセスを低圧及び低酸素濃度で操作すること並びに水及び有機酸を反応媒体から取り除くことによるさらなる利点は、軽質ヒドロペルオキシド(例えば、エチル又はメチルヒドロペルオキシド)、軽質ケトン(例えば、メチルエチルケトン)、軽質アルデヒド(例えば、アセトアルデヒド)及び軽質アルコール(例えば、エタノール)が形成されるにつれて、それらが反応生成物から除去されることである。上に述べたように、軽質ヒドロペルオキシドは危険であり、液体生成物中の軽質ヒドロペルオキシドの濃度が高くなり過ぎると安全性の懸念をもたらす。また、軽質ヒドロペルオキシド、アルコール、アルデヒド及びケトンは有機酸及び水の形成の前駆体なので、これらの種を酸化媒体から除去することは、酸化反応の速度と選択性及び環状イミド触媒の安定性を改善する。実際に、データは、100psig(790kPa)でNHPIを用いてsec-ブチルベンゼンの酸化を行なうと、これらの軽質種の99モル%が反応器内に残るが、大気圧で行なうと、これらの種の95モル%より多くが酸化反応器から除去される。
酸化反応の生成物は、所望のアルキルヒドロペルオキシドと共に未反応アルキル芳香族化合物前駆体及び環状イミド触媒を含む。しかし、後述するように、環状イミド触媒とそれらの分解生成物(酸及びエーテル)は、ヒドロペルオキシド開裂などの下流反応に有害なものとして作用し得る。さらに、環状イミドは高価な傾向があるので、第1触媒を除去及び/又は回収して再循環させることが望ましい。従って、一般的に、酸化プロセスからの流出物ストリームを処理して、ヒドロペルオキシドの開裂に流出物ストリームを通す前に第1触媒の環状イミドの少なくとも一部を除去することが望ましいであろう。好ましい実施形態では、第1酸化反応器の下流で、かつ第2開裂反応器の上流である別の容器内で環状イミドが除去される。酸化反応器の生成物は、フェニルシクロヘキサノンのみならずフェニルシクロヘキサノールをも含む。開裂反応器内で、シクロヘキサノンの少なくとも一部がフェニルシクロヘキセンに変換され、フェニルシクロヘキサノールの少なくとも一部がフェニルシクロヘキセンに変換され得る。
【0033】
一実施形態では、環状イミドの少なくとも一部を除去するための酸化流出物ストリームの処理は、流出物ストリームを塩基、特に第1触媒の環状イミドのpKa以上のpKb値を有する弱塩基の水溶液と接触させることによって、該イミドを水相に抽出し、前記酸化炭化水素生成物を含み、かつレベルが低減した環状イミドを含む有機相を残す。一般的に、有機相中のイミドのレベルを、有機相の質量に対して100ppm未満、例えば50ppm未満、例えば10ppm未満に低減させるように抽出が行なわれるが、処理された流出物ストリームのアルキル芳香族ヒドロペルオキシドは実質的に濃縮されない。
弱塩基は、水相への抽出後にイミドの分解を触媒する可能性が低いので、第1触媒のイミドの抽出における弱塩基の使用が一般的に望ましい。適切な弱塩基としては、金属炭酸塩及び/又は炭酸水素塩、特にアルカリ金属炭酸塩及び/又は炭酸水素塩、例えば炭酸ナトリウムが挙げられる。
環状イミド抽出工程で用いる条件を厳密に制御する必要はないが、一般的に約10℃〜約80℃、例えば約20℃〜約70℃の温度が含まれる。抽出時間は、例えば約1分〜約30分、例えば約5分〜約10分であってよい。抽出工程で用いる塩基の量は、普通はイミドに対して少なくとも等モル量、例えば1モルの環状イミド当たり1〜3モルの塩基を供給するのに十分な量である。一般的に、抽出中、相を撹拌して相間の接触を最大にする。
塩基水溶液への抽出後、例えば酢酸で水相を酸性にしてイミドを沈殿させることによって、第1触媒の環状イミドを容易に回収することができる。例えばろ過又は遠心分離によって、水相から分離後、沈殿イミドを所望により酸化工程に再循環させ得る。
【0034】
別の実施形態では、環状イミドの少なくとも一部を除去するための酸化流出物の処理は、アルキル芳香族ヒドロペルオキシドが実質的に濃縮されず、かつ減少したか又はゼロレベルの環状イミドを含む、処理流出物ストリームを生成するように、流出物を有効な固体吸着剤と接触させる工程を含む。この場合もやはり、吸着プロセスは、有機相中のイミドのレベルを、有機相の100ppm未満、例えば50ppm未満、例えば10ppm未満に低減させるように行なわれる。
適切な固体吸着剤は、多孔性担体、粘土、イオン交換樹脂及び金属酸化物、特に混合金属酸化物にもたらされ得る塩基特性(金属炭酸塩及び/又は炭酸水素塩を含め)を有する当該固体吸着剤である。
環状イミド抽出工程において有効な吸着剤となるのに十分な塩基特性を有する金属酸化物は、これらの金属酸化物材料上におけるCO2とNH3の化学吸着のモル比によって決定され得る。弱酸CO2を用いて、被験金属酸化物上に存在する塩基性部位を滴定する。同様に、強塩基NH3を滴定して、該材料上の酸性部位を指し示す。例えば材料の表面積(多くの場合、金属酸化物の調製法によってかなり影響を受ける)、化学吸着を試験する温度、及び化学吸着を試験する圧力などの多くの因子が、化学吸着の実際量を決定する。本目的のため、「塩基性」酸化物は、後述するように試験した場合、1グラムの金属酸化物毎のCO2の化学吸着対1グラムの金属酸化物毎のNH3の化学吸着のモル比が0.5より高い、典型的に0.75より高い、特に1.0より高い酸化物と定義される。
1グラムの金属酸化物毎のCO2の化学吸着対1グラムの金属酸化物毎のNH3の化学吸着のモル比を決定するための試験は、Mettler TGA/SDTA 851熱重量分析システムを用いて周囲温度で行なわれる。金属酸化物サンプルを気流中で約500℃(表1に注記がなければ)に約3時間;少なくとも一定サンプル重量が得られるまでか焼する。そしてサンプルの温度を気流中(ヘリウムも使用可能であろう)で所望の化学吸着温度に下げる。次に、サンプルをヘリウム流中で所望温度にて平衡させて秤量する。二酸化炭素の化学吸着は100℃で測定し、アンモニアの化学吸着は250℃で測定する。秤量後、数パルスのヘリウムと二酸化炭素又はアンモニアとを含むガス混合物に一定重量が得られるまでサンプルをさらす。ガス混合物は約10重量パーセントの二酸化炭素又はアンモニアを含み、残りがヘリウムである。被験ガス混合物の各パルス後、金属酸化物サンプルにヘリウム流を約3分間流す。各試験ではガス混合物の約20の個別パルスを使用する。か焼後の金属酸化物サンプル重量に基づいた1gの金属酸化物当たりのmgを単位としてサンプル重量の増加を用いて、金属酸化物1g毎に吸着されたCO2又はNH3のモルを決定する。
いくつかの代表的な金属酸化物種について収着質1グラム毎のCO2の化学吸着対NH3の化学吸着のモル比を表1に示す。
【0035】
表1

【0036】
環状イミド抽出工程で固体吸着剤として使うのに適した金属酸化物としては、元素周期表の2族、3族、4族、ランタニド系列、又はアクチニド系列の金属の酸化物及び混合酸化物が挙げられる。一実施形態では、2種以上の金属酸化物、好ましくは1種の4族金属酸化物と、2族、3族、ランタニド系列、及びアクチニド系列金属酸化物から選択される1種以上の金属酸化物とを含む。種々の方法を利用して酸化物を調製できるが、一般的に適切な前駆体の溶液からの沈殿及び/又はか焼によって調製される。適切な前駆体としては、金属塩、例えばハロゲン化物、硫酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、オキシ塩化物、アルコキシド及び酢酸塩が挙げられる。
一実施形態では、金属酸化物は、最初に水などの溶媒に金属塩を含む水溶液を調製することによって生成される。結果として生じる溶液を次に、例えば沈殿試薬、典型的には水酸化ナトリウム又は水酸化アンモニウム等の塩基の添加によって、固体酸化物材料の沈殿を生じさせるのに十分な条件にさらす。通常は沈殿中、200℃以下、例えば約0℃〜約200℃、例えば約20℃〜約100℃の範囲お温度で溶液を維持する。結果として生じるゲルを好ましくは次に少なくとも80℃、好ましくは100℃の温度で、10日まで、例えば5日まで、例えば3日まで熱水的に処理する。結果として生じる物質を次に例えばろ過又は遠心分離によって回収し、洗浄し、乾燥させる。結果として生じる沈殿物質を典型的には次に普通は酸化雰囲気内で少なくとも400℃、例えば約400℃〜約800℃の温度で、48時間まで、例えば約0.5〜約24時間、例えば約1時間〜約10時間か焼する。
【0037】
環状イミド抽出工程で2種以上の金属酸化物を使用する場合、それらを共沈させるか又は別々に沈殿させてよく、か焼固体粒子としてなど加工のいずれの後段階でも相互に混ぜ合わせてよい。
固体吸着剤として使用するのに適したイオン交換樹脂としては、酸性又は塩基性種を除去するために常用されている当該樹脂、例えばAmberlyst交換樹脂が挙げられる。
固体吸着剤による環状イミド吸着に適した条件には、約10℃〜約130℃、例えば約20℃〜約80℃の温度、約1分〜約30分、例えば約5分〜約10分の時間が含まれる。
固体吸着剤による除去後、吸着剤を極性溶媒、例えばエタノール又はアセトンで洗浄することによって、環状イミドを容易に回収することができる。回収したイミドを次にエタノールを前もって除去するか又は除去することなく酸化工程に再循環させる。これは、エタノールとイミドの存在は、回収した第1触媒の酸化活性又は選択性に悪影響を及ぼさないことが分かっているからである。
【0038】
(ヒドロペルオキシド開裂)
本方法のヒドロペルオキシド開裂工程は、酸化工程からの処理又は未処理流出物ストリームの少なくとも一部を、普通は未反応アルキル芳香族前駆体を除去して流出物ストリーム内のアルキル芳香族ヒドロペルオキシドを50wt%、60wt%、70wt%、80wt%、又は90wt%超えに濃縮した後、また必要に応じて流出物ストリームを前処理して環状イミドのレベルを100ppmに減少させた後、第2触媒と接触させることによって行なわれる。
予想外に、開裂反応は、酸化流出物が40wt%以下のアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度を有するときに、より効率的であることが分かった。一実施形態では、酸化流出物ストリームが1〜40wt%;5〜35wt%;10〜30wt%、10〜25wt%;及び15〜25wt%のアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度を有するであろう。これらのアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度範囲内の酸化流出物が生成するように酸化反応器を操作することが好ましく、かつ酸化流出物を開裂反応器に導入する前に酸化流出物が実質的に濃縮されないことが好ましい。一実施形態では、アルキル芳香族ヒドロペルオキシドがクメンヒドロペルオキシドである。別の実施形態では、アルキル芳香族ヒドロペルオキシドがsec-ブチルベンゼンヒドロペルオキシドである。さらに別の実施形態では、アルキル芳香族ヒドロペルオキシドがシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドである。
他の実施形態では、酸化流出物ストリームが1wt%、5wt%、10wt%、12.5wt%、15wt%、17.5wt%、及び20wt%からのより低いアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度を有してよく;かつより高いアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度が22.5wt%、25wt%、27.5wt%、30wt%、32.5wt%、35wt%、37.5wt%、及び40wt%であってよく、いずれのより低い濃度からいずれのより高い濃度の範囲をも考えられる。
【0039】
一実施形態では、アルキル芳香族ヒドロペルオキシドは、流出物ストリーム又は流出物ストリームの少なくとも一部を開裂反応器に導入する前に流出物ストリーム内で実質的に濃縮されない。「実質的に濃縮されない」は一般的に、開裂反応器に供給される酸化流出物ストリーム内のアルキル芳香族ヒドロペルオキシドの濃度を、酸化反応器を出る酸化流出物ストリーム内の元のアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度の10%範囲以内で維持することと定義される。説明のみを目的として、酸化反応器を出る酸化流出物ストリームのアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度が20wt%の場合、「実質的に濃縮されない」とみなされる流出物ストリームでは、流出物ストリーム又は流出物ストリームの少なくとも一部を開裂反応器に導入する前にアルキル芳香族ヒドロペルオキシドが22wt%以下に濃縮されるであろう。
別の実施形態では、アルキル芳香族ヒドロペルオキシドは、流出物ストリーム又は流出物ストリームの少なくとも一部を開裂反応器に導入する前に流出物ストリーム内で物質的に濃縮されない。「物質的に濃縮されない」は一般的に、開裂反応器に入る酸化流出物ストリーム内のアルキル芳香族ヒドロペルオキシドの濃度を、酸化反応器を去る酸化流出物ストリーム内の元のアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度の5%範囲以内で維持することと定義される。説明のみを目的として、酸化流出物ストリームのアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度が20wt%の場合、「物質的に濃縮されない」とみなされる流出物ストリームでは、流出物ストリームを開裂反応器に導入する前にアルキル芳香族ヒドロペルオキシドが21wt%以下に濃縮されるであろう。
さらに別の実施形態では、アルキル芳香族ヒドロペルオキシドは、流出物ストリーム又は流出物ストリームの少なくとも一部を開裂反応器に導入する前に流出物ストリーム内で本質的に濃縮されない。「本質的に濃縮されない」は一般的に、酸化反応器を去る酸化流出物ストリーム内のアルキル芳香族ヒドロペルオキシドの元の濃度を、該元のアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度が、開裂反応器に入る酸化流出物ストリームのアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度と同一になるように維持することと定義される。
【0040】
別の実施形態では、流出物ストリーム内のアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度は「濃縮されない」ので、開裂反応器に導入されるアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度は、酸化反応器を出る流出物ストリーム内の元のアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度の2wt%範囲内である。さらに別の実施形態では、流出物ストリーム内のアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度を、流出物ストリームを開裂反応器に導入する前に例えば再循環ストリームによって希釈してよい。
別の実施形態では、流出物ストリームを開裂反応器に導入する前に、酸化反応器を出る流出物ストリーム内の前記アルキル芳香族化合物の10%以下を前記流出物ストリームから除去する。さらに別の実施形態では、流出物ストリームを開裂反応器に導入する前に、酸化反応器を出る流出物ストリーム内の前記アルキル芳香族化合物の2.5%以下、又は5%以下又は15%以下又は20%以下又は25%以下を前記流出物ストリームから除去する。
前記接触工程(c)の前に、前記アルキル芳香族化合物が、前記流出物ストリームから全く除去されない、先行する請求項のいずれか1項の方法。
【0041】
第2触媒は、均一系触媒、不均一系触媒及びその混合物から成る群より選択される。開裂工程で使用する触媒は、均一系触媒又は不均一系触媒であってよい。
適切な均一系開裂触媒として、酸性触媒化合物、例えば硫酸、過塩素酸、リン酸、塩酸及びp-トルエンスルホン酸が挙げられる。塩化第二鉄、三フッ化ホウ素、二酸化イオウ及び三酸化イオウも有効な均一系開裂触媒である。好ましい均一系開裂触媒は硫酸であり、好ましい濃度は0.05〜0.5wt%の範囲内である。連続撹拌タンク反応器(continuously stirred tank reactor)(CSTR)又はバッチ反応器のいずれかで、共溶媒を用いて又は共溶媒なしで開裂反応を行なうことができる。適切な共溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトニトリル、ニトロメタン、及びその混合物が挙げられる。1〜10%のフェノールを含むフェノール/シクロヘキシルベンゼン混合物も共溶媒として適している。使用する硫酸は濃縮(96〜98%)形又は希釈形(ニトロメタン等の適切な溶媒中5〜50%)であってよい。20〜200℃の温度範囲及び周囲圧〜200psig(1379kPa)の圧力で開裂反応を行う。ヒドロペルオキシドの高転化率及び開裂生成物の良い選択性のため0.5〜30分の滞留時間が好ましい。均一系酸触媒として硫酸を使用する場合、普通は開裂工程後に中和工程が続く。該中和工程は典型的に炭酸ナトリウム又はナトリウムフェニラート等の塩基性成分との接触を含み、引き続き沈殿させ、除去するため塩富化水相をデカントする。或いは、化学両論量の有機アミン、例えばアニリン、置換アニリン、ジイソプロピルアミン、トリエチルアミン等を用いて中和を実現することができる。
【0042】
アルキル芳香族ヒドロペルオキシドの開裂で使うのに適した不均一系触媒としては、スメクタイト粘土、例えば米国特許第4,870,217号に記載されているような酸性モンモリロナイトシリカ-アルミナ粘土、酸性イオン交換樹脂(例えば、Amberlyst 15)、及び塩化アルミニウムが挙げられる。
適切な不均一系触媒としては、混合金属酸化物触媒が挙げられる。一部の実施形態では、混合金属酸化物触媒が、元素周期表の3〜5族及び7〜14族の金属の1種以上の酸化物を含む。他の実施形態では、不均一系触媒が、元素周期表の8〜11族の少なくとも1種の金属、例えば鉄及び/又は銅の酸化物をさらに含む。さらに他の実施形態では、混合金属酸化物触媒が元素周期表の4族の少なくとも1種の金属の酸化物及び元素周期表の6族の少なくとも1種の金属の酸化物を含む。好ましい実施形態では、混合金属酸化物触媒が酸化ジルコニウムとモリブデン及び/又はタングステンの酸化物、例えば金属酸化物の酸性混合物(WO3/ZrO2、MoO3/ZrO2など)を含む。
一実施形態では、第1溶液、例えば3〜5族及び7〜14族の少なくとも1種の金属のイオン源を含む水溶液を、第2溶液、この場合もやはり4族の少なくとも1種の金属のイオン源を含む水溶液と混ぜ合わせ、必要に応じて8〜11族の少なくとも1種の金属のイオン源を含む第3溶液と混ぜ合わせることによって、都合よく混合金属酸化物触媒が調製される。この配合は、液体媒体から固体として混合酸化物材料の共沈殿を引き起こすのに十分な条件下で行なわれ得る。或いは、3〜5族及び7〜14族の金属のイオン源、4族の金属のイオン源及び必要に応じて8〜11族の金属のイオン源を単一溶液中に混ぜ合わせてよい。この溶液を次に例えば沈殿試薬を該溶液に添加して、固体混合酸化物材料の共沈殿を引き起こすのに十分な条件にさらしてよい。便宜上、7より高いpHで沈殿を行なう。例えば、沈殿試薬は水酸化ナトリウム又は水酸化アンモニウム等の塩基であってよい。
【0043】
沈殿中に液体媒体を維持する温度は一般的に約200℃未満、例えば約0℃〜約200℃の範囲内である。沈殿に合わせた特定の温度範囲は約20℃〜約100℃である。結果として生じるゲルを好ましくは次に少なくとも80℃、好ましくは少なくとも100℃の温度で熱水処理する。熱水処理は典型的に容器内で大気圧にて行なわれる。一実施形態では、ゲルを10日まで、例えば5日まで、例えば3日まで熱水処理する。
混合金属酸化物への水和前駆体を次に例えばろ過又は遠心分離によって回収し、洗浄して乾燥させる。結果として生じる物質を次に例えば酸化雰囲気内で少なくとも400℃、例えば少なくとも500℃、例えば約600℃〜約900℃、特に約650℃〜約800℃の温度にてか焼して混合金属酸化物触媒を形成する。か焼時間は典型的に48時間まで、例えば約0.5〜24時間、例えば約1.0〜10時間である。一実施形態では、約700℃で約1〜約3時間か焼を行なう。
ヒドロペルオキシドを混合金属酸化物触媒と約20℃〜約150℃、例えば約40℃〜約120℃の温度、及び/又は約50〜約2500kPa、例えば約100〜約1000kPaの圧力、及び/又は約0.1〜約1000時間-1、好ましくは約1〜約50時間-1の、ヒドロペルオキシドに基づいた液空間速度(liquid hourly space velocity)(LHSV)で接触させることによって開裂反応は好都合に影響を受ける。開裂反応は便宜上、触媒蒸留装置内で行なわれる。
【0044】
典型的に、開裂反応に不活性な有機溶媒、例えばメチルエチルケトン、フェノール、シクロヘキシルベンゼン、シクロヘキサノン及びsec-ブチルベンゼン等でヒドロペルオキシドを希釈して熱除去を助ける。極性溶媒の存在が、酸化反応から残存している環状イミドによる混合金属酸化物触媒開裂触媒の毒作用を緩和できることが分かっているので、アルキル芳香族ヒドロペルオキシドをアセトン等の極性溶媒に溶解させると、さらに好ましい。
開裂反応に供給される流出物ストリーム内の環状イミドの存否に関係なく、混合金属酸化物は経時的にその活性を失う傾向があり、ヒドロペルオキシドのフェノールへの変換度の低下をもたらすことが分かっている。しかし、触媒をアセトン等の極性溶媒で洗浄することで周期的に活性化させることによって、触媒の開裂活性を回復できることが分かる。
本発明のヒドロペルオキシド開裂反応は非常に効率的である。アルキル芳香族ヒドロペルオキシドの開裂において、フェノールの収率は約0.90以上、好ましくは約0.93以上、さらに好ましくは約0.96以上、最も好ましくは約0.98以上である。生産される副産物については、副産物の収率は約0.90以上、好ましくは約0.93以上、さらに好ましくは約0.96以上、最も好ましくは約0.98である。
特定生成物の「収率」は、生産された生成物のモル量を反応中に消費された対応するヒドロペルオキシドの総モル量で除したものと定義される。例えば、シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシド(CHBHP)からのフェノールについて「フェノールの収率」は、生産されたフェノールのモル量を開裂反応で消費されたシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドのモル量で除す。
本発明に従って酸化されるアルキル芳香族化合物がクメンの場合、アルキル芳香族ヒドロペルオキシド生成物はクメンヒドロペルオキシドを含み、開裂生成物はフェノール及び副産物アセトンを含む。この場合、アセトンの収率は約0.90以上、好ましくは0.93以上、さらに好ましくは0.96以上、最も好ましくは0.98以上である。
アルキル芳香族化合物がsec-ブチルベンゼンを含む場合、本発明によるアルキル芳香族ヒドロペルオキシド生成物は、sec-ブチルベンゼンヒドロペルオキシドを含み、開裂生成物はフェノール及び副産物メチルエチルケトンを含む。この場合、メチルエチルケトンの収率は約0.90以上、好ましくは0.93以上、さらに好ましくは0.96以上、最も好ましくは0.98以上である。
アルキル芳香族化合物がシクロヘキシルベンゼンを含む場合、この発明によるアルキル芳香族ヒドロペルオキシド生成物はシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを含み、開裂生成物はフェノール及び副産物シクロヘキサノンを含む。この場合、シクロヘキサノンの収率は約0.90以上、好ましくは0.93以上、さらに好ましくは0.96以上、最も好ましくは0.98以上である。
【0045】
開裂工程からの粗製フェノール及び粗製副産物(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン)をさらに精製工程に供して精製フェノール及び副産物を生産することができる。適切な精製法としては、限定するものではないが、フェノールと副産物を他の種から分離するための一連の蒸留塔が挙げられる。いずれの粗製又は精製副産物、例えばシクロヘキサノンも、対応するアルコール、例えばフェノールに変換するためそれ自体を脱水素に供してよい。例えば、白金、ニッケル又はパラジウム等の上で該脱水素を行なってよい。
ここで、本発明を以下の非限定例を参照してさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0046】
実施例1:N-ヒドロキシフタルイミド(NHPI)を用いたクメンの酸化
撹拌機、熱電対、ガス入口、サンプリングポート及び水除去用Dean Starkトラップを含む冷却管を取り付けたParr反応器に150gのクメン(TCI Americaから)と0.16gのNHPI(TCIから)を量り入れた。反応器の中身を1000rpmで撹拌し、250cc/分の流速で5分間窒素をスパージした。窒素スパージ下で維持しながら、反応器を次に115℃に加熱した。この反応温度に到達したら、ガスを窒素から空気に切り替えて、250cc/分で4時間空気を反応器にスパージした。1時間ごとにサンプルを取ってガスクロマトグラフィー(GC)で分析した。4時間後、ガスを切り替えて窒素に戻して加熱をやめた。
実施例2:希クメンヒドロペルオキシド(CHP)の硫酸触媒開裂
NHPIを第1触媒として用いた実施例1で得たクメン酸化生成物(クメンヒドロペルオキシド、CHPを含めて)を使用した(19.8%のCHP、77.6%のクメン、1.1%のアセトフェノン、及び0.9%のアルコールを含む)。5.0ミリリットルの量の該供給原料を、54℃で保持したガラスフラスコに装入した。この供給原料に、ニトロメタン中1.5wt.%の硫酸0.5ミリリットルを加えて硫酸濃度を1600ppmとした。反応発熱によって示されるように開裂反応が瞬時に起こった。15分後に一定分量取り、10wt.%の炭酸ナトリウム溶液を用いて硫酸を中和した。サンプルをGCで分析した。CHPとクミルアルコールについて完全な変換が達成され、小量(0.6wt.%)の重質生成物クミルフェノール(α-メチルスチレンとフェノールのアルキル化生成物)のみが得られた。
【0047】
実施例3:N-ヒドロキシフタルイミド(NHPI)を用いたsec-ブチルベンゼンの酸化
撹拌機、熱電対、ガス入口、サンプリングポート及び水除去用Dean Starkトラップを含む冷却管を取り付けたParr反応器に150gのsec-ブチル ベンゼン(SBB)(TCIから)と0.16gのNHPI(TCIから)を量り入れた。反応器の中身を1000rpmで撹拌し、250cc/分の流速で5分間窒素をスパージした。窒素スパージ下で維持しながら、反応器を次に125℃に加熱した。この反応温度に到達したら、ガスを窒素から空気に切り替えて、250cc/分で4時間空気を反応器にスパージした。1時間ごとにサンプルを取ってガスクロマトグラフィーで分析した。4時間後、ガスを切り替えて窒素に戻して加熱をやめた。
実施例4:希sec-ブチルベンゼンヒドロペルオキシド(SBBHP)の硫酸触媒開裂
第1触媒としてNHPIを用いた実施例3で得たsec-ブチルベンゼン酸化生成物(sec-ブチルベンゼンヒドロペルオキシド、SBBHPを含めて)を使用した(17.2%のSBBHP、79.1%のsec-ブチルベンゼン、1.99%のアセトフェノン、及び0.85%のメチルエチルベンジルアルコールを含む)。5.0ミリリットルの量の該供給原料を、54℃で保持したガラスフラスコに装入した。供給原料に、ニトロメタン中1.5wt.%の硫酸0.5ミリリットルを加えて硫酸濃度を1600ppmとした。反応発熱によって示されるように開裂反応が瞬時に起こった。15分後に一定分量取り、10wt.%の炭酸ナトリウム溶液を用いて硫酸を中和した。サンプルをGCで分析した。SBBHPとメチルエチルベンジルアルコールについて完全な変換が達成され、重質生成物は観察されなかった。
【0048】
実施例5:N-ヒドロキシフタルイミドを用いたシクロヘキシルベンゼン(CHB)の酸化
撹拌機、熱電対、ガス入口、サンプリングポート及び水除去用Dean Starkトラップを含む冷却管を取り付けたParr反応器に150gのシクロヘキシルベンゼン(TCI Americaから)と0.16gのNHPI(TCIから)を量り入れた。反応器の中身を1000rpmで撹拌し、250cc/分の流速で5分間窒素をスパージした。窒素スパージ下で維持しながら、反応器を次に110℃に加熱した。この反応温度に到達したら、ガスを窒素から空気に切り替えて、250cc/分で4時間空気を反応器にスパージした。1時間ごとにサンプルを取ってガスクロマトグラフィーで分析した。4時間後、ガスを切り替えて窒素に戻して加熱をやめた。
実施例6:シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドの硫酸触媒開裂希
第1触媒としてNHPIを用いた実施例5から得たシクロヘキシルベンゼン酸化生成物(シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシド、CHBHPを含めて)を使用した。5.0ミリリットルの量の該供給原料を、53℃で保持したガラスフラスコに装入し、内部標準としてデカンを加えた。この供給原料に、ニトロメタン中1.5wt.%の硫酸0.5ミリリットルを加えて硫酸濃度を1600ppmとした。反応発熱によって示されるように開裂反応が瞬時に起こった。10分後に一定分量取り、10wt.%の炭酸ナトリウム溶液を用いて硫酸を中和した。サンプルをGCで分析し、結果を表2に示す。CHBHPの高転化率が観察され、副生物の形成は観察されなかった。
【0049】
実施例7:真空下での回転エバポレーションによるCHB酸化生成物からCHBHPの濃縮
1%の炭酸ナトリウム溶液で洗浄することによって、CHB酸化生成物(例えば、CHBHP)に含まれるNHPIを除去した。1〜2mmの真空下及び90〜92℃での回転エバポレーションによって有機層を濃縮した。濃縮溶液中のCHBHPの濃度は約48%である。
【0050】
表2
希CHBHPの硫酸触媒開裂

【0051】
実施例8:濃CHBHPの硫酸触媒開裂
実施例7で生成された濃CHBHPを使用した。5.0ミリリットルの量の該供給原料を、20℃で保持したガラスフラスコに装入した。この供給原料に、13ミリリットルの硫酸(96.6%)を加えて硫酸濃度を5000ppmとした。反応発熱によって示されるように開裂反応が瞬時に起こった。10分後に一定分量取り、10wt.%の炭酸ナトリウム溶液を用いて硫酸を中和した。サンプルをGCで分析し、結果を表3に示す。CHBHPの高転化率が観察されたが、大量の軽質及び重質副生物が観察され、シクロヘキサノン及びフェノールへの収率は低い。
【0052】
表3
濃CHBHPの硫酸触媒開裂

【0053】
実施例7及び8で実証されているように、CHB酸化からのCHBHPを高温での減圧蒸留によって濃縮することができる。しかし濃CHBHPの開裂は、希CHBHPに比べてずっと手際良く進行しない。CHBHPが濃縮されると、大量の軽質及び重質副生物が見られ、かつフェノール及びシクロヘキサノンへの収率が低い。希クメンヒドロペルオキシド及び希sec-ブチルベンゼンヒドロペルオキシドでも手際良い開裂反応が観察される。これらの知見は、酸化生成物からのヒドロペルオキシドを最初に濃縮することなく希ヒドロペルオキシドを開裂するという有利な実施形態を示している。
【0054】
実施例9:希シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドの硫酸触媒開裂
この実施例では、CHBHP濃度を変えながら第1触媒としてNHPIを用いたシクロヘキシルベンゼン酸化生成物(シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシド、CHBHPを含めて)を使用した(最初にヒドロペルオキシドを濃縮せずに)。5.0ミリリットルの量の該供給原料を、58℃で保持したガラスフラスコに装入した。この供給原料に、アセトンで希釈した5000ppmの硫酸をセミバッチ様式で加えた。反応発熱によって示されるように開裂反応が瞬時に起こった。10分後に一定分量取り、10wt.%の炭酸ナトリウム溶液を用いて硫酸を中和した。サンプルをGCで分析し、結果を表4に示す。全ての場合にCHBHPの高転化率並びにフェノール及びシクロヘキサノンへの高収率が観察された。
【0055】
表4
希CHBHPの硫酸触媒開裂

【0056】
これらの実施例は、酸化工程からの生成物が濃縮されない場合にシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドの手際良い開裂を達成できることを明白に示している。フェノール及びシクロヘキサノンへの高収率が得られる。ヒドロペルオキシド濃度の好ましい範囲は10〜25%である。
【0057】
本発明を特定の実施形態を参照して記載かつ説明したが、当業者は、本発明が必ずしも本明細書で説明されていない変形に適することを認めるであろう。そういうわけで、本発明の真の範囲を決定するという目的のためには、もっぱら添付の特許請求の範囲を参照すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール又は置換フェノール及び副産物を製造するための連続法であって、以下の工程:
(a)第1反応器内で、アルキル芳香族化合物を含む第1ストリームを、環状イミドを含む第1触媒の存在下で酸素含有ガスを含む第2ストリームと、前記アルキル芳香族化合物の少なくとも一部をアルキル芳香族ヒドロペルオキシドに変換する条件下で接触させる工程、
ここで、前記アルキル芳香族化合物は、下記一般式(II):
【化1】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、但しR1とR2が結合して4〜10個の炭素原子を有する環状基を形成してもよく、前記環状基は任意に置換されていてもよく、かつR3は、水素、1〜4個の炭素原子を有する1つ以上のアルキル基又はシクロヘキシル基を表す)
を有し、
前記環状イミドは、下記一般式(III):
【化2】

(式中、R4及びR5は、それぞれ独立に、1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビル及び置換ヒドロカルビル基、又は基SO3H、NH2、OH、及びNO2、又は原子H、F、Cl、Br、及びIから選択され、但しR4とR5が共有結合を介して連結されることがあり、Q1及びQ2は、それぞれ独立にC、CH、N、CR6から選択され、X及びZは、それぞれ独立にC、S、CH2、N、P及び元素周期表の4族の元素から選択され、YはO又はOHであり、kは0、1、又は2であり、lは0、1、又は2であり;
mは1〜3であり;かつR6はR4について列挙したいずれの構成要素であってもよい)
を有し、かつ
前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシドは、下記一般式(I):
【化3】

(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ前記定義どおりである)
を有する;
(b)前記環状イミド、前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシド、及び前記アルキル芳香族化合物を含む流出物ストリームであって、10〜40wt%のアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度を有する流出物ストリームを生成する工程;及び
(c)第2反応器内で、前記流出物ストリームの少なくとも一部を第2触媒と接触させて、前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシドをフェノールと前記副産物を含む製品ストリームに変換する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記流出物ストリームが、10〜30wt%のアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度を有する、請求項1の方法。
【請求項3】
前記流出物ストリームが、10〜25wt%のアルキル芳香族ヒドロペルオキシド濃度を有する、請求項1の方法。
【請求項4】
前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシドが、前記接触工程(c)前に前記流出物ストリーム内で実質的に濃縮されない、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項5】
前記アルキル芳香族化合物の10%以下が、前記接触工程(c)前に前記流出物ストリームから除去される、請求項1〜4のいずれか1項の方法。
【請求項6】
前記アルキル芳香族化合物が、前記接触工程(c)前に前記流出物ストリームから実質的に除去されない、請求項1〜5のいずれか1項の方法。
【請求項7】
前記フェノールの収率が約0.96以上である、請求項1〜6のいずれか1項の方法。
【請求項8】
前記環状イミドの少なくとも一部が、前記接触工程(c)前に前記流出物ストリームから除去される、請求項1〜7のいずれか1項の方法。
【請求項9】
前記除去工程(b)が、前記流出物ストリームを固体吸着剤と接触させることによって、前記環状イミドの少なくとも一部を除去する工程を含む、請求項1〜8のいずれか1項の方法。
【請求項10】
前記固体吸着剤が、金属酸化物、金属炭酸塩及び/又は金属炭酸水素塩、粘土、及び/又はイオン交換樹脂を含む、請求項9の方法。
【請求項11】
前記環状イミドが、下記一般式(IV):
【化4】

(式中、R7、R8、R9、及びR10は、それぞれ独立に、1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビル及び置換ヒドロカルビル基、又は基SO3H、NH2、OH、及びNO2、又は原子H、F、Cl、Br、及びIから選択され、X及びZは、それぞれ独立にC、S、CH2、N、P及び元素周期表の4族の元素から選択され、YはO又はOHであり、kは0、1、又は2であり、かつlは0、1、又は2である)
を有する、請求項1〜10のいずれか1項の方法。
【請求項12】
前記環状イミドが、N-ヒドロキシフタルイミドを含む、請求項1〜11のいずれか1項の方法。
【請求項13】
前記第2触媒が、均一系触媒、不均一系触媒及びその混合物から成る群より選択される、請求項1〜12のいずれか1項の方法。
【請求項14】
前記均一系触媒が、硫酸、過塩素酸、リン酸、塩酸及びp-トルエンスルホン酸並びにその混合物から成る群より選択された酸性触媒である、請求項13の方法。
【請求項15】
前記不均一系触媒が、元素周期表の3〜5族及び7〜14族の少なくとも1種の金属の酸化物と、元素周期表の6族の少なくとも1種の金属の酸化物とを含む、請求項13の方法。
【請求項16】
前記不均一系触媒が、元素周期表の4族の少なくとも1種の金属の酸化物と、元素周期表の6族の少なくとも1種の金属の酸化物とを含む、請求項13の方法。
【請求項17】
前記アルキル芳香族化合物がクメンであり、前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシドがクメンヒドロペルオキシドであり、かつ前記副産物がアセトンである、請求項1〜16のいずれか1項の方法。
【請求項18】
前記アルキル芳香族化合物がsec-ブチルベンゼンであり、前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシドがsec-ブチルベンゼンヒドロペルオキシドであり、かつ前記副産物がメチルエチルケトンである、請求項1〜17のいずれか1項の方法。
【請求項19】
前記アルキル芳香族化合物がシクロヘキシルベンゼンであり、前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシドがシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドであり、かつ前記副産物がシクロヘキサノンである、請求項1〜18のいずれか1項の方法。
【請求項20】
前記接触工程(a)がラジカル開始剤の非存在下で起こる、請求項1〜19のいずれか1項の方法。
【請求項21】
前記アルキル芳香族化合物が、シクロヘキシルベンゼン、1,2-メチルシクロペンチルベンゼン及び1,3-メチルシクロペンチルベンゼンから選ばれた化合物であり、前記アルキル芳香族ヒドロペルオキシドが、シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシド、1,2-メチルシクロペンチルベンゼンヒドロペルオキシド、及び1,3-メチルシクロペンチルベンゼンヒドロペルオキシドから選ばれた化合物であり、かつ前記副産物が、シクロヘキサノン、2-メチルシクロペンタノン、及び3-メチルシクロペンタノンから選ばれた化合物である、請求項1〜20のいずれか1項の方法。
【請求項22】
前記酸素含有ガスが大気空気である、請求項1〜21のいずれか1項の方法。
【請求項23】
前記環状イミドが、前記アルキル芳香族化合物に対して0.001wt%〜5wt%の環状イミドの量で接触工程(a)に添加される、請求項1〜22のいずれか1項の方法。
【請求項24】
前記流出物がフェニルシクロヘキサノンを含み、かつ前記接触工程(c)中に前記フェニルシクロヘキサノンの少なくとも一部がフェニルシクロヘキセンに変換される、請求項1〜23のいずれか1項の方法。
【請求項25】
前記流出物がフェニルシクロヘキサノールを含み、かつ前記接触工程(c)中に前記フェニルシクロヘキサノールの少なくとも一部がフェニルシクロヘキセンに変換される、請求項1〜24のいずれか1項の方法。

【公表番号】特表2012−517429(P2012−517429A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549176(P2011−549176)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【国際出願番号】PCT/US2010/021949
【国際公開番号】WO2010/098916
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(599134676)エクソンモービル・ケミカル・パテンツ・インク (301)
【Fターム(参考)】